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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1208010 |
審判番号 | 不服2008-21509 |
総通号数 | 121 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-21 |
確定日 | 2009-12-04 |
事件の表示 | 平成10年特許願第 74516号「暗視野照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 8日出願公開、特開平11-153755〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成10年3月23日(国内優先権主張 平成9年9月19日)に出願した特願平10-74516号であって、平成20年6月27日付けで手続補正がなされ、同年7月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年9月22日付けで手続補正がなされたものである。 その後、平成21年5月1日付けで当審から請求人に審尋を行い、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、指定期間を経過しても請求人からの応答はなかった。 第2 平成20年9月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について [補正の却下の決定の結論] 平成20年9月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 本件補正について (1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明については、平成20年6月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載の、 「【請求項1】 光軸上に配置した光源と、 該光源からの光を光軸を含む入射平面内では正反射し且つ該光軸と垂直な平面内では拡散反射させる、光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する環状反射部材と を備え、該環状反射部材は樹脂成型され、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を備えていることを特徴とする暗視野照明装置。 【請求項2】 光軸上に配置した光源と、 該光源からの光を光軸を含む入射平面内では拡散反射し且つ光軸と垂直な平面内でも拡散反射させる、光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する環状反射部材と を備え、該環状反射部材は樹脂成型され、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を備えていることを特徴とする暗視野照明装置。 【請求項3】 光軸上に配置した光源と、 該光源からの光を光軸を含む入射平面内では正反射し且つ光軸と垂直な平面内では拡散反射させる、光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面を有する環状反射部材と を備え、該環状反射部材は樹脂成型され、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を備えていることを特徴とする暗視野照明装置。 【請求項4】 上記環状反射部材は、内径の異なる複数の環状反射部材中の1つを選択的に光源対象位置に挿脱可能としたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の暗視野照明装置。 【請求項5】 上記環状反射部材は、光軸方向に沿って内径が変化し、上記照明光軸上で光軸方向に移動可能に配置したことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の暗視野照明装置。」が、 「【請求項1】 標本を観察する対物レンズと、上記標本を照明する光源と、上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記光源と上記標本との間に配置された遮光円盤と、上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記遮光円盤の外側に配置された反射部材とを備え、上記光源からの光で上記標本を斜め方向から照明する顕微鏡の暗視野照明装置において、 上記反射部材は、上記光源からの光を上記対物レンズの光軸を含む入射面内では正反射し、且つ、上記対物レンズの光軸と垂直な平面内では拡散反射させる内側反射面を有する樹脂成型された環状反射部材であり、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を有し、 上記内側反射面は、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の多角筒状の側面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 または、上記対物レンズの光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面 のいずれかであることを特徴とする顕微鏡の暗視野照明装置。 【請求項2】 上記環状反射部材は、内径の異なる複数の環状反射部材中の1つを選択的に上記対物レンズの光軸に挿脱可能としたことを特徴とする請求項1記載の顕微鏡の暗視野照明装置。 【請求項3】 上記環状反射部材は、上記対物レンズの光軸方向に沿って内径の異なる複数の環状反射部材からなり、上記対物レンズの光軸上で光軸方向に移動可能に配置したことを特徴とする請求項1記載の顕微鏡の暗視野照明装置。 【請求項4】 上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記標本と略同位置にされた絞りをさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の顕微鏡の暗視野照明装置。 【請求項5】 上記標本を載置する試料載置ガラスと、上記反射部材を保持する筐体と、上記反射部材が上記遮光円盤を保持し、上記遮光円盤に保持された円錐型反射部材と、上記反射部材の下方に配置され、上記対物レンズの光軸を偏向する偏向部材とをさらに備え、 上記対物レンズの光軸が偏向された方向に上記光源を配置したことを特徴とする請求項1記載の顕微鏡の暗視野照明装置。」と補正された。 (2)本件補正の特許請求の範囲における補正は、 ア 本件補正前の請求項1ないし3をもとに本件補正後の請求項1を形成する補正事項であって、 (ア)本件補正前の請求項1ないし3を1つの請求項にまとめるとともに、 (イ)装置の構成要素について、本件補正前に「光軸上に配置した光源と、・・・環状反射部材とを備え」とあったのを、「標本を観察する対物レンズと、上記標本を照明する光源と、上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記光源と上記標本との間に配置された遮光円盤と、上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記遮光円盤の外側に配置された反射部材とを備え」とし、 (ウ)暗視野照明装置について、「上記光源からの光で上記標本を斜め方向から照明する顕微鏡の」暗視野照明装置であることを特定し、 (エ)反射部材の光の反射のさせ方について、本件補正前の請求項1,3に「該光源からの光を光軸を含む入射平面内では正反射し且つ該光軸と垂直な平面内では拡散反射させる・・・内側反射面を有する」とあり、本件補正前の請求項2に「該光源からの光を光軸を含む入射平面内では拡散反射し且つ光軸と垂直な平面内でも拡散反射させる・・・内側反射面を有する」とあったのを、「上記光源からの光を上記対物レンズの光軸を含む入射面内では正反射し、且つ、上記対物レンズの光軸と垂直な平面内では拡散反射させる内側反射面を有する」とし、 (オ)環状反射部材の素材について、本件補正前に「該環状反射部材は樹脂成型され、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を備えている」とあったのを、「樹脂成型された環状反射部材であり、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を有し」とし、 (カ)内側反射面の形状について、本件補正前の請求項1ないし3に、それぞれ、「光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する環状反射部材」「光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する環状反射部材」「光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面を有する環状反射部材」とあったのを、まとめて 「上記内側反射面は、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の多角筒状の側面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、 または、上記対物レンズの光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面 のいずれかである」として、 本件補正後の請求項1とする補正事項、 イ 本件補正前の請求項4,5を、繰り上げるとともに、一部の発明特定事項を減縮し、また、引用する請求項を本件補正後の請求項1として、本件補正後の請求項2,3とする補正事項。 ウ 「上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記標本と略同位置にされた絞りをさらに備えた」ことを追加的に特定して、新たな請求項として請求項4を作成した補正事項、 エ 「上記標本を載置する試料載置ガラスと、上記反射部材を保持する筐体と、上記反射部材が上記遮光円盤を保持し、上記遮光円盤に保持された円錐型反射部材と、上記反射部材の下方に配置され、上記対物レンズの光軸を偏向する偏向部材とをさらに備え、 上記対物レンズの光軸が偏向された方向に上記光源を配置した」ことを追加的に特定して、新たな請求項として請求項5を作成した補正事項、 からなる。 2 特許請求の範囲についてする補正の目的に関する違反についての検討 ア 上記のア(イ)の補正事項については、当該補正事項により、装置の構成要素について、本件補正前の「光源」及び「反射部材」に加えて、「対物レンズ」及び「遮光円盤」が追加され、本件補正後の請求項1に記載された発明が解決しようとする課題も「対物レンズ」及び「遮光円盤」を含めた装置に関する技術課題となるから、本件補正前の請求項1ないし3に係る発明の技術課題とは異なることは当然であり、よって、本件補正の前後によって発明が解決しようとする課題は変更されたといえる。したがって、本件補正は、いわゆる限定的減縮を目的とするものということはできないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法第17条の2第4項第1,3,4号に掲げる事項を目的とするものでもない。 イ 上記のア(カ)の補正事項については、当該補正事項により、内側反射面の形状について、本件補正前においては「光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面」「光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面」「光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面」の3種類が特定されていたのに対して、本件補正後には、上記3種類の内側反射面の形状に加えて、「上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の多角筒状の側面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面」の形状が追加して特定されたのであるから、上記のア(カ)の補正事項により本件補正の前後によって特許請求の範囲が拡張されたといえる。よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものでもない。 ウ 上記のウ及びエの補正事項については、当該補正事項により、本件補正前のどの請求項とも本件補正前後において一対一に対応しない新たな請求項が作成されたといえる。よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものでもない。 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。 3 独立特許要件違反についての検討 (1)仮に、特許請求の範囲全体として、上記の本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合に、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。 (2)本願補正発明について 本願補正発明は、平成20年9月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(「1 本件補正について」の(1)の項の記載参照。) (3)引用例 ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭60-90319号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面の記載とともに以下の事項が記載されている。 「技術分野 本発明は、実体顕微鏡等の観察光学系を用いて透光性は有するが不純物質や光学的異方性物質を含む被検体を観察する場合には照明光が直接観察光学系に入らないようにして照明光のうち被検体で拡散した光だけを観察できるように被検体周辺に暗い背景部を作るようにした暗視野照明装置に関するものである。」(第1ページ左下欄第18行?右下欄第5行) 「目 的 本発明は、上記問題点に鑑み、ムラのない一様な暗視野照明が出来、迷光が観察光学系に入つて暗視野効果を減じるのを防止することが出来、装置全体の構成が簡単で安価な暗視野照明装置を提供せんとするものである。 概 要 本発明による暗視野照明装置は、光を光軸を含む入射平面内では正反射し且つ該入射平面に垂直な平面内では散乱する部材を用いて被検体の暗視野照明を行うようにしたことを特徴としている。 実施例 以下、第4図及び第5図に示した一実施例に基づき本発明を詳細に説明すれば、31は光源、32は光源31の上方において光軸Oと同芯的に配置されていて内側反射面32aに光軸Oと平行な無数の細溝(ヘア-ライン)が設けられた環状の反射部材であつて、光源31からの照明光を、光軸Oを含む入射平面S_(1)内では殆ど散乱することなく正反射すると共に、該正反射光線を含み且つ該入射平面S_(1)と垂直な平面S_(2)内では適当に散乱し照野を一様に照明するように内側反射面32aが加工処理されている。33は反射部材32の内側において光軸Oと同芯的に配置されていて光源31の光が直接後述の対物レンズに入射しないようにしている遮光円板、34は反射部材32の上方に配置された虹彩絞り、35は被検体、36は図示しない観察系の対物レンズである。 本発明による暗視野照明装置は上述の如く構成されているから、光源31を発した光のうち遮光円板33をよけて内側反射面32aに入射した光は、そこで反射されて遮光円板33と虹彩絞り34との間から被検体を斜めから照明する。この際、内側反射面32aは光源31の光を光軸Oを含む入射平面S_(1)内では殆ど正反射するので、従来の粗面に形成された反射面に比べて反射面からの乱反射によつて対物レンズに直接入射するような迷光が発生しにくく、従つて暗視野効果が減じられることがなく、効果の高い暗視野観察が可能となる。又、内側反射面32aは光源31の光を上記正反射光線を含み且つ入射平面S_(1)と垂直な平面S_(2)内では照野を一様に照明し且つ照野を満たすように適当に散乱するので、被検体35の中央部に照明光が集光して照明ムラが生じるようなことは防止されて一様な照明が出来ると共に、被検体35の研摩面での反射も最小限に押えることが出来る。又、本暗視野照明装置は、上述の如く装置全体の構成が極めて簡単で安価である。尚、反射部材32の水平断面の形状は多角形でも良いことは言うまでもない。」(第2ページ右下欄第18行?第3ページ左下欄第7行) 第4,5図から、光源31の光軸Oと対物レンズ36の光軸は略一致していることが読み取れる。また、被検体35と光源31の間に遮光円板33が配置され、遮光円板33の外側に反射部材32が配置されていることが読み取れる。 イ 引用例1に記載された発明の認定 上記記載事項から、引用例1には、暗視野照明装置に関し、 「光源31と、観察系の対物レンズ36と、光源31の上方において対物レンズ36の光軸に略一致した光源31の光軸Oと同芯的に、遮光円板33の外側に配置されていて内側反射面32aに光軸Oと平行な無数の細溝(ヘア-ライン)が設けられた環状の反射部材32であつて、光源31からの照明光を、光軸Oを含む入射平面S_(1)内では殆ど散乱することなく正反射すると共に、該正反射光線を含み且つ該入射平面S_(1)と垂直な平面S_(2)内では適当に散乱し照野を一様に照明するように内側反射面32aが加工処理されている反射部材32と、反射部材32の内側において光軸Oと同芯的に、被検体35と光源31の間に配置されていて光源31の光が直接対物レンズに入射しないようにしている遮光円板33と、反射部材32の上方に配置された虹彩絞り34と、を備え、 光源31を発した光のうち遮光円板33をよけて内側反射面32aに入射した光は、そこで反射されて遮光円板33と虹彩絞り34との間から被検体を斜めから照明する顕微鏡の暗視野照明装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭56-62537号(実開昭58-133115号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面の記載とともに以下の事項が記載されている。 「以下本考案の具体的内容を図示した実施例にもとづき説明する。第2図は対物レンズの光軸8を含んで試料面5に垂直な平面で一部(光軸より左半分)を切断して示した図面で、第1図の従来例と同様に光源よりの平行光束2は対物レンズ3の光軸8と同軸に環状に供給される。対物レンズの試料面に近い側には対物レンズ3を囲むようにして円環状ミラー6が配置され、このミラー6は例えば黄銅製であってその反射面6aには凹凸が与えてある。したがって光束2はこの円環状ミラー6の反射面6aにて反射されて全体としては試料試料面5の中央に向けられ又凹凸によって散乱される。又この円環状ミラー6の試料面5に近い部分には絞り6bが一体に形成されている。7は対物レンズ3の枠を保持している保持筒でその試料面5側の先端付近には対物レンズの先端より先に照明光路まで伸びたパイプ7aが形成されている。そしてこのパイプ7aと絞り6bとによって反射面6aにて反射し散乱された光が不必要に広がるのを制限する役目をもたせてある。 このような構成であるので平行光束2は円環状ミラー6の反射面6aにて反射され散乱された後試料面に達するがその際絞り6bとパイプ7aとにより光束が制限され、実際に試料面5に達する照明光は実視野にのみ制限される。」(明細書第4ページ第5行?第5ページ第9行) (4)本願補正発明と引用発明の対比 ここで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「観察系の対物レンズ36」及び「光源31」が、それぞれ、本願補正発明の「標本を観察する対物レンズ」及び「上記標本を照明する光源」に相当する。 引用発明の「反射部材32の内側において光軸Oと同芯的に、被検体35と光源31の間に配置されていて光源31の光が直接対物レンズに入射しないようにしている遮光円板33」と、本願補正発明の「上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記光源と上記標本との間に配置された遮光円盤」とは、「上記対物レンズの光軸と略一致する光軸上に同心的に、上記光源と上記標本との間に配置された遮光円盤」で一致する。 引用発明の「光源31の上方において対物レンズ36の光軸に略一致した光源31の光軸Oと同芯的に、遮光円板33の外側に配置されて」いる「反射部材32」と、本願補正発明の「上記対物レンズの光軸上に同心的に、上記遮光円盤の外側に配置された反射部材」とは、「上記対物レンズの光軸に略一致する光軸上に同心的に、上記遮光円盤の外側に配置された反射部材」で一致する。 引用発明の「光源31を発した光のうち遮光円板33をよけて内側反射面32aに入射した光は、そこで反射されて遮光円板33と虹彩絞り34との間から被検体を斜めから照明する顕微鏡の暗視野照明装置」が、本願補正発明の「上記光源からの光で上記標本を斜め方向から照明する顕微鏡の暗視野照明装置」に相当する。 引用発明の反射部材が「環状の反射部材であって、光源31からの照明光を、光軸Oを含む入射平面S_(1)内では殆ど散乱することなく正反射すると共に、該正反射光線を含み且つ該入射平面S_(1)と垂直な平面S_(2)内では適当に散乱し照野を一様に照明するように内側反射面32aが加工処理されている」ことと、本願補正発明の「上記反射部材は、上記光源からの光を上記対物レンズの光軸を含む入射面内では正反射し、且つ、上記対物レンズの光軸と垂直な平面内では拡散反射させる内側反射面を有する」「環状反射部材」であることとは、「上記反射部材は、上記光源からの光を上記対物レンズの光軸と略一致する光軸を含む入射面内では正反射し、且つ、上記対物レンズの光軸と垂直な平面内では拡散反射させる内側反射面を有する」「環状反射部材」であることで一致する。 引用発明の「内側反射面32aに光軸Oと平行な無数の細溝(ヘア-ライン)が設けられた」ことと、本願補正発明の「内側反射面は、上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の多角筒状の側面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、上記対物レンズの光軸に平行な軸方向の楕球状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面、または、上記対物レンズの光軸に平行な円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部を周方向に沿って交互に複数配列した内側反射面のいずれかである」こととは、「内側反射面は、対物レンズの光軸と略一致する光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面である」点で一致する。 (5)本願補正発明と引用発明の一致点 したがって、本願補正発明と引用発明とは、 「標本を観察する対物レンズと、上記標本を照明する光源と、上記対物レンズの光軸と略一致する光軸上に同心的に、上記光源と上記標本との間に配置された遮光円盤と、上記対物レンズの光軸と略一致する光軸上に同心的に、上記遮光円盤の外側に配置された反射部材とを備え、上記光源からの光で上記標本を斜め方向から照明する顕微鏡の暗視野照明装置において、 上記反射部材は、上記光源からの光を上記対物レンズの光軸と略一致する光軸を含む入射面内では正反射し、且つ、上記対物レンズの光軸と略一致する光軸と垂直な平面内では拡散反射させる内側反射面を有する環状反射部材であり、 内側反射面は、対物レンズの光軸と略一致する光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面である顕微鏡の暗視野照明装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。 (6)本願補正発明と引用発明の相違点 ア 相違点1 遮光円板及び反射部材の軸芯となる対物レンズ光軸と略一致する光軸が、本願補正発明においては「対物レンズの光軸」であるのに対して、引用発明においては「光源の光軸」である点。 イ 相違点2 本願補正発明の環状反射部材は「内側反射面を有する樹脂成型された環状反射部材であり、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を有」するのに対して、引用発明の反射部材においてはその点についての限定がない点。 ウ 相違点3 対物レンズの光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面において、本願補正発明の内側反射面の対物レンズの光軸に平行な軸方向の部材の形態が、「円筒状曲面部、多角筒状の側面部、楕球状曲面部、または、周方向に沿って交互に複数配列された円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部のいずれか」であるのに対して、引用発明の反射部材の内側反射面においてはその点についての限定がない点。 (7)当審の判断 ア 次に、上記相違点について検討する。 (ア)相違点1について 暗視野照明装置において、光源の光軸と対物レンズの光軸を一致させることは、環状反射部材からの散乱光が照野を一様に照明するために、当業者が必要に応じて適宜設定し得ることであるから、引用発明においても、光源の光軸と対物レンズの光軸を一致させ、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことに過ぎない。 (イ)相違点2について 反射部材を、樹脂の基材に金属薄膜を被覆して形成することは、例えば、特開平9-80213号公報(【0008】【0099】段落参照)にも記載されているように周知の技術である。 引用発明においても、反射部材について上記の周知技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることには当業者が容易になし得たことである。 (ウ)相違点3について 引用例2には、環状ミラーにおいて、入射光を反射面で散乱させるために反射面に凹凸を与えることが記載されている。 引用発明においても、引用例2に記載された発明を適用して、反射部材の内側反射面の対物レンズの光軸に平行な部材を、散乱する平面S_(2)に対しては凹凸を与えられた形態とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、反射面での入射光が適当に散乱し照野を一様に照明するための散乱の状態に応じた、当該凹凸の具体的形態として、「円筒状曲面部、多角筒状の側面部、楕球状曲面部、または、周方向に沿って交互に複数配列された円筒状凹曲面部と円筒状凸曲面部のいずれか」を選択することは、当業者が技術常識を参酌して容易になし得た設計的事項に過ぎない。 イ そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 ウ まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (8)むすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、仮に、本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合であっても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年6月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「第2 平成20年9月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照)。 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成20年9月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(3)引用例」に記載したとおりである。 3 対比 (1)対比 ここで、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「光源31」が、本願発明の「光軸上に配置した光源」に相当する。 引用発明の反射部材が「環状の反射部材であって、光源31からの照明光を、光軸Oを含む入射平面S_(1)内では殆ど散乱することなく正反射すると共に、該正反射光線を含み且つ該入射平面S_(1)と垂直な平面S_(2)内では適当に散乱し照野を一様に照明するように内側反射面32aが加工処理されている」ことが、本願発明の「該光源からの光を光軸を含む入射面内では正反射し且つ該光軸と垂直な平面内では拡散反射させる」「内側反射面を有する環状反射部材」であることに相当する。 引用発明の「内側反射面32aに光軸Oと平行な無数の細溝(ヘア-ライン)が設けられた」ことと、本願発明の「光軸に平行な軸方向の円筒状曲面部を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する」こととは、「光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する」点で一致する。 (2)一致点 よって、本願発明と引用発明とは、暗視野照明装置に関し、 「光軸上に配置した光源と、 該光源からの光を光軸を含む入射平面内では正反射し且つ該光軸と垂直な平面内では拡散反射させる、光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面を有する環状反射部材と を備えている暗視野照明装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。 (3)相違点 ア 相違点1 本願発明の環状反射部材は「樹脂成型され、上記内側反射面が金属薄膜にて被覆された鏡面を備えている」のに対して、引用発明の反射部材においてはその点についての限定がない点。 イ 相違点2 光軸に平行な軸方向に形成した部材を周方向に沿って複数配列した内側反射面において、本願発明の内側反射面の光軸に平行な軸方向の部材の形態が、「円筒状曲面部」であるのに対して、引用発明の反射部材の内側反射面においてはその点についての限定がない点。 4 判断 (1)次に、上記相違点について検討する。 ア 相違点1について 反射部材を、樹脂の基材に金属薄膜を被覆して形成することは、例えば、特開平9-80213号公報(【0008】【0099】段落参照)にも記載されているように周知の技術である。 引用発明においても、反射部材について上記の周知技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることには当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について 引用例2には、環状ミラーにおいて、入射光を反射面で散乱させるために反射面に凹凸を与えることが記載されている。 引用発明においても、引用例2に記載された発明を適用して、反射部材の内側反射面の対物レンズの光軸に平行な部材を、散乱する平面S_(2)に対しては凹凸を与えられた形態とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、反射面での入射光が適当に散乱し照野を一様に照明するための散乱の状態に応じた、当該凹凸の具体的形態として、「円筒状曲面部」を選択することは、当業者が技術常識を参酌して容易になし得た設計的事項に過ぎない。 (2)そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 (3)まとめ したがって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-09-29 |
結審通知日 | 2009-10-06 |
審決日 | 2009-10-19 |
出願番号 | 特願平10-74516 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 57- Z (G02B) P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 勝久 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
武田 悟 森林 克郎 |
発明の名称 | 暗視野照明装置 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 風間 鉄也 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 山下 元 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 市原 卓三 |
代理人 | 堀内 美保子 |
代理人 | 勝村 紘 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 河井 将次 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 村松 貞男 |