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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1217347
審判番号 不服2009-24880  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-15 
確定日 2010-05-24 
事件の表示 特願2009-510225「カルボニル化合物の製造方法およびカルボニル化合物の製造に用いる酸化促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年3月5日国際公開、WO2009/028676〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2008年8月29日(優先権主張2007年8月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、特許法第30条第1項に規定する新規性喪失の例外適用(発表日:平成20年3月12日)の申請を伴うものであり、平成21年3月18日付けで手続補正書が提出され、同年6月24日付けで拒絶理由が通知され、同年8月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月2日付けで拒絶査定がされたところ、同年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?10に係る発明は、平成21年3月18日付け及び同年8月28日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「下記一般式(I)
【化1】

[式(I)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、R^(1)とR^(2)が隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2-ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩からなる触媒と、酸化剤との存在下、アルコールを酢酸エステル溶媒、シアノアルカン溶媒およびニトロアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で酸化する工程を有することを特徴とする、カルボニル化合物の製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。


1.Thottumkara, A. P. et al., Organic Letters,2005年,Vol.7,No.14,p.2933-2936(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)
2.Schultz, A., Giannis, A., Synthesis,2006年,No.2,p.257-260(原査定における引用文献2。以下、「刊行物2」という。)
3.日本化学会第87春季年会(2007)講演予稿集II,2007年3月12日,第876頁(1 C8-05)(原査定における引用文献3。以下、「刊行物3」という。)
4.Koposov, A. Y. et al., European Journal of Organic Chemistry,2006年,No.21,p.4791-5(原査定における引用文献4。以下、「刊行物4」という。)

第4 各刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている(括弧内は当審による仮訳)。

(1a)「Catalytic use of o-iodoxybenzoic acid(IBX) in the presence of Oxone as a co-oxidant is demonstrated for the oxidation of primary and secondary alcohols in user- and eco-friendly solvent mixtures. Also demonstrated is the in situ (re)oxidation of 2-iodosobenzoic acid(IBA) and even commercially available 2-iodobenzoic acid(2IBAcid) by Oxone to IBX allowing one to use these less hazardous reagents, in place of potentially explosive IBX, as catalytic oxidants.
(使いやすく生態系への悪影響が少ない溶媒混合液における第1級および第2級アルコールの酸化のための、o-ヨードオキシ安息香酸(IBX)の、共酸化剤としてのOxoneの存在下における、触媒的使用を実証する。また、Oxoneによる2-ヨードソ安息香酸(IBA)およびさらに市販の2-ヨード安息香酸(2IBAcid)のIBXへのin situ (再)酸化も実証し、潜在的爆発性を持つIBXの代わりに触媒酸化剤としてこれらの危険度の低い試薬を使用することを可能にする。)」(2933頁抄録)
(1b)「Our planned strategy is the in situ reoxidation of the reduced form of IBX, namely, iodosobenzoic acid(IBA), back to the active I(V) state using Oxone. We were also aware of the fact that should our strategy be successful then we could potentially use the nonexplosive IBA as a precursor to catalytic IBX. Better yet, we could use commercially available 2-iodobenzoic acid(2IBAcid), the ultimate precursor for IBX and IBA, as our catalytic reagent.
(われわれの計画した戦略は、Oxoneを使用して活性I(V)状態へ戻すことであり、IBXの還元型すなわちヨードソ安息香酸(IBA)からのin situ 再酸化である。我々の戦略が成功した場合、触媒IBXの前駆体として非爆発性のIBAを使用できる可能性があることにも気づいた。さらに良いことには、我々は、IBXおよびIBAの最終的前駆体、市販の2-ヨード安息香酸(2IBAcid)を触媒試薬として使用できるかもしれないと考えた。)」(2934頁左欄20?28行)
(1c)「

」(2934頁左欄の図)
(1d)「Table 2 lists a variety of alcohols, both primary and secondary, oxidized by the catalytic use of in situ generated IBX in the presence of Oxone. ・・・The use of 2IBAcid in catalytic amounts and the use of aqueous mixtures of organic solvents as the reaction medium are both desirable goals of eco-friendly approaches to carrying out chemical transformations. ・・・Oxidation of both primary and secondary alcohols occurs in good to excellent yields. While primary alcohols are cleanly oxidized to the corresponding carboxylic acids, oxidations of secondary alcohols to ketones are not complicated by the undesired accompaniment of Bayer-Villiger oxidation of ketones due to the presence of Oxone in the reaction.
(Oxoneの存在下にin situ で生成したIBXの触媒使用により酸化された種々のアルコール(第1級と第2級アルコールの両方)を表2に示す。・・・触媒量の2IBAcidの使用および有機溶媒の水性混合物の反応媒体としての使用は、両方とも化学変換を行う環境に優しい方法の望ましい目標である。・・・第1級アルコールと第2級アルコール両方の酸化は、良好ないし優秀な収率で行われる。第1級アルコールは、対応するカルボン酸に完全に酸化し、また、第2級アルコールのケトンへの酸化は、反応中のOxoneの存在のためにケトンのBayer-Villiger酸化の望ましくない副生成物によって複雑化されることはない。」(2935頁左欄16?31行)

2 刊行物2に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている(括弧内は当審による仮訳)。

(2a)「Abstract: Herein we present a catalytic IBX-based method for the oxidation of alcohols. Using this system a variety of benzylic alcohols were transformed to aldehydes in good yields whereas secondary alcohols were easily converted to ketones. Primary aliphatic alcohols were oxidized to the corresponding carboxylic acids. 2-Iodobenzoic acid can also be used instead of IBX.
(要約:ここで我々は、アルコールの酸化のための触媒IBXに基づく方法を提示する。このシステムを使用すると、種々のベンジルアルコールが良好な収率でアルデヒドに変形される一方、第2級アルコールは容易にケトンに変換された。第1級脂肪族アルコールは、対応するカルボン酸に酸化された。2-ヨード安息香酸もIBXの代わりに使用できる。)」(257頁抄録)
(2b)「It has been reported that IBX-mediated oxidations can be performed in organic solvents such as ethyl acetate or acetone, thus, we decided to use the following protocol; ethyl acetate-water as the solvent system, catalytic amounts of IBX, Oxone as the primary oxidant and finally n-Bu_(4)NHSO_(4) as the phase-transfer catalyst for the generation of tetra-n-butylammonium oxone.
(IBXが関与する酸化は、酢酸エチルまたはアセトンのような有機溶媒中で行われ得るということが報告されている。そこで、われわれは、以下のプロトコルを使用することに決定した。すなわち、溶媒系として酢酸エチル-水、触媒量のIBX、主要酸化剤としてOxone、最後にテトラ-n-ブチルアンモニウム・オキソンの生成のための相間移動触媒としてn-Bu_(4)NHSO_(4)である。)」(257頁右欄1?7行)
(2c)「We propose the following mechanism for these oxidations(Scheme 1): tetra-n-butylammonium oxone converts 2-iodobenzoic acid to IBX, which oxidises the alcohols to the corresponding aldehydes and ketones, whereas the resulting 2-iodosobenzoic acid is converted back to IBX by tetra-n-butylammonium oxone.
(我々は、これらの酸化のために以下の反応機構を提案する(Scheme 1)。すなわち、テトラ-n-ブチルアンモニウム・オキソンが2-ヨード安息香酸をIBXに変換し、それによりアルコールを対応するアルデヒドおよびケトンに酸化する一方、得られた2-ヨードソ安息香酸をテトラ-n-ブチルアンモニウム・オキソンによりIBXに戻す変換が行われる。)」(257頁右欄29?34行)
(2d)「

」(259頁左上欄Scheme 1 IBXを用いたアルコールの酸化のための触媒サイクル)

3 刊行物3に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「最近、Oxone^(R)(審決注;Rは○で囲まれている。以下同様。)による2-ヨード安息香酸の酸化によってin situ で調製されるIBXを触媒的(10?40mol%)に用いるアルコールの酸化反応が報告された(Scheme 1; R=H, [O]=Oxone^(R))。^(1)」(1?3行)
(3b)「我々は、より環境調和型酸化反応の開発を目指して、IBXの芳香環の置換基が酸化反応に及ぼす影響を調べた。芳香環が置換された様々な2-ヨード安息香酸を合成し、触媒的アルコールの酸化反応を行った。その結果として、5-メチル-2-ヨード安息香酸と2-ヨード安息香酸を触媒(1mol%)に用いて、(-)-メントールをニトロメタン溶媒中70℃で加熱すると、5-メチル-2-ヨード安息香酸の方が活性が高く、7.5時間で定量的に酸化生成物が得られた(Scheme 2とグラフ)。また、従来のCH_(3)CN-H_(2)O^(1a)やEtOAc-H_(2)O^(1b)混合溶媒系では(-)-メントールの酸化は副反応が起こり易く汚かったのに対し、ニトロメタンを溶媒にすることにより酸化反応が効率よくきれいに進行することが分かった。」(4?13行)
(3c)「

」(左下欄Scheme 1、Scheme 2)
(3d)「

」(右下欄グラフ 2-ヨード安息香酸対その5-メチル誘導体(1mol%)((-)-メントールのニトロメタン溶媒中での酸化))(当審による仮訳)
(3e)「文献 1(a) Thottumkara, A.P.; Bowsher M. S.; Vinod, T. K. Org. Lett. 2005, 7, 2933; (b) Schulze, A.; Giannis, A. Synthesis, 2006, 257.」(下から2行?最終行、審決注;文献1(a)は、上記刊行物1、文献(b)は、上記刊行物2に同じ。)

4 刊行物4に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている(括弧内は当審による仮訳)。

(4a)「2-Iodoxybenzenesulfonic acid (in a cyclic tautomeric form of 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 1,3,3-trioxide), a thia-analog of 2-iodoxybenzoic acid(IBX) and a potentially important oxidizing reagent, was prepared by two different pathways: direct oxidation of 2-iodobenzenesulfonic acid and hydrolysis of the methyl ester of 2-iodylbenzenesulfonic acid. The resulting 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 1,3,3-trioxide was found to be thermally unstable and highly reactive towards organic solvents. The structure of its reductive decomposition product, 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide (the cyclic tautomeric form of 2-iodosylbenzenesulfonic acid), was established by single-crystal X-ray diffraction.
(2-ヨードオキシベンゼンスルホン酸(1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 1,3,3-トリオキサイドの環状互変異性体)は、2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)の硫黄類似体であり、潜在的に重要な酸化試薬であるが、2種類の経路により生成された。すなわち、2-ヨードベンゼンスルホン酸の直接酸化および2-ヨージルベンゼンスルホン酸のメチルエステルの加水分解である。得られた1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 1,3,3-トリオキサイドは、熱的に不安定であり、有機溶媒に関して高い反応性を有する。その還元分解生成物、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイド(2-ヨードシルベンゼンスルホン酸の環状互変異性体)の化学構造が単結晶X線構造解析により確認された。)」(4791頁抄録)
(4b)「Introduction
During the past decade, the chemistry of pentavalent iodine oxidizing reagents has attracted significant research interest.・・・In particular, heterocyclic λ^(5)-iodane 1-hydroxy-1H-1λ^(5)-benzo[d][1,2]iodoxol-1,3-dione (1a), known under the name of its tautomeric form of 2-iodoxybenzoic acid (IBX)(1b), has received widespread application in organic synthesis as a highly efficient and mild oxidant that can be used for the selective oxidation of primary and secondary alcohols and for a variety of other important oxidations. However, the explosive character and low solubility of IBX in common organic solvents except DMSO restrict practical application of this reagent.
Several IBX derivatives and analogs have been reported in the literature by different research groups. In particular, investigations from our group have resulted in a series of stable and soluble IBX derivatives: IBX-amides 2, IBX-esters 3, as well as their sulfur-containing analogs 2-iodylsulfonamides 4, and 2-iodylsulfonate ester 5(Figure 1).
(序文
ここ10年間、5価のヨウ素酸化剤試薬の化学が相当な研究的興味を惹きつけてきた。・・・特に、2-ヨードオキシ安息香酸(IBX) (1b)というその互変異性体の名前で知られる複素環λ^(5)-ヨーダン1-ヒドロキシ-1H-1λ^(5)-ベンゾ[d][1,2]ヨードオキソール-1,3-ジオン(1a)は、第1級および第2級アルコールの選択的酸化のためおよびその他の種々の酸化のために利用できる効率の高い穏和な酸化剤として有機合成において広く応用されている。しかし、DMSOを除く一般的有機溶媒におけるIBXの爆発性および難溶解性がこの試薬の実際的応用を制限している。
いくつかのIBX誘導体および類似体が種々の研究グループによる文献において報告されている。 特に、われわれのグループからの研究は、一連の安定かつ溶けやすいIBX誘導体をもたらした。すなわち、IBX-アミド 2、 IB-エステル 3、およびこれらの硫黄を含む類似体2-ヨージルスルフォンアミド 4、および2-ヨージルスルフォン酸塩エステル 5である(図1)。)」(4791頁左欄1行?右欄5行)
(4c)「All of these reagents have demonstrated promising oxidizing abilities toward alcohols and sulfides. It should also be noted that the oxidizing properties of the sulfur-containing analogs of IBX-esters and amides (structures 4 and 5) were noticeably stronger in comparison with those of the original IBX-esters and amides, which is probably due to the greater electron-withdrawing nature of the sulfonyl group.
(これらの試薬は、すべて、アルコールおよびスルフィドに対する有望な酸化能力を実証した。IBX-エステルおよびアミドの硫黄を含む類似体(構造4および5)の酸化特性が元のIBX-エステルおよびアミドのそれらと比較してかなり強いことにも注意するべきである。これは、おそらく、スルホニル基の大きな電子求引性によるものであろう。)」(4791頁右欄6行?4792頁左欄3行)
(4d)「With the importance of the pentavalent iodine reagents taken into consideration, and IBX especially, we have attempted to prepare the analogs of IBX bearing the sulfonyl group in the five-membered ring with a goal to further investigate the influence of the ortho-substituent on the stability and the reactivity of cyclic iodine reagents.
(5価ヨウ素試薬および特にIBXの重要性を考慮して、われわれは、オルト置換基の環状ヨウ素試薬の安定性および反応性に対する影響をさらに詳しく調べるために、5員環中にスルホニル基を持つIBXの類似体の生成を試みた。)」(4792頁左欄4?9行)
(4e)「Results and Discussion
We have developed two different synthetic approaches to compound 8 (Scheme 1). The first approach (method A) involves the hydrolysis of known ester 6; the second procedure (method B) involves the direct oxidation of 2-iodobenzenesulfonic acid (7) by a procedure similar to that used for the preparation of IBX. The first approach affords analytically pure product 8 whereas the direct oxidation of iodobenzenesulfonic acid (7) by oxone gives the final product that is, according to elemental analysis, contaminated with approximately 10% of inorganic impurities. (結果と考察
我々は、化合物8を合成する2種類の合成方法を開発した(Scheme 1)。最初の方法(方法A)は、既知のエステル6の加水分解を含む。2番目の方法は(方法B)は、IBXの生成のために使用した方法に類似する手順による2-ヨードベンゼンスルホン酸(7)の直接酸化を含む。最初の方法は、分析的に純粋な生成物8を与えるのに対し、ヨードベンゼンスルホン酸(7)のOxoneによる直接酸化は、元素分析によると約10%の無機不純物により汚染された最終生成物を与える。)」(4792頁左欄14?24行)
(4f)「

」(4792頁左欄Sceme 1)
(4g)「Product 8 is an unstable compound that decomposes to form iodine(III) heterocycle 9 after several days of storage or upon contact with organic solvents, such as acetonitrile, DMSO, and methanol. It is insoluble in chloroform, dichloromethane, and other nonpolar solvents.
(生成物8は不安定な化合物であり、保管数日後にまたはアセトニトリル、DMSO、メタノールのような有機溶媒と接触すると、分解してヨウ素(III)複素環9を形成する。それは、クロロフォルム、ジクロロメタンおよびその他の非極性溶媒には溶解しない。)」(4792頁左欄29?33行)
(4h)「Despite the low stability and high reactivity of 8 towards organic solvents, we were able to obtain reliable identification data including ^(1)H- and ^(13)C NMR, IR, HRMS, and elemental analysis. ・・・The contact of compound 8 with methanol or DMSO leads to almost instantaneous reduction to benziodoxathiole 9 as indicated by ^(13)C NMR spectroscopy. Because of the low stability of compound 8, we were not able to investigate its oxidative reactivity towards organic substrates: however, its high reactivity toward methanol and DMSO is indicative of the stronger oxidizing properties compared with those of IBX.
Several attempts were performed to grow single-crystals of compound 8 suitable for X-ray analysis with the use of methanol, methanol/acetonitrile, or acetonitrile as solvents. In each case, however, only benziodoxathiole 9, which results from the reductive decomposition of compound 8, was identified by X-ray analysis as the final crystalline material. Depending on the solvent used for crystallization, three different crystal structures of product 9 were determined: (1) space group PI, for crystals of a hydrate obtained from methanol (structure 9a), (2) space group P2_(1)ln for crystals obtained from methanol/acetonitrile (structure 9b), and (3) space group P2_(1)2_(1)2_(1) for crystals obtained from acetonitrile (structure 9c). Molecular structure of benziodoxathiole 9 crystallized in the P2_(1)2_(1)2_(1) space group (crystal structure 9c) is shown in Figure 2. Selected bond lengths for structure 9c in comparison to the similar known structure of 1-hydroxy-5-methyl-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide (10) are listed in the Table 1.
(有機溶媒に対する化合物8の低い安定性および高い反応性にも関わらず、われわれは、^(1)H-および^(13)C NMR、IR、HRMS、および元素分析を含む信頼できる同定データを入手することができた。・・・化合物8のメタノールまたはDMSOとの接触は、^(13)C NMRスペクトルにより示されるように、ほとんど瞬間的なベンズヨードオキサチオール9への還元をもたらす。化合物8の低い安定性のために、我々は、有機基質に対するその酸化反応性を調べることはできなかった。しかし、メタノールおよびDMSOに対するその高い反応性は、IBXに比較してより強い酸化特性を示唆している。
溶媒としてメタノール、メタノール/アセトニトリルまたはアセトニトリルを使用して、X線解析に適する化合物8の単結晶を成長させるためにいくつかの試みを行った。しかし、いずれの場合も、化合物8の還元分解から生じたベンズヨードオキサチオール9のみ、最終的な結晶材料としてX線解析により確認された。結晶化のために使用された溶媒に応じて、生成物9の3種類の結晶構造が見出された。すなわち、(1) メタノールから得られた水和物の結晶の場合に空間群PI (構造9a)、(2) メタノール/アセトニトリルから得られた結晶の場合に空間群P2_(1)ln (構造9b)、(3) アセトニトリルから得られた結晶の場合に空間群P2_(1)2_(1)2_(1) (構造9c)である。空間群P2_(1)2_(1)2_(1)構造(結晶構造9c)に結晶化されたベンズヨードオキサチオール9の分子構造を図2に示す。構造9cのいくつかの結合距離と1-ヒドロキシ-5-メチル-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイド(10)の類似既知構造との比較を表1に示す。)」(4792頁左欄35行?右欄27行)
(4i)「

」(4793頁Table 1. 化合物9と公知の1-ヒドロキシ-5-メチル-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイド(10)の構造における結合長の比較)
(4j)「Conclusions
In conclusion, we have reported the preparation and spectroscopic characterization of 2-iodoxybenzenesulfonic acid [in a cyclic tautomeric form of 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 1,3,3-trioxide (8)], which is a thia-analog of 2-iodoxybenzoic acid (IBX) and potentially important oxidizing reagent. This compound was prepared by two different pathways: direct oxidation of 2-iodobenzenesulfonic acid or hydrolysis of the methyl ester of 2-iodylbenzenesulfonic acid. The resulting 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 1,3,3-trioxide was found to be unstable and highly reactive towards organic solvents. The structure of its reductive decomposition product, 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide (9) (the cyclic tautomeric form of 2-iodosobenzenesulfonic acid), was established by single-crystal X-ray diffraction analysis.
(結論
結論として、我々は、2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)の硫黄類似体であり、潜在的に重要な酸化試薬である2-ヨードオキシベンゼンスルホン酸[1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 1,3,3-トリオキサイド(8)の環状互変異性体]の生成および分光特性を報告した。この化合物は、2種類の経路により生成された。すなわち、2-ヨードベンゼンスルホン酸の直接酸化または2-ヨージルスルフォン酸のメチルエステルの加水分解である。得られた1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 1,3,3-トリオキサイドは、不安定であり、かつ、有機溶媒に対して高度に反応することが分かった。その還元分解生成物、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイド(9)(2-ヨードソベンゼンスルホン酸の環状互変異性体)の化学構造が単結晶X線回折により確認された。)」(4794頁左欄8?23行)
(4k)「Experimental Section
Prepration of 1-Hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 1,3,3-trioxide (8)
Method A (by hydrolysis of methyl sulfonate 6):・・・
Method B (by direct oxidation of 2-iodobenzenesulfonic acid): To a stirred mixture of 2-iodobenzenesulfonic acid (0.5g, 1.7mmol) in distilled water (4.25mL) heated at 70℃ was added oxone (3.25g) in small portions over a 15 min period. After the addition was complete, the reaction mixture was stirred for an additional 1h and cooled to room temperature. Acetonitrile (9mL) was added to the reaction mixture, and the resulting inorganic precipitate was removed by filtration and extracted with acetonitrile/water (2:1; 3×2mL). The extracts were combined and concentrated in vacuo to afford product 8.
(実験の項
1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 1,3,3-トリオキサイド(8)の生成
方法A(スルホン酸メチル6の加水分解):・・・
方法B (2-ヨードベンゼンスルホン酸の直接酸化):蒸留水(4.25 mL)に2-ヨードベンゼンスルホン酸(0.5 g、1.7mmol)を混入して撹拌し、70℃に加熱した後に、これにOxone(3.25 g)を少しずつ15分の間に加える。投入が完了した後、反応混合物をさらに1時間撹拌し、室温まで冷却する。アセトニトリル(9mL)を反応混合物に加え、生成される無機沈殿物を濾過により取り除き、アセトニトリル/水(2:1; 3×2 mL)により抽出する。抽出物を真空中で濃縮させると生成物8が得られる。)」(4794頁左欄24?51行)
(4l)「1-Hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide 9 by Reductive Decomposition of 8
Slow evaporation of a methanol solution of compound 8 over a 3-5d period at room temperature afforded colorless crystals of 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide in crystal form 9a. ES-MS: m/z(%)=300.901(100)[M+H]^(+). ・・・
Slow evaporation of a methanol/acetonitrile(1:1) solution of compound 8 over a 3-5d period at room temperature afforded colorless crystals of 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide in crystal form 9b. ・・・
Slow evaporation of an acetonitrile solution of compound 8 over a 3-5d period at room temperature afforded colorless crystals of 1-hydroxy-1H-1,2,3-benziodoxathiole 3,3-dioxide in crystal form 9c.
(化合物8の還元分解による1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイド9
化合物8のメタノール溶液を、3-5日間室温でゆっくり蒸発させると、結晶形状9a の1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンゾヨードキサチオール 3,3-ジオキサイドの無色結晶が得られた。EM-MS: mlz (%) = 300.901 (100) [M + H]^(+)・・・
化合物8のメタノール/アセトニトリル(1:1)溶液を、3-5日間室温でゆっくり蒸発させると、結晶形状9bの1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイドの無色結晶が得られた。・・・
化合物8のアセトニトリル溶液から、3-5日間室温でゆっくり蒸発させると、結晶形状9cの1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-ベンズヨードオキサチオール 3,3-ジオキサイドの無色結晶が得られた。)」(4794頁左欄52行?右欄31行)

第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
(1)拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は上記第3に示したとおりであるが、該理由について詳細にみると、原査定の備考欄には、
「引用文献1?3には、in situ において調整される「IBX」は、アルコール化合物を酸化しカルボニル化合物を製造する触媒として優れていることが、具体的に示されている。
一方、引用文献4・・・には、「IBS」は、メタノール等の有機溶媒中の保存や接触により、数日後に化合物9に分解することや、その安定性が低いことから有機化合物に対する酸化反応は確認できないことが記載されている一方、「IBS」はメタノールとの接触により瞬時に還元されること、さらには、そのメタノールに対する反応性の高さは、「IBS」の酸化力が「IBX」の酸化力よりも強いことを示すものであることが記載されている。
そうすると、引用文献1?4に記載された事項を考慮して、「IBS」を「IBX」と同じように反応系中において調整し、「IBS」がメタノールとの接触により瞬時に還元されること、すなわち、メタノールが酸化されることを確認することは当業者が通常有する創作能力の範囲内の事項である。」
と記載されている。
よって、「引用文献1?4に記載された発明に基づいて・・・容易に発明をすることができたものである」とする原査定の拒絶の理由には、引用文献3(刊行物3)に記載された発明及び引用文献4(刊行物4)の記載事項に基づいて、当業者が本願発明を容易に発明することができたものであるとする理由が包含される。
そこで、以下、刊行物3に記載された発明を認定し、該発明に基づく容易想到性について検討する。

(2)刊行物3に記載された発明
刊行物3には、「Scheme 1」に示される反応、すなわち、「Oxone^(R)による2-ヨード安息香酸の酸化によってin situ で調製されるIBXを触媒的(10?40mol%)に用いるアルコールの酸化反応」(摘示(3a)、(3c))について記載されており、さらに、「IBXの芳香環の置換基が酸化反応に及ぼす影響」を調べるために、「芳香環が置換された様々な2-ヨード安息香酸を合成し、触媒的アルコールの酸化反応を」行った(摘示(3b))ことが記載されている。該反応の結果、「Scheme 2とグラフ」に示されるように、「5-メチル-2-ヨード安息香酸と2-ヨード安息香酸を触媒(1mol%)に用いて、(-)-メントールをニトロメタン溶媒中70℃で加熱すると、5-メチル-2-ヨード安息香酸の方が活性が高く、7.5時間で定量的に酸化生成物が得られた」(摘示(3b)?(3d))ことが記載されているところ、摘示(3d)のグラフからみて、2-ヨード安息香酸の場合にも、酸化生成物が定量的に得られているものと認められる。
また、摘示(3c)のScheme 2の反応式からみて、上記触媒と共にOxone^(R)も存在しており、また、上記酸化生成物は、その構造からみて(-)-メントンであるといえる。
したがって、刊行物3には、
「5-メチル-2-ヨード安息香酸又は2-ヨード安息香酸からなる触媒と、Oxone^(R)との存在下、(-)-メントールをニトロメタン溶媒中で酸化する工程を有する、(-)-メントンの製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「Oxone^(R)」は、2-ヨード安息香酸の酸化によってIBXと称される化合物をin situ、つまり、反応系中で調製するのに用いられるものであるから(摘示(3a))、酸化剤であるといえるところ、本願発明の「酸化剤」も具体的には「Oxone(登録商標)」を用いていることから(本願明細書の実施例(段落[0046]?[0068]))、引用発明の「Oxone^(R)」は、本願発明の「酸化剤」に相当する。
また、引用発明の「(-)-メントール」及び「(-)-メントン」は、それぞれ本願発明の「アルコール」及び「カルボニル化合物」に相当し、引用発明の「ニトロメタン溶媒」は、本願発明の「酢酸エステル溶媒、シアノアルカン溶媒およびニトロアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒」のうちの「ニトロアルカン溶媒」に相当する。
そして、引用発明の「5-メチル-2-ヨード安息香酸又は2-ヨード安息香酸からなる触媒」と、本願発明のR^(1)が水素原子、R^(2)が水素原子又はメチル基(アルキル基)である場合の「下記一般式(I)・・・からなる触媒」は共に、5-メチル置換又は無置換の2-ヨードベンゼンの酸からなる触媒であるといえる。
したがって、両者は、
「5-メチル置換又は無置換の2-ヨードベンゼンの酸からなる触媒と、酸化剤との存在下、アルコールをニトロアルカン溶媒中で酸化する工程を有することを特徴とする、カルボニル化合物の製造方法。」
である点で一致するが、以下の点で相違するといえる。

A 5-メチル置換又は無置換の2-ヨードベンゼンの酸が、本願発明においては、酸がスルホン酸である「一般式(I)・・・で表される2-ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩」であるのに対し、引用発明においては、酸がカルボン酸である「5-メチル-2-ヨード安息香酸又は2-ヨード安息香酸」である点
(以下、「相違点A」という。)

3 判断
(1)相違点Aについて
ア 引用発明における、2-ヨード安息香酸の反応の機構について
(ア)まず、引用発明の反応がどのように進行するのか、その反応機構について、刊行物3のScheme 1(摘示(3c))を参照しつつ詳細にみると、まず、2-ヨード安息香酸からなる触媒「''I''(I)」は、反応系中で、1当量のOxoneによって「''I''(III)」に、さらに1当量のOxone^(R)によって「''I''(V)」に酸化され、そして、この「''I''(V)」が、アルコールを酸化してケトンに変換させると共に、「''I''(V)」自身は還元され、「''I''(III)」に変化する反応であるといえる。
ここで、摘示(3a)によれば、IBXによってアルコールが酸化されるのであるから、「''I''(V)」はIBXと称されるものであるといえ、「''I''(I)」(2-ヨード安息香酸)、「''I''(III)」及び「''I''(V)」とは、それぞれヨウ素の酸化状態、すなわち、1価、3価及び5価のヨウ素化合物を意味するのは明らかである。そして、IBXと称される「''I''(V)」と、還元された「''I''(III)」とは、刊行物3に「従来のCH_(3)CN-H_(2)O^(1a)やEtOAc-H_(2)O^(1b)混合溶媒系」(摘示(3b)、(3e))であると引用されているように(審決注;「CH_(3)CN-H_(2)O^(1a)」の「1a」とは、摘示(3e)の文献「1(a)」のことで、上記刊行物1であり、「EtOAc-H_(2)O^(1b)」の「1b」とは、摘示(3e)の文献「(b)」のことで、上記刊行物2である。)、同様の反応について記載される刊行物1を参照すると、それぞれ刊行物1の摘示(1c)にIBXとして構造が記載されるo-ヨードオキシ安息香酸(摘示(1a)。審決注;以下、2-ヨード安息香酸と記載をそろえるために、別名である「2-ヨードオキシ安息香酸」という。)と、IBAとして構造が記載される2-ヨードソ安息香酸(摘示(1a))と同一化合物であるといえる。
このことは、上記のとおり、刊行物3で引用されている刊行物2も参照すると、摘示(2d)に、引用発明についての摘示(3c)のScheme 1と同様の反応機構が記載され、それぞれの工程で対応する価数のヨウ素化合物が示されていることからも明らかである。
なお、摘示(1c)や摘示(2d)の図において、「IBX」と「IBA」は、環状構造で記載されているが、それぞれ2-ヨードオキシ安息香酸及び2-ヨードソ安息香酸の環状互変異性体であることは明らかであるから、以下、ヨウ素を含む5員環構造で表されている場合であっても、化合物名は、2-ヨードオキシ安息香酸(又はIBX)及び2-ヨードソ安息香酸(又はIBA)のように、その開環構造での名称で表すことにする。
そこで、上記した引用発明の反応機構について、化合物名を用いて言い換えると、まず、2-ヨード安息香酸(又はその5-メチル誘導体。以下同様。)からなる触媒(1価のヨウ素化合物)は、反応系中で1当量のOxone^(R)によって2-ヨードソ安息香酸(IBA)(3価のヨウ素化合物)に、さらに1当量のOxone^(R)によって2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)(5価のヨウ素化合物)に酸化され、そして、この2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)が、アルコールを酸化してケトンに変化させると共に、2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)自身は還元され、2-ヨードソ安息香酸(IBA)に変化する反応であるといえる。
(イ)これを模式図で表すと次のようになる。


イ 刊行物4に記載の、2-ヨードベンゼンスルホン酸の反応の機構について
(ア)次に、相違点Aについて判断するにあたり、IBXの類似体として2-ヨードオキシベンゼンスルホン酸及びその前駆体2-ヨードベンゼンスルホン酸が記載されている、刊行物4について検討する。
刊行物4には、「5価ヨウ素酸化剤試薬」である「2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)」が、「第1級および第2級アルコールの選択的酸化のためおよびその他の種々の酸化のために利用できる効率の高い穏和な酸化剤として有機合成において広く応用されている」ものの、「DMSOを除く一般的有機溶媒におけるIBXの爆発性および難溶解性」といった実際的応用の制限があるため(摘示(4b))、「5員環中にスルホニル基を持つIBXの類似体の生成を試みた」(摘示(4d))ことが記載され、その一環として、IBXの類似体に相当する化合物8である2-ヨードオキシベンゼンスルホン酸(以下、化合物8を「IBS」という。)の合成を、化合物7である2-ヨードベンゼンスルホン酸をOxoneによって酸化することにより得ること(摘示(4e)、(4f)、(4k))について記載されている。
そして、IBSについては、「不安定な化合物であり、保管数日後にまたはアセトニトリル、DMSO、メタノールのような有機溶媒と接触すると、分解してヨウ素(III)複素環9を形成する」こと(摘示(4g))、特に、IBSと「メタノールまたはDMSOとの接触は、^(13)C NMRスペクトルにより示されるように、ほとんど瞬間的なベンズヨードオキサチオール9への還元を」もたらし(摘示(4h))、「メタノールおよびDMSOに対するその高い反応性は、IBXに比較してより強い酸化特性を示唆している」こと(摘示(4h))、該ベンズヨードオキサチオール9の構造は、摘示(4i)に示されるとおりの「2-ヨードソベンゼンスルホン酸の環状互変異性体」(摘示(4j))であることが記載されている(以下、化合物9を、その開環構造の名称である「2-ヨードソベンゼンスルホン酸」という。)。
ここで、刊行物4には、2-ヨードオキシベンゼンスルホン酸(IBS)が、2-ヨードオキシ安息香酸(IBX)のスルホニル基を有する類似体であると記載されているところ、IBSの原料である2-ヨードベンゼンスルホン酸、IBSの還元生成物である2-ヨードソベンゼンスルホン酸も、それぞれ2-ヨード安息香酸及び2-ヨードソ安息香酸(IBA)のスルホニル基を有する類似体であるといえる。
(イ)そこで、上記(ア)で示したIBSとメタノールとの接触による2-ヨードソベンゼンスルホン酸への還元において、いかなる反応が起きているかみると、摘示(4k)及び(4l)の実験の部によれば、接触とは、単離したIBSをメタノール溶液とし、該メタノールを蒸発させることであり、接触時には、ほぼIBSとメタノールだけが存在しているといえるから、IBSが2-ヨードソベンゼンスルホン酸に還元されたということは、メタノールが酸化されたと考えるのが自然である。そして、IBSから2-ヨードソベンゼンスルホン酸への変換は、5価のヨウ素化合物から、3価のヨウ素化合物への還元であって、上記アで述べた引用発明の反応機構における、中間体の3価のヨウ素化合物である2-ヨードソ安息香酸(IBA)へ変換されるような還元であるといえる。
(ウ)これを模式図で表すと次のようになる。


(エ)そうすると、上記接触におけるメタノールの酸化生成物は明示されていないものの、ヨウ素が5価から3価へ変換される程度に還元されるということは、1モルの水酸基が酸化できる程度、すなわち、ホルムアルデヒド等のカルボニル化合物が生成する程度の酸化力をIBSが有するとみることができ、IBSは、5価のIBXが3価の2-ヨードソ安息香酸(IBA)へ還元されるように、酸化力を有するといえる。
以上まとめると、刊行物4には、第1級及び第2級アルコールの選択的酸化等に用いる酸化試薬としてのIBXの改良として、IBXのスルホニル基を有する類似体に相当するIBSを合成したことが記載されており、IBSが2-ヨードベンゼンスルホン酸のOxoneによる直接酸化によって得られること、IBSはメタノールとの接触により、2-ヨードソベンゼンスルホン酸へ還元される程度の酸化力を有する、すなわち、IBXが2-ヨードソ安息香酸(IBA)へ還元されるように、酸化力を有することが記載ないし示唆されているといえる。

ウ 引用発明に刊行物4の記載事項を適用することについて
(ア)以上のとおりであって、引用発明は、上記アの反応機構のとおり、5価のIBXから3価の2-ヨードソ安息香酸(IBA)への還元を利用し、アルコールの酸化を行う反応であるところ、上記イで述べたとおり、刊行物4には、第1級及び第2級アルコールの酸化等に用いる酸化試薬としてのIBXの改良として、IBXのスルホニル基を有する類似体に相当するIBSを合成したこと、及び、IBSが2-ヨードベンゼンスルホン酸のOxoneによる直接酸化によって得られ、IBSはメタノールとの接触により、2-ヨードソベンゼンスルホン酸へ還元される程度の酸化力を有することが記載ないし示唆されているといえる。
よって、引用発明において、刊行物4の記載に基づき、IBXに換えて、IBXの改良を目的として合成したスルホニル基を有する類似体であるIBSを用い、IBSから2-ヨードソベンゼンスルホン酸への還元を利用してアルコールの酸化を行うこと、その際、引用発明においてIBXを反応系中で調製するのと同様に、IBSを反応系中で調製するために、2-ヨードベンゼンスルホン酸とOxoneの存在下に酸化を行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)ところで、刊行物4において、IBSの2-ヨードベンゼンスルホン酸のOxoneによる直接酸化は水溶媒中で行われており(摘示(4f)、(4k))、引用発明における反応溶媒であるニトロメタン溶媒中で行っているわけではないものの、刊行物3の「従来のCH_(3)CN-H_(2)O^(1a)やEtOAc-H_(2)O^(1b)混合溶媒系では(-)-メントールの酸化は副反応が起こり易く汚かったのに対し、ニトロメタンを溶媒にすることにより酸化反応が効率よくきれいに進行する」(摘示(3b))という記載を考慮すれば、水溶媒中で行うことのできた反応をニトロメタン溶媒の反応系中で行うことは当業者にとって格別困難なこととはいえず、刊行物4において、水溶媒中でしか行われていないことが、引用発明におけるニトロメタン溶媒中で調製する方法に適用することを阻害する要因となるとはいえない。
(ウ)また、刊行物4には、「化合物8(審決注;IBSのこと。)の低い安定性のために、我々は、有機基質に対するその酸化反応性を調べることはできなかった」(摘示(4h))と記載されており、また、IBSがメタノールだけでなく、アセトニトリル、DMSOのような有機溶媒中でも不安定で容易に分解される(摘示(4g))ことも記載されている。しかし、摘示(4k)を参照すると、IBSは反応後に室温でアセトニトリルによって処理できるくらいの安定性は有しており、また、IBSを反応系中で調製した場合には、生成したIBSが直ちにアルコールの酸化に使用され、自身は還元されることになるから、上記摘示(4g)及び(4h)から、IBSを単離し、溶媒に溶解してから使用することが困難であるとはいえるとしても、反応系中で2-ヨードベンゼンスルホン酸とOxoneからIBSを調製し、これを直ちに酸化剤として使用することを阻害する要因となるとまではいえない。

エ したがって、引用発明において、触媒を、酸がカルボン酸である「5-メチル-2-ヨード安息香酸又は2-ヨード安息香酸」に代えて、酸がスルホン酸である「一般式(I)・・・で表される2-ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
ア 本願発明は、本願明細書の段落[0008]に記載されるように、「取り扱いが容易な溶媒であっても、アルコールの酸化による製造方法により、カルボニル化合物を高効率で得ることができる」という効果を奏するものである。
本願明細書を参酌すると、「溶媒」について、「ニトロメタンの使用は工業的使用には課題がある。」(段落[0003])と記載され、「取り扱いの容易さの観点からは、例えば酢酸エチル、アセトニトリル等を挙げることができる。」(段落[0035])と記載されているから、上記「取扱いが容易な溶媒であっても」とは、酢酸エチル、アセトニトリル等であってもという意味であると認められる。
イ しかし、本願発明で用いる溶媒にはニトロメタンが包含される以上、ニトロメタン溶媒においても効果の顕著性を有することが求められる。そこで、本願明細書の実施例、特に、引用発明と同様にニトロメタン溶媒を用いた実施例を参酌すると(段落[0048]、[0049]、[0064]、[0065]、[0067])、例えば、本願発明について、本願明細書の実施例3における5-メチル-2-ヨードベンゼンスルホン酸を用いた系では、加熱温度70℃、加熱時間7時間で生成物収率が100質量%であり、実施例4の2-ヨードベンゼンスルホン酸を用いた系も加熱時間7.5時間で生成物収率が100質量%である。他方、比較例2の2-ヨード-5-メチル安息香酸を用いた系では、加熱時間12時間で生成物収率100質量%、比較例3の2-ヨード安息香酸を用いた系では、加熱時間12時間で生成物収率が10質量%であるから、確かに実施例3及び4は、比較例3との比較においては、収率が高いことが認められ、比較例2との比較においては、収率には違いがないものの、加熱時間が短いという効果が認められる。
しかし、刊行物3には、摘示(3d)のグラフに示されるとおり、ニトロメタン溶媒中、5-メチル-2-ヨード安息香酸を触媒とした系で、70℃、7.5時間で「定量的に酸化生成物が得られた」とあり(摘示(3c))、2-ヨード安息香酸を触媒とした系であっても、70℃、10時間程度で100%の変換率で生成物が得られている(摘示(3d))ことから、本願発明のニトロメタン溶媒を用いた場合において、特定の条件下で本願発明が効果を奏する場合があったとしても、刊行物3の記載からみて、2-ヨード安息香酸を、2-ヨードベンゼンスルホン酸に換えたことにより、格別顕著な効果を奏するということはできない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の「2.引用文献の説明」「(4)引用文献4(審決注;「刊行物4」のこと。以下同じ。)」において、刊行物4の記載内容について、下記(ア)及び(イ)のとおり主張する。
(ア)「引用文献4には、アルコールの酸化に化合物(I)やIBSを触媒として用いることについて、記載も示唆もされていない。」
(イ)「本願有機溶媒中でアルコールを選択的に酸化できることについて、記載も示唆もされていない。」

そして、上記(ア)及び(イ)に関連して、審判請求書の「3.特許法第29条第2項について」において、下記(ウ)及び(エ)のとおり主張する。
(ウ)「引用文献4には、IBSが有機溶媒に対して不安定であり、メタノールの接触により即時に還元されると記載されている。・・・酸化した対象がメタノールであったのか、溶媒中の水であったのか、検証されていない。そして、・・・IBSが還元される際にメタノールを酸化してカルボニル化合物を生成したり、酸化剤の存在下でメタノールの酸化にIBSが触媒として機能する等ということは記載も示唆もされていない。また、メタノール以外のアルコールについて、その水酸基をIBSにより選択的に酸化できることは記載も示唆もされていない。」
(エ)「ここで、アルコールの酸化生成物にはアルデヒド、ケトン等のカルボニル化合物以外に、過酸化メタノール、蟻酸、炭酸ガス、水、過酸化水素が挙げられる。引用文献4には、IBSの不安定性のために、アルコール等の有機基質に対する酸化反応を調査できなかったと記載されている(4792ページ、右欄)。・・・即ち、引用文献4は、IBSがメタノールを酸化してカルボニル化合物を生じることを示すものではなく、単にメタノールとの接触によりIBSが還元されることを示しているに過ぎない。
加えて、仮にIBSがメタノールを酸化していたとしても、このことが直ちにメタノール以外のアルコールからカルボニル化合物を得られることを示唆するものではない。・・・即ち、メタノールに対する酸化と同様の反応が、メタノール以外のアルコールにおいて成立すると、直ちに考えることはできない。本願発明1は、・・・基質であるアルコールの種類を選ばずに、選択的にカルボニル化合物を製造できるものである。このような効果は、引用文献4に記載も示唆もされていない。
アルコールの酸化反応において、化合物(I)が、触媒として機能するためには、その酸化物であるIBSが還元されやすい(基質を酸化しやすい)ことに加え、還元された状態から速やかに酸化されIBSとなることが必要である。引用文献4には、化合物(I)がこのような機能を発揮することについて、記載も示唆もされていない。」

イ しかしながら、上記ア(ア)及び(ウ)について、上記(1)イ(イ)に示したように、摘示(4k)及び(4l)の実験の部によれば、IBSによりアルコールに包含されるメタノールが酸化されることが記載されているといえ、上記(1)イ(ア)で述べたように、刊行物4には、IBXの酸化試薬の使用例として、第1級及び第2級アルコールの選択的酸化が唯一の例として記載されていることも考慮すれば、IBXの類似体としてのIBSの応用例として、まず、第1級及び第2級アルコールの選択的酸化にあたる引用発明の反応を採用することは当業者が容易になし得ることである。
次に、上記ア(イ)及び(エ)については、上記(1)ウ(イ)で述べたように、刊行物3の摘示(3b)を考慮すれば、水溶媒中で行うことのできた反応を、引用発明におけるニトロメタン溶媒の反応系中で行うことは当業者にとって格別困難なこととはいえない。
さらに、上記(1)イ(イ)で述べたように、刊行物4には、5価のヨウ素化合物であるIBSが、3価のヨウ素化合物である2-ヨードソベンゼンスルホン酸に還元される程度の酸化力であることが記載されているといえるから、メタノールの酸化生成物について実際に同定されていないとしても、炭酸ガス、水、過酸化水素に至るまで酸化されることなく、カルボニル化合物に変換されると考えるのは自然なことであり、また、還元された状態の2-ヨードソベンゼンスルホン酸が、反応系中に存在するOxoneによって再び容易にIBSに酸化されると考えることもまた当業者にとって容易なことである。
また、刊行物4には、メタノール以外のアルコールからカルボニル化合物が得られることを示唆していないと主張するが、本願発明は、アルコールとしてメタノールを包含するから、アルコールがメタノールである場合には採用できない主張であるうえ、上記イで述べたように、IBXの類似体としてのIBSの応用例として、まず、第1級及び第2級アルコールの選択的酸化にあたる引用発明の反応を採用することは当業者が容易になし得ることである。

ウ なお、請求人は、審判請求書において、「触媒」の定義についても縷々主張するが、本願発明と引用発明との対比において「触媒」は相違点とはならないので、「触媒」の定義について検討するまでもなく、拒絶の理由について上記判断を行うことができたことを付記する。

エ 以上のとおり、請求人の上記アの主張はいずれも採用できない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物3及び刊行物4に記載された発明並びに刊行物1及び2から得た知見に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の点を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-24 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-04-12 
出願番号 特願2009-510225(P2009-510225)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 千香子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 カルボニル化合物の製造方法およびカルボニル化合物の製造に用いる酸化促進剤  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 西 和哉  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
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