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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1208592
審判番号 不服2007-861  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-11 
確定日 2009-12-10 
事件の表示 特願2003- 9367号「医療用セラミック被覆針およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 5日出願公開、特開2003-310759号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明1
本願は、平成15年1月17日(優先権主張 平成14年2月22日)の出願であって、その請求項1?6に係る発明は、平成18年8月25日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
鉄系金属製針の外表面および内表面のうち、少なくとも生体組織と接触する部位については、Al,BおよびSiの窒化物、炭化物または酸化物のうちから選んだ少なくとも一種からなり、抵抗率ρが10^(5) Ω・m 以上で、かつ表面粗さが算術平均粗さRaで 1.5μm 以下の絶縁性のセラミック被膜を被覆したことを特徴とする医療用セラミック被覆針。」

2.刊行物に記載された発明
(刊行物1)
当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-212149号公報(以下、「刊行物1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「少なくとも一部に金属基材を含み、且つ生体成分接触部を有する器具であって、該金属基材表面の少なくとも一部にセラミックコーティング層を有する生体成分接触用器具。」(【特許請求の範囲】【請求項1】参照)
(イ)「前記セラミックコーティング層の被コーティング表面を構成する金属は、金および金合金、銀および銀合金、チタンおよびチタン合金、コバルト-クロム系合金、マグネシウム、ステンレススチールから選ばれることが好ましい。・・・」(段落【0011】参照)
(ウ)「前記セラミックコーティング層表面の硬さおよび耐摩耗性は被コーティング金属表面よりも高く、且つ、該コーティング層表面の摩擦係数が被コーティング金属表面よりも小さいことが好ましい。
前記生体成分接触用器具としては、例えば、鉗子、手術用ハサミ、手術用メスの柄、注射針、縫合針(角針または丸針)、持針器、ピンセット、開創器から選ばれたものが挙げられる。」(段落【0012】参照)
(エ)「・・・・・
(セラミック)本発明のセラミック(セラミックス)は金属元素(半導体金属元素を含む)と非金属元素の結合体である。金属元素としてはTi、W、Al、Mg、Mo、Hf、Si、Cr、Ta、Zr、Be、Mn、Ce、La、Y、Be、等があげられ非金属元素としてはO、N、C、S、H等があげられる、即ち金属(半導体金属を含む)の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物および水素化合物等である。」(段落【0025】参照)
(オ)「更に前記したセラミック(セラミックス)の特徴である高い硬度、優れた耐摩耗性および耐薬品性、低い摩擦抵抗性、高い融点、良好な電気(ないし熱)絶縁性等の利用により、生体成分接触用器具の機能性高めるオプションの幅を著しく広げることが可能となる。
(セラミックコーティング法)本発明においては、ラミックコーティング層を形成するためのセラミックコーティング法は特に制限されず、公知のものから適宜選択して利用することが可能である。」(段落【0028】参照)
(カ)「前記したセラミックコーティングは化学的気相堆積法(CVD)または物理的気相堆積法(PVD)によって実施が可能であるが、特に真空気相堆積法にプラズマを導入したイオンプレーティング法が好適に用いられる。・・・」(段落【0030】参照)

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「生体成分接触部を有する器具であって、ステンレススチール表面の少なくとも一部に、Al、Si等の酸化物、窒化物、炭化物等の低い摩擦抵抗性、良好な電気絶縁性を有するセラミックコーティング層を有する注射針等の生体成分接触用器具。」

(刊行物2)
当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第01/27586号(以下、「刊行物2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。

(キ)「本発明は生物組織薄切試料を作製する方法およびそのために用いる器具並びに装置に関するものである。」(1頁6?7行)
(ク)「本発明者等は、細胞死はもとより核濃縮を生ずることなく、形態学的に細胞が安定に保持する手法につき研究し、生体組織薄切り試料作製には、・・・両刃側壁面を絶縁性に優れた材質の被膜で覆うことによってスライス切片切断中の断面負傷電流の発生を防止する、・・・等が必要であることを認めた。」(2頁6?15行)

(刊行物3)
当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-279331号公報(以下、「刊行物3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ケ)「【発明の属する技術分野】この発明は、病気の治療、予防、検査、手術等に用いられる医療用具、もしくは、衛生用具の生体との摩擦抵抗を小さくして生体の苦痛を低減させるための医療・衛生用具の表面処理方法及び装置に関するものである。」(段落【0001】参照)
(コ)「実施の形態1による医療・衛生用具の表面処理方法では、10μm?最大数十μmの凹凸を有する注射針1の表面を、直接、イオンビームもしくはプラズマを用いてスパッタ研磨したり、酸もしくはアルカリ溶液を用いて電解研磨することにより、図1に示すように、非常に清浄な環境で用具表面1aの粗度つまり凹凸状態を1μm?20μm程度に改善するもので、これにより、生体との摩擦抵抗が小さくなり、生体への圧入時に生体へ与える苦痛を低減することができる。」(段落【0026】参照)

3.対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ステンレススチール」は本願発明1の「鉄系金属」に相当するから、引用発明の「注射針」は本願発明1の「鉄系金属製針」に相当する。以下同様に、「生体成分」は「生体組織」に、「良好な電気絶縁性を有する」は「絶縁性の」に、「セラミックコーティング層」は「セラミック被膜」に、「セラミックコーティング層を有する注射針」は「医療用セラミック被覆針」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「注射針」も「外表面および内表面」を有することは明らかである。
また、本願発明1も引用発明も「生体組織と接触する部位を有する」点、「表面の少なくとも一部にセラミック被膜を被覆した」点で共通している。
したがって、本願発明1と引用発明は本願発明1の用語を使用して記載すると下記の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「鉄系金属製針の外表面および内表面が、生体組織と接触する部位を有し、その少なくとも一部に、Al,BおよびSiの窒化物、炭化物または酸化物のうちから選んだ少なくとも一種からなり、絶縁性のセラミック被膜を被覆したことを特徴とする医療用セラミック被覆針。」
(相違点1)
本願発明1においては、外表面および内表面のうち、「少なくとも生体組織と接触する部位については」セラミック被膜を被覆しているが、引用発明においては、外表面および内表面の少なくとも一部にセラミック被膜を被覆しているものの、「少なくとも生体組織と接触する部位については」との限定がない点。
(相違点2)
本願発明1においては、セラミック被膜が、「抵抗率ρが10^(5 )Ω・m 以上で、かつ表面粗さが算術平均粗さRaで 1.5μm 以下」であるのに対し、引用発明においては、そのような限定がない点。

以下、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1に記載された、低い摩擦抵抗性や良好な電気絶縁性等の生体成分接触用器具の機能性(上記記載事項(オ)参照)は、特に生体組織と接触する部位においてより求められるであろうことは、当業者からみて明らかである。なお、電気絶縁性に関しては、さらに刊行物2に、生物組織薄切試料作製において、刃の側壁面を絶縁性に優れた材質の被膜で覆うことによってスライス切片切断中の断面負傷電流の発生を防止する点が記載されていることからも、この特性が生体組織と接触する部位において求められることが知られていたものということができる。
そうすると、引用発明のセラミック被膜を、「少なくとも生体組織と接触する部位については」被覆するとして、相違点1に係る本願発明1のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

(相違点2について)
例えば引用発明においてセラミックコーティングに用いられているAlの酸化物として代表格のアルミナの抵抗率ρが10^(5 )Ω・m 以上であることは当業者に周知の技術事項である(例、浜野健也、「ファインセラミックスハンドブック」、株式会社朝倉書店、1984年12月20日、p.650参照)。また、刊行物3には、注射針の表面1aの粗度を1μm?20μm程度に改善することにより、生体との摩擦抵抗が小さくなり、生体への圧入時に生体へ与える苦痛を低減することができる旨の記載がある。
そうすると、引用発明の低い摩擦抵抗性という生体成分接触用器具としての機能性を担保する上で、刊行物3に記載された技術事項を適用することにより、セラミック被膜が、「抵抗率ρが10^(5 )Ω・m 以上で、かつ表面粗さが算術平均粗さRaで 1.5μm 以下」であるとして、相違点2に係る本願発明1のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、上記一致点及び相違点の認定に関し、請求人は平成21年4月30日付け意見書において、「しかしながら、刊行物1において具体的に開示されたセラミックは、チタンオキサイドまたはチタンナイトライドにすぎず、・・・ とするならば、刊行物1において具体例として、本願発明1で所期した目的を達成できないTi化合物の例示があることによって、「Al、BおよびSiの窒化物、炭化物または酸化物」までもが具体的に開示されていたと認定することは、合理性に欠けると言わざるを得ない。」(3.?4.)、「また、刊行物1記載の発明の目的は、・・・本願発明1とは、発明の目的が相違することは明らかである。 そうであるならば、刊行物1に開示されたいろいろな元素の組み合わせの中から、「病変部に刺した穿刺針のまわりの細胞については言うまでもなく、採取した組織片そのものについても何ら悪影響を及ぼすことのない」という本願発明に固有の目的を想起して電気抵抗率ρが10^(5) Ω・m 以上であるAl、BおよびSiの窒化物、炭化物または酸化物のうちから選んだ少なくとも一種のセラミックを特に選択することは、たとえ当業者であっても困難といわざるを得ない。」(5.)等と主張している。
しかしながら、刊行物1には上記記載事項(エ)のとおり、「本発明のセラミック(セラミックス)は金属元素(半導体金属元素を含む)と非金属元素の結合体である。金属元素としてはTi、W、Al、Mg、Mo、Hf、Si、Cr、Ta、Zr、Be、Mn、Ce、La、Y、Be、等があげられ非金属元素としてはO、N、C、S、H等があげられる、即ち金属(半導体金属を含む)の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物および水素化合物等である。」と記載され、たとえ典型的な例としてチタンオキサイド等が記載されていたとしても、Al、Siの酸化物、窒化物、炭化物が具体的に開示されていることは明らかである。
そして、引用発明の主目的が、本願発明1の目的と相違していたとしても、本願発明1と一致するセラミックスの素材が具体的に開示されている以上、それを一致点とすることは何ら妨げられない。
また、そのように開示されたAlの酸化物であるアルミナの抵抗率が10^(5) Ω・m 以上であることが当業者に周知の事項である以上、電気抵抗率ρが10^(5) Ω・m 以上とすることが当業者に容易に想到し得ることは当然であるから、請求人の上記主張は採用できない。

さらに、本願発明1の奏する効果を検討しても、刊行物1?3に記載された発明から、当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-29 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-22 
出願番号 特願2003-9367(P2003-9367)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 豊永 茂弘
中島 成
発明の名称 医療用セラミック被覆針およびその製造方法  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 憲司  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 興作  

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