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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01C
管理番号 1213764
審判番号 不服2008-18694  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-23 
確定日 2010-03-19 
事件の表示 特願2002-176899「都市構造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月22日出願公開、特開2004- 19298〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は、平成14年6月18日の出願であって、平成20年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月19日に手続補正がなされたものである。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成21年8月10日付けで審尋がなされ、同年10月9日に当該審尋に対する回答書が提出された。

【2】本願発明
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、明りょうでない記載の釈明を目的として(平成20年9月22付けで補正された審判請求書(2)(B)参照)、平成20年8月19日付けの手続補正により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「地表面被覆率が少なくとも60%であり、保水性舗装が地表面被覆地域の少なくとも一部に施されており、保水性舗装および非保水性舗装による都市施設の舗装率が少なくとも85%である市街地において、その市街地における地表面被覆率をVとし、その市街地における地表面被覆地域における保水性舗装された面積の比率をXとし、保水性舗装の保水能をP(m^(3)/m^(2))とし、排水設備の排水能をY(m^(3)/m^(2)・hr)とし、雨水貯留施設の貯水能をW(m^(3)/m^(2))とし、設計降雨量をI(m/hr)とし、設計降雨継続時間をt(hr)としたとき、(X・P+W+Y・t)/(V・I・t)が少なくとも1であり、かつI=0.1(m/hr)としたときXが0.04以上であることを特徴とする都市構造システム。
ここに、
地表面被覆率:市街地の面積に対する、地面が人工的に覆われている地域(地表面被覆地域)の面積の比率
市街地:都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条第2項にいう市街化区域内において任意に定めた1km四方の地域
都市施設:都市計画法第11条第1項第1号にいう施設、すなわち、道路(車道および歩道)、都市高速鉄道、駐車場、自動車ターミナルその他の交通施設であって、屋根を備えないもの」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平9-95903号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建物の周辺および道路部分における蓄熱を緩和させると共に、雨水等を地中に排水するための保水性舗装材、および保水性舗装構造、並びに保水性舗装方法に関するものである。特に、本発明の保水性舗装材、および保水性舗装構造、並びに保水性舗装方法は、都市市街地の歩道、公園、広場、公共施設や野外スポーツ施設等、建物の周辺の舗装面部分、および建物の屋上部分等に使用するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、都市部における高温化、特に、コンクリートあるいはアスファルトで覆われた部分における高温化が問題になっている。また、上記コンクリートあるいはアスファルトによって覆われた部分は、雨水を溜めるための保水性がなく、直接河川に放水されるため、洪水の原因にもなっている。上記問題を解決するために、雨水を地中に流すようにした透水性を持たせた舗装材が近年考えられるようになってきた。」
(ロ)「【0007】
【課題を解決するための手段】
(第1発明)前記目的を達成するために、本発明の保水性舗装材は、地表の高温化を抑制すると共に、余剰の雨水等を地中に透過させるために、地表面を覆うブロック材19と路盤12との間に敷設されており、地表面を覆うブロック材19等から透過した雨水等を保水する保水部14と、当該保水部14から排出される余剰の雨水等を地中に透過させる排水部15とを備えていることを特徴とする。」
(ハ)「【0017】(第1発明)第1発明は、地表面を覆うブロック材と路盤との間に保水性舗装材が敷設されており、この保水性舗装材に保水される水の気化熱によって、ブロック材近傍における地表面の温度を高温にならないように抑制すると共に、余剰の雨水等を地中に排出するというものである。そして、上記保水性舗装材には、地表面を覆うブロック材等から透過した雨水等を保水する保水部と、当該保水部から排出される余剰の雨水を地中に透過させる排水部とが備えられている。以下、本明細書において、上記雨水等は、雨水以外にまき水等も含まれる。また、以下、本明細書において、ブロック材等から透過した雨水等は、透水性のブロック材から透過した雨水等と、ブロック材の間に形成される目地から透過する雨水等も含むものとする。第1発明は、ブロック材を敷設する場所によって、保水部および排水部の材料あるいは形状を変えて、ブロック材近傍の温度と地中に排水する水量を任意に設計することができる。」
(ニ)「【0039】
【発明の効果】本発明によれば、ブロック材あるいは目地を透過した雨水等は、保水性舗装材に設けられた充分な容積を有する保水部に保水されるため、直射日光等による舗装面の温度上昇を長期間にわたって抑制することができる。本発明によれば、保水部に保水されない過剰の雨水等は、排水部から排水されて地中に戻されて、直接河川等に流れないため、舗装面に溢れることなく、洪水の原因を減少させることができる。本発明によれば、保水部に残された保水量が少ない状態において、不織布における繊維が毛細管現象によって水分を吸い上げて、舗装面の温度上昇を長期間にわたって抑制することができる。」

上記各記載及び各図面の記載からみて、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「都市市街地の歩道、公園、広場、公共施設や野外スポーツ施設等、建物の周辺の舗装面部分、および建物の屋上部分等に、保水部および排水部の材料あるいは形状を変えて、ブロック材近傍の温度と地中に排水する水量を任意に設計することができる保水性舗装を施した都市部」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

3.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「建物の周辺の舗装面部分、および建物の屋上部分等」及び「都市市街地の歩道」は、それぞれ、本願発明の「地表面被覆地域」及び「都市施設」に相当する。また、刊行物1記載の発明の「都市部」を本願発明の都市計画の「市街地」に設定可能なことは明らかである。

したがって両者は、
「保水性舗装が都市施設を含む地表面被覆地域の少なくとも一部に施されている市街地。」の点で一致し、以下の各点で相違している。

(相違点1)
本願発明の市街地は、地表面被覆率が少なくとも60%であり、保水性舗装および非保水性舗装による都市施設の舗装率が少なくとも85%であるのに対し、刊行物1記載の発明のそれは、地表面被覆率と保水性舗装および非保水性舗装による都市施設の舗装率が不明な点。
(相違点2)
本願発明では、市街地における地表面被覆率をVとし、その市街地における地表面被覆地域における保水性舗装された面積の比率をXとし、保水性舗装の保水能をP(m^(3)/m^(2))とし、排水設備の排水能をY(m^(3)/m^(2)・hr)とし、雨水貯留施設の貯水能をW(m^(3)/m^(2))とし、設計降雨量をI(m/hr)とし、設計降雨継続時間をt(hr)としたとき、(X・P+W+Y・t)/(V・I・t)が少なくとも1であるのに対して、刊行物1記載の発明では、(X・P+W+Y・t)/(V・I・t)の値が不明な点。
(相違点3)
本願発明では、I=0.1(m/hr)としたときXが0.04以上であるのに対して、刊行物1記載の発明では、その値が不明な点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
地表面被覆率が少なくとも60%である市街地は、ごく普通に見られるものである(本願明細書【0028】参照)。また、都市施設の舗装率が少なくとも85%である市街地も、同様にごく普通に見られるものである(同【0029】参照)。刊行物1記載の発明をこれらの市街地に適用する点に格別の困難性はなく、相違点1に係る事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。
(相違点2について)
本願発明において、(X・P+W+Y・t)/(V・I・t)が少なくとも1であるということは、保水性舗装の保水能力、雨水貯留施設の能力、及び排水設備の能力(上記式の分子)とにより、想定される降雨量(同分母)以上の雨水処理能力を確保する、ということにほかならない。
都市型洪水の発生を防止するために、十分な能力の雨水貯留施設を備えるとともに、十分な能力の排水設備を確保する必要があることも、よく知られた事項である(前者の例として特開平11-71789号公報、後者の例として特開平8-113972号公報それぞれ参照)。
くわえて、地表面被覆率の高い都市部において、都市型洪水の原因である非保水性舗装に替えて保水性舗装を用い、該保水性舗装の保水能力により都市型洪水を防止することは、刊行物1に記載されているほか、特開平8-85905号公報、特開平9-77548号公報、特開2002-70126号公報にも示されるように、広く行われている事項である。
都市部を計画するにあたって、洪水に対する対策を取るべきことは、当業者が当然考慮すべき事項であり、そのために、想定される降雨量以上の雨水処理能力を確保すべきことは、当業者であれば、容易に想到しうる事項である。そして、当該雨水処理能力として、保水性舗装の保水能力、雨水貯留施設の能力及び排水設備の能力を用いることは、上記の通り、それらがともに広く行われている事項であるから、これら三者を総合して用い、本願発明の相違点2に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得る事項である。
(相違点3について)
設計降雨量Iをどの程度にするかは、その地域の降雨データや地表面被覆率等を考慮して、当業者が適宜決定しうる事項である。
また、地表面被覆地域における保水性舗装された面積の比率Xも、地表面被覆率や雨水貯留施設及び排水設備の能力等を考慮して、同様に、当業者が適宜決定しうる事項である。
なお、本願発明において、地表面被覆地域における保水性舗装された面積の比率Xを「I=0.1のとき、X=0.04以上」としたのは、本願明細書の記載(段落【0030】?【0031】)によれば、設計降雨量を東京都の目標値であるI=0.1としたときに、地表面被覆率が60%の市街地において、地表面被覆地域への降雨量を、すべて1.5m/hrの透水係数の舗装により排水させると仮定(つまり貯留施設や排水設備がないものと仮定)した場合に必要なXの値を示すものである。しかしながら、実際の市街地は、雨水貯留施設や排水設備が備わっているものであり、かつ、保水性舗装の透水係数及び保水能力は舗装の材質等により異なるものであるから、上記限定には格別の技術的意味はない。

そして、本願発明の作用・効果も刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

【3】むすび
以上のとおりであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願発明は特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-14 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-01 
出願番号 特願2002-176899(P2002-176899)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鹿戸 俊介加藤 範久  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 関根 裕
山口 由木
発明の名称 都市構造システム  

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