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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20076053 審決 特許
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許
無効2007800033 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12Q
審判 全部無効 2項進歩性  C12Q
管理番号 1213136
審判番号 無効2009-800085  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-04-22 
確定日 2010-02-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4278066号発明「糖化蛋白質測定用組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1. 手続の経緯
本件特許第4278066号に係る発明(以下,「本件発明」という。)についての出願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成14年1月30日(優先日,平成13年1月31日,平成13年2月16日,平成13年8月8日)にした特願2002-561054号の一部を分割して,平成20年8月18日に新たな特許出願とした特願2008-209827号の一部をさらに分割して,平成20年9月25日に新たに特願2008-245316号として特許出願したものであって,平成21年3月19日にその発明について特許の設定登録がなされた。その後,平成21年4月22日付で請求人アークレイ株式会社より特許無効審判が請求され,平成21年7月30日に答弁書及び訂正請求書が提出され,平成21年11月5日に第1回口頭審理を行った後,平成21年11月5日,平成21年11月12日及び平成21年11月27日に請求人より上申書(以下,それぞれ,「請求人第1上申書」,「請求人第2上申書」,「請求人第3上申書」という。)が提出され,平成21年11月5日及び平成21年11月20日に被請求人より上申書(以下,それぞれ,「被請求人第1上申書」,「被請求人第2上申書」という。)が提出された。

第2. 平成21年7月30日付の訂正の可否に対する判断
1.訂正の内容
被請求人は本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めているところ,その内容は以下のとおりである。

本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1?7において
「【請求項1】
プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法において,
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ,
該試料中に含まれる糖化アミノ酸を予め消去し,次いで
プロテアーゼを作用させる
ことを特徴とする糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項2】
糖化蛋白質が糖化アルブミンである請求項1に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項3】
試料が,糖尿病患者由来血液試料である請求項1又は2に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項4】
プロテアーゼを作用させる時間が5?10分未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかの測定方法に用いられる,プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて糖化蛋白質を測定する組成物であって,
第1試薬にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ,
第1試薬より後に用いる第2試薬にプロテアーゼを含有する
ことを特徴とする組成物。
【請求項7】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項6に記載の組成物。」
とあるのを,
「【請求項1】
プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法において,
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ,
該試料中に含まれる糖化アミノ酸を予め消去し,次いで
プロテアーゼを添加して作用させる
ことを特徴とする糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項2】
糖化蛋白質が糖化アルブミンである請求項1に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項3】
試料が,糖尿病患者由来血液試料である請求項1又は2に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項4】
プロテアーゼを作用させる時間が5?10分未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかの測定方法に用いられる,プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて糖化蛋白質を測定する組成物であって,
第1試薬にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ,
第1試薬より後に用いる第2試薬にプロテアーゼを含有する
ことを特徴とする組成物。
【請求項7】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項6に記載の組成物。」
と,請求項1に「次いでプロテアーゼを作用させる」とあるのを,「次いでプロテアーゼを添加して作用させる」と訂正する。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の請求項1は,「プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法において,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ,該試料中に含まれる糖化アミノ酸を予め消去し,次いでプロテアーゼを作用させることを特徴とする糖化蛋白質を測定する方法。」というものである。
そうすると,上記訂正は,請求項1の「プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法」におけるプロテアーゼを作用させる工程につき,該作用は上記プロテアーゼの添加によりなされることを特定するものといえるから,特許請求の範囲の減縮に該当するものである。あるいは,上記訂正は,プロテアーゼの作用のさせ方をより明確にするものとも解され,明りょうでない記載の釈明であるということもできる。

また,上記訂正事項に関連して,本件特許明細書には,「第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素,第2試薬にプロテアーゼを含有する組成物」に係る実施例23を記載する特許明細書段落【0105】には,
「R-1
200mM POPSO 緩衝液 pH7.5
5mM 4‐アミノアンチピリン
10 U/ml POD
20 U/ml R‐FOD
5 U/ml アスコルビン酸オキシダーゼ
3% グルタミン酸
R-2
20mM ピベラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)緩衝液 pH6.5
20% DMSO
8000 U/ml プロテアーゼタイプXXIV
4% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2ハイドロキシ-1-プロパン
5 mM TODBR-3,4
実施例22に同じ」,及び,
「<反応手順>
実施例22に同じ」
との記載があり,そして実施例22を記載する特許明細書段落【0103】には,
「<反応手順>
37℃にインキュベートされたR-1;240μlに試料8μlを添加し,37℃で反応を開始し,正確に5分後にR-2;80μlを添加した。」
と,成分R-1添加の後に成分R-2を添加することの記載がある。
ここで,特許明細書段落【0011】における「フザリウム・オキシスポルム由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FOD)」の記載,及び,特許明細書段落【0027】における「プロテアーゼと共存させた状態でも充分な活性を有し,かつ安価に製造可能な酵素の例としては,遺伝子組み替え型ケトアミンオキシダーゼ(R-FOD;旭化成社製)・・・が挙げられる。」の記載によれば,上記実施例23の組成物における成分R-1にはR-FOD,すなわちフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが含まれ,そして,成分R-2には「プロテアーゼタイプXXIV」のとおりプロテアーゼが含まれることから,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ,次いでプロテアーゼを添加して作用させることは,実施例23に記載されているといえる。
そうすると,上記訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲でなされたものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

また,請求項1の訂正により,結果として,同様に訂正がなされる,請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7についても同様である。

3.訂正の可否についての結論
以上のとおりであるから,上記請求項1?7の訂正からなる上記訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する特許法第126条第3及び4項に規定する要件を満たすものであるから,当該訂正を認める。

第3. 本件発明
平成21年7月30日付の訂正が上述のとおり認められたので,その無効が請求された本件特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」・・・「本件発明7」という。)は,上記第2.1において記載したとおり,当該訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものである。

第4. 請求人が主張する無効理由の概略
請求人アークレイ株式会社は,本件審判請求に際し,
甲第1号証:特開2000-333696号公報
甲第2号証:特開2000-97927号公報
甲第3号証:特表平11-504808号公報
甲第4号証:小宮山妃嗣,他2名,「酵素的方法によるGlycated Proteinの新規測定法の開発」,臨床化学,第27号,p.99-106,1998年
甲第5号証:特開2001-54398号
甲第6号証:国際公開第97/13872号パンフレット
甲第7号証:和光純薬工業株式会社 フルクトサミン測定用「オートワコー フルクトサミン(商品名)」添付文書,1998年2月
甲第8号証:国際公開第02/061119号パンフレット
甲第9号証:特開平10-14596号公報
甲第10号証:再公表特許 平成11年4月6日発行(WO98/26090号,国際公開日 平成10年6月18日)
甲第11号証:特開2001-264336号公報
甲第12号証:臨外,第36巻,第12号,p.1837-1844,1981年
甲第13号証:外科MOOK,No.42,p.143-152,1985年
甲第14号証:JJPEN,Vol.12,No.3,p.344-369,1990年
甲第15号証:医学のあゆみ,第120巻,第5号,p.427-433,昭和57年1月30日
甲第16号証:テルモ株式会社および田辺製薬株式会社,アミノ酸加総合電解質液「アミカリック(登録商標)」パンフレット,1999年3月
甲第17号証:PHARM TECH JAPAN,Vol.16,No.4,p.127-132,2000年
甲第18号証:メルクマニュアル,第16版,p.1087-1092,1994年
甲第19号証:化学と生物,Vol.21,No.6,p.368-380,1983年
甲第20号証:平成20年11月5日(発送日)付で通知された特願2008-245316の拒絶理由に対する,平成20年12月26日付の意見書
及び,参考資料1?5を提示し,平成21年10月22日付口頭審理陳述要領書(以下,「請求人口頭審理陳述要領書」という。)に添付して,
甲第21号証:特願2001-022953優先権証明書
甲第22号証:特願2001-039796優先権証明書
甲第23号証:特願2001-240002優先権証明書
甲第24号証:特願2001-314218優先権証明書
甲第25号証:国際出願PCT/JP02/10463の国際公開WO03/033729号パンフレット
甲第26号証:Prog Food Nutr Sci. (1981) vol.5,p.265-278
甲第26号証の2:甲第26号証の抄訳
甲第27号証:平成18年10月26日(発送日)付で通知された特願2003-536452に対する拒絶理由通知書
甲第28号証:平成19年4月24日(発送日)付で通知された特願2003-536452に対する拒絶理由通知書
甲第29号証:特許第4085138号特許公報
甲第30号証:蛋白の糖化 AGEの基礎と臨床,株式会社医学書院,1997年5月15日,表紙,2頁?16頁,122頁?128頁,裏表紙
甲第31号証:特開2001-95598号公報
甲第32号証:J. Agric. Food Chem. (1984) vol.32,p.379-382
及び,
甲第32号証の2:甲第32号証の抄訳
を,さらに,請求人第2上申書に添付して,
甲第33号証:特開2000-69996号公報
甲第34号証:特開2000-199754号公報
及び,
甲第35号証:特開平11-246599号公報
を提示して,本件発明1?7は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものであると主張し,その理由として審判請求書において,以下の(1)?(3)を挙げている。

(1)本件発明1?7は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。(以下,「無効理由1」という。)

(2)本件発明1?7は,本件特許の出願時の技術常識に基づき,甲第1号証に記載された発明より当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下,「無効理由2」という。)

(3)本件発明1?7は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないかく,かつ,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1?7を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,本件は,特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。(以下,「無効理由3」という。)

このうち,無効理由1については,請求人は,請求人口頭審理陳述要領書において,
「5-4 新規性欠如の無効理由
訂正後の請求項1から7に係る本件特許発明については,訂正の要件を満たすことを前提として,御庁からの通知の別紙4に記載されているように,新規性欠如の無効理由は解消されたとして,この主張を撤回する。」と,その主張を撤回した。

なお,請求人第1上申書において,甲第24号証に基づき,本件発明1?7は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであること,及び,甲第25号証及び甲第29号証に基づき,本件発明1?7は特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである旨主張しているが,この主張は,本件無効審判の請求書の要旨を変更するものであり,特許法第131条の2第1項の規定によって許可することはできない。

第5. 被請求人の主張
これに対し,被請求人旭化成ファーマ株式会社は,平成21年7月30日付答弁書に添付して,
乙第1号証:大塚製薬株式会社,「プラスアミノ(登録商標)輸液」医薬品インタビューフォーム,2008年6月
乙第2号証:テルモ株式会社,田辺製薬株式会社,「ユニカリック(登録商標)L,N」の添付文書,2003年4月改訂
乙第3号証:「輸液製剤取り扱いマニュアル」,監修:慶應義塾大学病院薬剤部長 谷川原祐介,2007年5月
乙第4号証:医学と薬学,第51巻,第5号,737頁?745頁,2004
乙第5号証:生物試料分析,第27巻,第2号,97頁?103頁,2004
乙第6号証:日本臨床検査自動化学会会誌(JJCLA),第28巻,第2号,134頁?138頁,2003
乙第7号証:検査と技術,第32巻,第6号,542頁?544頁,2004
乙第8号証:第47回臨床化学会年次学術集会 要旨集,285頁,「P10-04」,2007
乙第9号証:旭化成ファーマ株式会社,グリコアルブミンキット,「ルシカ(登録商標)GA-L」の添付文書,2008年12月改訂
乙第10号証-1:Kouzuma,’Study of glycated amino acid elimination reaction for an improved enzymatic glycated albumin measurement method’,Clinica Chimica Acta,346,135頁?143頁,2004
乙第10号証-2:乙第10号証-1 Abstractの和訳
乙第11号証:アークレイ株式会社,グリコヘモグロビンAlcキット「サンクHbAlc」の添付資料,2008年10月改訂(第3版)
乙第12号証:医学検査,第58巻,第2号,189頁?194頁,2009
乙第13号証:「血糖値をみる・考える<別刷>,「IV-B.グリコアルブミン(GA)」南江堂,66頁,2000
乙第14号証:日本糖尿病学会編,「糖尿病治療ガイド」,18頁?21頁,42頁?43頁,2000
乙第15号証:特開平5-49500号公報
乙第16号証:機器・試薬,第21巻,第4号,338頁?392頁,1998
乙第17号証:機器・試薬,第21巻,第4号,163頁?169頁,1998
乙第18号証:特開平8-23971号公報
乙第19号証:生物試料分析,第21巻,第5号,323頁?328頁,1998
乙第20号証:特開平8-322596号公報
乙第21号証:体外診断用医薬品,添付文書集,協和メデックス株式会社,「デタミナ(登録商標)」-L CRE」,25頁?26頁,平成5年
乙第22号証:生物試料分析,第21巻,第5号,361頁?366頁,1998
及び,
乙第23号証:生物試料分析,第21巻,第5号,379頁?384頁,1998
を提示し,さらに,被請求人第1上申書に添付して,
乙第24号証:特開平10-201473号公報
を提示して,請求人の主張に対し,訂正請求により訂正された,本件発明1?7に関する請求人の主張はいずれも失当である旨,主張している。

第6. 当審の判断
1.請求人が主張する無効理由2について
(1)請求人が提示した甲第1号証の記載事項
甲第1号証には,以下の事項が記載されている。

甲第1号証:特開2000-333696号公報

ア.「本発明の測定方法は,試料中の糖化アミンを測定する方法であって,糖化アミン酸化分解酵素により,前記糖化アミンを糖とアミンとに酸化分解し,糖酸化分解酵素により,前記糖を酸化分解し,前記両酸化分解反応による同一生成物または同一消費物の量を測定して,この測定値から前記糖化アミンの量を決定することを特徴とする。」(【0008】段落)

イ.「本発明の測定方法において,測定対象物の糖化アミンが,糖化アミノ酸,糖化タンパク質または糖化ペプチドであることが好ましい。また,糖化アミンが,糖化タンパク質または糖化ペプチドの場合は,予め前記糖化アミンをプロテアーゼで分解してから,その分解物と糖化アミン酸化分解酵素とを反応させることが好ましい。」(【0011】段落)

ウ.「本発明の測定方法において,糖化アミン酸化分解酵素が,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)であることが好ましい。」(【0016】段落)

エ.「これらの本発明の測定方法において,測定対象物は,糖化アミンであれば特に制限されないが,前述のように糖化タンパク質,糖化ペプチドまたは糖化アミノ酸であることが好ましい。前記糖化タンパク質としては,例えば,HbA1c,糖化アルブミン,糖化グロブリン,糖化カゼイン等があげられる。また,血液中の糖化タンパク質を測定することは,糖尿病の診断に有用であることから,測定対象試料は,血液であることが好ましい。しかし,例えば,糖化タンパク質は,全血,血漿,血清,血球等および尿等の生体試料や,ジュース等の飲料水,醤油,ソース等の食料等にも含まれるため,測定対象試料は,特に制限されない。」(【0019】段落)

オ.「この測定において,各処理工程は,前述のように別々に行ってもよいが,例えば,以下に示すような組み合わせで同時に行ってもよい処理工程がある。
1:溶血処理+プロテアーゼ処理
2:プロテアーゼ処理+FAOD処理」(【0051】段落)

(2)本件発明1?7
上記第2のとおり,本件訂正は認められたので,本件発明1?7は,本件訂正により上記第3に記載のとおりに訂正されたものである。
そして,本件発明1?7は,本件特許明細書の記載によれば,「第1試薬をプロテアーゼ作用に適した条件にし,第2試薬にプロテアーゼを液状でも安定な条件で処方することにより,測定時の条件には作用されずにプロテアーゼを安定に保存できること,また意外にも,前処理反応に使用する酵素を第2試薬に処方しても測定には影響を与えず正確な測定が可能であることを見出した。加えて第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を処方することにより,試料中に存在する糖化アミノ酸を予め消去し,選択的に糖化蛋白質を測定することが可能であった。」(特許明細書段落【0018】)のとおり,プロテアーゼを作用させる前であっても,糖化アミノ酸が試料中に存在すること,及び,試料中における該糖化アミノ酸の存在が,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを用いる試料中の糖化タンパク質の選択的な測定の妨げとなるものであることを認識して,試料中の糖化タンパク質を,該試料中に存在する糖化アミノ酸と区別して選択的に測定することを可能にするために,プロテアーゼを添加して作用させる工程に先立って,試料中に存在する糖化アミノ酸を予め消去する手段として,それに作用する酵素,すなわちフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを該試料に作用させることを,採用するものである。

(3)本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比
本件発明1と甲第1号証に記載された発明を比較すると,両者は,プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法において,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを作用させることを特徴とする糖化蛋白質を測定する方法である点で共通するが,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを血液試料に作用させる点につき,前者では,先に,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ,該試料中に含まれる糖化アミノ酸を予め消去し,次いで,プロテアーゼを添加して作用させるという2段階の工程を経るのに対して,後者では,上記2.(1)アのとおり,先に,プロテアーゼを作用させ,次に,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させるという2段階の工程を経る,あるいは,上記2.(1)オのとおり,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを同時に作用させる,というものである点で相違する。

(4)請求人の無効理由2に関わる主張
(4-1)審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要
a. グルコース及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液は,本件特許出願日以前から一般的に使用されており,該高カロリーアミノ酸輸液を糖尿病患者へ投与することも,本件特許出願以前から当業者にとって周知である(甲第12?18号証)。さらに,該高カロリーアミノ酸輸液において,そこに含まれるグルコース及びアミノ酸がメイラード反応を起こすこと(甲第17号証),そして,該メイラード反応により糖化アミノ酸が形成されることも,本件特許出願日以前から周知であるから(甲第19号証),グルコース及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液において糖化アミノ酸が生成されることも,当該技術分野においては,本件特許出願日以前から周知である。
また,高カロリーアミノ酸輸液に糖化アミノ酸が含まれていない場合であっても,あるいは,グルコース溶液とアミノ酸溶液とを別個に生体に投与した場合であっても,血中において,糖とアミノ酸とが反応して糖化アミノ酸が生成されることは,当該技術分野の当業者にとっては,本件特許出願日以前からの技術常識である。
したがって,高カロリーアミノ酸輸液を投与した糖尿病患者の血液中に糖化アミノ酸が存在することは周知である。
さらに,内因性の測定妨害物質が試料中に存在する場合には,それを予め消去することも本件特許出願日以前からの技術常識であるから(甲第9号証及び甲第10号証),グルコース及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液を投与した糖尿病患者の血液中に糖化アミノ酸が存在することが周知である以上,そのような糖化タンパク質測定に影響を及ぼす内因性の測定妨害物質,すなわち糖化アミノ酸を,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼにより予め消去することは,当業者であれば容易に想到し得たものである。

b. プロテアーゼによる分解反応の時間を10分から5分にしても,予め検量線を作成すること等により,糖化タンパク質を測定することは可能であるから,糖化タンパク質の測定において,血液試料中に含まれる糖化タンパク質を完全に分解することは不要であるため,2日程度かかる反応を10分で行わなければならない状況で,プロテアーゼの反応時間をさらに半分の5分にすることは,甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願時の技術常識より,本件発明1が進歩性を有さないことに関する阻害要因には何らならない。

というにあると認められる(同書38?40頁)。

(4-2)請求人口頭審理陳述要領書における無効理由2に関わる主張の概要
c. 糖化アミノ酸が含まれる,グルコース及びアミノ酸を含む輸液をサルに投与すると,血漿中で糖化アミノ酸レベルが増加することが,甲第26号証には記載されており,そして,糖とアミノ酸から糖化アミノ酸が生成する反応は,非酵素反応であるため,生体の種類に影響を受けないことから,このサルのデータより,糖及びアミノ酸を含む高カロリー輸液を投与されたヒト及び糖尿病患者の血液試料中にも,当然,糖化アミノ酸が存在することが,甲第26号証において実証されているといえる。
そして,甲第26号証における記載から,本件特許出願前において,血液試料中に糖化アミノ酸が存在しうるという当業者の認識が存在していたこと,及び,血液試料中に当初から存在する糖化アミノ酸を消去するという課題が存在したことは,明らかであるから,本件発明1は,甲第1号証,甲第9号証,甲第10号証及び甲第26号証により,進歩性が否定される。

d. アミノ酸と糖が共存することで起こるメイラード反応には,短時間で起こる初期反応と,長時間かけて起こる後期反応とが存在し,初期反応によって安定なアマドリ化合物,すなわち糖化アミノ酸が形成され,該アマドリ化合物が後期段階に進んだ際に,溶液の着色(褐変現象)が見られることになる(甲第30号証,甲第32号証及び甲第32号証の2)。
したがって,糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液が着色していなくとも,糖化アミノ酸がそこに存在していないことにはならないから,当業者であれば,着色していない糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液において,糖化アミノ酸が生成していると認識するのが自然(普通)であって,そして,糖化アミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液が糖尿病患者に投与されており,その結果,糖尿病患者の血液試料中に糖化タンパク質の測定を妨害する糖化アミノ酸が存在することは,本件特許出願前において当業者であれば一般的に認識していた事項である。

というにあると認められる(同書11?16頁)。

(4-3)請求人第2上申書及び請求人第3上申書における無効理由2に関わる主張の概要
e. 本願出願日以前に,血液中で糖とアミノ酸とが反応して,糖化アミノ酸が生成することは周知であり(甲第33号証),また,血液中に内在する糖とアミノ酸の反応生成物として,糖化アミノ酸が存在することも周知であるから(甲第11号証,甲第34号証及び甲第35号証),血中において,糖とアミノ酸とが反応して糖化アミノ酸が生成されることは,本件特許出願日以前の技術常識である。

というにあると認められる(請求人第2上申書2?4頁及び請求人第3上申書2?3頁)。

(5)判断
(5-1)請求人の無効理由2に関わる主張a,b,d,eについて
甲第12?19号証によれば,糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液は,健常者のみならず糖尿病患者にも投与される場合があること,糖及びアミノ酸はメイラード反応を起こして糖化アミノ酸が形成されるため,糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液において糖化アミノ酸が生成されること,また,甲第30号証,甲第32号証及び甲第32号証の2によれば,メイラード反応による糖化アミノ酸の形成は,着色を引き起こす褐変反応を伴わない初期反応において起こるものであるから,着色を起こしていない糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液においても,糖化アミノ酸を含んでいる蓋然性があること,については,本件特許出願日前より当業者に周知のものであることは認められる。

しかしながら,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを用いて血液試料中の糖化タンパク質を測定する際に,該血液試料中の糖化アミノ酸を予め消去しようとする発想は,血液試料中に糖化アミノ酸が存在するということが認識されていることに加えて,さらに,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを用いる測定においては,当初から存在する糖化アミノ酸が,糖化タンパク質の選択的な測定を行う上で妨げとなるということまでもが認識されていなければ,当業者は持ちようがないものである。

甲第1号証?甲第32号証の2及び参考資料1?5,並びに,甲第30号証,甲第32号証及び甲第32号証の2のいずれを見ても,着色を起こしていない糖及びアミノ酸を含む高カロリーアミノ酸輸液であっても,それが投与された糖尿病患者等の血液試料中には,高カロリーアミノ酸輸液に含まれていた糖化アミノ酸が存在するということまでは,当業者がたとえ推考できたとしても,その糖化アミノ酸の存在が,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを用いて血液試料中の糖化タンパク質を測定する際に,糖化タンパク質の選択的な測定を行う上で妨げとなるということまでもが,本件特許出願日当時,当業者に知られていたと認めることもできない。

また,請求人は,高カロリーアミノ酸輸液に糖化アミノ酸が含まれていない場合であっても,あるいは,グルコース溶液とアミノ酸溶液とを別個に生体に投与した場合であっても,血中において,糖とアミノ酸とが反応して糖化アミノ酸が生成されることは,本件特許出願日以前の技術常識であると主張するが,甲第11号証及び甲第33?35号証のいずれを見ても,血中において,糖とアミノ酸とが反応して糖化アミノ酸が生成されることを具体的に確認しているわけでは特段なく,糖とアミノ酸との反応による血中における糖化アミノ酸の生成が,普遍的な原理や当業者にとって極めて常識的・基礎的な事項のように立証するまでもなく周知性の高いものであるとはいえない。そして仮に,血中において,糖とアミノ酸とが反応して糖化アミノ酸が生成されるとしても,上述したとおり,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及びプロテアーゼを用いて血液試料中の糖化タンパク質を測定する際に,該血液試料中の糖化アミノ酸を予め消去しようとする発想を当業者が抱くために必要である,その糖化アミノ酸の存在が糖化タンパク質の選択的な測定を行う上で妨げとなるということまでもが,本件特許出願日当時,当業者に知られていたと認めることもできない。

(5-2)請求人の無効理由2に関わる主張cについて
本件発明の進歩性を否定するための新たな引用例として,請求人口頭審理陳述要領書に添付して提示された甲第26号証に基づく本件発明の進歩性欠如に関する請求人の上記主張cは,請求の理由の要旨を変更するものであり,特許法第131条の2第2項に規定される許可される場合に該当しないとして,第1回口頭審理の場において補正を許可しない旨の決定がなされた(第1回口頭審理調書)。

(6)むすび(無効理由2について)
よって,請求人の主張はいずれも採用できず,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明及び本願出願日前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また,本件発明2?5は,上記第2.1に記載のとおり,本件発明1をさらに構成上,限定したものであるから,本件発明1と同様に,甲第1号証に記載された発明及び本願出願日前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

そして,本件発明6は,上記第2.1に記載のとおり,第1試薬にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ,及び,第1試薬より後に用いる第2試薬にプロテアーゼを含有することを特徴とする,請求項1?5のいずれかの測定方法に用いられる,プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて糖化蛋白質を測定する組成物であるから,本件発明1?5と同様に,甲第1号証に記載された発明及び本願出願日前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

さらに,本件発明7は,上記第2.1に記載のとおり,本件発明6をさらに構成上,限定したものであるから,本件発明6と同様に,甲第1号証に記載された発明及び本願出願日前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

以上のとおりであるから,本件発明1?7の特許は,甲第1号証に記載された発明及び本願出願日前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである,とすることはできない。

2.請求人が主張する無効理由3について
(1)請求人の無効理由3に関わる主張
(1-1)審判請求書における無効理由3に関わる主張の概要
f. 本件特許発明に対応する実施例は,実施例23のみであるが,同実施例では,糖化アミノ酸の試料と血清試料とを別々に調製し,それぞれ独立して測定しているのであって,血中の糖化アミノ酸を処理した後,前記血中の糖化タンパク質を測定したものではなく,同実施例では,健常者の血清試料と,糖尿病患者の血清試料を使用しているが,これらの試料中の糖化アミノ酸の量は,極わずかであり,測定上,無視できる量である。
そして,本件特許発明の実施例としては,高カロリーアミノ酸輸液で処置した糖尿病患者の血液試料を測定することが理想であるが,これでなくても,一般の糖尿病患者の血液試料に糖化アミノ酸を添加したモデル試料を用いた実施例が必要であるにもかかわらず,本件特許明細書には,そのような本件特許発明の実施例が存在しておらず,異常高値が回避されていることを証明しない限り,本件特許発明の効果が実際に奏されるか否かは不明である。
本件特許発明が属する技術分野では,理論上,発明のメカニズムが理解できるように明細書に記載したとしても,少なくとも一つの実証データを示す必要があり,そのような実証データの記載が特許明細書に存在しない本件特許は,特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない。

g. プロテアーゼ処理に先立って,FODにより糖化アミノ酸を消去した場合,FODによる酸化分解で過酸化水素が発生するが,その過酸化水素の消去方法について,実施例23及びその他の本件特許明細書には,何ら記載も示唆もされていない。
血液試料に当初から存在する糖化アミノ酸由来の過酸化水素が消去されない限り,糖化アミノ酸由来の過酸化水素は,糖化タンパク質由来の過酸化水素と同様に,発色反応に使用されることとなる。このため,結果的に,本件特許発明が目的とする,糖化アミノ酸に起因する異常高値の回避は行えないから,糖化アミノ酸に由来する過酸化水素の消去についての記載が特許明細書に存在しない本件特許は,特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない。

というにあると認められる(同書43?45頁)。

(1-2)請求人口頭審理陳述要領書における無効理由3に関わる主張の概要
h. 本件特許明細書の実施例23で使用される組成物R-1における「R-FOD」がどのようなものであるのか,また,その基質特異性及びその入手方法等について何ら記載されていない。さらに,同実施例で使用される組成物R-2における「TODBR-3,4」が何を示すものであるのか,また,その入手方法について何ら記載されていない。
したがって,本件特許明細書の実施例23の追試を行うことは当業者にとって困難であるから,本件特許は,特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない。

というにあると認められる(同書17頁)。

(2)判断
上記第2のとおり,本件訂正は認められたので,本件発明1?7は,本件訂正により上記第2.1に記載のとおりに訂正されたものである。

(2-1)請求人の無効理由3に関わる主張fについて
本件特許明細書の記載によると,「加えて第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を処方することにより,試料中に存在する糖化アミノ酸を予め消去し,選択的に糖化蛋白質を測定することが可能であった。」(特許明細書段落【0018】)と,選択的な糖化タンパク質の測定のために,試料中に存在する糖化アミノ酸を,酵素を用いて予め消去するという課題及びその手段が記載されている。

また,本件特許明細書の記載によると,実施例23において,健常者血清及び糖尿病患者血清,並びに,糖化アミノ酸であるFZLを10μM,100μM,又は,200μMの濃度で含む試料に対して,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FOD)を含む第1試薬R-1を作用させ,その300秒後(5分後)に,プロテアーゼを含む第2試薬R-2を添加して作用させたことが記載されている。
そして,健常者血清及び糖尿病患者血清について,反応時間10分という短い時間で良好に糖化タンパク質が測定できたことが記載されている。
また,糖化アミノ酸であるFZLを10μM,100μM,又は,200μMの濃度で含む3種の試料について,R-1に処方されているフルクトシルアミノ酸オキシダーゼにより試料中の糖化アミノ酸が消去される結果,フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させてから300秒後(5分後)にプロテアーゼを添加して作用させても,いずれにおいても吸光度の上昇は確認されなかったことが記載されている(特許明細書【0105】及び【0106】,図10)。

そして,上記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼは,糖化アミノ酸には作用して過酸化水素を生じるが,糖化タンパク質には作用しないことは技術常識であるから,してみると,選択的な糖化タンパク質の測定を必要とする糖尿病患者等の血液試料に対して,糖化アミノ酸には作用するが糖化タンパク質には作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させることによって,糖化アミノ酸を予め消去すれば,実施例23に記載された糖化アミノ酸であるFZLを10?200μMの濃度で含む試料を用いた場合で確認されたように,当初から存在する糖化アミノ酸に由来する過酸化水素が要因となる吸光度の上昇は生じないと考えられるのであるから,その結果,より正確に該血液試料中の糖化タンパク質の測定が行えることは,特許出願時において,高カロリーアミノ酸輸液で処置した糖尿病患者の血液試料,又は,一般の糖尿病患者の血液試料に糖化アミノ酸を添加したモデル試料を用いた実施例の記載がなければ,当業者に理解できないものであったとまではいうことができない。

(2-2)請求人の無効理由3に関わる主張gについて
請求人は,第1回口頭審理の場で「審判請求書における,前処理における過酸化水素の消去に関する,本件のサポート要件及び実施可能要件に係る主張については,主張を撤回する。」と,その主張を撤回した。

(2-3)請求人の無効理由3に関わる主張hについて
本件のサポート要件及び実施可能要件違反に関する「新たな記載要件違反としての指摘事項」である請求人の上記主張cは,請求の理由の要旨を変更するものであり,特許法第131条の2第2項に規定される許可される場合に該当しないとして,第1回口頭審理の場において補正を許可しない旨の決定がなされた(第1回口頭審理調書)。

(3)むすび(無効理由3について)
以上のことから,本件請求項1?7の記載が,明細書のサポート要件に適合しないということはできず,特許法第36条第6項第1号の規定を満たすとはいえず,当業者が本件特許明細書の開示から本件請求項1?7に係る発明を実施できず,特許法第36条第4項の規定を満たさないから,本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである,とはいえない。

第7. むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
糖化蛋白質測定用組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化蛋白質を測定するための組成物及び糖化蛋白質の測定方法に関する。本発明における糖化蛋白質の測定用組成物及び測定方法は臨床検査に用いられ、正確に糖化蛋白質を測定することができる。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の診断及び管理を行う上で糖化蛋白質の測定は非常に重要であり、過去約1?2ヶ月の平均血糖値を反映する糖化ヘモグロビン(GHb)、過去約2週間の平均血糖値を反映する糖化アルブミン(GA)、及び血清中の還元能を示す糖化蛋白質の総称であるフルクトサミン(FRA)等が日常的に測定されている。GHbはヘモグロビンのβ鎖N末端バリンのαアミノ基が、GA、FRAはアルブミン、血清蛋白質のリジン残基のεアミノ基がそれぞれ糖化されている。
【0003】
精度が高く、簡便かつ安価な糖化蛋白質の測定法としては酵素法があげられる。その例としては特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6等がある。
しかしながら、真に糖化蛋白質を正確に測定する組成物を提供するには、1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避、2)プロテアーゼ、少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化が必須であり、さらに糖化蛋白質が糖化アルブミンである場合には、3)正確にアルブミンを測定する方法、4)糖化ヘモグロビンの影響回避を行うことも重要である。
【0004】
1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避に関する従来の技術
糖尿病患者ではグロブリン蛋白質量が変化しFRAの値に影響を及ぼすことが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。そこで本発明者らはプロテアーゼ反応液にある種の金属イオンやプロテインA若しくはGを添加することによりプロテアーゼのグロブリン成分への作用を選択的に阻害する方法(例えば、特許文献7参照。)を開発してきた。この発明ではグロブリン成分の影響を受けることなく糖化蛋白質を測定することが出来るが、そこで用いられるグロブリン選択的なプロテアーゼ阻害剤としては、金属、プロテインA、Gが記載されている。しかし、ここで示されている特定の金属のうち、効果が強い金属は重金属であり、環境安全上の問題がないとは言えず、また効果の弱い金属は他の試薬成分(他の組成物)と組み合わせると試薬溶液に濁りが生じることがあった。またプロテインA、Gは非常に高価である。
【0005】
さらに、血液中のグロブリンを選択的に吸着する方法としてステロイド骨格を持ったリガンドをビニル系の共重合体に導入しクロマトグラフィーの原理を用いて血液中の内毒素やグロブリンを吸着する血液処理剤(例えば、特許文献8参照。)が知られている。しかしこの実施例表1の検討結果ではグロブリンのうち吸着が確認できているのはα1、α2グロブリンだけでありグロブリン成分の70%以上を占めるγグロブリンには吸着能を示していない。またたとえγグロブリンに吸着能を示したとしてもプロテアーゼのγグロブリンへの作用をどの程度阻害できるかは予測不可能である。
【0006】
アスコルビン酸は近年補助食品として大量に摂取されるケースが増えており、高濃度のアスコルビン酸を含有する臨床検体が増加している。アスコルビン酸は、その強力な還元力により臨床検査を行う上で様々な影響を引き起こす。
検体中のアスコルビン酸の影響を回避する方法としては化学的な方法やアスコルビン酸オキシダーゼを用いた酵素的な方法を用いて検体中のアスコルビン酸を消去する方法が知られている。プロテアーゼを用いて糖化蛋白質を断片化し、次いで少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を用いて生じた糖化アミノ酸を測定する場合、プロテアーゼ反応と同時にアスコルビン酸オキシダーゼ(ASOx)を作用させ、前もってアスコルビン酸を消去する方法が発色系への影響が小さく好ましい。
【0007】
プロテアーゼの存在下、被検液中のアスコルビン酸をASOxを用いて消去した例としては、被検液に、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液pH8.0の条件で作用させた例(例えば、非特許文献2参照。)があり、冷蔵保存で2週間はアスコルビン酸の処理能に変化は無いと記述されている。
しかし、本発明者らの検討ではHEPES緩衝液pH8.0、プロテアーゼ及びASOxが共存した場合のアスコルビン酸処理能は37℃-1日若しくは10℃-2週間の保存でほとんど消失した。
【0008】
2)プロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化に関する従来の技術
糖化蛋白質の臨床的な測定には他の分野、例えば食品分野等では考えられない程高濃度のプロテアーゼが水溶液の状態で使用される。プロテアーゼは水溶液中では自己消化がおこることが知られており、この様な高濃度の水溶液中で安定に存在するとは考えにくい。
よってこれまでの糖化蛋白測定用組成物に用いられるプロテアーゼは凍結乾燥品で供給されている。
糖化蛋白測定用組成物、測定方法に関し液状で長期に保存出来るレベルまでプロテアーゼの安定化を行った例はない。同様に糖化蛋白測定用組成物、測定方法に関し液状で長期に保存出来るレベルまで少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化を行った例はない。
【0009】
3)正確にアルブミンを測定する方法に関する従来の技術
アルブミン測定法には抗アルブミン抗体を用いた免疫法、ブロモクレゾールグリーン(BCG)、ブロモクレゾールパープル(BCP)等を用いた色素法等がある。操作が簡便でかつコストが安いことから、日常検査では色素法が広く用いられているが、BCG法はグロブリン成分に作用が確認されておりアルブミンに対する特異性が低いという欠点がある。
一方BCP法はアルブミンに対する特異性は高いものの、共存物質の影響を受けやすく、またSH化合物の影響を受けることからアルブミンの酸化還元状態により値が変化するという問題があった。この問題を解決する方法としては蛋白質変性剤及び/またはSH試薬の存在下BCPの反応を行った例(例えば、特許文献9参照。)が知られている。しかし、GAと非糖化アルブミン(NGA)に対するBCP反応性の検討を行った例はこれまでなかった。
【0010】
4)糖化ヘモグロビンの影響回避に関する従来の技術
前述のようにGAはアルブミンのεアミノ基が糖化されており、一方GHbはヘモグロビン中のβ鎖N末端バリンのαアミノ基が糖化されている。よってGAを測定対象とする場合にはεアミノ基が糖化されたアミノ酸のみを測定できれば好ましい。
【0011】
これまでεアミノ基に高い特異性を示し、糖化バリンに作用しない酵素はいくつか知られているが(例えば、特許文献10参照。)、実用化できるほど安いコストで供給されているものはない。このうち特にフザリウム・オキシスポルム由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FOD)は反応性が高く有用であり、発明者らは該FODの遺伝子を分離し報告している(例えば、特許文献11参照。)。ただし本遺伝子を用いた製造法は生産性が高く、低いコストでFODが生産できるもののαアミノ基が糖化されている糖化バリンへの反応性が確認されており、特異性の点で満足いくものではなかった。
【特許文献1】特開平6-46846号公報
【特許文献2】特開平5-192193号公報
【特許文献3】特開平2-195900号公報
【特許文献4】特開平2-195899号公報
【特許文献5】WO98/48043号公報
【特許文献6】WO97/13872号公報
【特許文献7】特願平11-231259
【特許文献8】特開昭61-94663号公報
【特許文献9】特開平10-232233号公報
【特許文献10】特開平11-243950号公報
【特許文献11】特開平10-201473号公報
【非特許文献1】Rodrigues S et al,Clin Chem.35:134-138(1989)
【非特許文献2】臨床化学 27:99-106,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、糖化蛋白質を正確に測定するにあたり、1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避した、2)プロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を安定化した組成物、安定化方法を提供することにあり、さらに糖化蛋白質が糖化アルブミンである場合には、3)正確にアルブミンを測定する、4)糖化ヘモグロビンの影響回避を行う組成物、影響回避方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
糖化蛋白質を正確に測定するにあたり、1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避、2)プロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化が正確な糖化蛋白質の測定には必須であり、さらに糖化蛋白質が糖化アルブミンである場合には、3)アルブミンの正確な測定、4)糖化ヘモグロビンの影響回避が必須である。
【0014】
1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避
本発明者らは鋭意検討の結果、プロテアーゼ反応液にデオキシコール酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤、コンカナバリンA、オクチルグルコシドまたはベタインから選択される1種以上を添加することによりプロテアーゼのグロブリン成分への作用を選択的に阻害できること、またこの反応液に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を直接作用させても酵素作用が阻害されることなく、再現性良く、精度良くかつ簡便に糖化蛋白質が測定できることを見出した。しかも、これらの化合物は、経済的に有利で、かつ従来の技術を用いたときに比べて環境安全上問題がなく、検体と混合された場合に濁りを生じることもないものである。
【0015】
またアスコルビン酸の消去にはASOxを用いると効率的であるがプロテアーゼが大量に存在する反応液中でASOxが安定に存在するとは通常考えにくい。実際本発明者らの検討結果ではプロテアーゼの種類やプロテアーゼ阻害剤及びASOxの種類等の検討ではプロテアーゼが大量に存在する反応液中でASOxを安定に存在させる条件は見つからなかった。
ところが本発明者らは鋭意検討の結果、意外にも緩衝液の種類によってASOxの安定性が飛躍的に向上することを見出した。
【0016】
2)プロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化
糖化蛋白質の臨床的な測定には前述のように高濃度のプロテアーゼが水溶液の状態で使用され、基本的にプロテアーゼ自体が不安定になる。ところが、本発明者らは鋭意検討の結果、ジメチルスルホオキシド、アルコール、水溶性カルシウム塩、食塩、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤を添加することにより、プロテアーゼの安定性が飛躍的に向上し、液状かつ高濃度の条件でも長期間保存が可能であることを見出した。
【0017】
また少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素は液状での37℃-4日保存で活性が約1割に低下する酵素であり、安定な酵素とは言い難かった。しかしながら本発明者らは鋭意検討の結果、少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素に糖アルコール、スクロース、水溶性マグネシウム塩、水溶性カルシウム塩、硫安、アミノ酸、ザルコシンより選ばれる安定化剤を添加することにより液状、37℃-4日保存にて殆ど活性低下が見られない程の驚くべき安定化効果が得られることを見出した。
【0018】
さらにプロテアーゼは至適pH付近では強い蛋白質分解活性を示すが、同時に自己消化反応も進行し特に液状での保存が困難になる。ところが本発明者らは鋭意検討の結果、第1試薬をプロテアーゼ作用に適した条件にし、第2試薬にプロテアーゼを液状でも安定な条件で処方することにより、測定時の条件には作用されずにプロテアーゼを安定に保存できること、また意外にも、前処理反応に使用する酵素を第2試薬に処方しても測定には影響を与えず正確な測定が可能であることを見出した。加えて第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素を処方することにより、試料中に存在する糖化アミノ酸を予め消去し、選択的に糖化蛋白質を測定することが可能であった。
【0019】
3)正確にアルブミンを測定する方法
本発明者らの検討により意外なことにBCPの反応性がGAとNGAで異なり、NGAが大量に混入すると値が負の影響を受けることが判明した。そこで本発明者らは鋭意検討の結果、アルブミン測定の前、若しくは同時に蛋白質変性剤及び/又はS-S結合を有する化合物にて試料を処理することにより良好にNGAを大量に含むアルブミンを正確に測定できることを見出した。
【0020】
4)糖化ヘモグロビンの影響回避
本発明者らは、上記問題点に関し鋭意研究の結果、フザリウム・オキシスポルムIFO-9972株由来FODの遺伝子を改変して、変異FODを作成し、その性状を測定することによってN末端より372番目のリジンを他のアミノ酸に置換することによって基質特異性が顕著に変化することを見出し、糖化バリンへの反応性が著しく低く、ほぼ糖化リジンに特異的に作用する改変FODを複数作成した。
本変異FODは、上記の知見に基づいてなされたもので、FODについて配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンを別のアミノ酸に置換することにより糖化バリン反応性が消失した変異型FODである。配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンがトリプトファン、メチオニンまたはバリンに置換された請求項1記載の変異型FODである。
最後に、本発明者らはこれらの発明を総合して正確に糖化蛋白質を測定する組成物、測定方法を完成するに至った。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、より正確に被検体中の糖化蛋白質及び糖化アルブミン割合を測定することが可能になった。したがって、臨床検査薬として有用に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の構成及び好ましい形態について更に詳しく説明する。
本発明に使用しうるプロテアーゼは、被検液に含まれる糖化蛋白質に有効に作用し、かつ当該蛋白質由来の糖化アミノ酸及び/若しくは糖化ペプチドを有効に生成するものであればいかなるものを用いても良く、例えば動物、植物、バチルス(Bacillus)属、アスペルギルス(Aspergillus)、リゾパス(Rhizopus)、ペニシリウム(Penicillium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、クロストリジウム(Clostridium)、リソバクター(Lysobacter)、グリフォラ(Glifila)、酵母(Yeast)、トリチラチウム(Tritirachium)、サーマス(Thermus)、シュードモナス(Pseudomonus)、アクロモバクター(Achromobacter)等の微生物由来のプロテアーゼ等が挙げられる。
【0023】
また測定対象である糖化蛋白質がGAある場合にはバチルス属及びストレプトマイセス属の微生物由来プロテアーゼがヒトアルブミン(Alb)に対する作用が大きい為より好まし。また測定対象である糖化蛋白質がGHbである場合にはバチルス属、アスペルギルス属、ストレプトマイセス属、トリチラチウム属由来のプロテアーゼがヒトヘモグロビン(Hb)に対する作用が大きい為により好ましい。
本発明に用いることの出来るプロテアーゼの活性測定法を下記に示す。
【0024】
<<プロテアーゼの活性測定方法>>
下記の測定条件で30℃、1分間に1μgのチロシンに相当する呈色を示すプロテアーゼ活性度を1PU(proteolytic Unit)と表示する。
<基質> 0.6% ミルクカゼイン(メルク社製)
<酵素溶液> 10PU?20PUに希釈
<酵素希釈溶液> 20mM 酢酸緩衝液 pH 7.5
1mM 酢酸カルシウム
100mM 塩化ナトリウム
<反応停止液> 0.11M トリクロル酢酸
0.22M 酢酸ナトリウム
0.33M 酢酸
<操作>
プロテアーゼ溶液を10?20PU/mlになるように酵素希釈溶液にて溶解し、この液1mlを試験管に取り30℃に加温する。あらかじめ30℃に加温しておいた基質溶液5mlを加え正確に10分後反応停止液5mlを添加し反応を停止する。そのまま30℃、30分加温を続け沈殿を凝集させ、東洋ろ紙NO.131(9cm)で濾過を行い、濾液を得る。ブランク測定はプロテアーゼ溶液1mlを試験管に取り30℃に加温し、まず反応停止液5mlを添加し続いて基質溶液5mlを添加後同様に凝集、濾過を行う。濾液2mlを0.55M 炭酸ナトリウム溶液5ml、3倍希釈フォリン試薬1mlを加え30℃、30分反応後660nmの吸光度を測定する。酵素作用を行った吸光度からブランク測定の吸光度を差し引いた吸光度変化を求め、別に作成した作用標準曲線より酵素活性を求める。
【0025】
<標準作用曲線作成法>
約50PU/mlに調整した酵素溶液を希釈し2?50PU/mlの一連の希釈倍率を持った酵素溶液を作成し上記操作を行い、得られた吸光度変化を縦軸に希釈倍数を横軸にプロットする。一方L-チロシンを0.2N塩酸に0.01%の濃度に溶解しその1mlに0.2N塩酸10ml加えたものを標準チロシン溶液とする(チロシン濃度9.09μg/ml)。標準チロシン溶液2mlと0.2N塩酸2mlについてそれぞれ上記測定操作を行い、得られた吸光度変化がチロシン18.2μgに相当する。この吸光度変化を前記グラフ上にとり、その点から横軸に垂線を下ろし横軸との交点が10PU/mlに相当する。
【0026】
また、これらのプロテアーゼの使用濃度としては、目的とする蛋白質を一定の時間で効率よく切断できる濃度であれば良く、例えば通常1?100000PU/ml、好ましくは10?10000PU/mlの濃度で用いればよい。
本発明に使用しうる少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素としては、前記プロテアーゼの作用により、被検液に含まれる糖化蛋白質から生成される糖化アミノ酸若しくは糖化ペプチドに有効に作用し、実質的に糖化蛋白質が測定できる酵素であれば如何なるものを用いても良いが、αアミノ基が糖化されたアミノ酸によく作用する少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素、εアミノ基が糖化されたアミノ酸によく作用する少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素等が挙げられる。
εアミノ基が糖化されたアミノ酸によく作用する少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の例としては、ギベレラ(Gibberella)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ(Candida)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フサリウム(Fusarium)属、アクレモニウム(Acremonium)属又はデバリオマイゼス(Debaryomyces)属由来のFOD等が挙げられる。
αアミノ基が糖化されたアミノ酸によく作用する少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の例としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)由来の酵素が挙げられる。
【0027】
さらに、プロテアーゼと共存させた状態でも充分な活性を有し、かつ安価に製造可能な酵素の例としては、遺伝子組み替え型ケトアミンオキシダーゼ(R-FOD;旭化成社製)および加えて糖化バリン反応性を著しく低下させた変異型FOD(R-FOD-II;旭化成社製)が挙げられる。
R-FOD-IIのもととなるフザリウム・オキシスポルムIFO-9972株由来のFOD蛋白質をコードするDNAは、フザリウム・オキシスポルムIFO-9972株から常法により染色体DNAを抽出し、PCR法やハイブリダイゼーション法などで分離して得られる。
得られた該FOD遺伝子への変異の導入は、DNAに直接変異を加えるならPCR法を応用してもよいし部位特異的変異法を使用してもよい。また偶発変異によるならば、DNA修復能力の低下した大腸菌宿主を使用しても良いし、あるいはDNA変異源を添加した培地でFOD遺伝子を導入した宿主生物を培養することもできる。
【0028】
かくして得られた変異FOD遺伝子を適当な宿主-ベクター系を用いて宿主微生物に導入し、発現ベクターのマーカーと、FODの活性発現若しくはDNAプローブを指標としてスクリーニングを行い、FOD遺伝子を含有する組換えDNAプラスミドを保持する微生物を分離し、該遺伝子組換え微生物を培養し、該培養菌体から組換え蛋白を抽出精製することで変異FODを得ることができる。
【0029】
変異FODを得るためには、具体的には以下のように行えばよいが、その操作法のうち常法とされるものは、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982,1989)や、市販の各種酵素、キット類に添付された手順に従えば実施できるものである。
分離したFOD遺伝子に変異を導入するにはマンガンイオン添加条件下に於けるTaqポリメラーゼを始めとする3’→5’修復能欠損型ポリメラーゼを使用したPCR法や、DNA修復能を欠損した大腸菌宿主にFOD遺伝子を導入しジアニシジンなどの変異源を添加した培地で培養することにより遺伝子変異を誘発し、作成した変異候補株群より目的の基質特異性を獲得した変異体を分離すればよい。
上述の方法によって導入されたFODの変異は、ジデオキシ法(Sangar,F.(1981)Science,214,1205-1210)で変異を導入した遺伝子の塩基配列を確認することにより決定できる。
また一度変異が決定した後はゾラーらの方法(Zoller,M.J.and Smith,M.(1983)Methods in Enzymology,154,367)による部位特異変異法で特定の変異を導入することもできる。
【0030】
変異FODを構成するポリペプチドのアミノ酸配列の変異は、変異遺伝子の塩基配列より決定できる。以上の方法で得られた変異FODは変異FOD遺伝子を適当な宿主-ベクター系に組み込むことにより組換え体として生産できる。
変異FOD遺伝子を組み込むベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージ又はプラスミドから遺伝子組み換え用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、E.coliに属する微生物を宿主微生物とする場合にはλgt・λC、λgt・λBなどが使用できる。また、プラスミドベクターとしては、例えば、E.coliを宿主微生物とする場合にはプラスミドpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pINI、BluescriptKS+、枯草菌を宿主とする場合にはpUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母特にサッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を宿主とする場合にはYrp7、pYC1、Yep13などが使用できる。
このようなベクターに変異FOD遺伝子を組み込むには、双方を同じ末端を生成する適当な制限酵素で切断し、変異FOD遺伝子を含むDNAフラグメントとベクター断片とを、DNAリガーゼ酵素により常法に従って結合させればよい。
【0031】
変異FOD遺伝子を結合したベクターを移入する宿主微生物としては、組み換えDNAが安定かつ自律的に増殖可能であればよく、例えば宿主微生物がE.coliに属する微生物の場合、E.coli DH1、E.coli JM109、E.coli W3110、E.coli C600などが利用できる。また、微生物宿主が枯草菌に属する微生物の場合、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)ISW1214など、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)TK24など、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエINVSC1などが使用できる。
【0032】
宿主微生物に組み換えDNAを移入する方法としては、例えば、宿主微生物がE.coliやサッカロマイセス・セルビシエ、ストレプトマイセス・リビダンスに属する微生物の場合には、常法に従ってコンピテントセル化した宿主菌株に組み換えDNAの移入を行えばよく、菌株によっては電気穿孔法を使用してもよい。
変異FODを生産するためには、変異FOD遺伝子を導入した宿主を適切な培地で培養し、培養した菌体を集菌後、適当な緩衝液中にて超音波破砕やリゾチーム処理などにより菌体を破壊し、菌体抽出液を調製すればよい。また、シグナル配列を付加することによる分泌発現により、培養溶液中に変異FODを蓄積させても良い。
かようにして生産された変異FODは、通常の硫安沈殿、ゲル濾過、カラム精製などによって分離精製され、酵素標品として供給される。
【0033】
上記の遺伝子操作に一般的に使用される量的関係は、供与微生物からのDNA及びベクターDNAを0.1?10μgに対し、制限酵素を約1?10U、リガーゼ約300U、その他の酵素約1?10U、程度が例示される。
変異FOD遺伝子を含み、変異FODを産生し得る形質転換微生物の具体的な例示としては、エシェリヒア・コリに属する微生物を宿主微生物とし、その内部に変異FOD遺伝子を含有するプラスミドpcmFOD3を保有する形質転換微生物、エシェリヒア・コリJM109・pcmFOD3(FERM BP-7847)、およびpcmFOD4を保有する形質転換微生物、エシェリヒア・コリJM109・pcmFOD4、およびpcmFOD5を保有する形質転換微生物、エシェリヒア・コリJM109・pcmFOD5(FERM BP-7848)が挙げられる。これらの構造を図7に示した。
なお、前記エシェリヒア・コリJM109・pcmFOD3及びエシェリヒア・コリJM109・pcmFOD5は、共に平成13年1月16日に日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託され、それぞれ受託番号FERM BP-7847及びFERM BP-7848を付与された。
【0034】
形質転換微生物により該変異FODを製造するに当っては、該形質転換微生物を栄養培地で培養して菌体内又は培養液中に該変異FODを産生せしめ、培養終了後、得られた培養物を濾過又は遠心分離などの手段により菌体を採集し、次いでこの菌体を機械的方法又はリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、又、必要に応じてEDTA及び/又は適当な界面活性剤などを添加して該変異FODの水溶液を濃縮するか、又は濃縮する事なく硫安分画、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーにより処理して、純度のよい該変異FODを得ることができる。
【0035】
形質転換微生物の培養条件はその栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は、液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利でる。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用されうる。
炭素源としては、資化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、サッカロース、ラクトース、マルトース、フラクトース、糖蜜などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物などが使用される。
その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0036】
培養温度は微生物が発育し、変異FODを生産する範囲で適宜変更し得るが、E.coliの場合、好ましくは20?42℃程度である。培養条件は、条件によって多少異なるが、変異FODが最高終了に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、E.coliの場合、通常は12?48時間程度である。培地pHは菌が発育し、変異FODを生産する範囲で適宜変更し得るが、E.coliの場合、好ましくはpH6?8程度である。
【0037】
培養物中の変異FODは、菌体を含む培養液そのままを採取し、利用することもできるが、一般には常法に従って、変異FODが培養液中に存在する場合には、濾過、遠心分離などにより変異FOD含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。変異FODが菌体内に存在する場合には、得られた培養物を濾過又は遠心分離などの手段により、菌体を採取し、次いでこの菌体を必要に応じて機械的方法又はリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、またEDTAなどのキレート剤及び/又は界面活性剤を添加して変異FODを可溶化し水溶液として分離採取する。
この様にして得られた変異FOD含有溶液を、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、更に、硫安、硫酸ナトリウムなどの塩析処理などによる分別沈澱法により沈澱せしめればよい。
【0038】
次いでこの沈澱物を、水に溶解し、半透膜にて透析せしめて、より低分子量の不純物を除去することができる。また、吸着剤あるいはゲル濾過剤などによるゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により精製し、これらの手段を用いて得られる変異FOD含有溶液から、減圧濃縮凍結乾燥等の処理により精製された変異FODが得られる。
糖化アミノ酸に作用する酵素の活性は下記の方法にて測定した。
【0039】
<<糖化アミノ酸に作用する酵素の活性測定法>>
<反応液の組成>
50mM トリス緩衝液 pH7.5
0.03% 4アミノアンチピリン(4-AA)(和光純薬社製)
0.02% フェノール(和光純薬社製)
4.5U/ml パーオキシダーゼ(POD)(シグマ社製)
1.0mM α-カルボベンズオキシ-ε-D-フルクトシル-L-リジン若しくはフルクトシルバリン(ハシバらの方法に基づき合成、精製した。Hashiba H、J.Agric.Food Chem.24:70、1976以下ZFL、FVと略す。)
上記の反応液1mlを小試験管に入れ、37℃-5分間予備加温した後、適当に希釈した酵素液0.02mlを添加して攪拌し、反応を開始する。正確に10分間反応の後に0.5%のSDSを2ml添加して反応を停止し、波長500nmの吸光度を測定する(As)。またブランクとして酵素液のかわりに蒸留水0.02mlを用いて同一の操作を行って吸光度を測定する(Ab)。この酵素作用の吸光度(As)と盲検の吸光度(Ab)の吸光度差(As-Ab)より酵素活性を求める。別にあらかじめ過酸化水素の標準溶液を用いて吸光度と生成した過酸化水素との関係を調べ、37℃-1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1Uと定義する。計算式を下記に示す。

3.02:総反応液量(ml)
0.02:酵素溶液量(ml)
10:反応時間
2:過酸化水素2分子から4-AA、フェノールが縮合した色素1分子を生じることによる係数
12.0:4-AA-フェノールのミリモル吸光係数
B:酵素液の希釈倍率
以上の方法によって得られる変異FODのうち、配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンがトリプトファンに置換された変異FODの酵素学的性質は以下のようである。
【0040】
(1)基質特異性
ZFL 100%
FV 0%
(2)酵素作用
下記に示すように、少なくともα-アミノ酸、ε-アミノ酸のアマドリ化合物を分解して、グルコソンと過酸化水素および対応するα-アミノ酸、ε-アミノ酸を生成する反応を触媒する。

(3)分子量
本酵素の分子量はSephadex・G-100を用いたカラムゲル濾過法で、0.2MのNaCl含有0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.0)を溶出液として測定した結果、48000±2000、SDS-PAGEでは47000±2000であった。
(4)等電点
キャリアアンフォライトを用いる焦点電気泳動法によって4℃、700Vの定電圧で40時間通電した後、分画し、各画分の酵素活性を測定した結果、pH4.3±0.2であった。
(5)Km値
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)
0.03%の4-AA
0.02%のフェノール
4.5U/mlのパーオキシダーゼ
を含む反応液中で合成基質ZFLの濃度を変化させて、ZFLに対するKm値を測定した結果、3.4mMの値を示した。
(6)至適pH
前記の酵素活性測定法に従い、反応液中の50mMのトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)に代えて100mMの酢酸緩衝液(pH4.4-5.4)、リン酸緩衝液(pH5.6-7.9)、トリス-塩酸緩衝液(pH7.3-8.5)、およびグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.0-10.3)の各緩衝液を用いて測定した。この結果、pH7.5で最大の活性を示した。
(7)pH安定性
本酵素0.5Uを含有する0.5Mの至適pHを測定するときに用いた各種緩衝液0.5mlを40℃、10分間処理した後、その残存活性を後記の活性測定法に従って測定した。この結果、pH7.0-9.0の範囲で80%以上の活性を保持していた。
(8)熱安定性
本酵素0.5Uを0.2Mのトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)で調製し、10分間加熱処理後、その残存活性を活性測定法に従って測定した。この結果、40℃までは残存活性として95%以上を保持した。
(9)至適温度
40mMのトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)を用い、活性測定法に従い、各温度で10分間反応後、0.5%のラウリル硫酸ナトリウム(以下SDSと略称する)溶液2mlで反応を停止し、波長500nmで吸光度を測定した。この結果、50℃で最大の活性を示した。
【0041】
次に、FODについて配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンを他のアミノ酸に置換することにより糖化バリン反応性を著しく低下させた変異型FODを用いて被検液中の糖化リジンを消去した後に、糖化バリンに反応性を有するFODを用いて被検液中の糖化バリンを測定する方法について述べる。
被検液中の糖化リジンを消去するFODは糖化バリンに作用しないFODであればなんら限定されるものではないが、例えばFODについて配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンを他のアミノ酸に置換することにより糖化バリン反応性を著しく低下させた変異型FODが用いられ、さらに好適には変異FODのうち、配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンがトリプトファン、メチオニン、バリンのいずれかに置換された変異FODを用いれば良い。このとき反応液に添加する酵素量は被検液中の糖化リジンを消去するのに十分な量であればよく、例えば、0.5?200U/ml、好適には1?50U/mlである。
また、糖化バリンを測定するFODについては糖化バリンに反応性を持つFODであれば何ら限定されるものではなく、例えば、フザリウム・オキシスポルムIFO-9972株由来FODを用いれば良い。このとき反応液に添加する酵素量は被検液中の糖化バリンを測定するのに十分な量であればよく、例えば、0.5?200U/ml、好適には1?50U/mlである。
【0042】
具体的な測定方法は、まず、第一反応にて、糖化リジンおよび糖化バリンを含有する被検液中の糖化リジンに変異型FODを作用させ、このとき生成する過酸化水素はカタラーゼ等によって分解させ、第二反応にて、被検液中の糖化バリンにFODを作用させ生成する過酸化水素を4-アミノアンチピリン(4-AA)およびトリンダー試薬と反応させ、生成する色素を比色測定すればよい。また、第二反応液中にカタラーゼの阻害剤であるアジ化ナトリウムを添加してもよい。
【0043】
本発明を用いて糖化蛋白質を正確に測定する際に使用しうるグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤としては、被検液に、プロテアーゼをグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤存在下作用せしめ、主にグロブリン成分以外の蛋白質を断片化しうるグロブリン成分選択的な阻害剤であればいかなる阻害剤を用いても良い。その好ましい例としてはデオキシコール酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、第四級アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤、コンカナバリンA、オクチルグルコシド若しくはベタインがあげられる。
デオキシコール酸アミドとしては、例えばビスグルコナミドプロピルデオキシコーラミド(N,N-Bis(3-D-gluconamidopropyl)deoxycholamido)等が好ましく、コール酸アミドとしては、例えば、硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン
(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-2-hydroxypropanesulfonicacid)、硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonic acid)若しくはビスグルコナミドプロピルコーラミド(N,N-Bis(3-D-gluconamido propyl)cholamido)等が好ましい。
第四級アンモニウム塩としては、例えば塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリ-n-ブチルアンモニウム等が好ましく、第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤としては、例えば塩化ラウリルトリメチルアンモニウム若しくはラウリルジメチルアミンオキサイド等が好ましい。
これらのグロブリン成分選択的な阻害剤は単独若しくは組み合わせて用いても良い。
【0044】
また、これらのグロブリン成分選択的な阻害剤の使用濃度としては、プロテアーゼ作用中にグロブリン成分への作用を十分抑えられる量であれば良く、例えばデオキシコ-ル酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、オクチルグルコシド、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤を用いる場合には0.01%?20%程度の濃度で使用することが好ましく、さらに好ましくは0.05%?10%でありまたこれ以外の濃度を用いることもできる。
また同様に例えばコンカナバリンA、オクチルグルコシドもしくはベタインを用いる場合にはそれぞれ0.01?10mg/ml、0.005?5%の濃度で使用することが出来、またそれぞれ0.02?2mg/ml、0.01?2%の濃度で使用することが好ましくこれ以外の濃度を用いることもできる。
【0045】
本発明を用いて糖化蛋白質を正確に測定する際に使用しうるASOxとしては、被検液に含まれるアスコルビン酸に有効に作用するものであればいかなるものを用いても良いが、例えば植物または微生物由来のASOx等が挙げられる。具体的な例を以下に示すがこれらは1例に過ぎず、なんら限定されるものではない。
植物由来のASOxの例としては、キュウリ由来(アマノ社製、東洋紡社製)およびカボチャ由来(ロシュ社製、東洋紡社製)が挙げられる。
微生物由来のASOxの例としてはアクレモニウム(Acremonium)由来(旭化成社製)、微生物由来(アマノ社製)が挙げられる。
ASOxの活性は下記の方法にて測定した。
【0046】
<<ASOxの活性測定法>>
<保存基質溶液>
Lアスコルビン酸(和光純薬社製)176mgとEDTA(第一化学薬品社製)37mgを1mM塩酸100mlで溶解する。
<反応試薬混合液>
上記の保存基質溶液を0.45mMのEDTAを含む90mM 燐酸2カリ-5mM燐酸1ナト緩衝液で20倍に希釈する。
<操作>
上記の反応試薬混合液1mlを小試験管に入れ、30℃-5分間予備加温した後、適当に希釈した酵素液0.10mlを添加して攪拌し、反応を開始する。正確に5分間反応の後に0.2N塩酸水溶液3.0mlを添加して反応を停止し、波長245nmの吸光度を測定する(As)。またブランクとして上記の反応液1mlを小試験管に入れ、30℃-5分間予備加温した後、0.2N塩酸水溶液3.0mlを添加して反応を停止する。適当に希釈した酵素液0.10mlを添加して攪拌し、波長245nmの吸光度を測定する(Ab)。この酵素作用の吸光度(As)と盲検の吸光度(Ab)の吸光度差(Ab-As)より酵素活性を求める。30℃-1分間に1μmolのアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化する酵素量を1Uと定義する。計算式を下記に示す。

10.0:pH1.0の条件でアスコルビン酸の245nmに於けるミリモル分子吸光係数
5:反応時間(min)
4.10:反応液総量(ml)
0.10:反応に供した酵素試料液量
B:酵素液の希釈倍率
また、これらのASOxの使用濃度としては、プロテアーゼとASOxを共存させ保存する場合に、試薬使用時でも十分なアスコルビン酸の消去が可能な量であれば良く、例えば通常0.1U/ml?100U/ml、好ましくは1U/ml?50U/mlの濃度で用いればよい。
【0047】
本発明を用いて糖化蛋白質を正確に測定する際にASOxと組み合わせて使用しうる4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持たない緩衝剤としては、プロテアーゼとASOxを共存させた状態で、ASOxが安定である緩衝剤であればいかなるものを用いても良いが、例えば3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)及び2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)等の4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持つ緩衝剤以外の緩衝剤であればいかなる緩衝剤を用いても良い。
さらに、好ましい緩衝剤の例としては、例えばN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、2-モルフィリノエタンスルホン酸(MES)、3-モルフィリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルフィリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、2-ハイドロキシ-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノプロパンスルホン酸(TES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)等があげられる。
最も好ましい緩衝剤の例としては例えばトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)及びピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)が挙げられる。
これらのASOxと共に使用する緩衝剤の使用濃度としては、プロテアーゼ共存下でもASOxが安定である濃度であり、かつプロテアーゼ及びASOxの反応に影響を及ぼさない濃度であればいかなる量用いても良く、例えば通常1mM?1M、好ましくは5mM?500mMの濃度で用いればよい。
【0048】
本発明を用いて糖化アルブミンを正確に測定する際に使用しうるアルブミンの蛋白質変性剤及び/またはS-S結合を有する化合物としてはBCPのアルブミンに対する反応性がGA及びNGAで一致すればいかなるものを用いても良い。
好ましい蛋白質変性剤の例としては、例えば、尿素、グアニジン化合物、陰イオン界面活性剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、これらは単独若しくは組み合わせて用いることが出来る。また、これらの蛋白質変性剤の使用濃度としては、BCPのアルブミンに対する反応性がGA及びNGAで一致する濃度であれば良く、例えば通常0.01%?10%、好ましくは0.05%?5%の濃度で用いればよい。
好ましいS-S結合を有する化合物としては6,6’-ジチオジニコチン酸
(6,6’-dithiodinicotinic acid)、3,3’-ジチオジプロピオン酸
(3,3’-dithiodipropionic acid)、2,2’-ジチオジサリチル酸
(2,2’-dithiodibenzoicacid)、4,4’-ジチオジモルホリン
(4,4’-dithiodimorpholine)、2,2’-ジヒドロキシ-6,6’-ジナフチルジスルフィド(2.2’-dihydroxy-6,6’-dinaphthyl disulfide;DDD)、2,2’-ジチオジピリジン
(2,2’-dithiopyridine;2-PDS)、4,4’-ジチオジピリジン
(4,4’-dithiopyridine;4-PDS)、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)
(5,5’-dithiobis-(2-nitrobenzoic acid);DTNB)、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)(2,2’-dithiobis-(5-nitropyridine))等があげられる。
また、これらのS-S結合を有する化合物の使用濃度としては、BCPのアルブミンに対する反応性がGA及びNGAで一致する濃度であれば良く、例えば通常1μM?10mM、好ましくは10μM?5mMの濃度で用いればよく、これ以外の濃度で用いても良い。
【0049】
本発明を用いて糖化蛋白質を正確に測定する際に使用しうるプロテアーゼの安定化剤としては、試薬保存中にプロテアーゼの活性低下を抑える物質であればいかなるものを用いても良く、特に試薬を液体の状態で保存中にプロテアーゼの活性低下を抑える物質であれば好ましい。
好ましい安定化剤の例としてはジメチルスルホオキシド、アルコール、水溶性カルシウム塩、食塩、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤があげられる。アルコールの例としては、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等が、第四級アンモニウム塩第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤の例としてはラウリル硫酸トリエタノールアミン、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等があげられる。
また、これらのプロテアーゼ安定化剤の使用濃度としては、試薬保存中にプロテアーゼの活性低下を抑える物質であればいかなる濃度で用いても良く、特に試薬を液体の状態で保存中にプロテアーゼの活性低下を抑える濃度であれば好ましい。好ましい濃度の例としては、例えば通常0.01%?30%、好ましくは0.1%?20%の濃度で用いればよく、これ以外の濃度で用いても良い。
【0050】
本発明を用いて糖化蛋白質を正確に測定する際に使用しうる少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化剤としては、試薬保存中に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の活性低下を抑える物質であればいかなるものを用いても良く、特に試薬を液体の状態で保存中に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の活性低下を抑える物質であれば好ましい。
好ましい安定化剤の例としては糖アルコール、スクロース、水溶性マグネシウム塩、水溶性カルシウム塩、硫安、アミノ酸、ザルコシンがあげられる。糖アルコールの例としては、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、グリセリン等が、アミノ酸としては全てのアミノ酸に強い安定化効果があるが中でもより好ましくは、プロリン、グルタミン酸、アラニン、バリン、グリシン、リジン等があげられる。
また、これらの少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化剤の使用濃度としては、試薬保存中に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の活性低下を抑える物質であればいかなる濃度で用いても良く、特に試薬を液体の状態で保存中に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の活性低下を抑える濃度であれば好ましい。好ましい濃度の例としては、例えば糖アルコール、スクロース、アミノ酸、ザルコシンの場合、通常0.01%?30%、好ましくは0.1%?20%の濃度で用いればよく、水溶性マグネシウム塩、水溶性カルシウム塩、硫安の場合、通常1mM?1M、好ましくは10mM?500mMの濃度で用いればよく、これ以外の濃度で用いても良い。
【0051】
本発明の糖化蛋白質測定用組成物に於ける液組成については、プロテアーゼを含む蛋白質分解試薬、生成した糖化アミノ酸若しくはペプチドの測定を行う糖化アミノ酸測定試薬を同一反応槽中で使用できるよう適宜組み合わせれば良い。またこれらの試薬は液状品及び液状品の凍結物あるいは凍結乾燥品として提供できる。
本発明に使用しうる蛋白質分解試薬組成としては、蛋白質分解反応が効率よく進行するようにpH、緩衝剤及びプロテアーゼ濃度を決定し、その後グロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤、ASOx、プロテアーゼ安定化剤を前述の有効な濃度になるよう適宜調製して添加すればよい。
例えばプロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)を用いる場合にはpHが7?10付近で蛋白質分解活性が強く、反応のpHは7?10を選択できる。緩衝液としては4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持たない緩衝剤である例えばpH7.2?8.5に緩衝作用のあるPOPSO緩衝液を使用することが出来、POPSOの濃度は1?100mMの濃度、好ましくは10?500mMで使用すればよい。
またプロテアーゼ添加濃度は実際に使用される反応時間中に被検液中の糖化蛋白質を十分に分解し得る濃度で有れば良く、100?50万PU/mlが好ましく、500?10万PU/mlがより好ましい。
グロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤、ASOx、プロテアーゼ安定化剤との組み合わせとしては、例えばグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤として硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン、0.01%?20%、好ましくは0.05%?10%、カボチャ由来アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡社製)、0.1U/ml?100U/ml、好ましくは1U/ml?50U/ml、プロテアーゼ安定化剤としてジメチルスルホオキシド0.01%?30%、好ましくは0.1%?20%等を用いることができる。
【0052】
本発明に使用しうる糖化アミノ酸測定試薬組成については、使用する少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の至適pHを考慮し反応が効率よく進行するようにpHを選択し、次に糖化アミノ酸に作用する酵素量を決定し、最後に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化剤を添加すればよい。
例えばR-FOD若しくはR-FOD-II(旭化成社製)を使用する場合、最大活性の50%以上の活性を示す領域がpH6.5?10と広く、反応のpHは6.5?10を選択できる。また酵素添加濃度は、使用される反応液中で糖化アミノ酸を十分に検出し得る濃度で有れば良く、0.5?200U/mlが好ましく、1?50U/mlがより好ましい。
少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化剤としては、例えばグルタミン酸を用いることができ、0.01%?30%、好ましくは0.1%?20%の濃度で用いればよい。
【0053】
本発明に使用しうる第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素、第2試薬にプロテアーゼを含有する組成物としては、第1試薬をプロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の作用可能な条件、例えばpH、塩濃度、等を設定し、第2試薬にはプロテアーゼの保存に適した条件を設定すれば如何なる条件を用いても良い。
例えばR-FOD、プロテアーゼタイプXXIVを使用する場合には、それぞれpH6.5?10、7?10で酵素が良く作用することから第1試薬はpH7?10を選択し比較的高濃度の例えば20?1000mMの緩衝剤濃度を選択すればよい。一方本プロテアーゼはpH7以下で安定であることから、第2試薬のpHは7以下を選択し第1試薬よりも比較的低濃度の例えば1?50mM緩衝剤濃度を選択し、加えて例えばジメチルスルホオキシド1?50%程度のプロテアーゼ安定化剤を添加すると好ましい。この場合第1試薬と第2試薬の混合の割合を例えば4:1と第1試薬を多くすればさらに高濃度の安定化剤や第1試薬からかけ離れたpH等が選択可能である。
【0054】
さらに本発明に基づく糖化蛋白質を測定する酵素反応組成には、例えば界面活性剤、塩類、緩衝剤、pH調製剤や防腐剤などを適宜選択して添加しても良い。
界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリビニルアルコール等の0.01?10%、好適には0.05?5%、各種金属塩類、例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マンガン、塩化コバルト、塩化亜鉛、塩化カルシウム等の1mM?5M、好適には10mM?1M、各種緩衝液、例えばトリス-塩酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、燐酸緩衝液、グッドの緩衝液等の10mM?2M、好適には20mM?1M、各種防腐剤、例えばアジ化ナトリウムの0.01?10%、好適には0.05?1%を適宜添加すれば良い。
【0055】
本発明に使用しうる糖化蛋白質の測定方法としては、前記本発明の糖化蛋白質測定用組成物に被検液0.001?0.5mlを加え、37℃の温度にて反応させ、レートアッセイを行う場合には、反応開始後一定時間後の2点間の数分ないし数十分間、例えば3分後と4分後の1分間、または3分後と8分後の5分間における変化した補酵素、溶存酸素、過酸化水素若しくはその他生成物の量を直接または間接的に前記の方法で測定すれば良く、エンドポイントアッセイの場合には反応開始後一定時間後の変化した補酵素、溶存酸素、過酸化水素若しくはその他生成物の量を同様に測定すれば良い。この場合既知濃度の糖化蛋白質を用いて測定した場合の吸光度等の変化と比較すれば被検液中の糖化蛋白質量を求めることができる。
【0056】
本発明に使用しうる少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素作用の検出は、例えばデヒドロゲナーゼを用いた場合には補酵素の変化量を直接測定するか、若しくは生じた還元型補酵素を各種ジアフォラーゼ、またはフェナジンメトサルフェート等の電子キャリアー及びニトロテトラゾリウム、WST-1、8(以上同人化学研究所社製)に代表される各種テトラゾリウム塩等の還元系発色試薬を用い間接的に測定しても良く、またこれ以外の公知の方法により直接、間接的に測定しても良い。
また例えばオキシダーゼを用いた場合には、酸素の消費量または反応生成物の量を測定することが好ましい。反応生成物として、例えばR-FODを用いた場合には反応により過酸化水素及びグルコソンが生成し、過酸化水素及びグルコソン共に公知の方法により直接、間接的に測定する事が出来る。
上記過酸化水素の量は、例えばパーオキシダーゼ等を用いて色素等を生成し、発色、発光、蛍光等により測定しても良く、また電気化学的手法によって測定しても良く、カタラーゼ等を用いてアルコールからアルデヒドを生成せしめて、生じたアルデヒドの量を測定しても良い。
【0057】
過酸化水素の発色系は、パーオキシダーゼの存在下で4-AA若しくは3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等のカップラーとフェノール等の色原体との酸化縮合により色素を生成するトリンダー試薬、パーオキシダーゼの存在下で直接酸化、呈色するロイコ型試薬等を用いることが出来る。
トリンダー型試薬の色原体としては、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体等が使用可能であり、具体例として、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン(TOOS)、N,Nビス(4-スルホプロピル)-3-メチルアニリン2ナトリウム(TODB)(以上同人化学研究所社製)等が挙げられる。
またロイコ型試薬の具体例としては、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4-ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)(以上和光純薬社製)等が挙げられる。
蛍光法には、酸化によって蛍光を発する化合物、例えばホモバニリン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸等を、化学発光法には、触媒としてルミノール、ルシゲニン、イソルミノール等を用いることが出来る。
【0058】
また過酸化水素を電極を用いて測定する場合、電極には、過酸化水素との間で電子を授受する事の出来る材料である限り特に制限されないが、例えば白金、金若しくは銀等が挙げられ、電極測定方法としてはアンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリー等の公知の方法を用いることが出来、さらにオキシダーゼまたは基質と電極との間の反応に電子伝達体を介在させ、得られる酸化、還元電流或いはその電気量を測定しても良い。電子伝達体としては電子伝達機能を有する任意の物質が使用可能であり、例えばフェロセン誘導体、キノン誘導体等の物質が挙げられる。またオキシダーゼ反応により生成する過酸化水素と電極の間に電子伝達体を介在させ得られる酸化、還元電流またはその電気量を測定しても良い。
【0059】
糖化蛋白質が糖化アルブミンであり、糖化アルブミン割合を正確に測定する場合に、本発明において用いることができるアルブミン測定試薬としては、蛋白質変性剤及び/またはS-S結合を有する化合物及びブロモクレゾールパープルを含有する組成物として調製されているものであり、GAとNGAの間で測定に乖離を生じない組成であればいかなる組成を用いても良い。
例えば蛋白質変性剤及び/またはS-S結合を有する化合物としてラウリル硫酸ナトリウム及び5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)を用いる場合には、BCPの発色に影響を与えないように低濃度の緩衝液例えば1?20mMを用い、ラウリル硫酸ナトリウム0.01%?10%、好ましくは0.05%?5%及び5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)1μM?10mM、好ましくは10μM?5mMの濃度で用いれば良い。またBCPは中性以上で激しく着色することからpH4.5?7.5で使用すると良い。
【0060】
本発明に使用しうるアルブミンの測定方法としては、前記本発明のアルブミン測定用組成物に被検液0.001?0.5mlを加え、37℃の温度にて反応させ、1ポイントアッセイにて反応開始から一定時間後の色素の量を測定すれば良い。アルブミン-BCPの発色の検出は吸収極大が600nm付近であるから、550nm?630nm付近で検出を行うと良い。この場合既知濃度のアルブミンを用いて測定した場合の吸光度及び水のブランクと比較すれば被検液中のアルブミンの量を求めることができる。
【0061】
本発明の測定対象となる被検液は、少なくとも糖化蛋白質を含有する被検液であれば如何なるものを用いても良いが、好ましい被検液としては血液成分、例えば血清、血漿、血球、全血等が挙げられる。また分離された赤血球も、分離の条件によってはグロブリン成分が混入し測定値に影響を与える可能性があることから好ましい被検液として用いることができる。
本発明の糖化蛋白質測定組成物及び測定方法に於ける測定対象である糖化蛋白質としては、例えばGAまたはGHbが挙げられるが、測定対象となる糖化蛋白質は何らこれらに限定されるものではなく、何れの糖化蛋白質を測定しても良い。
ついで、本発明の実施例を詳しく述べるが、本発明は何らこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
グロブリン成分に作用しないプロテアーゼをスクリーニングする目的で、プロテアーゼをアルブミン、グロブリン成分及びヘモグロビンに作用させ生じた糖化アミノ酸若しくは糖化ペプチドをR-FOD(旭化成社製)にて測定した。
<基質溶液>
1;HSA基質溶液;Albumin Human;Essencially Globulin Free;25mg/ml、GA%=31.9%、フルクトサミン(FRA)値=256μmol/L[シグマ社製;基質溶液中のアルブミン濃度はアルブミン測定キット(アルブミンII-HAテストワコー;和光純薬社製)にて測定、GA%は糖化アルブミン測定計(GAA-2000;京都第一科学社製)にて測定した。
2;G-II,III基質溶液、FRA値48μmol/L[Globulins Human Cohn Fraction II,III;16.9mg/ml(シグマ社製)]
3;G-IV基質溶液、FRA値26μmol/L[Globulins Human Cohn Fraction IV;6mg/ml(シグマ社製)]
4;G-I基質溶液、FRA値77μmol/L[グロベニンI;glovenin-I;免疫グロブリン製剤(武田薬品社製)]
5;Hb基質溶液;Hemoglobin Human;55mg/ml、糖化ヘモグロビン率;HbA1c=4.5%[シグマ社製;HbA1c値は糖化ヘモグロビン計(ハイオートエーワンシーHA-8150;京都第一科学社製)にて測定した。]
なお基質溶液のフルクトサミン値はフルクトサミン測定キット(オートワコーフルクトサミン、和光純薬社製)にて測定した。
<プロテアーゼ反応試料作成>
Hb以外の基質溶液200μl、プロテアーゼ溶液100mg/ml(この濃度が作成できない場合は可能な限り濃い濃度、また溶液状のものはそのままの濃度)40μl、及び1Mトリス緩衝液(pH8)10μlを良く混合し37℃-30分反応させ、1万膜(ウルトラフリーMC;ミリポア社製)で濾過し、濾液をプロテアーゼ反応試料とした。また、基質の代わりに蒸留水を用い同様の操作を行い、ブランク試料とした。
一方Hb基質溶液の場合は基質溶液150μl、プロテアーゼ溶液200mg/ml(この濃度が作成できない場合は可能な限り濃い濃度、また溶液状のものはそのままの濃度)を60μl及び1Mトリス緩衝液(pH8)5μlを良く混合し37℃-60分反応させ、1万膜(ウルトラフリーMC;ミリポア社製)で濾過し、濾液をプロテアーゼ反応試料とした。また、基質の代わりに蒸留水を用い同様の操作を行い、ブランク試料とした。
【0063】
<プロテアーゼ反応試料中の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの測定>
<反応液組成>
50mM トリス緩衝液 pH8.0
0.02% 4-AA(和光純薬社製)
0.02% N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン(TOOS)(同人化学研究所社製)
2U/ml R-FOD(旭化成社製)
5U/ml POD(シグマ社製)
<反応手順>
上記糖化アミノ酸測定反応液300μlをセルに分注し37℃-3分間インキュベーションし555nmを測光する(A0)。続いてプロテアーゼ反応試料30μlを添加し37℃-5分間インキュベーションし555nmを測光する(A1)。またプロテアーゼ反応試料の代わりにブランク試料を用い同様の操作を行いA0ブランク、A1ブランクを測定する。プロテアーゼの糖化蛋白質への作用を吸光度変化で示すと下式となる。
ΔA=(A1-A0)-(A1ブランク-A0ブランク)
pH8.0における代表的なプロテアーゼのアルブミン、グロブリン、ヘモグロビンへの作用(ΔA)を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
G-IV基質溶液中の糖化蛋白質に対する作用はどのプロテアーゼも小さい若しくは0であったため、またG-II、-III基質溶液の測定値とG-I基質溶液の測定値がほぼ同じであったために表1にはグロブリン成分についてG-I基質溶液の結果のみを記載した。表1から分かるようにアスペルギルス(Aspergillus)属由来のプロテアーゼ、及びプロテアーゼタイプXIVはグロブリン成分中の糖化グロブリンにも良く作用している。
しかしながらアルブミン中のGA及びヘモグロビン中のGHbに作用するエンド型、エキソ型プロテアーゼは共にグロブリン成分中の糖化グロブリンに作用を示した。よって血清又は血漿中のGA若しくは全血及び血球中のGHbを測定する場合にプロテアーゼの選択のみではグロブリン成分の影響を回避できないと考えられた。
【実施例2】
【0066】
<グロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤のスクリーニング>
前記HSA基質溶液に高い作用を示すプロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)を用いて、HSA基質溶液を基準に、前記各種グロブリン基質溶液へのプロテアーゼ作用を低下させる物質をスクリーニングした。
<反応液組成>
R-1 蛋白質分解試薬
150mM トリシン緩衝液(和光純薬社製)pH8.5
2500U/ml プロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製) +グロブリン選択的なプロテアーゼ阻害剤(デオキシコール酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤;1%、コンカナバリンA;0.21mg/ml、ベタイン;0.1%、オクチルグルコシド;1%;同人化学研究所社製)
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
150mM トリシン緩衝液(和光純薬社製)pH8.5
0.12% 4-AA(和光純薬社製)
0.08% TOOS(同人化学研究所社製)
24U/ml R-FOD(旭化成工業社製)
20U/ml POD(シグマ社製)
R-1 蛋白質分解試薬中のデオキシコール酸アミドとしては、ビスグルコナミドプロピルデオキシコーラミドを、コール酸アミドとしては硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン、硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン若しくはビスグルコナミドプロピルコーラミド、第四級アンモニウム塩としては塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリ-n-ブチルアンモニウム、第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム及びラウリルジメチルアミンオキサイドを使用した。
<基質溶液>
1;HSA基質溶液;Albumin Human;40mg/ml、GA%=10.5%[和光純薬社製;基質溶液中のアルブミン濃度はアルブミン測定キット(アルブミンII-HAテストワコー;和光純薬社製)にて測定し、GA%は糖化アルブミン測定計(GAA-2000;京都第一科学社製)にて測定した。]
2;γグロブリン添加基質溶液;上記HSA基質溶液にγグロブリン[γGlobulin sHuman(シグマ社製)フルクトサミン値34μM]17.0mg/mlを添加した。
<反応手順>
37℃にインキュベートされたR-1;240μlに基質溶液(HSA基質溶液、G-I基質溶液)8μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後にR-2;80μlを添加した。R-2添加前後の546nmの吸光度を測定し、その差を吸光度変化とした。また基質の代わりに蒸留水を用い同様の操作を行い、ブランク試料とし、さらにグロブリン選択的なプロテアーゼ阻害剤を添加しない反応液をコントロールとした。
HSA基質溶液から得られた吸光度変化からブランク試料の吸光度変化を差し引いたΔA(HSA)及びγグロブリン添加基質溶液から得られた吸光度変化からブランク試料の吸光度変化を差し引いたΔA(+γグロブリン)を算出し、
γグロブリン添加の影響=(ΔA(+γグロブリン)-ΔA(HSA))/ΔA(HSA)×100(%)
様々な候補物質の共存下及び非共存下(コントロール試料)にて比較した。その結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2から分かるようにデオキシコール酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤、コンカナバリンA、オクチルグルコシド及びベタインにグロブリンへのプロテアーゼ作用を阻害する効果が確認され、これらグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤及びプロテアーゼを用いることにより主にグロブリン以外の蛋白質を断片化できることが明白となった。
さらにHSA基質溶液の代わりにHb基質溶液を用い同様の測定を行った。但しHb基質溶液を用いた場合にはR-1反応終了後、トリクロル酢酸にて除蛋白、中和後R-2を添加し評価を行った。Hb基質溶液を用いた場合にもデオキシコール酸、デオキシコール酸アミド、コール酸アミド、第四級アンモニウム塩若しくは第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤、コンカナバリンA及びベタインにグロブリンへのプロテアーゼ作用を阻害する効果が確認された。
【実施例3】
【0069】
<硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンのグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害効果>
様々なプロテアーゼを用い、硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンのグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害効果を確認した。
R-1 蛋白質分解試薬
150mM トリシン緩衝液(和光純薬社製)pH8.5
2500U/ml プロテアーゼ*
1% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン
* プロテアーゼはオリエンターゼ22BF(阪急バイオインダストリー社製)、プロテアーゼタイプVIII、プロテアーゼタイプXIV、プロテアーゼタイプXXVII(以上シグマ社製)を使用した。
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
実施例2に同じ
<基質溶液>
実施例2に同じ。
<反応手順>
実施例2に同じ手順でγグロブリン添加の影響を硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンの共存下及び非共存下(コントロール試料)にて比較した。その結果を表3に示す。なお、判定の欄について、γグロブリンの添加の影響が有意に低下した場合に○とした。
【0070】
【表3】

【0071】
表3から分かるようにオリエンターゼ22BF、プロテアーゼタイプVIII、プロテアーゼタイプXIV、プロテアーゼタイプXXVIIはすべて硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン共存下にγグロブリン基質へのプロテアーゼ作用が低下し、一方HSA基質に対する作用は保持されていた。このことから本発明におけるグロブリン成分選択的なプロテアーゼ阻害剤はプロテアーゼの種類を問わず有効であることが明らかとなった。
さらに同様にGHbを測定する場合にも本発明を用いることにより、グロブリン成分の影響を回避できた。
【実施例4】
【0072】
<糖化アルブミンの希釈直線性>
R-1 蛋白質分解試薬
150mM トリシン緩衝液(和光純薬社製)pH8.5
2500U/ml プロテアーゼタイプXXVII(シグマ社製)
1% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン(シグマ社製)
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
実施例2に同じ
<基質溶液>
1:HSA基質溶液;実施例1と同じ。但し濃度は4.0g/dlで用いた。
2:γグロブリン基質溶液;実施例2と同じ。
3:グロブリンIV基質溶液;実施例1と同じ。
<操作>
HSA基質溶液(4g/dl)、γグロブリン(γG)及びグロブリンIV(GIV)基質溶液1.7g/dl)の0.0、0.5、1.0、1.5、2.0倍濃度の試料を調製し希釈直線性を確認した。操作は実施例3に同じ。但しHSA1.0倍濃度は10回測定しCV値を計算した。その結果を図1に示す。
【0073】
図1から分かるようにγグロブリン及びグロブリンIV基質溶液共に濃度を変化させても吸光度変化が得られなかった。一方HSA基質溶液は濃度に応じて良好な直線性が得られ、グロブリン成分の影響を実質的に受けずに糖化アルブミンが測定されていることが明白である。またHSA1.0倍濃度ではCV値=0.9%と良好な再現性が確認されており、本発明の測定系を用いて10分の反応時間で糖化アルブミンが選択的に、感度良く、また再現良く測定されていることが明らかとなった。
【実施例5】
【0074】
<糖化ヘモグロビンの希釈直線性>
R-1 蛋白質分解試薬
77mM トリス緩衝液 pH8.0
2500U/ml プロテアーゼタイプXIV(シグマ社製)
1% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン(シグマ社製)
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
実施例2に同じ。
<基質溶液>
実施例1と同一のHb基質溶液及び実施例4と同じγグロブリン及びグロブリンIV基質溶液を使用した。
<操作>
Hb基質溶液(4g/dl)、γグロブリン及びグロブリンIV基質溶液(1.7g/dl)の0.0、0.5、1.0、1.5、2.0倍濃度の試料を調製し希釈直線性を確認した。操作は実施例1に同じ。但しHb1.0倍濃度は10回測定しCV値を計算した。その結果を図2に示す。
【0075】
図2から分かるようにγグロブリン及びグロブリンIV基質溶液共に濃度を変化させても吸光度変化が得られなかった。一方Hb基質溶液は濃度に応じて良好な直線性が得られ、グロブリン成分の影響を実質的に受けずに糖化ヘモグロビンが測定されていることが明白である。またHb1.0倍濃度ではCV値=2.0%と良好な再現性が確認されており、本発明の測定系を用いて10分の反応時間で糖化ヘモグロビンが選択的に、感度良く、また再現良く測定されていることが明らかとなった。
【実施例6】
【0076】
<糖化アルブミンの直線性>
R-1 蛋白質分解試薬 実施例4に同じ。
R-2 糖化アミノ酸測定試薬 実施例4に同じ。
<基質溶液>
血清A)* 糖尿病患者血清 GA%=32.9%;アルブミン濃度 4.3g/dl
血清B)* 健常者血清 GA%=16.4%;アルブミン濃度 4.1g/dl
* 上記血清A)とB)とを10:0、8:2、6:4、4:6、2:8、0:10の割合で混合し試料とした。
<操作>実施例3に同じ。
結果を図3に示す。
【0077】
図3から分かるようにアルブミン濃度を一定にした異なる糖化アルブミン率の試料に於いても良好な直線性が得られた。従って本発明の糖化蛋白質の測定方法により、実際の血清、血漿中の糖化アルブミンを定量的に検出できる事が分かった。また血清の代わりに赤血球を溶血し作成したヘモグロビン基質溶液を用いても同様の直線性が確認された為、本発明の糖化蛋白質の測定方法により、糖化ヘモグロビンを定量的に検出できることも確認できた。
【実施例7】
【0078】
<糖化アルブミンHPLC法と酵素法(本発明)の相関性>
R-1 蛋白質分解試薬 実施例4に同じ。
R-2 糖化アミノ酸測定試薬 実施例4に同じ。
<基質溶液> 糖尿病患者血清 14検体
健常者血清 25検体
<操作> 操作は実施例2に同じ。
糖尿病患者血清14検体を用い本発明に基づく酵素法と、公知のHPLC法の相関を確認した。尚HPLC法の測定は、糖化アルブミン計(GAA-2000;アークレイ社製)にて糖化アルブミン率を測定した。本発明に基づく測定方法から得られる吸光度変化は糖化アルブミン率と、相関係数r=0.991と非常によい相関を示し、本発明に基づく測定方法は糖化アルブミンを正確に測定していることが明らかとなった。
【実施例8】
【0079】
<アスコルビン酸オキシダーゼの安定化に及ぼす緩衝剤種類の効果>
<反応液組成>
150mM 各種緩衝液 pH8.0
2500U/ml プロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)若しくはプロナーゼ(シグマ社製)
10U/ml アスコルビン酸オキシダーゼ(ASO-311;東洋紡社製)若しくは熱安定型アスコルビン酸オキシダーゼ(ASO-312;東洋紡社製)
R-1 蛋白質分解試薬中の緩衝剤としては3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)(以上同人化学研究所社製)及び燐酸(和光純薬社製)を用いた。
<操作手順>
上記反応液を各種緩衝剤を用いて作成し、その一部をとり、試薬中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性を測定しコントロールとした。活性測定方法は前述の<<アスコルビン酸オキシダーゼ(ASOx)の活性測定法>>を用いた。残りの反応液は室温にて2日間保存後同様に活性を測定した。コントロールの活性に対する、室温-2日間保存後の活性の割合を計算しアスコルビン酸オキシダーゼの安定性を比較した。結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4からわかるように4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持つ3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)及び2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)を緩衝剤に用いた場合よりも、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持たないトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)及び燐酸を緩衝剤に用いた場合、プロテアーゼの共存下に於いてアスコルビン酸オキシダーゼがより安定に存在していることが明白であった。
またアスコルビン酸オキシダーゼ、プロテアーゼの種類に係わらず同様の効果が確認されていることも明白である。
【実施例9】
【0082】
<糖化蛋白質測定用組成物中のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化に及ぼす緩衝剤種類の効果>
<反応液組成>
R-1 蛋白質分解試薬
150mM 各種緩衝液 pH8.0
2500U/ml プロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)
2.0mM 4-アミノアンチピリン(和光純薬社製)
10U/ml アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡社製)
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
150mM HEPES緩衝液(和光純薬社製)pH7.5
6.0mM TOOS(同人化学研究所社製)
24U/ml R-FOD(旭化成社製)
20U/ml POD(シグマ社製)
R-1 蛋白質分解試薬中の緩衝剤としてはEPPS、HEPES、HEPPSO、Tris及びPOPSOを用いた。
<コントロール基質溶液、アスコルビン酸添加基質溶液>
ヒトプール血清9容に1容のアスコルビン酸(国産化学社製)1g/dlを添加しアスコルビン酸添加基質溶液とした。アスコルビン酸の代わりに蒸留水を添加したものをコントロール基質溶液とした。
<反応手順>
37℃にインキュベートされたR-1;240μlにコントロール基質溶液若しくはアスコルビン酸添加基質溶液8μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後にR-2;80μlを添加した。R-2添加前及び添加5分後の555nmの吸光度を測定した。また基質溶液の代わりに蒸留水を用いた測定をブランクとし、コントロール基質溶液、アスコルビン酸添加基質溶液から得られた吸光度変化からブランク試料の吸光度変化を差し引いたΔA_(0)を算出した。一方同じ反応液R-1を室温にて24時間保存し同様の測定を行いΔA_(24)を算出した。コントロール基質溶液から得られた吸光度変化を100としてアスコルビン酸添加基質溶液から得られたΔA_(0)及びΔA_(24)の割合を計算した。結果を図4に示す。
【0083】
アスコルビン酸は測定系に大きな負の影響を与え100mg/dlの濃度の場合消去反応を行わなければ糖化蛋白質のシグナルが観察できなくなる。図4からわかるようにアスコルビン酸処理能は糖化蛋白質を測定する系でも4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持たないTris及びPOPSOにおいて室温-24時間保存後にも変化なく、一方EPPS、HEPES及びHEPPSOを用いた4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持つ緩衝剤の系ではアスコルビン酸処理能が室温-24時間保存後にはほとんど観察されなかった。以上の結果からプロテアーゼとアスコルビン酸オキシダーゼが共存する糖化蛋白質測定試薬に於いても4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持つ緩衝剤に用いた場合よりも、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル基を持たない緩衝剤に用いた場合アスコルビン酸オキシダーゼがより安定に存在していることが明白であった。
また本結果から糖化アルブミン、フルクトサミン及び糖化ヘモグロビンの測定に関し本発明が有用であることも明白である。
【実施例10】
【0084】
<グリコアルブミン、ノングリコアルブミンに対するブロモクレゾールパープルの作用の違い、及び蛋白質変性剤及び/または、S-S結合を有する化合物の効果>
<反応液組成>
R-1 前処理試薬
10mM Tris-HCl緩衝液 pH8.0+各濃度の蛋白質変性剤及び/または、S-S結合を有する化合物、対照としては蒸留水を添加した。
R-2 アルブミン発色試薬
200mM コハク酸緩衝液(和光純薬社製)pH5.5
0.15mM ブロモクレゾールパープル(和光純薬社製)
0.3% Tx-100(和光純薬社製)
R-1 前処理試薬中の蛋白質変性剤及び/または、S-S結合を有する化合物として以下の1)?9)を用いた。
1)6,6’-ジチオジニコチン酸(6,6’-dithiodinicotinic acid;100mM)
2)3,3’-ジチオジプロピオン酸(3,3’-dithiodipropionic acid;100mM)
3)2,2’-ジチオジサリチル酸(2,2’-dithiodibenzoicacid;100mM)
4)4,4’-ジチオジモルホリン(4,4’-dithiodimorpholine;100mM)
5)DTNB(50mM)
6)DDD(33mM)
7)2-PDS(25mM)
8)4-PDS(50mM)
9)SDS(0.3%)
1)?5)和光純薬社製、6)?9)同人化学研究所社製
<試料>
グリコアルブミン、ノングリコアルブミン、健常者血清、患者血清を試料として、ブランクとしては蒸留水を用いた。グリコアルブミン、ノングリコアルブミンはヒト血清よりアルブミンを公知の方法で精製し、ホウ酸固定化樹脂を用いて精製した。
<反応手順>
37℃にインキュベートされた前処理試薬;160μlに試料2μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後にアルブミン発色試薬;160μlを添加した。アルブミン発色試薬添加前及び添加5分後の600nmの吸光度を測定した。また試料の代わりに蒸留水及びアルブミン濃度が既知である試料から検量線を作成しアルブミン測定値を求めた。またラテックス試薬を用いた免疫法(LX試薬、栄研社製、Alb-II)を別途測定し、コントロールとした。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
表5からわかるように、前処理なしのBCP法では意外にもNGAに於いて低値を示し、同様にNGAの少ない患者では免疫法とBCP法との乖離は、NGAの多い健常者に比べて小さかった。また、蛋白質変性剤及び/または、S-S結合を持つ化合物にて前処理することにより免疫法との乖離は有意に小さくなった。なかでも2,2’-ジチオサリチル酸、4,4’-ジチオジモルホリン、DDD、2-PDS、4-PDS、DTNB及びラウリル硫酸ナトリウムの効果が顕著であった。このことから、糖化アルブミン割合を測定する際に使用するアルブミン試薬として、蛋白質変性剤及び/または、S-S結合を持つ化合物にて前処理し、続いて若しくは同時にBCPを作用させてアルブミンを測定する方法を用いることにより、NGAにより負の誤差を与える現象が回避され、正確に糖化アルブミン割合が測定できることが明白となった。
【実施例11】
【0087】
<プロテアーゼの安定化>
<反応液組成>
R-1 蛋白質分解試薬
150mM Tris-HCl緩衝液 pH8.5
5000PU/ml プロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)
8mM 4-アミノアンチピリン(同人化学研究所社製)
15U/ml パーオキシダーゼ
1.0% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン(シグマ社製)+各濃度のプロテアーゼ安定化剤、対照としては蒸留水を添加した。
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
150mM Tris-HCl緩衝液 pH8.5
24U/ml R-FOD-II(旭化成社製)
12mM TOOS(同人化学研究所社製)
前処理試薬中のプロテアーゼ安定化剤として以下の1)?7)を用いた。
1)0.5mM 塩化マグネシウム
2)10mM 塩化カルシウム
3)100mM 塩化ナトリウム
4)0.1% エチレングリコール(EtGly)
5)10% ジメチルスルホオキシド(DMSO)
6)1% エタノール(EtOH)
7)0.1% ラウリル硫酸トリアタノールアミン(TEALS)
1)?7)和光純薬社製
<試料>
5g/dl HSA(シグマ社製;LOT38H7601)
<反応手順>
37℃にインキュベートされた蛋白質分解試薬;240μlに試料8μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後に糖化アミノ酸測定試薬;80μlを添加した。糖化アミノ酸測定試薬添加前及び添加5分後の546nmの吸光度を測定した。また基質溶液の代わりに蒸留水を用いた測定をブランクとし、基質溶液から得られた吸光度変化からブランク試料の吸光度変化を差し引いたΔA0を算出した。一方同じ反応液蛋白質分解試薬を37℃にて24時間保存し同様の測定を行いΔA24を算出した。安定化剤なしで、かつ保存なしの場合のΔA0を100%として、安定化剤有り、無しの場合の相対感度を算出した。結果を図5に示す。
【0088】
図5からわかるように、安定化剤がない場合、相対感度は60%に低下し蛋白質分解試薬の安定化効果が観察された。一方安定化剤を添加した場合には安定化効果が塩化カルシウム、塩化ナトリウム、DMSO、EtOH、TEALSに観察され、中でも塩化カルシウム、DMSOに関してはほとんど性能低下は観察されなかった。さらにDMSO及び塩化カルシウムは安定性試験を継続した結果、37℃-4週間保存でも性能低下が観察されず、液状、冷蔵で1年以上の保存安定性を有することが明らかとなった。
【実施例12】
【0089】
<少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化>
<反応液組成>
R-1 蛋白質分解試薬
150mM Tris-HCl緩衝液 pH8.5
8mM 4-アミノアンチピリン(同人化学研究所社製)
15U/ml パーオキシダーゼ
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
150mM Tris-HCl緩衝液 pH8.5
24U/ml R-FOD-II(旭化成社製)
12mM TODB(同人化学研究所社製)+各濃度のプロテアーゼ安定化剤、対照としては蒸留水を添加した。
糖化アミノ酸測定試薬中の少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の定化剤として以下の1)?15)を用いた。
1) 5% マンニトール
2) 5% ソルビトール
3) 5% スクロース
4) 5% トレハロース
5) 0.5mM 塩化カルシウム
6) 0.5mM 塩化マグネシウム
7) 3% L-グルタミン酸(Glu)
8) 3% L-グルタミン(Gln)
9) 3% L-プロリン(Pro)
10) 3% L-アラニン(Ala)
11) 3% L-バリン(Val)
12) 3% グリシン(Gly)
13) 3% L-リジン(Lys)
14) 3% ザルコシン
15) 100mM 硫安
1)?14)和光純薬社製
<試料>
0.5mM FZL
<反応手順>
37℃にインキュベートされた蛋白質分解試薬;240μlに試料8μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後に糖化アミノ酸測定試薬;80μlを添加した。糖化アミノ酸測定試薬添加前及び添加5分後の546nmの吸光度を測定した。また基質溶液の代わりに蒸留水を用いた測定をブランクとし、基質溶液から得られた吸光度変化からブランク試料の吸光度変化を差し引いたΔA_(0)を算出した。一方同じ反応液糖化アミノ酸測定試薬を37℃にて2日間保存し同様の測定を行いΔA_(24)を算出した。安定化剤なしで、かつ保存なしの場合のΔA_(0)を100%として、安定化剤有り、無しの場合の相対感度を算出した。結果を図6に示す。
【0090】
図6からわかるように、安定化剤がない場合、相対感度は30%に低下し糖化アミノ酸測定試薬の安定化効果が観察された。一方安定化剤を添加した場合には安定化効果がマンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-プロリン、L-アラニン、L-バリン、グリシン、L-リジン、ザルコシン、硫安に観察され、中でも糖アルコール、アミノ酸、ザルコシンに関しては特に強い安定化効果が確認された。さらにL-アラニン、グリシン及びザルコシンは安定性試験を継続した結果、37℃-4週間保存でも性能低下がほとんど観察されず、液状、冷蔵で1年以上の保存安定性を有することが明らかとなった。
【実施例13】
【0091】
<変異FOD遺伝子含有DNAフラグメントライブラリーの作成>
配列表配列番号5の塩基配列の1から30の配列を有するオリゴヌクレオチドと配列表配列番号6の塩基配列の1から30の配列を有するオリゴヌクレオチドの合成を外部委託(BEX社)し、さらにフザリウム・オキシスポルムIFO-9972株由来のFOD蛋白質をコードするDNAを鋳型にして、Taqポリメラーゼキット(宝酒造社製)を用いて添付のマニュアルに従ってPCRを実施し、FOD構造遺伝子を増幅した。この際、反応液中に最終濃度0.5mM相当の2価マンガンイオンを添加し、塩基をdATP:0.51mM、dCTP:0.20mM、dGTP:1.15mM、dTTP:3.76mMと濃度を偏在させて反応を実施し、変異導入効率を高めた。
【実施例14】
【0092】
<変異FOD組換え体ライブラリーの作成>
実施例13により増幅したFOD遺伝子含有DNAフラグメントを制限酵素NcoIとEcoRIで消化し、同じ制限酵素で処理したプラスミドoTV119N(宝酒造社製)に組み込み、エシェリヒア・コリJM109株(東洋紡績社製)に導入し、100μg/mlアンピシリン含有LB寒天平板培地(DIFCO社製)上、37℃で一晩培養して形質転換体のコロニーを形成させた。
【実施例15】
【0093】
<リジン特異的変異FODのスクリーニング>
実施例14で用意したライブラリーのコロニーを2枚の100μg/mlアンピシリンと1mMのIPTG(和光純薬社製)を含有するLB寒天平板培地にレプリカし、それぞれの培地上に5U/mlのパーオキシダーゼ(旭化成社製)、0.02%のオルトジアニシジン(和光純薬社製)、2.0mMの糖化バリンまたは糖化リジン(ハシバらの方法(Hashiba,H.(1976)J.Agric.Food Chem.,24,70)により調製)を含有するLB寒天(0.3%)培地を重層し、37℃で8時間培養して糖化アミノ酸のFODによる酸化で発生する酸素ラジカルとジアニシジンによるコロニーの発色を観察した。これにより糖化リジンで暗紫色に発色し、糖化バリンで発色しないコロニーをスクリーニングし、該当するコロニーを164株得た。
【実施例16】
【0094】
<変異FOD候補株の細胞抽出液の調製>
実施例15で得た変異体コロニー164株を50μg/mlのアンピシリンと1mMのIPTGを含有する3.7%のBHI(DIFCO社製)液体培地1.5mlで30℃、16時間培養し、そのうち1mlを遠心分離(15,000G、1分、4℃)により集菌し、200μlの10mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加え、超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、遠心分離(14,000G、5分、4℃)し、上清を取得して細胞抽出液とした。
【実施例17】
【0095】
<変異FODの基質特異性検定>
実施例16で調製した細胞抽出液について、含有するFOD変異組換え体の糖化アミノ酸基質特異性を、前述のFOD酵素活性測定法によって測定した。その結果、候補株の中に糖化バリンへの活性が糖化リジンの活性の1000分の1未満となっている変異体を2つ確認し、目的の変異体とした。
【実施例18】
【0096】
<組み換えプラスミドの抽出>
実施例17で選ばれた変異体を50μg/mlのアンピシリン含有LB液体培地1.5mlに植菌し37℃で16時間振盪培養した後、常法に従ってプラスミドを抽出した。このプラスミドをpcmFOD1及びpcmFOD2と命名した。
【実施例19】
【0097】
<変異FOD遺伝子塩基配列の決定>
実施例18で得られた変異FOD遺伝子についてジデオキシ法により塩基配列を決定した。その結果、2つの変異体は同じ構造を有し、配列表配列番号1の塩基配列1115のAがGに変換され、コードされる組換え変異FODのアミノ酸配列が配列表配列番号1のアミノ酸配列372番のリジンがアルギニンに変換されていることを確認した。
【実施例20】
【0098】
<各種変異体の基質特異性確認>
実施例19で確認されたアミノ酸変異箇所について、他のアミノ酸への置換の効果を観察するためにKunkelらの部位特異的変異法を行った。配列表配列番号7記載の塩基配列の1から27までの配列を有するオリゴヌクレオチドの合成を外部に委託(BEX社)し、さらにMutan-Kキット(宝酒造社製)を使用して、添付されたマニュアルに従って部位特異変異を行った。取得した変異遺伝子は再び発現プラスミドpTV119Nに組み込み、大腸菌宿主に導入して50μg/mlのアンピシリンと1mMのIPTGを含有する3.7%のBHI液体培地で30℃、16時間培養し、変異FOD蛋白を生産させた。以上のようにして得られた複数の変異体について実施例16、17と同様の方法で基質特異性を測定したところ、アルギニン以外にトリプトファン、メチオニン、スレオニン、バリン、アラニン、セリン、システイン、グリシンに変換した変異体がアルギニンに変換した変異体と同様の糖化リジン特異的な基質特異性を有していることを確認した。この結果を表6に示す。
【0099】
【表6】

【0100】
なお表中の限界以下は測定限界以下、N.D.は測定データなしを示す。これにより、配列表配列番号1のアミノ酸配列372番目のリジンを変換することによりFODの糖化リジン反応性を糖化バリン反応性に対して相対的に低下させることができることが確かめられ、特にトリプトファン、メチオニン、バリンへの変異体が高い糖化リジン特異性と良好な酵素性状を有していることが判明した。このトリプトファンへの変異体をFOD-W、FOD-Wを生産する発現プラスミドをpcmFOD3、メチオニンへの変異体をFOD-M、FOD-Mを生産する発現プラスミドをpcmFOD4、バリンへの変異体をFOD-V、FOD-Vを生産する発現プラスミドをpcmFOD5と命名した。図7に各プラスミドの共通構造を示す。
【実施例21】
【0101】
<被検液中のε-フルクトシル-L-リジン(ZFL)を消去した後、フルクトシル-L-バリン(FV)の測定>
反応液1
50mMのトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)
10U/mlのFOD-V
5U/mlのカタラーゼ
反応液2
50mMのトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)
10U/mlのFOD
20U/mlのペルオキシダーゼ
0.05%のアジ化ナトリウム
0.04%の4-アミノアンチピリン
0.04%のTOOS
被検液:0.3mMのZFL溶液に終濃度が0、0.1、0.2、0.3mMとなるようにFVを添加したもの。
0.5mlの反応液1を37℃、5分間、予備加温した後、0.05mlの上記被検液を添加して、37℃、5分間反応させ、0.5mlの反応液2を添加し、5分後に555nmにおける吸光度を測定する。ブランクには被検液の変わりに蒸留水を使用する。また対照として、反応液1のFOD-Vを添加していない反応液を用いて同様に操作した。
図8の白丸はFOD-V無添加を、白四角はFOD-Vを添加した場合の測定値をそれぞれ示す。
【0102】
FOD-VおよびFODを用いることにより図8から明らかなように、FOD-Vにより、被検液中のZFLを消去した後に、FVを定量的に測定することができた。
なお、配列表配列番号1のアミノ酸配列372番目のリジンをトリプトファン、メチオニン及びバリンに変換した配列をそれぞれ配列表配列番号2、3及び4に示す。
【実施例22】
【0103】
<糖化アルブミン割合の測定>
R-1 蛋白質分解試薬
50mM POPSO酸緩衝液(和光純薬社製)pH7.5
2500U/ml プロテアーゼタイプXXIV(シグマ社製)
1% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ハイドロキシ-1-プロパン(シグマ社製)
5U/ml アスコルビン酸オキシダーゼ(ロシュ社製)
5% DMSO
5mM 4-アミノアンチピリン
R-2 糖化アミノ酸測定試薬
150mM HEPES酸緩衝液(和光純薬社製)pH7.5
5mM TODB
10U/ml POD
20U/ml R-FOD-II
3% グルタミン酸
R-3 アルブミン前処理試薬
10mM Tris-HCl緩衝液 pH8.0
0.3% ラウリル硫酸ナトリウム
R-4 アルブミン発色試薬
200mM コハク酸緩衝液(和光純薬社製)pH5.5
0.15mM ブロモクレゾールパープル(和光純薬社製)
0.3% Tx-100(和光純薬社製)
<試料>
1:健常者及び糖尿病患者血清各35検体
2:キャリブレーターは管理血清H(ビー・エム・エル社製)を用いた。
キャリブレーターのグリコアルブミン濃度は臨床検体のHPLC法測定値と酵素法の測定値が一致するようにあらかじめ設定した。アルブミン値はCRM470の値を移した。
<反応手順>
37℃にインキュベートされたR-1;240μlに試料8μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後にR-2;80μlを添加した。R-2添加前及び添加5分後の555nmの吸光度変化を測定した。別途管理血清H、蒸留水を測定し検量線を作成し、検体中の糖化アルブミン濃度を算出した。
一方37℃にインキュベートされたR-3;アルブミン前処理試薬;160μlに試料2μlを添加し、37℃で反応を開始し、正確に5分後にR-4;アルブミン発色試薬;160μlを添加した。アルブミン発色試薬添加前及び添加5分後の600nmの吸光度を測定した。また試料の代わりに蒸留水及びアルブミン濃度が既知である試料から検量線を作成しアルブミン測定値を求めた。
酵素法によるGA%はGA%=GA濃度/アルブミン濃度×100より求めた。またHPLC法測定値はハイオートジー・エイ・エイ2000(アークレイ社製)を用いて測定した。結果を図9に示す。
【0104】
図9から分かるように酵素法とHPLC法はr=0.998と非常に良い相関を示した。また本試薬全てを液状で37℃-2週間保存しても性能に変化はなかった。この事から1)グロブリン成分及びアスコルビン酸の影響回避、2)プロテアーゼ及び少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化、3)正確にアルブミンを測定、4)糖化ヘモグロビンの影響回避を行うことにより正確に糖化アルブミンを測定していること及び糖化アルブミン割合を測定していることが明らかであった。
【実施例23】
【0105】
<第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素、第2試薬にプロテアーゼを含有する組成物>
R-1
200mM POPSO 緩衝液 pH7.5
5mM 4-アミノアンチピリン
10U/ml POD
20U/ml R-FOD
5U/ml アスコルビン酸オキシダーゼ
3% グルタミン酸
R-2
20mM ピベラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)緩衝液 pH6.5
20% DMSO
8000U/ml プロテアーゼタイプXXIV
4% 硫酸-3-[(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2ハイドロキシ-1-プロパン
5mM TODB
R-3,4 実施例22に同じ
<試料>実施例22に同じ試料及び10-200μMのFZL
<反応手順>実施例22に同じ
結果を図10に示す。
【0106】
図10から分かるように第1試薬に少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素、第2試薬にプロテアーゼを処方した場合にも反応時間10分という短い時間で良好に糖化蛋白質が測定できており、また試料中に糖化アミノ酸が存在した場合にも、R-1に処方されている少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素により糖化アミノ酸が消去されてより正確に糖化蛋白質が測定できることが明白である。
また本試薬とHPLC法との相関は、
酵素法GA%=1.03*HPLC法GA%-0.3 R=0.99と良好な相関を示し、正確に糖化蛋白質が測定されていることも明らかであった。さらに本試薬は液状で37℃-3週間若しくは冷蔵15ケ月保存しても性能の低下はなかった。
[寄託生物材料への言及]
【0107】
(1)イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの機関に寄託について付した日付(原寄託日)
平成13年1月16日
ハ イの機関に寄託について付した受託番号
FERM BP-7847
(2)イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの機関に寄託について付した日付(原寄託日)
平成13年1月16日
ハ イの機関に寄託について付した受託番号
FERM BP-7848
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明により、より正確に被検体中の糖化蛋白質及び糖化アルブミン割合を測定することが可能になった。したがって、臨床検査薬として有用に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例4に基づくHSA基質溶液(4g/dl)、γグロブリン及びグロブリンIV基質溶液の測定曲線及び再現性を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例5に基づくHb基質溶液(4g/dl)、γグロブリン及びグロブリンIV基質溶液の測定曲線及び再現性を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例6に基づく糖化アルブミンの測定曲線を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例9に基づく糖化蛋白質測定用組成物中のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化に及ぼす緩衝剤種類の効果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例11に基づくプロテアーゼの安定化に及ぼす安定化剤種類の効果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例12に基づく少なくとも糖化アミノ酸に作用する酵素の安定化に及ぼす安定化剤種類の効果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例20のプラスミドpcmFOD1からpcmFOD5までの共通構造を示す。
【図8】本発明の実施例21の本変異フルクトシルアミノ酸オキシダーゼにより混入糖化リジンを消去した糖化バリン濃度測定反応液と非消去反応液における555nmの吸光度の測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例22に基づくグリコアルブミン割合測定結果の酵素法とHPLC法の相関を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例23に基づく糖化蛋白質測定試薬の反応曲線である。
【配列表】













(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて血液試料中の糖化蛋白質を測定する方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させ、該試料中に含まれる糖化アミノ酸を予め消去し、次いでプロテアーゼを添加して作用させることを特徴とする糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項2】
糖化蛋白質が糖化アルブミンである請求項1に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項3】
試料が、糖尿病患者由来血液試料である請求項1又は2に記載の糖化蛋白質を測定する方法。
【請求項4】
プロテアーゼを作用させる時間が5?10分未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかの測定方法に用いられる、プロテアーゼ及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを用いて糖化蛋白質を測定する組成物であって、第1試薬にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、第1試薬より後に用いる第2試薬にプロテアーゼを含有することを特徴とする組成物。
【請求項7】
プロテアーゼがバチルス由来である請求項6に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-12-18 
結審通知日 2009-12-24 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2008-245316(P2008-245316)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C12Q)
P 1 113・ 536- YA (C12Q)
P 1 113・ 537- YA (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 良子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 森井 隆信
鈴木 恵理子
登録日 2009-03-19 
登録番号 特許第4278066号(P4278066)
発明の名称 糖化蛋白質測定用組成物  
代理人 吉田 玲子  
代理人 後藤 さなえ  
代理人 伊佐治 創  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 吉見 京子  
代理人 城所 宏  
代理人 城所 宏  
代理人 特許業務法人 もえぎ特許事務所  
代理人 特許業務法人もえぎ特許事務所  
代理人 吉見 京子  
代理人 後藤 さなえ  

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