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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1219161
審判番号 不服2008-28864  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-12 
確定日 2010-06-24 
事件の表示 特願2003-161769「内燃機関の排気浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月24日出願公開、特開2004-360621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年6月6日の出願であって、平成20年4月7日付けで拒絶理由が通知され、同年6月3日付けで明細書を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出され、同年7月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年8月7日付けで明細書を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出されたが、同年9月17日付けで上記平成20年8月7日付け手続補正書でした補正を却下するとともに、同日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年11月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月1日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)及び明細書を補正する手続補正書がそれぞれ提出され、その後、平成21年10月13日付けで当審において書面による審尋がなされ、同年12月15日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年12月1日付けの明細書を補正する手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年12月1日付けの明細書を補正する手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成20年12月1日付けの明細書を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、下記(a)に示す本件補正前の(すなわち、平成20年8月7日付けで提出された手続補正書による補正は同年9月17日付けで却下されているので、平成20年6月3日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし4を、下記(b)に示す請求項1ないし3に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
排気中の酸素を貯蔵する酸素貯蔵層と、
NOxの還元能力を持つ層と、を備える排気浄化用の触媒であって、
排気リーン時には酸素を貯蔵することによってNOx還元能力を維持し、貯蔵された酸素量が増加してNOx還元能力が低下した場合には、排気をリッチ化することにより貯蔵した酸素を消費して酸素貯蔵能力を再生する触媒を備え、
排気管と吸気管とを接続する排気再循環通路が設けられた内燃機関の排気浄化装置において、
前記酸素貯蔵層において貯蔵可能な酸素量である余裕貯蔵量を推定し、
前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており、
前記余裕貯蔵量が所定の値を下回ったときに排気をリッチ化することを特徴とする、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記余裕貯蔵量に基づいて排気のリッチ化を終了する時期を決定することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記触媒は、排気の近くに位置する外層の触媒と、排気の遠くに位置する内層の触媒とを担体状に担持させた構造を有しており、
前記外層の触媒と前記内層の触媒とは、隣接し、もしくは、不活性の層を挟んで、配設されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記外層の触媒は、セリア(CeO2)、Pr酸化物、または、Zr酸化物、Nd酸化物、Gd酸化物、La酸化物のグループから選択された混合酸化物のいずれかからなる第一のコンパウンドを含み、
前記内層の触媒は、Rh、Pt、Pd、Rh酸化物、Pt酸化物、Pd酸化物、及びこれらの混合物から選択された第二のコンパウンドを含むことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲(なお、当審において補正箇所に下線を付す。請求人が平成20年12月1日付けで提出した手続補正書において付した下線の箇所とは一部異なる。)
「 【請求項1】
排気中の酸素を貯蔵する酸素貯蔵層と、NOxの還元能力を持つ層と、を備える排気浄化用の触媒であって、排気リーン時には酸素を貯蔵することによってNOx還元能力を維持し、貯蔵された酸素量が増加してNOx還元能力が低下した場合には、排気をリッチ化することにより貯蔵した酸素を消費して酸素貯蔵能力を再生する触媒を備え、
排気管と吸気管とを接続する排気再循環通路が設けられた内燃機関の排気浄化装置において、
前記触媒は、エンジンからの排気に近くすなわち排気の流れの上流にある外層の前記酸素貯蔵層と、排気から遠くすなわち排気の流れの下流にある内層の前記NOxの還元能力を持つ層と、を担体上に担持させた構造を有しており、
前記NOxの還元能力を持つ層は、前記外層の酸素貯蔵層の直ぐ内側、または不活性の層を挟んで内側に配設されており、 前記酸素貯蔵層において貯蔵可能な酸素量である余裕量を空気流量を用いて推定し、
前記余裕量が所定の値を下回ったときに排気をリッチ化することを特徴とする、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記余裕量に基づいて排気のリッチ化を終了する時期を決定することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記酸素貯蔵層は、セリア(CeO2)、Pr酸化物、または、Zr酸化物、Nd酸化物、Gd酸化物、La酸化物のグループから選択された混合酸化物のいずれかからなる第一のコンパウンドを含み、
前記NOxの還元能力を持つ層は、Rh、Pt、Pd、Rh酸化物、Pt酸化物、Pd酸化物、及びこれらの混合物から選択された第二のコンパウンドを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。」

2.本件補正の適否の判断
(1)新規事項の追加
本件補正は、本件補正前の請求項1における「触媒」を、「エンジンからの排気に近くすなわち排気の流れの上流にある外層の前記酸素貯蔵層と、排気から遠くすなわち排気の流れの下流にある内層の前記NOxの還元能力を持つ層と、を担体上に担持させた構造を有して」いると特定する補正(以下、「本件補正1」という。)を含むものである。
当該本件補正1について検討する。願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)においては、例えば、段落【0024】には「排気浄化装置15は、外層の触媒は排気に近く、内側の触媒が排気から遠くに位置する二層構造の触媒を担体上に担持させた構造をしている。」と記載されるものの、「外層」が「排気の流れの上流にある」という点、及び、「内層」が「排気の流れの下流にある」という点が当初明細書等に明示的に記載されているとは認められず、また、当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。
この点に関し、本件請求人は、平成20年11月12日付けで提出された審判請求書を補正の対象とする平成20年12月1日付けで提出された手続補正書(方式)において、次のように主張する。
「明細書の段落0019には、「吸気管2の上流から流れてきた新気と混ざり合って」の記載があり、0020には、「排気浄化装置15の上流側には」の表現がある。エンジンでは、空気は、吸気管に入り、エンジンで燃焼して排気管を通って外に出され、一般に、入り口側を上流、出口側を下流と呼ぶ。本願発明においても、0014に記載されるように、二層構造の触媒の外層はエンジンからの排気に近く、内層は、排気から遠くにある。したがって、外層は排気の流れの上流にあり、内層は排気の流れの下流にある。
このように上流、下流の用語は排気ガスの流れにおける上流、下流をいっているのであり、エンジンからの距離による物理的な配置関係をいっているのではない。
原審では、外層が内層に対してエンジンの排気が流入する上流側(エンジン寄り)に位置するものまでは当初明細書、図面に記載されていない、と認定されている。しかしながら、上に釈明したように、本願発明で上流、下流というのは、排気ガスの流れにおける上流、下流をいっているのであるから、当初明細書の記載から自明の事項である。
今回の手続補正では、このことを明らかにするよう、「排気の流れの上流」、「排気の流れの下流」という表現を用いた。今回の補正は、当初明細書、図面の記載から自明な範囲の補正であると考える。」
当該主張について検討する。一般的に、「複数の触媒成分を担体上に層状に担持させた構造を有する触媒」とは、例えば、特開2003-148140号公報(平成15年5月21日公開、例えば、段落【0024】、図2における「担体27a」、「HC吸着材27b」及び「三元触媒層27c」に関する記載を参照。)、特開2002-18242号公報(例えば、段落【0017】、図2、3における「担体1」、「内側触媒層2」及び「外側触媒層3」に関する記載を参照。)、特開2001-182527号公報(例えば、段落【0019】、図1における「触媒担体D」、「ゼオライト層C」、「中間の三元触媒層B」及び「最表層の三元触媒層A」に関する記載を参照。)、及び、特許第3329282号公報(平成14年9月30日発行、例えば、段落【0051】、図2(b)における「基材」、「A層」及び「B層」に関する記載を参照。)に記載されているように、触媒内の排気ガスが流れる方向に対して直交する方向に各触媒成分が担体上に積層されているものが技術常識である。よって、本件の当初明細書等に記載された発明においても、外層と内層とが積層される方向は、明細書及び図面に明記がない以上、当該技術常識に基づいて判断すれば、排気ガスの流れにおける上流、下流の方向に対して直交する方向であると解されるべきであって、本件請求人の主張する「外層は排気の流れの上流にあり、内層は排気の流れの下流にある。」との概念が自明であるとの主張には首肯できない。
また、排気ガスの触媒内での流れを分子レベルの運動として観察した場合に、一部の排気ガスの分子は「外層」から「内層」に向けて移動する可能性も否定できないが、「排気浄化装置15」が、排気ガスが外層を透過し、内層を透過し、さらに担体をも透過することが可能な特殊な構造のものであるとは発明の詳細な説明に記載されていない以上、当該一部の排気ガスの分子は再び「内層」から「外層」へと流れの向きを変え、最終的には排気浄化装置15のエンジン側とは反対側の下流側から排出されると解するのが妥当である。また、たとえ、一部の排気ガスの分子が「外層」を透過し「内層」を透過し担体をも透過するとしても、担体を透過した後は、再び「内層」を透過した上で「外層」を透過せざるを得ないことからも、「外層は排気の流れの上流にあり、内層は排気の流れの下流にある。」との主張には、首肯できない。
したがって、請求項1についての本件補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正(以下、「新規事項を追加する補正」という。)である。

(2)補正の目的要件違反
本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記酸素貯蔵層において貯蔵可能な酸素量である余裕貯蔵量を推定し、
前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており、」との発明特定事項を、単に「前記酸素貯蔵層において貯蔵可能な酸素量である余裕量を空気流量を用いて推定し、」と特定する補正(以下、「本件補正2」という。)を含むものである。
当該本件補正2について検討する。本件補正前における請求項1においては、「余裕貯蔵量を推定」するにあたり、「前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用い」ることを発明特定事項としていたにもかかわらず、本件補正により「余裕量を空気流量を用いて推定」すると本件補正前の「空気流量」を上位概念化して特定するものであるから、本件補正2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正とは認められない。
また、本件請求人は、平成21年12月15日付けで提出された回答書において、本件補正2は「誤記の訂正」を目的とする補正であるとして、次のように主張する。
「2.請求項1から削除した事項
前置報告書は、今回の補正は、請求項1の記載において、「推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」が削除されており、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に違反するから却下されるべきであると結論する。
しかしながら、上記の事項は、平成20年7月8日発送(起案日:平成20年7月1日)の最後の拒絶理由通知において、出願当初の明細書または図面に記載されていないから特許法第17条の2第3項の規定に違反すると認定されたものである。
上記事項の削除は、審査官の認定に従い「誤記の訂正」(特許法第17条の2第5項第3号)(当審注:本願は、平成15年6月6日付けの出願なので、「平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号」の誤記であると解される。)として行ったものであり、適法である。仮にこのような誤記の訂正が認められないとしたら、ひとたび「出願当初の明細書または図面に記載されていない」旨の認定を最後の拒絶理由通知で受けた場合、出願人は、その欠陥を修正することができないままその後の手続きを進めなければならなくなる。このような状態は法が予定したものではなく、審査官による法の解釈適用が誤っているといわざるをえない。」
当該主張について検討する。本件請求人は当該本件補正2は「誤記の訂正」を目的とするものである旨、主張するが、「誤記の訂正」を目的とする補正とは、「これを認めても審査・審理の対象を変更するものではな」い(審査基準第III部第III節の「6.誤記の訂正」の「6.1 趣旨」の欄を参照。)場合に認められるものであって、「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正す」(同「6.2 「誤記の訂正」の意味」の欄を参照。)程度の補正、例えば、本件補正における「担体状」を「担体上」と補正する程度の補正が許されるものである。
一方、本件補正2は、余裕量を推定するために用いる「空気流量」を具体的に特定するための語句を削除するものであって、本件補正前の「空気流量」以外のさまざまな「空気流量」をも請求項1に係る発明の技術的範囲に包含する上位概念化を伴う補正であって、本件補正2により明らかに「審理の対象」が拡張されるものである。
また、本件補正前の請求項1における「前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」との発明特定事項は、平成20年6月3日付けで提出された意見書において、
「(3)-2 特許性
本願発明は、排気再循環通路(EGR)を備えた排気浄化装置におけるOSCの酸素貯蔵量を推定することに技術的な特徴を有しております。
EGRを備えることにより、備えない場合と異なり、状態量(空気流量)を評価するための物理量の計測位置が限定されますし、計測方法も引用文献の図1のようなフローメータでは、温度状態、合流する通路の流れの流速差等の理由から、空気流量を評価することは困難です。
本願発明は、EGRを備える具体的な構成(X-1)に基づき、「余裕貯蔵量を推定」するにあたって、計測位置までも明確にしたものであり、引用文献によって容易に発明をすることができたものではなく、本願発明の内容に想到することは当業者にとって自明の範囲を超えるものと思料します。」と主張していた点を鑑みても、本件請求人が本願請求項1を特定するために必要であると認識した上で付加した事項であって、当該発明特定事項が「誤記」であるとはいい難い。
さらに、本件補正2は、「請求項の削除」、または、「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正とも認められない。
したがって、請求項1についての本件補正2は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、または、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としない補正(以下、「目的要件違反の補正」という。)である。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記2.(1)に記すように新規事項を追加する補正を含むものであることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正は、上記2.(2)に記すように目的要件違反の補正を含むものであることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.平成20年9月17日付けの拒絶をすべき旨の査定について
1.平成20年6月3日付けの手続補正後の請求項1に係る発明
平成20年12月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年6月3日付けの手続補正(以下、「最初の拒絶理由後の補正」という。)により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(a)の【請求項1】に記載された次のとおりである。
「 【請求項1】
排気中の酸素を貯蔵する酸素貯蔵層と、
NOxの還元能力を持つ層と、を備える排気浄化用の触媒であって、
排気リーン時には酸素を貯蔵することによってNOx還元能力を維持し、貯蔵された酸素量が増加してNOx還元能力が低下した場合には、排気をリッチ化することにより貯蔵した酸素を消費して酸素貯蔵能力を再生する触媒を備え、 排気管と吸気管とを接続する排気再循環通路が設けられた内燃機関の排気浄化装置において、
前記酸素貯蔵層において貯蔵可能な酸素量である余裕貯蔵量を推定し、
前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており、 前記余裕貯蔵量が所定の値を下回ったときに排気をリッチ化することを特徴とする、内燃機関の排気浄化装置。」(なお、下線は平成20年6月3日付けの手続補正により補正された箇所を示す。)

2.平成20年7月1日付けの最後の拒絶理由の概要
平成20年9月17日付けの拒絶査定には、「この出願については、平成20年7月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」と記載されており、その平成20年7月1日付けの拒絶理由通知書には、次の理由が記載されている。

「 理 由

平成20年6月3日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



・請求項1において、補正により新たに追加された、「推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」の記載は、出願当初の明細書及び図面に記載されたものではない。すなわち、当初明細書の段落【0032】の記載に、空気流量に関して、わずかに「Qairは空気流量であり」と記載があるのみで、その「Qair」が、そもそも、どこの部分から測定して得た、どのような空気流量であるのか、出願当初の明細書及び図面のいずこにも記載や示唆が認められない。」(以下、「最後の拒絶理由」という。)

3.当初明細書等の記載事項
当初明細書等の例えば段落【0031】及び【0032】には、「空気流量」に関して次の記載がある。
「 【0031】
まず、ステップS30で、OSCにおける酸素貯蔵量の余裕分を次式により計
算する。
【0032】
リーン時
QO2=K1×Qair×(A/F-14.7)/(A/Fmax-14.7)
OSC余裕量=K2×OSCmax-ΣQO2
リッチ時
QO2=K3×Qair×(A/F-14.7)
OSC余裕量=K2×OSCmax-ΣQO2
ここで、QO2は今回OSCに貯蔵された酸素量の推定値である。K1はリーン時のOSCへの酸素吸着率であり、Qairは空気流量であり、A/FはLAFセンサ出力値(空燃比)であり、A/Fmaxは燃料カット中のLAFセンサ出力値である。また、K2はOSCの温度補正係数であり、OSCmaxはOSCの最大酸素貯蔵量であり、K3はリッチ時のOSCにおける酸素消費率である。」(段落【0031】及び【0032】、なお、下線は当審で付した。)

4.当審の判断
最初の拒絶理由後の補正により、請求項1に「前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」との発明特定事項を追加する補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正であるかについて、検討する。
最後の拒絶理由において指摘するように、当初明細書等には段落【0032】に「Qairは空気流量であり、」と記載されてはいるものの、当該「空気流量Qair」が、どこの部分から測定して得た、どのような空気流量であるのかが発明の詳細な説明に明示的に記載されているとは認められない。
また、段落【0024】ないし【0032】の記載を全体として参酌すれば、「排気浄化装置15」の「外層の触媒」の「酸素貯蔵材(OSC)」の「酸素貯蔵量の余裕分」を計算するための「空気流量」であることから、出願時の技術常識に照らせば、当該「空気流量」とは「排気浄化装置15」に流入する「排気ガス」の「空気流量」であるとは認識できるものの、「吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、排気再循環通路が接続された吸気管における空気流量」であることが、当初明細書等の記載から自明であるとまではいえない。
なお、上述の平成20年6月3日付けで提出された意見書における「EGRを備えることにより…状態量(空気流量)を評価するための物理量の計測位置が限定されます」及び「EGRを備える具体的な構成…に基づき、「余裕貯蔵量を推定」するにあたって、計測位置までも明確にした」等の主張から、最初の拒絶理由後の補正により追加された「前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」との発明特定事項により、吸気管2の吸気絞り弁3より下流側で計測した物理量から吸気管2の吸気絞り弁の下流における「空気流量(なお、EGR通路12と吸気管2との合流部よりも上流側の空気流量なのか、下流側の空気流量なのかは特定されていない。)」を評価し、この評価された「空気流量」から酸素貯蔵層における余裕貯蔵量を「推定」することを特定する意図であったと推察される。しかしながら、当初明細書等の例えば段落【0016】及び図1には、吸気管2の吸気絞り弁3より下流側に計測位置があるものとして、「吸気圧センサ8」及び「吸気温センサ9」が記載されるものの、「前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量」を評価するために用いられること、及び、その評価された「空気流量」をもって「排気浄化装置15」に流入する「排気ガス」の「空気流量」とみなし酸素貯蔵層における余裕貯蔵量を推定することのそれぞれが当初明細書等に明示的に記載されているとはいえず、また、当初明細書等の記載から自明であるともいえない。
また、上述の平成21年12月15日付けで提出された回答書における「しかしながら、上記の事項は、平成20年7月8日発送(起案日:平成20年7月1日)の最後の拒絶理由通知において、出願当初の明細書または図面に記載されていないから特許法第17条の2第3項の規定に違反すると認定されたものである。
上記事項の削除は、審査官の認定に従い…」との記載によれば、本件請求人は当該最初の拒絶理由後の補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反したことを自認しているといえる。
よって、最初の拒絶理由後の補正により、請求項1に「前記推定にあたっては、前記吸気管に配設された吸気絞り弁の下流であって、前記排気再循環通路が接続された前記吸気管における空気流量を用いており」との発明特定事項を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正である。

5.むすび
したがって、上記最後の拒絶理由は、妥当なものと認められるので、本願はこの拒絶理由によって拒絶すべきものであり、平成20年9月17日付けの拒絶査定に誤りはない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-26 
結審通知日 2010-04-27 
審決日 2010-05-10 
出願番号 特願2003-161769(P2003-161769)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F02D)
P 1 8・ 573- Z (F02D)
P 1 8・ 561- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 鈴木 貴雄
中川 隆司
発明の名称 内燃機関の排気浄化装置  
代理人 特許業務法人オカダ・フシミ・ヒラノ  

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