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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1216762
審判番号 不服2008-15287  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-17 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2001-376305「薄膜太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月27日出願公開、特開2003-179241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯の概要
本願は、平成13年12月10日の特許出願であって、平成19年8月23日付けで拒絶理由が通知され、同年10月29日付けで手続補正がなされ、同年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成20年5月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

2 原査定の拒絶の理由
(1)平成19年8月23日付け拒絶理由通知書
平成19年8月23日付けで通知した拒絶の理由は、次に抜粋して示すとおりのものである。

「イ)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


(i)請求項1について、発明の詳細な説明を見ても【0064】の「光散乱効果を高めるために、製膜後の凹凸形状ができるだけ強調されるような製膜条件を選び、第2の透明導電膜14と後述する金属膜15aとの界面の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜13と第2の透明導電膜14との界面の凹凸形状の平均高低差以上となるようにする。」という程度の説明しか見あたらず、その技術的意義、すなわち請求項1の両界面に凹凸形状があることを限定した上での両凹凸形状の平均高低差の関係の限定という内容が、それでどう光散乱効果とかかわっていくというのか、また本願で解決すべき課題としては光閉じ込め効率や結晶質半導体層の品質等が説明されていたのであるが、それと該構成がどうかかわるのかという点について、記載がない。
さらに、実施のための説明という観点から見ても、上記【0064】の説明では「製膜後の凹凸形状ができるだけ強調されるような製膜条件」というにとどまり、具体的にどうするのか例示的にも説明がない("他の箇所で既に説明したとおり"という旨の記載も見あたらない、為念。)
この、技術的意義が不明という点について、請求項8、10、17も同様に、両界面に凹凸形状があることを限定した上での両凹凸形状の平均高低差の関係の限定という内容が何を意図しているのか不明である。
・・・
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1、5、8、10、13、17、18及びそれらを引用する請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また経済産業省令で定めるところにより記載されたものでもない。」

(2)平成19年11月19日付け拒絶理由通知書
平成19年11月19日付けで通知した拒絶の理由は、次に抜粋して示すとおりのものである。

「イ)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(i)請求項1の「・・・前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上である」という発明特定事項について、前回の拒絶理由通知で委任省令要件違反の問題(理由イ))を問うたのに対し、意見書では、
「(5)特許法第36条第4項に関する記載不備について
(i)上述したように、本願の請求項1に係る発明は、「第2の透明導電膜と金属膜との界面(「第2の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面(「第1の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差以上であることから、光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができ、その結果、透光性基板側から入射した光を漏れなく半導体多層膜側に散乱させて閉じ込めることができる」という作用効果を奏するものであり、2つの凹凸の平均高低差の関係と光散乱効果とのかかわりについて、審査官殿にご理解いただけたものと思料いたします。」との説明がなされている。
しかしながら、この説明内容のような発明が解決しようとする課題及びその解決手段は当初明細書に記載が見あたらず、また意見書を参照してもこの説明が当初明細書のどの記載或いは示唆に基づくものなのかという点(前回の拒絶理由通知でもこの記載が無いという問題は「・・・という点について、『記載がない』。」と端的に指摘したところである。)の説明は見あたらない。
(なお、ここで言う「その解決手段」の記載とは、要するに、請求項に係る発明によってどのように当該課題が解決されたかについて説明されていることである、為念。)

よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1及びそれを引用する請求項2乃至22に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
最後の拒絶理由通知とする理由

最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。
(上記イ)で指摘したように、今回の意見書では請求項1の当該事項に関する当初明細書の記載の有無についての説明が見あたらず前回の拒絶理由イ)は解消していないとも言えるのであるが、当初明細書に記載が有るのか無いのかの問題が解決されていないということをさらに明確に通知することが必要と考え、再度拒絶理由通知を発したものである。)」

(3)平成20年5月13日付け拒絶査定
平成20年5月13日付け拒絶査定は、本願は上記(2)の拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶をすべきものであるというものであって、その備考欄には、次のとおり記載されている。

「 上記拒絶理由で指摘した当初明細書での記載の有無の問題について、平成20年1月28日付け意見書では同明細書【0041】段落の記載及び周知の事項に基づいて示唆されている旨を主張している。
しかしながら、同段落に記載されているのは、単純にある凹凸構造(同段落では基板11の凹凸構造)水平方向の平均ピッチと光波長の関係と光散乱効果以上のものではなく、それ以上の、二つの凹凸構造の関係(意見書で言う「第2の界面」と「第1の界面」については特段示唆もない。この点は、同段落で述べられているピッチを引用している他の段落でも同様である。
また、意見書であげる周知技術も、二つの凹凸構造の関係を述べるものでは特段ない。」

3 審判請求人の主張
(1)平成20年1月28日付け意見書
平成20年1月28日付けで提出された意見書において、審判請求人(出願人)は次のとおり主張している。

「【意見の内容】
・・・
(2)本願の請求項1に係る発明の構成は、「光を入射させる透光性基板、表面が平坦な第1の透明導電膜、少なくともひとつの半導体接合を有する半導体多層膜、第2の透明導電膜、および金属膜を順次積層するとともに、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面、および前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面が光散乱性の凹凸形状になっている薄膜太陽電池において、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上であることを特徴とする薄膜太陽電池。」であり、この構成によって、「第2の透明導電膜と金属膜との界面(「第2の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面(「第1の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差以上であることから、光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができ、その結果、透光性基板側から入射した光を漏れなく半導体多層膜側に散乱させて閉じ込めることができる。」という作用効果を奏します。
上記の作用効果は、本願の出願当初の明細書には直接記載されていません。しかしながら、本願の出願当初の明細書の段落0041には、1)光波長の1/4程度の特性長を有する凹凸構造は光学的にフラットとみなされること(光波長の1/4程度では凹凸構造によっては光は散乱されないこと)、2)期待する光散乱効果を有する凹凸構造とするには、その特性長を光波長の1/4以上とする必要があること、が記載されており、1)、2)の事項より、より長波長の光を散乱させるためには、凹凸構造の特性長(水平方向の平均ピッチ)をより大きくする必要があることが記載されています。
これと同様のことが凹凸形状の高低差についてもいえます。凹凸形状の高低差が小さいと、凹凸形状は光学的にフラットとみなされることとなります。従って、より長波長の光を散乱させるためには、凹凸形状の高低差をより大きくする必要があります。
凹凸形状の高低差を大きくすると、より長波長の光を散乱させることができることは、特開2000-58892号公報(段落0051,0052,0053,図1,図3参照)、特開2001-15780号公報(段落0053,0054,図1,図3参照)等に記載されており、周知の事項です。
従って、請求項1の「・・・第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上である」という記載に接した当業者であれば、「光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光(短波長光)を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができる。」という作用効果を当然に導き出せることとなり、上記の作用効果は本願の出願当初の明細書には直接記載されていないとしても、段落0041の記載及び周知の事項に基づいて示唆されているといえます。」

(2)審判請求書の請求の理由
平成20年6月17日付けで提出され、同年9月4日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は次のとおり主張している。

「 3.本願発明が特許されるべき理由
・・・
(3)審査官殿のご指摘
審査官殿は、上述の通り、『請求項1の「・・・前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上である」という発明特定事項について、その技術的意義の記載がない。』と指摘され、この発明特定事項に関する本願明細書の記載について、『[0064]の「光散乱効果を高めるために、製膜後の凹凸形状ができるだけ強調されるような製膜条件を選び、第2の透明導電膜14と後述する金属膜15aとの界面の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜13と第2の透明導電膜14との界面の凹凸形状の平均高低差以上となるようにする。」という程度の説明しか見あたらない』と指摘されています。
しかし、本願発明の特徴は、上述の通り、異なる2つの界面の凹凸形状を平均高低差で特定して組み合わせることであり、これにより光散乱効果が高まることが段落番号0064に記載されていますので、実施可能要件を満たすと思料いたします。
ところで、界面の凹凸形状の平均高低差を調整するための手法自体は、当業者にとって通常知られていることであり新規なものではありません。このことは、例えば、参考資料1として提出します特開平2-81478号公報および参考資料2として提出します特開2000-269529号公報から明らかです。参考資料1の第2頁右下欄第10行目?第17行目には、「透明導電膜7はインジウム・すず酸化物(ITO)からなり、その表面の凹凸は形成方法や形成条件を変えることにより山と谷の高低差を調整できる。・・・例えば、ITO真空蒸着時の気体の温度(バックヒート温度)を下げるかあるいは真空蒸着のパワーを高めると高低差が大となる。」と記載されています。参考資料2の段落番号0043には、「光反射性金属層321の表面凹凸構造は、光反射性金属の成膜条件(温度、堆積速度等)を選択することにより得ることができる」ことが記載されています。
このように、種々の基板間の界面の凹凸形状の調整方法は、一般に知られていますので、当業者は、本願明細書の段落番号0064の記載から、どのようにすれば成膜後の凹凸を調整できるかを理解することはもちろんのこと、異なる2つの界面の平均高低差をどのように規定すれば光散乱効果を高めることができるか認識できます。さらに、本願明細書には、光散乱を促進させることで光閉じ込め効率が向上すること(本願明細書段落番号0038)、および光閉じ込め効率の向上により、高効率な薄膜太陽電池を製造できること(本願明細書段落番号0073)が記載されています。したがって、本願明細書の記載から、本願が実施できることは明らかです。
また、本出願人は、平成19年10月29日提出の意見書第5頁の項目(4)の第1パラグラフにおいて、上記技術的意義の補足説明として「第2の透明導電膜と金属膜との界面(「第2の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面(「第1の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差以上であることから、光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができ、その結果、透光性基板側から入射した光を漏れなく半導体多層膜側に散乱させて閉じ込めることができる。」と申し述べました。
これに対して、審査官殿は、この補足説明が明細書に記載されていないと指摘されています。しかし、波長を有する光や音などにおいて、波長によって反射面の凹凸を変える、例えば、反射面の凹凸を大きくすることにより、長波長のものを散乱させるというぐらいのことは当業者であれば当然理解できます。例えば、参考文献3として提出します特開平10-187141号公報の段落番号0005には「反射板の反射面に多数個の凹凸を形成すると、その凹凸の大きさが小さければ、音は鏡のような正反射となるが、凹凸の大きさが波長の程度以上になると乱反射となる。したがって、音色(すなわち波長の集合体を意味します)を変えたい場合は、除去したい音の周波数の波長に対応する大きさの凹凸を反射板の反射面に形成することにより達成される。」と記載されています。ここでは、音に対する反射面の凹凸の効果について述べましたが、音も光も波長という点で同じ性質を有することは一般的な辞典・教科書にも記載されています。
したがって、当業者であれば、上記のような補足説明がなくとも、本願明細書に記載の発明の特徴、すなわち「前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差を、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上とすること」をみれば、本願発明の技術的意義を理解し、実施できることは明らかです。
したがって、本願は、実施可能要件を満たしています。」

4 本願明細書及び特許請求の範囲の記載
(1)平成20年6月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(なお、請求項1の記載は、当該手続補正で補正されていない。)。

「【請求項1】
光を入射させる透光性基板、表面が平坦な第1の透明導電膜、少なくともひとつの半導体接合を有する半導体多層膜、第2の透明導電膜、および金属膜を順次積層するとともに、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面、および前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面が光散乱性の凹凸形状になっている薄膜太陽電池において、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上であることを特徴とする薄膜太陽電池。」(以下「本願発明」という。)

(2)本願明細書には、以下のア?チの記載がある(なお、オの【0015】及びチの【0074】は、平成19年10月29日付け手続補正書による補正後のものである。)。

ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は太陽電池に関し、特に光活性層に薄膜半導体を用いた薄膜太陽電池に関する。」

イ 「【0002】
【従来技術および発明が解決しようとする課題】薄膜Si太陽電池に代表される薄膜太陽電池は、次世代太陽電池として注目されているが、充分な光電流値を得るには光閉じ込め構造を導入して光利用効率の向上を図ることが重要である。特に結晶質Si材料を光活性層に用いる薄膜結晶質Si太陽電池においては、結晶Siの光吸収係数が長波長側で小さいため、数μm以下の膜厚で光吸収を充分に生ぜしめて光電変換をより効率的に行わせるためには、入射光が結晶質Si膜内を多数回反射往復するようにして光をより有効に閉じ込めることが必要不可欠である。
【0003】図2に、光閉じ込め構造を有する薄膜太陽電池の代表的従来例として、スーパーストレート・タンデム型(a-Si:H/μc-Si:H)薄膜Si太陽電池の構造を示す。図2中、21は透光性基板、22は第1の透明導電膜、23は半導体多層膜、23aは第1の半導体接合層、23bは第2の半導体接合層、24は第2の透明導電膜、25aは第1の取り出し電極となる金属膜、25bは第2の取り出し電極となる金属膜、26は第3の透明導電膜である。
【0004】透光性基板21としてはガラスや樹脂などが用いられ、第1の透明導電膜22としてはSnO_(2)、ITO、ZnOなどの金属酸化物材料が用いられ、第1の半導体接合層23aとしては水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)が用いられ、第2の半導体接合層23bとしては微結晶シリコン(μc-Si:H)が用いられ、第2および第3の透明導電膜24、26としては第1の透明導電膜22と同様な材料のものが用いられ、金属膜25aとしてはAl、Agなどが用いられる。
【0005】第1の透明導電膜22の製膜表面を凹凸形状にすることにより光閉じ込め構造が実現されている。この凹凸形状は透明導電膜22の製膜条件によって自生的に形成することもできるが、必要であれば適当なエッチング処理で所望の凹凸形状に追加工することもできる。第2の半導体接合層23bとして微結晶シリコンを用いているので、例えば(110)配向となる製膜条件で膜形成を行なうと、その表面に自生的な凹凸形状を形成することができ、光閉じ込め効果をより高めることができる。
【0006】これらの技術は、例えば特許第2713847号、特許第2771414号、特許第2784841号、特許第3027669号、特許第3029169号、特開平5-218469号、特開平6-196738号、特開平10-117006号、特開平11-233800号等に述べられており、いずれにおいても光電流が増大して変換効率が向上する結果が得られている。」

ウ 「【0007】しかしながら、上記従来構造では、半導体膜が製膜される第1の透明導電膜22の表面が凹凸形状を有しているため、第1の半導体接合層23aのみならず、第2の半導体接合層23bの形成にあたってもその凹凸形状が影響し、特に第2の半導体接合層23bが結晶質Siで構成されている構造では、その凹凸形状の高低差やピッチの程度によっては第2の半導体接合層23bの膜品質を大幅に低下させてしまうという問題があった。すなわち、実質的にフラットな面への結晶質薄膜成長であれば、凹凸構造に起因した不要な核発生サイトが少ないので結晶の大粒径化がはかりやすく、また、全ての結晶がフラット面に対して垂直な方向に成長していくために成長した結晶粒どうしが衝突して結晶粒界を生じさせたりすることがなく、また結晶配向も一方向にそろいやすく望ましい結晶配向特性に制御しやすいという利点があるのに対して、凹凸構造面上への結晶質薄膜成長ではこれらの利点が失われてしまい、膜品質が低下してしまうという問題があった。
【0008】特に太陽電池においては、結晶粒径が小さいことによる結晶粒界の増加や、成長結晶粒どうしの衝突による結晶粒界の生成は、結晶粒界部がリーク電流の発生経路や光励起キャリアの再結合消滅領域となるため、開放電圧特性の低下や曲線因子特性の低下、さらには短絡電流密度の低下を招き、致命的なマイナス因子となる。
【0009】なお、上記ではタンデム型を例にとって述べたものであるが、この型に限らずシングル接合型であってもトリプル接合型であってもそれ以上の多接合型であっても、結晶質シリコン膜が凹凸形状面上に製膜される条件下ではもちろん同様の問題が発生する。
【0010】実際、結晶質薄膜シリコン太陽電池における凹凸形状と開放電圧との関係については、第61回秋期応用物理学会予稿集6a-C-6,p.829(2000)、同6a-C-7,p.830(2000)、12th International PVSEC(June 11-15/2001, KOREA)p791等で報告されており、凹凸形状の増大(凹凸構造を形成する凹凸単位の平均サイズ(特性長)の増大や、凹凸構造を形成する面の基板水平方向に対する傾斜角度の増大)とともに短絡電流密度は増大するが、開放電圧は低下してしまうことが述べられている。そしてさらに凹凸形状を激しくすれば、ついには短絡電流密度の低下を招くことも容易に推察される。
【0011】これに対して、本発明者らは特願2001-20623号および特願2001-100389号で上記凹凸形状に起因した膜品質の低下を抑制できる素子構造を既に開示している。このうちスーパーストレート型についての代表的構造を図3に示す。図3中、31は透光性基板、32は第1の透明導電膜、33は半導体層、34は第2の透明導電膜、35は金属膜である。この素子構造では、透光性基板31と第1の透明導電膜32との界面が凹凸形状を有していて光閉じ込め効果をもたらし、一方、第1の透明導電膜32と半導体層33との界面はほぼ平坦となっているので半導体層33の電気特性の低下を最小限に抑えることができる。」

エ 「【0012】本発明者らの上記素子構造によって結晶質半導体層の品質低下は抑制されたものの、光閉じ込め効率としては未だ満足のいくものとはいえず、さらなる効率向上対策が望まれる。
【0013】なお、特開平8-306944には、透光性基板/表透明導電膜/pin(nip)半導体層/裏透明導電膜/金属膜の構造において、n(p)層の凹凸形状をi層のそれよりも大きくして光散乱効果を高める素子構造が開示されているが、これでは必要以上にn(p)層を厚く製膜しなければならず、この部分での光吸収ロスが増大してしまうという問題がある。また裏透明導電膜と金属膜界面の凹凸形状増大の概念も示されていない。また、特開平7-202231には、光散乱を促す乱反射層を有する太陽電池が開示されているが、この乱反射層の上下界面の凹凸化の概念は示されておらず、その効果には限界がある。
【0014】本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、半導体接合部の凹凸構造に起因して短絡電流が低下するという従来の問題を解消するとともに、光閉じ込め効率をも高めることができる薄膜太陽電池を提供することを目的とする。」

オ 「【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る薄膜太陽電池では、光を入射させる透光性基板、表面が平坦な第1の透明導電膜、少なくともひとつの半導体接合を有する半導体多層膜、第2の透明導電膜、および金属膜を順次積層するとともに、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面、および前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面が光散乱性の凹凸形状になっている薄膜太陽電池において、前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上であることを特徴とする。」

カ 「【0037】
【発明の実施の形態】以下、図1を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1中、11は透光性基板、12は第1の透明導電膜、13は半導体多層膜、13aは第1の半導体接合層、13bは第2の半導体接合層、14は第2の透明導電膜、14aは第1の透光性導電膜、14bは第2の透光性導電膜、14cは光散乱体1、14dは光散乱体2、15aは第1の取り出し電極となる金属膜、15bは第2の取り出し電極となる金属膜、16は透光性膜、17は集電極、18は第3の透明導電膜である。
【0038】まず、透光性基板11を用意する。透光性基板11としては、ガラス、プラスチック、樹脂などを材料とした板材あるいはフィルム材などを用いることができる。このとき素子形成面となる一主面側に凹凸構造を形成すると入射光の光散乱がより促進されるようになり、光閉じ込め効率の向上により好適である。」

キ 「【0041】基板11の凹凸構造の基板に水平方向の平均ピッチとしては、隣接する任意の凸部の頂点間の平均距離を100nm以上、より好ましくは200nm以上とする。その理由は、長波長光として800nmの光を代表にとると、透光性基板11の屈折率を1.5?2.0程度とした場合、その媒質中での光の1/4波長は133?100nmとなり、また1/2波長は267?200nmとなるからである。すなわち、一般に、光波長の1/4程度の特性長を有する凹凸構造は光学的にフラットとみなされるので、期待する光散乱効果を有する凹凸構造とするには、その特性長を少なくとも問題とする光の波長の1/4以上、望ましくは1/2以上とする必要がある。」

ク 「【0042】次に、第1の透明導電膜12を形成する。透明導電膜12の材料としては、SnO_(2)、ITO、ZnOなど公知の材料を用いることができるが、この後のSi膜を形成するときに、SiH_(4)とH_(2)を使用することに起因した水素ガス雰囲気に曝されることになるので、耐還元性に優れるZnO膜を少なくとも最終表面として形成するのが望ましい。製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など公知の技術を用いることができる。このとき、膜厚は、反射防止膜効果を持たせるために60?100nm、あるいはその倍数の膜厚とする。
【0043】このとき、透明導電膜12は膜厚の増大とともにその結晶構造に起因した凹凸形状が増大していく傾向があり、これが光閉じ込め効果をもたらすが、従来技術とその課題のところで述べたように、この凹凸形状面への半導体膜の製膜は、電気的に高品質な半導体膜を形成する観点からは決して望ましいものではない。そこで半導体膜の電気的特性の低下を最小限に抑え、かつ有効な光閉じ込めを実現できる素子構造として本発明者らが先に提案しているものが、特願2001-20623および特願2001-100389で示された素子構造である。すなわち、予め透光性基板11に凹凸構造を形成しておき、その後、第1の透明導電膜12を形成すればよい。
【0044】第1の透明導電膜12を真空成膜法を用いて形成する場合は、その製膜後の表面の凹凸形状は、その製膜条件や厚さを調節することによって、ある程度緩和することができるが、それでは所望の緩和凹凸形状が得られない場合もある。その場合は、機械的研磨法、各種エッチング法、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法などを用いれば、表面の凹凸形状の緩和度を自由に調節することができる。また、結晶構造に起因した不必要な凹凸形状の形成を防ぐためには、第1の透明導電膜12を非晶質状態で成膜することも有効である。また必要であれば、その後、熱アニール処理などによって結晶化させてもよい。
【0045】また、ゾルゲル法など液状材料から形成する方法で第1の透明導電膜12を成膜すれば、その成膜後の表面形状は自ずからほぼフラットにすることができる。
【0046】以上によって、第1の透明導電膜12と半導体多層膜13との界面の凹凸形状の平均高低差が、透光性基板11と第1の透明導電膜12との界面の凹凸形状の平均高低差以下である構造を実現することができる。
【0047】さらに、上記以外の実現方法としては、透光性基板11と第1の透明導電膜12との間に、基板11とは屈折率を異にする透光性膜16を介在させる方法がある。すなわち、凹凸構造が形成された基板11の表面に異種材料からなる透光性膜16を形成し、その表面はほぼフラットな形状として、この上に第1の透明導電膜12をその製膜後の表面がほぼフラットになるように形成すればよい。この透光性膜16としては、金属酸化物透明導電材料、ガラス、プラスチックあるいは樹脂などの高分子材料などを用いることができる。ガラスを用いる場合はゾルゲル法などを用いればその成膜後の表面形状をほぼフラットにすることができる。また、高分子材料を用いる場合は適当な条件下として流動性のある状態で基板面上に塗布すれば、やはりその成膜後の表面形状をほぼフラットにすることができる。流動化処理を塗布後に行う場合でも同じ効果を得ることができるし、必要な場合は平坦化加工を追加してもよい。
【0048】以上によって、第1の透明導電膜12と半導体多層膜13との界面の凹凸形状の平均高低差が、透光性膜16と透光性基板11との間の界面の凹凸形状の平均高低差以下である構造を実現することができる。
【0049】また、透光性膜16と透光性基板11との界面の凹凸形状の基板に対する水平方向の平均ピッチは、透光性基板11に対する凹凸形状を形成するところで述べたのと同じ理由で100nm以上とし、望ましくは200nm以上とする。」

ケ 「【0051】次に、半導体多層膜13を形成する。ここでは図にならってタンデム型を例にとって説明する・・・
【0052】まず、水素化アモルファスシリコン膜を光活性層に含む第1の半導体接合層13aを形成する。具体的にはp型層(n型層)/光活性層/n型層(p型層)とし(不図示)、光活性層はi型とするのが望ましい。・・・
【0053】p型層(n型層)については、水素化アモルファスシリコン膜や微結晶シリコン膜を含む結晶質シリコン膜を用いることができる。膜厚は前記材料に応じて2?100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1E18?1E21/cm^(3)程度として、実質的にはp^(+)型(n^(+)型)とする。導電型は基本的にはi型とするが、内部電界強度分布の微調整を目的に、n^(-)型(p^(-)型)とする場合もある(実際にはノンドープ膜であってもわずかにn型特性を示すのが通例である)。・・・
【0054】光活性層については水素化アモルファスシリコン膜を用い、膜厚は0.1?0.5μm程度の範囲で調節する。・・・
【0055】n型層(p型層)については、水素化アモルファスシリコン膜や微結晶シリコン膜を含む結晶質シリコン膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2?100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1E18?1E21/cm^(3)程度として、実質的にはn^(+)型(p^(+)型)とする。・・・
・・・
【0057】次に、結晶質シリコン膜を光活性層に含む第2の半導体接合層13bを形成する。具体的にはp型層(n型層)/光活性層/n型層(p型層)とし(不図示)、光活性層はi型とするのが望ましい。・・・
【0058】p型層(n型層)については、水素化アモルファスシリコン膜や微結晶シリコン膜を含む結晶質シリコン膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2?100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1E18?1E21/cm^(3)程度として、実質的にはp^(+)型(n^(+)型)とする。」

コ 「【0059】光活性層については微結晶シリコン膜に代表される結晶質シリコン膜を用い、膜厚は1?3μm程度の範囲で調節する。導電型は基本的にはi型とするが、内部電界強度分布の微調整を目的に、n^(-)型(p^(-)型)とする場合もある(実際にはノンドープ膜であってもわずかにn型特性を示すのが通例である)。このとき膜中水素濃度については、10%以下、より好ましくは5%以下とする。また膜構造としては、(110)配向の柱状結晶粒の集合体として製膜後の表面形状が光閉じ込めに適した自生的な凹凸構造となるようにするのが望ましい。・・・」

サ 「【0060】n型層(p型層)については、水素化アモルファスシリコン膜や微結晶シリコン膜を含む結晶質シリコン膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2?100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1E18?1E21/cm^(3)程度として、実質的にはn^(+)型(p^(+)型)とする。」

シ 「【0063】次に、第2の透明導電膜14を形成する。透明導電膜材料としては、金属酸化物材料としてのSnO_(2)、ITO、ZnOなどの他に、シリコン酸化物材料、シリコン炭化物材料、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料などを用いることができる。製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。必要であれば適当なドープ元素を含んだ材料を製膜時に製膜原料に混ぜることよって導電性を付与して制御することができる。
【0064】光散乱効果を高めるために、製膜後の凹凸形状ができるだけ強調されるような製膜条件を選び、第2の透明導電膜14と後述する金属膜15aとの界面の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜13と第2の透明導電膜14との界面の凹凸形状の平均高低差以上となるようにする。」

ス 「【0065】また、第2の透明導電膜14と金属膜15aとの界面の凹凸形状の基板に対する水平方向の平均ピッチについては、第2の透明導電膜14の形成材料となる各種透光性材料の光波長800nmでの屈折率は透光性基板11と同様1.5?2.0程度であるので、透光性基板11に対する凹凸形状の形成のところで述べたのと同じ理由で100nm以上とし、望ましくは200nm以上とする。」

セ 「【0066】なお、第2の透明導電膜14が単層膜であって、上記凹凸形状の形成に困難が伴う場合は、第2の透明導電膜14を第1の透光性導電膜14aおよび第2の透光性導電膜14bを少なくとも含む多層膜構造とすることで上記凹凸形状をより容易に実現することができる。
【0067】具体例として2層構造の場合について述べると、まず第1の透光性導電膜14aとしては、SnO_(2)、ITO、ZnOなどの金属酸化物材料の他に、シリコン酸化物材料、シリコン炭化物材料、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料などを前記手法で形成することができる。続いて第2の透光性導電膜14bとして、金属酸化物材料、シリコン酸化物材料、シリコン炭化物材料、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料、高分子材料のうちのいずれか一種以上を含む材料からなり、その表面が所望の凹凸形状となるような膜を前記手法で形成すればよい。・・・
【0068】なお、上記手法を用いて形成した第2の透光性導電膜14bの表面の凹凸形状は、成膜条件によっても制御可能であるが、必要に応じて先に透光性基板11の表面の凹凸化のところで述べた技術でこの第2の透光性導電膜14bの表面を処理することができる。
【0069】なお、光散乱効果をさらに高めるためには、第2の透光性導電膜14bを屈折率の異なる2種以上の成分の混合物で形成し、屈折率の異なる領域が散在分布するようにすればよい。具体的には前記成分のうち少なくとも1成分を、金属材料、金属酸化物材料、高分子材料のうちのいずれかからなる光散乱体14cとして機能する微粒子で用意し、これが第2の透光性導電膜14bを形成するときに第2の透光性導電膜14bを形成するための材料中に混合されているようにすればよい。
【0070】また、上記成分の少なくとも1成分が100nm以上のサイズの光散乱体14cとして機能する粒子を含んでいれば光散乱効果をより高めることができる。
【0071】また、前記成分のうちの透光性を有する少なくとも1成分を、第2の透光性導電膜14bを形成する前に第1の透光性導電膜14aの表面に光散乱体14dとして機能するように離散的に付着形成しておくことも光散乱効果を高めるにあたって有効である。・・・」

ソ 「【0072】最後に、取り出し電極1および取り出し電極2となる金属膜15aおよび金属膜15bを形成する。金属材料としては、導電特性および光反射特性に優れるAl、Agなどを用いるのが望ましい。」

タ 「【0073】以上によって、半導体多層膜13の電気特性の低下を最小限に抑えつつ、これまで以上に高効率な光閉じ込めが可能な素子構造を実現することができ、高効率な薄膜太陽電池を製造することができる。」

チ 「【0074】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、光を入射させる透光性基板、表面が平坦な第1の透明導電膜、少なくともひとつの半導体接合を有する半導体多層膜、第2の透明導電膜、および金属膜を順次積層するとともに、上記第2の透明導電膜と金属膜との界面、および上記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面が光散乱性の凹凸形状になっている薄膜太陽電池において、上記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、上記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上であることから、半導体多層膜の電気特性の低下を最小限に抑えつつ、これまで以上に高効率な光閉じ込めが可能な素子構造を実現することができ、高効率な薄膜太陽電池を製造することができる。」

5 当審の判断
(1)本願発明の課題及びその解決手段
本願発明が解決しようとする課題(目的)は、上記4(2)エのとおり、「半導体接合部の凹凸構造に起因して短絡電流が低下するという従来の問題を解消するとともに、光閉じ込め効率をも高めることができる薄膜太陽電池を提供すること」にあると認められる。そして、上記4(2)オに示されるように、本願発明は、上記課題を解決する手段として、上記4(1)に示したとおりの発明特定事項を有するものである。
ここで、上記本願発明の課題は、薄膜太陽電池において、
a.「半導体接合部の凹凸構造に起因して短絡電流が低下するという従来の問題を解消する」点、及び、
b.「光閉じ込め効率をも高める」点、
の2点を個別の課題として含むものといえるが、aの点については、上記4(2)ウによれば、従来の知見に基づいた先の特許出願において開示された発明であり、本願発明において、「表面が平坦な第1の透明導電膜」と、「半導体接合を有する半導体多層膜」がその上に形成される「第1の透明導電膜」の表面が平坦であることを特定する事項が、その解決手段であると認められる。
してみると、本願において新たに解決すべき課題は上記bの点であり、本願発明は、その特徴点である「前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上である」との事項(以下「本願特徴点」という。)によって、その課題を解決しようとするものであると認められる。ここで、本願特徴点に含まれる2つの膜の界面の「凹凸形状の平均高低差」について、本願明細書にはその定義及び測定方法を説明する記載はないが、「凹凸形状の平均高低差」は界面の性状を示す一種のパラメータであり、本願特徴点は、2つの界面における当該パラメータの大小関係を規定する関係式を含むものといえる。

(2)委任省令要件及びパラメータによる特定事項の技術的意義について
発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項において委任する経済産業省令の定めるところにより記載しなければならないところ、経済産業省令第24条の2には、次のとおり規定されている。
「特許法第三十6条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」

上記(1)のとおり、本願発明は、一種のパラメータの関係式による特定事項を含む発明であると認められるところ、このようなパラメータの関係式による特定事項を含む発明において、その関係式の技術的意義が当業者が理解できる程度に開示されているといえるためには、
ア 関係式が示す範囲内にあれば所望の効果が得られることを当業者が認識できる程度に具体例を開示して説明するか、又は、
イ 関係式が示す範囲と得られる効果との関係の技術的意味が、具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に説明する、
必要があると解するのが相当である。

(3)本願明細書における技術的意義の開示について
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願特徴点の技術的意義が明確に開示されているかを検討するにあたり、上記(2)のア又はイの事項の説明がなされているかについて、それぞれ、検討する。

ア 「関係式が示す範囲内にあれば所望の効果が得られることを当業者が認識できる程度に具体例を開示して説明」について
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記4(2)チの[発明の効果]欄に、本願発明の構成によって、「これまで以上に高効率な光閉じ込めが可能な素子構造を実現することができ」ることが記載されているが、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例はなく、その効果の実証例、特に、従来技術と本願発明との光閉じ込め効率の対比等は一切記載されていないため、上記の発明の効果が具体例を開示して説明されているとはいえない。また、本願発明の効果が得られる本願特徴点のパラメータ(各界面の「凹凸形状の平均高低差」)の具体的な設定値も記載されていない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、「パラメータの関係式が示す範囲内にあれば所望の効果が得られることを当業者が認識できる程度に具体例を開示して説明」したものということはできない。

イ 「具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に説明」について
[発明の実施の形態]欄中、上記4(2)シの段落[0064]に、「光散乱効果を高めるために、製膜後の凹凸形状ができるだけ強調されるような製膜条件を選び、第2の透明導電膜14と後述する金属膜15aとの界面の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜13と第2の透明導電膜14との界面の凹凸形状の平均高低差以上となるようにする」ことが記載されているが、本願特徴点の2つの界面における「凹凸形状の平均高低差」の関係式がどのような原理から導かれたのか等、該関係式と光閉じ込め効果との関係に関する理論的説明もない。
また、上記箇所以外に、本願特徴点と効果の関係について具体的に説明する記載はない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願特徴点の技術的意義について、具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に説明したものということはできない。

(4)小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。
よって、本願は、特許法第36条第4項の規定する要件に違反しているから、特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について
審判請求人は、平成20年1月28日付け意見書(上記3(1)参照。)において、
「この構成によって、「第2の透明導電膜と金属膜との界面(「第2の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差が、半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面(「第1の界面」とする)の光散乱性の凹凸形状の平均高低差以上であることから、光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができ、その結果、透光性基板側から入射した光を漏れなく半導体多層膜側に散乱させて閉じ込めることができる。」という作用効果を奏します。」
と述べており、これによれば、本願発明の技術的意義に関する審判請求人の主張は、第1の界面と第2の界面とが、それぞれ、異なる波長の光を散乱させて閉じ込めるという作用効果を奏するとの点にあると認められる。
しかし、請求人の上記主張は、下記に示す理由により、採用できるものではない。

ア 上記3(1)によると、請求人は、「上記の作用効果は、本願の出願当初の明細書には直接記載されていません。しかしながら、本願の出願当初の明細書の段落0041には、1)光波長の1/4程度の特性長を有する凹凸構造は光学的にフラットとみなされること(光波長の1/4程度では凹凸構造によっては光は散乱されないこと)、2)期待する光散乱効果を有する凹凸構造とするには、その特性長を光波長の1/4以上とする必要があること、が記載されており、1)、2)の事項より、より長波長の光を散乱させるためには、凹凸構造の特性長(水平方向の平均ピッチ)をより大きくする必要があることが記載されています。」、「これと同様のことが凹凸形状の高低差についてもいえます。凹凸形状の高低差が小さいと、凹凸形状は光学的にフラットとみなされることとなります。従って、より長波長の光を散乱させるためには、凹凸形状の高低差をより大きくする必要があります。」と述べ、段落0041の基板の凹凸構造の水平方向の平均ピッチに関する記載が、本願発明の作用効果を示唆するものである旨主張している。
しかしながら、段落0041の記載は、「光散乱効果を有する凹凸構造とするには、その特性長を少なくとも問題とする光の波長の1/4以上、望ましくは1/2以上とする必要がある」こと、すなわち、特定の1波長の光の散乱効果について説明するものであって、「より長波長の光」というような、特定の波長の光に対する異なる波長の光(すなわち、複数の波長の光)に関する説明であると示唆するような記載はないため、段落0041の記載が、出願人の言うような、「より長波長の光を散乱させるためには、凹凸構造の特性長(水平方向の平均ピッチ)をより大きくする必要があることが記載されて」いるものということはできない。
また、凹凸構造の特性長(水平方向の平均ピッチ)に関する上記記載をもって、複数の波長の光を散乱させるには、凹凸形状の高低差を大きくする必要があることについても、当業者が理解できるといえる根拠も認められない。

イ また、請求人は、
「凹凸形状の高低差を大きくすると、より長波長の光を散乱させることができることは、特開2000-58892号公報(段落0051,0052,0053,図1,図3参照)、特開2001-15780号公報(段落0053,0054,図1,図3参照)等に記載されており、周知の事項です。
従って、請求項1の「・・・第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差が、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上である」という記載に接した当業者であれば、「光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光(短波長光)を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができる。」という作用効果を当然に導き出せることとなり、上記の作用効果は本願の出願当初の明細書には直接記載されていないとしても、段落0041の記載及び周知の事項に基づいて示唆されているといえます。」(上記3(1)の意見書の主張。)、
「しかし、波長を有する光や音などにおいて、波長によって反射面の凹凸を変える、例えば、反射面の凹凸を大きくすることにより、長波長のものを散乱させるというぐらいのことは当業者であれば当然理解できます。例えば、参考文献3として提出します特開平10-187141号公報の段落番号0005には「反射板の反射面に多数個の凹凸を形成すると、その凹凸の大きさが小さければ、音は鏡のような正反射となるが、凹凸の大きさが波長の程度以上になると乱反射となる。したがって、音色(すなわち波長の集合体を意味します)を変えたい場合は、除去したい音の周波数の波長に対応する大きさの凹凸を反射板の反射面に形成することにより達成される。」と記載されています。ここでは、音に対する反射面の凹凸の効果について述べましたが、音も光も波長という点で同じ性質を有することは一般的な辞典・教科書にも記載されています。
したがって、当業者であれば、上記のような補足説明がなくとも、本願明細書に記載の発明の特徴、すなわち「前記第2の透明導電膜と金属膜との界面の凹凸形状の平均高低差を、前記半導体多層膜と第2の透明導電膜との界面の凹凸形状の平均高低差以上とすること」をみれば、本願発明の技術的意義を理解し、実施できることは明らかです。」(上記3(2)の請求の理由。)、
と述べ、「波長によって反射面の凹凸を変える、例えば、反射面の凹凸を大きくすることにより、長波長のものを散乱させる」ことが当業者にとって周知の事項であり、このような周知事項に及び段落0041の記載に基づいて、本願発明の作用効果が示唆されている旨主張している。
しかしながら、本願明細書には、段落0041及びその他の箇所においても、光閉じ込め効率の向上が、異なる複数の波長の光を散乱することによるものであるとの記載はなく、また、光閉じ込め効果と波長の関係を示唆するような記載も皆無である。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明に、異なる波長の光の散乱(閉じ込め)に関する記載も示唆もない以上、たとえ、請求人の上記主張にあるような事項が当業者にとって周知の事項であるとしても、本願明細書の記載に接した当業者が、そのような周知事項を想起し、本願発明の上記特徴点の技術的意義を出願人が主張するようなものであると理解できるとはいえない。

ウ なお、仮に、出願人の主張における第1の界面及び第2の界面の凹凸形状が、それぞれ、異なる波長の光を散乱させるためのものであるとすれば、それぞれの光の波長とそれぞれの界面の凹凸形状との関係を規定すべきものと考えられる。
しかるところ、本願特徴点は、単に、2つの界面における凹凸形状の平均高低差の大小関係のみを規定するものであるから、それぞれの界面の凹凸形状が、異なる波長の光に対応したものであると理解することはできない。
また、本願特徴点は、「(第1の界面の)平均高低差が、(第2の界面の)平均高低差以上である」とされているように、2つの界面の平均高低差が等しい場合も含むものである。してみると、本願明細書の記載に接した当業者が、それぞれの界面の凹凸形状が異なる波長の光に対応するものであると理解し、「『光が入射される透光性基板に近い側の第1の界面の凹凸形状によって透光性基板側から入射した光(短波長光)を半導体多層膜側に散乱させるとともに、第1の界面を透過したより長波長の光を平均高低差が大きい第2の界面の凹凸形状によって半導体多層膜側に散乱させることができる。』という作用効果を当然に導き出せる」ものとは到底いえない。

エ 上記ア?ウのとおり、本願特徴点が、第1の界面と第2の界面とが、それぞれ、異なる波長の光を散乱させて閉じ込めるという作用効果を奏するものであり、また、本願明細書の記載に接した当業者は本願発明の技術的意義がそのようなものであると理解できるとの請求人の主張は、本願明細書の記載に基づくものではなく、採用することができない。

5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-15 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2001-376305(P2001-376305)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前川 慎喜  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 服部 秀男
杉山 輝和
発明の名称 薄膜太陽電池  
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