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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1214973
審判番号 不服2007-30437  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-08 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 平成11年特許願第280704号「セルロースエステルフイルム、光学補償シートおよび楕円偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月13日出願公開、特開2001-100039〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成11年9月30日になされた出願である。平成19年7月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年9月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものの、同年10月4日付けで拒絶査定がなされた。この査定に対し、同年11月8日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出された。



第2 平成19年11月8日付け手続補正についての補正の却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕

平成19年11月8日付け手続補正を却下する。

〔理由〕

1.本件補正の目的

(1-1)本件補正後の特許請求の範囲
平成19年11月8日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前(平成19年9月13日付け手続補正によって補正した。以下、同じ。)の特許請求の範囲の記載を以下のとおり補正することを含むものである(下線は補正箇所を示す)。

(本件補正後の特許請求の範囲)
「 【請求項1】 機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであることを特徴とするセルロースエステルフイルム。
【請求項2】 ソルベントキャスト法により製造された請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項3】 ソルベントキャスト法の乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる場合は機械方向には実質的に延伸しないことを条件にして、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度となる場合は残留溶媒量が5乃至3重量%の状態であることを条件にして、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸して製造された請求項2に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項4】 機械方向に垂直な方向の延伸率/剥ぎ取り時に機械方向に延伸されることを加えた機械方向の延伸率の比が、0.70乃至8.0となるように延伸して製造された請求項3に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項5】 芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項6】 光学的に負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行である請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項7】 機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであるセルロースエステルフイルムからなる光学補償シート。
【請求項8】 透明支持体および液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償シートであって、透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする光学補償シート。
【請求項9】 透明保護膜、偏光膜および光学異方性透明支持体がこの順に積層されている楕円偏光板であって、光学異方性透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする楕円偏光板。
【請求項10】 透明保護膜、偏光膜、透明支持体および液晶性分子から形成された光学異方性層がこの順に積層されている楕円偏光板であって、透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする楕円偏光板。」

(1-2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成19年9月13日付けの手続補正により、下記のとおりのものとなっていた。

(本件補正前の特許請求の範囲)
「 【請求項1】 機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であることを特徴とするセルロースエステルフイルム。
【請求項2】 ソルベントキャスト法により製造された請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項3】 ソルベントキャスト法の乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる場合は機械方向には実質的に延伸しないことを条件にして、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度となる場合は残留溶媒量が5乃至3重量%の状態であることを条件にして、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸して製造された請求項2に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項4】 機械方向に垂直な方向の延伸率/剥ぎ取り時に機械方向に延伸されることを加えた機械方向の延伸率の比が、0.70乃至8.0となるように延伸して製造された請求項3に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項5】 芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項6】 面内のレターデーション値が-50乃至50nmである請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項7】 厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmである請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項8】 光学的に負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行である請求項1に記載のセルロースエステルフイルム。
【請求項9】 機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であるセルロースエステルフイルムからなる光学補償シート。
【請求項10】 透明支持体および液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償シートであって、透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする光学補償シート。
【請求項11】 透明保護膜、偏光膜および光学異方性透明支持体がこの順に積層されている楕円偏光板であって、光学異方性透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする楕円偏光板。
【請求項12】 透明保護膜、偏光膜、透明支持体および液晶性分子から形成された光学異方性層がこの順に積層されている楕円偏光板であって、透明支持体が、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であるセルロースエステルフイルムであることを特徴とする楕円偏光板。」


(1-3)本件補正の目的について
請求項1に係る補正は、本件補正前の「セルロースエステルフイルム」について、「面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmである」という限定をする補正を内容とするものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
また、本件補正により請求項5の形式的な記載は補正されていないものの、本件補正後の請求項5は、補正後の請求項1を引用するものであるから、本件補正は、請求項1の補正をすることにより、実質的に請求項5についても、本件補正前の「セルロースエステルフイルム」について「面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmである」という限定をする補正をしていると認められる。したがって、本件補正は、請求項5について、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。

そこで、本件補正後の請求項5に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下に検討する。


2.本願補正発明

本願補正発明は、次のとおりのものである。
<本願補正発明>
「 芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む、
機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であり、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであることを特徴とするセルロースエステルフイルム。」


3.刊行物及び各刊行物の記載事項

(3-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平11-183724号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項の記載がある(下記「(3-2)引用発明の認定」及び「5.相違点の検討・判断」において特に関連する部分に下線を引いた。)。

(3-1-1)【特許請求の範囲】の欄
「【請求項1】 下記(1)、(2)及び(3)
(1)R値:0≦R値≦30nm
(2)K値:100≦K値≦600nm
(3)遅相軸の角度:0≦|遅相軸の角度|≦30度
を満足し、1m四方の中の100ヵ所の上記(1)及び(2)のバラツキが5nm以下であることを特徴とする高分子樹脂位相差フィルム。
【請求項2】 高分子樹脂がポリカーボネートである請求項1記載の高分子樹脂位相差フィルム。
【請求項3】 溶媒を含有した高分子樹脂フイルムを、逐次又は同時二軸延伸して高分子樹脂位相差フイルムを製造する方法に於いて、溶媒の含有量が10?20重量%であることを特徴とする高分子樹脂位相差フイルムの製造方法。
【請求項4】 該二軸延伸が横縦逐次延伸であり、第1次延伸が延伸温度(Tg+50)?(Tg+100)℃、延伸倍率1.05?1.15倍に横方向に延伸し、第2次延伸が延伸温度(Tg’+5)?(Tg’+15)℃、延伸倍率1.01?1.04倍に縦方向に延伸する請求項3記載の高分子樹脂位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】 該二軸延伸が縦横逐次延伸であり、第1次延伸が延伸温度(Tg)?(Tg+20)℃、延伸倍率1.03?1.13倍に縦方向に延伸し、第2次延伸が延伸温度(Tg’+5)?(Tg’+15)℃ 延伸倍率1.03?1.13倍に横方向に延伸する請求項3記載の高分子樹脂位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】 縦延伸が空気浮遊加熱方式の延伸機で行われ、横延伸がピンテンター方式の横延伸機で行われる請求項3?5に記載のいずれかの高分子樹脂位相差フィルムの製造方法。」

(3-1-2)段落【0001】?【0012】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高分子樹脂のフィルムを延伸して製造した位相差フィルム並びにその位相差フィルムを製造する方法に関する。さらに詳細には、溶媒を含有した熱可塑性高分子樹脂フィルムを特定の条件にて少なくとも二軸方向に延伸して特定の光学特性値を持ちかつその特性値のバラツキが充分に小さい位相差フィルム並びにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】熱可塑性高分子フィルムによる位相差板は防眩材料として、また、液晶表示装置における位相差補償板としてその用途が広がっている。高分子フィルムの位相差板としては、各種の高分子フィルムを一軸延伸することによって製造する方法が知られている。一般には固有複屈折性の大きいポリカーボネート系樹脂を一軸延伸したものが用いられている。
【0003】また、位相差用フィルムとして面内のレターデション値と厚み方向のレターデーション値とを規定した位相差フィルム及び液晶化合物積層タイプ用の位相差フィルム用透明支持体等が使用されている。例えば、液晶化合物積層用位相差フィルム(透明支持体)としては、特定の面内レターデーション値と厚み方向レターデション値とを持つものが用いられている。
【0004】これは、位相差補償板とした時の光学特性を積層する液晶化合物と透明支持体との複合効果とによって発揮させ液晶表示装置の視野角拡大をせしめようとしたものである。例えば、液晶化合物としてデイスコテイック液晶化合物を特定の光学特性を持つ透明支持体上に積層したものが知られている。
【0005】なお、本発明においては、フィルム面内において、遅相軸方向の屈折率をNx、進相軸方向の屈折率をNy、厚み方向の屈折率をNzと表示するものとする。更にフィルムの厚みをdとする。また、面内のレターデーション値R(以下R値と略称)をR値=(Nx-Ny)*d(単位nm)、厚み方向のレターデーション値K(以下K値と略称)をK値={(Nx+Ny)/2-Nz}*d(単位nm)で表示するものとする。
【0006】本発明で求めるごとき位相差用フィルムの備えるべき特性は次の点が特記される。
1)透明性が優れることに加えて、フィルムの外観欠点、例えば擦り傷やスクラッチ、フィルムの波打ち等が無く平坦性が良いこと。
【0007】2)特定範囲のR値とK値を持ち、かつR値並びにK値の分布が均一であること。液晶表示画面の大型化にともなって、部材を大型化する必要が有り各種の問題が顕在化している。すなわち、フィルムの小さい範囲でなら比較的容易に制御できた特性値も、大型化にともなって、より広く大きいフィルムでの特性の均一性が要求されている。
【0008】3)更に、位相差フィルムを使用する場合に特に液晶化合物をこのフィルム(透明支持体)面上に積層して用いる場合のように、液晶化合物と透明支持体との複合効果によって光学特性(視野角拡大効果)を発揮させようとする場合遅相軸の均一性が問題になる場合がある。即ち、透明支持体の遅相軸の分布が該透明支持体の大きな面積において均一でない場合には複合材料としての性能が発揮されなくなる。
【0009】液晶化合物を位相差フィルム(透明支持体)に積層して位相差板を作る場合、積層工程においても不均一な特性は拡大され易い傾向にあるので、基板となる透明支持体(位相差フィルム)にも高度な特性の均一性が要求される。
【0010】従来の技術として、フィルム面内では比較的等方性(低いR値)であって、厚み方向において特定のレターデーション値(K値)を持つ位相差フィルムおよびその製造方法に関し、いくつかの技術が開示されている。例えば、特開H6-337313号公報には、位相差膜の製造方法として 高分子を逐次二軸延伸し長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係になるようにするフィルム延伸方法が開示されている。具体的には流延法で作ったポリカーボネート樹脂フィルムを用い、ロール間で引っ張り延伸法によって、一次縦延伸を行ない,次工程でテンター横一軸延伸により延伸する縦横逐次延伸法が記載されている。この際フィルムの長手方向の屈折率をNmd、幅方向の屈折率をNtd、厚み方向の屈折率をNzとする時Nmd≒ Ntd> Nzなるフィルムの製造法の具体例が記載されている。
【0011】この方法によれば、ポリカーボネートを高分子フィルムとして用いる場合、確かにNmd≒ Ntd> Nzフィルム、即ちR値の低いかつK値の大きい二軸延伸フィルムを作りうる、しかしながらR値並びにK値の特性が大面積のフィルム内でで均一であるフィルムを製造することは困難であった。
【0012】なお、この先行技術における屈折率の表示方法を本発明の屈折率の表示方法で表示すると、R値=(Nmd-Ntd)*d,K値={(Nmd+Ntd)/2-Nz}*dとなる。Nmd≒Ntd>NzであるからR値は低くかつK値は大と言うことが出来る。」

(3-1-3)段落【0017】?段落【0021】
「【0017】小面積のフィルムであれば 従来技術によっても本願発明のR値、並びにK値を持つ位相差フィルムを作ることができたが、大面積でかつ光学特性の均一性のよいフィルムを得ることはできなかった。即ち大面積にてフィルムを連続的に製造する際に起こる微細構造発生の不均一さの問題を解決してR値、K値並びに遅相軸角度の均一なフィルムを製造する方法については未だ課題が残されている。
【0018】本発明の目的とする如き光学特性を持つフィルムを製造するには、フィルムの3次元屈折率(Nx,Ny並びにNz)を制御する必要がある。即ち、
(○1)面内レターデション値Rを極力小さくし(NxとNyとを極力近ずける)かつ、(○2)厚み方向のレターデーション値Kを大きくするために高分子のいわゆる面配向を向上(Nzを小さくする)させることが必要である。また、
(○3)遅相軸の角度についてはR値が著しく小さければ(即ちフィルム面内の等方性が著しく良ければR値=0nm)実用上問題はなくなるが、R値がある程度高い例えばR値=15nm程度以上になると実用上の影響が出てくると表示装置の側からいわれている。この意味で遅相軸の角度並びにそのバラツキを小さく制御する必要が出てくる。
【0019】R値を低下させるのみであればフィルムを極力低張力下で熱緩和させれば大面積で均一な光学特性(R値のバラツキが実質上無い)のものを工業的に製造しうることが知られている。しかしながら、この方法によるとK値は比較的低い値のものしか得られず、また狭いK値の範囲でしか変えることが出来ない。この低張力熱緩和法においては 高分子が固有に持っている分子鎖の面配向性により制約を受け、本発明におけるR値とK値とを同時に満足し、かつこれらのバラツキが特に小さいフィルムを作ることには限界がある。
【0020】一方R値を極力小さくする他の方法として、延伸によって実現する方法がある。即ちフィルム面内で分子配向の異方性を極力生じないように延伸することによって低いR値は達成できる。この場合、フィルム内での高分子鎖の面配向が向上するから(厚み方向の屈折率Nzが低下するから)その結果厚み方向のレターデーションK値を同時に大きくすることができる。即ち縦横の延伸倍率をできる限り高くし(フィルム面内でのNxとNyとをほぼ等しくしたまま)して延伸すればNzを小さくできるのでR値とK値とをある程度自由に変えることが出来る。
【0021】しかし、実際上は逐次延伸によって低R値(面内の配向バランス極力よくするため、NxとNyとを極力近ずける)並びにその均一性を大面積のフィルムで実現するのは製造上はきわめて難しかった。」

(3-1-4)段落【0023】?【0034】
「【0023】
【発明が解決しようとする課題】本願発明は上述の如き問題点に着目してなされたものである。R値K値並びに遅相軸が特定の値を持ちかつ広い面積に渡りそのバラツキが充分に小さい、視野角特性にも優れた、高性能の位相差フィルム並びに液晶化合物積層用位相差フィルム(透明支持体)並びにその製造方法を提供しようとするものである。
【0024】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは上記課題を解決するため、フィルムの延伸のメカニズムを鋭意検討の結果、特定の溶媒量を含有した高分子樹脂フィルムを特定の延伸温度、倍率にて縦-横、又は横-縦に逐次二軸延伸することにより本願発明のフィルムを製造しうることを見出し本願発明に到達したものである。
【0025】本発明者等はフィルムに特定量の溶媒を含有させた状態で逐次延伸することによって、即ち、
(○1)高分子樹脂に比較的高い濃度の溶媒を含有させて可塑化することにより均一な延伸を行うことができる、
(○2)逐次延伸において、1次延伸と2次延伸の条件を好ましい条件で組合わせることによって屈折率を制御できるばかりでなくフィルムの広い面積においてもこの屈折率の分布を均一にすることができる、
(○3)更に また上記(○1)及び(○2)項によってフィルムの遅相軸の角度及びその均一さを広い面積に渉って制御できる、ことを見出し本発明に到達したものである。
【0026】即ち本発明は[1] 下記(1)、(2)及び(3)
(1)R値:0≦R値≦30nm
(2)K値:100≦K値≦600nm
(3)遅相軸の角度:0≦|遅相軸の角度|≦30度
を満足し、1m四方の中の100ヵ所の上記(1)及び(2)のバラツキが5nm以下であることを特徴とする高分子樹脂位相差フィルム、及び[2]溶媒を含有した高分子樹脂フイルムを、逐次又は同時二軸延伸して高分子樹脂位相差フイルムを製造する方法に於いて、溶媒の含有量が10?20重量%であることを特徴とする高分子樹脂位相差フイルムの製造方法、並びに[3]該二軸延伸が横縦逐次延伸であり、第1次延伸が延伸温度(Tg+50)?(Tg+100)℃、延伸倍率1.05?1.15倍に横方向に延伸し、第2次延伸が延伸温度(Tg’+5)?(Tg’+15)℃、延伸倍率1.01?1.04倍に縦方向に延伸する上記[2]項 記載の高分子樹脂位相差フィルムの製造方法、並びに[4]該二軸延伸が縦横逐次延伸であり、第1次延伸が延伸温度(Tg)?(Tg+20)℃、延伸倍率1.03?1.13倍に縦方向に延伸し、第2次延伸が延伸温度(Tg’+5)?(Tg’+15)℃、延伸倍率1.03?1.13倍に横方向に延伸する上記[2]項 記載の高分子樹脂位相差フィルムの製造方法である。
【0027】本発明のフィルムは、規定量の溶媒を含有したフィルムを逐次に少なくとも二方向に特定の条件で延伸することにより、即ち特定の条件下で縦方向延伸し、ついでピンテンターで横延伸し、その後要すれば懸垂型乾燥機により乾燥処理することにより(縦横逐次二軸延伸法)、また、規定量の溶媒を含有したフィルムを特定の条件下でピンテンターにて横延伸、ついで縦延伸し、その後要すれば懸垂型乾燥機により乾燥処理することにより(横縦逐次二軸延伸法)製造することが出来る。
【0028】より詳細には、本発明は
a)下記(1)、(2)及び(3)
(1)R値:0≦R値≦30nm
(2)K値:100≦K値≦600nm
(3)遅相軸の角度:0≦|遅相軸の角度|≦30度
を満足し、1m四方の中の100ヵ所の上記(1)及び(2)のバラツキが5nm以下であることを特徴とする高分子樹脂位相差フィルム、である。R値の好ましい範囲は、20nm以下であり、k値の好ましい範囲は150?450nmである。また、|遅相軸の角度|の好ましい範囲は0≦|遅相軸の角度|≦25度である。
【0029】本願発明はまた、上記高分子樹脂位相差フイルムの製造方法であり、それは溶媒を含有した高分子フィルムを二軸延伸することにより位相差フィルムを製造する方法において、好ましくは以下の縦横又は横縦逐次二軸延伸法である。
……(中略)……
【0034】(高分子種)本発明において用いられる高分子については、希望するフィルムの諸特性が得られるものであれば特に制約はない。高分子としては例えばポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリスチレン、トリアセチルセルロースなど従来公知のもので溶液流延法で製膜できるものが挙げられる。すなわち溶液流延法に必要な濃度、粘度を持った溶液を形成する高分子溶液であれば本発明方法に適用できる。これらのなかでも特にポリカーボネートが好ましい。」(当審注:段落【0018】及び【0025】の「(○1)」、「(○2)」、「(○3)」は、公報では○の中に数字。))

(3-1-5)段落【0073】?【0087】
「【0073】[実施例1、2、3]
横縦逐次二軸延伸の実施例
帝人化成(株)製のポリカーボネート(商品名パンライトC-1400QJ、粘度平均分子量3.8万、メチレンクロライドを含まないポリマーのガラス転移点は159℃であった。)をメチレンクロライドに溶解し20重量%の溶液を作成した。これをスチールベルト上に流延し乾燥し、厚み斑の小さいフィルムとなし、ベルト面より剥ぎ取った。このフィルムの特性の縦延伸入り口直前での値は次の通りであった。
含有溶媒量 :16%、
Tg :47℃
フィルム厚み :105μm
フィルムの幅 :1200mm
【0074】このフィルムを、ピンテンターで把持し、ピンテンター入り口のフィルム幅方向の端部を、把持幅がフィルム幅とほぼ同じになるようにしてフィルム幅方向両端を把持された(通常はピンで突き刺し固定して搬送する)状態でフィルムの幅方向に延伸した。その際にフィルム雰囲気温度を130℃になるように加熱しピンテンターのフィルム把持幅を段階的に拡大して1.13倍まで延伸した。即ち6つのゾーンを持つピンテンターにより、最初の延伸ゾーンから5番目までのゾーンをその把持部を直線的に拡大して1.13倍になるよう延伸した。6番目のゾーンでは把持幅を横延伸の最終ゾーン(5番目のゾーン)と同じくなるようにした。
【0075】延伸終了後のフィルムを把持したままで室温まで冷却し、ピンテンター出口にて両エッジ部を50mmずつ切除した。
【0076】かくして得られたフィルムの特性値は下記の通りであった。
厚 み : 95μm
含有溶媒量 :1.2%
Tg‘ :143℃
【0077】これを更に縦延伸工程に通膜して、延伸倍率を1.02倍に固定し、延伸温度を3水準で変えた。即ち、延伸温度148℃(実施例1とする)、延伸温度151℃(実施例2とする)延伸温度155℃(実施例3とする)である。その後当該フィルムを冷却工程で室温まで冷却して横縦逐次二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性値は下表1の通りであった。
……(中略)……
【0079】なお、フィルムの厚みは93μmであった。これらのフィルムにおいて、R値、K値及び遅相軸の値並びにそれらのバラツキの範囲を見た時にこれらの値を満足する製品フィルムの取り得る製品幅(フィルム幅の実長さ、元の延伸前フィルムの幅に対する比率(%表示))は、実施例1:500mm(42%)、実施例2:800mm(67%)そして実施例3:1000mm(83%)であった。これらのフィルムは位相差フィルムとしての光学特性値、R値、K値 遅相軸の角度並びにこれらの均一性がフィルム面の大きな面積において優れたものであった。
【0080】[実施例4]
縦横逐次延伸の実施例
実施例1と同じポリカーボネートフィルムを作成して縦横逐次延伸を実施した。このフィルムの延伸工程入り口直前の特性は実施例1に記載したものと同じ値であった。このフィルムを縦延伸工程に通し、延伸倍率1.10倍、フィルムの雰囲気温度60℃となるようにしてフィルムを延伸処理した。
【0081】この一次延伸されたフィルムの横延伸入り口直前での特性値は下記の通りであった。
含有溶媒量 :3.0%
Tg’ :126℃
フィルム厚み:95μm
【0082】次いで、このフィルムを、ピンテンターで把持し、6個のゾーンを持つオーブン中に送入して延伸した。フィルム幅方向の端部をピンテンター入り口において把持幅をフィルム巾とほぼ同じとし入り口から後半に向かって、5番目のゾーンまで順次把持幅を拡大して延伸した。即ち、延伸温度135℃、延伸倍率1.12倍にて延伸した。ピンテンターオーブンを出た後のフィルムを把持幅を固定したまま室温の空気を吹き付けて冷却した。
【0083】次いでフィルムを把持したまま室温まで空冷しピンテンター出口にて両エッジ部を50mmずつ切除して製品としてこのフィルムの溶媒含有量は1.5%であった。またTg’は140℃であった。
【0084】このフィルムをさらに懸垂型乾燥機処理工程、を含有溶媒量が1.0重量%以下になるまで通してロール状に巻き取った。
【0085】懸垂型乾燥機処理工程の条件は
熱風温度 :120℃、
フィルムに掛けた張力 :1.5Kg/cm^(2)、
であった。
【0086】かくして得られた製品フィルムの特性値は下記の通りであった。
フィルムの厚み :86μm
R値並びにR値のバラツキ:27nm、6nm。
K値並びにK値のバラツキ :260nm、7nm。
遅相軸並びにそのバラツキ:-20?+26度
このフィルムにおいて、R値、K値及び遅相軸の値並びにそれらのバラツキの範囲を見た時にこれらの値を満足する製品フィルムの取り得る製品幅(フィルム幅の実長さ、元の延伸前フィルムの幅に対する比率(%表示))は、58%であった。
【0087】これらのフィルムは位相差フィルムとしての光学特性値、R値、K値 遅相軸の角度並びにこれらの均一性がフィルム面の大きな面積において優れたものであった。」


(3-2)引用発明の認定
引用例1の従来技術の記載として、「位相差膜の製造方法として 高分子を逐次二軸延伸し長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係になるようにするフィルム延伸方法が開示されている。…(中略)…この方法によれば、ポリカーボネートを高分子フィルムとして用いる場合、確かにNmd≒ Ntd> Nzフィルム、即ちR値の低いかつK値の大きい二軸延伸フィルムを作りうる、しかしながらR値並びにK値の特性が大面積のフィルム内でで均一であるフィルムを製造することは困難であった。」(前記摘記事項(3-1-2)の段落【0010】及び【0011】参照)があり、これを踏まえて、引用例1に記載の高分子樹脂位相差フィルムの製造方法では溶媒を含有した高分子樹脂フィルムを逐次又は同時二軸延伸しているのであるから、引用例1に記載の高分子樹脂位相差フィルムは、R値及びK値が所定の条件範囲を満足するように溶媒を含有した高分子樹脂フイルムを逐次又は同時二軸延伸して製造した高分子樹脂位相差フイルムが記載されていると認められる。
そうすると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「 (1)R値:0≦R値≦30nm
(2)K値:100≦K値≦600nm
を満足する高分子樹脂位相差フィルムであって、
R値及びK値が上記の範囲の値となるように、溶媒を含有した高分子樹脂フイルムを逐次又は同時二軸延伸して製造した高分子樹脂位相差フイルム。 ただし、(面内のレターデーション値)R値=(Nx-Ny)*d(単位nm)、(厚み方向のレターデーション値)K値={(Nx+Ny)/2-Nz}*d(単位nm)。ここで、フィルム面内において遅相軸方向の屈折率をNx、進相軸方向の屈折率をNy、厚み方向の屈折率をNz、フィルムの厚みをdとする。」


(3-3)引用例2

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、欧州特許出願公開第0911656号明細書(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(下記「5.相違点の検討・判断」のところにおいて特に関連する部分に下線を引いた。)。

(3-3-1)第3頁第19-23行
「[0015] The present inventors have succeeded on preparation of a
cellulose ester film having a Rth^(550) retardation value in the range
of 70 to 400 nm. The film can be prepared by (1) using a retardation
increasing agent, (2) adjusting an acetic acid content of cellulose
acetate, or (3) a specific film forming method. The methods (1) to
(3) of increasing the retardation value are described below. The
obtained cellulose ester film can be used as an optically
anisotropic support of an optical compensatory sheet.
『[0015] 発明者は、Rth^(550)レターデーション値が70から400nmの範囲のセルロースエステルフイルムの製造に成功した。フィルムは、(1)レターデーション上昇剤の使用、(2)セルロースアセテートの酢酸の量の調整、(3)特定のフィルムの形成方法、により製造することができる。レターデーション値を上昇させる(1)から(3)の方法は、後述する。得られたセルロースエステルフイルムは、光学補償シートの光学的異方性を有する支持体として用いることができる。』(『』内は当審による邦訳、以下同様。)」」

(3-3-2)第4頁第26-47行
「[Retardation values of cellulose ester support]
[0023] The cellulose ester support of the present invention has a
Rth^(550) retardation value in the range of 70 to 400 nm. The Rth^(550)
retardation value is defined by the following formula.
Rth ^(550 ) = [{(nx + ny)/2} - nz] × d
in which each of nx and ny is the principal refractive index
measured by light of 550 nm in plane of the support; nz is the
principal refractive index measured by light of 550 nm along the
thickness direction of the support; and d is the thickness of the
support.
[0024] The Rth^(550) retardation value is preferably in the range of
100 to 400 nm, more preferably in the range of 150 to 400 nm,
further preferably in the range of 200 to 400 nm, further more
preferably in the range of 200 to 300 nm, and most preferably in
the range of 200 to 250 nm.
[0025] The Rth retardation value means a value of a birefringence
along a thickness direction divided by a thickness.
[0026] The cellulose ester support preferably has a Re^(550)
retardation value in the range of 20 to 300 nm. The Re^(550)
retardation value is defined by the following formula:
Re^(550) = |nx - ny| × d
in which each of nx and ny is the principal refractive index
measured by light of 550 nm in plane of the support; and d is the
thickness of the support.
[0027] The Re^(550) retardation value is more preferably in the range
of 30 to 300 nm.
『[セルロースエステル支持体のレターデーション値]
[0023] この発明のセルロースエステル支持体は、70から400nmの範囲のRth ^(550 )レターデーション値を有する。Rth ^(550 )レターデーション値は次式で定義される:
Rth^(550 ) =[{(nx + ny)/2} - nz] × d
ここで、nxとnyは550nmの光で測定された支持体平面内の主屈折率である。nzは550nmの光で測定された支持体の厚み方向の主屈折率である。そしてdは支持体の厚みである。
[0024] Rth^(550)レターデーション値は、好ましくは100から400nmの範囲、より好ましくは150から400nmの範囲、更に好ましくは200から400nmの範囲、更により好ましくは200から300nmの範囲、最も好ましくは200から250nmの範囲である。
[0025] Rthレターデーション値は厚み方向の複屈折率に厚みを掛けた値を意味する。
[0026] セルロースエステル支持体は、好ましくは、20から300nmの範囲のRe^(550)レターデーション値を有する。Re^(550)レターデーション値は次式で定義される:
Re^(550) =|nx - ny| × d
ここで、nxとnyは550nmの光で測定された支持体平面内の主屈折率である。そしてdは支持体の厚みである。
[0027] Re^(550)レターデーション値は、より好ましくは、30から300nmの範囲である。』」(当審注:[0025]の直訳では「割った値」であるが、「掛けた値」の誤記であると認める。)

(3-3-3)第5頁第24-44行
「[0035] A cellulose ester support having a high Rth^(550) retardation
value can be prepared by (1) using a retardation increasing agent,
(2) adjusting an acetic acid content of cellulose acetate, or (3) a
specific film forming method. The method (2), namely cellulose
acetate having an acetic acid content in the range of 55.0% to 58.0%
is described above at the item of Cellulose ester. The method (1),
namely a retardation increasing agent is described below. The method
(3), namely a cooling dissolution method is also described below.
Two or more methods can be used in combination.
[0036] The Re^(550) retardation value of the cellulose ester film can
be adjusted by stretching the film. The method of stretching the
film is also described below.

[Retardation increasing agent]
[0037] A retardation increasing agent can be used to obtain a
cellulose ester support having a high Rth^(550) retardation value. The
retardation increasing agent means a compound having a function of
increasing the Rth^(550) retardation value of a cellulose ester film
twice (usually twice to 10 times) based on a film to which the
compound is not added. The amount of the compound should be so
adjusted that a large amount of the compound does not cause a
problem, such as a problem of bleeding out. The amount of the
retardation increasing agent is usually in the range of 0.3 to 20
weight parts based on 100 weight parts of cellulose ester.
[0038] A compound having at least two aromatic rings can be used as
the retardation increasing agent. The compound having at least two
aromatic rings has a plane of a πbond of at least seven carbon
atoms. The retardation increasing agent preferably has a molecular
structure that does not cause a steric hindrance of the
configuration between the two aromatic rings. According to study
of the present inventors, one aromatic plane is preferably formed
by two or more aromatic rings to increase a retardation value of a
cellulose ester film.
『[0035] 高いRth^(550)レターデーション値のセルロースエステル支持体は、(1)レターデーション上昇剤の使用、(2)セルロースアセテートの酢酸の量の調整、(3)特定のフィルムの形成方法、により製造することができる。(2)の方法、すなわち、55.0%?58.0%の範囲の酢酸量を有するセルロースアセテートについては、セルロースエステルの項目で上述した。(1)の方法、すなわちレターデーション上昇剤については後述する。(3)の方法、すなわち、冷却溶解法についても後述する。二つ以上の方法を併用することができる。
[0036] セルロースエステルフイルムのRe^(550)レターデーション値は、フィルムの延伸により調整され得る。フィルムの延伸方法についても後述する。

[レターデーション上昇剤]
[0037] 高いRth^(550)レターデーション値を有するセルロースエステル支持体を得るために、レターデーション上昇剤を用いることができる。レターデーション上昇剤とは、それが添加されなかったフィルムをベースとして、セルロースエステルフィルムのRth^(550)レターデーション値を2倍(通常2倍から10倍)増加する作用を有する化合物を意味する。多量の化合物がブリーディングアウトのような問題を生ずることのないように化合物の量が調整される。レターデーション上昇剤の量は通常、セルロースエステル100重量部に対して、0.3から20重量部の範囲である。
[0038] 芳香族環を少なくとも二つ有する化合物がレターデーション上昇剤として使用し得る。少なくとも二つの芳香族環を有する化合物は、少なくとも炭素原子7個分のπ結合の平面を有する。レターデーション上昇剤は好ましくは、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する。本発明者の研究によれば、複数の芳香族環により芳香族環の平面が形成され、セルロースエステルフイルムのレターデーションを上昇させる。』」

(3-3-4)第25頁第14-23行
「[Stretch of film]
[0112] The obtained cellulose ester film can be stretched to
increase the Re retardation value of the film. The stretching
process can be conducted at room temperature or at an elevated
temperature, which preferably is not higher than the glass
transition temperature of the film.
[0113] The film can be stretched by using a tenter while drying the
film. The film can be stretched while conveying the film by rollers.
For example, the film is stretched where a second roller is faster
than the first roller. Further, the film can also be stretched by
using a stretching machine after drying the film. An uniaxial
stretching is preferred.
[0114] The stretch ratio (the ratio of the increase of the length or
width to the original length or width) is preferably in the range of
10 to 30%.
『[フィルムの延伸]
[0112] 得られたセルロースエステルフィルムはフィルムのReレターデーション値を上昇させるために延伸され得る。延伸のプロセスは室温又はフィルムのガラス転移温度よりも好ましくは高くない、室温より高い温度で実施され得る。
[0113] フイルムは、テンターを用いることにより乾燥中に延伸することができる。フィルムはローラによって搬送中に延伸することができる。例えば、第1のローラに比較して第2のローラーが速い場合にフィルムは延伸される。さらに、フィルムはフィルムの乾燥後に延伸機を用いることによっても延伸することができる。一軸延伸が好ましい。
[0114] 延伸倍率(元の長さ又は幅に対する長さ又は幅の増加分の比率)は、好ましくは10から30%の範囲である。』」

(3-3-5)第46頁第24行-第50頁第26行
「PRELIMINARY EXPERIMENT 10

[0319] With 45 weight parts of cellulose acetate (average acetic
acid content: 60.9%), 0.90 weight parts of the retardation
increasing agent (5), 232.72 weight parts of methylene chloride,
42.57 weight parts of methanol and 8.50 weight parts of n-butanol
were mixed at room temperature to prepare a solution.
[0320] The obtained solution (dope) was cast on a band using a band
casting machine (effective length: 6 m). The dry thickness of the
formed film was 100 μm.
[0321] The Rth retardation values of the obtained film was measured
by using an ellipsometer (M-150, Japan Spectrum Co., Ltd.). The
wavelength of light was 550 nm. The results are set forth in Table
4.

PRELIMINARY EXPERIMENT 11
[0322] A cellulose ester film was prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiment 10, except that the
retardation increasing agent (5) was not used. The results are set
forth in Table 4.

PRELIMINARY EXPERIMENTS 12 to 20
[0323] Cellulose ester films were prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiment 10, except that 0.90 weight
parts of the retardation increasing agents (6), (7), (31), (36),
(37), (38), (44), (50) and (81) were used in place of the agent (5)
respectively. The results are set forth in Table 4.

PRELIMINARY EXPERIMENTS 21 to 24
[0324] Cellulose ester films were prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiment 10, except that 0.90 weight
parts of the following comparative compounds (x1), (x2), (x3) and
(x4) were used in place of the agent (5) respectively. The results
are set forth in Table 4.
……(中略)……

TABLE 4
Film Retardation increasing agent Rth^(550) retardation value
10 (5) 181 nm
11 None 20 nm
12 (6) 200 nm
13 (7) 222 nm
14 (31) 99 nm
15 (36) 158 nm
16 (37) 158 nm
17 (38) 166 nm
18 (44) 71 nm
19 (50) 75 nm
20 (81) 80 nm
21 (x1) 30 nm
22 (x2) 30 nm
23 (x3) 30 nm
24 (x4) 30 nm

PRELIMINARY EXPERIMENT 25
[0325] With 45 weight parts of cellulose acetate (average acetic
acid content: 60.9%), 0.90 weight parts of the retardation
increasing agent (3), 2.75 weight parts of triphenylphosphate
(plasticizer), 2.20 weight parts of biphenyldiphenyl phosphate
(plasticizer), 232.72 weight parts of methylene chloride, 42.57
weight parts of methanol and 8.50 weight parts of n-butanol were
mixed at room temperature to prepare a solution.
[0326] The obtained solution (dope) was cast on a band using a band
casting machine (effective length: 6 m). The dry thickness of the
formed film was 100 μm.
[0327] The Rth retardation values of the obtained film was measured
by using an ellipsometer (M-150, Japan Spectrum Co., Ltd.). The
wavelength of light was 550 nm. The results are set forth in Table
5.

PRELIMINARY EXPERIMENT 26
[0328] A cellulose ester film was prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiment 25, except that the
retardation increasing agent (3) was not used. The results are set
forth in Table 5.

PRELIMINARY EXPERIMENTS 27 to 29
[0329] Cellulose ester films were prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiment 25, except that 0.90 weight
parts of the retardation increasing agents (8), (31) and (75) were
used in place of the agent (3) respectively. The results are set
forth in Table 5.

TABLE 5
Film Retardation increasing agent Rth^(550) retardation value
25 (3) 120 nm
26 None 50 nm
27 (8) 120 nm
28 (31) 180 nm
29 (75) 120 nm

PRELIMINARY EXPERIMENTS 30 to 33
[0330] Cellulose ester films were prepared and evaluated in the same
manner as in the preliminary experiments 25 and 27 to 29, except
that the amount of the retardation increasing agent was changed to
2.00 weight parts. The results are set forth in Table 6.

TABLE 6
Film Retardation increasing agent Rth^(550) retardation value
30 (3) 240 nm
26 None 50 nm
31 (8) 240 nm
32 (31) 300 nm
33 (75) 240 nm

EXAMPLE 15
(Preparation of liquid crystal display of VA mode)
[0331] A liquid crystal display of VA mode was prepared in the same
manner as in Example 1, except that the cellulose ester film
prepared in the preliminary experiment 25 was used as the cellulose
ester support of the optical compensatory sheet.
[0332] Voltage of a square wave was applied to the liquid crystal
cell of the vertical alignment mode. An image was displayed
according to an NB mode (black: 2V, white: 6V). A ratio of the
transmittance (white/black) was measured as a contrast ratio.
The upward, downward, leftward and rightward contrast ratios
were measured by using a meter (EZ-Contrast 160D, ELDIM).
As a result, the contrast ratio (white/black) was 300, and the
viewing angles that can view an image having a contrast ratio of
not smaller than 10 along upward (U), downward (D) leftward (L)
or rightward (R) direction was 70°.

EXAMPLE 16
(Preparation of liquid crystal display of OCB mode)
[0333] A liquid crystal display of OCB mode was prepared in the same
manner as in Example 2, except that the cellulose ester film
prepared in the preliminary experiment 25 was used as the
cellulose ester support of the optical compensatory sheet.
[0334] Voltage of a square wave was applied to the liquid crystal
cell of the optically compensatory bend mode. An image was displayed
according to an NW mode (black: 6V, white: 2V). A ratio of the
transmittance (white/black) was measured as a contrast ratio. The
upward, downward, leftward and rightward contrast ratios were
measured by using a meter (LCD-5000, Ohtsuka Electron Co., Ltd.).
As a result, the viewing angles that can view an image having a
contrast ratio of not smaller than 10 were 80° or more along
upward (U) direction, 58° along downward (D) direction and 66°
along leftward (L) or rightward (R) direction.

EXAMPLE 17
(Preparation of liquid crystal display of HAN mode)
[0335] A liquid crystal display of HAN mode was prepared in the same
manner as in Example 3, except that the cellulose ester film
prepared in the preliminary experiment 25 was used as the
cellulose ester support of the optical compensatory sheet.
[0336] Light was irradiated to the liquid crystal cell of the hybrid
aligned nematic mode along the direction inclined by 20° from the
normal line of the display surface. Voltage of a square wave was
applied to the liquid crystal cell of the hybrid aligned nematic
mode. An image was displayed according to an NW mode (black: 6V,
white: 2V). A ratio of the transmittance (white/black) was measured
as a contrast ratio. The upward, downward, leftward and rightward
contrast ratios were measured by using a meter (bm-7, TOPCON).
As a result, the viewing angles that can view an image having a
contrast ratio of not smaller than 10 were 44° along upward (U)
direction, 26° along downward (D) direction and 39° along
leftward (L) or rightward (R) direction.

EXAMPLE 18
(Stretch of cellulose ester film)
[0337] A cellulose ester film was prepared in the same manner as in
the preliminary experiment 25, except that 1.35 weight parts of the
retardation increasing agent (4) was used in place of 0.90 weight
parts of the retardation increasing agent (3), and the peeling speed
(when the film is peeled off the band) and the rolling speed (when
the formed film is rolled) was so adjusted that the ratio of the
peeling speed to the rolling speed was 1:1.1. Thus, the film was
stretched.
[0338] The Re^(550) retardation value of the stretched film was 30 nm. The Rth^(550) retardation value was 240 nm.

(Preparation of optical compensatory sheet)
[0339] An optical compensatory sheet was prepared in the same manner
as in Example 15, except that the stretched film was used as the
support and the coating amount of the optically anisotropic layer
was increased twice.

(Preparation of liquid crystal display of VA mode)
[0340] A liquid crystal display of VA mode was prepared in the same
manner as in Example 15, except that the above-prepared optical
compensatory sheet was used.
[0341] Voltage of a square wave was applied to the liquid crystal
cell of the vertical alignment mode. An image was displayed
according to an NB mode (black: 2V, white: 6V). A ratio of the
transmittance (white/black) was measured as a contrast ratio. The
upward, downward, leftward and rightward contrast ratios were
measured by using a meter (EZ-Contrast 160D, ELDIM). As a result,
the contrast ratio (white/black) was 290, and the viewing angles
that can view an image having a contrast ratio of not smaller than
10 along upward (U), downward (D), leftward (L) or rightward (R)
direction was 68° or more.

EXAMPLE 19
(Stretch of cellulose ester film)
[0342] A cellulose ester film was prepared in the same manner as in
the preliminary experiment 25, except that 1.35 weight parts of the
retardation increasing agent (4) was used in place of 0.90 weight
parts of the retardation increasing agent (3). The obtained film was
stretched at 140 ℃ in a long stretching machine. The film was
stretched by 10% along the machine direction. The film was not
stretched along the cross direction. Thus, the film was stretched along the
longitudinal direction.
[0343] The Re retardation value of the stretched film was 30 nm. The
Rth retardation value was 240 nm.

(Preparation of optical compensatory sheet)
[0344] An optical compensatory sheet was prepared in the same manner
as in Example 15, except that the stretched film was used as the
support and the coating amount of the optically anisotropic layer
was increased twice.

(Preparation of liquid crystal display of VA mode)
[0345] A liquid crystal display of VA mode was prepared in the same
manner as in Example 1, except that the above-prepared optical
compensatory sheet was used.
[0346] Voltage of a square wave was applied to the liquid crystal
cell of the vertical alignment mode. An image was displayed
according to an NB mode (black: 2V, white: 6V). A ratio of the
transmittance (white/black) was measured as a contrast ratio. The
upward, downward, leftward and rightward contrast ratios were
measured by using a meter (EZ-Contrast 160D, ELDIM). As a result,
the contrast ratio (white/black) was 290, and the viewing angles
that can view an image having a contrast ratio of not smaller than
10 along upward (U), downward (D), leftward (L) or rightward (R)
direction was 68° or more.

『予備実験10
[0319] 45重量部の酢酸セルロース(平均酢化度:60.9%)、0.90重量部のレターデーション上昇剤(5)、232.72重量部の塩化メチレン、42.57重量部のメタノールと8.50重量部のn-ブタノールが室温で混合され、溶液が調製された。
[0320] 得られた溶液(ドープ)は、バンド流延機を用いてバンドに流延された(有効長:6m)。形成されたフィルムの乾燥厚さは100μmであった。
[0321] 得られたフィルムのRthレターデーション値はエリプソメーター(M-150、日本分光株式会社製)を用いて測定された。光の波長は550nmである。結果を表4に示す。

予備実験11
[0322] レターデーション上昇剤(5)を用いない点を除き、予備実験10と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表4に示す。

予備実験12-20
[0323] レターデーション上昇剤(5)に代えてそれぞれ0.90重量部のレターデーション上昇剤(6)、(7)、(31)、(36)、(37)、(38)、(44)、(50)及び(81)を用いた点を除き、予備実験10と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表4に示す。

予備実験21-24
[0324]
レターデーション上昇剤(5)に代えてそれぞれ0.90重量部の比較化合物(x1)、(x2)、(x3)及び(x4)を用いた点を除き、予備実験10と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表4に示す。
……(中略)……

表4
フィルム レターデーション上昇剤 Rth^(550) レターデーション値
10 (5) 181nm
11 なし 20nm
12 (6) 200nm
13 (7) 222nm
14 (31) 99nm
15 (36) 158nm
16 (37) 158nm
17 (38) 166nm
18 (44) 71nm
19 (50) 75nm
20 (81) 80nm
21 (x1) 30nm
22 (x2) 30nm
23 (x3) 30nm
24 (x4) 30nm

予備実験25
[0325] 45重量部の酢酸セルロース(平均酢化度:60.9%)、0.90重量部のレターデーション上昇剤(3)、2.75重量部のトリフェニルフォスフェート(可塑剤)、2.20重量部のビフェニルジフェニルフォスフェート(可塑剤)、232.72重量部の塩化メチレン、42.57重量部のメタノールと8.50重量部のn-ブタノールが室温で混合され、溶液が調製された。
[0326] 得られた溶液(ドープ)は、バンド流延機を用いてバンドに流延された(有効長:6m)。形成されたフィルムの乾燥厚さは100μmであった。
[0327] 得られたフィルムのRthレターデーション値はエリプソメーター(M-150、日本分光株式会社製)を使用して測定された。光の波長は550nmである。結果を表4に示す。

予備実験26
[0328] レターデーション上昇剤(3)を用いない点を除き、予備実験25と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表5に示す。

予備実験27-29
[0329] レターデーション上昇剤(3)に代えてそれぞれ0.90重量部のレターデーション上昇剤(8)、(31)及び(75)を用いた点を除き、予備実験25と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表5に示す。

表5
フィルム レターデーション上昇剤 Rth^(550) レターデーション値
25 (3) 120nm
26 なし 50nm
27 (8) 120nm
28 (31) 180nm
29 (75) 120nm

予備実験30-33
[0330] レターデーション上昇剤の量が2.00重量部に変更された点を除き、予備実験25、27-29と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造され評価された。結果を表6に示す。

表6
フィルム レターデーション上昇剤 Rth^(550) レターデーション値
30 (3) 240nm
26 なし 50nm
31 (8) 240nm
32 (31) 300nm
33 (75) 240nm

実施例15
(VAモードの液晶ディスプレイの製造)
[0331] 予備実験25で製造されたセルロースエステルフィルムが光学補償シートのセルロースエステル支持体として用いられた点を除き、実施例1と同じ方法でVAモードの液晶ディスプレイが製造された。
[0332] 垂直配向モードの液晶セルに矩形波の電圧が印加された。NBモードで画像が表示された(黒:2V、白6V)。透過率の比(白/黒)がコントラスト比として測定された。上方、下方、左方及び右方のコントラスト比が計器(EZ-Contrast 160D ELDIM社製)を用いて測定された。その結果、コントラスト比(白/黒)は300であり、上方(U)、下方(D)、左方向(L)及び右方向(R)に沿って10以上のコントラスト比で画像を見ることができる視野角は70 °だった。

実施例16
(OCBモードの液晶ディスプレイの製造)
[0333] 予備実験25で製造されたセルロースエステルフィルムが光学補償シートのセルロースエステル支持体として用いられた点を除き、実施例2と同じ方法でOCBモードの液晶ディスプレイが製造された。
[0334] 光学補償ベンドモードの液晶セルに矩形波の電圧が印加された。NWモードで画像が表示された(黒:6V、白2V)。透過率の比(白/黒)がコントラスト比として測定された。上方、下方、左方及び右方のコントラスト比が計器(LCD-5000 大塚電子株式会社製)を用いて測定された。その結果、10以上のコントラスト比で画像を見ることができる視野角は、上方(U)では80°以上、下方(D)では58°、左(L)及び右(R)の方向では66°であった。

実施例17
(HANモードの液晶ディスプレイの製造)
[0335] 予備実験25で製造されたセルロースエステルフィルムが光学補償シートのセルロースエステル支持体として用いられた点を除き、実施例3と同じ方法でHANモードの液晶ディスプレイが製造された。
[0336] ディスプレイ表面の法線方向から20゜傾いた方向から、ハイブリッド配向ネマチックモードの液晶セルに光が照射された。ハイブリッド配向ネマチックモードの液晶セルに矩形波の電圧が印加された。NWモードで画像が表示された(黒:6V、白2V)。透過率の比(白/黒)がコントラスト比として測定された。上方、下方、左方及び右方のコントラスト比が計器(bm-7、TOPCON社製)を用いて測定された。その結果、10以上のコントラスト比で画像を見ることができる視野角は、上方(U)では44°、下方(D)では26°、左(L)及び右(R)の方向では39°であった。

実施例18
(セルロースエステルフィルムの延伸)
[0337] 0.90重量部のレターデーション上昇剤(3)に代えて、1.35重量部のレターデーション上昇剤(4)が用いられ、剥ぎ取り速度(フィルムがバンドから剥ぎ取られる時)と巻き取り速度(形成されたフィルムが巻き取られる時)は、剥ぎ取り速度の巻き取り速度に対する比が1:1.1になるように調整された点を除き、予備実験25と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造された。このようにして、フィルムが延伸された。
[0338] 延伸されたフィルムのRe^(550) レターデーション値は30nmであった。Rth^(550) レターデーション値は240nmであった。
(光学補償シートの製造)
[0339] 延伸されたフィルムが支持体として用いられ光学的異方性層の塗布量が2倍に増加された点を除き、実施例15と同じ方法で光学補償シートが作成された。
(VAモードの液晶ディスプレイの製造)
[0340] 上記で製造された光学補償シートが用いられた点を除き、VAモードの液晶ディスプレイが実施例15と同じ方法で製造された。
[0341] 垂直配向モードの液晶セルに矩形波の電圧が印加された。NBモードで画像が表示された(黒:2V、白6V)。透過率の比(白/黒)がコントラスト比として測定された。上方、下方、左方及び右方のコントラスト比が計器(EZ-Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて測定された。その結果、コントラスト比(白/黒)は290であり、10以上のコントラスト比で上方(U)、下方(D)、左方(L)及び右方(R)画像を見ることができる視野角は、68°以上であった。

実施例19
(セルロースエステルフィルムの延伸)
[0342] 0.90重量部のレターデーション上昇剤(3)に代えて1.35重量部のレターデーション上昇剤(4)が用いられた点を除き、予備実験25と同じ方法でセルロースエステルフィルムが製造された。得られたフィルムは140℃で長い延伸機で延伸された。フィルムは機械の方向に10%延伸された。フィルムは横方向には延伸されなかった。このようにして、フィルムが縦方向に延伸された。
[0343] 延伸されたフィルムのReレターデーション値は30nmであった。Rthレターデーション値は240nmであった。
(光学補償シートの製造)
[0344] 延伸されたフィルムが支持体として使用され光学的異方性層の塗布量が2倍に増加された点を除き、実施例15と同じ方法で光学補償シートが作成された。
(VAモードの液晶ディスプレイの製造)
[0345] 上記で製造された光学補償シートを用いた点を除き、実施例1と同じ方法でVAモードの液晶ディスプレイが製造された。
[0346] 垂直配向モードの液晶セルに矩形波の電圧が印加された。NBモードで画像が表示された(黒:2V、白6V)。透過率の比(白/黒)がコントラスト比として測定された。上方、下方、左方及び右方のコントラスト比が計器(EZ-Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて測定された。その結果、コントラスト比(白/黒)は290であり、10以上のコントラスト比で上方(U)、下方(D)、左方(L)及び右方(R)画像を見ることができる視野角は、68°以上であった。』」


4.本願補正発明と引用発明との対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「R値」及び「K値」が、本願補正発明における「面内のレターデーション値」及び「厚み方向のレターデーション値」に相当することは当業者には明らかである。また、引用発明における「高分子樹脂位相差フィルム」と本願補正発明における「セルロースエステルフィルム」とは、高分子フィルムの点で一致する。

してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmである高分子フイルム。」の点で一致し、以下の相違点1から相違点3の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明においては、厚さが50乃至200μmであるのに対して、引用発明においてはこのような限定がない点。

<相違点2>
本願補正発明においては、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含み、高分子フィルムはセルロースエステルフイルムであるのに対して、引用発明においては前記化合物を含むことを発明特定事項としておらず、高分子フィルムの材料についての限定がない点。

<相違点3>
本願補正発明においては、機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であるのに対して、引用発明においては機械方向の引張弾性率、機械方向に垂直な方向の引張弾性率及び機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比についての特定がない点。


5.相違点の検討・判断

上記各相違点について検討する。

(5-1)相違点1について
引用例1には、実施例の記載として、フィルムの厚みを93μmにしたものの記載がある(前記(摘記事項3-1-5)の段落【0079】参照)。してみれば、実施例の記載を参酌しつつ、その半分程度の値から倍程度の値の範囲であるところの50乃至200μmの範囲の値を選択することは、当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。
したがって、上記相違点1の点は格別のものではなく、当該相違点に進歩性を見いだすことはできない。

(5-2)相違点2について
引用例1においては、「(高分子種)本発明において用いられる高分子については、希望するフィルムの諸特性が得られるものであれば特に制約はない。高分子としては例えばポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリスチレン、トリアセチルセルロースなど従来公知のもので溶液流延法で製膜できるものが挙げられる。」との記載があり(前記摘記事項(3-1-4)の段落【0034】参照。下線は当審で引いた。)、高分子フィルムの材料として、トリアセチルセルロースが記載されている。
一方、液晶表示装置用の位相差フィルムという引用例1と同一の技術分野に属する刊行物である引用例2においては、位相差フィルムの材料としてセルロースエステル100重量部に対して0.3から20重量部の範囲のレターデーション上昇剤を含有するセルロースエステルフィルムを用いることが記載されている(前記摘記事項(3-3-3)参照))。そして、芳香族環を少なくとも二つ有する化合物がレターデーション上昇剤として使用し得ること及びレターデーション上昇剤は好ましくは、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有することが記載されている((前記摘記事項(3-3-3)参照))。
してみれば、引用例1および引用例2の記載事項にしたがって、引用発明における高分子樹脂位相差フィルムの材料として、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.3から20重量%含むセルロースエステルを採用することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
なお、引用例2においては、一軸延伸が好ましい旨の記載があり(前記摘記事項(3-3-4)の段落[0113]参照)、実施例18や実施例19においては一軸延伸しており(前記摘記事項(3-3-5)の段落[0337]から[0339]及び[0342]から[0344]参照)、逐次二軸延伸していないが、一軸延伸することの目的がフィルムの面内にも比較的大きなレターデーションを持たせたいことにあることは当業者には明らかであって、面内レターデーションを小さくするために逐次二軸延伸する引用発明のように二軸延伸するものとして用いられ得ないことを示すものではないことは当業者には明らかである。むしろ、一軸延伸によって面内の屈折率差が生じる材料について逐次二軸延伸し面内の屈折率差が少なくなるように逐次二軸延伸することが当業者に周知の事項であることからすれば(例えば、前記摘記事項(3-1-2)段落【0010】参照。)、当業者は引用例2に記載の材料に対して二軸延伸することを試してみようとすると考える方が自然である。したがって、引用例1においては、二軸延伸の記載がないことは、引用例2に記載の材料を引用発明の高分子樹脂位相差フィルムの材料として選択することの障害となるとは認められない。
以上より、引用発明に相違点2に係る事項を備えるようにすることは、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められる。

(5-3)相違点3について
相違点3、すなわち機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であること(以下、「弾性率に関する数値限定」という。)の技術上の意義について以下に検討する。
弾性率に関する数値限定の技術上の意義に関する記載として、発明の詳細な説明には下記の記載がある。
「【0010】
【発明の効果】 本発明者の研究により、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率と機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率とを調整することにより、セルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値(Re)を制御できることが判明した。具体的には、横方向の引張弾性率を通常よりも大きな値とするか、機械方向の引張弾性率を通常よりも小さな値にすると(言い換えると横方向の引張弾性率と機械方向の引張弾性率を近い値にすると)、厚み方向のレターデーション値(Rth)が比較的高いが、面内のレターデーション値(Re)が比較的低いセルロースエステルフイルムが得られる。
引張弾性率は、セルロースエステルフイルムの製造時の延伸処理で容易に調整できる。(通常の方法では実施しない)横方向の延伸処理を実施すると、横方向の引張弾性率を通常よりも大きな値にすることができる。また、(通常の方法では特に延伸処理を実施しなくても、フイルムの巻き取り処理のような製造工程の都合で延伸されてしまう)縦方向の延伸を抑制すると、縦方向の引張弾性率を通常よりも小さな値にすることができる。
延伸処理とレターデーション上昇剤とを併用すれば、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)とを任意に調整したセルロースエステルフイルムを得ることも可能である。」

「【0007】
レターデーション上昇剤の使用により、レターデーションが高いセルロースエステルフイルムを製造することが可能になった。ただし、レターデーション上昇剤は、厚み方向のレターデーション値(Rth)に加えて、面内のレターデーション値(Re)も上昇させる。そのため、レターデーション上昇剤のみでは、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)との関係を任意に調整することが困難であった。
本発明の目的は、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)との関係が調整されたセルロースエステルフイルムを提供することである。
また、本発明の目的は、支持体としての機能が優れている光学異方性透明支持体を用いた光学補償シートを提供することでもある。
さらに、本発明の目的は、偏光膜の保護機能が優れている光学異方性透明支持体を用いた一体型楕円偏光板を提供することでもある。」

「【0015】[セルロースエステルフイルム] 本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率を360乃至480kgf/mm2 とする。機械方向の引張弾性率は、380乃至460kgf/mm^(2 )であることが好ましく、400乃至440kgf/mm^(2) であることがさらに好ましい。また、本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率を260乃至440kgf/mm^(2) とする。横方向の引張弾性率は、280乃至420であることが好ましく、300乃至400kgf/mm^(2) であることがさらに好ましい。さらに、本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率の比を0.80乃至1.36とする。機械方向の引張弾性率/横方向の引張弾性率の比は、0.84乃至1.32であることが好ましく、0.88乃至1.28であることがさらに好ましい。
【0016】セルロースエステルフイルムの厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、50乃至200μmであることがさらに好ましい。セルロースエステルフイルムは、光学的には負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行であることが好ましい。セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)は、60乃至1000nmであることが好ましい。また、セルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値(Re)は、-50乃至50nmであることが好ましく、-20乃至20nmであることがさらに好ましい。 厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。面内のレターデーション値は、面内の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。具体的な値は、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とする面内レターデーションの測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M-150:日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、550nmを採用する。厚み方向のレターデーション値(Rth)および面内のレターデーション値(Re)は、下記に従って算出する。
厚み方向のレターデーション値(Rth)={(nx+ny)/2-nz}×d
面内のレターデーション値(Re)=(nx-ny)×d
式中、nxはフイルム平面内の機械方向の屈折率であり、nyはフイルム平面内の機械方向に垂直な方向(横方向)の屈折率であり、nzはフイルム面に垂直な方向の屈折率であり、そしてdはフイルムの厚み(nm)である。」

また、審判請求書の請求の理由において請求人は次のように述べている。
「最近になって、セルロースエステルフイルムの光学異方性を高くするための手段が発明されました(引用文献2参照)。しかし、実際の光学用途では、単に光学異方性を高くするだけでは不充分であって、光学異方性の数値(各種のレターデーション値)を調整することが必要です(本願明細書の段落番号0007)。本願発明者の研究の結果、光学異方性を調整するため、セルロースエステルフイルムに対して延伸処理を実施し、延伸条件を調節することが有効であることが判明しました。しかし、具体的な延伸条件を定義しようとすると、実施条件(例、温度)と対応するように複雑に規定する必要があります。
本願発明者がさらに研究を進めた結果、引張弾性率との簡易で非破壊的に測定できる値により、セルロースエステルフイルムの光学異方性が適正に調整されたか否かを判断できることが判明しました。すなわち、本願発明に従い引張弾性率を調整することにより、比較的薄いが適正な光学異方性を有する(厚み方向のレターデーション値が比較的高いが、面内のレターデーション値が比較的低い)セルロースエステルフイルムが得られます(本願明細書の段落番号0010)。上記の趣旨を明確にするため、前記のように請求項1を補正し、セルロースエステルフイルムの厚さ(50?200μm)、面内のレターデーション値(-50?50nm)および厚み方向のレターデーション値(60?1000nm)を定義しました。」

発明の詳細な説明中の上記及びその他の記載並びに請求人の説明を参酌すると、本願補正発明における弾性率に関する数値限定の技術上の意義としては、弾性率そのものが直接的に技術上の意義を有するのではなく、当該弾性率の数値限定を満たすようにセルロースエステルフィルムを延伸した結果として、所望の厚み方向及び面内のレターデーション値を有するフィルムが得られることにあることが理解される。
してみると、本願補正発明の発明特定事項のうち「芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む、面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmであるセルロースエステルフイルム。」の点については、上述のように引用発明、引用例1に記載された事項及び引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものと認められるところ、このような前提においては、「機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36である」と特定することに特段の技術効果を認めることはできないということができる。したがって、弾性率に関する数値限定の点は実質的相違点ということができず、相違点3の点をもって進歩性を認めることはできない。


(5-4)相違点の検討・判断の結び
以上、相違点1から相違点3はいずれも格別のものではなく、また、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項から、当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.本件補正についての結び

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について

1.本願発明
平成19年11月8日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から12に係る発明は、本件補正前の、平成19年9月13日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1から12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む、
機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mm^(2)であり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mm^(2)であり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36であることを特徴とするセルロースエステルフイルム。」


2.刊行物及び各刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「第2」の「3.刊行物及び各刊行物の記載事項」に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明は、前記「第2」の「2.本願補正発明」から「5.相違点の検討・判断」で検討した本願補正発明から、「面内のレターデーション値が-50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmである」という限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「5.相違点の検討・判断」に記載したとおり、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明をその概念範囲に包含する本願発明も、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例1に記載された事項、引用例2に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-17 
結審通知日 2010-02-19 
審決日 2010-03-03 
出願番号 特願平11-280704
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 村田 尚英
岡田 吉美
発明の名称 セルロースエステルフイルム、光学補償シートおよび楕円偏光板  
代理人 柳川 泰男  

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