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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1213132
審判番号 無効2009-800011  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-20 
確定日 2010-02-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3973330号発明「透明被膜付基材、および表示装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3973330号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3973330号に係る出願である特願平11-352450号は、平成11年12月10日に出願され、平成19年6月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求人松本悟、江藤保子及び奥井正樹から、本件無効審判が請求されたものである。

以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成21年 1月20日付け 審判請求書の提出
平成21年 4月 6日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
平成21年 5月25日付け 審判事件弁駁書の提出
平成21年 7月24日付け 審判事件答弁書の提出
平成21年10月29日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成21年11月13日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成21年11月13日付け 口頭審理陳述要領書(追加)の提出(請求人より)
平成21年11月13日 口頭審理の実施

第2 請求人の主張

1)請求人は、審判請求書によれば、本件特許である「特許第3973330号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、以下の甲第1?8号証を証拠方法として提出している。

甲第1号証;特許第3973330号公報(本件特許公報)
甲第2号証;不服2007-9825号の審判請求書についての手続補正書
甲第3号証;特開2001-167637号公報(本件公開公報)
甲第4号証;本件明細書の平成18年4月10日付け手続補正書(最初の拒絶理由後)
甲第5号証;本件明細書の平成19年5月1日付け手続補正書(査定不服審判請求時)
甲第6号証;特開平10-188681号公報
甲第7号証;特開平7-133105号公報
甲第8号証;特開平10-142402号公報

2)そして、請求人は、審判請求書によれば、以下の無効理由A?Fを主張しているものと認める。

A;請求項1?6に係る発明の本件特許は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
そして、その具体的理由として、以下の点を指摘している。
発明の詳細な説明には、「内容物が溶媒で充填された空洞粒子」が記載されているだけで、請求項1?6に記載された発明の「内容物が気体で充填された空洞粒子」については記載されていないし、発明の詳細な説明の記載では当業者がその実施をすることもできない点。

B;請求項1?6に係る発明の本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
そして、その具体的理由として、以下の点を指摘している。
請求項1?6に記載された「内容物が溶媒で充填された空洞粒子」の範囲が明確でない点。

C;本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と甲第7及び8号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1?4に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

D;本件特許の請求項5に係る発明は、甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、該請求項5に係る発明の本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

E;本件特許の請求項5に係る発明は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項5に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

F;本件特許の請求項6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と甲第7及び8号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項6に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3)また、請求人は、審判事件弁駁書によれば、平成21年4月6日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認められた場合にも、訂正後の請求項1?4に係る発明の本件特許は、無効理由A?Bと以下の無効理由C’により無効にすべきであると主張しているものと認める。

C’;訂正後の請求項1?4に係る発明は、甲第7号証に記載された発明と甲第6及び8号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該訂正後の請求項1?4に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、平成21年4月6日付け審判事件答弁書によれば、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、平成21年4月6日付け審判事件答弁書によれば、本件訂正は認められるものであり、無効理由A?Fに理由はないと主張し、平成21年7月24日付け審判事件答弁書によれば、無効理由C’にも理由はないと主張している。

第4 本件訂正について
1)本件訂正の内容
本件訂正は、訂正請求書及びそれに添付した訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項a?dからなるものと認める。

訂正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下の、AをBと訂正する。

A;
「【請求項1】
基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子であることを特徴とする透明被膜付基材。
【請求項2】
前記無機化合物粒子の平均粒子径が5?300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項3】
前記空洞粒子の粒子壁の厚さが1?20nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項4】
前記空洞粒子の粒子壁が、シリカを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項5】
マトリックス前駆体と無機化合物粒子とを含み、該無機化合物粒子が、内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子であることを特徴とする透明被膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1?4のいずれかに記載の透明被膜付基材で構成された前面板を備え、透明被膜が該前面板の外表面に形成されていることを特徴とする表示装置。」

B;
「【請求項1】
基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子であり、かつ該無機化合物粒子が、シリカとシリカ以外の無機化合物からなり、以下の工程(a)?(c)から製造されたものであることを特徴とする透明被膜付基材;
(a)シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.25?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程、
(b)前記多孔質粒子前駆体の分散液に、シリカ源を添加して多孔質粒子前駆体の表面にシリカ保護膜を形成したのち、該分散液に酸を加えて多孔質粒子前駆体からアルカリ可溶無機化合物の少なくとも一部を選択的に除去して空洞粒子前駆体を調製する工程、
(c)前記空洞粒子前駆体の分散液に、加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成したのち、該分散液を加熱処理して空洞粒子を調製する工程。
【請求項2】
前記無機化合物粒子の平均粒子径が5?300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項3】
前記空洞粒子の粒子壁の厚さが1?20nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の透明被膜付基材で構成された前面板を備え、透明被膜が該前面板の外表面に形成されていることを特徴とする表示装置。」

訂正事項b;明細書の段落【0011】の記載につき、
「【発明の概要】
本発明に係る透明被膜付基材は、基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子であることを特徴としている。」とあるのを、

「【発明の概要】
本発明に係る透明被膜付基材は、基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体で充填された空洞粒子であり、無機化合物粒子がシリカとシリカ以外の無機化合物からなり、以下の工程(a)?(c)から製造されたものであることを特徴とする透明被膜付基材;
(a)シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.25?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程、
(b)前記多孔質粒子前駆体の分散液に、シリカ源を添加して多孔質粒子前駆体の表面にシリカ保護膜を形成したのち、該分散液に酸を加えて多孔質粒子前駆体からアルカリ可溶無機化合物の少なくとも一部を選択的に除去して空洞粒子前駆体を調製する工程、
(c)前記空洞粒子前駆体の分散液に、加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成したのち、該分散液を加熱処理して空洞粒子を調製する工程。」と訂正する。

訂正事項c;明細書の段落【0013】の記載につき、
「本発明に係る透明被膜形成用塗布液は、マトリックス前駆体と無機化合物粒子とを含み、該無機化合物粒子が、内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子であることを特徴としている。」とあるのを、削除し、以降の段落番号を1ずつ繰り上げる訂正をする。

訂正事項d;明細書の発明の名称につき、
「透明被膜付基材、透明被膜形成用塗布液、および表示装置」とあるのを、

「透明被膜付基材、および表示装置」と訂正する。

2)本件訂正の適否についての当審の判断
ここでは、「願書に添付した明細書」を「訂正前明細書」という。また、訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、訂正後については「新請求項1」といい、他の請求項についても同様とする。

(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、各新旧請求項の対応関係を見ると、旧請求項4及び5を削除し、旧請求項1?3、6を、それぞれ、新請求項1?4に訂正するものであるから、この削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(1-1)新請求項1とする訂正について
新請求項1とする訂正は、旧請求項1に、さらに旧請求項1の無機化合物粒子の成分及び製造方法に関する記載を付加するものであるから、旧請求項1の無機化合物粒子につき、その成分及び製造方法を限定するものである。そうすると、新請求項1とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するといえる。

また、訂正前明細書(甲第1号証参照)によれば、無機化合物粒子の成分及び製造方法に関し、以下の記載A?Fが認められる。

A;「【0041】・・・(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様。)
無機化合物粒子は、(i)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(ii)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子である。・・・
【0042】
なお、空洞粒子は、内部に空洞を有する粒子であり、空洞は粒子壁で囲まれている。」

B;「【0044】
前記複合粒子の被覆層または空洞粒子の粒子壁は、シリカを主成分とすることが好ましい。また複合粒子の被覆層または空洞粒子の粒子壁には、シリカ以外の成分が含まれていてもよく、具体的には、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)、・・・などが挙げられる。複合粒子を構成する多孔質粒子としては、シリカからなるもの、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるもの・・・などからなるものが挙げられる。」

C;「【0047】
無機化合物粒子の調製
・・・
具体的に、複合粒子が、シリカ、シリカ以外の無機化合物とからなる場合、以下の第1?第3工程から無機化合物粒子は製造される。」

D;「【0048】
第1工程:多孔質粒子前駆体の調製
第1工程では、予め、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、この水溶液を目的とする複合酸化物の複合割合に応じて、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら徐々に添加して多孔質粒子前駆体を調製する。
・・・
【0050】
また、シリカ以外の無機化合物の原料としては、アルカリ可溶の無機化合物を用いられる。・・・
【0053】
第1工程におけるシリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合は、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、・・・空洞粒子を調製する場合、MO_(X)/SiO_(2)のモル比は、0.25?2.0の範囲内にあることが望ましい。」

E;「【0054】
第2工程:多孔質粒子からのシリカ以外の無機化合物の除去
第2工程では、前記第1工程で得られた多孔質粒子前駆体から、シリカ以外の無機化合物(珪素と酸素以外の元素)の少なくとも一部を選択的に除去する。具体的な除去方法としては、多孔質粒子前駆体中の無機化合物を鉱酸や有機酸を用いて溶解除去したり、・・・
【0055】
なお、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体は、珪素と無機化合物構成元素が酸素を介して結合した網目構造の粒子である。このような多孔質粒子前駆体から無機化合物(珪素と酸素以外の元素)を除去することにより、一層多孔質で細孔容積の大きい多孔質粒子が得られる。
また、多孔質粒子前駆体から無機酸化物(珪素と酸素以外の元素)を除去する量が多くすれば、空洞粒子を調製することができる。
【0056】
また、多孔質粒子前駆体からシリカ以外の無機化合物を除去するに先立って、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体分散液に、シリカのアルカリ金属塩を脱アルカリして得られる珪酸液あるいは加水分解性の有機ケイ素化合物を添加してシリカ保護膜を形成することが好ましい。・・・
【0058】
また空洞粒子を調製する場合は、このシリカ保護膜を形成しておくことが望ましい。空洞粒子を調製する際には、無機化合物を除去すると、シリカ保護膜と、該シリカ保護膜内の溶媒、未溶解の多孔質固形分とからなる空洞粒子の前駆体が得られ、該空洞粒子の前駆体に後述の被覆層を形成すると、形成された被覆層が、粒子壁となり空洞粒子が形成される。」

F;「【0062】
第3工程:シリカ被覆層の形成
第3工程では、第2工程で調製した多孔質粒子分散液(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体分散液)に加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液等を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液等の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成する。
・・・
【0067】
ついで、被覆層が形成された粒子の分散液を加熱処理する。・・・また空洞粒子前駆体の場合、形成された被覆層が緻密化して空洞粒子壁となり、内部が溶媒、気体または多孔質固形分で充填された空洞を有する空洞粒子の分散液が得られる。」

(無機化合物粒子の成分を限定する訂正の記載の根拠について)
ここで、記載Aによれば、無機化合物粒子は、(i)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(ii)空洞粒子であり、空洞粒子は、内部に空洞を有する粒子であり、空洞は粒子壁で囲まれているものである。
そして、記載Bによれば、複合粒子を構成する多孔質粒子は、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるものであるところ、記載Cによれば、無機化合物粒子は第1?第3の工程で製造され、記載Eによれば、その第2工程において、多孔質粒子前駆体から無機化合物(珪素と酸素以外の元素)を除去することにより多孔質粒子は得られるのであり、空洞粒子(審決注;正しくは、「空洞粒子前駆体」である。以下、第2工程の「空洞粒子」を「空洞粒子前駆体」という。)は、多孔質粒子前駆体から無機酸化物(珪素と酸素以外の元素)を除去する量を多くすることにより調製できるから、多孔質粒子がシリカとシリカ以外の無機化合物とからなるものである以上、多孔質粒子前駆体から多くの量の無機酸化物(珪素と酸素以外の元素)を除去して調製される空洞粒子前駆体は、シリカのみからなるもの又はシリカとシリカ以外の無機化合物とからなるものである。
さらに、記載Fによれば、第3工程において、第2工程で得られた空洞粒子前駆体分散液に所定のケイ素含有溶液を加えて粒子表面にシリカ被覆層を形成し、それを緻密化させて空洞粒子の粒子壁としているから、空洞粒子の粒子壁は、シリカを含むものである。また、記載A及びBによれば、空洞粒子の粒子壁には、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)などのシリカ以外の成分が含まれていてよく、これら成分が無機化合物であることは明らかであるから、空洞粒子の粒子壁もまた、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるものでよいといえる。

そうすると、空洞粒子につき、その前駆体がシリカとシリカ以外の無機化合物とからなること及びこの前駆体の被覆層を緻密化させた空洞粒子の粒子壁がシリカとシリカ以外の無機化合物とからなることについて記載があったといえるから、空洞粒子である場合の無機化合物粒子は、シリカとシリカ以外の無機化合物からなることについても記載があったといえ、無機化合物粒子の成分を限定する訂正は、上記記載A?C及びE?Fを根拠にしたものである。

(無機化合物粒子の製造方法を限定する訂正の記載の根拠について)
次に、記載C?Fは、無機化合物粒子の製造方法について記載したものであり、記載Dの「【0053】・・・空洞粒子を調製する場合、」との記載、記載Eの「【0055】・・・空洞粒子を調製することができる。」及び「【0058】また空洞粒子を調製する場合は、」との記載、記載Fの「【0062】・・・(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体分散液)」及び「【0067】・・・また空洞粒子前駆体の場合、」との記載によれば、記載C?Fは、空洞粒子である場合の無機化合物粒子の製造方法をも説明するものといえる。
そして、空洞粒子である場合の無機化合物粒子の製造方法を限定する訂正は、これらの記載C?Fを根拠にしたものである。

以上のとおりであるから、無機化合物粒子につき、その成分及び製造方法を限定する訂正は、記載A?Fを根拠にしたものであり、新請求項1とする訂正は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(1-2)新請求項2?3とする訂正について
新請求項2?3は、旧請求項2?3の記載内容そのままに、新請求項1を引用して記載するものであるから、新請求項2?3とする訂正は、旧請求項1の無機化合物粒子につきその成分及び製造方法を限定して、新請求項1の無機化合物粒子とする訂正を実質的に含むものである。そして、新請求項2?3とする訂正は、新請求項1とする訂正について先の「(1-1)」で述べたのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(1-3)新請求項4とする訂正について
新請求項4とする訂正は、旧請求項4及び5が削除されたのに伴い、旧請求項6において、請求項に付す番号を2つ繰り上げるとともに、旧請求項6において、旧請求項1?4を引用して記載していたところを、新請求項1?3を引用して記載するものとする他は、旧請求項6の記載内容そのままとするものである。したがって、新請求項4とする訂正は、旧請求項1の無機化合物粒子につき、その成分及び製造方法を限定して、新請求項1の無機化合物粒子とする訂正を実質的に含むものであり、該訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当すること、及び、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえることは、先の「(1-1)」及び「(1-2)」で述べたことから明らかである。

(1-4)小括
以上のことから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由も見当たらない。

(2)訂正事項b?dについて
訂正事項b?dは、訂正事項aとの整合を図るべく明細書の記載を訂正するものであり、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「(1)」で検討したことから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由も見当たらない。

(3)まとめ
本件訂正は、特許法第134条の2第1項の規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3?5項の規定に適合するので、これを認める。

第5 当審の判断

1)特許請求の範囲の記載
本件訂正は、先に「第4」で述べたように、認められるものであるから、特許請求の範囲の記載は、本件訂正により訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)によれば、先に「第4」の「1)」において、訂正事項aに「B」として示したとおりのものであると認める。
そして、その請求項1の記載は、以下のとおりである。

請求項1;「基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子であり、かつ該無機化合物粒子が、シリカとシリカ以外の無機化合物からなり、以下の工程(a)?(c)から製造されたものであることを特徴とする透明被膜付基材;
(a)シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.25?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程、
(b)前記多孔質粒子前駆体の分散液に、シリカ源を添加して多孔質粒子前駆体の表面にシリカ保護膜を形成したのち、該分散液に酸を加えて多孔質粒子前駆体からアルカリ可溶無機化合物の少なくとも一部を選択的に除去して空洞粒子前駆体を調製する工程、
(c)前記空洞粒子前駆体の分散液に、加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成したのち、該分散液を加熱処理して空洞粒子を調製する工程。」

2)無効理由Bに対する判断
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである(知的財産高等裁判所 平成20年10月30日判決、平成20年(行ケ)第10107号)。

ところで、本件特許に係る出願は、請求項1に記載された発明が、出願当初は、無機化合物粒子が「複合粒子」又は「内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子」であった(甲第3号証参照)ものを、進歩性がないとする最初の拒絶理由通知に対し、補正(甲第4号証参照)にて、無機化合物粒子を「内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子」のみに限定し、空洞粒子の空洞が多孔質物質で充填された空洞粒子については依然として進歩性がないとする拒絶査定に対し、補正(甲第5号証参照)にて、無機化合物粒子を「内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子」とさらに限定し、前置審査において特許査定されたという審査経緯を有するものである。

そして、上記の審査経緯によれば、出願当初の請求項1に記載された発明のうち、無機化合物が「複合粒子」である発明及び無機化合物が「内部に空洞を有し、かつ内容物が多孔質物質で充填された空洞粒子」である発明は、本件特許に係る発明に含まれないものとなったと第三者に理解されるから、本件特許に係る発明の範囲が、その範囲外とされた、無機化合物が「複合粒子」である発明及び無機化合物が「内部に空洞を有し、かつ内容物が多孔質物質で充填された空洞粒子」である発明との関係において明確でない場合には、第三者に不測の不利益を及ぼすことは明らかであり、本件特許に係る発明の範囲は、その範囲外とされた、無機化合物が「複合粒子」である発明及び無機化合物が「内部に空洞を有し、かつ内容物が多孔質物質で充填された空洞粒子」である発明との関係において明確であることが必要である。

そこで、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、本件特許に係る発明の範囲外とされた、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確であるか、について以下に検討する。

上記請求項1の記載によれば、請求項1に記載された発明は、
無機化合物粒子が、
「内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子」(以下、「発明特定事項1」という。)であり、
「シリカとシリカ以外の無機化合物粒子からなり、」(以下、「発明特定事項2」という。)
さらに、「工程(a)?(c)から製造されたものである」(以下、「発明特定事項3」という。)
との記載事項のみを発明特定事項とするものと認める。

なお、以下では、請求項1に記載された発明を「本件発明1」といい、他の請求項に記載された発明についても同様とする。

2-1)訂正明細書の発明の詳細な説明の記載
訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載a?eが認められる。

a;「【0043】・・・複合粒子を構成する多孔質粒子としては、・・・このような多孔質粒子では、シリカをSiO_(2)で表し、シリカ以外の無機化合物を酸化物換算(MO_(X))で表したときのモル比MO_(X)/SiO_(2)が、0.0001?1.0、好ましくは0.001?0.3の範囲にあることが望ましい。・・・
【0045】・・・
また、空洞粒子の内容物としては、粒子調製時に使用した溶媒、気体、多孔質物質などが挙げられる。溶媒中には空洞粒子調製する際に使用される粒子前駆体の未反応物、使用した触媒などが含まれていてもよい。また多孔質物質としては、前記多孔質粒子で例示した化合物からなるものが挙げられる。」

b;「【0046】
無機化合物粒子の調製
・・・
具体的に、複合粒子が、シリカ、シリカ以外の無機化合物とからなる場合、以下の第1?第3工程から無機化合物粒子は製造される。
【0047】
第1工程:多孔質粒子前駆体の調製
第1工程では、予め、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、この水溶液を目的とする複合酸化物の複合割合に応じて、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら徐々に添加して多孔質粒子前駆体を調製する。
・・・
【0049】
また、シリカ以外の無機化合物の原料としては、アルカリ可溶の無機化合物を用いられる。・・・
【0052】
第1工程におけるシリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合は、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が、0.05?2.0、好ましくは0.2?2.0の範囲内にあることが望ましい。この範囲内において、シリカの割合が少なくなる程、多孔質粒子の細孔容積が増大する。しかしながら、モル比が2.0を越えても、多孔質粒子の細孔の容積はほとんど増加しない。他方、モル比が0.05未満の場合は、細孔容積が小さくなる。空洞粒子を調製する場合、MO_(X)/SiO_(2)のモル比は、0.25?2.0の範囲内にあることが望ましい。」

c;「【0053】
第2工程:多孔質粒子からのシリカ以外の無機化合物の除去
第2工程では、前記第1工程で得られた多孔質粒子前駆体から、シリカ以外の無機化合物(珪素と酸素以外の元素)の少なくとも一部を選択的に除去する。具体的な除去方法としては、多孔質粒子前駆体中の無機化合物を鉱酸や有機酸を用いて溶解除去したり、あるいは、陽イオン交換樹脂と接触させてイオン交換除去する。
【0054】
なお、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体は、珪素と無機化合物構成元素が酸素を介して結合した網目構造の粒子である。このような多孔質粒子前駆体から無機化合物(珪素と酸素以外の元素)を除去することにより、一層多孔質で細孔容積の大きい多孔質粒子が得られる。
また、多孔質粒子前駆体から無機酸化物(珪素と酸素以外の元素)を除去する量が多くすれば、空洞粒子を調製することができる。
【0055】
また、多孔質粒子前駆体からシリカ以外の無機化合物を除去するに先立って、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体分散液に、シリカのアルカリ金属塩を脱アルカリして得られる珪酸液あるいは加水分解性の有機ケイ素化合物を添加してシリカ保護膜を形成することが好ましい。シリカ保護膜の厚さは0.5?15nmの厚さであればよい。なおシリカ保護膜を形成しても、この工程での保護膜は多孔質であり厚さが薄いので、前記したシリカ以外の無機化合物を、多孔質粒子前駆体から除去することは可能である。
【0056】
このようにシリカ保護膜を形成することによって、粒子形状を保持したまま、前記したシリカ以外の無機化合物を、多孔質粒子前駆体から除去することができる。また、後述するシリカ被覆層を形成する際に、多孔質粒子の細孔が被覆層によって閉塞されてしまうことがなく、このため細孔容積を低下させることなく後述するシリカ被覆層を形成することができる。なお、除去する無機化合物の量が少ない場合は粒子が壊れることがないので必ずしも保護膜を形成する必要はない。
【0057】
また空洞粒子を調製する場合は、このシリカ保護膜を形成しておくことが望ましい。空洞粒子を調製する際には、無機化合物を除去すると、シリカ保護膜と、該シリカ保護膜内の溶媒、未溶解の多孔質固形分とからなる空洞粒子の前駆体が得られ、該空洞粒子の前駆体に後述の被覆層を形成すると、形成された被覆層が、粒子壁となり空洞粒子が形成される。」

d;「【0061】
第3工程:シリカ被覆層の形成
第3工程では、第2工程で調製した多孔質粒子分散液(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体分散液)に加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液等を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液等の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成する。
・・・
【0066】
ついで、被覆層が形成された粒子の分散液を加熱処理する。加熱処理によって、多孔質粒子の場合は、多孔質粒子表面を被覆したシリカ被覆層が緻密化し、多孔質粒子がシリカ被覆層によって被覆された複合粒子の分散液が得られる。また空洞粒子前駆体の場合、形成された被覆層が緻密化して空洞粒子壁となり、内部が溶媒、気体または多孔質固形分で充填された空洞を有する空洞粒子の分散液が得られる。」

e;「【0089】
【調製例1】
複合粒子(P-1)の調製
・・・
【0092】
【調製例2】
複合粒子(P-2)の調製
・・・
【0093】
【調製例3】
複合粒子(P-3)の調製
・・・
【0096】
【調製例4】
複合粒子(P-4)の調製
・・・
【0097】
【調製例5】
複合粒子(P-5)の調製
・・・
【0100】
【調製例8】
空洞粒子(P-8)の調製
・・・
【0101】
【表1】



2-2)発明特定事項1により、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているかについて

ア.記載dによれば、表面を被覆したシリカ被覆層が緻密化したシリカ被覆層を有する多孔質粒子が『複合粒子』であり、表面を被覆したシリカ被覆層が緻密化した空洞粒子壁を有するものが『空洞粒子』であるということができる。
そして、記載bによれば、複合粒子であるシリカ、シリカ以外の無機化合物とからなる無機化合物粒子は、第1?第3工程から製造されるところ、記載cによれば、第2工程では、第1工程で得られた多孔質粒子前駆体から、シリカ以外の無機化合物(珪素と酸素以外の元素)の少なくとも一部を鉱酸や有機酸を用いて選択的に除去することで、多孔質粒子及び空洞粒子前駆体を調製するから、無機化合物が除去されることにより多孔質粒子前駆体に形成される『孔』の中には、少なくとも多孔質粒子又は空洞粒子前駆体の調製に用いられた溶媒が充填されるものと認められ、その後、『孔』の中に、少なくとも多孔質粒子又は空洞粒子前駆体の調製に用いられた溶媒が充填されたままの状態で、多孔質粒子又は空洞粒子前駆体は緻密化されたシリカ被覆層で被覆されて、それぞれ複合粒子、空洞粒子となるものと認められる。そして、これらのことは、記載cの「【0057】・・・空洞粒子を調製する際には、無機化合物を除去すると、シリカ保護膜と、該シリカ保護膜内の溶媒、未溶解の多孔質固形分とからなる空洞粒子の前駆体が得られ、」との記載や記載aの「【0045】・・・また、空洞粒子の内容物としては、粒子調製時に使用した溶媒、気体、多孔質物質などが挙げられる。」との記載とも符合するものである。
さらに、記載dにあるように被覆が形成された多孔質粒子又は空洞粒子前駆体の分散液を加熱処理してシリカ被覆層を緻密化する際に、『孔』の中に充填されている溶媒の少なくとも一部が蒸発し、代わって気体が充填されるものと認められる。そして、このことは、記載eの【表1】において、複合粒子(P-3)や空洞粒子(P-8)の屈折率がそれぞれ1.35、1.33と溶媒及びシリカの屈折率より小さく、粒子内に溶媒及びシリカより屈折率の小さい何らかの物質が存在しているという事実とも整合がとれるものである。

そうすると、『複合粒子』も『空洞粒子』もともに、『孔』の中に、少なくとも多孔質粒子又は空洞粒子前駆体の調製に用いられた溶媒又は気体が充填されているといえる。

イ.そして、本件特許に係る発明の無機化合物は『空洞粒子』であるのに対し、本件特許に係る発明の範囲外とされた発明の無機化合物は『複合粒子』であって、呼称が違うから、発明の詳細な説明の記載及び図面と当業者の出願当時における技術的常識とを考慮しつつ、この呼称の違いにより、これらが明確に区別できるかについて、さらに検討する。

上記の記載cによれば、『複合粒子』は、シリカ保護膜の内容物が多孔質粒子前駆体から無機酸化物を除去した多孔質粒子であるものといえるところ、上記の記載aの段落【0045】や記載cの段落【0057】に記載されるように、シリカ保護膜の内容物に多孔質物質を含んでいるものも空洞粒子なのであるから、『空洞粒子』は『複合粒子』と明確に区別することができない。

また、記載cの段落【0054】には、多孔質粒子前駆体から無機酸化物を除去する量を多くすると空洞粒子を調製可能であると記載されるが、記載bの段落【0052】及び記載aの段落【0043】によれば、複合粒子を構成する多孔質粒子は、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.2?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体から無機酸化物を除去して得られるMO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.0001?1.0の範囲内にあるものであるところ、本件特許に係る『空洞粒子』の唯一の実施例である空洞粒子(P-8)を構成する空洞粒子前駆体は、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.288である多孔質粒子前駆体から無機酸化物を除去して得られるMO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.0035であるものであって、無機酸化物を除去する前後の多孔質粒子前駆体のMO_(X)/SiO_(2)のモル比が、『複合粒子』を調製する場合のモル比と重複するから、記載cの段落【0054】における多孔質粒子前駆体から無機酸化物を除去する量を「多くする」とは、どの程度多いことであるか不明であって、この段落【0054】の記載を考慮しても、『空洞粒子』は『複合粒子』と明確に区別することができない。

さらに、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を考慮しても、『空洞粒子』は、『複合粒子』と明確に区別することができない。すなわち、本件特許に係る出願の出願前に公知となった甲第7号証には、コロイド粒子の表面は、シリカ等の被膜で薄く被覆されており、被覆処理前のコロイド粒子は「多孔性の微粒子」であること、第1工程におけるシリカとシリカ以外の無機酸化物との複合割合は、無機酸化物に対するシリカのモル比が0.5?20の範囲内にあること、換算すると、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.05?2.0の範囲内にあることが記載されている上に、本件特許に係る出願の複合粒子(P-1)と同一の製法による実施例1のコロイド粒子に加えて、第2工程における脱アルミニウム処理の条件以外は実施例1と同一の製法による実施例7のコロイド粒子が記載されており、実施例1及び7のコロイド粒子はそれぞれSiO_(2)/MO_(X)が127.2、999.0、換算すると、それぞれMO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.0078、0.001である。そうすると、甲第7号証からは、第1工程におけるMO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.05?2.0の範囲内にあり、第2工程終了時にMO_(X)/SiO_(2)のモル比が0.001?0.0078の「多孔性の微粒子」であり、シリカ等の被膜で薄く被覆されたコロイド粒子が『複合粒子』であると把握され、本件特許に係る発明の『空洞粒子』の唯一の実施例である空洞粒子(P-8)はMO_(X)/SiO_(2)のモル比がこれと重複するから、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を考慮しても、『空洞粒子』は『複合粒子』と明確に区別することができない。

また、本件特許に係る出願の願書に添付した図面の【図1】には、『空洞粒子』のTEM写真が示されているが、この写真からは、粒子のシリカ保護膜と一体化した粒子壁の存在が濃い灰色部として確認できるものの、粒子壁内部には灰色地に多数の白い斑点を確認することができるため、粒子壁内部が空洞であると確認できない上に、粒子壁内部に多孔質粒子が存在していると理解する余地をも残すものである。そして、この空洞粒子と対比すべき『複合粒子』のTEM写真は示されていない。そうすると、【図1】を考慮しても『空洞粒子』は『複合粒子』と明確に区別することができない。

よって、願書に添付した明細書の記載及び図面と当業者の出願当時における技術的常識とを考慮しても、「内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子」という本件発明1の発明特定事項1によっては、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているとすることはできない。

2-3)発明特定事項2により無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているかについて

記載bの「【0046】・・・具体的に、複合粒子が、シリカ、シリカ以外の無機化合物とからなる場合」との記載によれば、複合粒子はシリカとシリカ以外の無機化合物からなるものである。

よって、「シリカとシリカ以外の無機化合物粒子からなり、」という本件発明1の発明特定事項2によっては、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているとすることはできない。

2-4)発明特定事項3により無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているかについて

記載bによれば、複合粒子である無機化合物粒子は、第1?第3の工程から製造されるものであるところ、記載bには、第1工程として、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら徐々に添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(X))に換算し、MO_(X)/SiO_(2)のモル比が、0.2?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程が記載されている。そして、記載cには、第2工程として、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体分散液に、シリカのアルカリ金属塩を脱アルカリして得られる珪酸液あるいは加水分解性の有機ケイ素化合物を添加してシリカ保護膜を形成した後、多孔質粒子前駆体中の無機化合物を鉱酸や有機酸を用いてシリカ以外の無機化合物(珪素と酸素以外の元素)の少なくとも一部を選択的に除去して多孔質粒子分散液を調製する工程が記載されている。さらに、記載dには、第3工程として、第2工程で調製した多孔質粒子分散液に加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液等を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液等の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成し、ついで、被覆層が形成された粒子の分散液を加熱処理して、複合粒子を調製する工程が記載されている。
そうすると、『空洞粒子』が『複合粒子』であり、「空洞粒子前駆体」が「多孔質粒子」であるなどの呼称上の違いを除けば、工程(a)?(c)から製造されたものであり、呼称上の違いについては、先に「2-2)」の「イ」で述べたのと同様のことがいえるから、『空洞粒子』は、『複合粒子』と明確に区別することができない。

よって、「工程(a)?(c)から製造されたものである」という本件発明1の発明特定事項3によっては、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているとすることはできない。

2-5)まとめ
以上のとおりであるから、願書に添付した明細書の記載及び図面と当業者の出願当時における技術的常識とを考慮しても、本件発明1の発明特定事項によっては、無機化合物が所定の『空洞粒子』である本件特許に係る発明の範囲が、無機化合物が『複合粒子』である発明との関係において明確になっているとすることはできず、本件発明1とこれを引用する本件発明2?4は、空洞粒子の範囲が不明確であるから、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が明確であることに適合するとはいえない。
よって、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第2号に適合しておらず、同項の規定に違反するから、本件発明1?4の「内容物が溶媒で充填された空洞粒子」の範囲が明確でない点を具体的理由として指摘した無効理由Bには、理由がある。

第6 むすび
訂正後の請求項1?4に係る発明の本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきでものである。

また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
透明被膜付基材、および表示装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、または気体で充填された空洞粒子であり、かつ該無機化合物粒子が、シリカとシリカ以外の無機化合物からなり、以下の工程(a)?(c)から製造されたものであることを特徴とする透明被膜付基材;
(a)シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(x))に換算し、MO_(x)/SiO_(2)のモル比が0.25?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程、
(b)前記多孔質粒子前駆体の分散液に、シリカ源を添加して多孔質粒子前駆体の表面にシリカ保護膜を形成したのち、該分散液に酸を加えて多孔質粒子前駆体からアルカリ可溶無機化合物の少なくとも一部を選択的に除去して空洞粒子前駆体を調製する工程、
(c)前記空洞粒子前駆体の分散液に、加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成したのち、該分散液を加熱処理して空洞粒子を調製する工程。
【請求項2】
前記無機化合物粒子の平均粒子径が5?300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項3】
前記空洞粒子の粒子壁の厚さが1?20nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の透明被膜付基材。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の透明被膜付基材で構成された前面板を備え、透明被膜が該前面板の外表面に形成されていることを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、透明被膜付基材、透明被膜形成用塗布液、および透明被膜付基材を備えた表示装置に関し、さらに詳しくは、透明被膜の屈折率が低く、反射防止性能、帯電防止性能、電磁波遮蔽性能等に優れるとともに耐久性に優れた透明被膜付基材、および該透明被膜付基材形成用に好適な被膜形成用塗布液、該透明被膜付基材で構成された前面板を備えた表示装置に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
従来より、陰極線管、蛍光表示管、液晶表示板などの表示パネルに使用される透明基材では、透明基材表面の帯電防止および反射防止を目的として、基材表面に帯電防止機能および反射防止機能を有する被膜を形成することが行われていた。
【0003】
たとえば、帯電防止機能を有する被膜としては、概ね10^(2)?10^(12)Ω/□程度の表面抵抗を有する導電性被膜を形成することが知られていた。
また、陰極線管などからは電磁波が放出されていることが知られており、前記した帯電防止、反射防止機能の他にこれらの電磁波および電磁波の放出に伴って形成される電磁場を遮蔽することも望まれていた。この電磁波を遮蔽する方法として、陰極線管などの表示パネルの表面に電磁波遮断用の導電性被膜を形成する方法が知られており、このような電磁遮蔽用の導電性被膜として10^(2)?10^(4)Ω/□のような低い表面抵抗を有するものが形成されていた。
【0004】
上記のような帯電防止機能を有する被膜を形成する方法として、ITOなどの導電性金属酸化物微粒子を含む導電性被膜形成用塗布液を用いて基材の表面に導電性金属酸化物微粒子を含む導電性被膜を形成する方法が知られていた。この方法ではコロイド状の導電性金属酸化物微粒子が極性溶媒に分散したものが用いられていた。なお、本発明者等は、透明被膜形成用に多孔質の微粒子の表面をシリカで被覆した低屈折率の複合酸化物微粒子が、低反射用被膜形成用に好適に使用できることを提案している(特開平7-133105号公報)。
【0005】
また、電磁遮蔽用の低表面抵抗導電性被膜を形成する方法として、Agなどの金属微粒子を含む導電性被膜形成用塗布液を用いて基材の表面に金属微粒子含有被膜を形成する方法が知られていた。この方法では、金属微粒子含有被膜形成用塗布液として、コロイド状の金属微粒子が極性溶媒に分散したものが用いられていた。
【0006】
しかしながら、Ag等の金属微粒子を含む透明導電性被膜では、金属が酸化されたり、金属のイオン化による金属微粒子が粒子成長したり、また場合によっては金属微粒子の腐食が発生することがあり、塗膜の導電性や光透過率が低下し、表示装置が信頼性を欠くという問題があった。また、これらの導電性酸化物粒子および金属微粒子は、屈折率が大きいので、照射した光を反射してしまうという欠点があった。
【0007】
このため、この導電性被膜上にさらに導電性被膜よりも屈折率の低い透明被膜を設けて反射防止を行うとともに、導電性被膜を保護することが行われていた。しかしながら、従来の透明被膜を、ITOなどの導電性金属酸化物微粒子を含む導電性被膜表面に形成すると、可視光(波長域:400nm?700nm)域の中央500?600nm付近の波長域では反射率が1%程度になるが、400nmおよび700nm付近の波長域になると、反射率が高くなり、ボトム反射率(波長500nm付近における反射率)および視感反射率(可視光全域にわたる平均反射率)の低減が求められていた。
【0008】
また、導電性被膜が金属微粒子を含む導電層では、ボトム反射が0.2%程度と低いものの、400nmおよび700nm付近の反射率が高く、また視感反射率も0.5?1%程度の大きさであるため、目で感じる反射(映り込み)が強く感じられことがあり、このため透明被膜には、さらなる反射防止性能の向上が求められていた。
【0009】
また、このような反射防止性能に優れた透明被膜として、MgF_(2)などの低屈折率膜が知られているが、この低屈折率膜は気相法で導電性被膜表面に設けられるので、この方法では設備コストが高く、このため経済性が低く、さらには形成した低屈折率膜の化学的な耐久性が不充分であるという問題があった。
そこで、本発明者等は、導電性被膜表面に形成する低屈折率膜について、さらに検討した結果、(i)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(ii)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子で含む透明被膜は極めて屈折率が低く、またこのような透明被膜は、透明導電性被膜との密着性および膜強度に優れることを見出した。しかもこのような透明被膜が形成された透明被膜付基材は、耐久性、反射防止性能に優れ、帯電防止性、電磁波遮蔽性に優れるとともに、かつ視感反射率が低く、このため映り込みが少なく、表示性能に優れた表示装置が形成可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
【発明の目的】
本発明は、屈折率が低く、透明導電性被膜との密着性および膜強度に優れた透明被膜が形成された透明被膜付基材、およびこのような透明被膜形成用に好適に使用される被膜形成用塗布液、および該透明被膜付基材を備えた表示装置を提供することを目的としている。
【0011】
【発明の概要】
本発明に係る透明被膜付基材は、基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、
【発明の概要】
本発明に係る透明被膜付基材は、基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体で充填された空洞粒子であり、無機化合物粒子がシリカとシリカ以外の無機化合物からなり、以下の工程(a)?(c)から製造されたものであることを特徴とする透明被膜付基材;
(a)シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外のアルカリ可溶の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加して、シリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合が、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(x))に換算し、MO_(x)/SiO_(2)のモル比が0.25?2.0の範囲内にある多孔質粒子前駆体を調製する工程、
(b)前記多孔質粒子前駆体の分散液に、シリカ源を添加して多孔質粒子前駆体の表面にシリカ保護膜を形成したのち、該分散液に酸を加えて多孔質粒子前駆体からアルカリ可溶無機化合物の少なくとも一部を選択的に除去して空洞粒子前駆体を調製する工程、
(c)前記空洞粒子前駆体の分散液に、加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成したのち、該分散液を加熱処理して空洞粒子を調製する工程。
【0012】
前記無機化合物粒子の平均粒子径は、5?300nmの範囲にあることが好ましい。また、前記空洞粒子の粒子壁の厚さは、1?20nmの範囲にあることが好ましい。このような空洞粒子の粒子壁は、シリカを主成分とすることが好ましい。
【0013】
本発明に係る表示装置は、前記透明被膜付基材で構成された前面板を備え、透明被膜が該前面板の外表面に形成されていることを特徴としている。
【0014】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る透明被膜付基材は、
基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなる。
【0015】
本発明に用いる基材としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミックなどからなる平板、フィルム、シートあるいはその他の成形体などの基材が挙げられる。
本発明では、このような基材上に透明導電層が形成されている。
[透明導電層]
透明導電層としては、10^(12)Ω/□以下の表面抵抗を有するものであれば、とくに、制限されるものではなく、公知の透明導電材料を使用することができる。
【0016】
なお、帯電防止機能を有する透明導電層の場合、概ね10^(7)?10^(12)Ω/□程度の表面抵抗を有し、電磁遮蔽用の透明導電層では10^(2)?10^(4)Ω/□のような低い表面抵抗を有するものが形成される。
透明導電材料としては、金属、導電性無機酸化物、導電性カーボンなどの無機系導電材料、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリイソチアナフテン、ポリアズレン、ポリフェニレン、ポリ-p-フェニレン、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-2,5-チエニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリペリナフタレンなどの導電性高分子が使用される。
【0017】
上記導電性高分子には、必要に応じてこれらにドーパントイオンをドーピングされていてもよい。
本発明では、導電材料としては、金属、導電性無機酸化物、導電性カーボンなどの無機系導電材料が望ましい。
透明導電層は、通常、金属微粒子または導電性無機微粒子(本明細書では、これらを単に導電性微粒子ということもある)から構成される。
【0018】
本発明に用いられる「金属微粒子」としては、従来公知の金属微粒子を用いることができ、この金属微粒子は単一成分からなる金属微粒子であってもよく、2種以上の金属成分を含む複合金属微粒子であってもよい。
前記複合金属微粒子を構成する2種以上の金属は、固溶状態にある合金であっても、固溶状態にない共晶体であってもよく、合金と共晶体が共存していてもよい。このような複合金属微粒子は、金属の酸化やイオン化が抑制されるため、複合金属微粒子の粒子成長等が抑制され、複合金属微粒子の耐腐食性が高く、導電性、光透過率の低下が小さいなど信頼性に優れている。
【0019】
このような金属微粒子としては、Au,Ag,Pd,Pt,Rh,Ru,Cu,Fe,Ni,Co,Sn,Ti,In,Al,Ta,Sbなどの金属から選ばれる金属の微粒子が挙げられる。また、複合金属微粒子としては、Au,Ag,Pd,Pt,Rh,Ru,Cu,Fe,Ni,Co,Sn,Ti,In,Al,Ta,Sbなどの金属から選ばれる少なくとも2種以上の金属からなる複合金属微粒子が挙げられる。好ましい2種以上の金属の組合せとしては、Au-Cu,Ag-Pt,Ag-Pd,Au-Pd,Au-Rh,Pt-Pd,Pt-Rh,Fe-Ni,Ni-Pd,Fe-Co,Cu-Co,Ru-Ag,Au-Cu-Ag,Ag-Cu-Pt,Ag-Cu-Pd,Ag-Au-Pd,Au-Rh-Pd,Ag-Pt-Pd,Ag-Pt-Rh,Fe-Ni-Pd,Fe-Co-Pd,Cu-Co-Pdなどが挙げられる。
【0020】
また、Au,Ag,Pd,Pt,Rh,Cu,Co,Sn,In,Taなどの金属からなる金属微粒子を用いる場合は、その一部が酸化状態にあってもよく、該金属の酸化物を含んでいてもよい。さらに、PやB原子が結合して含有していてもよい。
このような金属微粒子は、たとえば以下のような公知の方法(特開平10-188681号公報)によって得ることができる。
【0021】
(i)たとえば、アルコール・水混合溶媒中で、1種の金属塩を、あるいは2種以上の金属塩を同時にあるいは別々に還元する方法が挙げられる。この方法では、必要に応じて還元剤を添加してもよい。還元剤としては、硫酸第1鉄、クエン酸3ナトリウム、酒石酸、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、圧力容器中で約100℃以上の温度で加熱処理してもよい。
(ii)また、単一成分金属微粒子または合金微粒子の分散液に、金属微粒子または合金微粒子よりも標準水素電極電位が高い金属の微粒子またはイオンを存在させて、金属微粒子または/および合金微粒子上に標準水素電極電位が高い金属を析出させる方法も採用することができる。この方法では、得られた複合金属微粒子上に、さらに標準水素電極電位が高い金属を析出させてもよい。また、このような標準水素電極電位の最も高い金属は、複合金属微粒子表面層に多く存在していることが好ましい。このように、標準水素電極電位の最も高い金属が複合金属微粒子の表面層に多く存在すると、複合金属微粒子の酸化およびイオン化が抑えられ、イオンマイグレーション等による粒子成長の抑制が可能となる。さらに、このような複合金属微粒子は、耐腐食性が高いので、導電性、光透過率の低下を抑制することができる。
【0022】
使用される金属微粒子の平均粒径は、1?200nm、好ましくは2?70nmの範囲にあることが望ましい。金属微粒子の平均粒径が200nmを越えると、金属による光の吸収が大きくなり、粒子層の光透過率が低下するとともにヘーズが大きくなる。このため被膜付基材を、たとえば陰極線管の前面板として用いると、表示画像の解像度が低下することがある。また、金属微粒子の平均粒径が1nm未満の場合には粒子層の表面抵抗が急激に大きくなるため、本発明の目的を達成しうる程度の低抵抗値を有する被膜を得ることができないこともある。
【0023】
また、導電性無機微粒子としては、公知の透明導電性無機酸化物微粒子あるいは微粒子カーボンなどを用いることができる。
透明導電性無機酸化物微粒子としては、たとえば酸化錫、Sb、FまたはPがドーピングざれた酸化錫、酸化インジウム、SnまたはFがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、低次酸化チタンなどが挙げられる。
【0024】
これらの導電性無機微粒子の平均粒径は、1?200nm、好ましくは2?150nmの範囲にあることが好ましい。このような透明導電層は、透明導電性被膜形成用塗布液を使用して作製することができる。透明導電性被膜形成用塗布液は、上記導電性微粒子と極性溶媒とを含んでいる。
【0025】
透明導電性被膜形成用塗布液に用いられる極性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのアルコール類;酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
なお、金属微粒子を含む塗布液を使用すると、電磁波遮蔽効果が発現される10^(2)?10^(4)Ω/□程度の表面抵抗を有する透明導電性被膜を形成することができる。金属微粒子を使用して電磁遮蔽用の透明導電層を形成する場合、金属微粒子は、透明導電性被膜形成用塗布液中に0.05?5重量%、好ましくは0.1?2重量%の量で含まれていることが望ましい。
【0027】
透明導電性被膜形成用塗布液中の金属微粒子の量が、0.05重量%未満の場合は、得られる被膜の膜厚が薄くなり、このため充分な導電性が得られないことがある。また、金属微粒子が5重量%を越えると、膜厚が厚くなり、光透過率が低下して透明性が悪化するとともに外観も悪くなる。
また、透明導電性被膜形成用塗布液には、金属微粒子とともに、前記した導電性無機微粒子が含まれていてもよく、電磁波遮蔽効果が得られる10^(2)?10^(4)Ω/□程度の表面抵抗を有する透明導電性被膜を得ようとする場合は、前記金属微粒子1重量部当たり、前記した導電性無機微粒子は4重量部以下の量で含まれていればよい。導電性無機微粒子が4重量部を超える場合は、導電性が低下し電磁波遮蔽効果が低下することがあるので好ましくない。
【0028】
このような金属微粒子とともに導電性無機微粒子を含有していると、金属微粒子のみで透明導電性微粒子層を形成した場合と比較して、より透明性に優れた透明導電性微粒子層を形成することができる。また導電性無機微粒子を含有することによって、安価に透明導電性被膜を形成することもできる。
さらに、透明導電層が、帯電防止機能を有する10^(7)?10^(12)Ω/□程度の表面抵抗を有するものの場合は、通常、導電性無機微粒子のみが透明導電性被膜形成用塗布液に含まれていればよい。透明導電性被膜形成用塗布液中には、導電性微粒子が、0.1?10重量%、好ましくは0.5?5重量%の量で含まれていることが望ましい。透明導電性被膜形成用塗布液中の導電性無機微粒子の量が0.1重量%未満の場合は、得られる被膜の膜厚が薄く、このため充分な帯電防止性能が得られないことがある。また、導電性微粒子の量が10重量%を越えると、膜厚が厚くなり、光透過率が低下して透明性が悪化するとともに外観も悪くなる。
【0029】
さらに、これらの透明導電性被膜形成用塗布液には、可視光の広い波長領域において可視光の透過率が一定になるように、染料、顔料などが添加されていてもよい。
本発明で用いられる透明導電性被膜形成用塗布液中の固形分濃度(金属微粒子および/または金属微粒子以外の導電性微粒子と、必要に応じて添加される染料、顔料などの添加剤の総量)は、液の流動性、塗布液中の金属微粒子などの粒状成分の分散性の点から、15重量%以下、好ましくは0.15?5重量%であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いる透明導電性被膜形成用塗布液には、被膜形成後の金属微粒子、金属微粒子以外の導電性微粒子のバインダーとして作用するマトリックス形成成分が含まれていてもよい。このようなマトリックス形成成分としては、従来公知のものを用いることができるが、本発明ではシリカ、シリカ系複合酸化物、ジルコニア、酸化アンチモンから選ばれる1種または2種以上の酸化物の前駆体からなるものが好ましく、特に、アルコキシシランなどの有機ケイ素化合物の加水分解重縮合物またはアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を脱アルカリして得られるケイ酸が好ましく用いられる。この他、塗料用樹脂などを用いることもできる。
【0031】
このようなマトリックス形成成分は、酸化物としてあるいは樹脂として、前記金属微粒子1重量部当たり、0.01?0.5重量部、好ましくは0.03?0.3重量部の量で含まれていればよい。
また、前記導電性微粒子の分散性を向上させるため、透明導電性被膜形成用塗布液中に有機系安定剤が含まれていてもよい。このような有機系安定剤として具体的には、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸などの多価カルボン酸およびその塩、スルホン酸塩、有機スルホン酸塩、リン酸塩、有機リン酸塩、複素環化合物あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0032】
このような有機系安定剤は、有機系安定剤の種類、導電性微粒子の粒子径等によっても異なるが、微粒子1重量部に対し、0.005?0.5重量部、好ましくは0.01?0.2重量部の量で含まれていればよい。有機系安定剤の量が0.005重量部未満の場合は充分な分散性が得られず、0.5重量部を超えて高い場合は導電性が阻害されることがある。
【0033】
さらに本発明で用いられる透明導電性被膜形成用塗布液は、塗布液中に存在するアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンおよび多価金属イオンならびに鉱酸などの無機陰イオン、酢酸、蟻酸などの有機陰イオン粒子から遊離したイオンなどのイオン濃度の合計量が、塗布液中の固形分100g当り10ミリモル以下の量であることが望ましい。特に鉱酸などの無機陰イオンは、微粒子の安定性、分散性を阻害するので、塗布液中に含まれる量は低い方が好ましい。イオン濃度が低くなると、透明導電性被膜形成用塗布液中に含まれている粒状成分、特に金属微粒子の分散状態が良好となり、凝集粒子をほとんど含んでいない塗布液が得られる。この塗布液中での粒状成分の単分散状態は、透明導電層の形成過程でも維持される。このため、イオン濃度の低い透明導電性被膜形成用塗布液から透明導電層を形成すると、透明導電層中に凝集粒子は観察されない。
【0034】
また上記のようなイオン濃度の低い塗布液から形成された透明導電層では金属微粒子などの導電性微粒子を良好に分散させ配列させることができるので、透明導電層中で導電性微粒子が凝集している場合に比較して、より少ない導電性微粒子で同等の導電性を有する透明導電層を作製することが可能である。さらに粒状成分同士の凝集に起因すると思われる点欠陥および厚さむらのない透明導電層を基材上に形成することが可能である。
【0035】
上記のようなイオン濃度の低い塗布液を得るための脱イオン処理の方法は、最終的に塗布液中に含まれているイオン濃度が上記のような範囲になるような方法であれば特に制限されないが、好ましい脱イオン処理の方法としては、塗布液の原料として用いられる粒状成分の分散液、または前記分散液から調製された塗布液を陽イオン交換樹脂および/または陰イオン交換樹脂と接触させる方法、あるいはこれらの液を限外濾過膜を用いて洗浄処理する方法などが挙げられる。
【0036】
透明導電層の形成
透明導電層は、前記透明導電性被膜形成用塗布液を基材上に塗布し、乾燥して、形成される。
具体的には、たとえば、前記透明導電性被膜形成用塗布液をディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法などの方法で、基材上に塗布したのち、常温?約90℃の範囲の温度で乾燥する。
【0037】
透明導電性被膜形成用塗布液中に上記のようなマトリックス形成成分が含まれている場合には、マトリックス形成成分の硬化処理を行ってもよい。
硬化処理としては、以下のような方法が挙げられる。
▲1▼加熱硬化
乾燥後の塗膜を加熱して、マトリックス成分を硬化させる。このときの加熱処理温度は、100℃以上、好ましくは150?300℃であることが望ましい。100℃未満ではマトリックス形成成分が充分硬化しないことがある。また加熱処理温度の上限は基材の種類によって異なるが、基材の転移点以下であればよい。
【0038】
▲2▼電磁波硬化
塗布工程または乾燥工程の後に、あるいは乾燥工程中に、塗膜に可視光線よりも波長の短い電磁波を照射して、マトリックス成分を硬化させる。このようなマトリックス形成成分の硬化を促進するために照射する電磁波としては、マトリックス形成成分の種類に応じて紫外線、電子線、X線、γ線などが用いられる。例えば紫外線硬化性マトリックス形成成分の硬化を促進するためには、例えば、発光強度が約250nmおよび360nmにおいて極大となり、光強度が10mW/m^(2)以上である高圧水銀ランプを紫外線源として用い、100mJ/cm^(2)以上のエネルギー量の紫外線が照射される。
【0039】
▲3▼ガス硬化
塗布工程または乾燥工程の後に、あるいは乾燥工程中に、塗膜をマトリックス形成成分の硬化反応を促進するガス雰囲気中に晒すことによって、マトリックス形成成分を硬化させる。マトリックス形成成分のなかには、アンモニアなどの活性ガスで硬化が促進されるマトリックス形成成分があり、このようなマトリックス形成成分を含む透明導電性微粒子層を、ガス濃度が100?100000ppm、好ましくは1000?10000ppmであるような硬化促進性ガス雰囲気下で1?60分処理することによってマトリックス形成成分の硬化を大幅に促進することができる。
【0040】
[透明被膜]
本発明では、以上のような透明導電層表面に、透明被膜が形成されている。透明被膜は、以下のようなマトリックスと無機化合物粒子とを含む。
無機化合物粒子
無機化合物粒子は、(i)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(ii)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子である。なお、透明被膜には(i)複合粒子または(ii)重合粒子のいずれかが含まれていればよく、また双方が含まれていてもよい。
【0041】
なお、空洞粒子は、内部に空洞を有する粒子であり、空洞は粒子壁で囲まれている。空洞内には、調製時に使用した溶媒、気体または多孔質物質などの内容物で充填されている。このような空洞粒子は、たとえば図1に示される。図1は後述する調製例8で調製した粒子(P-8)のTEM写真(10万倍)である。
このような無機化合物粒子の平均粒子径が5?300nm、好ましくは10?200nmの範囲にあることが望ましい。使用される無機化合物粒子は、形成される透明被膜の厚さに応じて適宜選択され、形成される透明被膜の膜厚の2/3?1/10の範囲にあることが望ましい。
【0042】
複合粒子の被覆層の厚さまたは空洞粒子の粒子壁の厚さは、1?20nm、好ましくは2?15nmの範囲にあることが望ましい。
複合粒子の場合、被覆層の厚さが1nm未満の場合は、粒子を完全に被覆することができないことがあり、後述する塗布液成分である無機酸化物前駆体のうちで、重合度の低い珪酸モノマー、オリゴマーなどが容易に複合粒子の内部に内部に進入して内部の多孔性が減少し、低屈折率の効果が充分得られないことがある。また、被覆層の厚さが20nmを越えると、無機酸化物前駆体が内部に進入することはないが、複合粒子の多孔性(細孔容積)が低下し低屈折率の効果が充分得られなくなることがある。また空洞粒子の場合、粒子壁の厚さが1nm未満の場合は、粒子形状を維持できないことがあり、また厚さが20nmを越えても、低屈折率の効果が充分に現れないことがある。
【0043】
前記複合粒子の被覆層または空洞粒子の粒子壁は、シリカを主成分とすることが好ましい。また複合粒子の被覆層または空洞粒子の粒子壁には、シリカ以外の成分が含まれていてもよく、具体的には、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、SnO_(2)、CeO_(2)、P_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、MoO_(3)、ZnO_(2)、WO_(3)などが挙げられる。複合粒子を構成する多孔質粒子としては、シリカからなるもの、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるもの、CaF_(2)、NaF、NaAlF_(6)、MgFなどからなるものが挙げられる。このうち特にシリカとシリカ以外の無機化合物との複合酸化物からなる多孔質粒子が好適である。シリカ以外の無機化合物としては、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、SnO_(2)、CeO_(2)、P_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、MoO_(3)、ZnO_(2)、WO_(3)等との1種または2種以上を挙げることができる。このような多孔質粒子では、シリカをSiO_(2)で表し、シリカ以外の無機化合物を酸化物換算(MO_(X))で表したときのモル比MO_(X)/SiO_(2)が、0.0001?1.0、好ましくは0.001?0.3の範囲にあることが望ましい。多孔質粒子のモル比MO_(X)/SiO_(2)が0.0001未満のものは得ることが困難であり、得られたとしてもさらに屈折率が低いものを得ることはない。また、多孔質粒子のモル比MO_(X)/SiO_(2)が、1.0を越えると、シリカの比率が少なくなるので、細孔容積が小さく、かつ屈折率の低い粒子を得られないことがある。
【0044】
このような多孔質粒子の細孔容積は、0.1?1.5ml/g、好ましくは0.2?1.5ml/gの範囲であることが望ましい。
細孔容積が0.1ml/g未満では、充分に屈折率の低下した粒子が得られず、1.5ml/gを越えると微粒子の強度が低下し、得られる被膜の強度が低下することがある。
【0045】
なお、このような多孔質粒子の細孔容積は水銀圧入法によって求めることができる。
また、空洞粒子の内容物としては、粒子調製時に使用した溶媒、気体、多孔質物質などが挙げられる。溶媒中には空洞粒子調製する際に使用される粒子前駆体の未反応物、使用した触媒などが含まれていてもよい。また多孔質物質としては、前記多孔質粒子で例示した化合物からなるものが挙げられる。これらの内容物は、単一の成分からなるものであってもよいが、複数成分の混合物であってもよい。
【0046】
無機化合物粒子の調製
このような無機化合物粒子の製造方法としては、たとえば本願出願人の出願による特開平7-133105号公報に開示された複合酸化物コロイド粒子の調製方法が好適に採用される。
具体的に、複合粒子が、シリカ、シリカ以外の無機化合物とからなる場合、以下の第1?第3工程から無機化合物粒子は製造される。
【0047】
第1工程:多孔質粒子前駆体の調製
第1工程では、予め、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、シリカ原料とシリカ以外の無機化合物原料との混合水溶液を調製しておき、この水溶液を目的とする複合酸化物の複合割合に応じて、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら徐々に添加して多孔質粒子前駆体を調製する。
【0048】
シリカ原料としては、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機塩基の珪酸塩を用いる。アルカリ金属の珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウムが用いられる。
有機塩基としては、テトラエチルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類を挙げることができる。なお、アンモニウムの珪酸塩または有機塩基の珪酸塩には、珪酸液にアンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、アミン化合物などを添加したアルカリ性溶液も含まれる。
【0049】
また、シリカ以外の無機化合物の原料としては、アルカリ可溶の無機化合物を用いられる。具体的には、Al、B、Ti、Zr、Sn、Ce、P、Sb、Mo、Zn、Wなどから選ばれる元素のオキソ酸、該オキソ酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩を挙げることができる。より具体的には、アルミン酸ナトリウム、四硼酸ナトリウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、アンチモン酸カリウム、錫酸カリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、硝酸セリウムアンモニウム、燐酸ナトリウムが適当である。
【0050】
これらの水溶液の添加と同時に混合水溶液のpH値は変化するが、このpH値を所定の範囲に制御するような操作は特に必要ない。水溶液は、最終的に、無機酸化物の種類およびその混合割合によって定まるpH値となる。このときの水溶液の添加速度にはとくに制限はない。
また、複合酸化物粒子の製造するに際して、シード粒子の分散液を出発原料と使用することも可能である。当該シード粒子としては、特に制限はないが、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、TiO_(2)またはZrO_(2)等の無機酸化物またはこれらの複合酸化物の微粒子が用いられ、通常、これらのゾルを用いることができる。さらに前記の製造方法によって得られた多孔質粒子前駆体分散液をシード粒子分散液としてもよい。シード粒子分散液を使用する場合、シード粒子分散液のpHを10以上に調整したのち、該シード粒子分散液中に前記化合物の水溶液を、上記したアルカリ水溶液中に攪拌しながら添加する。この場合も、必ずしも分散液のpH制御を行う必要はない。このようにして、シード粒子を用いると、調製する多孔質粒子の粒径コントロールが容易であり、粒度の揃ったものを得ることができる。
【0051】
上記したシリカ原料および無機化合物原料はアルカリ側で高い溶解度を有する。しかしながら、この溶解度の大きいpH領域で両者を混合すると、珪酸イオンおよびアルミン酸イオンなどのオキソ酸イオンの溶解度が低下し、これらの複合物が析出して微粒子に成長したり、あるいは、シード粒子上に析出して粒子成長が起こる。従って、微粒子の析出、成長に際して、従来法のようなpH制御は必ずしも行う必要がない。
【0052】
第1工程におけるシリカとシリカ以外の無機化合物との複合割合は、シリカに対する無機化合物を酸化物(MO_(x))に換算し、MO_(x)/SiO_(2)のモル比が、0.05?2.0、好ましくは0.2?2.0の範囲内にあることが望ましい。この範囲内において、シリカの割合が少なくなる程、多孔質粒子の細孔容積が増大する。しかしながら、モル比が2.0を越えても、多孔質粒子の細孔の容積はほとんど増加しない。他方、モル比が0.05未満の場合は、細孔容積が小さくなる。空洞粒子を調製する場合、MO_(x)/SiO_(2)のモル比は、0.25?2.0の範囲内にあることが望ましい。
【0053】
第2工程:多孔質粒子からのシリカ以外の無機化合物の除去
第2工程では、前記第1工程で得られた多孔質粒子前駆体から、シリカ以外の無機化合物(珪素と酸素以外の元素)の少なくとも一部を選択的に除去する。具体的な除去方法としては、多孔質粒子前駆体中の無機化合物を鉱酸や有機酸を用いて溶解除去したり、あるいは、陽イオン交換樹脂と接触させてイオン交換除去する。
【0054】
なお、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体は、珪素と無機化合物構成元素が酸素を介して結合した網目構造の粒子である。このような多孔質粒子前駆体から無機化合物(珪素と酸素以外の元素)を除去することにより、一層多孔質で細孔容積の大きい多孔質粒子が得られる。
また、多孔質粒子前駆体から無機酸化物(珪素と酸素以外の元素)を除去する量が多くすれば、空洞粒子を調製することができる。
【0055】
また、多孔質粒子前駆体からシリカ以外の無機化合物を除去するに先立って、第1工程で得られる多孔質粒子前駆体分散液に、シリカのアルカリ金属塩を脱アルカリして得られる珪酸液あるいは加水分解性の有機ケイ素化合物を添加してシリカ保護膜を形成することが好ましい。シリカ保護膜の厚さは0.5?15nmの厚さであればよい。なおシリカ保護膜を形成しても、この工程での保護膜は多孔質であり厚さが薄いので、前記したシリカ以外の無機化合物を、多孔質粒子前駆体から除去することは可能である。
【0056】
このようにシリカ保護膜を形成することによって、粒子形状を保持したまま、前記したシリカ以外の無機化合物を、多孔質粒子前駆体から除去することができる。また、後述するシリカ被覆層を形成する際に、多孔質粒子の細孔が被覆層によって閉塞されてしまうことがなく、このため細孔容積を低下させることなく後述するシリカ被覆層を形成することができる。なお、除去する無機化合物の量が少ない場合は粒子が壊れることがないので必ずしも保護膜を形成する必要はない。
【0057】
また空洞粒子を調製する場合は、このシリカ保護膜を形成しておくことが望ましい。空洞粒子を調製する際には、無機化合物を除去すると、シリカ保護膜と、該シリカ保護膜内の溶媒、未溶解の多孔質固形分とからなる空洞粒子の前駆体が得られ、該空洞粒子の前駆体に後述の被覆層を形成すると、形成された被覆層が、粒子壁となり空洞粒子が形成される。
【0058】
上記シリカ保護膜形成のために添加するシリカ源の量は、粒子形状を保持できる範囲で少ないことが好ましい。シリカ源の量が多すぎると、シリカ保護膜が厚くなりすぎるので、多孔質粒子前駆体からシリカ以外の無機化合物を除去することが困難となることがある。
シリカ保護膜形成用に使用される加水分解性の有機ケイ素化合物としては、一般式R_(n)Si(OR’)_(4-n)〔R、R’:アルキル基、アリール基、ビニル基、アクリル基等の炭化水素基、n=0、1、2または3〕で表されるアルコキシシランを用いることができる。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0059】
添加方法としては、これらのアルコキシシラン、純水、およびアルコールの混合溶液に触媒としての少量のアルカリ又は酸を添加した溶液を、前記多孔質粒子の分散液に加え、アルコキシシランを加水分解して生成したケイ酸重合物を無機酸化物粒子の表面に沈着させる。このとき、アルコキシシラン、アルコール、触媒を同時に分散液中に添加してもよい。アルカリ触媒としては、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アミン類を用いることができる。また、酸触媒としては、各種の無機酸と有機酸を用いることができる。
【0060】
多孔質粒子前駆体の分散媒が、水単独、または有機溶媒に対する水の比率が高い場合には、ケイ酸液を用いてシリカ保護膜を形成することも可能である。ケイ酸液を用いる場合には、分散液中にケイ酸液を所定量添加し、同時にアルカリを加えてケイ酸液を多孔質粒子表面に沈着させる。なお、ケイ酸液と上記アルコキシシランを併用してシリカ保護膜を作製してもよい。
【0061】
第3工程:シリカ被覆層の形成
第3工程では、第2工程で調製した多孔質粒子分散液(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体分散液)に加水分解性の有機ケイ素化合物またはケイ酸液等を加えることにより、粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液等の重合物で被覆してシリカ被覆層を形成する。
【0062】
シリカ被覆層形成用に使用される加水分解性の有機ケイ素化合物としては、前記したような一般式R_(n)Si(OR’)_(4-n)〔R、R’:アルキル基、アリール基、ビニル基、アクリル基等の炭化水素基、n=0、1、2または3〕で表されるアルコキシシランを用いることができる。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0063】
添加方法としては、これらのアルコキシシラン、純水、およびアルコールの混合溶液に触媒としての少量のアルカリ又は酸を添加した溶液を、前記多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)分散液に加え、アルコキシシランを加水分解して生成したケイ酸重合物を多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)の表面に沈着させる。このとき、アルコキシシラン、アルコール、触媒を同時に分散液中に添加してもよい。アルカリ触媒としては、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アミン類を用いることができる。また、酸触媒としては、各種の無機酸と有機酸を用いることができる。
【0064】
多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)の分散媒が水単独、または有機溶媒との混合溶媒であって、有機溶媒に対する水の比率が高い混合溶媒の場合には、ケイ酸液を用いて被覆層を形成してもよい。ケイ酸液とは、水ガラス等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液をイオン交換処理して脱アルカリしたケイ酸の低重合物の水溶液である。
【0065】
ケイ酸液は、多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)分散液中に添加され、同時にアルカリを加えてケイ酸低重合物を多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)表面に沈着させる。なお、ケイ酸液を上記アルコキシシランと併用して被覆層形成用に使用してもよい。
被覆層形成用に使用される有機ケイ素化合物またはケイ酸液の添加量は、コロイド粒子の表面を充分被覆できる程度であればよく、最終的に得られるシリカ被覆層の厚さが1?20nmとなるように量で、多孔質粒子(空洞粒子の場合は空洞粒子前駆体)分散液中で添加される。また前記シリカ保護膜を形成した場合はシリカ保護膜とシリカ被覆層の合計の厚さが1?20nmの範囲となるような量で、有機ケイ素化合物またはケイ酸液は添加される。
【0066】
ついで、被覆層が形成された粒子の分散液を加熱処理する。加熱処理によって、多孔質粒子の場合は、多孔質粒子表面を被覆したシリカ被覆層が緻密化し、多孔質粒子がシリカ被覆層によって被覆された複合粒子の分散液が得られる。また空洞粒子前駆体の場合、形成された被覆層が緻密化して空洞粒子壁となり、内部が溶媒、気体または多孔質固形分で充填された空洞を有する空洞粒子の分散液が得られる。
【0067】
このときの加熱処理温度は、シリカ被覆層の微細孔を閉塞できる程度であれば特に制限はなく、80?300℃の範囲が好ましい。加熱処理温度が80℃未満ではシリカ被覆層の微細孔を完全に閉塞して緻密化できないことがあり、また処理時間に長時間を要してしまうことがある。また加熱処理温度が300℃を越えて長時間処理すると緻密な粒子となることがあり、低屈折率の効果が得られないことがある。
【0068】
このようにして得られた無機化合物粒子の屈折率は、1.44未満と低い。このような無機化合物粒子は、多孔質粒子内部の多孔性が保持されているか、内部が空洞であるので、屈折率が低くなるものと推察される。
マトリックス
マトリックスとしては、シリカ、ジルコニア、チタニアなどの無機酸化物、およびこれらの複合酸化物などが挙げられ、これらのうちでもとくにシリカを主成分とするものが望ましい。このようなマトリックスとしては、屈折率が1.6以下のものが好ましい。
【0069】
透明膜中のマトリックスと無機化合物粒子との重量比は、マトリックス/無機化合物粒子が0.1?10、好ましくは0.2?5の範囲にあることが望ましい。
透明被膜形成用塗布液
このような透明被膜は、たとえばマトリックス前駆体と前記無機化合物粒子を含む透明被膜形成用塗布液を用いて形成される。
【0070】
マトリックス前駆体としては、透明性を有し、基材より屈折率が低く、反射防止性能を有する被膜を形成できるものであれば特に制限はないが、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの無機酸化物の前駆体、またはこれらの複合酸化物の前駆体が挙げられる。このような前駆体とは、ケイ素化合物、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物の塩またはこれらの加水分解物から選ばれる1種または2種以上を意味している。
【0071】
本発明では、マトリックス前駆体として、シリカ前駆体が好ましく、とくに、加水分解性有機ケイ素化合物の部分加水分解物、加水分解重縮合物、またはアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を脱アルカリして得られるケイ酸液、特に下記一般式[1]で表されるアルコキシシランの加水分解重縮合物であるシリカ前駆体が好ましい。
【0072】
R_(a)Si(OR’)_(4-a)[1]
(式中、Rはビニル基、アリール基、アクリル基、炭素数1?8のアルキル基、水素原子またはハロゲン原子であり、R’はビニル基、アリール基、アクリル基、炭系数1?8のアルキル基、-C_(2)H_(4)OC_(n)H_(2n+1)(n=1?4)または水素原子であり、aは1?3の整数である。)
このようなアルコキシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0073】
さらに、前記シリカ前駆体は、分子量がポリスチレン換算の分子量で500?10000の範囲にあることが好ましく、特に好ましい範囲は700?2500である。
シリカ前駆体のポリスチレン換算の分子量で500未満の場合は、塗布液中に未加水分解物が存在することがあり、透明被膜形成用塗布液を導電層に均一に塗布できないことがあり、また仮に塗布できたとしても導電層と透明被膜との密着性に劣ることがある。シリカ前駆体のポリスチレン換算の分子量で10000を越えると被膜の強度が低下する傾向にある。
【0074】
これらのマトリックス前駆体を含む塗布液から形成される透明被膜は、基材上に形成された導電層よりも屈折率が小さく、得られる透明被膜付基材は反射防止性に優れている。
また、上記のアルコキシシランの1種または2種以上を、たとえば水-アルコール混合溶媒中で酸触媒の存在下、加水分解すると、アルコキシシランの加水分解重縮合物からなるマトリックス前駆体分散液が得られる。
【0075】
このマトリックス前駆体分散液に前記無機化合物粒子が混合されて、透明被膜形成用塗布液が調製される。
透明被膜形成用塗布液中に含まれる前記無機化合物粒子の濃度は、酸化物換算で0.05?3重量%の範囲にあることが好ましい。特に好ましくは0.2?2重量%の範囲である。
【0076】
塗布液に含まれる無機化合物粒子の濃度が0.05重量%未満の場合では、無機化合物粒子の量が少なすぎて、得られる透明被膜が反射防止性能に劣ることがあり、無機化合物粒子の濃度が3重量%を越えると得られる膜にクラックが生じたり、膜の強度が低下することがある。
また、塗布液中に含まれるマトリックス前駆体の濃度は、酸化物換算で0.05?10重量%の範囲にあることが好ましい。特に好ましくは0.1?5.0重量%の範囲である。
【0077】
塗布液に含まれるマトリックス前駆体の濃度が0.05重量%未満の場合は、得られる膜の膜厚が薄いために耐久性や反射防止性能に劣ることがあり、また1回の塗布で充分な膜厚の膜を得られないことがあり、塗布を繰り返して行った場合は均一な膜厚の膜が得られないことがある。
マトリックス前駆体の濃度が10重量%を越えると得られる膜にクラックが生じたり、膜の強度が低下することがある。また膜が厚過ぎて反射防止性能が不充分となることがある。
【0078】
さらにまた、透明被膜形成用塗布液には、フッ化マグネシウムなどの低屈折率材料で構成された微粒子、透明被膜の透明度および反射防止性能を阻害しない程度に少量の導電性微粒子および/または染料または顔料などの添加剤が含まれていてもよい。
透明被膜の形成
透明被膜の形成方法としては、特に制限はなく、前記した塗布液を、基材等の材質に応じて、ディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法など方法で塗布した後、乾燥する湿式薄膜形成方法を採用することができる。
【0079】
また、形成する透明被膜の膜厚は、50?300nm、好ましくは80?200nmの範囲であることが好ましく、このような範囲の膜厚であると優れた耐久性を発揮するとともにボトム反射率および視感反射率が低く優れた反射防止性能を発揮する。
透明被膜の膜厚が50nm未満の場合は、膜の強度、耐久性、反射防止性能等が劣ることがある。
【0080】
透明被膜の膜厚が300nmを越えると、膜にクラックが発生したり膜の強度が低下することがあり、また膜が厚過ぎて反射防止性能が不充分となることがある。
本発明では、このような透明被膜形成用塗布液を塗布して形成した被膜を、乾燥時、または乾燥後に、100℃以上で加熱するか、未硬化の被膜に可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射するか、あるいはアンモニアなどの活性ガス雰囲気中に晒してもよい。このようにすると、被膜形成成分の硬化が促進され、得られる透明被膜の硬度が高くなる。
【0081】
さらに、透明被膜形成用塗布液を塗布して被膜を形成する際に、導電層が設けられた基材を約40?90℃に保持しながら透明被膜形成用塗布液をスプレー法で塗布して、前記のような処理を行うと、透明被膜の表面にリング状の凹凸が形成され、ギラツキの少ないアンチグレアの透明被膜付基材が得られる。
このときの透明導電層と透明被膜の屈折率の差は概ね0.3以上あることが好ましい。さらに好ましくは0.6以上あることが望ましい。屈折率の差が0.3未満の場合は反射防止性能が不充分となる。
【0082】
表示装置
本発明に係る透明導電性被膜付基材は、10^(12)Ω/□以下の表面抵抗を有し、かつ可視光領域および近赤外領域で充分な反射防止性能を有する透明導電性被膜付基材は、表示装置の前面板として好適に用いられる。
本発明に係る表示装置は、ブラウン管(CRT)、蛍光表示管(FIP)、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶用ディスプレイ(LCD)などのような電気的に画像を表示する装置であり、上記のような透明導電性被膜付基材で構成された前面板を備えている。
【0083】
従来の前面板を備えた表示装置を作動させると、前面板に埃等が付着したり、前面板に画像が表示されると同時に電磁波が前面板から放出されることがあるが、本発明に係る表示装置では、前面板が10^(12)Ω/□以下の表面抵抗を有する透明導電性被膜付基材で構成されているので、埃等が付着しにくく、特に、前面板が10^(2)?10^(4)Ω/□の表面抵抗を有する透明導電性被膜付基材で構成されている場合には、このような電磁波、およびこの電磁波の放出に伴って生じる電磁場を効果的に遮蔽することができる。
【0084】
また、表示装置の前面板で反射光が生じると、この反射光によって表示画像が見にくくなるが、本発明に係る表示装置では、前面板が透明導電性被膜および定屈折率の透明被膜付基材から構成されておりボトム反射率および視感反射率がともに低いので、このような反射光を可視光領域および近赤外領域にわたって効果的に防止することができる。
【0085】
さらに、ブラウン管の前面板が、本発明に係る透明導電性被膜付基材で構成され、この透明導電性被膜のうち、透明導電性微粒子層、その上に形成された透明被膜の少なくとも一方に少量の染料または顔料が含まれている場合には、これらの染料または顔料がそれぞれ固有な波長の光を吸収し、これによりブラウン管から放映される表示画像のコントラストを向上させることができる。
【0086】
また、ブラウン管の前面板が、本発明に係る低屈折率の無機化合物粒子を含む低屈折率透明被膜付基材で構成されているので反射防止性能に優れ、可視光の散乱もなく鮮明な表示画像が得られる。また、透明被膜は導電層との密着性に優れ、このため保護膜としての性能に優れるため、優れた表示性能を長期にわたって維持することができ、さらに導電性を長期にわたって維持することができるので帯電防止性能、電磁波遮蔽性能が低下することもない。
【0087】
【発明の効果】
本発明に係る、透明被膜付基材は、低屈折率の無機化合物粒子を含む透明被膜が導電層表面に形成されているため、耐久性に優れるとともにボトム反射率が低くかつ視感反射率の低い上に、反射防止性能にも優れている。
本発明に係る表示装置は、反射防止性能にも優れるとともに耐久性に優れるため、可視光の散乱もなく鮮明な表示画像が得られ、また優れた表示性能を長期にわたって維持することができる。さらに導電性を長期にわたって維持することができるので帯電防止性能、電磁波遮蔽性能が低下することもない。
【0088】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
【調製例1】
複合粒子(P-1)の調製
平均粒径5nm、SiO_(2)濃度20重量%のシリカゾル100gと純水1900gとを混合して反応母液を調製し、80℃に加温した。この反応母液のpHは10.5であり、同母液にSiO_(2)として1.5重量%の珪酸ナトリウム水溶液9000gとAl_(2)O_(3)として0.5重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9000gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を80℃に保持した。反応液のpHは、珪酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの添加直後、12.5に上昇し、その後、殆ど変化しなかった。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%のSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子前駆体の分散液(A)を調製した。(第1工程)
この多孔質粒子前駆体の分散液(A)500gに純水1,700gを加えて98℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂で脱アルカリして得られたケイ酸液(SiO_(2)濃度3.5重量%)3,000gを添加して多孔質粒子前駆体表面にシリカ保護膜を形成した。得られた多孔質粒子前駆体の分散液を、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度13重量%に調整したのち、多孔質粒子前駆体の分散液500gに純水1,125gを加え、さらに濃塩酸(35.5%)を滴下してpH1.0とし、脱アルミニウム処理を行った。
【0090】
次いで、pH3の塩酸水溶液10Lと純水5Lを加えながら限外濾過膜で溶解したアルミニウム塩を分離し、一部のアルミニウムが除去されたSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子の分散液(B)を調製した。(第2工程)
上記多孔質粒子の分散液(B)1500gと、純水500g、エタノール1,750gおよび28%アンモニア水626gとの混合液を35℃に加温した後、エチルシリケート(SiO_(2)28重量%)104gを添加し、多孔質粒子の表面をエチルシリケートの加水分解重縮合物で被覆した。次いで、エバポレーターで固形分濃度5重量%まで濃縮した後、濃度15重量%のアンモニア水を加えてpH10とし、オートクレーブで180℃、2時間加熱処理し、限外濾過膜を用いて溶媒をエタノールに置換した固形分濃度20重量%の複合粒子(P-1)の分散液を調製した。(第3工程)
この複合粒子(P-1)の平均粒径、SiO_(2)/MO_(x)(モル比)、および屈折率を表1に示す。ここで、平均粒径は動的光散乱法により測定し、屈折率は標準屈折液としてCARGILL製のSeriesA、AAを用い、以下の方法で測定した。
【0091】
粒子の屈折率の測定方法
(1)粒子分散液をエバポレーターに採り、分散媒を蒸発させる。
(2)これを120℃で乾燥し、粉末とする。
(3)屈折率が既知の標準屈折液を2、3滴ガラス板上に滴下し、これに上記粉末を混合する。
(4)上記(3)の操作を種々の標準屈折液で行い、混合液が透明になったときの標準屈折液の屈折率をコロイド粒子の屈折率とする。
【0092】
【調製例2】
複合粒子(P-2)の調製
上記で得られた多孔質粒子前駆体の分散液(A)100gに純水1,900gを加えて95℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO_(2)として1.5g重量%)27,000gおよびアルミン酸ナトリウム水溶液(Al_(2)O_(3)として0.5重量%)27,000gを同時に徐々に添加し、多孔質粒子前駆体の分散液(A)の粒子をシード粒子として粒子成長を行った。添加終了後、室温まで冷却した後、限外濾過膜で洗浄、濃縮して、固形分濃度20重量%のSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子前駆体の分散液(C)を得た。(第1工程)
この多孔質粒子前駆体の分散液(C)500gを採り、調製例1と同様の方法により、第2工程のシリカ保護膜を形成したのち、脱アルミニウム処理を行い、さらに第3工程のエチルシリケートの加水分解物による被覆処理等を行い、表1に示す複合粒子(P-2)の分散液を調製した。
【0093】
【調製例3】
複合粒子(P-3)の調製
上記で得られたSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子前駆体の分散液(C)100gに純水1,900gを加えて95℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO_(2)として1.5g重量%)7,000gおよびアルミン酸ナトリウム水溶液(Al_(2)O_(3)として0.5重量%)7,000gを同時に徐々に添加し、粒子成長を行わせた。添加終了後、室温まで冷却した後、限外濾過膜で洗浄、濃縮して、固形分濃度13重量%のSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子前駆体の分散液(D)を得た。
【0094】
この多孔質粒子前駆体分散液(D)500gを採り、これに純水1,125gを加え、さらに濃塩酸(35.5%)を滴下してpH1.0とし、脱アルミニウム処理を行った。
次いで、pH3の塩酸水溶液10Lと純水5Lを加えながら限外濾過膜で溶解したアルミニウム塩を分離し、一部のアルミニウムが除去されたSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子の分散液(E)を調製した。
【0095】
上記多孔質粒子の分散液(E)1500gと、純水500g、エタノール1,750gおよび濃度28重量%のアンモニア水626gとの混合液を35℃に加温した後、エチルシリケート(SiO_(2)28重量%)210gを添加し、多孔質粒子の表面をエチルシリケートの加水分解重縮合物で被覆してシリカ被覆層を形成した。次いで、エバポレーターで固形分濃度5重量%まで濃縮した後、濃度15重量%のアンモニア水を加えてpH10とし、オートクレーブで180℃、2時間加熱処理し、限外濾過膜を用いて溶媒をエタノールに置換して表1に示す複合粒子(P-3)の分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0096】
【調製例4】
複合粒子(P-4)の調製
前記複合粒子(P-1)を調製する際のアルミン酸ナトリウムの代わりに、SnO_(2)として0.5重量%の錫酸カリウム水溶液9,000gを用いた以外は、複合粒子(P-1)と同様の方法で、固形分濃度20重量%のSiO_(2)・SnO_(2)多孔質粒子前駆体を得、更に複合粒子(P-1)と同様の方法で、シリカ保護膜を形成したのち、脱Sn処理(調製例1の脱アルミニウム処理と同じ処理)および被覆層の形成を行い、表1に示す複合粒子(P-4)の分散液を調製した。
【0097】
【調製例5】
複合粒子(P-5)の調製
複合粒子(P-1)の調製と同様にして、平均粒径5nm、SiO_(2)濃度20重量%のシリカゾル100gと純水1900gの混合物を80℃に加温した。この反応液のpHは10.5であり、該反応液にSiO_(2)として1.5重量%の珪酸ナトリウム水溶液9000gとAl_(2)O_(3)として0.5重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9000gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を80℃に保持した。反応液のpHは添加直後、12.5に上昇し、その後、殆ど変化しなかった。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄した後、溶媒をエタノールに置換して表1に示すSiO_(2)・Al_(2)O_(3)複合粒子(P-5)の分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0098】
【調製例6】
無機化合物粒子(P-6)の調製
無機化合物粒子(P-6)として、シリカゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイド SI-45P、濃度40重量%)をエタノールで希釈し、ついで限外濾過膜を用いて溶媒をエタノールに置換して表1に示す非孔質シリカ粒子(P-6)の分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0099】
【調製例7】
無機化合物粒子(P-7)の調製
メチルシリケート(SiO_(2)39重量%)100gとメタノール530gとの混合液に、濃度28重量%のアンモニア水を添加し、35℃で24時間撹拌した後、限外濾過膜を用いて洗浄した後、溶媒をエタノールに置換して表1に示す多孔質シリカ粒子(P-7)の分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0100】
【調製例8】
空洞粒子(P-8)の調製
平均粒径5nm、SiO_(2)濃度20重量%のシリカゾル10gと純水190gとを混合して反応母液を調製し、95℃に加温した。この反応母液のpHは10.5であり、同母液にSiO_(2)として1.5重量%の珪酸ナトリウム水溶液24,900gと、Al_(2)O_(3)として0.5重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液36,800gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を95℃に保持した。反応液のpHは、珪酸ナトリウムおよびアルミン酸ナトリウムの添加直後、12.5に上昇し、その後、殆ど変化しなかった。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%のSiO_(2)・Al_(2)O_(3)多孔質粒子前駆体の分散液(F)を調製した。(第1工程)
次いで、この多孔質粒子前駆体の分散液(F)500gを採取し、純水1,700gを加えて98℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂で脱アルカリして得られたケイ酸液(SiO_(2)濃度3.5重量%)3,000gを添加して多孔質粒子前駆体表面にシリカ保護膜を形成した。得られた多孔質粒子前駆体の分散液を、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度13重量%に調整したのち、多孔質粒子前駆体の分散液500gに純水1,125gを加え、さらに濃塩酸(35.5%)を滴下してpH1.0とし、脱アルミニウム処理を行ったのち、pH3の塩酸水溶液10Lと純水5Lを加えながら限外濾過膜で溶解したアルミニウム塩を分離し、空洞粒子の前駆体分散液を調製した。(第2工程)
上記空洞粒子の前駆体分散液1500gと、純水500g、エタノール1,750gおよび28%アンモニア水626gとの混合液を35℃に加温した後、エチルシリケート(SiO_(2)28重量%)104gを添加し、空洞粒子の前駆体表面にエチルシリケートの加水分解重縮合物でシリカ被覆層を形成することによって、空洞粒子の粒子壁を形成した。次いで、エバポレーターで固形分濃度5重量%まで濃縮した後、濃度15重量%のアンモニア水を加えてpH10とし、オートクレーブで180℃、2時間加熱処理し、限外濾過膜を用いて溶媒をエタノールに置換した固形分濃度20重量%の複合粒子(P-8)の分散液を調製した。(第3工程)
【0101】
【表1】

【0102】
【調製例9】
導電性微粒子分散液の調製
▲1▼複合金属微粒子(Q-1、Q-4)の分散液(S-1、S-4)は、以下の方法で調製した。純水100gに、あらかじめクエン酸3ナトリウムを金属微粒子1重量部当たり0.01重量部となるように加え、これに金属換算で濃度が10重量%となり、金属種が表2の重量比となるように硝酸銀および硝酸パラジウム水溶液を加え、さらに硝酸銀および硝酸パラジウムの合計モル数と等モル数の硫酸第一鉄の水溶液を添加し、窒素雰囲気下で1時間攪拌して表2に示す組成の複合金属微粒子の分散液を得た。得られた分散液は遠心分離器により水洗して不純物を除去した後、水に分散させ、ついで表3に示した溶媒(1-エトキシ-2プロパノール)を混合した後ロータリーエバポレーターにて水分を除去するとともに濃縮して表2に示す固形分濃度の金属微粒子分散液(S-1、S-4)を調製した。
【0103】
▲2▼金属微粒子(Q-2,Q-3)の分散液(S-2,S-3)は、以下の方法で調製した。
純水100gに、あらかじめクエン酸3ナトリウムを金属微粒子1重量部当たり0.1重量部となるように加え、これに金属換算で濃度が1重量%となるように表2の金属種の金属塩水溶液(塩化金酸水溶液、塩化ルテニウム水溶液)を加えて溶解し、さらに溶解した金属塩の合計モル数と等モル数の濃度5重量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加して表2に示す金属微粒子(Q-1,Q-4)の分散液を得た。ついで、この分散液を限外濾過装置で洗浄しついで濃縮した。その後、表3に示した溶媒(1-エトキシ-2プロパノール、イソブタノール)を混合した後ロータリーエバポレーターにて水分を除去するとともに濃縮して表2に示す固形分濃度の金属微粒子分散液(S-2,S-3)を調製した。
【0104】
▲3▼導電性カーボン微粒子(Q-5)の分散液(S-5)は、以下の方法で調製した。1-エトキシ-2プロパノール100gに、導電性カーボン微粒子(Q-5)(三菱化学(株)製 平均粒子径60nm)を濃度20重量%になるように加えて導電性カーボン微粒子分散液(S-5)を調製した。
▲4▼導電性無機酸化物微粒子(Q-6)の分散液(S-6)は以下のようにして調製した。
【0105】
硝酸インジウム79.9gを水686gに溶解して得られた溶液と、錫酸カリウム12.7gを濃度10重量%の水酸化カリウム溶液に溶解して得られた溶液とを調製し、これらの溶液を、50℃に保持された1000gの純水に2時間かけて添加した。この間、系内のpHを11に保持した。得られたSnドープ酸化インジウム水和物分散液からSnドープ酸化インジウム水和物を濾別・洗浄した後、乾燥し、次いで空気中で350℃の温度で3時間焼成し、さらに空気中で600℃の温度で2時間焼成することによりSnドープ酸化インジウム微粒子(Q-6)を得た。これを濃度が30重量%となるように純水に分散させ、さらに硝酸水溶液でpHを3.5に調製した後、この混合液を30℃に保持しながらサンドミルで、3時間粉砕してゾルを調製した。次に、このゾルをイオン交換樹脂で処理して硝酸イオンを除去し、純水を加えて表2に示す濃度のスズをドープした酸化インジウム(ITO)微粒子の分散液(S-6)を調製した。
【0106】
【調製例10】
c)マトリックス形成成分液(M)の調製
正珪酸エチル(TEOS)(SiO_(2):28重量%)50g、エタノール194.6g、濃硝酸1.4gおよび純水34gの混合溶液を室温で5時間攪拌してSiO_(2)濃度5重量%のマトリックス形成成分を含む液(M)を調製した。
【0107】
【調製例11】
d)透明導電性被膜形成用塗布液の調製
以上のような(S-1)?(S-6)の分散液と、マトリックス形成成分液(M)、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノールから表3に示す組成となるように混合して、透明導電性被膜形成用塗布液(CS-1)?(CS-5)を調製した。
【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
【参考例1】
透明被膜形成用塗布液(B-1)の調製
上記マトリックス形成成分を含む(M)液に、エタノール/ブタノール/ジアセトンアルコール/イソプロピルアルコール(2:1:1:5重量混合比)の混合溶媒を加え、上記で調製した複合粒子(P-1)の分散液を複合粒子の濃度が表4に示す濃度となるように添加して、SiO_(2)濃度1重量%の透明被膜形成用塗布液(B-1)を調製した。
【0111】
透明被膜付パネルガラスの製造
ブラウン管用パネルガラス(14”)の表面を40℃で保持しながら、スピナー法で100rpm、90秒の条件で上記透明導電性被膜形成用塗布液(CS-1)を透明導電性被膜の膜厚が20nmとなるように塗布し乾燥した。
次いで、このようにして形成された各透明導電性被膜上に、同じように、スピナー法で100rpm、90秒の条件で透明被膜形成用塗布液(B-1)を透明被膜の膜厚が80nmとなるように塗布・乾燥し、160℃で30分間焼成して透明被膜付基材を得た。
【0112】
上記で得た各透明導電性被膜付基材の表面抵抗を表面抵抗計(三菱油化(株)製:LORESTA)で測定し、ヘーズをヘーズコンピューター(日本電色(株)製:3000A)で測定した。反射率は反射率計(大塚電子(株)製:MCPD-2000)を用いて測定し、波長400?700nmの範囲で反射率が最も低い波長での反射率としこれをボトム反射率として、また波長400?700nmの範囲における平均反射率を視感反射率として表示した。微粒子の粒子径は、マイクロトラック粒度分析計((株)日機装製)を使用した。
【0113】
密着性は、透明被膜の表面にナイフで縦横それぞれ1mmの間隔で11本の傷を付け100個の升目を作り、これに粘着テープを接着し、ついで粘着テープを剥離したときに、被膜が剥離せず残存している升目の多少を以下の2段階で評価した。
残存升目の数95個以上:○
残存升目の数94個以下:×
また、上記で得た透明被膜付基材を用いて、表示装置を組立て、表示性能として画像および画像面から5mの距離にある蛍光灯の反射の程度(映り込み)および着色程度を観察し、以下の基準で評価した。
【0114】
反射(映り込み)および着色が弱く、画像が鮮明であるもの:◎
反射(映り込み)は弱いが着色が認められものの画像は鮮明であるもの:○
反射(映り込み)および着色が強く、画像の一部が不鮮明であるもの:△
反射(映り込み)および着色が強く、映り込みが画像より鮮明であるもの:×
さらに、上記で得た透明被膜付基材について以下の耐久性の評価を実施した。
【0115】
結果を表4に示す。
耐久性の評価
透明被膜付基材を、100℃の沸騰蒸留水に30分間浸漬した後、前記と同様に表面抵抗、反射率、ヘーズを測定した。
結果を表4に示す。
【0116】
【参考例1?5、実施例6】
透明被膜形成用塗布液(B-2?B-5、B-9)の調製
上記マトリックス形成成分を含む(M)液に、エタノール/ブタノール/ジアセトンアルコール/イソプロピルアルコール(2:1:1:5重量混合比)の混合溶媒を加え、上記で調製した複合粒子(P-2?P-4)または空洞粒子(P-8)の分散液を粒子の濃度が表4に示す濃度となるように添加して、SiO_(2)濃度1重量%の透明被膜形成用塗布液(B-2?B-5、B-9)を調製した。
【0117】
透明被膜付パネルガラスの製造
表4に示す透明導電性被膜形成用塗布液(CS-2?CS-5)を使用して、参考例1と同様に透明導電性被膜(CS-2?CS-4)では膜厚20nm、CS-5では膜厚100nm)を形成したのち、上記透明被膜形成用塗布液(B-2?B-5、B-9)を用い参考例1と同様にして透明被膜付基材を得た。得られた透明被膜付基材の表面抵抗、ヘーズ、反射率、密着性および表示性能を評価し、結果を表4に示す。また、参考例1と同様に耐久性を評価した。結果を表4に示す。
【0118】
【比較例1?5】
透明被膜形成用塗布液(B-6?B-8)の調製
上記マトリックス形成成分を含む(M)液に、エタノール/ブタノール/ジアセトンアルコール/イソプロピルアルコール(2:1:1:5重量混合比)の混合溶媒を加え、上記で調製した粒子(P-5?P-7)分散液を粒子の濃度が表4に示す濃度となるように添加して、SiO_(2)濃度1重量%の透明被膜形成用塗布液(B-5?B-8)を調製した。
なお、比較例3では無機化合物粒子を含まずマトリックス前駆体のみを含む塗布液を使用して評価した。
【0119】
透明被膜付パネルガラスの製造
実施例1と同様にして透明導電性被膜形成用塗布液(CS-1)を用いて透明導電性被膜(膜厚20nm)を形成したのち(なお、比較例5は透明導電性被膜形成用塗布液(CS-5)を用いて膜厚100nmの被膜)、透明被膜形成用塗布液(B-6?B-8)を用いた以外は実施例1と同様にして透明被膜付基材を得た。得られた透明被膜付基材の表面抵抗、ヘーズ、反射率、密着性および表示性能を評価し、結果を表4に示す。
また、参考例1と同様に耐久性を評価した。結果を表4に示す。
【0120】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【図1】空洞粒子のTEM写真を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2009-12-22 
出願番号 特願平11-352450
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (H01B)
P 1 113・ 841- ZA (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
青木 千歌子
登録日 2007-06-22 
登録番号 特許第3973330号(P3973330)
発明の名称 透明被膜付基材、および表示装置  
代理人 高畑 ちより  
代理人 平栗 宏一  
代理人 牧村 浩次  
代理人 平栗 宏一  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  

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