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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 0000
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 0000
管理番号 1220192
審判番号 不服2008-18180  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-07-16 
事件の表示 特願2005- 36755「円の面積定数(πパイ)3.17である。」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-191779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
平成17年 1月 4日 特許出願
平成19年 8月 6日 拒絶理由通知(同年8月14日発送)
平成19年10月25日 意見書・手続補正書
平成20年 3月11日 手続却下の処分(平成19年10月25日付け提出の手続補正書に係る手続の却下 同年4月15日発送)
平成20年 5月14日 拒絶査定(同年5月28日送達)
平成20年 6月26日 本件審判請求
平成20年 9月16日 手続補正書(審判請求書の請求の理由等)
平成21年 8月13日 手続補正書(審判請求書の請求の理由等)

なお、平成20年6月26日付け審判請求書には、「【請求の趣旨】 拒絶理由を取消すことであります。」と記載されている。しかしながら、前記審判請求書には「【審判の種別】 拒絶査定不服審判事件」との記載があるから、本件審判請求事件は、拒絶査定の理由となった拒絶の理由が誤りであると主張し、拒絶査定を取消すとともに、特許をすべき旨の審決を請求したものと解される。したがって、審判請求書の全趣旨からみて、本件審判請求の請求の趣旨は、前記拒絶査定の取消しと、本願の発明を特許する旨の審決を請求するものと解して審理した。

2.特許請求の範囲の記載
特許出願人(審判請求人)が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載したものである特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。なお、請求項の数は1である。
「【請求項1】
従来、円の面積を求める計算は、半径×半径×3.14であるがこれを改ためて半径×半径×3.17とするものである。つまりπ(パイ)3.14を3.17とする事である。
以上の計算方法によって算出する円の面積計算方法であると同事にこの原理を根本とする事である。
(1)円に外接する正4角形と円に内接する直角3角形の関係には3平方の定理(ピタゴラスの定理)が成りたつ。
円の直径を斜辺とし、円の面積の平方根を底辺とした円に内接する直角3角形を作図すればこの3角形ののこりの1辺の2乗は円と外接正4角形の面積の差額となる。
(2)又円に内接する正4形の1辺の1/2を底辺としてこの円に内接する正8角形の1辺を斜辺とする直角3角形を作図すればのこりの1辺の2乗の1/2は8角形の1辺と円との隙間の面積である。円に内接する正4角形の1辺から円の半径をマイナスした値を内正4角形の1辺に乗じて2倍すれば内接4角形と円との差額が算出される。以上のような原理を基本として円の面積定数π(パイ)を3.17とするものである。」(当審注:「(1)」は、いわゆる丸数字の1、「(2)」は、いわゆる丸数字の2である。以下、同様。)

3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に記載された事項は特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができず、また、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものというものである。

4.当審の判断
4-1 特許法第29条第1項柱書きについて
4-1-1 特許法第29条第1項は、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。(以下、略)」と規定しており、また、「発明」については、特許法第2条第1項に「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が、いかに、具体的であり有益かつ有用なものであったとしても、その課題解決に当たって、自然法則を利用した手段が何ら含まれていない場合には、そのような技術的思想の創作は、特許法2条1項所定の「発明」には該当せず、特許を受けることができない。 そこで、この観点から、本願の請求項1に記載された事項が、特許法第2条第1項所定の「発明」に該当するか否か、すなわち、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された課題を解決する手段が、自然法則を利用した手段を含むものか否かについて検討する。

4-1-2 本願の課題と解決手段
4-1-2-1 明細書等の記載
本願の明細書には、以下の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【発明の目的】
本発明は円の面積を正確に算出できる事である。
【発明の構成】
従来の計算で算出した円の面積は誤まりであることが判明した。
従来の計算で算出した円の面積は同面積の3角形に重ね合わせることができない。
円の面積は円に外接する正4角形とこの円に内接する直角3角形が3者1体となっているという考えに立つものである。
以上の考えには1定の法則が成り立つことが判明した、之の法則とは、(3平方の定理)すなわちピタゴラスの定理である。
なお円周の計算には従来通り、π(パイ)は3、14であることも独自の計算方法で証明できたがここでは省略する。


なお、第1図は明細書と同じ書類に記載されており、形式的に明細書の一部となっているが、第1図は本発明を示す図であり、上記「【図面の簡単な説明】」以降の部分は、図面の簡単な説明と図面を記載するもの、すなわち、
「【図面の簡単な説明】
第1図は本発明を示す。円に外接する正4角形と円に内接する直角3角形を示す。
b^(2)+c^(2)=a^(2) (ピタゴラスの定理)
a^(2)=正4角形の面積 xの面積=Yの面積
b^(2)=内接円の面積 xの面積=Yの面積
c^(2)=正4角形と内接円の面積の差額
ハ^(2)=面積2xを表わす」
の記載は「図面の簡単な説明」を記載したものと解し、そして、それに続く第1図は願書に添付した「図面」と解して、以下、検討する。

4-1-2-2 課題と解決手段
本願の特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載を総合すると、従来の円の面積を求める計算方法
半径×半径×π (π=3.14)
は誤りであり、本願は、円の面積を正確に算出することを課題とするものである。そして、その課題解決手段は、円の面積を求める計算方法として、
半径×半径×π (π=3.17)
を用いる点にあるものと認められる。

4-1-3 判断
4-1-3-1 請求項1に記載された課題解決手段
(イ) 本願の請求項1に記載された事項のうち、「従来、円の面積を求める計算は、半径×半径×3.14であるが」の部分は、従来の円の面積計算方法を説明する記載部分である。
(ロ) 次に、「これを改ためて半径×半径×3.17とするものである。つまりπ(パイ)3.14を3.17とする事である。以上の計算方法によって算出する円の面積計算方法であると同事にこの原理を根本とする事である。」は、上記課題解決手段を記載した部分である。
(ハ)さらに、「(1)円に外接する正4角形と円に内接する直角3角形の関係には3平方の定理(ピタゴラスの定理)が成りたつ。
円の直径を斜辺とし、円の面積の平方根を底辺とした円に内接する直角3角形を作図すればこの3角形ののこりの1辺の2乗は円と外接正4角形の面積の差額となる。
(2)又円に内接する正4形の1辺の1/2を底辺としてこの円に内接する正8角形の1辺を斜辺とする直角3角形を作図すればのこりの1辺の2乗の1/2は8角形の1辺と円との隙間の面積である。円に内接する正4角形の1辺から円の半径をマイナスした値を内正4角形の1辺に乗じて2倍すれば内接4角形と円との差額が算出される。以上のような原理を基本として円の面積定数π(パイ)を3.17とするものである。」は、本願の課題解決手段の導出原理を説明する記載部分である。
そこで、本願の課題解決手段に関する記載の「これを改ためて半径×半径×3.17とするものである。つまりπ(パイ)3.14を3.17とする事である。以上の計算方法によって算出する円の面積計算方法であると同事にこの原理を根本とする事である。」に自然法則を利用した手段が含まれているか否か検討する。

4-1-3-2 検討
一般に、円の面積を計算する方法として、
半径×半径×π
は、数学の公式であって自然法則を利用するものではない。
次に、πの値を3.17とした点に自然法則を利用した手段が含まれているか否か検討する。πを3.17とする導出原理は、請求項1の一部(上記4-1-3-1(ハ)参照)と、明細書及び図面(上記4-1-2参照)に記載されている。しかしながら、そこに記載されている導出原理は、3平方の定理(ピタゴラスの定理)、「円の直径を斜辺とし、円の面積の平方根を底辺とした円に内接する直角3角形」の作図、「円に内接する正4形の1辺の1/2を底辺としてこの円に内接する正8角形の1辺を斜辺とする直角3角形」の作図など、数学の定理や知識のみを用いるものであり、自然法則を利用した手段は何ら含まれていない。
したがって、円の面積を求める計算を、半径×半径×3.17とすることは、自然法則を利用した手段を何ら含むものではないから、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、自然法則を利用した手段を含むものとは認められない。

4-1-4 小括
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、特許法第2条第1項所定の「発明」に該当しないので、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができない。

4-2 特許法第36条第4項第1号について
4-2-1 特許法第36条第4項は、
「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 略」
と規定する。これは発明の詳細な説明の記載要件を定めるもので、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することを要件とするものである。
本件についてみると、円の面積の計算方法として
半径×半径×π (π=3.17)
を用いること、すなわち、円の面積を計算する際に用いるπの値を3.17とすることで、正確な円の面積を求めることができる理由が、発明の詳細な説明に当業者が理解できる程度に記載されていることが必要である。そこで、この観点から発明の詳細な説明の記載を検討する。

4-2-2
発明の詳細な説明には、「円の面積は円に外接する正4角形とこの円に内接する直角3角形が3者1体となっているという考えに立つものである。以上の考えには1定の法則が成り立つことが判明した、之の法則とは、(3平方の定理)すなわちピタゴラスの定理である。」なる記載があるものの、円の面積を計算する際に用いるπを3.17とする理由、その導出過程が当業者が理解できるように説明されていない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願の請求項1に記された事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。

4-2-3
発明の詳細な説明の記載ではないが、特許請求の範囲、図面の簡単な説明、図面の記載についても、念のため検討する。

(イ)図面の第1図の右側に、「イ・ハ=Z」なる式が記載されている。円の直径をaとし、イ、ハ、Zの意味を第1図を参酌して解すると、
イの長さ:a/2√2
ハの長さ:(a/2)-(a/2√2)
Zの面積:(a/2)^(2)-π・(a/2)^(2)・(1/4)
である。上記式「イ・ハ=Z」が正しいものと仮定し、上記各値を代入すると、
π=2(3-√2)
となる。√2は1.414…であるから、
π=3.172…
となり、本願の請求項1に記載されたπの値である3.17にほぼ一致する値となる。しかしながら、導出の際に用いた「イ・ハ=Z」式が成立する理由は説明されていないので、円の面積を計算する際に用いるπを3.17とする理由が当業者に理解できる程度に説明されているとは言えない。

(ロ)次に、請求項1に記載された導出過程の説明部分ついて検討する。
請求項1には、「円に内接する正4形の1辺の1/2を底辺としてこの円に内接する正8角形の1辺を斜辺とする直角3角形を作図すればのこりの1辺の2乗の1/2は8角形の1辺と円との隙間の面積である」との記載がある。そこで、円の直径をaとし、上記記載を前提として計算すれば、
のこりの1辺:a/2-(a/2√2)
8角形の1辺と円との隙間の面積:
(π・(a/2)^(2)/8)-(a/2)・(a/2√2)・(1/2)
であるから、「のこりの1辺の2乗の1/2」と「8角形の1辺と円との隙間の面積」とを等しいとおくと、
π=2(3-√2)
となる。√2は1.414…であるから、
π=3.172…
となり、本願の請求項1に記載されたπの値である3.17にほぼ一致する値となる。しかしながら、「のこりの1辺の2乗の1/2」と「8角形の1辺と円との隙間の面積」とが等しい理由は説明されていないので、円の面積を計算する際に用いるπを3.17とする理由が当業者に理解できる程度に説明されているとは言えない。

4-2-4 さらに、手続却下された平成19年10月25日付け手続補正書を参酌しても、円の面積を計算する際に用いるπを3.17とする理由が当業者に理解できる程度に説明されているとは言えない。

4-2-5 したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に記載された事項を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは言えない。

5.むすび
以上のとおり、この出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができず、また、本願の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-10 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-05-31 
出願番号 特願2005-36755(P2005-36755)
審決分類 P 1 8・ 14- Z (0000)
P 1 8・ 536- Z (0000)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 波多江 進
飯野 茂
発明の名称 円の面積定数(πパイ)3.17である。  

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