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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B66D
管理番号 1214463
判定請求番号 判定2009-600043  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2010-05-28 
種別 判定 
判定請求日 2009-11-19 
確定日 2010-03-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4341057号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件を特定する施工図(乙第1号証)、イ号物件の技術分野を特定する施工図(乙第2号証)、施設の対向する一側面に設置されたイ号物件の写真(乙第3号証)、イ号物件を用いたシステムの証拠写真(乙第4号証)及びイ号物件を用いたシステムの証拠写真(乙第5号証)並びに平成22年1月12日付け(平成22年1月13日差出)の回答書に示す「ウインチ」は、特許第4341057号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は、本件判定請求人(以下、単に「請求人」という。)が提出した平成22年1月12日付け(平成22年1月13日差出)の回答書(以下、単に「回答書」という。)によって実質的に補正された判定請求書の【請求の理由】及び【証拠方法】の記載からみて、イ号物件を特定する施工図(乙第1号証)、イ号物件の技術分野を特定する施工図(乙第2号証)、施設の対向する一側面に設置されたイ号物件の写真(乙第3号証)、イ号物件を用いたシステムの証拠写真(乙第4号証)及びイ号物件を用いたシステムの証拠写真(乙第5号証)並びに回答書に示す「ウインチ」が、特許第4341057号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

なお、請求人である東田商工株式会社は、石垣市役所を「被請求人」として、「石垣市市営の中央運動公園内にある室内型の球技等の練習施設」に設置された「ウインチ」を、イ号物件と特定して、「イ号物件が請求人のウインチである特許第4341057号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属し、侵害している、との判定を求める」ものであるが、本件は、特許発明の技術的範囲について判定する判定請求事件であるので、侵害の有無については検討しない。
また、本件判定被請求人(以下、単に「被請求人」という。)である石垣市役所は、平成22年2月23日付け(提出年月日不明)の答弁書(以下、単に「答弁書」という。)において、何ら技術的範囲の属否について検討することなく、「イ号物件は、日本国内において広く一般に流通しているものであること」及び「イ号物件は、請求人主張の特許第4341057号の出願及び登録前に設置は完了しているので、『特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら』に明白に該当ないこと」並びに「イ号物件の使用は、公共使用を目的としたもので、かつ1回きりのものであるので、業とした行為には該当しないこと」を主張しているが、これらの主張の当否はさておき、いずれにせよ本件判定請求事件において判定すべき対象ではないので、これらの主張についても検討しない。

第2 本件特許発明について
1 本件特許発明
特許第4341057号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許第4341057号の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ループ状に架設したワイヤロープ等の紐状体を取り入れ及び取り出して巻回移動するための巻回ドラムと、巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸との設けられたウインチ本体から構成された無端状のウインチにおいて、ウインチ本体には、巻回ドラムに巻回したワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を巻回ドラムの近傍に設けられた調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整することを特徴とするウインチ。」

2 本件特許発明の構成要件の分説
そこで、本件特許発明の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下、分説した各構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A ループ状に架設したワイヤロープ等の紐状体を取り入れ及び取り出して巻回移動するための巻回ドラムと、
B 巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸との設けられたウインチ本体から構成された無端状のウインチにおいて、
C ウインチ本体には、巻回ドラムに巻回したワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を巻回ドラムの近傍に設けられた調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する
D ことを特徴とするウインチ。

第3 イ号物件について
1 請求人の主張
(1)イ号物件の構成の分説
請求人は、回答書に添付された乙第1号証ないし乙第5号証によって特定されるイ号物件の構成の分説について、回答書の第3ページ第17ないし24行において、次のとおり主張している。
「上記乙第1号証をもとにして、イ号物件を本件特許(当審注:「本件特許発明」に対応する。)の分説に即して構成要件毎に説明する。
(a) 空間部の対向する側面にループ状に架設したワイヤロープを取り入れ及び取り出しながら巻回移動するための巻回ドラムと、
(b) 巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸と
(C) の設けられたウインチ本体から構成された無端状のウインチにおいて、
(d) ウインチ本体には、巻回ドラムの近傍に設けられた調整ドラム
を特徴とするウインチ。」

(2)イ号物件の構成について
また、請求人は、同じく回答書の第3ページ第25行ないし第5ページ第1行において、次のとおり主張している。
「本件特許とイ号物件はともに、無端状方式のウインチを用いてワイヤロープをループ状に移動し、ワイヤロープの下方側に架設されたガイド用ワイヤロープに沿ってネットを開閉移動するウインチを用いたネットの移動システムである点で同一の技術分野である。そして、ネットの移動システムに使用する無端状方式のウインチはその基本構成であるワイヤロープを取り入れ及び取り出しながら巻回移動するための巻回ドラム(A) 点(当審注:「構成要件A」に対応する。)と(a) 点と、巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸(B) 点(当審注:「構成要件B」における「巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸と」に対応する。)と(b) 点とがウインチ本体に設けられた点においては本件特許とイ号物件とは一致する。
次に、本件特許の(D) 点(当審注:「構成要件C」における「ウインチ本体には、巻回ドラムに巻回したワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を巻回ドラムの近傍に設けられた調整ドラムの直径L」に対応する。)の調整ドラムとイ号物件の(d) 点の別体のドラムとを対比する。
本件特許の(D) 点は、
(D-1)ウインチ本体で巻回ドラムの近傍に設けられ
(D-2)巻回ドラムに巻回したワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取
り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動
幅間を調整ドラムの直径L
本件特許の(F) 点(当審注:「構成要件C」における「を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」及び「構成要件D」における「ことを」に対応する。)は、
(F-1)を用いて押圧することなく
(F-2)一定に維持すべく調整する
上記各点を特徴とする。
イ号物件の(d) 点の別体のドラムは、ウインチ本体に設けられ、巻回ドラムの近房に設けられている (D-1)点で、本件特許と一致する。
また、イ号物件の(d) 点の別体のドラムには、巻回ドラムに巻回したワイヤロープが架け渡され、別体のドラムの直径の幅で、ワイヤロープの取り込み移動側と取り出し移動との移動幅間が決定されている (D-2)点で本件特許と一致する。
イ号物件は、別体のドラムの近傍で巻回ドラムの反対側に設けられた2個のローラーを介して取り込み及び取り出し移動している。しかしながら、ワイヤロープはそれぞれローラー溝の上側に位置して移動しているのみでありワイヤロープを押圧することはない。このため、ワイヤロープの移動に関して2個のローラーは単なるワイヤロープの移動補助にすぎず、また、ワイヤロープの取り込み移動側と取り出し移動とには、該ワイヤロープを巻回ドラム又は別体のドラムの溝側へ押圧するためのローラが設けられていない。従って、イ号物件の別体のドラムは (F-1)点で本件特許と一致し、さらに、別体のドラムの直径の幅で移動幅間が維持されているために、イ号物件の別体のドラムは (F-2)点で本件特許と一致する。」

2 当審におけるイ号物件の特定
上記1に示す請求人の主張及び被請求人がイ号物件の特定について何ら言及していないこと並びに回答書に添付された乙第1号証ないし乙第5号証を参酌して、イ号物件の構成を分説すると、次のとおりである(以下、分説した各構成をそれぞれ「構成a」などという。)。
a ループ状に架設したワイヤロープを取り入れ及び取り出して巻回移動するための巻回ドラムと、
b 巻回ドラムを回転駆動するための駆動軸との設けられたウインチ本体から構成された無端状のウインチにおいて、
c ウインチ本体には、巻回ドラムに巻回したワイヤロープのウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を巻回ドラムの近傍に設けられた別体のドラムの直径の幅及び2個のローラーの上側を用いて維持する
d ウインチ。

第4 対比・判断
本件特許発明とイ号物件とを対比する。

1 本件特許発明の構成要件A及びB並びにDについて
まず、イ号物件の構成a及びb並びにdは、本件特許発明の構成要件A及びB並びにDを充足することが明らかである。

2 本件特許発明の構成要件Cについて
次に、イ号物件の構成cが、本件特許発明の構成要件Cを充足するか以下に検討する。

(1)本件特許発明の構成要件Cにおける「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」の意義について
本件特許発明の構成要件Cは、
a)「ウインチ本体には」なる語がどこにかかるのか、
b)「『ワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側と』の『ループ状に移動する架設間』の『移動幅間』」において、「ループ状に移動する架設間」あるいは「移動幅間」がどこを意味するものか及び
c)「移動幅間を」「調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」がどのようなことを意味するのか明確ではない。
したがって、「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」の意義について、本件明細書等の記載及び本件特許発明に関する出願の審査経過を参酌する。

ア 本件明細書等の記載
まず、本件明細書等の【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】には、「【背景技術】
【0002】
球技の試合、球技の練習用として使用する屋内(例えば、ドーム型の球場、長・正方形状の屋内練習場等)又は屋外(例えば、外周に支柱を立設し支柱間にネット等を取り付けることで空間部を確保した屋外型練習施設、ゴルフの練習場、ワイヤー式テント等)の各施設は使用する球技の種類、練習方法、試合、飛来する球の種類、又は天気等の状況に応じてネット又はシートを用いてその空間部を複数に間仕切り、区画用、防球用又は雨天用として設置することで、有効に使用している。
【0003】
上記間仕切り、区画用又は防球用等として使用するネット又はシートの開閉移動は、ネット又はシートを無端状のウインチで回転駆動するワイヤーロープに連結して直接的に移動するか、又はネット又はシートを別のワイヤーロープに移動自在に設け連結具を介して無端状のウインチで回転駆動するワイヤーロープに連結することで間接的に移動する方法が使用されている。
【0004】
この移動に使用するウインチとしては、無端状のウインチが使用されている。本願発明における無端状のウインチの基本構成は、ウインチ本体部分と駆動源(モーター)部分とから構成され、ウインチ本体には駆動源に間接又は直接的に連結するための駆動軸と駆動軸に取り付けられ駆動軸の回転駆動を伝達する巻回ドラムと巻回ドラムの近傍に設けられた案内手段(ワイヤーロープを巻回ドラムに案内移動する、案内ドラム、案内ガイド等)とから構成されている。
【0005】
上記構成の無端状のウインチでは、ワイヤーロープにかかるネット又はシートの荷重によりワイヤロープに弛みや撓みが発生し、巻回ドラムの駆動を無駄なくワイヤーロープに伝えることができない。そこで、巻回ドラムの外周面にローラーチェーンを設け、案内ドラム及び案内ガイドとによりワイヤロープを挟持した状態で巻回ドラム側へ移動した後、ワイヤロープを巻回ドラムの外周面に形成された溝にローラーチェーンで押圧しながら案内ドラムの回転に沿って移動し、再度案内ドラム及び案内ガイドとにより挟持された状態でワイヤロープを取り出し移動することでワイヤロープを移動するウインチが考えられた。
(特許公報1)
【0006】
即ち、ウインチ側ではワイヤロープの取り入れ側と取り出し側との移動間を狭めるように外側より押圧し、駆動軸の動力を無駄なくワイヤロープに伝え、スムーズなワイヤロープの移動を可能としている。
【0007】
次に、上記間仕切り、又は区画用として使用するネット又はシートの移動システムとしては、所望の空間部に複数の滑車を用いてループ状にワイヤロープを平行又は斜め方向に架設し、ワイヤロープに沿って並行に吊り張りしたガイドワイヤーにリング体を介してネット又はシートを吊り張りし、ネット又はシートの先端側を連結具を介してワイヤロープに連結し、ループ状のワイヤロープの一端側にワイヤロープ移動用の無端状のウインチを設けたシステムが公知である。
【0008】
そして、このシステムは無端状のウインチを上記(ウインチでの説明)のように駆動し、ワイヤロープを滑車に沿ってループ状に移動してネット又はシートの先端側を引っ張ることで、ガイドワイヤーに沿って移動したネット又はシートで所望の空間部を平行又は斜め方向に間仕切り又は区画し、また、逆方向に無端状のウインチを駆動することで、ネット又はシートで所望の空間部を平行又は斜め方向に開放する。(特許公報2)
【0009】
また、ワイヤー式テントの場合は、屋根部分をシートで覆うべく複数のワイヤロープを滑車に沿ってループ状に移動し、該ワイヤロープ間に設けられたシートを並行に移動して屋根部分を開閉している。
【0010】
上記各場合において、並行又は斜め方向でループ状に架設したワイヤロープの移動幅間は、別体として取り付けられた滑車の径を利用しての移動幅を維持している。
【特許公報1】
特開2007-63013号公報
【特許公報2】
特開2002-17933号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記間仕切り、又は区画用等として使用している無端状のウインチは、ワイヤーロープの重量及び伸びを考慮してワイヤロープを案内ドラム及び案内ガイドで挟持し、ワイヤロープに発生する弛みや撓みを解消しながら移動することを主目的としているために、ウインチの近傍部分でウインチへのワイヤロープの取り入れ側及び取り出し側の移動幅間をできるだけ狭め、その狭まった状態でウインチ側のワイヤロープを移動しているために、ウインチ部分ではワイヤロープ間の自在な移動幅間の調整ができない。
【0012】
また、ウインチの近傍にワイヤロープの移動間を調整するための径の大きな滑車を設置すると、ウインチの取り入れ側及び取り出し側で狭めるように押圧した後、直ぐに滑車で移動幅を広げることとなり、ワイヤロープに連続した逆の負荷をかけるために、連続して使用するとワイヤロープに疲労性の磨耗等が発生し、安全面を考慮すると頻繁なワイヤロープの交換等のメンテナンスが必要である。
…中略…
【0014】
また、滑車の取り付けは屋内空間部の天井側、又は屋外の支柱の上部側で行う必要があるために、危険性が高く、メンテナンス時の取り外し作業時に時間がかかるという欠点があった。
【0015】
また、ウインチの巻回ドラムそのものの径を拡径してワイヤロープの移動間の幅を調整することも考えられるが、ワイヤロープの自重やワイヤロープにかかるネット等の荷重によりワイヤロープには弛みや撓みが発生しやすくスムーズなワイヤロープの移動ができない。
…中略…
【0017】
そこで、本発明は、ワイヤロープの移動間の幅を維持し、スムーズで、安全性が高いウインチ及び該ウインチを用いたネット又はシート等の吊張体の移動システムを提供することを課題とする。」と記載されており、また、同じく本件明細書等の【発明の作用・効果】には、「【発明の作用・効果】
【0022】
次に、本願発明のウインチ、ウインチを用いたネット又はシート等の吊張体の移動システムの作用及び効果について記載する。
【0023】
本願発明のウインチの第1の解決手段の作用及び効果について説明する。先ず、屋内外の空間部の所望の箇所である、対向する側面、又は傾斜のある側面にワイヤロープ等の紐状体をループ状に架設し、ワイヤロープ等の紐状体の一方の端部に無端状のウインチを取り付け、他方の端部に弾性体によりテンションの設けられワイヤロープ等の紐状体のループ状の移動幅間と同一の径を有する滑車を取り付け、その後、ワイヤロープ等の紐状体に連結手段を介して直接又はワイヤロープ等の紐状体に平行して設けられたガイド用のワイヤロープ等の紐状体を介して間接的にネット又はシート等の吊張体の上端部側を移動自在に取り付ける。
【0024】
この状態で無端状のウインチの駆動軸を駆動し、駆動軸に取り付けられた巻回ドラムを正方向(ネット又はシート等の吊張体の吊り張り方向)に回転すると巻回ドラムに巻回されたワイヤロープ等の紐状体をループ状の架設間で移動しワイヤロープ等の紐状体に直接又は間接的に設けられたネット又はシート等の吊張体を吊り張り方向に移動する。
【0025】
これにより、ネット又はシート等の吊張体を所望の空間部にワイヤロープ等の紐状体を介して吊り張りする。
【0026】
次に、上記巻回ドラムを逆方向(ネット又はシート等の吊張体の収納方向)に回転すると、巻回ドラムに巻回されたワイヤロープ等の紐状体を架設間でループ状に巻回移動し、ワイヤロープ等の紐状体に直接又は間接的に設けられたネット又はシート等の吊張体を上記と逆方向に移動する。
【0027】
これにより、ネット又はシート等の吊張体を元の位置に移動し、空間部を開放する。
【0028】
この際、本願発明のウインチ本体にはワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側との移動幅間を押圧することなく一定に維持すべく調整するための調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムのの幅を用いて、架設したワイヤロープ等の紐状体はウインチ本体部分でループ状の移動幅間の幅調整が行え、巻回移動がスムーズに行える。
…中略…
【0035】
上記各解決手段の無端状のウインチには、巻回ドラムに巻回するワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への、取り込み側と取り出し側との移動幅間を調整するための幅調整手段が設けられているために、ワイヤロープ等の紐状体の移動間の幅を調整した状態で直接ワイヤロープ等の紐状体を移動することができ、ネット又はシート等の吊張体の荷重にかかわらずワイヤロープ等の紐状体をスムーズに移動することができる。
【0036】
しかも、無端状のウインチにより直接ワイヤロープ等の紐状体の移動幅間を調整するために、従来のように、幅を調整する別体の滑車を設置するためのスペースを必要とすることなく設置でき、ワイヤロープ等の紐状体の設置対応を格段に広げることができ、安全性にとんだ架設の施工方法を選択することができる。
【0037】
また、メンテナンスにおいても安全性にとんだ架設の施工方法が選択されているためにウインチ等の取り替え作業を容易に行うことができる。
…後略…」と記載されている。

イ 本件特許発明に関する出願の審査経過
次に、本件特許発明に関する出願の審査経過をみると、本件特許発明の出願人でもある請求人が提出した、平成21年1月27日付けの意見書には、次のとおり記載されている。
「理由1に対して、審査官殿は『引用文献1に記載された発明も、中央の案内リング7等を用いてワイヤロープ等の紐状体のウインチ本体への取り込み移動側と取り出し移動側との移動幅間を維持している点では、本願発明と同じである。』と御指摘でありますが、引用文献1の発明は、ウインチ本体の巻取リングに巻回したワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側とを案内リング7を用いてその内側に位置させるように幅を狭めて(ワイヤロープ等の紐状体の真っ直ぐに延びようとする性質を押さえ込むこと…これを本願出願人は引用文献1及び他の公報で押圧と考えている。)いる構成であり本願発明の架設間の移動幅間を巻回ドラムの近傍に設けられた調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて(ワイヤロープ等の紐状体を調整ドラムの外側又は複数の調整ドラムの外側に位置させることで)幅を広げるように(押圧することなく、…ワイヤロープ等の紐状体の真っ直ぐに広がろうという性質を利用して)いる構成である点で、明らかに本願発明の構成は、引用文献1の発明の構成とは相違する。
しかも、引用文献1に記載された発明の効果は、上記のように構成することでワイヤロープ等の紐状体の弛みをウインチで解消しながら移動し、ワイヤロープ等の紐状体の弛みによるトラブルがなく、またメンテナンスの必要性を最小限にすることができる点であるのに対して、本願発明はウインチにより直接ワイヤロープ等の紐状体の移動幅間を調整するために、その取り付けが容易であり、簡易な構成で対応することができる点で相違する。
また、引用文献1に記載された発明のような従来型のウインチはワイヤロープ等の紐状体をスムーズに移動することを目的としているので、ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側との移動幅間を幅狭にすることを目的としている。このために、ワイヤロープ等の紐状体をループ状に移動する場合はウインチへのワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側との移動幅間をウインチ以外の滑車等を空間部に取り付けて一定に調整している。この滑車の取り付け場所は、空間部においてはなかなか適切な位置がなく困難を究めた。本願発明のウインチは、ウインチ本体で移動幅間を調整することができる点でウインチに従来考えられなかった幅調整という新しい機能を付加した点で、上記引用文献1とその構成及び作用効果も大きく相違する。
次に、審査官殿は『引用文献2(第2図)に記載された構成も図面を参酌すると、ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側との間を押圧することなく取り込み移動及び取り出し移動するとともに、その取り込み移動側と取り出し移動側との間の移動幅間を維持できる構成になっており、本願請求項2に係る発明との間に構成上特段の差異は認められない。』と御指摘でありますが引用文献2の第2図には、確かに2個の巻胴が記載されているが、供にモータで駆動する点が記載されているだけで、一方の巻胴により移動幅間を維持する点は記載されていない。かりに移動幅間を維持できる構成となっていると判断した場合においても、巻回ドラムの径を利用して又は調整ドラムの幅を利用して巻回移動幅間を一定に維持すべく調整する点(即ち、巻回ドラムの径を拡大することで移動幅間を広げたり、又は巻回ドラムの径を縮小することで移動幅間を狭くしたり、利用目的に応じて調整する)に関しては、引用文献2の第2図より判断できる範囲に含まれない構成である。
理由2に対して、審査官殿は『押圧することなくと記載されているが、請求項1?4のどの構成も、調整ドラム6又は複数の調整ドラム6Aによって紐状体は屈曲しており、紐状体は調整ドラム6又は複数の調整ドラム6Aによって押圧されていると解され、押圧することなくの意味が不明確である。』と御指摘でありますが、本願発明における、押圧とは、上記でも説明しているように、ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側とを案内リングの内側に位置させるようにして幅を狭めることで、ワイヤロープ等の紐状体の真っ直ぐに広がろうという性質を押さえ込むことを意味し、押圧することなくとは、ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側とを調整ドラムの外側に位置させることで幅を広げるようにすることで、ワイヤロープ等の紐状体へのドラム部部での負荷を軽減することを意味することであり、押圧することなくを明確にしております。」

ウ 本件明細書等の記載及び本件特許発明に関する出願の審査経過の参酌
以上のことから、次のことがわかる。
a)本件特許発明の構成要件Cにおける「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧すること」とは、「ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を複数の調整ドラムの内側に位置させるようにして幅を狭めること」であること。
b)また、同じく構成要件Cにおける「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく」とは、「上記移動幅間を調整ドラムの外側又は複数の調整ドラムの外側に位置させることで幅を広げるようにすること」であること。
c)さらに、同じく構成要件Cにおける「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて」「一定に維持すべく調整する」こととは、「調整ドラムの径又は複数の調整ドラムの幅を拡大することで上記移動幅間を広げたり、或いは調整ドラムの径又は複数の調整ドラムの幅を縮小することで上記移動幅間を狭くしたり、利用目的に応じて調整する」ことであること。
したがって、本件明細書等の記載及び本件特許発明に関する出願の審査経過を参酌すると、本件特許発明の構成要件Cにおける「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」の意義は、「ワイヤロープ等の紐状体の取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を複数の調整ドラムの内側に位置させるようにして幅を狭めること」なく、「上記移動幅間を調整ドラムの外側又は複数の調整ドラムの外側に位置させることで幅を広げるようにすること」とともに、「調整ドラムの径又は複数の調整ドラムの幅を拡大することで上記移動幅間を広げたり、或いは調整ドラムの径又は複数の調整ドラムの幅を縮小することで上記移動幅間を狭くしたり、利用目的に応じて調整する」ことにより、「ウインチの近傍にワイヤロープの移動間を調整するための径の大きな滑車を設置すると、ウインチの取り入れ側及び取り出し側で狭めるように押圧した後、直ぐに滑車で移動幅を広げることとなり、ワイヤロープに連続した逆の負荷をかけるために、連続して使用するとワイヤロープに疲労性の磨耗等が発生し、安全面を考慮すると頻繁なワイヤロープの交換等のメンテナンスが必要である」という課題を解決し、「ワイヤロープ等の紐状体の移動間の幅を調整した状態で直接ワイヤロープ等の紐状体を移動することができ、ネット又はシート等の吊張体の荷重にかかわらずワイヤロープ等の紐状体をスムーズに移動することができる」という効果を奏するものと解される。

(2)イ号物件における「別体のドラム」及び「2個のローラー」について
イ号物件における「別体のドラム」及び「2個のローラー」について、これらを調整する際の態様に基づいて検討すると以下の構成となる。
a)イ号物件において、その「別体のドラム」の直径を拡大するように調整してみると、「2個のローラー」の内、下側の「ローラー」がワイヤロープを上側で維持する外側に位置することから、ワイヤロープの取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を狭める構成、すなわち押圧する構成。
b)同じくイ号物件において、反対に、その「別体のドラム」の直径の幅を縮小するように調整してみると、「2個のローラー」の内、上側の「ローラー」の上側と、「別体のドラム」の下側とで、上記移動幅間を維持する構成。
c)同様にイ号物件において、その「2個のローラー」の幅を縮小するように調整してみると、「2個のローラー」の内、下側の「ローラー」がワイヤロープを上側で維持する外側に位置することから、上記移動幅間を狭める構成、すなわち押圧する構成。
d)同じくイ号物件において、反対に、その「2個のローラー」の幅を拡大するように調整してみると、「2個のローラー」の内、上側の「ローラー」の上側と、「別体のドラムの直径」の下側とで、上記移動幅間を維持する構成。
そうすると、イ号物件は、「別体のドラムの径又は2個のローラーの幅を拡大することでワイヤロープの取り込み移動側と取り出し移動側とのループ状に移動する架設間の移動幅間を広げたり、或いは別体のドラムの径又は2個のローラーの幅を縮小することで上記移動幅間を狭くしたり調整する」場合において、「2個のローラーの内、下側のローラーで押圧する構成」及び「2個のローラーの内、上側のローラーの上側と、別体のドラムの下側とで、上記移動幅間を維持する構成」であるといえる。

(3)イ号物件の構成cが、本件特許発明の構成要件Cを充足するかについてのまとめ
以上によれば、イ号物件は、「架設間の移動幅間を調整ドラムの直径L又は複数の調整ドラムの幅を用いて押圧することなく一定に維持すべく調整する」ものとは解されないので、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

3 請求人の主張について
イ号物件が、本件特許発明の構成要件Cを充足することについて、請求人は、上記第3における1(2)に記載したとおり主張しているが、本件特許発明の構成要件Cについては、上記2(1)で検討したとおり解することが相当であり、このような解釈と矛盾し、審査経過における主張と一致しない、請求人の主張を採用することはできない。

4 まとめ
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びB並びにDを充足するものの、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

第5 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。


 
判定日 2010-03-16 
出願番号 特願2008-122744(P2008-122744)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (B66D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 良憲  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 加藤 友也
志水 裕司
登録日 2009-07-17 
登録番号 特許第4341057号(P4341057)
発明の名称 ウインチ及びウインチを用いたネット又はシート等の吊張体の移動システム  

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