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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1218047
審判番号 不服2009-6087  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-19 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2005-505474「支持構造を備えたギア機構」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日国際公開、WO2004/092617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年4月16日(優先権主張 平成15年4月16日)の国際出願であって、平成21年2月13日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成21年4月17日付けで明細書及び特許請求の範囲に対する手続補正がなされ、さらに、前置審査において同年5月15日付けで最後の拒絶理由が通知されたところ、同年7月15日付けで明細書及び特許請求の範囲に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審において、平成21年9月11日(起案日)付けで審尋がなされ、同年11月5日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するとともに、旧請求項2を削除し、旧請求項3を補正した上で旧請求項3ないし14を新請求項2?13に繰り上げる補正をしたものである。このうち、本件補正前の請求項3(旧請求項3)とその請求項に対応する本件補正後の請求項2(新請求項2)についてみると、以下のような補正がなされている。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項3(平成21年4月17日付け手続補正)
「【請求項3】
駆動力の回転方向を直角方向に変換する、第一の方向変換ギアと第二の方向変換ギアを備えた、方向変換ギア組と、
前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する第一のギアと、
前記第一のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第二のギアと、
前記第二のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第三のギアと、
前記方向変換ギア組と前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを収容するケーシングであって、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを回転可能に支持するケーシング本体と、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆うカバーとを有したケーシングと、
を備えた、ギア機構。」

(2)本件補正後の請求項2(平成21年7月15日付け手続補正)
「【請求項2】
自動車のトランスファケースに用いられるギア機構であって、
駆動力の回転方向を直角方向に変換する、第一の方向変換ギアと第二の方向変換ギアを備えた、方向変換ギア組と、
前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する第一のギアと、
前記第一のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第二のギアと、
前記第二のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第三のギアと、
前記方向変換ギア組と前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを収容するケーシングであって、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを回転可能に支持するケーシング本体と、前記第一の方向変換ギアを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第一のカバーと、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第二のカバーとを有したケーシングと、
を備え、
前記ケーシングは、内部に収められた前記第一の方向変換ギアおよび前記第一ないし第三のギアを支持して位置決めすることにより前記方向変換ギア組および前記第一ないし第三のギアを相互に正常に噛み合いをせしめるべく構成されているギア機構。」

2.補正の適否

上記補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0001】、【0045】、【0046】、【0049】、【0054】、【0056】などの記載に基づき、本件補正前の「ギア機構」について「自動車のトランスファケースに用いられるギア機構」であること、「前記第一の方向変換ギアを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第一のカバーと」、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う「第二の」カバーとを有したケーシングを備えること、及び「前記ケーシングは、内部に収められた前記第一の方向変換ギアおよび前記第一ないし第三のギアを支持して位置決めすることにより前記方向変換ギア組および前記第一ないし第三のギアを相互に正常に噛み合いをせしめるべく構成されている」ことをさらに限定して特定するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的とするとともに、同法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「【2】1.本件補正の内容」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開平4-249656号公報
刊行物2:特開昭59-69553号公報

[刊行物1]
前置審査の最後の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開平4-249656号公報)には、「トランスアクスル」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明はトランスアクスルに係り、特に略平行に配設される入力軸及びカウンタ軸を有する変速機ユニットと、入力軸及びカウンタ軸に対して略平行に配設されるデファレンシャル軸を有するデファレンシャルユニットとにより形成したトランスアクスルに関する。」

(イ)「【0012】図1?図2はこの発明の第1実施例を示すものである。図2において、2は例えば四輪駆動用のトランスアクスル、4は変速機ユニット、6はデファレンシャルユニットである。
【0013】前記トランスアクスル2は、変速機ユニット4とデファレンシャルユニット6とにより一体的に形成されている。変速機ユニット4に、入力軸8とカウンタ軸10とが略平行に配設され、これら入力軸8及びカウンタ軸10には入力軸側第1変速ギヤ部12とカウンタ軸側第2変速ギヤ部14とが夫々設けられている。この第2変速ギヤ部14のドライブギヤ16とデファレンシャルユニット6のファイナルギヤ18とを噛合して設け、ファイナルギヤ18にドライブベベルギヤ20を設ける。そして、このドライブベベルギヤ20にドリブンベベルギヤ22を噛合して設け、前記デファレンシャルユニット6のデファレンシャル軸24の軸方向の位置を調整すべく機関、つまり図示しない内燃機関側に位置する第1ケース26とこの第1ケース26に取着される第2ケース28とによりトランスアクスルケース部30を設けるとともに、前記第1ケース26にはドライブベベルギヤ20の歯当り状態を目視する目視用孔部32を設ける。
【0014】詳述すれば、図1及び図2に示す如く、前記トランスアクスルケース部30を縦割り構造とし、前記第1、第2変速ギヤ部12、14とドライブベベルギヤ20及びドリブンベベルギヤ22とを同一ケース内に位置させる。」

(ウ)「【0018】前記ドリブンベベルギヤ22を一端に固定したトランスファ出力軸62の他端側にドライブスプロケット64を設ける。このドライブスプロケット64にチエン66を介してドリブンスプロケット68を連絡して設け、ドリブンスプロケット68を一端側に固定したドライブシャフト70の他端は図示しない前車輪側に連絡されている。前記ドライブシャフト70は前記第2ケース28により覆設されている。
【0019】前記トランスファ出力軸62は、第1ケース26とこの第1ケース26に取着される第3ケース72とにより覆設され、トランスファ出力軸62の一端のドリブンベベルギヤ22におけるトランスファ出力軸62の軸方向たるB方向の移動調整は、第1、第3ケース26、72間に介設される第3シム74により行われる。
【0020】また、前記ドライブベベルギヤ20近傍の第1ケース26部位に孔部32を穿設し、この孔部32をドライブベベルギヤ20のドリブンベベルギヤ22に対する歯当り状態を目視すべく機能させるものである。
【0021】次に作用について説明する。
【0022】前記デファレンシャル軸24の軸方向たるA方向の位置を調整する際には、前記第1ケース26の側から第1固定ボルト50及び第1シム42により行うとともに、第2ケース28の側から第2固定ボルト60及び第2シム52により行うものである。
【0023】つまり、第1固定ボルト50を取り外して第1リテーナ44を抜き出し、第1シム42を所定厚さに変更した後に、第1リテーナ44を挿入し、第1固定ボルト50により装着すればよいものである。
【0024】また、前記孔部32によりドライブベベルギヤ20の歯当り状態を目視によってチェックする際には、ドライブベベルギヤ20の噛合面部位に予めシコタン等の塗布剤(図示せず)を塗布し、この塗布剤の剥離状況により歯当り状態を確認し、上述の調整操作を行ってドライブベベルギヤ20を適正な歯当り状態とするものである。
【0025】これにより、前記第1、第2第1固定ボルト50及び第1シム42、そして第2固定ボルト60及び第2シム52によって配設後にデファレンシャル軸24の軸方向たるA方向の位置調整を容易に行うことができるとともに、ドライブベベルギヤ20のバックラッシュを調整することが可能となり、調整時にデファレンシャルユニット6を分解する必要がなく、調整作業が容易となって実用上有利である。」

(エ)図1、図2及び上記記載事項から、トランスアクスル2の動力は、ドライブベベルギヤ20、ドリブンベベルギヤ22、トランスファ出力軸62、ドリブンベベルギヤ22と同軸に一体的に回転するドライブスプロケット64、ドライブスプロケット64と噛合するチエン66、チエン66と噛合するドリブンスプロケット68、及びドリブンスプロケット68と一体的に回転するドライブシャフト70からなる「動力伝達機構」を介して伝達されているものと解される。

(オ)図1及び図2からみて、ドライブベベルギヤ20とドリブンベベルギヤ22は、駆動力の回転方向を直角方向に変換する「ギア組」であることが看取される。

(カ)トランスファ出力軸62とドライブシャフト70は、ドライブスプロケット64、チエン66、及びドリブンスプロケット68を介して動力を伝達するものであって、特殊な構造を採用したものではないから、相互に略平行に配置されているものと解される。

(キ)図1及び図2から、ドライブシャフト70を支持する一方の軸受は第3ケース72に取り付けられ、他方の軸受は第2ケース28と第3ケース72との間を補うケース(図1及び図2においてハッチングがない部分のケースのうち第3ケースの上方の部分。)に支持されているものと解され、仮に上記補うケースを「第4ケース」として検討をする。

(ク)図1及び図2からみて、ドライブベベルギヤ20は第1ケース26と第2ケース28の内部に収められていることが看取される。

(ケ)図1及び図2からみて、ドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68とは、第1ケース26、第3ケース72、及び第4ケースの内部に収められていることが看取される。

そうすると、上記記載事項及び図面(特に、図1及び図2)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「四輪駆動用のトランスアクスルに用いられる動力伝達機構であって、
駆動力の回転方向を直角方向に変換する、ドライブベベルギヤ20とドリブンベベルギヤ22を備えた、ギア組と
ドリブンベベルギヤ22と同軸に一体的に回転するドライブスプロケット64と、
ドライブスプロケット64と略平行に配置されてチエン66を介して噛合するドリブンスプロケット68と、
上記ギア組とドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68とを収容するケースであって、ドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68とを回転可能に支持して内部に収める第1ケース26、第3ケース72、及び第4ケースと、ドライブベベルギヤ20を内部に収容する第1ケース26及び第2ケース28と、を備え、
第1ケース26にはドライブベベルギヤ20の歯当り状態を目視する目視用孔部32を設けた動力伝達機構。」

[刊行物2]
前置審査の最後の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物2(特開昭59-69553号公報;前置審査の最後の拒絶理由の引用文献3に相当する。)には、「リーチフォークリフトの駆動装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、促音、拗音、読点等の表記を適宜変更して摘記する。

(コ)「第1図において、ギヤケース1は動輪ブラケット2によって垂直軸線のまわりに旋回自在に支持されている。ギヤケース1の下端部には車輪3が水平軸線のまわりに回動可能に保持されており、動輪ブラケット2の上部に直流電動機4が固定されている。この直流電動機4の駆動力は、カップリング5を介してスパイラルベベルギヤ6に伝達され、次いで、これと同軸の平歯車7によりアイドルギヤ8を介して平歯車9に伝達され、さらに、この平歯車9はスプライン軸10を介して、これに結合した車輪3を駆動する。これによってリーチフォークリフトを走行、停止させる。
上記のように、従来の駆動装置は、スパイラルベベルギヤ6、アイドルギヤ8、及び平歯車9による3段減速機構によって車輪3を駆動する構成であった。したがって、歯車のかみ合い個所が、スパイラルベベルギヤ6、平歯車7とアイドルギヤ8、及びアイドルギヤ8と平歯車9との間の3個所にあり、駆動力の伝達効率が低下する欠点があった。」

(サ)第1図及び上記記載事項(コ)からみて、カップリング5からの駆動力を伝達するスパイラルベベルギヤ(図番のないもの)とスパイラルベベルギヤ6とは駆動力の回転方向を直角方向に変換するギヤ組であり、平歯車7はスパイラルベベルギヤ6と同軸に一体的に回転するものであり、アイドルギヤ8は平歯車7と平行に配置されて互いに噛み合うものであり、平歯車9はアイドルギヤ8と平行に配置されて互いに噛み合うものである。そして、これらは駆動力を伝達することから、動力伝達機構を構成するものということができる。

そうすると、上記記載事項及び図面(特に、第1図)の記載からみて、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「駆動力の回転方向を直角方向に変換する、カップリング5からの駆動力を伝達するスパイラルベベルギヤとスパイラルベベルギヤ6を備えたギヤ組と、
スパイラルベベルギヤ6と同軸に一体的に回転する平歯車7と、
平歯車7と平行に配置されて互いに噛み合うアイドルギヤ8と、
アイドルギヤ8と平行に配置されて互いに噛み合う平歯車9と
からなる動力伝達機構。」

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「四輪駆動用のトランスアクスル」は、その機能からみて、本願補正発明の「自動車のトランスファケース」に相当し、以下同様に、「動力伝達機構」は、その具体的構成を相違点において検討することとすると、ひとまず「ギア機構」に相当し、「ドライブベベルギヤ20」は「第一の方向変換ギア」に相当し、「ドリブンベベルギヤ22」は「第二の方向変換ギア」に相当し、「ギア組」は「方向変換ギア組」に相当する。
また、刊行物1発明の「ドライブスプロケット64」は、動力伝達機構の形式がチエンによるかギアによるかを相違点において検討することとすると、スプロケットとギアはいずれも歯車の一種ということができるから、少なくとも「第一の歯車」である限りにおいて本願補正発明の「第一のギア」と共通する。
刊行物1発明の「ドリブンスプロケット68」は、動力伝達機構の形式がチエンによるかギアによるかを相違点において検討することとすると、スプロケットとギアはいずれも歯車の一種ということができるから、少なくとも「第三の歯車」である限りにおいて本願補正発明の「第三のギア」と共通する。
刊行物1発明の「チエン66」は、動力伝達機構の形式がチエンによるかギアによるかを相違点において検討することとすると、少なくとも「中間伝達部材」である限りにおいて本願補正発明の「第二のギア」と共通する。
そうすると、刊行物1発明の「四輪駆動用のトランスアクスルに用いられる動力伝達機構」は、実質的に、本願補正発明の「自動車のトランスファケースに用いられるギア機構」に相当し、以下同様に、「駆動力の回転方向を直角方向に変換する、ドライブベベルギヤ20とドリブンベベルギヤ22を備えた、ギア組」は、「駆動力の回転方向を直角方向に変換する、第一の方向変換ギアと第二の方向変換ギアを備えた、方向変換ギア組」に相当する。
また、刊行物1発明の「ドリブンベベルギヤ22と同軸に一体的に回転するドライブスプロケット64」は、本願補正発明の「前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する第一のギア」と対比して、「前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する歯車」である限りにおいて共通する。
刊行物1発明の「ドライブスプロケット64と略平行に配置されてチエン66を介して噛合するドリブンスプロケット68」は、本願補正発明の「前記第二のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第三のギア」と対比して、「中間伝達部材と平行に配置されて互いに噛み合う第三の歯車」である限りにおいて共通する。
刊行物1発明の「上記ギア組とドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68とを収容するケース」は、動力伝達機構の構成を相違点として別途検討することとすると、本願補正発明の「前記方向変換ギア組と前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを収容するケーシング」と対比して、「動力伝達機構を収容するケーシング」である限りにおいて共通する。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「自動車のトランスファケースに用いられるギア機構であって、
駆動力の回転方向を直角方向に変換する、第一の方向変換ギアと第二の方向変換ギアを備えた、方向変換ギア組と、
前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する歯車と、
中間伝達部材と平行に配置されて互いに噛み合う第三の歯車と、
動力伝達機構を収容するケーシングを備えたギア機構。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
上記動力伝達機構は、本願補正発明が「方向変換ギア組と、前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する第一のギアと、前記第一のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第二のギアと、前記第二のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第三のギアと」から構成されているているのに対し、刊行物1発明が「ギア組とドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68と」から構成されている点。

[相違点2]
上記ケーシングは、本願補正発明が「前記方向変換ギア組と前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを収容するケーシングであって、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを回転可能に支持するケーシング本体と、前記第一の方向変換ギアを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第一のカバーと、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第二のカバーとを有したケーシング」であるのに対し、刊行物1発明は「ドライブスプロケット64とチエン66とドリブンスプロケット68とを回転可能に支持して内部に収める第1ケース26、第3ケース72、及び第4ケースと、ドライブベベルギヤ20を内部に収容する第1ケース26及び第2ケース28」である点。

[相違点3]
本願補正発明は「前記ケーシングは、内部に収められた前記第一の方向変換ギアおよび前記第一ないし第三のギアを支持して位置決めすることにより前記方向変換ギア組および前記第一ないし第三のギアを相互に正常に噛み合いをせしめるべく構成されている」のに対し、刊行物1発明は「第1ケース26にはドライブベベルギヤ20の歯当り状態を目視する目視用孔部32を設けた」ものである点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
上記相違点1は、スプロケットとチエンによって動力を伝達するか、3つのギアを順次噛み合わせて動力を伝達するかという形式上の差異というべきところ、自動車のトランスファーケースにおいて、その動力伝達機構としてどのような形式を選択するかは、当業者が設計上適宜決定できる事項であり、刊行物1発明のドライブスプロケット64とドリブンスプロケット68とチエン66とからなる動力伝達機構は、スプロケット64とドリブンスプロケット68とがチエン66を中間伝達部材として同方向に回転するという機能において刊行物2発明と差異がないことに照らせば、刊行物2発明すなわち「駆動力の回転方向を直角方向に変換する、カップリング5からの駆動力を伝達するスパイラルベベルギヤ(本願補正発明の「第一の方向変換ギア」に相当。括弧内は、以下同様。)とスパイラルベベルギヤ6(第二の方向変換ギア)を備えたギヤ組(方向変換ギア組)と、スパイラルベベルギヤ6と同軸に一体的に回転する平歯車7(第一のギア)と、平歯車7と平行に配置されて互いに噛み合うアイドルギヤ8(第二のギア)と、アイドルギヤ8と平行に配置されて互いに噛み合う平歯車9(第三のギア)とからなる動力伝達機構」に接した当業者であれば、刊行物1発明の動力伝達機構に刊行物2発明を適用して上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
上記相違点2は、本願補正発明が「前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを回転可能に支持するケーシング本体」と、「前記第一の方向変換ギアを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第一のカバー」と、「前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第二のカバー」とによって上記動力伝達機構をケーシングに収容したことに基づくものであるが、刊行物1発明に刊行物2発明を適用した動力伝達機構について、ギヤ組(方向変換ギア組)と順次噛み合う3つのギアをケーシングに対してどのように収めるかということや、ケーシングをどのように分割して構成するかということは、動力伝達機構が関連する他の部材とのレイアウト、動力伝達機構に含まれる部品点数やその動力伝達の形式、メンテナンス・組み立ての容易性などを考慮して当業者が適宜決定できる設計事項にすぎないというべきところ、本願補正発明の上記ケーシング本体、上記第一のカバー及び上記第二のカバーは、動力伝達機構を構成する部材の一つ又は複数を、ケーシング本体に回転可能に支持するか内部に収めてカバーで覆うという一般的なケーシング及びカバーの機能を有するものにすぎないものであって特段の工夫をしたものではない以上、上記設計事項の範ちゅうを超えるものではない。加えて、上記第一のカバー及び第二のカバーは、その名称は別として、刊行物1発明の第1ケースと第4ケースを覆う第3ケース72と比較して機能上の格別の差異はないことに照らせば、カバーとケースが表現上異なることをもって上記の判断が左右されるものではない。
したがって、刊行物1発明に刊行物2発明を適用して刊行物1発明のケーシングに適宜設計変更を加えることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
刊行物1発明が目視用孔部32を設けた技術的意義は、ドライブベベルギヤ20の歯当り状態を目視するものであって、ドライブベベルギヤ20とドリブンベベルギヤ22とが相互に正常に噛み合わせるための調整を行うために設けられていることは明らかである(上記記載事項(ウ)の段落【0020】)。すなわち、刊行物1発明に刊行物2発明を適用してその動力伝達機構を構成する部材が相互に正常に噛み合わせるべく構成することは動力を効率的に伝達する上で当業者が当然考慮すべき技術常識にすぎず、そのための具体的手段として上記部材をケーシングに対して位置決めすることは当業者が適宜実施できる設計事項というほかない。この点について、刊行物1発明のドライブスプロケット64とドリブンスプロケット68を支持する第3ケース73をみても、当然にこれらの動力伝達機構を位置決めしているものと解される。
したがって、刊行物1発明に刊行物2発明を適用してその動力伝達機構をケーシングにより支持して適宜位置決めすることにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
また、本願補正発明が奏するコンパクトな構成を有するといった効果は、動力伝達機構において必要に応じて考慮される普遍的な課題にすぎず、本願補正発明の動力伝達機構やそのケーシングが特異な形状や構造を有するものでもない以上、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が予測できるものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成21年7月15日付け意見書において「まず、設計事項とみなすためには、そもそも設計が比較的自由になしうることが必要です。しかるに従来の技術においては、上述のごとく、互いに噛み合う複数のギアが複数のケースにまたがって配設されており、一のケースにおいて一のギアの配置は設計上適宜に決められるとしても、これと組み合わされる他のケースにおいてはギアの配置は前記一のケース及び前記一のギアの配置により規定されてしまい、設計上適宜には決められません。すなわちかかる分野における技術水準においては、軸及び軸受の配置は設計上適宜に決め得なかったことを主張いたします。翻って本願発明においては、収容部材本体とカバーとのみにギアを収容および支持せしめる構成を創作したことによって、軸及び軸受の配置を適宜に定めることを可能にしています。かかる構成を見た後に、上述のような技術水準を考慮することなくこれを設計事項とみなせば、これは所謂後知恵に該当するものと思料されます。本願発明の進歩性は、技術水準における当業者の常識に反して、ギアの配置を他の部材とは独立に規定することを可能とする技術的思想の創作が容易か否かに基づいて、ご判断されることをお願い申し上げます。」(同意見書の(拒絶理由について)の項参照)と主張するなど、本願は特許されるべき旨主張している。
確かに審判請求人が主張するとおり「一のケースにおいて一のギアの配置は設計上適宜に決められるとしても、これと組み合わされる他のケースにおいてはギアの配置は前記一のケース及び前記一のギアの配置により規定されてしま」うことがあり得るとしても、本願補正発明は、このことが困難であることを裏付けるための構成、例えば、ケースと特定の軸受の関係やケースがギアを支持して位置決めをする手段などの構成が特定されていない以上、上記主張は採用の限りでない。
また、審判請求人は、平成21年11月5日付けの審尋に対する回答書において、「例えば文献1(特開平4-249656号公報)が開示するトランスアクスルのうち、本願発明の収容部材に該当する部分は、第1ケース26と、第1リテーナ44と、第2リテーナ54と、第2ケース28と、第3ケース72とにより構成されています(0013段落および図1参照)。第3ケース72は、図1から明らかなように、さらに本体部分と、図中その下側に固定されるカバー部分とに分割されます。ドライブベベルギヤ20、ドリブンベベルギヤ22、ドライブスプロケット64、ドリブンスプロケット68、およびこれらの各軸受は、これら別個の部材の全てによらなければ収容および支持されません(0015乃至0016段落および図1参照)。すなわち、方向変換ギア組およびギア組よりなる動力伝達機構と、その軸受とを収容および支持するにつき、本願発明の収容部材本体に該当する部材がなく、少なくとも3つに分割されたケースを必要とする点で、請求項1に係る発明とは、構成上の明らかな相違があります。」などと主張しているが、本願補正発明において特定されたケーシングが、設計事項の範ちゅうを超えるものではないことは上記に説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年7月15日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成21年4月17日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項3】
駆動力の回転方向を直角方向に変換する、第一の方向変換ギアと第二の方向変換ギアを備えた、方向変換ギア組と、
前記第二の方向変換ギアと同軸に一体的に回転する第一のギアと、
前記第一のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第二のギアと、
前記第二のギアと平行に配置されて互いに噛み合う第三のギアと、
前記方向変換ギア組と前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを収容するケーシングであって、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを回転可能に支持するケーシング本体と、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆うカバーとを有したケーシングと、
を備えた、ギア機構。」

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、前置審査における最後の拒絶理由において引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物1:特開平4-249656号公報
刊行物2:特開昭59-69553号公報

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「ギア機構」についての限定事項である「自動車のトランスファケースに用いられるギア機構」である点、「前記第一の方向変換ギアを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う第一のカバーと」、前記第一のギアと前記第二のギアと前記第三のギアとを内部に収めるべく前記ケーシング本体を覆う「第二の」カバーとを有したケーシングである点、及び「前記ケーシングは、内部に収められた前記第一の方向変換ギアおよび前記第一ないし第三のギアを支持して位置決めすることにより前記方向変換ギア組および前記第一ないし第三のギアを相互に正常に噛み合いをせしめるべく構成されている」点の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、前置審査における最後の拒絶理由に応答した手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項3に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項3に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1及び2並びに請求項4ないし14に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-03-23 
結審通知日 2010-03-30 
審決日 2010-04-28 
出願番号 特願2005-505474(P2005-505474)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 川本 真裕
大山 健
発明の名称 支持構造を備えたギア機構  
代理人 三好 秀和  

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