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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1212534
審判番号 不服2006-7297  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-17 
確定日 2010-02-24 
事件の表示 特願2000-525867「単一口座携帯用無線財務メッセージングユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 1日国際公開、WO99/33035、平成13年12月25日国内公表、特表2001-527255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,1998年12月4日(優先権主張 1997年12月22日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成17年6月1日付けで拒絶理由通知がなされ,同年12月14日付けで意見書の提出と共に手続補正がなされたが,平成18年1月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成18年4月17日付けで拒絶査定不服審判が請求され,同年5月17日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年5月17日付けの補正について
平成18年5月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲は,次のとおりに補正された。
「【請求項1】 店頭(POS)ターミナルまたは現金自動預け払い機(ATM)との保安財務取引を行なうための携帯用無線メッセージングユニットであって,
暗号化された財務情報および選択呼出しアドレスを含む保安財務取引メッセージを無線で受信するよう動作可能な受信機,
前記受信機に結合された選択呼出しデコーダであって,該選択呼出しデコーダは,
それぞれの形式の財務取引に対応する1つまたはそれ以上の選択呼出しアドレスを格納するよう動作可能なメモリ,
前記メモリに結合されたアドレス相関器であって,該アドレス相関器は受信された選択呼出しアドレスが格納された前記選択呼出しアドレスの1つと実質的に一致するか否かを判定するよう動作するもの,そして
前記メモリ,前記アドレス相関器および前記受信機に結合された処理ユニットであって,該処理ユニットは前記受信された選択呼出しアドレスが実質的に前記格納された選択呼出しアドレスの1つと一致する場合に前記受信された選択呼出しアドレスに対応する財務取引の実行を制御するよう動作するもの,
を具備する前記選択呼出しデコーダ,
前記選択呼出しデコーダに結合されかつ前記処理ユニットの制御のもとで動作する保安デコード機能モジュールであって,該保安デコード機能モジュールは,
前記暗号化された財務情報を格納するよう動作可能な保安プログラム可能リードオンリメモリ(PROM),
少なくとも1つの復号ルーチンを格納するよう動作可能な保安リードオンリメモリ(ROM),
前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合され,前記少なくとも1つの復号ルーチンを使用して前記暗号化された財務情報を復号して保安内容を生成する手段,
を具備する前記保安デコード機能モジュール,そして
前記保安デコード機能モジュールに結合されかつ前記受信された選択呼出しアドレスに対応する前記財務取引に基づき店頭ターミナルまたは現金自動預け払い機と前記保安内容を交換するよう動作可能な低電力ポート,
を具備することを特徴とする携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項2】 さらに,
前記処理ユニットに結合された送信機であって,該送信機は前記保安財務取引メッセージの確認および真正証明を送信するよう動作可能であり,かつさらに他の保安財務取引の要求を送信するよう動作可能であるもの,
を具備することを特徴とする請求項1に記載の携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項3】 前記保安PROMはさらに前記保安内容を格納するよう動作可能であることを特徴とする請求項1に記載の携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項4】 前記保安デコード機能モジュールはさらに第2の保安財務取引メッセージを発生するよう動作可能であることを特徴とする請求項1に記載の携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項5】 さらに,
前記処理ユニットに結合されかつユーザ開始財務取引を処理するよう動作可能なメッセージ入力装置を含み,前記保安財務取引メッセージは前記ユーザ開始財務取引に応じて生成されることを特徴とする請求項1に記載の携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項6】 さらに,少なくとも前記ユーザ開始財務取引に関連する金額値を格納するよう動作可能なスマートカードを備え,かつ前記保安デコード機能モジュールはさらに前記スマートカードと前記暗号化された財務情報および前記保安内容の内の少なくとも1つを通信するよう動作可能な入力/出力インタフェースを含むことを特徴とする請求項5に記載の携帯用無線メッセージングユニット。
【請求項7】 無線ネットワークによって店頭(POS)ターミナルまたは現金自動預け払い機(ATM)との間で財務取引を安全に行なう方法であって,
それぞれの形式の財務取引に対応する1つまたはそれ以上の選択呼出しアドレスを格納する段階,
暗号化された財務情報および選択呼出しアドレスを含む選択呼出しメッセージを無線で受信する段階,
前記受信した選択呼出しメッセージの前記選択呼出しアドレスが実質的に前記格納された選択呼出しアドレスの1つと一致するか否かを判定する段階,
前記受信された選択呼出しメッセージの前記選択呼出しアドレスが実質的に前記格納された選択呼出しアドレスの1つと一致する場合に,
前記受信された選択呼出しメッセージの前記暗号化された財務情報を復号して保安内容を生成する段階,および
前記保安内容を前記店頭ターミナルまたは前記現金自動預け払い機と低電力ポートを介して交換し,前記受信された選択呼出しメッセージの前記選択呼出しアドレスに関連する財務取引を実行する段階,
を具備することを特徴とする無線ネットワークによって店頭ターミナルまたは現金自動預け払い機との間で財務取引を安全に行なう方法。」

本件補正は,請求項1について,
「前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合された制御論理であって,該制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能であるもの,および
前記制御論理に結合され,前記保安財務取引メッセージを復号するための保安コードプロセッサ,」という事項を,
「前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合され,前記少なくとも1つの復号ルーチンを使用して前記暗号化された財務情報を復号して保安内容を生成する手段,
を具備する前記保安デコード機能モジュール,」と補正するものである。
この補正は,「制御論理」及び「保安コードプロセッサ」に区別して記載された機能を,当該「制御論理」及び当該「保安コードプロセッサ」の上位概念である「保安デコード機能モジュール」の機能とする補正であるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,また,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
また,本件補正は,請求項1について,「低電力ポート」が「前記受信された選択呼出しアドレスに対応する前記財務取引に基づき」交換されること,及び,「前記保安内容」を交換することを追加する補正である。当該補正について,願書に最初に添付した明細書又は図面を参酌すると,同明細書の段落【0058】に「あるいは,スマートカード920を構成するのに要求される電子回路はページング装置に移されまたは集積されてページャが真の無線スマートカードまたは無線ATMとして機能できるようにすることができる。」ことが記載され,携帯用無線メッセージングユニット自体にスマートカード機能を備えさせることが記載されているが,当該スマートカード機能を「低電力ポート」を用いることにより実現することは何ら記載されておらず,むしろ,同明細書の段落【0058】に低電力ポートの用途を「保安財務取引メッセージの戻りまたは発信を実施するための」ものと記載されており,請求項1に記載されているとおり,「保安財務取引メッセージ」が「暗号化された財務情報および選択呼出しアドレスを含む」ものであることから,「低電力ポート」は,当該スマートカード機能と異なった用途で用いることが示唆されているので,当該追加された補正は,同明細書又は図面に記載されておらず,同明細書又は図面の記載から自明のことでもない。したがって,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。

なお,平成20年11月17日付けの当審における審尋に対する平成21年2月13日付けの回答書における手続補正案によっても,当該手続き補正案は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,また,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。

以上のとおりであるから,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定,及び,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
上述のとおり,平成18年5月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成17年12月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「携帯用保安財務メッセージングユニットであって,
保安財務取引メッセージおよび選択呼出しアドレスを含む選択呼出しメッセージを無線で受信するよう動作可能な受信機,
前記受信機に結合された選択呼出しデコーダであって,該選択呼出しデコーダは,
それぞれの形式の財務取引に対応する1つまたはそれ以上の選択呼出しアドレスを格納するよう動作可能なメモリ,
前記メモリに結合されたアドレス相関器であって,該アドレス相関器は受信された前記選択呼出しアドレスが格納された前記選択呼出しアドレスの1つと実質的に一致するか否かを判定するよう動作するもの,そして
前記メモリ,前記アドレス相関器および前記受信機に結合された処理ユニットであって,該処理ユニットは前記受信された選択呼出しアドレスが実質的に前記格納された選択呼出しアドレスの1つと一致する場合に前記受信された選択呼出しアドレスに対応する財務取引の実行を制御するよう動作するもの,
を具備する前記選択呼出しデコーダ,
前記選択呼出しデコーダに結合されかつ前記処理ユニットの制御のもとで動作する保安デコード機能モジュールであって,該保安デコード機能モジュールは,
保安プログラム可能リードオンリメモリ(PROM),
前記保安デコード機能モジュールに対しかつ前記保安デコード機能モジュールから通信される情報を復号しかつ暗号化する上で使用するための複数の処理ルーチンを格納するよう動作可能な保安リードオンリメモリ(ROM),
前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合された制御論理であって,該制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能であるもの,および
前記制御論理に結合され,前記保安財務取引メッセージを復号するための保安コードプロセッサ,
を具備する前記保安デコード機能モジュール,そして
前記保安デコード機能モジュールに結合されかつ前記保安財務取引メッセージの内容を店頭(POS)ターミナルまたは現金自動預け払い機(ATM)との間で交換するよう動作可能な低電力ポート,
を具備することを特徴とする携帯用保安財務メッセージングユニット。」

4.原査定の拒絶の理由について

原査定の平成17年6月1日付けの拒絶理由通知書により通知した拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
『この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.本願の特許請求の範囲に記載された構成が全体的に不明確であるとともに,特許請求の範囲の記載と当初明細書の記載との対応関係が不明確である。
具体的には,例えば以下の点で不明確である。
(中略)
(5)請求項1には,「前記保安財務取引メッセージ内で受信された1つまたはそれ以上の暗号化された機密情報を保安プログラム可能リードオンリメモリに格納することにより前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するための制御論理」なる記載があるが,該記載がどのような技術内容あるいは作用を意味しているのかが不明確である。
(中略)
(7)請求項1には,「受信された選択呼出しアドレスとの実質的な一致を判定した時前記保安財務取引メッセージの復号を含めて保安情報を処理するための保安コードプロセッサ」との記載があるが,該記載の示す具体的内容が不明確であるとともに,実施例のどこに説明された内容と対応しているのかが不明確である。
(以下,略)』

また,平成18年1月11日付けの拒絶査定により示された拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
『この出願については,平成17年 6月 1日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
[請求項1?7について]
本願の特許請求の範囲に記載された構成が以下の点で依然として不明確であるとともに,実施例の記載との対応関係も依然として不明確である。
(中略)
(2)請求項1には,「保安デコード機能モジュールは,保安プログラム可能リードオンリメモリ(PROM),前記保安デコード機能モジュールに対しかつ前記保安デコード機能モジュールから通信される情報を復号しかつ暗号化する上で使用するための複数の処理ルーチンを格納するよう動作可能な保安リードオンリメモリ(ROM),前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合された制御論理であって,該制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能であるもの,および前記制御論理に結合され,前記保安財務取引メッセージを復号するための保安コードプロセッサ,を具備する」と記載されているが,「制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能である」の部分の記載がどのような具体的構成及び処理内容を意味しているのかが不明確であり,「保安デコード機能モジュール」が全体としてどのような構成及び処理内容となっているのかが不明確である。
(3)出願人は意見書において,「(7)項に関しては,「保安コードプロセッサ」は図7において参照数字1020で明瞭に示されており,明細書の段落[0108]に御指摘の記載の示す具体的内容が明確に記載されております。但し,御指摘の用語は,本意見書と同時提出の手続補正書によって除去し,代わりに「保安財務取引メッセージを復号するための手段」なる用語を使用して明確にしました。保安デコード機能モジュールまたはスマートカード機能モジュール1014によって保安財務取引メッセージを復号することに関しては明細書の段落[0110]に明瞭に記載されております。」と主張しているが,明細書の記載を参照しても,上記主張の根拠がどこに記載されているのかが不明確である。
(以下,略)』

5.請求人の主張
平成18年7月4日付けの手続補正書(方式)により補正された平成18年4月17日付けの審判請求書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりである。
『【記載不備の指摘事項に対する対処】
前記指摘事項(1)?(4)については,平成18年5月17付提出の手続補正書により特許請求の範囲を全面的に補正したので,以下の御説明と相俟って,御指摘の不備は解消したものと思料する。
(中略)
(b)指摘事項(2)について
指摘事項(2)においては,「保安デコード機能モジュール」が全体としてどのような構成および処理内容となっているのかが不明確であると述べられている。このことは,制御論理がどのようにして保安ROMに格納された処理ルーチンを選択するかが不明確であると述べられているものと解釈できる。本願の補正された特許請求の範囲においては,用語「制御論理」が審査官殿に混乱を与えているように見受けられるので,この用語を削除し,代わりに保安ROMが少なくとも1つの復号ルーチンを格納することを記載した。したがって,補正された請求項1では,制御論理による処理ルーチンの選択はもはや存在しない。しかしながら,従前の請求項1においても,暗号化および復号処理ルーチンの1つを選択することは当業者には十分理解されるものであることに御注目頂きたい。例えば,前記制御論理は保安情報を送信する場合に暗号化処理ルーチンを選択し,かつ保安情報を受信する場合に復号処理ルーチンを選択することになる。
また,原査定の拒絶理由の項目(2)においては,「保安デコード機能モジュール」の構成および動作が全体として不明確であると述べられている。しかしながら,本願の補正された請求項1は保安デコード機能モジュールの重要な構成要素,すなわち,保安ROM,保安PROMおよび復号する手段について詳細に述べており,またこれらの構成要素の間の相互関係並びにこれらの構成要素のそれぞれの機能についても明瞭に述べられており,「保安デコード機能モジュール」の構成および動作は明瞭になったものと思料する。
(c)指摘事項(3)について
前記指摘事項(3)においては,前に出願人が本願の明細書の段落[0110]を引用して説明したにも係わらず,「保安財務取引メッセージを復号するための手段」の記載が依然として不明確であると述べられている。したがって,出願人は請求項1を補正し,「復号するための手段」が前記保安財務取引メッセージの一部を形成する暗号化された財務情報を復号することを述べるよう補正を行なった。このような補正は本願の明細書の段落[0110]第3?7行の記載,すなわち
「制御論理1016は前記保安財務取引メッセージに関連するいずれの内容をもそれらが実際にスマートカード機能モジュール1014または関連するスマートカード920によって実際に復号されるまで規制者914からそれらの暗号化された状態を保つ。」
などの記載に基づくものである。
したがって,「復号するための手段」は前記保安デコード機能モジュール1014(これはまた,明細書の段落[0108]に記載されているようにスマートカード機能モジュールとも称される)の前記保安財務取引メッセージの保安内容を復号する部分に対応することは明らかである。前記保安内容を復号するために,前記「復号するための手段」は本願の明細書の段落[0110]第8?11行にも述べられているように保安ROM 1022に格納された復号ルーチンを使用する。明細書のこの部分には,
「同様に,保安ROM 1022はスマートカード機能モジュール1014と規制者914,商人916または他のスマートカード920との間で交換される情報を復号しかつ暗号化する処理ルーチンを格納することができる。」
と述べられている。
したがって,本願の明細書および図面には当業者が本願発明を実施することができるように,本願発明の種々の構成,動作および特徴に関して詳細にかつ明瞭に記載されているものと思料する。また,上で述べたことおよび請求項1の補正により,本願の請求項1の記載は明細書および図面によって明瞭にサポートされているものと思料する。
(中略)
(e)以上のように,本願の明細書および図面の開示は当業者が本願の補正された請求項に記載の発明を実施するために十分な説明を与えているものと思料する。実際に,図5に関連する明細書の記載は,保安財務取引メッセージを含む,種々の選択呼出しメッセージを装置がどのように受信し,かつ装置がどのようにして受信された選択呼出しアドレスを前に格納したアドレスと相関するかに関して詳細かつ明瞭に説明している。また,図7および図11に関連する説明は選択呼出しデコーダおよび保安デコードまたはスマートカード機能モジュールの種々の構成要素の全般的な動作に関し十分な説明を与えており,当業者が種々のメッセージング装置の構成要素の機能を行なうソフトウェアを作成できるようになっているものと思料する。
その結果,本願の明細書は従来技術の部分の詳細な動作は述べておらずかつメッセージングユニットの種々のモジュールを実施するためのソースコードなどは示していないが,本願の明細書は本願の補正された特許請求の範囲に述べられた新規な主題に関し十分詳細な説明を与えており,この説明は不当な実験などを行なうことなしに当業者が本願発明を製作しかつ使用するのに十分なものであると思料する。
【むすび】
したがって,補正された特許請求の範囲および上述の説明によれば,本願の特許請求の範囲に記載された構成は明確であると共に,実施例の記載との対応関係も明確である。よって,原査定を取り消す,この出願の発明はこれを特許すべきものとする,との審決を求める。』

6.当審の判断

6-1.特許請求の範囲の記載要件(特許法第36条第6項第2号に規定する要件)について

上記3.で摘示したように,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある。
「該保安デコード機能モジュールは,
保安プログラム可能リードオンリメモリ(PROM),
前記保安デコード機能モジュールに対しかつ前記保安デコード機能モジュールから通信される情報を復号しかつ暗号化する上で使用するための複数の処理ルーチンを格納するよう動作可能な保安リードオンリメモリ(ROM),
前記保安PROMおよび前記保安ROMに結合された制御論理であって,該制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能であるもの,および
前記制御論理に結合され,前記保安財務取引メッセージを復号するための保安コードプロセッサ,
を具備する前記保安デコード機能モジュール」

請求項1の「制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行するよう動作可能であり,前記制御論理はさらに前記保安PROMにおける前記保安財務取引メッセージの一部を形成する機密情報を格納するよう動作可能である」という記載について,「保安リードオンリメモリ(ROM)」に格納されているのは,「前記保安デコード機能モジュールから通信される情報を復号しかつ暗号化する上で使用するための複数の処理ルーチン」であるので,「制御論理」が,「前記保安デコード機能モジュールから通信される情報を復号しかつ暗号化する」処理を実行するよう動作すると記載されている一方で,「保安コードプロセッサ」も,「前記保安財務取引メッセージを復号するため」のものと記載されており,「制御論理」の「前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するため」に行われる「前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行する」動作の処理内容と,「保安デコードプロセッサ」の具体的な処理内容とがいずれも不明確であり,「保安デコード機能モジュール」が全体としてどのような構成及び処理内容となっているのかが不明確である。
さらに,「制御論理」については,明細書段落【0110】記載の「制御論理1016はスマートカード機能モジュール1014に関連する構成要素の動作を管理するよう動作し保安財務取引メッセージにおけるエンド・ツー・エンドセキュリティを実施しかつ維持する。制御論理1016は前記保安財務取引メッセージに関連するいずれの内容もそれらが実際にスマートカード機能モジュール1014または関連するスマートカード920によって復号されるまで規制者914からそれらの暗号化された状態を保つ。」という制御論理の機能が,請求項1に記載された「制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行する」動作によって,どのような具体的な処理がなされるのかが不明確である。さらに,「保安コードプロセッサ」については,明細書段落【0108】に「財務メッセージングユニット906は保安デコード(中略)機能モジュール1014を具備する。このモジュールは(中略)保安コードプロセッサ1020,(中略)を具備する。」ことが記載されると共に,第7図に図示されているだけで,どのような動作を行うのかが明細書に記載されていないため,「前記保安財務取引メッセージを復号するため」の処理が不明確である。したがって,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,当該「制御論理」及び当該「保安コードプロセッサ」を含む「保安デコード機能モジュール」が全体としてどのような構成及び処理内容となっているのかが不明確である。
この点は,上記5.請求人の主張における「(b)指摘事項(2)について」及び「(c)指摘事項(3)について」を参酌してもなお,明確となっていない。

6-2.実施可能要件(特許法第36条第4項に規定する要件)について
6-1で検討したとおり,「制御論理」については,明細書段落【0110】の「制御論理1016はスマートカード機能モジュール1014に関連する構成要素の動作を管理するよう動作し保安財務取引メッセージにおけるエンド・ツー・エンドセキュリティを実施しかつ維持する。制御論理1016は前記保安財務取引メッセージに関連するいずれの内容もそれらが実際にスマートカード機能モジュール1014または関連するスマートカード920によって復号されるまで規制者914からそれらの暗号化された状態を保つ。」という制御論理の機能が,請求項1に記載された「制御論理は前記保安財務取引メッセージの安全性を維持するために前記財務取引に基づく前記複数の処理ルーチンの内の適切な1つを実行する」動作によって,どのような具体的な処理がなされるのかが記載されておらず,かつ,「保安コードプロセッサ」については,明細書段落【0108】に「財務メッセージングユニット906は保安デコード(中略)機能モジュール1014を具備する。このモジュールは(中略)保安コードプロセッサ1020,(中略)を具備する。」ことが記載されると共に,第7図に図示されているだけで,どのような動作を行うのかが明細書等に記載されていないため,「前記保安財務取引メッセージを復号するため」の処理が記載されておらず,しかも,各々の処理の内容が当業者にとって自明とも認められないので,請求項1に記載された「制御論理」及び「保安コードプロセッサ」について,当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていると認められない。

6-3.まとめ
したがって,特許請求の範囲の請求項1の記載では,特許を受けようとする本願発明が明確であるとはいえず,さらに,発明の詳細な説明が,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

7.むすび
以上のとおり,特許請求の範囲の請求項1の記載では,特許を受けようとする本願発明が明確であるとはいえないので,本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
さらに,発明の詳細な説明が,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので,本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-17 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願2000-525867(P2000-525867)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G06Q)
P 1 8・ 572- Z (G06Q)
P 1 8・ 561- Z (G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須田 勝巳石川 正二  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 手島 聖治
齋藤 哲
発明の名称 単一口座携帯用無線財務メッセージングユニット  
代理人 池内 義明  
代理人 本田 淳  
代理人 池上 美穂  

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