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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B |
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管理番号 | 1215047 |
審判番号 | 不服2006-14341 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-06 |
確定日 | 2010-04-09 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第302471号「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月19日出願公開、特開平10-127816〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成8年10月28日になされた出願である。平成18年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月6日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年8月7日付けで手続補正書が提出された。 その後、当審において、平成21年11月2日付けでいわゆる最初の拒絶理由(以下、「当審の拒絶理由」という。)を通知したところ、平成22年1月8日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成22年1月8日付けの手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認められるところ、その請求項1の記載は次のとおりである。 「 一対の割型を分離可能に接合することによって内部に球状のキャビティが形成される金型より成形され、上記一対の割型の接合部によって形成される大円であるパーティングラインを有すると共に、このパーティングライン上にこれと交差して複数個のディンプルが形成され、しかも他にディンプルと交差しない大円を持たないゴルフボールにおいて、ディンプルの総数が318?500個、ポール近傍のディンプル直径が2?5mm、ディンプル深さが0.05?0.3mmであると共に、パーティングライン上のディンプル直径が2?4.5mm、ディンプル深さが0.12?0.3mmであり、上記パーティングラインと交差するディンプルの数が6?15個であり、上記パーティングラインと交差するディンプルのエッジ角を該ディンプルと同じ直径及び同じ深さのポール近傍のディンプルのエッジ角より2?10度の範囲で大きくしたことを特徴とするゴルフボール。」 3.当審の拒絶理由 当審の拒絶理由の理由1、理由2及び理由3の概要は次のとおりである。 「(理由1) この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 記 (1)この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-3に係る発明について、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていない点。 (1-1)発明の詳細な説明の記載によれば、請求項1-3は、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを目的として、「パーティングラインと交差するディンプルのエッジ角を該ディンプルと同じ直径のポール近傍のディンプルのエッジ角より2?10度の範囲で大きくしたこと」等の数値限定を発明特定事項としていると考えられるところ、以下に示す理由により、各請求項で特定した事項だけではこのような効果を奏するものとは技術常識的には考えられないので、発明の詳細な説明は当業者が各請求項に係る発明の技術上の意義を理解できるように記載されたものとはなっていない。 ポール打ちとシーム打ちとでどのような飛び性能の差がどの程度あるのかに依存して、ディンプルのエッジ角の数値は異なるものとなると考えられので、請求項1-3のように数値限定の前提となる必要な諸条件が不明であると、必ずしも上記の目的を達成できることとはならない。 また、請求項1-3においては、ディンプルのエッジ角を規定するのみで、ディンプルの深さや曲面の形状、体積等個々のディンプルに関する条件やディンプルの配置などの諸条件は一切捨象しているところ、これらの条件に依存することなくディンプルのエッジ角のみに依存して飛び性能が定まるとは技術常識的には考えられない。 (1-2)請求項1-3においては、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを目的として、「パーティングラインと交差するディンプルのエッジ角を該ディンプルと同じ直径のポール近傍のディンプルのエッジ角より2?10度の範囲で大きくしたこと」等の数値限定を発明特定事項としているところ、発明の詳細な説明の記載においてはその前提となるところの、ポール打ちとシーム打ちとで飛び性能の差があるゴルフボールがどのようなものであるのか不明であり、当業者がゴルフボールを製造できる程度の情報が記載されていない。 (シーム(本願のパーティングラインに相当)にディンプルを設けている特開平6-170015公報に記載のゴルフボールは、ポール打ちとシーム打ちとで飛び性能にほとんど差がなく、パーティングライン上にディンプルを設けた際に必ずしもシーム打ちとポール打ちとで飛距離が相違するものではないから、前提となるゴルフボールがどのようなものであるのか不明である。) (理由2) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1-3に係る発明は、各請求項で特定した発明特定事項を満たすことにより発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載されたものではない点。 請求項1-3においては、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを目的として、各請求項で記載した事項を発明特定事項としているところ、ポール打ちとシーム打ちとでどのような飛び性能の差がどの程度あるのか、ディンプルの深さや曲面の形状、体積等個々のディンプルに関する条件やディンプルの配置、パーティングラインが大円となっているのかなどの諸条件は一切捨象しているところ、技術常識的にはこのような諸条件に依存することなく各請求項で特定した事項だけで所期の目的を達成できるとは考えられない。 」 (理由3) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1-3に係る発明は明確でない点。 請求項1-3においては、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを目的として、各請求項で発明特定事項を記載しており、ポール打ちとシーム打ちとでどのような飛び性能の差がどの程度あるのか、パーティングラインが大円となっているのか、ディンプルの深さや曲面の形状、体積等個々のディンプルに関する条件やディンプルの配置などの諸条件は一切捨象しているところ、技術常識的にはこのような諸条件に依存することなく各請求項で特定した事項だけで所期の目的を達成できるとは考えられないので、各請求項の数値限定の技術上の意義が不明であり、各請求項の記載に基づいては技術的に意味のあるまとまった概念としての技術思想を把握することができないので、発明が不明確である。」 4.当審の判断 (4-1)当審の拒絶理由の(理由1)について (4-1-1)当審の拒絶理由の(理由1)の(1-1)について 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明は、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを発明が解決すべき課題として、「パーティングラインと交差するディンプルのエッジ角を該ディンプルと同じ直径及び同じ深さのポール近傍のディンプルのエッジ角より2?10度の範囲で大きくしたこと」(以下、「エッジ角の数値条件」という)等のボールの形状に係る事項を発明特定事項としていると認められる。 ポール打ちとシーム打ちとの間でのゴルフボールのシンメトリー性を最適化するエッジ角の数値条件は、当然ながらその前提となる当該数値条件を付す前のゴルフボールの非シンメトリー性、すなわち、ポール打ちとシーム打ちとで当該数値条件を付す前のゴルフボールがどのような飛び性能の差をどの程度有しているのかに依存して変化するものであり、エッジ角の数値条件については、当該数値条件を付す前のボールの非シンメトリー性が把握されて、初めてその数値に技術上の意義を有するものである。 例えば、「一対の割型を分離可能に接合することによって内部に球状のキャビティが形成される金型より成形されたゴルフボール」であっても、技術常識的には、具体的な製造方法の相違によって、ゴルフボールの非シンメトリー性は異なると考えられるところ、元々ポール打ちとシーム打ちとの間でのゴルフボールのシンメトリー性が高い場合には、エッジ角の数値条件の値によってはかえって非シンメトリー性を増大しかねないものとなり、エッジ角の数値条件の前提となる必要な諸条件が不明であると必ずしも所期の課題を解決できるとは限らない。 また、「一対の割型の接合部によって形成される大円であるパーティングラインを有すると共に、このパーティングライン上にこれと交差して複数個のディンプルが形成され、しかも他にディンプルと交差しない大円を持たないゴルフボール」であっても、ディンプルの配置の仕方によっては、ポール打ちの場合とシーム打ちの場合とで、その最大回転速度となる大円上でのディンプルの数が異なることなどに起因して、非シンメトリー性が生じることも予想されるが、本願発明においては、そのディンプルの配置の仕方の詳細条件が特定されておらず、ディンプルの配置に依存する非シンメトリー性の程度が不明である。このような前提条件が不明な場合にエッジ角の数値条件を規定したところで、当該数値がどのような技術上の意義を有するのか明りょうに把握することはできない。 以上、本願発明においては、非シンメトリー性がどの程度あるかという前提条件を把握するに足る諸条件、すなわち、エッジ角の数値条件が技術上の意義を有するための前提となる必要な諸条件が不明であり、本願発明で特定した事項だけでどのような技術上の意義を有するのかを、技術常識を参酌しても、明細書の発明の詳細な説明の記載からは理解することができない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 したがって、(1-1)で指摘した点は依然として不備である。 (4-1-2)当審の拒絶理由の(理由1)の(1-2)について 本願発明は、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを発明が解決すべき課題として、エッジ角の数値条件等のボールの形状に係る事項を発明特定事項としている。 明細書の発明の詳細な説明の【0009】?【0010】は、ボールの非シンメトリー性に関連して、次のように記載されている(下線は当審で付した)。 「【0009】 即ち、パーティングライン上にこれと交差するディンプルを有し、他にディンプルと交差しない大円を持たないゴルフボールは従来より種々提案されており、このようなゴルフボールは、パーティングラインに交差するディンプルを持たないゴルフボールよりシンメトリー性は高いものであるとされている。しかしながら、本発明者の検討によれば、このようにパーティングライン上にディンプルを設けてもなおシンメトリー性が十分でなく、シーム打ちとポール打ちとで飛距離がかなり相違するものであった。ところが、パーティングライン上のディンプルをこれと同じ直径及び深さのポール近傍のディンプルとそのエッジ角を2?10度大きくした場合、意外にもシンメトリー性が向上し、シーム打ちとポール打ちとでほぼ同じ飛距離を与えることを知見した。なお、本発明において、ポール近傍のディンプルとは、パーティングラインを赤道(即ち、緯度ゼロ)とした時に、その中心が緯度30度以上となるディンプルをポール近傍のディンプルと呼ぶ。 【0010】 その理由としては、上記のような一対の割型からなる金型より成形されたゴルフボールは、その割型の接合部(金型パーティング部)にバリが生じ、このため成形されたゴルフボールは通常このパーティング部のバリ取りのためにトリミングと呼ばれる研磨が行われ、この際、パーティングライン上のディンプルは成形後の状態とトリミング後とで形状が異なるものになり、また、パーティングライン上のディンプルの形状の変化はその後の塗装によってもなされてしまうことから、トリミング、塗装等によるディンプルやランドの形状変化が原因しているとも考えられるが、本発明において、上記パーティングライン上のディンプルのエッジ角がポール近傍の同径ディンプルのエッジ角より大きいというのは、トリミング、塗装等を行った後の最終製品ゴルフボールについてのエッジ角であり、従って成形時にパーティングライン上のディンプルのエッジ角を大きくし、その後のトリミング、塗装等によってこのエッジ角をポール近傍の同径ディンプルのエッジ角とほぼ同じにするというものではないことから、その理由は不明である。」 上記の記載及び発明の詳細な説明のその他の記載を参照しても、ゴルフボールの非シンメトリー性がディンプルの配列の非対称性に起因するのか不明であり、また、一対の割型を分離可能に接合することによって内部に球状のキャビティが形成される金型よりゴルフボールを成形した場合に、具体的な製造方法の相違によって非シンメトリー性は異なると考えられるので、どのようにゴルフボールを製造すれば、本願発明に係るゴルフボールを製造したといえるのか不明であり、当業者が本願発明に係るゴルフボールを製造できる程度の情報が記載されていない。 以上より、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 したがって、(1-2)で指摘した点は依然として不備である。 (4-2)当審の拒絶理由の(理由2)について 本願発明は、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを発明が解決すべき課題として、エッジ角の数値条件等のボールの形状に係る事項を発明特定事項としているところ、上記「(4-1)当審の拒絶理由の(理由1)について」のところで説明したように、本願発明においては、非シンメトリー性がどの程度あるかという前提条件を把握するに足る諸条件、すなわち、エッジ角の数値条件が技術上の意義を有するための前提となる必要な諸条件が不明であり、技術常識的にはこのような条件に依存することなく本願発明で特定した事項だけで所期の課題を解決できるとは考えられない。 よって、本願発明は、本願発明で特定した発明特定事項を満たすことにより発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。 したがって、(理由2)で指摘した点は依然として不備である。 (4-3)当審の拒絶理由の(理由3)について 本願発明は、ポール打ちとシーム打ちとで同じ弾道が得られ、ショット箇所により飛び性能にバラツキを生じるようなことのないシンメトリー性に優れたゴルフボールを提供することを発明が解決すべき課題として、エッジ角の数値条件等のボールの形状に係る事項を発明特定事項として記載している。上記「4-1 当審の拒絶理由の(理由1)について」のところでも説明したように、本願発明においては、非シンメトリー性がどの程度あるかという前提条件を明確に把握するに足る諸条件が不明である。したがって、一対の割型を分離可能に接合することによって内部に球状のキャビティが形成される金型よりゴルフボールを成形したとしても、具体的な製造方法の相違によって、非シンメトリー性は異なると考えられ、どのような非シンメトリー性を有する場合にこのゴルフボールが本願発明の概念範囲に包含されるというのか不明であり、特許を受けようとする発明が明確でない。 また、非シンメトリー性がどの程度あるかという前提条件が不明であるから、本願発明の特定事項からだけでは、エッジ角の数値条件が技術上の意義を有するような技術的に意味のあるまとまった概念としての技術思想を明確に把握することができず、特許を受けようとする発明が明確でない。 したがって、(理由3)で指摘した点は依然として不備である。 5.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2010-01-29 |
結審通知日 | 2010-02-03 |
審決日 | 2010-02-17 |
出願番号 | 特願平8-302471 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小齊 信之 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
小松 徹三 岡田 吉美 |
発明の名称 | ゴルフボール |
代理人 | 石川 武史 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 重松 沙織 |