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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1213681
審判番号 不服2007-19551  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-12 
確定日 2010-03-18 
事件の表示 特願2004- 25870「遊技機、シミュレーションプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-211593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一.手続の経緯
本願は、平成16年2月2日の出願であって、拒絶理由通知に対応して平成19年3月26日に手続補正書が提出され、その後なされた拒絶査定に対し、同年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月9日に手続補正がなされたものである。
また、当審において、平成21年9月4日付けで審査官による前置報告書の内容を添付して審尋を行ったが、請求人からの回答はなかった。

第二.平成19年8月9日付の手続補正書についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年8月9日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。
「所定の始動条件が成立したときに、遊技者に有利な特定遊技状態への移行の判定を行う特定遊技状態判定手段と、前記特定遊技状態判定手段による判定結果に基づいて、識別情報の可変表示を実行させるための可変表示パターンを決定する可変表示パターン決定手段と、前記可変表示パターン決定手段により決定された可変表示パターンに基づいて、識別情報の可変表示を行うとともに、識別情報の可変表示動作中に第1の背景画像を表示する可変表示手段と、前記可変表示手段を制御する表示制御手段と、前記第1の背景画像の表示のための第1背景画像データを複数種類記憶する背景画像記憶手段とを有する遊技機であって、
前記表示制御手段は、前記可変表示パターン決定手段により特定の可変表示パターンが決定されたとき、当該特定の可変表示パターンに基づいて、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像の表示を行わせた後、第2の背景画像の表示を行わせ、前記第2の背景画像を表示した状態で前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる一方、前記特定の可変表示パターンでない可変表示パターンにおいては、識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像を表示させ、前記第1の背景画像を表示した状態で、前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる演出表示制御手段と、
所定の背景画像選択条件が成立したときに、前記背景画像記憶手段に記憶されている複数種類の前記第1背景画像データのうち、いずれかの前記第1背景画像データを選択する背景画像データ選択手段と、
前記演出表示制御手段により、前記可変表示手段において、前記第2の背景画像の表示が行われた後、前記背景画像データ選択手段により選択された第1背景画像データに基づいて、第1の背景画像の表示を行わせる背景画像表示制御手段とを有することを特徴とする遊技機。」(以下「本願補正発明」という。)
(下線部は補正によって変更又は追加された箇所)

2.補正要件(目的)の検討
請求項1についての補正は、発明を特定するために必要な事項である「演出表示制御手段」における、「特定の可変表示パターンが決定されたとき」という条件において、「前記第2の背景画像を表示した状態で前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる」点を付加し、「前記特定の可変表示パターンでない可変表示パターン」についても「識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像を表示させ、前記第1の背景画像を表示した状態で、前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる」点を付加して、下位概念化したものであるから、請求の範囲の減縮を目的とする補正に相当する。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に該当する。

3.補正要件(独立特許要件:特許法第29条第2項)の検討
(1)引用刊行物記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002?239128号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、
【0031】「通常画面」とは、遊技の大当たりを予告する予告画面としてのリーチ画面及び大当たり時の大当たり演出画面を除く全ての画面を意味する。また、変動表示されていた識別情報が一旦停止した後、再び識別情報が変動表示されてリーチや大当たりに至るまでの間に表示される演出画面をも含む概念である。さらに、表示部においてなされる可変表示ゲームの遊技結果がはずれとなるときに表示される画面も含む概念である。「リーチ」とは、リーチ状態が始まったことをいい、「リーチ状態」とは、リーチとなっているありさまをいい、リーチとなってから全ての変動図柄が停止するまでの期間のありさまをいう。「第一の物語」とは、通常背景画像において展開される物語をいい、「第二の物語」とは、特殊背景画像領域において展開される物語をいう。「第一の物語」や「第二の物語」が展開されるとは、「第一の物語」や「第二の物語」が、様々なバリエーションを含む内容で進行していくことをいう。
【0049】上述した入出力バス64には、ROM(リード・オンリー・メモリ)68及びRAM(ランダム・アクセス・メモリ)70も接続されている。ROM68は、パチンコ遊技装置の遊技全体の流れを制御する制御プログラムを記憶する。さらに、ROM68は、表示装置32において可変表示ゲームが実行される際に、変動表示や停止表示される変動図柄の画像データ、該変動図柄を装飾する装飾体からなる識別情報キャラクタ画像データ、演出画面として表示される動体物からなるキャラクタ画像データ、表示装置32の背景を構成する背景画像データ及び動画映像画像データ、並びに、遊技に用いる音データ、制御プログラムを実行するための初期データや、装飾ランプ36の点滅動作パターンを制御するプログラム等を記憶する。
【0053】制御部であるCPU66は、所定のプログラムを呼び出して実行することにより演算処理を行い、この演算処理の結果に基づいて装飾体からなる識別情報装飾キャラクタ画像、動体物からなるキャラクタ画像データ、背景画像データ、動画映像画像データ及び変動図柄画像データ、並びに、音データを電子データとして伝送その他の制御を行うのである。
【0054】また、CPU66は、上述した識別情報である変動図柄の画像データを読み出して、表示装置32において図柄が変動表示されるように制御したり、複数の識別情報である図柄の相互の組み合わせ状態が表示装置32において所定のタイミングで停止表示されるように制御するのである。
【0055】さらに、入出力バス64には、インターフェイス回路群72も接続されている。インターフェイス回路群72には、表示装置32、スピーカ46、発射モータ28、ソレノイド48、保留ランプ34及び装飾ランプ36が接続されており、インターフェイス回路群72は、CPU66における演算処理の結果に応じて上述した装置の各々を制御すべく駆動信号や駆動電力を供給する。
【0056】表示部である表示装置32の画面画像は、変動図柄が表示される識別画像と演出画面が表示される演出画像とからなり、CPU66の制御によりこれらの2つの画像を重ね合わせて合成することにより、一つの画像として表示する。
【0057】このように複数の画像、例えば、図柄画像と演出画像とを重ね合わせて合成することによりに、演出画像を背景として、図柄が変動するシーンを演出することができ、多彩な表示形態が可能となるのである。
【0063】次に、始動口に遊技球が入ったか否かを判断する(ステップS13)。この始動は、例えば、上述した図2に示した例においては、始動口44である。このステップS13において、始動口に遊技球が入ったと判別したときには、後述する可変表示ゲームを実行する(ステップS14)。
【0066】図5は、上述したステップS14において呼び出されて実行される可変表示ゲーム処理をおこなうサブルーチンを示すフローチャートであり、図6は、上記可変表示ゲームのなかでリーチになった後、変動図柄が全て停止するまでの処理を表すフローチャートである。また、図7(a)?(c)は、通常画面において表示される画像の一例を示す説明図であり、図8(a)?(c)は、リーチ前及びリーチとなった後に、画面に表示される画像の一例を示す説明図である。
【0067】本サブルーチンが呼び出されることにより、表示装置32において表示されていた固定画面を通常画面へと切り替え、可変表示ゲームを開始するのである。ここで、可変表示ゲームは、スロットマシンにおいてなされる遊技を模したゲームであり、複数の識別情報である複数の図柄を表示装置32に表示し、その各々が変動するように表示した後、所定のタイミングでこれらの図柄が順次停止するように表示し、全ての図柄が停止したときにおける図柄の組み合わせが所定の組み合わせとなったときに、パチンコ遊技を遊技者に有利な状態に移行するためのゲームであり、この変動表示と停止表示とを1つの行程として実行されるゲームである。
【0074】複数の組に属する図柄を変動表示した後、変動表示されていた全ての図柄を所定のタイミングで停止表示した際に、これらの図柄の組み合わせが所定の組み合わせに合致して停止表示されたときには、可変表示ゲームが大当たりに当選したとしてパチンコ遊技が遊技者に有利になるような状態に移行する。
【0076】また、この可変表示ゲームが実行されている際には、背景画像やキャラクタ画像等による演出画面も表示装置32に表示される。なお、上述した固定画面とは、表示装置32において実行される可変表示ゲームは実行されておらず、パチンコ遊技装置10においてパチンコ遊技のみが進行している際に表示装置32に表示される画面をいう。
【0077】また、通常画面とは、表示装置32において可変表示ゲームが開始され表示装置32に表示される図柄が変動表示されてから、可変表示ゲームがリーチとなったり、大当たりとなるまでの間に、表示装置32に表示される演出画面をいう。
【0078】なお、1つの組に属する図柄、例えば、左側の図柄が「7」で停止表示され、続いて、他の組に属する図柄、例えば、右側の図柄も「7」で停止表示されたときは、2つの組が「7」-「7」の組み合わせとなっており、他の一組の図柄が「7」で停止表示された際には、大当たりとなるため、リーチとなり、上述したように、通常画面とは異なる画面が表示され、リーチ前と異なる物語が展開される。上記特許請求の範囲に記載したように、本明細書では、このリーチ前に展開される物語を第一の物語といい、リーチ後に展開される物語を第二の物語という。
【0079】上述した可変表示ゲームが開始されると、まず、CPU66の演算処理による内部抽選処理を実行する(ステップS200)。この内部抽選処理は、変動表示されていた複数の組に属する図柄を全て停止表示させて図柄が確定したときにおける図柄の組み合わせを予め定める処理であり、CPU66は、後述するように、内部抽選処理により定められた図柄の組み合わせで図柄が停止表示されるように図柄の変動表示と停止表示との処理を行うのである。
【0080】次に、選択された背景画像の画面構成情報がRAM70に生成される(ステップS201)。即ち、上記内部抽選処理が実行された後、CPU66によって、内部抽選処理の結果や、可変表示ゲームの進行状況等に応じて、背景画像を選択する制御プログラムが、ROM68から呼び出され実行される。
【0081】次に、CPU66によって、実行され得られた結果に基づいて、選択された背景画像の画面構成情報が、随時、CPU66によって、RAM70に生成される。上記背景画像としては、例えば、図7に示すように、キャラクタであるトンちゃんが経営するトンちゃん飯店の厨房を示す背景画像が挙げられる。
【0082】なお、背景画像は、上述した画像に限定されず、例えば、キャラクタであるトンちゃんが入浴する風呂場の背景画像であってもよく、その他の画像であってもよい。これらの画像は、可変ゲームの進行進行状況や、上記内部抽選処理の結果に基づき、CPUによって、適宜選択される。
【0085】本発明において、動体物からなるキャラクタ画像としては、特に限定されるものではないが、例えば、図7に示すように、背景画像として、キャラクタであるトンちゃんが経営するトンちゃん飯店の厨房を示す画像が背景画像として表示されている場合、3匹の豚である、中央で料理を作るトンちゃんと、左側で料理を作るトンちゃん飯店の料理長と、右側で料理を作るトンちゃんの兄弟子とが挙げられる。これらの3匹の豚を示す画像が、上述した3つの組に属する3つの図柄に対応するように表示装置32の左側、中央及び右側の位置に表示される。
【0091】上述したステップS201?S204の処理は、後述するステップS207及びS208において、左の変動図柄と右の変動図柄とが停止表示された後、左右の変動図柄が同一か否かを判断し(ステップS210)、リーチとなった(同一である)と判断するまで繰り返し実行される。このような処理を繰り返し実行することにより、所定の態様でスクロールするように図柄を変動表示することができ、また、動体物からなるキャラクタ画像も所定の動作をするように表示することができるのである。なお、左右の図柄が異なると判断した際には、中央の図柄を停止させるタイミングであるかを判断し(ステップS211)、停止させるタイミングでなければ、ステップ201に戻って、同様の処理を繰り返す。一方、停止させるタイミングであれば、中央の図柄を停止させる指示が出され(ステップS212)、全ての図柄が停止したと判断する(ステップS213)まで同じ処理が繰り返され、このルーチンが終了する。
【0097】この後、停止した左右の変動図柄が同一であるか否かが判断される(ステップS210)。そして、左右の変動図柄が異なるものであると判断した場合には、第一の物語の物語がさらに進行する。一方、左右の変動図柄が同一であると判断した場合には、図6に示すリーチ画面表示処理のサブルーチンが実行される。
【0098】この図6に示すリーチ画面表示処理ルーチンにおけるステップS291?ステップS294の処理は、上述したステップS201?ステップS204の処理とほぼ同様の表示方法をとるので処理自体の詳しい説明は行わないが、背景画像として、リーチとなる前の画像とは異なる画像を表示し、変動図柄を装飾する装飾体や、動体物であるキャラクタも、原則として、リーチ前のものとは異なるものを表示し、リーチとなったことをアピールするとともに、遊技者に大当たりとなることへの期待感を抱かせる。この際、後述するように、第一の物語と第二の物語とに同一のキャラクタを登場させることにより、物語の連続性、継続性を確保することができる。特に、両方の物語の主人公は、同一のものとすることが望ましい。上記物語の場合は、例えば、第一の物語及び第二の物語とも、トンちゃんを主人公として展開していく。
【0099】以下、リーチとなった後の画面構成についてさらに詳しく説明する。まず、リーチとなった後には、変動図柄を示す識別情報画像領域が特定の方向に連続して移動する。例えば、図8(a)に示すように、リーチ前の第一の物語では、変動図柄を示す識別情報画像領域は、画面の下の方に存在し、画面の上の方の通常背景画像領域で第一の物語が展開される。この第一の物語としては、例えば、画面の下の方にカウンタの一部が表示されるとともに、その部分に変動図柄が停止表示され、カウンタの上の方で第一の物語が展開ささる。しかし、リーチとなると、図8(b)に示すように、この識別情報画像領域が次第に上の方に連続して移動し、この識別情報画像領域の移動に連動するように、第二の物語が展開される特殊背景画像領域が拡大する。
【0104】このように、第一の物語との継続性、連続性を保持した状態で第一の物語と関連性を有する第二の物語が始まり、展開されていくので、遊技者は、ごく自然に第二の物語に入っていくことができ、演出表現に不自然さや違和感等を覚えることなく、遊技に対する興味や期待感が減退することなく、この表示装置の画面上に展開される、全体に継続性、ストーリー性のある物語を楽しむことができる。
【0105】ステップS291?ステップS294の過程で第二の物語の物語が展開されている間、ステップS295において、中の変動図柄が停止表示されるタイミングであるか否かが判断された後、中の変動図柄が停止表示された場合(ステップS296)には、ハズレか又は大当たり等の画面を表示した後、固定画面又は通常画面に戻る。ただし、リーチとなってから変動図柄が停止表示されるまでの時間は、所定の物語が展開され、終了するように設定される。
と記載されており、摘記した上記の記載や図面等によれば、引用文献1には、
「始動口に遊技球が入ったと判別したときに、可変表示ゲームが実行及び開始されて、CPU66の演算処理による内部抽選処理を実行し、内部抽選処理により定められた図柄の組み合わせで3つの図柄が停止表示されるように3つの図柄の変動表示と停止表示との処理を行うものであり、変動表示されていた全ての図柄を停止表示した際に、これらの図柄の組み合わせが所定の組み合わせに合致して停止表示されたときには、可変表示ゲームが大当たりに当選したとしてパチンコ遊技が遊技者に有利になるような状態に移行するものであり、内部抽選処理が実行された後、CPU66によって、内部抽選処理の結果や、可変表示ゲームの進行状況等に応じて、背景画像を選択し、表示装置32に表示される図柄が変動表示されてから、可変表示ゲームがリーチとなったり、大当たりとなるまでの間に、演出画像としての通常画面を表示装置32に表示して第一の物語を展開し、停止した左右の変動図柄が異なるものであると判断した場合には、第一の物語の物語がさらに進行し、一方、停止した左右の変動図柄が同一であると判断した場合、すなわち、リーチとなった場合には、背景画像として、リーチとなる前の画像とは異なる背景画像を表示して、第一の物語と関連性を有する第二の物語を展開し、第二の物語の物語が展開されている間に、中の変動図柄が停止表示された場合には、ハズレか又は大当たり等の画面を表示した後、通常画面に戻る処理を行うパチンコ遊技装置10。」
の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

(2)引用発明と本願補正発明との対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、
引用発明の「始動口に遊技球が入ったと判別したとき」は、本願補正発明の「所定の始動条件が成立したとき」に相当し、以下同様に、
「遊技者に有利になるような状態」は「遊技者に有利な特別遊技状態」に、
「3つの図柄」は「識別情報」に、
「変動表示」は「可変表示」に、
「表示装置32」は「可変表示手段」に、
「リーチ」は「特定の可変表示パターン」に、
「パチンコ遊技装置10」は「遊技機」に、各々相当する。

さらに、引用文献1の記載等からみて、以下のことが言える。
a.引用文献1には、「遊技者に有利になるような状態」(本願補正発明の「遊技者に有利な特別遊技状態」に相当)に移行するか否かの判定を行う時期について、具体的な記載はないものの、引用発明は、「始動口に遊技球が入ったと判別」して、3つの図柄停止表示内部抽選処理を実行し、CPU66は、この内部抽選により定められた図柄の組合せで図柄が停止表示されるように3つの図柄の変動表示と停止表示を行うものであり、また、停止表示された図柄の組合せによって、遊技者に有利になるような状態に移行するか否かが決まる(段落【0074】)ことから、引用発明には、遊技者に有利になるような状態への移行の判定を行う手段を有することは自明であり、「遊技者に有利になるような状態」に移行するか否かの判定を行う時期は別にして、少なくとも、引用発明と本願補正発明とは、「所定の始動条件が成立した場合に、遊技者に有利な特別遊技状態への移行の判定及び識別情報の可変表示を行う」点で一致する。
b.引用文献1に記載の「CPU66」は、段落【0053】の記載から、「背景画像データ」、「変動図柄画像データ」を電子データとして伝送その他の制御を行うものであり、具体的には、段落【0054】?【0057】にあるように、CPU66は、表示装置32に図柄の変動表示や、停止表示を行い、変動図柄が表示される識別画像と演出画面が表示される演出画像とを重ね合わせて合成することで、演出画像を背景として、図柄が変動するシーンを演出するものであるから、CPU66は、図柄変動表示中における通常背景画像を表示装置32に表示をするための制御を行うものと認められるので、引用発明の「CPU66」は、本願補正発明の「可変表示制御手段」に相当し、引用発明と本願補正発明とは、「識別情報の可変表示動作中に第1の背景画像を表示する可変表示手段と、前記可変表示手段を制御する表示制御手段」を有する点で共通する。
c.「通常画面」について、段落【0031】には「「通常画面」とは、遊技の大当たりを予告する予告画面としてのリーチ画面及び大当たり時の大当たり演出画面を除く全ての画面を意味する。」との記載から、演出画面である「通常画面」は「背景画像」を含むものと認められる。また、通常画面は、表示装置32に表示される図柄が可変表示されてから、リーチとなるまでの間に表示されるものであり、リーチとなった場合には、リーチとなる前の画像とは異なる背景画像を表示して第2の物語を展開するものである (段落【0098】?【0099】)。
よって、引用発明の「通常画面」は、本願補正発明の「第1の背景画像」に相当し、引用発明における第2の物語が展開されている間の背景画像は、本願補正発明の「第2の背景画像」に相当するものと認められる。
さらに、第2の物語が展開されている間に、中の変動図柄が停止表示されて、3つの図柄が停止表示されるものである(段落【0105】)から、リーチ後においては、リーチとなる前の画像とは異なる画像を表示した状態で3つの図柄を停止表示することで可変表示ゲームの遊技結果を表示するものと認められる。一方、リーチとならずに3つの図柄が停止表示する場合には、段落【0031】の「「通常画面」とは、・・・表示部においてなされる可変表示ゲームの遊技結果がはずれとなるときに表示される画面も含む概念である。」との記載及び、段落【0097】の「左右の変動図柄が異なるものであると判断した場合には、第一の物語の物語がさらに進行する。」との記載から、リーチとならずに3つの変動図柄が停止した際には通常画面を表示した状態で可変表示ゲームの遊技結果を表示するものと認められる。
また、演出制御については、段落【0054】?【0057】の記載から、CPU66は、演出画像を背景として、図柄の変動表示及び停止表示を表示装置32にて行うものであり、第一、第二の物語のいずれも、図柄、背景画像の表示制御はCPU66にて行っていることは、自明であるから、引用発明の「CPU66」は、本願補正発明の「演出制御手段」に相当するものと認められる。
以上のことから総合すると、可変表示パターン決定手段により特定の可変表示パターンが決定される点、及び、「当該特定の可変表示パターンに基づいて、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせる」タイミングが、特定の可変表示パターンが決定されたとき、である点は別として、引用発明と本願補正発明とは、「特定の可変表示パターンが決定された場合には、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像の表示を行わせた後、第2の背景画像の表示を行わせ、前記第2の背景画像を表示した状態で前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる一方、前記特定の可変表示パターンでない可変表示パターンにおいては、識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像を表示させ、前記第1の背景画像を表示した状態で、前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる演出表示制御手段」を有する点で共通するものと認められる。
d.引用文献1に記載の「第一の物語」における「背景画像」は、段落【0081】、【0082】の記載から、複数種類(トンちゃん飯店の厨房を示す背景画像や、トンちゃんが入浴する風呂場の背景画像、その他の背景画像)備えるものであるから、これらの背景画像を記憶する記憶手段を備える点について直接的な記載がなくとも、このような複数種類の背景画像を記憶する背景画像記憶手段を備えていることは、自明であるといえる。
また、「通常画面」は、段落【0031】、【0077】の記載から、第一の物語の演出画像であって第一の物語における背景画像を含むものである。
よって、引用発明と本願補正発明とは、「前記第1の背景画像の表示のための第1背景画像データを複数種類記憶する背景画像記憶手段」を有する点で一致する。
さらに、段落【0080】の記載から、「内部抽選処理の結果」や「可変表示ゲームの進行状況等」の何らかの条件成立によって、背景画像を選択する制御プログラムがCPU66によって実行されるのであるから、引用発明においても、本願補正発明に係る「所定の背景画像選択条件が成立したときに、前記背景画像記憶手段に記憶されている複数種類の前記第1背景画像データのうち、いずれかの前記第1背景画像データを選択する背景画像データ選択手段」を有しているものと認められる。

以上を総合すると、両者は、
「所定の始動条件が成立した場合に、遊技者に有利な特別遊技状態への移行の判定及び識別情報の可変表示を行い、前記識別情報の可変表示動作中に第1の背景画像を表示する可変表示手段と、前記可変表示手段を制御する表示制御手段と、前記第1の背景画像の表示のための第1背景画像データを複数種類記憶する背景画像記憶手段とを有する遊技機であって、
特定の可変表示パターンが決定された場合には、前記可変表示手段に、前記識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像の表示を行わせた後、第2の背景画像の表示を行わせ、前記第2の背景画像を表示した状態で前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる一方、前記特定の可変表示パターンでない可変表示パターンにおいては、前記識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像を表示させ、前記第1の背景画像を表示した状態で、前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる演出表示制御手段と、
所定の背景画像選択条件が成立したときに、前記背景画像記憶手段に記憶されている複数種類の前記第1背景画像データのうち、いずれかの前記第1背景画像データを選択する背景画像データ選択手段とを有する遊技機。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明の「特定遊技状態判定手段」は、「所定の始動条件が成立したときに、遊技者に有利な特定遊技状態への移行の判定を行う」のに対し、引用発明では、「始動口に遊技球が入ったと判別した」ときから、3つの図柄が停止したときまでのいずれかの時期に、遊技者に有利になるような状態への移行の判定を行ってはいるものの、具体的な時期について不明な点
[相違点2]
本願補正発明は、「前記特定遊技状態判定手段による判定結果に基づいて、識別情報の可変表示を実行させるための可変表示パターンを決定する可変表示パターン決定手段」を有するのに対し、引用発明では、(リーチを経るか否かといった図柄の可変表示を行うための)可変表示パターンの決定を行っているのか否かが不明な点
[相違点3]
本願補正発明は、「前記可変表示パターン決定手段により特定の可変表示パターンが決定されたとき、当該特定の可変表示パターンに基づいて、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせる」のに対し、上記[相違点2]で指摘したとおり、引用発明では、可変表示パターンの決定を行っているのか否かが不明な点
[相違点4]
本願補正発明は、「前記演出表示制御手段により、前記可変表示手段において、前記第2の背景画像の表示が行われた後、前記背景画像データ選択手段により選択された第1背景画像データに基づいて、第1の背景画像の表示を行わせる背景画像表示制御手段」を有するのに対し、引用発明では、「通常画面」(本願補正発明の「第1の背景画像」に相当)の選択を、内部抽選処理が実行された後、CPU66によって、内部抽選処理の結果や、可変表示ゲームの進行状況等に応じて選択する点

(3)相違点の検討及び判断
[相違点1、2、3について]
相違点1、2、3は関連するので、あわせて検討する。
遊技機の技術分野において、所定の始動条件が成立したときに、遊技者に有利な特定遊技状態への移行の判定を行うこと、(3つの図柄が停止するまでに、リーチを経るか否かといった図柄の可変表示を行うためのパターンとしての)可変表示パターンの決定を行うこと、及び、前記可変表示パターン決定手段により特定の可変表示パターンが決定されたとき、当該特定の可変表示パターンに基づいて、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせることは、特開2002?233622号公報(特に、段落【0047】?【0056】;図9参照)、特開平8?336648号公報に記載されているように、本願出願前に既に周知(以下、「周知技術1」という。)であって、引用発明に適用することは、当業者にとって格別な困難性はない。

[相違点4について]
引用発明は、通常画面の選択を、可変表示ゲームの進行状況等に応じて行うものである。そして、引用発明でも、第二の物語の後、第一の物語が表示されるものであるが、この第一の物語が表示されるときは、前の第一の物語から第二の物語への一連の表示が終わった一区切りということができる。
そうすると、通常画面の選択を行う時期として、上記第二の物語の後、第一の物語の表示が行われる時期を採用し、本願補正発明のようにすることは、当業者が容易に成し得ることである。
さらに、本願補正発明の作用効果も、引用発明、周知技術1に基づき、当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第三.本願発明について
1.本願発明
平成19年8月9日付の手続補正書は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年3月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される。以下のとおりのものである。
「所定の始動条件が成立したときに、遊技者に有利な特定遊技状態への移行の判定を行う特定遊技状態判定手段と、前記特定遊技状態判定手段による判定結果に基づいて、識別情報の可変表示を実行させるための可変表示パターンを決定する可変表示パターン決定手段と、前記可変表示パターン決定手段により決定された可変表示パターンに基づいて、識別情報の可変表示を行うとともに、識別情報の可変表示動作中に第1の背景画像を表示する可変表示手段と、前記可変表示手段を制御する表示制御手段と、前記第1の背景画像の表示のための第1背景画像データを複数種類記憶する背景画像記憶手段とを有する遊技機であって、
前記表示制御手段は、前記可変表示パターン決定手段により特定の可変表示パターンが決定されたとき、当該特定の可変表示パターンに基づいて、前記可変表示手段に、識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像の表示を行わせた後、第2の背景画像の表示を行わせる演出表示制御手段と、
所定の背景画像選択条件が成立したときに、前記背景画像記憶手段に記憶されている複数種類の前記第1背景画像データのうち、いずれかの前記第1背景画像データを選択する背景画像データ選択手段と、
前記演出表示制御手段により、前記可変表示手段において、前記第2の背景画像の表示が行われた後、前記背景画像データ選択手段により選択された第1背景画像データに基づいて、第1の背景画像の表示を行わせる背景画像表示制御手段とを有することを特徴とする遊技機。」

2.特許法第29条第2項の検討
(1)引用刊行物記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び記載事項は、前記「第二.3.(1)」に記載したとおりである。

(2)引用発明と本願発明との対比
本願発明は、本願補正発明の「演出表示制御手段」における「前記第2の背景画像を表示した状態で前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる」点を削除し、さらに、「識別情報の可変表示を行わせるとともに、前記第1の背景画像を表示させ、前記第1の背景画像を表示した状態で、前記識別情報の可変表示結果を導出表示させる」点を削除して、「前記特定の可変表示パターンでない可変表示パターン」となることで上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の構成要件の一部を下位概念化するとともに複雑化したものに相当する本願補正発明が、前記「第二.3.(3)」に記載したとおり、引用発明、及び、周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、及び、周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び、周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-13 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-01 
出願番号 特願2004-25870(P2004-25870)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 納口 慶太  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 森 雅之
井上 昌宏
発明の名称 遊技機、シミュレーションプログラム  
代理人 三好 秀和  

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