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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1216549
審判番号 不服2008-15090  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-16 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 平成 9年特許願第504611号「携帯式超音波撮像システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月16日国際公開,WO97/01768,平成11年 7月27日国内公表,特表平11-508461〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成8年6月28日(パリ条約による優先権主張 平成7年6月29日,米国及び平成8年2月12日、米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年4月21日付けで拒絶理由通知書が出され,平成18年11月9日付けで手続補正がなされ,平成18年12月18日付けで最後の拒絶理由通知書が出され,それに対して,平成19年7月9日付けで手続補正がなされ,平成20年3月6日付けで平成19年7月9日付け手続補正に対する補正却下の決定がされ,同日付で拒絶査定がされ,これに対して,平成20年6月16日に拒絶査定不服審判が請求され,平成20年7月11日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1及び請求項2は,以下のとおり補正された。下線は補正部分を示す。
「【請求項1】
単一の集積回路ビーム形成装置中に少なくとも10チャンネルを有する集積回路ビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取るプロセッサーを備えたコンピユータプラットホームを有する画像システムに接続された超音波アレープローブを具備し,
該コンピユータプラットホームが,
イメージデータを記憶するイメージデータメモリー 対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエア,
上記処理された信号の表示処理を実行するための表示処理ソフトウエア,及び
超音波画像の表示のための処理された信号を受け取るパーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を具備し,
上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する
ことを特徴とする超音波診断画像システム。
【請求項2】
単一の集積回路ビーム形成装置中に少なくとも32チャンネルを有する集積回路ビーム形成装置と,該ビーム形成装置からビーム形成画像データを受け取るプロセッサーを備えたコンピユータプラットホームとを有する画像システムに接続された超音波アレープローブ,
対象領域からのデジタルデータを記憶するイメージデータメモリー,
対象領域の上記デジタルデータを処理して,対象領域のデジタル画像を生成する信号処理ソフトウエア,及び
対象領域のデジタル画像を表示するためのコンピユータプラットホームに接続された表示装置を具備し,
上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する
ことを特徴とする超音波診断画像システム。」

2.補正事項
本件補正により,次の如く特許請求の範囲が補正された。
(1)補正事項1
請求項1において,補正前「少なくとも10チャネルを有する集積回路ビーム形成装置」とあるのを,「 単一の集積回路ビーム形成装置中に少なくとも10チャンネルを有する集積回路ビーム形成装置」と補正した点

(2)補正事項2
請求項1において,補正前の「該コンピュータプラットホームが,・・・・を具備し」とあるのを,「該コンピユータプラットホームが,
イメージデータを記憶するイメージデータメモリー・・・を具備し」と補正した点

(3)補正事項3
請求項1において,対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するためのソフトウエアとして,補正前「単一の処理ソフトウエア」とあるのを「信号処理ソフトウエア」とした点

(4)補正事項4
請求項1において,補正前の「上記画像システムが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」とあるのを,「上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」と補正した点

(5)補正事項5
請求項2において,補正前「少なくとも32チャネルを有する集積回路ビーム形成装置」とあるのを,「 単一の集積回路ビーム形成装置中に少なくとも32チャンネルを有する集積回路ビーム形成装置」と補正した点

(6)補正事項6
請求項2において,補正前の「単一の処理ソフトウエア」とあるのを「信号処理ソフトウエア」と補正した点

(7)補正事項7
請求項2において,補正前の「該コンピュータプラットホームが,・・・・を具備し」とあるのを,「該コンピユータプラットホームが,
イメージデータを記憶するイメージデータメモリー・・・を具備し」と補正することにより,コンピュータプラットホームにイメージデータを記憶するイメージデータメモリーが含まれること付加した点

(8)補正事項8
請求項2において,補正前の「上記画像システムが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」とあるのを,「上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」と補正した点

3.補正の適否
(補正事項1について)
補正により,「単一の集積回路ビーム形成装置中に」であることが限定されたから,特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。また,補正前「チャネル」を補正により「チャンネル」にする補正は,誤記の訂正を目的としているものといえる。

(補正事項2について)
願書に最初に添付した明細書及び図面(以下,「当初明細書」という。)第28頁第17-21行には,「以下詳細に説明されるように,ビデオ圧縮回路34は,データを圧縮して通信回路を介して表示及び解析用の遠隔のステーションに画像データの送信ができるようにする。通信チャンネルはモデム又は無線セルラー通信チャンネル又はその他の公知の通信手段とすることができる。」との記載事項がある。画像データ,即ち,イメージデータを圧縮して送信するのに,メモリーがないと画像を送信できないことは技術常識であるから,補正事項2は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定される要件を満足しているといえる。
そして,コンピユータプラットホームに,「イメージデータを記憶するイメージデータメモリー」が付加されたといえるから,特許請求の範囲の減縮を目的としているものといえる。

(補正事項3について)
ソフトウエアは,装置に組み込まれてしまえば単一,複数と数えることが出来ないものである。そして,処理ソフトウエアが信号を処理することは,特許請求の範囲から明らかである。したがって,補正前の「単一の処理」を削除して「信号処理」と補正することは,誤記の訂正を目的とするといえる。

(補正事項4について)
当初明細書第10頁第3-10行に「 1実施例においは,携帯式の処理回路はラップトップ型コンピューターの形式で導入され,これは,一体式のキーボード,画像データ転換用のPCMCIA標準のモデムカード,及びアクティブマトリックスLCDにようなフリップトップのフラットパネル表示装置を備える。ラップトップ型コンピューター,従って全システムは,小型軽量の電池により電力を供給される。スキャンヘッド,ケーブル及びコンピューターを含んだ全システムは,非常に軽量かつ携帯可能である。システムの総重量は4.53kg(10ポンド)を越さないことが好ましい。」と記載されている。この記載事項からは,ラップトップ型コンピュータ,スキャンヘッドを含む全システムが,4.53kg(10ポンド)を越さないことが把握できる。全システムとあるから,補正後の請求項1に係る「上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」という特定事項が,当初明細書に記載された事項の範囲内であることは明らかである。よって,補正事項4は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定される要件を満足しているといえる。
そして,補正前の請求項1係る発明は「コンピュータプラットホームを有する画像システムに接続された超音波アレープローブを具備し」とされているように,超音波アレープローブは画像システムに含まれていなかった。補正後の請求項1に係る発明は,超音波アレープローブを含んだ重量を10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有するとしており,特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。

(補正事項5-8について)
上記,補正事項1-4についての検討と同様,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第2号の特許請求の範囲の減縮及び第3号の誤記の訂正を目的としているといえる。

以上のように,いずれの補正も願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許請求の範囲の減縮及び第の誤記の訂正を目的とするものに該当する。

4.独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下で検討する。

(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-161641号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)超音波探触子,振動子アレー21及び送受波回路について【0023】
「【0023】図2により,実施例をより詳細に明する。(なお,当審にて,「詳細に明する。」は,「詳細に説明する。」の誤記であると認められる。)図2では図1と同様に超音波探触子としてリニア電子走査型超音波探触子1Aとこれに対する本体装置2A,メカニカルセクタ走査型超音波探触子1Bとこれに対する本体装置2Bを例にとって,超音波探触子と本体装置の構成を示している。リニア電子走査型超音波探触子1Aでは,超音波探触子1Aは,振動子の配列である振動子アレー21と,超音波の送受を行なう送受波回路22Aと,受波された超音波を増幅する受波増幅器24Aと,送受波回路22A,受波増幅器24A,を制御するコントロール部A,23Aとを内蔵している。この結果,受波増幅器24Aの出力を本体装置2Aに伝達する信号線は,同時に送受波した超音波振動子の数だけ必要となる。この信号線の他に必要なライン(線)は,超音波探触子1Aを動作させるために,本体装置2Aの電源変換部29から電源の供給を受けるための電源線,本体装置23Aと超音波探触子1Aとの間で制御信号を授受するための制御線のみとなり,フレキシブルで軽量のケーブルにより本体装置2Aと超音波探触子1Aとを接続することができる。」

(1-イ)リニア電子走査型超音波探触子1Aと本体装置2Aの配置について(図1)
図1には,リニア電子走査型超音波探触子1Aと本体装置2Aが接続されている状態が図示されている。

(1-ウ)本体装置2Aの内部について(図2)
図2には,本体装置2Aの内部に,受波整相回路25,信号処理部27A,画像表示部28及びデータ入出力部30が設けられている状態が図示されている。そして,メモリカード4Aがデータ入出力部に接続される状態が図示されている。

(1-エ)信号処理部27A,画像表示部28及びメモリーカード4Aについて(【0025】-【0026】)
「【0025】本体装置2Aはリニア電子走査型超音波探触子1Aからの受波信号データのみを信号処理するものであり,本体装置2Aは,送波や受波の超音波ビームを形成する受波整相回路25と,受波信号データを処理する信号処理部27Aと,信号処理部27Aにおいて処理された被検者の画像を表示する画像表示部28と,画像データあるいは受波信号データ及び,患者情報データ,本体装置識別コード等の情報をメモリカード4Aに転送するデータ入出力部30と,バッテリパック10Aより電源の供給をうけ必要な電圧に変換する電源変換部29と,受波整相回路25,信号処理部27A,画像表示部28,データ入出力部30,電源変換部29を制御するコントロール部B,26Aとから構成される。
【0026】受波増幅回路24Aからの信号は,以下に示す4通りの方法で信号処理される。第1の信号処理では,受波増幅回路24AからのA/D変換された信号をそのままデータ入出力30部で,メモリカード4Aに記憶するものである。第2の信号処理では,受波増幅回路24Aからの信号は受波整相回路25で信号処理され,途中の処理結果あるいは,信号処理結果をディジタルデータの形でデータ入出力部30で,メモリカード4Aに記憶するものである。第3の信号処理では,受波増幅回路24Aからの信号は受波整相回路25で信号処理されて,さらに信号処理部27Aで信号処理されて画像データを得て,画像表示部28に表示するとともに,ディジタル化された画像データをデータ入出力部30で,メモリカード4Aに記憶するものである。第4の信号処理では,以上で説明した第1から第3の信号処理のうちの複数を含むものである。メモリカードへのデータの記憶は,目的画像をフリーズ(一時保存)した,1画像のデータ毎に行なうが,連続して目的画像をメモリカードへ記憶することもできる。」

(1-オ)携帯容易な超音波診断装置の構成について(【0031】)
「【0031】図3に携帯容易な超音波診断装置の一例を示す。基本的にこの超音波診断装置は,超音波探触子1と,本体装置2と,バッテリパック10とメモリカード4からなる。本体装置2は,表示部3を備え,表示部3には液晶パネル等の軽量,低電力タイプのフラットパネルが適している。本体装置2は,ゲインコントロールスイッチ5,信号処理モードスイッチ6a,画像フリーズスイッチ6b,データ転送スイッチ6c,本体装置主スイッチ7,等を備えている。メモリカード4は本体装置2のメモリカード接続端子9に装着され,バッテリパック10は本体装置2の電源入力端子8に接続され電源を供給する。本体装置主スイッチ7がオンの状態で,電源が供給され本体装置2は作動可能となる。」

(1-カ)携帯容易な超音波診断装置の重量について(【0050】)
「【0050】また,携帯容易な装置の形態としては,片手で持ち片手で各種のスイッチの操作ができるものであり,たとえば図3に示すような形状で,重さ1kg以下,縦方向の長さ25cm以下,横方向の長さ12cm以下,高さ5cm以下,ケ-ブルは1m程度であることが望ましい。さらに別の形態としては,ラップトップパソコンと同様の形態で9インチ程度のパネル画面や,パネルキ-ボ-ド等を設け,膝あるいはベッド,机等において操作するものでもよい。」

(1-キ)図3
図3には,本体装置2にバッテリーパック10及び超音波探触子1が各々配線等を介して接続されている状態が図示されている。また,本体装置2にメモリカード4が挿入され得る状態が図示されている。

(1-ク)集積化について(【0014】)
「【0014】
【作用】超音波探触子内に振動子アレーの他に,必要に応じて送受波回路,受波増幅回路,受波整相回路,制御回路等の電子回路を集積し,それぞれの診断目的に対応した超音波探触子の超音波の走査方式の種類にたいし専用の本体装置を設けるので,超音波探触子及びこれに対応する専用の本体装置の回路規模が小さくなり,ハンディータイプの超音波診断装置を達成できる。」

上記(1-ア)の記載事項から,振動子アレー(21)及び超音波の送受を行なう送受波回路22Aが記載されていると把握できる。
上記(1-エ)の記載事項から,受波増幅回路24Aからの信号はA/D変換された信号ということが,把握できる。また,受波増幅回路24Aからの信号は,信号処理部27Aで信号処理されて画像データを得て,画像表示部28に表示されることが把握できる。そして,ディジタル化された画像データをデータ入出力部30で,メモリカード4Aに記憶されることが把握できる。
上記(1-カ)及び(1-キ)の記載事項から,本体装置2,バッテリーパック10,超音波探触子1及びメモリーカード4を含む重さが1kg以下であることが把握できる。
上記(1-ク)の記載事項から,送受波回路の電子回路を集積することが把握できる。

(刊行物1記載の発明)
以上の記載事項を総合すると,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 振動アレー(21)を駆動する集積回路を集積した送受波回路(22A)からの受波信号データを,受波増幅回路24Aを介してA/D変換し,そのA/D変換した信号を受け取る信号処理部(27A)を備えた本体(2)であって,画像表示部(28)を含む本体(2)に接続された超音波探触子(1A)を具備し,
画像データを記憶するメモリーカード(4A)を具備し,
超音波画像の表示のための信号処理部(27A)で処理された信号を受け取る画像表示部(28)を具備し,
上記振動子アレーを含む超音波探触子(1A),送受波回路(22A),バッテリーパック(10),メモリーカード(4)及び本体が,1kg以下である
ことを特徴とする超音波診断装置」

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-181929号公報(以下,「刊行物2」という。)には,従来技術として,次の事項が記載されている。
(2-ア)第2欄第28-32行
「そして,最近では,一般的に音響特性を向上させるために,1回の送受信に使用するチャンネル数が増加している。例えばセクタ探触子についてみると,心臓観察では一般に64チャンネルの探触子が使われており,腹部観察では邪魔になる骨が無いので倍に大きくして128チャンネルの探触子が使われている。」

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-15532号公報(以下,「刊行物3」という。)には,次の事項が記載されている。
(3-ア)【0011】
「【0011】本請求項2の発明においては,超音波診断装置で受波ビームフォーミングを行なう整相加算器において,標本化データ取得手段は超音波プローブ内の各検出素子から得られるそれぞれの受信信号を所定の標本化周期毎に量子化して標本化データを得る。そして超音波送受波ビームの走査による各音線のそれぞれ隣合う複数の音線を1単位の音線群とし,該1単位の音線群に対応してそれぞれデジタル信号処理手段が設けられる。デジタルマルチプレクサは前記超音波送受波ビームの走査に同期して前記1単位の音線群に対応してそれぞれ設けられデジタル信号処理手段を順次選択し,該選択されたデジタル信号処理手段に前記標本化データ取得手段により得られた標本化データを供給する。また前記各デジタル信号処理手段は標本化データメモリ,プログラムメモリ,デジタル信号プロセッサ及びイメージデータメモリを含み,前記標本化データメモリは前記デジタルマルチプレクサから供給される自己の担当する1単位の音線群についての標本化データを格納する。前記プログラムメモリは前記担当する1単位の音線群についての整相加算の演算プログラムを記憶し,前記デジタル信号プロセッサは前記プログラムメモリに記憶された整相加算の演算プログラムに基づき前記標本化データメモリに格納された標本化データをソフトウェア処理して前記担当する1単位の音線群についての整相加算結果のデータを得る。イメージデータメモリは前記デジタル信号プロセッサがソフトウェア処理した整相加算結果のデータを一時記憶する。」

(3-イ)【0020】-【0021】
「【0020】図3の52はデジタルシグナルプロセッサ(以下DSPという),またはマイクロプロセッサ(以下CPUという)であり,あらかじめ記憶された信号処理プログラムに従い高速で整相加算の演算を行なうLSI素子である。またこのDSPは後述する所定時間内に前記整相加算の演算を可能とする専用DSPのLSI,汎用DSPのLSI,複数のCPU用LSI,もしくはCPUのLSIと拡張数値プロセッサLSIとの組合せ等のいずれにより構成されるものでもよい。
【0021】53はプログラムメモリであり,DSP52が実行する整相加算の信号処理プログラムを記憶するメモリである。従ってプログラムメモリ53は例えばリードオンリメモリ(以下ROMという)により構成することができる。54はイメージデータメモリでありDSP52が実行した整相加算の演算結果のイメージデータを一時記憶するメモリである。従ってイメージデータメモリ54は例えばdual port付RAM等により構成することができる。」

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-354290号公報(以下,「刊行物4」という。)には,次の事項が記載されている。
(4-ア)【0023】
「【0023】なお,ここで,前記A/D変換器3,バッファメモリ4,フレームメモリ4,D/A変換器6,およびCPU9は,いわゆるディジタルスキャンコンバータ(DSC)を構成するようになっている。なお,このディジタルスキャンコンバータは,図示していないが,超音波走査をTV信号走査への変換をも行っているものである。」

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-90749号公報(以下,「刊行物5」という。)には,次の事項が記載されている。
(5-ア)第4頁右上欄第5-11行
「前記高分解能キー19,通常キー20,および高感度キー21のうち,いづれかのキーが操作された場合は,その旨の出力が前記ディジタルスキャンコンバータ13内のCPU50に入力され,この入力に基づいてメモリ22から前記操作されたキーに応じたデータが読み出されるようになっている。」
(5-イ)第1図
デジタルスキャンコンバータ内に,CPUとフレームメモリが含まれていることが図示されている。

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭62-139640号公報(以下,「刊行物6」という。)には,次の事項が記載されている。
(6-ア)第2頁左下欄第4-9行
「このDSC3は,上記画像メモリ5の他に,CPU(中央処理装置)6と,ROM(読出し専用メモリ)7と,ワーク用の第一のRAM(随時読出し書込みメモリ)8と,マーク類表示メモリ9と,混合器10と,テレビ信号読出し回路11とを有している。」

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第93/08863号(以下,「刊行物7」という。)には,次の事項が記載さている。
(7-ア)第25頁第4-8行
「By way of example, in one embodiment of the invention, the system personal computer screen displays the diameter mode signal echo pattern in M-mode, wherein the X-axis represents time, the Y-axis represents depth, and the Z-axis represents echo amplitude.」
(訳「本発明の一例として,システムのパーソナルコンピュータスクリーンは径モード信号 エコーパターンをMモードで表示する。その場合,X軸は,時間を表す。Y軸は,深さを表す。Z軸は,エコーの振幅を表す。」 なお,訳は,当審にて訳したもの。以下,同様。)

(7-イ)第22頁第4-7行
「In the preferred embodiment, the ultrasound probe of the present invention is used in connection with a system that includes a Doppler unit ( not shown) and personal computer (not shown).]
(訳「好適例では本発明の超音波プローブはドップラーユニット(図示せず)とパーソナルコンピュータ(図示せず)を備えるシステムと接続して使用する。」)

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-228141号公報(以下,「刊行物8」という。)には,次の事項が記載されている。
(8-ア)
「【0027】図8にこのような装置の一実施例を概観図で示す。ラップトップパソコン20にアダプタ21を接続し円環状振動素子アレー27を接続する。ラップトップパソコン20のディスプレーには,Aモード波形,骨診断指標,骨状態評価結果,断層像等が表示可能であり,もちろん各種データを記憶し,長期にわたる経時記録ができ経時変化を表示できる。」

(8-イ)【0009】
【0009】また,環状に振動素子を配列し,関心部位の体表にベルト状に配置し,これを,例えば,パーソナルコンピュータ等の制御機能を有する演算処理装置に接続し小型で汎用の骨診断装置,あるいは既存の超音波診断装置に接続しオプションとして設置できる簡単な骨診断装置とすることができる。

本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-90956号公報(以下,「刊行物9」という。)には,以下の事項が記載されている。
(9-ア)【0015】
「【0015】表示手段は,医師が解析の結果を見ることができるものであれば,任意の形態のディスプレイでよい。しばしばパーソナルコンピュータの普通のディスプレイのようなディスプレイが最初の診察のために使われるだろう。・・・」

(2)対比・判断
本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
ア.刊行物1発明の「受波信号データ」は,本願補正発明の「ビーム形成画像データ」に相当する。

イ.刊行物1発明の「超音波探触子」は,「振動アレー21」を含んでいる(上記(1-ア)参照。)から,本願補正発明の「超音波アレープローブ」に相当する。
そして,「振動アレー」を駆動させるために「超音波の送受を行なう送受波回路(22A)」が「振動アレー」に接続されている。(上記(1-ア)参照。)
また、該「超音波の送受を行なう送受波回路(22A)」は,振動アレーに含まれる各々の振動子を振動させる機能を備えていることは明らかであるから,複数のチャンネルを振動させる機能を有しているといえる。そうすると,刊行物1発明の「超音波の送受を行なう送受波回路(22A)」は,本願補正発明の「複数のチャンネルを有するビーム形成装置」という点で共通しているといえる。

ウ.本願補正発明の「ビーム形成画像データを受け取るプロセッサーを備えたコンピユータプラットホームを有する画像システムに接続された超音波アレープローブを具備し」という特定事項について検討する。
刊行物1発明においては,刊行物1発明の「本体」は,受波信号データ(前述の如く本願補正発明の「ビーム形成画像データ」相当)を画像にデータに処理する信号処理部(27A)を有しており,その処理された信号により「画像表示部(28)」で表示がなされる。また,信号処理部(27)は,そのA/D変換した信号を受け取るものである。プロセッサが,デジタルデータを処理する装置であることは,技術常識であることから,刊行物1発明の「信号処理部(27A)」は,本願補正発明と「デジタルデータを処理する装置」という点で共通している。また,刊行物1発明の「本体」は,「画像表示部(28)」を具備していることから,本願補正発明の「画像システム」といえるものを具備していることは明らかである。そして,刊行物1発明の「本体」は,超音波探触子(前述の如く本願補正発明の「超音波アレープローブ」相当)に接続されている。そうすると,刊行物1発明の「本体」は,本願補正発明と「ビーム形成画像データを受け取るデジタルデータを処理する装置を備えたプラットフォームを有する画像システム」を具備しているという点で共通している。

エ.刊行物1発明は「画像データを記憶するメモリーカード(4A)」を具備しており,これは,本願補正発明の「イメージデータを記憶するイメージデータメモリー」に相当する。

オ.刊行物1発明の「超音波画像の表示のための信号処理部(27)で処理された信号を受け取る画像表示部(28)」は,本願補正発明と「超音波画像の表示のための処理された信号を受け取る表示装置」という点で共通している。

カ.刊行物1発明の「超音波診断装置」は,画像を表示するものであるから,本願補正発明の「超音波診断画像システム」に相当する。

(一致点)
本願補正発明と刊行物1発明とは,次の点で一致する。
「複数のチャンネルを有するビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取る装置を備えたプラットホームを有する画像システムに接続された超音波アレープローブを具備し,
該プラットフォームが,
イメージデータを記憶するイメージデータメモリーを具備し,
超音波画像の表示のための処理された信号を受け取る表示装置を具備する
超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びプラットホーム有することを特徴とする超音波診断画像システム。」

(相違点)
そして,両発明は,以下の点で相違する。
ア.相違点1
本願補正発明が,「単一の集積回路ビーム形成装置中に少なくとも10チャンネルを有する」のに対して,刊行物1発明は,チャンネル数が複数ではあるものの,少なくとも10チャンネルを有するか不明である点

イ.相違点2
本願補正発明が,「ビーム形成画像データを受け取るプロセッサーを備えたコンピユータプラットホームを有する画像システム」なる特定事項を具備するのに対して,刊行物1発明は,ビデオ形成画像データを受け取るのがデジタルデータを処理する信号処理部(27A)を有するものの,信号処理部(27A)がプロセッサーであるか不明であり,コンピユータプラットホームであるかも不明な点。

ウ.相違点3
本願補正発明がコンピユータプラットホームが,「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエアを有する」のに対して,刊行物1発明は,プラットフォームは,かかる信号処理ソフトウエアを有していない点

エ.相違点4
本願補正発明が,「パーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置」であるのに対して,刊行物1発明は,表示装置を具備するもののパーソナルコンピユータプラットホームに接続されたものではない点

オ.相違点5
本願補正発明が,「上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」のに対して,刊行物1発明は,重さが不明な点

(相違点についての検討)
そこで,上記相違点について順に検討する。
ア.相違点1について
チャンネル数は,例えば,刊行物2に従来技術として64チャンネルや128チャンネルが記載されているように(上記摘記事項(2-ア)参照),チャンネル数を10以上とすることは,周知である。
そうすると,複数のチャンネルを有する刊行物1発明において,チャンネル数を10以上とする上記周知の技術的事項を適用し,上記相違点1に記載された本願補正発明の如くすることは,当業者が適宜案出し得る単なる設計的事項といえる。

イ.相違点2について
刊行物1発明の「信号処理部(27A)」は,デジタルデータを処理する装置である。デジタルデータを処理する装置としてプロセッサは,広く様々な分野で使用される代表的な装置であることは技術常識である。超音波診断装置の技術分野においても,信号の処理をプロセッサで行うことは,慣用されている。(一例を挙げれば,刊行物3の上記摘記事項(3-ア)及び(3-イ)を参照。)
そうすると,相違点2に記載された本願補正発明の特定事項は,刊行物1発明のデジタルデータを処理する信号処理装置を,上記慣用手段に従いプロセッサとすることにより,当業者が容易に案出し得た事項といえる。

ウ.相違点3について
超音波診断装置の技術分野において,「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理」及び「スキャン変換を実行するための信号処理ソフトウエア」は,本願優先権主張日前より周知である。(例えば,スキャン変換を行う処理部にCPUを具備するものは,上記刊行物4ないし6に記載のように周知であり,CPUを備えていることから,これらのものにおいても,ソフトウエアで処理が行われているといえる。)
よって,刊行物1発明において,上記周知の「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理」及び「スキャン変換を実行するための信号処理ソフトウエア」を採用することにより,相違点3に記載の本願補正発明の特定事項の如くすることは,当業者が容易になし得たことである。

エ.相違点4について
パーソナルコンピュータは,様々な装置と接続できる汎用の装置である。そして,表示装置として,パーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を利用することは,本願優先権主張日前より周知である。(刊行物7-9参照。)

オ.相違点5について
装置を軽量化しようとする技術的課題は,様々な分野で課題とされている,至極当たり前の課題である。また,刊行物1には,上記(1-ク)に摘記したように「携帯容易な装置の形態としては,片手で持ち片手で各種のスイッチの操作ができるものであり,たとえば図3に示すような形状で,重さ1kg以下,縦方向の長さ25cm以下,横方向の長さ12cm以下,高さ5cm以下,ケ-ブルは1m程度であることが望ましい。」と記載されている。携帯容易な装置として1kg以下という重さが記載されていることから,超音波診断装置を軽くしようとする課題を読み取ることが出来る。
そして,本願明細書及び図面の記載事項を参酌しても,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さとすることに臨界的な意義が特段みいだせない。
そうすると,相違点4記載の本願補正発明の特定事項は,刊行物1発明において,単に軽量化を目的として,「上記超音波アレープローブ,集積回路ビーム形成装置及びコンピユータプラットホームが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」としただけのものであって,当業者が容易に案出できたといえる。

そして,本願補正発明の効果も,刊行物1及び上記周知の事項に基づき,当業者が予想し得た程度のものである。

よって,本願補正発明は,刊行物1発明及び上記周知の技術的事項を寄せ集めることにより,当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.補正案について
請求人は,当審における審尋に対する平成21年9月9日付けの回答書において,特許請求の範囲をさらに限定した補正案を示している。当該補正案は,時間遅延をプログラム可能とすることについて「プログラム可能な時間遅延チャンネルを有し,結果として画像システムが複数の選択可能なスキャンモードを有し,」と限定し,電源について「画像システムに電力を供給する電池,」と限定するものである。
しかしながら,前者の点については,特開平4-84944号公報(第2頁左上欄第2-11行,第2頁左下欄第7-9行及び第3頁左下欄第18行-第4頁右上欄第16行)に記載のように公知である。
また,後者の点については,上記摘記事項(1-キ)にバッテリーパックが電源として記載されているように,刊行物1に記載されている事項である。
してみると,上記補正案によっても,その進歩性を認めることはできない。

6.むすび
以上のとおり,平成20年7月11日付けの手続補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1及び請求項2に係る発明は,平成18年11月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。そして,その請求項1に係る発明は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「1.少なくとも10チャンネルを有する集積回路ビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取るプロセッサーを備えたコンピユータプラットホームを画像システムに接続された超音波アレープローブを具備し,
該コンピユータプラットホームが,
対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための単一の処理ソフトウエア,
上記処理された信号の表示処理を実行するための表示処理ソフトウエア,及び
超音波画像の表示のための処理された信号を受け取る上記パーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を具備し,
上記画像システムが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する
ことを特徴とする超音波診断画像システム」

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物および周知技術を示す刊行物及びその記載事項は,前記「第2 4.(1)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3.対比・判断
上記「第2 2.補正事項」及び「第2 3.補正の適否」に記したとおり,本願発明は,上記「第2 4.(2)対比・判断」で検討した本願補正発明から,
(1)「 単一の集積回路ビーム形成装置中に」という特定事項を省き,
(2)「10チャネル」と誤記が訂正される前に戻し,
(3)「イメージデータを記憶するイメージデータメモリー」という特定事項を省き,
(4)「単一の処理ソフトウエア」と誤記が訂正される前に戻し,
(5)「上記画像システムが,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」と重さから超音波アレープローブを省いた
ものに相当する。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,更に他の限定的な発明特定事項を付加し,また,誤記を訂正したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 4.(2)対比・判断」に記載したとおり,刊行物1発明ならびに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-20 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-15 
出願番号 特願平9-504611
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸後藤 順也  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 岡田 孝博
宮澤 浩
発明の名称 携帯式超音波撮像システム  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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