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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1211105
審判番号 不服2008-14080  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-05 
確定日 2010-02-04 
事件の表示 特願2003-302862「多気筒4サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日出願公開、特開2005- 69170〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年8月27日の出願であって、平成19年12月17日付けで拒絶理由が通知され、平成20年2月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年4月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年6月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年7月2日付けの手続補正書によって特許請求の範囲及び明細書の一部を補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成21年8月3日付けの書面による審尋に対し、平成21年10月5日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年7月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月2日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正の内容
平成20年7月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、以下、
A 「【請求項1】
クランク軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボアおよびその下方のクランク室を有するエンジンケースを備え、
互いに隣接する気筒のシリンダボアおよびクランク室間を仕切る仕切り壁に、これを貫通する連通孔を有し、
前記連通孔における前記仕切り壁を貫通した両端の上縁は、前記シリンダボアの軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記仕切り壁を外側から切削することにより形成され、
前記上縁が形成された連通孔における前記仕切り壁を貫通した両端の下縁は、前記シリンダボアの軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記仕切り壁を外側から切削することにより形成されている多気筒4サイクルエンジン。
【請求項2】
請求項1において、前記連通孔の上縁が第1の切削工具により切削されており、前記連通孔の下縁が前記上縁に接触しない第2の切削工具により切削されている多気筒4サイクルエンジン。
【請求項3】
請求項1または2において、前記連通孔の下縁の切削は、切削工具であるボールエンドミルにより行われている多気筒4サイクルエンジン。」を

B 「【請求項1】
クランク軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボアおよびその下方のクランク室を有するエンジンケースにおける、隣接する気筒のシリンダボアおよびクランク室間を仕切る仕切り壁に、これを貫通する連通孔を形成する方法であって、 前記シリンダボア内にシリンダボアの軸心に対して傾斜した方向から挿入した第1の切削工具により、前記仕切り壁を切削して前記連通孔の上縁を形成する工程と、 前記シリンダボア内にシリンダボアの軸心に対して傾斜した方向から挿入した第2の切削工具により、前記仕切り壁を切削して前記連通孔の下縁を形成する工程と、 を備えた多気筒4サイクルエンジンにおける連通孔の形成方法。 【請求項2】
請求項1において、前記第2の切削工具としてボールエンドミルを使用する多気筒4サイクルエンジンにおける連通孔の形成方法。」と補正するものである。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲に関する補正は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項2及び請求項3を本件補正後の請求項1及び請求項2と繰り上げるとともに、本件補正前の請求項2及び請求項3における「多気筒4サイクルエンジン」に対して、「連通孔を形成する方法」の発明特定事項を付加すると共に、方法のカテゴリーに変更することで、本件補正後の請求項1及び請求項2と補正することを含むものである。
ところで、上記発明特定事項を付加して、カテゴリーを変更する補正は、発明の産業上の利用分野または解決しようとする課題を変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するとは認められず、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)を目的としたものとも採れない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号のいずれにも該当しない。

3.むすび
以上のように、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成20年7月2日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成20年2月25日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定された上記(第2.[理由1]A【請求項1】)のとおりのものである(以下、「本願発明」という)。

2.引用文献記載の発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布の刊行物である特開平7-217496号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0017】
【実施例】図1は、本発明の一実施例であるクランクシャフトを用いて構成した内燃機関10の全体構成図を示す。ここで、同図(A)はその側面断面図を、同図(B)はそのB-B断面図を示す。
【0018】同図(A)に示すように、内燃機関10は、直列4気筒式内燃機関であり、シリンダブロック12は、第1気筒♯1?第4気筒♯4に対応するシリンダボア14_(-1)?14_(-4)を備え、またシリンダ部から下部に向かって延設され、クランクケース内において各気筒♯1?♯4を隔離する隔壁16_(1-2 ),16_(2-3) ,16_(3-4)を備えている。
【0019】これらの隔壁16_(1-2 ),16_(2-3) ,16_(3-4)は、シリンダブロック12の側壁18,20と同様に、その下端に対向して装着されるベアリングキャップ22_(-1)?22_(-5)と共にクランクシャフト24についてのベアリングハウジングを構成する。つまり、クランクシャフト24は、シリンダブロック12内においてこれらの隔壁16_(1-2 ),16_(2-3) ,16_(3-4)に支持されて回動する構成である。
【0020】クランクシャフト24は、第1気筒♯1及び第4気筒♯4について同位相に設けられたクランクピン24_(-1),24_(-4)、第2気筒♯2及び第3気筒♯3に対応して、クランクピン24_(-1),24_(-4)に対して180°位相をずらして同位相に設けられたクランクピン24_(-2),24_(-3)、及び個々のクランクピン24_(-1)?26_(-4)を挟み込むように、その反対側に設けられた4対のカウンタウェイト24_(-1)a,24_(-1)b、24_(-2)a,24_(-2)b、24_(-3)a,24_(-3)b、24_(-4)a,24_(-4)bを備えている。
【0021】クランクピン24_(-1)?24_(-4)は、それぞれコネクティングロッド26_(-1)?26_(-4)を介して、第1気筒♯1?第4気筒♯4のピストン28_(-1)?28_(-4)に連結している。また、カウンタウェイト24_(-1)a,24_(-1)b、24_(-2)a,24_(-2)b、24_(-3)a,24_(-3)b、24_(-4)a,24_(-4)bは、これらピストン28_(-1)?28_(-4)との関係で、クランクシャフト24の回転モーメントの中心が、その回転中心に一致するように構成されている。
【0022】尚、本実施例の内燃機関10においては、第1気筒♯1と第4気筒♯4のシリンダボア14_(-1),14_(-4)内を摺動するピストン28_(-1),28_(-4)が同じ位相で、また第2気筒♯2と第3気筒♯3のシリンダボア14_(-2),14_(-3)内を摺動するピストン28_(-2),28_(-3)が共にそれらと180°位相をずらした状態で、それぞれストロークすることになる。
【0023】ここで、本実施例のクランクシャフト24は、第1気筒♯1及び第2気筒♯2に対応して形成した部分の斜視図である図2にも示すように、隔壁16_(1-2) 、及び16_(3-4)に対向して設けられるカウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)a、及び24_(-3)b,24_(-4)aに、前記した通気通路に相当する貫通孔25_(-1),25_(-2),25_(-3),25_(-4)を備えており、この点に特徴を有している。
【0024】内燃機関10は、シリンダブロック12の底部に潤滑オイルを集油捕獲するオイルパン30を備え、その内部に適量の潤滑オイル32を貯蔵している。内燃機関10の運転中においてクランクシャフト24の回転軸受け部、及びシリンダボア14_(-1)?14_(-4)とピストン28_(-1)?28_(-4)との間等の摺動部に供給して適当な潤滑性を確保するためである。
【0025】図1(A),(B)は、内燃機関10が停止状態である場合の潤滑オイル32の油面を示したものであるが、この場合同図に示すように、潤滑オイル32の油面はベアリングキャップ22_(-1)?22_(-4)との間に適当な空間が確保されるように設定されている。従って、同図に示す状態においては、クランクシャフト24の下部空間で各気筒♯1?♯4が導通した状態が形成されている。
【0026】ところで、4気筒式の内燃機関においては、♯1と♯2、及び♯3と♯4が180°の位相差でピストンがストロークする組み合わせであることは前記した通りであるが、このため、本実施例のシリンダブロック12は、第1気筒♯1と第2気筒♯2とを隔離する隔壁16_(1-2) 、及び第3気筒♯3と第4気筒♯4とを隔離する隔壁16_(3-4)に、それぞれ隣接する気筒間の通気性を確保すべく通気孔34,36を備えている。」(公報段落【0017】ないし【0026】)

イ.「【0033】これに対して、本実施例の内燃機関10においては、クランクシャフト24の下部空間に比べてオイルミストの濃度が低い空間に開口する通気孔34を備えている。このため、クランクシャフト24の下部空間の通気抵抗が高まった場合でも、この通気孔34の通気性が確保されていれば、両気筒♯1及び♯2の導通状態を維持することが可能である。
【0034】ところで、図1に示すように内燃機関10においては、第1気筒♯1と第2気筒♯2とを隔離する隔壁16_(1-2) の近傍をカウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)aが回動し、交互に通気孔34に対してオーバーラップする構成である。従って、カウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)aに何ら通気通路に相当するものが設けられていないとすれば、通気孔34を設けたことによる通気性が著しく減殺されて有効なポンピングロスの低減を実現することができない。
【0035】この点、本実施例のクランクシャフト24は、上記したように通気孔34又は36に対向して回動するカウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)a又は24_(-3)b,24_(-4)aにそれぞれ貫通孔25_(-1),25_(-2)又は25_(-3),25_(-4)を備えている。また、これらの貫通孔25_(-1)?25_(-4)は、図3に示すように、ピストン28_(-1)?28_(-4)が下死点に達した際に通気孔34又は36と重なり合うようにその位置が設定されている。
【0036】このため、ピストン28_(-1)?28_(-4)がストロークする過程でカウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)a,24_(-3)b,24_(-4)aの多大な面積が通気孔34にオーバーラップするにも関わらず、最も大面積のオーバラップを生ずる下死点到達時においては、通気孔34,36及び貫通孔25_(-1)?25_(-4)を介して気筒間の通気性が適当に確保されることになる。
【0037】従って、第1気筒♯1又は第2気筒♯2において吸気工程が開始される際には、両気筒♯1、♯2のピストン28_(-1),28_(-2)下部空間に不当な内圧差が生ずることがなく、内燃機関10のポンピングロスを有効に低減することができる。尚、かかる効果は、内燃機関10をコンパクトに設計した場合、すなわち隔壁16_(1-2) ,16_(3-4)に対してカウンタウェイト24_(-1)b,24_(-2)a,24_(-3)b,24_(-4)aを近接して設けざるを得ない場合に特に顕著である。」(同段落【0033】ないし【0037】)

ウ.「【0056】
【発明の効果】上述の如く、請求項1記載の発明によれば、内燃機関の各気筒においてピストンが下死点付近に位置する際に、カウンタウェイトが隔壁に設けた通気孔とオーバラップしても、通気通路を介して通気孔の開口状態が維持できるため、そのオーバーラップにより気筒間の通気性が阻害されることがない。
【0057】このため、各気筒におけるピストン下部空間の圧力変動を効果的に抑制することが可能となり、従来に比べてポンピングロスを低減して内燃機関の出力特性を改善することができると共に、カウンタウェイトによる通気孔の閉塞を考慮する必要がないことから、内燃機関の体格を、従来より一層コンパクトにすることができる。
【0058】また、請求項2記載の発明によれば、ピストンが上死点から下死点へ向かう過程においてピストン下部空間から強制的に空気を排出し、又はピストンが下死点から上死点へ向かう過程において、ピストン下部空間に強制的に空気を吸引することができる。
【0059】従って、本発明に係るクランクシャフトを用いた場合、ピストンのストロークに伴うピストン下部空間の内圧変化を積極的に抑制することが可能となり、かかる内圧変化に起因する内燃機関のポンピングロスを有効に低減して、内燃機関の出力特性の改善を図ることが可能である。」(同段落【0056】ないし【0059】)

(2)引用文献1記載の発明
ここで、前記(1)ア.ないしウ.及び図面の記載から、引用文献1には次の事項が記載されていることがわかる。

エ.クランクシャフト24の軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボア14およびその下方のクランクケースを有する内燃機関10である。

オ.互いに隣接する気筒のシリンダボア14およびクランクケース間を仕切る隔壁16に、これを貫通する通気孔34,36を有する多気筒エンジンである。

カ.以上前記(1)ア.ないしウ.、エ.及びオ.並びに図面の記載を参酌すると、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。

「クランクシャフト24軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボア14およびその下方のクランクケースを有する内燃機関10を備え、
互いに隣接する気筒のシリンダボア14およびクランクケース間を仕切る隔壁16に、これを貫通する通気孔34,36を有する多気筒エンジン。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(3)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布の刊行物である特開2003-65146号公報(平成15年3月5日公開、以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、特開2000-42708のように中子を使用するような技術は、鋳造後中子を取外すような手間や、バリ取り等の手間がかかって生産性の低下を招き易く、また、別体のピースを溶接等で接合するような技術は、要求強度が不明のため、接合強度に確実性に欠けるという問題があった。
【0004】そこで本発明は、クローズドデッキタイプのシリンダブロックを製造するにあたり、生産効率が良く、またブリッジ部の強度上の問題がなく、更に低コストで製造出来るようにすることを目的とする。」(公報段落【0003】及び【0004】)

イ.「【0007】また本発明では、前記リブ壁に対する機械加工は、エンドミルを用いてリブ壁の両側から行うようにした。
【0008】このようにエンドミルを用いてリブ壁の両側から機械加工してリブ壁の一部を取り除くようにすれば、連通部を大きく確保出来て重量増加を招かず、また技術的にも容易に加工出来る。」(同段落【0007】及び【0008】)

ウ.「【0014】そこで本発明は、中子を使用することなく、また低コストでクローズドデッキタイプのシリンダブロックを製造出来るようにしたものであり、以下、その方法について、図2乃至図4に基づき説明する。
【0015】まず、図2に示すように、例えばアルミ合金製のシリンダブロック1を鋳造する際、ウォータジャケット3内のうち、ブリッジ部6gを形成しようとする箇所に、トップデッキ側から反対側のクランクケース側にかけて長さ一杯にリブ壁6を形成する。そしてこのリブ壁6によって、ウォータジャケット3内空間部が、円周方向に沿って複数の独立室3aに仕切られるようにする。
【0016】このようなリブ壁6は、ウォータジャケット3内空間部のシリンダ軸方向に対して同じ幅で長さ一杯に形成されているため、鋳造金型をシリンダ軸方向と平行に開閉してシリンダブロック1を鋳造する際、アンダーカット部が生じることなく、中子を使用しなくても製造することが出来る。
【0017】次に、図4に示すように、リブ壁6を機械加工して一部を切り取ることにより連通部rを形成するとともに、残りの部分にブリッジ部6gを形成する。
【0018】すなわち、図4(a)に示す状態から、図4(b)に示すように、リブ壁6の片面側からエンドミル7を斜めに挿入して上下に移動させながら加工し、次いで、図4(c)に示すように、リブ壁6の反対面側からエンドミル7を斜めに挿入して上下に移動させながら加工する。そしてこの加工により、リブ壁6のトップデッキ側の一部を残して、クランクケース側を切除し、切除部分を連通部rとする。また、トップデッキ側に残ったリブ壁6の一部がブリッジ部6gとして形成される。」(同段落【0014】ないし【0018】)

エ.「【0020】尚、本発明は以上の実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。例えばリブ壁6の機械加工は、エンドミル7に限られるものではなく、また、シリンダブロック1の材質等も任意である。
【0021】
【発明の効果】以上のように本発明に係るクローズドデッキタイプのシリンダブロック製造方法は、多気筒エンジンのシリンダブロックを鋳造することにより、ウォータジャケット内の空間部が複数の独立室に仕切られるようなリブ壁をシリンダ軸方向に沿って複数形成し、その後、リブ壁に対して機械加工を施すことにより、リブ壁の一部を取り除いて独立室を連通せしめるようにしたため、中子等を使用しなくても、トップデッキ側のウォータジャケット部がブリッジ部で連結されるようなクローズドデッキタイプのシリンダブロックを容易に且つ安価に作製することが出来、しかもブリッジ部の強度を確保出来る。そして、リブ壁を機械加工する際、エンドミルを用いてリブ壁の両側から行うようにすれば、連通部を大きく確保出来て重量増加を招かず、また技術的にも容易に加工出来る。」
(同段落【0020】及び【0021】)

(4)引用文献2記載の発明
以上、前記(3)ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献2には次の事項が記載されていることがわかる。

オ.シリンダボア部2の周囲を取り囲むウオータジャケット部3をリブ壁6によって仕切られた多気筒エンジンである。

カ.リブ壁6はシリンダ軸方向に沿って複数形成され、エンドミル7を用いてリブ壁6の片面側から斜めに挿入して機械加工により連通部rを形成しており、連通部rは上縁及び下縁を有していることから、連通部rにおけるリブ壁6を貫通した両端の上縁及び下縁の片面側は、シリンダボア部2の軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記リブ壁6を外側から切削することにより形成されていることがわかる。

キ.カ.に次いで、エンドミル7を用いてリブ壁6の反対面側から斜めに挿入して機械加工により連通部rを形成しており、連通部rは上縁及び下縁を有していることから、片面側の上縁及び下縁が形成された連通部rにおけるリブ壁6を貫通した両端の上縁及び下縁の反対面側はシリンダボア2の軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記リブ壁6を外側から切削することにより形成されていることがわかる。

ク.以上前記(3)ア.ないしエ.及びオ.ないしキ並びに図面の記載を参酌すると、引用文献2には以下の発明が記載されているといえる。

「連通部rにおけるリブ壁6を貫通した両端の上縁及び下縁は、シリンダボア部2の軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記リブ壁6を外側から切削することにより形成され、
上縁が形成された連通部rにおけるリブ壁6を貫通した両端の上縁及び下縁は、前記シリンダボア部2の軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記リブ壁6を外側から切削することにより形成されている多気筒エンジン。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「クランクシャフト24」は、その作用機能からみて、本願発明における「クランク軸」に相当し、同様に、「シリンダボア14」は「シリンダボア」に、「クランクケース」は「クランク室」に、「内燃機関10」は「エンジンケース」に、「隔壁16」は「仕切り壁」に、「通気孔34,36」は「連通孔」に、「多気筒エンジン」は「多気筒4サイクルエンジン」に、各々相当するから、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「クランク軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボアおよびその下方のクランク室を有するエンジンケースを備え、
互いに隣接する気筒のシリンダボアおよびクランク室間を仕切る仕切り壁に、これを貫通する連通孔を有する多気筒4サイクルエンジン。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
本願発明においては、「連通孔における仕切り壁を貫通した両端の上縁は、シリンダボアの軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記仕切り壁を外側から切削することにより形成され、
前記上縁が形成された連通孔における前記仕切り壁を貫通した両端の下縁は、前記シリンダボアの軸心に対して傾斜した方向に沿って、前記仕切り壁を外側から切削することにより形成されている」のに対して、引用文献1記載の発明においては、連通孔に相当する通気孔34,36はあるものの、本願発明のように連通孔を形成していない点(以下、「相違点」という。)

4.判断
相違点について検討する。
本願発明と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「多気筒エンジン」は本願発明における「多気筒4サイクルエンジン」に、同様に「シリンダボア部2」は「シリンダボア」に相当する。
そして、本願発明における「連通孔」はシリンダボアおよびクランク室を仕切る「仕切り壁」を貫通して形成されているのに対して、引用文献2記載の発明における「連通部r」はウオータジャケット部3を仕切る「リブ壁6」を貫通して形成されているものの、本願発明と引用文献2記載の発明とは、共にエンジン部材の貫通孔の形成に関する技術であることを考慮すれば、引用文献1記載の発明における通気孔を形成するに当たって、引用文献2記載の発明における「切削」を採用することに困難性はなく、そして、切削するにあたって連通孔の上縁あるいは下縁の切削手順をどのようにするかは単なる設計的事項にすぎないことから、相違点に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。
また、本願発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

5.むすび
以上から、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。

第4.補正却下の決定についての付言
[理由2]
仮に、前記[理由1]で指摘した本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についての補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

1.本願補正発明
本願補正発明は、前記第2.[理由1]B【請求項1】に記載されるように、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されたとおりのものである。

2.引用文献記載の発明
(1)引用文献1記載の発明A
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布の刊行物である特開平7-217496号公報である引用文献1には、例えば、前記第3.2.(1)の記載がある。
前記第3.2.(1)の記載から、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。
「クランクシャフト24軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボア14およびその下方のクランクケースを有する内燃機関10における、隣接する気筒のシリンダボア14およびクランクケース間を仕切る隔壁16に、これを貫通する通気孔34,36を形成する多気筒エンジン。」(以下、上記「引用文献1記載の発明」と区別する意味で、「引用文献1記載の発明A」という。)

(2)引用文献2記載の発明A
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布の刊行物である特開2003-65146号公報(平成15年3月5日公開。)である引用文献2には、例えば、前記第3.2.(3)の記載がある。
前記第3.2.(3)の記載から、引用文献2には以下の発明が記載されているといえる。
「シリンダボア部2内にシリンダボア部2の軸心に対して傾斜した方向から挿入したエンドミル7により、リブ壁6を切削して前記連通部rの上縁及び下縁を形成する工程と、
前記シリンダボア部2内にシリンダボア部2の軸心に対して傾斜した方向から挿入したエンドミル7により、前記リブ壁6を切削して前記連通部rの上縁及び下縁を形成する工程と、
を備えた多気筒エンジンにおける連通部rの形成方法。」(以下、上記「引用文献2記載の発明」と区別する意味で、「引用文献2記載の発明A」という。)

3.対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明Aとを対比すると、引用文献1記載の発明Aにおける「クランクシャフト24」は、その作用機能からみて本願補正発明における「クランク軸」に相当し、同様に引用文献1記載の発明Aにおける「シリンダボア14」は「シリンダボア」に、「クランクケース」は「クランク室」に、「内燃機関10」は「エンジンケース」に、「隔壁16」は「仕切り壁」に、「通気孔34,36」は「連通孔」に、「多気筒エンジン」は「多気筒4サイクルエンジン」に各々相当するから、本願補正発明と引用文献1記載の発明Aとは、
「クランク軸心方向に沿って並んだ複数気筒のシリンダボアおよびその下方のクランク室を有するエンジンケースにおける、隣接する気筒のシリンダボアおよびクランク室間を仕切る仕切り壁に、これを貫通する連通孔を形成する多気筒4サイクルエンジン。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
本願補正発明においては、「連通孔を形成する方法であって、
前記シリンダボア内にシリンダボアの軸心に対して傾斜した方向から挿入した第1の切削工具により、前記仕切り壁を切削して前記連通孔の上縁を形成する工程と、
前記シリンダボア内にシリンダボアの軸心に対して傾斜した方向から挿入した第2の切削工具により、前記仕切り壁を切削して前記連通孔の下縁を形成する工程と、
を備えた連通孔の形成方法」であるのに対して、引用文献1記載の発明Aにおいては、連通孔に相当する通気孔34,36はあるものの、本願発明のように連通孔を形成する方法が具体的に記載されていない点(以下、上記「相違点」と区別する意味で「相違点A」という。)。

4.判断
相違点Aついて検討する。
本願補正発明と引用文献2記載の発明Aとを対比すると、引用文献2記載の発明Aにおける「多気筒エンジン」は本願補正発明における「多気筒4サイクルエンジン」に、同様に、「シリンダボア部2」は「シリンダボア」に相当する。
そして、本願補正発明における「連通孔」は、シリンダボアおよびクランク室を仕切る「仕切り壁」を貫通して形成しているのに対して、引用文献2記載の発明Aにおける「連通部r」は、ウオータジャケット部3を仕切る「リブ壁6」を貫通して形成しているものの、本願補正発明と引用文献2記載の発明Aとは、共にエンジン部材の貫通孔の形成に関する技術であること、及び、一般に、部材に孔をあけるに際して、二種類の器具を用いて切削すること、すなわち第1の切削工具により切削して、第2の切削工具で切削してカエリやバリを取る等の仕上をすることや、切削部位に応じて切削工具を変えることは通常行われていること(以下、「慣用手段」という。必要ならば、登録実用新案第3038077号公報、特開平9-193013号公報参照。)であることを考慮すれば、引用文献1記載の発明Aにおける通気孔を形成するに当たって、引用文献2記載の発明Aにおける「切削」を採用することに困難性はなく、切削するにあたって連通孔の上縁あるいは下縁の切削工程及び切削工具をどのようにするかは単なる設計的事項に過ぎないことから、相違点Aに係る本願補正発明のように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。
また、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明A、引用文献2記載の発明A及び慣用手段から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。
以上から、本願補正発明は、引用文献1記載の発明A、引用文献2記載の発明A及び上記慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のように、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論(平成20年7月2日付けの手続補正を却下する。)のとおり決定する。

なお、審判請求人は回答書で補正案として、切削工具を「エンドミル」及び「ボールミル」に限定する旨提示しているものの、それら工具自体は「切削」する場合にごく普通に用いられているものである。
 
審理終結日 2009-11-27 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-16 
出願番号 特願2003-302862(P2003-302862)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
P 1 8・ 575- Z (F02F)
P 1 8・ 57- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
志水 裕司
発明の名称 多気筒4サイクルエンジン  
代理人 杉本 修司  
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