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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B27B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  B27B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B27B
管理番号 1209180
審判番号 無効2008-800123  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-07-01 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3553514号発明「廃材用切断装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成13年 3月12日 出願(特願2001-67901号)
平成15年 6月30日 拒絶理由
平成15年 9月 8日 意見書・補正書提出
平成15年11月27日 拒絶査定
平成16年 1月 7日 審判請求(不服2004-478号)
平成16年 1月29日 補正書提出
平成16年 4月16日 特許査定
平成16年 5月14日 設定登録
平成16年 8月11日 特許公報発行(特許第3553514号)
平成20年 7月 1日 無効審判請求(無効2008-800123号)
平成20年10月 7日 被請求人、答弁書を提出
平成21年 3月 2日 請求人、弁駁書を提出

第2.本件発明
本件特許第3553514号に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、次のとおりである(以下、「本件特許発明」という。)。
「ホルダ-1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され、該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され、該可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され、可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され、上記受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に、該固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持部7が形成されてなることを特徴とする、廃材用切断装置。」

第3.請求人が主張する無効理由の概要
請求人は審判請求書において、本件特許発明は、以下の無効理由1ないし2により無効とすべきものである旨主張した。

(3-1)無効理由1:特許法第17条の2第3項違反について
願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0005】には、「挽き切り状に切断せしめる」ことが明記され、また、当初明細書の段落【0008】には、「刃体6により被切断物Aを挽き切り状に切断せしめる」ことが明記され、本件特許発明の特許公報では、切断に押し切りを含めて拡張解釈する余地を残しているので、本件特許発明の明細書の段落【0006】の「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが出来る」こと、及び段落【0008】の「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ切断せしめる」ことは、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
また、当初明細書の段落【0008】には、「刃体6により被切断物Aを挽き切り状に切断せしめる」ことが明記され、本件特許発明の特許公報では、切断に押し切りを含めて拡張解釈する余地を残しているので、本件特許発明の明細書の段落【0008】の「被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により切断せしめる」ことは、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3-2)無効理由2:特許法第36条第4項、及び第6項第1号ないし第3号違反について
a 特許法第36条第4項違反について
本件特許明細書の段落【0006】に「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが出来る」旨が、また、本件特許明細書の段落【0008】に「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ切断せしめる」、及び「被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により切断せしめる」旨が記載されているが、この種の切断には押し切りと挽き切りとがあり、単に切断という表現だけでは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず、特許法第36条第4項の規定に違反する。
また、本件特許発明の図面において、図1?図3では、ホルダー1は明らかに一対の受片2に固着されている。図4は、図1?図3と異なる図面が示されている。ホルダー1は、ピンにより360°フリー回転できるように見受けられるが、油圧シリンダ8の給油ホースは、パワーショベル10から供給されるので、回り継手がない限り、フリー回転角度が大きく制限されるのと、フリー回転させた場合のストッパー装置がないので、被切断物Aに食い込んだ鋸刃6を抜き去る場合、被切断物Aの端部をたたくように接地させて可動刃6の鋸刃6を抜き去る手段もとれない。従って、本件特許発明の明細書の段落【0008】に「即ち、図4に示すように」と記載されているが、この記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず、特許法第36条第4項の規定に違反する。
なお、審判請求書の第2頁第20行、第5頁第5?6行、第18行、第6頁第1行、第17行、第7頁第3行では、「第36条第4項第1号」としているが、本件特許が出願された平成13年3月12日の時点においては、特許法第36条第4項第1号は存在していなかったので、上記「第36条第4項第1号」は「第36条第4項」の誤記と認める。
b 特許法第36条第6項第1号ないし第3号違反について
本件特許発明は、「該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され、該可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され、可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され」となっており、挽き切り状に切断せしめる構成が欠如しているから、特許法第36条第6項第1号ないし第3号に規定する要件を満たしていない。

また、証拠方法として、以下の証拠を提出している。
甲第1号証 特許第3553514号公報(本件特許公報)
甲第2号証 特願2001-67901号特許願明細書(当初明細書)

第4 被請求人の主張の概要
本件特許発明における切断方式は、当初明細書から、可動刃4及びその鋸歯状刃体6が、軸5を中心として回転駆動されて、各鋸歯状刃体が、被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に、並列して進行する、押切りに近い切断操作として一貫しており、実質的な内容の変更は行われていない。「挽き切り状に」との文言を削除したのは、単に、不合理あるいは不明りょうな記載を補正しただけのものである。
よって、「挽き切り状に」との文言を削除した補正は、明らかに当初明細書の範囲内における補正であり、特許法第17条の2第3項に違反しない。
本件特許発明の当初明細書においては、可動刃4及びその鋸歯状刃体6が、軸5を中心として回転駆動されて、各鋸歯状刃体が、被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に、並列して進行する、すなわち、押し切りに近い切断操作がなされることが明確に示されている。この点、「挽き切り状に」切断との説明は、不合理あるいは不明瞭な記載であったと考えられるが、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明から、本件特許発明における切断方式が明確であるため、かかる記載によって、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができなくなるということはない。
発明の詳細な説明の欄には特許請求の範囲に記載された発明のもつ技術的思想を当業者が容易に実施できる程度に記載すべきものであるから、当該発明の課題と直接関係のない付随的技術事項については、その記載を省略しても差し支えないと解されるから、本件特許発明において、ホルダーがフリー回転するかどうかは、本件特許発明の課題に直接関わる事項ではなく、また、特許請求の範囲に記載された発明のもつ技術的思想に関わる事項ではない。
本件特許発明の発明の詳細な説明には、可動刃4及びその鋸歯状刃体6が、軸5を中心として回転駆動されて、各鋸歯状刃体が、被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に、並列して進行する、すなわち、押し切りに近い切断操作がなされることが示されており、特許請求の範囲において、それ以上に発明の詳細な説明に記載されていない事項が記載されているものではない。本件特許発明における切断方式は、押切りに近い切断操作であり、にもかかわらず、挽き切り状に切断せしめる構成が欠如していることを理由とする請求人の主張は、そもそも理由となりえない。

また、証拠方法として、以下の証拠を提出している。
乙第1号証 特許第3553514号包袋一式(甲2提出分を除く。)

第5.当審の判断
(5-1)無効理由1:特許法第17条の2第3項違反について
当初明細書の段落【0005】、【0008】及び【0011】には「挽き切り状に切断せしめる」と記載されており、拒絶査定不服審判請求時にされた平成16年1月29日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)によりそれらの記載が削除された。この「挽き切り状に切断せしめる」との記載を削除したことにより、本件特許発明における「切断」には、押し切りを含めるとの拡張解釈の余地が生じたとして、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした補正には当たらないということが、請求人の主張する無効理由であると言い換えることができる。
そこで、当初明細書に記載されていた事項が「挽き切り状に切断せしめる」ことのみに限られたものであるか、以下検討する。
「挽き切る」とは、新村出編「広辞苑」、第4版、岩波書店、1991年11月15日発行、2142頁によると、「のこぎりで挽いて切る」ことである。そこで、本件特許発明における可動刃4による切断がのこぎりで挽いて切ることに該当するかどうかを以下検討する。
本件特許発明の図面の図4を参照すると、可動刃4には鋸歯状刃体6が9個設けられていることが見て取れる。そして、軸5を中心として可動刃4を回転させることにより被切断物Aを切断するものであるが、図4から明らかなように、9個設けられている鋸歯状刃体6は軸5を中心とする均等の距離である同一円弧上に並べて設けられているものではないことから、被切断物Aを切断するには、9個の鋸歯状刃体6を切断深さ方向と完全に直交する方向に動作させて切断するものではなく、複数の鋸歯状刃体6を順次被切断物Aに食い込ませて切断するものであることは明らかである。すなわち、当初明細書及び図面に記載された発明における可動刃4は、のこぎりで挽くように切断するものではなく、鋸歯状刃体6というのこぎり状の刃を有するものではあるものの、むしろ押し切るような切断に近いものである。
そうすると、当初明細書における「挽き切り状に切断せしめる」との記載は、当初明細書及び図面に記載された発明における上記技術事項に照らすと、そもそも「挽き切り状に」と特定することに意味はなく、むしろ、当初明細書及び図面の記載全体から把握される技術事項と比較して記載自体が適切を欠くものであり、また、当初明細書の開示内容は上記のとおり「押し切る」というような切断操作に近いものであったことから、段落【0005】、【0008】及び【0011】に記載されていた「挽き切り状に切断せしめる」との記載を削除する本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、上記範囲を超えた違法な補正に当たるとはいえない。
また、請求人は、平成21年3月2日付け審判事件弁駁書において、「願書に最初に添付した明細書及び図面のうちの図4から分かるように、可動刃4が軸5を中心として回転(回動)するとき、一部の複数の鋸歯状刃体6で被切断物Aが切断される。上記の切断に関与する複数の鋸歯状刃体6を軸5に近いものから順に、第1,第2,第3,・・鋸歯状刃体6とする。
可動刃4が軸5を中心として回動するとき、第1,第2,第3,・・鋸歯状刃体6がほぼ円弧状に縦列して被切断物Aに接近し、第1鋸歯状刃体6が被切断物Aの所定厚さ分を切断し、次にこれを時間遅れをもって第2鋸歯状刃体6が被切断物Aの次の所定厚さ分を切断し、次にこれに時間遅れをもって第3鋸歯状刃体6が被切断物Aの次の所定厚さ分を切断するという切断操作がなされる。
ここで、図4に示すように、鋸歯状刃体6間ピッチが大きいことも関係して、上記の時間遅れが無視できない大きさになる。そのため、上記の切断動作における「切断深さ方向」は、図4において軸5を中心とする半径方向(断面矩形の被切断物Aの左下がりの対角線の方向に近い方向)である。
従って、上記の切断動作は、拒絶査定の『指摘』に定義している『挽切る』に該当する切断動作である。しかも、この切断動作は、出願人が出願当初に想定し且つ明細書に記載していた『挽切る』という切断動作でもある。」(第2頁第6行?第21行。)と主張している。
しかしながら、本件特許発明における可動刃4は、図面の図4を参照する限り、軸5を中心として回転するものではあるけれども、9個設けられている鋸歯状刃体6は軸5を中心とする均等の距離である同一円弧上に並べて設けられているものではないことから、被切断物Aに対する切断時においても、複数個の鋸歯状刃体6が被切断物Aに接近する際の時間遅れはあるものの、これをもって通常ののこぎりのように切断することと同等の切断であるとするには当たらないもの、すなわち、「挽き切る」ものであると言い切ることはできないものである。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(5-2)無効理由2:特許法第36条第4項、及び第6項第1号ないし第3号違反について
ア 特許法第36条第4項違反について
特許法第36条第4項は、実施可能要件、すなわち、当業者がその実施をすることができる程度に発明の詳細な説明が記載されていることである。
請求人は、無効審判請求書第4頁第27行ないし第6頁4行において、切断には押し切りと挽き切りとがあり、単に切断という表現だけでは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない旨主張している。
ここで、本件特許の明細書の段落【0004】、【0006】、【0008】、【0011】及び図面の図1ないし図5には、挽き切りであるか押し切りであるかに関係なく、鋸歯状刃体6を持った可動刃4により、木製廃材を切断することが記載されており、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることは明らかであって、これを実施できないとすることはできないことから、請求人の上記主張は、理由がない。
また、請求人は、審判請求書第6頁第5行ないし第20行において、本件特許発明の図面の図4では、油圧シリンダ8の給油ホースは、パワーショベル10から供給されるので、回り継手(SWIVEL JOINT)がない限り、フリー回転角度が大きく制限されるのと、フリー回転させた場合のストッパー装置がないので、被切断物Aに食い込んだ鋸歯状刃体6を抜き去る場合、被切断物Aの端部をたたくように接地させて可動刃4の鋸歯状刃体6を抜き去る手段もとれないから、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないと主張する。
しかしながら、本件特許発明は上記第2で言及したとおりのものであって、本件特許発明の発明特定事項に回り継手やストッパー装置を必要としないものであることは明らかであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載中に回り継手やストッパー装置の記載がなくても、本件特許発明の明細書は、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないと言うことはできない。
以上のとおりであるから、特許法第36条第4項違反だとする無効理由については、理由がない。
イ 特許法第36条第6項第1号ないし第3号違反について
特許法第36条第6項第1号は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要件としており、第2号は、特許を受けようとする発明が明確であることを要件としており、第3号は、請求項ごとの記載が簡潔であることを要件としている。
ここで、請求人は、「本件特許発明の特許請求の範囲の請求項1には、『該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され、該可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され、可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され』、となっており、挽き切り状に切断せしめる構成が欠如している」ことを理由に挙げている。
しかしながら、(5-1)で言及しているように、本件特許発明における可動刃4は、被切断物の切断を「挽き切り状に」と特定することに意味はないので、特許請求の範囲の請求項1に「挽き切り状」に切断せしめる構成がないことをもって、これを発明の詳細な説明に記載したものでないとしたり、明確でないとしたり、簡潔でないとすることはできない。
また、請求人は、平成21年3月2日付け審判事件弁駁書において、「上記図4からも明らかなように、固定掴持片3は受片2の基端部ではなく、長さ方向の途中部に設けられているのである。
従って、固定掴持片3が受片2の基端部に立設されていると認めることはできない。
それ故、本件特許発明における『・・・上記受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に、・・・』という記載は、発明の詳細な説明の欄に記載したものではない。」(第4頁第1行?第6行。)と主張している。
しかしながら、受片2において、軸5からホルダー1側を基端部、反対側を先端部と考えれば、固定掴持片3が受片2の基端部に設けられるものであることは、図面の図1や図4、図5を参照すると明らかである。
したがって、上記の点をもって、請求項1に記載された発明を、発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできない。
以上のとおり、特許法第36条第6項第1号ないし第3号違反だとする無効理由については、理由がない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
他に本件特許発明を無効とすべき理由を発見できない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-10 
結審通知日 2009-03-12 
審決日 2009-03-25 
出願番号 特願2001-67901(P2001-67901)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (B27B)
P 1 113・ 537- Y (B27B)
P 1 113・ 561- Y (B27B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 尾家 英樹
鈴木 孝幸
登録日 2004-05-14 
登録番号 特許第3553514号(P3553514)
発明の名称 廃材用切断装置  
代理人 和田 宏徳  
代理人 岡村 俊雄  

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