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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1216989
審判番号 不服2008-23131  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-09 
確定日 2010-05-17 
事件の表示 特願2004-247771「リソグラフィック装置及びデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 79589〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は平成16年8月27日(パリ条約による優先権主張 2003年8月29日、欧州特許庁)の出願であって、平成19年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年11月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年6月10日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として同年9月9日に本件審判請求がなされるとともに、同年10月3日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされるとともに、同日付けで同年9月9日付けの審判請求書の請求の理由について手続補正がなされ、平成21年9月4日付けで審尋が通知され、同年12月3日付けで回答書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年10月3日付けの特許請求の範囲についての手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年11月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲についての

「【請求項1】
リソグラフィック投影装置であって、
投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システムと、
所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造と、
基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブルと、
パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システムと、
前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板と、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の流体と、
前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の流体とを備え、
前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である、リソグラフィック投影装置。
【請求項2】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項3】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項4】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項5】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項6】
前記第1の流体は、過フルオロポリエーテル流体及び水のうちの何れかであり、前記第2の流体は、過フルオロポリエーテル流体及び水のうちの何れかである、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の流体は、過フルオロポリエーテル流体である、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項8】
前記第1の流体は、前記第1の屈折率を有する第1の気体であり、前記第2の流体は、前記第2の屈折率を有する第2の気体である、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項9】
デバイス製造方法であって、
少なくとも一部が放射線感応材料の層で被覆された基板を提供するステップと、
パターン化された放射ビームを前記放射線感応材料の層の目標部分に投射するステップと、
投影システムの光学エレメントと前記基板との間の空間に、それぞれ第1の屈折率及び第2の屈折率を有する第1の流体及び第2の流体を充填するステップと、
前記第1及び第2の流体を少なくとも1つの透明板で分離するステップと、を含み、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間に前記第1の流体が充填され、前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間に前記第2の流体が充填され、前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記透明板は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間の第3の屈折率を有する、デバイス製造方法。
【請求項10】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項11】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項12】
前記第1の流体は、過フルオロポリエーテル流体及び水のうちの何れかであり、前記第2の流体は、過フルオロポリエーテル流体及び水のうちの何れかである、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項13】
前記第1及び第2の流体は、過フルオロポリエーテル流体である、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項14】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項15】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項9に記載のデバイス製造方法。
【請求項16】
前記第1の流体は、前記第1の屈折率を有する第1の気体であり、前記第2の流体は、前記第2の屈折率を有する第2の気体である、請求項9に記載のデバイス製造方法。」

の記載を、

「【請求項1】
リソグラフィック投影装置であって、
投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システムと、
所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造と、
基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブルと、
パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システムと、
前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板と、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の気体と、
前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の気体とを備え、
前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である、リソグラフィック投影装置。
【請求項2】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項3】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項4】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項5】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項6】
デバイス製造方法であって、
少なくとも一部が放射線感応材料の層で被覆された基板を提供するステップと、
パターン化された放射ビームを前記放射線感応材料の層の目標部分に投射するステップと、
投影システムの光学エレメントと前記基板との間の空間に、それぞれ第1の屈折率及び第2の屈折率を有する第1の気体及び第2の気体を充填するステップと、
前記第1及び第2の気体を少なくとも1つの透明板で分離するステップと、を含み、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間に前記第1の気体が充填され、前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間に前記第2の気体が充填され、前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記透明板は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間の第3の屈折率を有する、デバイス製造方法。
【請求項7】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項8】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項9】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項10】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。」

と補正するものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件についての検討
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項に規定する要件を満たすか否かを検討する。
本件補正のうち、本件補正前の請求項6,7,12,13を削除する補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とする補正に該当する。
本件補正のうち、本件補正前の請求項1,8を本件補正後の請求項1とするとともに、本件補正前の請求項9,16を本件補正後の請求項6とする補正は、(ア)本件補正前の請求項1,9を削除する補正と解することができるとともに、(イ)本件補正前の請求項1,9の「第1の流体」及び「第2の流体」をそれぞれ「第1の気体」及び「第2の気体」と限定するとともに、本件補正前の請求項8,16を削除する補正と解することもできる。ここで、平成20年10月3日付けの手続補正により補正された同年9月9日付けの審判請求書の請求の理由において、請求人は、「同日付けの手続補正書により、補正前の請求項1,9に記載の『第1の流体』及び『第2の流体』をそれぞれ『第1の気体』及び『第2の気体』に減縮する補正を行った。斯かる補正は、補正前の請求項1,9に記載の発明特定事項『第1の流体』及び『第2の流体』を限定するものであって、且つ産業上の利用分野及び解決課題を変更するものではないから、限定的減縮を目的とする補正に該当する(17条の2第5項第2号)。」と主張しているから、本件補正のうち、本件補正前の請求項1,8を本件補正後の請求項1とするとともに、本件補正前の請求項9,16を本件補正後の請求項6とする補正は、上記(イ)を目的とする補正と解するのが相当である。したがって、本件補正のうち、本件補正前の請求項1,8を本件補正後の請求項1とするとともに、本件補正前の請求項9,16を本件補正後の請求項6とする補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」及び同項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
さらに、上記のように本件補正前の請求項1,8を本件補正後の請求項1とするとともに本件補正前の請求項9,16を本件補正後の請求項6とする補正を上記(イ)を目的とする補正と解すると、本件補正のうち、本件補正前の請求項2,3,4,5,10,11,14,15を本件補正後の請求項2,3,4,5,7,8,9,10とする補正は、本件補正前の請求項2,3,4,5,10,11,14,15の「第1の流体」及び「第2の流体」をそれぞれ「第1の気体」及び「第2の気体」と限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。なお、仮に、本件補正前の請求項1,8を本件補正後の請求項1とするとともに本件補正前の請求項9,16を本件補正後の請求項6とする補正を上記(ア)を目的とする補正と解しても、本件補正のうち、本件補正前の請求項2,3,4,5,10,11,14,15を本件補正後の請求項2,3,4,5,7,8,9,10とする補正は、本件補正前の請求項2,3,4,5,10,11,14,15の「第1の流体」及び「第2の流体」をそれぞれ「第1の気体」及び「第2の気体」と限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
上記(1)で検討したとおり、本件補正のうち本件補正前の請求項1?16を本件補正後の請求項1?10と補正する目的には特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」が含まれるから、本件補正が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かを検討する。

ア 特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)の判断基準
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、」「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と定めている。そして、このいわゆる実施可能要件についての規定は、当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が、明細書及び図面に記載された事項と出願時(優先権主張を伴う場合には優先日当時)の技術常識に基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明を記載しなければならない旨の規定であって、明細書及び図面に記載された事項と出願時(優先権主張を伴う場合には優先日当時)の技術常識に基づいて、当業者が請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないときには、この規定の要件が満たされていないことになる(知財高裁平成17年(行ケ)10579号)。

イ 本件補正後の請求項1?10に係る発明の認定
本件補正後の請求項1?10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
リソグラフィック投影装置であって、
投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システムと、
所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造と、
基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブルと、
パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システムと、
前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板と、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の気体と、
前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の気体とを備え、
前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である、リソグラフィック投影装置。
【請求項2】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項3】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項4】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項5】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項1に記載のリソグラフィック投影装置。
【請求項6】
デバイス製造方法であって、
少なくとも一部が放射線感応材料の層で被覆された基板を提供するステップと、
パターン化された放射ビームを前記放射線感応材料の層の目標部分に投射するステップと、
投影システムの光学エレメントと前記基板との間の空間に、それぞれ第1の屈折率及び第2の屈折率を有する第1の気体及び第2の気体を充填するステップと、
前記第1及び第2の気体を少なくとも1つの透明板で分離するステップと、を含み、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間に前記第1の気体が充填され、前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間に前記第2の気体が充填され、前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記透明板は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間の第3の屈折率を有する、デバイス製造方法。
【請求項7】
前記第1の屈折率と前記基板の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項8】
前記第2の屈折率と前記光学エレメントの屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項9】
前記第3の屈折率と前記第1の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。
【請求項10】
前記第3の屈折率と前記第2の屈折率は、ほぼ等しい、請求項6に記載のデバイス製造方法。」

ウ 本件出願の明細書の記載
本件補正後の請求項1?10に係る発明について、本件出願の明細書には、以下の記載がある。

(ア)「【0009】
半導体デバイスの集積度を増し、かつ、ムーアの法則に従うためには、幅が25?100nmの実用最小ラインを印刷することができるリソグラフィック投影装置を提供する必要がある。現在入手可能な、193nm及び157nmの放射を使用しているフォトリソグラフィック・ツールは、良く知られている式、R=k_(1)・λ/NAに基づく解像度(単位nm)を有するパターン・フィーチャを生成することができる。Rは解像度であり、k_(1)は、使用する放射線感応材料(レジスト)によって決まる定数である。λは放射の波長であり、NAは開口数である。開口数NAは、式、NA=n・sinθに基づいて決定される。nは、放射が通過する材料の屈折率であり、θは、放射が入射する角度である。k_(1)の下限は0.25であり、現在入手可能なリソグラフィック投影装置のNAは0.85である。光学設計の困難性のため、NAを大きくすることは困難である。通常、k_(1)及びNAは、その限界にあると見なされているため、解像度を高くする能力、つまりより微細なパターン・フィーチャを印刷するリソグラフィック投影装置の能力は、放射の波長λを短くすることに懸かっているように思われる。
【0010】
放射の波長を短くする方法の1つは、リソグラフィック投影装置内の基板を、屈折率が比較的大きい流体中、たとえば水中に浸し、投影システム(レンズ)の光学エレメントと基板の間の空間を満たすことである。流体中では露光放射の波長が短くなるため、投影システムの光学エレメントと基板の間の空間を満たすことにより、より微細なフィーチャを画像化することができる。流体の効果は、システムの有効NAを大きくすることにあると見なすことができる。また、この方法を使用することにより、同じ解像度で画像化する場合の焦点深度を長くすることができる。焦点深度は、式、DOF=+/-k_(2)λ/NA^(2)で定義される。k_(2)はプロセス依存定数であり、λは波長である。また、NAは開口数である。焦点深度は、リソグラフィック装置の解像度を決定している要因の1つであり、光軸に沿った、パターンの画像が十分に鮮明である距離として定義されている。
【0011】
投影システムの光学エレメントと基板の間の空間に流体を充填することによって出現する障害の1つは、流体が、光学エレメントの屈折率と基板の屈折率の間の屈折率を有していることである。流体の屈折率は、画像の解像度を改善するだけの十分な屈折率ではなく、また、流体の屈折率が光学エレメントと基板の間の空間全体に渡って一定であるため、流体にできることは、単に放射の波長を短くすることだけである。
【0012】
液浸リソグラフィに関連するもう1つの問題は、流体の多くが、193nm及び157nmの放射に対する透明性が不十分であり、そのために基板に入射する放射の量が減少する傾向にあることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の態様は、投影システムの光学エレメントと基板の間の空間に、屈折率が異なる少なくとも2種類の流体が充填されるリソグラフィック装置を提供することである。それにより、基板に入射する放射の角度が大きくなり、延いてはウェハで反射する放射が減少し、リソグラフィック装置の解像度が高くなる。本明細書で使用されているように、流体という用語は、液体、気体及び/又はゲルを意味している。」

(イ)「【0025】
図2を参照すると、基板テーブルWTが第1の屈折率を有する第1の流体10中に浸されている。第1の流体10は、第1の流体供給システム15によって提供されている。投影システムPLと基板テーブルWTの間に、透明板すなわち皿12が配置されている。投影システムPLの光学エレメントOE(たとえばレンズ)と透明板12の間の空間には、第2の屈折率を有する第2の流体11が充填されている。第1の屈折率と第2の屈折率は異なっている。第2の流体11は、第2の流体供給システム16によって提供されている。透明板12は、第1の流体10の第1の屈折率と第2の流体11の第2の屈折率の間であることが好ましい第3の屈折率を有している。
【0026】
図3を参照すると、投影システムPLの光学エレメントOEは、屈折率n_(OE)を有し、基板Wは、光学エレメントOEの屈折率n_(OE)より大きい屈折率n_(W)を有している。光学エレメント、たとえばレンズは、たとえばガラス、石英ガラス、水晶若しくはCaF2を使用して形成することができ、たとえば約1.4から約1.6の屈折率n_(OE)を有している。光学エレメントOEは、たとえば、遠紫外線(DUV)リソグラフィに広く使用されている石英ガラスを使用して形成することができ、約1.46の屈折率n_(OE)を有している。他の実施例では、光学エレメントOEは、157nmリソグラフィに広く使用されているCaF2を使用して形成され、約1.4から約1.56までの範囲の屈折率n_(OE)を有している。
【0027】
第2の流体11はたとえば水であり、波長が248nmの放射と共に使用するべく、約1.3から1.35の屈折率n_(SL)を有している。第2の流体11として水を使用し、放射の波長がたとえば193nmである場合、屈折率n_(SL)は、約1.44でなければならない。基板Wの屈折率n_(W)は、たとえば1.7と1.8の間である。
【0028】
第1の流体10の屈折率n_(FL)は、第2の流体11の屈折率n_(SL)より相対的に大きくすることができる。第1の流体10には、過フルオロポリエーテル(PFPE)流体を使用することができる。PFPE流体には、たとえば、Ausimont Corporationが市販しているFOMBLIN(登録商標)若しくはGALDEN(登録商標)、或いはDuPontが市販しているKRYTOX(登録商標)を使用することができる。PFPE流体は、現在、真空ポンプの潤滑材として使用されており、したがってリソグラフィック投影装置が使用されるクリーン・ルームの環境に匹敵している。PFPE流体は、光学的に清浄であり、毒性がなく、また、化学的に不活性であり、現在の少なくともいくつかのレジスト材に匹敵している。PFPE流体の対数の底が10の157nm吸光度は、α=10^(-3)μm^(-1)であり、現行の実験的157nmレジストの1000分の1未満である。157nmにおけるFOMBLIN(登録商標)Z-25の屈折率はn=1.35であり、同じく157nmにおけるFOMBLIN(登録商標)Y-18の屈折率はn=1.37である。より大きい分子量バージョンであるFOMBLIN(登録商標)Y-140の157nmにおける屈折率はn=1.38である。
【0029】
また、PFPE流体は、色補正のための193nmリソグラフィにおける投影システムの光学エレメントの形成に広く使用され、また、157nmリソグラフィにおける光学エレメントに広く使用されているCaF_(2)と厳密に整合する屈折率を有している。PFPE流体は、耐溶媒性の化学薬品である。また、PFPE流体は、耐熱性及び耐電気性に優れており、金属、プラスチック、エラストマー及びゴムに対して非反応性である。PFPE流体は、液体酸素及び気相酸素に対して不活性であり、かつ、非可燃性である。液体酸素及び気相酸素に対して不活性であるため、PFPE流体は、フォトレジスト剥離プロセスに見られる高酸素状態に影響されることはない。また、PFPE流体は、アルミニウム・エッチング中に生成されるルイス酸、硫黄生成物、ほとんどの酸、ほとんどの塩基及びほとんどの酸化剤に耐えることができる。PFPE流体は、様々な粘度で利用することができ、また、蒸発減が小さい。また、PFPE流体は、優れた放射ハードネス及びイオン化放射の存在による重合に対する優れた耐性を有している。PFPE流体は、そのオゾン空乏電位がゼロであり、環境保護機関によって揮発性有機化学薬品として分類されていない。
【0030】
透明板12は、第1の流体10の屈折率n_(FL)と第2の流体11の屈折率n_(SL)の間の屈折率n_(TP)を有している。透明板12は、リソグラフィック投影装置1の放射システムEx、ILによって生成される特定の波長の放射、たとえば波長が365nm、248nm、193nm、157nm或いは126nmの放射に対して透明な任意の材料を使用して形成することができ、第1の流体10の屈折率n_(FL)に等しいか、或いは第2の流体11の屈折率n_(SL)に等しい屈折率n_(TP)を含む、第1の流体10の屈折率と第2の流体11の屈折率の間の屈折率n_(TP)を有している。また、透明板12全体が透明である必要はなく、パターン化された投影ビームが通過する部分のみが透明であれば良いことを理解されたい。
【0031】
図3に示すように、パターン化された投影ビームPPBは、投影システムPLの光学エレメントOEから射出し、第2の流体11に入射している。パターン化された投影ビームPPBは、光学エレメントOEと第2の流体11の間の境界を通過して第2の流体11中に入射するが、第2の流体11に入射する際の速度変化によって偏向する。第2の流体11の屈折率n_(SL)と光学エレメントOEの屈折率n_(OE)が等しい場合、パターン化された投影ビームPPBは偏向しないことを理解されたい。
【0032】
第2の流体11の屈折率n_(SL)と等しいか、それより大きい屈折率n_(TP)を透明板12に持たせることができる。パターン化された投影ビームPPBは、第2の流体11から透明板12に入射する際にも偏向する。透明板12の屈折率n_(TP)と第2の流体11の屈折率n_(SL)が等しい場合、パターン化された投影ビームPPBは、透明板12に入射する際に偏向しないことを理解されたい。
【0033】
第1の流体10の屈折率n_(FL)は、透明板12の屈折率n_(TP)と同じにするか、或いはそれより大きくすることができる。透明板12の屈折率n_(TP)と第2の流体11の屈折率n_(SL)が等しい場合、可変屈折率を提供するためには、第1の流体10の屈折率n_(FL)は、透明板12の屈折率n_(TP)より大きい屈折率でなければならない。第1の流体10の屈折率n_(FL)が透明板12の屈折率n_(TP)より大きい場合、パターン化された投影ビームPPBは、透明板12から射出し、第1の流体10に入射する際に偏向する。パターン化された投影ビームPPBは、第1の流体10を通過して基板Wに入射する。
【0034】
以上、第1の流体10をPFPE流体として、また、第2の流体11を水として説明したが、第1の流体10及び第2の流体11をいずれもPFPE流体にすることができ、或いは第1の流体10の屈折率n_(FL)と第2の流体11の屈折率n_(SL)が異なっている限り、リソグラフィック投影装置の放射システムによって生成される放射の波長に対して適切な透明度を有する他の任意の流体にすることができることは理解されよう。また、それぞれ基板Wの屈折率及び投影システムPLの光学エレメントOEの屈折率に対する屈折率に基づいて、第1の流体10及び第2の流体11を選択することができることを理解されたい。第1の流体10には、基板の屈折率と同様の屈折率を持たせなければならず、また、第2の流体には、可能な限り光学エレメントの屈折率と同様の屈折率を持たせなければならない。
【0035】
したがって、光学エレメントから第2の流体、透明板、第1の流体を介してウェハまで、屈折率が連続的に変化する。本発明には、光学エレメントと基板の間に可変屈折率を生成し、それにより基板に入射するパターン化された投影ビームの角度を大きくするための、光学エレメント、第2の流体、透明板、第1の流体及び基板の屈折率の任意の組合せが意図されている。この連続的に変化する屈折率の効果により、基板に入射するパターン化された投影ビームの角度が大きくなり、パターン化された投影ビームの基板での反射が減少し、かつ、リソグラフィック投影装置の解像度が高くなる。」

実施可能要件についての当審の判断
(ア)上記アにおいて述べた特許法第36条第4項第1号に規定するいわゆる実施可能要件の判断基準に従って、本件出願の明細書の発明の詳細な説明が、本件補正後の請求項1?10に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討する。

(イ)本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」について
本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」の具体的な材料名及び屈折率の具体的な値について直接的な記載はない。
しかし、(a)本件補正後の請求項1?10に係る発明には、「前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である」という事項が記載され、(b)前記事項の意味について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】に「透明板12は、第1の流体10の屈折率n_(FL)と第2の流体11の屈折率n_(SL)の間の屈折率n_(TP)を有している。透明板12は、・・・(中略)・・・第1の流体10の屈折率n_(FL)に等しいか、或いは第2の流体11の屈折率n_(SL)に等しい屈折率n_(TP)を含む、第1の流体10の屈折率と第2の流体11の屈折率の間の屈折率n_(TP)を有している。」と記載され、(c)本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】に「また、第2の流体には、可能な限り光学エレメントの屈折率と同様の屈折率を持たせなければならない。」と記載されていることに照らすと、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」の屈折率(すなわち、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「第3の屈折率」)は、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「光学エレメント」の屈折率以上であると認めることができる。
そして、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】には、「光学エレメント、たとえばレンズは、たとえばガラス、石英ガラス、水晶若しくはCaF2を使用して形成することができ、たとえば約1.4から約1.6の屈折率n_(OE)を有している。光学エレメントOEは、たとえば、遠紫外線(DUV)リソグラフィに広く使用されている石英ガラスを使用して形成することができ、約1.46の屈折率n_(OE)を有している。他の実施例では、光学エレメント_(OE)は、157nmリソグラフィに広く使用されているCaF2を使用して形成され、約1.4から約1.56までの範囲の屈折率n_(OE)を有している。」と記載されている。
したがって、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」の屈折率(「第3の屈折率」)は「光学エレメント」の屈折率以上、すなわち、約1.4以上であり、その材料の例として、ガラス、石英ガラス、水晶若しくはCaF_(2)が記載されていると認めることができるから、本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

(ウ)本件補正後の請求項1?10に係る発明の「第1の気体」について
a 本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の気体」について、段落【0013】に「本明細書で使用されているように、流体という用語は、液体、気体及び/又はゲルを意味している。」と記載されているに過ぎず、本件補正後の請求項1?10に係る発明の前記「第1の気体」の具体的な材料名及び屈折率の具体的な値について直接的な記載はない。

b しかし、(a)本件補正後の請求項1?10に係る発明には「前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である」という事項が記載され、(b)前記事項の意味について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】に「透明板12は、第1の流体10の屈折率n_(FL)と第2の流体11の屈折率n_(SL)の間の屈折率n_(TP)を有している。透明板12は、・・・(中略)・・・第1の流体10の屈折率n_(FL)に等しいか、或いは第2の流体11の屈折率n_(SL)に等しい屈折率n_(TP)を含む、第1の流体10の屈折率と第2の流体11の屈折率の間の屈折率n_(TP)を有している。」と記載されているから、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「第1の気体」の屈折率(「第1の屈折率」)は「透明板」の屈折率(「第3の屈折率」)以上であると認めることができる。さらに、(c)上記(イ)において検討したとおり、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「透明板」の屈折率(「第3の屈折率」)が約1.4以上であることが記載されていると認めることができる。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「第1の気体」の屈折率(「第1の屈折率」)が約1.4以上であることが記載されていると認めることができる。
ここで、請求人は、本件出願の明細書の発明の詳細な説明に「第1の気体」の具体的な物質名を記載する必要がない理由として、平成20年10月3日付けの手続補正により補正された同年9月9日付けの審判請求書の請求の理由において、「リソグラフィ投影装置の投影光学系に通常用いられる気体の種類及びその屈折率は公知であるから、その公知の組み合わせの中から『第1の屈折率が第2の屈折率より大きく、第3の屈折率は第1の屈折率と第2の屈折率との間である』という条件を満たすように、第1の気体及び第2の気体並びに透明板を選択することは、当業者の通常の知識を以って容易になし得るものであ」ると主張するとともに、平成21年12月3日付けの回答書において、「リソグラフィ投影装置の投影光学系に用いられる気体の種類及びその屈折率は公知であるから、第2の屈折率<第3の屈折率<第1の屈折率の関係を満たす第1及び第2の気体を公知の気体の中から選択することは当業者にとって容易であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を要するものではない」、「従って、第2の屈折率<第3の屈折率<第1の屈折率の関係を満たすために、第1及び第2の気体並びに透明板の材料としてどのような材料を用いるべきなのかは、出願当時の技術水準に照らして自明である」と主張している。
しかし、リソグラフィ投影装置の投影光学系に用いられる気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン等であるとともに、これら気体の屈折率は1に極めて近いことが本件出願の優先日当時の技術常識であるから(例えば、特開2002-260999号公報(段落【0025】等)、国際公開第01/08204号(第13頁第5行?第14頁第16行等)、特開平10-340850号公報(段落【0008】等)を参照。)、本件出願の優先日当時の技術常識に照らしても、屈折率(「第1の屈折率」)が約1.4以上である「第1の気体」の材料を当業者が具体的に想定することはできない。
したがって、本件出願の明細書及び図面に記載された事項と本件出願の優先日当時の技術常識に照らしても、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正後の請求項1?10に係る発明の「第1の気体」について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。

オ 本件補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、本件出願の明細書の発明の詳細な説明が、本件補正後の請求項1?10に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないから、本件補正後の請求項1?10に係る発明は、特許法第36条第4項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件審判請求についての判断
1 本件発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年11月22日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審理すると、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成19年11月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「リソグラフィック投影装置であって、
投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システムと、
所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造と、
基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブルと、
パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システムと、
前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板と、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の流体と、
前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の流体とを備え、
前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である、リソグラフィック投影装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由において引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-303114号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?ケの記載が図示とともにある。

ア 「【請求項1】レチクル上に描画されたパターンをウエハ上に焼付転写する投影光学系を有し、該投影光学系のウエハに最も近接したレンズ面と前記ウエハとの間のワーキングディスタンスのうちの少なくとも一部分を、露光光を透過する液体で満たした液浸型露光装置において、
前記ワーキングディスタンスの長さをLとし、前記露光光の波長をλとし、前記液体の屈折率の温度係数をN(1/℃)としたとき、
L≦λ/(0.3×|N|)
となるように形成したことを特徴とする液浸型露光装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レチクル上に描画されたパターンを投影光学系によってウエハに焼付ける露光装置に関し、特に液浸型の露光装置に関する。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】光学系の最終レンズ面と像面との間の間隔をワーキングディスタンスというが、従来の露光装置の投影光学系のワーキングディスタンスは、空気で満たされていた。このワーキングディスタンスは、オートフォーカス光学系を介在させるなどの都合により、10mm以上取るのが普通であった。他方、ウエハに転写するパターンについては、その微細化がますます望まれており、そのためには露光波長の短波長化を図るか、あるいは開口数の増大を図る必要がある。しかるに短波長の光を透過するガラス材料の種類には限度があるから、ワーキングディスタンスを液体で満たして開口数の増大を図ることにより、露光パターンの微細化を図る液浸型の露光装置が提案されている。
【0003】液浸型の露光装置では、ワーキングディスタンスに介在させた液体の温度分布によって、屈折率に分布が生じるおそれがある。そこで液体の温度変化に起因する結像性能の劣化への対策として、次のような技術が提案されている。すなわち、(あ)液体の温度安定機構によって温度の安定化を図るものとして、米国特許4,346,164号の図3に開示された技術が提案されており、加振撹拌機構によって温度の均一化を図るものとして、特開平6-124873号公報に開示された技術が提案されている。また、(い)液体の温度モニター機構によって温度調節にフィードバックするものとして、同じく特開平6-124873号公報に温度、又は屈折率を計測することが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし(あ)においては、温度をどの程度安定させれば実用上問題ないかと言った議論は成されておらず、実際には下記に示すように、現実的とは言いがたい精度での温度コントロールが必要になる。また、(い)についても、結像性能に最も影響するのが液体の温度不均一であることを考慮すると、有効な対策とは言い難い。このように液浸型露光装置に関する従来公知の技術においては、ワーキングディスタンスのような投影光学系の光学パラメーターそのものについての制約に言及した例はなく、液浸型の特殊事情が考慮されているとは言えない状況であった。したがって本発明は、ワーキングディスタンスを満たす液体の温度制御を容易にして、結像性能の劣化を招くことのない液浸型露光装置を提供することを課題とする。」

エ 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、レチクル上に描画されたパターンをウエハ上に焼付転写する投影光学系を有し、該投影光学系のウエハに最も近接したレンズ面とウエハとの間のワーキングディスタンスのうちの少なくとも一部分を、露光光を透過する液体で満たした液浸型露光装置において、ワーキングディスタンスの長さをLとし、露光光の波長をλとし、液体の屈折率の温度係数をN(1/℃)としたとき、
L≦λ/(0.3×|N|)
となるように形成したことを特徴とする液浸型露光装置であり、また、前記液体として、純水の表面張力を減少させ又は純水の界面活性度を増大させる添加剤を純水に添加したものを用いたことを特徴とする液浸型露光装置である。
【0006】以下に本発明の作用を説明する。投影光学系の先端のガラス面から結像面までの距離、すなわちワーキングディスタンスをLとし、ワーキングディスタンスLを満たす媒質の温度分布の幅をΔTとし、この温度分布ΔTに起因する結像波面の収差をΔFとし、液体の屈折率の温度係数をNとすると、近似的に以下の式(1)が成立する。
ΔF=L×|N|×ΔT ‥‥(1)
【0007】媒質の温度分布ΔTについては、その均一化を図るためにいかにコントロールしようとも、ΔT=0.01℃程度の温度分布が存在すると想定される。したがって、結像波面収差ΔFは、少なくとも、
ΔF=L×|N|×0.01 ‥‥(1a)
だけは存在する。ここでNは、屈折率の温度係数を1/℃単位で表した値である。
【0008】屈折率の温度係数Nの値は液体と気体で大きく異なり、例えば空気ではN=-9×10^(-7)/℃であるのに対して、水の場合はN=-8×10^(-5)/℃であり、100倍近い差がある。他方、縮小投影露光装置の投影光学系のワーキングディスタンスLは、通常L>10mmであるが、L=10mmであるとしても、結像波面収差ΔFは以下のようになる。
空気:ΔF=10mm×|-9×10^(-7)/℃|×0.01℃
=0.09nm
水 :ΔF=10mm×|-8×10^(-5)/℃|×0.01℃
=8.0nm
【0009】しかるに一般に結像波面収差ΔFは、露光波長λの1/30以下が望ましく、すなわち、
ΔF≦λ/30 ‥‥(2)
が成立することが好ましい。例えば波長193nmのArFエキシマレーザーを露光光として用いるときには、ΔF<6.4nmが望ましい。ワーキングディスタンスを満たす媒質が水の場合には、従来技術のようにワーキングディスタンスLがL>10mmでは、媒質の温度分布による結像波面収差の発生量が大きすぎて、実用上問題を生ずることが分かる。
【0010】(1a)式と(2)式とから、
L≦λ/(0.3×|N|) ‥‥(3)
を得る。したがって(3)式を満たすことにより、実現可能な温度安定性(温度分布)のもとに、浸液中の温度分布によって生じる波面収差発生量が露光波長の1/30以下に抑えられた投影光学系を搭載した液浸型露光装置が得られる。以上のように本発明においては、温度分布を持った媒質中を露光光が通過することで発生する波面収差量が、温度分布量と媒質中の光路長の積に依存することに着目し、光路長に上限を設けることにより、温度分布に対する要求を緩和している。これにより実現可能なレベルでの浸液の温度コントロールのもとで、液浸型露光装置を実用に供することができる。」

オ 「【0012】
【第1の実施例の説明】図1は、本発明の第1の実施例による投影露光装置の全体構成を示し、ここでは、物体側と像側の両側においてテレセントリックに構成された円形イメージフィールドを有する縮小投影レンズ系PLを介して、レチクルR上の回路パターンを半導体ウエハW上に投影しつつ、レチクルRとウエハWとを投影レンズ系PLに対して相対走査するレンズ・スキャン方式の投影露光装置を示す。図1において照明系10は、波長193nmのパルス光を放射するArFエキシマレーザ光源(不図示)、その光源からのパルス光の断面形状を整形するビームエクスパンダ(不図示)、その整形されたパルス光を入射して2次光源像(複数の点光源の集まり)を生成するフライ・アイレンズ等のオプチカルインテグレータ(不図示)、その2次光源像からのパルス光を均一な照度分布のパルス照明光にする集光レンズ系(不図示)、そのパルス照明光の形状を走査露光時の走査方向(Y方向)と直交した方向(X方向)に長い矩形状に整形するレチクルブラインド(照明視野絞り、不図示)、及びそのレチクルブラインドの矩形状の開口からのパルス光ILを図1中のコンデンサーレンズ系12、ミラー14と協働してレチクルR上にスリット状又は矩形状の照明領域AIとして結像するためのリレー光学系(不図示)とを含んでいる。
【0013】レチクルRは、走査露光時には大きなストロークで1次元方向に等速移動可能なレチクルステージ16上に真空吸着(場合によっては静電吸着、機械締結)される。(以下略)」

カ 「【0014】さて、コンデンサーレンズ系12とミラー14から射出された矩形状のパルス照明光ILがレチクルR上の回路パターン領域の一部を照射すると、その照明領域AI内に存在するパターンからの結像光束が1/4倍の縮小投影レンズ系PLを通して、ウエハWの表面に塗布された感応性のレジスト層に結像投影される。その投影レンズ系PLの光軸AXは、円形イメージフィールドの中心点を通り、照明系10とコンデンサーレンズ系12の各光軸とも同軸になるように配置されている。また投影レンズ系PLは、波長193nmの紫外線に対して高い透過率を有する石英と螢石の2種類の硝材で作られた複数枚のレンズ素子で構成され、螢石は主に正のパワーを持つレンズ素子に使われる。さらに投影レンズ系PLの複数枚のレンズ素子を固定する鏡筒の内部は、波長193nmのパルス照明光の酸素による吸収を避けるために窒素ガスに置換されている。このような窒素ガスによる置換は照明系10の内部からコンデンサーレンズ系12(又はミラー14)までの光路に対しても同様に行われる。
【0015】ところで、ウエハWはその裏面を吸着するホルダテーブルWH上に保持される。このホルダテーブルWHの外周部全体には一定の高さで壁部LBが設けられ、この壁部LBの内側には液体LQが所定の深さで満たされている。そしてウエハWは、ホルダテーブルWHの内底部の窪み部分に真空吸着される。(以下略)」

キ 「【0017】(中略)さらに本実施例では、後で詳細に説明するが、液浸状態における投影レンズ系PLの最良結像面(レチクル共役面)が、先端のレンズ素子の下面から約2?1mmの位置に形成されるように設計されている。従って、先端のレンズ素子の下面とウエハWの表面との間に形成される液体層の厚みも2?1mm程度になり、これによって液体LQの温度調整の制御精度が緩和されるとともに、その液体層内の温度分布ムラの発生も抑えることが可能となる。」

ク 「【0030】ここで、本実施例による露光装置の特徴であるホルダテーブルWH内の液体LQの状態について、図3を参照して説明する。図3は投影レンズ系PLの先端部からホルダテーブルWHまでの部分断面を表す。投影レンズ系PLの鏡筒内の先端には、下面Peが平面で上面が凸面の正レンズ素子LE1が固定されている。このレンズ素子LE1の下面Peは、鏡筒金物の先端部の端面と同一面となるように加工(フラッシュサーフェス加工)されており、液体LQの流れが乱れることを抑えている。さらに投影レンズ系PLの鏡筒先端部で液体LQ内に浸かる外周角部114は、例えば図3のように大きな曲率で面取り加工されており、液体LQの流れに対する抵抗を小さくして不要な渦の発生や乱流を抑える。また、ホルダテーブルWHの内底部の中央には、ウエハWの裏面を真空吸着する複数の突出した吸着面113が形成されてい。この吸着面113は、具体的には1mm程度の高さでウエハWの径方向に所定のピッチで同心円状に形成された複数の輪帯状ランド部として作られる。そして各輪帯状ランド部の中央に刻設された溝の各々は、テーブルWHの内部で真空吸着用の真空源に接続される配管112につながっている。
【0031】さて、本実施例では図3に示したように、投影レンズ系PLの先端のレンズ素子LE1の下面PeとウエハW(又は補助プレート部HRS)の表面とのベストフォーカス状態での間隔Lは、2?1mm程度に設定される。そのため、ホルダテーブルWH内に満たされる液体LQの深さHqは、間隔Lに対して2?3倍程度以上であればよく、従ってホルダテーブルWHの周辺に立設された壁部LBの高さは数mm?10mm程度でよい。このように本実施例では、投影レンズ系PLのワーキングディスタンスとしての間隔Lを極めて小さくしたため、ホルダテーブルWH内に満たされる液体LQの総量も少なくて済み、温度制御も容易になる。
【0032】ここで本実施例で使う液体LQは、入手が容易で取り扱いが簡単な純水を用いる。ただし本実施例では、液体LQの表面張力を減少させるとともに、界面活性力を増大させるために、ウエハWのレジスト層を溶解させず、且つレンズ素子の下面Peの光学コートに対する影響が無視できる脂肪族系の添加剤(液体)をわずかな割合で添加しておく。その添加剤としては、純水とほぼ等しい屈折率を有するメチルアルコール等が好ましい。このようにすると、純水中のメチルアルコール成分が蒸発して含有濃度が変化しても、液体LQの全体としての屈折率変化を極めて小さくできるといった利点が得られる。
【0033】さて、液体LQの温度はある目標温度に対して一定の精度で制御されるが、現在比較的容易に温度制御できる精度は±0.01℃程度である。そこでこのような温調精度のもとでの現実的な液浸投影法を考えてみる。一般に空気の屈折率の温度係数N_(a)は約-9×10^(-7)/℃であり、水の屈折率の温度係数N_(q)は約-8×10^(-5)/℃であり、水の屈折率の温度係数Nqの方が2桁程度も大きい。一方、ワーキングディスタンスをLとすると、ワーキングディスタンスLを満たす媒質の温度変化(温度むら)量ΔTに起因して生じる結像の波面収差量ΔFは近似的に次式で表される。
ΔF=L・|N|・ΔT
【0034】ここで、液浸投影法を適用しない通常の投影露光の場合、ワーキングディスタンスLを10mm、温度変化量ΔTを0.01℃としたときの波面収差量ΔF_(air)は以下のようになる。
ΔF_(air)=L・|N_(a)|・ΔT≒0.09nm
また同じワーキングディスタンスLと温度変化量ΔTの下で、液浸投影法を適用した場合に得られる波面収差量ΔF_(lq)は以下のようになる。
ΔF_(lq)=L・|N_(q)|・ΔT≒8nm
【0035】この波面収差量は、一般に使用波長λの1/30ないしは1/50?1/100程度が望ましいとされているから、ArFエキシマレーザを使った場合に許容される最大の波面収差量ΔF_(max)は、λ/30ないしはλ/50?λ/100程度の6.43ないしは3.86?1.93nmに定められ、望ましくはλ/100の1.93nm以下に定められる。ところで空気と水の0℃における各熱伝導率は、空気で0.0241W/mKとなり、水で0.561W/mKとなり、水の方が熱伝導が良く、水中に形成される光路内での温度むらは空気中のそれよりも小さくでき、結果的に液体中で発生する屈折率の揺らぎも小さくできる。しかしながら、式(3)に表したようにワーキングディスタンスLが10mm程度の場合、温度変化量ΔTが0.01℃であったとしても、発生する波面収差量ΔF_(lq)は許容収差量ΔF_(max)を大きく越えてしまう。
【0036】そこで以上の考察から、許容波面収差量ΔF_(max)を考慮した温度変化量ΔTとワーキングディスタンスLとの関係は、
ΔF_(max)=λ/30≧L・|N_(q)|・ΔT
ないしは、
ΔF_(max)=λ/100≧L・|N_(q)|・ΔT
となる。ここで、想定される温度変化量ΔTを0.01℃、波長λを193nm、そして液体LQの屈折率変化量N_(q)を-8×10^(-5)/℃とすると、必要とされるワーキングディスタンス(液体層の厚み)Lは、8mmないしは2.4mm以下となる。望ましくは、そのワーキングディスタンスLを液体LQがスムーズに流れる範囲内で2mmよりも小さくした方がよい。以上のように本実施例のように構成することにより、液体LQの温度制御が容易になるとともに、液体層内の温度変化に起因した波面収差変化で生じる投影像の劣化が抑えられ、極めて高い解像力でレチクルRのパターンを投影露光することが可能となる。」

ケ 「【0055】
【第6の実施例の説明】次に図8は本発明の第6の実施例を示し、この実施例では下部容器7と上部容器8を用いている。ウエハ3を載置するウエハホルダー3aは下部容器7の内面底部に形成されており、下部容器7の上面は上部容器8の底面によって密閉されており、下部容器7の全容積は浸液7aによって完全に満たされている。他方上部容器8にも浸液8aが満たされており、その浸液8a内に投影光学系1の最終レンズ面1aが浸されている。
【0056】下部容器7内の浸液7aの一部分は、下部容器7の一側面に設けた排出口5より温度調節器6に導かれ、温度調節器6において温度調節を受けた後に、下部容器7の他側面に設けた注入口4より下部容器7に戻るように循環している。下部容器7内の複数箇所には温度センサー(図示せず)が取り付けられており、温度調節器6は温度センサーからの出力に基づいて、下部容器7内の浸液7aの温度が一定となるように制御している。また上部容器8内の浸液8aについても、同様の温度調節機構が設けられている。
【0057】この実施例においては、下部容器7と上部容器8を一体として移動することにより、ウエハ3を移動している。他方、ウエハ3を収容した下部容器内の浸液は実質的に密閉されているから、温度安定性の点で有利であるだけでなく、浸液中の渦等の流れによる圧力分布も発生しない。すなわち浸液中の圧力分布は、屈折率の揺らぎとなり結像波面収差悪化の要因となるが、この第6の実施例において圧力分布が問題になるのは、上部容器8に満たされた浸液8aのみで、この部分の光路L8を充分に短く形成することにより、ウエハ移動時の浸液流れの影響を実用上問題にならないレベルまで緩和することが出来る。
【0058】なお本実施例では下部容器7と上部容器8を一体として移動したが、下部容器7のみを移動し、上部容器8を固定することもできる。この構成のときには、上部容器8内の浸液8aは完全に停止することになる。したがってワーキングディスタンスLのうちで、上部容器8内の浸液8aの厚さL_(8)よりも、下部容器7内の浸液7aの厚さL_(7)の方を十分に薄く形成することが好ましい。」

また、原査定の拒絶理由において引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-121417号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のサ?テの記載が図示とともにある。

サ 「2. 特許請求の範囲
1.対物レンズ先端と被観察試料との間に、少なくとも液体の媒体を介在させる液浸対物レンズ装置において、前記対物レンズ先端と前記被観察試料との間に介在させる媒体を、複数の異質の媒体で層状に積層したことを特徴とする液浸対物レンズ装置。
2.特許請求の範囲第1項記載のものにおいて、対物レンズ先端と被観察試料との間に介在させる媒体を、屈折率の異なる複数の媒体で層状に積層したものである液浸対物レンズ装置。
3.特許請求の範囲第1項または第2項記載のもののいずれかにおいて、対物レンズ先端と被観察試料との間に介在させる媒体は、液体媒体中に、透明な固体により形成された中間媒体を介入させ層状に積層するものとし、前記液体媒体は油とし、少なくとも中間媒体と被観察諸料との間に表面張力を発生する油膜を形成せしめたものである液浸対物レンズ装置。
4.特許請求の範囲第3項記載のものにおいて、液体媒体中の中間媒体を透明な平面状の板ガラスとしたものである液浸対物レンズ装置。
5.特許請求の範囲第3項記載のものにおいて、液体媒体中の中間媒体を透明な非平面状の板ガラスとしたものである液浸対物レンズ装置。
6.特許請求の範囲第3項記載のものにおいて、液体媒体中の中間媒体を透明な板ガラスとし、この板ガラスをリングに固定し、このリングを対物レンズ先端部の外周に、特定範囲を摺動可能に装備したものである涎浸(審決注:「液浸」の誤記と認める。)対物レンズ装置。」(公報第1頁左欄第4行?右欄第15行)

シ 「3. 発明の詳細な説明
〔発明の利用分野〕
本発明は、液浸対物レンズ装置に係り、液体媒体の流動を防止するのに好適な液浸対物レンズ装置に関するものである。
〔発明の背景〕
顕微鏡観察によりICパターンや磁気ヘッド等の微細な寸法形状を0.1μm オーダの高精度で測定する場合、乾燥系対物レンズよりも液浸対物レンズの方が解像力が良いため有利となるが、液浸対物レンズでは、対物レンズと被観察試料(以下単に試料という)との間に油膜など液体媒体を介在させることが必要になる。
従来の液浸対物レンズ装置による観察について第9図および第10図を参照して説明する。
第9図は、従来の液浸対物レンズ装置の断面図、第10図は、第9図の装置による試料の端部観察状態を示す説明図である。
従来の液浸対物レンズ装置では、第9図に示すように、対物レンズ4の先端に油などの液体媒体2を塗布して試料1を観察するようになっている。
液体媒体2の屈折率をn_(A)とすると、対物レンズの性能を表わす開口数NAは次式で与えられる。
NA=n_(A)・sinθ_(1) ・・・・・・(1)
ただし、θ_(1)は光軸上の物点Oから対物レンズ4に入射する角度の最大値である。
ところで、顕微鏡の分解能εは、使用する光の波長をλとして、
ε=K・λ/NA (K:定数) ・・・・・・(2)
で与えられる。
液浸対物レンズでは、液体媒体2の屈折率n_(A)が、乾燥系対物レンズにおける空気の屈折率n_(0)≒1にくらべて大きく、n_(A)>n_(0)となるので、対物レンズの分解能εは液浸系の方が乾燥系よりも優れている。そこで、サブミクロン・オーダの微細な寸法形状を顕微鏡観察する場合、液浸対物レンズの方が高精度な観察が可能となる。」(公報第1頁右欄第16行?第2頁右上欄第14行)

ス 「〔発明の目的〕
本発明は、前述の従来技術の問題点を解決するためになされたもので、試料端部や周辺部を顕微鏡観最(審決注:「観察」の誤記と認める。)する場合でも、対物レンズ先端と試料との間に介在する液体媒体が流出することなく、高分解能の観察を可能にする液浸対物レンズ装置の提供を、その目的としている。」(公報第2頁左下欄第12?18行)

セ 「〔発明の概要〕
本発明に係る液浸対物レンズ装置の構成は、対物レンズ先端と被観察試料との間に、少なくとも液体の媒体を介在させる液浸対物レンズ装置において、前記対物レンズ先端と前記被観察試料との間に介在させる媒体を、複数の異質の媒体で層状に積層したものである。
なお、付記すると、対物レンズ先端と被観察試料との間に介在させる媒体は、液体媒体中に、透明な固体により形成された中間媒体を介入させ層状に積層するものとし、前記液体媒体は油とし、少なくとも中間媒体と被観察試料との間に表面張力を発生する油膜を形成せしめたものである。
すなわち、本発明では、液浸対物レンズの作動距離を見かけ上小さくし、試料上の油膜厚さを減少させることにより油膜の流出を防止している。
また、使用する液体媒体の油の粘度を大きくすることにより油膜の流動を防止している。その結果、試料の端部や周辺部についても、液浸対物レンズにより高精度な観察を可能にしたものである。」(公報第2頁左下欄第19行?第3頁左上欄第1行)

ソ 「〔発明の実施例〕
以下、本発明の各実施例を第1図ないし第8図を参照して説明する。
まず、第1図は、本発明の一実施例に係る液浸対物レンズ装置による試料端部観察状況を示す構成図、第2図は、本発明の他の実施例に係る液浸対物レンズ装置による開口数の改善を示す構成図である。
なお、各図において、第9図と同一符号のものは従来技術と同等部分を示しており、対物レンズ4は外形を示しているが、その内容は第9図に示したレンズ構成と同じものである。
第1図において、2-1,2-2は、対物レンズ4先端と被観察試料(以下単に試料という)1との間に介在させる液体媒体に係る油による油膜を示す。3は、液体媒体中の中間媒体を構成する薄い平板状の透明な板ガラスである。
このように、本実施例では、油膜2-1,板ガラス3,油膜2-2が層状に積層して媒体を形成している。
その装置の構成の仕方と作用を説明する。
まず、板ガラス3を油膜2-2により対物レンズ4に付着させておく。一方、試料1の表面に油膜2-1を滴下しておき、前記対物レンズ4を合焦点位置まで近づけると、油膜2-1は中間媒体である透明ガラス3に付着する。このとき、油膜2-1の厚さは十分に薄くなっているので、油膜の表面張力により第1図のように油膜が保持され、試料1の端部から流出することを防止できる。
したがって、従来の油浸観察では、油が流出して観察できなかった試料1の端部p点近傍を油浸観察することが可能である。」(公報第3頁左上欄第2行?右上欄第14行)

タ 「油膜2-1,2-2の屈折率は異なる値をもつように別々の油を用いることもできるが、一般的には同一の油を用いて同じ屈折率とすることができ、例えば屈折率n_(A)=1.5である。また、板ガラス3の屈折率は通常は上記油の屈折率と同一になるような材質を選ぶことができるが、別の屈折率とすることもできる。
油膜2-1,2-2および板ガラス3の屈折率をみな同一のn_(A)=1.5とした場合には、光学的には、第9図に示した従来の油浸対物レンズ装置と全く同じになり、ただ板ガラス3が油膜の形状を保持しているという点のみが異なる。」(公報第3頁左下欄第1?12行)

チ 「油膜と板ガラスの屈折率を異ならせた他の実施例が第2図に示すものである。
第2図の液浸対物レンズ装置では、油膜2-1の屈折率を相対的に大きく、例えばn_(A)=1.6とし、板ガラス3′の屈折率を小さく、例えばn=1.45とする。
このように、屈折率を調整することにより、対物レンズ4に対する最大入射角は、第9図に示したと同じθ_(1)にしながら、試料1表面の光軸上の観察点Oから対物レンズ4に向う光の光軸となす最大角度θ_(2)を、θ_(2)>θ_(1)と大きくすることにより、先に(1)式で示した開口数NAを従来より大きくでき、対物レンズの分解能を従来より向上させることができる。」(公報第3頁左下欄第13?右下欄第6行)

ツ 「また、さらに特殊な例として、第2図に示した層状に積層された複数の媒体、すなわち油膜2-1,2-2、板ガラス3′の各層のうちの一層を、空気層または真空層(屈折率n=1)とすることも可能である。」(公報第4頁左上欄第2?6行)

テ 「しかるに、試料1の端部、周辺部を観察する第1図の場合と違って、試料1の中央平面部を観察する第2図の例では、板ガラス3の上下面の油膜接触面積はほぼ等しいので、試料1を対物レンズ4から遠ざけた場合、板ガラス3が、対物レンズ4と試料1とのどちら側に付着して残るかは一概に決まらず、試料の場所を変えて観察を継続するのに作業性が悪くなる。
そこで、これを改善した液浸対物レンズ装置が第3図に示すものである。
第3図は、本発明のさらに他の実施例に係る液浸対物レンズ装置の構成図であり、図中、第1図と同一符号のものは、同等部分であるから、その説明を省略する。
第3図に示す実施例は、液体媒体に係る油膜2-1,2-2間に、中間媒体に係る透明な板ガラス3が介入されており、この板ガラス3はリング6に固定されている。このリング6は、対物レンズ4の外周面に、上下方向に特定範囲を摺動できるように装備されている。5は、リング6が対物レンズ4から抜けるのを防止するストッパである。
リング6の内側は油膜2-2で満たされており、リング6の上下動により板ガラス3と対物レンズ4先端との間の油膜が途切れることがないように構成されている。
このように、中間媒体に係る板ガラス3を対物レンズ4側に拘束することにより、第1,2図に示したような油浸観察の作業性が著しく向上する。」(公報第4頁右上欄第7行?左下欄第16行)

3 引用例1,2に記載された発明の認定
引用例1の上記記載事項ア?ケから、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。

「波長λのパルス光を放射する光源、前記光源からのパルス光の断面形状を整形するビームエクスパンダ、前記整形されたパルス光を入射して2次光源像(複数の点光源の集まり)を生成するフライ・アイレンズ等のオプチカルインテグレータ、前記2次光源像からの前記パルス光を均一な照度分布のパルス照明光にする集光レンズ系、前記パルス照明光の形状を走査露光時の走査方向(Y方向)と直交した方向(X方向)に長い矩形状に整形するレチクルブラインド(照明視野絞り)、及び前記レチクルブラインドの矩形状の開口からの前記パルス光をコンデンサーレンズ系、ミラーと協働してレチクル上にスリット状又は矩形状の照明領域として結像するためのリレー光学系とを含む照明系と、
前記レチクルを吸着するレチクルステージと、
前記レチクル上に描画されたパターンをウエハ上に焼付転写する投影光学系と、
前記ウエハを載置するウエハホルダーとを有し、
前記投影光学系の前記ウエハに最も近接したレンズ面と前記ウエハとの間のワーキングディスタンスのうちの少なくとも一部分を、露光光を透過する浸液で満たした液浸型露光装置において、
前記ワーキングディスタンスの長さをLとし、前記露光光の波長をλとし、前記液体の屈折率の温度係数をN(1/℃)としたとき、L≦λ/(0.3×|N|)となるように形成し、
前記ウエハホルダーは下部容器の内面底部に形成されており、前記下部容器の上面は上部容器の底面によって密閉されており、前記下部容器の全容積は浸液7aによって完全に満たされており、前記上部容器にも浸液8aが満たされており、前記浸液8a内に前記投影光学系の最終レンズ面が浸されており、
前記下部容器内の前記浸液7aの一部分は、前記下部容器の一側面に設けた排出口より温度調節器に導かれ、前記温度調節器において前記下部容器内の前記浸液7aの温度が一定となるように温度調節を受けた後に、前記下部容器の他側面に設けた注入口より前記下部容器に戻るように循環しており、前記上部容器内の前記浸液8aについても、同様の温度調節機構が設けられており、
前記ウエハを移動させる際、前記下部容器のみを移動し、前記上部容器を固定する、
液浸型露光装置。」(以下「引用発明1」という。)

また、引用例2の上記記載事項サ?テから、引用例2には次の発明が記載されていると認めることができる。

「対物レンズ先端と被観察試料との間に、少なくとも液体の媒体を介在させる液浸対物レンズ装置において、対物レンズ先端と被観察試料との間に介在させる媒体を、前記被観察試料側から、油膜2-1、透明板ガラス、油膜2-2とし、
前記被観察試料表面の光軸上の観察点から前記対物レンズに向う光の光軸となす最大角度を大きくして前記対物レンズの開口数NAをすることにより、前記対物レンズの分解能を向上させるために、前記油膜2-1の屈折率を相対的に大きく、例えば、n_(A)=1.6とし、前記透明板ガラスの屈折率を小さく、例えば、n=1.45とし、
前記油膜2-1及び前記油膜2-2の屈折率は異なる値とすることも、同じ値とすることもでき、
前記透明板ガラスを前記対物レンズ側に拘束するために、前記透明板ガラスをリングに固定し、前記リングを前記対物レンズ先端部の外周面に、上下方向に特定範囲を摺動可能に装備した、
液浸対物レンズ装置。」(以下「引用発明2」という。)

4 本件発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(1)引用発明1の「投影光学系」「を有」する「液浸型露光装置」は、本件発明の「リソグラフィック投影装置」に相当する。

(2)本件発明の「投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システム」について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、「この装置は、投影放射ビームPB(たとえば、248nm、193nm若しくは157nmの波長で動作するエキシマ・レーザによって、或いは13.6nmの波長で動作するレーザ放出プラズマ源によって生成されるUV放射若しくはEUV放射など)を供給するべく構築され、かつ、配列された放射システムEx、ILを備えている。この実施例では、放射システムは、放射源LAをさらに備えている。」(段落【0020】)、「放射源LA(たとえばUVエキシマ・レーザ、ストレイジ・リング若しくはシンクロトロン中の電子ビームの経路の周りに提供されたアンジュレータすなわちウィグラ、レーザ生成プラズマ源、放電源、電子ビーム源或いはイオン・ビーム源)は、放射ビームPBを生成している。この放射ビームPBは、照明システム(イルミネータ)ILに直接供給されるか、或いは、たとえばビーム拡大器Exなどの調整器を介して供給される。イルミネータILは、ビーム内の強度分布のアウター及び/又はインナーラジアル・エクステント(一般に、それぞれσ-アウター及びσ-インナーと呼ばれている)を設定するための調整デバイスAMを備えることができる。また、イルミネータILは、通常、インテグレータIN及びコンデンサCOなど、他の様々なコンポーネントを備えている。この方法により、マスクMAに衝突するビームPBの断面に、所望する一様な強度分布を持たせることができる。」(段落【0021】)と記載されている。
したがって、引用発明1の「波長λのパルス光を放射する光源、前記光源からのパルス光の断面形状を整形するビームエクスパンダ、前記整形されたパルス光を入射して2次光源像(複数の点光源の集まり)を生成するフライ・アイレンズ等のオプチカルインテグレータ、前記2次光源像からの前記パルス光を均一な照度分布のパルス照明光にする集光レンズ系、前記パルス照明光の形状を走査露光時の走査方向(Y方向)と直交した方向(X方向)に長い矩形状に整形するレチクルブラインド(照明視野絞り)、及び前記レチクルブラインドの矩形状の開口からの前記パルス光をコンデンサーレンズ系、ミラーと協働してレチクル上にスリット状又は矩形状の照明領域として結像するためのリレー光学系とを含む照明系」は、本件発明の「投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システム」に相当する。

(3)本件発明の「所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造」について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、「マスクMA(たとえばレチクル)を保持するべく構築され、かつ、配列されたマスク・ホルダ」(段落【0020】)と記載されているから、引用発明1の「レチクルを吸着するレチクルステージ」は、本件発明の「所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造」に相当する。

(4)引用発明1の「ウエハ」、「ウエハを載置するウエハホルダー」は、それぞれ、本件発明の「基板」、「基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブル」に相当する。

(5)引用発明1の「レチクル上に描画されたパターンをウエハ上に焼付転写する投影光学系」は、本件発明の「パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システム」に相当する。

(6)ア 引用発明1の「上部容器の底面」は「露光光」を透過するものであるから、引用発明1の「上部容器の底面」は前記「露光光」に対して透明であると認めることができる。また、引用発明1の「上部容器の底面」がなんらかの値の屈折率を有することは明らかである。
さらに、引用発明1では、「ウエハを載置するウエハホルダー」「は下部容器の内面底部に形成されており、前記下部容器の上面は上部容器の底面によって密閉されており、前記下部容器の全容積は浸液7aによって完全に満たされており、前記上部容器にも浸液8aが満たされており、前記浸液8a内に前記投影光学系の最終レンズ面が浸されて」いるから、引用発明1の「上部容器の底面」は「投影光学系の最終レンズ」と「ウエハ」との間に配置されていると認めることができる。
したがって、引用発明1の「投影光学系の最終レンズ」と「ウエハ」との間に配置された「上部容器の底面」は、本件発明の「前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板」に相当する。

イ 引用発明1の「浸液7a」がなんらかの値の屈折率を有することは明らかであるから、引用発明1の「上部容器の底面によって密閉され」る「下部容器の全容積」を「完全に満た」す「浸液7a」は、本件発明の「前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の流体」に相当する。

ウ 引用発明1の「浸液8a」がなんらかの値の屈折率を有することは明らかであるから、引用発明1の「上部容器」を「満た」すとともに、「前記投影光学系の最終レンズ面が浸されて」いる「浸液8a」は、本件発明の「前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の流体」に相当する。

(7)すると、本件発明と引用発明1とは、

「リソグラフィック投影装置であって、
投影放射ビームを提供するべく構築され、かつ、配列された放射システムと、
所望のパターンに従って前記投影ビームをパターン化するべく構築され、かつ、配列されたパターン化デバイスを支持するべく構築され、かつ、配列された支持構造と、
基板を保持するべく構築され、かつ、配列された基板テーブルと、
パターン化されたビームを前記基板の目標部分に投射するべく構築され、かつ、配列された投影システムと、
前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板と、
前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の流体と、
前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の流体とを備えた、リソグラフィック投影装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
本件発明の「前記第1の屈折率は、前記第2の屈折率より大きく、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間である」のに対し、引用発明1の「浸液7a」の屈折率、「上部容器の底面」の屈折率、「浸液8a」の屈折率についてそのような限定がない点。

5 相違点についての判断
本件発明の「流体」について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には、「流体という用語は、液体、気体及び/又はゲルを意味している。」と記載されているから、本件発明の「第1の流体」及び「第2の流体」は、液体または気体を含むと認めることができる。すると、引用発明2の「対物レンズ先端と被観察試料との間に介在させる」「透明板ガラス」、「被観察試料」と「透明板ガラス」の間に介在させる「油膜2-1」、「対物レンズ」と「透明板ガラス」の間に介在させる「油膜2-2」は、本件発明の「前記投影システムの光学エレメントと前記基板との間に配置された、第3の屈折率を有する透明板」、「前記基板と前記透明板との間の第1の空間を充填する、第1の屈折率を有する第1の流体」、「前記透明板と前記光学エレメントとの間の第2の空間を充填する、第2の屈折率を有する第2の流体」にそれぞれ相当し、引用発明2の「油膜2-1の屈折率を相対的に大きく、例えば、n_(A)=1.6とし、前記透明板ガラスの屈折率を小さく、例えば、n=1.45と」することは、本件発明の「前記第3の屈折率」は「前記第1の屈折率」よりも小さいことに相当する。
そして、引用発明1は「液浸型露光装置」に関する発明であるのに対し、引用発明2の「液浸対物レンズ装置」は「顕微鏡観察」のための装置に用いられるものであって、引用発明2には「液浸対物レンズ装置」を「露光装置」に用いるという限定はないが、本件出願の優先日当時の技術常識に照らすと、引用発明1と引用発明2とは、解像度を向上させる原理は実質的に同じであるとともに(引用発明1の「液浸型露光装置」において解像度を向上させる原理について、例えば、特開2000-58436号公報(段落【0010】?【0011】等を参照。また、引用発明2の「液浸対物レンズ装置」において解像度を向上させる原理について、引用例2の上記記載事項シを参照。)、露光装置の解像度を向上させるために、液浸法によって顕微鏡の解像度を向上させる技術を露光装置に適用することも、本件出願の優先日当時に周知の技術的事項であるから(一例として、特開平6-124873号公報(段落【0010】?【0012】)を参照。)、引用発明1の「液浸型露光装置」において、解像度を向上させるために引用発明2を適用して、引用発明1の「上部容器の底面」の屈折率を「浸液7a」の屈折率よりも小さくすることは、当業者にとって容易に想到し得る。
また、本件出願の優先日当時の技術常識に照らすと、引用発明2において「前記油膜2-1の屈折率を相対的に大きく」するとともに「前記透明板ガラスの屈折率を相対的に小さく」することにより「前記被観察試料表面の光軸上の観察点から前記対物レンズに向う光の光軸となす最大角度を大きく」なるのは、屈折率が異なる2つの媒体の界面における光の屈折の態様を規定するスネルの法則に基づくものであることは当業者にとって明らかである。そして、引用発明2では「対物レンズ」と「被観察試料」との間には、「油膜2-1」、「透明板ガラス」のみならず「油膜2-2」も介在する。さらに、引用発明2には「前記油膜2-1及び前記油膜2-2の屈折率は異なる値とすること」が示唆されているとともに、引用例2の上記記載事項ツには、「油膜2-2」のみを空気層とすること、すなわち、「油膜2-2」の屈折率を「油膜2-1」の屈折率及び「透明板ガラス」の屈折率よりも小さくすることが示唆されている。すると、スネルの法則及び引用発明2を考慮すれば、「透明板ガラス」の屈折率を「油膜2-1」の屈折率よりも小さくすることに加えて、「油膜2-2」の屈折率を「透明板ガラス」の屈折率よりも小さくすると、「前記被観察試料表面の光軸上の観察点から前記対物レンズに向う光の光軸となす最大角度を大きく」することができることは、当業者にとって明らかである。したがって、かかる技術的思想を引用発明1に適用して、引用発明1の「浸液8a」の屈折率を引用発明1の「上部容器の底面」の屈折率よりも小さくすることも、当業者にとって容易に想到し得る。
以上から、引用発明1に上記相違点に係る本件発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。

6 本件発明の進歩性の判断
以上検討したとおり、引用発明1に上記相違点に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本件発明の効果について検討すると、本件発明の効果のうち段落【0035】等に記載された解像度を高くするという効果は、引用例2に記載された効果であり(引用例2の上記記載事項シ,チを参照。)、本件発明の効果のうち段落【0035】等に記載された投影ビームの基板での反射が減少するという効果は、基板(ウエハ)に接する層を空気等の気体層に代えて浸液とする液浸露光法において、基板(ウエハ)に接する層の屈折率が前記基板(ウエハ)の屈折率に近づくことによって生ずる効果に過ぎないから(一例として、特開平11-176727号公報(段落【0007】?【0008】)を参照。)、本件発明の効果は、いずれも、引用例1,2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本件発明は引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおり、本件発明は引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-16 
結審通知日 2009-12-17 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願2004-247771(P2004-247771)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡戸 正義  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 日夏 貴史
村田 尚英
発明の名称 リソグラフィック装置及びデバイス製造方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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