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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1219342
審判番号 無効2009-800042  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-20 
確定日 2010-07-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3361055号発明「電子ユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3361055号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成10年 5月29日 特許出願(特願平10-149107号)
平成14年10月18日 特許権の設定登録
平成21年 2月20日 無効審判請求
平成21年 5月25日 被請求人:答弁書提出
平成21年 7月 9日 請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成21年 7月 9日 口頭審理
平成21年 7月24日 請求人:上申書提出、被請求人:上申書提出

II.本件発明
本件特許3361055号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、特許明細書の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 ケースと、
このケース内に収容される回路基板と、
この回路基板上に実装されるリード取付形のIPMと、
このIPMの上面部に該IPMの下面側からねじ等の取付具により取付けられる放熱板と、
前記回路基板に前記取付具の取付け位置に対応して形成された穴と、
前記ケース内に前記回路基板及びIPMのリードを覆うように充填されるポッティング材とを具備すると共に、
前記放熱板は、その一部が前記ポッティング材中に埋設状態とされていること
を特徴とする電子ユニット。」

III.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張し、その証拠方法として下記甲号各証を提出している。
なお、請求人は、審判請求書において甲第3号証、甲第5号証、甲第9号証を提出しているが、これら甲号各証は、口頭審理の際に取り下げられた。
また、請求人は、平成21年7月24日付けの上申書において、本件特許の出願時の技術水準を示す根拠として、参考資料1-7を提出している。


(1)甲第1号証 実願昭53-023787号(実開昭54-129271号)のマイクロフイルム
(2)甲第2号証 特開平9-36303号公報
(3)甲第4号証 特開平4-314358号公報
(4)甲第6号証 特開平9-219519号公報
(5)甲第7号証 特開平10-41460号公報
(6)甲第8号証 国際公開第98/10508号(国際公開日:平成10年3月12日)
(7)参考資料1 特開平9-191659号公報
(8)参考資料2 「超小型DIP-IPM」と題する論文(三菱電機技報 Vol.71 No.12 1997 67-70頁)
(9)参考資料3 「三菱インテリジェントパワーモジュール」と題する文書(三菱電機技報 Vol.67 No.9 1993 107頁)
(10)参考文献4 特開平7-74292号公報
(11)参考文献5 特開平9-206492号公報
(12)参考文献6 特開平4-82597号公報
(13)参考文献7 特開平7-136384号公報

IV.被請求人の主張
被請求人は、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、本件特許無効の審判は成り立たない旨主張している。

V.甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証:実願昭53-023787号(実開昭54-129271号)のマイクロフィルム
(1a)「プリント基板に載設される半導体素子を該プリント基板に垂直な軸方向を有するネジによって固着する放熱器が前記プリント基板に間隔をおいて平行に固定され、前記プリント基板の前記ネジの直下方にあたる部分にネジ回しを挿入できる穴を設けて成ることを特徴とする半導体素子放熱器の取付構造。」(実用新案登録請求の範囲)

(1b)「本考案は、プリント基板上に載設されるトランジスタ等の半導体素子の放熱器の取付構造に関する。パワートランジスタ等の電力用半導体素子は過熱を防止するために放熱器が付設されており、放熱器が大きい程放熱の効果が良くなる。」(第1頁第12-17行)

(1c)「第1図は、プリント基板の上方に垂直に取付けられた放熱器の取付構造の正面図である。半導体素子2をネジ4によって固着する放熱器3は素子と共に基板1の上方に直立して取付けられたもので、部品5のプリント基板1上への載置に支障はないが、狭いスペースで高さの制限を受ける場合には不向きである。
第2図は、プリント基板の上方に間隔をおいて平行に設けた放熱器の取付構造の正面図である。第2図において半導体素子2と放熱器3が横にしてあるので、放熱器3がプリント基板1にかぶさり、例えば、放熱器3の直下にある部品5aが故障して交換しなければならない場合に下方からのネジ止めによって半導体素子2に固着されているため、放熱器3のみを取り外す事ができず、半導体素子2の半田付け部を溶かしながら半導体素子2と共に放熱器3をプリント基板1上から取り除かなければ部品5aを交換できない。そして、プリント基板上に数多くの半導体素子を載設した場合に、第2図に示す取付構造では半導体素子の半田付け部を溶かしプリント基板から取り外すために時間が長くかかるばかりでなく、半導体素子の多少に拘らずコーテイングしてあるプリント基板の半田付け部分が変色したり、焼け焦げの跡が残り、外観を損なう等の欠点がある。
本考案は、上記従来例の放熱器の取付構造の欠点を除き、プリント基板上部のスペースの活用と取扱いの簡便化をはかる放熱器の取付構造の提供を目的とする。」(第2頁第4行-第3頁第12行)

(1d)「5は抵抗、コンデンサ等の部品でプリント基板1に取付けられ、これら部品5の上方に放熱器5がかぶさるように配置されて、スペースのむだなく部品取付けを行なったプリント板装置とすることができる。
上記のような構成において、放熱器3の下方にあつて簡単に取外しできない部品5aが故障などにより交換を必要とする時に、穴6と、穴6の直上方にあつて半導体素子2と放熱器3とを固定するネジ4とは平面的に合致した位置にあるので、ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外す事により、放熱器3をプリント基板1上から取り除き、部品5aを簡単に交換できる。部品交換後、再び穴6を通して差し込んだネジ回しによってネジ4を締めて半導体素子2と放熱器を固着することができる。」(第4頁11行-第5頁第6行)

(1e)第3図は、甲第1号証に記載された考案による半導体素子の放熱器取付構造の実施例の断面図であって、同図からは、半導体素子2がリードによってプリント基板上に載設されていることを読み取ることができる。

(2)甲第2号証:特開平9-36303号公報
(2a)「【請求項1】少なくとも可変抵抗器を含む複数の電子部品を実装配置したプリント基板を、開口面を有するケース内に配置し、前記ケース内をコンパウンドにより充填する電子部品実装構造に於て、前記コンパウンドの充填高よりも長い、両端開口の略筒状のチューブを、その一方の開口部近傍の内側面を前記可変抵抗器の側面に密着し、その他方の開口部近傍は前記コンパウンドに充填されずに位置する様に、配置することを特徴とする電子部品実装構造。」(【特許請求の範囲】)

(2b)「【従来の技術】本発明に係る第1従来例の上面図を図9(a)に、その断面図を図9(b)に示す。FET,トランジスタ,ダイオードなどの半導体素子4と、半導体素子4の放熱の為の放熱板5と、制御回路部を実装した、例えばハイブリッドIC6と、可変抵抗器7と、アルミ電界コンデンサ8と、上記半導体素子4,放熱板5,ハイブリッドIC6,可変抵抗器7,アルミ電界コンデンサ8以外の各種電子部品3とを実装したプリント基板2を、図9(a)に示す様に開口面を有するケース1内部に配置し、図9(b)に示す様にケース1内を所定量のコンパウント10で充填した。なお、図中9は入出力用リード線を示し、図中11は可変抵抗器7の抵抗値を調整する際に用いるドライバーを示す。」(【0002】-【0003】)

(2c)「次に、図9に示す様にケース1内を所定量のコンパウントなどで充填する理由を以下に示す。先ず第1に、例えば電子ブロックが非常に高温度の環境で使用される、もしくは水などがかかる可能性のある環境で使用される場合、電子ブロック自体の耐湿性能、防水性能などを向上させる必要が生じ、その際に、充電部を保護する目的でコンパウントなどによる充填を行うことが多い。第2に、例えば電子ブロック内で数kV程度の高電圧を発する箇所が存在する場合、他の充電部、及び非充電金属部などとの絶縁性能を向上させる目的でコンパウントなどによる充填を行うこともある。第3に、電子ブロックとして密閉ケースを用いる場合に、電子ブロック内の各電子部品の温度上昇を低減する目的で熱伝導性の優れたコンパウントなどによる充填を行うこともある。その他、プリント基板のパターン間の絶縁を確保する為に、プリント基板のコーティングの代わりにコンパウントなどによる充填を行うこともある。」(【0006】-【0010】)

(2d)「ここで、コンパウンド充填を行う実装構造に於ける適切なコンパウンドの充填量について、以下に簡単に述べる。コンパウンド充填の目的が温度上昇の低減である場合は、コンパウンドの充填量をできるだけ多くすればよいが、一般にアルミ電界コンデンサの頭部やガラス管ヒューズなどは、コンパウンドでの埋没が禁止されており、その為にコンパウンド充填量は必然的に決定される。図7(a)の上面図、図7(b)の断面図に、この様なコンパウンド10の充填量の様子を示した。図7(b)に示す様に、コンパウンド10の充填の高さxは、半導体素子4のリード部41の付け根部分よりも高く、アルミ電界コンデンサ8の頭部よりも低くなっている。また、この様なコンパウンド充填量に制限がある場合に於けるハイブリッドIC6への部品実装の有効例を図8に示す。これは、例えば発振回路,パワー部のFETもしくはTrの駆動小信号用(以下駆動用と呼ぶ。)FET及びTrなどの、他よりも自己発熱量の大きい部品15を、ハイブリッドIC6の側面に於けるハイブリッドIC6のリード部61近傍部に実装配置したものである。この様な実装配置を行うことで、ハイブリッドIC6全体がコンパウンド10で充填されなくても、少なくとも自己発熱量の大きい部品15をコンパウント10により充填して埋設することにより、放熱効率を高めることが可能となる。また駆動用FET及びTrとパワー部のFETもしくはTrとの配線長を短くすることができ、ノイズによる影響を低減することも可能となる。なお、上記全ての実施例に於て、チューブ14は可変抵抗器7のみならず、コンパウンドによる埋設が禁止されている、例えばアルミ電界コンデンサやガラス管ヒューズの様な部品に取り付けてもよい。」(【0037】-【0041】)

(2e)甲第2号証に記載された発明に係る第1の実施例の断面図である図1(b)からは、以下の事項を読み取ることができる。
i)左側壁、底面、右側壁を含んで構成される、上方開放のケースと、
ii)上記ケース内に、各種電子部品の実装面を上側にして、水平に収容されるプリント基板と、
iii)上記プリント基板上面の左端部近傍に、直立して取り付けられた半導体素子と、
iv)一方の主面の全部が上記ケースの左側壁の内面に接し(言い換えれば、ケース底面に対しては直立し、かつ、その頂部がケース側壁の頂部よりも低くなるように設置し)、他方の主面が前記半導体素子に接するように設けられた、平板状の放熱板と、
v)上記ケースの底面から、およそケースの2/3程度を充填することで、リード部を含む半導体素子の大部分と、放熱器の下側2/3程度を埋設するコンパウンドと、
を備えた電子部品実装構造。

(3)甲第4号証:特開平4-314358号公報
(3a)「【請求項3】半導体素子を収納したLSIケースを搭載した配線基板と、前記LSIケースの放熱面の取り付けられたフィンと、この配線基板を固定するフレームと、前記配線基板および前記フレームで形成する空間に注入されて前記フィンを露出させた状態で前記配線基板の表面およびLSIケースを覆って硬化されたポッティング剤とを含み、前記配線基板および前記フレームで形成する空間に液体冷媒を入れることを特徴とする半導体素子の冷却構造。」(【特許請求の範囲】)

(3b)「【産業上の利用分野】本発明は、半導体素子の冷却構造に関する。」(【0001】)

(3c)「また図6に示す例(日経エレクトロニクス1985.12.16 P198?209)では、集積回路301を実装したプリント板302全体を直接、不活性で絶縁性の冷却液303に浸漬したものもある。」(【0004】)

(3d)「図6に示す例では、プリント基板302を直接、冷媒303へ浸漬するため、プリント基板302上の銅製のパッドや半田を保護しなければならず、冷媒として化学的に不活性で絶縁性のものを使用する必要があり、フロロカーボン液が使用されているが、フロロカーボン液は高価であり、また水と比較すると熱伝導率,比熱との数分の一であり、水を使用した場合と比べると冷却能力が劣っていた。」(【0007】)

(3e)「図6に示したような従来の浸漬冷却では配線基板の銅パッド,半田,LSIケースのバンプなどが冷媒が触れることにより、反応,腐食してはならないため、一般的には冷媒として水を使用することができず、化学的,熱的に安定でしかも不活性なフロロカーボン液が使用されていた。しかし、フロロカーボン液は水と比べ比熱で約1/3、熱伝導率で約1/10と冷却能力が劣る。またフロロカーボン液は高価でもある。これに対し本実施例では、LSIケース2のバンプ3,配線基板4の銅パッド,半田等をポッティング剤7で覆い、保護しているため、冷媒8と接するのは、LSIケース2の上部の放熱面5だけである。したがって冷媒に水を使用でき、LSIケースの放熱面と冷媒が直接接しているため冷媒能力の高い半導体素子の冷却構造とすることができる。」(【0013】-【0014】)

(3f)「図3は本発明のさらに他の実施例の断面図でLSIケース2の放熱面5にフィン10を取付け、フィン10を残して、LSIケース2をポッティング剤7で覆うことにより、LSIケース2自体も冷媒8と直接接することがなくなり、LSIケース1の材質に金属等が使用可能となる。」(【0016】)

(3g)図3は甲第4号証に記載された発明のさらに他の実施例の縦断面図であって、LSIケース2の幅よりも幅が小さいフィン10が、LSIケースの上部に載置され、該フィン10の一部がポッティング剤7に埋設するようにポッティング剤7を充填することにより、液体冷媒9とLSIケース2が直接接しないようになっている構造を読み取ることができる。

(4)甲第6号証:特開平9-219519号公報
(4a)「【請求項1】第1導電形のドレイン層上の第2導電形のベース領域の表面層に第1導電形層が形成される工程と、第1導電形層よりドレイン層まで達するゲート溝が選択的に形成される工程と、ゲート溝にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成される工程と、ゲート電極および第1導電形層の露出面に層間絶縁膜を被覆し、層間絶縁膜および第1導電形層を分割して第2導電形のベース領域内に達するソースコンタクト溝および層間絶縁膜を貫通しゲート電極内に達するゲートコンタクト溝とを同時形成する工程と、層間絶縁膜上およびこれらの溝を金属膜で被覆し、ゲート金属電極およびソース電極とを形成する工程とを有することを特徴とするMOS型半導体装置の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(4b)「【発明の属する技術分野】この発明は、トレンチ構造のMOSFET、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)およびインテリジェントパワーモジュール(IPM)などのMOS型半導体装置に関する。」(【0001】)

(5)甲第7号証:特開平10-41460号公報
(5a)「【請求項1】絶縁基板に複数のパワー半導体素子を搭載してなるパワー回路部を組み込んだパッケージに対し、その外囲樹脂ケースの上面周域に配備した入出力用主端子の端子フレームを樹脂ケースにインサート成形し、樹脂ケースの内方に引出した端子フレームのインナリード部をパワー回路部の上方に引回し配線した上でその脚片をパワー回路部の基板上に半田接合するとともに、パッケージ内に封止樹脂を充填した半導体装置において、前記端子フレームのケース内への引出し基部を、パワー回路部の上方に引回し配線したインナリード部の配線高さよりも一段低めて封止樹脂層内に没入させたことを特徴とする半導体装置。」(【特許請求の範囲】)

(5b)「【発明の属する技術分野】本発明は、インバータ装置などに適用する半導体のパワーモジュール,IPM(Intelligent Power Module)などを実施対象とする半導体装置に関する。」(【0001】)

(5c)「頭記したIPMを例に、既に製品化されて市場に展開している3相インバータ用の半導体装置の従来構成を図10,図11(a),(b) に示す。各図において、1は金属ベース板、2は絶縁基板2aに複数のパワー半導体素子(IGBT,およびフリーホイーリングダイオード)2bを搭載してなるパワー回路ブロック、3はプリント基板3aにICなどの回路素子3bを実装してパワー素子のドライブ回路,保護回路などの周辺回路を構成した制御回路ブロック、4は金属ベース板1と組合せてパッケージを構成する外囲樹脂ケース、5はパワー回路の入出力用主端子、6は制御回路の制御端子である。ここで、前記の主端子5,制御端子6は外囲樹脂ケース4にインサート成形して該ケースの上面周域に配列しており、特に主端子5については、樹脂ケース4の内壁面から内方へ水平方向に引出した端子フレーム5aのインナリード部5bをを前記パワー回路ブロック2の上方に引き回し配線し、インナリード部5bの先端,ないし中間部から下方に分岐した脚片5cをパワー回路ブロック2の基板2aの所定箇所に半田付けしている。さらに、樹脂ケース4の内方にはゲル状シリコーン樹脂7などの封止樹脂を充填してパワー回路,制御回路,およびその上方に布設されている端子フレーム5aのインナリード部5bを樹脂封止するようにしており、樹脂ケース4の上面開口面は上蓋9で閉塞している。」(【0002】-【0003】)

(6)甲第8号証:国際公開第98/10508号
(6a)「第19図は、スイッチング素子とその駆動回路および保護回路を内蔵したインテリジェントパワーモジュール(IPM)の実施例を示している。ブレーキ回路を内蔵された3相インバータの例である。」(実施例6)

(6b)第19図は、甲第8号証に記載された発明によるインテリジェントパワーモジュールの実施例であって、四隅にモジュールにフィンを締め付けるためのモジュール取り付け穴11を有する絶縁金属基板1の表面上の銅配線に接続された、ブレーキ回路53、2個のIGBTと2個のフライホイールダイオードがトランスファモールドされてなる基本パッケージ16×3個、上アーム制御用ICチップ190×3個、下アームブレーキ回路制御用ICチップ191、ネジ止め対応の主端子17×6個、ボトムエントリコネクタ12を具備したインテリジェントパワーモジュールの構造を読み取ることができる。

VI.当審の判断
上記摘記事項(1a)-(1e)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「プリント基板と、
上記プリント基板上に、リードによって載設される半導体素子と、
上記半導体素子を上記プリント基板に垂直な軸方向を有するネジによって、上記プリント基板側から固着する、前記プリント基板に間隔をおいて平行に固定された放熱器と、
前記プリント基板の前記ネジの直下方にあたる部分に設けたネジ回しを挿入できる穴と、
を備えたプリント板装置」(以下、「甲1発明」という。)

そこで、本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「プリント基板」、「放熱器」、「ネジ」、「プリント基板の前記ネジの直下方にあたる部分に設けたネジ回しを挿入できる穴」、「プリント板装置」は、それぞれ順に本件発明1の「回路基板」、「放熱板」、「ねじ等の取付具」、「回路基板に取付具の取付け位置に対応して形成された穴」、「電子ユニット」に相当する。また、甲1発明の「プリント基板上に、リードによって載設される半導体素子」と本件発明1の「この回路基板上に実装されるリード取付形のIPM」は、いずれも「回路基板上に実装される電気部品」の一種である点において一致するといえる。
また、
そうすると、両者は、
「回路基板と、
この回路基板上に実装される電気部品と、
この電気部品の上面部に該電気部品の下面側からねじ等の取付具により取付けられる放熱板と、
前記回路基板に前記取付具の取付け位置に対応して形成された穴と、
を具備することを特徴とする電子ユニット。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:回路基板上に実装され、放熱板がその上面部に取り付けられる「電気部品」が、本件発明1においては「リード取付形のIPM」であるのに対して、甲1発明では「リードによって載設される半導体素子」である点。

相違点2:本件発明1は、「回路基板を収容するケースと、放熱板の一部を埋設状態となし回路基板及びIPMのリードを覆うように前記ケース内に充填されるポッティング材」を具備するのに対して、甲1発明は、ケース、及び、ポッティング材を具備していない点。

そこで、まず、上記相違点2について検討する。
相違点2について
他の甲第2、4、6-8号証の中で、唯一、甲第2号証には、プリント基板を収容するケースと、放熱板の一部を埋設状態となしプリント基板及び電子部品のリードを覆うように前記ケース内に充填されるコンパウンドを備えた電子部品実装構造(摘記(2e))が記載されており、従来から、電子ブロックの耐湿性の向上等を目的(摘記(2c))としてコンパウンドを充填することが行われていたことが理解できる。
そこで、甲1発明に、甲第2号証に記載された、プリント基板を収容するケースと、放熱板の一部を埋設状態となしプリント基板及び電子部品のリードを覆うように前記ケース内に充填されるコンパウンドを備えた電子部品実装構造を適用して、本件発明1の相違点2に係る構成を、当業者が容易に推考し得たかについて検討する。

甲第1号証の摘記(1c)の「放熱器3の直下にある部品5aが故障して交換しなければならない場合に下方からのネジ止めによって半導体素子2に固着されているため、放熱器3のみを取り外す事ができず、半導体素子2の半田付け部を溶かしながら半導体素子2と共に放熱器3をプリント基板1上から取り除かなければ部品5aを交換できない。そして、プリント基板上に数多くの半導体素子を載設した場合に、第2図に示す取付構造では半導体素子の半田付け部を溶かしプリント基板から取り外すために時間が長くかかるばかりでなく、半導体素子の多少に拘らずコーテイングしてあるプリント基板の半田付け部分が変色したり、焼け焦げの跡が残り、外観を損なう等の欠点がある。本考案は、上記従来例の放熱器の取付構造の欠点を除き、プリント基板上部のスペースの活用と取扱いの簡便化をはかる放熱器の取付構造の提供を目的とする。」との記載から、甲1発明の解決しようとする課題の一つが、放熱器3の直下にある部品5aが故障して交換しなければならない場合の取扱いの簡便化をはかることであるといえる。
そして、甲第1号証の摘記(1d)には、「上記のような構成において、放熱器3の下方にあつて簡単に取外しできない部品5aが故障などにより交換を必要とする時に、穴6と、穴6の直上方にあつて半導体素子2と放熱器3とを固定するネジ4とは平面的に合致した位置にあるので、ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外す事により、放熱器3をプリント基板1上から取り除き、部品5aを簡単に交換できる。部品交換後、再び穴6を通して差し込んだネジ回しによってネジ4を締めて半導体素子2と放熱器を固着することができる。」と記載されており、甲1発明に係るプリント板装置が故障した場合、ネジ回しをプリント基板の下側より穴に差し込んでネジを外す事によって放熱器を取り除き、放熱器の直下にある部品を簡単に交換することができるようになったことが、甲1発明における「取扱いの簡便化」という効果の実質であるといえる。
しかるに、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用して、プリント基板をケース内に収納し、放熱板の一部を埋設状態となしプリント基板及び電子部品のリードを覆うように前記ケース内にコンパウンドを充填した場合には、部品が故障したとしても、該ケースとコンパウンドが邪魔をして、ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外す事はできないし、また、該故障した部品の交換自体も困難となることは明らかである。
すなわち、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用すると、甲1発明の具備する効果の達成が阻害されるといえる。してみれば、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用することを当業者が容易になし得たとは認められない。

なお、請求人は平成21年7月24日提出の上申書の「5.2 甲第1号証について」(第4-5頁)において、「たとえポッティングする基板であってもポッティング前に導通テストを行うことは当然ですし、そこで導通不良と判断された場合に、導通不良の原因となる部品が交換可能なものであってそれさえ交換すれば導通テストで良好と判断されるのであれば当然部品交換を行います。そのようなことをせずにポッティング後にしか導通テストをせずに導通不良の場合は全て廃棄処分にするということは考えにくいものです。」と主張する。しかしながら、本件特許出願前に「たとえポッティングする基板であってもポッティング前に導通テストを行うことは当然です」、及び「そこで導通不良と判断された場合に、導通不良の原因となる部品が交換可能なものであってそれさえ交換すれば導通テストで良好と判断されるのであれば当然部品交換を行います」という作業手順が技術常識であったとは直ちには認めることはできない。また、請求人の前記主張には根拠が示されていないから、請求人の前記主張を採用して、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用することを当業者が容易になし得たとすることもできない。

次いで、甲第4号証について検討する。甲第4号証には、半導体素子を収納したLSIケースを搭載した配線基板と、前記LSIケースの放熱面の取り付けられたフィンと、この配線基板を固定するフレームと、前記配線基板および前記フレームで形成する空間に注入されて前記フィンを露出させた状態で前記配線基板の表面およびLSIケースを覆って硬化されたポッティング剤とを含み、前記配線基板および前記フレームで形成する空間に液体冷媒を入れることを特徴とする半導体素子の冷却構造が記載されている。
一方、甲第4号証に記載された上記冷却構造においては、ポッティング剤は、配線基板およびこの配線基板を固定するフレームで形成する空間に注入されて硬化されるのであるから、甲第4号証には、本件発明1の「(回路基板がこの内に収容され、かつ、この内に回路基板及びIPMのリードを覆うようにポッティング材が充填される)ケース」に相当する部材は存在しないといえる。
すなわち、甲第4号証の「フレーム6」は、本件発明1の「ケース」に相当しないというべきである。
そうすると、請求人の審判請求書の第6頁の2)における、甲第4号証には、「「回路基板・・・半導体素子・・・及び放熱板」を収容するケース(・・・甲第4号証:フレーム6・・・)を備え、このケース内に回路基板と素子のリードを覆うようにポッティング材・・・を充填する構成が示されており、・・・甲第1号証にこの周知・慣用技術を適用することに何ら困難性はない。」との主張は、甲第4号証については、甲第4号証の「フレーム6」が、本件発明1の「ケース」に相当するという誤った認定を前提としたものであるといえる。
したがって、本件発明1が、甲1発明と甲第4号証に記載された発明から容易に発明をすることができたということもできない。

以上のように、上記相違点2なる構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第8号証に記載された発明からは、当業者が容易には想到し得ないものである。そして、本件発明1は、上記相違点2なる構成と、他の構成とが相まって、本件特許明細書記載の効果を奏しているものである。

したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-18 
結審通知日 2009-08-26 
審決日 2009-09-09 
出願番号 特願平10-149107
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一和瀬田 芳正  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 粟野 正明
加藤 浩一
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3361055号(P3361055)
発明の名称 電子ユニット  
代理人 堀口 浩  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 堀口 浩  
代理人 家入 久栄  
代理人 小川 泰典  
代理人 高橋 省吾  
代理人 小川 泰典  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
代理人 萩原 亨  
代理人 小川 文男  

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