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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1211994
審判番号 不服2006-8417  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-27 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 平成11年特許願第270496号「釉薬付アルミナ部材」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 3日出願公開、特開2001- 89268〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年9月24日の出願であって、平成17年5月9日付け拒絶理由通知に対して同年7月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成18年3月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月29日に手続補正がなされ、平成21年1月14日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、同年3月23日に回答書の提出がなされ、同年9月1日付けで拒絶理由通知及び補正却下がなされ、同年11月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.当審の拒絶理由の内容
当審において平成21年9月1日付けで通知した、拒絶理由の理由「4.特許法第36条(記載要件)違反について
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」についての指摘事項は、次のとおりのものである。
「(1)「前記セラミック部材」について、これに先行する部分に「セラミック部材」の記載がないので、「前記セラミック部材」が何を意味するのか不明であり、この点において、請求項1は明確でない。
(2)(1)で記載したように、「前記セラミック部材」自体の意味するところも不明であるが、さらに、「前記セラミック部材にかかる応力」とは、セラミック部材のどこに係る応力なのか、例えば、セラミック部材自体の鍔の根元にかかる応力なのか、あるいは鍔の根元における釉薬にかかる応力なのか、不明である。したがって、当該記載は、請求項1を不明瞭にするものであり、請求項1は明確でない。
(3)「鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法を2の割合とした場合に、所定の測定条件における前記セラミック部材にかかる応力」が「基準値」とあるが、当該「基準値」の意味するところが不明である。すなわち、上記(1)、(2)で記載したように、「前記セラミック部材」、「前記セラミック部材にかかる圧力」という記載自体の意味するところも不明であるが、さらに、以下の理由により、当該特定による「基準値」の意味するところが不明である。
つまり、技術常識からみれば、釉薬付き部材にかかる応力とは、部材の形状、大きさや、釉薬の厚さ等により決定されるものといえるから、「鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法」(以下、「R1」という。)と、「同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法」(以下、「R2」という。)の割合を決定したのみでは応力は一義的に決定されるとはいえないところ、明細書の段落[0031]の[表2]をみると、本発明例1、7はいずれもR1:R2=1:2であって、その応力はともに「基準値」であるべきものであるにもかかわらず、両者の応力は異なる値であり、また、本発明例2?4、本発明例5、6と比較例8、比較例9?11は、それぞれR1:R2の比が同じであるのにもかかわらず、応力は異なる値である。これらのことからみると、「鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法を2の割合とした場合に、所定の測定条件における前記セラミック部材にかかる応力」である「基準値」が一義的に決定するとはいえず、結局当該「基準値」は何の値を示すのかが明確でないといわざるを得ない。
また、仮に釉薬の厚みが特定されたとしても、上記したように部材にかかる応力とは、部材の形状、大きさ等によっても決定されるものといえるから、「板状に突出する鍔」の筒に対する付き方(例えば、縦断面形状が略L字状である場合のように鍔と筒とがなす角が直角であるか、鋭角であるか、鈍角であるか)や、アルミナ部材自体の大きさ、鍔自体の大きさ等が特定されなければ、依然として基準値である応力の値が一義的に決定できるとはいえない。したがって、請求項1は明確でない。
また、上記したように発明の詳細な説明をみても、「基準値」を決定することができないのであるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に十分に記載されているとはいえないし、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。」

3.請求人の平成21年11月6日付け意見書における主張
3-1.「 c)同拒絶理由通知書の第6頁第2行?同頁第33行に、「(3)・・『鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法を2の割合とした場合に、所定の測定条件における前記セラミック部材にかかる応力』である『基準値』が一義的に決定するとは言えず、結局当該『基準値』は何の値を示すのかが明確でない・・」との記載があります。
これに対しまして、本願出願人は、手続補正書にて、本願の請求項1の発明を、「前記鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法のR1を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法のR2を2の割合にするとともに、アルミナ部材の外側の平坦な壁面(鍔を除く)の釉薬厚みt1を0.2mm、鍔上(鍔のR部を除く)の釉薬厚みt2を0.2mmとした場合に、所定の測定条件における前記アルミナ部材の鍔の根元にかかる応力を基準値1.00としたとき、同一の前記測定条件において前記応力が前記基準値に対して1.8以下となるように、前記R1、R2、t1、t2を設定することにより前記ガラス釉薬の厚みを規制した」と補正していますので、その拒絶理由は解消したと思料致します。
つまり、本願発明では、「R1を1、R2を2の割合にするとともに、t1を0.2mm、t2を0.2mmとした場合における(アルミナ部材の鍔の根元にかかる)応力を基準値1.00としたときに、その応力が基準値に対して1.8以下となるように、R1、R2、t1、t2を設定」していますので、基準値の意味が明らかとなっています。
すなわち、段落[0031]の表2に記載の様に、R1、R2、t1、t2を設定することにより、基準値に対する応力比が一義的に定まりますので、基準値の意味は明らかであると思料致します。
また、同欄の第6頁第23行?第29行には、「仮に釉薬の厚みが特定されたとしても、部材にかかる応力は、部材の形状、大きさ等によって決定されるので、・・依然として一義的に決定できるとは言えない」との記載があります。
しかしながら、本願発明とは、鍔部の根元における局部的な応力比を規定するものです。本願発明に規定されています応力は、アルミナ部材とガラス釉薬との局部的な膨張差に起因するものですので、例えば製品外径や鍔部の肉厚等に左右されるものではありません。
つまり、製品全体の径方向に発生する膨張差等により生じる応力などは、製品サイズによって変動するかも知れませんが、鍔の根元における局部的な応力には殆ど影響がなく、製品サイズ等による応力と本願発明における応力とは、区別して考えられるものと思料致します。
従いまして、本願発明における「基準値」は、一義的に決定できるものであると確信致します。
なお、前記表2におきまして、R1とR2の比が同じであるにも関わらず、応力比が異なるのは、ガラス釉薬の厚みt1、t2が異なるからです。」

4.本願特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、平成21年11月6日付け手続補正書によって補正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 壁面より垂直に突出する板状の鍔を有するアルミナ部材の表面に、ガラス釉薬を焼き付けた釉薬付アルミナ部材であって、
前記アルミナ部材は、Al_(2)O_(3)を85重量%以上含むとともに、前記ガラス釉薬は、SiO_(2);60?80重量%、Al_(2)O_(3);10?20重量%、K_(2)O;4?10重量%を含むとともに、残部に、Na_(2)O、MgO、CaO、Fe_(2)O_(3)のうち少なくとも1種を含み、
且つ、前記鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法のR1を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法のR2を2の割合にするとともに、アルミナ部材の外側の平坦な壁面(鍔を除く)の釉薬厚みt1を0.2mm、鍔上(鍔のR部を除く)の釉薬厚みt2を0.2mmとした場合に、所定の測定条件における前記アルミナ部材の鍔の根元にかかる応力を基準値1.00としたとき、同一の前記測定条件において前記応力が前記基準値に対して1.8以下となるように、前記R1、R2、t1、t2を設定することにより前記ガラス釉薬の厚みを規制したことを特徴とする釉薬付アルミナ部材。
【請求項2】 前記応力が前記基準値に対して1.5以下となるように前記ガラス釉薬の厚みを規制したことを特徴とする前記請求項1に記載の釉薬付アルミナ部材。
【請求項3】 前記アルミナ部材において、その鍔の根元の周囲の縦断面形状が略L字状であることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の釉薬付アルミナ部材。
【請求項4】 前記アルミナ部材は、筒状体の外周面に、その外周面を一周するように前記鍔を立設したことを特徴とする前記請求項1?3のいずれかに記載の釉薬付アルミナ部材。
【請求項5】 前記釉薬付アルミナ部材は、半導体素子を収容する容器であり、該容器の外周面に環状には、沿面絶縁距離を大きくするための前記鍔が設けられていることを特徴とする前記請求項1?4のいずれかに記載の釉薬付アルミナ部材。」

5.当審の判断
先ず、基準値である応力の値が一義的に決定できるか否かという明確性要件について検討する。
平成21年11月6日付け手続補正書によって補正された請求項1は、「鍔の根元におけるアルミナ部材のR寸法のR1を1、同じ鍔の根元におけるガラス釉薬のR寸法のR2を2の割合にするとともに、アルミナ部材の外側の平坦な壁面(鍔を除く)の釉薬厚みt1を0.2mm、鍔上(鍔のR部を除く)の釉薬厚みt2を0.2mmとした場合に、所定の測定条件における前記アルミナ部材の鍔の根元にかかる応力を基準値1.00と」するものである。
そして、応力については、本願の発明の詳細な説明には、段落【0005】で「しかも、例えば容器P1の材料であるアルミナの熱膨張係数は、7.5?8.0×10^(-6)/℃であり、それに対して、ガラス釉薬P4の熱膨張係数は、約5.0?×10^(-6)/℃とかなり小さい。
そのため、ガラス釉薬P4の焼付け後には、鍔P2の根元部分P3には大きな残留応力がかかり、使用条件によっては、容器P1が、鍔P2の根元部分P3を起点にして破壊する可能性があるという問題があった。」と、記載されるように応力は、アルミナとガラス釉薬の熱膨張係数の差により発生し、その大きさは、ガラス釉薬の鍔根本部分での量に依存するということができる。



ここで、鍔根本部分での量を概算するために壁面より垂直に突出する板状の鍔を有するアルミナ部材の表面に、半径Rの円が接し、その表面に焼き付けた釉薬面に半径2Rの円が接する場合を想定する。半径が異なることに基づく残留する釉薬の単位長さ当たりの量は、2つ内接する円とそれぞれの垂直面水平面によって囲まれる面積(S2、S1)の差ということができる。これを計算すると、
S2=(2R)^(2)-π×(2R)^(2)/4
S1=R^(2)-π×R^(2)/4
S2-S1=(2R)^(2)-π×(2R)^(2)/4-R^(2)+π×R^(2)/4
=3R^(2)(1-π/4)
≒0.644R^(2)となり、Rの二乗で残留釉薬量が増加することが分かる。そうすると、「R1を1、R2を2の割合にするとともに、t1を0.2mm、t2を0.2mmとした場合における(アルミナ部材の鍔の根元にかかる)応力を基準値1.00」は、Rの増加により二乗で変化する釉薬の量に基づいて変化することとなり、釉薬の厚みを絶対値で設定したとしても、R1を1、R2を2の割合にすること即ち相対値で設定するだけでは、基準値が定まらないことは明らかである。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとすることができない。
また、サポート要件について検討すると、上記したように請求項1に係る発明については、わずかに割合だけが設定されたR1、R2及び0.2mm釉薬厚みt1、t2に基づくモデル実験の応力を基準値として全ての釉薬付アルミナ部材の厚みを規制しようとするものであるが、膨大な数の釉薬付アルミナ部材について僅か7つの本発明例と4つの比較例のデータと明確性に欠ける基準値により、裏付けようとするものであり、到底、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明にサポートされたものとすることができず、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いという不備があるといわざるを得ない。
したがって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとすることができない。
さらに、上記したように発明の詳細な説明をみても、「基準値」を定めることができないのであるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に十分に記載されているとはいえないし、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
そして、当審の拒絶理由に対する請求人の平成21年11月6日付け意見書における「しかしながら、本願発明とは、鍔部の根元における局部的な応力比を規定するものです。本願発明に規定されています応力は、アルミナ部材とガラス釉薬との局部的な膨張差に起因するものですので、例えば製品外径や鍔部の肉厚等に左右されるものではありません。
つまり、製品全体の径方向に発生する膨張差等により生じる応力などは、製品サイズによって変動するかも知れませんが、鍔の根元における局部的な応力には殆ど影響がなく、製品サイズ等による応力と本願発明における応力とは、区別して考えられるものと思料致します。」るという主張については、具体的な根拠に欠くもので採用することはできない。
してみると、当審において通知した、平成21年9月1日付け拒絶理由通知の理由である、特許法第36条第4項(実施可能要件)違反並びに同法第36条第6項第1号(サポート要件)違反及び同第2号(明確性要件)違反は、いずれも妥当なものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項並びに同条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-14 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願平11-270496
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C04B)
P 1 8・ 536- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横島 重信  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
大黒 浩之
発明の名称 釉薬付アルミナ部材  
代理人 足立 勉  

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