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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B05D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
管理番号 1208053
審判番号 無効2008-800030  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-15 
確定日 2009-12-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3865087号発明「基板の塗装方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3865087号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許3865087号の発明は、平成8年10月29日に出願され、平成18年10月13日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年2月15日 審判請求(請求人)甲第1?11号証提出
平成20年5月 8日 答弁書(被請求人)
平成20年7月 3日 口頭審理陳述要領書(請求人)参考資料I、II提出
平成20年7月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成20年7月 3日 口頭審理
平成20年7月11日 上申書(被請求人)参考資料1提出

第2 本件発明
本件の請求項1?4に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本件発明1」などという。)
「【請求項1】
コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に、該下層着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し、平均粒子径が60?1000nmである着色顔料が配合されているインクを使用し、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用い、該インクジェットプリンターのヘッドのノズル孔を該コンベアの幅方向に配列し、一方、柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御してインク吐出を制御することにより、該基板の表面に柄模様を塗装することを特徴とする基板の塗装方法。
【請求項2】
ノズル孔の内径が20?100μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が30?150μmであるインクジェットプリンターを用い、基板の表面に画質精度が50?350dpiである柄模様を塗装することを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
コンベアの幅方向に配列したピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔列をコンベアの移動方向の前後に複数列配置し、それぞれのノズル孔列から異色のインクを吐出させて多色塗装することを特徴とする請求項1又は2記載の塗装方法。
【請求項4】
柄模様を塗装した塗膜の全表面にクリヤー塗料を塗装することを特徴とする請求項1、2又は3記載の基板の塗装方法。」

第3 請求人の主張の要点
請求人は、大略以下のような無効理由を主張している。
1 無効理由1
(1) 本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
(2) 無効理由1について、請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開平7-31929号公報
甲第2号証:実願平1-118436号(実開平3-57235号)の
マイクロフィルム
甲第3号証:特開平5-338192号公報
甲第4号証:特開平1-259957号公報
甲第5号証:特開平8-41395号公報
甲第6号証:特開平8-253716号公報
甲第7号証:特開平7-292302号公報
甲第8号証:特開平8-164611号公報
甲第9号証:特開平7-101127号公報
甲第10号証:特開平5-57889号公報
甲第11号証:特開平6-143735号公報

なお、口頭審理陳述要領書に添付して、請求人は以下の参考資料を提出している。
参考資料I:「写真工業別冊 イメージング Part 2 最新のハード
コピープリンタ技術」(株式会社 写真工業出版社,昭和63
年7月20日発行),表紙、114?116頁及び奥付け
参考資料II:特開昭58-188666号公報

2 無効理由2
本件請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないため、特許法36条6項2号の規定に適合せず、特許法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。

第4 被請求人の反論の要点
1 無効理由1について
請求人の上記無効理由は理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではなく、特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものではない。

2 無効理由2について
本件請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法36条6項2号の規定に適合するので、特許法123条1項4号の規定によりに無効とすべきものではない。

なお、平成20年7月11日付け上申書に添付して、被請求人は以下の参考資料を提出している。
参考資料1:「ジャパンフードサイエンス」,第31巻第2号2月号(1992)
日本食品出版株式会社発行,表紙、目次、60?64頁及び
奥付け

第5 甲各号証の記載内容
本件出願日前に頒布された刊行物である甲各号証には、以下の事項が記載されている。
1 甲第1号証(特開平7-31929号公報)
(1-a) 「【請求項1】 表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で、この無機質板表面に、インクジェットプリンターのノズルから、樹脂、着色顔料及び比蒸発速度(酢酸正ブチルを100とした重量法による)が50?380の溶剤を主成分とする粘度5?15cps(20℃)のインクを吐出し、模様付けをすることを特徴とする無機質化粧板の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(1-b) 「【請求項2】 模様付けした後の無機質化粧板の全面に、クリヤー塗料を塗装することを特徴とする請求項1に記載の無機質化粧板の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項2)
(1-c) 「【産業上の利用分野】本発明は、建築内装材や外装材などの分野において利用される無機質化粧板の製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(1-d) 「そこで、本出願人は、表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で、この無機質板表面に、インクジェットプリンターのノズルから、インク(もしくは塗料)を吐出し、無機質板表面に模様付けをする無機質化粧板の製造方法を提唱した。この方法によれば、所望の模様を、確実な再現性を持って、しかも、表面に凹凸のある無機質板において形成することができる。この場合、多くの実験の結果、従来からインク(もしくは塗料)として使用されている樹脂、顔料に対して、どのような溶剤を、どのような形で用いるかが、上記問題解決の必須の条件であることを見出したのである。換言すれば、どの溶剤が、上記課題、特に、高い精度、高度の意匠性を発揮できる模様の形成のための条件であるかを確認することができた。」(段落【0004】)
(1-e) 「【発明の目的】本発明は、上記事情に基いてなされたもので、所望する任意の模様を、精度よく、かつ、再現性よく形成することが可能で、しかも、高度の意匠性を有する無機質化粧板の製造方法を提供しようとするものである。」(段落【0006】)
(1-f) 「なお、この場合、模様付けした後の無機質化粧板の全面に、クリヤー塗料を塗装するとよい。」(段落【0008】)
(1-g) 「【実施例】以下、本発明の製造法について詳細に説明する。本発明で扱う無機質板とは、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボードなどの、通常建築用に使用されている各種の無機質板であり、特に、その用途に制限なく適用できるものである。上記無機質板は、平滑な表面を有するものでも良いが、エンボス加工などの手段により、その表面に凹凸部を形成したものが、より好適である。これは、その凹凸模様と、後述するインクによる着色模様との組合せにより、相当高度な意匠性が表現できるためである。」(段落【0009】)
(1-h) 「上記無機質板には、その表面に下層着色塗膜を予め施したものが使用される。」(段落【0010】)
(1-i) 「本発明で使用するインクジェットプリンターとしては、従来から公知のプリンターを使用することができ、その制御方法も、例えば、オンディマンド方式、荷電制御方式、サーマルヘッドによりインクを吐出させる方式が代表的なものとして挙げられる。」(段落【0017】)
(1-j) 「次に、本発明の無機質化粧板の製造方法を、ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例について、図1および図2を参照して、具体的に説明する。図において符号1は、凹凸のある表面に下層着色塗膜を施した無機質板(以下、単に基板という)aを載せて、前方に搬送するコンベアであり、コンベア1の上方には、インクジェットプリンター(全体は示されていない)のプリンター・ヘッド2が配備されており、プリンター・ヘッド2には、コンベア1の巾方向全体に亘って、口径:0.1?0.4mmの複数のノズル3が、1?5mmのピッチで、下向きに並列配置で設けられている。なお、プリンター・ヘッド2は単一でコンベア1の巾に対応するようにしてもよいが、基板の大きさ(即ち、コンベアの巾)に応じて、プリンター・ヘッド2を複数個、並べて配置してもよいことは勿論である。プリンター・ヘッド2には、インクタンク4内のインク5を送り込むため、ポンプ6が接続されると共に、レリーフ弁7を介して、インクタンク4が接続されている。
また、符号9は、プリンター・ヘッド2の下方に設けたノズル3を、それぞれに開閉動作する弁であり、弁9をバルブ制御装置8で個別に制御するようになっている。符号10は、印刷すべき柄、模様に対応する柄パターンを記録したパターンデータの記憶部、11は、記憶部10からインプットされたパターンデーターに基き、バルブ制御装置8に制御信号を発する制御部(コンピューター)、また、12は、その投光器13と受光器14とをコンベア1上の基板搬送路の両側に設けた光電管式センサーであり、基板aの通過を検知し、その検出信号を制御部11に送信するものである。符号15は、コンベア1の駆動ロール16に連結したエンコーダーであって、例えば、2000分の360度の極小回転角毎に、制御部11にパルスを送信するものである。なお、上述の説明は、プリンター・ヘッド2を固定した方式であるが、これを、基板aの巾方向あるいは進行方向に制御稼動させる方式でも採用可能である。」(段落【0018】?【0019】)
(1-k) 「次に、このような、制御系を含むインクジェットプリンターにて、基板表面を模様付けする本発明の方法について、一例を説明する。基板aが1?60m/分、好ましくは3?45m/分のスピードで、コンベア1上を搬送されてくると、基板aの前端部が、コンベア1の所定位置に到来したことを、センサー12が検出して、その信号を制御部11に送信する。一方、コンベア1の作動に伴い、エンコーダー15からは、パルスが制御部11に発信されている。制御部11は、センサー12からの信号により、上記パルスを計数し始め、そのパルス数が予め記憶させた設定値に至ると、その後、所定範囲(時間)で受け入れたパルス数に応じて、上記柄パターンについてのパターンデーターを、記憶部10から読み出し、それに基く制御信号を、逐次、バルブ制御装置8に指令信号を送信して、これにより、バルブ制御装置8で、弁9を個別に開閉制御する。その結果、プリンター・ヘッド2中には、インク5が0.1?0.5kg/cm^(2 )の圧力で送り込まれ、弁9の開口時にノズル3から吐出し、パターンデーターに基く模様を基板aの表面に描出させる。なお、基板aの表面とノズル3の先端とは、約0.5?4cmの距離を持たせてあるので、相互に無接触のため、基板表面に凹凸があっても、模様の描出が支障なく行える。」(段落【0020】)
(1-l) 「また、多色の模様を形成したい場合は、上記プリンター・ヘッド2をコンベア1の搬送方向に複数段、配置し、それぞれのプリンター・ヘッド2中に、上述の供給方法で、異なる色のインクを供給し、それらインクを、上述と同様にして、吐出させる。これによって、基板A表面に多色の模様を抽出させることが可能である。本発明の製造方法では、このようにして、インクジェットプリンターによって基板表面に模様付け行ない、その後、乾燥させる。」(段落【0021】)
(1-m) 「なお、本発明においては、得られた無機質化粧板表面の耐汚染性、耐摩耗性のを付与させるため、さらに、クリヤー塗料を塗装することが望ましい。」(段落【0022】)
(1-n) 「(本発明に係る実施例1?3、および、比較例1?2)
表1に示す条件にて、それぞれ、無機質化粧板を製造した。なお、ここでのインクジェットプリンターには、前述のソレノイドバルブを開閉するオンデイマンド方式プリンターが使用されている。得られた無機質化粧板についての評価は、表1の下段に示す通りであった。」(段落【0023】)
(1-o) 実施例1には、下塗塗料aと中塗塗料cを用いて下塗着色塗膜を施し、インク1を用いてインクジェットプリンターで模様付けをし、クリヤー塗料eでクリヤー塗膜を施して製造された化粧板の化粧板評価が「目地部分をインクジェットにて模様付けした所、タイル部分と目地部分の2色仕上げとなり焼き物タイルに近い外観が得られた。」ことが示されている。(段落【0024】、表1)
(1-p) 実施例3には、下塗塗料bと中塗塗料dを用いて下塗着色塗膜を施し、インク2を用いてインクジェットプリンターで模様付けをし、クリヤー塗料eでクリヤー塗膜を施して製造された化粧板の化粧板評価が「選択したタイル部分にインクジェットプリンターにて模様付けした所、目地部分とタイル部分またタイル部分間に色差があり、高度な焼き物タイルに近い外観が得られた。」ことが示されている。(段落【0024】、表1】)
(1-q) 「【発明の効果】本発明は、以上詳述したようになり、無機質板表面に、任意の模様を高い精度で、かつ、再現性よく、形成することが可能であり、また、インクジェットプリンターを採用するため、そのノズルから、走行中の無機質板に対して、無接触でインクを吐出し、模様付けすることができるので、無機質板の表面に凹凸があっても、本発明の方法が適用可能であり、高度の意匠性を有する無機質化粧板が得られる。」(段落【0025】)
(1-r) 図1には甲第1号証に記載された発明に係る製造法を実現するためのインクジェットプリンターと、その制御系の概略構成図が記載されており、また、図2には甲第1号証に記載された発明におけるインクジェットプリンターおよび搬送用コンベアの概略側面図が示されている。(図面の図1及び図2)

2 甲第2号証[実願平1-118436号(実開平3-57235号)のマイクロフィルム]
(2-a) 「水性インクの付着及びレベリングの良好なエマルジョン系塗料を塗布した基板の表面に、ピエゾ式インクジェットヘッドにより水性顔料系インクを用い直接絵柄等を印刷し、更にその表面に保護及び美装のための透明硬化型プラスチック塗膜を積層することを特徴とするインクジェットプリントパネル。」(実用新案登録請求の範囲)
(2-b) 「この考案は、セラミック系、セメント系等のタイル、ガラス、金属、木材等のパネルに係り、更に詳しくは、装飾性、耐久性に優れた内外建材用パネルに関する考案である。」(1頁14-17行)
(2-c) 「本考案はピエゾ式(即ち圧電素子利用の)インクジェットプリンターで前記のような各種素材よりなる基材の表面に、直接カラー画を印刷するに際して画面を構成するインクが基材面に強固に付着し、かつ平滑なインク面を構成する如くし、更に付着したインクが、耐光性、耐摩擦性、耐熱性等を充分に保持することを目的として研究を行いこの考案を完成したものである。」(2頁17行-3頁4行)
(2-d) 「(3)はピエゾ式インクジェットヘッドで水性顔料系インクを用いて下地層(2)の上に描かれた絵画、文字等の塗層であって、微細な部分まで鮮明にプリントされる。(3頁14-17行)
(2-e) 「考案の効果
この考案は建造物の内外建材に用いるパネルに画像等をプリントするに当たり、イニシャルコストが安く、単品又は少ロットの生産が可能であり、而も美麗な画像等をプリントし、かつ耐久性、耐光性の点においても極めて優れた新規なパネルを提供するものである。」(4頁7-13行)

3 甲第3号証(特開平5-338192号公報)
(3-a) 「図2において、各ノズル20から独立にインク吐出可能に、各々のノズル20に対応して電気機械変換手段31を有する。これはピエゾ素子を用いて、印加電圧制御により矢印Bの方向に伸張し金属薄膜44を変形させて圧力室35(金属薄膜44とノズルの間のインクが充填された空間)の圧力を上昇させ、インク滴吐出を行なう。圧力室35は、特定のノズルから構成されるノズル群とインク供給路32により連通され、さらにインク供給路32は記録ヘッド2の後部に位置するインクタンク21、22、23、24、25、26、27に連通している。インクタンク(24で代表させて説明する。)は図2に示すように、インク連通窓38を上部に有する隔壁で分離されたものであり,両端のインクタンク21、27に設けられたドレン口43以外は同一の断面形状である。各々のインクタンクは特定のノズル群に各々のインク供給路により連通し、これに対応するノズル群にインクを供給する構成になっている。」(段落【0020】)
(3-b) 図2には、ノズル20に直結する圧力室35(金属薄膜44とノズルの間のインクが充填された空間)の壁面に、金属薄膜44を介して電気機械変換手段31を有する、ライン型インクジェット記録装置の記録ヘッドの内部構成を示す図が示されている。(5頁の図2)

4 甲第4号証(特開平1-259957号公報)
甲第4号証には、マルチアレイ高速バブルジェットプリンターのヘッド部の構造に関する発明が記載されている。

5 甲第5号証(特開平8-41395号公報)
(5-a) 「本発明において使用される色素は、水性媒体に溶解せず、分散する色素であって、カーボンブラックなどの顔料及び油溶性染料、樹脂着色用染料などが使用でき、市販されている物をそのまま使用することもできる。具体的にはカラーインデックスに記載されている、ソルベントイエロー、ソルベントレッド、ソルベントバイオレット、ソルベントブルー、ソルベントグリーン、ソルベントブラック、ピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラックなどの色素が挙げられるが、それら以外でもフタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系などの色素も用いることができる。この他、黄色 4号、5号、205号、401号
橙色 204号
赤色 104号、201号、202号、204号、220号、226?228号、405号
青色 1号、404号等の有機顔料の他、
酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料を用いることもできる。これら色素の微粒子化前の粒子径は通常5?100μm程度である。尚、調色などのため、これらの色素を2種以上併用することも可能である。又、上記各種成分の他に、水溶性樹脂、防カビ剤、殺菌剤、pH調整剤、尿素などの各種添加剤を必要に応じて添加しても良い。」(段落【0009】)
(5-b) 「本発明においては、分散装置からの異物の混入を少なくするため、色素の微粒子化はメディアを用いないで行なう。好ましくは上記の各成分を混合してスラリーとし、これを高圧下に高速流体として相互に衝突させ、その際の衝撃により色素を分散させる。色素の分散は、色素の粒径が大略2μm以下となるまで行なうのが好ましく、これにより色素は水性媒体中で沈降することなく安定した分散状態が維持される。」(段落【0010】)
(5-c) 「上記組成の混合液を、ナノマイザーを用いて圧力1700kg/cm^(2) にて粉砕する操作を4回くり返して、超微粒子化した。得られた分散液中のカーボンブラックの平均粒子径は0.14μmであった。又分散液中のFe,Siの含有量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置により分析したところ、1ppm以下であった。この分散液を等重量のイオン交換水と混合してインクジェットプリンター用記録液とした。
(記録液の吐出安定性評価)Desk Jet 1200C(サーマルジェットプリンター、Hewlett Packard社製品)を用いて前記記録液の吐出安定性の評価を行ったところインク400mlを安定に吐出することができた。」(段落【0017】)
(5-d) 「上記組成の混合液を実施例1と同様に、圧力1400kg/cm^(2) にて3回粉砕を行なって超微粒子化した。キナクリドン系顔料であるPigment Red122の平均粒子径は0.37μmであった。この分散液を用い、実施例1と同様にしてインクジェットプリンター用記録液を調整して吐出安定性評価を行ったところ、インク400mlを安定に吐出することができた。」(段落【0020】)
(5-e) 表3(表-1)には、各種の超微粒子化色素分散液の色素と平均粒子径が例示されているが、着色顔料を用いたものについては、No.3は色素がPigment Blue 15で平均粒子径が0.72μm、No.4は色素がPigment Yellow 74で平均粒子径が0.26μm、No.5は色素がPigment Yellow 154で平均粒子径が0.33μm、No.6は色素がPigment Red 5で平均粒子径が0.55μm、No.7は色素がカーボンブラック#45で平均粒子径が0.49μmである。(段落【0021】)
(5-f) 「【発明の効果】本発明の色素分散液の製造方法により、分散装置に由来する異物の混入の著しく少ない水性色素分散液を得ることが可能であり、とりわけ熱によって気泡を発生させ、インクを吐出させる、サーマルジェット形式のプリンターにおいては、異物によるヒーター表面の汚染が少くなるため、良好な吐出安定性を維持することができ、プリンターの長寿命化が期待できる。又、ピエゾ圧電素子を用いるインクジェットプリンターにおいても、ノズル先端における目詰まりが少なく、長時間にわたる安定な吐出が期待できる。」(段落【0022】)

6 甲第6号証(特開平8-253716号公報)
(6-a) 「これらの顔料は,顔料製造直後の水性分散状態のまま,あるいは,各種微粒子化処理(例えば,アシッドペースティング等)を施して使用に適するよう調節することが好ましい。本発明で用いる着色剤は,水性媒体中に該三元共重合体とともに分散するか,あるいは,予め該三元共重合体と分散したのち水性媒体で希釈し,インクジェット用インキを製造する。分散後の顔料の好ましい粒子径としては,レーザー散乱法による平均粒径において0.5μ以下,好ましくは,0.2μ以下である。このような粒径であると,記録時のインキの吐出が安定するほか,インキの製造においての濾過操作が容易であり,記録液の経時での沈降も少なくなる。該顔料はインキ中に,0.5?5重量部用いることが望ましく,これよりも少ないと画像の濃度,色の再現が不十分になる。また,これよりも多いと,吐出の安定性が著しく低下し,ノズルでのめずまりが頻発しやすくなる。また,インキの粘度の調整が困難になったりする。」(段落【0014】)
(6-b) 「本発明のインキは,コンティヌュアスタイプのプリンターおよびオンデマンドタイプのプリンターのいずれにも使用できる。」(段落【0023】)
(6-c) 実施例1には、青顔料(粗製銅フタロシアニン)からなるインキを製造し、その平均粒径を求めたところ104nmだったこと、「このインキをエプソン社製HG5130のカートリッジに入れて記録を行ったところ(ピエゾ方式),良好な記録物が得られた。記録面に水を垂らしてインキのにじみを調べたが,インキのにじみ,流れ出しはなく十分な耐水性を有していた。」ことが記載されている。(段落【0030】)

7 甲第7号証(特開平7-292302号公報)
(7-a) 「【請求項13】 記録液に使用される記録剤が、主に顔料からなり、水を主体とする水性溶媒中に分散した状態で使用可能な顔料であることを特徴とする請求項1記載の記録液。」(特許請求の範囲、請求項13)
(7-b) 「【従来の技術】従来、微小な径のノズルからインクを噴射させ画像形成を行う記録装置が知られている。この記録方法は、微小ノズルからインク粒子を噴出し、このインク粒子を被記録材へ向けて飛翔させ印字する。ノズルを有する記録部と被記録材とが直接接触しないノンインパクト記録の代表的な方式の一つである。」(段落【0002】)
(7-c) 「熱エネルギーを付与しないでインクにパルス圧力をかけてインク粒子を吐出飛翔させる方式(例えばピエゾ素子を使用する駆動方式)の場合もオリフィス周辺にインク残滓が生じ安定した吐出を妨げる。」(段落【0008】)
(7-d) 「本発明の記録液中に存在する不揮発成分または色材成分からなる粒子径は、平均粒径D(nm)が50≦D≦200 であることが望ましい。これは、記録液中の不揮発成分または色材成分の平均粒径が小さいと、印字物の耐光性・耐水性( 退色性) が大きくなり印字品位を損ねる。」(段落【0033】)
(7-e) 「平均粒径が50nm以上であれば、印字物の退色性はJIS 0841及び0843に規定するブルースケール2級以上となり実用上問題なく、さらに高品位の印字を得るにはブルースケール3級以上とすることが望ましい。一方、記録液中の不揮発成分または色材成分の平均粒径が大きいと、粘度が高くなることで目詰まりを起こしやすくなる。平均粒径が200nm 以下であれば目詰まりの発生頻度も1以下となるから実用上問題なく、さらに安定な記録液をうるには100nm 以下とすることが望ましい。」(段落【0034】)

8 甲第8号証(特開平8-164611号公報)
甲第8号証には、バブルジェット型液体噴射記録装置を用いた液体噴射記録方法に関する発明が記載されている。

9 甲第9号証(特開平7-101127号公報)
(9-a) 「【産業上の利用分野】本発明は、複数のノズルを備え、画信号に応じてこれらのノズルから選択的にインクを噴射することにより記録を行なうドットオンディマンド型のインクジェットプリントヘッドを用いたインクジェットプリンタに関する。」(段落【0001】)
(9-b) 「一方、複数のチャネルを平行に多数加工し、各チャネルを圧力発生室とするプリントヘッドの別の例として、British Industrial News 9/92 9頁には、圧力発生の原理として電界によるピエゾ素子の変形を利用したものが開示されている。図19はその構成を示す斜視図である。
すなわち、401はピエゾ効果を有する素材で作成された基板であり、この基板401には溝402が形成されている。403はその隔壁である。溝402はその上面が部材404で封止されており、これによりチェンネルが形成されている。このチャネルの一端にはノズル板405が配設され、これによりノズル開口列が形成される。これに対しチャネルの他端側はインク供給溝406に連通している。側壁403には図示しない電極が形成されている。そして、この電極に駆動回路407から画信号に応じたパルス信号を印加すると、側壁403が歪んでその歪力によりノズル開口からインクが噴射される。」(段落【0009】?【0010】)
(9-c) 「この様なプリントヘッドを用いた従来のプリンタには、次のような解決すべき課題があった。すなわち、プリンタには、一般に文字を主としてプリントアウトするプリンタと、図面をプリントアウトするためのプロッタや複写を行なうためのプリンタとがある。このうち前者の文字をプリントアウトするプリンタでは、例えば180または360DPIのドット密度でプリントが行なわれる。これに対し後者の図面などをプリントアウトするプリンタでは、例えば200または400DPIのドット密度でプリントが行なわれる。」(段落【0012】)
(9-d) 「すなわち、ピエゾ素子を使用したヘッド30では、例えば図6および図7に示すごとくピエゾシート31上に多条の溝が形成されている。これらの溝は、側壁32により相互に仕切られており、これらの側壁32上には電極33が作られている。また、上記各溝はカバーシート34により閉塞され、これによって溝はインクで満されるチャネルとなる。各チャネルの一端側は、ノズル36を加工したノズルプレート35で封止されており、これによりノズル開口端が形成されている。また、各チャネルの他端には各チャネルにインクを供給するインク供給溝37が設けられ、このインク供給溝37には外部からインクを供給するためのインク供給口38が接続されている。」(段落【0034】)
(9-e) 「次に、図12を用いてドット密度変更のためのヘッド10の回転およびノズル配列面の傾斜について説明する。同図において、41はプリントヘッドユニットを示し、n_(1)?n_(10)はノズル位置を示すものとする。各ノズルは、所定のドット密度、例えば180DPIに対応するピッチp_(1) (p_(1) =0.141ミリメートル)で配列されているものとする。」(段落【0042】)
(9-f) 図6及び図7にはピエゾ素子を使用したヘッドの構成を示す断面図が示されており、図12にはヘッドの回転およびノズル配列面の傾斜を説明するための図が示されており、また、図19にはピエゾ素子を使用した従来のドットオンディマンド型のインクジェットブリントヘッドの構成を示す斜視図が示されている。

10 甲第10号証(特開平5-57889号公報)
(10-a) 「圧電素子の変形により圧電素子に対応して設けられたインク加圧室を加圧してその内部のインクをインクノズルから噴射させるインクジェット記録ヘッドであって、外部からインクが供給されるインク池と、このインク池に第1インク通路をそれぞれ介して連通する複数のインク加圧室と、これらのインク加圧室に第2インク通路をそれぞれ介して連通する複数のインクノズルとを基板上に形成してなるインクジェット記録ヘッドにおいて、
長短2種類の長さを有する第2インク通路が基板上に交互に配置され、長尺の第2インク通路の相互間に、短尺の第2インク通路に連通するインク加圧室がそれぞれ配置されると共に、これらのインク加圧室に連通する第1インク通路の相互間に、長尺の第2インク通路に連通するインク加圧室がそれぞれ配置されてなることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」(特許請求の範囲、請求項1)
(10-b) 「【従来の技術】従来、インクジェット記録ヘッド及びその駆動装置には種々のものがあり、これらを大別すると、連続噴射形、オンデマンド形(インパルス形)、静電吸引形の3つになる。この中で、オンデマンド形インクジェット記録ヘッドは、構成が比較的簡単であり、しかも安価に製造可能であるという特徴から、プリンタやファクシミリ等の記録ヘッドとして広く用いられている。
図5はこの種の記録ヘッドの主要部を概略的に示したものであり、図において、1はインクタンク、2はインク通路、3はインク加圧室、4はインクノズル、5はインクノズル4に連通するインク通路、6はインク加圧室3の外側に取り付けられた振動板(蓋板)、7はこの振動板6に貼着された電気機械変換素子としての圧電素子であり、前記振動板6及び圧電素子7によりバイモルフが構成されている。このような構成において、圧電素子7にパルス状の電圧が印加されると、圧電素子7はその厚さ方向に膨張し、長さ方向には収縮するため、振動板6はインク加圧室3の内側にたわむ。これにより、インク加圧室3の容積が僅かながら減少し、振動板6の変形によって生じた圧力波により、インクがインク滴となってインクノズル4から図の矢印a方向に吐出される。」(段落【0002】?【0003】)
(10-c) 「次に、図6は従来のオンデマンド形インクジェット記録ヘッドの具体例を示すものである。図において、ステンレス鋼ガラスまたはシリコン等からなる基板11には、複数のインクノズル12と、これらのインクノズル12に連通するインク通路13a、インク加圧室14、インク通路13b及びインク池15がエッチングや機械加工等の手段により形成されている。そして、この基板11の上方に振動板16が取り付けられてインク流路が形成され、基板11の上面の前記インク加圧室14に対応する位置に、複数の圧電素子17が貼着されている。なお、18は外部のインクタンクからインク池15にインクを供給するためのインク供給孔である。
この記録ヘッドにおけるインク吐出原理も図5の場合と同一である。なお、図示されていないが、通常は基板11の裏面にも表面と同様にインクノズルやインク通路、インク加圧室等の溝部、振動板、圧電素子等が設けられており、表裏のインクノズルを千鳥状に配置することによってマルチノズル化(高密度化)が図られている。」(段落【0004】?【0005】)
(10-d) 「【発明が解決しようとする課題】インクジェット記録ヘッドにおいては、近年、高品位印字、高速印字という時代の趨勢に対応して高解像度かつマルチノズル化が強く要請されている。解像度については、従来では180dpi(ノズルピッチ0.141mm)が主流となっているが、最近、プリンタにおいては240dpi(ノズルピッチ0.105mm)または300dpi(ノズルピッチ0.085mm)に移行しつつある。なお、ファクシミリの分野において要求される解像度は、200dpi(ノズルピッチ0.127mm)である。」(段落【0006】)
(10-e) 図5にはインクノズル4に直結するインク通路5及びインク加圧室3の壁面に、振動板6と圧電素子7を有するオンデマンド形インクジェット記録ヘッドの概略図が示されており、また、図6にはインクノズル12に直結するインク通路13a及びインク加圧室14の壁面に、振動板16と圧電素子177を有するオンデマンド形インクジェット記録ヘッドの概略図が示されている。(7頁の図6、8頁の図5)

11 甲第11号証(特開平6-143735号公報)
(11-a) 「【産業上の利用分野】本発明は、上下解像度の高いインクジェットプリンタに関するものである。
【従来の技術】シリアルドットプリンタにおいては、解像度が高くなるほど印字に必要なワイヤ(ワイヤドット方式の場合)やノズル(インクジェット方式の場合)の数が増加し、その配列が困難になってくる。例えば、180dpiのプリンタの場合には、ドットピッチは141μmでドット数は通常24個だが、これが360dpiになると、ドットピッチは70.5μmでドット数は通常48個必要となる。
これだけのドット数になると、インクジェットプリンタの場合ノズルの直径は50μm程度であるため、ドットピッチ内で仕切りを交えて配置するのは非常に困難となり、ノズルの千鳥配列等の手法を用いることが必要になる。」(段落【0001】?【0003】)

(なお、請求人が提示した参考資料I及び参考資料II、及び被請求人が提示した参考資料1の記載事項についての摘示は省略する。)

第6 当審の判断
前述のように、請求人は無効理由1及び無効理由2からなる無効理由を主張しているところ、本件については、事案の性質にかんがみ、まず無効理由2から検討を始めることにする。

1 無効理由2について
(1) 請求人は無効理由2について以下の主張をしている。
「本件請求項1には『該下層着色塗膜とは色調が異なるインク』との文言があるが、『色調が異なる』とは如何なる意味か、[発明の詳細な説明]の項でも説明されていない。『色調』という語は、広辞苑第五版(岩波書店)では『色彩の強弱・濃淡の調子。いろあい。』と説明されており、これを参酌しても、一般に色の三要素とされる色相(単色光の波長に相当するもの)、彩度(あざやかさ即ち白みを帯びていない度合)および明度(明るさ即ち光の強弱)のいずれに該当するか明らかではない(括弧内も広辞苑第五版による)。また、「異なる」という文言も、どの程度異なればこれに該当するのか明らかではない。
従って、本件請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でない。」(審判請求書24頁8?16行)

(2) これに対する被請求人の反論は、概略、以下のとおりである。
「『色調』という単語は、例えば、特許庁発行の『特許・実用新案審査基準』などでも使用されており、また、特許庁の公報テキスト検索で既に特許として認められた特許公報の請求の範囲のみを検索しても、『色調』は2110件あるなど、『色調』の意味は当業者には自明である。
また、本件特許発明は柄模様を塗装するものであり、この柄模様には輪郭の明確なものから暈しまで種々のものがあり、本件特許発明において必要なことは肉眼で柄模様が確認できればよいことであるから、本件特許発明においては『色調が異なる』の『異なる』については、肉眼で柄模様が確認できればよいのであり、必要な異なる程度は個人差、周りの明るさ等に影響されるものであり、異なる程度を明記する必要がないことは当業者には明らかである。」(答弁書6頁3?14行及び口頭審理陳述要領書8頁3?14行)

(3) そこで検討すると、「色調」とは「色彩の強弱・濃淡の調子。いろあい。」[「広辞苑第四版」(株式会社岩波書店、1995年11月10日、第四版第五刷発行)の1107頁]をいうとされている。また、「トーン」は「色調」と同義であるところ、「トーンとは明暗,濃淡,強弱等色の調子のことで,明度と彩度を複合した心象をいう.一般的に色調ともいわれる.」[「塗料用語辞典」(技報堂出版株式会社、1993年1月20日発行)279頁]とされている。
さらに、被請求人が主張するように、本件発明1?4のごとく基板の表面に柄模様を塗装する基板の塗装方法の発明においては、「色調が異なる」という場合の異なる程度については、肉眼で柄模様が確認できればよいものであることは明らかである。
してみると、本件発明1?4における「色調が異なる」とは、「いろあいから受ける心象が異なることにより、肉眼で柄模様が確認できる」ことを意味するものと認められるので、「色調が異なる」という文言を含む本件の請求項1の発明は明確である。

(4) 小括
よって、本件特許が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとは認められないから、請求人の主張に係る無効理由2は理由がない。

2 無効理由1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1の分説
本件発明1は上記「第2 本件発明」に記載したとおりのものであるところ、本件発明1と甲第1号証に記載されている事項との対応関係の明確化に資するため、被請求人の主張に沿って本件発明1を分説すると以下のようになる。
「A.コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に、
B.該下層着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し、
C.平均粒子径が60?1000nmである着色顔料が配合されているインクを使用し、
D.ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用い、
E.該インクジェットプリンターのヘッドのノズル孔を該コンベアの幅方向に配列し、
F.一方、柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御してインク吐出を制御することにより、
G.該基板の表面に柄模様を塗装することを特徴とする基板の塗装方法。」
(以下、分説したこれらの事項を、それぞれの項目番号に対応して、「構成要件A」?「構成要件G」という。)

イ 甲第1号証に記載された発明
以下、本件発明1の構成要件ごとに甲第1号証に記載された事項を検討することにより、本件発明1の記載ぶりに合わせて、甲第1号証に記載された発明を認定する。(なお、以下に記載した摘示番号は、「第5」の項における、甲各号証について付した項目番号を示す。)

(ア) 構成要件Aについて
甲第1号証には、インクジェットプリンターを用いることにより高度の意匠性を有する無機質化粧板の製造方法に関する発明について記載されている(摘示(1-c)、摘示(1-d)、摘示(1-e)及び摘示(1-g))ところ、より具体的には、「表面に下層着色塗膜を予め施した無機質板をコンベアにより搬送する過程で、この無機質板表面に、」(摘示(1-a))と記載されており、また「無機質板(以下、単に基板という)」(摘示(1-j))とされ、図にも示されている(摘示(1-r))ことからみて、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に、」

(イ) 構成要件Bについて
先に、第6 1で検討したように、本件発明1における「色調が異なる」とは、「いろあいから受ける心象が異なることにより、肉眼で柄模様が確認できる」ことを意味するものと認められるところ、甲第1号証には、下塗着色塗膜を施した無機質化粧板(摘示(1-h)及び摘示(1-n)。なお、「無機質化粧板」は「基板」と同義である。)に対し、「インクを吐出し、模様付けをする」(摘示(1-a))こと、「目地部分をインクジェットにて模様付けした所、タイル部分と目地部分の2色仕上げとなり焼き物タイルに近い外観が得られた。」(摘示(1-o))こと、及び「選択したタイル部分にインクジェットプリンターにて模様付けした所、目地部分とタイル部分またタイル部分間に色差があり、高度な焼き物タイルに近い外観が得られた。」(摘示(1-p))こと、が記載されているので、これらのことから、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に塗着して模様付けするに際し、」
また、「制御」については、甲第1号証には「制御信号を、逐次、バルブ制御装置8に指令信号を送信して、これにより、バルブ制御装置8で、弁9を個別に開閉制御する。その結果、プリンター・ヘッド2中には、インク5が0.1?0.5kg/cm^(2 )の圧力で送り込まれ、弁9の開口時にノズル3から吐出し、パターンデーターに基く模様を基板aの表面に描出させる。」(摘示(1-k))ことが記載されているから、結局、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し、」

(ウ) 構成要件Cについて
甲第1号証には「インクジェットプリンターのノズルから、樹脂、着色顔料及び比蒸発速度(酢酸正ブチルを100とした重量法による)が50?380の溶剤を主成分とする粘度5?15cps(20℃)のインクを吐出し、模様付けをすること」(摘示(1-a))が記載されているので、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「着色顔料が配合されているインクを使用し、」

(エ) 構成要件Dについて
甲第1号証には、「本発明で使用するインクジェットプリンターとしては、従来から公知のプリンターを使用することができ、その制御方法も、例えば、オンディマンド方式、荷電制御方式、サーマルヘッドによりインクを吐出させる方式が代表的なものとして挙げられる。」(摘示(1-i))と記載され、また「本発明の無機質化粧板の製造方法を、ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例について、図1および図2を参照して、具体的に説明する。」(摘示(1-j))と記載されているので、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターを用い、」

(オ) 構成要件Eについて
甲第1号証には「コンベア1の上方には、インクジェットプリンター(全体は示されていない)のプリンター・ヘッド2が配備されており、プリンター・ヘッド2には、コンベア1の巾方向全体に亘って、口径:0.1?0.4mmの複数のノズル3が、1?5mmのピッチで、下向きに並列配置で設けられている。」(摘示(1-j))ことが記載されているので、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「該インクジェットプリンターのプリンター・ヘッドのノズルを該コンベアの幅方向に配列し、」

(カ) 構成要件Fについて
甲第1号証には、「ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例」(摘示(1-j))として、「符号10は、印刷すべき柄、模様に対応する柄パターンを記録したパターンデータの記憶部、11は、記憶部10からインプットされたパターンデーターに基き、バルブ制御装置8に制御信号を発する制御部(コンピューター)、」(摘示(1-j))が記載されており、また「所定範囲(時間)で受け入れたパルス数に応じて、上記柄パターンについてのパターンデーターを、記憶部10から読み出し、それに基く制御信号を、逐次、バルブ制御装置8に指令信号を送信して、これにより、バルブ制御装置8で、弁9を個別に開閉制御する。その結果、プリンター・ヘッド2中には、インク5が0.1?0.5kg/cm^(2 )の圧力で送り込まれ、弁9の開口時にノズル3から吐出し、パターンデーターに基く模様を基板aの表面に描出させる。」(摘示(1-k))ことが記載されているので、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「一方、柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、ソレノイドバルブを開閉制御してインク吐出を制御することにより、」

(キ) 構成要件Gについて
甲第1号証には、(「符号10は、印刷すべき柄、模様に対応する柄パターンを記録したパターンデータの記憶部、11は、記憶部10からインプットされたパターンデーターに基き、バルブ制御装置8に制御信号を発する制御部(コンピューター)、」(摘示(1-j))が記載されており、また、「上記柄パターンについてのパターンデーターを、記憶部10から読み出し、それに基く制御信号を、逐次、バルブ制御装置8に指令信号を送信して、これにより、バルブ制御装置8で、弁9を個別に開閉制御する。その結果、プリンター・ヘッド2中には、インク5が0.1?0.5kg/cm^(2 )の圧力で送り込まれ、弁9の開口時にノズル3から吐出し、パターンデーターに基く模様を基板aの表面に描出させる。」(摘示(1-k))こと、及び)「本発明の製造方法では、このようにして、インクジェットプリンターによって基板表面に模様付け行ない、その後、乾燥させる。」(摘示(1-l))ことが記載されているので、甲第1号証には以下に示す事項が記載されているということができる。
「該基板の表面に柄模様を模様付けする基板の模様付け方法。」

(ク) まとめ
以上によれば、甲第1号証には以下に示す発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に、該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し、着色顔料が配合されているインクを使用し、ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターを用い、該インクジェットプリンターのプリンター・ヘッドのノズルを該コンベアの幅方向に配列し、一方、柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、ソレノイドバルブを開閉制御してインク吐出を制御することにより、該基板の表面に柄模様を模様付けする基板の模様付け方法。」

ウ 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1の「インクジェットプリンターのヘッド」、「塗装する」及び「塗装方法」は、それぞれ、甲1発明の「インクジェットプリンターのプリンター・ヘッド」、「模様付けする」及び「模様付け方法」に対応すること、並びに甲1発明のインクジェットプリンターのプリンター・ヘッドには当然ノズル孔が存在することを考慮して、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「コンベアにより搬送されている下層着色塗膜を有する基板の表面に、該下塗着色塗膜とは色調が異なるインクを部分的に制御塗着して模様付けするに際し、着色顔料が配合されているインクを使用し、インクジェットプリンターを用い、該インクジェットプリンターのヘッドのノズル孔を該コンベアの幅方向に配列し、一方、柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、インク吐出を制御することにより、該基板の表面に柄模様を塗装する基板の塗装方法。」
である点で一致するが、以下の(ア)、(イ)及び(ウ)の点で相違すると認められる。
(ア) 着色顔料について、本件発明1においては「平均粒子径が60?1000nmである」と規定しているのに対し、甲1発明においてはかかる規定はしていない点
(イ) インクジェットプリンターについて、本件発明1においては「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンター」と規定しているのに対し、甲1発明においては「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンター」と規定している点
(ウ) インク吐出の制御方法について、本件発明1においては「該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御して」と規定しているのに対し、甲1発明においては「ソレノイドバルブを開閉制御して」と規定している点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点(ア)」、「相違点(イ)」、「相違点(ウ)」という。)

エ 相違点についての判断
(ア) 相違点(ア)について
甲第5号証には、「色素の分散は、色素の粒径が大略2μm以下となるまで行なうのが好ましく、これにより色素は水性媒体中で沈降することなく安定した分散状態が維持される。」(摘示(5-b))こと、平均粒子径が0.14μmであるカーボンブラック(着色顔料)を含む分散液をインクジェットプリンター用記録液として吐出安定性の評価を行ったところ、インク400mlを安定に吐出することができたこと(摘示(5-c))、平均粒子径が0.37μmの着色顔料であるキナクリドン系顔料(Pigment Red122)を含む分散液をインクジェットプリンター用記録液として吐出安定性の評価を行ったところ、インク400mlを安定に吐出することができたこと(摘示(5-d))、表3に各種の超微粒子化色素分散液の色素と平均粒子径が例示されており、着色顔料である色素として、No.3は色素がPigment Blue 15で平均粒子径が0.72μm、No.4は色素がPigment Yellow 74で平均粒子径が0.26μm、No.5は色素がPigment Yellow 154で平均粒子径が0.33μm、No.6は色素がPigment Red 5で平均粒子径が0.55μm、No.7は色素がカーボンブラック#45で平均粒子径が0.49μmであること(摘示(5-e))、甲第5号証に記載された発明の色素分散液の製造方法により、ピエゾ圧電素子を用いるインクジェットプリンターにおいても、ノズル先端における目詰まりが少なく、長時間にわたる安定な吐出が期待できること(摘示(5-f))、が記載されている。
また、甲第6号証には、「分散後の顔料の好ましい粒子径としては,レーザー散乱法による平均粒径において0.5μ以下,好ましくは,0.2μ以下である。このような粒径であると,記録時のインキの吐出が安定するほか,インキの製造においての濾過操作が容易であり,記録液の経時での沈降も少なくなる。」(摘示(6-a))こと、実施例1には、青顔料(粗製銅フタロシアニン)からなるインキを製造し、その平均粒径を求めたところ104nmであり、「このインキをエプソン社製HG5130のカートリッジに入れて記録を行ったところ(ピエゾ方式),良好な記録物が得られた。」こと(摘示(6-c))、が記載されている。
さらに、甲第7号証には、「記録液に使用される記録剤が、主に顔料からなり、水を主体とする水性溶媒中に分散した状態で使用可能な顔料である」記録液(摘示(7-a))を含む発明に関し、「熱エネルギーを付与しないでインクにパルス圧力をかけてインク粒子を吐出飛翔させる方式(例えばピエゾ素子を使用する駆動方式)の場合もオリフィス周辺にインク残滓が生じ安定した吐出を妨げる。」(摘示(7-c))という問題があるとともに、甲第7号証に記載された発明の「記録液中に存在する不揮発成分または色材成分からなる粒子径は、平均粒径D(nm)が50≦D≦200 であることが望ましい。これは、記録液中の不揮発成分または色材成分の平均粒径が小さいと、印字物の耐光性・耐水性(退色性) が大きくなり印字品位を損ねる。」(摘示(7-d))こと、及び「平均粒径が50nm以上であれば、印字物の退色性はJIS 0841及び0843に規定するブルースケール2級以上となり実用上問題なく、さらに高品位の印字を得るにはブルースケール3級以上とすることが望ましい。一方、記録液中の不揮発成分または色材成分の平均粒径が大きいと、粘度が高くなることで目詰まりを起こしやすくなる。平均粒径が200nm 以下であれば目詰まりの発生頻度も1以下となるから実用上問題なく、さらに安定な記録液をうるには100nm 以下とすることが望ましい。」(摘示(7-e))こと、が記載されている。(なお、1μm=1000nmである。)
してみると、ピエゾ振動方式を含むインクジェットプリンターに用いるインクについて、沈降することなく安定した分散状態を維持するとともに、目詰まりを少なくし、インクの吐出を安定させる目的で、着色顔料の平均粒子径が60?1000nm程度のものを用いることは周知であると認められるので、同様の目的で、甲1発明における着色顔料について「平均粒子径が60?1000nmである」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(イ) 相違点(イ)について
まず、摘示(2-c)、摘示(3-a)、摘示(3-b)、摘示(5-f)、摘示(6-c)、摘示(7-c)、摘示(9-d)、摘示(9-f)、摘示(10-a)、摘示(10-b)、摘示(10-c)及び摘示(10-e)から明らかなように、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターは周知である。
また、インクジェットプリンターについて、オンディマンド方式の代表的なものの一つとして、ピエゾ振動方式のものは周知である(例えば、摘示(10-b)、摘示(10-c)及び摘示(10-e)、並びに特開平5-116285号公報の2頁1欄26?31行及び特開平7-137246号公報の2頁1欄50行?2欄5行参照。)。
そして、甲1発明におけるソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターは「プリンター・ヘッド2には、コンベア1の巾方向全体に亘って、口径:0.1?0.4mmの複数のノズル3が、1?5mmのピッチで、下向きに並列配置で設けられている。」(摘示(1-j))ようなものであるところ、後に第6 2 (2)イで指摘するように、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターのヘッドにおいては、一般に、内径(口径)が数十μm程度で、ノズルピッチは0.141?0.085mm程度であるから、ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに比べ、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターは、より高解像度化されたものといえる。(審決注.1mm=1000μmである。)
そして、インクジェット記録ヘッドにおいては、近年、高品位印字という時代の趨勢に対応して高解像度化が強く要請されている(摘示(10-d))こと、及び、ピエゾ式インクジェットヘッドで水性顔料系インクを用いて下地層の上に絵画、文字等の塗層を描くと、微細な部分まで鮮明にプリントされる(摘示(2-d))とともに、美麗な画像等をプリントできる(摘示(2-e))ことが知られている。
してみると、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターは周知であること、インクジェットプリンターにおいて、オンディマンド方式の代表的なものの一つとしてピエゾ振動方式のものは周知であること、ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに比べ、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターは、より高解像度化されたものであること、及びピエゾ式インクジェットヘッドで水性顔料系インクを用いて下地層の上に絵画、文字等の塗層を描くと、微細な部分まで鮮明にプリントされるとともに、美麗な画像等をプリントできることが知られていたこと、などを勘案すると、時代の趨勢である高解像度化の要請に添うために、また微細な部分まで鮮明に美麗な画像等をプリントするために、甲1発明におけるソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに代えて、(オンディマンド方式の代表的なものの一つとして)周知であるピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用いることは当業者が容易になし得ることである。

(ウ) 相違点(ウ)について
上記「(イ) 相違点(イ)について」で指摘したように、甲1発明におけるソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに代えて、(オンディマンド方式の代表的なものの一つとして)周知であるピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用いることは当業者が容易になし得ることであるところ、摘示(3-a)、摘示(3-b)、摘示(9-b)、摘示(9-d)、摘示(9-f)、摘示(10-b)、摘示(10-c)及び摘示(10-e)等から明らかなように、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターにおいては、ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御してインク吐出を制御するものであることは周知である。
してみると、インク吐出の制御方法として、甲1発明における「ソレノイドバルブを開閉制御して」行う方法に代えて、「該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御して」行う方法を用いることは、当業者が容易になし得ることである。

オ 効果についての判断
しかも、本件特許明細書等を検討しても、本件発明1が相違点(ア)、相違点(イ)及び相違点(ウ)により格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
すなわち、相違点(ア)、相違点(イ)及び相違点(ウ)に関する本件発明1の効果は、本件特許明細書の段落【0022】、【0005】、【0007】及び【0008】の記載からみて、「一般的な多くの顔料の一次粒子径は60nm近辺であり、また、粒子同士の凝集も発生するので、60nm未満の平均粒子径を安定的に確保することは難しい。」(段落【0022】)、「平均粒子径が1,000nmを超えると沈殿、インクジェットプリンターヘッドのノズル孔の詰まりの原因となる傾向があるので、平均粒子径1000nmを超える分散状態は好ましくない。」(段落【0022】)、及び「吐出する個々のインク液滴が大きくなり、・・・インクの吸収乾燥に必要な時間が長く、その結果、乾燥が遅く、ニジミや液滴の重なりが起こり、画質精度が不充分となっていた。」(段落【0005】)という問題を解決して、「下層着色塗膜を有する基板の表面に柄模様、特に天然石に擬似する外観模様を能率よく且つ精度よく描画でき、しかも耐久性に優れた基板を得ること」(段落【0007】)ができ、「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンター及びコンピューターの制御信号を組み合わせて用いることに加えて、インクの着色顔料として平均粒子径が60?1000nmである顔料を用いることにより上記の目的が達成されることを見いだし」た(段落【0008】)、というものであるが、これらの効果は、甲1発明が奏する効果(摘示(1-q))に加え、甲第2号証に記載された発明(摘示(2-a)?摘示(2-e))及び周知技術が奏する効果を考慮すれば、当業者が予測できない格別顕著なものとまではいうことはできない。
また、本件特許明細書の他の記載部分をみても、本件発明1が相違点(ア)、相違点(イ)及び相違点(ウ)により格別顕著な効果を奏するものとまではいうことはできない。

カ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ 被請求人の主張について
被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書において、概略、以下のように主張している。
(ア) 甲第1?11号証のいずれにも、構成要件「柄模様に対応する柄パターンデータを予め記憶させたコンピューターの制御信号によって、該ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔に直結するインク室の壁面のピエゾ振動素子の振動を制御してインク吐出を制御すること」について何ら記載も示唆もされておらず、また、この構成要件と構成要件「平均粒子径が60?1000nmである着色顔料が配合されているインクを使用すること」とを組み合わせて採用することについても甲第1?11号証のいずれにも何ら記載も示唆もされていないので、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。(答弁書4頁下から14?3行)
(イ) 本件発明1と甲1発明とは「精度の向上、意匠性の向上」という点で同一の目的を持っているが、本件発明1ではその目的を「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンター及びコンピューターの制御信号を組み合わせて用いることに加えて、インクの着色顔料として平均粒子径が60?1000nmである顔料を用いること」により達成しているのに対し、甲1発明においては特定の溶剤を主成分とする特定の粘度のインクを用いることによってその目的を達成している。したがって、本件発明1と甲1発明とは技術的特徴が全く異なるものであり、甲1発明とその他のいかなる公知の発明とを組み合わせたとしても本件特許の請求項1に係る発明を発明し得ないことは明らかである。(答弁書4頁下から2行?5頁23行)
(ウ) 甲第1号証には「本発明で使用するインクジェットプリンターとしては、従来から公知のプリンターを使用することができ、その制御方法も、例えば、オンディマンド方式、荷電制御方式、サーマルヘッドによりインクを吐出させる方式が代表的なものとして挙げられる。」(段落【0017】)と記載されているところ、甲第1号証に記載の発明が出願された当時の塗装手法においては、本件特許のようなインクジェット塗装は実現性に乏しいものであり、このような段階では、現在のOA向けピエゾ方式などには思いもよらないものであった。このような状況下に於いて、甲第1号証の出願人は初期のオンデマンド電磁バルブ式インクジェットプリンターに着目し、甲第1号証に記載の発明の確立に思い至ったのである。したがって、常識的に考えて、甲第1号証に記載のオンディマンドプリンターは、ソレノイドバルブ方式のインクジェットプリンターを指していることは明白である。(口頭審理陳述要領書3頁下から3行?4頁22行)
(以下、これらの主張をそれぞれ「主張(ア)」、「主張(イ)」、「主張(ウ)」という。)

しかしながら、主張(ア)及び主張(イ)については、本件発明1が当業者が容易に発明をすることができたものであることは先に第6 2(1)エで指摘したとおりであるし、しかも、本願発明1が格別顕著な効果を奏するとまではいうことはできないことは、第6 2(1)オで指摘したとおりである。
また、主張(ウ)については、本願出願時において、先に第6 2(1)エ(イ)で指摘したように、インクジェットプリンターにおいて、オンディマンド方式の代表的なものの一つとしてピエゾ振動方式のものは周知であること、及びピエゾ式インクジェットヘッドで水性顔料系インクを用いて下地層の上に絵画、文字等の塗層を描くと、微細な部分まで鮮明にプリントされるとともに、美麗な画像等をプリントできることが知られていたこと、を勘案すると、甲第1号証に記載のオンディマンドプリンターは、ソレノイドバルブ方式のインクジェットプリンターを指していることが明白であったとしても、これを(オンディマンド方式の代表的なものの一つとして)周知であるピエゾ振動方式のインクジェットプリンターに替えることは当業者が容易になし得ることである。
したがって、被請求人の上記主張は、上記カの判断を左右するものではない。

(2) 本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1記載の基板の塗装方法について、「ノズル孔の内径が20?100μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が30?150μmであるインクジェットプリンターを用い、基板の表面に画質精度が50?350dpiである柄模様を塗装することを特徴とする」という限定を付すものである。
これに関し、甲第1号証には、「本発明の無機質化粧板の製造方法を、ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例について、図1および図2を参照して、具体的に説明する。」(摘示(1-j))、及び「プリンター・ヘッド2には、コンベア1の巾方向全体に亘って、口径:0.1?0.4mmの複数のノズル3が、1?5mmのピッチで、下向きに並列配置で設けられている。」(摘示(1-j))ことが記載されている。
そこで、本件発明2の「ノズル孔の内径」及び「ノズル孔とノズル孔との間の距離」は、甲第1号証における「口径」及び「ピッチ」に対応すること、並びに1mmは1000μmに対応することを考慮して、本件発明2と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証には
「ノズル孔の内径が100?400μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が1000?5000μmである(ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式の)インクジェットプリンターを用い、柄模様を塗装する」
ことが記載されているので、両者は、相違点(ア)、相違点(イ)及び相違点(ウ)に加え、更に以下の(エ)の点で相違すると認められる。
(エ) 柄模様を塗装することについて、本件発明2においては「ノズル孔の内径が20?100μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が30?150μmであるインクジェットプリンターを用い、基板の表面に画質精度が50?350dpiである」と規定しているのに対し、甲第1号証に記載された発明においては「ノズル孔の内径が100?400μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が1000?5000μmである(ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式の)インクジェットプリンターを用い」と規定している点
(以下、この相違点を「相違点エ」という。)

イ 相違点エについての判断
まず、ピエゾ振動方式を含むインクジェットプリンターについて、ノズル孔の内径、ノズル孔とノズル孔との間の距離及び画質精度に関する従来技術水準について検討する。
甲第9号証には、「プリンタには、一般に文字を主としてプリントアウトするプリンタと、図面をプリントアウトするためのプロッタや複写を行なうためのプリンタとがある。このうち前者の文字をプリントアウトするプリンタでは、例えば180または360DPIのドット密度でプリントが行なわれる。これに対し後者の図面などをプリントアウトするプリンタでは、例えば200または400DPIのドット密度でプリントが行なわれる。」(摘示(9-c))及び「次に、図12を用いてドット密度変更のためのヘッド10の回転およびノズル配列面の傾斜について説明する。同図において、41はプリントヘッドユニットを示し、n_(1)?n_(10)はノズル位置を示すものとする。各ノズルは、所定のドット密度、例えば180DPIに対応するピッチp_(1) (p_(1) =0.141ミリメートル)で配列されているものとする。」(摘示(9-e))と記載されている。(審決注.「DPI」は「dpi」と同義である。)
また、甲第10号証には、「【発明が解決しようとする課題】インクジェット記録ヘッドにおいては、近年、高品位印字、高速印字という時代の趨勢に対応して高解像度かつマルチノズル化が強く要請されている。解像度については、従来では180dpi(ノズルピッチ0.141mm)が主流となっているが、最近、プリンタにおいては240dpi(ノズルピッチ0.105mm)または300dpi(ノズルピッチ0.085mm)に移行しつつある。」(摘示(10-d))と記載されている。
さらに、甲第11号証には、「【従来の技術】シリアルドットプリンタにおいては、解像度が高くなるほど印字に必要なワイヤ(ワイヤドット方式の場合)やノズル(インクジェット方式の場合)の数が増加し、その配列が困難になってくる。例えば、180dpiのプリンタの場合には、ドットピッチは141μmでドット数は通常24個だが、これが360dpiになると、ドットピッチは70.5μmでドット数は通常48個必要となる。
これだけのドット数になると、インクジェットプリンタの場合ノズルの直径は50μm程度であるため、ドットピッチ内で仕切りを交えて配置するのは非常に困難となり、ノズルの千鳥配列等の手法を用いることが必要になる。」(摘示(11-a))と記載されている。
加えて、ピエゾ振動方式を含むインクジェットプリンターにおけるノズル孔は一般に内径が数十μm程度であることは周知である(例えば、特開平3-234661号公報2頁左上欄最下行?右上欄2行及び3頁左下欄下から7?4行、並びに特開平4-250056号公報2頁2欄27?29行及び段落【0160】参照。)。
してみると、本件発明2が規定するノズル孔の内径、ノズル孔とノズル孔との間の距離及び画質精度は、いずれも従来のピエゾ振動方式を含むインクジェットプリンターで用いられている程度のものであるから、従来技術を考慮して、柄模様を塗装することについて、「ノズル孔の内径が20?100μmであり、ノズル孔とノズル孔との間の距離が30?150μmであるインクジェットプリンターを用い、基板の表面に画質精度が50?350dpiである」と規定することは当業者が適宜なし得ることである。
しかも、本件発明2が相違点(ア)?(エ)により格別顕著な効果を奏するものと認めることもできない。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件発明3について
ア 本件発明3は、本件発明1又は本件発明2記載の基板の塗装方法について、「コンベアの幅方向に配列したピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔列をコンベアの移動方向の前後に複数列配置し、それぞれのノズル孔列から異色のインクを吐出させて多色塗装することを特徴とする」という限定を付すものである。
これに関し、甲第1号証には、「本発明の無機質化粧板の製造方法を、ソレノイドバルブの開閉によるオンデイマンド方式のインクジェットプリンターを使用した一実施例について、図1および図2を参照して、具体的に説明する。」(摘示(1-j))こと、「図において符号1は、凹凸のある表面に下層着色塗膜を施した無機質板(以下、単に基板という)aを載せて、前方に搬送するコンベアであり、コンベア1の上方には、インクジェットプリンター(全体は示されていない)のプリンター・ヘッド2が配備されており、プリンター・ヘッド2には、コンベア1の巾方向全体に亘って、口径:0.1?0.4mmの複数のノズル3が、1?5mmのピッチで、下向きに並列配置で設けられている。なお、プリンター・ヘッド2は単一でコンベア1の巾に対応するようにしてもよいが、基板の大きさ(即ち、コンベアの巾)に応じて、プリンター・ヘッド2を複数個、並べて配置してもよいことは勿論である。」(摘示(1-j))こと、及び「多色の模様を形成したい場合は、上記プリンター・ヘッド2をコンベア1の搬送方向に複数段、配置し、それぞれのプリンター・ヘッド2中に、上述の供給方法で、異なる色のインクを供給し、それらインクを、上述と同様にして、吐出させる。これによって、基板A表面に多色の模様を抽出させることが可能である。」(摘示(1-l))こと、が記載されている。
そこで、本件発明3の「配列」、「ノズル孔列」、「コンベアの移動方向の前後に複数列配置」及び「多色塗装」は、それぞれ甲第1号証における「並列配置」、「複数のノズル」、「コンベアの搬送方向に複数段、配置」及び「多色の模様を形成」に対応することを考慮して、本件発明3と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証には
「コンベアの幅方向に配列したソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターヘッドのノズル孔列をコンベアの移動方向の前後に複数列配置し、それぞれのノズル孔列から異色のインクを吐出させて多色塗装すること」
が記載されているので、両者は、相違点(ア)、相違点(イ)及び相違点(ウ)に加え、さらに以下の(オ)の点で相違すると認められる。
(オ) インクジェットプリンターヘッドについて、本件発明3においては「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッド」と規定しているのに対し、甲第1号証に記載された発明においては「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターヘッド」と規定している点
(以下、この相違点を「相違点(オ)」という。)

イ 相違点(オ)についての判断
先に第6 2(1)エ(イ)で指摘したように、時代の趨勢である高解像度化の要請に添うために、また微細な部分まで鮮明に美麗な画像等をプリントするために、甲1発明におけるソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターに代えて、(オンディマンド方式の代表的なものの一つとして)周知であるピエゾ振動方式のインクジェットプリンターを用いることは当業者が容易になし得ることであるところ、インクジェットプリンターにより模様付け(塗装)を行う場合には、インクを吐出するインクジェットプリンターヘッドを介して行うのは自明であることから、先に第6 2(1)エ(イ)で指摘したのと同様の理由で、「ソレノイドバルブの開閉によるオンディマンド方式のインクジェットプリンターヘッド」に代えて、「ピエゾ振動方式のインクジェットプリンターヘッド」を用いることは当業者が容易になし得ることである。
しかも、本件発明3が相違点(ア)?(オ)により格別顕著な効果を奏するものと認めることもできない。

ウ 小括
したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1、本件発明2又は本件発明3記載の基板の塗装方法について、「柄模様を塗装した塗膜の全表面にクリヤー塗料を塗装することを特徴とする」という限定を付すものである。
これに対し、甲第1号証には、「模様付けした後の無機質化粧板の全面に、クリヤー塗料を塗装することを特徴とする請求項1に記載の無機質化粧板の製造方法。」(摘示(1-b)。さらに、摘示(1-f)及び摘示(1-m)も参照。)が記載されている。
そして、本件発明4の「柄模様を塗装した塗膜の全表面に」は、甲第1号証における「模様付けした後の無機質化粧板の全面に」に対応することを考慮すると、本件発明4で付された限定は、甲第1号証に記載されたものである。

したがって、本件発明4は、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?4は、いずれも甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-25 
結審通知日 2008-07-30 
審決日 2008-08-13 
出願番号 特願平8-286732
審決分類 P 1 113・ 537- Z (B05D)
P 1 113・ 121- Z (B05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 浅見 節子鈴木 正紀  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
唐木 以知良
登録日 2006-10-13 
登録番号 特許第3865087号(P3865087)
発明の名称 基板の塗装方法  
代理人 村中 克年  
代理人 西森 正博  
代理人 栗原 浩之  

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