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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1208894
審判番号 不服2008-26533  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2009-12-17 
事件の表示 特願2006-127061「帯電ローラおよびこれを備えた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開、特開2007-298776〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年4月28日の出願であって、平成20年5月21日付けで通知した拒絶理由に対して、同年7月22日付けで手続補正書が提出されたが、同年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月16日付けで審判請求がなされるとともに、同年11月6日付けで手続補正書が提出され、その後、当審の審尋に対する回答書が平成21年7月6日付けで提出されたもので、「帯電ローラおよびこれを備えた画像形成装置」関するものと認められる。

ここで、平成20年11月6日付けの手続補正により、補正前の請求項1が削除され、請求項2?6が、それぞれ請求項1?5に繰り上がった。また、補正前の請求項3(補正後の請求項2)には、補正前の請求項2の内容が付加されたが、これは不明りょうな記載の釈明程度のものと一応認めることとする。したがって、平成20年11月6日付けの手続補正は、適法なものと認める。


第2 原査定の拒絶の理由
一方、原査定の拒絶の理由のうち、理由2(記載不備(サポート要件))と理由3(進歩性欠如)の概要は、次のとおりである。

1.記載不備(サポート要件)
(1)平成20年5月21日付け拒絶理由通知
『2.理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1には、「上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量である第1の添加量が、当該第1の添加量の上記電子導電剤のみを上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量であり、・・・」と記載されている。
発明の詳細な説明には、段落0008に、「電子導電剤は、帯電ローラの使用期間に関らず、安定して導電性を付与できる利点があるものの、ミクロな視点から見ると、カーボンの存在部分に電流が集中しやすいため、帯電ローラから感光体への電流のリークが発生しやすいという欠点がある。」との記載がある。また、段落0014に、「電子導電剤の添加量は、電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように、従来よりも制限されているので、表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる」との記載がある。そして、実施例では、電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上の実施例1?5及び比較例4について、リークの評価が比較例3(7.32×10^(5)Ω・cm)のものに比べて良好であることを示している。
しかし、ゴム自体もある程度導電性を有し、種類によって導電性の程度が異なることから、カーボンの存在部分に電流が集中しやすいために、帯電ローラから感光体へ電流がリークする現象を、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率」で表現するのには無理があるものと考えられる。例えば、ゴム抵抗が非常に高いフッ素ゴムのようなものを考えたときは、大量の電子導電剤を添加しないと電気抵抗は1.46×10^(6)Ω・cmに到達しないが、ゴム抵抗の低いエピクロルヒドリンゴムのようなものを考えたときには、少量の電子導電剤の添加により1.46×10^(6)Ω・cmに到達することになり、これらを同列に考えることはできない。また、請求項3では、ゴム基材をエピクロルヒドリンゴムとすることを特定するが、同じエピクロルヒドリンゴムであっても、低抵抗化に寄与するエチレンオキサイド成分の構成比により、ゴムの抵抗は変化する。
実施例に実質的に開示されているのは、ある抵抗を有するゴム基材を用いた場合においては、1.46×10^(6)Ω・cmの前後で、リークの有無に差異が見られたということであって、ゴム基材の抵抗を特定しない請求項1から請求項7に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載した内容を、拡張ないし一般化することはできない。
よって、請求項1から請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。』

(2)平成20年9月5日付け拒絶査定
備考欄には、「拒絶査定の対象:請求項1から請求項6に係る発明」と明記されたうえで、「特に請求項1に係る発明について言及する。」として、次のコメントが記載されている。
『・理由2(第36条第6項第1号)について
先の拒絶理由通知書において、電子導電剤の配合量に強い相関を有するであろうリーク現象を、ゴム基材に電子導電剤のみを添加した場合のゴム基材の体積抵抗率のみで規定することは不可能であり、ゴム基材自体の体積抵抗率も考慮すべき旨の指摘をした。
出願人はこの指摘に対して、補正後の請求項1においてゴム基材がエピクロルヒドリンである点を特定したうえで、エピクロルヒドリンゴムの体積固有抵抗は、一般に10^(8)?10^(10)Ω・cmであり、その体積抵抗は1.46×10^(6)Ω・cmよりも高く、かつ1.46×10^(6)Ω・cmとの差は10^(2)?10^(4)Ω・cm程度なので、電子導電剤の付与によって(抵抗率を?)適切に調整できると述べているが、上記の指摘に対する回答にはなっていない。
ところで、電子写真の分野における導電性ロール用のエピクロルヒドリンゴム自体の体積抵抗率を調べてみたところ、10^(6)?10^(9)Ω・cm(特開2005-43703号公報、請求項3)、10^(7)?10^(9)Ω・cm(特開2005-292454号公報、段落0011、0076)、10^(7)?10^(9)Ω・cm(特開2004-45512号公報、段落0004)のものが記載されていた。電子写真の分野における導電性ロール用のエピクロルヒドリンゴムとしては、少なくとも10^(6)Ω・cm?10^(9)Ω・cmのものが用いられているといえる。例えば、体積抵抗率が1.5×10^(6)Ω・cmのエピクロルヒドリンをゴム基材として用いた場合と、10^(9)Ω・cmのエピクロルヒドリンをゴム基材として用いた場合とでは、電子導電剤配合後の体積抵抗率が同じ「1.46×10^(6)Ω・cm」であったとしても、後者では相当量の電子導電剤が配合されるのに対して、前者では電子導電剤の配合量がほぼ0である。よって、電子導電剤の配合量に強い相関を有するであろうリーク現象を、ゴム基材に電子導電剤のみを添加した場合のゴム基材の体積抵抗率のみで規定することはやはり不可能である。』

2.進歩性欠如
(1)平成20年5月21日付け拒絶理由通知
『3.理由3
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1から請求項7
・引用文献1から引用文献3
・備考
(当審注:省略する)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2004-191960号公報
2.特開2000-276001号公報
3.特開平5-66698号公報 』

(2)平成20年9月5日付け拒絶査定
備考欄には、「拒絶査定の対象:請求項1から請求項6に係る発明」と明記されたうえで、「特に請求項1に係る発明について言及する。」として、次のコメントが記載されている。
『・理由3(第29条第2項)について
出願人は意見書において、「引用文献1では、感光体にφ0.1mmのキズをつけた場合の局所的なリーク(ピンホールリーク)の検証しか行われていません(〔0071〕?〔0075〕段落)。このため、引用文献1の技術では、帯電ローラ表面の硬化処理の部分的な欠失や電子導電剤の凝集に起因する部分的なリークを評価することができません。このため、引用文献1の技術では上記効果(A)を得ることができません。」と述べているが、引用文献1はリークの防止のために電子導電剤による導電性の付与を最低限とするという点で、本願と同一の技術手段を用いるものであり、当業者であれば引用文献1の記載に基づいて本願発明と同等の効果を発揮できる。
また、イオン導電剤添加後のゴム基材の体積抵抗率の上限を規定したことの技術的意義に関して、当初明細書の段落0014には、抵抗層の内側部分の抵抗値が、硬化処理された表面の抵抗値を上回ることがないから、帯電ローラの抵抗値がライフを通じて安定する旨の記載があるが、請求項1においては硬化処理された表面の抵抗値についての言及がなく、抵抗層の(内側部分の)抵抗値のみを限定することの技術的意義は不明である。よって、引用文献1に記載された発明において、導電性弾性層の抵抗率は当業者が適宜決めればよい程度のことである。』


第3 当審の判断
1.本願の請求項1の記載
平成20年11月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
円柱状の導電性支持体上に抵抗層が形成されてなる帯電ローラであって、
上記抵抗層は、導電剤が添加されていないゴム基材に電子導電剤およびイオン導電剤を添加して成形した導電剤含有ゴム層の表面に硬化処理を施したものであり、
上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量である第1の添加量が、当該第1の添加量の上記電子導電剤のみを上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量であり、
上記ゴム基材への上記イオン導電剤の添加量である第2の添加量が、上記第1の添加量の上記電子導電剤および上記第2の添加量の上記イオン導電剤を上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となる量であり、
上記ゴム基材はエピクロルヒドリンゴムであり、
上記体積抵抗率は、上記帯電ローラを円筒形状の導電性基体に押し当て、上記導電性基体を回転させることにより上記帯電ローラを上記導電性基体に従動回転させた状態で上記導電性支持体と上記導電性基体との間に直流定電圧を印加したときに上記導電性基体から上記導電性支持体に流れる電流を測定し、測定された電流の電流値と上記直流定電圧の電圧値とに基づいて抵抗値を算出し、算出した抵抗値に上記抵抗層の長手方向の長さと上記帯電ローラにおける上記導電性基体との接触部の円周方向についての長さとを乗算し、この乗算結果を上記抵抗層の厚さで除算した値であり、
上記硬化処理は、上記導電剤含有ゴム層の表面にイソシアネート化合物を含む溶液を塗布して加熱することによって施されていることを特徴とする帯電ローラ。」

2.記載不備(サポート要件)
そこで、本願の請求項1について、最初に、サポート要件を満たしているかどうか検討する。

(1)まず、本願は、帯電ローラの抵抗層が、エピクロルヒドリンゴムからなるゴム基材に電子導電剤およびイオン導電剤を添加して成形した導電剤含有ゴム層の表面に硬化処理を施したものであり、
本願の明細書には次のような課題を解決した旨の記載がある。なお、下線は当審で付した。

「【0007】
しかしながら、従来の帯電ローラは、帯電ローラから感光体への電流のリークが生じやすい、あるいは、帯電ローラの抵抗値がライフを通じて安定しない、といった問題があった。
【0008】
帯電ローラのゴム部材に添加される上記の導電剤としては、大別して2種類あり、一方はカーボンブラック又は金属酸化物などの電子導電剤であり、他方はイオン導電剤である。カーボンブラックなどの電子導電剤は、導電性のカーボンなどがゴム部材に分散して固定されることにより、導電性をゴム部材に付与するものである。このような電子導電剤は、帯電ローラの使用期間に関らず、安定して導電性を付与できる利点があるものの、ミクロな視点から見ると、カーボンの存在部分に電流が集中しやすいため、帯電ローラから感光体への電流のリークが発生しやすいという欠点がある。
【0009】
特に、感光体の表面に導電性のステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を塗布する場合、この潤滑剤の作用により、電流のリークは一層顕著になる。電流のリークは、ゴム部材に対して表面処理を行うことによってある程度は防止できるものの、帯電ローラの使用とともに表面処理が部分的に無くなる場合が多く、確実に防止することは困難である。
【0010】
また、イオン導電剤は、成分に含まれるイオンによってゴム部材に対して均一に帯電性を付与するため、電流のリークは発生しにくいものの、帯電ローラの使用に伴ってイオンに偏りが生じるため、抵抗値が変化するという欠点がある。このイオン導電剤の偏りは、帯電ローラへの印加電圧として直流定電圧を用いる場合に特に顕著になる。このようなゴム部材内部の抵抗値の変化によって、ゴム部材内部の抵抗値が表層部分の抵抗値を上回ると、帯電ローラ全体の抵抗値が変化してしまう。
【0011】
従来の帯電ローラのゴム部材には、電子導電剤およびイオン導電剤のうちの一方しか用いられていなかったり、双方が用いられていてもそのバランスが悪かったりしたため、上述した何れかの問題が発生していた。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ライフを通じて感光体などの像担持体への電流のリークを防止でき、かつ、抵抗値がライフを通じて安定している帯電ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る帯電ローラは、導電性支持体上に抵抗層が形成されてなる帯電ローラであって、上記抵抗層は、導電剤が添加されていないゴム基材に電子導電剤およびイオン導電剤を添加して成形した導電剤添加ゴム層の表面に硬化処理を施したものであり、上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量である第1の添加量が、当該第1の添加量の上記電子導電剤のみを上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量であり、上記ゴム基材への上記イオン導電剤の添加量である第2の添加量が、上記第1の添加量の上記電子導電剤および上記第2の添加量のイオン導電剤を上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となる量であることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、電子導電剤の添加量は、電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように、従来よりも制限されているので、表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる。一方、イオン導電剤の添加量は、上記の量の電子導電剤に加えてイオン導電剤をゴム基材に添加した際のゴム基材の体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となるように、従来よりも増量されているため、表面の硬化処理が行われた後の抵抗層では、内側部分の抵抗値が、硬化処理された表面の抵抗値よりも充分に小さい値となる。そのため、帯電ローラを直流定電圧下で使用した結果、イオン導電剤に少々偏りが生じたとしても、抵抗層の内部の抵抗値が表面の抵抗値を上回ることがない。従って、帯電ローラ全体としての抵抗値がライフを通じて安定する。」

本願の明細書の上記記載によれば、「表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる」ためには、電子導電剤の添加量を制限しなければならないが、その制限された、電子導電剤の添加量というのは、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように」した量であるとしている。
これが意味することは、導電剤が添加されていないゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムの体積抵抗率は、10^(7)?10^(9)Ω・cm程度である(なお、10^(6)のものが存在する可能性も否定はできないが、ここではそれほど問題にならない。)ので、10^(7)?10^(9)Ω・cm程度から「1.46×10^(6)Ω・cm以上」になるような、電子導電剤を添加するということである。そういうことは、例えば、体積抵抗率が「10^(9)Ω・cm程度」から「1.46×10^(6)Ω・cm」へと、約10^(3)Ω・cm減少するほどにまで、電子導電剤を添加しても、「表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる」ということである。
確かに、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率」を高くすれば(下げ過ぎないようにすれば)、「表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる」ことはあり得ることである。
しかし、電流のリークを防止することができる「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率」の下限が、電子導電剤の絶対量としての添加量とは関係なく、常に一定値であるということ、つまり、電子導電剤の絶対量としての添加量が異なっても、電流のリークを防止することができる「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率」の下限は、不変(一定)であるということまでは、必ずしもいえないというべきである。
上記したように、ゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムとして、体積抵抗率が10^(9)Ω・cm程度と高いものを使用する場合には、かなりの量の電子導電剤を添加することになるのであり、電子導電剤の添加量が多いということは、均一に分散していたとしても、電子導電剤の密度が高いのであるから、近接する電子導電剤相互の関係や、絶対的な添加量により、電流のリークを促進する可能性を否定することができないものである。
確かに、1つの電子導電剤が孤立していた場合を想定すると、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率」だけで決定されるかもしれないが、多数の電子導電剤が近接配置されている場合には、1つの電子導電剤が孤立していた場合(これは添加量が非常に少ない場合であるが、本願の請求項1の規定は「1.46×10^(6)Ω・cm以上」というのであるから、上限がなく、当該場合を許容している。)とは異なる挙動が生じるものと当業者であれば考えるのが普通である(電子導電剤の多寡にかかわらず有効数字を含め「1.46×10^(6)Ω・cm以上」で一般化できると考えることはない。)。そして、近接する電子導電剤間の距離や、全体としての添加量の多さが、電流のリークを促進する可能性を否定できないのである。
この点について、そのような可能性がないことを、本願明細書では何ら説明されていない。
また、本願の請求項1の「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように」した電子導電剤の添加量は、理論ではなく、実験によって確認されたものであるということができるから、その添加量の意義については、本願の実施例、比較例を検討することが適切である。
しかし、本願の実施例、比較例をみても、導電剤を添加する前の、ゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムの体積抵抗率については、何ら記載がなく、示唆もない。したがって、本願の実施例、比較例では、ゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムとして、特定の体積抵抗率をものを使用したことは確かであるが、その体積抵抗率は不明ということである。
電流のリークについては、上記のような添加量の絶対量が影響する可能性を否定できないのであるから、実施例においては、体積抵抗率について、電子導電剤の添加後の数値だけでなく、添加前の数値を示すべきである。添加前の数値を10^(7)?10^(9)Ω・cm程度の範囲で変化させながら、添加後の数値(体積抵抗率や絶対的な添加量)と電流のリークとの関係を詳細に実証すべきである。しかしそのような実証は何らなされていない。
つまり、実施例では、ゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムとして、特定の体積抵抗率(しかもその値は不明である)のものを使用して実験を行って、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように」した電子導電剤の添加量であれば、「表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる」ことが確認されたに留まるものである。そして、ゴム基材であるエピクロルヒドリンゴムが取り得る体積抵抗率10^(7)?10^(9)Ω・cm程度の範囲の全体に渡り、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように」した電子導電剤の添加量が有効であるかどうかは確認されていないのである。
(2)これに対して、請求項1は、電子導電剤を添加する前のゴム基材(エピクロルヒドリンゴム)の体積抵抗率は何ら規定せず、「電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように」した電子導電剤の添加量を規定するのみである。

(3)以上のことからすると、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容(すなわち、電子導電剤を添加する前のゴム基材(エピクロルヒドリンゴム)の特定の体積抵抗率について、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止できる効果が確認された事項)を、請求項1に係る発明の範囲(電子導電剤を添加する前のゴム基材(エピクロルヒドリンゴム)の体積抵抗率を何ら規定しない)まで、拡張ないし一般化することはできないものである。

(4)まとめ
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、請求項1に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしておらず、原査定の拒絶の理由は依然解消していない。


3.進歩性欠如
本願の請求項1の記載は、上記2.のとおり不備があるものであるが、ここでは、一応その記載のまま認定して(以下、「本願発明1」という。)、以下に進歩性の判断も示しておく。

(1)引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開2004-191960号公報(原査定の理由の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金上にエピクロルヒドリン系ゴム基材からなる導電性弾性層を具備する導電性ロールにおいて、前記導電性弾性層は、前記エピクロルヒドリン系ゴム基材に液状ゴムと共にカーボンブラックを配合してなり、且つ少なくともイソシアネート成分を含有する表面処理液で表面処理された表面処理層を具備することを特徴とする導電性ロール。
【請求項2】?【請求項5】(略)
【請求項6】
請求項1?5の何れかにおいて、前記弾性層に含有される前記カーボンブラックの含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、当該カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲であることを特徴とする導電性ロール。」

(1b)「【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンタ、またはトナージェット式複写機及びプリンタなどの画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与するために用いられる導電性ロールに関し、帯電ロール、転写ロール、現像ロールなどに用いて好適なものである。」

(1c)「【0003】
例えば、抵抗値を最適化するために、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)やエピクロルヒドリンゴム(ECO)等の有極性ゴムを用いることにより導電性ゴム組成物の抵抗ムラを軽減するもの(特許文献1参照)、さらにこのような組み合わせにおいて、それぞれの特性及び配合割合を規定して、抵抗ムラが小さく、しかも低硬度で耐オゾン性にも優れ、加工性にも優れたもの(特許文献2参照)などが提案されている。また、イオン導電性ゴムに所定量のファーネスブラックからなるカーボンブラックを添加したゴム組成物が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上述した技術では、ある程度の抵抗値の最適化は可能であるが、連続通電によってイオン導電物質が局在化して抵抗が上昇してしまうという問題がある。また、カーボンブラックを併用する場合には、多量に入れると高抵抗化の問題は解消されるが、小さな傷などにより容易にリークが発生してしまうという問題があり、一方、少なすぎると、カーボンブラックが導電に寄与しないばかりか、イオン導電物質の移動をかえって阻害してしまうので、配合量の調整が極めて難しいという問題がある。
【0005】?【0010】(略)
【0011】
ところが、低電圧で使用でき且つリークし難い帯電ロールを目指し、比較的低抵抗のエピクロルヒドリン系ゴムに最低限のカーボンを添化した系において、上述した表面処理を採用すると、表面層の抵抗が高すぎて、結局、低電圧では使用できるものにはならないという問題がある。
【0012】(中略)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような事情に鑑み、低湿環境下での抵抗上昇の問題がなく、汚染の問題もなく、低電圧で使用でき、リークの問題もない導電性ロールを提供することを課題とする。」

(1d)「【0024】
本発明の導電性ロールは、芯金上にエピクロルヒドリン系ゴム基材からなる導電性弾性層を具備する導電性ロールにおいて、前記導電性弾性層は、前記エピクロルヒドリン系ゴム基材に液状ゴムと共にカーボンブラックを配合してなり、且つ少なくともイソシアネート成分を含有する表面処理液で表面処理された表面処理層を具備するので、低湿環境下の連続使用においても抵抗上昇を抑えることができるものであり、且つリークが生じ難いものである。すなわち、比較的低抵抗のゴム基材であるエピクロルヒドリン系ゴム基材にカーボンブラックを適度に配合してカーボンブラックによる最低限の電子導電性を付与することにより、リークが生じ難いが低湿環境下での連続使用によっても抵抗が上昇しない状態を抑え、且つイソシアネートを含有する表面処理液による表面処理による表面の高抵抗化を液状ゴムの配合により抑えることにより、低電圧で使用でき且つリークし難い帯電ロールとして好適な導電性ロールを提供できるものである。
【0025】
本発明の導電性ロールの導電性弾性層を形成するエピクロルヒドリン系ゴム基材としては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル共重合体、及びエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体から選択される一種又は二種以上のブレンドを挙げることができる。
【0026】
また、本発明では、エピクロルヒドリン系ゴム基材にカーボンブラックを配合する。ここで用いることができるカーボンブラックは特に制限されず、例えば、導電性カーボンブラック、カーボングラファイト、カーボンナノチューブなどを用いることができ、弾性層が所定の抵抗値を有するように調整するために用いることもできるが、抵抗安定性のためには、抵抗値を著しく低下させない程度に用いるのが好ましい。すなわち、本発明の弾性層に含有されるカーボンブラックの含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、当該カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲であるのが好ましい。これは抵抗を下げすぎてリークが発生し易い状態を形成するのを避けるためである。また、このようにカーボンブラックによる電子導電性の付与により、特に低湿環境下の連続使用による抵抗変動を防止することができる。
【0027】
さらに、本発明では、エピクロルヒドリン系ゴム基材は、基本的にイオン導電性を有しているが、カーボンブラックと共にさらにイオン性導電剤を添化して導電性弾性層としてもよい。このようなイオン性導電剤としては、過塩素酸リチウム、4級アンモニウム塩、三フッ化酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。また、イオン性導電剤の添加量は、例えば、ゴム基材に対して、0.01?5重量%程度である。」

(1e)「【0035】
このように共架橋して得られる導電性弾性層は、1×10^(6)?1×10^(9)Ω・cm、好ましくは、5×10^(6)?1×10^(8)Ω・cm程度の体積抵抗率を有するのが望ましい。」

(1f)「【0038】
本発明の導電性ロールは、導電性弾性層の表面に一体的に表面処理層が設けられる。かかる表面処理層はイソシアネート化合物を主体として有機溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させて硬化させたものであるので、表面処理層は表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。従って、有機感光体に接触しても汚染することはなく、電気特性の環境依存性が小さく、トナー成分の耐フィルミング性に優れた帯電部材として好適な導電性ロールを提供することができる。」

(1g)「【0057】
また、表面処理は、酢酸エチル100重量部、イソシアネート化合物(MD1;大日本インキ社製)20重量部、アセチレンブラック(電気化学社製)4重量部、アクリルシリコーンポリマー(モデイバーFS700;日本油脂社製)2重量部をボールミルで3時間分散混合した表面処理液を用い、この表面処理溶液を23℃に保ったまま、成形したロールを未研磨状態で10秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱して行い、各導電性ロールを得た。各導電性ロールの表面粗さRzは1.0?2.0μmであった。」

(1h)「【0068】
(試験例2):電気抵抗値
上記各実施例および比較例の導電性ロールについて、LL:10℃、30%RH;NN:23℃、55%RHの各環境下に保持したときのロールの電気抵抗値を測定した。なお、導電性ロールの抵抗値は図3に示すような方法で測定した。すなわち、導電性ロールをSUS304板からなる電極部材21上に載置し、芯金1の両端に500g重の荷重をかけた状態で、芯金1と電極部材21との間の抵抗値をULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。なお、このときの印加電圧は100Vであった。この結果は表1に示す。」
また、【表1】をみると、体積抵抗値の単位は「Ω・cm」である。

これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「芯金上にエピクロルヒドリン系ゴム基材からなる導電性弾性層を具備する導電性ロールにおいて、前記導電性弾性層は、前記エピクロルヒドリン系ゴム基材に液状ゴムと共にカーボンブラックを配合してなり、且つ少なくともイソシアネート成分を含有する表面処理液を含浸させて硬化させて表面処理された表面処理層を具備する帯電ロールであって、
前記導電性弾性層に含有される前記カーボンブラックの含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、当該カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲である、
帯電ロール。」

(2)対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「芯金」「エピクロルヒドリン系ゴム基材」「導電性弾性層」「カーボンブラック」「帯電ロール」は、それぞれ、本願発明1の「導電性支持体」「上記ゴム基材(当審注:導電剤が添加されていないゴム基材)はエピクロルヒドリンゴムであり」「抵抗層」「電子導電剤」「帯電ローラ」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「少なくともイソシアネート成分を含有する表面処理液を含浸させて硬化させて表面処理された表面処理層」は、その処理において、(1g)に記載されるように、加熱するので、本願発明1の「導電剤含有ゴム層の表面に硬化処理を施したもの」で「上記硬化処理は、上記導電剤含有ゴム層の表面にイソシアネート化合物を含む溶液を塗布して加熱することによって施されている」に実質的に相当する。

刊行物1記載の発明の「前記導電性弾性層に含有される前記カーボンブラックの含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、当該カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲である」と、
本願発明1の「上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量である第1の添加量が、当該第1の添加量の上記電子導電剤のみを上記ゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量であり」とは、
「上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量が所定の量であり」の点では共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

「一致点」
「円柱状の導電性支持体上に抵抗層が形成されてなる帯電ローラであって、上記抵抗層は、導電剤が添加されていないゴム基材に電子導電剤を添加して成形した導電剤含有ゴム層の表面に硬化処理を施したものであり、
上記ゴム基材への上記電子導電剤の添加量が所定の量であり、
上記ゴム基材はエピクロルヒドリンゴムであり、
上記硬化処理は、上記導電剤含有ゴム層の表面にイソシアネート化合物を含む溶液を塗布して加熱することによって施されている、帯電ローラ。」

[相違点1]

本願発明1は、ゴム基材への電子導電剤の添加量が、電子導電剤のみをゴム基材に添加したときの体積抵抗率(特定の測定方法による)が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量であるのに対して、
刊行物1記載の発明は、導電性弾性層に含有されるカーボンブラック(電子導電剤)の含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲である点。

[相違点2]
本願発明1は、電子導電剤およびイオン導電剤を添加しており、ゴム基材へのイオン導電剤の添加量である第2の添加量が、第1の添加量の電子導電剤および第2の添加量のイオン導電剤をゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となる量であるのに対し、
刊行物1記載の発明は、イオン導電剤を添加していない点。

そこで、相違点について検討する。

(相違点1について)
まず、刊行物1記載の発明における体積抵抗値は、体積抵抗率を意味していることは明らかである。そして、体積抵抗率の測定方法は、本願発明1と刊行物1((1h)参照)とで異なる点もあるが、測定値にそれほどの差異はないというべきである。
また、一般に、エピクロルヒドリンゴムの体積抵抗率は、10^(7)?10^(9)Ω・cm程度である。
そうすると、刊行物1記載の発明において、「弾性層に含有されるカーボンブラック(電子導電剤)の含有量は、100V印加時の体積抵抗値が、カーボンブラック未添加のときの体積抵抗値と比較して1/10以上となる範囲」としては、カーボンブラック(電子導電剤)を添加した後の体積抵抗率が、10^(7)?10^(9)Ω・cm程度の1/10以上、つまり、10^(6)?10^(8)Ω・cm程度以上となる。これは、本願発明1の1.46×10^(6)Ω・cm以上と大部分が重なるものであり、また、例えば、刊行物1記載の発明で、10^(8)Ω・cmのエピクロルヒドリンゴムを使用したときには、10^(7)Ω・cm以上となり、本願発明1に含まれるものである。
さらに、上記「2.記載不備(サポート要件)」でみたように、本願発明1で規定する「1.46×10^(6)Ω・cm以上」は、エピクロルヒドリンゴムの体積抵抗率に関係なく、意味ある数値限定とはいえない。
これらを勘案すると、刊行物1記載の発明において、カーボンブラック(電子導電剤)を添加した後の体積抵抗率について、本願発明1の1.46×10^(6)Ω・cm以上というような下限を設定することは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(相違点2について)
まず、本願発明1において、電子導電剤およびイオン導電剤をゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となるようにすることの技術的意味を確認すると、本願の明細書には次の記載がある。

「【0014】上記構成によれば、電子導電剤の添加量は、電子導電剤のみが添加された際のゴム基材の体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となるように、従来よりも制限されているので、表面の硬化処理が部分的に欠失しても、帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができる。一方、イオン導電剤の添加量は、上記の量の電子導電剤に加えてイオン導電剤をゴム基材に添加した際のゴム基材の体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となるように、従来よりも増量されているため、表面の硬化処理が行われた後の抵抗層では、内側部分の抵抗値が、硬化処理された表面の抵抗値よりも充分に小さい値となる。そのため、帯電ローラを直流定電圧下で使用した結果、イオン導電剤に少々偏りが生じたとしても、抵抗層の内部の抵抗値が表面の抵抗値を上回ることがない。従って、帯電ローラ全体としての抵抗値がライフを通じて安定する。」

この明細書の説明は、本願発明1のように、(a)電子導電剤の添加量を、電子導電剤のみをゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.46×10^(6)Ω・cm以上となる量とし、(b)さらに、イオン導電剤の添加量を、電子導電剤およびイオン導電剤をゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となる量とすることで、「帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができ」かつ「帯電ローラを直流定電圧下で使用した結果、イオン導電剤に少々偏りが生じたとしても、抵抗層の内部の抵抗値が表面の抵抗値を上回ることがない」というものである。
明細書の上記記載は、イオン導電剤の添加量は従来よりも増量されているという認識であるが、上記条件(a)かつ(b)の条件を満たすものとして、例えば、条件(a)を満たす1.94×10^(6)Ω・cmは、ごく微量のイオン導電剤を添加するだけで、条件(b)を満たすことになるから、明細書でいう、イオン導電剤の添加量は従来よりも増量されているということには到底ならないものである。
また、本願発明1では、条件(a)には上限がなく、条件(b)には下限がないところ、実施例では上下限がある範囲で作用効果が確認されているに過ぎないから、本願発明1は、「帯電ローラから像担持体への電流のリークを防止することができ」かつ「抵抗層の内部の抵抗値が表面の抵抗値を上回ることがない」という作用効果が確認されていない広範な範囲のものを含むものである。
さらに、「抵抗層の内部の抵抗値が表面の抵抗値を上回ることがない」という効果は、表面の抵抗値、すなわち、本願発明1の硬化処理を施したゴム層表面の抵抗値が与えられて、初めて奏する効果であるのに、本願発明1では、硬化処理を施したゴム層表面の抵抗値が規定されていない。
したがって、本願発明1の条件(a)(b)の技術的意義は不明確であると言わなければならない。

他方、刊行物1には、「カーボンブラックと共にさらにイオン性導電剤を添化(当審注:添加の誤記である。)して導電性弾性層としてもよい」という記載もある(1d)。

そうすると、刊行物1記載の発明において、カーボンブラック(電子導電剤)とともにイオン性導電剤を併用して、本願発明1の条件(a)を満たすとともに、条件(b)、すなわち、イオン導電剤の添加量を、電子導電剤およびイオン導電剤をゴム基材に添加したときの体積抵抗率が1.93×10^(6)Ω・cm以下となる量とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことと言わざるを得ない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、請求項1に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-14 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-04 
出願番号 特願2006-127061(P2006-127061)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 悠  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 赤木 啓二
大森 伸一
発明の名称 帯電ローラおよびこれを備えた画像形成装置  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  

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