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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1215750
審判番号 不服2007-23278  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-23 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2003-131636「塩水の処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-330137〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成15年5月9日の出願であって,平成18年3月29日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年4月5日)、同年5月26日付けで意見書が提出されると共に同日付で手続補正がなされ、平成19年7月17日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月25日)、これに対して、平成19年8月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成19年11月5日付けで審判請求書の手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載される発明は、平成18年5月26日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「塩水を送る搬送パイプに連接される通電パイプと、該通電パイプ内に配設される一対の電極と、前記通電パイプの近傍に位置してその流出口に接続された蛇口と、該蛇口の開閉を検知する検知手段と、前記一対の電極に通電する電源回路と、前記検知手段により前記蛇口の開口が検知されると、この信号に基いて前記電源回路を介して前記一対の電極に、塩素ガスを発生させず塩水を滅菌処理する所定のパルス波を通電して滅菌処理水を生成する形態と前記電源回路を介して前記一対の電極に、塩水から塩素ガスを意図的に発生させるように通電して殺菌処理水を生成する形態とを切換制御可能な制御手段とを備えたことを特徴とする塩水の処理装置。」

3.引用例記載の発明
(1)引用例の記載
(1-1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願の日前である平成14年10月22日に頒布された刊行物である特開2002-307070号公報 (以下「引用例1」という。)には図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「一般に、漁業により捕獲した魚類を陸揚げする漁港においては、市場も併設されており、陸揚げした魚類を地面に並べて・・・。
この場合、従来、陸揚げされて並べられた魚類に付着した血やごみ等を洗い流したり、魚類の表面の乾燥を防止するため、魚類に対して海水を散布することが行なわれている。また、魚類の売買が終了した後、魚類が並べられた地面等を洗浄する場合にも、海水を散布する・・・。
この洗浄散布用の海水は、従来、海からポンプで直接汲み上げた海水を用いる・・・。
しかし、前記従来の海水による洗浄散布処理においては、海水自体が何ら処理されていない状態で、魚類あるいは地面等に散布するものであるため、海水中に含まれる細菌の繁殖等により捕獲した魚類の腐食を招いたり、魚類を置く地面に細菌が繁殖することがあり、衛生管理上好ましいものではなかった。
本発明は前記した点に鑑みなされたもので、容易に殺菌作用、防腐作用を有する海水を得ることのできる海水の処理装置および処理方法を提供することを目的とするものである。」(【0002】-【0006】)
(イ)「前記目的を達成するため・・ポンプにより汲み上げた海水を送る搬送パイプを設け、この搬送パイプを電圧印加処理部と銀イオン処理部とに区分し、この搬送パイプの電圧印加処理部に所定の電圧を印加して前記搬送パイプを通る海水の滅菌処理を行なうための電圧印加用電極を配設するとともに、前記搬送パイプの前記銀イオン処理部に銀材料からなり通電により前記搬送パイプを通る海水中に銀イオンを溶出させるためのイオン処理用電極を配設した・・・。
・・・電圧印加用電極に電圧を印加することにより電圧印加処理部を通る海水中の細菌を死滅させるとともに、イオン処理用電極に通電することにより海水中に銀イオンを溶出させて殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水を得ることができるようにしているので、この海水を、例えば、魚類の洗浄あるいは魚類を置く地面の洗浄のために散布した場合に、細菌の繁殖による魚類の腐食や地面における細菌の繁殖を確実に防止することができる。」(【0007】、【0008】)
(ウ)「この搬送パイプ3の電圧印加処理部4には、(+)および(-)の電圧印加用電極6がそれぞれ配設されており、この電圧印加用電極6に所定の電圧を印加するようになっている。
図2および図3はこのような電圧印加用電極6の配設手段の一例を示したもので、例えば、プラチナあるいは炭素等からなる(+)および(-)の棒状の電圧印加用電極6を搬送パイプ3の周方向に並べて配置するとともに、これら(+)および(-)の電圧印加用電極6を搬送パイプ3の長手方向に所定間隔をもって多数配列するようにすればよい。
また、その他、図4に示すように、搬送パイプ3の内部に(+)および(-)の板状の電圧印加用電極6を互いに対向するように配置するとともに、これら(+)および(-)の電圧印加用電極6を搬送パイプ3の長手方向に所定間隔をもって多数配列するようにしてもよい。
また、搬送パイプ3の銀イオン処理部5には、銀材料からなる(+)および(-)のイオン処理用電極7がそれぞれ配設されており、このイオン処理用電極7に通電することにより、海水中に銀イオンを溶出させるようになっている。このイオン処理用電極7も前記電圧印加用電極6と同様に、棒状のイオン処理用電極7あるいは板状のイオン処理用電極7等により形成するようになっている。」(【0015】-【0017】、【0019】)
(エ)「これら電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7には、所定電圧を印加する電源8,8がそれぞれ接続されており、前記ポンプ2と搬送パイプ3と接続部分には、流速計9および流量計10が配設されている。さらに、本実施形態においては、この流速計9の測定流速および流量計10の測定流量に応じて電源8の出力制御を行ない、電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7に対する通電制御を行なう制御装置11が配設されている。」(【0020】)
(オ)「海水に電圧を印加した場合の、海水中に存在する細菌の減菌状態を調べた実験データを下表に示す。これは、ビーカーに200ccの海水を採取し、この海水にプラチナ電極(直径0.3mm、長さ50mm)を水面から20mm挿入し、この状態で、直流電圧を印加し、規定時間毎にサンプルを採取し、培養して菌数をカウントした。
【表1】・・・
この実験データによれば、印加電圧が6Vの場合には、10秒間電圧を印加することにより、細菌が死滅することが確認された。同様に、印加電圧が8Vおよび10Vの場合は、8秒間電圧を印加することにより、細菌が死滅することが確認された。
そのため、電圧印加処理部4において、海水中の細菌を死滅させるためには、流量計10により海水の流速を測定して搬送パイプ3の電圧印加処理部4の滞在時間を算出し、この滞在時間に応じた電圧値および電圧印加時間を設定するようにすればよい。例えば、搬送パイプ3の電圧印加処理部4の長さが10mで、海水の流速が1m/sの場合は、海水が搬送パイプ3の内部に10秒間滞在することになるので、電源8から電圧印加用電極6に6V以上の電圧を印加するようにすればよい。」(【0021】-【0024】)
(カ)「制御装置11により、流速計9からの測定流速を入力し、この測定流速に基づいて搬送パイプ3の長さ寸法に応じた電圧印加処理部4の海水の滞在時間を演算し、この滞在時間に応じて電圧値を設定して電圧印加用電極6に印加する。これにより、電圧印加処理部4を通る海水中の細菌が死滅される。
電圧印加処理部4を通って細菌が死滅された海水は、銀イオン処理部5に送られ、制御装置11により、流量計10からの測定流量に応じて通電量を設定してイオン処理用電極7に通電する。これにより、海水中に銀イオンが溶出し、殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水を得ることができるようになっている。」(【0028】、【0029】)
(キ)そして、【図1】(5頁)からは、海水とポンプ2との間を接続してポンプ2により海水を汲み上げるパイプと、当該パイプにポンプ2を介して連接され汲み上げられた海水を送る搬送パイプ3と、搬送パイプ3の終端部から処理された海水が供給されることが視認され、その他に上記(エ)、(オ)にも記載されることが見て取れる。

(1-2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願の日前である平成14年9月17日に頒布された刊行物である特開2002-263658号公報 (以下「引用例2」という。)には図面と共に次の事項が記載されている。
(ク)「細菌類を含む水中に、抗菌用電極と対向電極を配置し、両電極間に連続的に電圧を印加し、細菌類の増殖を抑制する、いわゆる通電抗菌方法も提案されている。・・・この方法は・・・塩水のような塩化物を含む水を処理する場合には・・・塩素ガスのような有毒ガスを発生し、自然環境をそこなうという欠点を伴う。」(【0005】)
(ケ)「通電により水中の細菌類の増殖を効率よく抑制するための方法を開発するために鋭意研究を重ねた結果、海水に対し、応答性の高い電源を用いて、電圧を短いパルス電圧として印加した場合に、塩素ガスの生成を抑えながら、少ない電力の消費量で細菌類の増殖を阻止できる・・・。
すなわち、本発明は、細菌類を含む水に接する処理対象面に抗菌用電極を配置し、それに対向してもう一方の電極を配置し、電極間に電圧を印加して処理対象面に付着する細菌を減少させる通電抗菌方法において、パルス電圧を一定の間隔で正方向及び負方向に切り換えながら印加することを特徴とするパルス通電抗菌方法を提供するものである。」(【0007】、【0008】)
(コ)「図1は、本発明方法を実施するのに好適な装置の1例の構成図であって、コンピュータ1の処理により波形発生器2から出力される出力信号は高速バイポーラ電源3により増幅され、パルス電圧6として抗菌用電極4及び対向電極5に印加される。上記の高速バイポーラ電源3は高い応答性を有するため、これらの電極4及び5の間では、短時間で正負の切り換えがなされる。この際の電圧パルスピーク値は正方向で0.5?5Vの範囲、負方向で0.4?4Vの範囲が好ましい。パルス幅としては、正負ともに500μs以下が用いられる。
・・・塩水を用いた場合でも、印加電圧のパルス幅を、例えば100μsのように小さくすることにより、従来の通電方法よりも高い電圧まで塩素ガスの発生を抑制することができる。・・・
・・・プラスチック製容器の対向側壁に、イオンプレーティングにより窒化チタンを被覆したステンレス鋼板からなる電極と、工業用純銅板からなる電極とを取り付け、この容器に海水4リットルを満たし、両電極間にパルス幅100μsで、正側ピーク0.8V、負側ピーク0.64Vの電圧を1秒間1000パルスで印加し、7日間処理した。この場合の通電時間は、全処理時間の5分の1であった。次いで、窒化チタン被覆ステンレス鋼板からなる電極を海水中から取り出し、その表面に付着した液を寒天培地に転写して24時間培養したのち、その培地表面の状態を観察した。その状態の写真を図2に示す。この図から分るように、培地表面には全く細菌コロニーは形成されていない。」(【0009】、【0010】、【0016】)

(2)引用発明の認定
引用例1の記載事項について検討する。
a)引用例1には、上記(イ)によれば、「ポンプにより汲み上げた海水を送る搬送パイプを設け、この搬送パイプを電圧印加処理部と銀イオン処理部とに区分し、この搬送パイプの電圧印加処理部に所定の電圧を印加して前記搬送パイプを通る海水の滅菌処理を行なうための電圧印加用電極を配設するとともに、前記搬送パイプの前記銀イオン処理部に銀材料からなり通電により前記搬送パイプを通る海水中に銀イオンを溶出させるためのイオン処理用電極を配設し」て、「電圧印加用電極に電圧を印加することにより電圧印加処理部を通る海水中の細菌を死滅させるとともに、イオン処理用電極に通電することにより海水中に銀イオンを溶出させて殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水を得る」海水の処理装置が記載されている。
b)ここで、上記(キ)によれば、海水とポンプ2との間を接続してポンプ2により海水を汲み上げるパイプと、当該パイプにポンプ2を介して連接され汲み上げられた海水を送る搬送パイプ3とが接続されていることが分かり、上記(イ)によれば、搬送パイプ3は「所定の電圧を印加して前記搬送パイプを通る海水の滅菌処理を行なうための電圧印加用電極」と「通電することにより」「海水中に銀イオンを溶出させ」る「イオン処理用電極」を有することが分かる。
したがって、上記処理装置においては、海水を汲み上げるパイプに、電圧を印加される電圧印加用電極と通電されるイオン処理用電極を有する搬送パイプ3が連接されているといえる。
c)また、上記(イ)によれば「搬送パイプ」は「電圧印加処理部と銀イオン処理部」を有することが分かり、上記(ウ)によれば、「電圧印加処理部4には、(+)および(-)の電圧印加用電極6」が配設され、「銀イオン処理部5には、銀材料からなる(+)および(-)のイオン処理用電極7」が配設されていることが分かる。
したがって、上記処理装置においては、搬送パイプ内に、電圧印加処理部4に配設される(+)および(-)の電圧印加用電極6と銀イオン処理部5に配設される(+)および(-)のイオン処理用電極7が存在しているといえる。
d)さらに、上記(エ)によれば、「流速計9の測定流速および流量計10の測定流量に応じて電源8の出力制御を行ない、電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7に対する通電制御を行なう制御装置11が配設されて」いることが分かる。
したがって、上記処理装置においては、電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7は、設定された電圧値を印加し、設定された通電量を通電する電源8に接続されるものといえる。
e)また、上記(カ)によれば、「制御装置11」により「流速計9からの測定流速」に基づいて「搬送パイプ3の長さ寸法に応じた電圧印加処理部4の海水の滞在時間を演算し、この滞在時間に応じて電圧値を設定して電圧印加用電極6に印加する。これにより、電圧印加処理部4を通る海水中の細菌が死滅」させられ、「電圧印加処理部4を通って細菌が死滅された海水は、銀イオン処理部5に送られ」、「制御装置11」により「流量計10からの測定流量に応じて通電量を設定してイオン処理用電極7に通電する。これにより、海水中に銀イオンが溶出し、殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水を得る」ことが分かる。
そして、上記d)で検討した電源8の接続も考慮すれば、上記処理装置においては、「搬送パイプ3」内を搬送される海水の流速流量が測定されると、その測定流速に基づいて海水中の細菌を死滅させ得る電圧値を設定して電源8を介して電圧印加用電極6に印加し、その変動した測定流量に基づいて海水中に銀イオンを溶出させ、殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水が得られる通電量を設定して電源8を介してイオン処理用電極7に通電する制御装置11を備えているといえる。
f)上記記載事項(イ)、(ウ)、(エ)、(カ)、(キ)を上記a)?e)の検討結果から本願発明の記載ぶりに則して表現すると、
引用例1には、
「海水を汲み上げるパイプに連接される電圧を印加される電圧印加用電極と通電されるイオン処理用電極を有する搬送パイプ3と、
搬送パイプ3内の電圧印加処理部4に配設される(+)および(-)の電圧印加用電極6および銀イオン処理部5に配設される(+)および(-)のイオン処理用電極7と、
搬送パイプ3内を搬送される海水の流速流量を測定する流速計9、流量計10と、
(+)および(-)の電圧印加用電極6に設定された電圧値を印加し、(+)および(-)のイオン処理用電極7に設定された通電量を通電する電源8を接続することと、
海水の流速流量が測定されると、その測定流速に基づいて海水中の細菌を死滅させ得る電圧値を設定して電源8を介して電圧印加用電極6に印加し、その測定流量に基づいて海水中に銀イオンを溶出させ、殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水が得られる通電量を設定して電源8を介してイオン処理用電極7に通電する制御装置11を備えた海水の処理装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。
i)「電圧を印加される電圧印加用電極と通電されるイオン処理用電極を有する搬送パイプ3」は「通電パイプ」に相当し、「海水」は「塩水」であり、「海水を汲み上げるパイプ」は海水を「搬送パイプ3」へ搬送するものであるから、「塩水を送る搬送パイプ」に相当する。
よって、引用発明における「海水を汲み上げるパイプに連接される電圧を印加される電圧印加用電極と通電されるイオン処理用電極を有する搬送パイプ3」は、本願発明における「塩水を送る搬送パイプに連接される通電パイプ」に相当する。
ii)「搬送パイプ3」内に「電圧印加処理部4」と「銀イオン処理部5」が配設されることは、上記i)から「通電パイプ内に配設される」ことに相当する。
そして、「(+)および(-)の電圧印加用電極6」、「(+)および(-)のイオン処理用電極7」は、上記記載事項(ウ)に「(+)および(-)の棒状の電圧印加用電極6を搬送パイプ3の周方向に並べて配置する」、「(+)および(-)の板状の電圧印加用電極6を互いに対向するように配置する」、「このイオン処理用電極7も前記電圧印加用電極6と同様に、棒状のイオン処理用電極7あるいは板状のイオン処理用電極7等により形成する」とあることから明らかなように、(+)電極と(-)電極とが一対で配置されるものであるから、「一対の電極」に相当する。
したがって、引用発明における「搬送パイプ3内の電圧印加処理部4に配設される(+)および(-)の電圧印加用電極6および銀イオン処理部5に配設される(+)および(-)のイオン処理用電極7」は、本願発明における「通電パイプ内に配設される一対の電極」に相当する。
iii)「(+)および(-)の電圧印加用電極6に設定された電圧値を印加し、(+)および(-)のイオン処理用電極7に設定された通電量を通電する」ことは上記ii)から「一対の電極に通電する」ことに相当する。
また、「電源8を接続すること」は、上記記載事項(エ)に「電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7には・・・電源8,8がそれぞれ接続されており・・・電源8の出力制御を行ない、電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7に対する通電制御を行なう制御装置11が配設され」とあり、「電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7」と「電源8」とが接続されていることから、「電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7」と「電源8」を接続する「電源回路」が存在し、該「電源回路」から「電圧印加用電極6およびイオン処理用電極7」に通電することに相当する。
よって、引用発明における「(+)および(-)の電圧印加用電極6に設定された電圧値を印加し、(+)および(-)のイオン処理用電極7に設定された通電量を通電する電源8を接続すること」は、本願発明における「一対の電極に通電する電源回路」に相当する。
iv)上記i)と同様に「海水」は「塩水」であるから、引用発明における「海水の処理装置」は本願発明における「塩水の処理装置」に相当する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは
「塩水を送る搬送パイプに連接される通電パイプと、該通電パイプ内に配設される一対の電極と、前記一対の電極に通電する電源回路とを備えた塩水の処理装置。」の点(一致点)で一致し、以下の点で両者は相違する。

(相違点1)
本願発明においては、「通電パイプの近傍に位置してその流出口に接続された蛇口」と「該蛇口の開閉を検知する検知手段」が存在し、「前記検知手段により前記蛇口の開口が検知されると、この信号に基づいて」電源回路を介して一対の電極に通電するものであるのに対して、
引用発明においては「蛇口」に相当する部分は存在せず、「海水の流速流量」を測定する「流速計9、流量計10」が存在し、「搬送パイプ3」内を搬送される海水の流速流量が測定されると、その測定値に基づいて、電源回路を介して一対の電極に通電するものである点

(相違点2)
本願発明においては、「塩水から塩素ガスを発生させるように」通電して「殺菌処理水を生成する形態」とできる「制御手段」が存在するものであるのに対して、
引用発明においては、「殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水」を生成させるように通電して「殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水」を得られる形態とできる「制御装置11」が存在する点

(相違点3)
本願発明においては「塩素ガスを発生させず塩水を滅菌処理する所定のパルス波を通電して滅菌処理水を生成する形態」を含み、その形態と、「塩水から塩素ガスを意図的に発生させるように通電して殺菌処理水を生成する形態」とを、「切換制御可能な」制御手段を有するものであるのに対して、
引用発明においては、前者の形態を有さず、後者の形態をなすのか否か明らかでなく、「制御装置11」が前記二つの形態を切換制御するものとの特定がない点。

5.当審の判断
(1)上記(相違点1)について
引用発明の海水の処理装置において、「搬送パイプ3」の流出口に蛇口を備えることは特定されてはいない。
しかしながら、該処理装置は、流速計による測定流速及び流量計による測定流量に応じて通電制御していることから、流速や流量の変動を予定していることは明らかである。そして、これらの変動を流速計及び流量計で測定している(段落【0027】)のである。
この「流速や流量の変動」については、引用例1には、これが如何なることに起因するものであるのか明らかとはいえないが、上記(イ)に「魚類の洗浄あるいは魚類を置く地面の洗浄のために処理済み海水を散布する」ことが記載されていることから鑑みると、散布する量については、魚類の洗浄と地面の洗浄では散布する海水の勢いを違えて異なる流量で散布しているとみるのが自然であり、用いられる状況に応じて上記変動がもたらされるものといえる。してみると、引用発明においては流速や流量調整が行われているものとみることができる。
また、こうした流速や流量調整手段として、ポンプ出力の調整、バルブの開閉或いは蛇口の開閉の度合いで行うことは極めて周知慣用の手段である。
これらのことに照らせば、引用発明において、流速や流量調整するために蛇口を採用することは当業者であれば設計的な範疇で行い得ることといえ、また、処理済み海水の利用場所近傍での流速流量の調整のしやすさを考慮すれば、上記蛇口の設置位置を、海水に対する処理の終端部である搬送パイプの流出口とすることも当業者の十分に想起し得ることである。
そして、蛇口の開閉の度合いによって海水の流速や流量調整が行われるものであることから、蛇口を採用することに伴って、引用発明の「搬送パイプ」内を搬送される海水の流速や流量を流速計や流量計によって測定することに代えて、蛇口の開閉の度合いを検知することは、当業者が格別困難なく行うことといえる。
以上のとおりであるから、引用発明の処理装置において、相違点1に係る本願発明の特定事項である「通電パイプの近傍に位置してその流出口に接続された蛇口」と「該蛇口の開閉を検知する検知手段」が存在し、「前記検知手段により前記蛇口の開口が検知されると、この信号に基づいて」電源回路を介して一対の電極に通電するものとすることは、当業者が格別困難なく行うことができるものといえる。

(2)上記(相違点2)について
引用例1に記載される海水の処理装置は、「電圧印加用電極に電圧を印加すること」と「イオン処理用電極に通電することにより海水中に銀イオンを溶出させ」ることの二つの操作を行い、上記指摘事項(イ)にあるように「殺菌作用、防腐作用の高い銀溶液海水」を得るものである。
しかしながら、上記(オ)には「海水に電圧を印加した場合の、海水中に存在する細菌の減菌状態を調べた実験データを・・・示す。これは・・海水にプラチナ電極を・・挿入し・・・直流電圧を印加し、規定時間毎にサンプルを採取し、培養して菌数をカウントした・・・この実験データによれば、印加電圧が6Vの場合には、10秒間電圧を印加することにより、細菌が死滅することが確認され・・・印加電圧が8Vおよび10Vの場合は、8秒間電圧を印加することにより、細菌が死滅することが確認された。そのため、電圧印加処理部4において、海水中の細菌を死滅させるためには、流量計10により海水の流速を測定して搬送パイプ3の電圧印加処理部4の滞在時間を算出し、この滞在時間に応じた電圧値および電圧印加時間を設定するようにすればよい」とあり、また、上記(イ)、(キ)には「電圧印加用電極に電圧を印加することにより電圧印加処理部を通る海水中の細菌を死滅させる」と記載されている。
これらのことから、引用例1に記載される海水の処理装置は、電圧印加用電極に電圧を印加することのみで海水中の細菌を死滅させることが出来るものといえる。
さらに、引用例2の上記記載事項である(ク)に開示されるように、塩水への通電による海水中の細菌の増殖阻止技術においては塩素ガスが発生することは通常であり、そして、このことは審判請求書の手続補正書の「3.本願発明と引用文献の発明との対比 (3-1)本願請求項1の発明と引用文献1の発明との対比」で「引用文献1の発明では・・塩素ガスの発生が避けられず・・」と請求人自身も認めており、引用例1に記載される海水の処理装置においては、処理に際して塩素ガスが発生しているものと考えられる。そして、塩素ガスが発生するほどの処理がされた海水は細菌が死滅しているだけでなく、十分な殺菌作用までも有しているものと考えられる。
すると、引用例1に記載される海水の処理装置は、上記(ア)にあるように「殺菌作用、防腐作用を有する海水を得ることのできる海水の処理装置および処理方法を提供する」ことを目的とするから、同装置において「殺菌作用を有する海水」を得ることで足りる場合には「電圧印加用電極に電圧を印加する」操作で十分と判断されることが容易に認定できる。
そうであれば、引用例1に記載される海水の処理装置において「殺菌作用を有する海水」を得るために、「(+)および(-)の電圧印加用電極6」の機能のみに着目して、これに所定電圧を印加するように「制御装置11」を制御して、塩素ガスが発生する程度の殺菌処理水を生成させるようにすること、すなわち「塩水から塩素ガスを発生させるように」通電して「殺菌処理水を生成する形態」とできる「制御手段」が存在するようにすることは当業者が格別困難なく行うことといえる。
以上のとおりであるから、引用発明の処理装置において、相違点2に係る本願発明の特定事項である「塩水から塩素ガスを発生させるように」通電して「殺菌処理水を生成する形態」とできる「制御手段」が存在するようにすることは、当業者が格別困難なく行うことができるものといえる。

(3)上記(相違点3)について
上記「(2)上記(相違点2)について」で述べたように、引用発明においては、塩水から塩素ガスが発生するような通電によって殺菌処理水を生成するようにできるものである。
ここで、上記引用例2には、上記(ケ)に「通電により水中の細菌類の増殖を効率よく抑制する・・・海水に対し・・・電圧を短いパルス電圧として印加した場合に、塩素ガスの生成を抑えながら・・・細菌類の増殖を阻止でき・・抗菌用電極を配置し、それに対向してもう一方の電極を配置し、電極間に電圧を印加して処理対象面に付着する細菌を減少させる通電抗菌方法において、パルス電圧を一定の間隔で・・・印加する」と記載され、上記(コ)に、海水の入った容器に「対向電極5」と「抗菌性電極4」とを取り付け、「高速バイポーラ電源3」と「波形発生器2」を介して「コンピュータ1」で制御して「対向電極5」と「抗菌性電極4」とにパルス電圧を印加して、塩素ガスを発生させずに細菌類の増殖を抑制する装置構造が記載されている。
そして、同装置構造は、パルス電圧の印加を「高速バイポーラ電源3」と「波形発生器2」を介して「コンピュータ1」で制御するから、海水へ印加する電圧を制御する制御装置を有しているものといえる。
したがって、引用例2には、海水中の一対の電極間に電圧を特定のパルス電圧となるように制御装置で調整して印加することで塩素ガスの生成を抑えながら海水中の細菌類の増殖を抑制する装置に関する技術手段が示されているといえる。
ところで、引用発明は、上記「(2)上記(相違点2)について」で検討したように、海水から塩素ガスを発生させる電圧値を印加して殺菌作用を有する海水を生成できるものであり、塩素ガスを発生させないで海水中の細菌類の増殖を抑制するものではない。
しかしながら、塩素ガスが食品に付着して変色、変質等の品質低下を促進させることは例えば特開昭62-153675号公報(2頁左下欄1-5行)に記載されるように周知技術と言えるものであり、引用発明においては、上記(ア)に記載されるように「陸揚げされて並べられた魚類に付着した血やごみ等を洗い流したり、魚類の表面の乾燥を防止するため、魚類に対して海水を散布する」ものであって、そのための海水に対して細菌類の繁殖を抑制し殺菌するものであるから、陸揚げされて並べられた魚類に海水処理中に発生した塩素ガスが付着すれば、変色、変質等の品質低下を促進させるであろうことは明らかである。
そうであれば、引用発明においても、陸揚げされて並べられた魚類への付着物除去、乾燥防止のための海水散布に当たり、塩素ガスの付着による変色、変質等の品質低下を防ぐことに想到することは当然のことであり、また、引用発明と引用例2に示される技術手段とを比較した場合に、両者は共に海水に通電することで細菌類に対処するものであるが、前者は塩素が発生する程度まで通電するのに対して、後者は塩素が発生しない程度に通電するものであるから、両者の海水中の細菌類の増殖を抑制する効果は相違するものであり、また、両者は通電をパルス状に行うか否かを制御装置において調整することで切り換えることができることから、両者を使用目的に応じて切り換えて使用することも当然に想到することといえるし、そうであれば、塩素ガスの発生は意図的に成されるものと言い得る。 したがって、引用発明に引用例2に示される技術手段を適用して、「塩素ガスを発生させず塩水を滅菌処理する所定のパルス波を通電して滅菌処理水を生成する形態」と「塩水から塩素ガスを意図的に発生させるように通電して殺菌処理水を生成する形態」とを「切換制御可能な」制御手段を有する塩水の処理装置とすることは当業者が格別困難なく行うことといえる。
以上のとおりであるから、引用発明の処理装置において、相違点3に係る本願発明の特定事項である「塩素ガスを発生させず塩水を滅菌処理する所定のパルス波を通電して滅菌処理水を生成する形態」を含み、その形態と、「塩水から塩素ガスを意図的に発生させるように通電して殺菌処理水を生成する形態」とを、「切換制御可能な」制御手段を有するものとすることは、当業者が格別困難なく行うことができるものといえる。

そして、上記各相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も引用例の記載から予測できる範囲のものであり、格別なものではない。

6.むすび
したがって,本願発明は,引用例1、2に記載された発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-26 
結審通知日 2010-03-03 
審決日 2010-03-16 
出願番号 特願2003-131636(P2003-131636)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斉藤 信人井上 雅博  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中澤 登
小川 慶子
発明の名称 塩水の処理装置  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 小野塚 薫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 萼 経夫  

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