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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1209720
審判番号 不服2008-20342  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-07 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 特願2003-180166「プラズマ表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日出願公開、特開2005- 17534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は平成15年6月24日の出願であって、平成19年6月28日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年6月27日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として同年8月7日に本件審判請求がされるとともに、同年9月8日付けで明細書について手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年9月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年9月3日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲についての

「【請求項1】 プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含み、前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、弾性を有し、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。
【請求項2】 前記導電体は、金属で形成され、前記プラズマディスプレイパネルの画像表示領域に対応する開口部を設けた額縁形状を有することを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。
【請求項3】 前記導電体は、導電性を有する金属箔または金属繊維で表面が被覆されている合成樹脂で形成され、前記プラズマディスプレイパネルの画像表示領域に対応する開口部を設けた額縁形状を有することを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。
【請求項4】 前記電気的接続領域は、前記フィルム状光学フィルタから露出していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のプラズマ表示装置。
【請求項5】 前記フィルム状光学フィルタは、前記電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルとの間に他の層を有し、該他の層は電磁波遮断層と対応する広さを有することを特徴とする請求項4記載のプラズマ表示装置。
【請求項6】 前記フィルム状光学フィルタは、前記電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルとの間に他の層を有し、前記電磁波遮断層が前記他の層よりも広く、前記電磁波遮断層の周縁部と前記プラズマディスプレイパネルとの間に、前記電磁波遮断層の周縁部を支持する絶縁性を有する支持体を備えることを特徴とする請求項4記載のプラズマ表示装置。
【請求項7】 プラズマディスプレイパネルの表示面に、可撓性を有するフィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタの周縁部に、前記フィルム状光学フィルタと前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記フィルム状光学フィルタの周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、弾性を有し、前記フィルム状光学フィルタの周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記フィルム状光学フィルタと前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。」

の記載を、

「【請求項1】 プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含み、前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。
【請求項2】 前記導電体は、前記プラズマディスプレイパネルの画像表示領域に対応する開口部を設けた額縁形状を有することを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。
【請求項3】 前記電気的接続領域は、前記フィルム状光学フィルタから露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ表示装置。
【請求項4】 前記フィルム状光学フィルタは、前記電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルとの間に他の層を有し、該他の層は電磁波遮断層と対応する広さを有することを特徴とする請求項3記載のプラズマ表示装置。
【請求項5】 前記フィルム状光学フィルタは、前記電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルとの間に他の層を有し、前記電磁波遮断層が前記他の層よりも広く、前記電磁波遮断層の周縁部と前記プラズマディスプレイパネルとの間に、前記電磁波遮断層の周縁部を支持する絶縁性を有する支持体を備えることを特徴とする請求項3記載のプラズマ表示装置。
【請求項6】 プラズマディスプレイパネルの表示面に、可撓性を有するフィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタの周縁部に、前記フィルム状光学フィルタと前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記フィルム状光学フィルタの周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され、前記フィルム状光学フィルタの周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記フィルム状光学フィルタと前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。」

と補正することを含むものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件についての検討
本件補正は、本件補正前の請求項3を削除するとともに、本件補正前の請求項1?2,4?7の「弾性を有」する「導電体」を「バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され」た「導電体」と限定する補正である。すると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」及び同項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
上記(1)で検討したとおり、本件補正のうち本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か、すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かを検討する。

ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、本件補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含み、前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。」

イ 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本件の出願前に頒布された刊行物である特開2001-343898号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のa?fの記載が図面とともにある。

a 「【請求項1】 透明導電フィルムに接着層を介して光学特性調整フィルムを貼付して成るフィルム状前面フィルターを有し、このフィルム状前面フィルターをプラズマディスプレイパネルの前面側に接着層を介して貼付したことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項2】 請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、前記フィルム状前面フィルターとプラズマディスプレイパネルの縁部の非発光部分との間は、前記接着層を設けずに剥離可能にしたことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載のプラズマディスプレイ装置において、前記フィルム状前面フィルターの縁部では透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として装置筐体に電気的に接するように構成されたことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項4】 請求項3に記載のプラズマディスプレイ装置において、前記バスバー領域はプラズマディスプレイパネルの発光部分よりも外側で且つプラズマディスプレイパネルの縁よりも内側に形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。」

b 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)を用いたプラズマディスプレイ装置に関する。」

c 「【0003】図7は、プラズマディスプレイ装置の内部構造例を示した断面図である。支持基板51の一方の面にはPDP52が取り付けられ、他方の面には電源回路53及び各種回路が搭載された回路搭載基板54が取り付けられている。支持基板51は裏面パネル55に固定され、この裏面パネル55が筐体56に取り付けられている。
【0004】PDP52の光出射側には空冷用の空間をおいて前面フィルターガラス板57が配置される。前記空冷用の空間を通る空気は、PDP52から放出される熱を奪い、筐体56の上端部に設けられたファン60によって機外へと排出されることになる。前面フィルターガラス板57は、コントラストや色温度の調整を行うことに加え、その裏面側に有する透明導電膜(ITO等)57aによって前記PDP52から放出される電磁波放射ノイズを低減する。前面フィルターガラス板57はその四辺を金属製の支持部材58によって筐体56に固定されている。前面フィルターガラス板57は重く、しかも透明導電膜57aと金属製の支持部材58との接触電気抵抗を小さくすべくその圧接度を高めるために、多数のねじが必要とされる。
【0005】また、PDP52における線状電極は、極めて細く形成されており、断線を皆無にすることは困難である。そこで、線状電極に断線が生じた場合には、図8に示すように、リペア処理を施すようにしている。図8の例では、列電極となる線状電極の一つに断線が生じている。線状電極の一端側は図示しない駆動回路に接続されており、この駆動回路に接続されている側の部分にリペア線61の一端を半田等によって接続する。そして、リペア線61をリペア領域(PDP非発光部分のガラス面上)において這わし、リペア線61の他端を線状電極の他端側(駆動回路に接続されていない側の部分)に接続する。これにより、線状電極の他端側にも前記リペア線61を介して駆動回路から電圧が印加されることになり、発光不能状態から回復させることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】プラズマディスプレイ装置は、壁掛けテレビとしての利用に有利と考えられており、軽量化や薄型化を図ることが重要課題となるが、上述したプラズマディスプレイ装置では、空冷用の空間を設けているために薄型化の点で十分ではなく、しかも、重い前面フィルターガラス板57を備えるため、軽量化の点でも十分ではないと考えられる。更に、この重い前面フィルターガラス板57を筐体に固定するためには多数のねじが必要とされ、製造工程におけるねじ留め作業数が多くなってしまうという欠点がある。
【0007】この発明は、上記の事情に鑑み、軽量で薄型のプラズマディスプレイ装置を提供することを第1の目的とする。そして、当該軽量・薄型の構造においてリペアが容易に行える構造を提供することを第2の目的とする。また、当該軽量・薄型の構造において電磁波放射ノイズを低減するための電気的接続が容易に行える構造を提供することを第3の目的とする。」

d 「【0008】
【課題を解決するための手段】この発明のプラズマディスプレイ装置は、上記の課題を解決するために、透明導電フィルムに接着層を介して光学特性調整フィルムを貼付して成るフィルム状前面フィルターを有し、このフィルム状前面フィルターをプラズマディスプレイパネルの前面側に接着層を介して貼付したことを特徴とする。
【0009】上記の構成であれば、プラズマディスプレイパネルの前面にフィルム状前面フィルターを直接的に貼り付けるため、プラズマディスプレイパネルとフィルム状前面フィルターとの間には空冷用の空間は存在せず、プラズマディスプレイ装置は薄型になる。プラズマディスプレイパネルが発する熱は、前記冷却用の空間が無いため、フィルム状前面フィルターを伝って外へと放出される。また、重い前面フィルターガラス板ではなく、フィルム状前面フィルターを備えるので軽量化が図れるとともに、重い前面フィルターガラス板を筐体に固定する場合のように多数ねじを必要とすることもなくなる。
【0010】前記フィルム状前面フィルターとプラズマディスプレイパネルの縁部の非発光部分との間は、前記接着層を設けずに剥離可能にしているのがよい。これによれば、プラズマディスプレイパネルに直接的にフィルム状前面フィルターを貼り付けつつ、プラズマディスプレイパネルの非発光部分の面上においては当該フィルム状前面フィルターを剥離可能とし、この剥離可能領域をリペア領域としてリペア線を配置することが可能になる。
【0011】前記フィルム状前面フィルターの縁部では透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として装置筐体に電気的に接するように構成するのがよい。これによれば、フィルム状前面フィルターを用いる軽量・薄型の構造において電磁波放射ノイズを低減するための装置筐体への電気的接続が行えることになる。
【0012】前記バスバー領域はプラズマディスプレイパネルの発光部分よりも外側で且つプラズマディスプレイパネルの縁よりも内側に形成されているのがよい。これによれば、フィルム状前面フィルターを貼付したプラズマディスプレイパネルを装置筐体に押しつけるようにして装着することで、前記バスバー領域は装置筐体に圧接することになるから、バスバー領域を装置筐体に圧接するための圧接具を不要にし得る。」

e 「【0013】
【発明の実施の形態】(実施形態1)以下、この発明の第1の実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。図1はプラズマディスプレイ装置の斜視図(筐体内を透視的に示している)であり、図2はプラズマディスプレイ装置の断面図であり、図3はプラズマディスプレイパネルの発光/非発光領域とフィルム状前面フィルターのバスバー領域との関係を示した説明図であり、図4はフィルム状前面フィルターの詳細を示した断面図である。
【0014】図1及び図2に示すように、長方体形状の筐体6内にプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する)2が収容されている。このPDP2の前面には、フィルム状前面フィルター7が接着されている。PDP2はその裏面側に配置された支持基板1の一方の面側に固定されている。支持基板1の他方の面側には電源回路3及び各種回路が搭載された回路搭載基板4が取り付けられている。支持基板1は裏面パネル5に固定されており、この裏面パネル5が筐体6に取り付けられる。筐体6内の上部にはファン9が取り付けられている。筐体6の前面枠6bには、PDP2の発光部分に対応した開口6aが形成されている。
【0015】PDP2は、その詳細は図示しないが、例えば、多数の線状電極が所定間隔で配置された裏面側ガラス基板と表面側ガラス基板とを、前記電極が互いに直交するようにして貼り合わせ、両基板間にNe(ネオン)とXe(キセノン)とからなる混合ガス等を充填した構造を有する。裏面側と表面側の各電極が直交する各箇所において放電セルが構成されることになり、この放電セル内において放電により生じた紫外線が裏面側或いは表面側のガラス基板に設けた蛍光体に当たると、この蛍光体から可視光が出射される。フルカラーのプラズマディスプレイ装置とする場合には、前記蛍光体としてR(赤),G(緑),B(青)の光を発するものを一組としてこれを多数配置することになる。PDP2の外周部では線状電極は交差しておらず、当該外周部は非発光領域2aを成す。
【0016】フィルム状前面フィルター7は、図3にも示しているように、PDP2よりも幾分大きな長方形状を有している。フィルム状前面フィルター7の外周部はバスバー領域7aを成している。このバスバー領域7aは、PDP2の外周よりも外側に位置し、筐体6における前面枠6bの裏面に設けた導体部(図示せず)に電気的に接する。PDP2から放射される電磁波は、フィルム状前面フィルター7において電流に変換され、この電流が前記バスバー領域7aを介して筐体6の導体部に流れることで、電磁波放射ノイズが低減されることになる。
【0017】また、フィルム状前面フィルター7は、図4に示すように、透明導電フィルム71の前面に接着層72を介して光学特性調整フィルムとしての反射防止フィルム(ARフィルム)73を貼付した構造を有する。反射防止フィルム73及び接着層72は、透明導電フィルム71の外周縁部には存在しておらず、透明導電フィルム71の外周縁部は導電フィルム露呈部となって前述したバスバー領域7aを成す。透明導電フィルム71は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜したものである。また、接着層72としては、例えばアクリル系接着材を用いる。そして、かかるフィルム状前面フィルター7は、前記透明導電フィルム71の裏面側に塗布された接着層10によってPDP2の前面に貼付されている。接着層10は、PDP2における前述の非発光領域2a上には存在していない。従って、非発光領域2a上においては、フィルム状前面フィルター7を剥離することができる。この剥離可能領域をリペア領域とする。
【0018】以上説明したように、PDP2の前面にフィルム状前面フィルター7を直接的に貼り付けているため、PDP2とフィルム状前面フィルター7との間には空冷用の空間は存在せず、プラズマディスプレイ装置を薄型にできる。PDP2が発する熱は、前記冷却用の空間が無いため、フィルム状前面フィルター7を伝って外へと放出されることになる。また、重い前面フィルターガラス板ではなく、フィルム状前面フィルター7を備えるので軽量化が図れるとともに、重い前面フィルターガラス板を筐体に固定する場合のように多数ねじを必要とすることもなくなる。また、前記透明導電フィルム71の裏面とPDP2の縁部の非発光領域2aとの間には前記接着層10を介在させておらず、剥離可能である。これにより、PDP2に直接的にフィルム状前面フィルター7を貼り付けつつ、PDP2の非発光部分2aの面上においては当該フィルム状前面フィルター7を剥離可能とし、この剥離可能領域をリペア領域としてリペア線(図示せず)を配置することが可能になる。
【0019】フィルム状前面フィルター7の外周部に形成したバスバー領域7aが筐体6における前面枠6bの裏面の導体部(図示せず)に電気的に接する。これにより、フィルム状前面フィルター7を用いた軽量・薄型の構造において電磁波放射ノイズを低減するための筐体6への電気的接続が行えることになる。」

f 「【0023】
【発明の効果】以上説明したように、この発明のプラズマディスプレイ装置であれば、プラズマディスプレイパネルの前面側にフィルム状前面フィルターを直接的に貼り付ける構造であるから、軽量で薄型のプラズマディスプレイ装置を実現できる。そして、フィルム状前面フィルターの縁部についてはプラズマディスプレイパネルに対して剥離可能としたので、当該軽量・薄型の構造においてリペア処理が容易に行える。また、フィルム状前面フィルターの縁部にバスバー領域を形成したので、当該軽量・薄型の構造において電磁波放射ノイズを低減するための筐体への電気的接続が容易に行える。更に、バスバー領域をプラズマディスプレイパネルの発光部分よりも外側で且つプラズマディスプレイパネルの縁よりも内側に形成する構成であれば、筐体への電気的接続が一層容易になる。」

また、原査定の拒絶理由に引用され、本件の出願前に頒布された刊行物である特開2002-116700号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のg?lの記載が図面とともにある。

g 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電磁波を遮蔽するために用いられる透光性電磁波シールド板の製造方法及び該方法により得られた透光性電磁波シールド板に関し、さらに詳しくは、プラズマディスプレイのディスプレイパネル(以下、PDP(PlasmaDisplay Panel)と称することもある。)の前面に配置して用いられるプラズマディスプレイパネル用前面板や医療用機器用前面板などとして用いられる透光性電磁波シールド板について、電磁波遮蔽効果を発揮するための接地(アース)を取ることが容易にできる電極部を形成する方法、該電極部を有する透光性電磁波シールド板、及びPDP用電磁波シールド前面板に関する。」

h 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来の透光性電磁波シールド板がもつ問題点を解消し、透明基材と導電性部材と透光性フィルムとの密着性に優れ、且つ電磁波遮蔽効果を発揮するための接地(アース)を取ることが容易にできる透光性電磁波シールド板の内周に電極部を形成する方法、該方法により得られた透光性電磁波シールド板、及びPDP用電磁波シールド前面板を提供することにある。」

i 「【0062】上記の実施例1?3で作製されたPDP用電磁波シールド前面板に、導電性ガスケットを装着し、PDP本体への装着に際してのアース取りの確実性が向上する例を説明する図として、図6を示す。導電性ガスケット(17)は、導電性部材(6)の外層に積層された透光性フィルム(4)や、額縁部材(10)などを取り除き、導電性部材(6)の表層部を露出させた部分、すなわち、電極部(3)に、装着されている。」

j 「【0063】[実施例4]図5は、本発明の他の実施形態である実施例4を説明した、前面板の断面図である。最外層を形成する透光性フィルム(4)として、ARフィルム(8)を用い、そのARフィルム(8)の内面側に、電極部に対応する内周四囲を切り取った熱接着性フィルム(11)を、そして、その切り取った部分に替えて、導電性額縁部材(16)を、さらに、それらの内側に、導電性部材(6)としての導電性繊維メッシュ(12)を、透明基材(5)としてのガラス板(5)上に積層する。そして、ガラス板(5)の一方の反対側面に、熱接着性フィルム(11)を、熱接着性フィルム(11)に隣接して粘着剤層(9)を有する近赤外線吸収フィルム(13)を、また、その外側に熱接着性フィルム(11)を、そしてまた、熱接着性フィルム(11)に隣接してARフィルム(8)を積層し、これら全てを、鏡面板に挟み脱気後、温度100℃、圧力10kg/cm2、60分間の条件の熱圧着(ホットプレス)により、一体化したものである。その後、電極部に対応する外層の透光性フィルムであるARフィルム(8)のみを取り除き、導電性額縁部材(16)を露出させたものである。この導電性額縁部材(16)は、電極部の役割を果たすものである。
【0064】導電性額縁部材(16)として、導電性ガスケットを用いた。導電性ガスケットとしては、シールドガスケット E02S100035A(星和電機株式会社製)を用いた。これは、概略断面形状長四角状であり、ウレタン樹脂の発泡体を芯として、その外周を導電性メッシュで包囲した形態のものであり、さらに導電性部材(6)と接する面には、導電性の粘着剤が塗布され、成形後の脱落を防止している。その他は実施例1と同じ材料を用いた。
【0065】上記のようにして作製された各プラズマディスプレイパネル(PDP)用前面板は、図7、8に示すような形態として使用され、PDP用前面板として必要な電磁波遮蔽性能及びその他の諸機能を十分に満たしていた。(以下略)」

k 「【0066】
【発明の効果】本発明の方法により、得られた透光性電磁波シールド板は、導電性部材の導電部がその内周部分に露出しているので、外形寸法に見合った導電性の外枠材にあてがうだけで容易にアース取りが可能となる。したがって、本発明に係る透光性電磁波シールド板は、各種用途に用いることができ、例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)用前面板や、医療用機器、カーナビゲーション、パチンコ台などの前面板、さらには、ビルの窓にも用いることができる。また、内周に電極部が形成された透光性電磁波シールド板において、前記額縁部材が配置されたところへ、概略断面円形状の導電性ガスケットなどを配置すれば、例えば、PDP用前面板などの用途に対しては、PDP本体への装着に際してのアース取りの確実性が向上する。(以下略)」

l 引用例2の上記記載事項j?l及び図6,8から、引用例2には、プラズマディスプレイパネル(PDP)用前面板の導電性部材と前記PDPを収容し内側が導電処理された筐体との間に導電性ガスケットを装着して、アース取りの確実性を向上させたことが記載されていると認めることができる。

ウ 引用例1記載の発明の認定
引用例1の上記記載事項a?fから、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。

「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルムの前面に接着層を介して光学特性調整フィルムを貼付して成るフィルム状前面フィルターを有し、前記フィルム状前面フィルターをプラズマディスプレイパネルの前面側に接着層を介して貼付したプラズマディスプレイ装置において、
前記プラズマディスプレイパネルが筐体内に収容され、
前記フィルム状前面フィルターの縁部では前記透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として前記筐体の前面枠の裏面の導体部に電気的に接するように構成されたプラズマディスプレイ装置。」(以下「引用発明」という。)

エ 本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明の「プラズマディスプレイパネル」、「フィルム状前面フィルター」、「プラズマディスプレイ装置」は、それぞれ、本件補正発明の「プラズマディスプレイパネル」、「フィルム状光学フィルタ」、「プラズマ表示装置」に相当する。
そして、引用発明の「フィルム状前面フィルターをプラズマディスプレイパネルの前面側に」「貼付」することは、本件補正発明の「プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付け」ることに相当する。

(イ)a 引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」は、本件補正発明の「電磁波遮断層」に相当する。そこで、引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」は、本件補正発明の「可撓性を有する電磁波遮断層」に相当するか否かを検討する。
この点、請求人は、平成20年10月22日付けの手続補正により補正された平成20年8月7日付けの審判請求書の請求の理由において、「引例1の透明導電フィルムが本願の電磁波遮断層に対応すると仮定したとしても、引例1には、透明導電フィルム(電磁波遮断層)を、可撓性を有したまま用いることについては開示も示唆もしていない。」、「引例1に記載の透明導電フィルム71は、銅箔12を介して筐体6の前面枠6bに接触している。通常、前面枠6bは可撓性を有していない。そして可撓性を有していない前面枠6bに銅箔12及び透明導電フィルム71を接触させて導通をとるために固定した場合、透明導電フィルム71に可撓性が生じるとは考え難い。即ち引例1に開示されているプラズマディスプレイ装置が完成した段階において、透明導電フィルム71が可撓性を有しているとは考え難い。」と主張するとともに、平成21年7月7日付けの回答書において、「引用文献1において、「透明導電フィルム71」は、プラズマディスプレイ装置が完成した段階において可撓性を有することを考慮して用いられたものではない。」と主張している。
しかし、(i)本件補正発明の「電磁波遮断層」が「可撓性を有する」ことについて、本件明細書の発明の詳細な説明には、「電磁波遮断層102cの材質が可撓性を有する」(段落【0014】)、「電磁波遮断層23の材質は可撓性を有する」(段落【0041】、【0054】)と記載されている。そして、「材質」という日本語の通常の意味に照らすと、前記「電磁波遮断層」「の材質」とは、「電磁波遮断層」がプラズマディスプレイ装置に組み込まれる前後を問わず、「電磁波遮断層」それ自体が有する材料の性質をいうことは明らかである。また、(ii)本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】?【0014】に記載された従来例において、「電磁波遮断層の周縁部」が「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域側へ撓むのは、「電磁波遮断層」の材質が可撓性を有するとともに、「電磁波遮断層の周縁部」と「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域との間に空隙が存在するためであるところ、本件補正発明には「電磁波遮断層の周縁部」と「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域との間に空隙が存在することは記載されていないから、本件補正発明の「プラズマディスプレイ装置」が完成した段階において、「電磁波遮断層の周縁部」が「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域側へ撓むと認めることはできない。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0054】には、「色調整層22を電磁波遮断層23と同様の広さで設けていることから、電磁波遮断層23がプラズマディスプレイパネル11の画像非表示領域11b側へ撓む空隙が存在しない」と記載されているから、本件補正発明の「プラズマディスプレイ装置」が完成した段階において、「電磁波遮断層の周縁部」と「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域との間に空隙が存在しない場合に、「電磁波遮断層の周縁部」が「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域側へ撓わないことは、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0054】の前記記載において請求人も認めている。すると、本件明細書において「電磁波遮断層」が「可撓性を有する」こととは、「プラズマディスプレイ装置」に組み込まれる前の「電磁波遮断層」それ自体の材料の性質が「可撓性」であるということを意味するのであって、請求人が主張するように「プラズマディスプレイ装置」が完成した段階における「電磁波遮断層」の材料の性質が「可撓性」であるということを意味するものではない。したがって、請求人の上記主張は採用できない。
そして、(a)引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」は「フィルム」であるところ、「フィルム」が可撓性を有するものであることは本件出願時における技術常識であること、(b)引用発明の「透明導電フィルム」は「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した」ものであり、その結果、「重い前面フィルターガラス板ではな」く「軽量化が図れる」ものであるから(引用例1の上記記載事項eの段落【0018】)、引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」の厚さ及び重量はいずれも少ないものであること、(c)請求人は、本件明細書において引用例1を特許文献1として引用するとともに(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】)、「特許文献1に開示されているような従来のプラズマ表示装置では、電磁波遮断層102cの材質が可撓性を有する」(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】)としていることに照らすと、引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」は可撓性を有すると認めることができる。
したがって、引用発明の「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルム」は、本件補正発明の「可撓性を有する電磁波遮断層」に相当する。

b また、引用発明の「フィルム状前面フィルター」が「PET(ポリエチレンテレフタレート)から成る基体シートにITO(インジウムとスズの合金酸化膜)を成膜した透明導電フィルムの前面に接着層を介して光学特性調整フィルムを貼付して成る」ことは、本件補正発明の「フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含」むことに相当する。

(ウ)引用発明の「プラズマディスプレイパネルが」「収容され」る「筐体」は、本件補正発明の「プラズマディスプレイパネルを保護する筐体」に相当し、引用発明の「前記筐体の前面枠の裏面の導体部」は、本件補正発明の「筐体に設けた導体部」に相当する。
したがって、引用発明の「前記フィルム状前面フィルターの縁部では前記透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として前記筐体の前面枠の裏面の導体部に電気的に接するように構成された」ことは、本件補正発明の「前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有する」ことに相当する。また、引用発明の「前記フィルム状前面フィルターの縁部では前記透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として前記筐体の前面枠の裏面の導体部に電気的に接する」ことと、本件補正発明の「前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続する」こととは、「前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続する」点で一致する。

(エ)以上から、本件補正発明と引用発明とは、

「プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含み、前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続するプラズマ表示装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
「前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続する」ために、本件補正発明では、「前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成され、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ」ているのに対し、引用発明では、そのような限定がない点。

オ 相違点についての判断
(ア)引用例2の上記記載事項g?lから、引用例2には、プラズマディスプレイパネル(PDP)用前面板の導電性部材と前記PDPを収容し内側が導電処理された筐体との間に、ウレタン樹脂の発泡体を芯として、その外周を導電性メッシュで包囲した形態のものである導電性ガスケットを装着して、アース取りの確実性を向上させた旨記載されていると認めることができる。ここで、導電性ガスケットが2つの部材間に圧縮された状態で挿入された弾性体であることは本件出願時における技術常識であるから(例えば、特開平11-54980号公報(段落【0003】、【0017】、【0033】?【0034】、【0050】?【0051】、【0067】?【0068】)、特開平9-153695号公報(段落【0023】?【0024】、【0036】?【0039】)、特開2002-185181号公報(段落【0021】?【0022】)を参照。)、引用例2のウレタン樹脂の発泡体を芯としてその外周を導電性メッシュで包囲した形態のものである導電性ガスケットも、プラズマディスプレイパネル(PDP)用前面板の導電性部材と筐体の内側の導電処理部との間に圧縮された状態で挿入されていると認めることができる。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、プラズマディスプレイ装置の技術分野において、プラズマディスプレイパネルの前面に導電性部材を設けるとともに、前記導電性部材と前記プラズマディスプレイパネルを収容する筐体とを電気的に接続して、電磁波ノイズを低減する点で共通する。
すると、引用発明において「前記フィルム状前面フィルターの縁部では前記透明導電フィルムが露呈され、この露呈部分をバスバー領域として前記筐体の前面枠の裏面の導体部に電気的に接するように構成」するに当たり、引用発明の「透明導電フィルム」の「露呈部分」と「前記筐体の前面枠の裏面の導体部」とを引用例2の「ウレタン樹脂の発泡体を芯として、その外周を導電性メッシュで包囲した形態のものである導電性ガスケット」により電気的に接続すること、すなわち、本件補正発明の「前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、」「前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続する」ことは、当業者にとって容易に想到し得る。

(イ)そして、電子機器の技術分野において、ある部材と筐体とを電気的に接続して電磁波ノイズが漏れることを防止する際、ある部材と筐体とを電気的に接続する部材を金属製の導電性ばねとすること、すなわち、本件補正発明の「バネ状に加工して弾性を有する金属で形成」することは、本件出願時において当業者に周知の技術であるから(一例として、特開平9-153695号公報(段落【0025】?【0026】)を参照。)、上記周知技術に基づいて引用例2の「導電性ガスケット」を金属製の導電性ばねとすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
したがって、引用発明に上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

カ 本件補正発明の独立特許要件の判断
(ア)以上のとおり、引用発明に上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(イ)次に、本件補正発明の効果は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであるか否かを検討する。
請求人は、本件補正発明の効果について、(a)「本発明に係るプラズマ表示装置によれば、弾性を有する導電体の存在により、電磁波遮断層がプラズマディスプレイパネルの画像非表示領域側へ撓んだ場合であっても、導電体が弾性により常態の厚さへ戻ろうとし、導電体と電磁波遮断層上のバスバー領域との接触が絶たれることがない。したがって、電磁波遮断層が撓むことにより生じる接触不良等を原因とする導通障害が発生することを防止することができ、電磁波によるノイズの低減効果を維持することが可能となる。」(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0071】)、「可撓性を有する電磁波遮断層が撓むことにより生じる接触不良等を防止することが期待できる。そして金属による弾性体を用いることで、電磁波遮断層との接触面積や接触圧力の設計自由度が高まり、これにより可撓性を有する電磁波遮断層であったとしても確実な導通を実現することが期待できる。」(平成20年10月22日付けの手続補正により補正された平成20年8月7日付けの審判請求書の請求の理由)、(b)「電磁波遮断層の周縁部とプラズマディスプレイパネルの画像非表示領域との間に、リペア線を容易に配線することができることから、フィルム状の光学フィルタを剥離させることなく、断線が生じた線状の電極に対するリペア処理を行うことができ、メンテナンスを容易に行うことが可能となる。」(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0072】)、(c)「補正後の本願請求項1は、可撓性を有する電磁波遮断層を用いたプラズマ表示装置に適用され、バネ状に加工して弾性を有する金属で形成された導電体で導通をとることにより、確実な導通を実現することができる。」、「電磁波遮断層との接触面積や接触圧力の設計自由度」「が高まることで、極めて低い抵抗値での接続も可能となることが期待できる。」、「電磁波遮断層との接触面積や接触圧力の設計自由度」「が高まることで、電磁波遮断層の可撓性が経年変化で劣化したとしても、その経年変化にも対応可能な弾性範囲を実現することができ、信頼性の高い接続を実現することが期待できる。」、「また導電体を金属とすることで抵抗値を低くすることが期待できる。」(平成20年10月22日付けの手続補正により補正された平成20年8月7日付けの審判請求書の請求の理由)と主張している。
そこで、まず、上記効果(a)について検討する。本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】?【0014】に記載された従来例において、「電磁波遮断層の周縁部」が「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域側へ撓むのは、「電磁波遮断層」の材質が可撓性を有するとともに、「電磁波遮断層の周縁部」と「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域との間に空隙が存在するためであるところ、本件補正発明には「電磁波遮断層の周縁部」と「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域との間に空隙が存在することは記載されていないから、本件補正発明の「電磁波遮断層の周縁部」が「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域側へ撓むと認めることはできない(なお、本件明細書の発明の詳細な説明の実施の形態2(図5)では、「色調整層22を電磁波遮断層23と同様の広さで設けていることから、電磁波遮断層23がプラズマディスプレイパネル11の画像非表示領域11b側へ撓む空隙が存在しない」から(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0054】)、「導電体26は弾性を有し、取り付け時に筐体14と電磁波遮断層23とで厚さ方向に圧縮された状態であることから、電磁波遮断層23がプラズマディスプレイパネル11の画像非表示領域11b側へ撓んだ場合、導電体26が弾性により常態の厚さへ戻ろうとし、導電体26と電磁波遮断層23上のバスバー領域25との接触が絶たれることがない。したがって、電磁波遮断層23が撓むことにより生じる接触不良等を原因とする導通障害が発生することを防止することができ、電磁波によるノイズの低減効果を維持することが可能となる。」という効果(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0055】)が生ずると認めることはできない。)。したがって、上記効果(a)は、本件補正発明の効果と認めることはできない。
次に、上記効果(b)について検討する。本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0049】には「バスバー領域25を有する電磁波遮断層23の周縁部とプラズマディスプレイパネル11の画像非表示領域11bとの間に空隙が存在することから、リペア線43を容易に配線することができ、フィルム状の光学フィルタ13を剥離させることなく、断線した線状の電極41に対するリペア処理を行うことが可能となる。」と記載され、段落【0058】には「色調整層22及び電磁波遮断層23が、プラズマディスプレイパネル11の画像非表示領域11bを完全に覆わず、図5に示すように画像非表示領域11bが一部露出している領域が存在する場合、該露出している領域をリペア領域としてリペア線43を配線することができ、実施の形態1と同様に、フィルム状の光学フィルタ13を剥離させることなく、断線した線状の電極41に対するリペア処理を行うことが可能となる。」と記載されているものの、本件補正発明には「プラズマディスプレイパネル」の画像非表示領域が一部露出している領域が存在することは記載されていない。したがって、上記効果(b)も、本件補正発明の効果と認めることはできない。
さらに、上記効果(c)は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。
以上のとおりであるから、本件補正発明の効果は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本件補正発明は引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件審判請求についての判断
1 本件発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年9月3日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本件出願の請求項1に係る発明は、平成19年9月3日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「プラズマディスプレイパネルの表示面に、フィルム状光学フィルタを貼り付けており、前記フィルム状光学フィルタは可撓性を有する電磁波遮断層を含み、前記電磁波遮断層の周縁部に、電磁波遮断層と前記プラズマディスプレイパネルを保護する筐体に設けた導体部とを接続する電気的接続領域を有するプラズマ表示装置において、
前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体に設けた導体部との間に、弾性を有し、前記電磁波遮断層の周縁部と前記筐体との間の距離よりも大きい厚さを有する導電体が厚さ方向に圧縮された状態で備えられ、前記電磁波遮断層と前記筐体に設けた導体部とを接続することを特徴とするプラズマ表示装置。」(以下「本件発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項及び引用例記載の発明の認定
原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である引用例1,2には、上記第2の2(2)イに摘記したとおりの事項が記載されており、引用例1に記載された発明は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明の発明特定事項から、上記第2の2(1)で述べた限定事項を省いたものである。
そして、本件発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(2)に記載したとおり、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、上記第2の2(2)で示した理由と同様の理由(ただし、上記第2の2(2)オ(イ)を除く。)により、引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明は引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-30 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-25 
出願番号 特願2003-180166(P2003-180166)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
P 1 8・ 575- Z (G09F)
P 1 8・ 572- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 英雄  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 小松 徹三
日夏 貴史
発明の名称 プラズマ表示装置  
代理人 河野 登夫  

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