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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1208840
審判番号 不服2006-24202  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2009-12-17 
事件の表示 特願2001-197841「半導体装置とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月17日出願公開、特開2003- 17686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年6月29日の出願であって、平成18年9月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月24日付けで手続補正がなされたものであって、その後、当審において、平成21年3月3日付けで審尋がなされ、同年4月24日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年11月24日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年11月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成18年11月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲および発明の詳細な説明を補正するものであり、特許請求の範囲についての補正は、以下のとおりである。

(補正事項a)補正前の請求項1を、補正後の請求項1の
「【請求項1】
シリコン単結晶基板上に形成された素子分離絶縁膜、及びゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記素子分離絶縁膜と前記ゲート絶縁膜との間の前記シリコン単結晶基板の表面に、前記ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース及びドレイン領域とを有する半導体装置であって、前記ゲート絶縁膜は、酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成された、A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)の組成を有する層とからなることを特徴とする半導体装置。」
と補正すること。

(補正事項b)補正前の請求項4を削除すること。

(補正事項c)補正前の請求項5を、補正後の請求項4の
「【請求項4】
シリコン単結晶基板上に素子分離絶縁膜を形成する工程と、該素子分離絶縁膜上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記素子分離絶縁膜と前記ゲート絶縁膜との間の前記シリコン単結晶基板の表面に前記ゲート絶縁膜を挟んで両側にソース及びドレイン領域を形成する工程と、を順次有し、前記ゲート絶縁膜は、酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成された、A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)の組成を有する層とからなることを特徴とする半導体装置の製造法。」
と補正するとともに、補正前の請求項6を補正後の請求項5に繰り上げること。

(2)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無についての検討
(2-1)補正事項aについて
補正前の請求項1における「A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはIII族金属の1種以上)の組成を有する層」を、補正後の請求項1における「A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)の組成を有する層」と限定的に減縮する補正である。
そして、「AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上」は、本願の願書に最初に添付した明細書の【発明の詳細な説明】の【0011】段落の記載に基づく補正である。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2-2)補正事項cについて
補正前の請求項5における「A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはIII族金属の1種以上)の組成を有する層」を、補正後の請求項4における「A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)の組成を有する層」と限定的に減縮する補正である。
そして、「AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上」は、本願の願書に最初に添付した明細書の【発明の詳細な説明】の【0011】段落の記載に基づく補正である。

(2-3)したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)に規定する要件を満たすとともに、同法同条同項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。

(3)独立特許要件について
(3-1)検討の前提
上記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて検討する。

(3-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、平成18年11月24日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記(1)(補正事項a)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(3-3)原審における拒絶の理由の概要
原審における拒絶の理由は、平成18年6月13日付けの拒絶理由通知書に記載されたとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

「A.この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、シリコン単結晶基板上に直接、又は任意の他の膜を介して形成されたゲート絶縁膜を有し、他の構成は任意である半導体装置において、前記ゲート絶縁膜は、A1-xBxOy(xは0.01?0.3の範囲に含まれる任意の値、yは1.5?3.0の範囲に含まれる任意の値、Aは任意のIII族金属、Bは任意のV族金属、及び任意のVI族金属の1種以上)の組成を有することを意味するものである。
しかしながら、この出願の明細書の発明の詳細な説明には、シリコン単結晶基板上に形成された素子分離絶縁膜、及びゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記素子分離絶縁膜と前記ゲート絶縁膜との間の前記シリコン単結晶基板の表面に、前記ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース及びドレイン領域とを有する半導体装置であって、前記ゲート絶縁膜は、酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成された、Al1-xTaxOy(x=0.01?0.3、y=1.5?3.0)の組成を有する層とからなる半導体装置、及びその製造方法が記載されているだけであり、この出願の明細書の発明の詳細な説明には、この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載が意味する前記の事項について記載されているということはできない。
したがって、この出願の請求項1、及びその従属項に係る発明は、この出願の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるということはできない。・・・」

(3-4)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
(3-4-1)そこで、本願特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているか否かについて以下に検討する。
まず、請求項1の記載に基づいて分析すると、補正後の発明は以下のとおりである。
(構成a)「シリコン単結晶基板上に形成された素子分離絶縁膜、及びゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記素子分離絶縁膜と前記ゲート絶縁膜との間の前記シリコン単結晶基板の表面に、前記ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース及びドレイン領域とを有する半導体装置」に関する発明である。
(構成b)「前記ゲート絶縁膜は、酸化シリコン層」を有するものである。
(構成c)「前記ゲート絶縁層は、」「該酸化シリコン層上に形成された、A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)の組成を有する層」を有するものである。

(3-4-2)ここにおいて、補正後の発明の「A_(1-x)Ta_(x)O_(y)」について整理すると、以下の4種類の場合が、補正後の発明の技術範囲に含まれるものであることが明らかである。
ア 「Al_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)
イ 「Sc_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)
ウ 「Y_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)
エ 「Ln_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)
ここで、「Ln」は、「ランタノイド元素」を意味するものであることは、平成18年11月24日付けの手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の【0004】段落の記載から明らかである。

(3-4-3)一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、図1ないし5とともに、以下のように記載されている。

「 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な半導体装置とその製造方法に係わり、特にゲート絶縁膜を有するMIS型トランジスタ素子とその製造方法に関する。」
「 【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、ゲート絶縁膜にAl_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)(Ln:ランタノイド元素)を用いた場合に、膜中やSi界面での欠陥等に起因する負の固定電荷が発生して、フラットバンド電圧がシフトするといったことが問題となっている。フラットバンド電圧のシフトは、MIS型トランジスタの閾値をシフトさせてしまう。
【0005】
また、Al_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)を用いたゲート絶縁膜において、吸湿反応によって、膜中に固定電荷が発生し、同様にフラットバンド電圧がシフトすることが問題となっている。さらに、更なる微細化の要求を満足させるには、さらに高誘電率化したゲート絶縁膜が必要となってくる。
【0006】
本発明の目的は、ゲート絶縁膜にAl_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)を用いた場合の膜中に発生する負の固定電荷を補償して、フラットバンド電圧のシフトを抑えた半導体装置とその製造法を提供することにある。」
「 【0018】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
図1は、本発明に係るMISトランジスタの製造方法を示す断面図である。図1(a)のSi単結晶基板101はp-typeで、(100)面方位、抵抗率10?15Ω・cmの基板である。図1(bの)素子分離領域102は101Si単結晶基板に深さ約0.4μmの溝を形成した後にCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、SiO_(2)膜を全面成膜し、次にCMP(Chemical Mechanical Polishing)で平坦化させて作製した。
【0019】
次に図1(c)のCVD法によりゲート絶縁膜103となるAl-Ta-O膜を作製した。Al原料にはAl(CH_(3))_(3)を用いた。また、Ta原料にはTa(OC_(2)H_(5))_(5)原料を用いた。各原料は、アルゴンキャリアガスによるバブリング法で基板に供給した。アルゴンキャリアガスは50sccmで搬送した。原料を分解するためのO_(2)ガスも50sccmで基板に供給した。反応容器の圧力を0.1torrとし、基板温度を500℃とした。成膜時間を1?5分として、膜厚4?20nmの複合酸化物層を得た。
【0020】
ICPS(Inductively Coupled Plasma Spectrometry)分析によって、AlとTaの元素を調べたところ、各々は元素比で、85%:15%であった。次に、図1(d)のゲート電極104となる多結晶Si膜を300nm成膜し、更に図1(e)のゲート電極104を得た。
【0021】
その後、nチャンネル領域にはリンを、pチャンネル領域にはボロンをそれぞれ注入し、800℃、10?30minの窒素雰囲気中熱処理して活性化した。図2(f)に示すように、ゲート電極104は多結晶Si膜を通常のホトリソグラフィー法を用いてパターニングし、セルフアラインにてRIEによりエッチングして形成し、同様に103ゲート絶縁膜を加工した。次に104ゲート電極をマスクして105ソース/ドレイン領域に周期率表の第5族の原子(P,As,Sb)或いは第3族の原子(B,Al,Ga,In)のイオン注入を行い、800℃、30secのAr中熱処理を施す事により低抵抗の拡散領域を形成した。次に、図2(g)のCVD法によりSiO_(2)保護膜106を形成した。さらに図2(h)のソース/ドレイン105上にスルーホールを作製した後、CVD法によりW-プラグ電極107を作製した。最後に図2(h)のAl配線108をW-プラグ107上に作製してMIS型トランジスタ素子を作製した。
【0022】
図3は、片方のAl配線108をアースにして、ゲート電極104に-2?2V変化させた場合のC-V特性よりEOT(SiO_(2)換算膜厚)を算出した結果を示す線図である。4?20nm膜厚間で最小2乗法から求めた勾配は誘電率を意味し、約15であった。また物理膜厚がゼロの場合にEOTが約0.4nmであり、ゲート絶縁膜103とSi単結晶基板101界面に低誘電率なSiO_(2)層の形成を薄く抑えることができた。また、C-V特性において、フラットバンド電圧のシフトは0.02Vであった。
【0023】
比較例として、Al原料にはAl(CH_(3))_(3)のみを基板に供給し、O_(2)/(Ar+O_(2))比は同じ条件で、Al_(2)O_(3)膜を形成した。基板温度等の条件についても、同じ条件に固定した。成膜時間を1?5分として、膜厚3?15nmを得た。同様のC-V測定からEOTを算出した結果を図3に併記した。Al_(2)O_(3)膜の誘電率は約9であった。また、3nmの膜のC-V特性において、フラットバンド電圧は、0.35Vのシフトが認められた。
【0024】
このように、Al_(2)O_(3)にTa_(2)O_(5)を固溶することによって、比誘電率を9から15まで向上することが分かった。さらに、Ta_(2)O_(5)を固溶することによって、フラットバンド電圧のシフトが認められなくなったことから、Al_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償出来ることも分かった。
【0025】
更に、フラットバンド電圧のシフトを抑え、更なる微細化の要求を満足させる高誘電率のゲート絶縁膜が得られること、ゲート長を0.1μm以下とするMISトランジスタが得られることも分かった。
【0026】
本実施例では、Al原料としてAl(CH_(3))_(3)、Ta原料としてTa(OC_(2)H_(5))_(5)を用いたが、他の原料を用いても良い。また、原料の供給法としてバブリング法を用いたが、液体原料を直接気化させる方法を用いてよい。
【0027】
ゲート電極として多結晶Siを用いているが、誘電体材料と反応しない金属、例えばW,Mo,TiN,TiSi_(2)等を用いてもよい。さらに、多結晶Siにリンをドープしてもよい。Al配線を説明したが、低抵抗な金属材料ならよく、例えばCu材料を用いてもよい。
【0028】
本実施例より、Al_(2)O_(3)にV族のTa_(2)O_(5)を固溶させることにより、Al_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償できること、及び比誘電率を向上することを確認出来た。
【0029】
(実施例2)
Taの元素比を0?50%に変化させたAl-Ta-O膜を実施例1と同様の方法で作製した。Taの元素比は、CVD原料の流量比によって調整した。得られたサンプルにAu上部電極を真空蒸着法で形成し、Au/Al-Ta-O/Siキャパシタの高周波容量?電圧(C-V)測定により、比誘電率を求めた。また、TEM分析により、Si界面のSiO_(2)膜厚を測定した。また、得られた膜中の元素比は、ICPS分析により求めた。
【0030】
図4は、膜中の元素比に対する比誘電率及びSi界面のSiO_(2)膜厚の依存性を示す線図である。Ta元素の固溶割合を多くするに従い、比誘電率が向上した。しかし、Si界面に形成するSiO_(2)の膜厚が増加した。特に、Taの固溶量が30%以上では、SiO_(2)の膜厚は急激に増加する傾向を示し、その厚さが1nm程度までになり、形成したゲート絶縁膜のSi界面上での熱的安定性が悪くなった。
【0031】
図5は、Taの固溶量に対するフラットバンド電圧のシフト値(ΔVFB)を示す線図である。Taの固溶量が増加するに従い、ΔVFBはゼロに漸近した。ゆえに、Taの固溶量によりAl_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償できた。
【0032】
以上の実施例により、Al_(2)O_(3)に対するTaの固溶量を元素比で0.3未満にすることで、Al_(2)O_(3)の熱的安定性を保ちながら、膜中に発生する負の固定電荷の補償、及び比誘電率の向上が可能であると共に、ゲート長を0.1μm以下とするMISトランジスタが得られることが確認された。
【0033】
また、Al_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)(Ln:希土類元素)を用いたゲート絶縁膜において、吸湿による固定電荷の発生を抑制ことが確認された。
【0034】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、シリコン単結晶基板を母材としたMIS型トランジスタ素子において、ゲート絶縁膜として、特定のA_(1-x)Ta_(x)O_(y)の組成(AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)とすることにより、膜中に発生する負の固定電荷を補償でき、高誘電率化が実現できると共に、ゲート長を0.1μm以下とするMISトランジスタを提供することができた。」

(3-4-4)以上より、発明の詳細な説明に記載されているのは、
「『ゲート絶縁膜にAl_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)(Ln:ランタノイド元素)を用いた場合に、膜中やSi界面での欠陥等に起因する負の固定電荷が発生して、フラットバンド電圧』、『MIS型トランジスタの閾値』が『シフト』し、『また、』『吸湿反応によって、膜中に固定電荷が発生し、同様にフラットバンド電圧がシフト』する」という課題および「さらに高誘電率化したゲート絶縁膜が必要となってくる」という課題を解決するために、「ゲート絶縁膜にAl_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)を用いた場合の膜中に発生する負の固定電荷を補償して、フラットバンド電圧のシフトを抑えた半導体装置とその製造法を提供する」ことを目的とし、「『ゲート絶縁膜」となる『Al-Ta-Oに対するTaの固溶量を元素比で0.3未満にする』」という構成を有し、「シリコン単結晶基板を母材としたMIS型トランジスタ素子において、ゲート絶縁膜として、特定のA_(1-x)Ta_(x)O_(y)の組成(AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)とすることにより、膜中に発生する負の固定電荷を補償でき、高誘電率化が実現できる」という効果を奏する「ゲート絶縁膜を有するMIS型トランジスタ素子とその製造方法」に関する発明であり、その実施の形態として発明の詳細な説明に記載されているものも、全て「『ゲート絶縁膜」となる『Al-Ta-Oに対するTaの固溶量を元素比で0.3未満にする』」構成を有している。
したがって、上記(3-4-2)において例示した、補正後の発明の技術的範囲に含まれる、「Al_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)からなる「ゲート絶縁膜」が、発明の詳細な説明に記載されたものであることは、明らかであるものの、「Sc_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)、「Y_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)及び「Ln_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)からなる「ゲート絶縁膜」は、特に、その構成、実施の形態からみて、発明の詳細な説明の記載と対応しないものであるから、そのような「ゲート絶縁膜」は発明の詳細な説明に記載されておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載から自明なものでもないことは明らかである。
したがって、補正後の発明は、発明の詳細な説明に記載されていない事項を技術的範囲に含むものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(3-4-5)なお、これに関連して、請求人は、平成18年11月24日付け補正された審判請求書の「【本願が特許されるべき理由】」における「D. 拒絶理由通知に理由3として記載した事項について」において、「・・・本願明細書に記載された具体的な実施例はより多くあることが好ましいものであることは当然ですが、本願請求項に記載の発明についてその技術的思想を裏付けるに足りる十分な記載があれば良いものであると思量致します。 即ち、本願発明のゲート絶縁膜として、A_(1-x)Ta_(x)O_(Y)の組成(AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上)とする特定の4種の金属酸化物のうちの少なくともその一つを示すことは最低限必要なものであるが、その実施例に記載の発明のみに本願発明が存在するのではなく、その技術的思想の創作が発明にあるものと思量する。・・・本願実施例として段落〔0033〕に『また、Al_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)(Ln:希土類元素)を用いたゲート絶縁膜において、吸湿による固定電荷の発生を抑制できることが確認された。』の記載がありますように、Al_(2)O_(3)以外のLn_(2)O_(3)についてもゲート絶縁膜としての実施例が示されていることが明らかです。・・・・特許法第36条・・・第6項第1号・・・に規定する要件を満たすものであると思量する。」と主張しているので、これについて検討する。
確かに、本願明細書の【0033】段落には、「また、Al_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)(Ln:希土類元素)を用いたゲート絶縁膜において、吸湿による固定電荷の発生を抑制ことが確認された。」と記載されており、また、【0011】段落には、「本発明のゲート絶縁膜を構成するIII族金属として、Al、Sc、Y及びLn(Ln:希土類元素)の1種以上が好ましく、より好ましくは1種であることにある。III族元素酸化物の中でも、Al_(2)O_(3)、Sc_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びLn_(2)O_(3)は、Si基板上で熱力学的に非常に安定である。よって、低誘電率なSiO_(2)の成長を抑制でき、Siと急峻な界面を形成することが可能である。」と記載されている。
しかしながら、Al、Sc、Y及びLnが同じIII族金属であるとしても、その物理的性質はそれぞれ異なるものであり、「Al_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)において、「膜中に発生する負の固定電荷を補償でき、高誘電率化が実現できる」という効果があるとしても、「Sc_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)、「Y_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)及び「Ln_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)について、実施例に、組成、比誘電率、フラット電圧のシフト値などの具体的な数値データが示されない以上、上記【0033】段落、【0011】段落の記載のみをもって、「Sc_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)、「Y_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)及び「Ln_(1-x)Ta_(x)O_(y)」(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0)の場合についても同じような効果を有するものと認めることはできない。
(3-4-6)以上検討したとおり、補正後の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3-4-7)なお、この点について付言すれば、請求人は、当審においてなされた審尋に対する回答書において、
「A. 本願審判請求人は、本願発明について、本願明細書に記載のAl-Ta-O膜以外のAlの他の元素のY及びLaについて本願明細書の実施例1と同様にそれぞれについて実施しました。従って、本願発明はゲート絶縁膜としてAl以外のY及びLaについても同様にそれらの酸化物を形成できることが明らかであり、Al以外のY及びLaについても同様に実施できるものですので、審査官殿が提案される請求項に限定されるものでなく、本願発明の請求項1?5に記載の通りのものであることが明らかです。
尚、Ln(ランタノイド)には、Laの他にCe,Pr,Nd等の14種の金属があるものですが、これらのLa以外の金属-Ta-O膜の例について現在その実施を行う予定がありませんので、後述する補正案(a)及び(b)のように提案するものです。
1. Al以外の実施例について
(1)Y及びLaの実施例について
(実施例3)
実施例1と同様に、p-typeで、(100)面方位、抵抗率10?15Ω・cmのSi単結晶基板を用い、図1(b)に示す素子分離領域102として深さ約0.4μmの溝を形成した後に、CVD法によりSiO2膜を全面成膜し、次にCMPで平坦化させた。
次に、CVD法により図1(c)に示すゲート絶縁膜103となるY-Ta-O膜を作製した。Y原料にはY(C_(11)H_(19)O_(2))_(3)を用いた。また、Ta原料にはTa(OC_(2)H_(5))_(5)原料を用いた。各原料は、50sccmでアルゴンキャリアガスによるバブリング法で基板に供給し、原料を分解するためのO2ガスも50sccmで基板に供給した。反応容器の圧力を0.1torr、基板温度を500℃、成膜時間を1?5分として、膜厚4?20nmの複合酸化物層を得た。ICPS分析によって、YとTaの元素を調べたところ、各々は元素比で、85%:15%であった。
次に、図1(d)に示すゲート電極104となる多結晶Si膜を300nm成膜し、更に図1(e)に示すゲート電極104を得、その後、nチャンネル領域にはリンを、pチャンネル領域にはボロンをそれぞれ注入し、800℃、10?30minの窒素雰囲気中熱処理して活性化した。図2(f)に示すように、ゲート電極104は多結晶Si膜を通常のホトリソグラフィー法を用いてパターニングし、セルフアラインにてRIEによりエッチングして形成し、同様にゲート絶縁膜103を加工した。次に、ゲート電極104をマスクして105ソース/ドレイン領域に周期率表の第5族の原子(P、As、Sb)或いは第3族の原子(B、Al、Ga、In)のイオン注入を行い、800℃、30secのAr中熱処理を施すことにより低抵抗の拡散領域を形成した。
次に、CVD法により図2(g)に示すSiO2保護膜106、図2(h)に示すソース/ドレイン105上にスルーホール、CVD法によりW-プラグ電極107、最後に図2(h)に示すAl配線108をW-プラグ107上に作製してMIS型トランジスタ素子を作製した。
実施例1と同様に、C-V特性よりEOT(SiO2換算膜厚)を算出した結果、4?20nm膜厚間で最小2乗法から求めた誘電率が約20及び物理膜厚がゼロの場合にEOTが約0.8nmであり、ゲート絶縁膜103とSi単結晶基板101界面に低誘電率なSiO2層の形成を薄く抑えることができた。
このように、Y_(2)O_(3)にTa_(2)O_(5)を固溶することによって、比誘電率を20まで向上すること、フラットバンド電圧のシフトが認められなくなったことから、Y_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償出来ることも分かった。更に、フラットバンド電圧のシフトを抑え、更なる微細化の要求を満足させる高誘電率のゲート絶縁膜が得られること、ゲート長を0.1μm以下とするMISトランジスタが得られることも分かった。
本実施例より、Y_(2)O_(3)にTa元素を固溶させることにより、Y_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償できること、比誘電率を向上させることができることを確認出来た。
(実施例4)
実施例1と同様に、p-typeで、(100)面方位、抵抗率10?15Ω・cmのSi単結晶基板を用い、図1(b)に示す素子分離領域102を深さ約0.4μmの溝を形成した後に、CVD法により、SiO_(2)膜を全面成膜し、次にCMPで平坦化させた。
次に、CVD法により図1(c)に示すゲート絶縁膜103となるLa-Ta-O膜を作製した。La原料にはLa(C_(11)H_(19)O_(2))_(3)、Ta原料にはTa(OC_(2)H_(5))_(5)原料を用い、各原料は、50sccmでアルゴンキャリアガスによるバブリング法で基板に供給し、原料を分解するためのO_(2)ガスも50sccmで基板に供給した。反応容器の圧力を0.1torrとし、基板温度を500℃、成膜時間を1?5分として、膜厚4?20nmの複合酸化物層を得た。ICPS分析によって、LaとTaの元素を調べたところ、各々は元素比で、90%:10%であった。
次に、図1(d)に示すゲート電極104となる多結晶Si膜を300nm成膜し、更に図1(e)に示すゲート電極104、その後、nチャンネル領域にはリンを、pチャンネル領域にはボロンをそれぞれ注入し、800℃、10?30minの窒素雰囲気中熱処理して活性化した。図2(f)に示すように、ゲート電極104は多結晶Si膜を通常のホトリソグラフィー法を用いてパターニングし、セルフアラインにてRIEによりエッチングして形成し、同様にゲート絶縁膜103を加工した。次にゲート電極104をマスクして105ソース/ドレイン領域に周期率表の第5族の原子(P、As、Sb)或いは第3族の原子(B、Al、Ga、In)のイオン注入を行い、800℃、30SecのAr中熱処理を施す事により低抵抗の拡散領域を形成した。
次に、CVD法により図2(g)に示すSiO_(2)保護膜106、図2(h)に示すソース/ドレイン105上にスルーホールを作製した後、CVD法によりW-プラグ電極107、最後に図2(h)に示すAl配線108をW-プラグ107上に作製してMIS型トランジスタ素子を作製した。
実施例1と同様に、C-V特性よりEOT(SiO_(2)換算膜厚)を算出した結果、4?20nm膜厚間で最小2乗法から求めた誘電率が約22、物理膜厚がゼロの場合にEOTが約0.5nmであり、ゲート絶縁膜103とSi単結晶基板101界面に低誘電率なSiO_(2)層の形成を薄く抑えることができ、C-V特性において、フラットバンド電圧のシフトは0.02Vであった。
このように、La_(2)O_(3)にTa_(2)O_(5)を固溶することによって、比誘電率を22まで向上すること、フラットバンド電圧のシフトが認められなくなったことからLa_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償出来ること、更に、フラットバンド電圧のシフトを抑え、更なる微細化の要求を満足させる高誘電率のゲート絶縁膜が得られること、ゲート長を0.1μm以下とするMISトランジスタが得られることも分かった。
本実施例より、La_(2)O_(3)にTa元素を固溶させることにより、La_(2)O_(3)膜中に発生する負の固定電荷を補償でき、比誘電率を向上することを確認出来た。
(2)上述の実施例以外に実施例5として、Sc-Ta-O膜の例について現在その実施の準備を行っているものですが、その膜形成のための原料の調達に時間が掛かり、その実施が出来ない状態にあるものです。しかし、その原料の調達ができればすぐに実施できるものです。
(3)Al、Sc、Y及びLaの2種又は3種とTaとの組み合わせの実施例について
Al、Sc、Y及びLaの2種又は3種とTaとの組み合わせとして、実施例としての記載がないものですが、実施例1、3及び4に記載のAl、Sc、Y、La及びTaのそれらの原料を用いることによって当業者において容易に実施できるものであると思量致します。」と主張している。

しかしながら、回答書に記載されたような「Y-Ta-O膜」及び「La-Ta-O膜」に関する実施例は、本願出願の前にすでになされていたものかどうかが明らかでなく、仮に出願の前になされていたものであるとしても、本願明細書に具体的な記載がなされていない以上、「Y-Ta-O膜」及び「La-Ta-O膜」からなる「ゲート絶縁膜」は発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
なお、「Sc-Ta-O膜」からなる「ゲート絶縁膜」については、上記回答書において「その実施が出来ない状態にあるものです。」と記載されていることから、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないことは明らかである。

(3-4-8)独立特許要件についてのまとめ
以上、検討したとおり、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、本願の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(4)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成18年11月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成18年8月15日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
シリコン単結晶基板上に形成された素子分離絶縁膜、及びゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記素子分離絶縁膜と前記ゲート絶縁膜との間の前記シリコン単結晶基板の表面に、前記ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース及びドレイン領域とを有する半導体装置であって、前記ゲート絶縁膜は、酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成された、A_(1-x)Ta_(x)O_(y)(x=0.01?0.3未満、y=1.5?3.0、AはIII族金属の1種以上)の組成を有する層とからなることを特徴とする半導体装置。」

4.判断
上記2.(2)において検討したとおり、補正後の発明は、本願発明を限定的に減縮したものであるところ、上記2.(3)において検討したように、「AはAl、Sc、Y及びLnの1種以上」と限定する補正後の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではない以上、「AはIII族金属の1種以上」と発明の技術範囲をより広く限定する本願発明も、当然に発明の詳細な説明に記載されたものではないと認められ、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-15 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-02 
出願番号 特願2001-197841(P2001-197841)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河口 雅英  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 加藤 俊哉
小野田 誠
発明の名称 半導体装置とその製造方法  
代理人 高田 幸彦  

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