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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10H
管理番号 1215964
審判番号 不服2009-13020  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-17 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 特願2004-228150「電子音楽装置の制御装置および電子音楽装置の制御方法を実現するためのプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月23日出願公開、特開2006- 53170〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年8月4日(国内優先権主張 平成16年7月14日)の出願であって、平成21年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月17日に審判請求がなされたものである。その後、平成21年12月10日付けで当審による拒絶理由の通知がなされ、平成22年2月12日付けで手続補正がなされた。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成22年2月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という)は次のとおりである。

「複数の機能のそれぞれの実行を指示する操作子を備え、ユーザが前記操作子を操作することに応じて、対応する機能を実行する電子音楽装置を制御する制御装置であって、
前記複数の機能のうち、少なくとも一部の所定機能のいずれかの実行を指示するリモート制御データが記述されたファイルであって、当該ファイルの種別が前記リモート制御データを記述したリモート制御ファイルであることを示すファイル拡張子により他のファイルと識別可能に構成されたファイルへのリンク情報、および当該リンク情報を含む所定の表示画面を表示するための表示情報を含んだWebコンテンツデータを供給する供給手段と、
ユーザによる前記Webコンテンツデータの供給指示に応じて、前記供給手段を介して供給されたWebコンテンツデータに基づく表示画面を表示する表示手段と、
該表示手段によって表示された表示画面中に図形の態様で表現された前記リンク情報に対して、ユーザが所定の動作を行ったときに、該リンク情報によってリンクされた前記ファイルを取得する取得手段と、
該取得手段によってファイルが取得されたことに応じて、当該取得されたファイルのファイル拡張子に基づいてファイルの種別を識別し、前記取得されたファイルが前記リモート制御ファイルであると識別されたときに、リモート制御ファイルである前記取得したファイルに記述されたリモート制御データを解釈し、該解釈されたリモート制御データの内容に応じた前記機能を実行するように、前記電子音楽装置を制御する制御手段とを有することを特徴とする電子音楽装置の制御装置。」

3.刊行物
これに対して、当審で通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特許第2937066号公報(以下、刊行物1という)には、図面とともに次のア?エの事項が記載されている。
ア.「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、楽曲を演奏データと非演奏データとに分離して記録する電子楽器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、楽曲が、音高、音量およびタイミング等の演奏データと、音色番号およびスタイル等の非演奏データ(系列データ)とにより構成されている場合に、演奏データと非演奏データとを分けて記録し、再生時に、自動演奏データを非演奏データに基づいて楽曲を再生することにより、楽曲を形成するようにした電子楽器(自動演奏装置)は提案されている(特公平4-69396号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の電子楽器では、演奏データと非演奏データとを分けて記録しているものの、楽曲を再生するときには演奏データを非演奏データに基づいて再生するために、常に非演奏データと演奏データとを組み合わせて記録しなければならなかった。
【0004】したがって、非演奏データが楽曲中余り重要視されないものである場合、例えば、演奏データのみを記録し、非演奏データとしてはパネル操作で設定されたものを利用すればよい場合にも、非演奏データを演奏データとともに記録しなければならなかった。今日の電子楽器では、非演奏データのデータ容量は非常に大きいものとなっているために、このような非演奏データを記録することは、記憶媒体の記憶容量を圧迫する要因となり、好ましいものではない。
【0005】また、楽曲によっては既に記録されている非演奏データを共用すればよい場合がある一方、逆に非演奏データを自由に組み合わせて楽曲に思い通りの効果を付与したい場合がある。従来の電子楽器では、上述のように非演奏データを演奏データと組み合わせて記録しなければならないために、前者のように共用できる非演奏データが既に記録されている場合にも、同一の非演奏データを重複して記録しなければならず、これにより記憶媒体の記憶容量が圧迫され、一方、後者のように楽曲に思い通りの効果を付与したい場合にも、記録された非演奏データに拘束され、演奏者の自由な創造性が損なわれることになる。
【0006】以上のような問題点を解消するには、演奏データと非演奏データとを分離して記録し、必要に応じて演奏データまたは非演奏データをロードできるように電子楽器を構成すればよい。」

イ.「【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】図1は、本発明の一実施例に係る電子楽器の概略構成を示すブロック図である。
【0015】同図において、本実施例の電子楽器は、各種情報を入力するためのスイッチ群から成る操作パネルスイッチ(SW)1と、電子楽器全体の制御を司るCPU2と、該CPU2が実行する制御プログラムやプリセットデータ等を記憶するROM3と、ソング(自動演奏データ)や各種パラメータ等を記憶する領域や各種入力情報を一時的に格納したり各種演算に使用したりするワークエリア等を有するRAM4と、ソングや各種パラメータ等に関する情報を表示するディスプレイ5と、ソング、各種パラメータおよび各種データ等を記憶するための交換可能な記憶媒体であるフロッピーディスクおよび交換不可能な記憶媒体であるハードディスクをそれぞれ駆動するフロッピーディスクドライブ6およびハードディスクドライブ7と、ソングおよびパラメータに応じて楽音を合成する楽音合成回路8とにより構成されている。そして、上記構成要素1?8は、バス9を介して相互に接続されている。
【0016】図2は、本実施例の電子楽器のパネル面の一部を示す図であり、前記ディスプレイ5と操作パネルスイッチ1の一部とが図示されている。同図中、ディスプレイ5には、フロッピーディスクにデータを記録しようとしたが、フロッピーディスクの空き容量が足らなかったために表示される画面が表示され、操作パネルスイッチ1としては、その画面表示された選択肢を選択するために各選択肢に対応する位置に設けられたもののみが図示されている。すなわち、操作パネルスイッチ1には、図示されているものの他に、例えばテンキー、ロータリースイッチ、スライドスイッチ等があるが、これらのスイッチは図示例の画面の説明に必要なものではないので、省略している。
【0017】図3は、ディスプレイ5に表示された保存パラメータ選択画面を示す図である。
【0018】同図に示すように、各種パラメータが一覧形式で表示され、演奏者は前記操作パネルスイッチ1の図示しないカーソルキー等でデータ入力カーソル(図示せず)を移動し、図示しないデータ入力キーを押下することによって保存したいパラメータを選択する。図中、“∨”が付されているパラメータは、演奏者が保存を選択しているものであることを示している。なお、保存を選択したものを解除するには、解除したいパラメータの位置にデータ入力カーソルを移動して、再度データ入力キーを押下するようにしてもよいし、図示しない解除スイッチを別に設けるようにしてもよい。
【0019】本実施例の電子楽器において演奏者が選択できるパラメータは、セットアップデータ(SETUP DATA),スタイルリボイス(STYLE REVOICE)データ,パッドデータ(PAD DATA),オルガンフルート(ORGAN FLUTE)データ,パネルレジスト(PANEL REGIST)データ,カスタムスタイル(CUSTOM STYLE)データ,カスタムボイス(CUSTOM VOICE)データの7種類のパラメータであり、以下これらのパラメータを簡単に説明する。
【0020】セットアップデータとは、電子楽器の一般的な設定を行うためのデータをいう。
【0021】本実施例の電子楽器は、マルチパッド(Multi PAD)というスイッチ(図示せず)を複数個設け、各スイッチのそれぞれに短い旋律を記憶させ、各スイッチを操作することにより当該旋律を再生するようにしているが、パッドデータとは、これらの旋律の情報および使用される音色情報のことをいう。
【0022】また、本実施例の電子楽器は自動伴奏装置を付属し、各種スタイル(STYLE)毎に各パートの伴奏パターンおよび楽器の情報を有しているが、演奏者は各パート毎に楽器の音色を変更することができる(この機能をリボイス(revoice)という)。スタイルリボイスデータは、その変更に関係する情報のことをいう。
【0023】さらに、本実施例の電子楽器は、パイプオルガンのようにフィートを合成して音色を作成することができるが、オルガンフルートデータとは、その合成のためのパラメータのことをいう。
【0024】電子楽器は、一般に多数あるパネルの設定状態を1組にして記憶し(regist)、これを一度に呼び出すことができる機能を有し、パネルレジストデータとは、その1組の設定状態のことをいう。本実施例では、前記RAM4の所定領域に、その設定状態を16組まで記憶できる。
【0025】前記付属の自動伴奏機能が元々提供する自動演奏スタイルを演奏者独自の(custom)スタイルに変更し、その変更状態を記憶することができるが、カスタムスタイルデータとは、その変更状態を示すデータをいう。
【0026】同様にして音色についても、エンベロープパラメータや、ピッチ、フィルタ特性、残響特性等を編集して演奏者独自の音色を作成し、記憶させることができるが、カスタムボイスデータとは、その変更状態を示すデータをいう。
【0027】図4は、前記フロッピーディスクおよびハードディスクに保存された、あるパラメータファイルのデータ記憶形式の一例を示す図であり、同図には、演奏者が保存を選択した図3のパラメータから成るパラメータファイルの例が示されている。
【0028】図4において、パラメータファイルは、管理データ領域、関連ソング名(RELATED SONG NAME)領域、前記各種パラメータのうち演奏者が保存を選択したパラメータが格納される領域(以下、「保存パラメータ領域」という)から構成されている。管理データ領域には、このファイルのファイル名やファイル全体の容量等のデータが記憶される。関連ソング名領域には、このファイルに関連付けられたソング、すなわちこのファイルのパラメータを使用するソングのファイル名が記憶される。保存パラメータ領域には、図3で選択したパラメータ、すなわちセットアップデータ、パッドデータ、パネルレジストデータ(番号1,6,9および14のパネルレジストデータ)、カスタムスタイルデータ(番号2,5,8,16,17,22,30,31のカスタムスタイルデータ)、カスタムボイスデータ(番号1?4のカスタムボイスデータ)が格納される。
【0029】図5は、前記フロッピーディスクまたはハードディスクに複数個のファイルが記憶されたときのディスク内の記憶イメージを示す図である。
【0030】同図に示すように、ディスクには複数個のファイル(例えば、前記図4のパラメータファイルやソングのファイル等)が格納されるとともに、各ファイルのディスク上の位置やディスクの空き領域の位置および容量等を記憶し、これらの情報に基づいて各ファイルを管理するファイル管理テーブルも格納されている。
【0031】以上のように構成された電子楽器のCPU2が実行する制御処理を、以下、図6?9のフローチャートに基づいて説明する。」

ウ.「【0035】図7は、前記フロッピーディスクまたはハードディスクに記憶されたパラメータファイルの内容をRAM4の所定レジスタ(各種パラメータを設定するレジスタ)にロードするロード処理の手順を示すフローチャートである。本処理は、演奏者が、例えば図示しないロードスイッチを押下したときに、呼び出される。すなわち、前記図6のステップS3のパネル処理中の一処理である。
【0036】図7において、まず、ロードするファイルが指定されているか否かを判別し、指定されていない場合にはダイアログを表示する(ステップS11)。
【0037】次に、演奏者が表示されたダイアログから所望のファイルを選択すると、そのファイルをフロッピーディスクまたはハードディスクから読み出し、そのファイルに記憶されているパラメータで、前記所定レジスタの当該パラメータを書き換え(ステップS12)、全データの読み込みを終了したか否かを判別する(ステップS13)。」

エ.「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る電子楽器の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施例の電子楽器のパネル面の一部を示す図である。
【図3】図1のディスプレイに表示された保存パラメータ選択画面を示す図である。
【図4】フロッピーディスクおよびハードディスクに格納されるパラメータデータのファイルのデータ記憶形式を示す図である。
【図5】図4に示すファイルが複数個前記フロッピーディスクまたはハードディスクに記憶されたときのディスク内の記憶イメージを示す図である。
【図6】メインルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図7】フロッピーディスクまたはハードディスクに格納されたパラメータのファイルを図1のRAMにロードするロード処理の手順を示すフローチャートである。」

以上の記載により、刊行物1には次の発明(以下、刊行物1発明という)が記載されている。

パネル面のスイッチ群からなる操作パネルスイッチにより、音色番号およびスタイル等の非演奏データが設定される電子楽器であって、
パネルの設定状態であるパネルレジストデータを含んだパラメータファイルを、フロッピーディスクまたはハードディスクからロードするロード処理の手順が、演奏者がロードスイッチを押下したときに呼び出され、演奏者がディスプレイに表示されたダイアログから所望のファイルを選択すると、そのファイルを前記フロッピーディスクまたはハードディスクから読み出し、そのファイルに記憶されているパラメータで電子楽器の非演奏データを設定する電子楽器。

また、当審で通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2003-255934号公報(以下、刊行物2という)には、次のオの事項が記載されている。

オ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ネットワーク上のサーバ機器から、ダウンロード可能なスクリプトの種類またはシステムアプリケーションの種類を示す種類情報を該ネットワークを介して受信する種類受信手段と、
演奏情報に従って楽音信号を生成する音源と、
受信した前記種類情報を、ブラウザを介して表示する表示手段と、
前記表示された種類情報の中から必要な種類を前記ブラウザを介して指定する指定手段と、
前記指定した種類にかかるシステムアプリケーションまたはスクリプトをダウンロードする受信手段と、
該ダウンロードされたシステムアプリケーションまたはスクリプトに従って、前記音源手段に関する表示または制御を実行する手段と
を有することを特徴とする電子楽器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インターネットなどのネットワークに接続されて好適な電子楽器に関する。」

4.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

刊行物1発明の「パネル面のスイッチ群からなる操作パネルスイッチ」は、電子楽器に音色番号およびスタイル等の非演奏データを設定するための「操作子」であって、この操作パネルスイッチによりなされる非演奏データの設定は、電子楽器の機能であるから、操作パネルスイッチは、「複数の機能のそれぞれの実行を指示する操作子」といえる。
また、操作パネルスイッチにより非演奏データが設定される電子楽器は、「ユーザが前記操作子を操作することに応じて、対応する機能を実行する」ものであって、電子楽器自らを制御する機構を備えているものであるから、「電子音楽装置を制御する制御装置」といえるものである。
したがって、本願発明と刊行物1発明とは、「複数の機能のそれぞれの実行を指示する操作子を備え、ユーザが前記操作子を操作することに応じて、対応する機能を実行する電子音楽装置を制御する制御装置」である点で一致する。

刊行物1発明の「パネルの設定状態であるパネルレジストデータを含んだパラメータファイル」は、そのファイルのパラメータで電子楽器の非演奏データを設定するものであるから、本願発明の「前記複数の機能のうち、少なくとも一部の所定機能のいずれかの実行を指示するリモート制御データが記述されたファイル」に相当する(刊行物1発明の「パネルレジストデータ」は、本願発明の「リモート制御データ」に相当)。
また、刊行物1発明のパラメータファイルは、フロッピーディスクまたはハードディスクに記憶され、演奏者がロードスイッチを押下したときに、ロードするロード処理の手順が呼び出されて、演奏者によりディスプレイに表示されたダイアログから所望のファイルが選択されるのであるから、このような動作を行うためには、パラメータファイルへのリンク情報、および当該リンク情報を含む所定の表示画面を表示するための表示情報が供給されていることは明らかであり、このための手段が本願発明の「供給手段」に対応付けられる。
さらに、刊行物1発明における、「ロードスイッチの押下」、「ダイヤログを表示するディスプレイ」が、それぞれ、本願発明の「データの供給指示」、「データに基づく表示画面を表示する表示手段」に相当する。
したがって、本願発明と刊行物1発明とは、「前記複数の機能のうち、少なくとも一部の所定機能のいずれかの実行を指示するリモート制御データが記述されたファイルであって、当該ファイルへのリンク情報、および当該リンク情報を含む所定の表示画面を表示するための表示情報を含んだデータを供給する供給手段と、
ユーザによる前記データの供給指示に応じて、前記供給手段を介して供給されたデータに基づく表示画面を表示する表示手段」を有する点で共通する。

刊行物1発明は、演奏者がディスプレイに表示されたダイアログから所望のファイルを選択すると、そのファイルを前記フロッピーディスクまたはハードディスクから読み出し、そのファイルに記憶されているパラメータで電子楽器の非演奏データを設定するものであるから、本願発明とは、「該表示手段によって表示された表示画面中に表現された前記リンク情報に対して、ユーザが所定の動作を行ったときに、該リンク情報によってリンクされた前記ファイルを取得する取得手段と、
該取得手段によってファイルが取得されたことに応じて、リモート制御ファイルである前記取得したファイルに記述されたリモート制御データを解釈し、該解釈されたリモート制御データの内容に応じた前記機能を実行するように、前記電子音楽装置を制御する制御手段」を有するものである点で共通する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
複数の機能のそれぞれの実行を指示する操作子を備え、ユーザが前記操作子を操作することに応じて、対応する機能を実行する電子音楽装置を制御する制御装置であって、
前記複数の機能のうち、少なくとも一部の所定機能のいずれかの実行を指示するリモート制御データが記述されたファイルであって、当該ファイルへのリンク情報、および当該リンク情報を含む所定の表示画面を表示するための表示情報を含んだデータを供給する供給手段と、
ユーザによる前記データの供給指示に応じて、前記供給手段を介して供給されたデータに基づく表示画面を表示する表示手段と、
該表示手段によって表示された表示画面中に表現された前記リンク情報に対して、ユーザが所定の動作を行ったときに、該リンク情報によってリンクされた前記ファイルを取得する取得手段と、
該取得手段によってファイルが取得されたことに応じて、リモート制御ファイルである前記取得したファイルに記述されたリモート制御データを解釈し、該解釈されたリモート制御データの内容に応じた前記機能を実行するように、前記電子音楽装置を制御する制御手段とを有することを特徴とする電子音楽装置の制御装置。

[相違点1]
本願発明では、ユーザによるデータの供給指示に応じて供給手段を介して供給されたデータに基づく表示画面を表示する表示手段のデータが「Webコンテンツデータ」であり、それに含まれるリンク情報が表示画面中に「図形の態様で」表現されたものであるのに対し、刊行物1発明は、パラメータファイルをフロッピーディスクまたはハードディスクからロードするものであって、そのためのダイヤログを表示するディスプレイのデータはそのようなWebコンテンツデータではない点。

[相違点2]
本願発明では、リモート制御ファイルが「ファイルの種別が前記リモート制御データを記述したリモート制御ファイルであることを示すファイル拡張子により他のファイルと識別可能に構成された」ものであり、制御手段において、「当該取得されたファイルのファイル拡張子に基づいてファイルの種別を識別し、前記取得されたファイルが前記リモート制御ファイルであると識別されたときに」電子音楽装置を制御するのに対し、刊行物1発明はそのようなことは明らかではない点。

5.当審の判断
上記相違点1、2について考察する。

[相違点1]について
電子楽器において、必要な情報をインターネットなどのネットワーク上からダウンロードすることは、例えば、刊行物2に記載されているように周知の技術であるから、刊行物1発明において、パラメータファイルを、フロッピーディスクまたはハードディスクからロードする代わりに、インターネットなどのネットワーク上からダウンロードすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、また、そのようにファイルをダウンロードする際に、表示画面中に図形の態様で表現されるリンク情報が含まれたWebコンテンツデータに基づいて表示画面を表示することは、普通に行われている態様であるから、そのような態様とすることは当業者が必要に応じて適宜なし得る事項にすぎない。

[相違点2]について
ファイルの種別を示すファイル拡張子により他のファイルと識別可能にファイルを構成し、ファイルを使用するときに、ファイル拡張子によりファイルの種別を識別して適合するファイルを使用することは、ファイルの内容を実行する際のデータ処理として通常行われていることであるから、刊行物1発明において、パラメータファイル(本願発明の「リモート制御ファイル」に相当)を、ファイル拡張子により識別可能に構成し、電子楽器の設定に使用するときに、ファイルの種別を識別して適合するファイルを使用するように構成することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

また、これらの相違点に関連し、請求人は意見書により次のような主張をしている。
『刊行物1に記載の発明は、要するに、フロッピーディスクまたはハードディスクに記憶されたファイルを閲覧可能な機能、具体的にはファイルブラウザに相当する機能を備え、この機能に従って一覧表示されたファイルからユーザが選択したものを読み出し、そのファイルに記憶されているパラメータを設定するものである。つまり、刊行物1に記載の発明では、ユーザは「やろうとしていること」と「そのためのファイル」を正しく認識し、間違いなくファイル選択し、そのロードを指示する必要がある。このため、刊行物1に記載の発明では、取得すべきファイルあるいは選択すべきファイルすら分からない不慣れなユーザにとっては、ファイルを介したパラメータの設定は困難である。
これに対して、本願請求項1に係る発明では、前記(c)の特徴により、ユーザが目にするのは「ファイル」ではなく「図形の態様で表現されたリンク情報」であり、この「図形」に対して所定の操作を行うだけで、目的のファイルを取得することができる。つまり、ユーザは、刊行物1に記載の発明のように「ファイル」というものを意識しなくても、目的のファイルを取得することができる。しかも本願請求項1に係る発明では、前記(b)の特徴により、図8に例示するように、当該ファイルに記述されたリモート制御データが実行を指示する所定機能の内容も表示されるので、ユーザが真に望むファイルを間違いなく取得することができる。このように刊行物1には、本願請求項1に係る発明の前記(b)および(c)の特徴はいずれも開示も示唆もされていない。
さらに刊行物1には、本願請求項1に係る発明の前記(a)および(d)のいずれの特徴も開示も示唆もされていない。
刊行物2は、前述のように、装備されていない新たなコンポーネントが必要な場合に、
そのコンポーネントをネットワーク300を介してシステムサーバ200よりダウンロードする構成を開示するものの、刊行物2には、本願請求項1に係る発明の前記(a)?(d)のいずれの特徴も開示も示唆もされていない。
このように、刊行物1および2のいずれにも、本願請求項1に係る発明の前記(a)?(d)の特徴は開示も示唆もされていないので、刊行物1および2からでは、本願請求項1に係る発明の「ユーザは表示手段上の表示画面中にある図形(実施例では、図8の設定ボタン10a5)に対して所定の動作(実施例では、図8のカーソルCを設定ボタン10a5に合わせてクリック操作)を行うだけで、当該リンク情報によってリンクされたファイルが取得され、このファイルが取得されたことに応じて、当該取得されたファイルのファイル拡張子に基づいてファイルの種別が識別され、前記取得されたファイルが前記リモート制御ファイルであると識別されたときに、リモート制御ファイルである前記取得したファイルに記述されたリモート制御データが解釈され、該解釈されたリモート制御データの内容に応じた前記機能が自動的に実行されるので、操作に不慣れなユーザであっても、操作上の間違いなく電子音楽装置についての目的の一連の機能(実施例では、パネル操作で実行される機能)を容易に実行することができる。またWebコンテンツデータには、当該リンク情報を含む所定の表示画面を表示するための表示情報が含まれ、これにより、図8に例示するように、当該ファイルに記述されたリモート制御データが実行を指示する所定機能の内容も前記図形とともに表示されるので、ユーザはその図形に対して所定の動作を行う前に、今から自動的に実行される電子音楽装置についての一連の機能の内容を確認することができる。」という特有の効果が得られない。』
請求人の主張は、要するに、ユーザが表示画面でファイルを選択する際のユーザーインターフェースが、本願発明と刊行物1発明とでは異なるということ、および、本願発明はファイル拡張子に基づいてファイルの種別が識別されること、これらにより本願発明は、操作に不慣れなユーザであっても、操作上の間違いなく機能を容易に実行することができる効果があるということであると考えられる。
しかしながら、ユーザインターフェースに関しては、請求項1には、リンク情報が表示画面中に図形の態様で表現されていることが規定されているのみであって、図形の態様での表現を行うことが直ちに操作上の間違いをなくすことができるということにはならない。図8のような、所定機能の内容をも図形とともに表示させる旨の主張は請求項の記載に基づかない主張であり失当である。仮に、そのようなことが請求項に記載されていたとしても、表示画面にファイルの機能などの説明を図形とともに表示させることは単なる設計事項であって、そのように構成することが格別困難であるとはいえない。また、ファイル拡張子に基づくファイルの種別の識別についても、それ自体は周知技術であり、刊行物1発明においても、【図5】に記載されているようにディスク内には複数の種別のファイルが存在しており、何らかの方法でファイルの種別を識別していることは明らかであるから、周知のファイル拡張子に基づく識別を行うことに格別の困難があるとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2に示されているような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-26 
結審通知日 2010-03-09 
審決日 2010-03-23 
出願番号 特願2004-228150(P2004-228150)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 畑中 高行
千葉 輝久
発明の名称 電子音楽装置の制御装置および電子音楽装置の制御方法を実現するためのプログラム  
代理人 村松 聡  
代理人 別役 重尚  

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