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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) H01L |
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管理番号 | 1218122 |
判定請求番号 | 判定2009-600049 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2009-12-17 |
確定日 | 2010-06-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3628613号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「半導体構成素子のための耐高圧縁部構造」は、特許第3628613号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号図面並びにその説明書に示す発明(以下「イ号発明」という。)は、特許第3628613号発明(以下「本件特許発明」という。)の技術範囲に属しない、との判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 本件特許発明は、本件特許明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15(以下「本件請求項1ないし15」などという。)に記載されている事項により特定されるとおりのものである。そして、本件請求項2ないし15は、本件請求項1を引用するものであるから、まず、本件請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)について、イ号発明との対比を行う。 本件特許発明1は、本件明細書等の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認められ、これを構成要件ごとに分説すると、次のとおりである。(以下「構成要件A」などという。) 「A 半導体構成素子の縁部領域(RB)における耐高圧縁部構造であって、 B 半導体ボディ(1)を有し、 C 該半導体ボディ(1)の第1の表面(3)には第1の伝導タイプの少なくとも1つの内部ゾーン(2)が隣接しており、 D 該内部ゾーン(2)に配置された第2の伝導タイプの少なくとも2つのフローティングガードリング(15)を有し、 E それぞれ前記内部ゾーン(2)に配置された前記第1の伝導タイプのリング間ゾーン(16)を有し、 F 該リング間ゾーン(16)は、それぞれ2つの隣接する前記フローティングガードリング(15)の間に互いに間隔があくように横方向に配置されている、 G 半導体構成素子の縁部領域(RB)における耐高圧縁部構造において、 H 前記フローティングガードリング(15)及び前記リング間ゾーン(16)の伝導率及び/又はジオメトリは、阻止電圧が印加されると前記フローティングガードリング(15)及び前記リング間ゾーン(16)の自由な電荷担体が完全に除去されるように調整されていることを特徴とする、 I 半導体構成素子の縁部領域(RB)における耐高圧縁部構造。」 第3 イ号発明 判定請求書に添付されたイ号説明書及びイ号図面には、以下に示す「耐高圧縁部構造」(イ号発明)が記載されているものと認められる。 「シリコン基板からなる高濃度N型基板101と、 前記高濃度N型基板101上に成膜されたNドリフト層102と、 前記Nドリフト層102中に配置され、前記Nドリフト層102の内部に埋め込まれた幅狭部115aと、前記幅狭部115aの上部に隣接して配置された幅広部115bとが一体的に形成され、前記幅広部115bの下には1本若しくは複数本の前記幅狭部115aが接続された、P型不純物が含まれた断面T字型若しくは断面櫛歯型のフローティングガードリング115と、 前記Nドリフト層102において、前記フローティングガードリング115間に配置されたリング間ゾーン116と、を有し、 前記フローティングガードリング115の前記幅狭部115aに含まれるP型不純物の総量と、前記幅狭部115a間の第1リング間ゾーン116aに含まれるN型不純物の総量とは、互いに等しくなるように設計されており、前記フローティングガードリング115の前記幅広部115bに含まれるP型不純物の総量のほうが、前記幅広部115b間の第2リング間ゾーン116bに含まれるN型不純物の総量よりも多い状態となっており、阻止電圧を印加したときに、前記第1リング間ゾーン116aおよび前記第2リング間ゾーン116bは空乏化され、前記幅広部115bの内部は空乏化されない領域が生じる、 半導体素子の縁部領域における耐高圧縁部構造。」 ここにおいてイ号発明を、本件特許発明1の記載と整合するように整理し、本件特許発明1と対応するように分説すると、以下のとおりとなる。 「a 半導体素子の縁部領域における耐高圧縁部構造であって、 b 高濃度N型基板101を有し、 c 該高濃度N型基板101の第1の表面にはNドリフト層102が隣接しており、 d 該Nドリフト層102に配置された、表面側において幅広に形成された幅広部を有し、該幅広部の下に該幅広部よりも幅の狭い幅狭部が1本若しくは複数本接続された断面T字型若しくは断面櫛歯型の形状を有し、且つ、前記幅広部の不純物濃度が前記幅狭部の不純物濃度よりも高い、P型不純物が含まれた複数のフローティングガードリング115を有し、 e それぞれ前記Nドリフト層102に配置されたN型のリング間ゾーン116を有し、 f 該リング間ゾーン116は、それぞれ2つの隣接する前記フローティングガードリング115の間に互いに間隔があくように横方向に配置されている、 g 半導体構成素子の縁部領域における耐高圧縁部構造において、 h 前記フローティングガードリング115の前記幅狭部115aに含まれるP型不純物の総量と、前記幅狭部115a間の第1リング間ゾーン116aに含まれるN型不純物の総量とは、互いに等しくなるように設計されており、前記フローティングガードリング115の前記幅広部115bに含まれるP型不純物の総量のほうが、前記幅広部115b間の第2リング間ゾーン116bに含まれるN型不純物の総量よりも多い状態となっており、阻止電圧を印加したときに、前記第1リング間ゾーン116aおよび前記第2リング間ゾーン116bは空乏化され、前記幅広部115bの内部は空乏化されない領域が生じることを特徴とする、 i 半導体素子の縁部領域における耐高圧縁部構造。」 第4 本件特許発明1とイ号発明との対比 次に、イ号発明の各構成a?iが、それぞれ本件特許発明1の各構成要件A?Hを充足するものであるか否かについて検討する。 (1)構成要件Aについて イ号発明の「半導体素子」は、本件特許発明1の「半導体構成素子」に相当する。 したがって、イ号発明の構成要件aは、本件特許発明1の構成要件Aを充足する。 (2)構成要件Bについて イ号発明の「高濃度N型基板101」は、本件特許発明1の「半導体ボディ(1)」に相当する。 したがって、イ号発明の構成要件bは、本件特許発明1の構成要件Bを充足する。 (3)構成要件Cについて イ号発明の「Nドリフト層102」は、本件特許発明1の「第1の伝導タイプの」「内部ゾーン(2)」に相当する。 したがって、イ号発明の構成要件cは、本件特許発明1の構成要件Cを充足する。 (4)構成要件Dについて イ号発明の「P型不純物が含まれた」「フローティングガードリング115」は、本件特許発明1の「第2の伝導タイプの」「フローティングガードリング(15)」に相当する。 したがって、イ号発明の構成要件dは、本件特許発明1の構成要件Dを充足する。 (5)構成要件Eについて イ号発明の「リング間ゾーン116」は、N型であることは明らかであり、本件特許発明1の「第1の伝導タイプのリング間ゾーン(16)」に相当する。 したがって、イ号発明の構成要件eは、本件特許発明1の構成要件Eを充足する。 (6)構成要件Fについて イ号発明の構成要件fは、本件特許発明1の構成要件Fを充足することが明らかである。 (7)構成要件Gについて イ号発明の構成要件gは、本件特許発明1の構成要件Gを充足することが明らかである。 (8)構成要件Hについて イ号発明は、「前記フローティングガードリング115の前記幅狭部115aに含まれるP型不純物の総量と、前記幅狭部115a間の第1リング間ゾーン116aに含まれるN型不純物の総量とは、互いに等しくなるように設計されており、前記フローティングガードリング115の前記幅広部115bに含まれるP型不純物の総量のほうが、前記幅広部115b間の第2リング間ゾーン116bに含まれるN型不純物の総量よりも多い状態となっており、阻止電圧を印加したときに、(当審注:下線部は、当審において付与したものである。以下同じ。)前記第1リング間ゾーン116aおよび前記第2リング間ゾーン116bは空乏化され、前記幅広部115bの内部は空乏化されない領域が生じる」という構成を備えているから、当該イ号発明においては、フローティングガードリング(115)及びリング間ゾーン(116)の伝導率及び/又はジオメトリは、阻止電圧が印加されるとフローティングガードリング(115)の自由な電荷担体が残るように調整されているものと認められる。 したがって、イ号発明の構成要件hは、本件特許発明1の構成要件Hを充足しない。 (9)構成要件Iについて イ号発明の構成要件iは、本件特許発明1の構成要件Iを充足することが明らかである。 (10)対比についてのまとめ 以上のとおりであるから、イ号発明は、本件特許発明1の構成要件Hを充足せず、その余の構成要件を充足するものと認められる。 第5 イ号発明が本件特許発明1の技術的範囲に属するものであるか否かの判断 (1)はじめに 上記第4において検討したとおり、イ号発明は、本件特許発明1の構成要件Hを充足しない。 そこで、以下において、イ号発明が、本件特許発明1の構成要件Hと均等な構成を備えているか否かにつき検討する。 (2)均等の要件 最高裁判所平成10年2月24日判決(平成6年(オ)第1083号特許権侵害差止等請求事件)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存在する場合であっても、次の5要件を満たすときは、当該対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属する旨を判示する。 第1要件 「相違点が特許発明の本質的部分でないこと」 第2要件 「相違点を対象製品等におけるものと置換しても特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏すること」 第3要件 「置換について、当業者が対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたこと」 第4要件 「対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考できたものではないこと」 第5要件 「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情のないこと」 (3)イ号発明が均等の要件を満たすものであるか否かの検討 イ号発明が、前記第1要件を満たすか否かについて検討する。 本件特許明細書に「【0007】 この従来技術に基づいて、本発明の課題は、半導体構成素子に対する簡単かつ占有面積を節減するような耐高圧縁部構造の構成を提供し、さらに、この耐高圧縁部構造の構成は再現可能であるような高い降伏電圧を保障する。 【0008】 本発明によれば、上記課題は請求項1の特徴部分記載の構成を有する上位概念記載の縁部構造によって解決される。 【0009】 本発明によれば、フローティングガードリング及び/又はリング間ゾーンの伝導率及び/又はジオメトリは、阻止電圧が印加されるとフローティングガードリング及び/又はリング間ゾーンの電荷担体が完全に除去される、すなわち空乏化されるように調整されている、上位概念記載の縁部構造が設けられる。」と記載されていることからも明らかなように、本件特許発明1は、 「フローティングガードリング及び/又はリング間ゾーンの伝導率及び/又はジオメトリは、阻止電圧が印加されるとフローティングガードリング及び/又はリング間ゾーンの電荷担体が完全に除去される(すなわち空乏化されるように)調整されている」という構成、すなわち、構成要件Hを備えることにより、「半導体構成素子に対する簡単かつ占有面積を節減するような耐高圧縁部構造の構成を提供し、さらに、この耐高圧縁部構造の構成は再現可能であるような高い降伏電圧を保障する」という従来技術では解決し得なかった課題を解決することができるものと認められる。 したがって、本件特許発明1の構成要件Hは、本件特許発明1にとって、課題解決のために欠くことのできない発明の本質的部分であると認められ、上記第4(8)で述べたように、本件特許発明1の構成要件Hを充足しないイ号発明は、前記第1要件を満たさないものと認められる。 (4)さらにいえば、判定請求書に添付された甲第7号証には、以下の記載がある。(なお、判定請求書に甲第7号証として添付されているのは、平成16月5月31日付け手続補正書であるが、判定請求書に引用されているのは、平成16月5月31日付け提出の手続補正書(方式)であり、その引用内容も同手続補正書(方式)の記載内容と相違ないので、以降、同手続補正書(方式)を甲第7号証とみなす。) 「ここで本願発明と引用文献1に記載の半導体装置とを比較すると、確かに引用文献1のN+基板1及びN-エピタキシャル層2は本願発明の半導体ボディ1に相当し、またディプレッションリング11はフローティングガードリング16に相当しており、構造は見かけ上類似しているよう思われます。しかしながら、この引用文献1に記載の半導体装置の構造においては、その図1bに示されている電界強度の度合からも明らかでありますように、ディプレッションリング11内の電界強度は零に降下しており、したがって逆電圧が印加された場合にディプレッションリング11間の電荷担体が除去され空乏化されても、このディプレッションリング11の電荷担体は完全には除去されず、空乏化されません。 これに対して本願発明はその耐高圧縁部構造において、阻止電圧が印加された場合に、リング間ゾーン15及びフローティングガードリング16の自由な電荷担体が完全に除去されることを基礎としております。つまり本願発明では引用文献1記載の半導体装置とは異なり、阻止電圧が印加された場合、リング間ゾーン15だけではなくフローティングガードリング16においても自由な電荷担体が完全に除去され、その結果リング間ゾーン15及びフローティングガードリング16の両方が空乏化されます。 このようなリング間ゾーン15及びフローティングガードリング16の両方が空乏化されることは引用文献1には記載されておらず、したがいまして本願発明の請求項1記載の特徴を有する耐高圧縁部構造は引用文献1記載の半導体装置とは異なるものであり、また容易に想到できるものでもありません。 また本願発明のこのような構成を採用することにより、半導体構成素子に対する簡単且つ占有面積を削減する耐高圧縁部構造が達成され、またこの構造により高い再現可能な降伏電圧を保証することができます。 以上の説明により、本願発明の請求項1記載の発明は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違背するものではありません。」 したがって、上記記載からも、本件特許発明1にとって、「フローティングガードリング及びリング間ゾーンの伝導率及び/又はジオメトリは、阻止電圧が印加されるとフローティングガードリング及びリング間ゾーンの電荷担体が完全に除去される(すなわち空乏化される)ように調整されている」こと、すなわち、構成要件Hを備えていることが、課題解決のために欠くことのできない発明の本質的部分であり、そのような構成要件Hを備えていないイ号発明は、前記第1要件を満たしていないことが明らかである。 したがって、前記第2要件ないし第5要件について検討するまでもなく、イ号発明と本件特許発明1とが均等であるとはいえない。 (4)判断についてのまとめ 以上、検討したとおり、イ号発明は本件特許発明1のすべての構成要件を充足せず、かつ、イ号発明と本件特許発明1とが均等であるとも認められないから、イ号発明が本件特許発明1の技術的範囲に属しないことは明らかである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、イ号発明は、本件請求項1に係る発明の技術的範囲に属さず、本件請求項1を引用する本件請求項2ないし15に係る発明の技術的範囲にも属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2010-05-28 |
出願番号 | 特願2000-519469(P2000-519469) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
小野田 誠 市川 篤 |
登録日 | 2004-12-17 |
登録番号 | 特許第3628613号(P3628613) |
発明の名称 | 半導体構成素子のための耐高圧縁部構造 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 山崎 利臣 |
代理人 | 廣保 直純 |
代理人 | 矢野 敏雄 |