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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1213467
審判番号 不服2007-7390  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-12 
確定日 2010-03-12 
事件の表示 特願2003-272680「現像器の電圧供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 38185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月10日(パリ条約による優先権主張2002年7月10日、大韓民国)の出願であって、平成18年8月11日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年10月24日付けで意見書のみが提出され、同年12月1日付けで拒絶査定がなされたものであって、これに対し、平成19年3月12日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、平成20年10月7日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出されたものである。


第2 平成19年3月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年3月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)(これは出願当初のものである)
「【請求項1】電圧を発生させる電圧供給源と,複数の現像器と前記電圧供給源との間に配設され,前記電圧供給源から供給された電圧を複数の前記現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットと,を備えた現像器の電圧供給装置において,
前記電圧供給源は,所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを前記電圧切換ユニットのそれぞれの前記スイッチング素子に印加し,
前記電圧切換ユニットは,前記スイッチング素子に印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して,前記基準電圧と共にそれぞれの前記現像器に供給する電圧分配部を備えることを特徴とする,現像器の電圧供給装置。
【請求項2】?【請求項4】(略)
【請求項5】電圧を発生させる電圧供給源と,複数の現像器と前記電圧供給源との間に配設され,前記電圧供給源から供給された電圧を複数の前記現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットと,を備えた現像器の電圧供給装置において,
前記電圧供給源は,所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを前記電圧切換ユニットのそれぞれの前記スイッチング素子に供給し,
それぞれの前記現像器は,前記現像器に対応するそれぞれの前記スイッチング素子によって印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して,前記基準電圧と共に供給する電圧分配部を備えることを特徴とする,現像器の電圧供給装置。
【請求項6】?【請求項8】(略)」

(補正後)
「【請求項1】電圧を発生させる電圧供給源と,複数の現像器と前記電圧供給源との間に配設され,前記電圧供給源から供給された電圧を複数の前記現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットと,を備えた現像器の電圧供給装置において,
前記電圧供給源は,所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを前記電圧切換ユニットのそれぞれの前記スイッチング素子に印加し,
前記電圧切換ユニットは,前記スイッチング素子それぞれに印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,前記現像器に応じた前記分岐電圧と,前記基準電圧とを共にそれぞれの前記現像器に供給する電圧分配部を備えることを特徴とする,現像器の電圧供給装置。
【請求項2】?【請求項4】(略)
【請求項5】電圧を発生させる電圧供給源と,複数の現像器と前記電圧供給源との間に配設され,前記電圧供給源から供給された電圧を複数の前記現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットと,を備えた現像器の電圧供給装置において,
前記電圧供給源は,所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを前記電圧切換ユニットのそれぞれの前記スイッチング素子に供給し,
それぞれの前記現像器は,前記現像器に対応するそれぞれの前記スイッチング素子によって印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,前記現像器に応じた前記分岐電圧と,前記基準電圧とを共に供給する電圧分配部を備えることを特徴とする,現像器の電圧供給装置。
【請求項6】?【請求項8】(略)」

この補正事項は、補正前の請求項1について、補正前の「前記スイッチング素子に印加された基準電圧」を「前記スイッチング素子それぞれに印加された基準電圧」と変更したもので、「それぞれ」を付加して基準電圧を印加する対象を限定したものということができ、また、補正前の「異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して,前記基準電圧と共に供給する」を「異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,前記現像器に応じた前記分岐電圧と,前記基準電圧とを共に供給する」と変更し、基準電圧と共に供給する電圧を限定したものと一応いうことができる。また、請求項5についても、請求項1と同様の、基準電圧と共に供給する電圧を限定する補正がなされている。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項5に記載された発明(以下、「本願補正発明5」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開2002-82504号公報(平成14年3月22日公開。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(1a)「【請求項3】それぞれ表面に静電潜像が形成され、並設された複数の像担持体と、前記複数の像担持体上にそれぞれ所定の色トナー像を形成する複数の現像手段と、前記複数の像担持体のそれぞれに転写材を搬送するように循環移動する搬送手段と、前記搬送手段により像担持体に搬送された転写材に像担持体上の色トナー像を順次重ね転写する複数の転写手段と、前記転写材上に転写されたトナー像を熱定着する定着手段とを備えたタンデム型の多色画像形成装置であって、前記複数の現像手段に用いる各色トナーは、シリコーンオイルを含有しており、前記並設された複数の像担持体のうち、上流側に配置された像担持体の静電潜像を現像する現像手段に用いる色トナーのシリコーンオイル含有量は、下流側に配置された像担持体の静電潜像を現像する現像手段に用いる色トナーのシリコーンオイル含有量よりも多いことを特徴とする多色画像形成装置。」

(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、プリンター、ファクシミリ、複写機など、電子写真方式によって用紙や樹脂フィルムに画像を記録する多色画像形成方法及び多色画像形成装置に係り、(以下、略)」

(1c)「【【0027】図1に示すように、このカラー画像形成装置(本体装置)30は、その後面(図の左方)に開閉トレー31を備え、下部には本体装置前方(図の右方)から着脱自在な用紙カセット32を備えている。用紙カセット32には、多枚数の用紙が載置・収容されている。
【0028】本体装置30は、その上面に上蓋33を備えている。上蓋33の前部側方には図では示されていないが、電源スイッチ、液晶表示装置、複数の入力キー等が配設されている。上蓋33は、その後部が本体装置30の後部上面とともに排紙トレー34を形成している。
【0029】本体装置30の内部には、略中央に、偏平なループ状の用紙搬送ベルト(以下、単にベルトという)35が前後に延在して配置され、そのループの水平方向の両端部を駆動ローラ36と従動ローラ37に保持されている。このベルト35は、駆動ローラ36により駆動され、図の矢印Rで示す反時計回り方向に循環移動する。このベルト35の上循環部に沿って、4個の感光体ドラム38(38a、38b、38c、38d)が、用紙搬送方向(図の右から左方向)に多段式に並設されている。
【0030】これらの感光体ドラム38(38a、38b、38c、38d)を各々取り囲むようにして(以下、代表的に感光体ドラム38dの周囲装置についてのみ符号を付して示す)、クリーナ41、初期化帯電ローラ42、書込ヘッド43、及び現像器44(44d)が配置されている。また、接触型のシート転写器39が、ベルト35を介して感光体ドラム38に圧接して転写部を形成している。なお、感光体ドラム38a、38b、38cに対しては、それぞれ現像器44a、44b、44cが配置されている。
【0031】現像器(現像ホッパー)44(44d)は、その下部開口部に回転可能に支持された現像ローラ45を備えている。この現像ローラ45は、感光体ドラム38周面に当接して、現像部を形成している。書込ヘッド43は、上蓋33の裏面に支持部材46を介して配設されており、上蓋33の開閉に伴って円弧を描いて昇降し、上蓋33の閉成により降下して、初期化帯電ローラ42と現像ローラ45との間に位置決めされて、記録部を形成している。
【0032】ベルト35の上循環部の上流側端部には、吸着ローラ47が、ベルト35を介して従動ローラ37に圧接され、ここに用紙搬入部を形成している。吸着ローラ47は、用紙搬入部に搬入されてくる用紙に吸着バイアスを印加しながらベルト35を押圧し、ベルト35に用紙を静電的に吸着させる。
【0033】上記用紙搬送方向最上流の感光体ドラム38aに対する現像器44aから感光体ドラム38dに対応する現像器44dまでの各現像器には、減法混色の三原色であるM(マゼンタ)、C(シアン)、Y(イエロー)、Bk(ブラック)の各色トナーがそれぞれ収容されている。これら各色トナーは、いずれもシリコーンオイルを含有しており、また、下流側の現像器に収容されるトナーのシリコーンオイル含有量よりも、上流側の現像器に収容されるトナーのシリコーンオイル含有量が高くなるように調整されている。
【0034】?【0036】(略)
【0037】ベルト35と用紙カセット32の間には、回路基板を装着可能な電装部58が配設され、その回路基板には複数の電子部品からなる制御装置が搭載されている。
【0038】制御装置は、コントローラ部とエンジン部からなり、コントローラ部はCPU(中央演算処理装置)、ROM(読出し専用メモリ)、EEPROM(再書込み可能な読出し用メモリ)、フレームメモリ、イメージデータ転送回路等を備えていて、ホストコンピュータ等から入力される印刷データを解析し、印字用データを作成してエンジン部に転送する。
【0039】エンジン部は、CPUやROM等を備え、その入力側にはコントローラ部からのデータや指令信号、温度センサの出力、用紙検知センサの出力等が入力され、出力側には不図示のモータを駆動するモータドライバ、そのモータの駆動を各部に伝達する駆動系を切り替えるクラッチドライバ、書込ヘッド43を上記印字用データに基づいて駆動する印字ドライバ、初期化帯電ローラ42、現像ローラ45、転写器、吸着ローラ47、後述するトナー供給ローラ、ドクターブレード、現像部掬いシート等に所定のバイアス電圧を供給するバイアス電源ドライバ等が接続されている。エンジン部は、コントローラ部からのデータや指令信号、温度センサの出力、用紙検知センサの出力等に基づいて各部を駆動制御する。」

(1d)「【0040】次に、以上説明したカラー画像形成装置30の基本的な動作について説明する。先ず、電源が投入され、使用する用紙の紙質、枚数、印字モード、その他の指定がキー入力あるいは接続するホスト機器からの信号として入力されると、図示しない駆動機構により給紙コロ52が一回転して、用紙カセット32に載置収容されている用紙を給送ロール対51を介して待機ロール対48へ給送する。待機ロール対48は、回転を一時停止して、一対のローラで形成される挟持部に用紙先端を当接させた状態で、搬送タイミングを待機する。
【0041】続いて、駆動ローラ36が反時計回り方向に回転し、従動ローラ37が従動して、同じく反時計回り方向に回転する。これにより、ベルト35は、上循環部が4個の感光体ドラム38a、38b、38c、38dに当接して、全体が反時計回り方向へ循環移動する。
【0042】これと共に、各現像器44a、44b、44c、44d及び感光体ドラム38a、38b、38c、38dが印字タイミングに合わせて順次駆動される。感光体ドラム38は時計回り方向に回転し、初期化帯電ローラ42は、感光体ドラム38周面に一様な高マイナス電荷を付与し、書込ヘッド42は、その感光体ドラム38周面に画像信号に応じて露光を行って、低電位部を形成する。これにより、上記初期化による高マイナス電位部と、露光による低マイナス電位部からなる静電潜像が形成される。現像器44の現像ローラ45は、その静電潜像の低電位部にトナーを転移させて、感光体ドラム38周面上にトナー像を形成(反転現像)する。
【0043】?【0047】(略)」

(1e)「【0048】図2は、上記現像器44の主要部を模式的に示す側断面図である。同図に示す現像器44は、カラー画像形成装置30に着脱自在であり、ドラムユニットとともに一つの画像形成ユニットを構成する現像ユニットとされている。現像器44は、トナーホッパーを兼ねる匡体61を備え、その匡体61の下部開口に導電性ゴムローラからなる現像ローラ45を回転可能に保持し、匡体61の内部には、トナー62を収容し、このトナー62に埋没するように配設されたトナー攪拌部材63を備えている。
【0049】また、現像器44の最下部には、スポンジ体から成る供給ローラ64が現像ローラ45に圧接して配置されている。現像ローラ45には、その斜め右上周面に圧接して金属製の板バネ状のドクターブレード65が配設され、下部周面に当接して現像部掬いシート(導電性規制シート)66が配設されている。この現像部掬いシート66には、バイアス電源71を含む後述する導電性規制シートバイアス手段が設けられている。ドクターブレード65の両側部には、匡体61開口部の内部と外部を隔絶してトナー62の漏出を防止するための封止部材67が配設されている。
【0050】?【0052】(略)
【0053】このような問題を抱えている現像器44において、本発明の一実施形態においては、先ず、現像ローラ45を、芯金とこの芯金を取り巻く円筒状の半導電性(10^(6)Ωcm)のウレタンゴムとで形成し、芯金には「-250V」の現像バイアスをバイアス電源68から印加する。また、現像ローラ45の表面には、上述したように、所定量のシリコーンオイルが塗布されている。
【0054】また、供給ローラ64を、芯金とこの芯金を取り巻く円筒状の半導電性(10^(6)Ωcm)のウレタンスポンジとで構成し、芯金には「-500V」の供給バイアスをバイアス電源69から印加する。
【0055】更に、ドクターブレード65を弾性金属板で形成し、このドクターブレード65にも上記バイアス電源69から「-500V」のドクターバイアスを印加する。そして、供給ローラ64の上流側に位置する現像部掬いシート66を導電性部材(10^(3)Ωcm)で構成して、これに0V(0ボルト)から現像ローラ45の現像バイアス電圧までの範囲のシートバイアス電圧をバイアス電源71により印加するようにしている。
【0056】このように、現像部掬いシート66を導電性部材で構成して、これに0Vから現像ローラ45の現像バイアス電圧までの範囲のシートバイアス電圧を印加するのは、現像ローラ45上に付着するトナー62の電荷を減少させるためである。これにより、供給ローラ64による弱い摺擦力によっても、容易に現像ローラ45上に付着して戻ってきた非現像部分のトナーを掻き取ることができるようにしている。
【0057】なお、図2に示す現像器44においては、便宜上、上記現像ローラ45への現像バイアス電圧の印加をバイアス電源68により行い、上記現像部掬いシート66へのシートバイアス電圧の印加をバイアス電源71により個別に行う例で説明しているが、電源はこのように個別に設ける必要はない。すなわち、本発明における実際の現像ユニット構成では、例えばユニット内に抵抗素子を含む分圧回路を備え、装置本体の共通バイアス電源により現像ローラ45と現像部掬いシート66の各々に分圧されたバイアス電圧を印加するようにしている。」

(1f)図2は、以下のとおりである。



(1g)【0053】?【0056】の記載、図2の記載もあわせると、【0057】後半に記載のバイアス電源を個別に設けない態様においても、明記はないものの、【0053】?【0056】、図2に記載のものと同様に、バイアス電圧を、現像ローラ45では「-250V」、現像部掬いシート66では「0?-250V」、供給ローラ64では「-500V」、ドクターブレード65では「-500V」とするものと理解される。
また、【0057】後半の記載の態様は、現像ローラ45と現像部掬いシート66は「現像ユニット内の分圧回路」により各々に分圧されてバイアス電圧が印加されているが、供給ローラ64とドクターブレード65へのバイアス電圧印加には「現像ユニット内の分圧回路」が介在していない可能性があり、供給ローラ64とドクターブレード65へのバイアス電圧の供給源として、図2のような専用電源を設けることもあり得る。
これらの点も考慮すると、【0057】後半の記載内容(バイアス電源を個別に設けない態様)は、装置本体の共通バイアス電源、現像ユニット内の分圧回路、その他の専用電源(設けた場合)を含めて、全体として「現像器の電圧供給手段」と表現することができる。なお、【0057】の「装置本体」とは、「カラー画像形成装置本体」を指していることは明らかである。

これら記載(特に【0057】後半の記載)によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「カラー画像形成装置本体に共通バイアス電源を備え、カラー画像形成装置本体に着脱自在で、ドラムユニットとともに一つの画像形成ユニットを構成する現像ユニットとされた、各色毎に複数設けられた現像器に対して電圧を供給する、現像器の電圧供給手段において、
供給ローラとドクターブレードに所定のバイアス電圧を印加するとともに、現像ユニット内に抵抗素子を含む分圧回路を備え、カラー画像形成装置本体の共通バイアス電源により現像ローラと現像部掬いシートの各々に分圧されたバイアス電圧を印加する、
現像器の電圧供給手段。」

(2)刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開2000-206767号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、像担持体の周囲に複数の帯電装置とカラー現像器を配置し、像担持体1回の通過でカラー画像を形成するカラー画像形成装置に関する。」

(2b)「【0017】前記の各帯電器201は、図5に示したようなスコロトロン帯電器であって、帯電電極201Wには形成する画像の色構成に応じてそれぞれに設けたワイヤ電源H・V1よりコロナワイヤ電圧が印加され、一方帯電極グリッド201Gには形成する画像の色構成に応ずると共に不使用時には対面するベルト感光体100の電位に応じて各帯電器に共通して設けたグリッド電源H・V2よりグリッド電圧が印加される。グリッド電圧としては例えば-800V、コロナワイヤ電圧としては例えば-3?-6kVの電圧が印加される。
【0018】図2は各帯電器201の帯電極グリッド201Gと前記のグリッド電源H・V2との回路構成を示したもので、グリッド電源H・V2はメインスイッチMSを介して各帯電器201の帯電極グリッド201Gを並列に接続し、それぞれに設けた帯電用スイッチSの作動によりそれぞれの帯電極グリッド201Gを電気的にフローティングの状態からグリッド電圧印加の状態に切替えることが出来るようになっている。
【0019】前記の各帯電用スイッチSの作動と前記のグリッド電源H・V2より供給されるグリッド電圧の電位は装置の備える画像形成制御部によって制御される。」

(2c)図2は、以下のとおりである。


(2d)「【0023】先ず画像形成がスタートすると、制御部10は読取り装置又はコンピュータ等から画像データをカラー画像データ部11より制御部10内のメモリRAMに入力させる(S21)。制御部10は上記画像データよりどの色が使用されるか指定色を判別する(S22)。次に上記指定色判別によるか、又はユーザが指定色キー12を用いた指定により、指定色の画像形成に必要な画像形成作動プログラムをROM13より呼び出し、メモリRAMに入力して指定カラー設定が行われる(S23)。
【0024】指定カラーの設定後、各帯電器201の帯電極グリッド201Gに対する前記の帯電条件のプログラムをROM14から呼び出しメモリRAMに入力して帯電極グリッド201Gの帯電条件の設定が行われる(S23′)。
【0025】ROM14にメモリされる帯電極グリッド201Gへの帯電用スイッチSの作動には、次の作動プログラムが用意されている。
【0026】(1)(当審注:公報ではいわゆる丸数字であるが、ここでは(1)と摘記した。以下、同様。)一番上流に位置したY画像を形成するとき、S(Y)a(接続)、S(M)a(接続)、S(C)a(接続)、S(K)a(接続)
(2)一番上流に位置したY画像は形成しないで、次に上流のM画像を形成するとき、S(Y)b(フロート)、S(M)a(接続)、S(C)a(接続)、S(K)a(接続)
(3)一番上流と次に上流のY,M画像を形成しないでC画像を形成するとき、S(Y)b(フロート)、S(M)b(フロート)、S(C)a(接続)、S(K)a(接続)
(4)上流のY,M,C画像を形成しないでK画像のみを形成するとき、S(Y)b(フロート)、S(M)b(フロート)、S(C)b(フロート)、S(K)a(接続)
(1)?(4)のグリッド帯電モードが用意されていて、設定された指定カラーに基づいて該当するグリッド帯電モードが呼出されてセットされる。」

3.本願補正発明5と刊行物1記載の発明との対比・判断
そこで、本願補正発明5と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明のカラー画像形成装置本体に備えた「共通バイアス電源」と、本願補正発明5の「電圧を発生させる電圧供給源」とは、「現像器でバイアス電圧を印加する構成要素のうち少なくとも一部の構成要素に対する電圧供給源」である点では、共通する。
また、刊行物1記載の発明の「カラー画像形成装置本体に着脱自在で、ドラムユニットとともに一つの画像形成ユニットを構成する現像ユニットとされた、各色毎に複数設けられた現像器」は、本願補正発明5の「複数の現像器」に相当する。
刊行物1記載の発明の「現像器の電圧供給手段」は、画像形成装置全体からみれば、現像器の電圧供給装置と言い換えることも可能ではあるので、概念的には、本願補正発明5の「現像器の電圧供給装置」に相当する。
そして、刊行物1記載の発明の「現像ユニット内に抵抗素子を含む分圧回路を備え、カラー画像形成装置本体の共通バイアス電源により現像ローラと現像部掬いシートの各々に分圧されたバイアス電圧を印加する」と、本願補正発明5の「それぞれの前記現像器は,前記現像器に対応するそれぞれの前記スイッチング素子によって印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,前記現像器に応じた前記分岐電圧と,前記基準電圧とを共に供給する電圧分配部を備える」とは、「それぞれの現像器は、少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して現像器に供給する電圧分配部を備える」点では共通するということができる。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「現像器でバイアス電圧を印加する構成要素のうち少なくとも一部の構成要素に対する電圧供給源を備えた、現像器の電圧供給装置において、
それぞれの現像器は、少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して現像器に供給する電圧分配部を備えた、現像器の電圧供給装置。」

[相違点1]
本願補正発明5では、複数の現像器と電圧供給源との間に配設され,電圧供給源から供給された電圧を複数の現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットを備えたのに対し、
刊行物1記載の発明では、そのような電圧切換ユニットの有無が不明である点。

[相違点2]
本願補正発明5では、電圧を発生させる電圧供給源は、所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを供給し,それぞれの現像器は,現像器に対応するそれぞれの基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,現像器に応じた分岐電圧と,基準電圧とを共に供給する電圧分配部を備えるのに対し、
刊行物1記載の発明では、カラー画像形成装置本体に共通バイアス電源を備え、供給ローラとドクターブレードに所定のバイアス電圧を印加するとともに、現像ユニット内に抵抗素子を含む分圧回路を備え、カラー画像形成装置本体の共通バイアス電源により現像ローラと現像部掬いシートの各々に分圧されたバイアス電圧を印加する点。

次に、上記相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2には、共通のグリッド電源と複数の帯電器の間に複数の帯電用スイッチを介在させている技術が記載されており、共通の電圧供給源から複数の装置に対して電圧印加を行うために、複数のスイッチング素子を共通の電圧供給源と複数の装置との間に介在させ、各装置に対する電圧印加のオン/オフを切り換える技術は、本願優先日前、公知であったということができる。
また、刊行物2以外にも、共通電源と複数の現像器との間に複数のスイッチを介在させるものとして、例えば、特開平8-234526号公報、特開昭61-166558号公報(第4図、第8図、第5頁左上欄、第7頁左下欄。第8図では、現像装置に応じて供給出力も変化させている。)、特開平8-62924号公報(図4(b)、【0042】【0043】。これは、カラー画像形成、モノクロ画像形成によって、印加する現像器を変更している。)などがあり、周知の技術であるといってもよい。

そして、上記複数のスイッチの介在を、それらスイッチを有する電圧切換ユニットとして具現化することは、当業者ならば適宜なし得る程度のことであり、
また、各装置(例えば各現像器)に対する電圧印加のオン/オフの切り換えをどのようにするかは、上記例示文献にもいくつか記載されているが、各装置の使い方等に応じて当業者が適宜設定する事項である。

そうすると、刊行物1記載の発明において、各色毎に複数設けられた現像器に対して電圧を供給するために、刊行物2記載の技術や周知技術を適用して、相違点1に係る本願補正発明5のごとく、複数の現像器と電圧供給源との間に配設され,電圧供給源から供給された電圧を複数の現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットを備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
一般に、画像形成装置を構成する2つの装置に対する電圧印加の手法として、共通する電源から、まず一方の装置に所定の電圧(これが、本願補正発明でいう「基準電圧」に相当する。)を印加し、その後、その電圧を分圧回路で分圧して、他方の装置に分圧された電圧(これが、本願補正発明5でいう「分岐電圧」に相当する。)を印加することは、本願優先日前、周知の技術である。
例えば、特開平3-194571号公報(公報第5頁の第2実施例、第6?9図)のものは、現像バイアス電源から、現像スリーブに現像バイアス電圧が印加されるとともに、その現像バイアス電圧は、バイアス回路により分圧されて、分圧された電圧が塗布ローラに印加されるものである。
特開2002-72639号公報のものは、現像バイアス供給手段(電源)から現像ロールに供給される現像バイアスのうち少なくとも交流電圧を、分圧回路により分圧して、分圧された電圧を層圧規制手段(ブレード)に供給するものである。
実願昭60-13755号(実開昭61-130952号)のマイクロフィルムのものは、まず高圧電源から帯電器に電圧を印加し、その電圧を分圧回路により分圧して、分圧された電圧を現像機にバイアス電圧として印加するものである。
実願平1-46491号(実開平2-136264号)のマイクロフィルムのものは、高圧電源の電圧を分圧回路で分圧して、現像ローラ、供給ローラに電圧を供給するものであり、分圧回路(第2図)をみると現像ローラには基準電圧が印加されるものと考えられる。また、高圧電源は、複写機本体側に固定されており、現像器ユニットを装着すると、現像器側の電気端子に接続され、現像器側に設けられた分圧回路により分圧される実施例が記載されている。別の実施例では、分圧回路が、高圧電源が固定されている複写機本体側に設けられたものも記載されている。
特開2000-321853号公報(請求項16,17,20、【0093】【0100】【0101】、図7など)のものは、電源から現像スリープに印加する現像バイアスを、分圧回路により分圧して、分圧された電圧を現像ブレードに印加するものである。また、現像電源8は、画像形成装置本体側に設置されており、現像カートリッジを画像形成装置本体に装着すると、現像カートリッジの電源供給部10を現像電源8に接続するようにしてあり、電源供給部10は現像スリーブに接続されている。また、現像装置を感光ドラムと一体にして、画像形成装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジに構成してもよいものである。
そして、上記の例示文献のうち、特に最後の2文献からすると、『現像電源を画像形成装置本体に設置し、画像形成装置本体に着脱可能な、少なくとも現像器を含むユニット(カートリッジ)における電気接続部を介して、現像スリープ(現像ローラ)に現像バイアスを供給するとともに、分圧して、現像器の他の要素(供給ローラ、現像ブレード)に分圧された電圧を供給すること』までもが、本願優先日前に周知の技術であったことが理解される。

ここで、刊行物1に記載された技術内容を確認すると、
刊行物1の【0053】?【0056】の記載、図2の記載もあわせると、【0057】後半に記載のバイアス電源を個別に設けない態様(刊行物1記載の発明を認定した態様)においても、明記はないものの、バイアス電圧を、現像ローラ45では「-250V」、現像部掬いシート66では「0?-250V」、供給ローラ64では「-500V」、ドクターブレード65では「-500V」とするものと理解される。
そして、刊行物1の【0057】後半の記載において、現像ローラ45と現像部掬いシート66は「現像ユニット内の分圧回路」により各々に分圧されてバイアス電圧が印加されているが、供給ローラ64とドクターブレード65へのバイアス電圧印加には「現像ユニット内の分圧回路」が介在していない可能性があり、供給ローラ64とドクターブレード65へのバイアス電圧の供給源として、そのための専用電源を設けることもあり得る。
しかし、そうであっても、上記の周知技術を考慮すると、刊行物1記載の発明において、供給ローラ64とドクターブレード65へのバイアス電圧の供給源として、現像ローラ45と現像部掬いシート66と同様に、「カラー画像形成装置本体の共通バイアス電源」を利用することが、その設計において有力な選択肢であることは間違いないことである。具体的に言えば、現像器を含む各画像形成ユニットがカラー画像形成装置本体に装着されると、「カラー画像形成装置本体の共通バイアス電源」が各画像形成ユニットの「電圧印加手段」又は各現像ユニット(現像器)の「電圧印加手段」に接続され、その後、各「電圧印加手段」により、供給ローラ64とドクターブレード65に対してバイアス電圧(各-500V)が印加されるとともに、現像ローラ45と現像部掬いシート66に対しては「現像ユニット内の分圧回路」が介在して各々に分圧されてバイアス電圧(それぞれ-250V、0?-250V)が印加されるようにすることが可能である。このとき、供給ローラ64とドクターブレード65に対して印加されるバイアス電圧(各-500V)が本願補正発明5の「基準電圧」に相当し、また、現像ローラ45と現像部掬いシート66に対して「現像ユニット内の分圧回路」を介して各々に分圧されたバイアス電圧(それぞれ-250V、0?-250V)が本願補正発明5の「分岐電圧」に相当するものとなる。

そうしてみると、刊行物1記載の発明において、上記周知技術を応用して、相違点2に係る本願補正発明5のごとく、電圧を発生させる電圧供給源は、所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを供給し,それぞれの現像器は,現像器に対応するそれぞれの基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,現像器に応じた分岐電圧と,基準電圧とを共に供給する電圧分配部を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

なお、本願の明細書【0057】【0058】に、基準電圧を分岐電圧に増幅するという記載があるので、一応言及すると、そのようなことは、必要に応じて分圧電圧を増幅器で増幅すればよい程度のことである。必要ならば、特開2001-188619号公報、特開平2-99871号公報、特開平4-199186号公報を参照。

そして、上記では相違点1,2を個々に検討したが、相違点1,2相互の関係を含めて全体としてみても、刊行物1記載の発明において、相違点1,2の検討で示した刊行物2記載の技術や周知技術を応用して、本願補正発明5の如くなすことには、格別の困難性がない。
また、本願補正発明5によってもたらされる効果も、刊行物1,2に記載された事項、及び周知技術から当業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明5は、刊行物1,2記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願の請求項5に係る発明
平成19年3月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項5に係る発明(以下、「本願発明5」という。)は、次のとおりである。

「【請求項5】電圧を発生させる電圧供給源と,複数の現像器と前記電圧供給源との間に配設され,前記電圧供給源から供給された電圧を複数の前記現像器に順次に供給するよう配設された複数のスイッチング素子を有する電圧切換ユニットと,を備えた現像器の電圧供給装置において,
前記電圧供給源は,所定の電圧レベルを有する基準電圧だけを前記電圧切換ユニットのそれぞれの前記スイッチング素子に供給し,
それぞれの前記現像器は,前記現像器に対応するそれぞれの前記スイッチング素子によって印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧して,前記基準電圧と共に供給する電圧分配部を備えることを特徴とする,現像器の電圧供給装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-82504号公報(上記「刊行物1」)、特開2000-206767号公報(上記「刊行物2」)の記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明5は、本願補正発明5の「それぞれの前記現像器は,前記現像器に対応するそれぞれの前記スイッチング素子によって印加された基準電圧を,異なる電圧レベルを有する少なくとも1以上の分岐電圧に分圧し,前記現像器に応じた前記分岐電圧と,前記基準電圧とを共に供給する電圧分配部を備える」から、「前記現像器に応じた前記分岐電圧と,」という限定事項を省いたものに実質的に相当する。

そうすると、本願発明5の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明5が上記「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1,2記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明5も、同様の理由により、刊行物1,2記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-04 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-25 
出願番号 特願2003-272680(P2003-272680)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 泰典佐々木 創太郎  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 大森 伸一
山下 喜代治
発明の名称 現像器の電圧供給装置  
代理人 亀谷 美明  

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