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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部無効 2項進歩性  C09D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
管理番号 1211606
審判番号 無効2008-800094  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-22 
確定日 2010-01-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3829370号発明「記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液及び記録液」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3829370号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯

1.本件特許
本件特許第3829370号の請求項1ないし6に係る発明についての出願は、特願平7-250655号(優先日平成7年9月28日)に基づく優先権を主張して、平成8年8月29日に出願され、平成18年7月21日にそれらの発明について特許の設定登録がなされたものである。

2.本件当初の請求の趣旨及びその理由の概要
それに対して、請求人は、本件特許第3829370号の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明についての特許が、下記の理由により特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とするとの審決を求めた。
すなわち、「本件請求項1?6の各特許発明は、甲第1?4号証の何れかに記載された発明であるか、甲第1?6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の発明である」とし、甲第1号証ないし甲第6号証の各刊行物を提示している。

3.以降の手続の経緯
本件審判は、上記2.の請求の趣旨及び理由により、平成20年5月22日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成20年 6月20日 手続補正書(自発)(請求人)
平成20年 6月26日付け 答弁指令・請求書副本及び
手続補正書(自発)副本の送付
平成20年 8月26日 答弁書・訂正請求書(第1回)
平成20年 9月17日付け 弁駁指令・答弁書副本及び訂正請求書副本の
送付
平成20年 9月22日 上申書(被請求人)
平成20年10月17日 弁駁書
平成20年10月31日 手続補正書(自発)(請求人)
平成20年11月10日付け 補正許否の決定
同日付け 弁駁書副本送付(答弁指令)(被請求人宛)
平成20年11月11日付け 上申書(被請求人)副本送付(請求人宛)
平成20年12月12日 答弁書・訂正請求書(第2回)(被請求人)
平成21年 1月16日付け 答弁書・訂正請求書(第2回)
各副本送付(請求人宛)
平成21年 2月19日 上申書(請求人)
平成21年 3月 4日 上申書(請求人)
平成21年 3月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理(第1回)
平成21年 3月19日 上申書(請求人)
平成21年 3月24日 上申書(被請求人)
(以下、両当事者が提出した各手続書類につき、書類名に提出者を括弧書きで付加し「口頭審理陳述要領書(請求人)」のようにいうことがある。また、答弁書及び上申書については、提出日の順に「答弁書(第1回)」又は「上申書(請求人第1回)」のようにいうことがある。)

4.平成20年11月10日付け補正許否の決定について

請求人は、上記平成20年10月17日付け弁駁書及び当該弁駁書に係る平成20年10月31日付け手続補正書(自発)において、請求の趣旨及び理由につき要旨を変更して概略以下(1)及び(2)の弁駁を行った。

(1)
「平成20年8月26日付け訂正請求による訂正後の請求項1?3の各特許発明は、甲1?4、6?14号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の発明であるから、訂正後の本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。」
(2)
「平成20年8月26日付け訂正請求の結果、本件特許発明の明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反する。また、本件特許発明の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。よって訂正後の本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。」

そこで、上記請求の趣旨及び理由に係る弁駁補正につき検討すると、当該補正は、請求書における請求の趣旨及び理由の要旨を変更することが明らかであるものの、審理を不当に遅延させるおそれがないことも明らかであり、また、訂正請求(第1回)により請求の理由を補正する必要が生じたものと認められたから、当審は、特許法第131条の2第2項第1号に該当するものとし、同法同条同項の規定により、平成20年11月10日付けで当該補正を許可する決定を行うとともに、被請求人に対して同日付けをもって再度の答弁を指令した。

5.請求の趣旨及びその理由の概要
したがって、本件審判請求の趣旨及びその理由の概要は、上記4.(1)及び(2)のとおりのものである。

第2 訂正の適否についての当審の判断

1.訂正の内容
平成20年12月12日付けの訂正請求(第2回)がなされたことにより、平成20年8月26日付けの訂正請求(第1回)については、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、平成20年12月12日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(設定登録時のもの。以下「本件特許明細書」という。)を、同訂正請求の請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正(以下「本件訂正」という。)するものであって、下記(ア)ないし(キ)の訂正事項からなるものである。

(1)訂正事項(ア)
本件特許明細書における特許請求の範囲に係る
「【請求項1】 アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料又はカーボンブラックと、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料又はカーボンブラックをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料又はカーボンブラックの含有割合が35?80重量%の範囲にあることを特徴とする記録液用水性分散液。
【請求項2】 アニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下で、かつ平均粒子径が300nm以下である請求項1記載の記録液用水性分散液。
【請求項3】 最大粒子径が200nm以下で、かつ一次粒子の平均粒子径が10?100nmの範囲にある有機顔料又はカーボンブラックを含有するアニオン性マイクロカプセル化顔料であることを特徴とする請求項1又は2記載の記録液用水性分散液。
【請求項4】 硬化剤及び/又は高分子化合物と有機顔料とをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆したアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の記録液用水性分散液。
【請求項5】 請求項1?4のいずれか一項に記載の記録液用水性分散液を含有する記録液。
【請求項6】 インクジェットプリンター用である請求項5記載の記録液。」
を、
「【請求項1】 アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)を、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあり、有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液。
【請求項2】 請求項1に記載のインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液。」
と訂正する。
(以下、上記訂正前の各請求項をその項番に従い「旧請求項1」?「旧請求項6」と、訂正後の各請求項をその項番に従い「新請求項1」及び「新請求項2」とそれぞれいう。)

(2)訂正事項(イ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0009】に係る
「【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意、検討を重ねた結果、有機顔料又はカーボンブラックをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料又はカーボンブラックの含有率が35?80重量%の範囲にあるアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を記録液に加工した場合、製造時の樹脂、溶剤あるいは各種添加剤等の選択や添加量の制限がなく、汎用性が高められ、更にアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を単に混合するだけで使用できるため、従来の製造コストを低減すること、記録液の精細度、演色性や透明性を従来以上に向上できること、界面活性剤を必須使用しなくても良いので、記録画像の耐水性を高めること、さらにマイクロカプセル化するための樹脂であるアニオン性基含有有機高分子化合物類の中和用の塩基を不揮発性のもの(アルカリ金属)を使用することにより再分散性を高め記録液の信頼性を高められること等を見出し、本発明を完成するに至った。」
を、
「【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意、検討を重ねた結果、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有率が35?80重量%の範囲にあるアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を記録液に加工した場合、製造時の樹脂、溶剤あるいは各種添加剤等の選択や添加量の制限がなく、汎用性が高められ、更にアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を単に混合するだけで使用できるため、従来の製造コストを低減すること、記録液の精細度、演色性や透明性を従来以上に向上できること、界面活性剤を必須使用しなくても良いので、記録画像の耐水性を高めること、さらにマイクロカプセル化するための樹脂であるアニオン性基含有有機高分子化合物類の中和用の塩基を不揮発性のもの(アルカリ金属)を使用することにより再分散性を高め記録液の信頼性を高められること等を見出し、本発明を完成するに至った。」
と訂正する。

(3)訂正事項(ウ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0010】に係る
「即ち、本発明は上記課題を解決するために、アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料又はカーボンブラックと、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料又はカーボンブラックをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料又はカーボンブラックの含有割合が35?80重量%の範囲にあることを特徴とする記録液用水性分散液及び該水性分散液を含有する記録液を提供する。以下、アニオン性基含有有機高分子化合物類は、「アニオン性有機高分子化合物類」と省略する。」
を、
「即ち、本発明は上記課題を解決するために、アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)を、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあり、有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液及び該水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液を提供する。以下、アニオン性基含有有機高分子化合物類は、「アニオン性有機高分子化合物類」と省略する。」
と訂正する。

(4)訂正事項(エ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0011】に係る
「本発明のアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する記録液用水性分散液は、有機顔料又はカーボンブラックを、必要に応じて硬化剤及び高分子化合物と共に、アニオン性有機高分子化合物類で被覆したものであって、しかも、その有機顔料又はカーボンブラックの含有量が35?80重量%で、有機顔料又はカーボンブラックの一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であるものが特に好ましい。また、アニオン性有機高分子化合物類を塩基で中和した形のものが好ましく、特にアルカリ金属を使用することが好ましい。」
を、
「本発明のアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有するインクジェットプリンター用記録液用水性分散液は、有機顔料を、必要に応じて硬化剤及び高分子化合物と共に、アニオン性有機高分子化合物類で被覆したものであってもよい。また、アニオン性有機高分子化合物類を塩基で中和した形のものが好ましく、特にアルカリ金属を使用することが好ましい。」
と訂正する。

(5)訂正事項(オ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0012】に係る
「更に、そのアニオン性マイクロカプセル化顔料が、硬化剤及び高分子化合物を含有するアニオン性有機高分子化合物類で以て、有機顔料を被覆した形のものであれば、一層、好ましい。」
を、
「更に、そのアニオン性マイクロカプセル化顔料が、硬化剤及び高分子化合物を含有するアニオン性有機高分子化合物類で以て、有機顔料を被覆した形のものであってもよい。」
と訂正する。

(6)訂正事項(カ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0013】に係る
「更にまた、本発明のマイクロカプセル化顔料のカプセル中に、チタン、アルミの如き無機物質、顔料誘導体、顔料分散剤、顔料湿潤剤、有機溶剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、あるいは記録液用のビヒクル等の他の物質を含めることもできる。」
を、
「更にまた、本発明のマイクロカプセル化顔料のカプセル中に、チタン、アルミの如き無機物質(但し酸化チタンを除く)、顔料誘導体、顔料分散剤、顔料湿潤剤、有機溶剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、あるいは記録液用のビヒクル等の他の物質を含めることもできる。」
と訂正する。

(7)訂正事項(キ)
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0229】に係る
「<実施例15>(ゲル化処理したマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例18で得たカーボンブラックのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-18)37.5部に、エチレングリコール5部、グリセリン10.0部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水44.5部を混合して、顔料分が5.0%のカーボンブラックの記録液を調製した。」
を、
「<実施例15(参考例)>(ゲル化処理したマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例18で得たカーボンブラックのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-18)37.5部に、エチレングリコール5部、グリセリン10.0部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水44.5部を混合して、顔料分が5.0%のカーボンブラックの記録液を調製した。」
と訂正する。

2.訂正の適否に係る判断

(1)訂正の目的の適否
そこで、以下、上記(ア)?(キ)の各訂正事項に係る訂正が、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。

ア.訂正事項(ア)
上記訂正事項(ア)に係る訂正では、旧請求項1において、(a)「有機顔料又はカーボンブラック」につき「有機顔料」であると限定(2カ所)され、さらに、(b)「含水ケーキ」につき「(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)」こと及び(c)「含水ケーキを、乾燥させることなく、中和させること」の2点が付加されるとともに、また、(d)「有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあ」ること、(e)「アニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であること」及び(f)記録液用水性分散液につき「インクジェットプリンター用」であることの3点がそれぞれ付加され、新請求項1としている。
そして、旧請求項1を引用する旧請求項5につき、旧請求項6に記載された「インクジェットプリンター用である」という事項を付加し、新請求項2としている。
そこで検討すると、新請求項1に係る上記(a)の点につき検討すると、並列的に記載された事項につき単一としたものであり、また、上記(b)の点につき検討すると、旧請求項1に係る発明の一部の実施態様を意図的に除外するものであるから、いずれも旧請求項1に記載された事項を減縮するものといえる。
さらに、新請求項1に係る上記(c)ないし(f)の各点につき併せて検討すると、いずれも「マイクロカプセル化顔料の製造条件」に係る事項、「使用する顔料の一次粒子の粒子径」に係る事項、「マイクロカプセル化顔料の粒子径」に係る事項及び「記録液用水性分散液の(二次的)用途」に係る事項を、それぞれ新たに直列的に付加することにより「記録液用水性分散液」を限定するものであるから、いずれも旧請求項1の範囲を実質的に減縮するものといえる。
また、新請求項2に係る訂正につき検討すると、旧請求項5の記載につき旧請求項6の「インクジェットプリンター用」なる(二次的)用途に係る事項を直列的に付加するものといえるから、旧請求項5の範囲を実質的に減縮するものといえる。
したがって、上記訂正事項(ア)に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

イ.訂正事項(イ)ないし(カ)
上記訂正事項(イ)ないし(カ)に係る各訂正では、いずれも、上記訂正事項(ア)による特許請求の範囲の訂正によって、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とが不整合となり対応関係が不明となるのを単に正して整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものということができる。
したがって、上記訂正事項(イ)ないし(カ)に係る各訂正は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

ウ.訂正事項(キ)
上記訂正事項(キ)に係る訂正では、上記訂正事項(ア)による特許請求の範囲の訂正によって、特許請求の範囲の外となった実施例につき参考例であることを明示したに過ぎないものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものということができる。
したがって、上記訂正事項(キ)に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

エ.小括
以上のとおりであるから、上記(ア)?(キ)の各訂正事項に係る訂正は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
次に、上記(ア)?(キ)の各訂正事項に係る訂正が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものか、すなわち特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たすものかにつき検討する。

ア.訂正事項(ア)
上記訂正事項(ア)に係る訂正では、旧請求項1において、(a)「有機顔料又はカーボンブラック」につき「有機顔料」であると限定(2カ所)され、さらに、(b)「含水ケーキ」につき「(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)」こと及び(c)「含水ケーキを、乾燥させることなく、中和させること」の2点が付加されるとともに、また、(d)「有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあ」ること、(e)「アニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であること」及び(f)記録液用水性分散液につき「インクジェットプリンター用」であることの3点がそれぞれ付加され、新請求項1としている。
そして、旧請求項5において、(g)記録液用水性分散液及び記録液につき、「インクジェットプリンター用」であることがそれぞれ付加され、新請求項2としている。
そこで、これら(a)?(g)の各点につきそれぞれ検討すると、上記(a)に係る訂正については、並列的な選択肢につき単に限定したものに過ぎず、上記(c)?(g)に係る各訂正については、それぞれ、本件特許明細書の段落【0079】、【0011】及び【0001】又は旧請求項6にそれぞれ記載された事項に基づくことが明らかである。
また、上記(b)に係る訂正につき検討すると、本件特許明細書における段落【0013】に記載されているとおり、マイクロカプセル化顔料のカプセル中に、チタン、アルミのごとき無機物質を含めることができる旨記載されているところ、当該無機物質を含有する場合において、「酸化チタン」が含まれる態様を単に除くものであり、何ら新規な技術的事項を付加するものでもないから、新規事項を追加するものとはいえない。(必要ならば知財高裁特別部平成18年(行ケ)第10563号判決参照。)
したがって、上記訂正事項(ア)に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

イ.訂正事項(イ)ないし(キ)
上記訂正事項(イ)ないし(キ)に係る各訂正については、上記(1)イ.ないしウ.で説示したとおり、訂正事項(ア)の特許請求の範囲に係る訂正により、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明となった点につき、単に整合させたものであって、上記ア.で説示したとおり、上記訂正事項(ア)に係る訂正において、新規事項を追加するものといえないのであるから、上記訂正事項(イ)ないし(キ)に係る各訂正についても、新規事項を追加するものとはいえない。
したがって、上記訂正事項(イ)ないし(キ)に係る各訂正は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ.小括
以上のとおりであるから、上記(ア)ないし(キ)の各訂正事項に係る訂正は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
さらに、上記(ア)ないし(キ)の各訂正事項に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否か、すなわち特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものかにつき検討する。
上記(1)で説示したとおり、訂正事項(ア)に係る訂正は、いずれも特許請求の範囲を実質的に減縮するものであって、訂正事項(イ)ないし(キ)に係る各訂正は、訂正事項(ア)に係る訂正による特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載との不整合を単に整合させたものであるところ、訂正事項(ア)ないし(キ)について、他に特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更させる事項が存するものでもない。
したがって、上記(ア)ないし(キ)の各訂正事項に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものである。

3.訂正に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件審判請求に係る審理範囲
本件訂正にともない、請求項の数が変化しているから、本件審判請求の趣旨につき検討する。
本件審判に係る当初の請求の趣旨は、審判請求書の「6.請求の趣旨」に記載されたとおりの「特許第3829370号を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というものであり、上記第1の2.のとおり、旧請求項1ないし6の全請求項に係る特許を無効とするとの審決を求めるものであるとともに、上記第1の4.及び5.のとおり、補正が許可された本件審判の請求の趣旨においても、訂正請求(第1回)において訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3の全請求項につき無効とするとの審決を求めているものと解すべきものである。
そして、本件訂正は、上記第2の2.(1)ア.及びイ.で説示したとおり、旧請求項1ないし6につき特許請求の範囲を減縮して新請求項1及び2としているものであって、かつ、上記第2の2.(3)で説示したとおり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更しているものではないから、新請求項1及び2に係る特許請求の範囲は、いずれも旧請求項1?6に係る特許請求の範囲に包含されるものと解される。
したがって、本件審判請求の趣旨は、本件訂正後の「特許第3829370号の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と解するのが相当であって、本件審判請求に係る審理範囲は、新請求項1及び2の全請求項であり、特許法第153条第3項に規定の「請求人が申し立てない請求の趣旨」に係る請求項は存しないものである。

第4 本件特許の無効に係る当審の判断

1.請求人主張の無効理由
請求人が主張する無効理由の趣旨及び概略については、上記第1の4.(1)及び(2)並びに5.で示したとおりであるが、本件訂正の成立を踏まえ、具体的に事案にかんがみ分説すると、下記(i)及び(iii)の各理由のとおりであるものと解される。
(i)訂正後の請求項1及び2に係る各発明は、本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第14号証に記載された発明及び当業界周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正後の請求項1及び2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由1」という。)。
(ii)訂正後の請求項1及び同項を引用する請求項2には、特許を受けようとする発明を特定する技術事項として「有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあ」ること及び「かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下である」ことが記載されているが、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、具体的実施例について記載されておらず、当業者が各請求項の発明を容易に追試して効果を確認することができないものであるから、各請求項の発明に係る発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許法第36条第4項第1号に違反する特許出願に対してされたものであり、本件訂正明細書の請求項1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由2」という。)。
(iii)訂正後の請求項1及び2の各記載では、「有機顔料」に「カーボンブラック」を含むとも含まないとも解され、特許を受けようとする発明が明確であるということはできないから、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同法同条同項の規定に違反した特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、訂正後の請求項1及び2に係る特許は、無効とすべきである(以下「無効理由3」という。)。
そこで、上記(i)?(iii)の理由について、本件訂正後の請求項1及び2並びに本件訂正明細書につき順次検討する。

2.本件訂正後の本件特許に係る発明
本件訂正後の請求項1及び2に係る発明は、再掲すると下記の新請求項1ないし2の各請求項に記載された事項で特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)を、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあり、有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液。
【請求項2】 請求項1に記載のインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液。」
(以下、各請求項に記載された発明をその項番にしたがい「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明2」といい、併せて「本件訂正発明」ということがある。)

3.無効理由1について

(1)各甲号証の記載事項
請求人が提示した本件特許に係る出願の優先日より前に頒布された刊行物である下記の各甲号証には、以下の事項が記載されている。

甲第1号証:特開昭60-173063号公報
甲第2号証:特開昭61-138667号公報
甲第3号証:特開平 3-153775号公報
甲第4号証:特開平 5-247370号公報
甲第6号証:特開平 3-221137号公報
甲第7号証:特開昭56-147865号公報
甲第8号証:特開昭63- 86768号公報
甲第9号証:特開平 6- 41480号公報
甲第10号証:特開平 7-224239号公報
甲第11号証:特開平 4- 85375号公報
甲第12号証:特開平 1-245071号公報
甲第13号証:特開平 7-229090号公報
甲第14号証:特開平 5-179183号公報
(以下「甲第1号証」?「甲第14号証」を「甲1」?「甲14」のようにそれぞれ略す。)
なお、事案にかんがみ、甲3の記載事項を最初に指摘し、以降、甲1、甲2、甲6・・と番号順に指摘する(甲4及び甲13については、特に指摘を行わない。)。

(a)甲3

(a-1)
「1.下記成分を含有するインクジェット印刷用水性印刷インク組成物:
a)顔料10乃至90重量%とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂90乃至10重量%とを含有する固体顔料調合物0.1乃至20重量%、
b)水で稀釈可能な有機溶剤0乃至30重量%、
c)湿潤剤0.5乃至20重量%、および
d)水。
・・(中略)・・
7.顔料調合物がカーボンブラック調合物または有機顔料含有調合物である請求項1記載の水性印刷インク組成物。」
(特許請求の範囲第1項及び第7項)

(a-2)
「固体顔料調合物を製造するために、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化鉄のごとき無機顔料ならびに有機顔料を使用することができる。好ましい有機顔料は以下のものである。フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、ジケトピロロビロール系、イソインドリノン系、ペリレン系、アゾ系、キナクリドン系、金属錯塩系たとえばアゾ染料、アゾメチン染料またはメチン染料の金属錯塩、およびβ-オキシナフトエ酸の古典的アゾ染料、アセトアセトアリーリイド系、あるいはアゾ染料の金属塩。この場合、アルカリに対する耐性を考慮する必要がある。異なる有機顔料の混合物あるいは無機顔料と有機顔料との混合物も使用できる。」
(第3頁右上欄第19行?左下欄第13行)

(a-3)
「顔料調合物が各種の方法で製造することができる。たとえば、ポリアクリル系樹脂のアルカリ溶液に顔料を加えそして次ぎに酸性にして樹脂を沈殿させる方法、顔料/樹脂溶液を噴霧乾燥する方法、あるいは好ましくは水不溶性酸性樹脂と顔料とを連続式またはバッチ式に混練機すなわちニーダーの中で混合する方法によって製造することかできる。第一の方法によって顔料調合物を製造する場合には、後で中和することのできるアルカリ物質を使用することができる。ニーダーを使用する場合には、ポリアクリル系樹脂をニーダーの中で酸性化して水性アンモニア性溶液から直接沈殿させ、基樹脂溶融物から分離された水を傾瀉し、顔料、溶剤および所望の場合には摩砕助剤として塩化ナトリウムを加え、そしてこの濃縮物を顔料が所望の粒子サイズになるまで混練し、そして最後に乾燥工程にかける方法で製造を実施することができる。」
(第3頁右下欄第2行?第19行)

(a-4)
「本発明による印刷インク組成物は、簡単な処方、最適の粘度、表面張力および伝導性、さらに長い貯蔵寿命などの優れた特性を有しており、そしてノズルの閉塞を生じることはない。この印刷インク組成物を使用して得られる画像は、鮮明で読み易くかつ耐光堅牢性、耐候性、耐水性、耐移染性が良好である。また、非吸着性印刷基質に対する良好な湿潤性を有している。本発明による印刷インクは、その粘度を2乃至5mPa・sに容易に調節可能であり、また直径が大きいノズルでは20mPa・sまでの粘度が可能である。
さらに、きわめて微細な分解能の画像および文字を得ることができる。」
(第6頁右上欄第11行?左下欄第3行)

(a-5)
「実施例1-3: 顔料調合物の製造例
実施例1
アンモニウム塩の形のアクリル系樹脂[ジンポール(Zinpol)1519、ジンヘミ社(Zinchem Corp.,)製品、酸価93]40%を含有するイソプロパノールの水溶液100g、エチルアルコール50g、水150gおよびカーボンブラック[プリンテックス(PRINTEX)300 デグサ社(Degussa)]40gの混合物を、1l容のバッチサンドミル中で13時間摩砕した。この濃厚分散物を100gの水で稀釈し、摩砕材を除去し、そして薄い噴射流の形態で水1000gと15%塩酸20mlとの弱酸性溶液に添加した。顔料調合物が粗大結晶の形で沈殿するので、これを濾過単離し、酸および塩がなくなるまで洗浄し、60乃至70℃の温度で真空乾燥し、それから1/2mmふるいにかけた。しかして、顔料50%を含有する高品質の黒顔料調合物を得た。」
(第6頁左下欄第17行?右下欄第13行)

(a-6)
「使用実施例4-6:
実施例4
a)印刷インク濃厚液の製造
処方:
実施例3の黒顔料調合物 25重量%、
水 52.5重量%、
イソプロパノール 20重量%、
アミノメチルプロパノール 1.5重量%、
25%アンモニア 1重量%。
配合:
ガラス容器に水40gとイソプロパノール15gとを入れ、次ぎに攪拌しながらアミノメチルプロパノールの1.5gとアンモニア1gとを混合する。次に、この懸濁物をディゾルパーにかけて10000rpm(初期速度15m/秒に相当)の速度で分散させる。この後、通常攪拌しながら水12.5gとイソプロパノールの5gとを加える。
b)最終印刷インク組成物の製造
前記による印刷インク濃厚液(顔料調合物25%含有)の3.0gを、通常攪拌しながら水85.8g、アミノメチルプロパノール0.2g、ポリエチレングリコール(分子量600)2gおよびイソプロパノール9gで稀釈する。所望の伝導性に応じて、さらにイオン形成塩を、たとえば0.3乃至1gの量で添加することもできる。
得られた分散物を、2種のフィルターの組み合わせ[ワットマン(Whatman)5μmガラスフィルターとスタトリウス(Ssrtorius)5μm膜フィルター]を使用して清澄濾過して粗大粒子を除去する。
得られた印刷インク組成物の粘度は3乃至3.5mPa・s[エムビー(MB)デイン-イー(DIN-E)プログラムによるハーク(Haak)粘度計の数値:250m^(-1)]である。また、この印刷インクの粒子サイズはD-84値が0.107μm[ジョイス-ローベル(Joyce-Loebel)法により測定:この数値は粒子の84%が0.107μm以下の粒子サイズを有することを意味する]である。」
(第7頁左上欄第14行?左下欄第14行)

(b)甲1

(b-1)
「2 酸化チタン顔料100重量部とケイ酸アルミニウム系顔料5?100重量部と有機顔料100重量部以下との混合顔料粉末を、その重量に基づき1/20?2倍量の、酸価30?500をもつカルボキシル基含有共重合体で被覆し、アルカリ性水溶液中に分散させて成る水性顔料組成物。」
(特許請求の範囲第2項)

(b-2)
「本発明は筆記具用水性インキ、ポスターカラー、水彩画用絵具、水性印刷インキなどに好適な水性顔料組成物、さらに詳しくいえば、使用時に隠ぺい力が大で貯蔵安定性がよく、しかも使用後の色彩がつや消し調で、かつ耐光性、耐水性、耐薬品性に優れるなどの特徴を有する水性顔料組成物に関するものである。」
(第1頁左欄第17行?右欄第6行)

(b-3)
「一般に筆記具用インキにおいては、筆記具用芯材から円滑に流出すること、目詰りしないこと、芯材中で乾燥しにくいこと、筆記具内で経時変化による固化を生じないことなどが必要な性質として要求され、・・(中略)・・筆記により形成される文字などが耐光性、耐水性、耐薬品性を備え、かつ鮮明であること、重ね塗りが可能であること、基材に浸透しすぎず裏移りしないことなどが望ましい性質として挙げられる。
・・(中略)・・
他方、水性の筆記具用インキにおいては、前記の油性インキがもつ難点については解決されるものの、筆記により形成される文字などが不鮮明になつたり、耐光性、耐水性及び耐薬品性に欠けたり、あるいは重ね塗りが困難になるなどの問題がある。このような問題は着色料として、染料の代りに顔料を用いることによりある程度解決されるが、顔料を含む水性インキは、長期間の貯蔵において、水性インキ中の顔料の凝集が起りやすく、そのため筆記具用芯材における目詰りや、容器内での顔料の沈降が生じ、所定の筆記画像の色調や鮮明さが得られないなどの問題が生じる。」
(第1頁右欄第7行?第2頁左上欄第13行)

(b-4)
「本発明者らは、先にアルカリ性水溶液、アルコール又はアルカリ性水溶液-アルコール混合液に、容易にかつ均質に分散しうる易分散性固体顔料組成物を提案したが(略)、さらに、この顔料組成物のアルカリ性水性溶液中における極めて優れた貯蔵安定性に着目し、より高度の分散安定性を有する水性顔料組成物を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化チタン顔料とケイ酸アルミニウム系顔料とから成る混合顔料粉末及び場合によりそれにさらに有機顔料を添加して成る混合顔料粉末を特定の樹脂を用いて所定の割合で被覆したのち、このものをアルカリ性水溶液やアルカリ性水溶液-アルコール混合液に分散させた水性顔料組成物が、前記の筆記具用インキとして要求される各性質を満足することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至つた。」
(第2頁右上欄第8行?左下欄第3行)

(b-5)
「本発明組成物において、混合顔料粉末を共重合体で被覆するには、まず該共重合体をアルカリ性水溶液に溶解する。・・(中略)・・
次いで、混合顔料粉末を前記の共重合体を溶解したアルカリ性水溶液に添加して混合したのち、・・(中略)・・分散機械で練り合わせ磨砕して顔料分散液を調製する。続いてこの顔料分散液を水で希釈後、シュウ酸、酢酸などの有機酸、又は塩酸、硫酸などの無機酸を徐々にかきまぜながら添加して中和し、共重合体で被覆された複合顔料組成物を沈殿させる。次に、この複合顔料組成物をろ過、水洗、圧縮してプレスケーキとする。このようにして得られた複合顔料組成物のプレスケーキは、アルカリ性水溶液に分散させるに当り、そのまま使用してもよいし、さらに乾燥したのち、アトマイザーなどの粉砕機で粉体化して用いてもよいが、分散性の点からプレスケーキをそのまま用いることが好ましい。
本発明の水性顔料組成物を調製するには、例えば前記の複合顔料組成物のプレスケーキ又は粉末を水の中に加え、次いで前記したような無機アルカリ性物質又は有機アルカリ性物質若しくはその両方を添加して、・・(中略)・・混合機や分散機械を用いて分散し、分散液のpHが7?10になるように調整する。」
(第4頁左下欄第18行?第5頁左上欄第11行)

(b-6)
「実施例1
チタンJR-803(ルチル型酸化チタン、帝国化工(株)製)100部及びオプチホワイトP(SiO_(2) 51.0?52.4%、Al_(2)O_(3) 42.1?44.3%、バーゲース社製)10部に、X-220(水溶性スチレン-アクリル共重合樹脂、酸価175、星光化学工業(株)製)20部を25%アンモニア水4.7部、イソプロピルアルコール3.0部及び水62.3部から成る溶液に溶解した共重合樹脂溶液を加え、混合後、サンドミルで練り合わせ磨砕して顔料分散体を得た。
この顔料分散体100部(固形分65部)を水900部中に加え、かきまぜながら90℃に昇温し、酢酸3.5部を徐々に添加して複合顔料組成物を沈殿させた。この組成物をろ過、水洗、圧縮してプレスケーキ105部を得た。
このようにして得られたプレスケーキ100部(固形分61部)に25%アンモニア水2.8部、エチルアルコール15部及びエチレングリコール5部を加え、さらに総量が175部になるように水を加えてサンドミルで分散させたところ、pH9.2、粘度21cps、顔料分34.9%の白色の水性顔料組成物が得られた。この組成物の低粘度における貯蔵安定性について調べ、またフエルトをペン先とする水性サインペンに詰め、実筆記して隠ぺい性、光沢度、耐水性、耐光性について調べた。
その結果、貯蔵安定性、耐水性及び耐光性はそれぞれ良好であつて、隠ぺい性は十分にあり、つや消し調で光沢度は2%であつた。」
(第5頁右下欄第1行?第6頁左上欄第9行)

(b-7)
「実施例3
チタンJR-500(ルチル型酸化チタン、帝国化工(株)製)100部、アルミニウムシリケート#30(SiO_(2) 51.0?52.4%、Al_(2)O_(3) 42.1?44.3%、バーゲース社製)25部及びブリリアントスカーレットFBT(C.Iピグメントレツド22、御国色素(株)製)30部に、X-209-S(スチレン-マレイン酸共重合樹脂、酸価183)30部及びX-220 55部を25%アンモニア水25部、イソプロピルアルコール5部及び水70部から成る溶液に溶解した共重合樹脂溶液を加え、混合後、サンドミルで練り合わせ磨砕して顔料分散体を得た。この顔料分散体100部(固形分70.6部)を実施例1と同様に酸析、ろ過、水洗、圧縮してプレスケーキ109部を得た。
このようにして得られたプレスケーキ100部(固形分65部)に25%アンモニア水6.5部、n-プロピルアルコール10部、エチレングリコール10部及びエマルゲンA-90(ノニオン性界面活性剤、花王石鹸(株)製)3部を加え、さらに総量が210部になるように水を加えてサンドミルで分散させたところ、pH9.1、粘度26cps、顔料分20.0%の赤色の水性顔料組成物が得られた。この組成物について各特性を実施例1と同様に調べた結果、貯蔵安定性、耐水性及び耐光性はそれぞれ良好であつて、隠ぺい性は十分にあり、つや消し調で光沢度は3%であつた。」
(第6頁左下欄第5行?右下欄第11行)

(c)甲2

(c-1)
「(1)有機顔料と重合体を均一に混合してなる顔料組成物において、上記有機顔料の含有量が、顔料組成物全量の75?95重量パーセントであり、且つ上記重合体を構成するモノマーが、スチレン0?40重量パーセント、メタクリル酸エステル20?70重量パーセントおよびメタクリル酸20?50重量パーセントであり、且つ、これらのモノマーの合計量が、全モノマーの85重量パーセント以上であることを特徴とする顔料組成物。
(2)重合体のガラス転移点が、100℃以上である特許請求の範囲第(1)項に記載の顔料組成物。
(3)顔料組成物が、粉末状にあるいは粒状である特許請求の範囲第(1)項に記載の顔料組成物。
(4)75?95重量パーセントの有機顔料と25?5重量パーセントの重合体を含む水溶液を混合し、分散処理した後、有機顔料と重合体とを共沈させる顔料組成物の製造方法において、上記重合体の水溶液が、スチレン0?40重量パーセント、メタクリル酸エステル20?70重量パーセントおよびメタクリル酸20?50重量パーセントからなり、これらのモノマーの合計量が、全モノマー量の85重量パーセント以上である重合体のアルカリ金属塩、アミン塩またはアンモニウム塩の水溶液であることを特徴とする顔料組成物の製造方法。
(5)析出を有機酸により中和して行う特許請求の範囲第(3)項に記載の顔料組成物の製造方法。」
(特許請求の範囲)

(c-2)
「(産業上の利用分野)
本発明は、水中に易分散性である顔料組成物に関し、更に詳しく云えば、アルカリ性の水に加えて簡単に撹拌するのみで十分に分散し、特に水性インキや水性塗料に有用である顔料組成物に関する。」
(第1頁右欄第16行?第2頁左上欄第1行)

(c-3)
「本発明の顔料組成物の必須成分は、上述の通りであり、本発明の顔料組成物は前記の特定のポリマー分散剤を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アンモニア、低級アミン等のアルカリ性の水溶液中に溶解し、その濃度を好ましくは約3?10重量パーセントとし、この中に所定の顔料を加えて、任意の分散機、例えば、ボールミル、サンドミル、スピードラインミル等により分散処理し、次いでこの顔料分散液中に有機酸または無機酸を加えて、分散液を中和することにより、分散剤である前記のアクリル系水溶性ポリマーは分散された顔料を包含しながら析出する。このような中和処理に使用する酸は、従来公知のいずれの酸でもよいが、最も好ましいのは、酢酸等の如き有機酸である。また中和は、液のpHが約3?4.5の範囲になる程度が好適である。析出した顔料組成物は濾過して水性媒体から分離する。本発明の顔料組成物はこのようなウェット状の顔料組成物でもよいのは当然である。また必要に応じて約90?120℃の温度で、約4?24時間乾燥することによって、粉末状あるいは粒状の本発明の顔料組成物を得ることもできる。
(作用・効果)
以上の如き本発明の顔料組成物は、アルカリ性の水性媒体中に加えて簡単に撹拌するのみで、顔料が水性媒体中に容易に微細に分散する。従って、従来の水性塗料や水性インキの調製においては、非常に厳しい条件下で長時間の分散処理工程を必要としたのに対し、本発明の顔料組成物を使用すれば、単なる撹拌のみで十分な水性顔料分散体が得られるので非常に経済的である。」
(第3頁右上欄第13行?右下欄第3行)

(d)甲6

(d-1)
「1、疎水性の液体および/または個体物質を樹脂に包含してなる微小カプセルを製造するに当たって、水媒体の作用下で、平均粒子径が0.1μm以下の水準に自己分散する分散能を有する自己分散性樹脂類を用いて微小カプセルを形成せしめ、水媒体中への微粒化およびカプセル壁形成を、実質的に同時に行なうことを特徴とする、微小カプセルの製造法。
2、疎水性の液体および/または個体物質を樹脂に包含してなる微小カプセルを製造するに当たって、水媒体の作用下で、平均粒子径が0.1μm以下の水準に自己分散する分散能を有する自己分散性樹脂類と、上記した疎水性の液体および/または固体物質との混合体を有機相とし、この有機相に水を投入するか、あるいは、水媒体中に該有機相を投入するかして、自己乳化せしめることを特徴とする、微小カプセルの製造法。
・・(中略)・・
4、前記した水媒体の作用下で、平均粒子径が0.1μm以下の水準に自己分散する分散能を有する自己分散性樹脂類がビニル樹脂である、請求項1または2に記載の製造法。
5、前記した疎水性の液体および/または個体物質が顔料類である、請求項1または2に記載の製造法。
・・(中略)・・
7、請求項1、2または6に記載の方法により得られる、粒子径が1μm以下なる超微粒子カプセル。
8、請求項1?7に記載された微小カプセルを使用した塗料、インキ、化粧品、記録材料または繊維着色剤。」(特許請求の範囲)

(d-2)
「まず、上述した芯材としての疎水性物質を自己分散性樹脂類に、分散あるいは溶解させ(以下、これを第一工程とも言う。)、次いで、かくして芯材物質を分散化せしめた自己分散性樹脂相を水媒体中に分散させ(以下、この工程を第二工程とも言う。)・・(中略)・・る・・(中略)・・という一連のプロセスが、本発明におけるマイクロカプセル化の概略である。
そのうちの第一工程は、カプセル芯材としての疎水性物質を、カプセル壁材となる自己分散性樹脂類に分散させ、あるいは、溶解させる工程である。
そのさい、芯材となる物質は固体と液体とのいずれでもよい。
固体でる場合において、その粒子径が大きいものであるときには、ロールミルやサンドミルなどの公知慣用の手段で微細分散(微分散)化せしめればよい。
また、この芯材たる疎水性物質が、たとえば、顔料である場合には、かかる顔料の多くは、まず、ウェットケーキの状態で得られ、次いで、これを乾燥処理して粉末状の形で商品化されている処から、通常、粒子径は数μm以上と大きく、そのために、色材として利用されるときは、上述した如き微細分散化処理が必要となるが、ウェットケーキの段階では、顔料粒子の強固な凝集は起こっていなく、-次粒子に近いレベルにある処から、この状態でストレートに実用に供すれば、特別の装置を用いての強制微細分散化工程は、-切、必要としないので、その分だけ、有利である。
すなわち、かかるウェットケーキを使用する場合には、通常のかきまぜ操作を行なうのみで、所望のレベルの微細分散化物が得られる処から、本発明方法を実施するに当たっては、かかるウェットケーキの使用が、特に推奨される。
・・(中略)・・
しかしながら、本発明方法に従う限り、このような事態に陥った場合でも、たとえば、樹脂中のカルボキシル基をトリエチルアミンの如き塩基性化合物で中和せしることによって自己分散化が果たし得る、いわゆる自己分散化型の樹脂類にあっては、中和前の樹脂類そのまま使用すれば、過剰の水を排出させながら、芯材を樹脂中に分散化せしめることができる。これが、いわゆるフラッシュ手法であるが、こうした方法が採りうるから、本発明方法は、水分量の多いウェットケーキを用いる場合にも、有利に対処しうるわけである。
しかるのち、排出された水を分離除去してから、中和処理を完了させて自己分散化せしめればよい。」
(第4頁左上欄第13行?右下欄第13行)

(d-3)
「カプセル壁の耐溶剤性や耐久性などの特性を、一層、向上せしめるために、予め、使用する自己分散性樹脂類それ自体に、グリシジル基、イソシアネート基、水酸基またはα,β-エチレン性不飽和二重結合(不法和基)などの、いわゆる反応性活性基をペンダントの形にしておくことにより、カプセルの形成時または形成後において、こうした反応性活性基(官能基)などを利用して、たとえば、カプセル壁材用樹脂それ自体の分子量を、一層、増大させたり、壁材用樹脂それ自体架橋しゲル化させたりすることも可能であることは、言うまでもない。」
(第6頁左上欄第1行?第13行)

(e)甲7

(e-1)
「(1)少なくとも顔料、分散剤、液媒体を含有する記録液を製造するに当り、前記分散剤の存在する液媒体中で顔料を合成することを特徴とする記録液の製造方法。
・・(中略)・・
(3)顔料の粒子径が1?100ミリミクロンの範囲である特許請求の範囲第1項記載の記録液の製造方法。
・・(後略)」
(特許請求の範囲)

(e-2)
「本発明は微細に分散された顔料を着色剤とする記録液の製造方法に関し、特にはインクジェット記録方法に適した記録液の製造方法に関する。」
(第1頁右下欄第4行?第7行)

(f)甲8

(f-1)
「本発明は、ノズル内のインキの一部を即時蒸発させるオンデマンドプロダクション(・・(中略)・・)によりインキ滴を噴出させるバブル型と称される種類のインキジェットプリンタ用に特に好適なインキに関する。」
(第2頁右上欄第20行?左下欄第4行)

(f-2)
「この顔料は、顔料の固体粒子を形成するよう微粉砕されたものでなくてはならない。この顔料は、黒色インキでは炭素の水性分散体、着色インキでは有機顔料の水性分散体の形態にある。
このような分散体の界面活性特性は、非イオン型のものが好ましい。顔料の最適径は1000Å以下でなければならず、400乃至1000Åが好ましい。」
(第5頁左上欄第17行?右上欄第5行)

(g)甲9

(g-1)
「顔料および乳化剤を含み、媒体が水性媒体である水性顔料分散インクジェット記録液において、上記乳化剤が、アルキルスルフィドの末端基を有する分子量200?5000のオリゴマ-乳化剤であることを特徴とするインクジェット記録液。」(【請求項1】)

(g-2)
「実施例-3
合成例-3で得た共重合体カリウム塩水溶液 5重量部
銅フタロシアニン・ブル-(1次粒子径:70mμ) 8重量部
トリエチレングリコ-ル 10重量部
ホルム・アミド 10重量部
FC-128(住友スリ-エス社製.フッ素界面活性剤)0.01重量部
テヒドロ酢酸ナトリウム 0.1重量部
水 66.89重量部
上記成分をボ-ルミルで分散させた後にゴ-リン・ホモジナイザ-で再度分散を行い、1200メッシュの金網で濾過して、青色の記録液を得た。得られたインクの粘度は、20℃で約4cpsで平均粒子径は、0.12μmであり、一次粒子径の約3倍であった。」
(【0081】?【0082】)

(g-3)
「実施例-5
合成例-5で得た共重合体カリウム塩水溶液 7.5重量部
マゼンタ、(C.I.Pigment Red81)…(1次粒子径:9 0mμ) 10重量部
ジエチレングリコ-ル 15重量部
イソプロピルアルコ-ル 8重量部
テヒドロ酢酸ナトリウム 0.1重量部
水 59.4重量部
上記成分を実施例-3と同様に分散させ、赤色の記録液を得た。得られたインクの粘度は、約2cpsで平均粒子径は、0.18μmであり、一次粒子径の約2倍であった。」
(【0085】?【0086】)

(h)甲10

(h-1)
「架橋性モノマーの含有量が10重量%以上の重合性モノマーを重合して得られる架橋ポリマー粒子(A)の表面が、架橋性モノマーの含有量が10重量%未満の重合性モノマーを重合して得られる重合体(B)により部分的または全面的に被覆されてなり、かつ(A)/(B)の重量割合が100/0.01?900重量部であることを特徴とするインクジェット記録インク用重合体微粒子。」(【請求項1】)

(h-2)
「また、顔料としては、通常の有機顔料や無機顔料を微粒子分散させたものが用いられ、顔料粒径が0.1μm以下に微粒子化されているものが好適である。染料、顔料の添加量としては、インクジェット記録インクの0.5重量%未満では十分な色調、濃度が得られず、10重量%をこえると目詰まりが起こり易くなるために0.5?10重量%が好ましい。・・(後略)」(【0018】)

(i)甲11

(i-1)
「顔料、ポリマー分散剤、水性媒体及び乾燥・凝集防止剤からなり、上記水性媒体が水と不揮発性有機溶剤とからなり、上記乾燥・凝集防止剤が尿素と糖アルコールとの混合物であることを特徴とするインキジェット用インキ組成物。」(特許請求の範囲第1項)

(i-2)
「本発明のインキジェット用インキ組成物は、上記の構成成分及び配合からなり、その製造方法は各種の方法が採用できる。例えば、上記の各種成分を配合し、これをボールミル、ホモミキサー、サンドグラインダー、スピードラインミル、ロールミル等の従来公知の分散機により顔料を混合磨散した後、濃度、粘度、その他の物性値を調整し、濾過、遠心分離等で粗大粒子を除去しインキを得ることができる。」(第3頁右下欄第9行?第17行)

(i-3)「第4表」(第6頁右上欄)




(j)甲12

(j-1)
「(1)着色剤、バインダー、有機溶剤及び導電性付与剤を含むIJ用インキ組成物において、着色剤が有機顔料であり、且つバインダーの少なくとも一部が硝化綿であることを特徴とするIJ用インキ組成物。
(2)顔料の平均粒子径が0.5μm以下である請求項1に記載のIJ用インキ組成物。」
(特許請求の範囲)

(j-2)
「有機顔料の分散方法としては、有機顔料、バインダー及び溶剤を混合し、これをボールミル、サンドグラインダー等の公知の分散手段を用いて分散処理し、有機顔料の平均粒子径が0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下のミルベースとし、これに有機溶剤及び他の必要成分を添加して濃度、粘度その他の物性値を調整するのが好ましく、又、分散液中に粗大粒子が残っている場合には濾過、遠心分離等で十分に除去しておくべきである。」
(第3頁左上欄第2行?第11行)

(j-3)「第1表」(第3頁右下欄)




(k)甲14

(k-1)
「水性のキャリヤ媒体およびABまたはBABブロックコポリマーによって安定化された顔料粒子からなる熱インクジェット顔料入りインクにおいて、このインクがインクの乾燥時間を短縮するのに充分な界面活性剤の有効量を含有することを特徴とする上記顔料入りインク。」(【請求項1】)

(k-2)
「[顔料]広くさまざまな有機系および無機系の顔料が、単独または組合せでインクを作るのに選択される。ここで使用される“顔料”という用語は不溶性の着色剤を意味する。顔料粒子はインクジェットプリンター装置特に通常10?50ミクロンの範囲にある直径を有する射出ノズルにおいてインクの自由流動を許容するのに充分に小さいものである。また、粒子のサイズは顔料の分散安定性に影響を有しており、これはインクの寿命の全体を通して重要である。微小粒子のブラウン運動は凝集から粒子を防ぐのを助けるであろう。また、最大の色の濃さと光沢のために小さい粒子を使用するのが望ましい。有用な粒子サイズの範囲は約0.005ミクロン?15ミクロンである。好ましくは、粒子サイズは0.005?5ミクロンの範囲に、最も好ましくは0.005?1ミクロンの範囲にあるべきである。」(【0030】)

(k-3)
「実施例5(シアン色)
シアン色インクを次の手順を用いて製造した。
・・(中略)・・
上述の成分を実施例1に記載したようにビーカー中でプレミックスし、ついでミニモーターミル100(アイガーマシナリー社、ベンゼンビル、IL606)中で0.75mmガラスビーズを用い4500rpmのモータースピードで24分間分散させた。得られた10%の細かな顔料分散液を真空下、1ミクロンフィルタークロスで濾過した。仕上りの分散液は次の物理的特性を有する。
粘 度: 5.76 cps
表面張力: 46.9 dynes/cm
pH : 7.8
粒子サイズ:121nm
この分散液を印刷テストのためにジエチレングリコールと水の10/90ジエチレングリコール/水混合物中で2%インクに希釈した。印刷テストをヒューレットパッカードプリンター(ヒューレットパッカード社、パロアルト、CA)で行なった。(表I、IIおよびIII参照)。」(【0099】?【0102】)

(2)無効理由1に係る当審の判断

(2-1)各甲号証に記載された発明

(a)甲3に記載された発明
上記(2)(a)で指摘した甲3には、「顔料10乃至90重量%とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂90乃至10重量%とを含有する固体顔料調合物0.1乃至20重量%」及び「水」「を含有するインクジェット印刷用水性印刷インク組成物」が記載され、当該「顔料調合物」が「有機顔料含有調合物である」ことが記載されており(摘示(a-1)参照。)、さらに、当該「固体顔料調合物」を製造するための「有機顔料」として、「フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、ジケトピロロビロール系、イソインドリノン系、ペリレン系、アゾ系、キナクリドン系、金属錯塩系たとえばアゾ染料、アゾメチン染料またはメチン染料の金属錯塩、およびβ-オキシナフトエ酸の古典的アゾ染料、アセトアセトアリーリイド系、あるいはアゾ染料の金属塩」が使用できることも記載されている(摘示(a-2)参照。)。
そして、甲3には、「固体顔料調合物」が「ポリアクリル系樹脂のアルカリ溶液に顔料を加えそして次ぎに酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって製造することができ」、その「場合には、後で中和することのできるアルカリ物質を使用することができる」ことも記載されており(摘示(a-3)参照。)、さらに、当該「インクジェット印刷用水性印刷インク組成物」において、「印刷インクの粒子サイズ」につき、「粒子の84%が0.107μm以下の粒子サイズを有する」場合、すなわち、粒子の84%が107nm以下の粒子サイズを有する場合が記載されている(摘示(a-6)参照。)。
してみると、甲3には、上記(a-1)ないし(a-6)の摘示した各記載からみて、
「カルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂のアルカリ溶液に有機顔料を加え、そして酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって得られたものをアルカリ物質で中和させることにより得られた有機顔料10乃至90重量%とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂90乃至10重量%とを含有する固体顔料調合物0.1乃至20重量%及び水を含有するインクジェット印刷用水性印刷インク組成物」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

(b)甲1に記載された発明
上記(2)(b)で指摘した甲1には、「酸化チタン顔料100重量部とケイ酸アルミニウム系顔料5?100重量部と有機顔料100重量部以下との混合顔料粉末を、その重量に基づき1/20?2倍量の、酸価30?500をもつカルボキシル基含有共重合体で被覆し、アルカリ性水溶液中に分散させて成る水性顔料組成物」が記載されており(摘示(b-1)参照。)、当該「水性顔料組成物」の「混合顔料粉末を共重合体で被覆する」ことによる製造方法として、「まず該共重合体をアルカリ性水溶液に溶解」し、「次いで、混合顔料粉末を前記の共重合体を溶解したアルカリ性水溶液に添加して混合したのち、」「分散機械で練り合わせ磨砕して顔料分散液を調製する。続いてこの顔料分散液を水で希釈後、」「無機酸を徐々にかきまぜながら添加して中和し、共重合体で被覆された複合顔料組成物を沈殿させる。次に、この複合顔料組成物をろ過、水洗、圧縮してプレスケーキとする。このようにして得られた複合顔料組成物のプレスケーキは、アルカリ性水溶液に分散させるに当り、」「分散性の点からプレスケーキをそのまま用いることが好ましい。
本発明の水性顔料組成物を調製するには、例えば前記の複合顔料組成物のプレスケーキ又は粉末を水の中に加え、次いで前記したような無機アルカリ性物質又は有機アルカリ性物質若しくはその両方を添加して、」「混合機や分散機械を用いて分散し、分散液のpHが7?10になるように調整する」方法が例示・記載されている(摘示(b-5)参照。)。
そして、甲1には、上記「水性顔料組成物」が「水性印刷インキ」として有用であることも記載されている(摘示(b-2)参照。)。
してみると、甲1には、上記(b-1)ないし(b-7)の摘示した各記載からみて、
「有機顔料を含有する混合顔料粉末を、カルボキシル基含有共重合体を溶解したアルカリ性水溶液に混合顔料粉末を添加して混合し、分散機械で練り合わせ磨砕して顔料分散液を調製し無機酸を添加して中和し、共重合体で被覆された複合顔料組成物を沈殿させ、当該複合顔料組成物をろ過、水洗、圧縮してプレスケーキをそのまま水の中に加え、次いでアルカリ性物質を添加して、混合機や分散機械を用いて分散し、分散液のpHが7?10になるように調整してなる、混合顔料粉末につきその重量に基づき1/20?2倍量の、酸価30?500をもつカルボキシル基含有共重合体で被覆し、アルカリ性水溶液中に分散させてなる水性印刷インキとして有用な水性顔料組成物」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(c)甲2に記載された発明
上記(2)(c)で指摘した甲2には、「有機顔料と重合体を均一に混合してなる顔料組成物において、上記有機顔料の含有量が、顔料組成物全量の75?95重量パーセントであり、且つ上記重合体を構成するモノマーが、・・メタクリル酸20?50重量パーセントであり、且つ、これらのモノマーの合計量が、全モノマーの85重量パーセント以上であることを特徴とする顔料組成物」が記載されており、当該「顔料組成物」が「75?95重量パーセントの有機顔料と25?5重量パーセントの重合体を含む水溶液を混合し、分散処理した後、有機顔料と重合体とを共沈させる顔料組成物の製造方法において、上記重合体の水溶液が、・・メタクリル酸20?50重量パーセントからなり、これらのモノマーの合計量が、全モノマー量の85重量パーセント以上である重合体のアルカリ金属塩、アミン塩またはアンモニウム塩の水溶液であることを特徴とする顔料組成物の製造方法」により製造されることも記載され、さらに当該「共沈」(「析出」)を「有機酸により中和して行う」ことも記載されている(摘示(c-1)参照。)。
さらに、甲2には、当該「顔料組成物の製造方法」について「特定のポリマー分散剤を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アンモニア、低級アミン等のアルカリ性の水溶液中に溶解し、・・この中に所定の顔料を加えて、任意の分散機、例えば、ボールミル、サンドミル、スピードラインミル等により分散処理し、次いでこの顔料分散液中に有機酸または無機酸を加えて、分散液を中和することにより、分散剤である前記のアクリル系水溶性ポリマーは分散された顔料を包含しながら析出する。このような中和処理に使用する酸は、・・酢酸等の如き有機酸である。また中和は、液のpHが約3?4.5の範囲になる程度が好適である。析出した顔料組成物は濾過して水性媒体から分離する。本発明の顔料組成物はこのようなウェット状の顔料組成物でもよいのは当然である。」と記載され(摘示(c-3)参照。)、さらに、当該「顔料組成物」が、「水中に易分散性で・・アルカリ性の水に加えて簡単に撹拌するのみで十分に分散し、特に水性インキや水性塗料に有用である」ことも記載されている(摘示(c-2)及び(c-3)参照。)。
してみると、甲2には、上記(c-1)ないし(c-3)の摘示した各記載からみて、
「メタクリル酸をモノマーとして含む共重合体を溶解したアルカリ性水溶液に有機顔料を添加しボールミル等により分散処理して顔料分散液を調製して、酸を添加して中和し顔料組成物を析出させ、当該顔料組成物をろ過してなる、アルカリ性の水に易分散性で水性インキに有用なウェット状の顔料組成物」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(2-2)本件訂正発明に係る検討
以下、本件訂正発明1及び2についてそれぞれ検討する。

ア.本件訂正発明1について

ア-1.本件訂正発明1と甲3発明との対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「カルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂」及び「有機顔料」は、それぞれ、本件訂正発明1における「アニオン性基含有有機高分子化合物類」及び「有機顔料」に相当する。
そして、甲3発明における「カルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂のアルカリ溶液に有機顔料を加え」は、アンモニウム塩の形のカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂の水溶液に顔料を加えた混合物をサンドミルで磨砕(すなわち混練)する態様を包含し(上記摘示(a-4)参照。)、さらにアンモニウム塩の形のカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂につき当該カルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂をアンモニア水溶液などのアルカリ性(すなわち塩基性)の水溶液環境として中和していることが当業者に自明であるから、本件訂正発明1における「アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する」に相当するものといえる。
また、甲3発明における「酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって得られたもの」は、サンドミルで磨砕した水性分散物を酸性溶液に添加して顔料調合物を沈殿させ、さらに当該顔料調合物を濾過単離する態様を包含するものである(摘示(a-5)参照。)から、本件訂正発明1における「酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ」に相当するものといえる。
さらに、甲3発明における「アルカリ物質で中和させることにより得られた」は、本件訂正発明1における「塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた」に相当することは明らかである。
そして、甲3発明における「固体顔料調合物」は、上記のとおり、いずれも水溶液中において、アルカリ性状態でカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂と有機顔料とを磨砕した後、酸性状態で樹脂を沈殿させて顔料調合物とし、アルカリ物質で中和するという本件訂正発明1におけるものと概略同等の工程を経て製造されたものであるから、本件訂正発明1における「有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料」に相当するものといえる。
また、甲3発明における「インクジェット印刷用水性印刷インク組成物」は、上記「固体顔料調合物」が水性媒体中に分散しているものであって、「インクジェット印刷用」と「インクジェットプリンター用」及び「印刷インク」と「記録液用」とは実質的に同義であることは当業者に自明であるから、本件訂正発明1における「インクジェットプリンター用記録液用水性分散液」に相当するものといえる。
したがって、本件訂正発明1と甲3発明とは、本件訂正に係る新請求項1に倣い表現すると、
「アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液」
の発明に係る点で一致し、下記の5点で相違している。

相違点a:含水ケーキにつき、本件訂正発明1では、「(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)」のに対し、甲3発明では、「酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって得られたもの」に酸化チタンが含まれるものを除く点に係る規定がない点
相違点b:本件訂正発明1では、「含水ケーキを、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させる」のに対し、甲3発明では、「酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって得られたもの」を「乾燥させることなく」「アルカリ物質で中和させる」ことに係る規定がない点
相違点c:本件訂正発明1では、「アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあ」るのに対し、甲3発明では、「有機顔料10乃至90重量%とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂90乃至10重量%とを含有する固体顔料調合物」である点
相違点d:有機顔料の一次粒子につき、本件訂正発明1では、「最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあ」るのに対し、甲3発明では、有機顔料の一次粒子の最大粒子径及び平均粒子径に係る規定がない点
相違点e:アニオン性マイクロカプセル化顔料につき、本件訂正発明1では、「最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下である」のに対し、甲3発明では、「固体顔料調合物」の最大粒子径及び平均粒子径に係る規定がない点

ア-2.上記相違点に係る検討

(ア)相違点aについて
上記相違点aにつき検討すると、甲3発明において、二酸化チタン(酸化チタン)は無機顔料として使用できるものの1種ではあるが、特に必須な顔料として使用すべきものではなく、二酸化チタンを使用しない態様まで包含することは明らかであるから、上記相違点aは実質的な相違点であるものとはいえない。

(イ)相違点bについて
上記相違点bにつき検討すると、上記甲1発明及び甲2発明にもみられるとおり、ポリマー分散剤又はカルボキシル基含有共重合体などのポリマーのアルカリ水溶液に顔料を添加・混練したものを、酸性化合物を添加・中和してポリマーと顔料との複合物を析出・沈殿させ、濾過・水洗する、いわゆる「酸析法」により製造された複合顔料につき、アルカリ性水溶液に再度分散して水性分散体を製造する場合、(顔料の)分散性の点から、酸析法により製造された複合顔料を「そのまま」又は「ウェット状」なる乾燥させない状態でアルカリ性水溶液に再度分散して水性分散体を製造することは、当業界周知の技術である(必要ならば摘示(b-5)及び(c-3)参照。)から、甲3発明において、顔料の分散性を改善し、もってインクの目づまりを防止することなどを意図し、上記「複合顔料組成物のプレスケーキは、・・分散性の点からプレスケーキをそのまま用いることが好ましい」(摘示(b-5)参照。)とされる当業界周知の技術を適用して、「酸性にして樹脂を沈殿させる方法によって得られたもの」又は「固体顔料調合物」を、乾燥させることなく、「アルカリ物質で中和させる」、すなわち「含水ケーキを、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させる」ことは、当業者が容易に想到しうることであって、上記相違点bは当業者が容易になし得ることといえる。

(ウ)相違点cについて
上記相違点cにつき検討すると、本件訂正発明1における顔料の含有割合と甲3発明におけるものとは、35?80重量%の範囲で重複するものであり、甲3発明に係る実施例においても顔料の含有割合が50重量%のものが存するのである(上記摘示(a-5)参照。)から、上記相違点cは実質的な相違点であるものとはいえない。

(エ)相違点d及びeについて
上記相違点d及びeについて併せて検討すると、上記(2)で示した甲6ないし甲12及び甲14にもそれぞれ記載されている(上記摘示(d-1)、(e-1)、(f-2)、(g-2)、(g-3)、(h-2)、(i-3)、(j-2)及び(k-2)参照。)とおり、印刷インク、インクジェットプリンター用インク(IJ用インク)などのインクに使用される顔料として、「0.1μm以下」、「1?100ミリミクロン」、「1000Å以下」、「0.2μm以下」程度、すなわち「100nm」程度の粒子径のものを使用し微分散させることは、当業界周知慣用の技術であり、さらに、甲9、甲11、甲12及び甲14にもそれぞれ記載されている(上記摘示(g-2)、(g-3)、(i-2)、(j-2)及び(k-3)参照。)とおり、インク組成物とするに際して、濾過などにより粗大粒子を除去することも当業界周知慣用の技術であるから、甲3発明において、インクジェットプリンター用インクに使用する顔料として、上記当業界周知慣用の技術に基づき、「有機顔料」の一次粒子及び「固体顔料調合物」の粒子における(平均)粒子径がそれぞれ「10?100nmの範囲のもの」及び「300nm以下のもの」とし、粗大粒子を除去することにより、「有機顔料」の一次粒子及び「固体顔料調合物」の粒子における最大粒子径をそれぞれ「200nm以下」及び「1000nm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることであって、してみると、上記相違点d及びeは、当業者が容易になし得ることといえる。

(オ)本件訂正発明の効果について
さらに、本件訂正発明に係る効果につき検討すると、本件訂正発明の解決すべき課題は、本件訂正明細書の記載(段落【0008】)からみて、「水系の顔料分散液を用いた記録液の製造において、記録液の分散媒体に顔料を微細に分散する工程の省力化を実現し、多大な労力、設備、エネルギー等を省力化し記録液の製造コストを低減可能なマイクロカプセル化顔料含有水性分散液を提供すること、また、記録液用の樹脂、各種添加剤あるいは溶剤等の選択の自由度に優れた汎用性の高い記録液用のマイクロカプセル化顔料含有水性分散液を提供すること、さらに、記録液に要求される濃度感、高精細度、演色性や透明性、さらに耐水性や再分散性等に優れた記録液用のマイクロカプセル化顔料含有水性分散液と該水性分散液を用いた記録液を提供することにある」ものといえる。
それに対して、上記甲3発明に係る水性インク組成物は、最適の粘度、表面張力、伝導性及び長い貯蔵寿命などの特性を有し、当該インクを使用した画像は、鮮明で耐光堅牢性、耐光性、耐水性等が良好で非吸着性印刷基質に対する湿潤性も有するものであり、極めて微細な分解能の画像及び文字を得ることができるものであって、ノズルの閉塞(すなわち「目づまり」)を生じることがないものであるところ、甲3発明に上記(イ)で指摘した甲1発明及び甲2発明のような当業界周知の技術を組み合わせて、顔料の分散性を向上させることにより、顔料の分散工程の省力化、汎用性の向上、顔料の再分散性の向上、ノズルの閉塞のさらなる防止などの上記本件訂正発明の解決課題を解決すべき効果を奏するであろうことは、当業者が予期することができる範囲のものであって、格別顕著なものともいえない。

(カ)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲3発明に、甲1発明及び甲2発明の当業界周知の技術及び甲6ないし甲12及び甲14に記載された当業界周知慣用の技術を組み合わせて、当業者が容易に想到することができたものであり、本件訂正発明1の効果についても、甲3発明及び上記当業界周知(慣用)の技術に係る効果に基づき、当業者が予期することができない程度の格別顕著なものとはいえない。

(キ)被請求人の主張について
被請求人は、平成20年8月25日付け答弁書(第1回)において、含水ケーキの乾燥の有無に係る比較実験についての実験報告書(乙第2号証、以下「乙2」という。)を提示し、
「インクジェット用に用いられる記録液用分散液には、分散性のみならず、インクジェットプリンターに使用した場合の吐出性や印字性等にも優れていることが要求される。
ここで、含水ケーキを乾燥させないことにより、乾燥させた場合よりも、連続吐出特性が改善されることは、本件特許の発明者らにより初めて見出された知見である。これは、乙第2号証(実験報告書)に示す通りである。
乙第2号証によれば、含有されるアニオン性マイクロカプセル化顔料の粒子径と粘度がほぼ同等であり、分散性に優れているとしても、含水ケーキの乾燥処理の有無により、インクジェット用としての特性は大きく異なる。例えば、本件特許明細書の製造例2と同様にして製造されたアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(A)と、含水ケーキを真空乾燥した後に中和した以外は製造例2と同様にして製造されたアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(B)とでは、含有されているアニオン性マイクロカプセル化顔料の平均粒子径と粘度はほぼ同等であり、いずれも分散性は良好であった。
ところが、これらを用いて実施例1と同様にしてインクジェット用記録液を製造し、インクジェットプリンターで印字した際の連続吐出特性(繰り返し使用してもノズルが目詰まりしない性質)を評価したところ、本件訂正発明に係る水性分散液(A)を用いた場合には、連続吐出特性が非常に良好であったが、水性分散液(B)を用いた場合は劣っていた。
したがって、甲第3号証記載の発明に、甲1、2、4、6号証のいずれの記載を組み合わせても、構成要件Bは導出されない。
そして、構成要件Bは、この新規な知見により必須構成要件とされているものであり、十分な技術的意義を有する。」(答弁書(5-3-2)の欄)
と主張し、もって
「以上で述べたように、甲第1?4及び6号証のいずれの記載からも、構成要件BとEとの両方を備えることにより、インクジェット用特有の性質である記録特性や連続吐出性が改善されることは導出されず、本件訂正発明は、甲第3号証記載の発明に、甲1、2、4、6号証のいずれの記載を組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。すなわち、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定に該当しない。」(答弁書(5-5)の欄)
と主張しており、平成20年12月12日付け答弁書(第2回)においても略同旨の主張を行っている。
また、被請求人は、平成21年3月10日付け口頭審理陳述要領書において、
「「連続吐出特性」とは、インクジェットプリンターで印字した際に、「繰り返し使用してもノズルが目詰まりしない性質」を意味する。
ここで、本件訂正明細書段落[0188]及び[0205]には、本件訂正発明のインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液(実施例1?3、7?11)を用いてインクジェットプリンターで印字した場合に、「繰り返し使用しても、インクを吐出させるノズルが詰まることもなかった。」と記載されている。一方、本件訂正明細書段落[0191]、[0209]等には、本件訂正発明の比較例に相当するインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液(比較例1?4)を用いた場合には、「繰り返し使用した場合、インクを吐出させるノズルが詰まることもあった。」と記載されている。
これらの記載より、・・「連続吐出特性」は、本件訂正発明のインクジェットプリンター用記録液用水性分散液及びこれを含有するインクジェットプリンター用記録液が有する、「繰り返し使用してもノズルが目詰まりしない」という本件当初明細書に記載されている効果を、単に略記したものに過ぎない。」(「(1-1)「連続吐出特性」なる効果に係る本件訂正明細書における記載箇所について」の欄)
と主張するとともに、平成21年3月24日付け上申書(被請求人第2回)の「[2]」の欄においても縷々主張し、特に「(4)」の欄では、
「このように、ノズルが詰まる要因は多く、また、それぞれの要因が互いに影響しあい、非常に複雑である。
よって、インクに用いたアニオン性マイクロカプセル化顔料の分散安定性は、ノズルが詰まるか否か(連続吐出特性)にとって非常に重要な要因ではあるが、分散安定性が良好であるからといって、必ずしも連続吐出特性も良好である(ノズルが目詰まりしない)とは限らない。
すなわち、本件訂正明細書の比較例の記載からも明らかであるように、マイクロカプセル化顔料の分散安定性と連続吐出特性との間に、直接的な因果関係はない。」
と主張している。

そこで、本件訂正明細書の記載に基づき被請求人の上記各主張について検討する。
本件訂正明細書の記載を検討しても、「連続吐出特性」につき、明示的表現として具体的に記載されていない。
そして、本件訂正明細書の実施例及び比較例の記載を検討すると、記録液におけるアニオン性マイクロカプセル化顔料の分散安定性の優劣と当該記録液の目詰まりの有無とは、分散安定性に優れる記録液の場合、記録液の目詰まりがなく、分散安定性に劣る記録液の場合、記録液の目詰まりがあるという点で、実施例1?3又は7?11及び比較例1又は3?6につき概して一致しているところ、「比較例2」のみは、分散安定性に優れる記録液の場合であっても、記録液の目詰まりの発生があるものと解され、実施例4?6及び12?16については、分散安定性の優劣につき記載されているのみであり、記録液の目詰まりの有無につき記載されていない。
しかるに、「比較例2」につき、さらに検討すると、「比較例2」における記録液は、上記の他の実施例又は比較例における記録液に比して、マイクロカプセルに占める樹脂量が多く、付加的に使用できる樹脂をさらに使用して記録液の樹脂量が大きい点及び低蒸気圧で目詰まりを防止する溶媒(目詰まり防止剤)として当業界周知の水溶性有機溶剤(エチレングリコール、グリセリン等、必要ならば下記参考文献等参照。)の使用量が極めて小さい点で組成が大きく異なるものであって(本件訂正明細書【0207】?【0209】参照。)、樹脂量が大きい記録液である場合、記録液の粘度が少なくとも上昇すること及び当該粘度の上昇又は目詰まり防止剤としての水溶性有機溶媒の過小使用によりインク輸送管及びノズルなどの目詰まりが生起し易くなることは、当業者に自明であるから、「比較例2」は、例外的に、顔料の分散安定性に優れる記録液であっても、記録液の目詰まりの発生がある場合であるといえるから、実施例1?3又は7?11及び比較例1又は3?6に係る記載からみて、一般的には、本件訂正明細書の段落【0004】にも記載されているとおり、記録液における顔料の分散安定性に優れる記録液の場合、記録液の目詰まりが発生しにくくなる傾向が存するという直接的な因果関係が存するというべきものである。

参考文献:「電子写真学会誌」第24巻、第4号(1985)第354?360頁

また、上記のとおり、実施例4?6及び12?16については、分散安定性の優劣につき記載されているのみであり、記録液の目詰まりの有無につき記載されていないのであるから、仮に、記録液の顔料の分散安定性と「連続吐出特性」との間に直接的な因果関係がないとすれば、実施例4?6及び12?16について、「連続吐出特性」を有するのか否か不明といわざるを得ない。
してみると、本件訂正明細書には、記録液におけるアニオン性マイクロカプセル化顔料の分散安定性が改善され優れた記録液の場合、分散安定性の改善に係る直接的な因果関係に基づく単なる結果として記録液の目詰まりがなくなる(発生しにくくなる)ことは記載されているものの、本件訂正発明に係る記録液につき、顔料の分散安定性との直接的な因果関係なしに独立して「連続吐出特性」を改善できることが技術思想として記載されているものとはいえない。
したがって、被請求人の上記各答弁書(第1回及び第2回)、口頭審理陳述要領書及び上申書(被請求人第2回)における主張は、本件訂正明細書の記載に基づくものということができないから、採用する余地がない。

また、付言すると、顔料粒子の分散安定性が優れている場合、粒子同士間だけでなく、粒子と容器内壁との間でも、斥力により付着(凝集)が防止されることが、当業者に自明である(例えば、容器内壁に顔料粒子が付着して固着層を形成するような場合は通常「顔料粒子の分散安定性が優れる」とはいわない。)から、顔料粒子の分散安定性が改善された場合に、インク輸送管又はノズルなどのインク流路の内壁に顔料粒子が付着して生起するインク流路の(部分)目詰まりの発生が防止・改善されるであろうことは、当業者に自明であるといえる。
さらに、被請求人が提示した乙2の「実験セットB」につき検討すると、上記(イ)で指摘したとおり、(顔料の)分散性の点から、酸析法により製造された複合顔料を「そのまま」又は「ウェット状」なる乾燥させない状態でアルカリ性水溶液に再度分散して水性分散体を製造することは、当業界周知の技術であり(必要ならば摘示(b-5)及び(c-3)参照。)、顔料の分散性を改善し、もってインクの目づまりを防止することなどを意図し、上記「複合顔料組成物のプレスケーキは、・・分散性の点からプレスケーキをそのまま用いることが好ましい」(摘示(b-5)参照。)とされる当該当業界周知の技術を適用して、「含水ケーキを、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させる」ことにした場合、上記「顔料粒子の分散安定性が改善された場合に、インク輸送管又はノズルなどのインク流路の内壁に顔料粒子が付着して生起するインク流路の(部分)目詰まりの発生が防止・改善されるであろう」という当業者に自明な事項に基づき「インクの目づまりのさらなる防止」という効果が得られることは、当業者が予期しうるものといえ、当該「実験セットB」は、当該効果を実験で単に確認したものに過ぎない。
なお、被請求人は、上申書(被請求人第2回)において、乙2の「実験セットB」の記録液試料の顔料体積平均粒子径及び粘度の経時変化に係る実験成績を乙第13号証ないし乙第14号証として提示し、「分散安定性を評価する尺度として、「粒子径(平均と最大)」と「粘度」のいずれを採用しても、分散安定性をとってみれば、有機顔料の含水ケーキをそのまま用いて製造された水性分散液と、含水ケーキを真空乾燥して製造された水性分散液とは、差異が無く同等なのである。本件特許に対応する水性分散液は、従来のそれに対して、分散安定性の点で優位性があるというわけではない」(上申書[2](5-5)の欄)旨を主張し、もって「乙第2号証において得られた結果、すなわち、構成要件Bを具備しない水性分散液(MC-B3)を用いて調製された記録液よりも、構成要件Bを具備する水性分散液(MC-B1)を用いて調製された記録液のほうが連続吐出特性が良好である(ノズルが詰まり難い)という結果は、単に水性分散液(MC-B3)と水性分散液(MC-B1)との分散安定性の相違によるものではないことが明らかである」(上申書[2](5-6)の欄)旨主張している。
しかるに、乙第14号証-7の記載を検討すると、記録液試料の粘度については、両者とも略同等の挙動を示しているところ、記録液試料の顔料の体積平均粒径については、両者とも同一の一次粒子の粒子径を有する有機顔料を使用しているにもかかわらず、「(MC-B3)」なる真空乾燥して製造された顔料を使用した場合に比して、「(MC-B1)」なる含水ケーキをそのまま用いて製造された顔料を使用した場合の方が、初期粒径及び経時後の粒径が小さく、さらに経時的に減少する粒径の変動幅も大きいことが記載されており、当該記載からみて、含水ケーキをそのまま用いて製造された顔料につき、より微細に分散されており、経時的に当該微細な分散がより亢進されているのであるから、含水ケーキをそのまま用いて製造された顔料の方が、顔料の分散(安定)性に優れていることが明らかであって、顔料の分散安定性につき両者の間に差異がなく同等であるということはできないものである。
してみると、被請求人の上記上申書における「乙第2号証において得られた結果、すなわち、構成要件Bを具備しない水性分散液(MC-B3)を用いて調製された記録液よりも、構成要件Bを具備する水性分散液(MC-B1)を用いて調製された記録液のほうが連続吐出特性が良好である(ノズルが詰まり難い)という結果は、単に水性分散液(MC-B3)と水性分散液(MC-B1)との分散安定性の相違によるものではないことが明らかである」との主張は、その技術的根拠を欠くものであって、当を得ないものであり、結局、乙2の「実験セットB」の結果を参酌しても、顔料水性分散液の製造における含水ケーキの乾燥の有無に係る事項が、記録液とした際の顔料の分散安定性を介さずに、「連続吐出特性」なる効果に直接的な因果関係を有するものと証拠づけることができないものである。

以上の検討を総合すると、被請求人の上記各答弁書(第1回及び第2回)、口頭審理陳述要領書及び上申書(被請求人第2回)における主張は、本件訂正明細書の記載に基づかないものであるか、技術的に根拠を欠くものであるから、いずれにしても当を得ないものであり、採用する余地がないものであって、当審の上記(ア)?(カ)の判断を左右するものではない。

ア-3.本件訂正発明1に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲3発明及び当業界周知(慣用)の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1に係るインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液に係るものであるところ、上記(3-1)(a)で指摘したとおり、甲3発明は、「インクジェット印刷用水性印刷インク組成物」に係るものであり、本件訂正発明2と甲3発明とを対比しても、上記ア-1.で指摘した相違点aないしe以外の新たな相違点が存するものではない。
したがって、本件訂正発明2についても、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、甲3発明及び当業界周知(慣用)の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1及び2は、いずれも甲3発明及び当業界周知(慣用)の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、新請求項1及び2に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由2について
本件訂正後の請求項1及び2に係る特許は、上述のとおり、いずれも無効とすべきものであるが、事案にかんがみ、以下、上記無効理由2及び3についても検討する。

(3-1)無効理由2に係る請求人の主張
請求人は、平成20年3月31日付け手続補正書(弁駁書)において、上記無効理由2につき、
「(1)請求項1は、構成Eを必須の構成とするところ、本件特許明細書には請求項1の実施例が1例も記載されていない。すなわち、構成Eは、「有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にある」旨であるところ、本件特許明細書の製造例2で用いる顔料・・ついては、「平均粒子径と最大粒子径」が記載されているものの、「一次粒子の平均粒子径と最大粒子径」については記載されていない(「一次粒子の」が記載されていない)。さらに製造例7・・についても同様であり、さらには製造例13・・については、粒子径について何らの記載もない。従って上記製造例2、7、13で製造した分散体を用いる各実施例においても前記構成Eが全く具体的に記載されていない。・・
化学関係の特許明細書では、具体的実施例の記載が必須であるところ、請求項1については具体的実施例が1例も記載されていないから、当業者が請求項1の発明を容易に追試して効果を確認することができない。・・
(2)構成Eにおける「有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下」・・は・・「200nm以下」がある程度の幅を有する範囲・・であるところ、本件特許発明の実施例において使用される顔料の最大粒子径は「100nm」(製造例2、製造例7)の1点にすぎず、係る1点のみの開示によって最大粒子径範囲を「200nm以下」とする請求項1に係る明細書の記載は、当業者が発明を容易に追試して効果を確認することができる程度の記載されているということができない。・・
(3)製造例13(実施例3、9)において使用する有機顔料については、平均粒子径および最大粒子径が記載されていない。よって製造例13(実施例3、9)は、請求項1に含まれるか否かが不明である・・。
(4)構成Fにおいては、「カプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下」とされているが、実施例13等においては単に「最大粒子径が1000nm以下」と記載されているのみで、具体的な最大粒子径の記載がない。・・」
と主張し、これらのそれぞれの点をもって
「請求項1に係る明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許法第36条第4項第1号に違反する。」
と主張している(第2の(1)?(4)の欄)。
(なお、上記手続補正書(弁駁書)においては、訂正請求(第1回)で訂正された請求項2に係る明細書の記載についても「製造例18」及び「実施例15」の記載に基づく同様の主張(第2の(5)の欄)及び「硬化剤及び/又は高分子化合物と有機顔料とをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆したアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する」場合に係る実施例がないことに基づく同様の主張(第2の(7)の欄)を行い、また、訂正請求(第1回)で訂正された請求項3に係る明細書の記載についても、請求項3に係る実施例がないことに基づく同様の主張(第2の(8)の欄)を行っているが、本件訂正により、当該「請求項2」は削除され、「実施例15」についても「参考例」であることが明示されており、また、新請求項2において「記録液」が「インクジェットプリンター用」のものである旨規定されたので、当該主張は、いずれも根拠を欠くものであることが明らかであり、採用する余地がない。)

(3-2)上記請求人の主張に係る検討
上記請求人の主張につき検討するにあたり、「顔料の一次粒子」につき検討すると、「顔料の一次粒子」は、「単結晶と、それがいくつか凝集して安定化した結晶が一般的に一次粒子(・・)と言われているものであ」り、「水の中で安定化した一次粒子は、・・凝集力が非常に強く、通常の分散エネルギーでは再分散したり単結晶に戻ることはない」ものであって、「スラリーや、フイルタープレスなどで濾過・洗浄されてプレスケーキとして供給される顔料の状態はほぼこの一次粒子の状態である」(乙第4号証第39頁第10行?第22行)ことが当業者の技術常識の範囲内の事項であり、また、「通常の顔料は、・・粉体の顔料の形態で、水が完全に除かれる事によって一次粒子がさらに凝集した二次粒子(・・)となっている」(乙第4号証第40頁第3行?第5行)ことも当業者の技術常識の範囲内の事項であるものといえる。
そこで、請求人の上記主張の各点につき検討すると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例において使用される有機顔料は、「ファストゲン・ブルー・TGR」、「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」、「クロモフタル・レッド・DPP-BO」、「シムラーファースト・イエロー・8GTF」及び「シムラーファスト・イエロー・4192」(以下「TGR」、「RTS」、「DPP」、「8GTF」及び「4192」とそれぞれ略す。)なる商品名で表されるもので、8GTFを除きそれぞれ顔料の平均粒子径及び最大粒子径が記載されており、さらに、8GTFについても、乙第6号証(以下「乙6」という。)の実験結果により顔料が特定の平均粒子径及び最大粒子径を有するものと解することができるとともに、本件訂正明細書(【0081】)の記載からみて、8GTF以外の上記の各顔料の平均粒子径及び最大粒子径についても、乙6の実験方法により測定されたものと解することができる。
(なお、請求人は、上申書(第2回)において、乙6は、「本件特許発明の当初明細書に記載のない事項を補充するものに相当する」ことをもって、証拠として採用すべきではない旨主張するが、乙6は、当該「当初明細書」に記載された実施例において使用された顔料につき、平均粒子径及び最大粒子径を単に確認しただけのものであるから、新たな技術事項を補充するものではなく、上記主張は、当を得ないものであり、採用することができない。)
そして、乙6の実験方法につきさらに検討すると、乙6の方法では、顔料を有機溶剤に超音波処理により分散したものを電子顕微鏡により観察しているから、通常の分散エネルギーを十分にかけているものと解され、上記当業者の技術常識に照らすと、顔料は一次粒子の状態になっているものと解される。
してみると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例における有機顔料の平均粒子径及び最大粒子径は、いずれも一次粒子のものであると解するのが相当である。
したがって、請求人の上記(1)?(3)の主張は、根拠を欠くものであって、当を得ないものである。
また、請求人の上記(4)の主張につき検討すると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載の、請求項1に係る発明についての実施例で使用される製造例2ないし4及び7ないし17については、それぞれ「マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、・・nmで、1000nm以上の粒子は0%であった」と記載されているのであるから、体積平均粒子径が特定値で最大粒子径が1000nm未満であることが明らかであって、単に当該最大粒子径の実数値に係る記載がないことが当業者の追試を妨げるものということはできない。
してみると、請求人の上記(4)の主張についても、根拠を欠くものであって、当を得ないものである。

(3-3)無効理由2に係るまとめ
以上のとおり、請求人の無効理由2に係る上記(1)?(4)の主張は、いずれも根拠を欠くものであり、当を得ないものであるから、採用する余地がない。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正後の請求項1及び2に記載された特許を受けようとする発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえないものではない。
結局、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということができないから、本件特許が特許法第123条第1項第4号に該当するということができず、無効とすることができない。

(4)無効理由3について
請求人は、上記上申書(第2回)において、「請求項1の発明における「有機顔料」は、製造例18、実施例15に挙げられている「カーボンブラック」を「含む」とも、または「含まない」との何れにも解され、よって請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であると言うことができ」ないと主張している(第2の(6)の欄)。
(なお、請求人は、上申書(第2回)において、訂正請求(第1回)で訂正された請求項2に記載された「硬化剤及び/又は高分子化合物と有機顔料とをアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆したアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する」場合に係る実施例がないことに基づく同様の主張(第2の(7)の欄)を行い、また、訂正請求(第1回)で訂正された請求項3の記載についても、「末尾の「記録液」には「インクジェットプリンター用」との限定はなく、本件特許明細書・・に記載の筆記具用のインク等を「含む」とも、「含まない」とも解される」ことに基づく同様の主張(第2の(8)の欄)を行っているが、本件訂正により、当該「請求項2」は削除され、また、新請求項2において「記録液」が「インクジェットプリンター用」のものである旨規定されたので、当該主張は、いずれも根拠を欠くものであることが明らかであり、採用する余地がない。)
しかるに、本件訂正により、「実施例15」については「参考例」であることが明示されており、また、技術常識からみて、「カーボンブラック」は「有機顔料」の範疇のものではないから、新請求項1における「有機顔料」は、「カーボンブラック」を含まないと解すべきものである。
してみると、請求人の上記主張は、当を得ないものであるから、採用する余地がない。
したがって、本件訂正後の請求項1及び2の記載では、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする各発明が明確であるといえないものではない。
結局、本件訂正後の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないということができず、同法同条同項に規定する要件を満たしていないということもできないから、本件特許が特許法第123条第1項第4号に該当するということができず、無効とすることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件の新請求項1及び2に係る特許は、上記無効理由1によりいずれも無効とすべきものである。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液及び記録液
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)を、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあり、有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液。
【請求項2】請求項1に記載のインクジェットプリンター用記録液用水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン、水性マーカー等の筆記具やバブルジェット方式、サーマルジェット方式やピエゾ方式等のオンデマンドタイプのインクジェットプリンター用の水性記録液を製造するための材料として有用なマイクロカプセル化顔料中の顔料濃度の高いアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する記録液用水性分散液、その分散液を含有する記録液に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、高精細度を要求される記録液には染料が用いられてきた。染料を用いた記録液は、高透明度、高精細度や優れた演色性などの特徴を有しているが、耐光性及び耐水性等の問題を有する。
【0003】
近年、耐光性及び耐水性の問題を解決するために、染料に代えて有機顔料やカーボンブラックを用いた記録液が製造されている。
【0004】
しかしながら、有機顔料やカーボンブラックを用いた場合、顔料が非常に細かく分散安定化されていないと、記録液として高精細度と高度な演色性を得られないという問題点がある。特に、インクジェットプリンター用の記録液においては、顔料が非常に細かく分散安定化されていないと、ノズルの目詰まりという問題点に直結する。また、バックライトで投影するOHPシート等の用途に有機顔料を用いた場合、顔料を微細に分散して高透明度を確保しなければ、カラフルなOHPの投影画像が得られないという問題点があった。
【0005】
特に、これらに使用される有機顔料やカーボンブラックは、塗料やインキ等の一般的に使用される有機顔料やカーボンブラックに比べて、一次粒子径が細かく、二次凝集が強いため、これらの顔料を一次粒子にまで分散するには多大なエネルギーを必要とする。また、これらの顔料を一次粒子まで分散できたとしても、分散液中の顔料を安定に保つには種々の工夫が必要である。
【0006】
これらの問題点を解決するために、以下に示すように、マイクロカプセルを使用する方法が開示されている。例えば、特開昭62-95366号公報には、ポリマー粒子中に染料インクを内包したマイクロカプセルを記録液に用いる方法、特開平1-170672号公報には、水に実質的に不溶な溶媒に色素を溶解又は分散させ、これを水中で界面活性剤を用いて乳化分散し、従来の手法によりマイクロカプセル化した色素を記録液に用いる方法、特開平5-39447号公報には、マイクロカプセルの内包物が、水、水溶性溶媒並びにポリエステル樹脂の少なくても1種に昇華性分散染料を溶解又は分散させたマイクロカプセルを記録組成物に使用する方法、特開平6-313141号公報等には着色された乳化重合粒子と種々の水性材料からなる水性インキ組成物等が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、染料をカプセル化したもののは、耐光性に劣るという問題点を有し、従来の方法で製造したマイクロカプセル化顔料は、粒径が大きいために、透明性、発色性及び演色性等に劣るという問題点を有していた。また、カプセル中の樹脂濃度が高い(顔料濃度が低い)ために、記録液に使用する材料の選択性が小さく、汎用性に欠け、さらにその記録液は、濃度感がなくなるという問題点を有していた。さらに、顔料濃度を過度に高くした場合、樹脂のみで微細なマイクロカプセル化顔料を製造することが難しく、それゆえに、界面活性剤を併用せざるを得ず、そのために、必ずしも耐水性を満足する記録画像が得られるものではなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水系の顔料分散液を用いた記録液の製造において、記録液の分散媒体に顔料を微細に分散する工程の省力化を実現し、多大な労力、設備、エネルギー等を省力化し記録液の製造コストを低減可能なマイクロカプセル化顔料含有水性分散液を提供すること、また、記録液用の樹脂、各種添加剤あるいは溶剤等の選択の自由度に優れた汎用性の高い記録液用のマイクロカプセル化顔料含有水性分散液を提供すること、さらに、記録液に要求される濃度感、高精細度、演色性や透明性、さらに耐水性や再分散性等に優れた記録液用のマイクロカプセル化顔料含有水性分散液と該水性分散液を用いた記録液を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意、検討を重ねた結果、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有率が35?80重量%の範囲にあるアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を記録液に加工した場合、製造時の樹脂、溶剤あるいは各種添加剤等の選択や添加量の制限がなく、汎用性が高められ、更にアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を単に混合するだけで使用できるため、従来の製造コストを低減すること、記録液の精細度、演色性や透明性を従来以上に向上できること、界面活性剤を必須使用しなくても良いので、記録画像の耐水性を高めること、さらにマイクロカプセル化するための樹脂であるアニオン性基含有有機高分子化合物類の中和用の塩基を不揮発性のもの(アルカリ金属)を使用することにより再分散性を高め記録液の信頼性を高められること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は上記課題を解決するために、アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料と、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキ(但し、酸化チタンが含まれるものを除く)を、乾燥させることなく、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得られた、有機顔料をアニオン性基含有有機高分子化合物類で被覆して成るアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液であって、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有割合が35?80重量%の範囲にあり、有機顔料の一次粒子の最大粒子径が200nm以下であって平均粒子径が10?100nmの範囲にあり、かつアニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nm以下でかつ平均粒子径が300nm以下であることを特徴とするインクジェットプリンター用記録液用水性分散液及び該水性分散液を含有するインクジェットプリンター用記録液を提供する。以下、アニオン性基含有有機高分子化合物類は、「アニオン性有機高分子化合物類」と省略する。
【0011】
本発明のアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有するインクジェットプリンター用記録液用水性分散液は、有機顔料を、必要に応じて硬化剤及び高分子化合物と共に、アニオン性有機高分子化合物類で被覆したものであってもよい。また、アニオン性有機高分子化合物類を塩基で中和した形のものが好ましく、特にアルカリ金属を使用することが好ましい。
【0012】
更に、そのアニオン性マイクロカプセル化顔料が、硬化剤及び高分子化合物を含有するアニオン性有機高分子化合物類で以て、有機顔料を被覆した形のものであってもよい。
【0013】
更にまた、本発明のマイクロカプセル化顔料のカプセル中に、チタン、アルミの如き無機物質(但し酸化チタンを除く)、顔料誘導体、顔料分散剤、顔料湿潤剤、有機溶剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、あるいは記録液用のビヒクル等の他の物質を含めることもできる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の記録液用水性分散液に含まれるアニオン性マイクロカプセル化顔料の製造方法としては、従来からの方法として物理的、機械的手法と、コアセルベーション法、界面重合法及びイン・サイチュー法などの化学的手法との、二つの方法が挙げられる。
【0015】
しかしながら、これらの従来型方法で得られるマイクロカプセル化顔料の粒径は、サブミクロン(μm)以下の大きさのものであっても、粒子径が大きく、マイクロカプセル中の顔料が占める割合が低いため、このマイクロカプセル化顔料を用いて記録液を製造した場合、精細度、演色性、透明性あるいは色の濃度感において必ずしも満足できるものが得られない。更に微細で、かつ、マイクロカプセル中の顔料が占める割合が高いマイクロカプセル化顔料を製造する必要がある。
【0016】
また、カプセル中の樹脂濃度が高い(顔料濃度が低い)ために、記録液に使用する材料が限られたり、界面活性剤を使用するために耐水性が劣ったりする。
【0018】
本発明の記録液用水性分散液に含まれるアニオン性マイクロカプセル化顔料の製造方法は、アニオン性基含有有機高分子化合物類のアニオン性基の一部又はすべてを塩基性化合物でもって中和し、有機顔料又はカーボンブラックと、水性媒体中で混練する工程、及び、酸性化合物でもってpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子化合物類を析出させて顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより得る方法(以下、「酸析法」という。)である。
【0019】
このようにすることによって、目的とする従来の方法より微細で高顔料分のアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する水性分散液を製造することができる。
【0021】
アニオン性マイクロカプセル化顔料のマイクロカプセル中に含まれる有機顔料又はカーボンブラックは、記録液の濃度感や透明性、演色性を得るために、あるいは、平均粒子径300nm以下の微細なマイクロカプセル化顔料を製造するために、最大粒子径が200nm以下であって、一次粒子の平均粒子径が10?100nmの範囲にある有機顔料又はカーボンブラックが好ましい。
【0022】
本発明で使用する有機顔料の種類は特に限定されないが、代表的なものを例示するにとどめれば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料などが挙げられる。
【0023】
また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性カーボン等が挙げられる。
【0024】
アニオン性マイクロカプセル化顔料のマイクロカプセル中に顔料と共に含まれていても良い硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等のアミノ樹脂、トリメチロールフェノール、その縮合物等のフェノール樹脂、テトラメチレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、それらの変性イソシアネートやブロックドイソシアネート等のポリイソシアネート、脂肪族アミン、芳香族アミン、N-メチルピペラジン、トリエタノールアミン、モルホリン、ジアルキルアミノエタノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類、ポリカルボン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート等の酸無水物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール系エポキシ樹脂、グリシジルメタクリレート共重合体、カルボン酸のグリシジルエステル樹脂、脂環式エポキシ等のエポキシ化合物、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、トリスヒドロキシエチルイソシアネート(THEIC)等のアルコール類、ペルオキシドによるラジカル硬化あるいはUV硬化や電子線硬化に用いる不飽和基含有化合物としてのポリビニル化合物、ポリアリル化合物、グリコールやポリオールとアクリル酸又はメタクリル酸の反応物等のビニル化合物等が挙げられる。
【0025】
これらの硬化剤は、アニオン性マイクロカプセル化顔料の壁を硬化するために、あるいは、記録液に使用した場合の塗膜強度を高めるために使用され、更に必要であれば、光開始剤、重合開始剤あるいは触媒を添加し、硬化の促進を図るのがより好ましい。
【0026】
そのような目的で使用する光開始剤としては、ベンゾイン類、アントラキノン類、ベンゾフェノン類、含イオウ化合物類やジメチルベンジルケタール等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【0027】
同様に、重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンパーヒドロキシド、アセチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の如き過酸化物;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等の如きアゾ化合物などが挙げられる。
【0028】
また同様に、触媒としては、例えば、Co化合物、Pb化合物などが挙げられる。
【0029】
アニオン性マイクロカプセル化顔料のマイクロカプセル中に顔料と共に含まれていても良い高分子化合物は、数平均分子量1,000以上のものであれば、特に制限なく使用することができるが、記録液の膜強度の面、カプセルの製造面から、数平均分子量が3,000?100,000の範囲のものが好ましい。
【0030】
そのような高分子化合物の種類は特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系等の高分子化合物、あるいはそれらの共重合体又は混合物などが挙げられる。
【0031】
アニオン性マイクロカプセル化顔料を製造するために使用するアニオン性有機高分子化合物類は、水に対して自己分散能又は溶解能を有し、アニオン性(酸性)であれば特に制限がないが、カプセル膜として、あるいは記録液の塗膜として充分なるものを得るために、通常、数平均分子量が1,000?100,000の範囲のものが好ましく、3,000?50,000の範囲のものが特に好ましく、かつ、有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。
【0032】
アニオン性有機高分子化合物類それ自体の自己分散能あるいは溶解能は、特に限定されないが、例えば、当該アニオン性有機高分子化合物中のカルボキシル基、スルフォン酸基やホスホン酸基の如きアニオン性基を、アンモニアやトリエチルアミンの如き有機アミンや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムや水酸化リチウム等のアルカリ金属を用いて中和することによって付与される。特に望ましい自己分散能又は溶解能は、この有機高分子化合物類中に、カルボキシル基を導入せしめて、塩基で以て中和せしめるという形のものである。アニオン性有機高分子化合物類中には、これらのアニオン性基を2種以上有していても良い。
【0033】
カルボキシル基を有するアニオン性高分子化合物類中のカルボキシル基の量は、酸価が30KOHmg/g以上が好ましく、50?250となる範囲がより好ましい。アニオン性高分子化合物類の酸価が250を越えると、親水性が高くなり過ぎるため、カプセルの貯蔵安定性が損なわれたり記録画像の耐水性が著しく低下する傾向にあり、また、酸価が30よりも低いと、カプセルの安定性が損なわれたり粒子径が大きくなる傾向にあるので、好ましくない。
【0034】
そのようなアニオン性有機高分子化合物類としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料;熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する材料などが挙げられる。
【0035】
本発明で使用するアニオン性有機高分子化合物類は、カプセル壁材として充分なる分子量を有し、特に壁形成化という操作を必要としないが、カプセル壁の耐溶剤性や耐久性などの特性を一層向上化させるために、あるいは、記録液の膜形成後の膜強度を高めるために、予め、使用するアニオン性有機高分子化合物類それ自体に、グリシジル基、イソシアネート基、水酸基又はα,β-エチレン性不飽和二重結合(ビニル基)の如き反応性活性基をペンダントさせておくことによって、あるいは、反応性活性基を有する架橋剤、例えば、メラミン樹脂、ウレタン樹脂エポキシ樹脂、エチレン性不飽和モノマーやオリゴマー等の光硬化剤などを混入させておくことによって、カプセルの形成時又は形成後、あるいは、記録液の塗膜形成後に、これらの反応性活性基や官能基などを利用して、カプセル壁材用としてのアニオン性有機高分子化合物類それ自体の分子量を増大化させたり、架橋しゲル化する性能を付与させておくことがより好ましい。
【0036】
アニオン性有機高分子化合物類のうち、アニオン性アクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(以下、アニオン基含有アクリルモノマーと略す)と、更に必要に応じてこれらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。アニオン基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン基からなる群から選ばれる1個以上のアニオン性基を含するアクリルモノマーが挙げられ、これらの中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマーが特に好ましい。
【0037】
カルボキシキル基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0038】
スルホン酸基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、スルホエチルメタクリレート、ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。
【0039】
ホスホン基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、ホスホエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0040】
アニオン基含有アクリルモノマーと共重合し得る他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-t-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-n-オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ベンジル等の如き(メタ)アクリル酸エステル;ステアリン酸とグリシジルメタクリレートの付加反応物等の如き油脂肪酸とオキシラン構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの付加反応物;炭素原子数3以上のアルキル基を含むオキシラン化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応物;スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸アミノプロピル、アクリル酸メチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノプロピル、アクリル酸エチルアミノエチル、アクリル酸エチルアミノプロピル、アクリル酸アミノエチルアミド、アクリル酸アミノプロピルアミド、アクリル酸メチルアミノエチルアミド、アクリル酸メチルアミノプロピルアミド、アクリル酸エチルアミノエチルアミド、アクリル酸エチルアミノプロピルアミド、メタクリル酸アミド、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノプロピル、メタクリル酸エチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸アミノエチルアミド、メタクリル酸アミノプロピルアミド、メタクリル酸メチルアミノエチルアミド、メタクリル酸メチルアミノプロピルアミド、メタクリル酸エチルアミノエチルアミド、メタクリル酸エチルアミノプロピルアミド、アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、N-メチロールアクリルアミド、アリルアルコール等が挙げられる。
【0041】
架橋性官能基を有するモノマーとしては、下記に挙げられる。
【0042】
ブロックイソシアネート基を有する重合性モノマーは、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基を有する重合性モノマーに公知のブロック剤を付加反応させることによって、あるいは、上述した水酸基およびカルボキシル基を有するビニル系共重合体に、イソシアネート基とブロックイソシアネート基とを有する化合物を付加反応することによって、容易に製造することができる。イソシアネート基とブロックイソシアネート基とを有する化合物は、ジイソシアネート化合物と公知のブロック剤とをモル比で約1:1の割合で付加反応させることによって容易に得ることができる。
【0043】
エポキシ基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、脂環式エポキシ基を有する(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。
【0044】
1,3-ジオキソラン-2-オン-4-イル基を有するモノマーとしては、例えば、1,3-ジオキソラン-2-オン-4-イルメチル(メタ)アクリレート,1,3-ジオキソラン-2-オン-4-イルメチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0045】
重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンパーヒドロキシド、アセチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の如き過酸化物;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等の如きアゾ化合物などが挙げられる。
【0046】
アニオン性基含有アクリルモノマーと、更に必要に応じて、これらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを重合する際に使用する溶媒としては、例えば、ヘキサン、ミネラルスピリット等の如き脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の如き芳香族炭化水素系溶剤;酢酸ブチル等の如きエステル系溶剤;メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン等の如きケトン系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等の如きアルコール系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジン等の如き非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は2種以上を併用して用いることもできる。
【0047】
転相法によるアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、以下のようにして製造される。
【0062】
一方、上記と同様の材料を使用して、アニオン性基含有有機高分子化合物類及び有機顔料又はカーボンブラックからなる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又はすべてを中和させることにより、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液を得る方法(酸析法)は、以下の手順による。
(1)アニオン性有機高分子化合物類と顔料とを、アルカリ性水性媒体中に分散する。また、必要に応じて加熱処理を行ない、樹脂のゲル化を図る。
(2)pHを中性又は酸性にすることによって樹脂を疎水化し、樹脂を顔料に強く固着する。
(4)必要に応じて、濾過及び水洗を行なう。
(5)塩基性化合物でもってカルボキシル基を中和して、水性媒体中に再分散する。また、必要に応じて加熱処理を行ない、樹脂のゲル化を図る。
【0063】
工程(1)におけるアニオン性有機高分子化合物類と顔料とを、アルカリ性水性媒体中に分散する方法としては、次の2方法が適当である。
(1)有機溶剤媒体中で顔料を混練した後、水性媒体中に分散する。
(2)水性媒体中で顔料を混合又は混練する。
【0064】
上記第(1)の方法では、まず、顔料と、アニオン性有機高分子化合物類の有機溶剤溶液とを、ボールミル、サンドミル、コロイドミルなどの公知の分散機を使用して微細に分散する。
【0065】
この時、使用される有機溶剤は、一般に使用されるものはすべて使用できるが、樹脂に対する溶解性が良く、樹脂の合成上も問題がないもの、蒸気圧が水より高く、脱溶剤し易いもの、さらに、水と混和性のあるものが好ましい。そのような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。水との混和性は低いが、メチルイソプロピルケトン、メチル-n-プロピルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸n-プロピル、塩化メチレン、ベンゼンなども、この方法に使用することができる。
【0066】
有機溶剤媒体中に分散させた顔料及びアニオン性有機高分子化合物類から成る分散体を水性媒体中に分散させるには、(1)アニオン性有機高分子化合物類のカルボキシル基を塩基性化合物を用いて中和し、アニオン性有機高分子化合物類を親水性化して水に分散させる方法、あるいは、(2)塩基性化合物を用いて中和したアニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体を水に分散させる方法が挙げられる。
【0067】
水への分散方法としては、次のような方法が適当である。
(a)アニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体を塩基性化合物を用いて中和した後、水を滴下する。
(b)塩基性化合物を用いて中和したアニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体に、水を滴下する。
(c)アニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体に、塩基性化合物を含有する水を滴下する。
(d)アニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体を塩基性化合物でもって中和し、水媒体中に添加する。
(e)塩基性化合物を用いて中和したアニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体を水性媒体中に添加する。
(f)アニオン性有機高分子化合物類及び顔料から成る分散体を、塩基性化合物を含有する水媒体中に添加する。
【0068】
水に分散する時には、通常の低シェアーでの撹拌、ホモジナイザーなどでの高シェアー撹拌、あるいは、超音波などを使用して行なってもよい。また、水性媒体への分散を補助する目的でもって、界面活性剤や保護コロイドなどを、塗膜の耐水性を著しく低下させない範囲で併用することもできる。
【0069】
塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムの如きアルカリ金属;アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリンの如き有機アミンなどが挙げられる。
【0070】
アニオン性有機高分子化合物類と顔料とをアルカリ性水性媒体中に分散する第(1)工程に適用できる第(2)の方法である水性媒体中で樹脂と顔料とを混練する方法は、まず、アニオン性有機高分子化合物類のカルボキシル基を前記した塩基性化合物を用いて中和し、水性媒体中で顔料と混合又は混練する。この時、水に溶解又は分散した樹脂が、有機溶剤を含有していても差し支えないし、脱溶剤を行なって実質的に水のみの媒体であってもよい。顔料は、粉末顔料、水性スラリー、プレスケーキのいずれも使用できる。水性媒体中で分散する場合においては、顔料は、製造工程を簡略化するために、顔料粒子の2次凝集の少ない水性スラリー又はプレスケーキを使用することが好ましい。混練方法、有機溶剤、塩基性化合物は、有機溶剤媒体中での分散の場合と同じ方法、同じ材料が使用可能である。
【0071】
有機溶剤系、水性系いずれの混練の場合であっても、顔料の分散を補助する目的のために、記録画像の耐水性を低下させない範囲で、顔料分散剤や湿潤剤を使用することもできる。
【0072】
また、顔料を混練する際、あるいは、混練後であって酸析する前に、顔料以外の物質、例えば、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、被覆剤バインダーの硬化触媒、防錆剤、香料、薬剤などを添加することもできる。
【0073】
アニオン性有機高分子化合物類の使用割合は、有機顔料の100重量部に対して、25?186重量部、好ましくは30?150重量部なる範囲内が適切である。アニオン性有機高分子化合物類の使用割合が25重量部よりも少ない場合、顔料を充分微細に分散しにくくなる傾向にあり、また、186重量部よりも多い場合、分散体中の顔料の割合が少なくなり、水性顔料分散体を記録液に使用した時に、配合設計上の余裕がなくなる傾向にあるので、好ましくない。
【0074】
さらに、顔料を混練した後、加熱処理により、アニオン性有機高分子化合物類のゲル化を図る場合、混練後の分散液の不揮発分を15%以下、好ましくは10%以下で行なうことが好ましい。
【0075】
また、加熱温度は樹脂の架橋が進む温度以上であれば何等問題はないが、好ましい温度範囲は、70℃?200℃である。加熱温度が70℃未満では、架橋時間がかかりすぎ、加熱温度が200℃を越えると、顔料の種類によっては、結晶成長したり分散安定性が壊れたりして、カプセル化しにくい傾向にあるので好ましくない。
【0076】
水性媒体中に微分散された顔料に樹脂を強く固着化する目的で行なわれる酸析は、塩基性化合物によって中和されたアニオン性有機高分子化合物類のカルボキシル基を、酸性化合物を加えてpHを中性又は酸性とすることによって、樹脂を疎水性化するものである。
【0077】
使用される酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸の如き無機酸類;蟻酸、酢酸、プロピオン酸の如き有機酸類などが使用できるが、排水中の有機物が少なく、かつ、酸析効果も大きい塩酸あるいは硫酸が好ましい。酸析時のpHは2?6の範囲が好ましいが、顔料によっては酸によって分解されるものもあり、このような顔料の場合には、pH4?7の範囲で酸析することが好ましい。酸析を行なう前に、系に存在する有機溶剤を減圧蒸留などの方法を用いて予め除いておくことが好ましい。
【0078】
酸析後、必要に応じて濾過及び水洗を行なって、分散顔料の含水ケーキを得る。濾過方法としては、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離など公知の方法が採用できる。
【0079】
この含水ケーキは、乾燥させることなく、含水した状態のままで塩基性化合物でもってカルボキシル基を再中和することによって、顔料粒子が凝集することなく、微細な状態を保持したままで、水性媒体中に再分散される。塩基性化合物としては、記録液の再分散性や耐水性を考慮し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属やトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の揮発しにくい有機アミン化合物等の単独、あるいは、これらと、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミンの如き揮発性アミン化合物との併用が好ましい。
【0080】
このように、本発明で使用するアニオン性マイクロカプセル化顔料は、何ら、乳化剤などのような、いわゆる補助材料を使用せずとも、微小粒子のカプセル化が可能であり、極めて簡便にして、微小カプセルを調製することができる。
【0081】
本発明で使用するマイクロカプセル化顔料中の有機顔料の平均粒子径は、電子顕微鏡で撮影した写真を用いて、数十サンプルの顔料の長径と短径を加えて平均した実測値を用いる。
【0082】
本発明で使用するマイクロカプセル化顔料の平均粒子径は、粒子径測定方法によって多少違いがでることから電子顕微鏡で測定した実測値を用いることが好ましいが、レーザードップラー方式の粒子径測定装置を用いて測定することもできる。
【0083】
このようにして得られるアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、顔料の分散安定性が従来以上に改善され、記録液の色材として使用することにより、記録液の精細度や耐光性、演色性、透明性等の性能が向上するという利点がある。また、マイクロカプセル中の顔料濃度が高いことから、汎用性が高く、顔料を分散する工程の省力化ができるので、分散エネルギーと労力の省力化が図れるという利点もある。また、界面活性剤等を使用しないため耐水性も向上される。さらに、従来使用できなかった油性の硬化剤や記録液用ビヒクルをマイクロカプセル化顔料のカプセル中に含ませることができるので、使用できる材料の幅が広がり、直接記録液を製造することもできる。
【0084】
本発明では、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有率は35?80重量%の範囲である。アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有率が35%よりも少ない場合、カプセル中の樹脂濃度が高くなるために、記録液用の樹脂や溶剤、助剤等の添加剤と相溶性が限られることがあったり、その添加剤等の添加量が制限されたりするために汎用性に欠け、さらに、カプセル中の顔料濃度が低くなるため、記録液としての水性分散液として使用した場合は、色濃度が高められなかったり、色濃度を高めるために記録液中のマイクロカプセル化顔料の使用割合を高くせざるを得なくなる結果、記録液の粘度が高くなる。また、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の含有率が80重量%よりも多い場合、有機顔料を微細に分散し難くなる。
【0085】
また、アニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径が1000nmより大きくなった場合、ジェットインキプリンターのノズルを目詰まりさせることもあり、請求項2で規定したように、アニオン性マイクロカプセル化顔料の最大粒子径は1000nm以下で、500nm以下であるものがより好ましい。
【0086】
さらに、そのアニオン性マイクロカプセル化顔料中の有機顔料の平均粒子径は300nm以下が好ましく、250nm以下が特に好ましい。使用する有機顔料の平均粒子径が300nmより大きくなると、分散液中のマイクロカプセル化顔料が長期に保存した場合、沈降したり、マイクロカプセル化の際に顔料が凝集した状態でカプセル化されるため、記録液として使用した場合、発色性や透明性あるいは精細度が劣り、特に、OHPシート等に記録した場合、光の透過を遮り、きれいな色を映し出せない傾向にあるので好ましくない。。
【0087】
本発明のアニオン性マイクロカプセル化顔料中のアニオン性有機高分子化合物類は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の塩の形で使用した場合、記録画像中に無機塩基が残存するために、その記録画像の耐水性が悪くなる傾向にあるが、再分散性に優れ記録液の信頼性が高くなることから好ましい。
【0088】
上記有機アミンとしては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリンの如き揮発性アミン化合物;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の揮発しにくい高沸点の有機アミン等が挙げられる。
【0089】
本発明の記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液に含まれるアニオン性マイクロカプセル化顔料の含有量は、水性分散液100重量部中に、70重量部以下が好ましく、2?60重量部の範囲がより好ましく、10?50重量部の範囲が特に好ましい。水性分散液中のマイクロカプセル化顔料の含有量が70重量部より高くなると、実質的には水性分散液が固形状を呈する傾向にあるため、マイクロカプセルの凝集が起こり再度分散を必要とするため、好ましくない。また、水性分散液中のマイクロカプセル化顔料の含有量が2重量部よりも少なくなると、記録液に使用した場合、色濃度が十分得らない傾向にあるので好ましくない。記録液に、その性能を上げるための添加剤を添加することを考えると、水性分散液中のマイクロカプセル化顔料の含有量が10重量部より少ない場合、添加剤の添加量が制限される傾向にあるので、好ましくない。
【0090】
本発明のアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する水性分散液を含有する記録液は、上記で説明したアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液、水溶性有機溶剤、水等を混合して調製される。更に必要に応じて、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することもできる。
【0091】
本発明の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の含有割合は、記録液としての色濃度や精細度、透明性、色相の彩度等を考慮すると、1?100重量%の範囲が好ましく、5?100重量%の範囲が特に好ましい。特に、記録液を直接提供することを考えれば、100重量%が好ましいことは言うまでもない。
【0092】
記録液に用いる水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレンエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;N-メチル-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤の中でも、多価アルコール類とエーテル類が好ましい。
【0093】
記録液中の水溶性有機溶剤の含有割合は、95重量%以下が好ましく、0?80重量%の範囲が特に好ましい。
【0094】
記録液に必要に応じて用いる水溶性樹脂としては、例えば、にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、アラビアゴム、フィッシュグリューなどの天然タンパク質やアルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、芳香族アミド、ポリアクリル酸、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、アクリル、ポリエステル等の合成高分子等が挙げられる。
【0095】
水溶性樹脂は、定着性や粘度調節、速乾性を挙げる目的で、必要に応じて使用されるものであり、記録液に使用する場合の記録液中の水溶性樹脂の含有割合は、30重量%以下が好ましく、20重量%以下が特に好ましい。
【0096】
記録液に必要に応じて用いる有機アミンとしては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-エチル-2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(アミノエチル)エタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、アンモニア、ピペリジン、モルフォリン等が挙げられる。
【0097】
本発明の記録液の製造方法は、何等顔料を分散するような分散機を必要とせずディスパー等の簡単な撹拌機で、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液、水溶性有機溶剤、水、水溶性樹脂等を撹拌混合する操作のみでも製造することができる。また、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤等を撹拌時に添加して製造する。
【0098】
このようにして製造された記録液は、ジェットプリンター等の画像記録用いることにより、記録画像の精細度、発色性、透明性、耐水性や再分散性に優れ、分散工程の省力化により記録液の製造コストの大幅な低減が図れる。
【0099】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。以下において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り、『重量部』及び『重量%』を表わす。
【0100】
<合成例1>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成)
n-ブチルメタクリレート175部、n-ブチルアクリレート10.7部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸26.8部及び「パーブチル O」(日本油脂(株)製のtert-ブチルパーオキシオクトエート)5.0部から成る混合液を調製した。
【0101】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が70、数平均分子量12500のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は48%であった。以下、これを樹脂溶液(A-1)と略記する。
【0102】
<合成例2>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成)
スチレン43部、n-ブチルアクリレート87.5部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸19.5部及び「パーブチル O」5.0部から成る混合液を調製した。
【0103】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が48、数平均分子量14000のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は49%であった。以下、これを樹脂溶液(A-2)と略記する。
【0104】
<合成例3>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成)
スチレン100部、n-ブチルアクリレート40.3部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸9.7部及び「パーブチル O」5.0部から成る混合液を調製した。
【0105】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が24、数平均分子量15000のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は49%であった。以下、これを樹脂溶液(A-3)と略記する。
【0106】
<合成例4>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成)
n-ブチルメタクリレート175部、n-ブチルアクリレート10.7部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸26.8部及び「パーブチル O」20.0部から成る混合液を調製した。
【0107】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が68、数平均分子量5600のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は50%であった。以下、これを樹脂溶液(A-4)と略記する。
【0110】
<合成例6>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成)
n-ブチルメタクリレート171.4部、n-ブチルアクリレート6.3部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、アクリル酸34.8部及び「パーブチル O」20.0部から成る混合液を調製した。
【0111】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に撹拌しながら75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が95、数平均分子量8800のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は50%であった。以下、これを樹脂溶液(A-6)と略記する。
【0112】
<合成例7>(アニオン性基含有有機高分子化合物類の合成-ゲル化処理用)
n-ブチルメタクリレート83.8部、n-ブチルアクリレート89.4部、β-ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸26.7部、グリシジルメタクリレート12.5部及び「パーブチル O」20.0部から成る混合液を調製した。
【0113】
次に、メチルエチルケトン250部をフラスコに仕込んだ後、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させた後、上記の混合液を2時間に亘って滴下し、更に同温度で15時間反応させて、固形分の酸価が69、数平均分子量10400のビニル系樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液の不揮発分は50%であった。以下、これを樹脂溶液(A-7)と略記する。
【0114】
【表1】

【0118】
以下、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-1)中のマイクロカプセル化顔料の粒径は「UPA-150」(日機装社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機)を用いて測定した。
【0119】
<製造例2>(銅フタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程容量250mlのガラスビンに、合成例4で得た樹脂溶液(A-4)15.0部、ジメチルエタノールアミン0.8部及び「ファストゲン・ブルー・TGR」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・ブルー15、平均粒子径50nm、最大粒子径100nm)15部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えた後、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0120】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに、水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0121】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0122】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまでジメチルエタノールアミンの10%水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)を得た。
【0123】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は170nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0124】
<製造例3>(無機塩による銅フタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
製造例2と同様にして、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0125】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに、水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0126】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0127】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまで10%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-3)を得た。
【0128】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-3)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は182nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0129】
<製造例4>(銅フタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
合成例2で得た樹脂溶液(A-2)中のカルボキシル基を有する樹脂を、ジメチルエタノールアミンを用いて100%中和したものを使用した以外は製造例2と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-4)を得た。
【0130】
製造例2と同様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-4)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は218nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0131】
<製造例5>(酸価25のアニオン性有機高分子化合物類を使用した銅フタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
合成例3で得た樹脂溶液(A-3)中のカルボキシル基を有する樹脂を、ジメチルエタノールアミンを用いて100%中和した。容量250mlのガラスビンに、中和した樹脂を固形分換算で7.5部及び「ファストゲン・ブルー・TGR」15部を加え、樹脂が溶解する量のメチルエチルケトンを加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加え、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0132】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0133】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0134】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまでジメチルエタノールアミンの10%水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-5)を得た。
【0135】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-5)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は650nmで、1000nm以上の粒子は17%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0140】
<製造例7>(マゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
容量250mlのガラスビンに、合成例4で得た樹脂溶液(A-4)15.0部、ジメチルエタノールアミン0.8部及び「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・レッド122、平均粒子径45nm、最大粒子径100nm)15部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えた後、ペイントシェーカーにより4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0141】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0142】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0143】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまでジメチルエタノールアミンの10%水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-7)を得た。
【0144】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-7)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は176nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0145】
<製造例8>(有機顔料の含有量が83%のマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例7において、顔料混練工程で使用する樹脂溶液(A-4)の使用量を6.0部とした以外は、製造例7と同様にして顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-8)を得た。
【0146】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-8)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は250nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は83%であった。
【0147】
<製造例9>(有機顔料の含有量が75%のマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例7において、顔料混練工程で使用する樹脂溶液(A-4)の使用量を10.0部とし、樹脂溶液(A-4)と共にエチルエチルケトン5.0部を使用した以外は、製造例7と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-9)を得た。
【0148】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-9)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は180nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は75%であった。
【0149】
<製造例10>(有機顔料の含有量が33%のマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料分散工程
容量250mlのガラスビンに、合成例4で得た樹脂溶液(A-4)20.0部、ジメチルエタノールアミン1.1部及び「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」5.0部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えた後、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0150】
次に、製造例7と同様にして、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-10)を得た。
【0151】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-10)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は224nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は33%であった。
【0152】
<製造例11>(平均粒子径が250nmの有機顔料を使用したマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例7において、「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」に代えて、「クロモフタル・レッド・DPP-BO」(チバ・ガイギー社製のC.I.ピグメント・レッド254、平均粒子径250nm、最大粒子径400nm)を用いた以外は、製造例7と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-11)を得た。
【0153】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-11)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は283nmで、最大粒子径は1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0158】
<製造例13>(イエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
容量250mlのガラスビンに、合成例1で得た樹脂溶液(A-1)15.6部、ジメチルエタノールアミン0.8部及び「シムラーファースト・イエロー・8GTF」15部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えた後、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0159】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0160】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0161】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまでジメチルエタノールアミンの10%水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、イエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-13)を得た。
【0162】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-13)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は183nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0163】
<製造例14>(平均粒子径が220nmの有機顔料を使用したイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例13において、「シムラーファスト・イエロー・8GTF」に代えて、「シムラーファスト・イエロー・4192」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・イエロー154、平均粒子径220nm、最大粒子径350nm)を用いた以外は、製造例13と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-14)を得た。
【0164】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-14)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は245nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0165】
<製造例15>(不揮発性の塩基を使用したシアン色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
容量250mlのガラスビンに、合成例6で得た樹脂溶液(A-6)15.0部、ジメチルエタノールアミン1.1部及び「ファストゲン・ブルー・TGR」15部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えた後、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0166】
(2)酸析
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに水を加えて倍に希釈した後、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0167】
(3)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0168】
(4)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまで10%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、ブルー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-15)を得た。
【0169】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-15)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は152nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0170】
<製造例16>(不揮発性の塩基を使用したマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例15において、「ファストゲン・ブルー・TGR」に代えて、「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」を用い、更に中和用の10%水酸化ナトリウム水溶液に代えて10%水酸化カリウム水溶液を用いた以外は、製造例15と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-16)を得た。
【0171】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-16)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、178nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0172】
<製造例17>(不揮発性の塩基を使用したイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
製造例15において、「ファストゲン・ブルー・TGR」に代えて、「シムラーファスト・イエロー・8GTF」を用い、更に中和用の10%水酸化ナトリウム水溶液に代えて10%水酸化リチウム水溶液を用いた以外は、製造例15と同様にして、顔料混練、酸析、濾過及び水洗、中和及び再分散を行ない、不揮発分が20%のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-17)を得た。
【0173】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-17)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は182nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0174】
<製造例18>(カプセル壁のゲル化処理をしたカーボンブラックのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液の製造)
(1)顔料混練工程
容量250mlのガラスビンに、合成例7で得た樹脂溶液(A-7)15.0部、ジメチルエタノールアミン0.8部及び「MA-600(三菱化学社製の中級カーボンブラック:平均粒子径18nm)」15部を加え、イオン交換水を加えて総量が75部となるようにした後、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250部を加えた後、ペイントシェーカーを用いて4時間混練を行なった。混練終了後、ガラスビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。
【0175】
(2)ゲル化処理
塩基で中和されたカルボキシル基を有する樹脂と顔料から成る分散体を水に分散したものに水を加えて3倍に希釈した後、オートクレーブ中で、120℃で加熱ゲル化処理をした。
【0176】
(3)酸析
ゲル化処理をした後、常温で、ディスパーで撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで加えた。この時のpHは3?5であった。
【0177】
(4)濾過及び水洗
樹脂が固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過した後、塩を水洗して、含水ケーキを得た。
【0178】
(5)中和、及び、水性媒体への再分散
含水ケーキをディスパーを用いて撹拌しながら、分散体のpHが8.5?9.5となるまで10%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えた。更に、1時間撹拌を続けた後、水を加えて、不揮発分が20%となるように調整して、カーボンブラックのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-18)を得た。
【0179】
上記の様にしてアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-18)中のマイクロカプセル化顔料の粒径を測定した結果、マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は149nmで、1000nm以上の粒子は0%であった。また、マイクロカプセル中の顔料の含有量は67%であった。
【0180】
【表2】

【0181】
【表3】

【0182】
表2及び表3における略号は、以下の通りである。
TGR:「ファストゲン・ブルー・TGR」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・ブルー15)
RTS:「ファストゲン・スーパー・マゼンタ・RTS」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・レッド122)
DPP:「クロモフタル・レッド・DPP-BO」(チバ・ガイギー社製のC.I.ピグメント・レッド254)
8GTF:「シムラーファスト・イエロー・8GTF」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・イエロー17)
4192:「シムラーファスト・イエロー・4192」(大日本インキ化学工業(株)製のC.I.ピグメント・イエロー154)
CB:カーボンブラック
DMAE:ジメチルアミノエタノール
粒子径:マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径
N.V.:不揮発分濃度
粗粒:マイクロカプセル化顔料の粒径1000nm以上の粒子の割合
顔料分:マイクロカプセル中の顔料の含有割合
【0183】
<実施例1>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)37.5部に、エチレングリコール7.5部、グリセリン5.0部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル0.5部、エチレングリコールモノメチルエーテル15.0部、イソプロピルアルコール3.0部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水28.5部を混合して、顔料分が5.0%のシアン色の記録液を調製した。
【0184】
<実施例2>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例1において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例7で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の記録液を調製した。
【0185】
<実施例3>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例1において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例13で得たイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-13)を用いた以外は、実施例1と同様にして、イエロー色の記録液を調製した。
【0186】
実施例1、2及び3において、記録液を調製するに当たっては、特にビーズミルやロール等の分散機を必要とせず、単に混合するのみで調製できたので、分散設備が不要で、分散工程や労力を短縮でき、製造時間の短縮あるいは分散エネルギーの省力化ができ、生産性を大きく上げるとともに製造コストの削減することができた。また、これらに使用したアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の顔料分が67%と高く、また、水性分散液中の顔料分も13.4%以上と高く、記録液としての性能を上げるために使用される水溶性樹脂や水溶性有機溶剤等の他の材料をかなりの量で添加可能であり、汎用性が高かった。
【0187】
次に、これらシアン色、マゼンタ色及びイエロー色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表4に示した。実施例1、2及び3で得た各記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、さらに粒子の沈降が見られず、従来のマイクロカプセル化顔料に比べ、貯蔵安定性及び分散安定性に非常に優れていることが明らかである。
【0188】
次に、上記記録液を用いて、市販のバブルジェット方式のプリンターを用いて、シアン色、マゼンタ色及びイエロー色のカラー記録画像を、OHPシート及びコピー紙に記録した。この記録画像は、表6に示すように、精細度や色濃度が高く、演色性や透明性に優れていた。また、OHPシートに記録した画像は、透明性に優れているためにカラフルな投影図を示していた。OHPシート上の記録画像を水をつけて擦っても消えることがなく、耐水性にも優れていた。また、繰り返し使用しても、インクを吐出させるノズルが詰まることもなかった。
【0189】
<比較例1>(マイクロカプセル化顔料の平均粒子径が650nmで最大粒子径が1000nmを越えるマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例1において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例5で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-5)を使用した以外は、実施例1と同様にして、シアン色の記録液を調製した。
【0190】
比較例1で得たシアン色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示したが、粒子の沈降が見られ、分散安定性が悪かった。
【0191】
次に、上記記録液を用いて、市販のバブルジェットプリンターを用いて、シアン色のカラー記録画像を、OHPシート及びコピー紙に記録した。この記録画像は、表9に示すように、精細度や色濃度が低く、演色性や透明性に欠けていた。また、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。また、繰り返し使用しているうちに、インクを吐出させるノズルが詰まり、プリンターの使用ができなくなった。
【0198】
<実施例7>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)44.8部に、酸価163、分子量25,000の不揮発分50%のスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水27.2部を混合して、顔料分が6%のシアン色の記録液を調製した。
【0199】
<実施例8>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例7において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例7で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-7)を使用した以外は、実施例7と同様にして、マゼンタ色の記録液を調製した。
【0200】
<実施例9>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例7において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例13で得たイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-13)を使用した以外は、実施例7と同様にして、イエロー色の記録液を調製した。
【0201】
<実施例10>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が75%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例9で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-9)40.0部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水32.0部を混合して、顔料分が6%のマゼンタ色の記録液を調製した。
【0202】
<実施例11>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が67%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例7において、製造例2で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-2)に代えて、製造例4で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-4)を使用した以外は、実施例7と同様にして、シアン色の記録液を調製した。
【0203】
実施例7、8、9、10及び11において、記録液を調製するに当たっては、特にビーズミルやロール等の分散機を必要とせず、単に混合するのみで調製できたので、分散設備が不要で、分散工程や労力を短縮でき、製造時間の短縮あるいは分散エネルギーの省力化ができ、生産性を大きく上げるとともに製造コストの削減することができた。また、これらに使用したアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の顔料分が67%以上と高く、また、水性分散液中の顔料分も13.4%以上と高く、記録液としての性能を上げるために使用される水溶性樹脂や水溶性有機溶剤等の他の材料をかなりの量で添加可能であり、汎用性が高かった。
【0204】
これらシアン色、マゼンタ色、イエロー色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表5に示した。本実施例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、さらに粒子の沈降が見られず、従来のマイクロカプセル化顔料に比べ、貯蔵安定性及び分散安定性に非常に優れていることが明らかである。
【0205】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、シアン色、マゼンタ色及びイエロー色のカラー記録画像を、OHPシート及びコピー紙に記録した。この記録画像は、表6及び7に示したように、精細度や色濃度が高く、演色性や透明性に優れていた。また、OHPシートに記録した画像は、透明性に優れているためにカラフルな投影図を示していた。OHPシート上の記録画像を水をつけて擦っても消えることがなく、耐水性にも優れていた。また、繰り返し使用しても、インクを吐出させるノズルが詰まることもなかった。
【0206】
<比較例2>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が33%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例10で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-10)90.1部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール1.9部及びジエタノールアミン3.0部を混合して、顔料分が6%のマゼンタ色の記録液を調製した。
【0207】
これに使用したアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の顔料分が33%と低く、また、水性分散液中の顔料分も6.6%と低く、記録液の色濃度を保ったまま、記録液としての性能を上げるために使用される水溶性樹脂や水溶性有機溶剤等の他の材料の添加量に限りがあり、汎用性に欠けるものであった。また、マイクロカプセルに使用される樹脂量が多いために、他の材料との相溶性に問題が生じた。
【0208】
このマゼンタ色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、さらに粒子の沈降が見られず、貯蔵安定性及び分散安定性に非常に優れていた。
【0209】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、マゼンタ色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。記録液中のエチレングリコールの添加量が少ないために、コピー紙やOHPシートに対して滲みや弾きを生じ、その記録画像は、表9に示すように、精細度が低く、演色性や透明性に欠けていた。また、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。OHPシート上の記録画像を水をつけて擦っても消えることはなく、耐水性には優れていた。また、繰り返し使用した場合、インクを吐出させるノズルが詰まることもあった。
【0210】
<比較例3>(マイクロカプセル化顔料中の顔料含有量が83%のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例8で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-8)36.1部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水35.9部を混合して、顔料分が6%のマゼンタ色の記録液を調製した。
【0211】
このマゼンタ色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料は、樹脂濃度が低いために顔料を微細な状態で安定に保つにことができず、アニオン性マイクロカプセル化顔料は貯蔵後凝集を起こし、体積平均粒子径が大きくなり、粒子の沈降も見られ、貯蔵安定性及び分散安定性が悪かった。
【0212】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、マゼンタ色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。カプセルが凝集を起こしているため、この記録画像は、表9に示すように、精細度や色濃度が低く、演色性や透明性に欠けていた。また、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。また、繰り返し使用しているうちに、インクを吐出させるノズルが詰まり、プリンターの使用ができなくなった。
【0213】
<比較例4>(マイクロカプセル化顔料の平均粒子径が650nmで最大粒子径が1000nmを越えるマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例5で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-5)44.8部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水27.2部を混合して、顔料分が6%のシアン色の記録液を調製した。
【0214】
このシアン色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示したが、粒子の沈降が見られ、貯蔵安定性及び分散安定性が悪かった。
【0215】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、シアン色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。この記録画像は、表9に示すように、精細度や色濃度が低く、演色性や透明性に欠けていた。また、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。また、繰り返し使用しているうちに、インクを吐出させるノズルが詰まり、プリンターの使用ができなくなった。
【0216】
<比較例5>(有機顔料の平均粒子径が200nmを越えるマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例11で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-11)44.8部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水27.2部を混合して、顔料分が6%のマゼンタ色の記録液を調製した。
【0217】
このマゼンタ色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、粒子の沈降が見られず、貯蔵安定性及び分散安定性に優れていた。
【0218】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、マゼンタ色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。この記録画像は、表9に示すように、精細度や色濃度が低く、演色性や透明性に欠けていた。特に、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。また、繰り返し使用しても、インクを吐出させるノズルが詰まることはなかった。
【0219】
<比較例6>(有機顔料の平均粒子径が200nmを越えるマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例14で得たイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-14)44.8部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノルアミン3.0部及びイオン交換水27.2部を混合して、顔料分が6%のイエロー色の記録液を調製した。
【0220】
このイエロー色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表8に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、粒子の沈降が見られず、貯蔵安定性及び分散安定性に優れていた。
【0221】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、マゼンタ色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。この記録画像は、表9に示すように、精細度や色濃度が低く、演色性や透明性に欠けていた。特に、OHPシートに記録した画像は、不透明でカラフルな投影図を示さず、OHPシートには使用できなかった。また、繰り返し使用しても、インクを吐出させるノズルが詰まることはなかった。
【0222】
<実施例12>(不揮発性の塩基のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例15で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-15)37.5部に、エチレングリコール5部、グリセリン10.0部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水44.5部を混合して、顔料分が5.0%のシアン色の記録液を調製した。
【0223】
<実施例13>(不揮発性の塩基のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例12において、製造例15で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-15)に代えて、製造例16で得たマゼンタ色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-16)を用いた以外は、実施例12と同様にして、マゼンタ色の記録液を調製した。
【0224】
<実施例14>(不揮発性の塩基のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
実施例12において、製造例15で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-15)に代えて、製造例17で得たイエロー色のアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-17)を用いた以外は、実施例12と同様にして、イエロー色の記録液を調製した。
【0225】
実施例12、13及び14において、記録液を調製するに当たっては、特にビーズミルやロール等の分散機を必要とせず、単に混合するのみで調製できたので、分散設備が不要で、分散工程や労力を短縮でき、製造時間の短縮あるいは分散エネルギーの省力化ができ、生産性を大きく上げるとともに製造コストの削減することができた。また、これらに使用したアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、アニオン性マイクロカプセル化顔料中の顔料分が67%と高く、また、水性分散液中の顔料分も13.4%以上と高く、記録液としての性能を上げるために使用される水溶性樹脂や水溶性有機溶剤等の他の材料をかなりの量で添加可能であり、汎用性が高かった。
【0226】
次に、これらシアン色、マゼンタ色及びイエロー色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表5に示した。実施例12、13及び14で得た各記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、さらに粒子の沈降が見られず、従来のマイクロカプセル化顔料に比べ、貯蔵安定性及び分散安定性に非常に優れていることが明らかである。
【0227】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のプリンターを用いて、シアン色、マゼンタ色及びイエロー色のカラー記録画像を、OHPシート及びコピー紙に記録した。これらの記録画像は、表7に示すように、精細度や色濃度が高く、演色性や透明性に優れていた。また、この記録画像は、透明性に優れているためにカラフルな投影図を示していた。さらに、OHPシート上の記録画像を水をつけて擦すると消えやすいが、コピー紙上の記録画像に、水を数滴垂らしても、滲んで記録画像が見えなくなることはなく、耐水性にも優れていた。
【0228】
また、これらのシアン色、マゼンタ色及びイエロー色のインクを詰めたノズルを室温で15日間放置した後、クリーニングして使用した場合、揮発性のアミンを使用した場合に比べて、クリーニング回数が3回以内で済むことから、インクの再分散性に非常に優れていた。
【0229】
<実施例15(参考例)>(ゲル化処理したマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例18で得たカーボンブラックのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-18)37.5部に、エチレングリコール5部、グリセリン10.0部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水44.5部を混合して、顔料分が5.0%のカーボンブラックの記録液を調製した。
【0230】
次に、このカーボンブラックの記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表5に示した。この記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、さらに粒子の沈降が見られず、従来のマイクロカプセル化顔料に比べ、貯蔵安定性及び分散安定性に非常に優れていることが明らかである。
【0231】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、ブッラク色の記録画像を、OHPシート及びコピー紙に記録した。これらの記録画像は、表7に示すように、漆黒みがあり、精細度や色濃度が高かった。さらに、OHPシート上の記録画像を水をつけて擦するっても消えにくく、耐水性にも優れていた。
【0232】
また、この記録液を詰めたノズルを室温で15日間放置した後、クリーニングして使用した場合、クリーニング回数が6回で済むことから、インクの再分散性にも優れていた。
【0233】
さらに、この記録液をガラスビンに入れ密閉し、80℃で10日間高温槽で耐溶剤性試験を行なったところ、体積平均粒子径が189nmと試験前と比べて変化がなく凝集することなく非常に優れていた。
【0234】
<実施例16>(不揮発性の塩基のマイクロカプセル化顔料分散液を使用した記録液の製造)
製造例3で得たフタロシアニンブルーのアニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液(MC-3)44.8部に、実施例7で使用したスチレンアクリル酸樹脂のアンモニア水溶液5.0部(樹脂固形分2.5部に相当)、エチレングリコール20部、ジエタノールアミン3.0部及びイオン交換水27.2部を混合して、顔料分が6%のシアン色の記録液を調製した。
【0235】
このシアン色の記録液中のマイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径及び30日間室温で貯蔵した後の体積平均粒子径及び粒子の沈降性を表5に示した。本比較例の記録液中のアニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径は、貯蔵前後でほぼ同等の値を示し、粒子の沈降が見られず、貯蔵安定性及び分散安定性に優れていた。
【0236】
次に、上記記録液を用いて、市販のピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いて、シアン色のカラー記録画像を、OHPシート、コピー紙に記録した。この記録画像は、表7に示すように、精細度や色濃度が高く、演色性や透明性に優れていた。特に、OHPシートに記録した画像は、透明でカラフルな投影図を示した。さらに、OHPシート上の記録画像を水をつけて擦すると消えやすいが、コピー紙上の記録画像に、水を数滴垂らしても、滲んで記録画像が見えなくなることはなく、耐水性にも優れていた。
【0237】
また、このシアン色の記録液を詰めたノズルを室温で15日間放置した後、クリーニングして使用した場合、クリーニング回数が3回以内で済むことから、インクの再分散性に非常に優れていた。
【0238】
【表4】

【0239】
【表5】

【0240】
表4及び5における略号、評価方法及び評価基準は以下の通りである。
体積平均径:アニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径(nm)
沈降性:貯蔵後の粒子の沈降状態
○=良好
×=沈降がみられる
【0241】
【表6】

【0242】
【表7】

【0243】
表6及び7における略号、評価方法及び評価基準は、以下の通りである。
BJ:バブルジェット方式のインクジェットプリンター
PJ:ピエゾ方式のインクジェットプリンター
再分散性:インクを充填したまま室温で15日間室内に放置後、再度印字するしやすさにより評価する。

【0244】
【表8】

【0245】
表8における略号、評価方法及び評価基準は以下の通りである。
体積平均径:アニオン性マイクロカプセル化顔料の体積平均粒子径(nm)
沈降性:貯蔵後の粒子の沈降状態
○=良好
×=沈降がみられる
【0246】
【表9】

【0247】
表9における略号、評価方法及び評価基準は、以下の通りである。
BJ:バブルジェット方式のインクジェットプリンター
PJ:ピエゾ方式のインクジェットプリンター
再分散性:インクを充填したまま室温で15日間室内に放置後、再度印字するしやすさにより評価する。

【0248】
【発明の効果】
本発明の記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、非常に細かい顔料分散体で、かつ、貯蔵安定性に優れているので、精細度や色濃度が高く、演色性や透明性に優れ、分散工程の省力化により、製造コストと記録液のコストの低減が図れる。また、本発明の記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液は、顔料分が高いので、記録液に加工する際に、処方上、種々の材料が使用できる余裕があり、汎用性が高いという利点がある。
【0249】
さらに、不揮発性の塩基を使用することにより再分散性に優れることから、記録液の信頼性が高まるという利点がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-05-07 
結審通知日 2009-05-14 
審決日 2009-05-27 
出願番号 特願平8-228327
審決分類 P 1 113・ 536- ZA (C09D)
P 1 113・ 537- ZA (C09D)
P 1 113・ 121- ZA (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 坂崎 恵美子
橋本 栄和
登録日 2006-07-21 
登録番号 特許第3829370号(P3829370)
発明の名称 記録液用アニオン性マイクロカプセル化顔料含有水性分散液及び記録液  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 近藤 利英子  
代理人 河野 通洋  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 河野 通洋  
代理人 梶原 克哲  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 吉田 勝広  

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