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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A41B
管理番号 1209586
審判番号 不服2007-30630  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-12 
確定日 2010-01-04 
事件の表示 特願2003-515187「カフを有する吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月 6日国際公開、WO03/09793、平成17年 7月 7日国内公表、特表2005-519651〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、平成14年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月26日、欧州)を国際出願日とする国際出願であって、平成19年8月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正書が提出されたものである。

第2 平成19年11月12日付け手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成19年11月12日付けの特許請求の範囲を対象とする手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
【理由】
1.本件補正
本件補正は、補正前の請求項2乃至13を、それぞれ、請求項1乃至12に繰り上げるとともに、さらに、以下の補正を含むものである。
(1)補正前の請求項2に、「前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有する短縮物品部分を有し、」とあるのを、補正後の請求項1で、「前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有し、」とする補正。
(2)補正前の請求項4、5に、「前記短縮物品部分が短縮物品長さL」とあるのを、補正後の請求項3、4で、「前記短縮物品部分が前記物品の長さ方向中央部にあって前記物品の長さの60%である短縮物品長さL」とする補正。
ここで、上記補正事項(1)が、誤記の訂正であることは明らかである。また、上記補正事項(2)は、「短縮物品部分」の「短縮物品長さL」が、「前記物品の長さ方向中央部にあって前記物品の長さの60%である」と具体的に限定するものである。
したがって、この補正は、誤記の訂正、及び、発明を特定するために必要な事項を減縮するものである。また、この補正が、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。
そこで、補正後の請求項1乃至12に記載された事項によって特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて、次に検討する。

2.本願補正発明
本件補正後の請求項1乃至12に係る発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」、・・・「本願補正発明12」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至12に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
バックシート、コア、並びに開口部を含む耐垂下性の肛門カフ及び/又は膣カフを有し、前記カフが弛緩状態で1つ以上の長手方向の襞を有する吸収性物品であって、
前記吸収性物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有し、前記バックシート、カフ、及びコアそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH1の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH1が、少なくとも0.25Lsである吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収性物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有し、前記バックシート、カフ、及びコアそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH2の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH2が、少なくとも0.3Lsである、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が前記物品の長さ方向中央部にあって前記物品の長さの60%である短縮物品長さL、拡張した短縮物品長さLsを有し、前記バックシート、コア、及びカフそれぞれが長手方向軸線及び横断方向軸線を有し、前記カフ又はその部分の各長手方向縁部と前記バックシートの対応する長手方向縁部とが相互に接続されて長手方向接続領域を形成し、前記バックシートが幾何学的な中心点Aを有して前記カフが幾何学的な中心点Dを有し、各接続領域が前記中心点Aに最も近い線である内側接続線と前記点Dに最も近い外側接続線とを有し、Aを通る横断方向軸線が前記バックシート上の点Bで前記内側接続線と交差し、Dを通る横断方向軸線が点Cで前記外側接続線と交差し、距離(A?B)+(C?D)である距離H3が、少なくとも0.3Lsである、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が前記物品の長さ方向中央部にあって前記物品の長さの60%である短縮物品長さL、拡張した短縮物品長さLs、及び収縮した短縮物品長さLcを有し、使用中のLcが乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lrよりも小さい、乳児用又は大人用おむつの形態の、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記吸収性物品がバックシート及び肛門カフ又は膣カフを含み、前記肛門カフ又は膣カフが着用者の皮膚にごく近接してあり、前記吸収性物品が長手方向及び横断方向を有し、前記カフが長手方向に伸張性であって前記着用者の皮膚にごく近接して留まる手段を有し、1N以下の力が前記カフにかけられる時に、弛緩状態の前記カフが横断方向にも伸張性である、請求項1?4のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記バックシート及び前記膣カフ又は肛門カフそれぞれが長手方向及び横断方向を有し、前記カフの横断方向最大幅に対するLsの比が、前記カフの横断方向最大幅が1とした場合にLSが少なくとも5である、請求項1?5のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記カフの前記開口部が、長手方向縁部と、前記カフを前記着用者の皮膚にごく近接して保持する前記長手方向縁部に沿う手段とを有し、前記手段が1つ以上の伸縮性区域及び/又は接着剤区域であり、弛緩状態の前記カフが横断方向及び長手方向に伸張性である、請求項1?6のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記物品が長さLcの収縮した短縮物品部分を有し、前記開口部の最大長さが、Lcの少なくとも50%?90%である、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記伸縮性区域それぞれが、それぞれ5?30mmの幅を有する、1つ以上の弾性バンドを前記区域に沿って長手方向に有する、請求項7又は8に記載の物品。
【請求項10】
前記バックシート及びカフそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記バックシートの幾何学的な中間点を通る前記バックシートの最小幅がWbであり、前記カフの幾何学的な中心点を通る前記カフの最小幅がWcであり、前記バックシートがその長手方向軸線に沿って水平で平らな平面に取付けられ、前記カフの前記幾何学的な中心点が前記カフ及びバックシートの前記幾何学的な中心点を通るほぼ垂直な軸線に沿う力で垂直に上向きに引張られて、前記力が前記バックシート又はカフの弾性変形を起さないようなものである時、前記カフの前記幾何学的な中心点から前記バックシートの前記幾何学的な中心点までの距離HCがWb-4cmを超える、及び/又はH4が0.8Wb以上である、請求項1?9のいずれか一項に記載の物品。
【請求項11】
前記コアが前記カフとバックシートとの間に配置され、前記コアと前記カフが相互に接合されない、請求項1?10のいずれか一項に記載の物品。
【請求項12】
前記物品が、大人用若しくは乳児用おむつ、プルアップパンツ、又はトレーニングおむつである、請求項1?11のいずれか一項に記載の物品。」

3.当審の判断
【特許法第36条第6項第2号違反について】
(1)本願補正発明1について
本願補正発明1は、「拡張した短縮物品長さLs」なる値との関係で、「前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH1の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH1」を特定することにより、吸収性物品の構成を特定することを含むものであり、具体的には、高さH1を、0.25Lsとするものである。
上記のような構成を採用することに関し、明細書には、以下の記載がある。

(a)「【従来技術】
・・・
【0004】
糞便が吸収性物品から漏れる又は皮膚を汚すのを防ぐために、おむつのカフと下部層との間に配置された空間まで糞便を通過させる開口がトップシートに設けられた。しかし、物品の適用中に開口を配置することは難しく、物品着用時に所望の位置からずれることが多い。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術で提案された開口おむつの性能が劣るのは、大方の場合に、使用中に物品内に保持される、身体からの流体の増加による蓄積重量に起因し、この重量が、物品の、例えば下向きの移動を引き起こして着用者の皮膚から遠ざけることを発明人らは見出した。
【0008】
すなわち、耐垂下性がある独特の肛門カフを有する物品、例えば、排出物の重量増加に基づく引力の増加のためにおむつのバックシート及び/又はコアが垂れる時にも着用者の皮膚に接触している手段を有する物品を提供することにより、物品の全使用期間中にさえ、身体からの流体を受けて保持し皮膚から遠ざけておく、吸収性物品を提供する代替方法を発明者らは見出した。それに対して好ましい物品は、相互に関連して限定された寸法を有する独特のバックシート、コア及び肛門カフ又は膣カフ構造を有することを発明者らは見出した。カフ及びバックシートの独特の寸法、並びにそれらの間の独特な幾何学的関係のために、物品内に収集された身体からの流体の重さがバックシートを引張り下ろす時に、そのカフは適所に留まることができて垂れない。
【0009】
着用者の皮膚にごく近接して留まる手段を有し、独特の伸張性を有する、例えば非常に小さな力をかけることにより通常は非弾性的に伸張性であり、これにより物品の残る部分が垂れ始めた時にカフ全体が横断方向に伸張性である、肛門カフ又は膣カフを提供することによりその問題が解決できることも発明者らは見出した。カフが、バックシート又はコアの引張り力がカフにかけられた時に広がることができる長手方向の襞を有するのが殊に好ましいことを発明者らは見出した。」

(b)「【0042】
短縮物品部分は、本明細書で定義する特定の力の特性の存在が特に有益である物品の部分、典型的には使用中の力線の間の物品の部分であり、例えば、物品が、直立の姿勢である着用者の腰部の周囲の(締着された)ウエストバンドによって着用されるおむつである場合、前側の力線は典型的には、前側のウエストバンドが始まる(すなわち、最低点)水平な線であり、後側の力線は、後側のウエストバンドが始まる(すなわち、最低点)水平な線であり、短縮物品部分は、これら2つの力線間のおむつの部分である。力線の正確な位置を決定するのは困難なことが多いため、短縮物品部分は、本発明の目的のため以下のように定義される。
【0043】
短縮物品部分は、物品の各横断方向末端部から、物品の(弛緩状態の)全長の20%の幅(例えば、物品の長手軸に平行な寸法)の横断方向細長部を取り除くことによって決定され、従って短縮物品部分は(弛緩状態の)物品の中央の60%である。その結果、短縮物品の長さは、短縮物品の長手方向軸線の長さ、例えば、物品の長さの約60%である。
【0044】
更により好ましいのは、短縮物品部分が物品の中間の40%であり、従って、各横断方向の末端部上で、物品の長さの30%の横断方向のストリップが取り除かれ、その結果、本明細書の物品の短縮物品の長さは、典型的には、物品の長さの40%である。
【0045】
拡張した短縮物品の長さLsは、以下のように決定される。
【0046】
物品が、ズウィック社(Zwick)(ドイツ、ウルム)から入手可能な水平張力試験機Z10/LH 1Sにおいて、2つのクランプの間に配置される。クランプは、物品の幅と少なくとも同一の寸法を有して、少なくとも物品の幅全体を覆う。
【0047】
クランプは、短縮製品部分が正確にクランプの間にあるように、また短縮製品の長さだけがクランプによって全く覆われないように配置される。その時、最初のクランプ間の距離は4cmであるべきである。測定は制御環境内で実施し、温度が20℃、湿度が30%に一定に保たれる。次に、20Nの力がかけられる瞬間まで、物品は水平な長手方向に引張られる。次に、クランプ間の距離と、短縮物品部分の横断方向の末端部間の距離が測定される。これが、拡張した短縮物品の長さLsである。」

(c)「【0052】
一実施形態では、物品は、特定の高さH1を有し、それは少なくとも0.25Ls、より好ましくは0.3Ls、又は更に0.35Ls、又は更に0.4Ls、又は更に0.45Lsである。H1は、以下のように決定することができる。
【0053】
物品のコアは、2つの長手方向縁部と、2つの交点で2つの長手方向縁部と交差する横断方向軸線とを有する。これら2つの交点を水平で平らな表面に取付けることによって、つまりそれぞれが実際の交点から両方の長手方向に約0.5cm伸びる2つの交差領域によって、コアは、固着した水平な位置に固着される。故に、コアは横断方向に固着されて、例えば、長手方向の軸線の周囲で折り畳むことができない。
【0054】
カフは、その時、例えば、表面に面していないコアの上にある。
【0055】
次に、カフを、コアに垂直な力線に沿って、例えば垂直に上向きに、高さH1に沿って、1N以下、好ましくは更に0.2N以下の力で上向きに引張る。これにより、カフは、幾何学的な中心点を上向きに引張ることにより、上向きに引張られるが、幾何学的な中心点がカフの開口部にある場合には、カフの幾何学的な中心点に最も近い横断方向のカフ上の2つの点で、上向きに引張られる。この引張りは、上述の力を超えないように、かけられる力を測定しながら、いかなる手段、例えば、小さいフックをカフの適切な点に取付けて、そのフックを上向きに引張ることによって行うことができる。
【0056】
その時、H1は、コアの幾何学的な中心点と、カフの引き上げられた幾何学的な中心点との間の最短距離である。
【0057】
上述の力は、弾性的に変形及び弾性的に伸びることなく、カフがまっすぐにされる又は伸ばされるだけであるように選択される。」

上記(a)の記載からすると、本願補正発明1は、カフ(トップシート)に糞便が通過する開口が設けられた吸収性物品において、糞便の重量によりバックシートやコアが垂れ下がり、これに伴いカフの下向きの移動を引き起こして、カフが着用者の皮膚から遠ざかることを防止すること課題とするものであるといえる。
また、本願補正発明1で規定されている、「拡張した短縮物品長さLs」は、上記(b)において定義されており、当該記載からすると、「拡張した短縮物品長さLs」は、物品の各横断方向末端部から、物品の(弛緩状態の)全長の20%又は30%の幅(例えば、物品の長手軸に平行な寸法)の横断方向細長部を取り除かれた残りの60%又は40%の部分を、温度が20℃、湿度が30%で、20Nの力がかけられる瞬間まで水平な長手方向に引張られた時の長さであると解される。
そして、「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH1」を特定することに関して、上記(c)に記載がなされている。
しかしながら、上記(c)の記載、さらには、明細書全体の記載を参酌しても、上記(b)のように定義される「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH1」を特定することが、吸収性物品の機能、特性、さらには、上記(a)に記載された課題とどのように関連するのか明確でなく、また、高さH1を0.25Lsとすることによりもたらされる作用効果も明確でない。
してみれば、本願補正発明1において、「拡張した短縮物品長さLs」によって「高さH1」を特定することの技術的意味が明確でなく、本願補正発明1を不明確にしている。
また、本願補正発明1を引用する、本願補正発明2乃至12についても同様に不明確である。

(2)本願補正発明2について
本願補正発明2は、「拡張した短縮物品長さLs」なる値との関係で、「前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH2の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH2」を特定することにより、吸収性物品の構成を特定することを含むものであり、具体的には、高さH2を、0.3Lsとするものである。
上記のような構成を採用することに関し、明細書には、上記(1)で挙げた(a)、(b)に加えて、以下の記載がある。

(d)「【0058】
物品が長手方向の堅いコアを有する時、H2を決定するこの測定方法は特に適用可能である。
【0059】
本発明の別の実施形態では、物品は、少なくとも0.3Ls、より好ましくは0.35Ls、又は更に0.4Ls、又は更に0.45Ls、又は更に0.5Lsである特定の高さH2を有する。H2は、以下のように決定することができる。
【0060】
コアの幾何学的な中心点を決定し、この中心点の周囲に1cm2の面積のしるしをつける。この1cm2を水平で平らな表面に取付けることによって、コアは固着した水平な位置に固着される。このようにしてコアは、中央に固着される。カフは、例えば、表面に面していないコアの上にある。
【0061】
固着されたコアは、その後、その長手方向軸線に沿って折り畳まれ、コア自体の上でほぼ折り畳まれて(これら2つの半分は、互いに接触している)、100Nの力で圧迫される。
【0062】
次に、カフを、コアに垂直な力線に沿って、例えば垂直に上向きに、高さH1に沿って、1N以下、好ましくは更に0.2N以下の力で上向きに引張る。この力の適用と、カフの上向きの引張りは、上記のように行われる。
【0063】
その時、H2は、コアの幾何学的な中心点とカフの引き上げられた幾何学的な中心点との間の最短距離である。
【0064】
上述の力は、弾性的に変形及び弾性的に伸びることなく、カフがまっすぐにされる又は伸ばされるだけであるように選択される。
【0065】
H2を決定するこの測定方法は、ユーザの脚がコアに圧力を加えてコアを曲げる、ほとんどのおむつで使用されるコアを有する場合のように、物品が長手方向に曲げることができるコアを有する時に特に適用可能である。故に、この方法は、実際の使用中の状況に最も似ている。」

上述のように、上記(1)(a)、(b)に、それぞれ本願補正発明2の課題、及び、「拡張した短縮物品長さLs」の定義が記載されているとともに、「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH2」を特定することに関して、上記(d)に記載がなされている。
しかしながら、上記(d)の記載、さらには、明細書全体の記載を参酌しても、上記(b)のように定義される「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH2」を特定することが、吸収性物品の機能、特性、さらには、上記(1)(a)に記載された課題とどのように関連するのか明確でなく、また、高さH2を0.3Lsとすることによりもたらされる作用効果も明確でない。
してみれば、本願補正発明2において、「拡張した短縮物品長さLs」によって「高さH2」を特定することの技術的意味が明確でなく、本願補正発明2を不明確にしている。
また、本願補正発明2を引用する本願補正発明5乃至12についても同様に不明確である。

(3)本願補正発明3について
本願補正発明3は、「拡張した短縮物品長さLs」なる値との関係で、「前記バックシートが幾何学的な中心点Aを有して前記カフが幾何学的な中心点Dを有し、各接続領域が前記中心点Aに最も近い線である内側接続線と前記点Dに最も近い外側接続線とを有し、Aを通る横断方向軸線が前記バックシート上の点Bで前記内側接続線と交差し、Dを通る横断方向軸線が点Cで前記外側接続線と交差し、距離(A?B)+(C?D)である距離H3」を特定することにより、吸収性物品の構成を特定することを含むものであり、具体的には、高さH3を、0.3Lsとするものである。
上記のような構成を採用することに関し、明細書には、上記(1)で挙げた(a)、(b)に加えて、以下の記載がある。

(e)「【0066】
本発明の別の好ましい実施形態では、物品は、少なくとも0.3Ls、より好ましくは0.35Ls、又は更に0.4Ls、又は更に0.45Ls、又は更に0.5Lsである特定の高さH3を有する。
【0067】
H3は、以下のように決定することができる。
【0068】
この測定にかけられる物品は、その長手方向縁部に沿って互いに接続されているバックシート及びカフを有し、すなわち、各側で、バックシートの横断方向軸線と前記縁部との交点にある少なくともバックシートの長手方向縁部のその部分は、カフの横断方向軸線と前記縁部との交点にある少なくともカフの長手方向縁部のその部分に取付けられ、典型的には縁部の全長が取付けられている。故に、それぞれが、接続領域の長手方向縁部の線である、バックシートの幾何学的な中心点A(これも上記で定義した方法によってこの測定のために決定される)に最も近い内側接続線と、接続領域の対向する長手方向縁部の線である外側接続線とを有する2つの接続領域が形成される。
【0069】
点Aを通過する横断方向軸線は、点Bで各接続縁部と交差する。各点Bは、カフの横断方向軸線と、外側接続線との交点である、カフ上の対応する点Cを有する。また、カフの幾何学的な中心点Dが決定される。その時、H3は、距離(A?B)+距離(C?D)である。
【0070】
上記で言及した接続は、カフ及びバックシートが互いに隣り合わせで配置されて接続され、また内側接続線と外側接続線がほぼ同一であり、点Bと点Cが、典型的には、ほぼ同一点である時形成される、非常に細い接続領域であってもよく、又はカフとバックシートとの間で重なり合う領域を形成し、次に重なり合う領域を接続することによって形成される接続領域は、更に広くてもよい。カフとバックシートが互いに直接接続されず、物品の1以上の他構成要素がカフとバックシートを間接的に接続する場合であってもよい。次に、接続領域は、典型的には、カフがこの構成要素に接続されている線まで、バックシートがこの他の構成要素に接続されている長手方向の線又は領域と、上記で定義した接続領域の内側接続線及び外側接続線、すなわち、それぞれバックシートの幾何学的な中心点Aへの至近線、及びカフの幾何学的な中心点Dへの至近線との間の全領域である。
【0071】
上記方法のそれぞれでは、測定は、実質的に平らな、しかし弾性的に伸びていない材料上で実施する。
【0072】
例えば、本明細書における好ましい実施形態では、カフは長手方向の襞を有し、襞は非弾性的に広がり、その場合、C?Dの距離は、絶対距離、すなわち、平らに伸ばしたカフの距離である。」

上述のように、上記(1)(a)、(b)に、それぞれ本願補正発明3の課題、及び、「拡張した短縮物品長さLs」の定義が記載されているとともに、「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH3」を特定することに関して、上記(e)に記載がなされている。
しかしながら、上記(e)の記載、さらには、明細書全体の記載を参酌しても、「拡張した短縮物品長さLs」との関係によって「高さH3」を特定することが、吸収性物品の機能、特性、さらには、上記(1)(a)に記載された課題とどのように関連するのか明確でなく、また、高さH3を0.3Lsとすることによりもたらされる作用効果も明確でない。
さらに、本願補正発明3には、点A、B、C、Dによって、高さH3を規定するものであるが、これらの点が、具体的にどのような位置であるのか、また、どのような理由により、このような点を採用しているのか、上記(e)の記載、また、明細書全体の記載を参酌しても理解できない。
したがって、本願補正発明3において、「拡張した短縮物品長さLs」や、点A乃至Dを用いて、「高さH3」を特定することの技術的意味が不明確であり、本願補正発明3を不明確にしている。
また、本願補正発明3を引用する本願補正発明5乃至12についても同様に不明確である。

(4)本願補正発明4について
本願補正発明4は、「収縮した短縮物品長さLc」なる値を用いて、「使用中のLcが乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lrよりも小さい」と構成を特定しているものである。
上記のような構成を採用することに関し、明細書には、以下の記載がある。

(f)「【0048】
収縮した短縮物品の長さLcは、以下のように決定される。
【0049】
上記のLsの測定後、物品を上述の制御された状態で1時間休止させる。その後、制御された状態にあるままで、物品を、垂直張力試験機(ズウィック社(Zwick)から入手可能)の頂部クランプに配置する。他の末端部上に10グラムのおもりを有するクランプが配置されるが、引力でおもりが引張りを開始しないように支持されたままである。
【0050】
クランプは、短縮製品の長さが全くクランプによって覆われないように配置されて、クランプの末端部が短縮物品部分の末端部に正確に配置される。クランプは締め付け点で、少なくとも物品の幅の寸法を有し、物品の幅全体を覆う。
【0051】
次に、おもりの支持が取り除かれて、おもりは5分間垂れ下がる。次に、クランプ間の距離と、短縮物品部分の末端部間の距離が測定される。これが収縮した短縮物品の長さLcである。」

(g)「【0073】
好ましい実施形態では、本発明の物品は、股部を経て測定された、使用する際にLcよりも長い、着用者のへそから着用者の腰のくびれまでの最短距離Lrである「上がり」Lrを有する大人用又は乳幼児用おむつであり、好ましくはLcは、Lrより少なくとも20%少ない、より好ましくは少なくとも30%少ない、又は更に少なくとも40%少ない、又は更に少なくとも50%少ない、又は更に少なくとも60%少ない。
【0074】
「使用する際」は、おむつが最初に身に着けられる時、並びに使用中、及びおむつが身体からの流体、特に糞便物質を含む時の場合であることを意味する。
【0075】
Lrの上記測定は、乳幼児又は乳幼児マネキン(人形)、例えば、サイズ4のおむつを着用するのに好適な乳幼児に類似した、大腿回り28cm、ヒップの上の股ぐり35cm、及び腰回り46cmを有するマネキンに実施してもよい。
【0076】
本発明の好ましい実施形態では、物品は、物品の0.5Ls未満のLcを有する。好ましくは、物品のLcは、物品の0.45Ls未満、又は更に0.4Ls未満、又は更に0.35Ls未満、又は更に0.3Ls未満である。」

本願補正発明4で規定されている、「収縮した短縮物品長さLc」は、上記(f)で定義されており、当該記載からすると、「収縮した短縮物品長さLc」は、Lsの測定後、制御された状態で1時間休止させ、その後、物品を、垂直張力試験機(ズウィック社(Zwick)から入手可能)の頂部クランプに短縮製品の長さが全くクランプによって覆われないように配置し、他の末端部上に10グラムのおもりを有するようにし、おもりを5分間垂れ下げたときの、クランプ間の距離と、短縮物品部分の末端部間の距離であると解される。
また、「収縮した短縮物品長さLc」と「乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lr」との関係を規定することに関して、上記(g)に記載がなされている。
しかしながら、上記(g)の記載、さらには、明細書全体の記載を参酌しても、「収縮した短縮物品長さLc」と「乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lr」との関係を規定することが、吸収性物品の機能、特性等とどのように関連するのか明確でなく、また、「使用中のLcが乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lrよりも小さい」という構成を採用することによりもたらされる作用効果も明確でない。
したがって、本願補正発明4において、「収縮した短縮物品長さLc」と「最短距離Lr」との関係で、吸収性物品の構成を特定することの技術的意味が明確でなく、本願補正発明4を不明確にしている。
また、本願補正発明4を引用する本願補正発明5乃至12についても同様に不明確である。

4.補正却下の決定のむすび
したがって、本願補正発明1乃至12は不明確であり、特許法第36条第6項第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年11月12日になされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至13に係る発明(以下、「本願発明1」・・「本願発明13」という。)は、平成18年7月20日に補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
バックシート、コア、並びに開口部を含む耐垂下性の肛門カフ及び/又は膣カフを有し、前記カフが弛緩状態で1つ以上の長手方向の襞を有する吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収性物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有する短縮物品部分を有し、前記バックシート、カフ、及びコアそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH1の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH1が、少なくとも0.25Lsである、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記吸収性物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が拡張した短縮物品長さLsを有する短縮物品部分を有し、前記バックシート、カフ、及びコアそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記コアの横断方向に固定された前記幾何学的な中心点から、前記コアから前記高さH2の方向へ1.0Nの力で引張られた前記カフの前記幾何学的な中心点までの高さであるH2が、少なくとも0.3Lsである、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が短縮物品長さL、拡張した短縮物品長さLsを有し、前記バックシート、コア、及びカフそれぞれが長手方向軸線及び横断方向軸線を有し、前記カフ又はその部分の各長手方向縁部と前記バックシートの対応する長手方向縁部とが相互に接続されて長手方向接続領域を形成し、前記バックシートが幾何学的な中心点Aを有して前記カフが幾何学的な中心点Dを有し、各接続領域が前記中心点Aに最も近い線である内側接続線と前記点Dに最も近い外側接続線とを有し、Aを通る横断方向軸線が前記バックシート上の点Bで前記内側接続線と交差し、Dを通る横断方向軸線が点Cで前記外側接続線と交差し、距離(A?B)+(C?D)である距離H3が、少なくとも0.3Lsである、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記物品が短縮物品部分を有し、前記短縮物品部分が短縮物品長さL、拡張した短縮物品長さLs、及び収縮した短縮物品長さLcを有し、使用中のLcが乳児又は大人のへそと腰のくびれとの間の最短距離Lrよりも小さい、乳児用又は大人用おむつの形態の、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記吸収性物品がバックシート及び肛門カフ又は膣カフを含み、前記肛門カフ又は膣カフが着用者の皮膚にごく近接してあり、前記吸収性物品が長手方向及び横断方向を有し、前記カフが長手方向に伸張性であって前記着用者の皮膚にごく近接して留まる手段を有し、1N以下の力が前記カフにかけられる時に、弛緩状態の前記カフが横断方向にも伸張性である、請求項1?5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記バックシート及び前記膣カフ又は肛門カフそれぞれが長手方向及び横断方向を有し、前記カフの横断方向最大幅に対するLsの比が、前記カフの横断方向最大幅が1とした場合にLSが少なくとも5である、請求項1?6のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記カフの前記開口部が、長手方向縁部と、前記カフを前記着用者の皮膚にごく近接して保持する前記長手方向縁部に沿う手段とを有し、前記手段が1つ以上の伸縮性区域及び/又は接着剤区域であり、弛緩状態の前記カフが横断方向及び長手方向に伸張性である、請求項1?7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
前記物品が長さLcの収縮した短縮物品部分を有し、前記開口部の最大長さが、Lcの少なくとも50%?90%である、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記伸縮性区域それぞれが、それぞれ5?30mmの幅を有する、1つ以上の弾性バンドを前記区域に沿って長手方向に有する、請求項8又は9に記載の物品。
【請求項11】
前記バックシート及びカフそれぞれが幾何学的な中心点を有し、前記バックシートの幾何学的な中間点を通る前記バックシートの最小幅がWbであり、前記カフの幾何学的な中心点を通る前記カフの最小幅がWcであり、前記バックシートがその長手方向軸線に沿って水平で平らな平面に取付けられ、前記カフの前記幾何学的な中心点が前記カフ及びバックシートの前記幾何学的な中心点を通るほぼ垂直な軸線に沿う力で垂直に上向きに引張られて、前記力が前記バックシート又はカフの弾性変形を起さないようなものである時、前記カフの前記幾何学的な中心点から前記バックシートの前記幾何学的な中心点までの距離HCがWb-4cmを超える、及び/又はH4が0.8Wb以上である、請求項1?10のいずれか一項に記載の物品。
【請求項12】
前記コアが前記カフとバックシートとの間に配置され、前記コアと前記カフが相互に接合されない、請求項1?11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
前記物品が、大人用若しくは乳児用おむつ、プルアップパンツ、又はトレーニングおむつである、請求項1?12のいずれか一項に記載の物品。」

第4 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。

「[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1?16には、「好ましくは」「更に」等の記載が多数あり、その記載の後の構成が請求項に含まれるのか、含まれないかが明確でない。また、請求項1?14には、「短縮物品長さ」、「拡張した短縮物品長さ」「収縮した短縮物品長さ」及び「幾何学的中心点」と記載されているが、その規定は不明確であり、その数値を元とした高さ等の数値限定にどのような技術的意味があるのかが不明確である。特に、請求項4がどのようにして下限の値が導き出され、どのような意味で数値限定に意義があるのかについては不明である。(数値限定には、その数値を特定することの技術的意味が記載されていることが好ましく、加えて臨界的意義があることが必要であることが多い)
また、請求項7に記載されている比率は、前者と後者のどちらかが、カフを示すのかが不明確である。請求項15には、コアとカフの間にカフが配置されると記載されており、意味が通らない。請求項16には、「ほぼ全活性長さ」と記載されているが、意味が不明確である。加えて、製造方法でなくては、この吸収性物品の構成を特定することができないとも認められない。よって、請求項1?16に係る発明は明確でない。」

第5 当審の判断
本願発明2乃至13は、それぞれ、本願補正発明1乃至12に対応するものであり、本願補正発明1の誤記の訂正、及び、本願補正発明3、4の「短縮物品長さL」が「前記物品の長さ方向中央部にあって前記物品の長さの60%である」という限定を、省いたものであり、その他の構成については、本願補正発明1乃至12と差違がない。
そうすると、本願発明2乃至13は、上記第2、「3.当審の判断」で検討した特許法第36条第6項2号の記載要件に違反する記載をそのまま包含するものである。そして、これらの記載要件違反の理由は、上記第4の原査定の理由に示された、「拡張短縮物品長さLs」、「収縮短縮物品長さLc」との関係で高さH1乃至H4などを規定することの技術的意味が明確でないことに基づくものであるから、本願発明2乃至13も同様の理由により、発明が不明確であり特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のように、本願発明2乃至12は、発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-05 
結審通知日 2009-08-07 
審決日 2009-08-19 
出願番号 特願2003-515187(P2003-515187)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 善弘内山 隆史  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 村上 聡
熊倉 強
発明の名称 カフを有する吸収性物品  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 永井 浩之  
代理人 吉武 賢次  
代理人 岡田 淳平  

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