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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1220344
審判番号 不服2007-17453  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-21 
確定日 2010-07-14 
事件の表示 特願2001-179688「食品及びその抗酸化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月26日出願公開、特開2002-371276〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成13年6月14日の出願であって、平成19年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年6月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年7月23日付けで手続補正がなされ、その後、平成21年12月14日付けで審尋を発し、これに対し、平成22年2月22日に回答書の提出がなされたものである。

そして、平成19年7月23日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的として、補正前の請求項5?8を削除するものであって、かつ、特許法第17条の2第3項の規定に反する新規事項を追加するものでもないから、適法なものである。

よって、本願請求項1?4に係る発明は、平成18年1月10日付け及び平成19年7月23日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「栗果肉、栗の渋皮、栗の鬼皮の中から選ばれた少なくとも一つから抽出した抽出物を、食品全体重量中0.01重量%以上含有することを特徴とする食品。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成17年10月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、当該拒絶理由通知書には、理由2として、
『2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<理由2について>
・請求項1?8
・引用文献等1?3
・備考
引用文献1に記載の抗酸化剤を食品や化粧品に配合する際に、引用文献2、3に記載の配合量を参考にし、その好ましい配合量を選定することは、当業者が容易に実施しうる程度のことである。』
との拒絶の理由が示されている。

3.原査定の引用文献及びその記載事項
(1)引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開平7-126618号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「ブナ科及びトチノキ科から選ばれた少なくとも一つの植物の種皮又は殻斗を水及び有機溶剤から選ばれた少なくとも一つの溶媒で抽出して得られたことを特徴とする抗酸化剤。」

摘記1b:段落0002及び0004
「食品や化粧品等は、脂質を含んでいるものが多く、空気中の酸素によって容易に酸化され、嗜好的な品質や栄養価値の低下だけでなく、酸化脂質の生成による毒性の発現という問題が生じる。…本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、α-トコフェロール以上の抗酸化力を有する天然物由来の抗酸化剤を提供することを目的とするものである。」

摘記1c:段落0009及び0011
「クリ(ブナ科クリ属(Castanea))の種皮(一般に鬼皮及び渋皮と呼ばれる部分)をはぎ取った後ハサミで細断し、抽出用原料とした。本原料35gに水200mlを加え、1時間沸騰させることにより加熱抽出した後、抽出液と残渣とに分離した。…ろ別した析出物は室温にて風乾し、残渣画分(0.86g)を得た。次に、上記の各々の抽出物及び抽出画分の抗酸化活性を調べるために、0.294mg/mlとなるように、水に溶解させ被験試料とした。」

摘記1d:段落0029
「本発明の天然物由来の抗酸化物は、安全性が高く、α-トコフェロール以上の抗酸化力を有する。以上のことから、本発明の抗酸化物は、食品や生体系における抗酸化剤として優れた性能を有するものであることが分かる。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開平2-202581号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1及び3
「1)カテキン類またはその縮合物を有効成分とする光劣化防止剤。…3)カテキン類の縮合物が、…栗、…の抽出物である請求項1記載の光劣化防止剤。」

摘記2b:第2頁右下欄第8?11行
「本発明のカテキン類またはその縮合物の化粧品、医薬品、食品またはその原料への配合量は、乾燥残分として0.001?2重量%であり、好ましくは0.005?0.2重量%である。」

摘記2c:第3頁右上欄第19行?左下欄第3行
「本発明の光劣化防止剤は、次のような利点を持っている。…(2)製品からの酸化生成物-例えば過酸化物等の発生を抑える。」

4.引用文献1に記載された発明
引用文献1の「ブナ科…の植物の種皮…を…溶媒で抽出して得られた…抗酸化剤。」との記載(摘記1a)、「クリ(ブナ科クリ属…)の種皮(一般に鬼皮及び渋皮と呼ばれる部分)をはぎ取った後ハサミで細断し、抽出用原料とした。」との記載(摘記1c)、及び「本発明の天然物由来の抗酸化物は、…食品…における抗酸化剤として優れた性能を有する」との記載(摘記1d)からみて、
引用文献1には、『クリの種皮(一般に鬼皮及び渋皮と呼ばれる部分)を溶媒で抽出して得られた抗酸化剤を、食品における抗酸化剤としたもの。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

5.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「クリの種皮(一般に鬼皮及び渋皮と呼ばれる部分)」は、栗の渋皮及び栗の鬼皮の二つを含むものであるから、本願発明の「栗果肉、栗の渋皮、栗の鬼皮の中から選ばれた少なくとも一つ」に相当し、引用発明の「溶媒で抽出して得られた抗酸化剤」は、本願発明の「抽出した抽出物」に相当し、引用発明の「食品における抗酸化剤としたもの」は、当該「抗酸化剤」を「食品」に含有させてなるものを意図しているから、本願発明の「食品」に相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、『栗の渋皮、栗の鬼皮の中から選ばれた二つから抽出した抽出物を、含有する食品。』である点において一致し、抽出物の含有量が、本願発明においては「食品全体重量中0.01重量%以上」であるのに対して、引用発明においては含有量の数値範囲について規定していない点においてのみ相違し、他に相違する点はない。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、「製品からの酸化生成物…の発生」を抑えるという利点を有し(摘記2c)、「栗…の抽出物」である「カテキン類の縮合物」を「有効成分とする光劣化防止剤」に関し(摘記2a)、その「食品…への配合量」を「乾燥残分として0.001?2重量%」としたもの(摘記2b)が記載されているので、『栗の抽出物を、食品全体重量中に乾燥残分として0.001?2重量%含有する食品。』は知られている。
また、食品に抗酸化剤等の添加剤を配合する場合、添加効果を考慮して添加割合を決定することは、当業者が通常行うことである。
よって、引用発明の「抽出して得られた抗酸化剤」の配合量の最適化を行って、「食品全体重量中0.01重量%以上」という下限値を設定することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。
次に、本願発明の効果について検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「食品全体重量中0.01重量%以上」という下限値を設定することによって格別予想外の顕著な効果が得られることを裏付ける比較実験データが示されていない。
そして、抗酸化剤の配合量を一定水準以上にしなければ所定の抗酸化能を得られないことは当業者にとって常識的に予測可能なことでしかない。
よって、本願発明に格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

(3)平成19年9月21日付けの「実験成績証明書」について
ここで、平成19年9月20日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、『次に本願発明の請求項1で規定した抗酸化剤の含有量の有効性を説明します。審査基準には「数値限定を伴った発明における考え方」において「同質であるが顕著な効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する」旨の記載があります。本願発明がこれに該当することを立証するため以下の実験を行い、その実験結果を本書に添付の「実験成績証明書」にまとめました。是非とも参酌いただくようお願い致します。』と主張し、平成19年9月21日付けの手続補足書に「実験成績証明書」を添付して提出した。
さらに、平成22年2月22日付けの回答書において、『そこで本出願人は、含有量0.001?0.05重量%間で比較試験を行ない、「含有量0.01重量%付近を境に急激にラジカル消去率が加速度的に向上する」ことを立証した。この結果により、審査官の「上記範囲としたことが格別であるとはいえない。」という認定を否定することができ、また「予期せぬ顕著な効果」が認められ得るといえる。しかし前置報告書では、上記の主張に対する妥当性評価及び意見は何等記載されませんでした。』と主張している。
そこで、当該「実験成績証明書」において示されている比較実験データについて以下に精査する。

当該「実験成績証明書」の「4-1.抗酸化剤の効果量試験」の結果については、「本実験は、特願2001-179688の明細書の記載に準じ、本発明の抗酸化剤含有量違いのキャンディの抗酸化能について実験したものである。」とされながらも、「栗の渋皮部及び鬼皮部(合計7g)を計量後、包丁で約1mm程度に細かく粉砕し、試料とした。そして、試料に蒸留水(90℃)50mlを混合し、ブレンダーにて15000rpm、10分間粉砕した。次に、遠心分離(25000×g、20分間)により得た上清40mlを凍結乾燥し、抽出物粉末を調製した。…上述の抽出物粉末が、キャンディ中、図1のような含有量(0.001重量%、0.005重量%、0.01重量%、0.05重量%)になるよう添加混合し、100℃に冷却した後、型打ち成型を行い、栗皮抽出物粉末の含有量違いのキャンディを得た。」というものであるから、その「抽出物」の含有量は、「凍結乾燥し、抽出物粉末」としたものを基準とした含有量になっている。
これに対して、本願明細書の段落0035に記載された実施例2及び3のものは、「実施例1で得られた栗の渋皮の水抽出物」を「固形分としてグラニュー糖60g、酵素水飴40gを混合し、これを150℃に煮詰め、130℃に冷却した。」というものに、各々「10g」ないし「20g」の含有量で配合したというものであるから、その「抽出物」の含有量は、「水抽出物」を基準とした含有量になっている。
そして、本願明細書の段落0019の記載を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「抽出物」が、「凍結乾燥し、抽出物粉末」としたものであることについては、本願明細書の発明の詳細な説明に示唆を含めて記載がなく、その含有量の基準となる「抽出物」については、濃度等の性状には特に定めがないものの、少なくともその実施例2及び3の記載からみて、「水抽出物」そのものを意図しているものと解するのが自然である。
そうしてみると、当該「4-1.抗酸化剤の効果量試験」の結果は、「水抽出物」を基準とした含有量での結果ではないから、本願発明の「食品全体重量中0.01重量%以上」という下限値を設定することの技術上の意義を明らかにしたものではない。
また、仮に本願明細書に記載された「抽出物」が「凍結乾燥し、抽出物粉末」としたものを意図しているとしても、本願明細書の発明の詳細な説明には、「凍結乾燥し、抽出物粉末」としたものに関して示唆を含めて記載がないことは前述のとおりである。
そして、抽出物粉末が、栗果肉、栗の渋皮、栗の鬼皮の何れか一つ又はその全部に由来するものであっても、等しく「0.01重量%付近を境に、ラジカル消去率が加速度的に向上すること」までもが、当該「4-1.抗酸化剤の効果量試験」の結果によって裏付けられているものでもない。
よって、当該「4-1.抗酸化剤の効果量試験」の結果を参酌しても、本願発明の「食品全体重量中0.01重量%以上」という下限値に、格別の技術上の意義があるとは認められない。

また、当該「実験成績証明書」の「4-2.抗酸化剤含有キャンディの抗酸化能試験」の結果については、『キャンディ全体中の栗の渋皮の水抽出物含有量は、固形分換算で実験2が0.1重量%、実験3が0.2重量%であった。』ことを示して、本願明細書の段落0035に記載された実施例2及び3の具体例の「抽出物」の含有量が、「水抽出物」ではなく、「抽出物粉末」を基準とした含有量に換算してみると「0.1重量%」ないし「0.2重量%」であったことを裏付けている。
しかしながら、この「0.1重量%」ないし「0.2重量%」という配合量が示されても、「含有量0.01重量%付近を境に急激にラジカル消去率が加速度的に向上する」ことの裏付けにはならない。
よって、当該「4-2.抗酸化剤含有キャンディの抗酸化能試験」の結果を参酌しても、本願発明の「食品全体重量中0.01重量%以上」という下限値に、格別の技術上の意義があるとは認められない。

以上総括するに、当該「実験成績証明書」の結果を参酌しても、本願発明に格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

(4)まとめ
結論として、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明(及び引用文献2に記載された発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明(及び引用文献2に記載された発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-30 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願2001-179688(P2001-179688)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 正之中島 庸子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 食品及びその抗酸化方法  

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