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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1209585
審判番号 不服2007-29848  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-01 
確定日 2010-01-04 
事件の表示 特願2002-220304号「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月26日出願公開、特開2004-63281号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成14年7月29日の特許出願であって、平成19年9月25日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年10月2日)、これに対し、同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年12月3日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年12月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年12月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の目的
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された(以下「本件補正発明」という。)。
「複数の端子収容室が並設され、この各端子収容室内に収容された各端子金具に係止される複数の可撓性係止アーム部を有するハウジングと、このハウジングの嵌合面側より挿入され、前記可撓性係止アーム部の撓み変形を許容する仮係止位置を経て前記可撓性係止アーム部の撓み変形を阻止する本係止位置で組み付けられるフロントホルダと、
このフロントホルダを仮係止位置で前記ハウジングに位置保持する仮係止手段と、前記フロントホルダを本係止位置で前記ハウジングに位置保持する本係止手段とを備えたコネクタであって、
前記フロントホルダを前記ハウジングに挿入する方向から見て複数の前記端子収容室が配置された端子収容エリアの外側位置に前記仮係止手段と前記本係止手段とを設け、
前記仮係止手段は、端子収容エリアの左右方向の両外側位置に設けられた左右一対のサイド係止手段と、端子収容エリアの上下方向のいずれか一方の外側位置に設けられたセンター係止手段とから構成され、
前記本係止手段は、前記センター係止手段にて構成され、
前記各サイド係止手段は、前記フロントホルダの側面プレートに設けられ前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、前記ハウジングに設けられ前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され、
前記センター係止手段は、前記ハウジングの内面側に突設された係止突起と、前記フロントホルダから上方に突設された弾性アームロック部とから構成され、
弾性アームロック部は一端側がフロントホルダに固定され他端側が自由端とされるアーム部と、アーム部の自由端側に突設された係止突起部とからなり、
仮係止位置では前記サイド係止手段の係止突起が前記ガイド孔の端面に当接することによってハウジングからのフロントホルダの抜けが阻止されてフロントホルダが仮係止位置に保持され、
本係止位置では前記センター係止手段の前記係止突起部がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起部がハウジングの係止突起に当接することによってフロントホルダが仮係止位置への移動が阻止されて前記フロントホルダが本係止位置に保持されることを特徴とするコネクタ。」と補正された。

上記補正は、補正前の平成19年5月28日付け手続補正書の請求項1における「前記ハウジングと前記フロントホルダとのいずれか一方に設けられ、前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、他方に設けられ、前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され」との記載を、「前記フロントホルダの側面プレートに設けられ前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、前記ハウジングに設けられ前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され」と各サイド係止手段の構成部材の配置関係を具体的限定するとともに、補正前の請求項1における「係止突起がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起がハウジングの係止突起部に当接する」との記載を、誤記の訂正を目的として「フロントホルダが仮係止位置に保持され、本係止位置では前記センター係止手段の前記係止突起部がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起部がハウジングの係止突起に当接する」と補正するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(2)刊行物
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-251874号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「【発明の実施の形態】図1において、Aは雌型コネクタ、Bは端子金具用挿入検知部材である。雌型コネクタAは、ハウジング本体部A_(1)とその前方において段部A_(3)を介して膨出したフード部A_(2)とより成る。ハウジング本体部A_(1)には端子収容室1が上下2段においてそれぞれ複数設けられ、各端子収容室1において前端にはストッパー2が設けられると共に、下部には支持基部3aを介して前方へ延長する片持ちの可撓係止片3が設けられる。可撓係止片3の前方自由端部には係止突起3bが設けられ、端子収容室1と反対側の下方には可撓変位許容空間4が形成されている。
フード部A_(2)の上部には、ロック用係合枠部5が設けられると共に、ロック用係合枠部5の後端開放部分においてロック係合部5′が形成される。端子金具用挿入検知部材Bは、前後方向において細巾の主枠部6の中間部と下部において前記可撓変位許容空間4に対応して前方へ延長する複数の挿入検知体7を有し、また、両側部において前方へ延長する一対の操作片8を有し、更には、上部において前方へ延長する可撓ロック腕9を有する。可撓ロック腕9は、前端に仮係止突起9a、中間に本係止突起9bを有する。
上記構成において、挿入検知部材Bは、予め主枠部6をフード部A_(2)の内面に摺接させつつフード部A_(2)内に挿入して可撓ロック腕9の仮係止突起9aをロック係合部5′に係止した仮係止位置において雌コネクタAに結合されており、この際に一対の操作片8は段部A_(3)の窓10(図1参照)よりハウジング本体部A_(1)の側方に露出している(図2(A)参照)。
仮係止位置において、ハウジング本体A_(1)の後方より端子収容室1に端子金具Cを挿入するもので、この際に端子金具Cは可撓係止片3を可撓変位許容空間4を介して変位させつつ挿入され、端子金具Cの挿入が完了した時点で復元した可撓係止片3の係止突起3bが端子金具Cの肩部11に係合することにより端子金具Cの後抜けを阻止する(図2(B)参照)。
次に、露出している一対の操作片8に親指と人差指を掛けつつ引き寄せて本係止突起9bをロック係合部5′に係合させることにより、挿入検知部材Bを雌コネクタAに対して本係止位置へ移行させる。本係止位置においては、挿入検知体7が可撓変位許容空間4内に進入し、可撓係止片3の変位を阻止して端子金具Cの後抜け防止を確実にする(図3(B)参照)。」(段落【0010】ないし【0014】)
イ.上記摘記事項アおよび【図1】、【図2】(A)、(B)、【図3】(A)、(B)の記載によると、刊行物1には、中央係止手段が、フード部A_(2)の上部に形成されるロック係合部5’と端子金具用挿入検知部Bの上部に形成される仮係止突起9a、本体係止突起9bを有する可撓ロック腕とにより形成され、仮係止手段が、複数の端子収納室1が配置された領域より上部において、中央係止手段のうち、ロック係合部5’と仮係止突起9aを有する可撓ロック腕9により構成され、本係止手段が、中央係止手段のうち、前記ロック係合部5’と本係止突起9bを有する可撓ロック腕9により構成され、さらに、仮係止手段が、仮係止位置で仮係止突起9aを前記ロック係合部5’に係止することにより、雌型コネクタAからの端子金具用挿入検知部Bの抜けが阻止され、端子金具用挿入検知部Bが仮係止位置に結合され、本係止手段が、本係止位置で中央係止手段を構成する本係止突起9bが端子金具用挿入検知部材Bの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、中央係止手段を構成する本係止突起9bに雌型コネクタAのロック係合部5’を係合させ、端子金具用挿入検知部材Bが仮係止位置への移動が阻止されて端子金具用挿入検知部材Bが本係止位置に係合されることが示されているといえる。
ウ.上記摘記事項アおよび【図1】、【図2】(A)、(B)、【図3】(A)、(B)の記載によると、端子金具用挿入検知部材Bをフード部A_(2)に挿入する方向から見て、複数の端子収納室1が配置された領域より上部に仮係止手段と本係止手段とを設けたことが示されているといえる。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されている。
「端子収容室1が上下2段においてそれぞれ複数設けられ、端子収容室1に挿入された端子金具Cに係合される複数の可撓係止片3が設けられるハウジング本体部A_(1)とフード部A_(2)内に挿入され、可撓係止片3を可撓変位許容空間4を介して変位させる仮係止位置から移行され、可撓係止片3の変位を阻止する本係止位置で係合される端子金具用挿入検知部Bと、
この端子金具用挿入検知部Bを仮係止位置において雌型コネクタAに結合させる仮係止手段と端子金具用挿入検知部Bを本係止位置で雌型コネクタAに係合させる本係止手段とを備えた雌型コネクタAであって、
端子金具用挿入検知部材Bをフード部A_(2)に挿入する方向から見て、複数の端子収納室1が配置された領域より上部に仮係止手段と本係止手段とを設け、
仮係止手段は、複数の端子収納室1が配置された領域より上部において、中央係止手段のうち、ロック係合部5’と仮係止突起9aを有する可撓ロック腕9とにより構成され、
本係止手段は、中央係止手段のうち、ロック係合部5’と本係止突起9bを有する可撓ロック腕9とにより構成され、
中央係止手段が、フード部A_(2)の上部に形成されるロック係合部5’と端子金具用挿入検知部Bの上部に形成される仮係止突起9a、本係止突起9bを有する可撓ロック腕9を有し、
可撓ロック腕9は一端側が端子金具用挿入検知部Bに固定され、他端側が自由端とされるとともに、前方に延長し、前端に仮係止突起9a、中間に本係止突起9bを有し、
仮係止位置では、仮係止突起9aをロック係合部5’に係止することにより、雌型コネクタAからの端子金具用挿入検知部Bの抜けが阻止されて、端子金具用挿入検知部Bが仮係止位置に結合されており、
本係止位置では、中央係止手段を構成する本係止突起9bが端子金具用挿入検知部材Bの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、中央係止手段を構成する本係止突起9bに雌型コネクタAのロック係合部5’を係合させ、端子金具用挿入検知部材Bが仮係止位置への移動が阻止されて端子金具用挿入検知部材Bが本係止位置に係合されるコネクタ。」

(2-2)同じく、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-116672号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「第4A図および第5A図に示すように、先ず、ハウジングl0のそれぞれの端子収容室11に係止部材50のそれぞれの係止アーム52を挿入してハウジング10に係止部材50を仮り止めする。係止部材50がこの仮り止め位置に至る過程においては、係止部材50の両側面に位置する、弾性係止部61の突起62(第1図)がハウジング10の両側部分15の内面に弾性的に接しながら摺動して該両側部分に位置する係止孔21に係合する。この係合は操作者に手応えを与え、係止部材50が仮り止め位置へ移動したことを充分に感知させる。この仮り止め位置では、ハウジングl0の後端12側の端子収容室11の開口と係止部材50の空洞56の前後端面の開口とが整列している。たとえば、上段に位置する端子収容室11と空洞56についてみると、端子収容室11の底面34aと空洞56の底面57aとが同平面に位置している。また、第8A図(第2図)に示すように、この仮り止め位置では、一方の係止突起59が他方の係止突起30に衝突し係合している。したがって、係止部材50がハウジング10側へ押圧されても、該ハウジング側へさらに移動することができない。
この仮り止め位置において、係止部材50の後端71側から空洞56を経て端子収容室11に雌型端子100を挿入する。端子100は、相手コネクタの雄型端子を挿入する電気接触部101、電線150の裸線部151に対する圧着部102、電線150の被覆部に対する圧着部103および接続部101の下面に凹欠部106を有する。こうした端子100の端子収容室11への挿入は弾性ランス32の弾性力に抗して摺動することによってなされ、端子100が所定部位へ摺動すると、弾性ランス32がその弾性力で凹欠部106に係合する。この仮り止め位置においては、ハウジング10の弾性係止部17および摺接端20が係止部材50の斜面部64.65にそれぞれ摺接していないが、弾性係止部68のフック69がハウジング10の凹溝23に自然な状態で位置している。
第8B図および第8C図に示すように、係止レバー27を押下して係止突起59の係止突起30に対する係合を解除しながら、第4B図?第4D図、および、第5B図?第5D図に示すように、ハウジング10への係止部材50の挿入、すなわち、端子収容室11への係止アーム52の挿入をさらに進めると、該係止部材の両側面に位置する弾性係止部61のフック62(第1図、第6図)が係止孔21の傾斜縁22に摺接しながら該係止孔の下縁に当接すると同時に、ハウジング10の摺接端20が係止部材50の斜面部65に摺接しながら該係止部材の頂面に乗り上げ、そのため、該係止部材が前進しながら下降する。また、この過程において、ハウジング10の弾性係止部17のフック19が係止部材50の係止突起63の斜面部64に摺接しながら該係止突起の頂面に乗り上げて上向きに変形する。また、この過程において、弾性係止部68が変形しながら凹溝23を摺動する。
第4E図および第5E図に示すように、端子収容室11への係止アーム52の挿入をさらにまた進めると、摺接端20が係止部材50の頂面を摺動するとともに弾性係止部17のフック19が係止突起63を乗り越えてこれに係合し、同時に、弾性係止部68のフック69が通路24を通過して下側部分16の前面(内面)側へ落ち込んで前記変形から復元して該下側部分の一部に係合する(本止め位置)。このとき、弾性係止部61のフック62が係止孔21の前縁へ移動しこれに当接している(第7図参照)。また、このとき、第8D図に示すように、係止レバー27が原位置に復帰してその係止突起30と係止部材50の係止突起59とが対向している。
このように、ハウジング10に係止部材50を本止めしたとき、すなわち、端子収容室11への係止アーム52の挿入を終了したとき、係止アーム52の先端67が端子100の電気接触部101の内端104に近接して対向する。したがって、端子100がその挿入方向と反対方向への抜脱が係止アーム52の先端67によって阻止される。また、このとき、ハウジング10の後端面12に係止部材50のフレーム前側部分72が近接するとともに、端子収容室11の後端開口の位置よりも下方向に空洞56の開口が位置ずれしている。
第4A図?第4E図(第3A図、第3B図)から理解されるように、ハウジング10の上面壁33に窓孔36および斜面部37、中仕切部34に斜面部37および段差凹面部38を形成する一方、係止アーム52の先端67を下方向へ屈曲しその上面を段差低面に形成しであることで、端子収容室11への係止アーム52の挿入が進む過程において、係止アーム52は、その上面が端子収容室11の上面部を形成する上面壁33の内面および中仕切部34の下向面にそれぞれ強制的に接触することなく端子収容室11を移動する。」(第3頁左下欄第16行ないし第4頁右下欄第5行)
イ.上記摘記事項アの記載およびFig.1、Fig.6、Fig.7の記載によると、ハウジング10の端子収容室11が配置された端子収納エリアの両側面に位置し、ハウジング10の両側部分15に位置する係止部材50の挿入方向に延びる係止孔21と、係止部材50に設けられ、係止孔21内に移動可能に係合される突起62とから一対の側面係止手段が構成され、仮り止め位置では側面係止手段の突起62が係止孔21の端面に係合することによって、ハウジング10からの係止部材50の抜けが阻止され、側面係止手段が仮係止手段の一部を構成することが示されているといえる。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。
「仮係止手段が、ハウジング10の端子収容室11が配置された端子収納エリアの両側面に位置する一対の側面係止手段によりその一部を構成され、
各側面係止手段は、ハウジング10の両側部分15に位置する係止部材50の挿入方向に延びる係止孔21と、係止部材50に設けられ、係止孔21内に移動可能に係合される突起62とから構成され、
仮り止め位置では側面係止手段の突起62が係止孔21の端面に係合することによって、ハウジング10からの係止部材50の抜けを阻止された電気コネクタ。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明の「端子収容室1が上下2段においてそれぞれ複数設けられ」は、その構成及び機能からみて、本件補正発明の「複数の端子収容室が並設され」に相当し、以下同様に、
「端子金具C」は「端子金具」に、
「係合される複数の可撓係止片3」は「係止される複数の可撓性係止アーム部」に、
「ハウジング本体部A_(1)」および「フード部A_(2)」は「ハウジング」に、
「可撓変位許容空間4を介して変位させる」は「撓み変形を許容する」に、
「仮係止位置から移行され」は「仮係止位置を経て」に、
「変位を阻止する本係止位置で係合される」は「撓み変形を阻止する本係止位置で組み付けられる」に、
「端子金具用挿入検知部B」は「フロントホルダ」に、
「雌型コネクタAに結合させる」は、雌型コネクタAがハウジング本体部A_(1)とフード部A_(2)とよりなることから、「ハウジングに位置保持する」に、
「複数の端子収納室1が配置された領域より上部」は「端子収容室が配置された端子収容エリアの外側位置」および「端子収容エリアの上方向の外側位置」に、
「中央係止手段」は「センター係止手段」に、
「ロック係合部5’」は「係止突起」に、
「可撓ロック腕9」は「弾性アームロック部」に、
「仮係止突起9a、本係止突起9b」は「係止突起部」に、
「一端側が端子金具用挿入検知部Bに固定され、他端側が自由端とされるとともに、前方に延長し、前端に仮係止突起9a、中間に本係止突起9bを有し」は、一端側が固定され他端側が自由端とされた部分および前方に延長された部分がアーム部を形成することから、「一端側がフロントホルダに固定され他端側が自由端とされるアーム部と、アーム部の自由端側に突設された係止突起部とからなり」に、
「仮係止位置に結合され」は、端子金具用挿入検知部Bが仮係止位置に結合されて保持されることから、「仮係止位置に保持され」に、
「雌型コネクタAのロック係合部5’を係合させ」は、係合により本係止突起9bがロック係合部5’に当接状態となることから、「係止突起に当接する」に、
「本係止位置に係合され」は、端子金具用挿入検知部Bが本係止位置に係合されて保持されることから、「本係止位置に保持され」に、
それぞれ相当する。

したがって、本件補正発明と刊行物1に記載された発明との一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「複数の端子収容室が並設され、この各端子収容室内に収容された各端子金具に係止される複数の可撓性係止アーム部を有するハウジングと、このハウジングの嵌合面側より挿入され、前記可撓性係止アーム部の撓み変形を許容する仮係止位置を経て前記可撓性係止アーム部の撓み変形を阻止する本係止位置で組み付けられるフロントホルダと、
このフロントホルダを仮係止位置で前記ハウジングに位置保持する仮係止手段と、前記フロントホルダを本係止位置で前記ハウジングに位置保持する本係止手段とを備えたコネクタであって、
前記フロントホルダを前記ハウジングに挿入する方向から見て複数の前記端子収容室が配置された端子収容エリアの外側位置に前記仮係止手段と前記本係止手段とを設け、
前記仮係止手段は、端子収容エリアの上方向の外側位置に設けられたセンター係止手段とから構成され、
前記本係止手段は、前記センター係止手段にて構成され、
前記センター係止手段は、前記ハウジングの内面側に突設された係止突起と、前記フロントホルダから上方に突設された弾性アームロック部とから構成され、
弾性アームロック部は一端側がフロントホルダに固定され他端側が自由端とされるアーム部と、アーム部の自由端側に突設された係止突起部とからなり、
仮係止位置ではハウジングからのフロントホルダの抜けが阻止されてフロントホルダが仮係止位置に保持され、
本係止位置では前記センター係止手段の前記係止突起部がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起部がハウジングの係止突起に当接することによってフロントホルダが仮係止位置への移動が阻止されて前記フロントホルダが本係止位置に保持されることを特徴とするコネクタ。」

[相違点]
仮係止手段について、本件補正発明では、端子収容エリアの左右方向の両外側位置に設けられた左右一対のサイド係止手段とセンター係止手段とから構成され、各サイド係止手段は、フロントホルダの側面プレートに設けられフロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、ハウジングに設けられガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され、仮係止位置では前記サイド係止手段の係止突起がガイド孔の端面に当接することによってハウジングからのフロントホルダの抜けが阻止されてフロントホルダが仮係止位置に保持されるのに対して、刊行物1に記載された発明では、センター係止手段から構成され、仮係止位置では、仮係止突起9aをロック係合部5’に係止する点。

(4)当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
本件補正発明と刊行物2に記載された発明を対比する。
刊行物2に記載された発明の「ハウジング10」は、その構成及び機能からみて、本件補正発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、
「端子収容室11が配置された端子収納エリアの両側面」は「端子収容エリアの左右方向の両外側位置」に、
「側面係止手段」は「サイド係止手段」に、
「両側部分15」は「側面プレート」に、
「係止孔21」は「ガイド孔」に、
「移動可能に係合される突起62」は「スライド自在に挿入される係止突起」に、
「仮り止め位置」は「仮係止位置」に、
「電気コネクタ」は「コネクタ」に、
それぞれ相当する。
また、刊行物2に記載された発明の「係止部材50」と本件補正発明の「フロントホルダ」とは、「コネクタに挿入される部材」である点で共通する。

したがって、刊行物2に記載された発明は、
「仮係止手段が、ハウジングの端子収容エリアの左右方向の両外側位置に位置する左右一対のサイド係止手段によりその一部を構成され、
各サイド係止手段は、ハウジングの側面プレートに位置するコネクタに挿入される部材の挿入方向に延びるガイド孔と、コネクタに挿入される部材に設けられガイド孔内スライド自在に挿入される係止突起とから構成され、
仮係止位置ではサイド係止手段の係止突起がガイド孔の端面に係合することによって、ハウジングからのコネクタに挿入される部材の抜けを阻止されたコネクタ。」
と言い換えることができる。

そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、仮係止機構を備えたコネクタという共通の技術分野に属する発明である。
また、仮係止機構を備えたコネクタの技術分野において、コネクタに挿入される部材を、端子の仮係止位置でコネクタハウジングに二重係止することは、本願出願前周知の技術事項である(例えば、前審で提示した特開平8-203592号公報の段落【0012】、【図1】や特開平10-199604号公報の段落【0002】、【図6】参照。)。
さらに、一方の部材に設けたガイド孔と他方の部材に設けた係止突起とから構成される係止機構において、ガイド孔および係止突起をどちらの部材に設けるのかは、両部材の全体形状や配置を考慮して当業者が適宜決定し得る事項である。
したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明の仮係機構に、刊行物2に記載された仮係止機構を追加することにより当業者が容易になし得たものといえる。

また、本件補正発明が奏する効果についてみても、刊行物1および2に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
よって、本件補正発明は、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成19年12月3日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年5月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「複数の端子収容室が並設され、この各端子収容室内に収容された各端子金具に係止される複数の可撓性係止アーム部を有するハウジングと、このハウジングの嵌合面側より挿入され、前記可撓性係止アーム部の撓み変形を許容する仮係止位置を経て前記可撓性係止アーム部の撓み変形を阻止する本係止位置で組み付けられるフロントホルダと、
このフロントホルダを仮係止位置で前記ハウジングに位置保持する仮係止手段と、
前記フロントホルダを本係止位置で前記ハウジングに位置保持する本係止手段とを備えたコネクタであって、
前記フロントホルダを前記ハウジングに挿入する方向から見て複数の前記端子収容室が配置された端子収容エリアの外側位置に前記仮係止手段と前記本係止手段とを設け、前記仮係止手段は、端子収容エリアの左右方向の両外側位置に設けられた左右一対のサイド係止手段と、端子収容エリアの上下方向のいずれか一方の外側位置に設けられたセンター係止手段とから構成され、前記本係止手段は、前記センター係止手段にて構成され、
前記各サイド係止手段は、前記ハウジングと前記フロントホルダとのいずれか一方に設けられ、前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、他方に設けられ、前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され、 前記センター係止手段は、前記ハウジングの内面側に突設された係止突起と、前記フロントホルダから上方に突設された弾性アームロック部とから構成され、
弾性アームロック部は一端側がフロントホルダに固定され他端側が自由端とされるアーム部と、アーム部の自由端側に突設された係止突起部とからなり、
仮係止位置では前記サイド係止手段の係止突起が前記ガイド孔の端面に当接することによってハウジングからのフロントホルダの抜けが阻止され、係止突起がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起がハウジングの係止突起部に当接することによってフロントホルダが仮係止位置への移動が阻止されて前記フロントホルダが位置保持されることを特徴とするコネクタ。」

2.記載要件について
本願の特許請求の範囲の請求項1には、「弾性アームロック部は一端側がフロントホルダに固定され他端側が自由端とされるアーム部と、アーム部の自由端側に突設された係止突起部とからなり」なること、「前記センター係止手段の前記係止突起がハウジングの係止突起部に当接することによって・・・前記フロントホルダが位置保持される」こと、がそれぞれ記載されている(下線は当審にて付与。)
そして、前者の記載によれば、係止突起部はフロントホルダに固定されていることとなるが、後者の記載によれば、係止突起部はハウジングに設けられることとなり、両者の記載は矛盾している。
したがって、本願発明は明確でない
ゆえに、平成19年6月26日付け拒絶理由通知書で指摘した理由(2)は依然として解消されていない。

よって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.進歩性について
本願については、上記「2記載要件について」で述べたとおりであるが、仮に、本願の特許請求の範囲の「係止突起がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起がハウジングの係止突起部に当接することによって」(下線は当審にて付与、以下同様。)なる記載が、本願の発明の詳細な説明に、係止突起部32がフロントホルダ4に固定されたセンター係止手段26を構成する弾性アームロック部30に設けられ、係止突起29がハウジング3に設けられていること(段落【0025】、【0029】)が記載されているように、「係止突起部がフロントホルダの仮係止位置と本係止位置との間を移動して、前記センター係止手段の前記係止突起部がハウジングの係止突起に当接することによって」なる記載の誤記であるとした場合について、誤記を正しく読み替えたうえで、進歩性について検討する。
(1)刊行物
平成19年6月26日付け拒絶理由通知書に引用した刊行物1および2、刊行物1および2の記載事項、および、刊行物1および2に記載された発明は、前記「2[理由](2)刊行物」に記載したとおりである。

(2)対比および判断
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
本願発明は、前記「2[理由](1)補正後の請求項1に記載された発明」で検討した本件補正発明から、
「前記フロントホルダの側面プレートに設けられ前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、前記ハウジングに設けられ前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され」とあったところを「前記ハウジングと前記フロントホルダとのいずれか一方に設けられ、前記フロントホルダの挿入方向に延びるガイド孔と、他方に設けられ、前記ガイド孔内にスライド自在に挿入される係止突起とから構成され」とその限定を省くことを含むものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「2[理由](3)対比および(4)当審の判断」に記載したとおり、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
ゆえに、平成19年6月26日付け拒絶理由通知書で指摘した理由(1)は、依然として解消されていない。
よって、本願発明は、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-30 
結審通知日 2009-11-04 
審決日 2009-11-18 
出願番号 特願2002-220304(P2002-220304)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 537- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 真一  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 豊島 唯
長崎 洋一
発明の名称 コネクタ  
代理人 三好 秀和  

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