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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  C06D
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C06D
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C06D
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C06D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C06D
審判 全部無効 発明同一  C06D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C06D
審判 全部無効 2項進歩性  C06D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C06D
管理番号 1220060
審判番号 無効2007-800229  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-19 
確定日 2010-05-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3476771号発明「エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正請求書に添付された明細書のとおり、訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯

1.本件特許
本件特許第3476771号の請求項1ないし11に係る発明についての出願は、特願平7-259953号(優先日平成7年10月6日)及び特願平8-192294号(優先日平成8年7月22日)に基づく優先権を主張してなされた特願平8-201802号(出願日平成8年7月31日)を原出願とする分割出願として、平成12年12月20日に出願され、平成15年9月26日にそれらの発明について特許の設定登録がなされたものである。

2.請求の趣旨及びその理由の概要
それに対して、請求人は、本件特許第3476771号の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された発明についての特許が、下記(1)?(4)の理由により特許法第123条第1項第2号及び同法同条同項第4号に該当し、無効とするとの審決を求めた。
(1)本件特許の発明内容は、原出願の優先権主張の基礎となる2つの出願のいずれにも記載されておらず、この2つの優先権は無効であり、本件特許の特許性の判断基準日は原出願の現実の出願日であるところ、本件特許請求の範囲の請求項1ないし6の各発明についての特許は、それらの発明が本件特許の出願日より前の日を優先日とし本件特許の出願日後に出願公開された他の特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるので、特許法第29条の2の規定に違反してされたとし、他の特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明につき、同出願の公開公報を甲第3号証として提示している。
(2)本件特許請求の範囲の請求項1ないし11の各発明についての発明は、それらの発明が本件特許の出願日より前に頒布された刊行物に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとし、甲第6号証ないし甲第10号証の各刊行物を提示している。
(3)本件特許は、明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してされたものである。
(4)本件特許は、明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない特許出願に対してされたものである。

3.以降の手続の経緯
本件審判は、上記2.の請求の趣旨及び理由により、平成19年10月19日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成19年11月 7日付け 答弁指令・請求書副本送付
平成20年 1月 8日 答弁書・訂正請求書(第1回)
平成20年 1月16日付け 弁駁指令・答弁書副本及び訂正請求書副本の送付
平成20年 2月15日 弁駁書
平成20年 3月 5日付け 無効理由通知
同日付け 職権審理結果通知(請求人宛)
平成20年 4月 4日 意見書・訂正請求書(第2回)(被請求人)
同日 意見書(請求人)
平成20年 4月18日付け 意見書・訂正請求書(第2回)各副本送付(請求人宛)
同日付け 意見書副本送付(被請求人宛)
平成20年 6月 6日 上申書(請求人)
平成20年 6月 7日 上申書(被請求人)
平成20年 6月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成20年 6月20日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成20年 6月20日 口頭審理
平成20年 7月11日 上申書(被請求人)
平成20年 7月25日 上申書(請求人)
平成20年 8月 8日 上申書(被請求人)
平成20年 8月18日 上申書(請求人)
(以下、両当事者が提出した各手続書類につき、書類名に提出者を括弧書きで付加し「意見書(請求人)」のようにいうことがある。また、上申書については、提出日の順に「上申書(請求人第1回)」のようにいうことがある。)

第2 訂正の適否についての当審の判断

1.訂正の内容
平成20年4月4日付けの訂正請求がなされたことにより、平成20年1月8日付けの訂正請求については、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、平成20年4月4日付けの訂正請求は、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)を、同訂正請求の請求書に添付された訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正する(以下「本件訂正」という。)ものであって、下記aないしcの訂正事項を含むものである。

(1)訂正事項a
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1に係る
「【請求項1】 アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められるもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
を、
「【請求項1】 アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤にバインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
と訂正する。(以下、上記訂正前の請求項1を「旧請求項1」、訂正後の請求項1を「新請求項1」とそれぞれいう。)

(2)訂正事項b
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項2ないし請求項11に係る
「【請求項2】 前記線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にある請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項3】 単孔円筒状成型体の厚みに対する長さの比が1?9.62である請求項1又は2記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項4】 単孔円筒状成型体の長さが0.5?5mmである請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項5】 単孔円筒状成型体の外径が1.15?6mmである請求項1?4の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項6】 ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤にバインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる請求項1?5の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項7】 ガス発生剤組成物が、(a)含窒素有機化合物25?60重量%、(b)酸化剤40?65重量%、(c)スラグ形成剤1?20重量%、(d)バインダー3?12重量%から成るものである請求項6記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項8】 含窒素有機化合物がニトログアニジン、酸化剤が硝酸ストロンチウムであり、バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、スラグ形成剤が酸性白土である請求項6又は7記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項9】 ガス発生剤組成物が、(a)ニトログアニジン25?60重量%、(b)硝酸ストロンチウム40?65重量%、(c)酸性白土1?20重量%、(d)カルボキシメチルセルロースナトリウム塩3?12重量%から成るものである請求項1?8の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項10】 含窒素有機化合物がジシアンジアミドであり、酸化剤が硝酸ストロンチウム及び酸化銅であり、バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である請求項6又は7記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項11】 ジシアンジアミドを8?20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5?55重量%、酸化銅を24.5?80重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.5?8重量%含有させる請求項10記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
を、
「【請求項2】 前記単孔円筒状成型体の厚みに対する長さの比が1?9.62である請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項3】 前記単孔円筒状成型体の長さが0.5?5mmである請求項1又は2記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項4】 前記含窒素有機化合物がニトログアニジン、前記酸化剤が硝酸ストロンチウムであり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、前記スラグ形成剤が酸性白土である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項5】 前記含窒素有機化合物がジシアンジアミドであり、前記酸化剤が硝酸ストロンチウム及び酸化銅であり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項6】 ジシアンジアミドを8?20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5?55重量%、酸化銅を24.5?80重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.5?8重量%含有させる請求項5記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項7】 前記水溶性バインダーが多糖誘導体からなる請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
と訂正する。
(以下、上記訂正前の各請求項をその項番に従い「旧請求項2」?「旧請求項11」と、訂正後の各請求項をその項番に従い「新請求項2」?「新請求項7」とそれぞれいう。)

(3)訂正事項c
本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0015】に係る
「すなわち本発明は、ガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなり、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体、好ましくは 70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が1乃至12.5mm/秒、更に好ましくは5乃至12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体を提供するものである。尚、本明細書中で単に線燃焼速度と記載した場合、70kgf/cm^(2)の圧力下におけるものを意味する。」
を、
「すなわち本発明は、ガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなり、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体、好ましくは 70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が1乃至12.5mm/秒、更に好ましくは5乃至12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体を提供するものである。尚、本明細書中で単に線燃焼速度と記載した場合、70kgf/cm^(2)の圧力下におけるものを意味する。」
と訂正する。

2.訂正の適否に係る判断

(1)訂正の目的の適否
そこで、以下、上記a?cの各訂正事項に係る訂正が、特許法第134条の2第1項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。

ア.訂正事項a
上記訂正事項aに係る訂正では、請求項1につき、「厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので」あること及び「ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる」ことの2点が付加されるとともに、訂正前の「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にある」が「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」に訂正されている。
そこで検討すると、上記2点の付加された事項については、請求項1に係る発明の「エアバッグ用ガス発生剤成型体」の「厚みW」及び「長さL」の関係に係る事項を新たに直列的に付加することにより「成型体」の形状を限定するものであり、また、上記「成型体」を構成する組成物の構成成分の組合せを新たに直列的に付加することにより「成型体」を限定するものであるから、いずれも請求項1の範囲を実質的に減縮するものといえる。
そして、上記「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係」に係る範囲に係る事項についても、当該関係に係る「W/(2・r)」の数値範囲につき縮減していることが明らかであるから、請求項1に係る範囲を実質的に減縮するものといえる。
したがって、上記訂正事項aに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる事項を目的とするものである。

イ.訂正事項b
上記訂正事項bに係る訂正では、旧請求項2、5?7及び9を削除し、旧請求項3、4、8及び10?11につき項番を繰り上げるとともに、「バインダー」を「前記水溶性バインダー」と訂正して、新請求項2?6としている。また、新たに新請求項1を引用して記載される新請求項7を付加しているものの、新請求項7は、旧請求項1を引用する旧請求項5をさらに引用する旧請求項6に記載されていた事項により特定される発明につき、その一部範囲に減縮するものということができる。
そこで、まず各請求項の引用関係につき検討すると、新請求項2?7はいずれも新請求項1を直接的又は間接的に引用して記載されており、新請求項1に記載された事項につきさらに限定するのみと解されるところ、新請求項1に係る訂正は、上記ア.で説示したとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、新請求項2?7についても、特許請求の範囲を減縮しているものといえる。
また、新請求項4及び5における「バインダー」を「前記水溶性バインダー」とした点につき検討すると、バインダーの種別につき限定したものであるから、特許請求の範囲を実質的に減縮するものといえる。
したがって、上記訂正事項bに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる事項を目的とするものである。

ウ.訂正事項c
上記訂正事項cに係る訂正では、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】につき、訂正前の「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にある」が「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」に訂正されている。
そこで検討すると、請求項1につき「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係」に係る範囲に係る事項について、当該関係に係る「W/(2・r)」の数値範囲につき縮減したことに伴って、新請求項1の記載事項と明細書の段落【0015】の記載事項とが不整合となり対応関係が明りょうでないものとなるところ、当該不整合を訂正により単に整合させて対応関係を明りょうとしていることが明らかである。
したがって、上記訂正事項cに係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる事項を目的とするものである。

エ.小括
以上のとおりであるから、上記a?cの各訂正事項に係る訂正は、いずれも特許法第134条の2第1項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
また、上記a?cの各訂正事項に係る訂正が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものか、すなわち特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たすものかにつき検討する。

ア.訂正事項a
上記訂正事項aに係る訂正により請求項1に付加された「厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので」あることについては、本件特許明細書の段落【0038】及び旧請求項3に記載された事項であり、「ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる」ことは、旧請求項6に記載された事項及び本件特許明細書の段落【0024】に記載された事項のそれぞれを単に組み合わせてなる事項であるといえる。
また、訂正後の「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」ことについては、下限値「0.033」につき旧請求項2に記載された事項であり、上限値「0.058」につき本件特許明細書の段落【0043】?【0058】に記載された実施例及び比較例に係る「W/(2・r)」の算出値で実施例のうち最大値となる「実施例A」に係るものとして記載されているに等しい事項といえるから、本件特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえる。
したがって、上記訂正事項aに係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
なお、審判請求人は、平成20年2月15日付け弁駁書において、上記訂正事項aに係る「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」ことと同一の平成20年1月8日付けの訂正請求における訂正事項につき、当該事項とガス発生剤成型体の外径に係る事項とを組み合わせることが本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない旨をもって、実施例を根拠に上記線燃焼速度rと厚みWとの関係に係る事項の上限及び下限を訂正することはできない旨主張している(弁駁書「7理由」の第1「(1)特許法第134条の2第3項(審決注:「第5項」の誤記と認められる。)で準用する特許法第126条第3項の規定違反」の欄)。
しかしながら、上記のとおり、平成20年1月8日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなされるものであり、本件訂正においては、「ガス発生剤成型体の外径」に係る事項は訂正事項でないから、上記主張は根拠を欠くものである。
また、技術的常識及び本件特許明細書の段落【0010】の記載からみて、「W/(2・r)」なる事項は、ガス発生剤成型体の(平均的な)「燃焼時間(s)」を表すパラメータに係るものと解されるが、本件特許に係る発明の解決しようとする課題として「インフレータシステムに要求されるバッグ展開時間はおおよそ40?60ミリ秒にある。」(段落【0010】)ことに適合する範囲内で実施例の記載に基づき、単に上限を「0.058」、すなわち「58ミリ秒」としたに過ぎないものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものといわざるを得ない。
したがって、審判請求人の上記弁駁書における主張は、採用する余地がない。

イ.訂正事項b
上記訂正事項bに係る訂正における「バインダー」を「前記水溶性バインダー」と訂正したことは、本件特許明細書の段落【0024】に記載された事項に基づくものといえる。
そして、新請求項7において、水溶性バインダーを特定したことについても、本件特許明細書の段落【0024】に記載された事項に基づくものといえる。
したがって、上記訂正事項bに係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ.訂正事項c
上記訂正事項cに係る訂正については、新請求項1における記載事項と本件特許明細書の段落【0015】における記載事項とを単に整合させるものであるところ、新請求項1についての訂正事項aに係る訂正は、上記ア.で説示したとおり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、訂正事項cについても、同様であるものといえる。
したがって、上記訂正事項cに係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ.小括
以上のとおりであるから、上記a?cの各訂正事項に係る訂正は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
さらに、上記a?cの各訂正事項に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否か、すなわち特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものかにつき検討する。
上記(1)で説示したとおり、訂正事項a及びbに係る訂正は、いずれも特許請求の範囲を実質的に減縮するものであって、訂正事項cに係る訂正は、訂正事項aに係る訂正による新請求項1の記載と明細書の記載との不整合を単に整合させたものであるところ、訂正事項a?cについて、他に特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更させる事項が存するものでもない。
したがって、上記a?cの各訂正事項に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものである。
なお、審判請求人は、平成20年2月15日付け弁駁書において、上記訂正事項aに係る「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」こと及びガス発生剤組成物が「水溶性バインダー」を含有することと同一の平成20年1月8日付けの訂正請求における事項につき、当該線燃焼速度rと成型体の厚みWとの関係に係る事項とガス発生剤成型体の外径に係る事項とを訂正により組み合わせること及び訂正によりガス発生剤組成物として「水溶性バインダー」を含有するものとすることによって、被請求人が本件発明の効果に係る新規な主張をしていることに基づき、訂正により発明の要旨を変更しており、もって特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更している旨主張している(弁駁書「7理由」の第1「(2)特許法第134条の2第3項(審決注:「第5項」の誤記と認められる。)で準用する特許法第126条第4項の規定違反」の欄)。
しかしながら、線燃焼速度rと成型体の厚みWとの関係に係る事項とガス発生剤成型体の外径に係る事項とを訂正により組み合わせることについては、上記のとおり、平成20年1月8日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなされるものであり、本件訂正においては、「ガス発生剤成型体の外径」に係る事項は訂正事項でないから、上記主張は根拠を欠くものである。
また、訂正によりガス発生剤組成物として「水溶性バインダー」を含有するものとすることについても、本件特許明細書の段落【0024】には、「水溶性のバインダーが好ましい。」と記載されており、本件特許請求の範囲に記載された事項で特定される発明の一態様として記載されていることは明らかであるから、発明の要旨を変更するものではなく実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、審判請求人の上記弁駁書における主張は、採用する余地がない。

3.訂正に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。

第3 本件審判請求に係る審理範囲
本件訂正にともない、請求項の数が変化しているから、本件審判請求の趣旨につき検討する。
本件審判請求の趣旨は、審判請求書の「6.請求の趣旨」に記載されたとおりの「特許第3476771号発明の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というもの、すなわち、旧請求項1?11の全請求項に係る特許を無効とするとの審決を求めるものである。
そして、本件訂正は、上記第2の2.(1)ア.及びイ.で説示したとおり、旧請求項1?11につき特許請求の範囲を減縮して新請求項1?7としているものであって、かつ、上記第2の2.(3)で説示したとおり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更しているものではないから、新請求項1?7に係る特許請求の範囲は、いずれも旧請求項1?11に係る特許請求の範囲に包含されるものと解される。
したがって、本件審判請求の趣旨について、本件訂正後の「特許第3476771号の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と解するのが相当であって、本件審判請求に係る審理範囲は、新請求項1?7の全請求項であり、特許法第153条第3項に規定の「請求人が申し立てない請求の趣旨」に係る請求項は存しないものである。

第4 本件特許の無効に係る当審の判断

I.当審の平成20年3月5日付け無効理由通知について

当審は、特許法第153条第1項の規定に基づき、平成20年1月8日付け訂正請求が認容されるものとして、本件に係る特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る特許について、平成20年3月5日付けで、以下の理由により特許法第123条第1項第4号の規定に該当する旨の無効理由通知を行った(以下、当該無効理由通知を「当審無効理由通知」と、当該通知に係る無効理由を「当審無効理由」とそれぞれいう。)。

「本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の欄の記載は、下記1.?3.の点で不備である。

1.平成11年改正前特許法第36条第4項(いわゆる実施可能要件)について

本件特許明細書の請求項1には、「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」が記載されている。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を検討すると、ガス発生剤組成物の線燃焼速度の測定方法につき、「窒素置換された容量1リットルの容器中、70kgf/cm^(2)の圧力下で燃焼させ、圧力センサーにより記録される容器内圧力変化を解析することにより導かれる。」旨記載されている(【0039】)ものの、試料の成型方法、形状、寸法及び側面被覆の有無及び燃焼方法等の測定条件及び圧力変化の解析方法に係る記載がなく、いかなる条件からなる測定方法で測定した値をいかなる解析方法によりガス発生剤組成物の線燃焼速度とするのか不明である。
(例えば、甲第5号証及び乙第3号証の各実験成績を対比すると、ガス発生剤組成物は同一であるものと解されるところ、線燃焼速度は相違している。
そして、被請求人は、平成20年1月8日付け答弁書において、乙第3号証とともに乙第2号証を提示し、甲第5号証の実験条件の場合に測定値が有意に変化する旨の疑義につき主張しているから、本件特許明細書において上記測定条件を開示することが必要であることが自明である。)
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載は、同明細書の請求項1及び同項を引用する請求項2?7の各項に記載された事項で特定される発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

2.平成11年改正前特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)について

(1)本件特許明細書の請求項1には、「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」が記載されている。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を検討すると、ガス発生剤組成物の線燃焼速度の測定方法につき、「窒素置換された容量1リットルの容器中、70kgf/cm^(2)の圧力下で燃焼させ、圧力センサーにより記録される容器内圧力変化を解析することにより導かれる。」旨記載されている(【0039】)ものの、試料の成型方法、形状、寸法及び側面被覆の有無及び燃焼方法等の測定条件及び圧力変化の解析方法に係る記載がなく、いかなる条件からなる測定方法で測定した値をいかなる解析方法によりガス発生剤組成物の線燃焼速度とするのかも記載されていないから、結局、ガス発生剤組成物を「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」ものとまで、一般化又は拡張し得る技術的根拠を見いだせない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、含窒素有機化合物、酸化剤、水溶性バインダー及びスラグ形成剤の各構成成分の種類及び組成比が極めて限られた場合(実施例及び比較例)の線燃焼速度について記載されているものの、各構成成分の種類及び組成比につき限定されていない請求項1に記載された「ガス発生剤組成物」一般について、上記線燃焼速度の範囲に係るものであると一般化又は拡張し得るものでもない。
してみると、上記請求項1の「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」なる事項は、発明の詳細な説明の欄の記載により、技術的に十分に裏付けられているものではない。
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用し構成成分の種類及び組成比に係る具体的事項が記載されていない請求項2?5及び7の各項の記載では、同各項に記載された特許を受けようとする発明が同明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)本件特許明細書の請求項1には、「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められるもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体」が記載されている。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を検討しても、上記「厚みW」及び「W/(2・r)」の実測値に係る具体的記載が全くなく、発明の詳細な説明の欄の記載から当業者に自明な事項でもないから、請求項1の上記記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載により、技術的に十分に裏付けられていない。
(なお、「厚みW」について検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の実施例1?6及びAで記載されているのは、成型体の押出成型時の金型寸法(外径及び内径)についてのみであり、その後の乾燥工程を経た成型体に係る実測値については記載されていないが、成型体を湿潤状態から乾燥させた場合、収縮し成型体の寸法が変化することは、当業者に自明であるから、成型体の押出成型時の金型寸法(外径及び内径)が記載されていたとしても、(乾燥状態の)成型体の「厚みW」については記載されているとはいえない。
(なお、線燃焼速度rとの関係式中の「W」であることから、乾燥状態の厚みWを指すことが明らかである。)
また、被請求人は、平成20年1月8日付け答弁書において、「確かに、厳密にいえば、実際のサイズは金型のサイズよりも若干は小さくなるであろうが、特許請求の範囲から外れるようなことはない(実施例1ではWが小さくなるから、特許請求の範囲に含まれることが明らかである。)。また、実施例2?4、7、Aでは金型ではなく実際のガス発生剤のサイズを記載している。」旨主張している(答弁書第18頁下段)。
しかし、甲第5号証の実験結果でも見られるとおり、外径2.6mm、内径0.8mmの金型で製造されたものが乾燥後に外径2.42mm、内径0.8mmとなる程度に収縮しており、「W/(2・r)」の値も0.005程度変化するのであるから、有意に変化するものであって、特許請求の範囲の請求項1における「W/(2・r)」の範囲の当否を左右するものと解される。さらに、実施例2?4及びAは、実施例1における製造方法によるものであるところ、実施例1では、乾燥後の成型体の寸法が測定されていないのであるから、同様に、実施例2?4及びAについても乾燥後の成型体の寸法が記載されているものとはいえない。(実施例7については、外径の点で請求項1記載の事項を具備しないものに訂正されている。)よって、被請求人の上記答弁書における主張は、当を得ないものである。
してみると、「厚みW」が実質的に記載されていないし、上記(1)で説示したとおり線燃焼速度「r」についても実質的に記載されていないのであるから、それらから算出される「W/(2・r)」の値も発明の詳細な説明の欄に記載されたものとはいえない事項である。)
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用する請求項2?7の各項の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が同明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

(3)本件特許明細書の請求項1には、同項記載のガス発生剤成型体を構成するガス発生剤組成物がアジ化物を除く含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる旨記載されている。
しかるに、ガス発生剤組成物は、各構成成分の種類、組成比及びそれらの組合せにより、ガス発生特性(燃焼特性)が大きく異なる点が当業者に自明であり、当該ガス発生特性の適否により本件特許に係る発明の所期の効果(ガス発生時間、燃焼温度等の適正化)の発現の有無が決定されるものと解されるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、含窒素有機化合物、酸化剤、水溶性バインダー及びスラグ形成剤の各構成成分の種類、組成比及びそれらの組合せが極めて限られた場合(実施例及び比較例)以外につき、本件特許に係る発明の所期の効果を奏し得るものか不明であり、各構成成分の種類、組成比及びそれらの組合せにつき限定されていない請求項1に記載された「ガス発生剤組成物」について、拡張又は一般化し得るものではない。
(なお、ガス発生剤組成物につき、線燃焼速度rにより、各構成成分の種類、組成比及びそれらの組合せが決定され得るものでもない点は、上記(1)で説示したとおりである。)
してみると、上記請求項1の同項記載のガス発生剤成型体を構成するガス発生剤組成物がアジ化物を除く含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる旨の記載は、発明の詳細な説明の欄の記載により、技術的に十分に裏付けられているものではない。
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用し構成成分の種類、組成比及びそれらの組合せに係る具体的事項が記載されていない請求項2?5及び7の各項の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が同明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

3.平成11年改正前特許法第36条第6項第2号(いわゆる特許請求の範囲の明確性要件)について

(1)本件特許明細書の請求項1には、「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」が記載されている。
しかるに、ガス発生剤組成物の線燃焼速度は、同一の組成物であっても測定方法により有意に異なるものである(甲第5号証と乙第3号証の実験結果の対比及び乙第2号証の陳述内容からみて明らかである。)ところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、いかなる測定方法により測定された線燃焼速度によるものか定義付けられておらず、当業界において、ガス発生剤組成物の線燃焼速度を一義的に決定し得る周知慣用の測定方法が存するものともいえない。
してみると、上記請求項1の「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」は、いかなる組成物を意味するのか不明である。
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用し構成成分の種類及び組成比に係る具体的事項が記載されていない請求項2?5及び7の各項の記載では、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でない。

(2)本件特許明細書の請求項1には、「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められるもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体」が記載されている。
しかるに、上記(1)で説示したとおり、「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」は、いかなる組成物を意味するのか不明であるから、当該「線燃焼速度r」を変数とする「W/(2・r)」なる関係に係る数値により規定される「エアバッグ用ガス発生剤成型体」についても、いかなる形状等を具備するものか不明である。
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用し構成成分の種類及び組成比に係る具体的事項が記載されていない請求項2?5及び7の各項の記載では、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でない。

(3)本件特許明細書の請求項1には、単孔円筒状のガス発生剤成型体の長さに係る記載はない。
しかるに、技術的常識からみて、ガス発生剤成型体全体の燃焼時間は、線燃焼速度が均一であり全表面に同時着火されるならば、成型体の厚みWが長さを上回る場合、ガス発生剤成型体全体の燃焼時間は、長さにより決定されるものであり、請求項1に記載された他の事項(例えば「W/(2・r)」)により決定されるものでないことが明らかであって、成型体の長さに係る事項は、本件特許に係る発明の所期の効果(所定時間内での燃焼完了等)の有無を決定する事項であるものといえる。
(なお、ガス発生剤成型体の全表面に同時着火されないならば、ガス発生剤成型体全体の燃焼時間を決定する事項が不明となるとともに、「W/(2・r)」の範囲を発明を特定する技術事項とした点についても、燃焼の傾向を示すものではなく、技術的意義を喪失するものと解される。)
したがって、本件特許明細書の請求項1及び同項を引用し成型体の長さに係る事項が記載されていない請求項4?7の各項の記載では、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でない。」

2.当審無効理由の当否
そこで、平成20年4月4日付け訂正請求により訂正された本件訂正明細書につき、上記当審無効理由の当否を以下検討する。

(1)線燃焼速度及びその測定算出方法について
まず、上記当審無効理由につき検討するにあたり、本件特許に係る「ガス発生剤組成物」の「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度」及びその測定算出方法につき検討する。

ア.本件特許に係る「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度」
「線燃焼速度」は、可燃物(火薬、推進剤又はガス発生剤を当然に含む)の燃焼点から燃焼方向への燃焼進行速度であり、本件特許に係る「ガス発生剤成型体」であれば、燃焼点又は燃焼面から燃焼方向(燃焼面であれば当該面に対し法線方向)への燃焼点又は燃焼面の進行速度である。(意見書(被請求人)に添付された参考資料1においても同旨の定義がなされている。)
そして、「線燃焼速度」は、燃焼器内圧力及びその変化、燃焼試料を構成する可燃物(燃料、酸化剤等)の粒子径、燃焼試料の密度等の条件によって、同一の可燃(組成)物であっても変化するものと解される(意見書(被請求人)に添付された参考資料1、参考資料2、参考資料6及び上申書(被請求人第2回)に添付された添付資料3を参照のこと。)ところ、本件特許に係る「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度」は、「70kgf/cm^(2)」なる定圧下において測定することにより、燃焼器内圧力及びその変化による線燃焼速度の変化を排除した「線燃焼速度」であることを明示するとともに、「線燃焼速度」は、上記各変化要因が全て排除される限りにおいて、可燃(組成)物単一固有の物理量であるものと解される(意見書(被請求人)に添付された参考資料4、上申書(被請求人第2回)に添付された添付資料1?3及び上申書(請求人第3回)に添付された甲第25号証参照のこと。)。

イ.「線燃焼速度」の測定算出方法
火薬、推進剤又はガス発生剤に係る技術分野において、各剤の「線燃焼速度」を測定する方法としては、装置の内圧が上昇することを防止した装置内で試料の紐状体(ストランド)を一方から燃焼させ、その途中の既知の長さ部分の燃焼時間に基づき線燃焼速度を算出する「ストランド法」(「クロフォードボンブ法」ともいう。)等が周知慣用のものであり(乙第1号証及び意見書(被請求人)に添付された参考資料5で「クロフォードボンブ法」につき引用されている下記参考文献参照。)、当該測定方法においては、各剤の粒子径が変化しない程度で密度が十分に高くなる程度に圧縮成型した紐状体を使用し、上記ア.で説示した変動要因(可燃物の粒子径及び試料の密度)を排除することも当業者の技術常識の範疇の事項であるものと解される(上申書(被請求人第2回)に添付された添付資料1?3参照。)。

参考文献:工業火薬協会編「工業火薬ハンドブック」1966年11月1日、共立出版株式会社発行、第403頁(「5.5.1 ストランド法」の欄)

ウ.小括
以上の事項を前提として、上記当審無効理由につき以下順次検討する。

(2)当審無効理由1について
上記(1)ア.及びイ.で説示したとおり、技術常識に従い変動要因を排除した上で「70kgf/cm^(2)」なる定圧における線燃焼速度をストランド法(クロフォードボンブ法)等により測定することが当業界周知慣用の技術であるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び当業界周知慣用の技術を参酌すれば、新請求項1及び同項を引用する新請求項2?7の各項に記載された事項で特定される発明を当業者が実施をすることができるものといえる。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記各請求項に記載された事項で特定される発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということができない。

(3)当審無効理由2について

ア.当審無効理由2(1)及び(3)について
上記当審無効理由2(1)及び(3)につき併せて検討すると、上記(1)ア.で説示したとおり、技術常識に従い変動要因を排除した上で「70kgf/cm^(2)」なる定圧における線燃焼速度をストランド法(クロフォードボンブ法)等により測定することが当業界周知慣用の技術であるものといえる。
してみると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、新請求項1に記載された「アジ化物を除く含窒素有機化合物」、「酸化剤」、「水溶性バインダー」及び「スラグ形成剤」について、使用可能なものがそれぞれ例示され(【0017】、【0019】?【0022】及び【0024】参照。)、当該各成分からなる「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」を使用することが記載されており(【0015】参照。)、さらに、2種の「含窒素有機化合物」、2種の「酸化剤」、2種の「水溶性バインダー」及び1種のスラグ形成剤を組み合わせて使用した「線燃焼速度」が「7.2(mm/秒)」?「10.0(mm/秒)」の「ガス発生剤組成物」に係る10個の具体例(実施例及び比較例)についても記載されており、上記請求項に係る発明の効果につき論じられているところ、当業者が、「線燃焼速度」の測定方法に係る上記周知慣用の技術を加味して本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を検討することにより、上記請求項に記載された事項により特定される発明につき本件訂正明細書に記載された所定の課題を解決できる効果を奏することが一応認識できるものといえる。
したがって、上記新請求項1及び同項を引用する新請求項2?7については、各項に記載された特許を受けようとする発明が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないということができない。

イ.当審無効理由2(2)について
次に、上記当審無効理由2(2)につき検討すると、意見書(被請求人)に添付された参考資料8からみて、本件特許に係る分割出願の原出願及び当該原出願の優先権主張の基礎となる出願の当時に金型寸法と成型体寸法とを合致させる条件で押出(圧伸)成型及びその後の乾燥を行うことが従来技術として行われていたものといえるから、本件訂正明細書における実施例(及び比較例)に係るものも金型寸法と成型体寸法とが合致する蓋然性が高いものといえる。
してみると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、新請求項1に記載された「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められるもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体」につき、「W/(2・r)」の値の明示はないものの、金型寸法又は実寸法に基づく「厚みW」及び「線燃焼速度r」から「W/(2・r)」の値につき容易に算出できる10個の具体例(実施例及び比較例)が記載されており、上記請求項に係る発明の効果につき論じられているところ、当業者が当該具体例に係る記載を含む本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を検討することにより、上記請求項に記載された事項により特定される発明につき本件訂正明細書に記載された所定の課題を解決できる効果を奏することが一応認識できるものといえる。
したがって、上記新請求項1及び同項を引用する新請求項2?7については、各項に記載された特許を受けようとする発明が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないということができない。

(4)当審無効理由3について

ア.当審無効理由3(1)について
上記(1)ア.で説示したとおり、「ガス発生剤組成物」に係る「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度」の測定方法につき、技術常識に従い変動要因を排除した上で「70kgf/cm^(2)」なる定圧における線燃焼速度をストランド法(クロフォードボンブ法)等により測定することが当業界周知慣用の技術であるから、新請求項1に記載された「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」については、上記当業界周知慣用の技術に基づき、いかなる組成物を意味するのか当業者に明確であるものといえる。
したがって、新請求項1及び同項を引用する新請求項2?5及び7の各項の記載については、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でないということができない。

イ.当審無効理由3(2)について
上記ア.で説示したとおり、新請求項1に記載された「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」については、上記「線燃焼速度」の測定方法に係る当業界周知慣用の技術に基づき、いかなる組成物を意味するのか当業者に明確であるものといえるから、当該「線燃焼速度r」を変数とする「ガス発生剤成型体」に係る「W/(2・r)」についても当業者に明確であるものといえ、当該「成型体」がいかなる形状等を具備するものかも当業者に明確であるものといえる。
したがって、新請求項1及び同項を引用する新請求項2?5及び7の各項の記載については、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でないということができない。

ウ.当審無効理由3(3)について
上記本件訂正により、新請求項1に「厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので」あることが発明を特定する事項として付加されており、「厚みW」(及び「W/(2・r)」なるパラメータ)ではなく「長さL」により「ガス発生剤成型体」の燃焼時間が決定される「厚みW」が「長さL」を上回る場合について除外されているから、新請求項1に記載された事項により、特許を受けようとする発明が明確になったものといえる。
したがって、新請求項1及び同項を引用し成型体の長さに係る事項が記載されていない新請求項4?7の各項の記載については、同各項に記載された特許を受けようとする発明が明確でないということができない。

(5)当審無効理由に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件の新請求項1?7に係る特許は、平成11年改正前特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということができないから、特許法第123条第1項第4号に該当するものということができない。

II.請求人主張の無効理由に係る当審の判断

1.請求人主張の無効理由
請求人が主張する無効理由の趣旨及び概略については、上記第1の2.で示したとおりであるが、具体的に事案にかんがみ分説すると、下記(i)の無効理由の前提となる事項及び下記(ii)?(vi)の各理由のとおりである。
(i)本件特許明細書に係る発明を特定する技術事項である「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」及び「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にある」ことが、本件特許に係る出願の分割に係る原出願についての優先権主張の基礎となる2つの出願のいずれの明細書にも記載されておらず、優先権を享受できないから、本件特許に係る出願の出願日は、上記原出願の出願日である(以下「優先権前提事項」という。)。
(ii)本件特許明細書の旧請求項1ないし6に係る各発明は、ガス発生剤成型体の線燃焼速度に係る再現実験結果(甲第5号証実験報告書)を参酌すると、本件特許に係る原出願の出願日より前の日を優先日とする出願(特願平9-49296号)の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」という。)に記載された発明であり、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由1」という。)。
(iii)本件特許明細書の旧請求項1ないし11に係る各発明は、本件特許に係る原出願の日前に頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由2」という。なお、請求人は、上記無効理由2に係る主張につき甲第3号証を引用してなる部分があるが、甲第3号証は公知文献ではないから、当該部分の主張は、到底採用することができない。)。
(iv)本件特許明細書の旧請求項1ないし5に係る各発明は、本件特許に係る原出願の日前に頒布された刊行物である甲第8号証及び甲第10号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(以下「無効理由3」という。なお、請求人は、上記無効理由3に係る主張につき甲第3号証を引用してなる部分があるが、甲第3号証は公知文献ではないから、当該部分の主張は、到底採用することができない。)。
(v)本件特許明細書の旧請求項1、2及びそれらの従属請求項の「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される」パラメータ発明に係る記載は明細書のサポート要件に適合するということができず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由4」という。)。
(vi)本件特許明細書の旧請求項7及び9の記載では、「含窒素有機化合物」又は「ニトログアニジン」の使用量につき上限値とすると、組成物全体の量比が100%を超えるものとなることにより、「ガス発生剤成型体」の発明が不明確となるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由5」という。)。
そこで、上記(i)?(vi)の事項又は理由につき、本件訂正後の新請求項1?7及び本件訂正明細書に基づき順次検討する。

2.本件訂正後の本件特許に係る発明
本件訂正後の本件特許に係る発明は、再掲する下記の新請求項1ないし7の各請求項に記載された事項で特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項2】 前記単孔円筒状成型体の厚みに対する長さの比が1?9.62である請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項3】 前記単孔円筒状成型体の長さが0.5?5mmである請求項1又は2記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項4】 前記含窒素有機化合物がニトログアニジン、前記酸化剤が硝酸ストロンチウムであり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、前記スラグ形成剤が酸性白土である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項5】 前記含窒素有機化合物がジシアンジアミドであり、前記酸化剤が硝酸ストロンチウム及び酸化銅であり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項6】 ジシアンジアミドを8?20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5?55重量%、酸化銅を24.5?80重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.5?8重量%含有させる請求項5記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項7】 前記水溶性バインダーが多糖誘導体からなる請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
(以下、各請求項に記載された発明をその項番にしたがい「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」という。)

3.優先権前提事項について
まず、上記優先権前提事項につき検討する。
上記優先権前提事項に係る本件特許の旧請求項1の「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」及び「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にある」ことにそれぞれ相当する本件訂正発明1に係る「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物」及び「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」ことについて、本件特許の原出願に係る優先権主張の基礎となる2つの出願(特願平7-259953号及び特願平8-192294号)の願書に最初に添付された明細書(請求人が提示した甲第1号証及び甲第2号証)の記載を検討すると、いずれの明細書においても「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度」及び「0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲」に係る事項が記載されておらず、上記各明細書の記載に基づき、当業者に自明な事項であるともいえない。
したがって、本件特許に係る原出願は、2つの出願(特願平7-259953号及び特願平8-192294号)を基礎とする優先権主張の利益を享受できないものであり、本件特許に係る出願も当該優先権主張に係る利益を享受することができない。
なお、当事者間に争いはないが、本件特許に係る出願の分割の適否につき検討すると、本件特許明細書及び図面に記載された事項は、いずれも本件特許に係る原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項のみであり、本件特許に係る出願の分割については適法になされたものといえる。

4.無効理由1について

(1)無効理由1に係る審理対象
無効理由1に係る審理対象は、上記1.(ii)で示したとおり、旧請求項1ないし6に係る特許であったが、本件訂正による特許請求の範囲の減縮にともない新請求項1ないし3及び7に係る特許であるものと認める。

(2)先願明細書の記載事項
請求人が提示した本件特許に係る原出願の出願日より前の日を優先日とする先願明細書には、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「本発明は自動車エアバッグを膨張するために使用されるようなガス発生性組成物、そして詳細には、燃料として銅(II)硝酸錯体を使用するガス発生性組成物に関する。」
(【0001】)
(2-2)
「例2
塩基性硝酸銅(II)(58.9重量%)、硝酸グアニジン(41.1重量%)およびグアーガム(5.3重量%、燃料+酸化剤に対して計算)を、十分な水と混合して、スラリーを形成した。スラリーを、適切なダイを有する一軸Haake(商標)押出機で押出し、0.035インチ(0.86mm)の内径および0.06インチ(1.47mm)の外径の単一孔を有する、長いストランドの花火材料を製造した。ストランドを自動チョッパーで0.1インチ(2.45mm)長さに切断した。38gのペレットをエアバッグインフレータで使用した。内部燃焼圧は2500psiであり、そして60リットルタンク圧は約250kPaであった。両方とも許容できるものであると考えられる。」
(【0016】)

(3)無効理由1に係る当審の判断

(3-1)先願明細書に記載された発明
上記(2)で摘示した(2-1)及び(2-2)の各記載からみて、先願明細書には、
「硝酸グアニジン、塩基性硝酸銅(II)及びグアーガムを含む内径0.86mm、外径1.47mm、長さ2.45mmの単一孔を有する長いストランドの花火材料からなる自動車エアバッグを膨張させるために使用されるガス発生性組成物」
に係る発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

(3-2)本件訂正発明1と先願発明との対比
そこで、本件訂正発明1と先願発明とを対比すると、先願発明における「硝酸グアニジン」、「塩基性硝酸銅(II)」及び「グアーガム」は、それぞれ、本件訂正発明1における「アジ化物を除く含窒素有機化合物」、「酸化剤」及び「水溶性バインダー」に相当するものであり、また、先願発明における「内径・・外径・・長さ・・の単一孔を有する長いストランドの花火材料からなる・・ガス発生性組成物」は、「単一孔を有する長いストランド」なる円筒状の形状を有することが明らかであるから、本件訂正発明1における「単孔円筒状に成型してなる・・ガス発生剤成型体」に相当するものであって、さらに、先願発明における「自動車エアバッグを膨張させるために使用される」は、本件訂正発明1における「エアバッグ用」に相当する。
そして、先願発明においては、「内径0.86mm、外径1.47mm、長さ2.45mmの単一孔を有する長いストランド」であるから、本件訂正発明1における「厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)」は、先願発明のものについて8.0であるものといえる。
したがって、本件訂正発明1と先願発明とは、本件の新請求項1に倣い表現すると、
「アジ化物を除く含窒素有機化合物を含むガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のものであって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーを添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」
の発明に係る点で一致し、下記の2点で相違している。

相違点a:ガス発生剤組成物につき、本件訂正発明1では、「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」のに対し、先願発明では、ガス発生剤組成物の線燃焼速度が不明である点
相違点b:ガス発生剤成型体につき、本件訂正発明1では、「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」のに対し、先願発明では、当該線燃焼速度rと厚みWとの関係が不明である点

(3-3)上記相違点に係る検討
上記相違点aに係り、請求人は、上記先願発明に係る「例2」(上記摘示(2-2)参照。)の再現実験を行い、当該「例2」の成型体の線燃焼速度が「10.6mm/秒」であるとの実験結果に係る実験報告書を甲第5号証として審判請求書に添付・提示しており、当該線燃焼速度が、本件訂正発明1における線燃焼速度の範囲内のものである旨主張している(審判請求書第8頁「1-3.甲第3号証の例2発明の再現実験」の欄)。
しかしながら、上記甲第5号証に係る実験結果は、以下の理由により採用することができない。

ガス発生剤組成物の線燃焼速度は、上記I.2.(1)で説示したとおり、種々の変化要因により影響され、測定算出値が有意に変化するものであるが、理想状態であるならば、当該組成物固有単一の物性値となるものということができる。そして、ガス発生剤組成物の線燃焼速度の測定にあたり、当業者であれば、理想状態に近づけるべく線燃焼速度の測定算出値に影響を与える変化要因を可能な限り排除することが当然である。
このような観点から、上記甲第5号証に係る実験(以下「甲5実験」という。)につき検討するに、下記(a)?(c)の線燃焼速度に係る測定算出値に有意な影響を与える蓋然性が高い変化要因が排除されていない方法による測定であるものといえる。
(a)測定試料の密度
測定試料の密度につき、十分な密度となるよう圧力をかけて成型しない場合、線燃焼速度の変化要因となる(上記I.2.(1)ア.参照。)が、甲5実験では、水を含有する混練物を押出成形・切断しさらに乾燥することにより、試料となる単孔円筒状成型体を得ており、乾燥による水の揮散等により、試料成型体の密度は低下するから、上記測定試料は「十分な密度」ではない蓋然性が高いものといえる。
(b)密閉ボンブ法による測定
測定の際の燃焼器内圧力につき、経時的変化があって定圧でない場合、線燃焼速度の変化要因である(上記I.2.(1)イ.参照。)が、甲5実験では、「密閉式タンク」なる密閉ボンブ法であり、ガス発生剤の燃焼によって発生するガスによる燃焼器内圧力の経時的変化を検出するものであるから、上記変化要因を排除できるものではない。
(c)測定された時間-圧力曲線からの線燃焼速度の算出方法
請求人は、甲5実験の正当性の立証を目的として、甲5実験の実験者による甲第13号証陳述書及び甲第18号証陳述書を提出しているが、当該甲第13号証には、「尚、上記の線燃焼速度算出においては、圧力-時間曲線の圧力立上り部分、最高圧力到達付近は排除し、燃焼安定領域を用いて算出を行っています。」と記載されており(甲第13号証陳述書第3頁最下段)、甲第18号証には、「甲第5号証及び甲第13号証でも説明したとおり、私が行ったデータ解析方法では、上記のデータポイントから、圧力立上り部分、最高圧力到達付近を排除したあとの、燃焼安定領域のデータのみを用います(甲第13号証の4枚目)。」と記載されている(甲第18号証陳述書第3頁中段)。
しかるに、甲5実験における圧力-時間曲線の解析において、「燃焼安定領域」の圧力-時間曲線に係るデータのみを使用したとすると、当該解析における「関係式(12)」(審決注:「(12)」は丸数字の12である。)が成立するのは、当該「燃焼安定領域」のみであって、当該関係式で使用する「形状関数Φ(Z)」について「燃焼安定領域」におけるものを使用すべきところ、甲5実験の解析においては、「燃焼安定領域」に至る以前の不安定燃焼により変化するものといえる燃焼開始前の「火薬の形状」に基づき求められる「形状関数Φ(Z)」を使用して「関係式(12)」により「圧力指数n」及び「定数A」を算出しており、さらに、当該「圧力指数n」及び「定数A」とともに、燃焼開始前のガス発生剤成型体の「初期表面積S_(0)」及び「初期体積V_(0)」を使用して「線燃焼速度」を算出しているから、当該解析による算出値は、技術的信頼性に乏しいことが明らかである。

してみると、上記相違点aに係る事項についての請求人の甲5実験の結果による立証は成り立たないものであり、他に相違点aに係る事項についての請求人の立証もない。
したがって、上記相違点aに係る事項につき、先願発明のものが本件訂正発明1における所定の範囲内の線燃焼速度を有するものとはいえない。
また、上記相違点bは、線燃焼速度rと厚みWとの関係に係る事項であって、上記説示のとおり、線燃焼速度に係る事項が同一であるとはいえないのであるから、相違点bも実質的な相違であるものといえる。

(3-4)小括
以上のとおり、本件訂正発明1と先願発明が同一であるとはいえない。

(3-5)本件訂正発明2、3及び7について
本件訂正発明1と先願発明が同一であるとはいえないのであるから、新請求項1を引用して記載する新請求項2、3及び7に係る本件訂正発明2、3及び7と先願発明が同一であるともいえない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1と先願発明とは同一とはいえず、新請求項1を引用して記載する新請求項2、3及び7に係る本件訂正発明2、3及び7と先願発明とも同一ということができない。
したがって、本件訂正発明1ないし3及び7は、いずれも先願明細書に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものともいえないから、本件訂正発明1ないし3及び7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当するものということができない。

5.無効理由2について

(1)無効理由2に係る審理対象
無効理由1に係る審理対象は、上記1.(iii)で示したとおり、旧請求項1ないし11に係る特許であったが、本件訂正による特許請求の範囲の減縮にともない新請求項1ないし7に係る特許であるものと認める。

(2)甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項
請求人が提示した、いずれも本件特許に係る原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

A.甲第6号証(なお、記載事項の摘示にあたり、甲第6号証は米国特許明細書であるので原文を摘示するとともに、その全訳である甲第21号証の同一箇所を付記した上で、甲第21号証の記載に基づき以降の検討を行う。)

(A-1)
「This invention relates to a chemical gas generating composition in solid form capable, upon ignition, of rapidly producing large volumes of non-toxic gases. The gas generating composition of the invention is particularly adapted for inflating safety crash bags in vehicle occupant passive restraint systems.」(第1欄第3行?第8行)
(本発明は、着火時に、大量の無毒性ガスを迅速に発生することができる固体の化学ガス発生剤組成物に関する。本発明のガス発生剤組成物は、自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適している。)(第1頁第11行?第14行)

(A-2)
「EXAMPLES 27-33
Using stoichiometric mixtures of the iron oxides shown in Table I and sodium azide of particle size below 50 .mu.m, pyrotechnic compositions were prepared according to the wet granulation process detailed in U.S. Pat. No. 3,996,079. The grains were made in a form of 0.14" O.D., 0.04" I.D., 0.4" long hollow cylinders. Fourteen gram quantities were burned in a generator of 15 g capacity without a filter, inside a pressure vessel. Ignition was by means of electric squib and 0.5 g of black powder.
As before, P and dP/dt in the high pressure vessel were recorded. The results of the tests are shown in Table II.


(第5欄第40行?下から第3行)
(実施例27-33
表Iに示している酸化鉄と50μm未満の粒径のアジ化ナトリウムとの化学量論的混合物を使用し、米国特許第3,996,079号に詳細に記載されている湿式顆粒化プロセスに従って火工剤組成物を調製した。グレインは、外径0.14インチ、内径0.04インチ、長さ0.4インチの中空シリンダ状粒状物として調製された。圧力容器の内部にあり、15gの処理能力で、フィルターの付いていないガス発生器の中で、14グラムの量を燃焼した。着火は、電気式スクイブ及び0.5gの黒色火薬によった。
前記のように高圧容器の中のP及びdP/dtを記録した。この試験結果を表IIに示している。

)
(第8頁第16行?第9頁第1行)

(A-3)
「EXAMPLES 37-41
Linear burn rates of stoichiometric sodium azide/iron oxide/sodium nitrate compositions were measured. The composition (50 g) was compressed at 60,000 psi into a heavy wall generator. In two instances the composition was boosted by the addition of a small amount of sodium oxide/sodium nitrate system. Varying the size of the outlet orifice, desirable stable burning pressures in the range 300-3000 psi were obtained. From the logarithmic plot of the burn rate, r (inches/min) vs pressure p (psi) the parameters of the equation
r=Kp^(n)were determined. The results are tabulated below in Table IV.


(第6欄第54行?第7欄第12行)
(実施例37-41
アジ化ナトリウム/酸化鉄/硝酸ナトリウムの化学量論的組成物の線燃焼速度を測定した。この組成物(50g)を60,000psiで厚壁のガス発生器の中に圧入した。2つの事例では、少量の酸化ナトリウム/硝酸ナトリウム系を加えることによりこの組成物の性能を高めた。出口オリフィスの寸法を変更すると、300-3000psiの範囲で所望の安定した燃焼圧力が得られた。燃焼速度r(インチ/分)対圧力p(psi)の対数プロットから、方程式
r=Kp^(n)のパラメータを決めた。この結果を下記の表IVに表示している。

)
(第10頁第9行?下から第2行)

B.甲第7号証(なお、記載事項の摘示にあたり、甲第7号証は国際公開パンフレットであるので原文を摘示し、同一事項が記載されていると解される参考資料1(特表平9-503195号公報)の同一箇所を付記し同参考資料1の記載に基づき検討を行う。)

(B-1)
「1. Gasgeneratortreibstoff, umfassend
(A) mindestens ein Carbonat, Hydrogencarbonat oder Nitrat von Guanidin, Aminoguanidin, Diaminoguanidin oder Triaminoguanidin,
(B) mindestens ein Alkali- oder Erdalkalinitrat oder Ammoniumnitrat als Oxidationsmittel, und
(C) mindestens eine Tragersubstanz, ausgewahlt aus Siliciumdioxid, Alkali-, Erdalkali- oder Alumosilikaten und/oder mindestens eine sauerstoffliefernde Tragersubstanz, ausgewahlt aus Eisen(III)oxid, Kobaltoxiden, Mangandioxid und Kupfer(II)oxid, zur Moderation des Abbrandes und zur Verbesserung der Schlackenbildung.
2. Gasgeneratortreibstoff nach Anspruch 1 , wobei Komponente (A) in einer Menge von etwa 20 bis 55, vorzugsweise etwa 50 bis 55 Gew.- %, Komponente (B) in einer Menge von etwa 80 bis 45, vorzugsweise etwa 50 bis 45 Gew.-% und Komponente (C) bezogen auf die Gesamtmenge der Komponenten (A) und (B) in einer Menge von etwa 5 bis 45, vorzugsweise etwa 8 bis 20 Gew.-% vorliegt.
3. Gasgeneratortreibstoff nach Anspruch 1 oder 2, wobei Komponente (A) Triaminoguanidinnitrat ist.
4. Gasgeneratortreibstoff nach einem der Anspruche 1 bis 3, wobei Komponente (B) Kaliumnitrat ist.
5. Gasgeneratortreibstoff nach einem der Anspruche 1 bis 4, wobei Komponente (C) Kieselsaure mit einem pH-Wert von etwa 7 ist.
6. Gasgeneratortreibstoff nach einem der Anspruche 1 bis 5, wobei Komponente (A) zu 99 bis 50 Gew.-% aus Triaminoguanidinnitrat und zu 1 bis 50 Gew.-% aus Nitroguanidin besteht, bezogen auf die Gesamtmenge der Komponente (A).
7. Gasgeneratortreibstoff nach einem der Anspruche 1 bis 6, wobei Komponente (C) Eisen(III)oxid ist.
8. Gasgeneratortreibstoff nach Anspruch 7, wobei das Eisen(III)oxid bezogen auf die Gesamtmenge der Komponenten (A) und (B) in einer Menge von etwa 20 bis 40, vorzugsweise etwa 25 bis 35 Gew.-% vorliegt.
9. Gasgeneratortreibstoff nach einem der Anspruche 1 bis 8, zusatzlich umfassend (D) ein in Wasser bei Raumtemperatur losliches Bindemittel.
10. Gasgeneratortreibstoff nach Anspruch 9, wobei das Bindemittel eine Celluloseverbindung oder ein Polymerisat aus einem oder mehreren polymerisierbaren olefinisch ungesattigten Monomeren ist.
11. Gasgeneratortreibstoff nach Anspruch 9 oder 1 0, wobei das Bindemittel bezogen auf die Gesamtmenge der Komponenten (A) und (B) in einer Menge von etwa 0,1 bis 5, vorzugsweise etwa 1 ,5 bis 2,5 Gew.-% vorliegt.
12. Verwendung des Gasgeneratortreibstoffs nach einem der Anspruche 1 bis 11 als Gaserzeugungsmittel in Airbags, als Loschmittel oder Treibmittel.」
(第11頁?第13頁「Anspruche」の欄)
(1.ガス発生剤推進薬であって、
(A) グアニジン、アミノグアニジン、ジアミノグアニジンまたはトリアミノグアニジンの炭酸塩、炭酸水素塩または硝酸塩少なくとも1種;
(B) 酸化剤としての、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属硝酸塩または硝酸アンモニウム少なくとも1種;
(C) 燃焼を穏やかにし、スラグ形成を改良するための、二酸化珪素、アルカリ金属珪酸塩、アルカリ土類金属珪酸塩またはアルミノ珪酸塩から選択される少なくとも1種のキャリヤー物質、および/または、酸化鉄(III)、酸化コバルト、二酸化マンガンおよび酸化銅(II)から選択される少なくとも1種の酸素供給キャリヤー物質;
を含んでなるガス発生剤推進薬。
2.成分(A)が、約20?55重量%、好ましくは約50?55重量%の量で存在し、成分(B)が約80?45重量%、好ましくは約50?45重量%で存在し、成分(C)が成分(A)および(B)の合計量に対して、約5?45重量%、好ましくは約8?20重量%の量で存在する請求項1に記載のガス発生剤推進薬。
3.成分(A)が、硝酸トリアミノグアニジンである請求項1または2に記載のガス発生剤推進薬。
4.成分(B)が、硝酸カリウムである請求項1?3のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬。
5.成分(C)が、pH約7の珪酸である請求項1?4のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬。
6.成分(A)が、成分(A)の合計量に対して、硝酸トリアミノグアニジン99?50重量%、およびニトログアニジン1?50重量%から成る請求項1?5のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬。
7.成分(C)が、酸化鉄(III)である請求項1?6のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬。
8.酸化鉄(III)が、成分(A)および(B)の合計量に対して、約20?40重量%、好ましくは約25?35重量%の量で存在する請求項7に記載のガス発生剤推進薬。
9.室温で水に溶解する結合剤(D)をさらに含む請求項1?8のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬。
10.結合剤が、セルロース化合物または1種もしくはそれ以上の重合性オレフィン性不飽和モノマーのポリマーである請求項9に記載のガス発生剤推進薬。
11.結合剤が、成分(A)および(B)の合計量に対して、約0.1?5重量%、好ましくは約1.5?2.5重量%の量で存在する請求項9または10に記載のガス発生剤推進薬。
12.エアバッグ中のガス発生剤として、消炎剤としてまたは推進薬としての、請求項1?11のいずれか1項に記載のガス発生剤推進薬の使用。)(【特許請求の範囲】)

(3)無効理由2に係る当審の判断

ア.各甲号証に記載された発明

(ア)甲第6号証
甲第6号証には、「自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適した固体の化学ガス発生剤組成物」が記載され(摘示(A-1)参照。)、「例27」として、「例2」に係る酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物を外径0.14インチ、内径0.04インチ、長さ0.4インチの中空シリンダ状粒状物として調製された固体の化学ガス発生剤組成物が記載されており(摘示(A-2)参照。)、さらに、「例37」として、「例2」に係る酸化鉄とアジ化ナトリウムを含有し硝酸ナトリウム含有量0%のアジ化ナトリウム/酸化鉄/硝酸ナトリウム組成物、すなわち、「例2」に係る酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物の1000psiにおける線燃焼速度rが17(インチ/分)であることも記載されている(摘示(A-3)参照)。
ここで、換算を行うと、「外径0.14インチ、内径0.04インチ、長さ0.4インチ」はそれぞれ「外径3.56mm、内径1.02mm、長さ10.2mm」であり、「1000psi」は、「70kgf/cm^(2)」に相当し、さらに「17(インチ/分)」は、「7.2mm/秒」である。
また、上記「例27」に係る組成物及び「例37」に係る組成物とは、「例2」に係る「酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物」である点で一致するものである。
したがって、甲第6号証には、上記(A-1)?(A-3)の摘示事項からみて、
「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が7.2mm/秒である酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物を外径3.56mm、内径1.02mm、長さ10.2mmの中空シリンダ状粒状物として調製された、自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適した固体の化学ガス発生剤組成物」
に係る発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。

(イ)甲第7号証
甲第7号証には、(A)グアニジンの塩、(B)酸化剤、(C)アルカリ土類金属珪酸塩等のスラグ形成を改良するためのキャリヤー物質及び/又は酸化銅(II)等の酸素供給キャリヤー物質を含んでなるガス発生剤推進薬が記載され(請求項1参照。)、上記(A)成分が、硝酸トリアミノグアニジンおよびニトログアニジンから成ることも記載されている(請求項6参照。)。そして、上記推進薬には、さらにセルロース化合物等の室温で水に溶解する結合剤(D)を含有してもよいことが記載されており(請求項9及び10参照。)、また、当該ガス発生剤推進薬をエアバッグ中のガス発生剤として使用することも記載されている(請求項12参照。)。
ここで、上記(A)成分につき検討すると、グアニジンの塩及びニトログアニジンは、いずれも含窒素有機化合物であって、いずれもアジ化物でないことは、当業者に自明である。
したがって、上記甲第7号証には、上記摘示(B-1)からみて、
「アジ化物でない含窒素有機化合物、酸化剤、スラグ形成を改良するためのキャリヤー物質、酸素供給キャリヤー物質及びセルロース化合物等の室温で水に溶解する結合剤を含有してなるエアバッグ中のガス発生剤として使用されるガス発生剤推進薬」
に係る発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。

イ.対比
そこで、本件訂正発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明における「中空シリンダ状粒状物として調製された」は、「中空シリンダ状」が「外径」、「内径」及び「長さ」を有することからみて、本件訂正発明1における「単孔円筒状」に相当することは明らかであるから、本件訂正発明1における「単孔円筒状に成型してなる」に相当し、また、甲6発明における「自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適した」は、本件訂正発明1における「エアバッグ用」に相当することが明らかである。
さらに、甲6発明における「固体の化学ガス発生剤組成物」は、有形の固体物であることから、本件訂正発明1における「ガス発生剤成型体」に相当する。
ここで、甲6発明のものについての本件訂正発明1における「L/W」及び「W/(2・r)」を算出すると、それぞれ「8.0」及び「0.088」であるものと解される。
したがって、本件訂正発明1と甲6発明とは、
「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が7.2mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が8.0のものであるエアバッグ用ガス発生剤成型体」
に係る点で一致し、下記の2点で相違している。

相違点1:ガス発生剤組成物につき、本件訂正発明1では、「アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる」のに対して、甲6発明では、「酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる」点
相違点2:本願訂正発明1では、「該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」のに対して、甲6発明では、当該「W/(2・r)」が0.088である点

ウ.検討
上記相違点1につき検討すると、甲7発明は、上記認定のとおりのものであり「線燃焼速度の大小」に係る事項はないから、甲6発明における「アジ化物系ガス発生剤」に代えて甲7発明の「非アジド系ガス発生剤」を用いるべきとする事項が甲第7号証に存するものとはいえず、むしろ、本件訂正明細書(【0006】)に記載されているとおり、非アジド系ガス発生剤を使用した場合、使用する酸化剤量によって燃焼温度と線燃焼速度とが相反する関係が存するという解決すべき課題が存するものであるから、甲6発明における「アジ化物系ガス発生剤」を「非アジド系ガス発生剤」に代替することを妨げる要因が存するものといえる。
してみると、上記相違点1につき、甲6発明に甲7発明を組み合わせることは、当業者といえども困難なものといえ、甲6発明に甲7発明を組み合わせることにより、当業者が容易になし得ることということはできない。
また、上記相違点2について、甲6発明における「W/(2・r)」の値は、本件訂正発明1における範囲外のもの(0.088)であって、甲6発明につき本件訂正発明1における「0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲」とすることを示唆する事項はないのであるから、相違点2について当業者が容易になし得ることということができない。
さらに、審判請求人は、上記相違点1につき、本件審判請求書において「甲第6号証において、線燃焼速度の小さい公知のアジ化系ガス発生剤に代えて、それと同等の線燃焼速度が小さい、甲第7号証の公知の非アジド系ガス発生剤を使用する程度のことは当業者において容易である。・・(中略)・・人体保護用エアバッグの技術分野において、アジ化物系ガス発生剤、非アジド系ガス発生剤は共によく知られたものであるから相互に転用することは当業者において困難なものということはできない。」(請求書第11頁?第12頁、「2-3.本件発明と先行技術との対比」の欄)と主張するが、上記説示のとおりの理由により、当該主張は採用する余地がないものである。

エ.小括
したがって、本件訂正発明1は、甲6発明及び甲7発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

オ.本件訂正発明2ないし7について
本件訂正発明2ないし7について検討すると、本件訂正発明2ないし7は、いずれも本件訂正発明1に係る新請求項1を引用する新請求項2?7に係るものであって、本件訂正発明1が、甲6発明及び甲7発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に本件訂正発明2ないし7は、それぞれ甲6発明及び甲7発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)無効理由2に係るまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし7は、いずれも甲6発明及び甲7発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1ないし7は、いずれも本件特許に係る原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないから、本件訂正発明1ないし7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当するということができない。

6.無効理由3について

(1)無効理由3に係る審理対象
無効理由3に係る審理対象は、上記1.(iv)で示したとおり、旧請求項1ないし5に係る特許であったが、本件訂正による特許請求の範囲の減縮にともない新請求項1ないし3及び7に係る特許であるものと認める。

(2)甲第8号証及び甲第10号証に記載された事項
請求人が提示した、いずれも本件特許に係る原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証及び甲第10号証には、以下の事項が記載されている。

C.甲第8号証(なお、記載事項の摘示にあたり、甲第8号証は米国特許明細書であるので原文を摘示するとともに、その全訳である甲第22号証の同一箇所を付記した上で、甲第22号証の記載に基づき以降の検討を行う。)

(C-1)
「The present invention relates to novel gas generating compositions for inflating automobile air bags and similar devices. More particularly, the present invention relates to the use of substantially anhydrous aminotetrazole (5-aminotetrazole) as a primary fuel in gas generating pyrotechnic compositions, and to methods of preparation of such compositions.」(第1欄第16行?第22行)
(本発明は、自動車用エアバッグおよび同様の装置を膨らませるための、新規なガス発生剤組成物に関する。より詳細には、本発明は、ガス発生火工組成物における1次燃料としての、実質的に無水のアミノテトラゾール(5-アミノテトラゾール)の使用と、そのような組成物の調製方法とに関する。)(第1頁第19行?第22行)

(C-2)
「Pellets prepared by this method are observed to be robust and maintain their structural integrity when exposed to humid environments. In general, pellets prepared by the preferred method exhibit crush strengths in excess of 10 lb load in a typical configuration (3/8 inch diameter by 0.07 inches thick). This compares favorably to those obtained with commercial sodium azide generant pellets of the same dimensions, which typically yield crush strengths of 5 lb to 15 lb load.」(第4欄第11行?第19行)
(この方法によって調製されたペレットは、頑丈であることが観察され、湿潤環境に曝されたときに構造的完全性が維持される。一般に、本発明の好適な方法で調製されたペレットは、その典型的な形状(直径3/8インチ、厚さ0.07インチ)において、10ポンドの負荷を上回るような圧壊強度を示す。これは、同じ寸法の、商用のアジ化ナトリウム発生剤ペレットを用いて得られたものに好ましく匹敵し、典型的には5ポンドから15ポンドの負荷の圧壊強度をもたらす。)(第6頁第6行?第11行)

(C-3)
「EXAMPLE 4
Three gas generating compositions were prepared utilizing the anhydrous 5-aminotetrazole powder from Example 3 as the fuel and three different types of cupric oxide as the oxidizer.」(第8欄第53行?第57行)
(実施例4
3種のガス発生剤組成物を、実施例3からの無水5-アミノテトラゾール粉末を燃料として利用し、また3種の異なるタイプの酸化第二銅を酸化剤として利用して調製した。)
(第12頁下から第10行?第7行)

(C-4)
「EXAMPLE 5
Samples of granules prepared according to the procedure of Example 4 were dried further at 220.degree. F. The accompanying weight losses are summarized in Table 2. Samples of the 5-AT/CuO composition were pressed into 1/2" diameter cylindrical pellets with a weight of three grams each. The resulting burn rate data are summarized in Table 2.」(第9欄第9行?第13行)
(実施例5
実施例4の手順により調製された顆粒のサンプルを、220°Fでさらに乾燥した。これに伴う重量損失を、表2にまとめる。5-AT/CuO組成物のサンプルを加圧して、それぞれ3gの重量の直径1/2インチの円柱状ペレットとした。得られた燃焼速度データを表2にまとめる。)(第13頁第7行?第11行)(審決注:甲第22号証では、「cylindrical pellets」を「円筒状ペレット」と訳しているが、内孔を有するものではないから、「円柱状ペレット」と訳すべきものと解される。)

(C-5)「TABLE 2」(表2)(第10欄下段?第11欄上段)



(

)

D.甲第10号証

(D-1)
「エア/安全バッグを備えた自動車両の膨張式安全システムのためのインフレータであって、インフレータハウジングと、少なくとも前記インフレータハウジング内に収容され、実質的に不活性流体及び酸素からなる加圧媒質と、前記インフレータハウジングに接続され、少なくとも一つのガス発生器用出口を備えたガス発生器ハウジングと、前記ガス発生器ハウジング内に収容され、二次爆薬を備えた推進剤と、インフレータ作動アッセンブリとを備え、前記加圧媒質が前記インフレータハウジングから放出され、かつ前記インフレータ作動アッセンブリを起爆させることによって、前記推進剤が点火されて推進ガスを発生するようにしたインフレータ。」(【請求項1】)

(D-2)
「ガス発生器ハウジング86は複数の推進剤グレイン90を含有し、これは点火されるとエア/安全バッグ18(図1)への流れを増大させるための加熱推進剤の燃焼生成ガスを供給する。・・(中略)・・下記のように、推進剤グレイン90はガンタイプ推進剤から製造可能である。しかし、推進剤グレイン90はほぼ円筒形であり、一つの孔がその中央部を貫通している。」(【0027】)

(D-3)
「以下の例はガンタイプ推進剤を混成インフレータにおいて使用することに関連した種々の特徴を記載するのに更に役立っている。例1:総重量18gの推進剤グレイン90を形成するのに上記のHPC-96推進剤を用いた。各推進剤グレイン90は図2に概略的に示した形状を呈し、長さ又は厚さが約0.52インチ(1.32cm)、外径が約0.29インチ(0.737cm)、薬厚が約0.105インチ(0.267cm)(推進剤グレイン90の内径と外径との差の1/2)であった。」(【0042】)

(3)無効理由3に係る当審の判断

ア.各甲号証に記載された発明

(ア)甲第8号証
甲第8号証には、5-アミノテトラゾールを燃料とし酸化銅を酸化剤として調製されるガス発生剤組成物が記載され(上記(C-3)参照。)、当該組成物を「円柱状ペレット」とすることも記載されており(上記(C-2)及び(C-4)参照。)、また、当該円柱状ペレットが「1071(psi)」の「平均圧力P_(平均)」下で「0.497(in/s)」の「燃焼速度Rb」を有することが記載され(上記(C-5)参照。)、さらに、当該円柱状ペレットが自動車用エアバッグを膨らませるために使用されることも記載されている(上記(C-1)参照。)。
したがって、甲第8号証には、上記(C-1)?(C-5)の記載からみて、
「5-アミノテトラゾールと酸化銅とから調製されたガス発生剤組成物を円柱状ペレットとしてなる平均圧力1071(psi)における燃焼速度が0.497(in/s)のエアバッグ用ガス発生剤円柱状ペレット」
に係る発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。

(イ)甲第10号証
甲第10号証には、「推進剤グレイン」につき「ほぼ円筒形で一つの孔がその中央部を貫通するもの」、すなわち「単孔円筒状」のものであることが記載され(上記(D-2)参照。)、当該推進剤グレインとして、「長さが約0.52インチ(1.32cm)」で「薬厚が約0.105インチ(0.267cm)(推進剤グレイン90の内径と外径との差の1/2)」であるものが記載されており(上記(D-3)参照。)、さらに、当該「推進剤」が「エア/安全バッグを備えた自動車両の膨張式安全システムのためのインフレータ」、すなわち「エアバッグ用」に使用されることも記載されている(上記(D-1)参照。)。
したがって、甲第10号証には、上記(D-1)?(D-3)の記載からみて、
「長さが約0.52インチ(1.32cm)で薬厚が約0.105インチ(0.267cm)の単孔円筒状のエアバッグ用推進剤グレイン」
に係る発明(以下「甲10発明」という。)が記載されている。

(ウ)甲第6号証
甲第6号証に記載された発明は、上記4.(3)ア.(ア)で示した甲6発明であり、再掲すると以下のとおりのものである。
「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が7.2mm/秒である酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物を外径3.56mm、内径1.02mm、長さ10.2mmの中空シリンダ状粒状物として調製された、自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適した固体の化学ガス発生剤組成物」。

イ.対比
そこで、本件訂正発明1と上記甲8発明とを対比すると、甲8発明における「平均圧力1071(psi)」は、換算すると「平均圧力75.3kgf/cm^(2)」であり、燃焼速度の「0.497(in/s)」は、「12.6mm/秒」であるものと解されるが、甲8発明における「燃焼速度」は、測定時の圧力が「平均圧力」である点からみて、測定時の圧力が有意に変化する測定方法によるものと解されるものであり、上記4.(3)(3-3)で説示したとおり、線燃焼速度の変化要因を排除して測定したものではないから、本件訂正発明1における「線燃焼速度r」に相当するものとはいえない。
また、甲8発明における「5-アミノテトラゾール」及び「酸化銅」は、それぞれ、本件訂正発明1における「アジ化物を除く含窒素有機化合物」及び「酸化剤」に相当するとともに、甲8発明における「ガス発生剤ペレット」は、ガス発生剤組成物を成型したものであるから、本件訂正発明1における「ガス発生剤成型体」に相当する。
したがって、本件訂正発明1と甲8発明とは、
「アジ化物を除く含窒素有機化合物を含むガス発生剤組成物を成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤を含有してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体。」
に係る点で一致し、下記の点で相違している。

相違点3:ガス発生剤組成物につき、本件訂正発明1では「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」のに対し、甲8発明では、線燃焼速度が不明である点
相違点4:ガス発生剤成型体につき、本件訂正発明1では「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」のに対し、甲8発明では、「円柱状ペレット」である点
相違点5:ガス発生剤組成物につき、本件訂正発明1では「含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなる」のに対し、甲8発明では、「アジ化物を除く含窒素有機化合物及び酸化剤を含有してなる」もので、「水溶性バインダー」の使用について不明である点

ウ.検討
まず、上記相違点3につき検討すると、甲8発明では、ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度について明らかでなく、また、甲8発明のものが本件訂正発明1における「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」ことも明らかでない。さらに、甲8発明におけるガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が本件訂正発明1における「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」蓋然性は、上記相違点5に係る組成物の構成成分が異なる点からみても極めて低いものといわざるを得ず、甲10発明及び甲6発明を検討しても、ガス発生剤組成物の線燃焼速度を特定の範囲のものとすべき事項が存するものでもないから、上記相違点3に係る事項は、甲8発明、甲10発明及び甲6発明に基づき、当業者が適宜なし得る事項とはいえない。
また、上記相違点4につき検討すると、上記イ.で説示したとおり、甲8発明におけるガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度は不明であるから、甲10発明及び甲6発明につき検討しても、甲8発明につき甲10発明又は甲6発明を組み合わせて、本件訂正発明1における「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」という形状とするべき事項が存するものとはいえず、甲8発明と甲10発明又は甲6発明を組み合わせることは、当業者といえども容易になし得るとはいえないから、上記相違点4に係る事項は、甲8発明、甲10発明及び甲6発明に基づき、当業者が適宜なし得る事項とはいえない。
さらに、上記相違点5につき検討すると、甲8発明、甲10発明及び甲6発明を検討しても、ガス発生剤組成物に「水溶性バインダー」を含むべきとする事項が存するものとはいえないから、上記相違点5に係る事項は、甲8発明、甲10発明及び甲6発明に基づき、当業者が適宜なし得る事項とはいえない。
なお、請求人は、本件審判請求書において「(i)アジ化物を除く含窒素有機化合物を含むこと、(ii)線燃焼速度が5?12.5mm/秒であること、(iii)単孔円筒状であること、(iv)W/(2・r)の比が特定範囲にあることの全てが特徴であるかのように記載されているが、(i)、(ii)及び(iv)の特徴を具備するペレットは甲第8号証・・(中略)・・により公知である。」と主張し(請求書第14頁第14行?第19行)、「したがって、本件請求項1記載の発明の実質的特長事項は、ガス発生剤成型体が「(iii)単孔円筒状であること」のみにあるということができる。」(請求書第15頁最下行?第16頁第1行)とし、上記甲10発明及び甲6発明が公知であることから、「本件請求項1に記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体は、ガス発生剤組成物を「単孔円筒状」に成型したことを特徴とするものであるが、これは甲第10号証に記載されているのであるから、同請求項1の発明は、甲第10号証または甲第8号証及び甲第10号証の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができた程度のものとして、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであ」ると主張する(請求書第17頁第14行?第19行)。
しかしながら、上記説示のとおりであり、甲8発明と本件訂正発明1との間で上記(ii)及び(iv)の事項を含む上記相違点3?5が存するものであって、当該各相違点は明らかに実質的な相違であるから、上記請求人の主張は、その根拠を欠くものであって、採用する余地がない。

エ.小括
したがって、本件訂正発明1は、甲8発明及び甲10発明又は甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

オ.本件訂正発明2、3及び7について
本件訂正発明2、3及び7について検討すると、本件訂正発明2、3及び7は、いずれも本件訂正発明1に係る新請求項1を引用する新請求項2、3及び7に係るものであって、本件訂正発明1が、甲8発明及び甲10発明又は甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に本件訂正発明2、3ないし7は、それぞれ甲8発明及び甲10発明又は甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)無効理由3に係るまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし3及び7は、いずれも甲8発明及び甲10発明又は甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1ないし3及び7は、いずれも本件特許に係る原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証及び甲第10号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないから、本件訂正発明1ないし3及び7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当するということができない。

7.無効理由4について
無効理由4は、本件審判請求書における請求人の主張(請求書第18頁第22行?第21頁第16行)からみて、「ガス発生剤成型体の厚みWとガス発生剤組成物の線燃焼速度rとの関係式に係る数値範囲についての旧請求項1の「0.005≦W/(2・r)≦0.1」及び旧請求項2の「0.033≦W/(2・r)≦0.1」の記載について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該各範囲内であれば本件特許に係る所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示しておらず、「明細書のサポート要件」に適合するということができない」というものと解される。
しかしながら、本件訂正により、新請求項1におけるガス発生剤成型体の厚みWとガス発生剤組成物の線燃焼速度rとの関係式に係る数値範囲について「0.033≦W/(2・r)≦0.058」と訂正され、本件訂正明細書の実施例に係るものの最大値と最小値との間の範囲となったものであり、さらに、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例及びその余の記載からみて、当該各範囲内であれば、本件特許に係る所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に開示しているものといえる。
したがって、本件特許に係る新請求項1及び同項を引用する新請求項2ないし7の各請求項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができ、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するといえるものであるから、本件の新請求項1ないし7に係る特許が、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということができず、特許法第123条第1項第4号に該当するとはいえない。

8.無効理由5について
無効理由5は、本件審判請求書における請求人の主張(請求書第21頁第17行?第22頁第4行)からみて、「旧請求項7及び9のガス発生剤組成物の組成比範囲につき、1種の成分の組成比の上限値とした場合、他の成分の組成比を全て下限値としても、全体量が100%を超えるものであるから、特許を受けようとする発明が明確でない」というものと解される。
しかしながら、本件訂正により、旧請求項7及び9はいずれも削除されており、新請求項1ないし7の記載を検討しても、ガス発生剤組成物の組成比範囲に係る規定により、特許を受けようとする発明が明確でないとすべき記載もない。
したがって、新請求項1ないし7の各記載は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないということができないから、本件の新請求項1ないし7に係る特許が、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということができず、特許法第123条第1項第4号に該当するとはいえない。

9.無効理由2及び3に係る職権による検討
なお、請求人は、本件審判請求書において、具体的な理由は不明であるが、「同請求項6?11も無効理由(2)において述べた理由および上記理由により甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証および甲第10号証から当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張する(請求書第18頁第19行?第21行、審決注:上記主張事項の「(2)」は2の丸数字である。)ので、以下、本件訂正発明1ないし7につき、甲6発明、甲7発明及び甲10発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるか否かについて、職権をもって検討する。(甲第3号証は、本件特許に係る原出願の日前に公知となったものではないので検討から除外する。)

(1)無効理由2に相当する理由
甲6発明又は甲10発明に甲7発明を組み合わせて本件訂正発明1に想到するか否かにつき検討すると、上記5.(3)ウ.で説示したとおり、甲6発明に甲7発明を組み合わせるべきとする事項が甲7発明に存するものではなく、当業者といえども甲6発明と甲7発明に基づき、本件訂正発明1を容易に想起することができるものとはいえず、また、甲10発明に甲7発明を組み合わせることについても同一の理由により、本件訂正発明1を容易に想起することができるものとはいえない。

(2)無効理由3に相当する理由
甲7発明に甲6発明又は甲10発明を組み合わせて本件訂正発明1を想到するか否かにつき検討する。

ア.本件訂正発明1、甲7発明、甲6発明及び甲10発明
本件訂正発明1、甲7発明、甲6発明及び甲10発明は、再掲すると以下の記載で特定されるとおりのものである。
本件訂正発明1:
「アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」
甲7発明:
「アジ化物でない含窒素有機化合物、酸化剤、スラグ形成を改良するためのキャリヤー物質、酸素供給キャリヤー物質及びセルロース化合物等の室温で水に溶解する結合剤を含有してなるエアバッグ中のガス発生剤として使用されるガス発生剤推進薬」
甲6発明:
「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が7.2mm/秒である酸化鉄とアジ化ナトリウムからなる組成物を外径3.56mm、内径1.02mm、長さ10.2mmの中空シリンダ状粒状物として調製された、自動車乗員の受動的拘束システムにおける安全のための衝突バッグを膨張させるのに特に適した固体の化学ガス発生剤組成物」
甲10発明:
「長さが約0.52インチ(1.32cm)で薬厚が約0.105インチ(0.267cm)の単孔円筒状のエアバッグ用推進剤グレイン」

イ.対比
本件訂正発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「アジ化物でない含窒素化合物」、「酸化剤」、「スラグ形成を改良するためのキャリヤー物質」及び「水に溶解する結合剤」は、それぞれ、本件訂正発明1における「アジ化物を除く含窒素有機化合物」、「酸化剤」、「スラグ形成剤」及び「水溶性バインダー」に相当し、また、甲7発明における「エアバッグ中のガス発生剤として使用される」は、本件訂正発明1における「エアバッグ用」に相当する。
さらに、甲7発明における「ガス発生剤推進薬」には、無定形のいわゆる「組成物」及び所望の形状を有するいわゆる「成型体」のいずれも含まれる点は当業者に自明であるから、本件訂正発明1における「ガス発生剤組成物」及び「ガス発生剤成型体」に相当するものといえる。
したがって、本件訂正発明1と甲7発明とは、
「アジ化物を除く含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーとスラグ形成剤を添加してなるガス発生剤組成物を成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体」
に係る点で一致し、下記の点で相違している。

相違点6:ガス発生剤組成物につき、本件訂正発明1では「70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にある」のに対し、甲7発明では、線燃焼速度が不明である点
相違点7:ガス発生剤成型体につき、本件訂正発明1では「単孔円筒状」のものであるのに対し、甲7発明では、ガス発生剤成型体の形状が不明である点
相違点8:ガス発生剤成型体につき、本件訂正発明1では、「単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもの」であるのに対し、甲7発明では、当該形状が不明である点
相違点9:ガス発生剤成型体につき、本件訂正発明1では、「ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」のに対し、甲7発明では、当該形状が不明である点

ウ.検討
上記相違点7ないし9に係り、甲7発明に甲6発明又は甲10発明のガス発生剤成型体の形状に係る事項を組み合わせる場合につき検討すると、上記相違点4に係る検討で説示した理由と同一の理由により、甲7発明のガス発生剤成型体について、甲6発明又は甲10発明のガス発生剤成型体の形状とすべきとする事項が甲6発明又は甲10発明に存するものとはいえず、また、甲7発明では、上記相違点6のとおり、ガス発生剤組成物の線燃焼速度も不明であるから、上記相違点9について甲6発明の線燃焼速度に係る事項を組み合わせるべきとする事項となるものでもない。
してみると、上記相違点7ないし9につき、甲7発明に甲6発明又は甲10発明を組み合わせることは、当業者といえども困難なものといえ、甲7発明に甲6発明又は甲10発明を組み合わせることにより、当業者が容易になし得ることということはできない。
また、上記相違点9について、甲6発明における「W/(2・r)」の値は、本件訂正発明1における範囲外のもの(0.088)であって、甲6発明及び甲10発明につき本件訂正発明1における「0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲」とすることを示唆する事項はないのであるから、相違点9について当業者が容易になし得ることということができない。

(3)小括
したがって、本件訂正発明1は、いずれにしても、甲7発明、甲6発明及び甲10発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)本件訂正発明2ないし7について
本件訂正発明2ないし7について検討すると、本件訂正発明2ないし7は、いずれも本件訂正発明1に係る新請求項1を引用する新請求項2?7に係るものであって、本件訂正発明1が、甲7発明、甲6発明及び甲10発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に本件訂正発明2ないし7は、それぞれ甲7発明、甲6発明及び甲10発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(5)職権による検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし7は、いずれも甲7発明、甲6発明及び甲10発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1ないし7は、いずれも本件特許に係る原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証及び甲第6号証又は甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないから、本件訂正発明1ないし7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当するということができない。

10.請求人主張の無効理由に係るまとめ
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1ないし5につき、本件審判請求に係る請求人の全ての主張及び証拠方法につき検討しても、本件の新請求項1ないし7に係る特許をいずれも無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の新請求項1ないし7に係る特許をいずれも無効とすることはできず、本件の新請求項1ないし7に係る特許につき職権をもって検討してもいずれも無効とすることができない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm2の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項2】前記単孔円筒状成型体の厚みに対する長さの比が1?9.62である請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項3】前記単孔円筒状成型体の長さが0.5?5mmである請求項1又は2記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項4】前記含窒素有機化合物がニトログアニジン、前記酸化剤が硝酸ストロンチウムであり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、前記スラグ形成剤が酸性白土である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項5】前記含窒素有機化合物がジシアンジアミドであり、前記酸化剤が硝酸ストロンチウム及び酸化銅であり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項6】ジシアンジアミドを8?20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5?55重量%、酸化銅を24.5?80重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.5?8重量%含有させる請求項5記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項7】前記水溶性バインダーが多糖誘導体からなる請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エアバッグシステムを膨張させるために燃焼してガス成分を供給するガス発生剤成型体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、自動車、航空機等に搭載される人体保護のために供せられるエアバッグシステムにおいて作動ガスとなるガス発生剤の新規な組成物及びその剤形に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車両が高速で衝突した際に、慣性により搭乗者がハンドルや前面ガラス等の車両内部の硬い部分に激突して負傷又は死亡することを防ぐために、ガスによりバッグを急速に膨張させ、搭乗者の危険な箇所への衝突を防ぐエアバッグシステムが開発されている。このエアバッグシステムに用いるガス発生剤に対する要求は、バッグ膨張時間が非常に短時間、通常40乃至50ミリ秒以内であること、さらにバッグ内の雰囲気が人体に対して無害すなわち車内の空気組成に近いものであることなど非常に厳しい。
【0003】現在、エアバッグシステムに一般的に用いられているガス発生基剤としては、無機アジド系化合物、特にアジ化ナトリウムがあげられる。アジ化ナトリウムは燃焼性という点では優れているが、ガス発生時に副生するアルカリ成分は毒性を示し、搭乗者に対する安全性という点で、上記の要求を満たしていない。また、それ自体も毒性を示すことから、廃棄した場合の環境に与える影響も懸念される。
【0004】これらの欠点を補うため、アジ化ナトリウム系に替わるいわゆる非アジド系ガス発生剤も幾つか開発されてきている。例えば、特開平3-208878にはテトラゾール、トリアゾール又はこれらの金属塩とアルカリ金属硝酸塩等の酸素含有酸化剤を主成分とした組成物が開示されている。また、特公昭64-6156、特公昭64-6157においては、水素を含まないビテトラゾール化合物の金属塩を主成分とするガス発生剤が開示されている。
【0005】更に特公平6-57629にはテトラゾール、トリアゾールの遷移金属錯体を含むガス発生剤が示されている。また、特開平5-254977にはトリアミノグアニジン硝酸塩を含むガス発生剤が、特開平6-239683にはカルボヒドラジドを含むガス発生剤が、特開平7-61885には酢酸セルロースとニトログアニジンを含む窒素含有非金属化合物を含むガス発生剤が示されている。更に、USP5,125,684では15?30%のセルロース系バインダーと共存するエネルギー物質としてニトログアニジンの使用が開示されている。また、特開平4-265292ではテトラゾール及びトリアゾール誘導体と酸化剤及びスラグ形成剤とを組み合わせたガス発生剤組成物が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、含窒素有機化合物は一般的に燃焼において、化学当量分、すなわち化合物分子中の炭素、水素その他の元素の燃焼に必要な量の酸素を発生させるだけの酸化剤を用いる際、アジド系化合物に比べて発熱量が大きいという欠点を有する。エアバッグシステムとしては、ガス発生剤の性能だけでなく、そのシステム自体が通常の運転に際して邪魔にならない程度の大きさであることが必須であるが、ガス発生剤の燃焼時の発熱量が大きいと、ガス発生器を設計する場合除熱のための付加的な部品を必要とし、ガス発生器自体の小型化が不可能である。酸化剤の種類を選択することにより発熱量を低下させることも可能であるが、これに対応して線燃焼速度も低下し、結局ガス発生性能が低下することになる。
【0007】上記の如く、含窒素有機化合物から成るガス発生剤組成物は一般的に燃焼において、化学当量分、すなわち含窒素有機化合物分子中の炭素、水素その他の酸化される元素の燃焼に必要な量の酸素を発生させるだけの酸化剤を用いる際、無機アジド系化合物を用いたガス発生剤組成物に比べて発熱量が大きく、燃焼温度が高く、更に線燃焼速度が小さいという欠点を有していた。
【0008】この様に、燃焼温度が高いことから生ずる問題は、組成物中の酸化剤成分から発生するアルカリ性ミストと一般的に多用されているステンレススチール製のクーラントとの化学反応を含むクーラントのエロージョンにより、冷却部で新たに発生する高温熱粒子と共にインフレータ外に放出されバッグの損傷を生じることである。しかし、酸化剤成分から発生するアルカリ性ミスト及び新たに発生する高温熱粒子を冷却部に到達する前に燃焼室内にスラグを形成させることにより燃焼室内部に止めることができれば、高温ガスであってもガスの熱容量が小さいため少ないクーラントを用いてバッグに決定的な損傷を与えることなくインフレータシステムを成立させることができる。このことにより、より小型形状のインフレータが成立可能となる。
【0009】テトラゾール誘導体をはじめ、各種含窒素有機化合物を用いた非アジド系ガス発生剤組成物が従来から検討されてきた。組成物の線燃焼速度は組み合わされる酸化剤の種類によって異なるが、一般的に30mm/秒以下の線燃焼速度を有する組成物がほとんどである。
【0010】線燃焼速度は、所望の性能を満足させるためのガス発生剤組成物の形状に影響を与える。ガス発生剤組成物の1個の形状において、肉厚部分の厚みの最も小さい厚み距離とそのガス発生剤組成物の線燃焼速度とによってガス発生剤組成物の燃焼時間が決定される。インフレータシステムに要求されるバッグ展開時間はおおよそ40?60ミリ秒にある。
【0011】多用されているペレット形状及びディスク形状のガス発生剤組成物をこの時間内に燃焼完了させるためには、例えば厚み2mmで線燃焼速度20mm/秒の時100m秒の時間を必要とし、所望のインフレータ性能を得ることができない。従って、線燃焼速度が20mm/秒前後のガス発生剤組成物では厚み1mm前後でなければ性能を満足できない。線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下の場合、より肉厚部の厚みが小さいことが必須条件となる。
【0012】線燃焼速度を向上させるため硝酸ナトリウム及び過塩素酸カリウムのような酸化剤を組み合わせる手段が知られているが、硝酸ナトリウムでは酸化ナトリウムが、過塩素酸カリウムでは塩化カリウムが液状又は固体微粉状でインフレータ外に放出され、スラグ形成剤のない場合通常のフィルターで許容されるレベルまで放出量を抑えることは至難の技である。
【0013】線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下で、肉厚部の厚みを多用されているペレット形状及びディスク形状で達成するためには0.5mm前後及びそれ以下の厚みが必須となるが、長期間の自動車の振動に耐え且つ工業的に安定した状態でペレット形状及びディスク形状にガス発生剤組成物を製造することは事実上不可能に近い。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記した問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、線燃焼速度の小さいガス発生剤組成物を成型することにより、所定の時間内に燃焼させうること、その性能はエアバッグ用ガス発生剤として十分適用しうることを見出し、本発明に至った。
【0015】すなわち本発明は、ガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなり、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体、好ましくは70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が1乃至12.5mm/秒、更に好ましくは5乃至12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体を提供するものである。尚、本明細書中で単に線燃焼速度と記載した場合、70kgf/cm^(2)の圧力下におけるものを意味する。
【0016】本発明で用いられるガス発生剤組成物は含窒素有機化合物及び酸化剤にバインダー及び必要に応じスラグ形成剤を添加してなり、好ましくは、発熱を抑えるため、線燃焼速度が1乃至12.5mm/秒の範囲のものが用いられる。本発明により、線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下のガス発生剤組成物の適用を可能とし、且つ生成ガス品質を含めてより小型化されたインフレータシステムが実用化可能となった。
【0017】本発明で使用できる含窒素有機化合物としては、トリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体から成る群から選ばれた1種又はそれ以上の混合物がある。これらの具体例として、5-オキソ-1,2,4-トリアゾール、テトラゾール、5-アミノテトラゾール、5,5’-ビ-1H-テトラゾール、グアニジン、ニトログアニジン、シアノグアニジン、トリアミノグアニジン硝酸塩、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、ビウレット、アゾジカルボンアミド、カルボヒドラジド、カルボヒドラジド硝酸塩錯体、蓚酸ジヒドラジド、ヒドラジン硝酸塩錯体等を挙げることができる。好ましくはニトログアニジン及びシアノグアニジンであり、分子中の炭素数が少ない点からニトログアニジンは最も好ましい化合物である。ニトログアニジンとして針状結晶状の低比重ニトログアニジンと塊状結晶の高比重ニトログアニジンがあり、いずれでも使用できるが、少量の水存在下での製造時の安全性及び取り扱い易さから、高比重ニトログアニジンの使用がより好ましい。
【0018】化合物の濃度は、分子式中の炭素元素、水素元素及びその他の酸化される元素の数によって異なるが、通常25?60重量%の範囲で用いられ、好ましくは30?40重量%の範囲で用いられる。用いられる酸化剤の種類により絶対数値は異なるが、完全酸化理論量より多いと発生ガス中の微量CO濃度が増大し、完全酸化理論量及びそれ以下になると発生ガス中の微量NO_(X)濃度が増大する。両者の最適バランスが保たれる範囲が最も好ましい。
【0019】酸化剤としては種々のものが使用できるが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属から選ばれたカチオンを含む硝酸塩の少なくとも1種から選ばれた酸化剤が用いられる。その量は用いられるガス発生化合物の種類と量により絶対数値は異なるが40?65重量%の範囲で用いられ、特に上記のCO及びNO_(X)濃度に関連して45?60重量%の範囲が好ましい。
【0020】その他、亜硝酸塩、過塩素酸塩等のエアバッグインフレータ分野で多用されている酸化剤も用い得るが、硝酸塩に比べて亜硝酸塩分子中の酸素数が減少すること又はバッグ外へ放出されやすい微粉状ミストの生成を減少させる等の観点から硝酸塩が好ましい。
【0021】スラグ形成剤の機能は、ガス発生剤組成物中の特に酸化剤成分の分解によって生成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物をミストとしてインフレータ外へ放出することを避けるため液状から固体状に変えて燃焼室内に止める機能であり、金属成分の違いによって最適化されたスラグ形成剤を選ぶことができる。ベントナイト系、カオリン系等のアミノケイ酸塩を主成分とする天然に産する粘土並びに合成マイカ、合成カオリナイト、合成スメクタイト等の人工的粘土及び含水マグネシウムケイ酸塩鉱物の1種であるタルク等の少なくとも1種から選ばれたスラグ形成剤を用いることができる。好ましいスラグ形成剤として酸性白土を挙げることができる。
【0022】例えば、硝酸カルシウムから発生する酸化カルシウム、粘土中の主成分である酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の三成分系における酸化混合物の粘度及び融点は各々その組成比によって1350℃から1550℃の範囲で粘度が3.1ポイズから約1000ポイズまで変化し、融点は組成により1350℃から1450℃に変化する。これらの性質を利用してガス発生剤組成物の混合組成比に応じたスラグ形成能を発揮することができる。
【0023】スラグ形成剤の使用量は1?20重量%の範囲で変えることができるが、好ましくは3?7重量%の範囲である。多すぎると線燃焼速度の低下及びガス発生効率の低下をもたらし、少なすぎるとスラグ形成能を十分発揮することができない。
【0024】バインダーは所望のガス発生剤組成物の成型体を得るために必須成分であり、水及び溶媒等の存在下で粘性を示し、組成物の燃焼挙動に大幅な悪影響を与えないものであれば何れでも使用可能であり、カルボキシメチルセルロースの金属塩、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、澱粉等の多糖誘導体が挙げられるが、製造上の安全性と取り扱い易さから水溶性のバインダーが好ましい。カルボキシメチルセルロースの金属塩、特にナトリウム塩が最も好ましい例として挙げられる。
【0025】バインダーの使用量は3?12重量%の範囲で使用でき、更に好ましくは4?12重量%の範囲である。量的には多い側でより成型体の破壊強度が強くなるが、量が多いほど組成物中の炭素元素及び水素元素の数が増大し、炭素元素の不完全燃焼生成物である微量COガスの濃度が増大し、発生ガスの品質を低下させるため好ましくない。特に12重量%を超える量では酸化剤の相対的存在割合の増大を必要とし、ガス発生化合物の相対的割合が低下し、実用できるインフレータシステムの成立が困難となる。
【0026】更に、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の副次的な効果として下記に述べる水を使用した成型体製造時に硝酸塩との金属交換反応によって生じる硝酸ナトリウムの分子オーダーのミクロな混合状態の存在により酸化剤である硝酸塩、特に分解温度の高い硝酸ストロンチウムの分解温度をより低温側に移行させ、燃焼性を向上させる効果を有する。
【0027】従って、本発明の実施に当って用いられる好ましいガス発生剤組成物は、(a)約25?60重量%、好ましくは30?40重量%のニトログアニジン(b)約40?65重量%、好ましくは45?65重量%の酸化剤(c)約1?20重量%、好ましくは3?7重量%のスラグ形成剤(d)約3?12重量%、好ましくは4?12重量%のバインダーから成るガス発生剤組成物であり、特に好ましい組成物としては、(a)約30?40重量%のニトログアニジン(b)約40?65重量%の硝酸ストロンチウム(c)約3?7重量%の酸性白土及び(d)約4?12重量%のカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩から成るガス発生剤組成物である。
【0028】而して、本発明によれば、(a)約25?60重量%のニトログアニジン(b)約40?65重量%の酸化剤(c)約1?20重量%のスラグ形成剤(d)約3?12重量%のバインダーから成る線燃焼速度が1?12.5mm/秒の組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体が提供される。
【0029】含窒素有機化合物としてはジシアンジアミドも好ましく使用される。ガス発生剤組成物中での含窒素有機化合物の使用量は、用いられる含窒素化合物を構成する元素の数及び分子量、酸化剤及びその他の添加剤との組み合わせにより異なるが、酸化剤その他の添加剤と組み合わせによる酸素バランスが零付近が最も好ましいが、前記した微量CO及びNO_(X)の発生濃度に応じて酸素バランスを正側又は負側に調整することにより最適な組成物成型体が得られる。例えば、ジシアンジアミドを用いた場合、その量は8?20重量%の範囲が好ましい。
【0030】本発明で用いられる酸素を含む酸化剤としては、エアバッグ用ガス発生剤の分野で公知の酸化剤を用いることができるが、基本的には残渣成分が液体又は気体状態になり、冷却剤及びフィルター剤への熱的負荷を掛けることを低減できるよう、高融点物質を生成する性質を有する酸化剤を用いることが好ましい。
【0031】例えば、硝酸カリウムは、一般的にガス発生剤で使用される酸化剤であるが、燃焼時の主たる残渣成分は酸化カリウムもしくは炭酸カリウムであり、酸化カリウムは約350℃で過酸化カリウムと金属カリウムに分解し、更には過酸化カリウムは融点763℃であり、ガス発生器作動状態では液体又は気体状態となり、前記の冷却剤及びフィルター剤への熱的負荷を考慮すると好ましくない。
【0032】本発明で好ましく用いられる具体的な酸化剤としては硝酸ストロンチウムが挙げられる。硝酸ストロンチウムの燃焼時の主たる残渣成分は融点2430℃の酸化ストロンチウムであり、ガス発生器作動状態でもほとんど固体状態である。
【0033】本発明における酸化剤の使用量は含窒素有機化合物を完全に燃焼するに十分な酸化剤量であれば特に制限されず、線燃焼速度及び発熱量を制御するために適宜変更できるが、ジシアンジアミドに対し酸化剤として硝酸ストロンチウムを用いた場合、11.5?55重量%であることが好ましい。
【0034】本発明の好ましいガス発生剤組成物の一つとしては、ジシアンジアミドを8乃至20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5乃至55重量%、酸化銅を24.5乃至80重量%、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を0.5乃至8重量%含有するものがあげられるが、本発明はジシアンジアミドを8乃至20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5乃至55重量%、酸化銅を24.5乃至80重量%、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を0.5乃至8重量%含有するガス発生剤組成物をも提供するものである。
【0035】一般に火薬組成物をバインダーを用いて特定の厚みに成型するためには従来より知られる方法、例えば打錠成型、押出成型等を適用することができるが、本発明のようにエアバッグ用ガス発生剤として使用する場合には、線燃焼速度の点から、比較的薄い成型体にすることが好ましく、かつ必要な強度を持たせるためには、成型体を単孔円筒状に成型し、この成型を圧伸成型法を適用して行うことが好ましい。
【0036】本発明においては上記のガス発生剤組成物を乾式混合した後、水を加え十分均一になるまでスラリー混合し、金型を備えた圧伸成型機を用いて成型し、適当な長さに裁断し、乾燥することにより、エアバッグシステムへの適用が十分可能な性能のガス発生剤成型体が得られた。
【0037】圧伸成型の後に適当な長さに裁断することにより、ガス発生剤を図1に示すような単孔円筒状に加工できる。更に圧伸成型法では、金型を用いて外径を一定に保ち内径を変化させることにより厚さを調整することが可能である。
【0038】このような形状にすることにより、発熱が抑えられかつ円筒の外面及び内面からの燃焼が可能であり、エアバッグに適用するに足る優れた線燃焼速度が得られる。単孔円筒状成型体の外径(R)、内径(d)及び長さ(L)はガス発生器への応用が可能な範囲で適宜設定できるが、実用性や燃焼速度を考慮すると、外径が6mm以下、厚みW=(R-d)/2に対する長さの比(L/W)が1以上であることが望ましい。従来このような形状を有する成型体は発射薬、推進薬の分野では知られているが、エアバッグ用ガス発生剤に応用した例はない。本発明の成型体を用いた場合、線燃焼速度が小さい場合でも所望の燃焼時間内に燃焼し、且つスラグ形成剤の併用により、除熱のための付加的な部品を必要とせず、ガス発生器自体の小型化が可能である。
【0039】本発明で使用される成型体を得る製造方法の好ましい実施態様を次に説明する。先ず、原料の粒度及び嵩密度に依存して、所望の最終ガス発生剤組成物量の外割りで10?30%までの水を用い混練操作により組成物塊をつくる。混合の順序は特に指定がなく、製造上最も安全が保たれる順序でよい。ついで、場合により過剰の水分を除いた後、組成物塊を単孔円筒形状とする一定形状の金型を通して通常40?80kg/cm^(2)、場合によって130?140kg/cm^(2)の加圧条件下で押出し単孔円筒状の紐状体をつくる。更に、紐状体の表面が乾燥状態になる前に裁断機により所望の長さに裁断後、乾燥することにより所望の成型体を得ることができる。ガス発生剤組成物の線燃焼速度は、窒素置換された容量1リットルの容器中、70kgf/cm^(2)の圧力下で燃焼させ、圧力センサーにより記録される容器内圧力変化を解析することにより導かれる。
【0040】成型体の形状は最終組成物の線燃焼速度によって決定されるが、線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下の組成物においては外径1.5?3mmφ、長さ0.5?5mmの単孔円筒状成型体とすることが好ましい。特にニトログアニジン35重量%、硝酸ストロンチウム50重量%、酸性白土5重量%、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩10重量%から成る組成物においては、外径2.2?2.75mmφ、内径0.56?0.80mmφ、長さ2.5?3.2mmの単孔円筒状成型体とすることが好ましい。
【0041】更に本発明は、A.(a)約25?60重量%の含窒素有機化合物(b)約40?65重量%の酸化剤(c)約1?20重量%のスラグ形成剤(d)約3?12重量%のバインダーから成る組成物をB.水又は溶媒を添加し、混練操作により組成物塊とし、C.組成物塊を金型を通して加圧条件下で押出して単孔円筒状とし、D.裁断し、乾燥したエアバッグ用ガス発生剤成型体を用いたインフレータシステムをも提供するものである。
【0042】本発明に基づくガス発生剤組成物をインフレータシステムとして使用する場合特に制限はないが、ガス発生剤組成物の特徴が生かされるインフレータ構造を有するものとの組合せが最適である。
【0043】
【実施例】以下実施例及び比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】実施例1高比重ニトログアニジン(以下、NQと略す)35部(以下、部は重量部を示す)に組成物全体の量に対して15部に相当する水を添加し混合捏和する。別に硝酸ストロンチウム50部、酸性白土5部及びカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩10部を乾式で混合し、前記の湿混合粉に添加後さらに捏和する。ついで捏和混合物を外径2.5mmφ、内径0.80mmφの金型を通して圧力80kg/cm^(2)の加圧条件下で押出し単孔円筒状の紐状体をつくる。更に、この紐状体を裁断機により2.12mmの長さに裁断し、水分を十分に乾燥してガス発生剤成型体とした。このガス発生剤成型体38gを用いた室温における60リットルのタンク試験結果を以下に示した。尚、本ガス発生剤組成物の線燃焼速度は8.1mm/秒であった。タンク最大圧力1.83kg/cm^(2)、最大圧力到達時間55ミリ秒であった。また、タンク内のミスト量は700mg以下でタンク内は非常にきれいで、微量のCO及びNO_(X)等のガス濃度は自動車メーカーの要求値内であった。
【0045】実施例2?4、A及び比較例1?2各成分の重量部又は成型体の形状を表1に示す如く変えた以外は実施例1と同様にしてガス発生剤組成物成型体を作った。
【0046】
【表1】

【0047】実施例1?4、A及び比較例1?2の各ガス発生剤組成物の線燃焼速度と一定のガス発生量を発生するに必要な組成物量を用いた時の総発熱量を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】タンク試験の結果を表3に示した。
【0050】
【表3】

【0051】実施例5ジシアンジアミド12部、硝酸ストロンチウム53部、酸化銅30部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部の各粉末を乾式でよく混合し、更に水12.5部を加えて十分均一になるまでスラリー混合を行った。スラリー混合後、外径1.6mmφ、内径0.56mmφの金型を備えた圧伸成型機を用いて、成型圧力60乃至70kgf/cm^(2)、圧伸速度薬0.2cm/分で圧伸成型を行い、長さ約5mmに裁断した。裁断後、50℃、15時間以上の乾燥を行い、ガス発生剤組成物(線燃焼速度7.4mm/秒、総発熱量22.2Kcal)とした。重量収率80%以上でガス発生剤組成物が得られた。このガス発生剤組成物54gを用いて所定のタンク試験(特公昭52-3620、特公昭64-6156記載の方法)を行った。タンク圧力1.22kg/cm^(2)、最高圧力到達時間50m秒が得られ、金属製除熱剤及びフィルターの損傷なく実用に供される所望の範囲の値を示した。
【0052】実施例6ジシアンジアミド10部、硝酸ストロンチウム35部、酸化銅50部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部に添加量を変え、組成物の重量を65gとした他は実施例5と全く同様にしてガス発生剤組成物を製造し(線燃焼速度7.6mm/秒、総発熱量22.1Kcal)、実施例5と同様にしてタンク試験を行った。タンク圧力1.31kg/cm^(2)、最高圧力到達時間55m秒が得られ、金属製除熱剤及びフィルターの損傷なく実用に供される所望の範囲の値を示した。
【0053】実施例7ジシアンジアミド13部、硝酸ストロンチウム32部、酸化銅50部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部に添加量を変え、実施例5と同様にしてガス発生剤組成物を製造し、外径1.15mmφ、内径0.34mmφ、長さ0.52mmに成型した。線燃焼速度6.1mm/秒、総発熱量22.2Kcal)。この成型体67gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行った。タンク圧力1.67kg/cm^(2)、最高圧力到達時間47m秒が得られ、金型製除熱剤及びフィルターの損傷なく性能調整可能幅のより広い結果が得られた。
【0054】比較例3実施例5と全く同様の組成にてスラリー混合を行い、スラリー混合後通常の打鍵成型機で径5mmφ、厚み1mmで薄片ペレット状に成型したが、仕込み重量に対して薄片ペレットの重量収率が20%以下で且つペレットは実用に耐える強度を示さなかった。
【0055】比較例4ジシアンジアミド23部、硝酸ストロンチウム57部、酸化銅20部の各粉末を水10部を加えて十分均一に混合し、調湿後通常の打鍵成型機で径5mmφ、厚み2mmで薄片ペレット状に成型した(線燃焼速度24.0mm/秒、総発熱量28.6Kcal)。組成物50gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行ったが、フィルターの損傷が著しく所望のタンク圧力を得ることができなかった。
【0056】比較例5ジシアンジアミド19部、硝酸カリウム31部、酸化銅50部とした以外は比較例1と全く同様にしてペレット状に成型し(線燃焼速度9.1mm/秒、総発熱量25.3Kcal)、成型体60gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行った。燃焼完了時間が100m秒以上となり実用上の性能を満たすことができなかった。
【0057】実施例5?7の各ガス発生剤組成物の線燃焼速度と一定のガス発生量を発生するに必要な組成物量を用いたときの総発熱量を表4に示した。
【0058】
【表4】

【0059】
【発明の効果】本発明によると従来安全性の面からは注目されつつも線燃焼速度が小さく満足できる性能を出し得なかったガス発生剤組成物において、低い発熱量及び高い燃焼性能を示すガス発生剤成型体とすることが可能であり、含窒素有機化合物及び酸化剤を含む新規なエアバッグ用ガス発生剤組成物及びこれを用いた成型体が提供される。本発明により、ガス発生器を小型化しエアバッグシステムへ適用する道が開かれた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明はエアバッグ用ガス発生剤成型体の外観を表し、Lは長さ、Rは外径を、dは内径を意味する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-29 
結審通知日 2008-10-02 
審決日 2008-10-15 
出願番号 特願2000-386678(P2000-386678)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C06D)
P 1 113・ 854- YA (C06D)
P 1 113・ 537- YA (C06D)
P 1 113・ 536- YA (C06D)
P 1 113・ 855- YA (C06D)
P 1 113・ 853- YA (C06D)
P 1 113・ 161- YA (C06D)
P 1 113・ 841- YA (C06D)
P 1 113・ 851- YA (C06D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 安藤 達也
橋本 栄和
登録日 2003-09-26 
登録番号 特許第3476771号(P3476771)
発明の名称 エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法  
代理人 坪倉 道明  
代理人 新井 全  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 岡崎 信太郎  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 新井 全  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 金山 賢教  
代理人 岡▲崎▼ 信太郎  
代理人 牧野 知彦  
代理人 牧野 知彦  
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