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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する F16L
管理番号 1216537
審判番号 訂正2009-390155  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-12-24 
確定日 2010-04-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4171280号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4171280号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第4171280号は,平成14年10月16日に特許出願され,平成20年8月15日にその請求項1及び2に係る発明について特許の設定登録がなされたものである。

そして,平成21年12月24日付けで請求人より本件訂正審判の請求がなされ,平成22年2月23日付けで当審が訂正拒絶理由通知を通知したところ,平成22年3月29日付けで請求人から意見書が提出された。

2.請求の要旨及び訂正の内容
本件審判請求は,特許第4171280号発明の明細書(以下,「特許明細書」という。)を,審判請求書に添付の全文訂正明細書のとおりに,すなわち,下記(1)ないし(7)のとおり訂正することを求めるものである。

(1)訂正事項1
請求項2に,
「3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」とあるのを,
「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって,3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」と訂正する。(下線部分は訂正箇所。以下同じ。)

(2)訂正事項2
特許明細書の段落【0005】に,
「【課題を解決するための手段】
本発明は,上記目的を達成するためになされたものであり,請求項1の発明(以下,発明1)は,外気温15℃の雰囲気下において,波長0.7?100μm,熱量4kw/m^(2)の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に,管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
また,請求項2の発明(以下,発明2)は,3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」とあるのを,
「【課題を解決するための手段】
本発明は,上記目的を達成するためになされたものであり,請求項1の発明(以下,発明1)は,外気温15℃の雰囲気下において,波長0.7?100μm,熱量4kw/m^(2)の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に,管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
また,請求項2の発明(以下,発明2)は,顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって,3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許明細書の段落【0033】に,
「(実施例3)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)0.5重量部の代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」とあるのを,
「(実施例3)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)を0.05重量部用いたこと以外は実施例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許明細書の段落【0037】の記載を削除する。

(5)訂正事項5
特許明細書の段落【0038】に,
「(実施例6)
カーボンブラックを添加する代わりに,黒色顔料(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)0.05重量部添加したこと以外は実施例4と同様にして評価を行った。
(実施例7)
得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」,長田製作所社製)に供給し,25℃の温水で冷却したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った。」とあるのを,
「(実施例4)
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」,長田製作所社製)に供給し,40℃の温水で冷却したこと以外は,実施例3と同様にして評価を行った。」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許明細書の段落【0039】に,
「(比較例2)
得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」,長田製作所社製)に供給し,25℃の水で冷却したこと以外は実施例4と同様にして評価を行った。
黒色顔料を添加する代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った。」とあるのを,
「(比較例2)
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)0.5重量部の代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得,これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」,長田製作所社製)に供給し,25℃の水で冷却した以外は,実施例3と同様にして評価を行った。」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許明細書の段落【0040】の【表2】を以下のとおりに訂正する。
【表2】



3.訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項2において,訂正前の硬質塩化ビニル系樹脂管を「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」に限定するものであるから特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

また,訂正事項1は,特許明細書の段落【0014】の「本発明1及び本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管を得る場合には,必要に応じて熱安定剤,安定化助剤,滑剤,加工助剤,酸化防止剤,光安定剤,顔料,充填剤等を添加してもよい。」との記載,段落【0021】の「上記の顔料としては特に限定されず,・・・しかし,赤外線を吸収しにくいという観点から,有機系の黒色顔料が望ましい。・・・」との記載,段落【0025】の「・・・黒色顔料(有機系)(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)・・・」との記載,【0033】-【0040】における実施例5及び6についての記載に基づくものであって,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正事項1による特許請求の範囲の減縮に伴い,【課題を解決するための手段】の請求項2についての記載を訂正後の請求項2と整合させ,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の間で生じた不整合を正すものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

また,訂正事項2は,上記「2.(1)」で述べたとおり特許明細書の記載に基づくものであって,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ないし5及び7について
訂正事項3ないし5及び7は,訂正事項1による特許請求の範囲の減縮に伴い,訂正前の顔料として有機系黒色顔料を含まない実施例3,4及び7を削除し,訂正前の実施例5及び6を実施例3及び4として,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の間で生じた不整合を正すものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

また,訂正事項3ないし5及び7は,特許明細書の段落【0033】-【0040】における実施例5及び6についての記載に基づくものであって,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,何れも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4)訂正事項6について
訂正事項6は,訂正事項1による特許請求の範囲の減縮に付随した訂正事項3及び4による訂正前の実施例3及び4の削除に伴い,比較例2についての記載を訂正前の実施例4の構成を引用しない記載に改めて,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の間で生じた不整合を正すとともに,誤記であった「黒色顔料を添加する代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った。」との記載を削除するものであるから,明りょうでない記載の釈明および誤記の訂正を目的とするものである。

また,訂正事項6は,特許明細書の段落【0033】-【0037】,【0039】における比較例2についての記載に基づくものであって,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

4.独立特許要件について
3.で検討したとおり,訂正事項1ないし7を含む本件訂正は,特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とする訂正に該当するものであり,また,同条第3項及び第4項の規定に適合するので,訂正後の請求項2に係る発明(以下,「本件訂正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けられるものであるかどうかについて,以下検討する。

(1)本件訂正発明
本件訂正発明は,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載される事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項2】
顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって,3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」

(2)明細書の記載要件について
(2-1)特許法第36条第6項第1号について
訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂は実質的に1種類であり,本件訂正発明において特定された「有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」を構成する有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂のごくわずかな部分にすぎない。
しかしながら,ポリマー成分と添加剤には複雑な相互作用はないことから,添加剤の効果が,通常同じ系のポリマー成分に対して一般的に予測可能であることからすると,発明の詳細な説明に実質的に1種類の有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂に基づく実施例しか開示されていないとしても,本件訂正発明の作用効果は,有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂一般に対して予測可能といえるから,本件訂正発明は発明の詳細な説明の記載によって十分裏付けられているといえる。

(2-2)特許法第36条第6項第2号について
本件訂正発明は,「有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」の有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂の種類を何ら限定しておらず,有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂一般に対して,「△σ」の値を本件訂正発明に記載された範囲に収めるための設定が特定されていない。
しかしながら,上記(2-1)において述べたように,特定の塩化ビニル系樹脂や特定の有機系黒色顔料を用いなければ,「△σ」の値を本件訂正発明に記載された特定の範囲に収めることができないものではなく,また,「△σ」の値として本件訂正発明に記載された特定の範囲に収めるための有機系黒色顔料の添加量や成形条件も,訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例に目安が記載されており,さらに,硬質塩化ビニル系樹脂管の管径も,一般にJISK6741で規定される硬質ポリ塩化ビニル管の規格で定められた程度であると理解できるものであり,このような設定を特許請求の範囲で特定しなければ発明の範囲が不明確になるとはいえない。

(2-3)特許法第36条第4項について
本件訂正発明においては,有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂が何ら限定されていないにも拘わらず,本件訂正発明の作用効果を奏することを確認した有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂は実施例に示された1種類だけであるが,上記(2-1)において述べたように,本件訂正発明の作用効果は,実施例に示された特定の有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂を用いた場合についてのみ達成し得る作用効果ではなく,有機系黒色顔料及び塩化ビニル系樹脂一般が達成し得る作用効果といえる。また,訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例には,有機系黒色顔料の添加量や管の残留応力を低減させる冷却水の水温の目安が記載されており,さらに,上記(2-2)において述べたように,硬質塩化ビニル系樹脂管の寸法も限られたものであり,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,「△σ」の値を特定の範囲に収めるために製造条件を調整することは,当業者に過度の試行錯誤を要求するものとはいえない。

(3)新規性及び進歩性について
(3-1)刊行物
本件訂正発明に関連する文献として,以下の文献1ないし3が発見されている。
文献1:特公昭60-30347号公報
文献2:特開2001-139698号公報
文献3:特開2000-33654号公報

(3-2)判断
上記文献1ないし3のいずれにも,本件訂正発明の,
「3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であること」
「σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径
r_(1):切開後内半径」
については,記載も示唆もされていない。
そして,本件訂正発明はこの構成に基づき,訂正明細書に記載された作用効果を奏するものであるから,本件訂正発明は,上記各文献に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)まとめ
他に,本件訂正発明が,その特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから,本件訂正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではない。

5.むすび
したがって,本件審判の請求は特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的としたものであり,かつ,同条第3項ないし第5項の規定に適合する。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
硬質塩化ビニル系樹脂管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7?100μm、熱量4kw/m^(2)の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
【請求項2】
顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径 r_(1):切開後内半径
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬質塩化ビニル系樹脂管に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル樹脂は機械的強度、耐薬品性などに優れており、管工機材や住宅資材等に広く使用されている。
しかし、硬質塩化ビニル管を太陽光が照射されるような状況下で保管した場合、塩化ビニル管が湾曲することがある。湾曲、すなわち反りの大きい塩化ビニル管は、管内を流れる流体の流動性が低下したり、施工が困難になるなどの問題があった。
この様な反りを防止する方法としては、塩化ビニル管に鉄製の線材を連着する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法は塩化ビニル管の両端周縁面に山形状の突起部を形成した塩ビパイプ本体を設け、この突起部間に鉄製の線材を連着して、塩ビパイプ本体に発生する反りを防止するものである。しかし、この方法では、塩化ビニル管に鉄製の線材を一本一本連着する必要があり、非常に手間がかかってしまう。
【0003】
【特許文献1】
特開平5-141574号公報(第1頁?第4頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑み、太陽光等が照射されても湾曲し難たい又は湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、請求項1の発明(以下、発明1)は、外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7?100μm、熱量4kw/m^(2)の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
また、請求項2の発明(以下、発明2)は、顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径 r_(1):切開後内半径
【0006】
以下に本発明を詳述する。
本発明1の硬質塩化ビニル系樹脂管は、外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7?100μm、熱量4kw/m^(2)の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下でなくてはならない。管表面最大温度が60℃を超える硬質塩化ビニル系樹脂管特に夏場、太陽光の照射される環境下に保管した場合湾曲量が大きくなり、管体としての性能を発揮できなくなるため、この範囲に限定される。
本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管は、3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下でなくてはならない。
特に夏場、太陽光の照射される環境下に保管された場合、湾曲量が大きくなるため、この範囲に限定される。3500kcal/m^(2)・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3?4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである。
【0007】
本発明1及び本発明2に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合休または塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらは単独で用いられても良く、2種類以上併用して用いても良い。
【0008】
本発明1及び本発明2に用いられる塩化ビニル系樹脂の平均重合度は600?3000が好ましく、更に好ましくは800?2000である。平均重合度が600未満であると機械的強度が不足する可能性があり、逆に平均重合度が3000を超えると成形が困難になることがある。
尚、上記の平均重合度とは、塩化ビニル単独重合体や複合塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K-6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0009】
本発明1及び本発明2で用いられる塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーや重合体との共重合体等が挙げられる。
【0010】
塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のαオレフイン類;プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエ-テル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ工チル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類等が挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0011】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な重合体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーなどからなるアクリル系共重合体等が挙げられ、これらの共重合性重合体は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。尚、ここで言う(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0012】
塩化ビニルモノマーと、上記の共重合性モノマーや重合体とを併用する場合、共重合性モノマーや重合体の使用量は、得られる硬質塩化ビニル管の性能や目的に応じて適宜設定されれば良く、特に限定されるものではない。
【0013】
塩化ビニル単独重合体や塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂の重合方法としては従来公知の方法で良く、例えば、懸濁重合法等が挙げられる。
【0014】
本発明1及び本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管を得る場合には、必要に応じて熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、充填剤等を添加してもよい。
【0015】
上記熟安定剤としては特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記の安定化助剤としては特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油、エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記の滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤等が挙げられる。
上記の内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記の内部滑剤としては特に限定されず、例えば、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルステアレート、エポキシ化大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、ビスアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記の外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。上記の外部滑剤としては特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリオレフインワックス、エステルワックス等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記の加工助剤としては特に限定されず、例えば、重量平均分子10万?200万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記の酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の光安定剤としては特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記の顔料としては特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系、カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。しかし、赤外線を吸収しにくいという観点から、有機系の黒色顔料が望ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記の各種配合剤を、上記の塩化ビニル系樹脂に混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ホットブレンドによる方法、コールドブレンドによる方法等が挙げられる。
本発明1及び本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管の成形方法は、従来公知の方法で良く、例えば押出成形方法が好適に用いられる。
【0023】
3500kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σを2.94MPa以下にする方法は、得られる塩化ビニル系樹脂管の機能を損なわなければ、特に限定されず、例えば冷却水の水温を上げたりすることによる管の残留応力を低減させたり、塩化ビニル系樹脂管の赤外線吸収率を低減したりする方法が挙げられる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて、具体的に本発明の効果を鋭明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
塩化ビニル系単独重合体(商品名「TS-1000R」、徳山積水工業社製)100重量部に、有機錫系安定剤(商品名「ONZ-142F」、三共有機社製)1部、ポリエチレンワックス系滑剤(商品名「Hiwax220MP」、三井石油化学工業社製)0.5部、ステアリン酸(商品名「S-30」、花王社製)0.5部、炭酸カルシウム(商品名「ホワイトン305S」、白石カルシウム社製)5部、黒色顔料(有機系)(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部、及び酸化チタン(商品名「R-3L」、堺化学社製)2重量部をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0026】
[塩化ビニル系樹脂管継手の成形]
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、外径60mm、肉厚4.5mm、長さ1mの塩化ビニル系樹脂管を得た。
【0027】
(実施例2)
塩化ビニル単独重合体を用いる代わりに、下記要領で作成した複合塩化ビニル系樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得た。
〔アクリル系共重合体の作製〕
アクリル系モノマー成分としてn-ブチルアクリレート(単独重合体のTg:-54℃)95%及び多官能性モノマー成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート5%を含有してなるアクリル系混合モノマー2.36kg、乳化分散剤(商品名「ハイテノールN-08」、第一工業製薬社製)の10%水溶液50g及び純水1.5kgからなる乳化モノマー液を予め調製した。
【0028】
攪拌機及び温度調整機を備えた重合反応器(内容積10リットル)内に、純水4kg、重合開始剤として過硫酸アンモニウムの10%水溶液24gを仕込み、重合容器内を窒素ガスで置換した後、攪拌下、重合反応器内を75℃に昇温した。次いで、予め調製した上記乳化モノマー液を昇温後の重合反応器内に一定の滴下速度で滴下した。乳化モノマー液の全量の滴下を3時間で終了し、その後、1時間攪拌を続けた後、重合反応を終了し、固形分の濃度が30%のアクリル系共重合体エマルジョンを作製した。
【0029】
〔複合塩化ビニル系樹脂の作製〕
攪拌機及び温度調整機を備えた重合反応器(内容積15リットル)内に、純水7.5kg、上記で得られたアクリル系共重合体エマルジョン0.5kg(固形分0.15kg)、乳化分散剤として部分鹸化ポリビニルアルコール(商品名「クラレポバールL-8」、クラレ社製)の3%水溶液330g、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシデカネート及びα-クミルパーオキシネオデカネートを各々1.1gを仕込み、重合反応器内の空気を真空ポンプで排出した後、攪拌下、塩化ビニルモノマー3.0kgを添加した。次いで、重合反応器内を50℃に昇温して、グラフト重合反応を開始した。重合反応器内の圧力の低下でグラフト重合反応の終了を確認した後、未反応の塩化ビニルモノマーを排出して、複合塩化ビニル系樹脂を作製した。得られた複合塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルのグラフト量は94%であり、アクリル系共重合体の含有量は6%であった。又、得られた複合塩化ビニル系樹脂の平均重合度をJIS K 6721に準拠して測定したところ、平均重合度は1400であった。
【0030】
(比較例1)
黒色顔料を添加する代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得て、評価を行った。
【0031】
[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
実施例1,2及び比較例1で得られた塩化ビニル系樹脂管について、管表面温度及び湾曲量を以下の方法で評価し、その結果を表1に示した。
(管表面温度、湾曲量)
外気温15℃の雰囲気下において、赤外線ランプを用い、熱量4kw/m^(2)の赤外線を塩化ビニル系樹脂管に3時間照射し、塩化ビニル系樹脂管の表面温度を測定した。尚、赤外線ランプと塩化ビニル系樹脂管との距離は40cmであった。照射後、一昼夜放置し最も湾曲している部位のパイプの両端間にピアノ線を張り、ピアノ線とパイプとの距離を測定する。上記作業を5本のパイプについて行い、測定したピアノ線とパイプとの距離のうち最大のものを湾曲量とした。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)を0.05重量部用いたこと以外は実施例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0034】
[塩化ビニル系樹脂管継手の成形]
得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、外径60mm、肉厚4.5mmの成形体を50℃の温水で冷却後、長さ4mに切断し硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。
【0035】
[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
実施例3で得られた塩化ビニル系樹脂管について、湾曲量、引張弾性率、ポアソン比、応力を以下の方法で評価し、その結果を表2に示した。
・湾曲量
硬質塩化ビニル管が動かないよう、管の両端から5cmの場所を支持し、3500Kcal/m^(2)・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後、硬質塩化ビニル管の両端にピアノ線を張り、ピアノ線と硬質塩化ビニル管との距離を測定し、その最大値を湾曲量とした。
・引張弾性率、ポアソン比
JIS K7161に準拠して測定した。
【0036】
・応力
硬質塩化ビニル管から長さ2cmのサンプルを切り出し、肉厚及び内半径(r_(0))を測定する。静置時、最も下になった部分を切り取りC字型のサンプルを作成し、内半径(r_(1))を測定する。即ち図1において、符号1で示した部分を中心に左側は2まで、右側は8まで切り取り、全円周の1/4を切り取ったサンプルを作成した。尚、中心を通る各線は応力測定時のサンプルの切り取り方向と位置を示している。
この作業を図1の2?8についても同様にして行い、それぞれの部位での応力σを式(1)に従って算出し、その最大値から最小値を差し引き、応力差Δσを算出する。
σ=[E/(1-R^(2))]・t/2・(1/r_(1)-1/r_(0)) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r_(0):切開前内半径 r_(1):切開後内半径
【0037】
【0038】
(実施例4)
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、40℃の温水で冷却したこと以外は、実施例3と同様にして評価を行った。
【0039】
(比較例2)
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の水で冷却した以外は、実施例3と同様にして評価を行った。
【0040】
【表2】

【0041】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、太陽光等の照射による湾曲が生じにくいか湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得ることが出来る。
【0042】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明により得られる硬質塩化ビニル系樹脂管の管軸方向に直角な断面図である。
【0043】
【符号の説明】
1?8 応力測定時のサンプルの切り取り位置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-04-16 
出願番号 特願2002-302163(P2002-302163)
審決分類 P 1 41・ 832- Y (F16L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 田良島 潔
冨江 耕太郎
登録日 2008-08-15 
登録番号 特許第4171280号(P4171280)
発明の名称 硬質塩化ビニル系樹脂管  
代理人 片山 英二  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 片山 英二  
代理人 加藤 志麻子  

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