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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1213426
審判番号 不服2007-19569  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-12 
確定日 2010-03-15 
事件の表示 平成 9年特許願第287946号「電子捕獲型検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月23日出願公開、特開平11-108898〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成9年10月3日の特許出願であって,平成19年6月6日付けで拒絶査定され,これに対し,同年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成18年5月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたものと認められ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである。

「【請求項1】
a)検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化し,電子を放出させる電子放出手段と,
b)所定の電流値を設定する電流値設定手段と,
c)検出セル内に設けられた電極にパルス電圧を印加するとともに,上記電子による電流が前記所定電流値となるようにパルス電圧の周波数を制御するパルス制御手段と,
d)検出セルの初期状態における上記周波数の値f00と,試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0とを記憶する周波数記憶手段と,
e)検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数f並びに前記両周波数の値f00及びf0を用いて分析試料の濃度を算出する濃度算出手段と
を備えることを特徴とする電子捕獲型検出器。」(以下,「本願発明」という。)

第3 引用刊行物およびその記載事項
本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭56-158940号公報(以下,「引用例」という。)には,「定電流型電子捕獲器」について,図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「この電子捕獲器は,イオン化源としての^(63)Ni線源を内蔵したイオン化室内に電圧を印加した電極を置き,このイオン化室内キヤリヤガスを流すことによりイオン電流を得て,試料によるイオン電流の変化から試料濃度を測定するものであり,これには,定周波数型と定電流型の2種類の型式がある。」(1頁右下欄8?14行)

(1-イ)
「これに対し,定電流型電子捕獲器は,第2図に示すように,イオン化室2に設けられた電極4に一定電流を通電する定電流設定回路28と,該定電流設定回路28と前記電極4との間に接続された比較回路8と,該比較回路に接続された出力回路と,前記電極4にパルス電圧を印加する電圧-周波数変換回路30およびパルス整形回路12を含むパルス電圧発生回路32を含んで構成されている。但し,第1図と対応する部分には同一符号を付しその詳細な説明は省略した。
この電子捕獲器は,予め一定電流を定電源設定回路28(当審注:「定電流設定回路28」の誤記)に設定しておき,この一定電流と,パルス整形回路12からコイル6,6’を介して電極4に印加されるパルス電圧によつて実際に流れるイオン電流とを比較回路8で比較する。そして,この両者が等しくなるように電圧-周波数変換回路30の周波数が変化して,比較回路8の出力が一定になるように比較回路8とパルス電圧回路32とで制御ループが構成されている。従つて,試料がイオン化室に入つてくることにより実際のイオン電流が変化すると,比較回路8の出力を一定にするように周波数が変化する。この周波数の変化を出力回路10でみることにより試料濃度を測定することができる。」(2頁右上欄3行?同頁左下欄6行)
これらの記載事項(1-ア)?(1-イ)と第2図を総合すると,引用例には,次の発明が記載されていると認められる。
「イオン化源としての^(63)Ni線源を内蔵したイオン化室内に電圧を印加した電極を置き,このイオン化室内キャリアガスを流すことによりイオン電流を得て,試料によるイオン電流の変化から試料濃度を測定する定電流型電子捕獲器であって,
イオン化室2に設けられた電極4に一定電流を通電する定電流設定回路28と,該定電流設定回路28と前記電極4との間に接続された比較回路8と,該比較回路に接続された出力回路と,前記電極4にパルス電圧を印加する電圧-周波数変換回路30およびパルス整形回路12を含むパルス電圧発生回路32とを含んで構成されるとともに,
予め一定電流を前記定電流設定回路28に設定しておき,この一定電流と,前記電極4に印加されるパルス電圧によって実際に流れるイオン電流とを比較回路8で比較し,該電流が等しくなるように電圧-周波数変換回路30の周波数が変化して,前記比較回路8の出力が一定になるように前記比較回路8と前記パルス電圧発生回路32とで制御ループが構成され,
試料がイオン化室に入ってくることにより実際のイオン電流が変化すると,比較回路8の出力を一定にするように周波数が変化し,この周波数の変化を出力回路10でみることにより試料濃度を測定することができる定電流型電子捕獲器。」(以下,「引用発明」という。)

第4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・構造からみて,引用発明の「定電流設定回路」,「制御ループ」および「電子捕獲器」は,それぞれ,本願発明の「電流値設定手段」,「パルス制御手段」および「電子捕獲型検出器」に相当することは明らかである。
そして,引用発明において「イオン化源としての^(63)Ni線源」を内蔵した「イオン化室」に「キヤリヤガス」を導入したものが,本願発明の「検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化し,電子を放出させる電子放出手段」に相当するものであるといえる。
また,引用発明の「試料がイオン化室に入ってくることにより実際のイオン電流が変化すると,比較回路8の出力を一定にするように周波数が変化し,この周波数の変化を出力回路10でみる」と,本願発明の「検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数f」と「試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0」を用いて「分析試料の濃度を算出する」とは,「分析試料導入前のパルス電圧周波数f0から検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数fへの周波数変化から試料濃度を算出する」点で共通であるといえる。

そうすると,両者は,

(一致点)
「検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化し,電子を放出させる電子放出手段と,
所定の電流値を設定する電流値設定手段と,
検出セル内に設けられた電極にパルス電圧を印加するとともに,上記電子による電流が前記所定電流値となるようにパルス電圧の周波数を制御するパルス制御手段と,
試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0と,検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数fを用いて分析試料の濃度を算出する濃度算出手段と
を備える電子捕獲型検出器。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点)
本願発明では,「検出セルの初期状態における上記周波数の値f00」と「試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0」とを記憶する周波数記憶手段と,「検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数f」並びに「検出セルの初期状態における上記周波数の値f00」及び「試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0」を用いて分析試料の濃度を算出する「濃度算出手段」を備えているに対し,
引用発明では,そのような「周波数記憶手段」を備えておらず,「試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の周波数の値f0」と「検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数f」を比較して分析試料の濃度を算出する「濃度算出手段」を備えている点。

相違点を検討するに,
本願明細書の段落【0013】の記載によれば,本願発明においては,「周波数の値f00」および「周波数の値f0」を,検出セル内部の汚染等により経時的に変化する検出器の特性を自動的に補正して,常に正しい検出値を算出するために用いている。すなわち,分析試料を注入した後のパルス周波数fの代わりに,周波数記憶手段に記憶されている値f00及びf0を用いて補正した値f1を用いている。

一方,検出装置一般において,「検出装置の製造直後または洗浄を行った直後の検出部が正常な状態と,一定期間使用後における試料分析の際に試料を検出部に導入する前の状態を記憶手段に記憶させたものを利用し,検出部の汚染による経時的に変化する検出器の特性を補正する」ことは,本願出願前に周知であったといえる。
例えば,原査定で周知技術として引用された刊行物である特開平9-34312号公報の段落【0046】には「本実施形態では、さらに、「窓汚れ」に対する補正も行なっている。それは、画像濃度検知手段の検出面の汚れ方をモニターするため、感光ドラムの作像してない領域の反射出力(以下「ドラム面反射出力」と記す)をもって補正を施すものである。つまり、初期設定時の検出面が汚れていない状態での「ドラム面反射出力」を初期のレベルDrum _(INIT)として本体内のメモリに格納し、パッチ画像の読み取りと同様にコピー毎に「ドラム面反射出力」Drum _(cur)を測定する。そしてDrum _(cur) とDrum _(INIT)との比α(窓汚れ係数)をもってコピー毎の基準トナー像の検知出力V_(cur) に補正を施す。ここで窓汚れ係数αは
α=Drum _(cur) / Drum _(INIT) …(3)
により算出し、この値によりV_(cur) を補正する・・・」と記載されており,
また,同様な刊行物である特開平7-287444号公報の段落【0030】および【0031】には「この方法は、先ず前記画像形成装置の出荷時、濃度検知センサPCに汚れや疲労のない状態で、標準電圧で発光ダイオードLEDを発光させ、利得の低い状態(S1をOFF、S2をON)で感光体ドラム31上にトナーの付着しない状態の濃度を検知しこの時の値を初期データとしてメモリ91に記憶させておく。」および「次に、50回コピーが行われる毎に、増幅回路36Aの利得を低くして感光体ドラム31上にトナーの付着しない状態の濃度を検知する。このデータは先に記憶した前記初期データと比較回路92において比較される。検出データが前記初期データより暗い(例えば防塵ガラスなどが汚れている)場合にはCPU90は可変直流電源Veの出力電圧を高くなるよう制御し発光ダイオードLEDの放射光量を増加する。光量を増加した状態で再びトナーの付着しない状態の感光体ドラム31表面の濃度を検知し前記初期データと比較する。検出データが初期データより明るい場合はCPU90は可変直流電源Veを制御して出力電圧を低くし発光ダイオードLEDの放射光量を下げる。これを繰り返して検出データが前記初期データとの差が許容範囲内に入った時の電圧に可変直流電源Veの出力電圧を固定する。この後CPU90は増幅回路36Aの増幅利得を高い状態(S1をON、S2をOFF)にしてテストパッチ像の濃度検出を行う。」と記載されており,
さらに,同様な刊行物である特開平1-213794号公報の【特許請求の範囲】には「煙濃度を検出するために附勢される煙検出用発光素子と、該煙検出用発光素子の発光により生じる煙による散乱光の検出出力と実際の煙濃度との関係の変化を補正するように用いられ、所定の煙濃度に対応する予め決められた光量を発生する試験用発光素子とを含んだ火災現象検出手段からの検出出力により煙濃度を求め、火災異常を判定するようにした汚れ補正機能付き火災警報装置であつて、
初期時において、煙濃度0%/mにおける前記火災現象検出手段の検出出力V0、及び前記試験用発光素子から発光される前記所定の煙濃度D0に相当する前記予め決められた光量に基づく前記火災現象検出手段の検出出力VSを測定する第1の手段と、
任意時点において、煙濃度0%/mにおける前記火災現象検出手段の検出出力V1、及び前記試験用発光素子から発光される前記予め決められた光量に基づく前記火災現象検出手段の検出出力VTを測定する第2の手段と、
該第2の手段により任意時点において測定されたVT及びV1に基づいて、傾きK
K=(D0+ΔDT)/(VT-V1) 但し:ΔDT=α(L-1)
L=(VT-V1)/(VS-V0) αは係数
を求める第3の手段と、
前記火災現象検出手段からの監視状態における検出出力VKに基づいて、煙濃度DK
DK=K×VK あるいは
DK=K×(VK-V1)
を求める第4の手段と、
を備えたことを特徴とする汚れ補正機能付き火災警報装置。」と記載されている。
そして,引用発明において出力回路10より出力される「周波数の変化」を更にA/D変換して処理する構成を付加することに何ら困難性が存在せず,また,引用例の「定電流形電子捕獲器は高感度検出器である反面、汚れに弱い特性があることから常に汚れの程度をモニタする手段の出現が要望されていたにもかかわらず長年の間解決されていなかつた。」(2頁左下欄15?19行)との記載からみて,「測定を繰り返すうちに電極及び検出セル内部が試料で汚れてくると、電流が流れにくくなり、周波数fが増加してくる。このため、同一試料で測定を行なっても測定結果が経時的に変化するという問題が生ずる。」(本願明細書段落【0008】参照。)との課題も本願出願前に一般的に知られていたものであるといえる。
してみると,引用発明に上記周知事項を適用して,相違点における本願発明の構成とすることは,当業者ならば何ら困難性はなく,容易に想到しうる事項であるといえる。
そして,本願明細書に記載された効果も,引用発明および上記周知事項から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものといえない。
したがって,本願発明は,引用発明および上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきである。

第5 まとめ
以上のとおり,本願発明は,本願出願前に頒布された引用例に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,本願は拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-18 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-30 
出願番号 特願平9-287946
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島田 英昭  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 竹中 靖典
信田 昌男
発明の名称 電子捕獲型検出器  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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