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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1208063
審判番号 不服2007-28067  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-12 
確定日 2009-11-30 
事件の表示 特願2003- 7079「ゴルフシャフト」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日出願公開、特開2004-215894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)1月15日の出願(特願2003-7079号)であって、平成19年9月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年11月6日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成21年7月24日付けで平成19年11月6日付けの手続補正を却下するとともに同日付けで拒絶理由を通知し、これに対して同年8月25日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた。

第2 当審が通知した特許法第36条第6項第1号(請求項の記載要件)違反の拒絶理由について
1 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年8月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(下記「3 審判請求人の対応」の記載参照)

2 当審の拒絶理由
当審から平成21年7月24日付けで通知した拒絶理由の「B.本願発明の拒絶理由について」の「第3 特許法第36条第6項第1号(請求項の記載要件)違反について」は次のとおりである。

「1 本願明細書の発明の詳細な説明の【0025】?【0032】段落に記載の実施例と比較例の対比結果において、本願発明1の「強化繊維の特性が異なる複数のストレート層」は、実施例1,2のみならず比較例1ないし5にも含まれており、上記「強化繊維の特性が異なる複数のストレート層」を備えることによる作用効果は不明である。
また、請求項1に記載の「引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維」を含むストレート層は、実施例1,2の他に、比較例1,2,3,5にも含まれていることから、上記「引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維」を含むことは、発明の特徴となる事項ではなく、従来技術にも含まれる前提技術となる事項に過ぎないものであるといえることを勘案しても、上記「引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維」を含むストレート層を備えることによる作用効果については不明であるということができ、上記「引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維」を含むストレート層を備えることが本願発明1においてどのような意義を有しているのかが不明である。
また、「圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維を含む」ストレート層を備えることについては、実施例1,2及び比較例1ないし4のいずれにも記載されておらず、それによる作用効果は不明であり、その技術的意義が不明である。
すなわち、本願発明1における「強化繊維の特性が異なる複数のストレート層」を含むこと、及び「前記補強層に含まれる前記ストレート層の繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維には引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維と圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維を含」むことによる作用効果は、発明の詳細な説明の【0025】?【0032】における実施例1,2と比較例1ないし4との対比結果をみても不明であり、上記特定事項の技術的意義は、明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていない。

2 本願発明1の「前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、前記高強度炭素繊維強化樹脂プリプレグの内側」に配置した特定事項、及び、「前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、・・・シャフト中心軸方向の長さが前記高強度炭素繊維プリプレグの長さよりも長く」配置した特定事項については、それによってどのような作用効果を生ずるのか、明細書の【0029】?【0032】段落の記載を参酌しても不明である。すなわち、上記の【0029】?【0032】段落の記載によれば、実施例1,2の比較例1ないし5に対する作用効果を【図5】に示そうとしているものと認められるが、【図5】中に記載された1次式は、何を近似した式であるのか意味が不明であり、何故に、実施例の作用効果を示すために、前記1次式と比較するのかが不明である。したがって、上記2つの特定事項によって、それぞれ、どのような作用効果を生ずるのか不明である。
したがって、上記2つの特定事項は、その技術的意義が、明細書の発明の詳細な説明にサポートされているものではない。

上記のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないから特許を受けることができない。 」

3 審判請求人の対応
上記の拒絶理由に対して、審判請求人は、平成21年8月25日付けで、特許請求の範囲を、
「【請求項1】
繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維をシャフト中心軸方向に対し所定の角度をもって配置されたバイアス層と、
シャフト中心軸方向に略平行に配置されたストレート層と、
繊維強化樹脂プリプレグをゴルフシャフトの長さ方向の一部に配置された補強層と、
を含む繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフシャフトであって、
前記補強層は、引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維からなる高弾性率炭素繊維プリプレグと、圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維からなる高強度炭素繊維プリプレグとを含む強化繊維の特性が異なる複数のストレート層を備え、
前記高弾性率炭素繊維プリプレグと前記高強度炭素繊維プリプレグは、ゴルフシャフトの後端から200mm以上350mm以下の範囲に配設され、
かつ、前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、前記高強度炭素繊維強化樹脂プリプレグの内側で、かつ、シャフト中心軸方向の長さが前記高強度炭素繊維プリプレグの長さよりも長く配置することで、
ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4?6倍にしたことを特徴とするゴルフシャフト。」
と補正し、明細書の【0008】段落を、
「【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための、本発明の請求項1の手段は、繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維をシャフト中心軸方向に対し所定の角度をもって配置されたバイアス層と、シャフト中心軸方向に略平行に配置されたストレート層と、繊維強化樹脂プリプレグをゴルフシャフトの長さ方向の一部に配置された補強層と、を含む繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフシャフトであって、前記補強層は、引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維からなる高弾性率炭素繊維プリプレグと、圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維からなる高強度炭素繊維プリプレグとを含む強化繊維の特性が異なる複数のストレート層を備え、前記高弾性率炭素繊維プリプレグと前記高強度炭素繊維プリプレグは、ゴルフシャフトの後端から200mm以上350mm以下の範囲に配設され、かつ、前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、前記高強度炭素繊維強化樹脂プリプレグの内側で、かつ、シャフト中心軸方向の長さが前記高強度炭素繊維プリプレグの長さよりも長く配置することで、ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4?6倍にしたゴルフシャフトである。」
と補正し、また、明細書の【0009】段落を削除する補正を行い、さらに、同日付で、
「【意見の内容】
本願出願人は、平成21年7月24日起案(平成21年7月30日付発送)の拒絶理由通知書において通知された拒絶理由を解消するため、本意見書と同日付で提出の手続補正書によって特許請求の範囲及び明細書の「発明の詳細な説明」の欄の補正を行いました。
つきましては本願を再度ご審査していただき、何卒速やかに特許査定を賜りますようお願い申し上げます。」
と記載された意見書を提出した。

3 当審の判断
(1)上記の拒絶理由の1について
上記の平成21年8月25日付けの手続補正は、本願の請求項1における
ア 「強化繊維の特性が異なる複数のストレート層」を含むという特定事項、及び
イ 「前記補強層に含まれる前記ストレート層の繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維には引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維と圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維を含」むという特定事項
による作用効果について説明するものではなく、前記手続補正前の請求項2に係る発明に対し新たに付加された事項である「ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4?6倍にした」ことは、比較例1-3も有することから、前記付加された事項によって本願の請求項1に係る発明の作用効果が明確となるものでもなく、また、意見書も、この点について反論する主張ではないことは明らかである。したがって、上記の拒絶理由1は上記の手続補正及び意見書の主張により解消されない。
そして、明細書の記載では上記の作用効果が不明であるから、上記ア及びイの特定事項の技術的意義は、明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないとする上記拒絶理由1には何らの誤りもない。

(2)上記の拒絶理由の2について
上記の平成21年8月25日付けの手続補正は、本願の請求項1における
ウ 「前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、前記高強度炭素繊維強化樹脂プリプレグの内側」に配置した特定事項、及び、
エ 「前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、・・・シャフト中心軸方向の長さが前記高強度炭素繊維プリプレグの長さよりも長く」配置した特定事項
による作用効果について説明するものではなく、前記手続補正前の請求項2に係る発明に対し新たに付加された事項である「ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4?6倍にした」ことは、比較例1-3も有することから、前記付加された事項によって本願の請求項1に係る発明の作用効果が明確となるものでもなく、また、意見書も、この点について反論する主張ではないことは明らかである。したがって、上記の拒絶理由2は上記の手続補正及び意見書の主張により解消されない。
そして、明細書の記載では上記の作用効果が不明であるから、上記ウ及びエの特定事項の技術的意義は、明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないとする上記拒絶理由2には何らの誤りもない。

(3)上記(1)(2)のとおり、本願の請求項1に係る発明は、依然として発明の詳細な説明に記載されたものであるということができず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないから特許を受けることができない。

第3 当審が通知した拒絶理由の特許法第29条第2項(発明の進歩性)違反について
1 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年8月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記「第2 当審が通知した特許法第36条第6項第1号(請求項の記載要件)違反の拒絶理由について」の「3 審判請求人の対応」の記載参照)

2 引用例
(1)当審が通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-43333号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0013】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。なお、図2、図4?図7の特性図においては、紙面向って右側が握り部側であり、左側が先端側である。
【0014】図1は本発明の第1の発明に係るゴルフクラブシャフトを構成する管状体の一実施形態を示す正面図である。この管状体は、クラブヘッド(図示せず)が装着される先端部1と、先端部1の反対側の後端側に設けられた握り部2と、先端部1と連接した中間部3と、中間部3と握り部2との間に設けられた捩り剛性急変化部4とを有する。図1においては、捩り剛性急変化部4はテーパ状に形成されているが、テーパ状に限らず、構成材を積層することにより構成しても良い。
【0015】この管状体は長さ約1200mmであり、その捩り剛性は図2に示す分布を有している。すなわち、この分布は、図2において、先端部A部から250?300mmのE部までは緩い右上りの傾斜であり、E部から捩り剛性急変化部のC部までは前記傾斜よりやや急な右上りの傾斜であり、C部から握り部の前端部D部までは非常に急な右上りの傾斜であり、D部から握り部の後端部B部までは前記急な傾斜よりも緩やかな右上りの傾斜である。
【0016】具体的には、先端部A部における捩り剛性は800×10^(3) kgf/mm^(2) であり、捩り剛性急変化部、例えばC部における捩り剛性は1000×10^(3) kgf/mm^(2) であり、握り部の後端部B部における捩り剛性は約3600×10^(3) kgf/mm^(2) である。この場合、先端部A部における捩り剛性を1としたときに、捩り剛性急変化部、例えばC部における捩り剛性は1.25であり、握り部の後端部B部における捩り剛性は4.5である。
【0017】また、E?C間の捩り剛性変化率(長さ当りの捩り剛性変化)とC?D間の捩り剛性変化率との間の比(E?C:C?D)は1:1.5以上、特に1:2以上であることが好ましい。
【0018】このような捩り剛性分布を有する管状体においては、先端部A部から捩り剛性急変化部のC部までの捩り剛性の増加率を小さくしている。これにより、A部からC部までの長い範囲に捩れを分散することができ、先端部A部における局部的な捩れによる破損の発生を防止することができる。したがって、ゴルフクラブシャフトの強度向上や安定化を図ることができる。
【0019】また、このような捩り剛性分布を有する管状体においては、握り部における捩り剛性は高いので、握持した左右の手の位置がスイングの際の捩れにより、ずれることを防止できる。これにより、操作性に優れ、しかも安定感(安心感)に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。
【0020】上記構成を有する管状体は、図3(A)および(B)に示すプリプレグをマンドレル(図示せず)に巻回することにより作製することができる。なお、図3(A)および(B)に示す各プリプレグの線方向は繊維方向を示しており、そのプライ数は、用途、要求特性等に応じて種々変更することができる。
【0021】図3(A)において、符号11,12は、本体層を構成しているAPプリプレグ(軸方向に対して傾斜した方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグ)である。このAPプリプレグ11,12は、先端部領域から握り部領域に漸次幅狭になっており、握り部領域が幅広である略L字形状を有している。また、このAPプリプレグ11,12は、シャフトがどちらにねじれても良いように、繊維方向が軸方向に対して例えば±45°の2方向に傾斜したプリプレグである。なお、各プリプレグ11,12の繊維方向は、軸方向に対して±45°に限定されることなく、軸方向に対して略30°?55°(-30°?-55°)の範囲としても良く、この範囲を超える繊維方向の強化繊維を有するプリプレグを用いても良い。このAPプリプレグ11,12は、その合成樹脂含浸量が略15重量%?35重量%となるように設定されている。
【0022】図3(A)において、符号13,14は、本体層を構成しているSPプリプレグ(軸方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグ)である。SPプリプレグとしては、厚さ0.05mm?0.25mmの範囲のものを用いているが、特にこれに限定されることはない。繊維方向についても、±5°以内、または±15°以内の範囲で軸方向に対して傾斜させても良い。
【0023】図3(B)において、符号15,16は、本体層を構成しているAPプリプレグである。このAPプリプレグは、略矩形状であること以外は図3(A)に示すAPプリプレグと同様である。また、図3(B)におけるSPプリプレグは図3(A)に示すSPプリプレグと同様である。
【0024】図3(B)において、符号17,18は握り部を補強するプリプレグを示す。このプリプレグ17,18は、例えばカーボン繊維を一方向に引き揃えたUDシート(一方向シート)で構成しても良く、織布で構成しても良く、織布とUDシートとを組み合わせて構成しても良い。また、繊維方向は、図3(B)に示すような軸方向に対して傾斜させた方向の他に、周方向や軸方向であっても良い。繊維方向を周方向とすることにより、つぶれ方向に対する強度が向上し、軸方向に対して傾斜させて配向することにより、捩れ方向に対する強度が向上する。
【0025】プリプレグ17,18の厚さは任意であるが、巻き終り部に生じる段差を許容し、本体層の繊維の蛇行を防止する等の理由により、本体層のプリプレグよりも薄くすることが好ましい。
【0026】図3(A)および(B)において、APプリプレグ11,12,15,16の厚さは任意であるが、強化繊維を交差させて配向するので、本体層を構成するSPプリプレグ13,14よりも薄いことが好ましい。また、APプリプレグの巻回数をSPプリプレグよりも多くすることが好ましい。なお、条件によっては、APプリプレグの厚さをSPプリプレグよりも厚くし、APプリプレグの巻回数をSPプリプレグよりも少なくしても良い。ただし、繊維方向が異なるAPプリプレグを重ねて構成する場合、その厚さは、偏肉を防止するために、SPプリプレグによって構成される本体層の厚さと略同じか2倍以内とすることが好ましい。また、APプリプレグは、捩り剛性を(効率的に)向上させるために、その強化繊維が本体層のSPプリプレグの強化繊維より高弾性であることが好ましい。
【0027】 なお、上記のようにして作製した管状体に常法によりクラブヘッドを取り付けることにより、ゴルフクラブシャフトが得られる。図4は本発明の第2の発明に係るゴルフクラブシャフトを構成する管状体の曲げ剛性分布を示す特性図であり、図5は本発明の第2の発明に係るゴルフクラブシャフトを構成する管状体の捩り剛性分布を示す特性図である。図4および図5において、点線は従来のゴルフクラブシャフト用管状体を示し、実線および二点鎖線は本発明のゴルフクラブシャフト用管状体を示す。」

「【0037】上記のような管状体における捩り剛性分布または曲げ剛性分布は、巻回するプリプレグの形状、繊維方向、厚さ、合成樹脂含浸量、繊維の弾性率等を調整することにより実現することができる。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように本発明のゴルフクラブシャフトは、管状体全体における捩り剛性分布または曲げ剛性分布を調整することにより、種々の特性を最適化することができる。」

【図4】から、本発明の第2の発明に係るゴルフシャフトのシャフト先端から300mmまでの曲げ剛性が約2000?3000(×10^(3) kgf/mm^(2))であり、後端から250mm?350mmの曲げ剛性が約7000?8000(×10^(3) kgf/mm^(2))であることが読み取れる。

(2)引用例に記載された発明の認定
上記の【図4】の記載から「本発明の第2の発明に係るゴルフシャフトのシャフト先端から300mmまでの曲げ剛性が約2000?3000(×10^(3) kgf/mm^(2))であり、後端から250mm?350mmの曲げ剛性が約7000?8000(×10^(3) kgf/mm^(2))である」ことから、ゴルフシャフトのシャフト先端から300mmまでの曲げ剛性の最小値に対する後端から250mm?350mmの曲げ剛性の最大値の比率が約4である。
よって、上記記載事項から、引用例には、ゴルフシャフトに関し、
「軸方向に対して傾斜した方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したAPプリプレグをマンドレルに巻回して形成した本体層を構成する層と、
軸方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したSPプリプレグをマンドレルに巻回して形成した本体層を構成する層と、
カーボン繊維を一方向に引き揃えたUDシートであるプリプレグをマンドレルに巻回して形成した握り部を補強する層と、
を積層してなるゴルフシャフトであって、
握り部を補強する層の繊維方向は、軸方向であっても良く、
ゴルフシャフトのシャフト先端から300mmまでの曲げ剛性の最小値に対する後端から250mm?350mmの曲げ剛性の最大値の比率が約4であるゴルフシャフト。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2 対比
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「軸方向に対して傾斜した方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したAPプリプレグをマンドレルに巻回して形成した本体層を構成する層」、「軸方向に引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸したSPプリプレグをマンドレルに巻回して形成した本体層を構成する層」、及び、「カーボン繊維を一方向に引き揃えたUDシートであるプリプレグをマンドレルに巻回して形成した握り部を補強する層」が、それぞれ、本願発明の「繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維をシャフト中心軸方向に対し所定の角度をもって配置されたバイアス層」、「シャフト中心軸方向に略平行に配置されたストレート層」、及び、「繊維強化樹脂プリプレグをゴルフシャフトの長さ方向の一部に配置された補強層」に相当する。

引用発明の「握り部を補強する層の繊維方向は、軸方向であっても良」いことが、本願発明の「補強層は」、「ストレート層を備える」ことに相当する。

引用発明の「ゴルフシャフトのシャフト先端から300mmまでの曲げ剛性の最小値に対する後端から250mm?350mmの曲げ剛性の最大値の比率が約4である」ことと、本願発明の「ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4?6倍にした」こととは、「ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4(倍)を含む特定の値にした」点で一致する。

(2)一致点
よって、本願発明と引用発明とは、
「繊維強化樹脂プリプレグの強化繊維をシャフト中心軸方向に対し所定の角度をもって配置されたバイアス層と、
シャフト中心軸方向に略平行に配置されたストレート層と、
繊維強化樹脂プリプレグをゴルフシャフトの長さ方向の一部に配置された補強層とを含む繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフシャフトであって、
補強層は、ストレート層を備え、
ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率を4(倍)を含む特定の値にしたゴルフシャフト。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
ア 相違点1
補強層のストレート層が、本願発明は、「引張り弾性率が400GPa以上800GPa以下の高弾性率炭素繊維からなる高弾性率炭素繊維プリプレグと、圧縮強度が1300MPa以上の高強度炭素繊維からなる高強度炭素繊維プリプレグとを含む強化繊維の特性が異なる複数の」ストレート層であり、「かつ、前記高弾性率炭素繊維強化樹脂プリプレグは、前記高強度炭素繊維強化樹脂プリプレグの内側で、かつ、シャフト中心軸方向の長さが前記高強度炭素繊維プリプレグの長さよりも長く配置する」のに対して、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

イ 相違点2
本願発明は、「高弾性率炭素繊維プリプレグと高強度炭素繊維プリプレグは、ゴルフシャフトの後端から200mm以上350mm以下の範囲に配設され」たものであるのに対して、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

ウ 相違点3
「ゴルフシャフトの先端から300mmまでの範囲の曲げ剛性の最小値Bに対する、後端から250mm?350mmの範囲の曲げ剛性の最大値Aの比率」について、両者は、約4(倍)というおおよその値である点で一致するものの、本願発明は、その上限を6(倍)として4?6と特定しているのに対して、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

3 当審の判断
(1) 上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用例1の【0024】段落の「(握り部を補強するプリプレグの)繊維方向は、図3(B)に示すような軸方向に対して傾斜させた方向の他に、周方向や軸方向であっても良い」、及び、【0037】段落の「管状体における捩り剛性分布または曲げ剛性分布は、巻回するプリプレグの形状、繊維方向、厚さ、合成樹脂含浸量、繊維の弾性率等を調整することにより実現することができる。」の記載、並びに、上記の「第2 当審が通知した特許法第36条第6項第1号(請求項の記載要件)違反の拒絶理由について」でも述べたように、上記相違点1による作用効果が不明であることにかんがみれば、引用発明において、補強層となるプリプレグ17,18の繊維方向や形状、弾性率をどのようなものとするかは、適宜調整される設計的事項であるといえる。同様に、補強層が複数の層からなる場合の、各層の配置や長さの関係についても、上記の「第2 当審が通知した特許法第36条第6項第1号(請求項の記載要件)違反の拒絶理由について」でも述べたように、上記相違点1による作用効果が不明であることにかんがみれば、それによる作用効果が不明であるから、適宜設定し得る事項であるといえる。
よって、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易なし得たことであるといえる。

イ 相違点2について
「前記高弾性率炭素繊維プリプレグと前記高強度炭素繊維プリプレグは、ゴルフシャフトの後端から200mm以上350mm以下の範囲に配設された」点についても、それによる作用効果が明細書の発明の詳細な説明において記載されておらず、不明であるから、単なる設計的事項であるといえる。
よって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易なし得たことであるといえる。

ウ 相違点3について
数値範囲をどの程度とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項に過ぎないから、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易なし得たことであるといえる。

(2)したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 まとめ
本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないから特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-29 
結審通知日 2009-10-01 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2003-7079(P2003-7079)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 121- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 武田 悟
森林 克郎
発明の名称 ゴルフシャフト  
代理人 美津濃株式会社  

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