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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D |
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管理番号 | 1219576 |
審判番号 | 不服2007-4572 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-02-14 |
確定日 | 2010-07-05 |
事件の表示 | 特願2001-339850「分離膜の薬品洗浄方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月13日出願公開、特開2003-135937〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成13年11月5日の出願であって、平成16年10月13日に明細書に係る手続補正書が提出がされ、平成18年8月3日付けで拒絶理由が起案され、平成18年10月25日に意見書及び明細書に係る手続補正書が提出され、同年11月15日付けで拒絶査定が起案されたところ、平成19年2月14日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、同年3月16日に明細書に係る手続補正書の提出がなされ、平成21年1月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対して請求人から応答がなかったものであって、当審において同年12月28日付けで拒絶理由が起案され、平成22年4月6日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?6に係る発明は、平成22年4月6日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 「【請求項1】 0?20℃に冷却した活性塩素を含む酸化剤水溶液を分離膜に接触させる、有機系高分子からなる分離膜の薬品洗浄方法。」 2.当審の拒絶理由 2-1.拒絶理由の概要 当審の拒絶の理由の「3.特許法第29条第2項違反について」の概要は、本願発明は、本願の出願前の昭和61年4月22日に頒布された特開昭61-78403号公報(以下、「引用文献」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない、というものである。 2-2.引用文献の記載事項 引用文献には、「膜分離装置における膜の洗浄方法」に関し、以下の記載がある。 (ア)「本発明において用いられる洗浄用薬品としては、アルカリ剤、次亜塩素酸ナトリウム、或いは界面活性剤があげられる。」(第3頁左上欄2?4行) (イ)「本発明において、洗浄温度、即ち薬液と膜との接触時の温度は、一般に0?50℃、特に20?40℃の範囲にあるのが望ましい。0℃よりも低い温度では洗浄効果が不十分であり、また50℃よりも高い温度では膜の劣化が生じたり、膜を組み込んだ装置の部品例えばスーペサー等が劣化したりする場合がある。」(第3頁右上欄5?11行) (ウ)「本発明において、限外濾過膜或いは精密濾過膜としては次の如き材質のものがあげられる。即ち、限外濾過膜としては、・・・、ポリエチレン膜、ポリプロピレン膜、・・・等が、また精密濾過膜としては・・・ナイロン、ポリ塩化ビニル・・・等公知の各種のものが用いられる。」(第3頁右上欄17行?同頁左下欄10行) 2-3.引用発明の認定 「膜分離装置における膜の洗浄方法」に関して記載された引用文献の記載事項(ア)?(ウ)からみて、引用文献には「洗浄温度、即ち薬液と膜との接触時の温度は、一般に0?50℃の範囲で次亜塩素酸ナトリウムを洗浄用薬品とする薬液とポリエチレン膜、ポリプロピレン膜等を接触させる膜分離装置における膜の洗浄方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 3.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「膜分離装置における膜」は、本願発明の「分離膜」に相当し、引用発明の「次亜塩素酸ナトリウム」が酸化作用を有することは自明で、本願発明の実施例1においても次亜塩素酸ナトリウム水溶液が用いられているから、引用発明の「次亜塩素酸ナトリウムを洗浄用薬品とする薬液」は、本願発明の「活性塩素を含む酸化剤水溶液」に相当することは明らかであり、引用発明の「洗浄温度、即ち薬液と膜との接触時の温度」は本願発明の「液を分離膜に接触」させる温度に相当することは明らかである。さらに、引用発明の「ポリエチレン膜、ポリプロピレン膜等」は、有機物からなる高分子で形成されるものであるから、本願発明の「有機系高分子」からなる膜に相当する。そうすると、両発明は、 「活性塩素を含む酸化剤水溶液を分離膜に接触させる、有機系高分子からなる分離膜の薬品洗浄方法。」 で一致し、下記の点で相違する。 相違点:本願発明は、「0?20℃に冷却した」酸化剤水溶液を分離膜に接触させるものであるのに対し、引用発明は、「一般に温度が0?50℃の範囲で」薬液を分離膜に接触させるものである点 4.当審の判断 そこで、相違点について検討すると、 まず、分離膜を薬品洗浄する際に分離膜の劣化を抑制することは、ここに例を示すまでもなく本願出願前周知の課題である。 また、引用文献の記載事項(イ)には「洗浄温度、即ち薬液と膜との接触時の温度」に関し、「0℃よりも低い温度では洗浄効果が不十分であり、また50℃よりも高い温度では膜の劣化が生じたり、膜を組み込んだ装置の部品例えばスーペサー等が劣化したりする場合がある」との記載があり、この記載から、薬液を分離膜に接触させる分離膜の薬品洗浄方法において、薬液を分離膜に接触させる温度が低い方が分離膜の劣化が少なく、この温度が高い方が洗浄効果が高いことが窺える。 してみれば、分離膜を薬品洗浄する際に分離膜の劣化を抑制するためには、洗浄効果の許す範囲で薬液を分離膜に接触させる温度を低くすればよいこととなる。 そして、薬液を分離膜に接触させる温度を低くする手段として、薬品洗浄時の雰囲気温度を下げることにより分離膜と薬液の両者の温度を下げること、分離膜を冷却して分離膜の温度を下げること、薬液を冷却して薬液の温度を下げることが考えられるところ、これらの手段のうち簡便で効率の良い手段として薬液を冷却して薬液の温度を下げる手段を採用することは、当業者が格別な困難無くなし得たことである。 また、薬液の冷却の程度を、0?20℃の範囲とすることも、分離膜の劣化の抑制と洗浄効果をともに考慮して当業者が適宜定め得たことである。 そして、本願明細書の記載を検討しても、薬液である酸化剤水溶液の冷却の程度を「0?20℃に冷却した」ことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。 したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.当審の拒絶理由に対する意見書の主張について 請求人は、平成22年4月6日付けの意見書において、「以上実験の通り、相違点b’により、「薬品溶液洗浄時における分離膜疎剤の劣化を最低限に抑えながら、効率よく分離膜面の目詰まり物質やファウリング物質を分解除去する」(本願明細書[0009]段)という、引用文献からは容易に想到できない格別な効果を奏します。よって、本願発明は29条2項の規定により特許を受けられない発明ではないと思料します。」と主張するが、劣化特性は次亜塩素酸ナトリウムの濃度等他の条件で変動するものであり、かかる作用効果は、単に、本願明細書段落【0019】において「ポリオレフィン系の素材は酸化剤と接触した場合、他の有機系高分子と比べて比較的劣化を受けやすい。」と特記されたポリオレフィンの一つである「ポリエチレン」について得られたもので、本願発明が、請求項において「有機系高分子からなる分離膜」と様々な劣化特性を有する広範な材料を特定する以上、請求項の特定事項に基づかない主張であって前提を欠くものといわざるを得ず、採用することはできない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-04-30 |
結審通知日 | 2010-05-06 |
審決日 | 2010-05-18 |
出願番号 | 特願2001-339850(P2001-339850) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B01D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 光子 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 安齋 美佐子 |
発明の名称 | 分離膜の薬品洗浄方法 |