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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1219642
審判番号 不服2007-30317  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-08 
確定日 2010-07-08 
事件の表示 平成 9年特許願第169341号「半導体チップ搭載用基板」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月22日出願公開、特開平11- 17046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年6月26日の出願であって、平成18年11月10日付で、拒絶の理由が通知され、これに対して平成19年1月12日付で手続補正がなされたが、平成19年2月28日付で最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成19年4月26日付で手続補正がなされたが、平成19年10月2日付で前記平成19年4月26日付の手続補正に対して補正の却下の決定がなされると共に、拒絶査定され、前記拒絶査定を不服として、平成19年11月8日付で審判請求をし、平成19年12月7日付で手続補正がなされたものである。


II.平成19年12月 7日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年12月 7日付の手続補正を却下する。

[理 由]
[1]本件手続補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を次のとおりに補正しようとする事項を含むものである。
「【請求項1】端子を有する半導体チップを接着剤によって搭載する半導体チップ搭載用基板であって、前記接着剤が樹脂組成物からなり、樹脂組成物において、端子を有する半導体チップと半導体チップ搭載用基板とを接着した後の40℃での貯蔵弾性率が100?1500MPaであり、繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板の表面に、半導体チップの端子と接続するための接続端子と、その接続端子から引き出された配線導体と、その配線導体を被覆する絶縁被覆を有し、その絶縁被覆が形成されない開口部が半導体チップを搭載する箇所に設けられ、その絶縁被覆の開口部の大きさが、前記半導体チップよりも小さいことを特徴とする半導体チップ搭載用基板。
【請求項2】絶縁被覆の開口部の大きさが、半導体チップよりも20?300μm小さいことを特徴とする半導体チップ搭載用基板。
【請求項3】前記繊維が、ガラス不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体チップ搭載用基板。
【請求項4】前記繊維が、アラミド繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体チップ搭載用基板。」


[2]補正の適否について
1.補正の内容
上記補正の補正事項は、本件補正前の平成19年4月26日付手続補正に対して補正の却下の決定がなされていることから、平成19年1月12日付手続補正により補正された請求項1及び当該手続補正で補正がなされなかった請求項2-4(以下、それぞれ「補正前の請求項1」-「補正前の請求項4」という。)の記載において、

1)補正前の請求項1の「半導体チップ搭載用基板」を、「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板」に、補正しようとすると共に、
2)補正前の請求項2の「ことを特徴とする請求項1に記載の半導体チップ搭載用基板」から、「請求項1に記載の」を削除して「ことを特徴とする半導体チップ搭載用基板」とし、
3)補正前の請求項3の「絶縁被覆の膜厚が、半導体チップに圧力を加えずに半導体チップ搭載用基板に位置あわせして乗せたときに、半導体チップと絶縁被覆の間に必ず隙間ができるように設定されている」との構成を削除し、「前記繊維が、ガラス不織布である」との新たな構成を付加し、
4)補正前の請求項4の「接着剤が、異方導電性接着剤である」との構成を削除し、「前記繊維が、アラミド繊維である」との新たな構成を付加すると共に、引用請求項を補正前の「請求項1?3のうちいずれかに」から「請求項1または2に」
に、補正しようとするものである。

2.補正の目的に関して
上記補正事項1)は、「半導体チップ搭載用基板」を限定しており、限定的減縮を目的とする補正に該当する。

一方、上記補正事項2)は、補正前の請求項1を引用していた発明であったところ、本件補正により引用請求項を削除し、当該引用していた請求項の内容を特定せずに独立した請求項としたものであるから、補正前の限定事項を削除した補正となり、限定的減縮を行っているものとは認められず、また、特許法第17条の2第4項に規定された他の目的である「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)の何れにも該当しないことは明らかである。

更に、上記補正事項3)、4)は、補正前の請求項3及び4自体を削除し、新たな補正後の請求項3及び4は、補正前の請求項3及び4の構成を含まずに、また補正前の請求項1-4のいずれかを単純に分離したのでもなく、補正前に記載されていなかった構成である、補正後の請求項1において新たに限定された「繊維」を、更に限定する新たな請求項を、補正後の請求項1に加えて補正後の請求項3及び4としたものであるから、請求項を2つ増加する増項補正となり、限定的減縮を行っているものとは認められない。

ここで、本件審判請求人は、上記補正事項2)、3)、4)に対して、審判請求書の請求の理由において、次の主張をしている。
『また、請求項2は、補正後の請求項1を引用したものであって、請求項1と同様に限定的減縮に該当します。
また、補正前の請求項3及び請求項4は削除し、補正後の請求項3または請求項4は、補正後の請求項1または2を引用して、「繊維」を「ガラス不織布」または「アラミド繊維」に限定しているものであり、・・・限定的減縮に該当しています。
また、・・・補正後の請求項1?4の発明は、補正前の請求項1又または2の発明の「解決しようとする課題」である「量産性に適しかつ信頼性を向上させた半導体チップ実装用基板を提供することを目的とする」という課題と同一の課題を解決するものです。
したがって、上記各補正は、特許法第17条の2の第6項で準用する第5項ただし書き第2号の規定に適合しています。』

しかしながら、補正後の請求項2については、補正後の請求項1を引用していないことは明らかである。
更に、補正後の請求項3及び4についてみると、
まず、特許法第17条の2第1項第2号の場合において特許請求の範囲についてする補正は、同条第4項第1号ないし第4号に掲げる、「請求項の削除」(1号)、「特許請求の範囲の減縮」(2号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)を目的とするものに「限る」と規定されている。
加えて、東京高裁平15(行ケ)230、知財高裁平17(行ケ)10192の判決によれば、「特許請求の範囲の減縮」(2号)の規定は、請求項の発明特定事項を限定して、これを減縮補正することによって、当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならないと解すべきであるとされている。
これらを踏まえ、上記補正の補正事項3)、4)の目的要件についてみると、上述した増項補正が、「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)に該当しないことは明らかである。
また、当該補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものではないから、「特許請求の範囲の減縮」(2号)にも該当しない。
したがって、本件審判請求人の主張は採用できず、この補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

3.独立特許要件
上記のようにこの補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、却下すべきものであるが、補正後の請求項1は、限定的減縮を行っていることから、一応、上記補正による補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるのか否か)についても検討する。

(1)引用刊行物及びその記載事項
ア.原審の平成18年11月10日付の拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された本願出願前に国内において頒布された特開平3-244140号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載乃至は図示されている。
(刊1a)「〔実施例〕
第1図を参照して、・・半導体チップ(11)は、・・電極(13)・・・が配列されてなる。
本発明においては、これら電極(13)の形式と同時に・・2列の電極(13)間に、放熱効果を向上するためのダミー電極(擬電極)(20)を被着形成する。そして、これら電極(13)及び(20)上にそれぞれ開口(16a)及び(16C)が形成された保護膜として・・・第1の絶縁層(16)が・・・被覆される。・・」(4頁左上欄下から2行-右上欄16行)
(刊1b)「一方、この半導体チップ(11)が実装される回路基板(15)が設けられる。この回基板(15)は・・・金属基板に例えばガラス繊維にエポキシが含浸されてなるガラスエポキシ等の絶縁層(21)を介して銅箔等が接着されてこれが所要のパターンにエツチングされて例えば電極(13)及びダミー電極(20)にそれぞれ対応する配線パターン(14)及びダミーパターン(22)が形成される。配線パターン(14)、更に或る場合はダミーパターン(22)は、半導体チップ(11)の載置部外に延在して形成される。」(4頁左下欄3-12行)
(刊1c)「また、基板(15)上には配線パターン(14)を含んでいわゆるソルダーレジスト等の第2の絶縁層(17)が・・・配線パターン(14〉及びダミーパターン(22)の、半導体チップ(11)の電極(13)及び(20)と接続すべき部分に開口(17a)が生ずるように被覆されてなる。」(4頁第13-18行)
(刊1d)「ここに回路基板(15)としては上述したような熱伝導度の高い金属基板であることが望ましいが、これに限られることなく、熱伝導性にすぐれたことが、好ましい各種絶縁基板や・・・フレキシブル配線回路基板によって構成することもできる。」(4頁左下欄19行-右下欄7行)
(刊1e)「一方、例えば熱硬化性エポキシ樹脂によるバインダー(18)中に・・・導電性粒子(19)が分散された異方性導電膜(12)が用意される。
そして、この異方性導電膜(12)を介して半導体チップ(11)を、各電極(14)及びダミー電極(20)がそれぞれ回避基板(15)の対応する配線パターン(14)及びダミーパターン(22)に対応するようにフェイスダウン状態で異方性導電膜(12)を介して例えば加熱圧着する。このようにして各電極(13)及び(20)と、これに対応する配線パターン(14)及び(22)との間に導電性粒子(19)が介在されてそれぞれが電気的及び熱的に密に結合するようになされる。」(4頁右下欄第8行-5頁左上欄3行)
(刊1f)「第2の絶縁層(17)の半導体チップ(11)下の内端縁から」(5頁左上欄15,16行)
(刊1g)上記記載事項(刊1b)、(刊1c)、(刊1f)を参照すると、第1図には、回路基板表面の配線パターンが半導体チップの両端部から半導体チップの載置部内である半導体チップの下に入り込み、それぞれ配線パターンの端部と半導体チップ下面の電極とが接続されていると共に、第2の絶縁層が、半導体チップ載置部外から半導体チップ下面の電極との接続部の手前まで、配線パターンを被覆しており、図面の左右一方向については、半導体チップ下面の第2の絶縁層の一方側の端部から他方側の端部まで第2の絶縁層が連続して被覆されていないことが図示されている。

イ.原審の平成19年2月28日付の最後の拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された本願出願前に外国において頒布された国際公開96/42107号(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(刊2a)「本発明の半導体搭載用配線基板は、配線基板表面の接続端子部には少なくとも配線部よりも高い突起状の金属バンプ部が設けられており、少なくとも該金属バンプ部を含み半導体チップ表面と対向する部分に導体チップをフェイスダウンで接合および接着固定するための有機異方性導電接着材料が設けられており、配線基板のもう一方の表面には該接続端子部と導通した外部端子が設けられたものである。」(7頁11-17行)
(刊2b)「半導体チップとの熱膨張係数の差による応力を低減するためマトリックス樹脂の線膨張係数ならびに弾性率を下げる目的をもって、異方性導電性に差し支えのない分量だけマトリックス樹脂に石英など無機充填材やエラストマー等の弾性体微粒子を配合・分散させてもよい。常温で液状のものでも差し支えはないが、予めフィルム状に成形された異方性導電フィルムのほうが扱い易く、接着時にボイドが出来にくく、信頼性に優れる。」(9頁11-18行)
(刊2c)「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂は、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaであるものが好ましい。」
(刊2d)「接着フィルム硬化物の弾性率は、例えば、レオロジ(株)製レオスペクトラDVE-4(引っぱりモード、周波数10Hz、5℃/minで昇温)を使用して測定できる。」(10頁5-8行)
(刊2e)「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂として、接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用すれば、熱衝撃、PCTやはんだバス浸漬試験などの信頼性試験において生じる内部応力を吸収できるため、チップと基板の熱膨張係数差が大きい場合での接続後のチップ及び基板の反りが小さく、信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が向上する。従って、ICチップとプリント基板とを接続時の加圧方向にのみ電気的に接続する場合に好都合である。」(11頁12-21行)
(刊2f)「本発明の配線基板に使用される基板としては、ポリイミド、エポキシ等の耐熱性樹脂をガラスクロス等の基材に含浸、乾燥させ、銅箔を貼り合わせ硬化させた積層板、または、ポリイミド等の耐熱性樹脂のフィルムに、接着剤で銅箔を貼り合わせたもの、あるいは、銅箔にポリイミド等の耐熱性樹脂を塗布し、乾燥、硬化させたフレキシブル基板が使用される。」(15頁下から4行-16頁3行)

(2)当審の判断
(2-1)刊行物1に記載の発明
上記刊行物1に関する記載事項(刊1a)?(刊1f)及び摘記事項(刊1g)を整理すると、刊行物1には、
「電極及びダミー電極を有する半導体チップを熱硬化性エポキシ樹脂によるバインダー中に導電性粒子が分散された異方性導電膜を介して電気的及び熱的に密に結合させる回路基板であって、
回路基板の表面には、半導体チップの載置部内で半導体チップ下面の電極及びダミー電極と結合する配線パターン及びダミーパターンが、半導体チップの載置部内から載置部外に延在して形成され、前記配線パターン及びダミーパターンを被覆するソルダーレジスト等の第2の絶縁層を有し、
前記第2の絶縁層は、配線パターン及びダミーパターンと半導体チップ下面の電極及びダミー電極とが接続すべき部分に第2の絶縁層が被覆されない開口が生ずるように設けられ、開口部の一方向については、半導体チップ下面の第2の絶縁層の一方側の端部から他方側の端部まで第2の絶縁層が連続して被覆されていない回路基板。」
に関する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(2-2)対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、
(a)刊行物1発明の「熱硬化性エポキシ樹脂」、「回路基板」、「結合」は、本願補正発明の「樹脂組成物」、「半導体チップ搭載用基板」、「接続」に相当する。
(b)本願明細書において、
「【0004】一般的なフリップチップ接続方法は、半導体チップの濡れ 性を有する金属端子上に置かれたはんだバンプとその対の基板上に配置さ れた濡れ性を有する金属端子を利用し、リフローにより半導体チップと基 板を電気的に接続している。」
「【0017】【実施例】実施例1・・・図1(b)に示すように、半導 体チップ3の端子には、めっきでバンプ4を形成し、」
と記載されていることから、「金属端子」或いは「端子」は、半導体チップに形成されたものであり、バンプは、本願の図1(b)の4バンプとしての突起電極であり、両者が異なるものとして説明されていることは明らかである。
また、原審で補正の却下の決定がなされた平成19年4月26日付手続補正書においては、「半導体チップの端子のバンプ」との補正を行い、端子とバンプとがあることを明示し、バンプに関する主張をしていたものの、平成19年12月7日付の本件補正においては、当該「バンプ」については、これを特定せず、審判請求の理由においても、「バンプ」に関する主張がなされていないことからも、「端子」が「バンプ」を有しているもののみとの特定がなされていないことは明白であり、この点を踏まえれば、明細書の記載及び本件審判請求人の主張の何れからも、刊行物1発明の「電極及びダミー電極」は、本願補正発明の「端子」に相当する。
(c)刊行物1発明の「異方性導電膜」は、半導体チップと回路基板とを加熱加圧により電気的接続と結合とを図るものであるから、本願補正発明の「接着剤」に相当する。
(d)刊行物1発明の「配線パターン及びダミーパターン」は、その端部が、半導体チップ下面の電極と接続されると共に、半導体チップの載置部外に延在して形成されていることから、本願補正発明の「接続端子と、その接続端子から引き出された配線導体」に相当する。
(e)刊行物1発明の「第2の絶縁膜」は、「配線パターン及びダミーパターン」を被覆することから、本願補正発明の「絶縁被覆」に相当する。
(f)刊行物1発明の「開口部」は、配線パターン及びダミーパターンと半導体チップ下面の電極及びダミー電極とを接続すべき部分に設けられるものであり、半導体チップ下面の電極及びダミー電極は、半導体チップ載置部内に有るので、刊行物1発明の「開口部」が設けられる箇所は、本願補正発明の「その絶縁被覆が形成されない開口部が半導体チップを搭載する箇所」に相当する箇所である。

そうすると、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「端子を有する半導体チップを接着剤によって搭載する半導体チップ搭載用基板であって、
前記接着剤が樹脂組成物からなり、
半導体チップ搭載用基板の表面に、半導体チップの端子と接続するための接続端子と、その接続端子から引き出された配線導体と、その配線導体を被覆する絶縁被覆を有し、
その絶縁被覆が形成されない開口部が半導体チップを搭載する箇所に設けられることを特徴とする半導体チップ搭載用基板。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本願補正発明においては、樹脂組成物が「端子を有する半導体チップと半導体チップ搭載用基板とを接着した後の40℃での貯蔵弾性率が100?1500MPa」であるのに対して、刊行物1発明では、その点が不明である点。
相違点2:本願補正発明においては、半導体チップ搭載用基板が「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付き」であるのに対して、刊行物1発明では、その点が不明である点。
相違点3:本願補正発明においては、「絶縁被覆の開口部の大きさが、前記半導体チップよりも小さい」のに対して、刊行物1発明では、開口部の一方向については、開口部の長さが半導体チップより短いものの、他の方向については明記されていない点。
つぎに、上記相違点1-3について検討する。

ア)相違点1について
刊行物2の記載事項(刊2a)には、有機異方性導電接着材料により、半導体チップと配線基板とをフェイスダウンで接合することが、また、(刊2b)-(刊2e)には、半導体チップと配線基板との熱膨張係数差による応力を低減するために、有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂の、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaとなるように調節すべきことが記載されており、また、(刊2d)によれば、弾性率は、動的な測定によるものであるから、本願の貯蔵弾性率に相当することは明らかである。
そして、刊行物1発明においても、異方性導電膜により半導体チップと回路基板とをフェイスダウンで接合するものであり、刊行物1に直接的な記載はなくとも、刊行物2に記載された上記応力低減との課題は、刊行物1発明においても有していることは明らかである。
してみると、応力低減を目的として、刊行物1発明における異方性導電膜を形成する熱硬化性エポキシ樹脂によるバインダーの貯蔵弾性率を、刊行物2に記載された「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂は、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaとなるよう」にすることは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

イ)相違点2について
刊行物1の記載事項(刊1d)「ここに回路基板(15)としては上述したような熱伝導度の高い金属基板であることが望ましいが、これに限られることなく、熱伝導性にすぐれたことが、好ましい各種絶縁基板や・・・フレキシブル配線回路基板によって構成することもできる。」に記載されているように、刊行物1発明の回路基板は、周知の金属基板、絶縁基板、フレキシブル基板等任意の基板を採用することができるものである。
そして、異方性導電接着剤を用いて半導体チップを搭載する回路基板において、繊維で補強された絶縁層を有する多層基板は、刊行物2の記載事項(刊2f)、下記周知文献1に記載されているように周知の技術であり、また、繊維で補強された絶縁層を有する多層基板をビルドアップ法により形成することも下記周知文献1-4に記載されているように周知の技術であり、銅箔を回路パターンとする回路基板として、繊維で補強された樹脂を基材とするもの、フレキシブル基板、金属を基体とするもの等が同等に扱われていること自体も周知文献1の記載事項(周1b)、周知文献3の記載事項(周3c)の記載のようによく知られたものである。
一方、本願の明細書には、「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板」に関する記載としては、実施例2,3の例示自体と、
(本a)「【0010】前記の接続端子は、ガラス布で補強された基板によって支持されていることが好ましく、また、その接続端子が支持される基板は、ガラス布で補強された基板にビルドアップ層を設けたものであり、接続端子は直接にはそのビルドアップ層によって支持されているものであることが好ましい。・・・」
と、単に、「好ましい」の記載が有るのみであり、本願明細書に効果として
(本b)「【0020】・・・ソルダーレジスト6の開口部2が、半導体チップ1つに対して、1つ形成すればよく、その形成が容易であり、高歩留まりで製造できるため、量産性に優れる。また、半導体チップ3と半導体チップ搭載用基板8との接続工程において、接着剤が、加熱・加圧されると流動するのでボイドの発生を抑制し、ソルダーレジスト6の開口部2が半導体チップ3の大きさより小さいので、半導体チップ3のバンプ4と半導体チップ搭載用基板8の接続端子5とが接続された周囲以外にはあまり流れず、樹脂で封止することができ、接続部分間の絶縁が充分に保たれるので、半導体チップ3の接続端子と半導体チップ搭載用基板8の接続端子5間の接続信頼性が高い。半導体チップ3と半導体チップ搭載用基板8との接続工程と、半導体チップ3と半導体チップ搭載用基板8との間の樹脂封止工程とを、同時に行うことができるため、搭載工程の量産性にも優れている。さらに、膜厚を調整すれば、封止に足る接着剤以外は、外に逃がすことができ、接続工程での残留応力が小さく、変形し難い。さらにまた、導電性粒子が分散されている接着剤を用いた場合、加熱・加圧することにより、接続の信頼性を高めることができる。」
との記載があるが、明細書全体を通じて、「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板」について、本願特有の格別な目的、効果に関して記載されていない事から、本願補正発明における「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板」自体は、本願補正発明として、単に周知の繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きのチップ搭載用の回路基板それ自体を採用して周知の効果を単に発揮しているにすぎない。
してみると、刊行物1発明において周知の繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きのチップ搭載用の回路基板を採用することは、周知技術の単なる選択的設計的事項にすぎず、この点に格別な効果も見いだせない。

<周知文献の記載事項>
・周知文献1.特開平9-69596号公報
(周1a)「【0004】・・・電子回路は、銅はくと積層基材が積層接着された銅張り積層体の銅はくを、所望の回路にプリント回路技術によって加工したプリント配線板・・・で、回路機能を満たしているものをいう。」
(周1b)「【0006】半導体集積回路素子・・・の各電極端子と・・・異方導電性接着フイルムなどを介して接続された電子回路上の端子は接着基材層を介して積層基材と積層体を構成している。・・・
【0007】銅はくと積層体を構成する積層基材は、・・・エポキシ樹脂・・・などが使用されている。・・・エポキシ樹脂の場合はガラス繊維布や不織布・・・を補強基材として銅はくと積層体を造っている。最近では、アラミド繊維布や不織布もエポキシ樹脂・・・の補強基材として用いられている。・・・フレキシブルプリント配線板・・・最近では、・・・鉄板、ステンレス板やアルミニウム板などの金属板も積層基材として使用されている。」
(周1c)「【0010】(1)電子回路形成のために、・・半導体集積回路の高集積化が急速に進展し、半導体集積回路素子・・の各電極端子の多ピン化、狭ピッチ化が急速に進んでいる。・・ビルドアップ基板と称する回路を無電解めっきにより形成する高密度回路板が開発されており、・・」

・周知文献2.特開昭64-53497号公報
(周2a)「(技術分野)本発明は、多層プリント配線板及びその製造方法に係り、・・・導体回路と・・・樹脂からなる絶縁層とが交互に積層された、いわゆるビルドアップ法多層プリント配線板・・・である。
(従来の技術)近年、・・・電子機器に対する高密度化あるいは演算機能の高速化が進められている。その結果、プリント配線板においても高密度化を目的として配線回路が多層に形成された多層プリント配線板が使用されている。
従来、多層プリント配線板としては、例えば内層回路が形成された複数の回路板をプリプレグを絶縁層として積層し、加熱プレスして一体化した後、スルーホールによって層間を接続し導通せしめた多層プリント配線板か使用されていた。・・・多層プリント配線板として、導体回路と有機絶縁層とを交互に積層したビルドアップ法多層プリント配線板の開発が最近活発に進められている。」(2頁左上欄15行-左下欄6行)
(周2b)「実施例1 ・・・(2)次いで、銅張り積層板(ガラス布基材エポキシ樹脂)の表面銅箔を常法によりフォトエツチングして得られた印刷配線板上に、前記絶縁層用樹脂液を・・・塗布し、・・・」

・周知文献3.特開平7-15139号公報
(周3a)「【0002】【従来の技術】電子機器の高機能化及び半導体デバイスの高集積化に伴い、プリント基板も高密度化が求められており、現在では層間絶縁膜を有する多層配線基板がその主流となっている。多層プリント配線板の製造方法としては、大きく分けて、積層接着法とビルドアップ法の2つの方法が知られている。」
(周3b)「【0005】従来のビルドアップ法としては、・・・スルーホールめっきされた銅張り積層板をエッチングにより一層目の回路を形成し、ランド部を残して層間絶縁膜となる絶縁樹脂によりマスキングを行い、その上に導電性ペーストインクを印刷して回路を形成した後、導電性ペーストインク上及びスルーホール部に化学銅めっき皮膜を形成して二層目の配線回路を形成する。この二層目の配線回路の形成工程を複数回繰り返すことで多層化する方法等がある。」
(周3c)「【0013】・・・この場合は第一の配線層から積み上げて行くもので完全ビルドアップ法ともいえる。
【0014】このような本発明において配線基板のベースとなる基板としては、例えば、ガラス布基材にエポキシ樹脂を含浸した通称「ガラスエポキシ基板」と称される有機基板、あるいは良熱伝導性の金属板(ヒートシンクとする)上に絶縁層を形成した基板、更にこれらの絶縁基板上には回路形成膜となる銅箔を張り合わせた通称「銅張り積層板」と称されるもの等を含むものである。」

・周知文献4.特開平8-8541号公報
(周4a)「【0015】本発明に係るビルドアップ法によるSLC多層プリント配線板1Aの絶縁基板2として、好ましくは銅張積層板を用いる。本発明に係る銅張積層板の絶縁基板2にはガラス基材を補強基材とし、絶縁性樹脂にエポキシ樹脂を用いたものが好ましいが、プリント配線板用基板であればすべて用いることは可能である。・・・補強基材としては、ガラスクロス、ガラスマット、ガラスペーパー・・・アラミド繊維などの合成樹脂繊維基材・・・が挙げられる。また、本発明に係る絶縁基板2としては、アルミニウムまたは鉄などの金属を基礎または芯とした金属芯積層板もしくはセラミック基板を用いてもよい。」

ウ)相違点3について
刊行物1発明は、半導体チップ下面の電極及びダミー電極と、回路基板の配線パターン及びダミーパターンとの接続すべき部分を開口部としていること、及び刊行物1の上記摘記事項(刊1g)で、摘記したように、刊行物1の第1図には、図面の左右一方向については、半導体チップ下面の第2の絶縁層の一方側の端部から他方側の端部まで第2の絶縁層が連続して被覆されていないことが図示されているものの、図面の奥行きの状態については図示されていない。
しかしながら、半導体チップは通常矩形であり刊行物1にはこれを否定する記載もないことから、刊行物1発明における半導体チップも一般的な矩形状のものとして理解することが相当であり、第2の絶縁層の開口が半導体チップの下面にある上記接続すべき部分で有ること、また、刊行物1の記載事項(刊1c)「基板(15)上には配線パターン(14)を含んでいわゆるソルダーレジスト等の第2の絶縁層(17)が・・・接続すべき部分に開口(17a)が生ずるように被覆されてなる。」との記載から、配線パターン以外の基板上にも第2の絶縁層が被覆されているものであり、半導体チップの載置部周囲の基板上にも第2の絶縁層が被覆されていることが示されているものであり、これらを踏まえれば、刊行物1の第1図に接した当業者であれば、第1図では、半導体チップ下面の少なくとも左右の一方向においては、第2の絶縁層の一方側の端部から他方側の端部まで第2の絶縁層が無い部分が連続していることから、奥行き方向についても同様に設定されていると理解或いは設計することが自然であり、このような開口は、半導体チップの大きさよりも小さな開口である。
また、明細書には、奥行き方向の第2の絶縁膜の開口部を複数設けたり或いは半導体チップ外へ張り出すように形成する特段の説明も記載されておらず、自明な事項でもない。
したがって、刊行物1発明においては、「第2の絶縁層の開口部の大きさが、前記半導体チップよりも小さい」ものとされているか、少なくとも、当業者の適宜設定しうる設計事項の範囲のものである。

なお、審判請求人は、本件審判請求の理由において、「拒絶理由において引用された引用文献1?3、或いは、周知技術には、半導体チップの端子と半導体チップ搭載用基板とを加圧接着する際に、繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板の表面に接続端子を有する」点については、開示も示唆もありません。」と主張するが、当該事項については、上記相違点2で検討したように、単に周知の技術を適宜採用したにすぎない。

また、本願補正発明と刊行物1発明との相違点1-3に係る各構成を採用することによる相乗的な格別な作用・効果も、認められない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知文献1-4に記載の周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.まとめ
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

また、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明について
[1]本願発明
平成19年4月26日付手続補正書は、原審の平成19年10月2日付の補正の却下の決定で、却下されており、また、平成19年12月 7日付の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年1月12日付手続補正書により補正されたその特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
端子を有する半導体チップを接着剤によって搭載する半導体チップ搭載用基板であって、前記接着剤が樹脂組成物からなり、樹脂組成物において、端子を有する半導体チップと半導体チップ搭載用基板とを接着した後の40℃での貯蔵弾性率が100?1500MPaであり、半導体チップ搭載用基板の表面に、半導体チップの端子と接続するための接続端子と、その接続端子から引き出された配線導体と、その配線導体を被覆する絶縁被覆を有し、その絶縁被覆が形成されない開口部が半導体チップを搭載する箇所に設けられ、その絶縁被覆の開口部の大きさが、前記半導体チップよりも小さいことを特徴とする半導体チップ搭載用基板。」

[2]引用刊行物及びその記載事項
原審の平成18年11月10日付の拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された本願出願前に国内において頒布された引用刊行物1及び原審の平成19年2月28日付の最後の拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用刊行物2の記載事項は、それぞれ上記「II.[2]3.(1)引用刊行物及びその記載事項」に記載されたとおりである。

[3]対比・判断
本願発明は、いずれも前記「II.[2]」で検討した本願補正発明の「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの半導体チップ搭載用基板」において「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの」との限定事項を省き「半導体チップ搭載用基板」としたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに「半導体チップ搭載用基板」を「繊維で補強された絶縁性ビルドアップ層付きの」とより限定したものに相当する本願補正発明が、前記「II.[2]3.(2)(2-2)」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び周知文献1-4に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、周知文献1-4は、限定された「半導体チップ搭載用基板」についての相違点2の判断に用いられたことから、本願発明も「II.[2]3.(2)(2-2)」に記載された理由のうち相違点2の検討を要することなく、相違点1、3に関する検討と同様の理由により 刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


[4]むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の請求項2?請求項4に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-23 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願平9-169341
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日比野 隆治坂本 薫昭  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鈴木 正紀
川端 修
発明の名称 半導体チップ搭載用基板  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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