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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない F24D
審判 訂正 特126 条1 項 訂正しない F24D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F24D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない F24D
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F24D
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない F24D
管理番号 1210974
審判番号 訂正2008-390120  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2008-10-27 
確定日 2010-01-27 
事件の表示 特許第3066189号「暖房用のオイルラジエータ」に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3066189号「暖房用のオイルラジエータ」についての出願は,平成4年5月19日(パリ条約による優先権主張 1992年2月18日,イタリア)に特許出願され,平成12年5月12日に,特許権の設定登録がなされた。

(2)これに対し,平成19年6月13日付けで,請求項1ないし13に係る発明についての特許に対して特許無効審判(無効2007-800115号)の請求がなされ,平成19年11月7日付けで,当該無効審判における被請求人(本件特許権者,すなわち本件訂正審判における請求人)から明細書及び図面の訂正を求めて訂正請求がなされ,平成20年6月11日付けで,
「訂正を認める。
特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3066189号の請求項3ないし5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。 」 との審決がなされた。

(3)これに対して,当該無効審判の被請求人(本件訂正審判請求人)は,審決中の「特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消を求める訴えを知的財産高等裁判所に提起した。
一方,当該無効審判の請求人は,審決中の「特許第3066189号の請求項3ないし5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分の取消を求める訴えは提起しておらず,審決中の上記部分は確定した。

(4)本件訂正審判請求人(当該無効審判の被請求人)は,平成20年10月27日付けで,特許法第126条第2項の規定に基づく訂正審判:訂正2008-390120号(以下「本件訂正審判」という。)を請求した。

(5)知的財産高等裁判所において,「特許庁が無効2007-800115号事件について平成20年6月11日にした審決中,「特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。」との請求を棄却する判決(平成20年(行ケ)10342号 平成21年5月27日判決言渡)があった。

(6)本件訂正審判において,平成21年6月18日付けで訂正拒絶理由を通知し,平成21年8月10日付けで意見書が提出された。

2.本件訂正審判の基準明細書

(1)平成19年11月7日付けの訂正請求について

上記無効審判における,平成19年11月7日付けの訂正請求は,特許時に願書に添付された明細書及び図面を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正図面のとおりに,即ち,次のa?gのとおりに訂正することを求めるものであった。

・訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」との記載を,「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記第2の板状素子が,前記第1の板状素子と対称であり,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」と訂正する。

・訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2,3及び5?9を削除する。

・訂正事項c
特許請求の範囲の請求項4の「前記第1の板状素子が,」との記載を「前記第1及び第2の板状素子が,」と訂正し,その請求項4を請求項2に繰り上げる。
・訂正事項d
特許請求の範囲の請求項10を請求項3に繰り上げ,
特許請求の範囲の請求項11の「前記板状素子」を「前記第1及び第2の板状素子」と訂正するとともに,その請求項11を請求項4に繰り上げ, 特許請求の範囲の請求項12の「請求項1に記載の」を「請求項3に記載の」と訂正するとともに,その請求項12を請求項5に繰り上げ,
特許請求の範囲の請求項13を請求項6に繰り上げる。

・訂正事項e
図11?図13及び図15?図16を削除し,図14を図11に繰り上げ,同様に,図17を図12に,図18を図13に,図19を図14に,それぞれ繰り上げる。

・訂正事項f
特許明細書の発明の詳細な説明の,段落【0014】,【0024】,及び,【0027】の「図18」を,それぞれ「図13」と訂正する。

・訂正事項g
特許明細書の図面の簡単な説明の,「図11から図16」を「図11」と,また,「図17」を「図12」と,「図18」を「図13」と,「図19」を「図14」と,それぞれ訂正する。

(2)訂正を認めた審決と形式的確定等について

a.形式的確定の基本的な考え方

特許が2以上の請求項に係るものであるときは,その特許無効審判に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定するというべきものである。
そうすると,「訂正を認める。」との審決部分は,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決部分が形式的に確定することに伴って,形式的に確定することになる。
そして,無効審判請求を不成立とした審決は,請求人側の出訴期間の経過によって,「訂正を認める。」との審決部分もまた形式的に確定することになる。
また,無効審判における訂正請求が特定の請求項の削除を伴うものである場合は,削除された請求項に関する部分についての「訂正を認める。」との審決部分は,同審決の送達により,形式的に確定するものである(知的財産高等裁判所平成19年7月23日決定・平成19年(行ケ)10099号審決取消請求事件,知的財産高等裁判所平成20年11月27日判決言渡・平成19年(行ケ)10380号審決取消請求事件参照。)。

b.上記無効審判の審決中「訂正を認める。」との部分の確定範囲について
ア.審決中「特許第3066189号の請求項3ないし5に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との部分については,無効審判の請求人において,取消訴訟を提起することなく出訴期間が経過し,同審決部分は形式的に確定したのであるから,これに伴って,審決中の請求項3ないし5についての「訂正を認める。」との部分も,形式的に確定し,平成19年11月7日付けの訂正請求によって訂正された請求項3ないし5となった。
また,平成19年11月7日付けの訂正請求は,特許時の請求項2,3及び5ないし9を削除するものであるから,審決中の請求項の削除についての「訂正を認める。」との審決部分も,審決の送達により形式的に確定した。
イ.平成19年11月7日付けの訂正請求の訂正事項e?gは,「図11?図13及び図15?図16を削除し,図14を図11に繰り上げ,同様に,図17を図12に,図18を図13に,図19を図14に,それぞれ繰り上げる。」,「特許明細書の発明の詳細な説明の,段落【0014】,【0024】,及び,【0027】の「図18」を,それぞれ「図13」と訂正する。」,「特許明細書の図面の簡単な説明の,「図11から図16」を「図11」と,また,「図17」を「図12」と,「図18」を「図13」と,「図19」を「図14」と,それぞれ訂正する。」ものであるが,これらの訂正事項e?gは,請求項2,3及び5ないし9を削除したことに伴い,これと整合性をとるために明細書及び図面を訂正するものであるから,審決中上記訂正事項e?gについての「訂正を認める。」との部分は,審決の送達により形式的に確定した。

ウ.審決中「特許第3066189号の請求項1,2,6に係る発明についての特許を無効とする。」との部分については,無効審判被請求人において,取消訴訟が提起され,判決は確定していないから,請求項1,2,6についての,審決中「訂正を認める。」とした部分は,確定していない。

(3)本件訂正審判の対象となる明細書及び図面(以下「本件基準明細書及び図面」という。)について

a.特許請求の範囲の請求項について(一部確定後の請求項の数は6)

ア.請求項3ないし5

請求項3ないし5は,上記「2.(2).b.」で検討したとおり,平成19年7月11日付け訂正請求により訂正された事項のとおり確定している。
そして,請求項3ないし5が引用する請求項1については,上記訂正請求において訂正された請求項1であるから,請求項3ないし5を独立形式にあらためて記載すると,次のとおりのものと認められる(以下,それぞれ,「基準請求項3」,「基準請求項4」,「基準請求項5」という。)。

【請求項3】
「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記第2の板状素子が,前記第1の板状素子と対称であり,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成し,少なくとも1つの前記第1の板状素子に,複数の開口及び空気向け直し素子が設けられていることを特徴とする暖房用オイルラジエータ。」

【請求項4】
「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子及び第2の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記第2の板状素子が,前記第1の板状素子と対称であり,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成し,前記第1及び第2の板状素子が,開口と開口との間に形成され且つ放熱素子から外面への伝導による熱の伝達を制限するのに適したブリッジ部を有することを特徴とする暖房用オイルラジエータ。」

【請求項5】
「前記開口及び空気向け直し素子が,対流による空気の加熱に適した,空気流のための選択的チャネルを形成し,且つ,前記外側面に,更に,板状素子からの暖かい空気の出口として該チャネルに連結されている穴が設けられていることを特徴とする,請求項3に記載の暖房用オイルラジエータ。」

イ.請求項1,2及び6

平成19年11月7日付け訂正請求における請求項1,2及び6の訂正は,上記「2.(2).b.ウ」のとおり,確定していない。
よって,平成19年11月7日付け訂正請求によって訂正される前の,特許時の請求項1,4及び13に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,それぞれ,「基準請求項1」,「基準請求項2」,「基準請求項6」という。)。

【請求項1】
「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」

【請求項2】
「前記第1の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用のオイルラジエータ。」

【請求項6】
「前記本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用オイルラジエータ。」

b.発明の詳細な説明,図面の簡単な説明及び図面について

発明の詳細な説明,図面の簡単な説明及び図面の訂正は,上記「2.(1)」の訂正事項e?gのみであり,上記「2.(2).b.イ」のとおり,審決中の訂正事項e?gについて「訂正を認める。」との部分は,確定しているから,本件訂正審判の対象となる,発明の詳細な説明,図面の簡単な説明及び図面は,平成19年7月11日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書の発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明,並びに訂正図面のとおりのものである(以下,それぞれ,「基準明細書(請求項以外)」,並びに「基準図面」という。)。

3.本件訂正審判について

(1)訂正の内容

本件訂正審判の請求は,特許第3066189号の願書に添付した明細書を,本件訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものである。
そして,上記「2.(3)」に記載したように,本件訂正審判によって訂正の対象となる明細書は,上記2.で述べたように「基準請求項1ないし6,基準明細書(請求項以外)及び基準図面」であるから,訂正事項は,次のとおりのものと認められる。

(2)訂正事項

・訂正事項a
基準請求項1の「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」との記載を,「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記放熱素子が,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも1つの部分を有すると共に,少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有する第2の板状素子を有し,前記少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の板状素子同士の少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」と訂正する。(下線は訂正箇所)

・訂正事項b
特許時の請求項5において「請求項2に記載」とある記載を,「請求項1に記載」と訂正し,特許時の請求項5を本件訂正明細書の請求項3にする。
・訂正事項c
基準請求項3を本件訂正明細書の請求項4に訂正する。

・訂正事項d
基準請求項4を本件訂正明細書の請求項5に訂正する。

・訂正事項e
基準請求項5において「請求項3に記載」とある記載を,「請求項4に記載」と訂正し,基準請求項5を本件訂正明細書の請求項6にする。

・訂正事項f
基準請求項6を本件訂正明細書の請求項7に訂正する。

・訂正事項g
本件基準明細書の発明の詳細な説明の,段落【0014】,【0024】,【0027】の「図13」を,それぞれ「図18」と訂正する。

・訂正事項h
本件基準明細書の図面の簡単な説明の,【図11】を【図11から図16】と,【図12】を【図17】と,【図13】を【図18】と,【図14】を【図19】と,それぞれ訂正する。

・訂正事項i
本件基準明細書の発明の詳細な説明の,段落【0018】の「チャネル形の区画」を「チャネル形の区画15」と訂正する。

なお,本件訂正審判において,図面の訂正は請求されていない。

4.訂正拒絶理由通知の概要

平成21年6月18日付けの訂正拒絶理由通知における,拒絶の理由の概要は,訂正事項b-e及びg-iは,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第1項,第2項の規定に適合しない。
また,訂正事項a及びfは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものの,本件訂正発明1,2及び7は,特許法第29条第2項の規定に違反するものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって,本件訂正審判の請求は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第1項,第2項及び第3項の規定に適合しないから,これを認めることができない。

5. 当審の判断

(1)訂正事項b-e及びg-iについて

平成21年6月18日付け訂正拒絶理由における「3.(3)目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について」において指摘した具体的内容は,次のとおりのものである。

a.訂正事項aは,放熱素子について,第1の板状素子のみならず,「少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも1つの部分を有すると共に,少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有する第2の板状素子を有し」との限定を付加するとともに,チャネル状の区画について,「前記少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の板状素子同士の少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,」と限定を付加し,さらに,放熱素子を他の放熱素子と連結したとき,「放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する」との限定を,段落【0014】-【0018】に記載された事項,及び,図1及び図3の図示事項に基いて,付加したものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。

b.訂正事項bは,特許時の請求項5を訂正するものであるが,上記[2.(2).b.」のとおり,特許時の請求項5については,請求項の削除が確定しており,訂正の対象となる請求項が存在しないことから,上記訂正事項bは,実質的に新たに請求項を追加するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,また,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
なお,本件訂正明細書の請求項3における訂正が,基準請求項1に対応した訂正であるとした場合は,本件訂正明細書の請求項1が,実質的に新たに追加された請求項となる。

c.訂正事項cは,文言上,基準請求項3を請求項4と訂正するものであるが,訂正前後において,引用する請求項1に係る発明が異なるものである。 つまり,本件訂正明細書の請求項1に係る発明は,基準請求項1の発明に欠くことのできない事項である「第2の板状素子が,第1の板状素子と対称であり」との構成を備えておらず,本件訂正明細書における請求項4に係る発明も上記構成を備えていないことから,上記訂正事項cは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとも,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
また,仮に,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても,実質上特許請求の範囲を変更するものである。

d.訂正事項dは,文言上,基準請求項4を請求項5と訂正するものであるが,訂正前後において,引用する請求項1に係る発明が異なるものである。 つまり,本件訂正明細書の請求項1に係る発明は,基準請求項1の発明に欠くことのできない事項である「第2の板状素子が,第1の板状素子と対称であり」との構成を備えておらず,本件訂正明細書における請求項5に係る発明も上記構成を備えていないことから,上記訂正事項dは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとも,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
また,仮に,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても,実質上特許請求の範囲を変更するものである。

e.訂正事項eは,文言上,基準請求項5を請求項6と訂正するものである。 そして,基準請求項5は,基準請求項1を引用した基準請求項3を引用するものであって,本件訂正明細書の請求項6は,本件訂正明細書の請求項1を引用した請求項4を引用するものであって,訂正前後において,引用する請求項に係る発明が異なるものである。
つまり,本件訂正明細書の請求項1に係る発明は,基準請求項1の発明に欠くことのできない事項である「第2の板状素子が,第1の板状素子と対称であり」との構成を備えておらず,本件訂正明細書における請求項6に係る発明も上記構成を備えていないことから,上記訂正事項eは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとも,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
また,仮に,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても,実質上特許請求の範囲を変更するものである。

f.訂正事項fは,請求項3が実質的に新たに追加されたことによって,請求項に付される番号が繰り下がったことに整合させるものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正後の請求項1は,請求項の減縮を目的としており,訂正事項fも,訂正後の請求項1をさらに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。

g.訂正事項g及びhは,基準図面が,図1から図14のみであるから,基準図面との整合性からみて,明りょうでない記載の釈明とも誤記の訂正を目的とするものとも認められない。

h.訂正事項iは,基準図面の図3,図10において付与されている参照符号を追加することにより,チャネル状の区画を明確にするものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

これに対し,審判請求人は,意見書において「訂正事項b-e及びg-iは認めないとした点は,争わない。」と主張し,この点について他の主張はなされていない。
そして,上記訂正拒絶理由の「目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について」における,訂正事項b-e及びg-iについての理由は,妥当なものと認められる。

よって,訂正事項b-e及びg-iは,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第1項又は第2項の規定に適合しないもので,認めることができない。

そして,訂正審判の請求は,次のように扱うこととされている。

訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面(「訂正明細書等」という。)が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(「原明細書等」という。)の記載を複数箇所にわたって訂正するものであるときでも,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものとする(最一小判昭53(行ツ)27号(昭55.5.1))。
「訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」(最一小判平19(行ヒ)318号(平20.7.10)

したがって,他の理由を検討するまでもなく,本件訂正審判の請求は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第1項又は第2項の規定に適合しない訂正事項を含むものであるから,認めることができない。

(2)訂正事項a及びfについて

上記のように,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,その全体を一体不可分のものとして取り扱うものであるが,訂正事項a及びfに関し,本件訂正明細書に記載された請求項1における訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,同様に,訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び7も特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第3項の規定により,これらが訂正後における請求項に記載された発明が,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,独立特許要件についても,一応検討する。

a.本件訂正発明

本件訂正明細書に記載された請求項1,2,7に係る発明(以下,それぞれ,「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」,「本件訂正発明7」という。)は,本件訂正明細書により訂正された請求項1,2,7に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「内部を熱い液体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のオイルラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,該放熱素子の外側面の熱を減少するための,及び,同時に放熱素子の効率を増大するための少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有し,前記放熱素子が,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,該第1及び第2の折り曲げ部に近接して配置される少なくとも1つの部分を有すると共に,少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有する第2の板状素子を有し,前記少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の板状素子同士の少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成することを特徴とする暖房用のオイルラジエータ。」

【請求項2】
「前記第1の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用のオイルラジエータ。」

【請求項7】
「前記本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有することを特徴とする,請求項1に記載の暖房用オイルラジエータ。」

b.引用文献記載の発明

b-1.引用文献1について

本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である,ドイツ国特許出願公開第2440184号明細書(甲第2号証:以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
訳文は,本件訂正審判請求書の添付書類である甲第2号証の2(ドイツ国特許出願公開第2440184号明細書の全訳)による。
なお,ウムラウト及びエスツェットについては,代用表記を用いている。 さらに,引用文献1には,上部及び右下部の二箇所にそれぞれ異なるページ番号が付与されているが,上部に付与されているページ番号を用いることとする。

ア.「Die Erfindung bezieht sich auf eine Ausgestaltung eines Gliedes aus Stahlblech fuer einen Heizungsradiator, insbesondere fuer Wassersammelheizungen, und der durch Schwerkraft oder durch Pumpe mit dem Heizwasser des Heizkessels versorgt wird.
Bei der Ausgestaltung von insbesondere Warmwassersammelheizungen ist es bekannt, sogenannte Stahlblechradiatoren zu verwenden, die nach DIN 4722 blockgeschweisst sind und in mehreren genormten Abmessungen hergestellt werden und alle Stanlblechradiatoren, die in Sonderabmessungen gefertigt werden. Die Bezeichnung der einzelnen Modelle bzw. Ausgestaltungen der Glieder, die in einer bestimmten Zahl zusammengefasst die Heizkoerper bilden, sind gekennzeichnet durch ihren Nabenabstand, beispielsweise 500 oder 900 mm und durch ihre Bautiefe, beispielsweise 160 oder 220 mm.
Bei diesen genormten aus gepressten Stahlblechhaelften durch Blockverschweissung zusammengefuegten Rippen sind in der Regel mehrere Wasserstroemungskanaele zwischen den beiden jeweils in der Naehe der Enden liegenden Naben vorgesehen, so dass das von oben einstroemende warme Wasser durch diese Kanaele hindurch zur unteren Nabe stroemt, wo es in den Ruecklauf zum Heizkessel eintritt.(本発明は,加熱ラジエータに用いられる薄鋼板部分の構造,特に,重力またはポンプを利用してボイラの温水が供給される温水暖房に関するものである。特に,温水集水暖房の構造においては,いわゆる薄鋼板ラジエータを使用することが公知になっている。この薄鋼板ラジエータドイツ工業規格4722にしたがって閉止構造鋳造されており,規格に従った複数の寸法で製造されている。そして,すべての薄鋼板ラジエータは,特別な寸法で作成される。特定の数だけ集まって放熱体を形成する個々のモデルまたはリム部材の構造の名称は,互いのハブ間隔,例えば500または900mmならびに構造深さ,例えば160または220mmによって,特徴付けられる。閉止鋳造によって規格にしたがってプレス加工された薄鋼板から組み立てられるこれらのフィンの場合,通常は,複数の水路が端部に存在するハブの近傍の間にそれぞれ設けられてるので,上方から流れてくる温水は,これらの流路を貫通して下側のハブへと流れていき,そこで,暖房ボイラに向かって逆流する。)」(第1ページ第1行-第2ページ第10行,訳文:第1ページ第1行-第13行)

イ.「Fig. 2 zeigt nun die erfindungsgemaesse Ausgestaltung eines Stahlbechgliedes fuer einen Heizungsradiator , das von Stahlblechpressteilen ausgeht , die dem eingangs beschriebenen heorkoemmlichen Glied entsprechen , also ebenfalls Pressteile mit einem genormten Nabenabstand und einer genormten Bautiefe , jedoch ist die aeussere , den Wasserinhalt begrenzende Schweissnaht 10 nunmehr so angeordnet , dass , die aesseren Wasserfuehrungskanaele 14' aufgegeben sind und die aeusseren Schweissnaehte 12 , die die Wasserfuehrungskanaele begrenzen ,zu einer zusammenhaengenden ,um die Nabenoeffnungen herumfuehrenden Schweissnaht 12' ausgestaltet sind ,so dass nur noch zwei Wasserfuehrungskanaele 14 verbleiben , die durch die mittlere Schweissnaht 12 gegeneinander abgetrennt sind , waehrend die aeusseren Blechteile , die sonst die aesseren Wasserfuehrungskanaele 14' bilden wuerden , zu Heizflaechen 20 ausgebildet sind.
Diese Ausgestaltung ist besonders deutlich in dem Schnitt in Fig.3 zu erkennen.
Die aesseren Wasserfuehrungskanaele 14' sind verschwunden und zu den zusaetzlichen Heizflaechen 20 aufgebogen , an die sich jetzt die beiden Wasserfuehrungskanaele 14 anschliessen , die mit der oberen und unteren Nabe 16 und 18 in Verbindung stehen.(図2は,加熱ラジエータ用の薄鋼板リム部材の本発明に係る構成を示す。これは,冒頭に記載した形式のリム部材に対応する薄鋼板プレス加工リム部材,すなわち規格に従ったハブ間隔と規格に従った構造深さとを有するプレス加工リム部材に基づくが,水量を画定する外側の溶接継ぎ目10が,外側の水案内路14’が省かれるとともに,水案内路を画定する外側の溶接継ぎ目12がハブ開口部のまわりにめぐらされている溶接継ぎ目12’となるように構成されるようになっている。その結果,2つの水案内路14だけが残ることになり,これら水案内路は,中央の溶接継ぎ目12によって互いに分離されるが,通常は外側の水案内路14’を形成する外側の薄鋼部分が伝熱面20となるように構成されることになる。
この構造については,図3の断面を参照することにより,とりわけ明白に認識することができる。
2つの外側の導水管14’を省いた代わりに,2つの伝熱面20が付加され,両方の導水管14が互いに接続され,上側のボス16と下側のボス18が結合されている。)」(第8ページ第6行-第9ページ第1行,訳文:第4ページ第22行-第5ページ第7行)

ウ.第8図には,複数のリム部材を互いに連結する点が図示されている。

エ.記載イによると,リム部材は,薄鋼板を溶接して形成されるものであるから,リム部材が,第1の薄鋼板を有し,第1の薄鋼板の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,伝熱面に近接して配置される少なくとも1つの部分を有する第2の薄鋼板を有していることは,明らかである。

そこで,これらの記載事項及び図示事項を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下「引用文献1記載の発明」という。)が記載されている。

「内部に温水が循環する互いに連結された複数のリム部材によって構成される本体を有する,暖房用の加熱ラジエータであって,各リム部材が,第1の薄鋼板を有し,該第1の薄鋼板のそれぞれの外側面が,伝熱面を有し,前記リム部材が,第1の薄鋼板の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,伝熱面に近接して配置される少なくとも1つの部分を有すると共に,その外側部に伝熱面を有する第2の薄鋼板を有し,少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の薄鋼板同士の伝熱面が,空間を形成し,前記リム部材が,他のリム部材と連結したとき,リム部材の外側面が,本体に2つの側面部を形成する暖房用の加熱ラジエータ。」

b-2.引用文献2について

本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である,ドイツ帝国特許第354537号明細書(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

オ.「Abb. 6 und 7 zeigen in Ansicht und Querschnitt zwei Glieder eines Heizkoerpers, deren Luftrohre aus je zwei Blechstreifen 24,25 bzw. 24',25' hergestellt sind, die etwa an ihrer Mitte mit den Heizmittelrohren 27, 27' bei 28, 29,28', 29' waermeleitend verbunden sind. Die Kanten der Blechstreifen stossen nicht zusammen, sondern lassen schmale Spalten 30, 31,30', 31' frei, durch welche ein Luftaustausch zwischen der erwaermten Luft und der kalten Zimmerluft erfolgen kann.
Der Querschnitt der Blechstreifen ist ferner derartig gestaltet.,dass die Wandteile 25, 24' der benachbarten Glieder einen im Querschnitt nahezu geschlossenen, aber oben und unten offenen Rohrkanal bilden, in welchem bei Erwaermung ein lebhafter, den Waermeaustausch verbessernder Luftstrom aufsteigen kann. Die geringen Abstaende 32, 33 dienen demselben Zweck wie die Spalte 30,31.(図6と図7はラジエータの二つのユニットの正面と断面を示す。ラジエータの空気パイプは二つの金属製細板(24),(25),あるいは,(24'),(25')で出来てる。そしてその中ほどで熱源パイプ(27),(27')を用いて(28),(29),(28'),(29')から温風を出すように結合されている。金属製細板の角は突き当たることなく,細い隙間(30),(31)(30'),(31')はフリーになっている。これにより,温められた空気と冷たい室内空気の間の空気交換が出来る。金属製細板の断面はさらに次のように成形する。即ち,隣接するユニットの壁の部分(25),(24')は断面でほぼクローズ状態で,上下はオープンなパイプ路とする。パイプ路では暖房時に活発な空気交換を一層促進させる空気の流れができる。短い距離(32),(33)は隙間(30),(31)と同じ目的のために効果的である。)」(第2ページ右欄第42行-同第61行,訳文は当審による。以下同様。)

カ.「Der neue Heizkoerper zeichnet sich durch hohe Wirksamkeit bei geringem Gewicht vorden bisherigen Heizkoerpern aus. In den Luftrohren und zwischen ihnen entsteht im Betriebe ein aufsteigender Luftstrom, durch welchen die kalte Luft vom Fussboden angesaugt und so eine die Gleichmaessigkeit der Zimmertemperatur befoerdernde Luftzirkulation erzeugt wird. (新しいラジエータは高い効率を持ち,軽い重量で目的を達成する点で,従来のラジエータに比べて優れている。空気パイプの中や,パイプ同士の間で作動時に上昇気流が生じ,それによって底の冷たい空気が吸い込まれ,室温の均一化を促進する空気の循環が起きる。)」(第3ページ左欄第17行-同第25行)
キ.第6図及び第7図には,熱源パイプに2つの金属製細板,つまり,第1の金属製細板及び第2の金属製細板からなる空気パイプを取り付けるとともに,第1の金属製細板のそれぞれの外側面が,第1の折り曲げ部,第2の折り曲げ部,第3の折り曲げ部を有し,少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有する第2の金属製細板を有し,熱源パイプに取り付けた第1及び第2の金属製細板同士の,少なくとも第1の金属製細板第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の金属製細板の第1及び第2の折り曲げ部が,パイプ路を形成し,ユニットが,他のユニットと連結したときに,ユニットの外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する点が図示されている。

ク.記載オ,カによれば,空気パイプにおけるパイプ路では,活発な空気交換が促進されていることからみて,第1及び第2の金属製細板からなる空気パイプは,ユニットの効率を増大するためのものであって,ユニットの外側面の熱を減少するものであることは明らかである。

そこで,これらの記載事項及び図示事項を総合すると,引用文献2には,次の発明(以下「引用文献2記載の発明」という。)が記載されている。

「熱源パイプに,第1の金属製細板及び第2の金属製細板からなる空気パイプを取り付けたユニットを互いに連結した暖房用のラジエータであって,ユニットが,第1の金属製細板を有し,該第1の金属製細板のそれぞれの外側面が,該ユニットの外側面の熱を減少するための,及び,同時にユニットの効率を増大させるための第1の折り曲げ部,第2の折り曲げ部,第3の折り曲げ部を有し,前記ユニットが,少なくとも第1及び第2の折り曲げ部を有する第2の金属製細板を有し,熱源パイプに取り付けた第1及び第2の金属製細板同士の,少なくとも第1の金属製細板第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の金属製細板の第1及び第2の折り曲げ部が,パイプ路を形成し,ユニットが,他のユニットと連結したときに,ユニットの外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する暖房用のラジエータ。」

c.対比・判断

c-1.本件訂正発明1について

本件訂正発明1と引用文献1記載の発明とを対比する。
引用文献1記載の発明の「リム部材」は,本件訂正発明1の「放熱素子」に相当し,以下同様に,「第1の薄鋼板」は「第1の板状素子」に,「第2の薄鋼板」が「第2の板状素子」に,それぞれ相当する。

また,引用文献1記載の発明の「温水」と,本件訂正発明1の「熱い液体」である「オイル」は,ともに,「熱媒体」である点で共通し,引用文献1記載の発明の「暖房用の加熱ラジエータ」と,本件訂正発明1の「暖房用のオイルラジエータ」は,ともに,「暖房用のラジエータ」である点で共通している。
さらに,引用文献1記載の発明の「伝熱面」と,本件訂正発明1の「第1及び第2の折り曲げ部」は,ともに,「伝熱部」である点で共通している。
そして,引用文献1記載の発明の「空間」と,本件訂正発明1の「チャネル状区画」は,ともに,放熱素子を形成する2つの板状素子によって形成された「通路」である点で共通し,引用文献1記載の発明の「側面部」と,本件訂正発明1の「側壁」は,ともに,放熱素子が他の放熱素子と連結したとき,本体に形成される「側部」である点で共通している。

そうしてみると,両者は,次の点で一致している。

[一致点]

「内部を熱媒体が循環する互いに連結された複数の放熱素子によって構成される本体を有する,特に暖房用のラジエータであって,各放熱素子が少なくとも1つの第1の板状素子を有し,該第1の板状素子のそれぞれの外側面が,伝熱部を有し,前記放熱素子が,該第1の板状素子の対応する部分と完全にマッチし且つ連結される,伝熱部に近接して配置される少なくとも1つの部分を有すると共に,伝熱部を有する第2の板状素子を有し,少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の板状素子同士の伝熱部が通路を形成し,前記放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの側部を形成する暖房用のラジエータ。」

また,両者は,次の点で相違している。

[相違点]

(1)熱媒体が,本件訂正発明1では「熱い液体」としてオイルを用いているのに対して,引用文献1記載の発明では「温水」を用いている点。
(2)各板状素子に設けられた伝熱部が,本件訂正発明1は「第1及び第2の折り曲げ部」により構成されるのに対して,引用文献1記載の発明は「伝熱面」であって,少なくとも第2の折り曲げ部に相当する構成を有していない点。
(3)互いに連結された第1及び第2の板状素子によって形成される通路が,本件訂正発明1では「少なくとも第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成」したものであるのに対して,引用文献1記載の発明では,第2の折り曲げ部に相当する構成を備えていない点。
(4)放熱素子が他の放熱素子と連結したとき,本体に形成される「側部」が,本件訂正発明1では「2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁」であるのに対して,引用文献1記載の発明では,「2つの側面部」である点。
上記相違点(1)-(4)について検討する。

・上記相違点(1)について

暖房用のラジエータで用いる熱媒体として「オイル」を用いることは,本件特許出願の優先権主張日前からの周知技術である(例えば,米国特許第2651506号明細書(甲第1号証),実願平2-31467号(実開平3-121662号,)のマイクロフィルム,特開昭53-58147号公報,特開昭52-56744号公報参照)。

さらに,温水又は蒸気を熱媒体とした暖房用のラジエータの熱交換能力を高めるための構成を,電気式のオイルラジエータ等に用いることができることは,本件特許出願の優先権主張日前からの周知技術である(例えば,米国特許第2651506号明細書(甲第1号証)参照。)。

よって,暖房用のラジエータで用いる熱媒体として,上記周知技術に倣って,引用文献1記載の発明の「温水」に代えて,「オイル」を用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。

・上記相違点(2)及び(3)について

引用文献2記載の発明の「パイプ路」は,一つのユニットにおける第1及び第2の金属製細板同士の,すくなくとも第1の金属製細板第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の金属製細板の第1及び第2の折り曲げ部によって形成される,チャネル状の区画であって,引用文献1記載の発明の,少なくとも1つの部分が互いに連結された第1及び第2の薄鋼板同士の伝熱面によって形成される「空間」と同様に,伝熱部として,共通の機能を有している。
さらに,暖房用のラジエータにおいて,空気を加熱するためのチャネル状の区画を,放熱素子を形成する板状素子によって形成することは,本件特許出願の優先権主張日前周知の技術である(例えば,米国特許第2651506号明細書(甲第1号証),ドイツ国特許公開第1933797号明細書(甲第3号証)参照。)。

よって,引用文献1記載の発明において,上記周知技術に倣って,空気を加熱するためのチャネル状の区画を形成するに際し,引用文献1記載の発明の,第1の薄鋼板及び第2の薄鋼板における「伝熱面」の構成として,引用文献2記載の発明を適用し,各板状素子に設けられた伝熱部を「第1及び第2の折り曲げ部」とすると共に,引用文献1記載の発明の「通路」の構成として,引用文献2記載の発明の「パイプ路」の構成を採用し,少なくとも第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成するようにしたことは,当業者が容易に想到し得たことである。

・相違点(4)について

「放熱素子が他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する」ようにすることは,本件特許出願の優先権主張日前周知の技術である(例えば,ドイツ帝国特許第354537号明細書(引用文献2),米国特許第2651506号明細書(甲第1号証)参照。)。

よって,放熱素子が他の放熱素子と連結したとき,本体に形成される「側部」として,引用文献1記載の発明の「2つの側面部」を,上記周知技術に倣って,2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件訂正発明1の効果は,引用文献1,2記載の発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって,格別なものとはいえない。

また,審判請求人は,意見書において,次のように主張している。

「オイルの加熱手段として電気ヒータを用いること,オイルは本体の内部に封入されているものであって加熱されたオイルは本体の内部で循環するものであること,及び,いわゆるスタンドアローン式の暖房用のラジエータであることについての明示の記載はないが,本件訂正発明1がこれらの構成を備えていることは,『暖房用のオイルラジエータ』という用語からによって明確に担保されている。」
そして,
「上記引用文献1に記載されている発明は少なくとも「流通式」の加熱ラジエータの発明であることの認定を欠いているから,かかる点で訂正拒絶理由知書における引用文献1に記載された発明の認定に誤りがある。」
さらに,
「上記相違点の認定は,引用文献1に開示されている発明は『流通式』の暖房用ラジエータに関するものであるのに対し,本件訂正発明1にかかる『暖房用のオイルラジエータ』に係る発明は,いわゆる『スタンドアローン式』の暖房用のラジエータの発明であることを無視した認定であって,妥当なものではない。
そして,上記引用文献1に開示されている発明と本件訂正発明1とは,熱媒体の存在形態が『流通式』であるか『スタンドアローン式』であるかの相違に基づいて,(a)加熱媒体を,引用文献1に記載されている発明は加熱ラジエータとボイラとの間で循環させているのに対し,本件訂正発明1では暖房用のラジエータの本体内部で循環させているという相違点が内在し,また,(b)本件訂正発明1では本体内部に加熱媒体中に浸漬された電気ヒータを備えているのに対して,上記引用文献1に開示されている発明ではこのような構成を備えていないという相違点が内在する。」

しかしながら,本件訂正明細書に記載された請求項1には「暖房用のオイルラジエータ」と記載されているのみで,その具体的構成が何ら特定して記載されておらず,「暖房用のオイルラジエータ」というのみでは,熱媒体がオイルである暖房用のラジエータとしか解することはできず,審判請求人が主張する「オイルの加熱手段として電気ヒータを用いること,オイルは本体の内部に封入されているものであって加熱されたオイルは本体の内部で循環するものであること,及び,いわゆるスタンドアローン式の暖房用のラジエータ」に限定して解釈することはできない。
そして,本件訂正発明1の「暖房用のオイルラジエータ」は,「熱媒体がオイルである暖房用のラジエータ」を意味するにすぎず,引用文献1記載の発明の認定に誤りはなく,さらに,相違点の認定に誤りはなく,その判断に誤りはない。

なお,仮に,本件訂正発明1の「暖房用のオイルラジエータ」が,審判請求人の主張するように,スタンドアローン式のものであったとしても,熱媒体が温水又は蒸気である暖房用のラジエータの熱交換能力を高めるための構成を,電気式のオイルラジエータに用いることができることは,例えば,米国特許第2651506号明細書(甲第1号証)に記載されており,暖房用のラジエータを周知のスタンドアローン式のオイルラジエータとすることは,当業者にとって容易であり,また,その効果も格別なものとはいえない。

したがって,本件訂正発明1は,引用文献1,2記載の発明及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

C-2.本件訂正発明2について

本件訂正発明2と引用文献1記載の発明は,上記相違点(1)-(4)に加え,次の点で相違している。

[相違点]

(5)本件訂正発明2は「第1の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有する」のに対して,引用文献1記載の発明は,このような構成を有していない点。

上記相違点(5)について検討する。

引用文献2記載の発明は,「第1の金属製細板が,少なくとも第3の折り曲げ部を有する」ものである。

よって,引用文献1記載の発明に,引用文献2記載の発明を適用して,「第1の板状素子が,少なくとも第3の折り曲げ部を有する」ようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件訂正発明2の効果は,引用文献1,2記載の発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって,格別なものとはいえない。

したがって,本件訂正発明2は,引用文献1,2記載の発明及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

C-3.本件訂正発明7について

本件訂正発明7と,引用文献1記載の発明は,上記相違点(1)-(4)に加え,次の点で相違している。

[相違点]

(6)本件訂正発明7は「本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有する」のに対して,引用文献1記載の発明では,この点が明らかでない点。
上記相違点(6)について検討する。

暖房用のラジエータの端部を閉じるための素子を設けることは,本件特許出願の優先日前周知の技術である(例えば,実願平2-31467号(実開平3-121662号)のマイクロフィルム,ドイツ国特許公開第1933797号明細書(甲第3号証)参照。)。

よって,引用文献1記載の発明に,上記周知技術を適用して,「本体が,その端部を閉じるための2つの素子を有する」ようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件訂正発明7の効果は,引用文献1,2記載の発明及び上記周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものであって,格別なものとはいえない。

したがって,本件訂正発明7は,引用文献1,2に記載の発明及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

d.まとめ

したがって,本件訂正発明1,2及び7は,特許法第29条第2項の規定に違反するものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび

以上のとおり,本件訂正審判の請求は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第1項,第2項の規定に適合せず,また,仮に,適合するとしても,同第3項の規定に適合しないものであるから,認めることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-28 
結審通知日 2009-09-01 
審決日 2009-09-16 
出願番号 特願平4-168159
審決分類 P 1 41・ 85- Z (F24D)
P 1 41・ 856- Z (F24D)
P 1 41・ 855- Z (F24D)
P 1 41・ 841- Z (F24D)
P 1 41・ 121- Z (F24D)
P 1 41・ 854- Z (F24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 克彦  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 豊島 唯
長崎 洋一
長浜 義憲
平上 悦司
登録日 2000-05-12 
登録番号 特許第3066189号(P3066189)
発明の名称 暖房用のオイルラジエータ  
代理人 特許業務法人ウィンテック  

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