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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
判定2007600007 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200680144 審決 特許
無効200435069 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01M
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01M
管理番号 1213152
審判番号 無効2008-800260  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-20 
確定日 2010-03-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4183797号発明「ゴキブリの飛翔行動阻害方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4183797号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成10年 4月28日 本件出願
(特願平10-155109号)
平成11年11月 9日 本件出願公開
(特開平11-308958号)
平成18年 7月28日 拒絶査定不服審判請求
(不服2006-16420号)
平成20年 8月14日 不服2006-16420号審決
(成立)
平成20年 9月12日 本件特許の設定登録
(特許第4183797号)
平成20年11月19日 本件特許掲載公報発行
平成20年11月20日 本件無効審判請求
(無効2008-800260号)
上申書提出(請求人)
平成21年 3月16日 答弁書提出(被請求人)
平成21年 5月20日 弁駁書提出(請求人)
平成21年 7月31日 第2答弁書提出(被請求人)



第2.本件特許発明
本件特許の請求項1,2に係る発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾールを、ゴキブリに向けて1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して、噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害することを特徴とするゴキブリの飛翔行動阻害方法。」
「【請求項2】
エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾールを、ゴキブリに向けて1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して、噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除することを特徴とするゴキブリの防除方法。」
(以下,本件特許の請求項1,2係る発明を,「本件特許発明1」などといい,これらをまとめて,「本件特許発明」といい,また,その特許を,「本件特許」という。)



第3.請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は,請求書及び弁駁書において,「特許第4183797号の明細書に記載されている請求項1、同2に係る各発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし,甲第1?6号証及び参考資料1?5の4を提出して,次の無効理由を主張している。

【1】無効理由の概要

〔1〕第1の無効理由(進歩性の欠如)
(本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。)

1.第1の無効理由(その1)
本件特許発明1の「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」の趣旨は不明であるが,仮に当該趣旨が何等かの確率を以ってゴキブリの飛翔行動を中止させるという趣旨であるならば,本件特許発明1は,甲第1号証との関係において,当業者が容易に想到し得た発明であって,進歩性を有しておらず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(請求書,2頁11?16行,「第3.1(一)(1).」を参照。)

2.第1の無効理由(その2)
本件特許発明の防除方法の対象たる「ゴキブリ」は,全ての種類のゴキブリを包摂しているものと解されるが,仮にこの点を不問として,全ゴキブリの一部について防除対象となれば良いと解した場合には,本件特許発明2もまた,甲第1号証との関係において,当業者が容易に想到し得た発明であって,進歩性を有しておらず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(請求書,2頁17?23行,「第3.1(一)(2).」を参照。)

3.第1の無効理由(その3)
本件特許発明1及び本件特許発明2は,甲第1号証と甲第2号証との関係,又は,甲第1号証と甲第3号証との関係を考慮するならば,当業者が容易に想到し得た発明であって,進歩性を有しておらず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(請求書,2頁24行?3頁2行,「第3.1(二).」を参照。)


〔2〕第2の無効理由(実施可能要件,明確性要件,サポート要件違反)
(本件特許は,特許法第36条第4項又は第6項に定める要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。)

1.第2の無効理由(その1)(実施可能要件,明確性要件違反)
本件特許発明1の「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」の「飛翔行動を阻害する」は,「飛翔自体を中止させる」との趣旨に解されるが,100%の確率を以って完全に中止させるとの趣旨か,それとも所定の確率を以って中止させればよいとの趣旨か不明であると共に,仮に後者の趣旨であるとするならば,どの程度の確率を以って飛翔を中止させればよいのかにつき,その基準が全く不明であるが故に,特許法第36条第4項に定める要件(実施可能要件)を満たしていないと共に,同法第36条第6項第2号に定める要件(明確性要件)を満たしていない。(請求書,3頁3?13行,「第3.2(一)(1).」を参照。)

2.第2の無効理由(その2)(実施可能要件,明確性要件違反)
本件特許発明1の飛翔行動阻害要件及び本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件の達成の可否は,噴射距離によって左右されるが,本件特許明細書には,前記各要件を達成するために必要な噴射距離につき全く記載していないが故に,特許法第36条第4項に定める要件(実施可能要件)を満たしていないと共に,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に定める要件(明確性要件)を満たしていない。(請求書,3頁19?25行,「第3.2(二)(1).」を参照。)

3.第2の無効理由(その3)(実施可能要件,明確性要件違反)
上記噴射距離が不明であることを不問とし,何らかの適切な噴射距離を設定すればよいとの趣旨に解したとしても,本件特許発明1の飛翔行動阻害要件及び本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件は,本件特許発明1,2の噴射以前における数値要件(殺虫剤及び溶剤の相対量及び1秒以内における溶剤の噴射量)に対し,更なる数値要件による限定を加えていることに帰するが,本件特許明細書には,上記更なる数値要件に関する具体的内容を全く記載していないが故に,特許法第36条第4項に定める要件(実施可能要件)を満たしていないと共に,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に定める要件(明確性要件)を満たしていない。(請求書,3頁26行?4頁8行,「第3.2(二)(2).」を参照。)

4.第2の無効理由(その4)(サポート要件違反)
本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件は,エアゾールの数値限定を更に限定する趣旨と解されるが,当該趣旨は,発明の詳細な説明の裏付け記載を伴っていないが故に,特許法第36条第6項第1号に定める要件(サポート要件)を満たしていない。(請求書,3頁14?18行,「第3.2(一)(2).」を参照。)


〔3〕第3の無効理由(新規事項の追加)
(本件特許は,特許法第17条の2第3項に定める要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。)

本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件は,出願当初明細書に,当該要件を裏付ける技術事項が記載されていないが故に,本件特許発明2に係る前記ノックダウンに関する補正は,特許法第17条の2第3項に定める要件を満たしていない。(請求書,4頁9?12行,「第3.3.」を参照。)


【2】証拠方法
<審判請求書に添付>
甲第1号証:特開平9-175905号公報
甲第2号証:特開平5-105608号公報
甲第3号証:「Characteristics of Insecticidal Activity of a New
Synthetic Pyrethroid,Imiprothrin,against Household
Insect Pests(新規合成ピレスロイド系化合物イミプロ
トリンの衛生害虫に対する殺虫特性)」と題する学術論
文(Jpn. J. Environ. Entomol. Zool.(日本環境動
物昆虫学会誌)7(2):p.79-86(1995)掲載の論文,
千保聡外5名),及び,抄訳文(弁駁書に添付)
甲第4号証:大日本除蟲菊株式会社(請求人)・猪口佳浩作成の本
件特許に関する平成20年11月12日付け「試験結果報
告書」
甲第5号証の1:「Solvents and Insecticidal Efficacy of the
Aerosol Containing Tetramethrin and d-Phenothrin」
(テトラメスリンとd-フェノスリンを含むエアゾール
製剤の溶剤と殺虫効力)と題する学術論文(JOURNAL
OF PESTICIDE SCIENCE(日本農薬学会誌),第10巻
第4号,昭和60年11月発行,p.621-628掲載の論文,
津田重典外1名),及び,訳文
甲第5号証の2:大洋液化ガス株式会社作成の「エアゾール用PB
(LPG)の圧力、組成および比重(at20℃)」(エアゾ
ール用液化石油ガスの圧力と密度との関係を示す資料)
甲第5号証の3:「家庭用殺虫剤概論II」,日本殺虫剤工業会,1996
年10月改訂,p.28-29
甲第5号証の4:「THE MERCK INDEX」,MERCK&CO.,INC.,1976年
発行,p.684
甲第6号証:「岩波理化学辞典 第4版」,久保亮五外3名編,1996
年10月18日,株式会社岩波書店,第4版第11刷発行,
p.720,「阻害」の項

<弁駁書に添付>
参考資料1:「化学大辞典1」,化学大辞典編集委員会編,1989年
8月15日,共立出版株式会社,縮刷版第32刷発行,p.
843,「えきかせきゆガス 液化石油-」の項
参考資料2:「岩波生物学辞典 第4版」,八杉龍一外3名編,2006
年9月5日,株式会社岩波書店,第4版第10刷発行,
p.826-827,(「阻害」の項はない)
参考資料3:「広辞苑」,新村出編,2008年1月11日,株式会社岩波
書店,第6版第1刷発行,p.1815,「ちゅう-し【中
止】」の項
参考資料4:「岩波理化学辞典 第4版」,久保亮五外3名編,1996
年10月18日,株式会社岩波書店,第4版第11刷発行,
p.223,「確率」の項
参考資料5の1:特開昭64-68306号公報
参考資料5の2:特開平4-120003号公報
参考資料5の3:特開2002-338404号公報
参考資料5の4:WO2005/013685 A1



第4.被請求人の答弁及び提出した証拠方法
被請求人は,答弁書及び第2答弁書において,「請求人の請求は成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨として,乙第1?6号証を提出して,次のように反論している。

【1】無効理由に対する反論

〔1〕第1の無効理由(その1?3)(進歩性の欠如)に対して
(進歩性を有する。請求人がいう無効理由は存在しない。)

1.第1の無効理由(その1,2)に対して
甲第1号証の実施例2について,No.3のエアゾールに代えて,No.1のエアゾールを採用することによる使用方法は,本件特許発明1,2の噴射以前の数値要件の全てを充足しているとの請求人の主張は,前提において誤りがある。
したがって,本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載の発明に基づいて,当業者が容易に想到し得た発明ではなく,進歩性を有しており,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。(答弁書,4頁3行?7頁15行,「8.(3)」を参照。)

2.第1の無効理由(その3)に対して
甲第1号証は,ハエ・カ用エアゾールに係るものであり,一方,甲第2号証は,ゴキブリ用エアゾールに係るものであって,適用態様も異なるから,甲第1号証の技術を甲第2号証の技術で置換することができるとは本来いうことができない。
また,甲第3号証に,イミプロトリンがゴキブリなどを対象とした場合に,他の殺虫剤に比し,際立った防除効果を発揮することを明らかにしているとしても同様である。
したがって,本件特許発明1,2は,甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて,又は,甲第1号証及び甲第3号証に記載の発明に基づいて,当業者が容易に想到し得た発明ではなく,進歩性を有しており,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。(答弁書,7頁16行?10頁3行,「8.(4)」を参照。)


〔2〕第2の無効理由(その1?4)(実施可能要件,明確性要件,サポート要件違反)]に対して
(実施可能要件,明確性要件,サポート要件をそれぞれ満たす。請求人がいう無効理由は存在しない。)

本件特許明細書には,発明の詳細な説明に,本件特許発明1の飛翔行動阻害要件及び本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件に関して,本件特許発明1,2が容易に実施しうるように記載されているから,特許法第36条第4項に定める要件を満たしており,かつ,特許請求の範囲に,本件特許発明1,2の構成が明確に記載されているから,同法第36条第6項第2号に定める要件を満たしており,また,発明の詳細な説明に,本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件に関して,それが裏付け記載されているから,同法第36条第6項第1号に定める要件を満たしている。(答弁書,10頁4行?16頁13行,「8.(5)」を参照。)


〔3〕第3の無効理由(新規事項の追加)に対して
(新規事項の追加にあたらない。請求人がいう無効理由は存在しない。)

本件特許明細書には,発明の詳細な説明に,本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件が裏付け記載されており,この点は,出願当初明細書においても同様であるから,平成20年7月29日付けの手続補正において,本件特許発明2につき,47秒以内のノックダウン要件を付加することは,その補正が実施例の記載を根拠とするものであって,出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものであり,新たな技術的要件を追加したものではないから,上記補正は,特許法第17条の2第3項に定める要件を満たしている。(答弁書,16頁14行?17頁7行,「8.(6)」を参照。)


【2】証拠方法
<答弁書に添付>
乙第1号証:請求人製「ゴキブリコックローチ」の製品の写真
乙第2号証:請求人製「コックローチ」(水性)の製品の写真
乙第3号証:インターネット快適クラブnet.での,PCO専用ゴキブ
リ用エアゾールとしての「プロ用ゴキブリ駆除剤」の項
乙第4号証:特開平11-221499号公報
乙第5号証:特開2005-170853号公報

<第2答弁書に添付>
乙第6号証:アース製薬株式会社(被請求人)・滝沢永治作成の平成
21年7月27日付け「試験報告書」



第5.当審の判断
請求人は,無効理由として,第1ないし3の無効理由を主張するが,無効理由相互の関係,その他の本件事案の内容に鑑み,先ず,第2の無効理由を検討する。

【1】第2の無効理由(その3,4)(実施可能要件,明確性要件,サポート要件違反)について

〔1〕第2の無効理由(その3)(そのうちの実施可能要件)について
1.本件特許明細書の記載をみてみると,本件特許発明1,2について,発明の詳細な説明には,図1,2とともに,次のとおり記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エアゾールをゴキブリに噴射して噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する方法並びにノックダウン時間を短縮してゴキブリを防除する方法に関する。」
(2)「【0002】
【従来技術】
ゴキブリを防除するために従来よりエアゾールが広く知られており、その使用が簡単であることから商品としても多くが上市されている。そしてその防除効力を高めるための手段について様々な検討がなされている。例えば、殺虫効力の強い殺虫剤を有効成分として用いたり、殺虫剤を含む原液組成について検討したり、噴射量を調製するなどが行われている。」
(3)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ゴキブリは、俊敏性が高く、更に殺虫剤に対する抵抗性が発生しやすく、またエアゾールを噴射しても、飛翔してしまうことがある。これに対して多くの使用者は、飛翔したゴキブリに対して繰り返しエアゾールを噴射することになる。このように繰り返し噴射すると、エアゾールを無駄に浪費するだけでなく、室内の空気中に殺虫剤が充満し、室内に充満した殺虫液が目などに入るなど衛生上の問題があった。
【0004】
本発明の目的は、エアゾールの無駄な浪費を減らし、衛生的に好ましいエアゾールにおける噴射後のゴキブリの飛翔行動の阻害方法を提供することにある。」
(4)「【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意検討した結果、下記の特定の構成のエアゾールによって上記の目的を達成することを見い出し、本発明に到達した。
(1)…
(2)…
【0006】
本発明は、エアゾールにおいて原液に含まれる溶剤を1秒以内に0.5?1.2ml噴射することにより、ゴキブリの噴射処理した場所からの飛翔移動を顕著に阻害する効果を有するエアゾールを提供することができる。
【0007】
よって、従来のエアゾールでは、噴射処理をしてもその場所からゴキブリが飛翔し、そのゴキブリが落ちるまでエアゾールの噴射を続けてしまう。しかしながら、本発明においては、短時間の噴射処理で、ゴキブリの飛翔行動を阻害することができるので、エアゾールの無駄な浪費を減らすことができる。また、空間中に大量の殺虫剤が噴射され、それが目に入ることを抑制でき、生活環境で安全に使用できるという有用性がある。
【0008】
殺虫剤と溶剤を含む原液及び噴射剤を含有する害虫防除エアゾールにおいて、原液中の溶剤を1秒以内という瞬時に0.5?1.2ml噴射することにより、素早くゴキブリに作用して飛翔行動を阻害させることができたものと考えられる。本発明の効果である、上記エアゾール噴射後のゴキブリの飛翔行動の阻害効果は、殺虫効果とは異なるものである。」
(5)「【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のエアゾールは、主に溶剤と殺虫剤を含む原液と噴射剤とからなり、これらを加圧充填できる容器と、ここから上記規定量を所望の空域にスプレーするための手段(バルブ、操作ボタンなど)とを具備しているものである。そして原液中の溶剤の噴射量が、1秒以内に0.5?1.2mlとなるように調整すればよい。この溶剤の噴射量は、噴射後のゴキブリの飛翔行動の阻害効果を得るために必要な量であり、エアゾールを1秒間噴射し、その間に噴射された溶剤の量を測定することにより達成できる。このような噴射を可能とするための手段としては噴射径0.3?5.0mmであるボタン及びバルブ…を調整したり、エアゾール缶内のチューブ内径…を調整したり、噴射剤の種類や量を調整するなどが挙げられるが、大量噴射が可能となる手段を選べばよい。…
【0010】
本発明のエアゾールにおける原液とは、殺虫剤と溶剤を含み、更にこれらの他に、必要に応じて界面活性剤などを含む組成物である。
殺虫剤としては、ピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤等を挙げることができる。
ピレスロイド系殺虫剤としては、フラメトリン、シフェノトリン、フェノトリン、ペルメトリン、レスメトリン、アレスリン、フタルスリン、エムペントリン、テフルスリン、プラレトリン、イミプロトリン、トランスフルスリン等が挙げられる。
有機リン系殺虫剤としては、フェニトロチオン、クロルピリホス、マラソン、ジクロルボス、ピリダフェンチオン、トリクロルホン等が挙げられる。
カーバメイト系殺虫剤としては、カルバリル、ベンフラカルブ、プロポクスル等を挙げることができる。
そして、上記ピレスロイド系殺虫剤の殺虫効力を増強する化合物(共力剤)としては、例えばピペロニルブトキサイド、オクタクロロジプロピルエーテル、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ〔2,2,2〕オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、イソボルニルチオシアノアセテートおよびN-(2-エチニル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミドなどが挙げられる。
【0011】
本発明においてこの他の殺虫剤としては、ヒノキ、スギ及びヒバの精油、メントール、キハダ類の抽出物、柑橘類の果皮及び種子からの抽出物、芳香族スルホンアミド誘導体、水酸化トリシクロヘキシル錫、4,4’-ジブロムベンジル酸イソプロピル、2,3-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ベンゾ〔b〕フラニルニ-N-ジブチルアミノチオ-N-メチルカーバメイト、シラン化合物、ケイ皮酸誘導体、酢酸シンナミル、ブフロフェジン、イソプロチオラン、パラオキシ安息香酸エステル、ヨウ素化ホルマール、フェノール類、フタル酸エステル、3-ブロモ-2,3-ヨード-2-プロペニル-エチルカルボナート、モノテルペン系ケトン類、モノテルペン系アルデヒド類、モノテルペン系エポキサイド類、サリチル酸ベンジル、サリチル酸フェニルなどが挙げられる。
【0012】
また、殺虫剤としては、メトプレンなどの昆虫幼若ホルモン剤、プレコセンなどの抗幼若ホルモン剤、エクダイソンなどの脱皮ホルモン剤等の害虫のホルモン剤、あるいは抗ホルモン剤も挙げることができる。
【0013】
本発明において使用される殺虫剤の添加量としては、従来のエアゾールにおいて用いられている量を使用することができるが、エアゾール全量の0.01?2.0wt/v%(重量/容量%)とする。
【0014】
そして、上記殺虫剤以外にも各種の薬剤が添加できる。例えば、害虫忌避剤、殺菌剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、着色料などを配合することもできる。
害虫忌避剤として2,3,4,5-ビス(δ-ブチレン)-テトラヒドロフルフラール、N,N-ジエチル-m-トルアミド、ジ-n-プロピルイソシンコロメート、ジ-n-ブチル酢酸、2-ハイドロキシエチルオクチル硫酸、2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、シクロヘキシミド、β-ニトロスチレンシアノアクリルニトリル、トリブチル錫塩酸塩、トリニトロベンゼン-アニリン複合体、ナフタリンなど、殺菌剤あるいは防黴剤としては、2,4,4’-トリクロロ-2’-ハイドロキシジフェニルエーテル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルメチル-{2-〔2-(p-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノキシ)エトキシ〕エチル}アンモニウムクロライド、4-イソプロピルトロポロン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)スルフォンアミド、2-(4’-チアゾリル)ベンズイミダゾール、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、6-アセトキシ-2,4-ジメチル-m-ジオキシン、イソプロピルメチルフェノール、o-フェニルフェノール、p-クロロ-m-キシレノール等が用いられ、消臭剤としては、ラウリル酸メタアクリレートなど、そして、芳香剤としては、イグサの精油成分、ヒノキの精油成分、シトロネラ、レモン、レモングラス、オレンジ、ユーカリ、ラベンダーなどが配合できる。
【0015】
本発明において用いることができる溶剤としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、界面活性剤等を挙げることができる。これら溶剤としては、例えば、ヘキサン、ケロシン(灯油)、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素類:ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類:ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類:エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ブチルジグリコール等のアルコール類:アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル等のエーテル類:酢酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類を挙げることができる。この他にもアセトニトリルなどのニトリル類:ジメチルホルムアミドなどのアミド類:大豆油、綿実油等の植物油、及び水などを使用することができる。さらにはこれらの混合溶剤であってもよい。…本発明においては、溶剤の含有量としては、エアゾール全量の10?90v/v%とする。
【0016】
本発明において噴射剤としては、例えば、液化石油ガス(LPG)、プロパン、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、液化炭酸ガス、圧縮空気、塩素を含まないフロンガス(代替フロンと呼ばれているガス、例えばHFC-125、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、HFC-32など)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明において、エアゾール中の噴射剤の配合量としては、上記溶剤噴射量を満たすことができれば特に制限されないが、目安として10?90容量%が好ましい。
【0017】
本発明における防除対象であるゴキブリとしては、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等を例示できる。」
(6)「【0018】
【実施例】
以下に示す実施例によって、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
害虫の噴射後の飛翔行動の試験
(1)試験サンプルの作成
〔本発明のサンプル〕
エアゾール(全量300ml)として、殺虫剤1.0g(イミプロトリン:住友化学工業株式会社製)を含む原液(溶剤:ミリスチン酸イソプロピル30gを含む1号灯油)67.5mlと、噴射剤(LPG+DME)232.5mlをエアゾール容器に充填した。
ここで、溶剤の噴射量としては0.73ml/1秒である。
【0019】
〔比較例のサンプル1〕
エアゾール(全量300ml)として、殺虫剤2.0g(イミプロトリン:住友化学工業株式会社製)を含む原液(溶剤:ミリスチン酸イソプロピル60gを含む1号灯油)135.0mlと、噴射剤(LPG+DME)165.0mlをエアゾール容器に充填した。
ここで、溶剤の噴射量としては0.43ml/1秒である。
【0020】
〔比較例のサンプル2〕
エアゾール(全量300ml)として、殺虫剤2.0g(d-T80-フタルスリン1.0g、ペルメトリン1.0g)を含む原液(溶剤:1号灯油)150.0mlと、噴射剤(LPG+DME)150.0mlをエアゾール容器に充填した。
ここで、溶剤の噴射量としては0.30ml/1秒である。
【0021】
〔比較例のサンプル3〕
エアゾール(全量300ml)として、殺虫剤0.666g(d-T80-フタルスリン0.333g、ペルメトリン0.333g)を含む原液(溶剤として1号灯油)50.0mlと、噴射剤(LPG+DME)250.0mlをエアゾール容器に充填した。
ここで、溶剤の噴射量としては0.30ml/1秒である。
【0022】
(2)供試虫
ワモンゴキブリ(Periplaneta americana)羽化後3?5日の雌成虫を試験に用いた。
【0023】
(3)試験方法
図1のとおり、外径4mm、内径3mmの厚みのポリエチレン製のリング1を2個用意し、上記供試虫2の胸部背面に一方のリング1を水平に固定する。
そして、同様に供試虫2に垂直に固定したリング1に糸の付いたフックをひっかけ、斜めに設置した台3の斜面上に乗せる。
供試虫2から0.5m離れたところから、噴霧装置4を用いて上記の各サンプルを1秒間噴射する。そしてサンプルの噴射と同時に、台3をはずして供試虫2を糸5で吊り下げると共に、供試虫2の前面から衝立7を通してファン6で風を送り、上記の噴射後直ちに衝立7を取り除き、強制的に飛翔行動を促す。
その後、飛翔した供試虫2の数を測定した。また飛翔した供試虫2の飛翔時間について、試験を撮影したビデオテープにより測定した。
飛翔行動の観察後、供試虫2を板の上にのせてサンプルの噴射からノックダウンするまでの時間を測定した。
【0024】
各供試虫のノックダウン時間(秒)、飛翔時間(秒)及び飛翔率(%)の測定結果を第1表に示した。なお、無処理とは、噴霧せずに行った飛翔時間(秒)の結果である。
【表1】

【0025】
(4)試験結果
第1表において、本発明のエアゾールであるサンプル1は、飛翔率0%であり、ノックダウンするまでの時間も短く、比較サンプル2?4よりも優れていた。また比較サンプル2は、本発明より殺虫剤量が2倍であるにも係らず、飛翔率が悪いという結果となり、これにより本発明の有用性が判る。」
(7)「【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害し、ノックダウン時間が短い。また、従来のエアゾールのようにゴキブリが飛翔をやめるまで噴射するという無駄な浪費を軽減することができ、環境衛生上でも好ましいものである。」
(8)そして,「第1表」には,〔本発明のサンプル〕を用いた「本発明」の例,及び,〔比較例のサンプル1〕,〔比較例のサンプル2〕,〔比較例のサンプル3〕をそれぞれ用いた「比較例1」,「比較例2」,「比較例3」の各例について,供試虫2(ワモンゴキブリ,供試個体1?10)に対して0.5m離れたところから噴霧装置4(エアゾール容器)を用いて1秒間噴射したときの「ワモンゴキブリに対する飛翔行動とノックダウン結果」が,噴霧せずに行った「無処理」の例とともに示されている。

2.上記(5)には,本件特許発明のエアゾールを構成する,殺虫剤,溶剤,噴射剤,さらには,ピレスロイド系殺虫剤の殺虫効力を増強する各種の化合物(共力剤),殺虫剤以外の害虫忌避剤,殺菌剤,防黴剤,消臭剤,芳香剤,着色料等の名称,殺虫剤及び溶剤のエアゾール全量に占める添加(含有)量,溶剤の噴射量,等が記載されており,上記(7)には,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害し、ノックダウン時間が短い。また、従来のエアゾールのようにゴキブリが飛翔をやめるまで噴射するという無駄な浪費を軽減することができ、環境衛生上でも好ましいものである。」という本件特許発明の作用効果が記載されている。
そして,上記(6),(8)には,殺虫剤(イミプロトリン)を「1.0g」(これのエアゾール全量に占める割合は0.33重量/容量%になる。)を含む原液(溶剤:ミリスチン酸イソプロピル30gを含む1号灯油)を「67.5ml」(これのエアゾール全量に占める割合は22.5容量/容量%になる。)と,噴射剤(LPG+DME)を「232.5ml」とを含有する「全量300ml」のエアゾールを,溶剤の噴射量が「0.73ml/1秒」となるエアゾール容器に充填した〔本発明のサンプル〕を,「ワモンゴキブリ」に対して,「1秒間噴射」した場合の例が,唯一の実施例として示され,これが,対象品である〔比較例のサンプル1〕を用いた「比較例1」,〔比較例のサンプル2〕を用いた「比較例2」,〔比較例のサンプル3〕を用いた「比較例3」,及び,噴霧せずに行った「無処理」と比較されて,上記(7)に記載の,本件特許発明が所期する上述の作用効果を奏すると記載されている。(但し,それ以上の記載はない。)

3.ところで,本件特許発明1は,「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾールを、ゴキブリに向けて1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して」という殺虫剤及び溶剤の相対量及び1秒以内における溶剤の噴射量についての構成要件に,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」という構成要件を加えたものであり,また,本件特許発明2は,同上,殺虫剤及び溶剤の相対量及び1秒以内における溶剤の噴射量についての構成要件に,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」という構成要件を加えたものと解することができる。

4.しかしながら,発明の詳細な説明には,「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾール」を,「ワモンゴキブリ」に向けて,「1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射」すると,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」ことができ,また,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」ことができたことが記載されているにすぎないのであり,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」という構成要件を実施するため,また,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」という構成要件を実施するための,更なる具体的な方法については,記載ないしは示唆されていない。

5.したがって,本件特許発明1の飛翔行動阻害要件及び本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件は,各発明に共通する上記殺虫剤及び溶剤の相対量及び1秒以内における溶剤の噴射量についての構成要件に加えて限定された更なる構成要件であると解されるところ,これらの構成要件を実施するための具体的な方法については,発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1及び本件特許発明2について,当業者により,各発明の実施をすることができる程度に,明確かつ十分に記載していない。


〔2〕第2の無効理由(その4)(サポート要件違反)について
1.先ず,本件特許明細書において,本件特許発明2の47秒以内のノックダウン要件については,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすものでないことは,上記「〔1〕」で説示したとおりであるところ,被請求人は,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせ」ることは,作用や効果であって,ノックダウンするまでの時間が短い防除方法であることを表現するためのものである旨主張している(答弁書,11頁15行?12頁13行,「8.(5)(5-2)」を参照。)ので,本件特許発明2の「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」との構成要件が,「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾールを、ゴキブリに向けて1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射」するとの構成要件によってもたらされるものであるとして,それが,発明の詳細な説明に記載されているかをみてみる。

2.上記「〔1〕2.」で説示したとおり,発明の詳細な説明には,特定のエアゾール成分及びその噴射態様とした〔本発明のサンプル〕を,「ワモンゴキブリ」に対して用い,1秒間,溶剤の噴射量「0.73ml/1秒」で噴射するようにした場合の例が,唯一の実施例として示されているのみであり,本件特許発明2の実施例として,それ以外のエアゾール成分全般及びその噴射態様全般に亘る場合についてまで,「47秒以内のノックダウン要件」が達成できることの記載ないし示唆はされておらず,また,本件特許出願時の技術常識に照らしても,当業者において,それが認識できるものではない。

3.そして,発明の詳細な説明に記載された特定の実施例でしか,その作用効果が確認できず,また,推認もできないものについて,その実施例の範囲を超えて,本件特許発明を拡張乃至一般化できるものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件特許発明2について,発明の詳細な説明に記載上の裏付けが存在しておらず,本件特許発明2は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。


【2】第1の無効理由(その3)(進歩性の欠如)について
上記「【1】」で説示したとおり,本件特許は,特許法第36条第4項又は第6項に定める要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものであるが,ここで,本件特許発明1,2に進歩性があるものであるか否かについても,念のため検討する。

〔1〕甲号各証の記載
1.甲第1号証(特開平9-175905号公報)
甲第1号証には,「害虫防除用エアゾール」に関して,次の記載がある。
(1)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のような種々の従来の技術では、害虫防除効果を高めるために、過剰に内容物が噴射されるなどにより、処理面に濡れが生じ、その結果として床や壁などが汚れたりべとついたり、あるいは火炎長が増大するなどの安全面における欠点を有していた。そこで、処理面の濡れ、火炎長の増大を抑えるために噴射量を減らすと、害虫防除効果が不十分となってしまう。…本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、優れた害虫防除効果を得ることができ、かつ大量噴射タイプでありながら処理面の濡れが少なく、更に火炎長の増大を抑制できる害虫防除用エアゾールを提供することにある。」
(2)「【0007】すなわち本発明の構成を下記に示す。
(1)少なくとも害虫防除成分を含む原液と噴射剤とを含み、害虫に向かって噴射させ害虫を防除するエアゾールにおいて、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与えるものであることを特徴とする害虫防除用エアゾール。

(3)少なくとも害虫防除成分を含む原液に対して噴射剤を容積比で2倍以上配合してなり、かつスプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の害虫防除用エアゾール。
(4)少なくとも害虫防除成分を含む原液に対して噴射剤を容積比で2?7倍配合してなる前記(1)?(3)のいずれか1つに記載の害虫防除用エアゾール。」
(3)「【0012】…本発明において、噴射空間とは、エアゾールを噴射し、噴射された害虫防除成分を含む粒子が描く軌道で囲まれた空間を表す。…
【0013】本発明のエアゾールの害虫防除成分の噴射後の気中濃度を、少なくとも5分後まで減少させないための手段としては、…好ましくはエアゾールの噴射量を5秒間当たり5g以上に設定するとともに、エアゾール組成物中の原液/噴射剤の容積比を2以上に設定する。…
【0014】本発明において、エアゾール中の噴射剤/原液の容積比は、好ましくは2?7である。本発明において、エアゾールの噴射量は、好ましくは5?15g/5秒である。これにより、本発明の効果が一層顕著になる。本発明のエアゾールは、内容物を一気に全量噴出させるものではなく、目標とする害虫に向かって、適宜繰り返し噴射して害虫を防除することのできるエアゾールである。」
(4)「【0015】
【発明の実施の形態】本発明のエアゾールは、少なくとも害虫防除成分を含んだ原液および噴射剤から主として成るものであり、必要に応じて界面活性剤、防錆剤、効力増強剤、芳香剤、消臭剤、保留剤などを配合することができる。
【0016】本発明において使用される害虫防除成分(有効成分)としては、殺虫剤、防虫剤、忌避剤、吸血阻害剤、昆虫成長調整剤(IGR)、抗幼虫ホルモン剤さらには殺ダニ剤、殺蟻剤、殺穿孔虫剤、共力剤などのいわゆる害虫に対して殺虫、防除さらには忌避効果を有するものであれば目的や必要に応じて1種もしくは2種以上を混合して用いることができる。」
(5)「【0017】本発明において用いる害虫防除成分の1つとしてはピレスロイド系化合物が挙げられる。そのようなピレスロイド系化合物としては、例えば、フェノトリン…、ペルメトリン…、レスメトリン…、アレスリン…、フタルスリン…、エムペントリン…、…、プラレトリン…、テフルスリン…、ベンフルスリン…などが用いられ、これらピレスロイド系化合物より選択した1種以上の化合物を、害虫防除用エアゾールに配合できる。
【0018】…有機りん系殺虫剤としては、フェニトロチオン、クロルピリホス、マラソン、ジクロルボス、ピリダフェンチオンおよびトリクロルホンなど、カーバメイト系殺虫剤としては、カルバリル、ベンフラカブル、プロポキスルなどが例示できる。そして、害虫防除成分の1種としてピレスロイド系化合物の殺虫効力を増強する化合物(一般の共力剤)としては、例えばピペロニルブトキサイド、オクタクロロジプロピルエーテル、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ〔2,2,2〕オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、イソボルニルチオシアノアセテートおよびN-(2-エチニル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミドなどより選択された化合物の1種以上を害虫防除用エアゾールに添加することもできる。
【0019】…前記のピレスロイド系化合物、有機りん系殺虫剤およびカーバメイト系殺虫剤以外のものとして次の殺ダニ剤が例示できる。例えば…、ヒノキ、スギ及びヒバの精油、メントール、キハダ類の抽出物、柑橘類の果皮及び種子からの抽出物、芳香族スルフォンアミド誘導体、水酸化トリシクロヘキシル錫、4,4’-ジブロムベンジル酸イソプロピル、2,3-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ベンゾ〔b〕フラニルニ-N-ジブチルアミノチオ-N-メチルカーバメイト、シラン化合物、ケイ皮酸誘導体、酢酸シンナミル、ブフロフェジン、イソプロチオラン、パラオキシ安息香酸エステル、ヨウ素化ホルマール、フェノール類、フタル酸エステル、3-ブロモ-2,3-ヨード-2-プロペニル-エチルカルボナート、モノテルペン系ケトン類、モノテルペン系アルデヒド類、モノテルペン系エポキサイド類、サリチル酸ベンジル、サリチル酸フェニルなど…が用いられ、これら殺ダニ成分および/または殺虫成分より選択した1種以上の化合物を、害虫防除用エアゾールに配合できる。
【0020】そして、上記害虫防除成分および殺ダニ成分以外にも各種の薬剤が添加できる。例えば、害虫およびげっ歯類忌避剤、殺菌剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、着色料などを配合することもでき、害虫およびげっ歯類忌避剤として2,3,4,5-ビス(δ-ブチレン)-テトラヒドロフルフラール、N,N-ジエチル-m-トルアミド、ジ-n-プロピルイソシンコロメート、ジ-n-ブチル酢酸、2-ハイドロキシエチルオクチル硫酸、2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、シクロヘキシミド、β-ニトロスチレンシアノアクリルニトリル、トリブチル錫塩酸塩、トリニトロベンゼン-アニリン複合体、ナフタリンなど、殺菌剤あるいは防黴剤としては、2,4,4’-トリクロロ-2’-ハイドロキシジフェニルエーテル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルメチル-{2-〔2-(p-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノキシ)エトキシ〕エチル}アンモニウムクロライド、4-イソプロピルトロポロン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)スルフォンアミド、2-(4’-チアゾリル)ベンズイミダゾール、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、6-アセトキシ-2,4-ジメチル-m-ジオキシン、イソプロピルメチルフェノール、O-フェニルフェノール、p-クロロ-m-キシレノール等が用いられ、消臭剤としては、ラウリル酸メタアクリレートなど、そして、芳香剤としてはイグサの精油成分、シトロネラ、レモン、レモングラス、オレンジ、ユーカリ、ラベンダーなどが配合できる。本発明において使用される害虫防除成分の、エアゾール中の添加量としては、溶剤に対して0.01?1.0(w/v)%が好ましい。」
(6)「【0021】上記の害虫防除成分をエアゾール組成物の原液とするには通常用いられている溶剤に溶解させればよく、その溶剤としては化粧料やエアゾールなどに用いられているものであれば何ら限定されない。例えば水、油性溶媒が挙げられる。本発明において油性溶媒としては、従来よりエアゾール剤に用いられている油性溶媒であれば何ら限定されない。例えば、ヘキサン、ケロシン、灯油、n-ペンタン、iso-ペンタン、シクロペンタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテルなどのエーテル類;酢酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類;大豆油、綿実油などの植物油などが挙げられ、これらの油性溶媒から選択した1種以上の化合物を配合することができる。」
(7)「【0023】…界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリポリオキシエチレンアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコール、デカグリセリンモノオレート、…から選ばれる1種または2種以上の化合物が例示できる。…また水及び油に相溶性の溶剤としては、プロピレングリコール、プロパノール、ブチルジグリコールなどが挙げられる。この場合の配合量は0.1?5.0重量%、好ましくは0.5?2.0重量%である。これらを水以外の溶剤においても必要に応じて使用することにより、乳化、分散さらには可溶化をより優れたものとすることができる。」
(8)「【0025】本発明の害虫防除用エアゾール組成物に使用できる噴射剤としては、一般に知られているものが使用できる。本発明において噴射剤としては、例えば、液化石油ガス(LPG)、プロパン、n-ブタン、iso-ブタン、n-ペンタン、iso-ペンタン、シクロペンタン、塩素を含まないフロンガス、ジメチルエーテル、窒素ガス、液化炭酸ガス等が挙げられる。塩素を含まないフロンガスとしは、HFC-125、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、HFC-32等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができ、原液に対して容積比で2倍以上、好ましくは2?7倍含有させる。」
(9)「【0026】…ここで、下記表-1に本発明の害虫防除用エアゾールの処方例(300mlエアゾール)を示すが、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。
【0027】【表1】(掲載を省略する。)
【0028】【表2】(掲載を省略する。)」
(10)「【0029】本発明における防除対象としては、屋内外に生息する害虫および屋内塵性ダニ類など全般に亘る。屋内外に生息する害虫としては衛生害虫あるいは生活害虫等が挙げられる。例えば衛生害虫としてはゴキブリ類(チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等)、…等が例示できる。…」
(11)「【0030】本発明においてエアゾール組成物をスプレー(噴霧)するための手段として、該組成物を充填するエアゾール容器とバルブ、ボタン等は、上記本発明の特性を満足すれば、何ら制限を受けるものではない。」
(12)「【0036】実施例2
本発明の害虫防除用エアゾールに対して下記の効力試験を実施した。なお、本発明品の噴射量は約6g/5gで、比較例として従来品aのエアゾールを用いた。
【0037】(方法及び結果)イエバエ(オス/メス=1:1)20匹の入ったステンレスゲージ(250mm×250mm×250mm)を天井から吊り下げ、ゲージの中心から水平距離で1m、1.5m、2.0mの位置より上記エアゾールを約1秒間噴射し、経時的にイエバエのノックダウン数及び24時間後の死亡率(%)を観察する試験を各2回行い、平均した。この結果を下記表-2に示す。
【0038】【表3】(掲載を省略する。)
【0039】表-2から明らかなとおり、本発明品は従来品aと比べて速攻性及び致死において優れた効果を示している。また、本発明品の害虫防除効果は、遠距離になっても維持されている。これは、本発明品の噴射された粒子の粒子特性が適正となり、噴射物がより遠方にまで到達したためと考えられる。」

これら(1)?(12)の記載及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「エアゾール中の添加量として,溶剤に対して0.01?1.0w/v%の添加量の害虫防除成分と,溶剤とを含む原液及び原液に対して容積比で2?7倍含有する噴射剤を含有するエアゾールを,5?15g/5秒の噴射量で噴射して,ゴキブリを防除する方法。」

2.甲第2号証(特開平5-105608号公報)
甲第2号証には,「殺虫組成物」に関して,次の記載がある。
(1)「【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、化合物Aの殺虫力増強と製剤形態の改良とに関して鋭意検討した結果、化合物Aに、炭素数16?19のモノカルボン酸エステルおよび/または炭素数16?19のジカルボン酸エステルを重量比が3:1?1:100 になるように添加することにより、殺虫効力が増強されることを見出した。そしてさらに、ケロセンおよびジメチルエーテル、必要によりさらに液化石油ガスを加えることにより、化合物Aの殺虫効力が非常に増強されたエアゾール組成物が得られることを見出し本発明を完成した。即ち、本発明は、a)化合物A 0.001 ?5重量%、b)一種以上の、炭素数16?19のモノカルボン酸エステルおよび/または炭素数16?19のジカルボン酸エステル 0.005 ?60重量%、c)ケロセン 5?80重量% およびd)ジメチルエーテルまたはジメチルエーテルと液化石油ガスとの混合物からなる噴射剤 20?80重量%を含有することを特徴とする殺虫性エアゾール組成物(以下、本発明組成物と記す。)を提供するものである。」
(2)「【0004】化合物Aには各種の光学異性体や幾何異性体が存在するが、本発明ではそれらのうちの殺虫活性を有する任意の異性体およびその混合物が使用できる。化合物Aの本発明組成物中の含量は、0.001?5重量%、好ましくは0.05?2重量%である。本発明組成物中に用いられる炭素数16?19のモノまたはジカルボン酸エステルとしては、例えばフタル酸ジブチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル等が挙げられる。これらは、一種単独でまたは二種以上を混合して用いることもでき、本発明組成物中の含量は、0.05??60重量%、好ましくは 0.1?40重量%である。本発明組成物中に用いられるケロセンは、殺虫エアゾールの溶媒として通常用いられる任意のものが使用でき、例えばネオチオゾール(中央化成株式会社製ケロセン)等のn-パラフィン系のもの、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーM(エクソン化学株式会社製ケロセン)、IP-2028(出光石油化学株式会社製ケロセン)等のイソパラフィン系のものまたはそれらの混合物が使用できる。本発明組成物中のケロセンの含量は、5?80重量%、好ましくは30?70重量%である。本発明組成物中に用いられる噴射剤は、ジメチルエーテルまたはジメチルエーテルと液化石油ガスとの混合物であり、ジメチルエーテルと液化石油ガスとの混合比は重量比で 100:0?40:60の範囲内が好ましい。本発明組成物中の噴射剤の含量は、20?80重量%、好ましくは30?70重量%である。」
(3)「【0009】本発明組成物が有効な害虫類としては、例えば次のようなものが挙げられる。

網翅目害虫
チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、コバネゴキブリ、ハイイロゴキブリ、イエゴキブリ、ヤマトゴキブリ、コワモンゴキブリ等
…」
(4)「【0010】本発明組成物は、特に網翅目害虫であるゴキブリの防除に極めて有効である。即ち、ゴキブリ防除用のエアゾールは現在数多く市販されているものの、ゴキブリはエアゾール噴霧後すばやく物陰に隠れてしまうため、使用者は実際にエアゾールの効力がよくわからずにいるのが現状であるが、本発明組成物はその速効的なノックダウン効果によりゴキブリに逃亡する暇を与えずノックダウンさせ得るもので、画期的なゴキブリ防除剤として使用し得るものである。」
(5)「【0015】次に、本発明組成物の殺虫効力を試験例にて示す。
試験例1
…上方よりチャバネゴキブリに向けて所定量( 0.4g)のエアゾールを噴霧し、…」
(6)「【0017】試験例2
化合物A〔酸側がd-シス、トランス体(シス、トランス比は約20:80)〕
0.5重量部、ミリスチン酸イソプロピル30.5重量部、ネオチオゾール29重量部、ジメチルエーテル20重量部および液化石油ガス20重量部を用い、製造例4と同様にしてエアゾールを得た。…上記のエアゾールを、チャバネゴキブリに対しては1秒間、ワモンゴキブリに対しては3秒間直撃噴霧を行った。…」

3.甲第5号証の3(「家庭用殺虫剤概論II」)
(1)「5.処方の例
(1)殺虫剤スプレー
殺虫剤成分 0.1?0.5%
溶剤(灯油) 40?50%
液化石油ガス
ジメチルエーテル 40?60%」(29頁,左欄)
(2)「2.ゴキブリ用エアゾール
ゴキブリは飛ぶ虫ではないため,空間に粒子を浮遊させる必要はない,従って,カ,ハエ用エアゾールより粒子を粗くして,ゴキブリの体表,あるいは,塗布面への付着性を考慮してある,また,塗布後の残効性が期待できる薬剤が配合されている。
ゴキブリはカ,ハエより体が大きく,やや殺虫剤に強いため薬剤配合量も多い,ノックダウン薬剤はd-T80-フタルスリン等が使われ,致死剤としてはゴキブリに効果的なフェノトリン,ペルメトリンが一般的に用いられている。また,狭い所にも噴射しやすいように長ノズルがつけられているものもあり,通常噴射と両方使用可能となっている。」(29頁,右欄)


〔2〕本件特許発明1について
1.本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
先ず,甲1発明において,原液及び噴射剤の量の関係は,「原液に対して容積比で2?7倍含有する噴射剤」であるから,原液と噴射剤との容積比は,1:2?1:7の範囲内にあるところ,原液を構成する「溶剤」の量については,原液中の害虫防除成分の添加量(0.01?1.0w/v%)が,容積にしてごく僅かな量にすぎないから,原液の量が,ほぼそのまま,該当するものと推認できる。
(尚,本件特許明細書の「実施例1」(上記「【1】〔1〕2.(6)」を参照。)においても,溶剤の量は厳密には示されておらず,最終的な原液の量のみが示されているにすぎない。)
そうすると,甲1発明において,原液と噴射剤との容積比が,上述したとおり,1:2?1:7の範囲内にあり,原液と噴射剤とを合わせた量が,エアゾール全量になるのであるから,原液の量は,エアゾール全量の12.5%(^(1)/_(8))?33.3%(^(1)/_(3))の割合を占めることになり,したがって,当該量が,ほぼそのまま該当すると推認できる「溶剤」の量は,エアゾール全量のほぼ(以下省略)12.5?33.3容量/容量%の割合を占めることになり,これと,本件特許発明1の「溶剤」の量である「エアゾール全量の10?90容量/容量%割合」とは,「エアゾール全量の12.5?33.3容量/容量%を占める割合」で重複する。
次に,甲1発明の「害虫防除成分」が本件特許発明1の「殺虫剤」に相当し,そして,甲1発明において,「害虫防除成分」の量は,「溶剤」に対する添加量として「0.01?1.0w/v%」,即ち,0.01?1.0重量/容量%であること,及び,上述したように,「溶剤」の量が,エアゾール全量の12.5?33.3容量/容量%の割合を占めるものであることから,エアゾール全量の0.00125?0.333重量/容量%の割合を占めることになり,これと,本件特許発明1の「殺虫剤」の量である「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合」とは,「エアゾール全量の0.01?0.333重量/容量%の割合」で重複する。
そして,甲1発明の「エアゾールを,5?15g/5秒の噴射量で噴射して,ゴキブリを防除する方法」と,本件特許発明1の「エアゾールを、ゴキブリに向けて1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して、噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する…ゴキブリの飛翔行動阻害方法」とは,「エアゾールを噴射するゴキブリの防除方法」で共通する。
そうすると,両者は,
「エアゾール全量の0.01?0.333重量/容量%の割合で占める殺虫剤と,エアゾール全量の12.5?33.3容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾールを噴射するゴキブリの防除方法。」の点で一致し,次の点で相違する。

<相違点1>
エアゾールの成分について,
本件特許発明1が,原液に,「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む」ものであるのに対して,
甲1発明では,本件特許発明1と重複するものの,原液に,エアゾール全量の0.01?0.333重量/容量%の割合で占める殺虫剤と,エアゾール全量の12.5?33.3容量/容量%を占める割合の溶剤とを含むものである点。
<相違点2>
エアゾールの噴射について,
本件特許発明1が,ゴキブリに向けて噴射するのに対して,
甲1発明では,ゴキブリに向けて噴射するのか定かでない点。
<相違点3>
上記相違点2に関連して,
本件特許発明1が,ゴキブリに向けて1回,溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して,噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害するのに対して,
甲1発明では,どのように噴射して,どのようにゴキブリを防除するのか定かでない点。

2.相違点の検討
<相違点1について>
本件特許発明1において,上記相違点1に係る各数値要件については,きわめて大まかに規定されており,しかも,本件特許明細書において,殺虫剤の添加量については,「【0013】…本発明において使用される殺虫剤の添加量としては、従来のエアゾールにおいて用いられている量を使用することができるが、エアゾール全量の0.01?2.0wt/v%(重量/容量%)とする。」と記載され,溶剤の含有量については,「【0015】…本発明においては、溶剤の含有量としては、エアゾール全量の10?90v/v%とする。」(上記「【1】〔1〕2.(5)」を参照。)と記載されているのみであるから,それらの数値の臨界的意義が特に明確になっている訳ではなく,また,〔本発明のサンプル〕も,殺虫剤の添加量(1.0g)が,エアゾール全量(300ml)の0.33重量/容量%(^(1.0)/_(300))であり,原液(溶剤)の含有量(67.5ml)が,エアゾール全量の22.5容量/容量%(^(67.5)/_(300))であって,それぞれ,甲1発明の殺虫剤及び溶剤の各数値範囲内に収まっている。
そして,さらには,甲第2号証に記載されている「エアゾール組成物」中の殺虫剤(化合物A)及び溶剤(ケロセン)の含有量が,それぞれ,当該組成物に対して,0.001?5(好ましくは0.05?2)重量%,5?80(好ましくは30?70)重量%であることや,甲第5号証の3に記載されている「殺虫剤スプレー」の処方例の殺虫剤(殺虫剤成分)及び溶剤(灯油)の含有量が,それぞれ,エアゾールに対して,0.1?0.5%,40?50%であることを考慮するならば,上記相違点1に係る各数値要件を採用することは,当業者にとって格別に困難なことであったとは認められない。
してみると,甲1発明において,エアゾールの成分を,本件特許発明1の上記相違点1に係る構成とすることは,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び甲第5号証の3に記載された周知の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2について>
甲第1号証には,エアゾールを目標とする害虫に向かって噴射させて害虫を防除する旨の記載(上記「〔1〕1.(2)(3)」を参照。)はあるものの,それに記載された発明(甲1発明)の主な目的が,噴射空間における噴射後の害虫防除成分の気中濃度を低下させないことにあることからすると,エアゾールを,床面にいるゴキブリに向かって噴射させるものではなしに,空間に噴射するものであることが想定される。
しかしながら,エアゾールを空間に噴射してゴキブリを防除する方法も,エアゾールを床面にいるゴキブリに向けて直接噴射してゴキブリを防除する方法も,例えば,甲第2号証(上記「〔1〕2.(5)(6)」を参照。),甲第5号証の3(上記「〔1〕3.(2)」を参照。)に記載されていることからみても解るように,従来から周知のゴキブリ防除方法にすぎないものである。
(但し,本件特許明細書の段落【0009】には,「本発明のエアゾールは、…加圧充填できる容器と、ここから上記規定量を所望の空域にスプレーするための手段…とを具備している…」(上記「【1】〔1〕2.(5)」を参照。)との記載もあることから,本件特許発明1が,エアゾールを床面にいるゴキブリに向かって直接噴射してゴキブリを防除する方法のみに特定されないことはいうまでもない。)
そして,甲1発明のエアゾールの殺虫剤及び溶剤の量(殺虫剤(害虫防除成分):エアゾール全量の0.00125?0.333重量/容量%,溶剤:エアゾール全量の12.5?33.3容量/容量%)は,上記<相違点1について>で説示したように,甲第2号証に記載されている「エアゾール組成物」中の殺虫剤(化合物A)及び溶剤(ケロセン)の含有量や,甲第5号証の3に記載されている「殺虫剤スプレー」の処方例の殺虫剤(殺虫剤成分)及び溶剤(灯油)の含有量と較べ,大きく変わるものではなく,エアゾールとして一般的なものであって,しかも,甲第2号証には,上記「エアゾール組成物」を,「網翅目害虫(チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、コバネゴキブリ、ハイイロゴキブリ、イエゴキブリ、ヤマトゴキブリ、コワモンゴキブリ等)」に向けて噴射することにより,「その速効的なノックダウン効果によりゴキブリに逃亡する暇を与えずノックダウンさせ得るもので、画期的なゴキブリ防除剤として使用し得るものである。」(上記「〔1〕2.(3)(4)」を参照。)ことが記載されており,さらには,上述したように,甲第1号証には,甲1発明のエアゾールを目標とする害虫に向かって噴射させて害虫を防除する旨の記載もあることから,エアゾールを空間に噴射するという,従来から周知のゴキブリ防除方法に用いる甲1発明のエアゾールを,同じく,エアゾールを床面にいるゴキブリに向けて直接噴射するという,従来から周知のゴキブリ防除方法のエアゾールとして用いることを推考することが,当業者にとって,格別に困難なことであったとは認められず,かつ,阻害要因もないものである。
してみると,甲1発明において,エアゾールを(床面にいる)ゴキブリに向けて噴射するようにして,本件特許発明1の上記相違点2に係る構成とすることは,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び甲第5号証の3に記載された周知の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点3について>
本件特許発明1において,ゴキブリに向けて1回,1秒以内に噴射する「0.5?1.2ml」とのエアゾール中の溶剤の噴射量は,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」ために必要な量であり,しかも,当該発明の「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾール」は,甲1発明をはじめ,甲第2号証,甲第5号証の3に開示されているように,エアゾールとしてごく一般的なものでしかないことから,本件特許発明1は,実質上,「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害すること」のために,1回に比較的多量(0.5?1.2ml)の溶剤を1秒以内という短い時間の間にゴキブリに向けて噴射することを特徴とするもの,と解することができる。
しかしながら,エアゾールを用いてゴキブリを防除するにあたって,ゴキブリを飛翔させないことが好ましいことは,当業者にとって自明の事項であり,また,そのために,防除効果の高い殺虫剤を用いたり,噴射量を多く設定したりすることは,例えば,甲第2号証に,「ゴキブリの体表,あるいは,塗布面への付着性を考慮」することや,「ゴキブリはカ,ハエより体が大きく,やや殺虫剤に強いため薬剤配合量も多い」ことが記載されている(上記「〔1〕3.(2)」を参照。)ことからみても解るように,当業者において,普通に考慮する程度の事項である。
そして,本件特許発明1の上記相違点3に係る数値要件には,噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害してゴキブリの防除効果を高めるために,上述のとおり,1回に比較的多量の溶剤を1秒以内という短い時間の間にゴキブリに向けて噴射すること以外に,技術的な意義をみいだすことができないものであって,1秒あたりの溶剤の噴射量が「0.5?1.2ml」となるようなエアゾール容器を採用すれば,上記相違点3に係る数値要件を達成できるものと思量されるところ,このようなエアゾール容器を採用することは,本件特許明細書の段落【0009】に,「…原液中の溶剤の噴射量が、1秒以内に0.5?1.2mlとなるように調整すればよい。この溶剤の噴射量は、噴射後のゴキブリの飛翔行動の阻害効果を得るために必要な量であり、…このような噴射を可能とするための手段としては…ボタン及びバルブ…を調整したり、エアゾール缶内のチューブ内径…を調整したり、噴射剤の種類や量を調整するなどが挙げられるが、大量噴射が可能となる手段を選べばよい。…」(上記「【1】〔1〕2.(5)」を参照。)と記載されていることからみても解るように,当業者にとって,格別に困難なことであったとは認められない。
してみると,甲1発明において,エアゾールをゴキブリに向けて噴射する際に,ゴキブリの飛翔行動を阻害してその防除効果を高めるべく,短い時間に比較的多量の溶剤を噴射しようとすることは,当業者が普通に推考し得ることであって,その際に,「1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射」するようにして,本件特許発明1の上記相違点3に係る構成とすることは,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

3.作用効果・判断
そして,本件特許発明1によって奏する作用効果も,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術から普通に予測できる範囲内のものであって,格別なものがあるとは認められないから,本件特許発明1は,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


〔3〕本件特許発明2について
1.本件特許発明2と甲1発明との対比
本件特許発明2は,本件特許発明1における「噴射後のゴキブリの飛翔行動を阻害する」との作用を,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」との作用に,単に,置き換えたものである。
そうすると,本件特許発明2と甲1発明とは,結局のところ,本件特許発明1と甲1発明との一致点で一致するとともに,本件特許発明1と甲1発明との相違点1,2で相違し,さらに,次の点で相違することになる。
<相違点4>
上記相違点2に関連して,
本件特許発明2が,ゴキブリに向けて1回,溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射して,噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除するのに対して,
甲1発明では,どのように噴射して,どのようにゴキブリを防除するのか定かでない点。

2.相違点の検討
相違点1,2については,それぞれ,上記<相違点1について><相違点2について>で説示したとおりである。
<相違点4について>
本件特許発明2において,ゴキブリに向けて1回,1秒以内に噴射する「0.5?1.2ml」とのエアゾール中の溶剤の噴射量は,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除する」ために必要な量であり,しかも,当該発明の「エアゾール全量の0.01?2.0重量/容量%の割合で占める殺虫剤と、エアゾール全量の10?90容量/容量%を占める割合の溶剤とを含む原液及び噴射剤を含有するエアゾール」は,上記<相違点3について>で説示したとおり,エアゾールとしてごく一般的なものでしかないから,本件特許発明2も,実質上,「噴射後のゴキブリを47秒以内にノックダウンさせて該ゴキブリを防除すること」のために,1回に比較的多量(0.5?1.2ml)の溶剤を1秒以内という短い時間の間にゴキブリに向けて噴射することを特徴とするもの,と解することができる。
しかしながら,エアゾールを用いてゴキブリを防除するにあたって,ゴキブリをできるだけ早くノックダウンさせることが好ましいことは,当業者にとって自明の事項であり,また,そのために,防除効果の高い殺虫剤を用いたり,噴射量を多く設定したりすることは,上記<相違点3について>で説示したとおり,当業者において,普通に考慮する程度の事項である。
そして,本件特許発明2の上記相違点4において,噴射後のゴキブリをノックダウンさせる時間である「47秒以内」との数値要件には,格別の技術的な意義をみいだすことができないものであり,当該数値要件以外の数値要件についても,上記<相違点3について>で説示したとおりであって,1秒あたりの溶剤の噴射量が「0.5?1.2ml」となるようなエアゾール容器を採用すれば,上記相違点4に係る数値要件を達成できるものと思量されるところ,このようなエアゾール容器を採用することは,当業者にとって,格別に困難なことであったとは認められない。
してみると,甲1発明において,エアゾールをゴキブリに向けて噴射する際に,ゴキブリをできるだけ早くノックダウンさせてその防除効果を高めるべく,短い時間に比較的多量の溶剤を噴射しようとすることは,当業者が普通に推考し得ることであって,その際に,ノックダウン時間の目安を「47秒以内」とし,「1回、溶剤の噴射量が0.5?1.2mlとなる量を1秒以内に噴射」するようにして,本件特許発明1の上記相違点4に係る構成とすることは,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

3.作用効果・判断
そして,本件特許発明2によって奏する作用効果も,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術から普通に予測できる範囲内のものであって,格別なものがあるとは認められないから,本件特許発明2は,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第7.むすび
以上のとおりであり,その余の無効理由について検討するまでもなく,本件特許は,特許法第36条第4項又は第6項に定める要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものであり,また,本件特許は,本件特許発明1及び本件特許発明2が,甲1発明,甲第2号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて,当業者に容易に想到し得た発明であって,進歩性を有しておらず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-25 
結審通知日 2010-01-08 
審決日 2010-01-27 
出願番号 特願平10-155109
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A01M)
P 1 113・ 536- Z (A01M)
P 1 113・ 537- Z (A01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 山本 忠博
宮崎 恭
登録日 2008-09-12 
登録番号 特許第4183797号(P4183797)
発明の名称 ゴキブリの飛翔行動阻害方法  
代理人 添田 全一  
代理人 小栗 昌平  
代理人 赤尾 直人  
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