• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
管理番号 1210994
審判番号 不服2006-15765  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-21 
確定日 2010-01-27 
事件の表示 平成10年特許願第541348号「医薬品と核酸の骨格筋への導入方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月8日国際公開、WO98/43702、平成13年10月30日国内公表、特表2001-520537号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年4月3日(パリ条約による優先権主張1997年4月3日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成18年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年7月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年8月16日付けで明細書についての手続補正がなされ、その後、当審において平成21年1月20日付けで拒絶理由を通知するとともに、同日付けで平成18年8月16日付けの手続補正を決定をもって却下したところ、平成21年7月23日付けで意見書が提出されるとともに、明細書についての手続補正がなされたものである。

2.当審において通知した拒絶理由
当審において平成21年1月20日付けで通知した拒絶理由は、概略、以下のようなものである。

2-1.拒絶理由1
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


(1)本願明細書の3ページ12-25行の記載によれば、従来の方法では、非常に高い電界強度を必要としていたが、本願発明1では、低い電界強度でも筋肉のトランスフェクション効率が増加し、筋肉の損傷を起こすことが少なくなる、という効果が得られるものと解される。
ところで、本願発明1は、「25V/cm?200V/cmの電界強度を有する電流によって筋肉を電気的に刺激するステップ」を含んでいる点において、従来の方法と相違するものと考えられる。即ち、本願発明1と従来の方法とでは、電界強度が相違するだけで、それ以外の点(請求項1に記載された「in vivoで、哺乳動物の骨格筋にある分子を送達する方法であって、ヒト以外の哺乳動物の骨格筋内に該分子を注射するステップと、電極を通って移動する電流が注射部位を通過するように注射部位の近くに電極の位置決めするステップと、を含んでなる」点)は同じであると認められる。
そうすると、従来の方法では高い電界強度が必要であったにも拘わらず、電界強度しか違いのない本願発明1においては、なぜ低い電界強度でもうまくいくようになったのかという点が発明の詳細な説明の記載を見ても不明であり、また、単に電界強度を低くするだけで、上記効果が得られるのであれば、従来の方法ではなぜ高い電界強度が必要であったのかという理由も不明である。
(2)請求項1、9、16、23には、電界強度を「25V/cm?200V/cm」とすることが記載されている。しかしながら、発明の詳細な説明の記載を見ても、その数値範囲の根拠が不明であり、また、その数値範囲と上記効果との関係を示す具体例が何も記載されておらず、その数値範囲のもつ技術的意義が不明である。
(3)発明の詳細な説明には、「低い電界強度でも筋肉のトランスフェクション効率が増加し、筋肉の損傷を起こすことが少なくなる」という効果が、具体的に、どのような手段によって、どのようにして得られるのかが明確に記載されていない。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1ないし38の技術上の意義を当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。(委任省令違反である。)

2-3.拒絶理由2
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1
・備考
本願発明1は、前記II.2.の本願補正発明における「電界強度」についての限定事項である「25V/cm?100V/cm」を「25V/cm?200V/cm」とするものであり、その数値範囲を拡張するものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、数値範囲を狭くしたものに相当する本願補正発明が、前記II.3.3-2に記載したとおり、引用文献(引用文献1)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様に、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項 2-38
・引用文献等 1
・備考
実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、通常ここに進歩性はないものと考えられるから、印可する方形二極性パルスの持続時間、周波数、電流の電界強度等の数値範囲を限定した点は、当業者が容易に想到できたことである。
したがって、本願発明2ないし38は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

< 引 用 文 献 等 一 覧 >
1.国際公開第96/32155号

なお、「本願発明1」ないし「本願発明38」とは、平成17年9月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし38に記載された発明をいう。また、「本願補正発明」とは、平成21年1月20日付けで補正却下された平成18年8月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明をいう。さらに、「前記II」とは、 平成18年8月16日付けの手続補正について記載した部分(「補正の却下の決定」の理由を記載した部分)を指す。

3.本願発明
本願の請求項1ないし38に係る発明は、平成21年7月23日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし38に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「In vivoで、哺乳動物の骨格筋にある分子を送達する方法であって、
ヒト以外の哺乳動物の骨格筋内に該分子を注射するステップと、
電極を通って移動する電流が注射部位を通過するように注射部位の近くに電極の位置決めするステップと、
25V/cm?100V/cmの電界強度を有する電流によって筋肉を電気的に刺激するステップと
を含み、前記電気的刺激が方形二極性パルスの形態で与えられる分子送達方法。」

4.拒絶理由1についての当審の判断
4-1.意見書の内容
請求人は、電界強度に関して、平成21年7月23日付け意見書の中で次のように主張している。
「電界強度が低くても、所定の値以上であれば、骨格筋で高いトランスフェクション効率が得られることは、発明の詳細な説明にも記載されています。例えば、図13bは、13V以上の高い電圧で筋肉を刺激することにより、トランスフェクション効率が増加することを示しています。この13Vは、従来技術に記載の電圧(例えば、引用文献1の第14頁の第20?22行には『50から500ボルト』、『0.05から2.5kV』が記載されている)と比較するとはるかに低い値です。また、この13Vは、電極間距離が通常の0.1?0.4cmである場合には、32.5?130V/cmと計算され、本願発明で特定する電界強度25?100V/cmとほぼ対応する値です。・・・(中略)・・・従って、25?100V/cmの範囲の電界強度を有する電流で刺激することにより、高いトランスフェクション効率で骨格筋に分子を送達できることが示されています。よって、この数値範囲の持つ技術的意義は明細書及び図面に説明されています。また、高いトランスフェクション効率で骨格筋に分子を送達できるという効果は、請求項1、9、16、または23に記載される構成全体により達成されるものです。従って、本願発明の技術的意義は、電界強度の数値範囲のみによって理解されるべきではなく、他の特定事項によっても技術的意義が理解されるべきであると思料いたします。」(以下、「主張A」という。)

4-2.本願明細書の記載事項
一方、電界強度について本願明細書の記載を見てみると、その9ページ6行?10ページ12行に、次のように記載されている。
「続けて図1を参照すると、電極はその分子が注射された領域の付近に約1?4mm離して筋肉上に置かれる。電極の厳密な位置あるいは設計についてであるが、注射された分子の領域において筋線維の向きに直交する方向に電流が筋繊維を通過することができさえすれば、さほど重要なことではない。
一旦電極が位置決めされると、筋肉は電気穿孔(electroporated)あるいは刺激を受ける。図2に説明されているように、刺激は、所定の振幅と持続時間を有する方形の二極性パルスとしてデリバリーされる。トランスフェクション効率を最適化する目的で、これらのパラメータは広範に変化させてトランスフェクション効率が比較された。例えば、電圧はおよそ0?50ボルトまでの範囲で変化させ、パルス持続時間は5μs?5msまでの範囲で変化させ、パルス数は1パルス?30,000パルスまでの範囲で変化させ、列内のパルス周波数は0.5Hz?1000Hzの範囲で変化させた。
これらの結果から得た結論は、電界強度が約50V/cmよりも上であれば、他のパラメータは所望された実験の条件によってさまざまに変化させられることもありうるということである。上限は検出されなかったが、有効性を有するトランスフェクション効率がさらにずっと高い電界強度で観察された。刺激の電界強度は以下の公式を使用して計算することができる。
E=V/(2r ln(D/r))
これはD>>rであれば、ワイヤ間の電界を表す。この式では、V=電圧=10V、D=ワイヤ中央間の距離=0.1?0.4cm、r=電極の直径=0.06cmである。E.Neumann,A.E.Sowers,C.A.Jordan編『Electroporation and electrofusion in cell biology』の中のHofmann,G.A.「Cells in electric fields」(389?407頁)、Plenum Publishing Corporation刊、1989年を参照のこと。10ボルトでは、電界強度は163V/cmと43V/cmの間である(電極間はそれぞれ0.1?0.4cm)。Dはrよりもずっと大きくなることはないので、大きな平行板の間に生じる電界については、以下の公式を使用することがより適当であると考えられる。
E=V/D
これによると、100V/cm?25V/cmの間にあるほぼ同じ電界強度が得られる(電極間がそれぞれ0.1?0.4cm)。他のパラメータだけではなく、電界強度もトランスフェクションされた組織によって影響を受け、したがって、最適条件はさまざまに変化することがある。しかし、本発明で与えられたパラメータを使用すると、当業者であれば最適パラメータは容易に得ることができる。」(以下、「記載A」という。)

4-3.当審の判断
(1)本願明細書においては、上記の記載A以外に本願発明の「25V/cm?100V/cm」という数値範囲について記載した箇所がないことから、本願発明の「25V/cm?100V/cm」という数値範囲は、請求人も意見書の中で述べているとおり、本願明細書の10ページ8?9行に「100V/cm?25V/cmの間にあるほぼ同じ電界強度が得られる(電極間がそれぞれ0.1?0.4cm)。」と記載されていることに基づくものであると認められる。
そうすると、「25V/cm?100V/cm」という数値範囲は、電極間の距離を0.1?0.4cmとし、電圧を10Vとしたときの電界強度を意味すると理解することができる。
また、上記の記載Aは、電界強度を求める公式について説明したものであって、具体的に電極間の距離が0.1?0.4cmで、かつ電圧が10ボルトの場合を一例として挙げて、その場合に、公式E=V/Dを用いて電界強度を計算すると、「25V/cm?100V/cm」という数値範囲の電界強度が得られることを示したにすぎず、10ボルトに格別の意味があるとの説明はなされていない。
したがって、記載Aから、当業者が本願発明の「25V/cm?100V/cm」という数値範囲の技術的意義あるいは臨界的意義を理解することはできない。
(2)次に、請求人の主張Aについて検討すると、主張Aに関して本願明細書には、「図13aに図示されているように、電圧増加に伴いトランスフェクション効率にはっきりとした増加がみられた。図13bに図示されているように、この実験の条件下では、13ボルトあるいはそれより高い電圧で刺激を受けた筋肉では、5ボルトあるいはそれより低い電圧で刺激を受けた筋肉に比較してルシフェラーゼ活性が40倍大きいことが示された。」(17ページ6?10行。以下、「記載B」という。)と記載されている。
この記載Bによれば、確かに、図13bには、13V以上の高い電圧で筋肉を刺激した場合に、5Vという低い電圧で刺激するよりも、トランスフェクション効率が増加することが示されている。しかし、この実験では、電極間距離の条件が示されておらず、電界強度がどの程度かは不明である。また、仮に電極間距離が0.1?0.4cmとの条件だとしても、図13aを見ると明らかなように、電圧を10Vとした場合の実験結果が示されていないため、電圧が10Vの場合、すなわち電極間距離0.1?0.4cmという条件で電界強度に換算すれば「25V/cm?100V/cm」となるが、この場合について、トランスフェクション効率が高いのか低いのかはまったく不明であり、図13a及び図13bがその数値限定の技術的意義を示す根拠となっていないことは明らかである。言い換えれば、電界強度を「25V/cm?100V/cm」とした場合に本願発明の効果が得られるのかどうかは図13a及び図13bを見ても明らかでない。
また、図13bには、5Vという低い電圧では、トランスフェクション効率は低いことが示されている。しかし、例えば電圧が3Vの場合、電極間距離0.1?0.4cmという条件で電界強度を計算すると、7.5?30V/cmとなり、30V/cmという電界強度は本願発明の数値範囲「25V/cm?100V/cm」に含まれる値であるから、請求人の主張によればトランスフェクション効率は当然高いはずであるが、図13bによれば、トランスフェクション効率が低いことが示されている。このように、効果の点で矛盾があることからみても、電界強度に関する数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていないことは明らかである。
さらに、図13a、bの実験は、電圧を0?47.5Vまで変化させた場合のトランスフェクション効率を示すものであるが、例えば、電圧が47.5Vの場合、すなわち電極間距離0.1?0.4cmという条件で電界強度に換算すれば118.75?475V/cmとなり、この場合においても、高いトランスフェクション効率が得られたことを意味するものであり、電界強度が本願発明の数値範囲「25V/cm?100V/cm」から外れていても、当該数値範囲における効果と同様の効果を奏することを意味するものであるから、電界強度の上限値を「100V/cm」とした点には、臨界的意義がないことも明らかである。

4-4.まとめ
したがって、意見書を参酌し、本願明細書及び図面の記載を見ても、電界強度を「25V/cm?100V/cm」とすることの技術的意義が不明であり、電界強度と効果との関係が明らかでなく、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.拒絶理由2についての当審の判断
5-1.引用文献の記載事項
当審において平成21年1月20日付けで通知した拒絶の理由に引用された国際公開第96/32155号(以下、「引用例」という。翻訳文は引用例のパテントファミリーである特表平11-503349号公報を援用する。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「 The present invention relates to the treatment of ailments in humans and ・・・by electroporation. 」(1ページ5?8行、翻訳文:「本発明は人間や動物の疾患の治療に関し、さらに特定すれば、エレクトロポレーション(electroporation)によって患者の生細胞に薬剤や遺伝子を搬送するために制御された電界を適用する改良装置に関する。」(公報5ページ5?7行))
(2)「 This treatment is carried out by infusing an anticancer drug directly into the tumor ・・・ the formula E=V/d can then be applied to the electrodes. 」(2ページ21行?3ページ2行、翻訳文:「この治療は抗癌剤を腫瘍内に直接的に注入し、2体の電極に挟まれたその腫瘍に電界を適用することで実行された。この電界強度の調整には正確を期し、正常すなわち健康な細胞にダメージを与えずに腫瘍の細胞のエレクトロポレーションを行うことが重要である。この調整は、電界を中間に発生させる2電極の間に腫瘍を配置できる体外の腫瘍の場合には容易に可能であろう。これら電極間の距離dは容易に測定が可能であり、E=V/dの法則に従った妥当な電圧を電極に適用することが可能である。」(公報6ページ13?19行))
(3)「 As used herein the term "molecules" includes pharmacological agents, ・・・ it may be utilized for other therapeutic applications. 」(4ページ19?26行、翻訳文:「本明細書に使用する”分子”とは薬剤、遺伝子、抗体、及び他のタンパク質を含んだものを意味する。人のエレクトロポレーション治療は、腫瘍内への抗癌剤の注入と、その腫瘍を挟んで配置された2体の電極間に電圧パルスを適用してその薬剤を腫瘍細胞内へと侵入させるいわゆる電気化学治療(ECT)と呼ばれるエレクトロポレーションとで成る。本発明は主として、オキノやミル他によって報告されたごときECTを体内の腫瘍に対して適用させるために考案された。しかし、その他の治療的適用にも本発明は応用が可能であろう。」(公報7ページ21?27行))
(4)「 Anticancer drugs are infused or injected into ・・・ or other tissue being treated. 」(8ページ3?5行、翻訳文:「注射器82等によって抗癌剤が患者内に注入される。その薬剤すなわち分子は血管注射されるか、あるいは治療対象の腫瘍または他の組織に直接的に注入される。」(公報10ページ13?15行))
(5)「 An electric field across a cell membrane results in ・・・ Mammalian cells require field strengths of typically 200 V/cm to several kV/cm. 」(12ページ1?12行、翻訳文:「細胞膜に適用された電界は、エレクトロポレーション手法に必須な一時的な通過孔を細胞膜に形成する。パルス発生機は電極166と168の間の間隙(cm)によって人体組織に適用される電圧(kV)を提供する。この電位差はいわゆる電界強度を定義し、E=kV/cmの関係となる。各細胞は最良のエレクトロポレーションのための固有の臨界電界強度を有している。これは細胞サイズ、細胞膜組成、及び細胞壁自体の固有の特性によって定まる。例えば、・・・(中略)・・・一般的に言えば、必要な電界強度は細胞サイズに反比例して変化する。哺乳生物の細胞は典型的には200V/cmから数kV/cmの電界強度を必要とする。」(公報13ページ24行?14ページ5行))
(6)「 The electric fields needed for in vivo cell electroporation,・・・ from 100 V/cm to several kV/cm. 」(12ページ16?19行、翻訳文:「ECTのごとき生体内の細胞エレクトロポレーションに必要な電界は、生体外の細胞に必要な電界の強度とほぼ同じである。これらは100V/cmから数kV/cmの範囲である。」(公報14ページ9?11行))
(7)「 The most systematic study has been conducted by Mir ・・・ as well as more recurrences. 」(13ページ1?10行、翻訳文:「最も系統的な研究はミルと彼の仲間によってパリのグスタブ-ロウシ研究所で行われた。ミル他は彼の治療モードを皮下に埋め込まれた腫瘍を有したヌードマウスあるいは通常マウスにまず適用した。これらマウスはブレオマイシンの筋肉注射で治療され、腫瘍には短波長の高強度電気パルスが適用された。このコントロール研究では、250mgの薬剤が両腿に注射され、ブレオマイシン注射後に1.5kV/cmの電界と8x100ミリ秒のパルスが1秒間隔で30分間適用された。1.2から1.5kV/cmの電界強度でのこの治療後に35%が治癒された。これより低い電圧では治癒率が低くなり、再発率が高かった。」(公報14ページ20?27行))
(8)「 The nature of the electric field to be generated is determined by ・・・ results in reduced efficacy. 」(13ページ22?26行、翻訳文:「発生される電界の特性は、組織の特徴、腫瘍の種類、及び位置によって決定される。電界はできるだけ均質で、適正な強度であることが望ましい。過剰な電界強度は細胞の溶解をもたらし、低電界では効果が低い。」(公報15ページ9?11行))
(9)「 The waveform of the electrical signal provided by the generator ・・・ to enter the cells via electroporation. 」(13ページ27行?14ページ5行、翻訳文:「パワーパック36あるいは194のパルス発生機で提供される電気信号の波形は、指数的に減衰するパルス、方形パルス、単極振動パルストレーン(unipolar oscillating pulse train)、あるいは双極振動パルストレーン(bipolar oscillating pulse train)でよい。電界強度は0.2kV/cmから20kV/cmでよい。パルス長は10マイクロ秒から100ミリ秒でよい。1から100までのパルスが存在できる。もちろん、波形、電界強度、及びパルス持続時間は細胞のタイプや、エレクトロポレーションによってそれらの細胞に侵入する投与分子のタイプによって異なる。」(公報15ページ12?19行))
(10)「10. A method for the therapeutic application of electroporation to a portion of the body of a patient ・・・ to enter said preselected cells. 」(17ページ17行?18ページ6行、翻訳文:「10.患者の身体部分の細胞内に投与分子を導入するためのエレクトロポレーションの治療的適用方法であって、
患者の体内の所定の位置で電界を発生させるために調整式に間隔を開けられる2体の電極を含んだ電極手段を提供するステップと、
これら両電極の間隔を検出し、その間隔に対応した信号を発生させるステップと、
前記電極手段に接続される電気パルス発生機を提供して作動させ、前記電極間隔に対応した電気信号をそれら両電極に適用し、所定の強度と持続時間の電界を反復的に発生させ、前記患者の身体部分の治療対象細胞の細胞壁を一時的に透過性とし、それら細胞内に投与分子を侵入させるステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。」(公報3ページ8?18行))

引用例に記載された、特に「人のエレクトロポレーション治療は、腫瘍内への抗癌剤の注入と、その腫瘍を挟んで配置された2体の電極間に電圧パルスを適用してその薬剤を腫瘍細胞内へと侵入させるいわゆる電気化学治療(ECT)と呼ばれるエレクトロポレーションとで成る。」(摘記事項(3)参照)、「注射器82等によって抗癌剤が患者内に注入される。」(摘記事項(4)参照)、「哺乳生物の細胞は典型的には200V/cmから数kV/cmの電界強度を必要とする。」(摘記事項(5)参照)などの記載からみて、引用例には、腫瘍内に薬剤を注射すること、電極を通って移動する電流が注射部位を通過するように注射部位の近くに電極の位置決めすること、200V/cm?数kV/cmの電界強度を有する電流によって腫瘍を電気的に刺激することが記載されていると認められる。

そうすると、これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりにならって整理すると、引用例には、
「患者の腫瘍に薬剤を導入する方法であって、
患者の腫瘍内に該薬剤を注射するステップと、
電極を通って移動する電流が注射部位を通過するように注射部位の近くに電極の位置決めするステップと、
200V/cm?数kV/cmの電界強度を有する電流によって腫瘍を電気的に刺激するステップと
を含み、前記電気的刺激がパルスの形態で与えられる薬剤導入方法。」についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5-2.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明における「患者」は本願発明の「哺乳動物」に相当し、以下同様に、「薬剤」は「分子」に、「導入」は「送達」に、「薬剤を導入する方法」は「ある分子を送達する方法」に、「薬剤導入方法」は「分子送達方法」に、それぞれ相当する。
引用発明の「腫瘍」と本願発明の「骨格筋」及び「筋肉」とは、どちらも「生体組織」である点で共通する。また、引用発明の「患者の腫瘍に薬剤を導入する方法」と本願発明の「In vivoで、哺乳動物の骨格筋にある分子を送達する方法」とは、どちらも「In vivoで、哺乳動物の生体組織にある分子を送達する方法」である点で共通する。さらに、引用発明の「200V/cm?数kV/cmの電界強度」と本願発明の「25V/cm?100V/cmの電界強度」とは、電界強度の数値範囲は異なるものの、「所定強さの電界強度」という点で共通する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「In vivoで、哺乳動物の生体組織にある分子を送達する方法であって、
哺乳動物の生体組織内に該分子を注射するステップと、
電極を通って移動する電流が注射部位を通過するように注射部位の近くに電極の位置決めするステップと、
所定強さの電界強度を有する電流によって生体組織を電気的に刺激するステップと
を含み、前記電気的刺激がパルスの形態で与えられる分子送達方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明では、生体組織がヒト以外の哺乳動物の骨格筋であるのに対し、引用発明では、患者の腫瘍である点。
相違点2:本願発明では、パルスが方形二極性パルスの形態で与えられるのに対して、引用発明では、パルスがどのような形態で与えられるのか明らかでない点。
相違点3:本願発明では、電界強度が 25V/cm?100V/cm であるのに対し、引用発明では、200V/cm?数kV/cmである点。

5-3.相違点についての判断
そこで、各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例には、「ミル他は彼の治療モードを皮下に埋め込まれた腫瘍を有したヌードマウスあるいは通常マウスにまず適用した。これらマウスはブレオマイシンの筋肉注射で治療され、腫瘍には短波長の高強度電気パルスが適用された。このコントロール研究では、250mgの薬剤が両腿に注射され、ブレオマイシン注射後に1.5kV/cmの電界と8x100ミリ秒のパルスが1秒間隔で30分間適用された。」(摘記事項(7)参照)と記載されており、マウスの両腿に筋肉注射して腫瘍に電気パルスを適用することが記載されている。加えて、引用例における「人のエレクトロポレーション治療は、腫瘍内への抗癌剤の注入と、その腫瘍を挟んで配置された2体の電極間に電圧パルスを適用してその薬剤を腫瘍細胞内へと侵入させるいわゆる電気化学治療(ECT)と呼ばれるエレクトロポレーションとで成る。」(摘記事項(3)参照)との記載を参酌すれば、ヒト以外の哺乳動物であるマウスの骨格筋に薬剤を送達することが示唆されているといえる。
そうすると、引用発明において、患者の腫瘍に代えてヒト以外の哺乳動物の骨格筋に分子を送達するようにして相違点1に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことであるということができる。

(2)相違点2について
引用例には、「パワーパック36あるいは194のパルス発生機で提供される電気信号の波形は、指数的に減衰するパルス、方形パルス、単極振動パルストレーン(unipolar oscillating pulse train)、あるいは双極振動パルストレーン(bipolar oscillating pulse train)でよい。」(摘記事項(9)参照)と記載されている。
また、エレクトロポレーションにおいて、指数的に減衰するパルス、方形パルス、単極振動パルストレーン、双極振動パルストレーンなどからなる群からパルスを選択することは従来から普通に行われてきたことである(例えば国際公開第95/19805号、国際公開第96/39226号参照)。
そうすると、パルスの波形として方形パルスを選択し、振動パルストレーンとして双極を選択し、電気的刺激が方形二極性パルスの形態で与えられるようにすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
したがって、相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
引用例の記載を見てみると、引用例には、「この電界強度の調整には正確を期し、正常すなわち健康な細胞にダメージを与えずに腫瘍の細胞のエレクトロポレーションを行うことが重要である。」(摘記事項(2)参照)、「各細胞は最良のエレクトロポレーションのための固有の臨界電界強度を有している。これは細胞サイズ、細胞膜組成、及び細胞壁自体の固有の特性によって定まる。」(摘記事項(5)参照)、「発生される電界の特性は、組織の特徴、腫瘍の種類、及び位置によって決定される。電界はできるだけ均質で、適正な強度であることが望ましい。過剰な電界強度は細胞の溶解をもたらし、低電界では効果が低い。」(摘記事項(8)参照)、「波形、電界強度、及びパルス持続時間は細胞のタイプや、エレクトロポレーションによってそれらの細胞に侵入する投与分子のタイプによって異なる。」(摘記事項(9)参照)などの記載がある。
これらの記載を総合すると、高い電界強度は細胞の溶解をもたらし、健康な細胞にダメージを与えることから、できるだけ低い電界強度であることが望ましいということが理解できる。また、組織の特徴や腫瘍の種類に応じて適度な電界強度を選択することが望ましいこと、その電界強度は、細胞サイズ、細胞膜組成、及び細胞壁自体の固有の特性、腫瘍の種類、細胞に侵入する投与分子のタイプなどによって異なること、などが理解できる。
しかも、引用例には、「ECTのごとき生体内の細胞エレクトロポレーションに必要な電界は、生体外の細胞に必要な電界の強度とほぼ同じである。これらは100V/cmから数kV/cmの範囲である。」(摘記事項(6)参照)と記載されており、哺乳生物の細胞においては典型的には200V/cm以上の電界強度が必要とされるところ(摘記事項(5)参照)、それよりもさらに低い電界強度(100V/cm)とすることが示唆されている。
そうすると、電気的刺激を方形二極性パルスの形態で与えることを選択し、ヒト以外の哺乳動物の骨格筋に分子を送達する場合に、良好なトランスフェクション効率が得られるような低い電界強度について実験的に好適な範囲を求めることは、引用例に接した当業者であれば容易になし得たことというべきである。
したがって、電界強度についての数値範囲を25V/cm?100V/cmとし、相違点3に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の効果も、引用発明から当業者であれば予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

5-4.まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
また、本願発明は、その出願前に当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-01 
結審通知日 2009-09-04 
審決日 2009-09-15 
出願番号 特願平10-541348
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61N)
P 1 8・ 536- WZ (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 中島 成
増沢 誠一
発明の名称 医薬品と核酸の骨格筋への導入方法  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ