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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1209723
審判番号 不服2008-22108  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-28 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 特願2006-163057「トナー供給ローラ、現像装置および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月27日出願公開、特開2007-333830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月13日の出願であって、平成20年7月23日付けで拒絶査定がなされたものであり、これに対し、同年8月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月29日付けで手続補正書が提出されたものである。
その後、当審にて審尋がなされたが、それに対し請求人は所定の期限内に回答書を提出していない。

第2 平成20年9月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年9月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.特許請求の範囲の補正事項
本件補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「樹脂発泡体またはゴム発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラであって、
上記発泡層は、通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、
密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下であり、
ヒステリシスロス率が35%以上で且つ45%以下であることを特徴とするトナー供給ローラ。」
(補正後)
「ポリウレタン発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラであって、
上記発泡層は、通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、
密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下であり、
ヒステリシスロス率が35%以上で且つ45%以下であることを特徴とするトナー供給
ローラ。」

2.補正の目的の適否について
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「発泡層」を構成する「樹脂発泡体またはゴム発泡体」を「ポリウレタン発泡体」に限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。
3.記載要件の不備について
請求項1の現像ロールは、「樹脂発泡体またはゴム発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラであって、
上記発泡層は、通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、
密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下であり、
ヒステリシスロス率が35%以上で且つ45%以下である」
ことにより、「トナー供給ローラの発泡層の素材として適切に設定することにより、トナーの劣化やトナーのこぼれ等を防止する目的とする」ものである。
しかしながら、ごく限られた、材料、実験条件により、恣意的に基準を定めた○、△、×により、評価されたものにより、「通気性」、「密度」、「ヒステリシスロス率」の数値範囲の根拠としている。
しかしながら、供給ローラの材料、表面形状、等の、その他の物性、等、に加え、使用するトナーや現像剤担持体の物性等が総合的に作用効果をもたらすものである。
特に、「トナーへの外添剤の埋め込み」については、トナーの物性、供給ローラおよび現像担持体の表面物性やその当接部分への圧力等も関係することは明らかである。
「掻き取り性」については、例えば、特開2003-192756号公報(【0006】、前置報告書に記載)には、「フォームの密度、硬度、通気性、表面摩擦力、開口径、開口率などのフォーム特性の最適化、現像ローラ/供給ローラの押し付け圧、接触面積、回転速度等のマシンの設計の最適化などにより掻き取り性能およびトナーの供給性能を向上が計られている」ことが既に認識されている。(また、下記「4.1」に示すように、刊行物1、2においても掻き取り性に関連する課題のために、「通気性」、「密度」、「ヒステリシスロス率」以外の物性を調整している。)

このように、本願の詳細な説明の表1に示されたような特定条件化での少数の具体例をもって、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から、本件補正後の請求項1に発明に記載された数値の範囲全体にわたって、拡張ないし一般化することはできない。

よって、本件補正後の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.進歩性について
上記の通りの記載不備があるが、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は一応上記の記載された通りのものであると認めることとして、以下、本件補正発明の、進歩性についても検討する。

4.1 引用例の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された特開2001-290363号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。)

1a.「【請求項1】 芯金と、該芯金の周面に設けられた発泡層とを備えるトナー供給ロールにおいて、該発泡層の密度が0.1?0.8g/cm^(3)であり、平均セル径が50?300μmであって、通気度が5.0cm^(3)/cm^(2)/秒以下であることを特徴とするトナー供給ロール。
【請求項2】 芯金と、該芯金の周面に設けられたポリウレタン発泡層とを備えるトナー供給ロールにおいて、該ポリウレタン発泡層を形成するセル膜は、セル1個当たりの平均で0.4?4.0個の貫通孔を有していることを特徴とするトナー供給ロール。
【請求項3】 上記貫通孔の平均孔径が20?70μmである請求項2記載のトナー供給ロール。
【請求項4】 上記ポリウレタン発泡層の密度が0.1?0.8g/cm^(3)であり、平均セル径が50?300μmであって、通気度が5.0cm^(3)/cm^(2)/秒以下である請求項2又は3に記載のトナー供給ロール。」

1b.「【0002】
【従来の技術】発泡層を有するトナー供給ロールを現像装置に組み込み、印画を繰り返した場合に、印画されない部分にもトナーが付着してしまうことがある。このトナーの付着は、トナー供給ロールと現像ロールとの摩擦等にともなうトナーの劣化を主要因として生ずるものである。このトナーの劣化を抑えるため、従来より、軟質ポリウレタンフォーム等の硬度の低い発泡層とすること等によって、トナー供給ロールを現像ロールに適度に押圧して当接させる等の対策が提案されている。
【0003】トナー供給ロールは、トナーを現像ロールに供給する作用と、残余のトナーを現像ロールから回収する作用とを併せ有するが、トナーの劣化はトナーを回収する際に生じ易いことが分かっている。このことは、現像の前後でトナーの粒径を比べた場合に、現像後のトナーには、現像剤として作用し得ない微粉が多く含まれていることによっても理解される。
【0004】回収されたトナーの一部は発泡層の表面に開口する開放孔に捕捉され、トナー供給ロールが現像ロールに当接した際の変形と、この変形の復元とにより開放孔から押出される。しかし、多くのトナーは押出されず、そのまま1回転して、開放孔にはトナーが更に捕捉されることになる。このようにしてトナーの捕捉が繰り返され、捕捉されたトナーが次第に発泡層の内部へと入り込んでいくことになる。その結果、捕捉されたトナーが発泡層の内部に堆積し、凝集、固化して、もはや現像剤として機能し得ないものになってしまうこともある。
【0005】また、発泡層の表層部分においてトナーが堆積した場合は、もはや残余のトナーの捕捉ができなくなり、現像ロールとの当接面でトナーに大きな摩擦力が加わり、トナーの劣化がより促進される結果となる。そして、このような状況が続けば、やがては現像ロールの表面にトナーが融着するといった大きな問題を生ずることにもなる。しかも、高解像度の要求を満たすため、トナーは粒径10μm以下と微粒化しており、問題はより大きくなる傾向にある。尚、セル膜によりセルが閉じられた独泡性の高い発泡層の場合は、柔軟性が低下し、弾性が発現するため、押圧時にトナー供給ロールと現像ロールとを十分なニップ幅でもって当接させることができないことがある。」

1c.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、主に、電子写真、静電記録技術を利用した複写機等の現像装置に組み込まれて使用され、その発泡層におけるセルを隔てるセル膜にある貫通孔、即ち、ガス抜け孔が数として少なく、大きさとして小さいため、トナーが内部に入り込み難く、しかも、適度に柔軟であり、印画を繰り返した場合にも画質の低下が少なく、耐久性の高いトナー供給ロールを提供することを目的とする。」

1d.「【0010】第1発明において、上記「発泡層」は、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノールユリア樹脂等の熱硬化性樹脂の発泡体により形成することができる。また、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ビスコース、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂の発泡体、或いは各種のゴム発泡体により形成することもできる。これらのうちでは、柔軟性、耐久性等に優れるポリウレタン発泡体が特に好ましい。
【0011】発泡層の密度は0.1?0.8g/cm^(3)であり、0.2?0.5g/cm^(3)であることが好ましい。密度が0.1g/cm^(3)未満であると、機械的強度が低下し、ロールとしての使用に耐えないものとなる。一方、0.8g/cm^(3)を越える場合は、柔軟性が低下し、ニップ幅が不十分になる等の問題がある。また、セル径は50?300μmであり、50?200μm、特に50?150μmであることが好ましい。セル径が50μm未満であると、柔軟性が低下する傾向にあり、300μmを越える場合は、トナー粒径に対する貫通孔の径も大きくなり、トナーがロールの表面から内部に浸透し易くなって、供給されるトナー量が不均一になる傾向にあり、いずれにしても画質が低下する。
【0012】更に、JIS L 1096A法により測定した発泡層の通気度(フラジール型試験機を使用し、差圧125Pa時の値)は5.0cm^(3)/cm^(2)/秒以下であり、3.5cm^(3)/cm^(2)/秒以下、特に2.0cm^(3)/cm^(2)/秒以下であることが好ましい。通気度が5.0cm^(3)/cm^(2)/秒を越える場合は、トナーが発泡層に入り込み易くなり、所定の画質を維持しながら繰り返し印画することができない。尚、この方法により測定し得る下限値は0.32cm^(3)/cm^(2)/秒であるが、発泡層の通気度が下限値であっても、所要特性に特に影響はない。 」

1e.「【0023】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
[1]トナー供給ロールの作製及びその評価
実施例1?4及び比較例2-(1)?2-(3)
(1)ポリウレタン発泡体の調製
ポリマーポリオール(三井化学株式会社製、商品名「POP24-30」)20?40質量部(以下、「部」と略記する。)、ポリエーテルポリオール(三井化学株式会社製、商品名「ED-37」)40?65部、ポリエステルポリオール(ダイセル化学株式会社製、商品名「PCL305」)7部(これら3種類のポリオールの合計量を100部とする。)、金属触媒(ニッケルアセチルアセトネート、OSi社製、商品名「LC-5615」)2部、アミン系触媒(トリエチレンジアミン(主成分)、中京油脂株式会社製、商品名「LV33」)0.1部、整泡剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L520」)10部、及び顔料(山陽色素株式会社製、商品名「UT4921」)5部を含有するポリオール成分を連続的にミキシングヘッドに流入させた。また、このミキシングヘッドに流入する直前のポリオール成分に所定の流量で窒素ガスを混入させた。
【0024】同時に、ミキシングヘッドには、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名「MTL」)を流入させた。その後、ミキシングヘッドにおいて混合された発泡原料を、オークスミキサに供給し、攪拌し、泡状体を調製した。次いで、この泡状体を外径6mmのステンレス鋼製のシャフトがセットされた成形型に流し込み、160℃に調温された加熱炉に収容して60分間加熱し、硬化させた。尚、ポリイソシアネートの流入量はポリオールのOH基とポリイソシアネートのNCO基の当量比が0.9?1.5となるように調整することができる。また、窒素ガスの流量も変化させ、実施例1?4及び比較例2-(1)?2-(3)の7種類のポリウレタン発泡体を調製した。
【0025】(2)トナー供給ロールの作製
得られた7種類のポリウレタン発泡体の表面を円筒研磨機により研磨加工し、図3に示す芯金12の周面にポリウレタン発泡層11が設けられた外径16mmのトナー供給ロール1を作製した。」

1f.「【0030】
【表1】

【0031】表1の結果によれば、実施例1?4では、耐久性に優れ、画質も良好であることが分かる。一方、比較例1-(1)?1-(4)では、通気度が高く、密度も低いため、硬度及びセル径が適度な範囲にある場合でも、耐久性、画質ともに劣っており、セル径が大きい比較例1-(2)及び1-(3)ではより劣っていることが分かる。また、メカニカルフロス法によって製造したポリウレタン層であっても、比較例2-(1)のようにセル径が小さすぎると、トナーの供給量が十分ではなく、画像の均一性が低下する。更に、比較例2-(2)のようにセル径が大きすぎると、ロールがトナーで汚れ、スジの発生もみられ、2-(3)のように通気度が大きいと、耐久性が低下することが分かる。」

これら記載(1a、請求項1、1f、特に、実施例1)によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「芯金と、該芯金の周面に設けられたポリウレタン発泡層とを備えるトナー供給ロールであって、、
上記発泡層は、密度が0.20g/cm^(3)、平均セル径が300μm、通気度が1.96cm^(3)/cm^(2)/秒である、トナー供給ロール。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願出願前に頒布された特開2003-162142号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。)

2a.「【請求項1】 現像剤としてのトナーを収納したトナー収納部、トナー供給ローラおよび現像ローラを有し、トナーを感光体表面の静電潜像に供給してトナー像を形成する現像装置に搭載される発泡弾性体からなるトナー供給ローラであって、該発泡弾性体の表面に開口した発泡セルを有し、以下の特性を有することを特徴とするトナー供給ローラ。
(1)発泡弾性体表面の発泡セルの開口部分の平均径が50?300μm、(2)発泡弾性体の表面積に対する発泡セルの開口部分の総面積の比率が50?80%、(3)発泡弾性体の圧縮バネ定数が0.25?1.5N/mm、(4)発泡弾性体の圧縮弾性回復率が60%以上、(5)発泡弾性体表面の摩擦抵抗係数が0.4?3.0
【請求項2】 発泡弾性体を導電性とし、該導電性発泡弾性層を良導電性シャフトの外側に形成してなるものである請求項1記載のトナー供給ローラ。
【請求項3】 導電性発泡弾性層が発泡弾性体に導電剤を添加したものである請求項2記載のトナー供給ローラ。
【請求項4】 発泡弾性体がポリウレタンフォームで形成され、該ポリウレタンフォームのアセトン抽出率が5重量%以下である請求項1?3のいずれかに記載のトナー供給ローラ。」

2b.「【0002】
【従来の技術】近年、電子複写機,レーザービームプリンター、ファクシミリなどの電子写真装置における現像プロセスに配置される現像装置では、現像ローラにトナー供給ローラにトナー供給ローラを擦りつけることによりトナーを摩擦帯電させる方式が用いられている。従ってトナー供給ローラには、現像ローラとの安定した摩擦性、摩擦部位への高いトナー供給性が要求される。また、トナー供給ローラには、現像ローラ上に残存する現像に使用されなかったトナーの掻き取り性も合わせて要求される。このため、従来、この種のトナー供給ローラには、ゴムやウレタン等を発泡させた発泡弾性体材料が一般に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者らが、発泡弾性体からなる従来のトナー供給ローラの性能を検討したところ、現像した画像にピッチむらや濃度むら等による不具合を発生する場合があることが分かった。これはトナー供給ローラによるトナーの供給が不十分あるいは不均一であったり、トナーの掻き取りが不十分あるいは不均一である場合に起こり、例えば画像の濃度低下が引き起こされるために鮮明な画像が得られないことともなるものである。本発明はこのような従来の事情に鑑みてなされたもので、ピッチむらや濃度むらなどの不具合や濃度低下のない画像を得ることのできる、発泡弾性体からなるトナー供給ローラおよび該トナー供給ローラを搭載した現像装置を提供することを目的とする。」

2c.「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記のような画像不具合を発生させたトナー供給ローラについて調べた結果、白ベタ画像のような濃度の低い画像を印刷した直後に黒ベタ画像のような濃度の高い画像を印刷すると、黒ベタ画像の印刷先端濃度が、印刷後端部濃度に比べて濃いという濃度むらが発生し、この濃度むらは、白ベタ印刷では現像ローラから感光体へのトナー搬送量が少ないため、現像ローラ上の残存トナー量が多くなり、トナー供給ローラによるトナーの掻き取り不足が生じやすくなるために、現像ローラ上の残存トナー量が徐々に増加し、白ベタ印刷に続いて黒ベタ印刷を行うと、現像ローラの1周ないし2周分による印刷が印刷後端部と比べて画像濃度が濃くなることによって起こったり、現像ローラへ供給するトナー量が現像ローラの1周ないし2周分に比べて、印刷後端部に対応する3?4周分で不足することによって起こることを見出した。さらに研究を重ねた結果、トナー供給ローラによるトナーの掻き取り性は、トナー供給ローラを形成する発泡弾性体の表面に開口した発泡セルの平均開口径(以下、セル開口平均径と云う)、発泡弾性体表面の面積に対する発泡セルの開口部分の面積の比率(以下、セル開口率と云う)、さらに発泡弾性体表面近傍のスキン層の圧縮バネ定数と圧縮弾性回復率および発泡弾性体表面の摩擦抵抗係数とに大いに関係があることを発見した。そして、発泡弾性体表面に開口した発泡セルの開口平均径、セル開口率、スキン層の圧縮バネ定数と圧縮弾性回復率および発泡弾性体表面の摩擦抵抗係数を好適なものとした場合に、不具合のない画像を形成することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。」

2d.「【0010】本発明のトナー供給ローラは、発泡弾性体の圧縮バネ定数が0.25?1.5N/mmであることが好ましく、更に好ましくは0.25?1.2N/mm、特に好ましくは0.25?1.0N/mmである。圧縮バネ定数が0.25N/mm未満であるとトナーが十分に摩擦帯電されないという不都合があり、1.5N/mmを超えるとトナーへのダメージが大きくなるという不都合がある。また、発泡弾性体の圧縮弾性回復率は60%以上であることが好ましく、更に好ましくは70%以上である。圧縮弾性回復率が60%未満であると現像ローラ上に残存するトナーを十分に掻き取れないという不都合がある。本発明のトナー供給ローラの発泡弾性体表面の摩擦抵抗係数は0.4?3.0であることが好ましく、更に好ましくは0.8?3.0である。摩擦抵抗係数が0.4未満であると滑りが大きすぎてトナーを搬送できないという不都合があり、3.0を超えるとトナーへのダメージが大きくなるため、トナーが劣化しやすくなるという不都合が生じる。なお、これらの圧縮バネ定数、圧縮弾性回復率および摩擦抵抗係数は後述の実施例に示す方法により測定される。」

2e.「【0022】(4)圧縮弾性回復率図4に示す圧縮バネ定数の測定方法と同様の方法によって、トナー供給ローラの圧縮弾性回復率をローラ中央部の周方向にて90度間隔で4点測定し、その平均値とした。図4に示すように、トナー供給ローラ5の回転軸11をVブロック13にて水平に固定し、発泡弾性ローラ12の上部に設置したフォースゲージ14を下方向に一定速度(0.1mm/sec)で移動させて、フォースゲージ14の先端部に設けた直径13mmの円板状圧縮治具(円板圧子)15によって約1mmの深さまで圧縮した後、圧縮速度と同じ速度で円板圧子を上昇させて圧縮を解放させる(圧縮-解放)過程で測定された応力-歪曲線の圧縮過程の面積(A)と解放過程の面積(B)の比率(B/A)を圧縮弾性回復率として算出した。」

2f.「【0030】
【発明の効果】本発明により、セル開口平均径、セル開口率、圧縮バネ定数、圧縮弾性回復率および摩擦抵抗係数を適正範囲とすることにより、トナー供給ローラによる現像ローラヘのトナー押し付けが好適となり、現像ローラヘのトナー供給およびトナー帯電が好適に行なわれ、かつ現像ローラ上に残存したトナーの掻き取りも好適に行われるので、ピッチむらや濃度むらなどの欠陥のない良好な画像を形成することができる。」

これら記載によれば、刊行物2には次の技術的事項が記載されている。
ポリウレタンフォームで形成された発泡弾性層を有する発泡弾性体からなる供給ローラにおいて、
・セル開口平均径、セル開口率、圧縮バネ定数、圧縮弾性回復率および摩擦抵抗係数を適正範囲とすることにより、トナー供給ローラによる現像ローラヘのトナー押し付けが好適となり、現像ローラヘのトナー供給およびトナー帯電が好適に行なわれ、かつ現像ローラ上に残存したトナーの掻き取りも好適に行われること
・発泡弾性体の「圧縮弾性回復率」が60%以上であると、
・「圧縮弾性回復率」が、所定の測定方法によって、(圧縮-解放)過程で測定された応力-歪曲線の圧縮過程の面積(A)と解放過程の面積(B)の比率(B/A)を圧縮弾性回復率として算出したものであること

4.2 対比・判断
刊行物1発明と本願補正発明とを対比すると、
刊行物1発明の「芯金と、該芯金の周面に設けられたポリウレタン発泡層とを備えるトナー供給ロール」は、本願補正発明のトナー供給ロールも実質的に芯金を有するから、本願補正発明の「ポリウレタン発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラ」に相当する。
刊行物1発明における「発泡層」の「密度が0.20g/cm^(3)」かつ「通気度が1.96cm^(3)/cm^(2)/秒」は、本願補正発明の「発泡層」の、「通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下」であることに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「ポリウレタン発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラであって、
上記発泡層は、通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、
密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下である、
トナー供給ローラ。」

[相違点]
本願補正発明は、発泡層の通気性、密度に加えて、ヒステリシスロス率が35%以上で且つ45%以下であることを特定しているのに対し、
刊行物1発明は、ヒステリシスロス率に関する規定がない点。

以下、該相違点について検討する。

刊行物2には、トナー供給ローラの「圧縮弾性回復率」を調整して、トナー供給ローラに必要とされるトナー掻き取り性等を向上させることが記載されている。
この「圧縮弾性回復率」は、荷重-たわみ曲線から算出されたもので、「ヒステリシスロス率」との100%からの残分に相当する、関連性の極めて高い数値である。
一方、ヒステリシスロス率は、ポリウレタンフォームのような弾性体を評価するための、周知慣用の物性値である。(必要であれば、特開2002-275803号公報【0015】、特開2004-231899号公報【請求項4】【0034】、特開2006-89752号公報【請求項8】【0041】参照。)
したがって、刊行物1発明において、トナー供給ロールの発泡層を設計するにあたり、刊行物2に記載の「圧縮弾性回復率」と関連性の高い「ヒステリシス特性」を調整することは、当業者の創意の範囲内である。

しかも、刊行物1において、「画質の低下」、「耐久性」と言った課題(上記1c.)は、「捕捉されたトナー」が発泡層の内部に堆積・・・」、「現像ロールの当接面でトナーに大きな摩擦力が加わり、トナーの劣化が促進される」することに原因があり(上記1b.)、本願の課題とも共通するものであるから、「ヒステリシス特性」を調整することによる作用効果も、刊行物1、2により、予測される作用効果を超えるものでもない。

4.3 進歩性のまとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.請求人の主張の検討
5.1 記載要件の不備について
請求人は請求の理由において、前審審査官の指摘に対し、発泡体の全ての特性を列挙する必要が生じ、そのように列挙することは「実質的に不可能」で、現在測定法が確立されていないが将来測定可能になるはずの特性値があったとすれば、それも含める必要があり、測定が確立されていない特性値を請求項1に含めることは困難である旨主張する。
しかしながら、この主張は、原査定にて、出願時の技術常識に照らして、すなわち、既に他の物性が本願の作用効果の影響することを示した上で、本願の詳細な説明の記載の当該具体例から、本件補正後の請求項1に発明に記載された数値の範囲全体にわたって、拡張ないし一般化することはできないと判断されていることに対して、本願の発明の詳細な説明の記載および技術常識に基づき反論しているものとは認められない。
また、同じく請求の理由にて、「ポリウレタン発泡体」の「発泡層」に関し、『その密度や硬度は大きな幅があるものではないため、発泡層の「密度」と「通気性」を規定することにより特定され、発泡層の「発泡セルの平均開口径」、「開口率」、及び「表面の摩擦係数」は自ずと特定』され、また、「硬度」は「通気性」が弾性にも関係する特性であるから、「通気性」により硬度が特定されることを主張する。ここで、前提で「密度」について、大きな幅がないと述べており、不明であるが、ここでの密度は、実質的な密度であると解することにする。
そうであるにしても、一口にポリウレタンと言っても、様々な組成があり、「大きな幅」ではなくとも、ある程度の幅が存在し、ポリウレタン発泡体であれば、その密度、通気性により、「発泡セルの平均開口径」、「開口率」、及び「表面の摩擦係数」は自ずと特定』されるものではない。それは本願の明細書においても、「通気性」、「密度」は本願範囲でありながら、セルの平均有効径が異なるものが得られている通りである。
また、刊行物1の記載からみても、上記1f.の表1のように、同程度の「通気性」、「密度」であっても(例えば、実施例2と比較例2-(1))、明らかに硬度、セル径が異なっているものを得ている。
さらに、通気性や密度が、表面摩擦係数まで規定する根拠は見出せない。
このように、請求の理由等において、請求人の主張は十分に説明されておらず、検討しても、記載要件の不備を補足するものではない。

5.2 進歩性について
また、請求人は、請求の理由にて、原査定について、刊行物1には、「ヒステリシスロス率」の規定に関する一切の開示も示唆もなく、刊行物2には、「ヒステリシスロス率」に対応する「圧縮弾性回復率」に関して記載されているが、圧縮弾性回復率の上限、すなわち、対応する、ヒステリシスロス率の下限を設けることは記載されておらず、大きく相違する旨述べている。
しかしながら、本願補正発明において、ヒステリシスロス率の上限は掻き取り特性を考慮して、下限は、現像剤担持体との摺擦によるトナー劣化を防ぐことを考慮して設定されており、このような課題は、刊行物1においても、上記したように考慮されているものである。
そして、刊行物2の圧縮弾性回復率の下限設定と、まさに同じ目的であるが、ヒステリシスロスの上限設定に関しては、本願明細書【0102】に示されているように、「通気性と密度が適切に設定された比較例5のサンプルは、トナーこぼれ評価が△であり、トナーこぼれの発生率は比較的低かった。これは、トナーこぼれの発生が、発泡層のヒステリシスロス率に起因する度合いよりも、発泡層の通気性や密度に起因する度合いの方が大きいためであると考えられる。」と記載されているように、通気性や密度の調整の方が影響が高い旨が本願出願時に認識されている。
通気性や密度の調整のみでは、十分でないというには、トナーこぼれの評価が次のように曖昧である。
すなわち、トナーこぼれの評価の○、△については、「白紙画像の印字を10000枚行った。この印字によりトナーこぼれが発生した枚数をカウントし、トナーこぼれの評価結果を、・・・、500枚を超えるとともに1000枚以下であるものを「○」、1000枚を超えるとともに1500枚以下であるものを「△」」(本願明細書【0093】)のような範囲の設定によるものであり、どの程度の顕著な効果があるのかも、明確ではない。
したがって、ヒステリシス特性の下限値を設定することによる格別顕著な作用効果が認められるわけでもない。
一方、 発泡層のヒステリシスロス率は調整可能については、本願明細書【0061】に、「種々の方法により調整可能」であり、例えば、「素材の変更、素材の組成比の変更、または導電性付与物質の添加量の増減により調整することができる」ことが記載されているが、そもそも、それらの調整要件を調整することが、「発泡層」の調整であり、これらを調整してトナー供給ローラの物性を最適化することは、当業者が当然なすべき事項である。
(なお、原審で指摘していないことであるが、「ヒステリシスロス率」等の数値範囲の設定が容易でないとするならば、そもそも、本願の発明の詳細な説明には、「ヒステリシスロス率」等の数値範囲の設定を具体的にどのようにして行ったのか記載していないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないといえる。)
してみると、刊行物1発明では、通気度、密度の調整とともに、平均セル径、貫通孔の量も調整し、「適度に柔軟であり、印画を繰り返した場合にも画質の低下が少なく、耐久性の高いトナー供給ロール」(1c.)を得るよう「ポリウレタン発泡層」を設計していることと、共通するところであって、刊行物2の記載や一般技術水準により、「ヒステリシスロス率」の範囲を導入することは容易であって、その数値範囲も、トナー供給ローラに求められる性質に基づき決定されるべきものである。

5.3 請求人の主張の検討のまとめ
よって、請求人の主張を検討しても、本願補正発明は、特定の条件でなされた試験における評価結果を拡張ないし一般化したものであるか、
もしくは、当業者が刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの判断は変わらない。

6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成20年9月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、願書に添付した明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1?5に記載の事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「樹脂発泡体またはゴム発泡体からなる発泡層を少なくとも外周に備えたトナー供給ローラであって、
上記発泡層は、通気性が5ml/cm^(2)/s以下であり、
密度が50kg/m^(3)以上で且つ200kg/m^(3)以下であり、
ヒステリシスロス率が35%以上で且つ45%以下であることを特徴とするトナー供給ローラ。」

1.記載要件の不備について
本願発明1は、本願補正発明の「ポリウレタン発泡体」という限定事項を、より広範な「樹脂発泡体またはゴム発泡体」としたものであって、その他の点では同じである。
よって、本願発明1は、上記「第2 3.記載要件の不備について」にて指摘したのと同様の理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

2.進歩性について
2.1 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2001-290363号公報(上記「刊行物1」)、及び引用文献2として引用された特開2003-162142号公報(上記「刊行物2」)の記載事項は、上記「第2 4.1(1)、(2)」に記載したとおりである。

2.2 対比・判断
本願発明1は、本願補正発明の「ポリウレタン発泡体」という限定事項を、より広範な「樹脂発泡体またはゴム発泡体」としたものである。

そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が上記「第2 4.2?4.3」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1
、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号もしくは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-06 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願2006-163057(P2006-163057)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 悠  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伊藤 裕美
伏見 隆夫
発明の名称 トナー供給ローラ、現像装置および画像形成装置  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  

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