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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C21B
管理番号 1217154
審判番号 不服2008-2837  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-07 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2003-100337「遠距離輸送の処理済製鉄原料を用いる生産弾力性に優れた銑鉄製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-307896〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年4月3日の出願であって、当審において、平成21年11月11日付けで拒絶理由を通知し、平成22年1月18日付けで手続補正がされたものであって、その発明は、上記の手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「予備処理した製鉄原料を用いる銑鉄製造方法において、
(1)鉄鉱石の産地であって、かつ天然ガスを使用できる複数の異なる海外の遠隔産地で、
(1-a)遠隔産地産出の低品位鉄鉱石原料と副原料を混合・粒状化し、
(1-b)粒状化した原料を、遠隔産地の天然ガスを用いて部分還元処理して部分還元ペレットを製造するとともに、
(1-c)遠隔産地産出の粉鉱または粉化し易い鉄鉱石原料を粉状化し、
(1-d)粉状化した鉄鉱石原料を、遠隔産地の天然ガスを用いて還元処理して還元鉄粉を製造し、
(2)前記複数の異なる海外の遠隔産地で製造された部分還元ペレット及び還元鉄粉を、それぞれ溶鉱炉の操業計画に合わせて該溶鉱炉所在の製鉄地に専用船舶で遠距離輸送し、
(3)製鉄地で、前記部分還元ペレット及び還元鉄粉を、製鉄地で焼結または焼成処理して製造した焼結鉱及び焼成ペレットと併用するとともに、前記部分還元ペレットを還元材とともに溶鉱炉の頂部から装入し、かつ、前記還元鉄粉を、単独で、又は、燃料及び/又は粉状炭材とともに溶鉱炉の羽口から吹き込む、ことを特徴とする遠距離輸送の処理済製鉄原料を用いる銑鉄製造方法。」(以下、これを「本願発明」という。)

第2 当審拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由の概要は、この出願の発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用刊行物>
刊行物1:特開平10-176209号公報
刊行物2:特開平11-140521号公報
刊行物3:特開平7-268414号公報

第3 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
[1a]「【請求項1】高炉羽口部から微粉炭を吹込むとともに、高アルミナ含有鉄鉱石を多量に配合した鉄原料を高炉に装入する方法において、焼結原料中に配合する高アルミナ含有鉄鉱石の量を調節して、アルミナ含有量が1.70wt%未満の焼結鋼とするとともに、残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元して還元率50%以上95%未満の還元鉱石として、該焼結鉱及び還元鉱石を高炉に装入することを特徴とする、高炉における高アルミナ鉄鉱石の使用方法。
【請求項2】高アルミナ含有鉄鉱石を還元して還元率50%以上95%未満の還元鉱石とした後、紛状の還元鉱石は成型して塊成鉱とし、高炉に装入することを特徴とする、請求項1記載の高炉における高アルミナ鉄鉱石の使用方法。
【請求項3】高アルミナ含有鉄鉱石を還元して還元率50%以上95%未満の還元鉱石とした後、紛状の還元鉱石は高炉羽口部から吹き込むことを特徴とする、高炉における高アルミナ鉄鉱石の使用方法。」

[1b]「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炉頂から装入される鉄鉱石の大部分を占める焼結鉱中のアルミナ含有量が高いときに、焼結鉱の被還元性を確保することにより、燃料比を低減させ、生産性を向上させた高炉操業方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高炉操業にあっては、コークス代替として、安価で燃焼性がよく発熱量の高い燃料(微粉炭、石油、重油、ナフサ等)を羽口部より吹き込み、溶銑製造コスト低減、生産性向上を図ってきており…、」

[1c]「【0013】
【発明の実施の形態】本発明における高アルミナ含有鉄鉱石とは、鉄鉱石中アルミナ含有量が2.0wt%を超える、主として豪州産の鉄鉱石を対象とする。前述したように、これらの高アルミナ含有鉄鉱石は価格が安いため、多量に使用することにより溶銑製造コストを低減させることができる。」

[1d]「【0016】一方、焼結鉱製造用原料に配合せずに残った高アルミナ含有鉄鉱石は還元して還元鉱石とすることにより、すでに金属鉄を生成させているため、アルミナ含有量が高いことにより融液生成量が増大しても、金属鉄が収縮を抑制するため、還元鉄中の残留FeOの還元は円滑に進行し還元遅れを生じない。高アルミナ含有鉄鉱石を還元することにより、さらに高炉の燃料比を低減でき、生産量は被還元性が良好な焼結鉱を使用する効果に加えてさらに向上させることができる。還元鉱石の還元率を50%以上で95%未満と数値限定した理由は、50%未満だと高炉に使用したときに、燃料比低減、生産量向上がほとんど望めないことによる。また95%以上だと、高炉に使用したときの燃料比低減、生産性向上は大きいが、還元鉱石製造コストが高くなりすぎて、経済的でないことによる。
【0017】還元鉱石の製造方法としては、高アルミナ含有塊鉱石、ペレットを原料としてシャフト炉を用いて塊状の還元鉱石を製造する方法、または高アルミナ含有粉鉱石を原料として流動層を用いて5mm未満の平均粒径の紛状の還元鉱石を製造し、ブリケット製造機により塊状に成型する方法がある。そして、これら塊状の還元鉱石を高炉の炉頂から装入する。前記還元鉱石を炉頂から装入する場合、焼結鉱を主体とした鉄鉱石とあらかじめ混合するか、あるいは鉄鉱石とは別々に装入してよく、いずれの装入方法を採用しても、本発明における効果を享受できる。また還元鉱石の製造方法として、高アルミナ含有粉鉱石を原料として流動層を用いて紛状の還元鉱石を製造し、紛状の還元鉱石とする方法もある。この紛状の還元鉱石は高炉の羽口部から吹き込む。この場合、塊状の還元鉱石を高炉の炉頂から装入する場合と、燃料比低減、生産性向上効果はほぼ同じである。紛状の還元鉱石を羽口部から吹き込む場合、微粉炭とあらかじめ混合するか、あるいは微粉炭とは別々に吹き込んでよく、いずれの吹き込み方法を採用しても、本発明における効果を享受できる。
【0018】さらに製造した塊状あるいは紛状の還元鉱石を炭化処理して、表面の金属鉄の部分を炭化鉄とすることは、船で輸送中に表面の金属鉄の部分が酸化発熱することを防止するためである。酸化鉄とする方法としては、シャフト炉あるいは流動層で生成した還元鉱石の表面に炭素を含有するガス(メタン、一酸化炭素等)を吹き付ける方法を採用できる。ただし、製造した還元鉱石を現地で使用する場合や、窒素等の不活性ガス雰囲気を装備した船で輸送する場合は、炭化鉄とする必要はない。表面を炭化鉄とした場合の高炉使用効果は、炭化鉄としない還元鉱石を使用する効果とほぼ同じである。」

(2)刊行物2
[2a]「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、「DRI」法とも呼ばれる、鉄の直接還元のためのプロセスにおいて、供給原料として部分酸化ガス化法の間に製造される、合成ガス(syngas)の利用に、一般的に関する。」

[2b]「【0003】塊/ペレットによる主要な技術は「Midrex」および「HYL III 」として知られ、微粉末による技術は、「Fior」法として知られる。すべての方法が、DRI反応の還元ガス供給原料として、改質された天然ガスを用いる。HYL III およびFior法は、天然ガスの通常の水蒸気改質を用いて、水素と一酸化炭素を含む合成ガスを製造している。二酸化炭素のような不純物は、スクラバーによって除去される。Midrex法は、専用の改質装置で、水蒸気と二酸化炭素の組合せによる天然ガスの改質を用いている。
【0004】還元ガスを製造するこれらの方法では、DRIプラントのために最も有利な地点は、極端な輸送コストを未然に防ぐことから、安価な天然ガスと、高品位の鉄鉱石がすぐ近くに位置している場所である。」

(3)刊行物3
[3a]「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、製鉄所における原料工場を円滑に操業する計画を作成する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】原料工場は、高炉の生産に必要な各種原料を備蓄、加工、搬送する事を目的とし、従来の操業は、入荷した鉄鉱石などの生原料を、一旦原料ヤードと呼ばれる空き地に備蓄した後、鉱石工場(原料工場の一部)へ送り、鉱石工場では、様々な銘柄の原料を、比較的粒の大きい”塊”と粒の小さい”粉”に篩い分け、”塊”は高炉へ送り、”粉”は均鉱ヤード(原料工場の一部)へ送り、均鉱ヤードでは、鉱石工場で発生する各種”粉”と、原料ヤードに存在する”購入粉”と呼ばれる元々粒のちいさい原料とを、層状に積み上げ”均鉱”と呼ばれる山を生成した後、その”均鉱”山を切り出して焼結工場(原料工場の一部)へ送り、(注 ”均鉱”ヤードは通常2面存在し、1つの”均鉱”山を積み付けている間に、既に積み付け終わった”均鉱”山を使用する。)焼結工場では、”均鉱”を”塊”と同程度の大きさの粒に焼き固めた”焼結鉱”を生成し、高炉へ送る。という4つの工程からなっており、鉱石工場で発生する”塊”と”粉”は直接高炉と均鉱ヤードに搬送しており、均鉱ヤードで発生する均鉱は直接、焼結工場へ搬送しており、焼結工場で発生した”焼結鉱”は直接高炉へ搬送していた。従って、従来の原料工場の操業計画の作成方法としては、高炉の生産計画に合わせて、日毎に使用する”塊”および”焼結鉱”を当日生成するように鉱石工場および焼結工場の生産計画を作成し、焼結工場の生産計画に合わせて、既に積み付け終わった”均鉱”山を使用する期間を決定し、その間に新しい”均鉱”山を積み付けるということを繰り返す計画を作成していた。」

[3b]「【0004】
【発明が解決しようとする課題】鉱石工場や焼結工場は高炉の生産計画に合わせて可動しなければならなず、その保守・点検は高炉の保守・点検にあわせておこなわなければならなかった。そのため、鉱石工場や焼結工場の計画は弾力性に乏しかった。…
【0005】本発明では、鉱石工場や焼結工場が、突発休止をした場合も高炉の生産計画に影響を与えず、また、高炉の生産計画に関わらず自由に保守・点検を行え、また、生産量も調節可能な操業計画を作成する事、”均鉱”山の積み付けにおいて、要求成分により近い”均鉱”山を生成する操業計画を作成することを目標とする。」

2 刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の[1a]には、「高炉における高アルミナ鉄鉱石の使用方法」について、「焼結原料中に配合する高アルミナ含有鉄鉱石の量を調節して、アルミナ含有量が1.70wt%未満の焼結鉱とする」(注:原文の「焼結鋼」は、「焼結鉱」の誤記と認めた。)とともに、「残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元して還元率50%以上95%未満の還元鉱石として、該焼結鉱及び還元鉱石を高炉に装入する」ことが記載されており、[1b]には、高炉操業により、「溶銑製造」がされることが記載されているから、刊行物1には、「高アルミナ含有鉄鉱石を原料中に配合し、アルミナ含有量1.70wt%未満となるように焼結した焼結鉱、及び残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元率50%以上95%未満に還元した還元鉱石を高炉に装入する溶銑製造方法」であって、「高炉で、前記の還元鉱石を、前記の焼結鉱と併用する溶銑製造方法」が記載されているといえる。

イ そして、[1c]の記載によると、この高アルミナ含有鉄鉱石は、主として「豪州産」であり、[1d]の記載によると、この還元鉱石は、「高アルミナ含有塊鉱石、ペレットを原料として…塊状の還元鉱石を製造する方法」、「粉状の還元鉱石を製造し、粉状の還元鉱石とする方法」(注:原文の「紛状」は「粉状」の誤記と認めた。)により製造され、「船で輸送」され、塊状のものは「高炉の炉頂から装入」され、粉状のものは「微粉炭とあらかじめ混合するか、あるいは微粉炭とは別々に」、「羽口部から吹き込む」使用に供されるといえる。

ウ 以上によると、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる。
「高アルミナ含有鉄鉱石を原料中に配合し、アルミナ含有量1.70wt%未満となるように焼結した焼結鉱、及び残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元率50%以上95%未満に還元した還元鉱石を高炉に装入する溶銑製造方法において、
豪州産出の高アルミナ含有鉄鉱石のペレットを原料として塊状の還元鉱石を製造するとともに、
豪州産出の高アルミナ含有鉄鉱石を粉状化して粉状の還元鉱石を製造し、
前記の塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石を船で輸送し、
高炉で、前記の塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石を、前記の焼結鉱と併用するとともに、前記塊状の還元鉱石を高炉の炉頂から装入し、かつ、前記粉状の還元鉱石を、微粉炭とあらかじめ混合するか、あるいは微粉炭とは別々に高炉の羽口部から吹き込む
溶銑製造方法」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願発明(前者)と、引用発明(後者)とを、以下に対比する。

ア 後者の「高アルミナ含有鉄鉱石を原料中に配合し、アルミナ含有量1.70wt%未満となるように焼結した焼結鉱、及び残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元率50%以上95%未満に還元した還元鉱石を高炉に装入する溶銑製造方法」は、焼結処理した製鉄原料及び部分還元処理した製鉄原料を用いて高炉で銑鉄を製造する方法であるから、前者の「予備処理した製鉄原料を用いる銑鉄製造方法」に相当する。

イ 後者の「豪州産出の高アルミナ含有鉄鉱石のペレットを原料として塊状の還元鉱石を製造するとともに、豪州産出の高アルミナ含有鉄鉱石を粉状化して粉状の還元鉱石を製造し」は、高アルミナ含有鉄鉱石とは低品位の鉄鉱石原料であり、ペレット化のためには、鉄鉱石原料と結着剤(副原料)との混合・粒状化が必要であり、粉状化のためには、粉鉱又は粉状化しやすい鉄鉱石を用いることが明らかであるから、前者の「遠隔産地産出の低品位鉄鉱石原料と副原料を混合・粒状化し、粒状化した原料を、…部分還元処理して部分還元ペレットを製造するとともに、遠隔産地産出の粉鉱または粉化し易い鉄鉱石原料を粉状化し、粉状化した鉄鉱石原料を、…還元処理して還元鉄粉を製造し」に相当する。

ウ 後者の「前記の塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石を船で輸送し」は、遠隔の還元処理地から高炉(溶鉱炉)の存在する製鉄地への輸送であることが明らかであるから、前者の「遠隔…地で製造された部分還元ペレット及び還元鉄粉を、…溶鉱炉所在の製鉄地に…船舶で遠距離輸送し」に相当する。

エ 後者の「高炉で、前記の塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石を、前記焼結鉱と併用するとともに、前記塊状の還元鉱石を高炉の炉頂から装入し、かつ、前記粉状の還元鉱石を、微粉炭とあらかじめ混合するか、あるいは微粉炭とは別々に高炉の羽口部から吹き込む溶銑製造方法」については、「高炉」が製鉄地に存在し、「焼結鉱」には、焼結または焼成処理して製造した焼結鉱及び焼成ペレットが含まれ、銑鉄製造には還元材が必須であることが明らかであり、「前記の塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石」は、還元処理地から高炉の存在する遠隔地に船で輸送される処理済製鉄原料といえるから、前者の「製鉄地で、前記部分還元ペレット及び還元鉄粉を、…焼結または焼成処理して製造した焼結鉱及び焼成ペレットと併用するとともに、前記部分還元ペレットを還元材とともに溶鉱炉の頂部から装入し、かつ、前記還元鉄粉を、単独で、又は、燃料及び/又は粉状炭材とともに溶鉱炉の羽口から吹き込む…遠距離輸送の処理済製鉄原料を用いる銑鉄製造方法」に相当する。

オ 以上によると、両者は以下の点で一致する。
「予備処理した製鉄原料を用いる銑鉄製造方法において、
(1-a)’遠隔産地産出の低品位鉄鉱石原料と副原料を混合・粒状化し、
(1-b)’粒状化した原料を、部分還元処理して部分還元ペレットを製造するとともに、
(1-c)’遠隔産地産出の粉鉱または粉化し易い鉄鉱石原料を粉状化し、
(1-d)’粉状化した鉄鉱石原料を、還元処理して還元鉄粉を製造し、
(2)’前記遠隔地で製造された部分還元ペレット及び還元鉄粉を、溶鉱炉所在の製鉄地に船舶で遠距離輸送し、
(3)’製鉄地で、前記部分還元ペレット及び還元鉄粉を、焼結または焼成処理して製造した焼結鉱及び焼成ペレットと併用するとともに、前記部分還元ペレットを還元材とともに溶鉱炉の頂部から装入し、かつ、前記還元鉄粉を、単独で、又は、燃料及び/又は粉状炭材とともに溶鉱炉の羽口から吹き込む、遠距離輸送の処理済製鉄原料を用いる銑鉄製造方法。」

カ そして、両者の相違点は、以下のとおりである。

相違点1:本願発明は、「鉄鉱石の産地であって、かつ天然ガスを使用できる複数の異なる海外の遠隔産地で」、「遠隔産地の天然ガスを用いて」部分還元ペレット及び還元鉄粉を製造しているのに対して、引用発明は、高炉からの遠隔地で、塊状及び粉状の還元鉱石を製造しているが、当該遠隔地が「鉄鉱石の産地であって、かつ天然ガスを使用できる複数の異なる海外の遠隔産地」であるのか、また、「遠隔産地の天然ガスを用いて」塊状及び粉状の還元鉱石を製造しているのか、不明である点

相違点2:本願発明は、複数の異なる海外の遠隔産地で製造された部分還元ペレット及び還元鉄粉を、「それぞれ溶鉱炉の操業計画に合わせて」、該溶鉱炉所在の製鉄地に「専用」船舶で遠距離輸送しているのに対して、引用発明は、塊状の還元鉱石及び粉状の還元鉱石をそれぞれ溶鉱炉の操業計画と合わせて輸送しているのか、また、輸送する船舶が専用なのか、不明である点

相違点3:本願発明は、焼結鉱及び焼結ペレットが「製鉄地で」製造したものであるのに対して、引用発明は、焼結鉱の製造地が不明である点

4 相違点についての判断
(1)相違点1について
刊行物2の【0001】、【0003】、【0004】の記載によると、ペレット状又は微粉末状の鉄鉱石の還元処理を、天然ガスと鉄鉱石が産出する場所で行うことが有利であることは、公知の事項であると認められる。
そうすると、引用発明における還元鉄原料である鉄鉱石は、豪州産であり、豪州が天然ガスの産出国であることも、周知の事項であるから、この鉄鉱石を原産地であり、天然ガスを産出する豪州で天然ガスを用いて還元処理することにより部分還元ペレットとすることは、刊行物2の記載事項及び周知の事項に基いて当業者が容易になし得ることである。
また、鉄鉱石と天然ガスとを産出する海外の地域は、豪州に限らず、例えばブラジル、ロシア等複数存在するから、複数の異なる海外の遠隔地で同様の処理を行うことも、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
刊行物3の[3a]に記載されるように、高炉のある製鉄地の原料工場において、高炉の操業計画に合わせて、高炉の生産に必要な原料(以下「製鉄原料」という。)の加工、搬送を制御することは、従来より行われてきた周知の事項である。
これに対して、引用発明では、製鉄原料である還元鉱石を遠隔地で還元処理し、船により製鉄地に輸送しており、これは、従来、製鉄地の原料工場で行う加工、搬送を遠隔地で行うことに相当することが明らかであるから、引用発明における加工、搬送の制御も、それぞれ製鉄地の高炉の操業計画に合わせるように制御することは、上記の周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、複数の海外の遠隔産地から高炉のある製鉄地に製鉄原料が輸入されることも、周知の事項であるから、複数の海外の遠隔産地で引用発明と同様の処理を行って還元鉱石を製造し、それらの還元鉱石をそれぞれ製鉄地の高炉の操業計画に合わせて、専用船舶で輸送するようにすることも、高炉原料に係る諸々のコストと効率とを勘案して、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

(3)相違点3について
引用発明における焼結鉱は、「高アルミナ含有鉄鉱石を原料中に配合し、アルミナ含有量1.70wt%未満となるように焼結した焼結鉱」であり、残りの高アルミナ含有鉄鉱石を還元鉱石の原料とすることから、この焼結鉱は、還元鉱石の製造地(還元処理地)と同地で製造されると認められる。
しかし、高炉が存在する製鉄地には、通常、原料工場として焼結工場が付設されていることは、刊行物3[3a]に記載される周知の事項であって、引用発明における焼結鉱を使用する場所は、船で輸送される先の高炉が存在する製鉄地であるから、高アルミナ含有鉄鉱石を還元処理地で焼結して焼結鉱としてから製鉄地に輸送するか、あるいは、そのまま製鉄地に輸送し、製鉄地の焼結工場で他の原料中に配合して製造するかは、高炉の操業計画や原料工場の処理能力、他の原料の調達状況等に合わせて、当業者が適宜なし得る設計事項の範疇にすぎないといえる。

(4)請求人の主張に対して
なお、請求人は、平成22年1月18日付けの意見書「4.3)」において、刊行物1?3のいずれにも、製鉄地における予備処理限界を打破し、溶鉱炉の生産弾力性を高めるという課題、及び、当該課題を解決する手段として、製鉄地で予備処理された製鉄原料(焼結鉱)と複数の異なる海外の遠隔産地で製造された製鉄材料(還元鉱石)とを銑鉄製造に用いることが示されていないから、本願発明は進歩性を有する旨を主張している。
しかしながら、製鉄地における予備処理限界によらずに、溶鉱炉の生産弾力性を高めようとすることは、刊行物3[3b]に記載される周知の課題であり、その解決手段として、国内のある製鉄所Aで予備処理した製鉄原料を、船で他の製鉄所Bに輸送し、製鉄所Bで当該製鉄原料を溶鉱炉に装入する分業体制とすることは、請求人が上記意見書「4.2)」で自認するように通常行われることである。
そして、上記の周知の課題の解決手段として、複数の異なる海外の遠隔産地(「製鉄所A」に相当)で部分還元の予備処理をした製鉄材料を、焼結工場と高炉を有する製鉄地(「製鉄所B」に相当)に輸送し、高炉に装入する焼結鉱を製鉄地の焼結工場で製造し、これらを併用して銑鉄を製造するという本願発明が、引用発明、刊行物2,3の記載事項及び周知の事項に基づき、当業者が容易に推考し得るものであることは、上記「(1)?(3)」に示すとおりである。
したがって、上記の請求人の主張は、当を得たものでない。

5 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2,3の記載事項及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
当審拒絶理由は妥当なものと認められる。
したがって、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-16 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願2003-100337(P2003-100337)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一伊藤 真明近野 光知  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 長者 義久
大橋 賢一
発明の名称 遠距離輸送の処理済製鉄原料を用いる生産弾力性に優れた銑鉄製造方法  
代理人 亀松 宏  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 朝幸  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  

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