ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
---|---|
管理番号 | 1213325 |
審判番号 | 不服2008-7034 |
総通号数 | 125 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-03-21 |
確定日 | 2010-03-11 |
事件の表示 | 特願2003-549591「金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月12日国際公開、WO03/48416〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯と本願発明 1-1.経緯 本願は、2002年12月3日(優先権主張2001年12月4日、2001年12月4日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成20年2月12日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年3月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年4月21日付で手続補正がなされ、その後、平成20年6月18日付で前置審査による拒絶の理由(最初の拒絶理由通知に相当)が通知され、その指定期間内である平成20年8月25日付で手続補正がなされたものである。 1-2.本願発明1 そして、平成20年4月21日付の手続補正は、特許法第17条の2第4項第1、4号に規定する請求項の削除、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、平成20年8月25日付の手続補正は、特許法第17条の2第4項第2、4号に規定する特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、本願請求項1?9に係る発明は、平成20年8月25日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 Ti,Si,Zr,Fe,Sn,Ndから選ばれる金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有するフルオロ金属錯化合物含むpH2?7の処理水溶液中で、導電性材料を電解することで、該導電性材料表面に前記金属イオンから成る金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。」 2.先願明細書の記載事項 平成20年6月18日付の前置審査による拒絶理由通知に引用した、本件優先日前の出願(特願2001-269995号、出願日 2001年9月6日、以下「先願」という)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という)、及び、該先願明細書に記載された発明に基づいて優先権を主張し、本件国際出願後に国際公開された出願(PCT/JP02/05860号)の国際公開公報(WO02/103080号)には、それぞれ次の事項が記載されている。 2-1.先願明細書 (ア)「Ti、Zr・・・及びSiの中から選ばれる元素の少なくとも1種は、HFを含有する水溶液中では、H_(2)MF_(6)として存在する。ここで・・・(式中MはTi、Zr・・・及びSiの中から選ばれる少なくとも1種の元素)。」(【0025】) (イ)「本発明の表面処理皮膜層を電解処理で得る場合は・・・被処理金属を陰極とし、Ti、Zr・・・及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の少なくとも1種と、(a)HFの供給源としての・・・少なくとも1種のフッ素含有化合物・・・とを含有する表面処理液で電解した後、水洗処理を行う。」(【0034】) (ウ)「Ti、Zr・・・及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、前記(a)で供給されるHF・・・とは、酸性水溶液中では可溶性の塩を形成し溶解している。ここで、被処理金属材料を陰極として電解処理を行うと、陰極界面では水素の還元反応が起こりpHが上昇する。pHの上昇に伴い、陰極界面でのTi、Zr・・・及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の安定性が低下し、酸化物、若しくは・・・水酸化物として表面処理皮膜層が析出するのである。」(【0035】) 2-2.国際公開公報:WO02/103080号 (1)「成分(A)の化合物中のTi、Zr・・・及びSiの金属元素は・・・HFを含有する水溶液中では、H_(2)MF_(6)(但し、MはTi、Zr・・・及びSiのから選ばれる少なくとも1種の金属元素)として存在する。」(8頁8?10行) (2)「本発明の表面処理層を電解処理で形成させる場合は・・・被処理金属を陰極とし、成分(A)のTi、Zr・・・及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、成分(B)のHFの供給源としてのフッ素含有化合物・・・とを含有する表面処理液で電解し、その後水洗処理を行う。」(13頁21?25行) (3)「成分(A)の化合物から供給されるTi、Zr・・・及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素と、成分(B)から供給されるHF・・・とは、酸性水溶液中では可溶性の塩を形成し溶解している。ここで、被処理金属材料を陰極として電解処理を行うと、陰極界面では水素の還元反応が起りpHが上昇する。pHの上昇に伴い、陰極界面でのTi、Zr・・・及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素の安定性が低下し、酸化物若しくは・・水酸化物として表面処理皮膜が析出する。」(14頁1?8行) 2-3.共通記載事項 先願明細書に記載された発明に基づいて優先権主張をして出願されたPCT/JP02/05860号について国際公開がされた(2002年12月27日、WO02/103080号参照)から、先願明細書に記載された事項のうち、WO02/103080号(国際公開公報)にも共通に記載された事項については、先願の出願日に出願があり、国際公開日に出願公開がされたものとみなされる(特許法第41条第2項、第3項)。 そこで、摘記事項(ア)?(ウ)と、摘記事項(1)?(3)に共通に記載された事項を整理すると、次の(a)?(c)のとおりである(以下、「摘記事項(a)?(c)」という。)。 (a)「Ti、Zr及びSiの元素は、HFを含有する水溶液中では、H_(2)MF_(6)(MはTi、Zr及びSiのから選ばれる少なくとも1種の元素)として存在する。」(摘記事項(ア)、(1)) (b)「本発明の表面処理層を電解処理で形成させる場合は、被処理金属を陰極とし、Ti、Zr及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物と、HFの供給源としてのフッ素含有化合物とを含有する表面処理液で電解し、その後水洗処理を行う。」(摘記事項(イ)、(2)) (c)「Ti、Zr及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素と、フッ素含有化合物から供給されるHFとは、酸性水溶液中では可溶性の塩を形成し溶解している。ここで、被処理金属材料を陰極として電解処理を行うと、陰極界面では水素の還元反応が起りpHが上昇する。pHの上昇に伴い、陰極界面でのTi、Zr及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素の安定性が低下し、酸化物若しくは水を含んだ水酸化物として表面処理皮膜が析出する。」(摘記事項(ウ)、(3)。ただし、摘記事項(ウ)の「前記(a)」、及び、摘記事項(3)の「成分(B)」は、「フッ素含有化合物」に置き換えた(摘記事項(イ)、(2)参照)。) 3.当審の判断 3-1.先願明細書記載の発明 摘記事項(b)によれば、Ti、Zr及びSiから選ばれる元素を含む化合物と、HFの供給源としてのフッ素含有化合物を含有する表面処理液中で、被処理金属を電解することにより被処理金属表面に表面処理層を形成させること、摘記事項(c)によれば、Ti、Zr及びSiから選ばれる元素と、フッ素含有化合物から供給されるHFとは、酸性水溶液中では可溶性の塩を形成し溶解しており、電解処理を行うと、Ti、Zr及びSiから選ばれる元素の安定性が低下し、酸化物若しくは水酸化物として表面処理被膜が析出することが記載されている。これらの記載から、表面処理液は、酸性の処理水溶液であって、表面処理液中では、Ti、Zr及びSiから選ばれる金属元素と、フッ素含有化合物から供給されるHFとは可溶性の塩を形成しているが、電解することで、導電性材料(被処理金属)表面に前記金属元素のイオンから成る金属酸化物及び/又は金属水酸化物が表面処理被膜として形成されることが理解できる。 また、摘記事項(a)によれば、Ti、Zr及びSiの元素は、HFを含有する水溶液中では、H_(2)MF_(6)(MはTi、Zr及びSiから選ばれる元素)として存在することが記載されているから、上記可溶性の塩は、H_(2)MF_(6)(MはTi、Zr及びSiから選ばれる金属元素)であって、Ti、Zr及びSiから選ばれる金属元素と該金属元素に対してモル比で6倍のフッ素を含有するフルオロ金属錯化合物であることが理解できる。 そこで、摘記事項(a)?(c)の記載を総合すれば、先願明細書には、「Ti,Si,Zrから選ばれる金属と該金属に対してモル比で6倍のフッ素を含有するフルオロ金属錯化合物を含む酸性の処理水溶液中で、導電性材料を電解することで、該導電性材料表面に前記金属イオンから成る金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成する金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。」(以下、「先願明細書発明」という。)が記載されていることになる。 3-2.対比・判断 本願発明1と先願明細書発明とを対比すると、本願発明1の「pH2?7」は、「酸性」の領域を含むから、両者は、 「Ti,Si,Zrから選ばれる金属と該金属に対してモル比で6倍のフッ素を含有するフルオロ金属錯化合物を含む酸性の処理水溶液中で、導電性材料を電解することで、該導電性材料表面に前記金属イオンから成る金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成する金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。」で一致し、次の点で一応相違する。 〈相違点〉本願発明1は、処理水溶液が「pH2?7」であるのに対し、先願明細書発明は、処理水溶液が酸性である点 そこで、上記一応の相違点について検討する。 まず、摘記事項(c)によれば、フルオロ金属錯化合物(可溶性の塩)は、酸性の処理水溶液中では溶解していること、導電性材料(被処理金属材料)を陰極として電解処理を行うと、陰極界面では水素の還元反応が起りpHが上昇し、このpHの上昇に伴い、陰極界面での金属(元素)の安定性が低下し、酸化物若しくは水酸化物として析出することが記載されている。 すると、酸性の処理水溶液中で電解処理すると、電解が進むにつれ処理水溶液のpHが上昇するため、酸性領域では溶解していたフルオロ金属錯化合物の安定性が低下して、金属酸化物及び/又は金属水酸化物として析出するといえるから、先願明細書発明において、フルオロ金属錯化合物が可溶性の塩として安定に存在できる酸性領域は、2≦pH<7と重複するpHであることは明らかである。 してみると、上記相違点は実質的な相違点ではない。 したがって、本願発明1は、先願明細書発明と同一である。 4.むすび 以上のとおり、本願発明1は、先願明細書発明と同一であり、しかも、本願発明1の発明者が上記先願明細書発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-25 |
結審通知日 | 2010-01-05 |
審決日 | 2010-01-22 |
出願番号 | 特願2003-549591(P2003-549591) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
WZ
(C23C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 市枝 信之 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
國方 康伸 鈴木 正紀 |
発明の名称 | 金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |