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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A01N
管理番号 1218540
審判番号 無効2009-800071  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-03-31 
確定日 2010-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4191243号発明「害虫防除方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4191243号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4191243号は、その出願(特願平8-507182号)が1995年8月7日(優先権主張1994年8月8日、日本国)を国際出願日としてなされ、平成20年9月26日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、本件無効審判が請求された。審判における手続の経緯は以下のとおりである。
平成21年 3月31日 審判請求書・上申書
(請求人 大日本除蟲菊株式会社)
甲第1号証?甲第7号証提出
平成21年 6月29日 審判事件答弁書・訂正請求書(被請求人)
乙第1号証?乙第4号証提出
平成21年 8月10日 審判事件弁駁書(請求人)
参考資料1?参考資料6の3提出
平成21年 8月11日 手続補正書(請求人)
平成21年 8月28日付け 補正許否の決定(許可)
平成21年10月 1日 審判事件再答弁書・訂正請求書(被請求人)
乙第5号証提出
平成22年 1月15日 口頭審理陳述要領書(1)?(3)(請求人)
参考資料7?参考資料8の4提出
平成22年 1月15日 口頭審理陳述要領書・上申書(被請求人)
乙第6号証?乙第8号証の3提出
平成22年 1月15日 第1回口頭審理
平成22年 1月29日 上申書(被請求人)
乙第9号証の1?乙第10号証提出
平成22年 2月10日 上申書(請求人)
参考資料9?参考資料13提出
平成22年 3月 4日 上申書(被請求人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
被請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、平成21年10月1日付けで提出された訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することであり、訂正事項は、下記訂正事項a?wのとおりである。
なお、本件訂正の請求がされたことから、平成21年6月29日付けでした訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなす。

訂正事項a
発明の名称の「害虫防除方法」を「害虫防除用装置」と訂正する。

訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1の「1箇所以上に」を、「1箇所以上に、」と訂正する。

訂正事項c
特許請求の範囲の請求項1の「1.5×10^(-3)」を、「6.6×10^(-4)」と訂正する。

訂正事項d
特許請求の範囲の請求項1の「通気性担体」を、「ハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体」と訂正する。

訂正事項e
特許請求の範囲の請求項1の「当てて」を、「当てることにより」と訂正する。

訂正事項f
特許請求の範囲の請求項1の「通過させる」を、「通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除する」と訂正する。

訂正事項g
特許請求の範囲の請求項3の「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d1-シス/トランス-3-(2,2-ジメチルビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート、」を削除する。

訂正事項h
特許請求の範囲の請求項3の「プロペルニル」を、「プロピニル」と訂正する。

訂正事項i
発明の詳細な説明の段落【0009】の
「(1)装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上にcox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?1.5×10^(-3)mmHgである化合物から選ばれた1種以上の害虫防除成分を含む薬剤を通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを非加熱下で該薬剤保持材に当てて、該薬剤保持材内を通過させることを特徴とする害虫防除用装置。」を、
「(1)装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上に、cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物から選ばれた1種以上の害虫防除成分を含む薬剤をハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを非加熱下で該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除することを特徴とする害虫防除用装置。」と訂正する(審決注:訂正箇所を下線により示す。)。

訂正事項j
発明の詳細な説明の段落【0009】の「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d1-シス/トランス-3-(2,2-ジメチルビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート、」を削除する。

訂正事項k
発明の詳細な説明の段落【0009】の「プロペルニル」を、「プロピニル」と訂正する。

訂正事項l
発明の詳細な説明の段落【0053】の【表2】の第2表中、最右欄第1行の「実施例」を、「参考例」と訂正する。

訂正事項m
発明の詳細な説明の段落【0057】の「実施例2」を「参考例1」と訂正する。

訂正事項n
発明の詳細な説明の段落【0060】の「実施例3」を「実施例2」と訂正する。

訂正事項o
発明の詳細な説明の段落【0061】の【表5】の第5表中、2行目右欄の「エンペントリン」を「エンペントリン(参考例)」と訂正する。

訂正事項p
発明の詳細な説明の段落【0062】の「実施例4」を「実施例3」と訂正する。

訂正事項q
発明の詳細な説明の段落【0062】の「No.1」を「No.1(参考例)」と訂正する。

訂正事項r
発明の詳細な説明の段落【0062】の「No.2」を「No.2(参考例)」と訂正する。

訂正事項s
発明の詳細な説明の段落【0063】の「実施例5」を「実施例4」と訂正する。

訂正事項t
発明の詳細な説明の段落【0063】の「No.8」を「No.8(参考例)」と訂正する。

訂正事項u
発明の詳細な説明の段落【0064】の「実施例6」を「実施例5」と訂正する。

訂正事項v
発明の詳細な説明の段落【0064】の「No.12」を「No.12(参考例)」と訂正する。

訂正事項w
発明の詳細な説明の段落【0065】の「1×10^(-3)」を、「6.6×10^(-4)」と訂正する。

2 訂正要件についての判断
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、発明の名称の「害虫防除方法」を「害虫防除用装置」と訂正するものであるが、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明が「害虫防除用装置」に係るものであることから、発明の名称をそれに整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「1箇所以上に」を、「1箇所以上に、」と訂正するものであるが、文章を理解しやすくするために読点を加えたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧」の数値規定において、訂正前の上限値「1.5×10^(-3)」を、「6.6×10^(-4)」と訂正し、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0052】?【0056】に記載された実施例1において、使用された薬剤のうち、最も蒸気圧値の高い「テラレスリン」の蒸気圧値「6.6×10^(-4)」を上限とするものであるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「通気性担体」を、「ハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体」と訂正するものであり、通気性担体の構造を上記「ハニカム状、・・・又は網状」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】の記載に基づくものであるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項eについて
訂正事項eは、特許請求の範囲の請求項1において、「当てて」との記載を、「当てることにより」と訂正するものであるが、本件訂正前の請求項1における「該薬剤保持材に当てて」と、これに続く「該薬剤保持材内を通過させ」との関係を明りょうにするためにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】の記載に基づくものであるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項fについて
訂正事項fは、特許請求の範囲の請求項1において、「通過させる」を、「通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除する」と訂正するものであるが、本件訂正前の請求項1における「気体の流れ・・・を通過させ」ることと、害虫防除の関係を明りょうにするためにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】、【0014】の記載に基づくものであるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項gについて
訂正事項gは、特許請求の範囲の請求項3に記載された複数の化合物から、「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d1-シス/トランス-3-(2,2-ジメチルビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート、」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、該訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項h及びkについて
訂正事項h及びkは、「(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロペルニル)-2-シクロペンテニル (+)-シス/トランス-クリサンテマート」という化合物名における「プロペルニル」を「プロピニル」に訂正するものであるが、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】の「一般名プラレトリン」である化合物の名称の記載からみて、上記「プロペルニル」が「プロピニル」の誤記であることは明らかであるから、上記訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「出願当初明細書」という。)には、「一般名プラレトリン」である化合物の名称が記載されているから(審決注:出願当初明細書の内容は甲第5号証の2に開示されており、その14頁20?22行参照)、該各訂正は、出願当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項i、j及びwについて
訂正事項i、j及びwの各訂正は、訂正事項b?gに伴い、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項l?vについて
訂正事項l?vは、訂正事項c(特許請求の範囲の請求項1において、蒸気圧値の数値範囲が減縮されたこと)及び訂正事項g(特許請求の範囲の請求項3において、「1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d1-シス/トランス-3-(2,2-ジメチルビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート、」が削除されたこと)によって、当該数値範囲から除外され、削除された化合物の一般名である「エンペントリン」(特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】参照)について記載されている実施例の表記を改めるもので、
「実施例」を「参考例」とし(訂正事項l)、
「エンペントリン」や「No.1」等の後に「(参考例)」を付加し(訂正事項o、q、r、t、v)、
「実施例2」を「参考例1」とし(訂正事項m)、これに伴い、
「実施例3」?「実施例6」を順次繰り上げて「実施例2」?「実施例5」とする(訂正事項n、p、s、u)ものである。
上記各訂正は、訂正事項c及びgに伴い、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明3」という。)は、訂正明細書又は図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。

「【請求項1】 装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上に、cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物から選ばれた1種以上の害虫防除成分を含む薬剤をハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを非加熱下で該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除することを特徴とする害虫防除用装置。
【請求項2】 前記薬剤保持材は、前記通気路内に設置した時、該保持材内を通気路の気体の流れが通過するものであることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用装置。
【請求項3】 前記化合物が、d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート、(5-ベンジル-3-フリル)メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート、5-プロパギル-2-フリルメチル d-シス/トランス-クリサンテマート、(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート、d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d1-シス/トランス-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用装置。」

第4 請求人の主張の要点
1 本件審判請求の趣旨及び審判請求書における無効理由の概要
請求人は、「特許第4191243号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めて、本件審判を請求した。審判請求書における無効理由の概要は、本件訂正に伴い整理すると、下記(1)?(3)のとおりである(以下、それぞれ「無効理由1」?「無効理由3」という。)。

(1)無効理由1
特許法第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う本件特許出願に係る本件訂正発明1?3については、優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明とはいえないから、先の出願の時(以下、先の出願の出願日を「優先日」という。)にされたものとみなすことができない。そうすると、本件訂正発明1?3は、本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件訂正発明1?3は、本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3
本件訂正発明1?3は、本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 審判請求書の補正による追加された無効理由の概要
請求人より提出された平成21年8月10日付けの審判事件弁駁書及び同月11日付けの手続補正書により、審判請求書の補正がなされ、上記「無効理由1」?「無効理由3」に、新たに下記の無効理由が追加された。この理由は、無効理由3の一部として記載され、適用条文及び引用刊行物が無効理由3と同一であるが、甲第4号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとするものである点で無効理由3と異なるものである(以下、この理由を「無効理由4」という。)。
当該無効理由についての補正は、平成21年8月28日付けで、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、決定をもって許可されている。

無効理由4
本件訂正発明1?3は、本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3 請求人の主張の撤回
請求人は、平成22年1月15日の第1回口頭審理調書のとおり、以下のa及びbの記載を撤回し、被請求人は該撤回に同意した。

a 審判請求書第17頁第15行の「第1項」は撤回する。

b 請求人が提出した平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書(1)第1頁第22?23行の「新規性(特許法第29条第1項)又は」及び同書第4頁第4?5行の「4.かくして、優先権主張が不可能であることを考慮するならば、本件発明は、甲第2号証との関係において新規性を維持することができない。」を撤回する。

4 本件審判請求の無効理由の概要のまとめ
以上のとおり整理した結果、請求人の主張する無効理由は、上記1及び2に記載した「無効理由1」?「無効理由4」であるということができる。

5 証拠方法
請求人は証拠方法として、審判請求書に添付して甲第1号証?甲第7号証、平成21年8月10日付け審判事件弁駁書に添付して参考資料1?参考資料6の3、平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書(2)に添付して参考資料7、同日付け口頭審理陳述要領書(3)に添付して参考資料8の1?参考資料8の4及び平成22年2月10日付け上申書に添付して参考資料9?13を提出しており、それぞれ以下のとおりである。

甲第1号証:特許第4191243号公報(本件特許公報)
甲第2号証:実願平5-75890号(実開平6-75179号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM
(審決注:審判請求書第2頁における「実開平6-75179号公報及びこれと一体をなす実願平5-75890号出願書類のマイクロフィルム」との記載は、誤記と認められる。)
甲第3号証:特開平5-68459号公報
甲第4号証:特開平6-165631号公報
甲第5号証の1:特願平6-185986号出願に係る明細書、図面及び要約書
甲第5号証の2:国際公開第96/04786号の再公表特許公報
甲第6号証の1:奥野吉俊 外2名著、新規揮散性ピレスロイド・ベーパースリン^(R)(審決注:Rは○で囲まれている。)-衣料防虫分野への開発-、「住友化学」、1983-II、12?26頁
甲第6号証の2:「SHORT REVIEW OF INSECTICIDES」, The Japan Liaison Council of Agricultural Technical Products., 1980年9月、146?157頁
甲第6号証の3:Tadahiro Matsunaga 外5名著, J. MIYAMOTO外5名編, NEW PYRETHROID INSECTICIDES FOR INDOOR APPLICATIONS, 「PESTICIDE CHEMISTRY: HUMAN WELFARE AND THE ENVIRONMENT」(Proceedings of the 5th International Congress of Pesticide Chemistry, Kyoto, Japan, 29 August - 4 September 1982), Volume 2 「NATURAL PRODUCTS」, PERGAMON PRESS, 231?238頁
甲第6号証の4:伊藤高明 外2名著、殺虫剤の残効性について、「木材保存」、1976年第3号、30?35頁
甲第6号証の5:住友化学工業株式会社(担当部門 農業化学品管理室)作成、「製品安全データシート」、平成5年3月1日作成、ベーパースリン(1/3)?(3/3)
甲第6号証の6:特開平6-92807号公報
甲第6号証の7:新庄五朗 外5名、新規高ノック性ピレスロイド“エトック^(R)(審決注:Rは○で囲まれている。)”の開発、「住友化学」、1989-II、4?18頁
甲第7号証:日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、「農薬の製剤技術と基礎」、社団法人 日本植物防疫協会、昭和63年10月5日、16?22頁

参考資料1:大木道則 外3名編、「化学辞典」、株式会社 東京化学同人、2000年10月2日第1版第6刷発行(1994年10月1日第1版第1刷発行)、334頁、681頁、677頁、319頁、763頁
参考資料2:新村出編、「広辞苑 第六版」、株式会社 岩波書店、2008年1月11日第6版第1刷発行、1377頁、673頁、「じょうはつ(蒸発)」掲載の頁、697頁、「すのこ(簀の子)」掲載の頁
参考資料3:特開2000-189032号公報
参考資料4:実願昭53-84226号(実開昭55-954号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
参考資料5:建築用語辞典編集委員会編、「建築用語辞典(第二版)」、技報堂出版株式会社、1999年2月25日2版3刷発行(1995年4月10日2版1刷発行)、508頁
参考資料6の1:実開平4-126723号公報
参考資料6の2:実願昭51-58062号(実開昭52-147739号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
参考資料6の3:実願昭63-37289号(実開平1-140956号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
参考資料7:Geoffrey G. Briggs 外2名著,J. MIYAMOTO外5名編, PRESENT STATUS AND FUTURE PROSPECTS FOR SYNTHETIC PYRETHROIDS, 「PESTICIDE CHEMISTRY: HUMAN WELFARE AND THE ENVIRONMENT」(Proceedings of the 5th International Congress of Pesticide Chemistry, Kyoto, Japan, 29 August - 4 September 1982), Volume 2 「NATURAL PRODUCTS」, PERGAMON PRESS, 157?164頁
参考資料8の1:独立行政法人工業所有権情報・研修館ホームページによる特許電子図書館において、2010年1月13日に照会及び印刷された特開2005-315213号公報(審決注:2005年11月10日に公開されたものとみなす。)
参考資料8の2:独立行政法人工業所有権情報・研修館ホームページによる特許電子図書館において、2010年1月13日に照会及び印刷された特開2002-129664号公報(審決注:2002年5月9日に公開されたものとみなす。)
参考資料8の3:独立行政法人工業所有権情報・研修館ホームページによる特許電子図書館において、2010年1月13日に照会及び印刷された特開2002-350366号公報(審決注:2002年12月4日に公開されたものとみなす。)
参考資料8の4:独立行政法人工業所有権情報・研修館ホームページによる特許電子図書館において、2010年1月13日に照会及び印刷された特開2009-183541号公報(審決注:2009年8月20日に公開されたものとみなす。)
参考資料9:社団法人 日本建築学会編、「建築学用語辞典 第2版」、株式会社 岩波書店、1999年9月8日第2版第1刷発行、374?375頁
参考資料10:特開平5-32509号公報
参考資料11:日本家庭用殺虫剤工業会、「家庭用殺虫剤とピレスロイド-その使い方と安全性」と称する資料(07.03改訂と記載された用紙添付)、16?22頁
参考資料12:特開平2-282309号公報
参考資料13:W. Behrenz and K. Naumann, Properties and potentialities of NAK1654(fenfluthrin), a new pyrethroid for the control of household, public health and stored-product pests, 「PFLANZENSCHUTZ-NACHRICHTEN」 35/1982.3, 309頁、322?324頁

第5 被請求人の反論の要点
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件明細書の訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、概略以下の(1)?(3)のとおり、請求人の主張はいずれも失当であり、本件訂正発明1?3についての特許は、請求人が主張する無効理由1?4にいずれも該当しておらず、無効とすることはできない、と主張しているものと認められる。

(1)無効理由1について
平成21年10月1日付け審判事件再答弁書と同日付けで提出した訂正請求書において、30℃での蒸気圧の上限値を「6.6×10^(-4)」と訂正したため、本件の国内優先権主張は有効に成立することに疑義はなくなったので、特許法第29条第2項に関する進歩性は、国内優先権の主張の基礎となる先の出願の出願日(優先日)に基づき判断されるべきである。
従って、請求人が提出した甲第2号証は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物でないから、本件訂正発明1?3が、甲第2号証との関係において特許法第29条第2項に基づき進歩性を有していないとする請求人の主張は成り立たない。
(2)無効理由2について
本件訂正発明1?3は、甲第3号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由3及び無効理由4について
本件訂正発明1?3は、甲第3号証及び甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、被請求人が提出した平成22年1月29日付け上申書には、「平成22年1月15日の口頭審理において、平成21年8月11日付けで請求人が提出した手続補正書により、請求の理由が、甲第4号証を主引例とするものに変更されたとされ、審判官殿はそれを「無効理由4」と称していたようであるが、いずれにせよ、上記手続補正書により補正された結果、現時点での請求人の「三番目の無効理由」は、甲第4号証を主引例とし、それに甲第3号証等を組み合わせれば容易との進歩性なし(特許法第29条第2項)の主張と解されるから、その無効理由自体を何と呼ぼうと、それに対する実質的な反論は、被請求人は既に充分なし得ているものと考える。」(9頁17?24行)と記載されているので、被請求人は無効理由4についても実質的な反論を行っているものと解される。

2 証拠方法
被請求人は、証拠方法として、平成21年6月29日付け審判事件答弁書に添付して乙第1号証?乙第4号証、平成21年10月1日付け審判事件再答弁書に添付して乙第5号証、平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書に添付して乙第6号証?乙第8号証の3及び平成22年1月29日付け上申書に添付して乙第9号証の1?乙第10号証を提出しており、それぞれ下記のとおりである。

乙第1号証:鈴江光良試験実施及び報告、「試験報告書(4)」、平成21年6月23日
乙第2号証:特願平8-507182号の平成18年1月10日付け意見書
乙第3号証:鈴江光良試験実施及び報告、「試験報告書(1)」、平成18年3月26日
乙第4号証:鈴江光良試験実施及び報告、「試験報告書(2)」、平成18年3月26日
乙第5号証:八田四郎次著、「化學工學概論(改訂版)」、共立出版株式會社、昭和26年2月28日四版印刷発行、35頁、43頁、69頁
乙第6号証:大木道則 外3名編、「化学大辞典」、株式会社 東京化学同人、1994年4月1日第1版第3刷発行(1989年10月20日第1版第1刷発行)、1114頁
乙第7号証の1:アース製薬株式会社研究部 小堀富広実施、「ジクロルボスとテラレスリンの通気及び非通気条件下での効力評価?通気試験法?」、平成21年12月21日
乙第7号証の2:アース製薬株式会社研究部 小堀富広実施、「ジクロルボスとテラレスリンの通気及び非通気条件下での効力評価?居室空間試験?」、平成21年12月21日
乙第8号証の1?3:「代表的な「すのこ」の写真」と称する資料
乙第9号証の1:新村出編、「広辞苑 第三版」、株式会社 岩波書店、昭和58年12月6日第3版第1刷発行、803頁
乙第9号証の2:梅棹忠夫 外3名監修、「講談社カラー版 日本語大辞典 第二版」、株式会社 講談社、2000年8月4日第2版第6刷発行(1995年7月3日第2版第1刷発行)、「こうし(格子)」掲載の頁
乙第9号証の3:株式会社 彰国社編、「建築大辞典 第2版<特装机上版>」、株式会社 彰国社、1993年6月10日発行、523頁
乙第10号証:アース製薬株式会社研究部 小堀富広実施、「DDVPとベンフルスリンの無風条件下における揮散性評価」、2010年1月25日

第6 主な甲号証等に記載された事項
下記甲号証及び参考資料には、以下の事項が記載されている。

1 甲第3号証
(甲3-1)「その内部及び/又はその表面に揮散性薬剤を保持させたことを特徴とする、駆動により揮散性薬剤を気中に拡散させるための薬剤拡散用材。」(請求項3)
(甲3-2)「【従来の技術】従来、揮散性薬剤を所定の場所に拡散させるに当っては、通常、揮散性薬剤又はそれを保持した担体を所定の場所に設置し、単に拡散による揮散をしているにとどまるが、それでは時間がかかるので、早く拡散させたい場合には、揮散性薬剤を保持する担体を加熱するか、あるいは送風機により空気を吹き出して、それを揮散性薬剤を保持する担体に当てることにより前記薬剤を強制的に揮散させる方法が知られている。
【発明が解決しようとする課題】担体に保持された薬剤を前記の送風機により強制的に揮散させる場合には、送られた風が揮散性薬剤を保持した担体と十分に接触しないためか、あるいは風が弱いために接触しても風力が小さく、前記担体からの薬剤の揮散化を促進する力が小さいために、十分満足しうる薬剤の拡散が行われなかった。
本発明は、このような送風機による送風により揮散性薬剤を強制的に揮散させる場合よりも、前記薬剤の揮散を十分良好に行いうる方法及びそのための薬剤を担持した薬剤拡散用材を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】?【0004】)
(甲3-3)「・・・本発明において用いる揮散性薬剤としては、従来より害虫駆除剤(殺虫剤、殺ダニ剤)、殺菌剤、忌避剤、芳香剤(香水、ハーブ等)、医薬品(メントール、ユーカリオイル等、気管、カゼ等吸入用薬剤)等の目的で使用されている各種の薬剤を使用できる。代表的な薬剤としては次のものが挙げられる。」(段落【0006】)
(甲3-4)「(I)殺虫剤・殺ダニ剤
(1)ピレスロイド系薬剤・・・
・d-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート(商品名エキスリン:住友化学工業株式会社製)・・・
・(5-ベンジル-3-フリル)メチル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名レスメトリン、商品名クリスロンフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「クリスロンフォルテ」という)・・・
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル dl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名エムペンスリン、以下「エムペンスリン」という)・・・
・(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート(商品名エトック:住友化学工業株式会社)
・d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート(一般名ベンフルスリン)」(段落【0007】?【0013】)
(甲3-5)「(2)有機リン系薬剤
・O,O-ジメチル O-(2,2-ジクロロ)ビニルホスフェート(以下、「DDVP」という)・・・」(段落【0015】)
(甲3-6)「また、ファンに保持させる揮散性薬剤が常温で揮散し難いものであって、その揮散量を多くしたいときには、送風機の空気導入路に加熱器を置いてファンと接触する空気を予熱するとか、ファンのそばに加熱器を置いてファンの面を加熱するなどの手段を採用することができる。その加熱温度は常温より20?100℃、あるいはそれ以上上昇させる程度で十分な効果がある。エムペンスリン、ベンフルスリンのように揮散性の強い薬剤の場合には20?30℃程度の上昇でも効果があるが、常温揮散性の低い薬剤の場合にはこの程度の上昇では効果がないため、もう少し上昇させることが必要である。」(段落【0036】)
(甲3-7)「・・・実施例2
本発明のファンとして、ポリ塩化ビニル樹脂1.4g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成型した4枚羽(直径2.5cm)のものを用いて、昆虫に対する活性試験を行った。
昆虫に対する殺虫活性試験容積が0.012m^(3) のガラス製円筒型水槽(内径23cm、高さ28.6cm)で、底に水約50mlを含浸させた綿を置き、ホシチョウバエ成虫約50頭を供試し、その空間の側面(上から5cm)に本発明のファンを有する送風機を装着し、これをそれに連結するモーターにより2100rpmで回転できるようにし、これを回転させて、薬剤を拡散させた。ただし、上記水槽の開口部をポリ塩化ビニリデンシートで覆って密閉空間とする。 この試験における薬剤の揮散・拡散性の違いは、空間内に供試したホシチョウバエ成虫のノックダウン時間の差によって評価した。また、対照として、薬剤を保持したファン(重量同じ)を空間中央に吊り下げただけのものを使用した。比較としては、ポリ塩化ビニル樹脂1.4g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成形した板状体を前記空間の側面の近くに吊り下げ、本発明のファンと同一形状のポリ塩化ビニル樹脂製のファンを本発明のファンと同一位置に置き、2100rpmで回転させ、その送風を前記板状体に当てるようにした。
その試験結果を表3に示す。

」(段落【0044】?【0047】)

2 甲第4号証
(甲4-1)「吸入口および吹出口とに連通する内部空間部に殺虫剤を設置するとともに、前記吸入口から取り入れた空気を前記吹出口の方に送って外部に放出するためのファンを備え、当該ファンの作動により、気化状態にある前記殺虫剤を前記空気とともに前記吹出口から外部に放出するようにした屋内用殺虫剤散布器において、
前記吸入口および吹出口のそれぞれを塞ぐためのシャッタを備え、
当該シャッタで前記吸入口および吹出口を塞ぐことにより、前記内部空間部が外部から遮断されるようにしたことを特徴とする屋内用殺虫剤散布器。」(請求項1)
(甲4-2)「前記殺虫剤が、本体とは分離可能なカセット容器に収納されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の屋内用殺虫剤散布器。」(請求項4)
(甲4-3)「本発明は、屋内において使用される殺虫剤散布器に関する。本発明は、特に飲食店の室内(厨房)などにおけるゴキブリ,ハエおよび蚊等の害虫の駆除を目的として、殺虫剤を外部に放出するためのファンと、吸入口および吹出口を塞ぐためのシャッタとを少なくとも備え、これらのファンやシャッタを手動操作やタイマ操作により所定の時間だけ動作させるようにした殺虫剤散布器に関する。また、この明細書において「屋内」の言葉は「飲食店の室内(厨房)」を指すことに限定するものではなく、広く一般家屋,ビルおよびスポーツ施設などの室内の意味も含むものとして用いている。」(段落【0001】)
(甲4-4)「上述した従来の屋内用殺虫剤散布器は、電動ファンが作動することによって吸入口から取り入れた空気を、殺虫剤とともに吹出口から放出させるものであり、殺虫剤を外部に放出するためには取り入れた空気と殺虫剤が混合するように、殺虫剤が散布器の内部において気化状態になっていることが必要である。
したがって、この種の屋内用殺虫剤散布器に使用される殺虫剤は、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質を有していればよく、実際上、取扱いが容易でかつ長期間の使用にも対応することができる固体もしくは液体の殺虫剤が用いられることが多い。
そして、従来の屋内用殺虫剤散布器の非使用モ-ドのとき、吸入口および吹出口は使用モ-ドのときと同じように開放状態となっているため、内部空間部に収納された(気化状態の)殺虫剤が外部に放出され、特に殺虫剤が無臭の場合には、屋内にいる人は当該放出に気がつかずにその悪影響を受けてしまうという問題点があった。」(段落【0007】?段落【0009】)
(甲4-5)「そこで、本発明の目的は、殺虫剤が不用意に外部に放出されないようにして、人体に対する安全性の確保と殺虫剤の無駄な放出を防止するとともに、殺虫剤の散布時間を各害虫の特徴に対応付けて設定する機能を屋内用殺虫剤散布器に付加することによって、各種の害虫に対して殺虫剤を効果的に散布できるようにすることである。」(段落【0013】)
(甲4-6)「図1は、タイマを用いた場合の基本構成を示す説明図であり、1は屋内用殺虫剤散布器、2は吸入口、3は吹出口、4は内部空間部、5はファン、6はファン駆動用モータ、7は散布動作制御部、8は電源スイッチ、9は散布動作開始時刻t_(0) および散布動作終了時刻t_(1) を設定するメインタイマ、10はメインタイマ8で設定された時間内で駆除対象の害虫の特徴に応じた散布動作態様を再設定するための個別タイマ、11,12はシャッタ、13,14はモータ、15は殺虫剤をそれぞれ示している。
ここで、吸入口2および吹出口3と連通する内部空間部4には、吸入口2から空気を取り入れて吹出口3から放出させるためのファン5やファン駆動用モータ6が設けられるとともに、蒸散しやすく蒸気圧が高い性質の殺虫剤15が設置されている。」(段落【0015】?【0016】)
(甲4-7)「次に、図6(a) は、屋内用殺虫剤散布器1の蓋16を取り外した状態を示しており、吸入口2および吹出口3に連通する内部空間部4を設け、この内部空間部4と吸入口2との間にファン5を備えている。そして、空間部4の背面側にはヒーター29が設けられている。
また、蓋16には、図6(b) に示すように、カセット容器31が蓋16の裏面に着脱自在に取り付けられており、このカセット容器31には複数の保持用突起32が形成されて、この保持用突起32間に複数の殺虫剤15を設置できるようにしている。
そのため、従来、屋内用殺虫剤散布器1が設置されている現場(厨房などの狭い場所)において殺虫剤15の交換を行っていたが、本発明では、別の広い場所で殺虫剤15をセットしたカセット容器31の単位で簡単に交換できる。」(段落【0043】?【0045】)
(甲4-8)「なお、この殺虫剤15に使用される薬剤には、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質の商品名DDVP(一般名ジクロルボス)を使用し、これは害虫に対する呼吸毒であり、屋内への散布量は設置する殺虫剤15の個数により調節する。例えば、殺虫剤15の寸法が長さ250mm,幅65mm,厚さ6mmの板状のものである場合、ハエ,蚊駆除用として用いる場合は2坪あたり1枚、ゴキブリ駆除用として用いる場合は1坪あたり2枚の殺虫剤15を使用する。
また、殺虫剤15は、DDVPを板状のプラスチックに含ませたもので、その殺虫効果は上記寸法の場合で約3か月にわたり、気温が22度?23度のときにその蒸散量が多くなる。なお、殺虫剤はDDVPに限定されるものではない。」(段落【0046】?段落【0047】)
(甲4-9)「また、図7は屋内用殺虫剤散布器1の側面から見た断面図であり、、吸入口2には、軸11aを中心に回動して開放状態と閉塞状態とに移動可能なシャッタ11を備えている。このシャッタ11は、連結部材33を介して回動部材33aの一端に連結されており、この回動部材33aは他端を屋内用殺虫剤散布器1内部に備えたモータ13の軸に固着されている。」(段落【0048】)
(甲4-10)「そして、ファン5の回転により吸入口2から取り込まれた空気は内部空間部4に入り込み、ここで複数の殺虫剤15の間を通る際に、気化状態の殺虫剤と混ざり合ってその後吹出口3から放出されることになる。」(段落【0053】)
(甲4-11)「ところで、吸入口2から取り入れる空気の温度が低いときには、殺虫剤の発散が妨げられ、殺虫剤の散布が有効に行われず所期の効果を奏しない場合があるため、このような場合には、空間部4の背面側に備えたヒーター30を作動させることにより、空間部4内の温度を上昇させて殺虫剤の発散が有効に行われるようにする。」(段落【0055】)
(甲4-12)「【図1】本発明の、基本構成を示す説明図である。・・・
【図6】本発明の、屋内用殺虫剤散布器の内部を示す斜視図で、 (a)は蓋を開けた状態を、また (b)は蓋の裏面側をそれぞれ示している。
【図7】本発明の、屋内用殺虫剤散布器の断面図である。」(【図面の簡単な説明】)
(甲4-13)「【図1】

」(図1)
(甲4-14)「【図6】

」(図6(a)及び(b))
(甲4-15)「【図7】

」(図7)

3 甲第6号証の6
(甲6の6-1)「次の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする衣類用防虫剤。一般式(1)
【化1】

(但し、X_(1),X_(2)は塩素及び/又はメチル基を表わす)」(請求項1)
(甲6の6-2)「本発明の衣類用防虫剤の有効成分である前記一般式(1)で表わされる化合物は、X_(1),X_(2)がいずれも塩素又はメチル基であるもの、あるいはいずれか一方が塩素で、他方がメチル基であるものがあるが、その一つの化合物についても多くの光学異性体、幾何異性体を有しているが、それらの中で特に好ましい化合物は、(+)1R,3S-トランス-2,2-ジメチル-3(2,2-ジクロロビニル)-シクロプロパンカルボン酸2,3,5,6-テトラフルオロベンジル(以下「化合物(1)という)である。その外、(-)1R-シス/トランス-2,2-ジメチル-3(2,2-ジクロロビニル)-シクロプロパンカルボン酸2,3,5,6-テトラフルオロベンジルや、(±)1R,S-シス/トランス-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-シクロプロパンカルボン酸 2,3,5,6-テトラフルオロベンジル(以下「化合物(2)」という)も使用できる。」(段落【0011】)
(甲6の6-3)「本発明の衣類用防虫剤は、イガ、コイガ等の衣類害虫に対して優れた防虫効果を発揮でき、しかもその有効成分が、適切な蒸気圧つまり従来高揮散ピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10^(-3)mmHg/30℃のオーダー)と一般のピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10^(-5)mmHg/30℃のオーダー)のほぼ中間である2.7×10^(-4)mmHg/25℃(外挿値)を有するため、常温においてガス効果および持続効果が充分期待でき、更に実質的に無臭でかつ毒性も極めて低いという卓越した諸性能を具備する。特に本発明の防虫剤の有効防虫濃度は、後述する試験例に示す通り、既に利用されている衣類用ピレスロイド系防虫剤であるエムペントリンとほぼ同等の含浸量の基材でエムペントリンより有効である事より、エムペントリン以上にイガ、コイガ等の衣類害虫に低濃度で有効である。」(段落【0012】)

4 参考資料2
(参2-1)「すのこ【簀子】○1(審決注:○付き数字。以下同様。)竹や葦で編んだ簀。○2水切りのため竹や板を間をすかせて張った床・縁、または台。浴室や流しに用いる。○3劇場の舞台の天井。ぶどう棚。○4角材をいう。平安時代の規格では方四寸。・・・」(「すのこ(簀の子)」掲載の頁)

5 参考資料5
(参5-1)「すのこ-(簀の子) (1) ・・・板や竹の細長い板を間を透かせて張った低い台.水切がよいため,縁や風呂場の床敷きに用いる.(2)・・・劇場の舞台天井.吊下げる物を支えるためにすのこ状に天井がつくられている(ぶどう棚).」(508頁)

6 参考資料9
(参9-1)「すのこ[簀の子] ・・・[1]小幅板または割竹,丸竹などを間を透かして張り並べて床に敷くものあるいは床.[各] [2]小幅板または竹を間を透かして張り並べた縁または室内床の総称.(=すのこ縁,すのこ床)[各・計・歴] [3]・・・劇場舞台の上部にあって吊物を支持するための小幅板を透かして並べた作業床.(375頁)

7 参考資料10
(参10-1)「次の一般式(1)で表わされる化合物を有効成分として含有することを特徴とするダニ駆除組成物。
一般式(1)
【化1】(審決注:式は省略)
(但し、X_(1) ,X_(2) は塩素及び/又はメチル基を表わす)」(特許請求の範囲の請求項1)
(参10-2)「本発明のダニ駆除組成物には、有効成分として前記一般式(1)で表わされる化合物の1種、又は2種以上を組み合わせたものを用い、場合によってはこの化合物単独でそのまま用いることができるが、通常は固体担体又は液体担体に保持させた後、必要に応じ塗膜形成剤、乳化剤、固着剤、分散剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤、揮散調整剤等を適宜添加することにより、油剤、乳剤、水和剤、噴霧剤、エアゾール剤、燻煙剤、塗布剤、洗浄剤、シャンプー、粉剤、粒剤、カプセル剤等の製剤として用いる。」(段落【0012】)
(参10-3)「また、本発明のダニ駆除組成物は上述の剤型の他に、有効成分を適当な基材に保持させることによって、殺ダニ成分を有するフィルム、シート、建築、構築材料などのダニ駆除材とすることも可能である。ここで用いられる基材としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等の合成樹脂シート:動植物繊維又は無機質繊維体(紙、布、不織布、皮革等):上記合成樹脂と動植物繊維体又は無機質繊維との混合シート、混紡布、又は、不織布:アルミニウム、ステンレス鋼、亜鉛などの金属の箔又はフィルム:上記各種シートの積層物:及び建築・構築材料とする各種天然木材やプラスチックの成型物などが挙げられる。これらの基材に、本発明のダニ駆除組成物を塗布、含浸、滴下、混練等により保持させればダニ駆除材が得られる。基材中の保持量は特に制限はなく適宜決定でき、上記基材への含浸による場合は、通常飽和含浸量となる量で用いることがこのましい。」(段落【0021】)
(参10-4)「【実施例】以下、試験例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などに限定されるものではない。
試験例
屋内塵性ダニ類の大多数を占めるコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides fari-nae 、以下「D.f.」という)と、ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae、以下「T.p.」という)を用いて本発明のダニ駆除組成物の有効成分の効力を調べた。
a.供試薬剤
本発明薬剤:(+)1R,3S-トランス-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)-、シクロプロパンカルボン酸2,3,5,6-テトラフルオロベンジル(一般名ベンスルスリン(審決注:「ベンフルスリン」の誤記と認められる。))(化合物(1))
比較薬剤:フェノトリン(3-フェノキシベンジルd-シス/トランス-クリサンテマート)90.0%(a.i.)以上
b.試験方法
上記供試薬剤の原液をアセトンで希釈し、黒紙(10×5cm)に薬剤の濃度が各0.5g/m^(2) 、2.5g/m^(2) になるよう均一に滴下処理した後、室内に数分間放置した。この黒紙を二つ折りにして5×5cmの大きさにして折り目以外の二方をクリップで留めた。折った中に生ダニのみを50頭程入れ、残り一方をクリップで留め完全に密封し、24時間後にこのクリップをはずし、実体顕微鏡(オリンパス社製)下でダニの生死を判定した。なお、対照として薬剤を含まないアセトンで処理した黒紙を用いて同様に試験した。
c.試験結果
致死率を下式により求め、結果を表1に2連の平均値で示した。
致死率(%)=〔(致死ダニ数)/(総ダニ数)〕×100
【表1】

」(段落【0025】?【0028】)
(参10-5)「・・・実施例14 風揮散性殺ダニ組成物
化合物(1)5(v/v)%及び有機溶剤95(v/v)%を混合し、パルプ製のハニカム状担体に含浸し、送風機にて風を当てることで殺ダニ成分を揮散させうる風揮散性殺ダニ組成物を調製した。」(段落【0029】)

第7 当審の判断
事案に鑑み、まず無効理由4について判断する。無効理由4は、甲第4号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとするものである。

1 甲第4号証に記載された発明
本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第4号証には、「吸入口および吹出口とに連通する内部空間部に殺虫剤を設置するとともに、前記吸入口から取り入れた空気を前記吹出口の方に送って外部に放出するためのファンを備え、当該ファンの作動により、気化状態にある前記殺虫剤を前記空気とともに前記吹出口から外部に放出するようにした屋内用殺虫剤散布器において、
前記吸入口および吹出口のそれぞれを塞ぐためのシャッタを備え、
当該シャッタで前記吸入口および吹出口を塞ぐことにより、前記内部空間部が外部から遮断されるようにしたことを特徴とする屋内用殺虫剤散布器。」(摘示(甲4-1))が記載されており、該屋内用殺虫剤散布器は、「害虫の駆除を目的」(摘示(甲4-3))として使用されるものである。
図1には、該屋内用殺虫剤散布器の基本構成が示されており、「吸入口2および吹出口3と連通する内部空間部4には、吸入口2から空気を取り入れて吹出口3から放出させるためのファン5・・・が設けられるとともに、蒸散しやすく蒸気圧が高い性質の殺虫剤15が設置」されることが記載されている(摘示(甲4-6)、(甲4-13))。
そして、該殺虫剤は、「本体とは分離可能なカセット容器に収納され」(摘示(甲4-2))と記載されているから、該屋内用殺虫剤散布器の本体における内部空間部に、ファンと本体とは分離可能なカセット容器に収納された殺虫剤を有するといえる。
さらに、該カセット容器は、図6(b)に示されるように、「複数の保持用突起32が形成されて、この保持用突起32間に複数の殺虫剤15を設置できるように」されたものであり(摘示(甲4-7)、(甲4-14))、該屋内用殺虫剤散布器の断面図を図7で示しつつ、「ファン5の回転により吸入口2から取り込まれた空気は内部空間部4に入り込み、ここで複数の殺虫剤15の間を通る際に、気化状態の殺虫剤と混ざり合ってその後吹出口3から放出されることになる」(摘示(甲4-10)、(甲4-15))ことも記載されている。
また、上記殺虫剤15については、「この殺虫剤15に使用される薬剤には、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質の商品名DDVP(一般名ジクロルボス)(審決注:以下、単に「DDVP」という。)」(摘示(甲4-8))が挙げられること、「殺虫剤15は、DDVPを板状のプラスチックに含ませたもの」(摘示(甲4-8))であることが記載されている。
なお、甲第4号証では、「DDVPを板状のプラスチックに含ませた」殺虫剤15も、該殺虫剤15に使用される薬剤が気化した「気化状態」の殺虫剤も、共に「殺虫剤」と称されているが、後者の「気化状態」の殺虫剤については、薬剤そのものであるから、以下、区別するために「薬剤」と読み替える。
ところで、摘示(甲4-4)によれば、従来の屋内用殺虫剤散布器として、「電動ファンが作動することによって吸入口から取り入れた空気を、殺虫剤とともに吹出口から放出させるもの」で、「非使用モ-ドのとき、吸入口および吹出口は使用モ-ドのときと同じように開放状態となっている」ものが記載されており、甲第4号証においては、これを防ぐために、「前記吸入口および吹出口のそれぞれを塞ぐためのシャッタを備え」た(摘示(甲4-1))ものであるから、甲第4号証には、上記請求項1に記載された屋内用殺虫剤散布器において、シャッタ部分のない従来型の散布器も記載されているということができる。
そうしてみると、甲第4号証には、
「屋内用殺虫剤散布器の本体における吸入口および吹出口とに連通する内部空間部に、殺虫剤を設置するとともに、前記内部空間部内に、前記吸入口から空気を取り入れ前記吹出口から放出させるためのファンを備え、当該ファンの作動により、気化状態にある前記殺虫剤を前記空気とともに前記吹出口から外部に放出するようにした屋内用殺虫剤散布器であって、該散布器には、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVPである薬剤を、板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器が設置され、ファンの回転により吸入口から取り込まれた空気が内部空間部に入り込み、ここで複数の殺虫剤の間を通る際に、気化状態の薬剤と混ざり合ってその後吹出口から放出されるようにした害虫を駆除する屋内用殺虫剤散布器。」
が記載されているといえる。
これを、本件訂正発明1の記載ぶりに合わせて表すと、甲第4号証には、
「屋内用殺虫剤散布器の本体に、吸入口から空気を取り入れて吹出口から放出させるためのファンを備えた、吸入口および吹出口とに連通する内部空間部を有し、該内部空間部内に、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVPである薬剤を、板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器を設置し、前記内部空間部内のファンにより前記吸入口から取り込まれた空気を、複数の殺虫剤の間を通過させ、気化状態の薬剤と混ざり合ってその後吹出口から放出されるようにして、害虫を駆除する屋内用殺虫剤散布器。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲4発明との対比
本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
ア 甲4発明における「屋内用殺虫剤散布器」、「屋内用殺虫剤散布器の本体」は、それぞれ本件訂正発明1の「害虫防除用装置」、「装置本体」に相当する。
そして、訂正明細書の段落【0033】には、「通気口とは、装置内に外部より気体を取り入れる吸気口と装置内に吸引された気体を装置外部に排出する排気口とからなる。」と記載されているところ、甲4発明の「吸入口」は空気を取り入れるもので、「吹出口」は空気を放出させるものであって、それぞれ上記「吸気口」及び「排気口」に相当することは明らかであるから、甲4発明の「吸入口」及び「吹出口」は、本件訂正発明1の「通気口」に相当する。また、甲4発明の「吸入口および吹出口とに連通する内部空間部」は、本件訂正発明1の「通気路」に相当し、甲4発明の「吸入口から空気を取り入れて吹出口から放出させるためのファン」は、上記のとおり、吸入口及び吹出口が通気口に相当するから、本件訂正発明1の「通気口につながるファン」に相当する。
以上まとめると、甲4発明における「屋内用殺虫剤散布器の本体に、吸入口から空気を取り入れて吹出口から放出させるためのファンを備えた、吸入口および吹出口とに連通する内部空間部を有し」は、本件訂正発明1の「装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し」に相当する。

イ(ア)次に、甲4発明の「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVPである薬剤」は、DDVPが害虫を駆除するために使用される有効成分であることが明らかであり、害虫防除成分であるといえるので、本件訂正発明1の「害虫防除成分を含む薬剤」に相当する。
さらに、甲4発明の「(薬剤を、)板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器」は、摘示(甲4-14)の図6(b)からみて、薬剤を含ませた板状のプラスチックである殺虫剤が、複数枚平行に並べられて収納される構造を包含し、甲4発明の「前記吸入口から取り込まれた空気を、複数の殺虫剤の間を通過させ」とは、空気を、上記複数枚平行に並べられた板状のプラスチックの間を通過させることを包含する。そうすると、該カセット容器はその構造全体として、通気性担体であり、薬剤保持材であるといえるから、甲4発明における「(薬剤を、)板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器」は、本件訂正発明1の「(薬剤を・・・)通気性担体に保持した薬剤保持材」に相当する。
また、該カセット容器は、内部空間部内に1箇所設置されている(摘示(甲4-14))から、甲4発明の「該内部空間部内に、(・・・カセット容器を)設置し」は、本件訂正発明1の「該通気路内の少なくとも1箇所以上に(・・・薬剤保持材を)設置し」に相当することも明らかである。
(イ)ここで、上記カセット容器に関し、被請求人は、一貫して次のとおり主張する。
「請求人は、薬剤を保持する板状のプラスチック15とそれを複数枚並べて保持する保持材32とで形成される部分を薬剤保持材と称し、複数枚の板状プラスチックにより形成される隙間部分を通気性部分と称しているようであるが、誤りである。本件特許発明でいう薬剤保持材は、文字通り薬剤を保持するものであるが、甲第4号証にいう保持材32は、担体を保持するものである。甲第4号証で薬剤を保持しているのは、板状のプラスチック15であり、これ自体は通気性でないことは明らかである。本件特許発明では、薬剤を保持するハニカム状等の構造を有する担体自体が通気性をもち、その内部を気流が通過することによって、非加熱下でも蒸気圧の低い薬剤が強制リリースしていくのである。」(平成21年10月1日付け審判事件再答弁書23頁5?14行)
(ウ)しかしながら、甲4発明のカセット容器は、本体と分離可能なものであり、「殺虫剤15をセットしたカセット容器31の単位で簡単に交換」(摘示(甲4-7))するとの使い方をするものであるから、複数の殺虫剤がセットされた状態のカセット容器として一体のものとみることができる。甲4発明のカセット容器は、予め、板状プラスチックに薬剤を含ませておき、その後カセット容器に収納される製法であって、被請求人が主張する「本件特許発明でいう薬剤保持材」において、ハニカム状等の構造を有する担体を構成しておき、これに薬剤を担持するという製法と、製法としては異なるとしても、できあがったカセット容器の構造全体としてみれば、上記(ア)で述べたとおり、「薬剤を・・・通気性担体に保持した薬剤保持材」であるといえる。
しかも、甲4発明の薬剤を含ませた板状のプラスチックが、複数枚平行に並べられて収納されており、その複数枚の板状のプラスチックの間を空気が通過する構造は、被請求人が、「なお、本件特許発明の通気性担体は、・・・材質のみの通気性を意味するのではなく、担体の構造自体の通気性を意味し、それを形状で達成しても(その場合は樹脂類等の材質を用いてもよい)、材質で達成してもよいものである。」(平成21年10月1日付け審判事件再答弁書23頁18?21行)と主張するところの、樹脂類等の材質を用い、形状により達成される通気性担体とも合致するものである。
してみると、被請求人の上記主張は採用することができず、構造全体からみて、カセット容器が薬剤を通気性担体に保持した薬剤保持材に相当するとの判断が、上記(イ)の主張によって左右されるものではない。

ウ また、甲4発明の「前記内部空間部内のファンにより前記吸入口から取り込まれた空気」は、本件訂正発明1の「前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れ」に相当し、甲4発明の「(空気を、)複数の殺虫剤の間を通過させ」とは、薬剤保持材であるカセット容器内を通過させることを意味し、カセット容器に取り込まれた空気を当てなければ、カセット容器内に空気を通過させることはできないことは自明であるから、甲4発明の「(空気を、)複数の殺虫剤の間を通過させ」は、本件訂正発明1の「(気体の流れを・・・)該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ」に相当する。
そして、甲4発明の「害虫を駆除する」は、本件訂正発明1の「害虫を防除する」に相当し、甲4発明の「気化状態の薬剤と混ざり合ってその後吹出口から放出されるようにして、害虫を駆除する」ことと、本件訂正発明1の「該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除する」ことは、ともに、害虫防除成分を気体の流れと共に放出させて害虫を防除することであるといえる。

エ 以上ア?ウのとおりであるから、本件訂正発明1と甲4発明とは、
「装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上に害虫防除成分を含む薬剤を通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ、前記害虫防除成分を気体の流れと共に放出させて害虫を防除することを特徴とする害虫防除用装置。」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A 害虫防除成分が、本件訂正発明1においては、「cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物から選ばれた1種以上」であるのに対し、甲4発明においては、「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVP」である点
B 通気性担体が、本件訂正発明1においては、「ハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する」のに対し、甲4発明においては、「板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器」である点
C 本件訂正発明1においては、気体の流れを「非加熱下」で薬剤保持材に当てるのに対し、甲4発明においては、加熱の有無について特定がない点
D 前記害虫防除成分の放出が、本件訂正発明1においては、「該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせ」ることであるのに対し、甲4発明においては、「気化状態の薬剤と混ざり合ってその後吹出口から放出されるように」することである点
(以下、それぞれ「相違点A」?「相違点D」という。)

(2)検討
ア 相違点Aについて
(ア)甲第4号証では、「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質の商品名DDVP(一般名ジクロルボス)を使用」(摘示(甲4-8))すると記載されているが、薬剤については、「従来の屋内用殺虫剤散布器は、・・・殺虫剤を外部に放出するためには取り入れた空気と殺虫剤が混合するように、殺虫剤が散布器の内部において気化状態になっていることが必要である。
したがって、この種の屋内用殺虫剤散布器に使用される殺虫剤は、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質を有していればよく、実際上、取扱いが容易でかつ長期間の使用にも対応することができる固体もしくは液体の殺虫剤が用いられることが多い。」(摘示(甲4-4))と記載され、「なお、殺虫剤はDDVPに限定されるものではない」(摘示(甲4-8))とも記載されているから、甲第4号証では、DDVP以外にも、常温で発散し続ける性質を有する薬剤の使用が想定されていることは明らかである。
そこで、DDVP以外の「常温で発散し続ける性質を有する」薬剤として、「cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物」を適用することを当業者が容易に想到し得るかについて検討する。
本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第3号証には、「揮散性薬剤を気中に拡散させるための薬剤拡散用材」に用いるための揮散性薬剤として、「(I)殺虫剤・殺ダニ剤」である「(2)有機リン系薬剤」の「・O,O-ジメチル・・・(・・「DDVP」という)」(摘示(甲3-5))の他に、「(1)ピレスロイド系薬剤」である「1-エチニル・・・(一般名エムペンスリン・・・)」や、「d-トランス・・・(一般名ベンフルスリン)」(摘示(甲3-4))等が挙げられている。そして、甲第3号証には、「その内部及び/又はその表面に揮散性薬剤を保持させたことを特徴とする、」駆動させる薬剤拡散用材自体の内部や表面に、揮散性薬剤を保持させるもの(摘示(甲3-1))について記載されているほか、従来技術として、「送風機により空気を吹き出して、それを揮散性薬剤を保持する担体に当てることにより前記薬剤を強制的に揮散させる方法」(摘示(甲3-2))に用いる担体についても記載されており、いずれも揮散性薬剤を保持させた担体の表面に空気を当てて、該揮散性薬剤を揮散させるものであるが、その両方について、薬剤としてエムペンスリンを用いた実施例が記載されている(摘示(甲3-7)。実施例2における「本発明のファン」が前者であり、「比較」として示されたものが後者に該当する。)。該実施例は何ら加熱手段を用いないものであり、摘示(甲3-7)の表3に示されるとおり、上記両方の場合について、ホシチョウバエ成虫のノックダウン効果が得られることが記載されているから、上記揮散性薬剤の中で、少なくともエムペンスリンについては、これを保持した担体の表面に空気を当てる態様において、非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であることが記載されている。
ところで、甲第3号証には、「ファンに保持させる揮散性薬剤が常温で揮散し難いものであって、その揮散量を多くしたいときには、送風機の空気導入路に加熱器を置いてファンと接触する空気を予熱するとか、ファンのそばに加熱器を置いてファンの面を加熱するなどの手段を採用することができる。その加熱温度は常温より20?100℃、あるいはそれ以上上昇させる程度で十分な効果がある。エムペンスリン、ベンフルスリンのように揮散性の強い薬剤の場合には20?30℃程度の上昇でも効果があるが、常温揮散性の低い薬剤の場合にはこの程度の上昇では効果がないため、もう少し上昇させることが必要である。」(摘示(甲3-6))との記載があり、当該記載からみて、ベンフルスリンも、エムペンスリンと同様に揮散性が強い薬剤であり、揮散量を多くしたいときには、加熱を要するものの、そうでない場合には、エムペンスリンと同様に非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であるということができる。
加えて、参考資料10には、ベンフルスリン(化合物(1))を、送風機にて風を当てることで揮散させる「風揮散性殺ダニ組成物」の態様が記載されており(摘示(参10-5)参照)、加熱手段を要するとの記載はない。しかも、送風機を用いて風を当てて揮散させる態様は、参考資料10において、有効成分を基材に保持させる種々の剤型(摘示(参10-3))の一つとして、他の実施例と共に、格別新規な剤型としてではなく挙げられているのであるから、ベンフルスリンが非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であることが、参考資料10の出願時点又は遅くとも公開時点では、当業者に認識されているといえる。そうすると、甲第3号証に加え、参考資料10も参照すれば、ベンフルスリンが非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であることが、本件特許出願日(優先日)時点において当業者に周知慣用であったといえる。
そして、非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であれば、常温で常に発散し続けることも明らかであるから、ベンフルスリンは、「常温で発散し続ける性質を有する」薬剤に該当する。
そうすると、甲4発明の「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVP」に代えて、常温で発散し続ける性質を有する他の殺虫剤化合物を適用し、その際、非加熱下で揮散性薬剤を保持させた担体の表面に空気を当てて、該揮散性薬剤を揮散させる点で甲4発明と共通する甲第3号証の記載及び周知慣用技術に照らし、非加熱下で使用可能な常温揮散性の薬剤であるベンフルスリンを適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
ここで、ベンフルスリンの蒸気圧について、甲第6号証の6を参照すると、「化合物(1)」として記載されるベンフルスリンは、「適切な蒸気圧つまり従来高揮散ピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10^(-3)mmHg/30℃のオーダー)と一般のピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10^(-5)mmHg/30℃のオーダー)のほぼ中間である2.7×10^(-4)mmHg/25℃(外挿値)を有」する(摘示(甲6の6-2)、(甲6の6-3))ものであることが当業者に知られており、また、訂正明細書においても、ベンフルスリンの30℃での蒸気圧が2.7×10^(-4)mmHgであることが示されていること(段落【0017】)を考慮すれば、ベンフルスリンが「cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物」に包含されることは明らかである。
よって、甲4発明において、「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質のDDVP」に代えて、「cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物」に該当するベンフルスリンを適用することは当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)相違点Aについて、被請求人は、次のとおり主張する。
(a)「気化状態となるような薬剤を適用することを前提とする甲第4号証記載の装置に、本件特許発明で規定する低蒸気圧の薬剤を適用しようとする動機付けは、いずれの証拠からも全く見出すことはできず、むしろ、「気化状態」となりにくい本件特許発明の薬剤は、適用しない方向で考えるのが自然であるとさえ言える。」(平成21年10月1日付け審判事件再答弁書26頁8?12行)
(b)「本件発明で規定される特定の蒸気圧を有する化合物は、小さいながらも蒸気圧値を有する以上、気体の流れを当てない状態において薬剤保持材から全く揮散されないとまでは言い切れないものの、特定条件下で気体の流れを当てなければ、少なくとも害虫防除に有効な量で空間にリリースされないものであり、この点で、蒸気圧が大きく、常温で揮発しやすい、従って、気流を当てずとも害虫防除に有効な量で空間に揮散されるDDVPとは大きく異なるものである。」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書8頁2?8行)
(c)「甲第4号証に記載される殺虫剤(薬剤)は、・・・と記載されるように、蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質を有する必要があるものであり、段落[0047]に『なお、殺虫剤はDDVPに限定されない』と記載しているのは、「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質を有する」ことが前提の上で、DDVPに限定されないことを意味することが明らかである。」(平成22年1月29日付け上申書5頁下から5行?6頁5行)
(d)「DDVPとベンフルスリンを、甲第6号証の6に記載されているような条件下で、両者の常温における揮散性を評価した実験結果を乙第10号証として添付する。・・・ベンフルスリンは、・・・密閉空間において一定期間以上を経過した時において衣料害虫に対して十分な防虫効果を発揮する程度の「常温におけるガス効果及び持続効果」は期待できるものの、甲第4号証の装置(散布器)において必要とされる、24時間程度で充分に揮散するDDVPのような「蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質」とは全くその程度が異なるものである。すなわち、上記の実験結果は、甲第4号証の装置において、DDVPは充分に揮散するものの、ベンフルスリンは24時間程度では殆ど揮散しないことをも示すものである。
以上のことから、甲第4号証記載の装置に使用される薬剤(蒸気圧が高く常温で発散し続ける性質を有する薬剤)には、本件発明で規定する特定の蒸気圧の(蒸気圧値の小さい)薬剤が含まれないと解すべきは明らかである。」(平成22年1月29日付け上申書7頁7?26行)
(ウ)しかしながら、甲4発明はファンを用いることを前提とするものであり、上記(ア)で述べたように、甲第3号証とは、非加熱下で揮散性薬剤を保持させた担体の表面に空気を当てて、該揮散性薬剤を揮散させる点で共通するのであるから、甲第3号証記載のベンフルスリンは、DDVPより蒸気圧が小さいとしても、甲4発明を実施する条件下で、常温で発散し続ける性質を有する薬剤として十分想定される範囲内のものということができる。よって、被請求人の上記(イ)の主張は採用することができず、該主張によって、上記(ア)の判断が左右されるとはいえない。

イ 相違点Bについて
(ア)甲4発明における「(薬剤を、)板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器」は、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、薬剤を含ませた板状のプラスチックである殺虫剤が、複数枚平行に並べられて収納される構造を包含するものであり、該カセット容器を、吸入口から取り入れられた空気がカセット容器に当てられる側から、すなわち、摘示(甲4-14)の図6(b)の上方向から見ると、複数の板を間を透かせて並べた構造であるといえる。
他方、参考資料2(摘示(参2-1))のほか、参考資料5(摘示(参5-1))、参考資料9(摘示(参9-1))にも示されるように、「すのこ」とは、「水切りのため竹や板を間をすかせて張った床・縁、または台」(例えば、摘示(参2-1))と定義され、水などの流体を流しやすくするために、板を間をすかせて張ったものであることは本件特許出願(優先日)前に当業者に周知であるといえるところ、甲4発明における複数の板状物の間を透かせて並べた構造は、流体である空気がその間を流れるようにされているものであって、上記「すのこ」の定義とも一致する(なお、参考資料2、5及び9は、本件特許出願(優先日)前に頒布された刊行物ではないが、例えば、参考資料2の以前の版[新村出編、「広辞苑 第二版」、株式会社 岩波書店、昭和49年9月20日発行]を参照すると、「すのこ【簀の子】 ○2(審決注:○付き数字。)水切りのため板の間をすかせて張った床・縁、または台。」と、上記とほぼ同様の定義がされているから、上記の事項は、本件特許出願(優先日)前に当業者に周知であったといえる。)。
そうすると、「(薬剤を、)板状のプラスチックに含ませた複数の殺虫剤が複数の保持用突起間に収納された、本体と分離可能なカセット容器」は、実質的に「すのこ状の構造を有する通気性担体」であるということができる。
よって、相違点Bは実質的な相違点であるとはいえない。
(イ)相違点Bに関し、被請求人は、次のとおり主張する。
(a)「甲第4号証の図6(b)に示す装置については、・・・『・・・複数の殺虫剤15を設置できるようにしている』と記載されるものの、図6(b)において、実際に設置されている殺虫剤15は1枚である。これについて、・・・『例えば、殺虫剤15の寸法が・・・の板状のものである場合、ハエ、蚊駆除用として用いる場合は2坪あたり1枚、ゴキブリ駆除用として用いる場合は1坪あたり2枚の殺虫剤15を使用する』と記載されている通り、図6(b)の装置の実際の使用態様においては、とても請求人が主張するような「すのこ」状、すなわち「板を相互の間を透かせて張った床」状ではないのである。」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書25頁1?12行)
(b)「保持用突起32の全てに殺虫剤15を設定したとしても・・・下記の点で、とても「すのこ状」とは呼べるものではなく、・・・。
「すのこ」とは、請求人が提出した参考資料5にも記載されるように、『板や竹の細長い板を間を透かせて張った低い台。・・・』ものである。「低い台」と記載される通り、請求人が述べるように「床」状であり、カセット容器31とはその形状が大きく相違することは、当業者ならずとも明白である。参考のために、乙第8号証として「すのこ」が汎用される「台所用すのこ」(乙第8号証の1)・・・の写真を添付する。当業者ならずとも一般常識として、・・・「カセット容器31」と構造上相違することは明らかである。」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書26頁11?24行)
(c)「本件発明の明細書に記載されるように、蒸気圧値の低い薬剤が非加熱下で害虫防除に有効な量で強制的にリリースされるためには、自ずとその通気性担体の形状及び気流の当たり方、気流の通過の仕方が決まってくるものであり、上記の現象が起こり得るような狭い固体間の幅であること(通気性担体における通気部分の間隔が狭いこと)、且つ、その固体間を流体が勢い良く通過するために、ファンによって気流を生起させて、効率よく通気部分内を通過するように(通気性担体に対して垂直方向から)気流を当てることと、通気性担体の垂直方面(奥行き)がある程度小さいこと、更に必要量のリリースを行うためには、通気性部分(狭い隙間)が多数あることが重要である・・・。
以上のことから、・・・本件明細書の記載を参酌すれば、・・・単に「通気性単体」と記載することだけで十分に本件請求項1は明確であると考えられたものの、一点の疑義をもなくすべく、より具体的な構成を明確化して、本件明細書に記載される「ハニカム状、すのこ状、・・・」という具体的な形状を請求項1において規定したものである。」(平成22年1月29日付け上申書3頁16行?4頁17行)
(ウ)しかしながら、甲第4号証の摘示(甲4-14)における図6(b)の装置については、摘示(甲4-8)に特定の寸法の板を用いた場合の使用枚数が記載されているに過ぎず、また、甲4発明の使用場面は、摘示(甲4-3)に記載されるとおり、「広く一般家屋,ビルおよびスポーツ施設などの室内」も含むから、その規模が1坪?2坪に限られるものでもないので、「カセット容器31には複数の保持用突起32が形成されて、この保持用突起32間に複数の殺虫剤15を設置できるようにしている」(摘示(甲4-7))及び「空気は・・・複数の殺虫剤15の間を通る」(摘示(甲4-10))との記載における、「複数」が2枚を超える複数枚を包含することは明らかである。
また、本件訂正発明1の通気性担体の構造についてみると、少なくとも、「ハニカム状」、「格子状」については、訂正明細書又は図面(段落【0054】、【図3】、【図5】)の記載を見る限り、垂直方向からみると、幅の狭い材料が組み合わさった構造であって、かつ、奥行きを有するものを包含するといえる。他方、「すのこ状」については、訂正明細書又は図面に具体的な構造は示されていないが、上記参考資料2等の定義で明らかなとおり、「板を間をすかせて張った床・縁、または台」(摘示(参2-1))であって、「台」と記載されるように、通常奥行きも有するといえるところ、「すのこ状」だけが、上記「ハニカム状」、「格子状」と異なり、乙第8号証の1?3に記載されるような、垂直方向からみると幅が広く、奥行きの小さい板状の材料が並べられた構造に限定されるということはできない。
そして、本件訂正発明1は、奥行きの大きさのみならず、通気部分の孔又は隙間の大きさ、紙、樹脂類等の材料の垂直方向からみた幅など、通気性担体の構造について具体的な数値をもって規定されているものではなく、「ハニカム状、すのこ状、・・・の構造を有する」通気性担体といえば、奥行きが小さいものを指すことが技術常識であるともいえないから、奥行きが大きいことを根拠に、甲4発明のカセット容器が、本件訂正発明1の「すのこ状」に含まれないとすることはできない。
ところで、上記(c)の主張は、気流が十分に通過するための通気構造の条件についてのものと認められるが、上記(ア)で述べたように、甲4発明のカセット容器を、空気が当てられる側(垂直方向)から見ると、複数の板を間を透かせて並べた構造であるから、通気部分の間隔が狭く、通気性担体に対して垂直方向から空気が当たる構造で、隙間が多数あるという点について上記(c)の主張とも合致することからみても、該カセット容器は、「ハニカム状、すのこ状、・・・」のうち、垂直方向からみて板が間をすかせて並べられた構造を意味する「すのこ状」にあたるということができるのである。
よって、「すのこ状」についての被請求人の上記(イ)の主張は採用することができず、該主張によって、上記(ア)の判断が左右されるとはいえない。

ウ 相違点Cについて
甲第4号証においては、「吸入口2から取り入れる空気の温度が低いときには、殺虫剤の発散が妨げられ、殺虫剤の散布が有効に行われず所期の効果を奏しない場合があるため、このような場合には、空間部4の背面側に備えたヒーター30を作動させることにより、空間部4内の温度を上昇させて殺虫剤の発散が有効に行われるようにする」(摘示(甲4-11))と記載されており、空気の温度が低くないときには、「非加熱下」で行う態様を包含するといえる。
そして、薬剤をベンフルスリンに換えても、非加熱下で行う態様を包含することは、上記ア(ア)で述べたとおりである。
よって、相違点Cは実質的な相違点であるとはいえない。

エ 相違点Dについて
(ア)本件訂正発明1の「該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせ」ることについて、訂正明細書には、例えば以下の記載がある。
(a)「本発明者らは、以下に詳述するcox線図を用い、多数の害虫防除成分となる化合物について30℃における蒸気圧を評価し、これら蒸気圧を尺度とし、かつこれら害虫防除成分を含む薬剤を適当な担体に保持せしめて薬剤保持材を作成し、該保持材を設置した状態において、送風により薬剤から害虫防除成分をリリースさせて害虫を防除することについて鋭意研究した結果、常温で難揮散性の害虫防除成分について、該成分を適当な担体に保持せしめて薬剤保持材とし、該保持材を設置した状態において非加熱状態で気体を保持材に当てることにより、意外にも担体から難揮散性の害虫防除成分がリリースし、リリースした該害虫防除成分により飛翔性の昆虫等を駆除することができるという本発明の方法を見いだした。」(段落[0011]。審決注:下線は当審による。)
(b)「本発明の常温で難揮散性である害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持し、該薬剤を担体に保持した保持材を固定状態において送風手段により気体の流れに接触させ、害虫防除成分をリリースし、リリースした該薬剤により飛翔性の昆虫を駆除する方法は、揮散薬剤の濃度調整が容易で、非加熱であり危険性がなく、装置としても簡単であるという特徴があり、優れた害虫防除成分のリリース手段である。
ここで、害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段としては、電池で駆動させることができる簡単なファンのようなものでも良いが、送風を開始した直後から、30日後といった長期間にわたり、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる。
送風方法については後に詳しく述べる。」(段落[0014]。審決注:下線は当審による。)
(c)「本発明で用いるファン式害虫防除用装置による有効性を試験するために、図6にみるように、その装置を空間が36m3の容積をもつ室内床面中央に置き、リリースを開始する。リリース開始後、25リットルの一定量を20分間ずつ空気を吸引し、シリカゲルトラップで有効成分を捕集し、定量分析を行った。
捕集位置は室内の側壁から100cmで、高さを150cmとした。1m3当たりの有効成分気中濃度は各経過時間の有効成分の捕集量から次の計算式より算出した。」(段落[0042]。審決注:下線は当審による。)
つまり、訂正明細書には、担体に保持された害虫防除成分を含む薬剤は、送風により、担体から気体の流れにリリースされ、そのリリース量は、室内空間の有効成分気中濃度により測定できることが記載されているといえる。
そして、被請求人が提出した平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書には、「「害虫防除成分を(薬剤保持材から)リリースする」とは、「薬剤(害虫防除成分)を、担体(薬剤保持材)から空間にリリースする(解き放つ)」ことを意味するもの」(7頁2?5行)であると記載されているところ、上記(a)?(c)の記載と特に矛盾するところはなく、当業者の技術常識と異なるものでもない。
そうすると、本件訂正発明1における「リリース」とは、担体(薬剤保持材)から薬剤を「解き放つ」ことを意味すると認められる。
(イ)他方、甲4発明は、「空気を、・・・気化状態の薬剤と混ざり合って・・・放出されるように」するものであり、複数枚の板状のプラスチックに含ませた収納されたカセット容器から薬剤を「解き放つ」ことについては明示されていない。
しかしながら、甲4発明の「放出」が、板状のプラスチックから薬剤を解き放つことを伴うのは自明である。つまり、たとえ最初に気化状態の薬剤が、複数の殺虫剤の間、すなわち、複数枚の板状のプラスチックの間に存在していたとしても、該気化状態の薬剤を吹出口から放出させた後は、複数枚の板状のプラスチックの間(空気が通過する部分)における薬剤の濃度(蒸気圧)が低下するから、飽和蒸気圧に達するまでは、薬剤が該プラスチックから空間に解き放たれる、すなわち、担体から空間にリリースされることは自明な物理現象であり、ファンを用いて複数枚の板状のプラスチックの間に新鮮な空気を通し、該プラスチックの間の薬剤濃度を減少させることにより、該プラスチックから薬剤を解き放つ現象がより促進されることも自明であるといえる。そうすると、ファンで送られた空気が複数枚の板状のプラスチックの間を通過する際に、気化状態の薬剤が空気に混ざるだけでなく、カセット容器の該プラスチック表面も空気の流れにさらされて、該プラスチックから薬剤が解き放たれ、すなわち、薬剤がリリースされて空気と混じり合っているとみるのが自然である。
(ウ)ところで、被請求人は、本件訂正発明1の「リリース」に関して、次のとおり主張している。
(a)「・・・「30℃において気流の存在しない状態においては自らの性質に基づいて蒸発又は揮発し難い特定の薬剤(害虫防除成分)」を、一定の条件下において気流を当てて通気性担体内を通過させることにより、非加熱下で、薬剤保持材から強制的に空間に開放させる(リリースさせる)ことが記載されるものであり、・・・」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書7頁25?29行)
(b)「・・・特定の蒸気圧を有する化合物は、小さいながらも蒸気圧値を有する以上、気体の流れを当てない状態において薬剤保持材から全く揮散されないとまでは言い切れないものの、特定条件下で気体の流れを当てなければ、少なくとも害虫防除に有効な量で空間にリリースされないものであり、・・・気流を当てずとも害虫防除に有効な量で空間に揮散されるDDVPとは大きく異なるものである。」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書8頁2?8行)
(c)「・・・甲第4号証記載の放出方法について説明すると、甲第4号証に記載される図6の装置は、薬剤を含むプラスチックの板15が散布器の室内に保持材32によって平行に支持された状態で設置されており、散布器の下端に吹出口が設けられているが、散布器から空気を吹出すために装置内に空気を送るための小さいファンは散布器の上部右側(片側)のみに設けられている。・・・ファンの回転により生起した気流は、・・・装置内の空気を攪拌して吹出口から流出させるだけのものであるから、ファンからの気流はプラスチック板15に当たるように示されていない。」(平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書29頁12?20行)
(d)「図6(b)に示されるカセット容器は31は、・・・またその気流の当たり方を見ても、全体として、本件発明の強制的リリース効果が生じるような装置構成を有していないものである。」(平成22年1月29日付け上申書5頁13?16行)
(エ)しかしながら、上記(イ)でも述べたように、甲4発明においても、ファンによりカセット容器に収納された複数枚の板状プラスチックの間に空気を強制的に通過させているといえるから、薬剤保持材から強制的に空間に開放させる(リリースさせる)という点で相違することはない。
そして、甲4発明のファンは、「空気を、複数の殺虫剤の間を通過させる」ものであるから、「プラスチック板15に当たるように示されていない」とはいえず、ファンの「空気を、複数の殺虫剤の間を通過させる」という目的に照らせば、ファンの位置は、図6(b)の設置位置に限定されるともいえない。
また、被請求人が提出した平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書に添付された乙第7号証の1の表1及び乙第7号証の2の表2を参照すると、検体をジクロルボス(DDVP)とした場合においても、直接検体に空気を当てることにより効果が増大することが示されているから、「リリース」は甲4発明においても、例外なく生じているといえる。
なお、薬剤をベンフルスリンに換えても、上記ア(ア)で述べたように、常温で常に発散し続ける以上、複数枚の板状のプラスチックの間に気化状態で存在し得ることは明らかであり、この点については、被請求人も、平成22年1月15日付け口頭審理陳述要領書において、「気体の流れを当てない状態において薬剤保持材から全く揮散されないとまでは言い切れない」(8頁3?4行)と認めているところであるから、甲4発明が「気化状態の薬剤」であるという点において、本件訂正発明1と相違するともいえない。
よって、被請求人の上記(ウ)の主張は採用することができず、該主張によって、上記(イ)の判断が左右されるとはいえない。
(オ)以上のとおり、甲4発明において、薬剤を気体の流れに「リリース」させることについての明示がなかったとしても、板状のプラスチック表面から薬剤が解き放たれているとみるのが自然であるから、本件訂正発明1において、「該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせ」と特定したことにより、甲4発明と実質的に相違するとはいえない。
よって、相違点Dは、実質的な相違点であるとはいえない。

オ 本件訂正発明1の効果について
本件訂正発明1は、訂正明細書(段落【0065】?【0066】)にも記載されているように、「cox線図上30℃における蒸気圧が1×10^(-3)mmHgより低く(6.6×10^(-4)?1×10^(-7)mmHg)、常温で難揮散性で、沸点が低くとも120℃/1mmHgである害虫防除剤を適当な担体に保持せしめ、薬剤保持した保持材を固定した状態において非加熱状態で気体を保持材に当てることにより、これら害虫防除成分により飛翔性の害虫をはじめゴキブリ等もを駆除し得」る、また、「加熱を必要としないので、火災の危険性がまったくなく、広い空間に害虫防除成分を有効量においてリリースすることができ、かつその効果は長時間維持させることができるので、害虫を有効に防除することができる」という効果を奏するものである。
しかしながら、上記ウで述べたとおり、甲4発明は非加熱下で用いるものであって、薬剤をDDVPからベンフルスリンに換えても、非加熱下での使用を包含することは上記アで述べたとおりであり、火災の危険性がまったくないという効果は、非加熱下で用いることにより当然奏される効果に過ぎない。また、甲4発明において、ファンにより通気することで、通気しない場合に比べて、放出量を増やすことができ、害虫を有効に防除できることも、エで述べた物理現象を考慮すれば自明である。そして、上記イで述べたように、通気性担体の構造については実質的な相違点ではないから、通気構造によって長時間揮散を維持させることができるという効果は甲4発明においても本来有している効果であるといえ、しかも、薬剤については、甲第6号証の6(摘示(甲6の6-3))のベンフルスリンの蒸気圧を参照すれば、甲4発明のDDVPを、それよりも蒸気圧の低いことが明らかなベンフルスリンに換えたことにより、より長時間揮散を維持させることできることも当業者の予測の範囲内である。
よって、本件訂正発明1による上記効果は、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

カ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第3号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものである。

3 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、「前記薬剤保持材は、前記通気路内に設置した時、該保持材内を通気路の気体の流れが通過するものであることを特徴とする」という事項を追加するものであるが、本件訂正発明1は、「該通気路内の少なくとも1箇所以上に、・・・薬剤保持材を設置」し、「前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを・・・該薬剤保持材内を通過させ」ることが特定されているから、これに対し、何ら新たな技術的事項を特定するものではない。
よって、上記2で述べたのと同様の理由により、本件訂正発明2は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第3号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものである。

4 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の「化合物」を、特定の化合物に限定するものであるが、「d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート」は「ベンフルスリン」と同一であるから、本件訂正発明3の化合物もベンフルスリンを包含するものである。
よって、上記2で述べたのと同様の理由により、本件訂正発明3は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第3号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものである。

5 無効理由4についての結論
以上のとおり、本件訂正発明1?3は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第3号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当する。

6 付記
なお、被請求人は、平成22年1月29日付け上申書において、「平成22年1月15日の口頭審理において、審判長から特許無効審判における職権主義の観点から、参考資料1から参考資料8の4は、証拠として取り扱う旨の発言があり、また調書にもその旨記載されているが、もしこれらの参考資料が無効理由を構成する証拠として扱われるのであれば、これらの参考資料を無効理由の「証拠」として主張する請求人の無効理由は見当たらないから、それは「新たな無効理由」を構成するものであり、その場合には、手続上、職権による新たな無効理由を探知したものとして、被請求人に対して、特許法第153条第2項による意見を申し立てる機会が与えられるべきものと考える。」(10頁22行?11頁1行)と主張している。
しかし、第1回口頭審理において、上記参考資料を証拠として扱うとした趣旨は、該参考資料を周知技術又は技術常識を考慮する際に参照する証拠とすることはあり得ることを確認したものである。本審決を行うにあたり、該参考資料を主要証拠とする新たな無効理由を審理する必要があることを確認したものではない点を付記する。

第8 むすび
したがって、請求人の主張する無効理由4には理由があり、本件訂正発明1?3についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当するから、その余の理由について検討するまでもなく、本件訂正発明1?3についての特許は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
害虫防除用装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上に、cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物から選ばれた1種以上の害虫防除成分を含む薬剤をハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを非加熱下で該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除することを特徴とする害虫防除用装置。
【請求項2】前記薬剤保持材は、前記通気路内に設置した時、該保持材内を通気路の気体の流れが通過するものであることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用装置。
【請求項3】前記化合物が、d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート、(5-ベンジル-3-フリル)メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート、5-プロパギル-2-フリルメチル d-シス/トランス-クリサンテマート、(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート、d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d1-シス/トランス-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、害虫防除方法に関するもので、さらに詳しくは常温で難揮散性の害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持してなる薬剤保持材を非加熱条件下、送風手段による気体の流れを利用して薬剤保持材から害虫防除成分をリリースさせることにより、特に飛翔性の害虫を防除する方法、そのための装置および薬剤保持材を構成する担体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在までに数多くの害虫防除薬剤が知られているが、実際の使用に際してはそれらの中から防除対象となる害虫にあった薬剤が選択されている。蚊など飛翔性の害虫には特に揮散性の害虫防除成分を含む薬剤が使用されている。すなわち常温での蒸気圧が高い薬剤が使用されるが、このような薬剤を使用する場合には、貯蔵中など使用しない間に薬剤が揮散して効果が消失しやすいので、問題がある。そこで、貯蔵中に薬剤が揮散して消失せず、また使用時に薬剤を必要量揮散させるために、従来、加熱条件下で薬剤を蒸散して害虫を防除する方法が多く使用されている。このような加熱条件下で使用される薬剤は、通常その中に含まれる害虫防除成分の30℃における蒸気圧は1×10^(-3)mmHg以下のものが多い。
【0003】
そして、加熱条件下で薬剤を蒸散して害虫を防除する方法としては、例えば蚊取線香の場合、徐燃性の基材と薬剤を練合して線香に成型し、成型した線香に着火し、その燃焼により加熱して薬剤を蒸散する。これに用いる害虫防除成分の例としてはピレトリン、アレスリン、エンペントリンなどが挙げられる。また、マット式や液体式電気蚊取りの場合は、害虫防除成分を含む薬剤を適当な基材に含浸または浸透させ、薬剤を含んだ基材の一部をヒーターなどで加熱して薬剤を蒸散する。これに用いる害虫防除成分の例としてはアレスリン、フラメトリン、プラレトリンなどが挙げられる。またこれらの他、くん煙剤や加熱蒸散剤のように、燃焼や化学反応熱のような熱源により短時間に薬剤を加熱して蒸散する方法で用いられている害虫防除成分としてはメトキサジアゾン、ペルメトリン、ジクロクボスなどが知られている(日本殺虫剤工業会:家庭用殺虫剤概論(1991))。
【0004】
一方、従来より強制的に薬剤を揮散させる手段として、送風により薬剤を揮散させる方法が知られている。その例として、装置内にナフタリンなどの昇華性防虫剤を収納し、装置の吸入孔から外気を吸入し、装置内で防虫剤の揮発成分を揮散させ、防虫剤の揮発成分を含んだ空気を排気孔から排出する防虫装置(実開昭55-954号)などが知られている。また、常温揮散性薬剤を保持した拡散用材を例えばファンの形として駆動手段により駆動させ、該揮散性薬剤を拡散させて殺虫する方法が知られている。この方法は送風下、かつ非加熱条件下で薬剤を揮散させる方法の一つである。しかし、この方法で揮散させる場合でも、適用する薬剤は、比較的揮散性の高いものについて有効であるとされていた。前記送風により薬剤を揮散させる方法で用いられている例の中においても、30℃における蒸気圧が1×10^(-3)mmHgから1×10^(-6)mmHgである害虫防除薬剤を使用する場合には送風する気体は熱風を使用する事が記載されている。
【0005】
従来、30℃における蒸気圧が1×10^(-3)mmHgから1×10^(-6)mmHgである害虫防除成分を非加熱下で空間に拡散させ害虫を防除する方法としては、エアゾールによる噴射などの方法しか知られていない。
また、従来では飛翔性の害虫を駆除する方法は、簡便であり周囲の温度の上昇や火傷などの危険がないので、DDVPのように蒸気圧が非常に高く(1×10^(-2)mmHg at30℃)殺虫活性が高い殺虫薬剤を用いて、樹脂蒸散剤として実用化されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、DDVPは有機りん系の殺虫薬剤であることから安全性に難点があり、他の薬剤による蒸散製剤が模索されている。これ以外の殺虫薬剤、例えばエンペントリンで蒸散製剤を作った場合は、狭い閉鎖系においてのみ有効で、実際の使用においては浄化槽など人の出入りがないところや、タンス、引出しなどの、長い間閉鎖されているような場所でしか用いられていない。
上記のごとく、害虫、特に飛翔性の害虫に対して使用される殺虫薬剤の多くは、通常は加熱条件下でその有効成分を揮散、拡散するものである。この際に多くのエネルギーを必要とする他、器具やその周囲の温度の上昇や火傷などの危険を含んでいる。
【0007】
一方、加熱手段を用いないで常温で揮散させる場合は、充分な量の有効成分をその空間内に供給するためには、殺虫薬剤中の有効成分として常温で蒸気圧の高いものを用いる必要がある。しかし、常温で蒸気圧の高いDDVPなどは安全性に問題がある。そこで、安全であって常温ではあまり揮散せず、つまり使用しない条件下で消失せず、それでいて使用時に非加熱条件下で充分な量の薬剤をその空間内に供給できる有効な手段はなかった。そこで、これらの問題点を解消した非加熱条件下で安全性の高い有効成分を揮散、拡散させることにより害虫を防除する手段の開発が強く望まれている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、従来技術の欠点を解消し、通常は加熱条件下で薬剤の有効成分を揮散、拡散させて害虫防除に使用してきた薬剤を用いながら、非加熱条件下でそれら薬剤を空間にリリースさせ、害虫を防除する事について鋭意検討した結果、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、次のことからなる。
(1)装置本体に通気口につながるファンを備えた通気路を有し、該通気路内の少なくとも1箇所以上に、cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃での蒸気圧が1×10^(-7)mmHg?6.6×10^(-4)mmHgである化合物から選ばれた1種以上の害虫防除成分を含む薬剤をハニカム状、すのこ状、格子状又は網状の構造を有する通気性担体に保持した薬剤保持材を設置し、前記通気路のファンにより前記通気口で生起させた気体の流れを非加熱下で該薬剤保持材に当てることにより、該薬剤保持材内を通過させ、該薬剤保持材から前記害虫防除成分を気体の流れにリリースさせて害虫を防除することを特徴とする害虫防除用装置。
(2)前記薬剤保持材は、前記通気路内に設置した時、該保持材内を通気路の気体の流れが通過するものであることを特徴とする前記(1)に記載の害虫防除用装置。
(3)前記化合物が、d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート、(5-ベンジル-3-フリル)メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート、5-プロパギル-2-フリルメチル d-シス/トランス-クリサンテマート、(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート、d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d1-シス/トランス-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートから選ばれた1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載の害虫防除用装置。
【0010】
前記した通り、従来より送風により薬剤からそれに含まれている害虫防除成分を揮散させて飛翔性の昆虫を駆除する方法は知られていたが、この方法を使用できるのはDDVPのように蒸気圧が非常に高いもの、もしくは狭い閉鎖空間内での使用に限られていた。常温で難揮散性である害虫防除成分の蒸気圧が30℃において1×10^(-3)mmHg以下である薬剤では、非加熱状態で送風のみによって薬剤からその害虫防除成分を害虫駆除に十分な濃度でリリースさせることは不可能であると信じられてきた。このため、常温で難揮散性である害虫防除成分を含む薬剤を用いて居室などの広い空間で殺虫効果が得られることなどはとても考えが及ばなかった。
その理由の一つは、多数の害虫防除成分について、各温度における蒸気圧の正しい値はもとより、それらの相互の比較が正確に評価されているとはいえなかったためであると思われる。
【0011】
本発明者らは、以下に詳述するcox線図を用い、多数の害虫防除成分となる化合物について30℃における蒸気圧を評価し、これら蒸気圧を尺度とし、かつこれら害虫防除成分を含む薬剤を適当な担体に保持せしめて薬剤保持材を作成し、該保持材を設置した状態において、送風により薬剤から害虫防除成分をリリースさせて害虫を防除することについて鋭意研究した結果、常温で難揮散性の害虫防除成分について、該成分を適当な担体に保持せしめて薬剤保持材とし、該保持材を設置した状態において非加熱状態で気体を保持材に当てることにより、意外にも担体から難揮散性の害虫防除成分がリリースし、リリースした該害虫防除成分により飛翔性の昆虫等を駆除することができるという本発明の方法を見いだした。
【0012】
ここで、害虫防除成分(刺す虫に対し刺咬行動を抑制する成分なども含む)を含む薬剤を担体に保持する仕方としては、後に詳細に記載するように紙類、多孔性樹脂類、セラミック等の担体に保持して、該保持体をケースに納めて設置した状態において気体に当てる場合のみならず、前記薬剤を液状としてボトル内に入れ、前記紙類や多孔性樹脂類のような担体(例えばシート)をボトルの開口部から外部に引き出して、薬液を吸上げさせてボトル外の担体部分を非加熱状態で気体に当てる場合をも含むものである。
【0013】
常温揮散性の害虫防除成分を非加熱で揮散させ、揮散した害虫防除成分を排気孔から排出させる方法では揮散薬剤の濃度調整が難いという欠点があり、また、揮散性薬剤を保持したファン形状の拡散用材を駆動手段により駆動させ、該揮散性薬剤を拡散させて殺虫する方法では駆動手段に負担がかかり損傷する等の欠点がある。また、この揮散性薬剤を保持した拡散用材を駆動手段により駆動させる方法は常温揮散性のもの、もしくは温風送風条件下での使用に有効であるとされている技術である。
【0014】
本発明の常温で難揮散性である害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持し、該薬剤を担体に保持した保持材を固定状態において送風手段により気体の流れに接触させ、害虫防除成分をリリースし、リリースした該薬剤により飛翔性の昆虫を駆除する方法は、揮散薬剤の濃度調整が容易で、非加熱であり危険性がなく、装置としても簡単であるという特徴があり、優れた害虫防除成分のリリース手段である。
ここで、害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段としては、電池で駆動させることができる簡単なファンのようなものでも良いが、送風を開始した直後から、30日後といった長期間にわたり、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる。
送風方法については後に詳しく述べる。
【0015】
本発明において、害虫防除とは、害虫駆除、害虫忌避、吸血害虫における吸血阻害、刺咬行動抑制等を総称するものである。ここで強試すべきは、本発明において使用する害虫防除成分は、(1)それらの温度-蒸気圧関係をcox線図を用いて整理すると、各化合物の温度-蒸気圧関係は互いに平行な直線で表されることが判明したことであり、(2)この研究成果に基づいて従来20℃から50℃の間で1点のみしか蒸気圧が知られていない害虫防除成分をも含めて、「非加熱状態で送風のみにより害虫防除成分をリリースさせる方法」による害虫防除成分の害虫駆除効果を「同じ30℃という温度に換算した蒸気圧」を尺度として評価することが可能となった結果、新しい知見が得られ、その知見に基づいて新しい技術が得られたことである。
【0016】
本研究により得られた各種害虫防除剤のcox線図の1例を図11に示した。
図11において、a:DDVP、b:ニトラピリン、c:エンペントリン、d:デメトン-D、e:テラレスリン(M108)、f:フラメトリン、g:アルドリン、h:プラレトリン、i:アレスリン、j:フォスファミドン、k:メトプレン、l:フルクロラリン、m:レスメトリン、n:テトラメスリン、o:フェノスリン、p:シフェノトリン、q:ペルメトリン、r:エスフェンバレレート、s:フタルスリン、t:フルシスリネートである。
図12に示す蒸気圧測定装置(蒸気圧測定装置は化学工業実験法第4版〔昭61年 培風館〕に記載されている。測定装置説明の詳細は省略する。)を用いて得られた、ピレスロイド化合物の20℃から40℃の5℃おきの蒸気圧の値を、第1表に示す。ここで、下線(点線)のあるデータは文献値である。
【0017】
【表1】

【0018】
ここで、蒸気圧の文献値は下記参考文献より得た。
(i)農薬の製剤技術と基礎(日本植物防疫協会)昭和63年発行
(ii)農薬データブック(ソフトサイエンス社)1989年版
(iii)安全データ(テラレスリン)
(iv)製品データ(フラメトリン、テトラメスリン、レスメトリン)
【0019】
本発明において用いることができる害虫防除成分は、常温で難揮散性の化合物であればよく、好ましくは30℃における蒸気圧が1×10^(-7)mmHgより高く、沸点が低くとも120℃/1mmHgであるものである。しかし、ここでいう蒸気圧範囲は下記cox線図で表される温度-蒸気圧線図上の30℃における蒸気圧範囲である。
従来、害虫防除成分の蒸気圧の測定は任意の温度範囲でばらばらに行われており条件が定まっていない。通常は10℃から50℃の温度範囲で測定されてきた。従って、複数の害虫防除剤の蒸気圧を相互に比較することは困難であった。
しかし本発明者らの研究の結果、最低1つの実測値があれば、cox線図を用いることで目的とする温度での蒸気圧を推測もしくは知ることができ、前記の課題は解決できる。
【0020】
以下にcox線図について詳述する。
多数の化学物質について温度tとその温度における蒸気圧Pを測定して、それらの値を用いてlogPとt/(t+C)を求め、logPを縦軸にt/(t+C)を横軸にとりグラフにプロットすると高い精度の直線性を示すことが工学的に知られている。ここでPは蒸気圧(mmHg)、tは温度(℃)、Cは定数(通常は230)である。
すなわち、多数の化学物質について温度tとその温度における蒸気圧Pとの間には次の一般式、
一般式logP=D+Et/(t+C)
で示される関係があり、従ってlogPを縦軸にt/(t+C)を横軸にとりグラフにプロットすると直線を与える。
縦軸logP、横軸t/(t+C)のグラフにプロットして得られた直線ないし直線群がcox線図である。
【0021】
【発明の実施の形態】
従来20℃から40℃の間で蒸気圧の測定がなされている害虫防除成分から、前記cox線図を用いて、30℃における蒸気圧が1×10-7mmHgより高く、常温で難揮散性で、沸点が低くとも120℃/1mmHgのもので、かつ安全性の観点からピレスロイド系の化合物を用いることがより好ましく、代表的なものを例示すると以下の通りである。
・d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d1-シス/トランス-クリサンテマート(一般名アレスリン:商品名ピナミン:住友化学工業株式会社製)
・d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-シス/トランス-クリサンテマート(商品名ピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「ピナミンフォルテ」という)
・d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート(商品名バイオアレスリン:ユクラフ社製)
・d-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート(商品名エキスリン:住友化学工業株式会社製、商品名エスバイオール:ユクラフ社製、以下「エスバイオール」という)
・(5-ベンジル-3-フリル)メチル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名レスメトリン、商品名クリスロンフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「レスメトリン」という)
【0022】
・5-プロパギル-2-フリルメチル-d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フラメトリン、商品名ピナミンDフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「フラメトリン」という)
・(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート(一般名プラレトリン、商品名エトック:住友化学工業株式会社製、以下「プラレトリン」という)
・d1-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル-d1-シス/トランス-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボシキラート(一般名テラレスリン:住友化学工業株式会社製、以下「テラレスリン」という)
・(1,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-2-イソインドリル)メチル-d1-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フタルスリン、商品名ネオピナミン:住友化学工業株式会社製)
・(1,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-2-イソインドリル)メチル-d-シス/トランス-クリサンテマート(商品名ネオピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
【0023】
・3-フェノキシベンジル-d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フェノトリン、商品名スミスリン:住友化学工業株式会社製)
・3-フェノキシベンジル-d1-シス/トランス-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボオキシラート(一般名ペルメトリン、商品名エクスミン:住友化学工業株式会社製)
・(±)α-シアノ-3-フェノキシベンジル(+)-シス/トランス-クリサンテマート(一般名シフェノトリン、商品名ゴキラート:住友化学工業株式会社製)
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d1-シス/トランス-3-(2,2-ジメチルビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート(一般名エンペントリン、商品名ベーパースリン:住友化学工業株式会社製、以下「エンペントリン」という)
・d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート(一般名ベンフルトリン)
【0024】
また、前記の害虫防除成分としては、上記したものの類縁体として上記した化合物に構造上似ている化合物を用いることができ、例えばエンペントリンの場合3位の2個の置換基はメチル基であるが、その置換基として他のアルキル基、不飽和アルキル基又はハロゲン原子である化合物を用いることもできる。
本発明においては、これらから選ばれた1種以上の害虫防除成分を担体に保持して薬剤保持材として用いることができる。
これらのうち、エンペントリン、プラメトリン、レスメトリン、エスバイオール、フラメトリンおよびテラレスリンが特に好ましい。さらに、前記条件の有機リン系、カーバメイト系、昆虫成長抑制剤(IGR,JHなと)害虫防除成分を単独又は組み合わせて用いることに何ら制限はされない。また、これらの類縁体も用いられる。
【0025】
本発明の薬剤保持材を構成する担体としては、送風手段による気体の流れを遮断、外方に拡散することがないように通気性が良いものが望ましい。そして薬剤(害虫防除成分など)を十分に保持することができるものが望ましい。通気性が良く薬剤を十分に保持することができるものであれば特に限定されない。
担体は、簡単な構造で通気性が大きいという点で、ハニカム状、すのこ状、格子状、網状等の構造のものが好ましい。
この担体は、その通気性が、通気量で通常0.1リットル/sec以上のものであればよく、好ましくは0.1リットル/sec以上のものである。
【0026】
材質としては無機質および有機質の成型材料が挙げられ、それらから成型されたものとしては、例えば紙類(濾紙、パルプ、厚紙など)、樹脂類(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、高吸油性ポリマーなど)、セラミック、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエチレン製、ポリプロピレン製など)、天然繊維(木綿、絹、羊毛、麻など)、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維、天然繊維などからの不織布、多孔性ガラス材料、金網などが挙げられる。
【0027】
これら担体に本発明の害虫防除成分を含む薬剤を保持し、これらの一種又は二種以上を組み合わせて任意の形状にして使用できる。
さらに吸着用担体(薬剤を担体に保持させるための補助材)を使用する場合、吸着用担体としては、ゲル化物質(寒天、カラギーナン、澱粉、ゼラチン、アルギン酸など)や可塑化高分子物質などが挙げられる。高分子物質を可塑化する場合には、例えばジオクチルフタレートなどが使用される。
【0028】
なお、蒸散促進用助剤としてアダマンタン、シクロドデカン、シクロデカン、ノルボルナン、トリメチルノルボンナン、ナフタリン、樟脳などの昇華性物質を添加することにより、さらに蒸散効果を高めることもできる。また、α-〔2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシ〕-4,5メチレンジオキシ-2-プロピルトルエン(ピペロニルブトキシド)、N-(2-エチルヘキシル)ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(MGK-264)、オクタクロロジイソプロピルエーテル(S-421)、サイネピリン500などその他のピレスロイド系化合物に対して有効成分の既知の共力剤と混合して使用することができる。
【0029】
なお、光、熱、酸化などに対する安定性を高めるために酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加して使用することにより、効力を安定させることができる。酸化防止剤としては、例えば2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、ジブチルヒドロキシノン(DBH)が挙げられ、紫外線吸収剤としては、例えばBHTのようなフェノール誘導体、ビスフェノール誘導体またはフェニル-α-ナフチルアミン、フェネチジンとアセトンとの縮合物などのアリールアミン類、ベンゾフェノン系化合物が挙げられる。
【0030】
薬剤を前記保持材に吸収・保持させ、空気等の気体を送って揮散させる場合には、薬剤保持材に残存する薬剤を知るためインジケーターを直接若しくは間接的に用いることができる。インジケーター機能を持たせるため、例えば、担体の色を変化させるにはアリルアミノアントラキノン、1,4-ジイソプロピルアミノアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,4-ジブチルアミノアントラキノン、1-アミノ-4-アニリノアントラキノンなどの色素を使用することができる。また、薬剤の残量をインジケートする機能を持たせるため、ラクトン環を有する電子供与性呈色性有機化合物やフェノール系の水酸基を有する顕色剤および必要なら減感剤を用い薬剤の揮散(それと共に揮散する減感剤)に伴う担体の色を変化により薬剤の残量を示す組成物を使用することができる。またさらに蒸散組成物用の香料などを添加したり混合してもよい。
【0031】
また、前記したように薬剤を液体として液体用ボトルに収納し、保持材に吸収させつつボトル外に供給し、ボトル外の保持材部分に送気して揮散させるような態様の場合には、ボトル内の液量の変化が確認できるようにすればよく、インジケーターを使用する必要はない。
担体に本発明の薬剤(害虫防除成分など)を保持させる方法としては、該担体に薬剤を滴下塗布、含浸塗布、スプレー塗布などの液状塗布方法、液状印刷、はけ塗り等の方法、あるいは担体へ貼り付けする方法等の方法が利用でき、さらに使用する組成物が液状のものでない場合、あるいは溶剤を使用しない場合などでは、混練込み、塗布、印刷などにより適用することができる。また、薬剤を担体に上記のように適用する場合、担体の全面に適用する場合の他、点状、片面あるいは模様状等部分的に適用することができる。
また、薬剤を液体用ボトルに収納し、多孔性の薬剤保持材を経て揮散部に供給するような態様の場合もある。
【0032】
担体に本発明の薬剤を適用する際に、担体に薬剤の含浸を容易にするためなどの理由で液状薬剤を低粘度化する添加剤として、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリル酸ヘキシルなどの脂肪酸エステルやイソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、脱臭ケロシンなどの有機溶剤を必要により使用することができる。
担体に上記の害虫防除成分及び/又は各種薬剤を保持させる量は特に制限を受けないが、例えば前記薬剤(害虫防除成分など)を吸油性材料(例えば紙)に含有させる場合には吸油性材料中に薬剤を50mg/gから1000mg/gの範囲、好ましくは100mg/gから700mg/gの範囲である。この量は、少なくとも0.1mg/hrの揮散量となるのを目安に飽和含浸量まで保持させることができる。
【0033】
本発明の装置は、図2に符号13で示す通気路及び通気口(図2では符号12で示す吸気口及び符号14で示す排気口である。)を有している。装置の通気路13に本発明の薬剤保持材を設置する場合、その通気路の少なくとも1ヶ所以上に固定される(図1では符号5で、図2では符号30で示す。)。該通気路13に薬剤保持材(5や30)を固定する方法は特に限定されないが、例えば保持材固定用の溝、ガイド、安定具もしくは保持部を通気路内に設ければよい。
ここで通気手段、具体的には通気路とは、通気口にて発生する気体の流れが移動する通路、空間域である。しかし、あえて設ける必要はない。また、通気口とは、装置内に外部より気体を取り入れる吸気口と装置内に吸引された気体を装置外部に排出する排気口とからなる。
【0034】
ここでの気体の流れを図1及び図2で説明すると、例えば、装置内にモーターやぜんまい等の駆動手段とプロペラ(図1の6、図2の20で示される。)などの一般にファンとして認識されている形状、形態及び機能を有する通常送風器具と称されるものを設置し、該ファンを該駆動手段によって駆動させることで装置内に外部より吸気口を通じて気体を吸引する。そして吸引された気体はさらに通気路を経て排気口へと移動する。この時に、ファンが回転すると、回転に伴う渦流が発生する。これによって、吸気口から吸入される空気の流速はファンの中心部付近ほど遅く、外縁部に近づくに従って速くなるという特性がある。したがって、担体(薬剤の保持材)に当たる空気量は、担体の中心部付近では少なく、外縁部に近づくに従って多くなるため、揮散性薬剤の拡散量は、担体の各部において不均一となるという問題がある。このような問題に対し空気流路に整流板(例えば図4に符号40で示したようなもの)を設けることが望ましい。整流板は薬剤保持剤に流れる空気が均一に当たるために設けられるが、ファンの回転のための動力が最小ですむように、圧損がなるべく少ないような形状のものを選択して使用される。
【0035】
薬剤保持材に当たった気体は外部へと排出されるが、薬剤保持材に気体が当たることによって通気路に設置された薬剤を保持した薬剤保持材から薬剤の有効成分が気体の流れの中に入り、排気口より装置外部へと拡散、放出される。
【0036】
実際の使用についてみてみると、通常の家屋の居室程度の空間に対しては小型の送風機を使用すれば十分に足りるものである。具体的には、ファンの回転数としては500から10000rpm程度であればよく、モーターやぜんまい等の駆動手段を用いることができる。モーター、ぜんまいによらないピエゾファンを用いて送風するようにしてもよい。上記の居室程度の空間に対しては、太陽電池、二次電池、乾電池などで動く小型のモーターにより駆動する程度のファンを使用しても効果は十分に奏するものである。また、長時間にわたり使用するには乾電池では難しい場合などは、充電式としたり、電源プラグを設けたコードにより継続的に電源より駆動エネルギーを得ることもできる。
【0037】
ファンは遠心式ファンが一般的であるが、そのファンの形状だけによって決まるものでなく、ファンの後面に設ける中仕切板の形状によっても変る。
ファンの形状としては、スクリュー状、あるいはプロペラ状に限らず、水車型、ロータリーファン型などがある。大きな送風作用を行なわせる場合にはスクリュー状あるいはプロペラ状などが良く、送風により揮散量を大きくできる利点がある。また、ファンに接触する空気量を増大させるために、ファンを形成する各ブレードに開口部を設けることができる。例えば、ブレードに多数の開口部を設けることにより薬剤を効率的に蒸散することができる。その開口部の形状としては、網目状の外に、格子状、ハニカム状等、種々の形を取ることができ、その開口部はなるべく均一に設けることが好ましい。ファンを構成するブレードの形状は、前記したファンの形状によって決まるが、単なる板状でなく、中空状のものでもよい。
【0038】
各種形態のファンの中で、図5に示したシロッコファン42と呼ばれるものを使用することが好ましい。該ファン42は電池からアダプターまで様々の電源により、種々の電圧により送風が調節できる。該ファンにおいて電池からアダプターまで様々な電源、電圧により送風が調節できる。また、該ファンの形状を換えることで、例えば直径を大きくしたり、厚みを増やすことで風量を増やすことができ、反対に直径を小さくしたり、薄くすることで風量を減らすこともできる。
本発明の装置においては、吸気口の位置はなるべく羽根車の前面に近いところがよいが、薬剤を担体に保持した薬剤保持体を設置する場所との関係により少しずれていてもよい。
【0039】
また、排気口は前記ファンの周囲方向に設けることが効率的に薬剤を外部に揮散させるには適している。その位置については少なくとも1方向以上の排気口があればよく、より十分な揮散を必要とする時には、2から4方向を設けることができる。これにより室内等にすみやかに拡散させることができる。排気口の近くに揮散性薬剤を保持させた担体を置く従来の型式では、装置の全周に排気口を設けるようにする場合には、前記の担体を装置の全周に設ける必要があるが、この発明ではそのようにしなくても装置の全周への揮散を行うことができる。また、必要により、装置内で全周に薬剤揮散成分が回らないように、例えば一方向にだけ排出されるようにガイドを設けコントロールすることもできる。
【0040】
シロッコファンのようなファンを使用した場合は、図1及び図2に示した場合と異なり薬剤を担体に保持した薬剤保持体は、前記ファンの前面に設けられることから、吸引された空気が該薬剤保持体によりその流れを遮断され、あるいは阻害され、外方に分散拡散されないように通気性を有するものがよい。
前記薬剤保持体の設置位置はファンの吸気側でも、また排気側のいずれでも違いがないように考えられるが、ファンの吸気側に設置するときには、薬剤保持体にかかる空気流れの速度がその箇所によらず比較的均一であるのに対し、排気側ではファンの形状により薬剤保持体の各箇所における空気の流れの速度に大きな差異があるため、前記したように空気流路に整流板を設ける等して空気の流れを均一にすることが望ましい。
【0041】
通常は、薬剤保持体の箇所により薬剤の揮散に大きな差が出るため、吸気側とすることが好ましい。ただし薬剤保持体の設置はファンのすぐ前面でなくて少しずれていてもよいが、吸気口よりファンへ吸引される空気流の中に薬剤保持体があるような位置とする。
さらに詳しくいえば、送風手段であるファンと薬剤保持体である担体との間隔はあまり近接していないほうが良く、約5mm程度以上の間隔を設けることが好ましい。両者の間隔が近接していると担体の全面に均一に風を当てることが難しく、中央部に比べ外方部での揮散が不十分となり、揮散むらが起こる原因となる。例えば、紙製のハニカム状の担体(70×70×15mm)をシロッコファン(直径5cm、厚さ2cm)を用いて送風した場合、該ファンを駆動させるための電源電圧を2.0vから4.0vまでの範囲で変化させた時は、担体とファンとの間隔は5mmから15mmが好ましい。しかし、これらの範囲は限定されるものではなく、担体ファンの形状、電源電圧、装置の形状及び大きさそしてこれらの関係や組合せ等により適宜選択することができる。
【0042】
本発明で用いるファン式害虫防除用装置による有効性を試験するために、図6にみるように、その装置を空間が36m3の容積をもつ室内床面中央に置き、リリースを開始する。リリース開始後、25リットルの一定量を20分間ずつ空気を吸引し、シリカゲルトラップで有効成分を捕集し、定量分析を行った。
捕集位置は室内の側壁から100cmで、高さを150cmとした。1m3当たりの有効成分気中濃度は各経過時間の有効成分の捕集量から次の計算式より算出した。
【0043】
【式1】

【0044】
R:有効成分の定量値(μg)
この試験では、有効成分としてエンペントリンを使用した。
また、このファン式害虫防除用装置を用いてエンペントリンをリリースさせた場合を液体式電気蚊とり器を用いた場合と比較した。
【0045】
空間容積24m^(3)の室内に、66×66×15mmのハニカム状の保持材にエンペントリン4.3g、イルガソックス1010を0.2g含浸させたものを取り付けたファン型害虫防除用装置を設け、3Vの定電圧運転で、1220?1250rpm、25℃の条件で揮散を行った。捕集は、前記と同じ25l/分で20分間、シリカゲルトラップを用いて吸引捕集し、その捕集量は500lとした。有効成分の気中濃度は、床面より150cm及び75cmの位置で捕集した場合の測定値の平均値とした。なお、液体式電気蚊とり器を用いて揮散させた場合を比較対象とした。揮散開始から12時間までの揮散状況を図7のグラフに示す。図7において、グラフ中の曲線における○印は、エンペントリンの揮散量(3V定電圧運転時)を示し、●印は、プラレトリンの揮散量(液体式電気蚊とり器)を示す。
【0046】
また、同じ実験系において、ファン式害虫防除用装置を長時間運転(12時間断続運転、30日間)した場合のエンペントリンのリリースを測定した。その時の開始から360時間までの状況を図8のグラフに示した。比較データとしては、図6に示した気中濃度測定装置により、ファン式害虫防除用装置の位置に液体式電気蚊とり器を置き加熱揮散させたものの状況を示した。図8において、グラフ中の曲線における○印は、エンペントリンの揮散量(3V定電圧運転時)を示し、△印は、プラレトリンの揮散量(液体式電気蚊とり器)を示す。
両図より、害虫防除装置は液体式電気蚊とり器より多い量の薬剤有効成分をリリースしており、かつ初期30分間以内に平衡揮散濃度に達し、均一で安定したリリースを360時間まで続けることがわかる。
【0047】
また、ファン式害虫防除用装置において、気体の送風を断続することができるならば、送風制御によって薬剤のリリース量が制御でき、より均一で安定な揮散はもとより、事情によっては昼夜により揮散量の増減等の制御が可能となる。図9に示すような電源からの通電量を制御する回路を用いてファン式害虫防除用装置の送風の運転制御を行った。前記エンペントリンを試料として12時間の短期間の揮散状況について、連続送風した場合と、2時間送風10分間送風停止の制御を行った場合の比較を図10に示す。その結果より、送風期間を制御した場合でも有効成分の気中濃度を一定にできることがわかる。
【0048】
図9の制御回路について説明すると以下の通りである。すなわち、
回路は、商用電源から直流電圧に変換して所定の直流電圧を供給する直流電源部101、商用電源周波数を識別する周波数識別部103、周波数識別部103の識別結果に基づいて商用電源周波数を1/5若しくは1/6に分周して10Hzの基準パルスを得る分周部105、分周部105の出力に基づいて所定時間パルスを送出するパルス生成部107、動作状態を外部表示するための発光ダイオード(LED)109を点灯点滅させるための輝度変調部111、駆動モーター113に電力を供給するサイリスタ115、サイリスタ115をゼロ電圧制御するためのゼロクロス制御部117、外部操作に基づいて輝度変調部111に対して点滅状態若しくは点灯状態を指示するとともに、ゼロクロス制御部117に対して予め設定されたシーケンスに基づいてトライアックを点弧すべくトリガ制御するためのモードコントローラ119とを有する。
【0049】
この回路を利用して、適当な送風制御モードをモードコントローラ119にいれて、ゼロクロス制御部117を経てトライアックをトリガ制御して送風機の運転を制御するこができる。
使用者は、これらのシーケンスモードを用途に応じて選択すると、選択されたシーケンスモードに基づいて送風機の運転が制御され、薬液の蒸散も制御される。
さらに、使用者が任意にシーケンスモードを設定するためのプログラム設定機能が備えられている。
【0050】
本発明において、薬剤を保持した薬剤保持材の設置位置は通風手段内であれば送風手段の吸気側でも排気側でもいずれでも良いが、送風手段の吸気側に設置すると該保持材にかかる気体の流れが担体の通風路内の設置位置によらず比較的に均一であるので好ましい。この場合、吸気口よりファンへ吸引される空気流の中に該保持材があるような位置とする。
害虫を駆除しうる場所は何ら制限を受けないが、好ましくは一定の空間として区切られた場所が好ましい。例えば、家屋、ビニルハウス、浄化槽などがあり、そこに生息する害虫が対象となる。家屋内においてはハエ、カ、ゴキブリ、屋内塵性ダニ及びその他の侵入してくる不快害虫、タンス内においてはイガ、コイガ、カツオブシムシ等の衣類害虫、ビニルハウス内においてはそこで栽培されている作物に影響を与える害虫、畜鶏舎内においてはヌカカ、ハエ、カ及びダニ類、そして浄化槽内ではチョウバエ、カ等が例示される。
【0051】
【実施例】
以下に実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
図1に示すアクリル樹脂製シリンダー4からなる試験装置1の防虫網2、2の間にアカイエカ成虫(メス)を20頭入れ、試験装置1の底部に送風機3を設置し、送風機3の上部(シリンダー4の下部)に薬剤を含浸させた薬剤保持材5(ハニカム)を装着し、シリンダー4の下から送風し、気体を支持材5内を通す本発明の害虫防除用の装置1を用いて薬剤から害虫防除成分をリリースさせ、殺虫効果を調べた。
調査は30秒毎の経時的にアカイエカのノックダウンを数え、10分30秒まで観察した後、ノックダウンしたアカイエカを清潔なプラスチックカップ(容量約500ml)に移し、1%砂糖水を含浸させた脱脂綿を餌として入れ、蓋をして約25℃の恒温条件下に置き、24時間後の致死効果を観察した。その結果は下記第2表に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
ここで用いたハニカム状の薬剤保持材は次のとおりに調製した。まず、80g/m^(2)のサラシクラフト製の片ダンボール(穴の高さ約2mm)を積層したハニカム(含浸体)70×70×15mmに薬剤を約500mgを含むアセトン溶液3mlで均一に含浸させ、アセトンが揮散した後、害虫防除用の装置に設置した。
試験に用いた害虫防除成分は、テラレスリン、エンペントリン、プラレトリン、フラメトリン、エスバイオール、レスメトリンである。
試験に用いた害虫防除成分のcox線図上30℃における蒸気圧の値を第3表に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
〔試験の結果〕
第2表から明らかなように、試験に用いた害虫防除成分の蒸気圧はいずれも30℃において1×10^(-3)mmHgから1×10^(-6)mmHgと小さいにもかかわらず、保持材を無加熱下に気体の流れに当てる本発明の方法により100?80(%)の致死活性を得、きわめて優れた害虫駆除効果を示すことが判明した。
【0057】
参考例1
空間域の容積が24m^(3)の図6に示す気中揮散濃度測定装置を用いてアカイエカに対する殺虫効力試験を行った。
該装置の指定位置に図2に示す構成のファン式害虫防除用装置をおいた。この装置は70×70×15mmのハニカムにエンペントリン4.5gを含浸させたものである。比較として市販の液体式電気蚊取り器(プラレトリン使用)を使用した。
供試虫として、アカイエカ雌成虫を各20?25頭をケージに入れ、室の床面より150cmおよび75cmの位置に2ケージずつ設置した。各殺虫器を2時間使用した。試験開始より10分ごとに入室し、仰転数を計数した。試験終了後、供試虫をプラスチックカップに集め、24時間後の致死数を計数した。
【0058】
その試験結果を第4表に示す。
平均KT_(50)値の比較では、ノックダウン効力は、
ファン式害虫防除用装置=液体式電気蚊取り器(プラレトリン)
24時間後の致死率の比較では、致死効果は、次のようである。
ファン式害虫防除用装置>液体式電気蚊取り器(プラレトリン)
【0059】
【表4】

【0060】
実施例2
24m^(3)の空間域で以下の条件において試験を行い、24時間後の各ゴキブリに対する仰転率及び致死率(%)を比較した。
本発明の害虫防除用装置を上記空間域の床面中央部に設置し、さらに同床面の対角の位置に各20頭のゴキブリを入れたカップを各2個ずつ置き、第5表の害虫防除成分をリリースし24時間連続的に暴露させた。ここで、ゴキブリとしては、チャバネゴキブリ(感受性)、クロゴキブリ(感受性)の2種を用いた。
70×70×15mmの大きさのハニカム(図3)には、害虫防除成分を各1.0g含浸させ、害虫防除用装置にセットした。
測定結果を第5表に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
実施例3
(ハニカム含浸処方)
No.1(参考例)
エンペントリン 4.0g
N-ベンゾイルバリン 0.05g
エタノール 0.50g
イルガノックス1010(チバガイギー) 0.1g
テトラキス〔メチレン3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフエニル)プロピオネート〕
この組成液を66×66×15mmのハニカム状担体に含浸した。
No.2(参考例)
エンペントリン 1.0g
2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)
0.15g
ピペロニルブトキサイド 1.5g
この組成液を50×50×15mmのハニカム状担体に含浸した。
No.3
ベンフルスリン 0.5g
ビスフェノールA 0.02g
パルミチン酸イソステアリル 0.05g
この組成液を35×35×10mmのハニカム状担体に含浸した。
No.4
ベンフルスリン 2.0g
N-ヘキサノイル-ε-アミノカプロン酸 0.03g
ミリスチン酸イソプロピル 0.15g
この組成液を70×35×15mmのハニカム状担体に含浸した。
No.5
アレスリン 1.5g
S-421 1.5g
2,6-ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン 0.2g
この組成物を50×50×20mmのハニカム状担体に滴下した。
No.6
テトラメスリン 1.3g
4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)
0.01g
この組成物を50×50×10mmのハニカム状担体に滴下した。
No.7
プラレトリン 0.5g
2-ヒドロキシ-4-n-オクチルベンゾフェノン 0.2g
この組成物を30×30×20mmのハニカム状担体に滴下した。
【0063】
実施例4
(溶液処方)
No.8(参考例)
エンペントリン 5.0g
2,6-ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン 0.6g
香料 0.1g
灯油 35 ml
No.9
ベンフルスリン 0.6g
2,6-ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン 0.1g
香料 0.1g
ミリスチン酸イソプロピル 8 ml
灯油 32 ml
No.10
プラレトリン 1.3g
2,6-ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン 0.1g
香料 0.1g
灯油 40 ml
【0064】
実施例5
(水ベース処方)
No.11
ベンフルスリン 0.6g
ブチルカルビトール 25 ml
水 25 ml
ブチルヒドロキシトルエン 0.20g
No.12(参考例)
エンペントリン 2.0g
ブチルカルビトール 25 ml
プロピレングリコール 17 ml
水 8 ml
ブチルヒドロキシトルエン 0.20g
【0065】
【発明の効果】
既に前記した通り、従来室温(約15から35℃)においてほとんど揮散しない害虫防除成分は、約110から170℃に加熱するという方法でしか害虫を防除することは不可能であると信じられてきた。
本発明者らは、多数の害虫防除成分についてそれらの温度-蒸気圧関係を研究し、それらの温度-蒸気圧関係をcox線図を用いて整理すると、各害虫防除成分の示す温度-蒸気圧関係は互いに平行な直線で表されることを明らかにすることができた。その研究成果に基づいてcox線図上30℃における蒸気圧が1×10^(-3)mmHgより低く(6.6×10^(-4)?1×10^(-7)mmHg)、常温で難揮散性で、沸点が低くとも120℃/1mmHgである害虫防除剤を適当な担体に保持せしめ、薬剤保持した保持材を固定した状態において非加熱状態で気体を保持材に当てることにより、これら害虫防除成分により飛翔性の害虫をはじめゴキブリ等もを駆除し得ることを見いだした。
【0066】
また、本発明の害虫防除用装置を用いると、加熱を必要としないので、火災の危険性がまったくなく、広い空間に害虫防除成分を有効量においてリリースすることができ、かつその効果は長時間維持させることができるので、害虫を有効に防除することができる。
以下に実施例により本発明の効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】
害虫防除効果の試験装置の1例の概要を示す説明図である。
【図2】
害虫防除用薬剤のファン式害虫防除用装置の1例の概要を示す説明図である。
【図3】
害虫防除用薬剤の担体の1例の外観を示す斜視図である。
【図4】
薬剤のファン式害虫防除用装置揮散装置害虫防除用装置に設ける整流板の1例を示す側面図である。
【図5】
シロッコファン式を備えたファン式害虫防除用装置の1例の概要を示す説明図であり、
【図6】
害虫防除用薬剤の大気中に揮散した濃度を測定する装置の1例の概要を示す説明図である。
【図7】
ファン式害虫防除用装置および液体式電気蚊とり器の有効成分気中濃度を示すグラフである。
【図8】
ファン式害虫防除用装置および液体式電気蚊とり器の有効成分揮散動態を示すグラフである。
【図9】
ファン式害虫防除用装置の送風機の運転を制御する制御回路図の1例である。
【図10】
ファン式害虫防除用装置の送風機の運転を制御した時のエンペントリンの揮散状況を示すグラフである。
【図11】
薬剤の温度-蒸気圧関係を示すcox線図の1例を示す図である。
【図12】
蒸気圧測定の説明図である。
【符号の説明】
1 試験装置
2 防虫アミ
3 送風機
4 アクリル樹脂製シリンダー
5 薬剤保持材
6 フアン(プロペラ)
7 モータ
12 吸気口
13 通気路
14 排気口
15 電池
16 電池ボックス
17 スウィッチ
20 送気手段(プロペラ)
21 送気手段(電動モータ)
30 担体(保持材)
31 担体カバー
40 整流板
41 平板
42 シロッコファン
43 モータ
44 吹き出し口
50 試験室
51 ファン式害虫防除用装置
52 殺虫ケージ(1)
53 殺虫ケージ(2)
54 シリカゲルトラップ(1)
55 シリカゲルトラップ(2)
56 流量計(1)
57 真空ポンプ(1)
58 流量計(2)
59 真空ポンプ(2)
60 排気ダクト
81 恒温水槽
82 ヒーター
83 攪拌器
84 リード線
85 冷却器
86 圧力計
87 定圧用びん
88 水流ポンプ
101 直流電源部
103 周波数識別部
105 分周部
107 パルス生成部
109 発光ダイオード(LED)
111 輝度変調部
113 駆動モータ
115 サイリスタ
117 ゼロクロス制御部
119 モードコントローラ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-03-23 
結審通知日 2010-03-25 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願平8-507182
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01N)
P 1 113・ 832- ZA (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
登録日 2008-09-26 
登録番号 特許第4191243号(P4191243)
発明の名称 害虫防除用装置  
代理人 添田 全一  
代理人 赤尾 直人  
代理人 濱田 百合子  
代理人 添田 全一  
代理人 濱田 百合子  

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