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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1220489
審判番号 無効2009-800150  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-10 
確定日 2010-07-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2744900号発明「ルアー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2744900号の請求項1乃至3に係る発明は,平成8年4月15日に出願され,平成10年2月6日に設定登録されたものである。
その後,平成21年7月10日に,その請求項1及び2に係る発明の特許を無効とするとの審判請求がなされ,これに対し,同年10月1日に答弁書が提出され,平成21年11月20日及び平成22年1月22日に弁駁書が提出されている。
そして,平成22年4月15日に特許庁審判廷において口頭審理が行われ,請求人及び被請求人より,それぞれ陳述要領書が提出されている。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は,その特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】プラスチックにより中空の略魚形状を構成した本体を有するルアーにおいて、本体の頭部先端から尾部先端までの背側端縁の所望の範囲に鋭角な刃部を形成し、本体の頭部近傍に錘を設けるとともに、ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けてなることを特徴とするルアー。
【請求項2】 前記ライン連結用リングは、背側端縁から突出するように設けられた請求項1記載のルアー。」
(以下,請求項1及び2に係る発明を,それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)

ここで,本件特許発明1の構成を次のように分説する。
(本件特許発明1)
構成A:プラスチックにより中空の略魚形状を構成した本体を有するルアーにおいて,
構成B:本体の頭部先端から尾部先端までの背側端縁の所望の範囲に鋭角な刃部を形成し,
構成C:本体の頭部近傍に錘を設けるとともに,
構成D:ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けてなる
ことを特徴とするルアー。

第3 請求人の主張
請求人は,特許第2744900号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1号証乃至甲第10号証を提出して,以下のように主張している。

1.無効理由
(1)本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲第1乃至3号証に記載された発明,及び,甲第4乃至7,10号証により立証される公然知られた発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(2)本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲第1乃至3号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

2.無効理由についての具体的主張
(1)公然知られた発明について
ア)甲第5号証のルアーは,甲第10号証に掲載された商品番号198のラトリンジェッターと同一のものであり,甲第4号証に掲載された2種類のルアーは,甲第10号証に掲載された商品番号102,165のラトリンジェッターと同一のものである。
カタログのルアーについて,細部の構成が変わることがあっても,基本的な構成はかわるものではない。
したがって,甲第5号証のルアーは,甲第4号証に掲載されたラトリンジェッターと同一の製品であり,甲第4号証にラトリンジェッターの発売時期が95年と記載されていることから,甲第5号証の製品は,少なくとも本件特許出願日前に発売されていたものであるから,甲第5号証のルアーの構成は,本件特許出願前に公然知られていたものである。
そして,甲第5号証のルアーが「ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けてなる」構成Dを有することは,甲第7号証より明らかである。
以上より,甲第4乃至7,10号証により,本件特許発明1の構成Dを備えたルアーは,本件特許出願前に公然知られたものである。

(2)証拠の記載事項,及び,組み合わせの容易性について
ア)甲第2号証には,本件特許発明と同様に水中で俊敏な動きをさせるという同様の目的があり,そのために構成Cを備えている。甲第2号証のルアーの頭部は,平板状になってはいるが,水流を腹部に逃がして振動を起こさせるという振動原理は同じであり,頭部の平板部は必須のものではない。
そして,構成Aは,甲第1,3号証に,構成Bは,甲第1号証に,構成Dは,甲第4乃至7,10によりルアーの技術分野において公知となっており,リップタイプであろうと,リップレスタイプであろうと,水中で振動を起こさせて魚を誘うという目的において一致しているから,甲第2号証に,公知である構成A,Bや構成Dを組み合わせることは,当業者であれば容易である。

イ)仮に,甲第4乃至7,10号証により,構成Dが公知でないとしても,例えば甲第2号証に記載されているように,ルアーの胴部に重りを入れ,重量配分を調整することは,当業者が工夫する事項であって,その結果,ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けるという工夫は,当業者であれば当然に行いうる設計事項である。


3.証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。
(審判請求書に添付)
甲第1号証:実願平3-25229号(実開平4-113570号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開平7-250593号公報
甲第3号証:実願平5-4828号(実開平6-57165号)のCD-ROM
甲第4号証:株式会社主婦と生活社発行 「海のルアー・ミノープラグ大図鑑」平成8年(1996年)1月1日発行
甲第5号証:ティファ社製 ノリーズシリーズ 「ラトリンジェッター」製品
甲第6号証:甲第5号証として提出した証拠が,甲第4号証に記載された製品であることを証明する供述書
甲第7号証:甲第5号証のライン連結リングと重心位置との関係を示す図(写真)
(平成22年1月22日付け弁駁書に添付)
甲第8号証:登録実用新案第3025453号公報(本件出願後の平成8年6月21日に頒布)
甲第9号証:実願平5-328756号(実開平6-276895号)のCD-ROM
甲第10号証:株式会社ティファ(TIFACO.,LTD)製品カタログ「TIFA1996」

第4 被請求人の主張
被請求人は,請求人の主張は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,請求人の主張に対して,以下のように反論している。
1.請求人の主張に対する反論
(1)公然知られた発明について
カタログ等の発行の後に製品の仕様が変更されることは,まれではなく,外見上は同様に見える製品であっても,実際の性能が異なるものとなっていることはよくあることである。したがって,甲第5号証のルアーが構成Dを備えるものであったとしても,それによって甲第4,10号証に掲載されたルアーが発売当時構成Dを備えていたことを証明するものではなく,構成Dが本件特許出願日前に公然知られていたものであることは証明されてはいない。
(2)証拠の記載事項,及び,組み合わせの容易性について
ア)甲第1号証には,ルアーの一部の断面が図面に記載されているだけであって,それによって,ルアーの所定長さに亘って同様の形状を有しているかは,明らかではなく,少なくとも,背側端縁の所望の範囲に鋭角な刃部を設けるという技術思想は記載されていない。
イ)リップルアーとリップレスルアーでは,その振動原理が異なるものであって,リップルアーの振動のために採用されている構成をリップレスタイプのルアーに採用することはあり得ない。
したがって,甲第1,3号証のリップルアーの構成を甲第2,5号証のリップレスルアーに組み合わせることはあり得ない。
ウ)甲第2号証の「中空の胴部に重りを入れて全体重量を重量配分とを調整」するという記載は,ルアー本体の重量や重量バランスが適宜調整できることが記載されているのであって,ルアーのライン連結位置を全体の重心よりも尾部側に設けることが適宜なし得た設計事項であることを示すものではない。

第5 甲号各証の記載内容
1.刊行物記載の発明
(1)甲第1号証
甲第1号証には,以下の記載がある。
(1a)「プラスチックにて一体成型し、胴体が薄型の鮎共釣り用ルアー本体2において、当該鮎共釣り用ルアー本体2の胴体部の右側から左側にかけての幅と該鮎共釣り用ルアー本体2の背中から腹部にかけての幅の比率が略1対3に構成していることを特徴とする鮎共釣り用ルアー。」(【請求項1】)
(1b)「【問題を解決する手段】
上記目的を達成するために本考案は、従来の鮎共釣り用ルアーに比べて、プラスチックにて一体成型しており又、当該胴体部の右側から左側にかけての幅も薄型の形状に構成するものである。従来の鮎共釣り用ルアーの胴体部の右側から左側にかけての幅と背中から腹部にかけての幅の比率が1対1.5程であったのに対して本考案の比率は1対3程にし、更に当該鮎共釣り用ルアー本体2の頭部底面より頭部先端にかけて頭部先端部分より更に先に突出した針金8を持つことにより達成されるものである。
【作用】
上記の構成により本考案の鮎共釣り用ルアーによれば、直線の川の流れにおいては水の抵抗が少なく静止することができ、更に流れが変化すると、それに応じて反応することができるものである。
これによって、本考案の鮎共釣り用ルアーは川の流れに対しての反応が1つのパターンでなく数通りを持つことができるものである。また、鮎共釣り用ルアー本体2頭部先端部より突出している針金8により、当該針金8が岩等の川中の障害物に当たった場合、当該接点を支点として川の流れの影響によって鮎共釣り用ルアーが鮎の食餌行為に酷似する動きをすることになるのである。」(段落【0004】?【0005】)
(1c)「【実施例】
以下に本考案の構成を添付図面に示す実施例を参照して詳細に説明する。
第1図及び第2図は、本考案に基づく鮎共釣り用ルアーの実施例を開示している。
2は、鮎共釣り用ルアーの本体でありプラスチックにより一体成型されており、鮎共釣り用ルアー本体2の長手方向の長さは14.8センチである。4は、アイレットであり釣り人が鮎共釣り用ルアーをコントロールするために釣り竿と鮎共釣り用ルアー本体2とを釣り糸によって連結するために存在している。6は、フックアイであり当該フックアイにフックが連結され、これにより鮎を釣り上げることができる。8は、針金であり該針金8は鮎共釣り用ルアー本体2頭部底面より頭部先端部先に向かって延びておりこの針金8の先を支点として本考案の鮎共釣り用ルアーが川の中にて食餌行為をしているかの様な動きが可能となる。10は、リップでありこれによって当該部分が水の抵抗をうけることにより当該鮎共釣り用ルアーが川の中へ沈む等の移動がしやすくなる。」(段落【0006】)
(1d)「第3図は、本実施例の鮎共釣り用ルアー本体2のA-A線断面図であり12は、鮎共釣り用ルアー本体2内に設けられた空洞部を表す。当該空洞部12は本体2の長手方向に沿って形成されている。14は、鮎共釣り用ルアー本体2内に設けられたおもりを表し、このおもり14によって川の中へ沈み易く又、川の中に於ての安定性を得ることができる。Bは本実施例の鮎共釣り用ルアー本体2背中より腹部までの最大幅を表している、本実施例においては当該Bは3センチである。Cは本実施例の鮎共釣り用ルアー本体2胴体部の右側から左側にかけての幅を表している、本実施例において当該Cは1センチである。故に本実施例においては鮎共釣り用ルアーの胴体部の幅と背中より腹部までの幅の対比は、1対3を構成している。
これは、第6図に表されている従来型の鮎共釣り用ルアーの背中部分より腹部までの最大幅Gが2.3センチであり胴体部の幅Hが1.5センチであり、つまりは胴体部の幅と背中部分より腹部までの幅の対比がおよそ1対1.5であるのに比べると本考案の鮎共釣り用ルアー本体2はかなりの薄型に構成されていることがわかる。これによって、本考案は従来品の紡錘型の鮎共釣り用ルアーのように川の流れの速さによって左右に腰を振り過ぎることなく安定することができ、又、川の流れの変化に応じて鮎共釣り用ルアー自体が敏感に反応することが出来ことになる。」(段落【0007】?【0008】)
(1e)【図3】は,鮎共釣り用ルアー本体の断面図であり,ルアー本体の背側端縁が鋭角な形状となっていることが記載されている。
(1f)【図1】乃至【図3】の記載から,【図2】のルアーの背部が長手方向に沿って所定長さ区間,【図3】のような鋭角な形状となっていることは,明らかである。

以上の記載事項(1a)?(1f)及び図面の記載からみて,甲第1号証には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「プラスチックで形成された本体内に空洞部が設けられた鮎共釣り用ルアーであって,ルアー本体の背側端縁はその長手方向に沿って所定長さ区間が鋭角な形状となっている鮎共釣り用ルアー。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証
甲第2号証には,以下の記載がある。
(2a)「頭部、胴部および尾部からなる金属製のルアー本体の該胴部の背側にライン連結用アイレットと、前記胴部の腹側および前記尾部のいずれかにフック取り付け用アイレットとを設け、
前記頭部の先端から前記尾部の後端までの水平方向の全長に対する最大高さの割合を35?60%、前記全長に対する最大厚みの割合を10?20%にして前記ルアー本体を扁平な魚形状に形成し、
前記頭部に前記ルアー本体の厚み方向への貫通孔を形成し、該貫通孔に前記ルアー本体の金属より密度の高い金属塊を固定してあることを特徴とする金属製のルアー。」【請求項1】
(2b)「【従来の技術】・・・例えば、小魚形状につくったプラスチック製ルアーは、中空の胴部に重りを入れて全体重量と重量配分とを調整し、口元に相当する頭部先端からはリップを突出させてリーリングしたときの水に対する抵抗が大きくなるようにしてある。このルアーは、リップまたはその近傍にラインを連結しておき、リップに感じる僅かな水流の変化でも尾部が上下左右によく動いて、あたかも小魚が泳いでいるかのように見せることができる。このように、プラスチック製ルアーは、プラスチックの成形加工技術を活用してルアーの機能を向上させるための様々な工夫をこらすことができる。
【発明が解決しようとする課題】プラスチック製ルアーに比べ、金属製ルアーは一般に重いから的確なキャストが容易であるという利点を有する。しかし、金属で小魚形状のルアーをつくっても、プラスチック製ルアーのように、水の流れやリーリングによってこれをあたかも小魚が泳いでいるかのように動かすことは難しいから、実際には、小魚形状の金属製ルアーは、ジグ用のものを除いてあまり使われることがない。金属製ルアーがその重さの割に形が小さくなりがちで、動きが水流の変化に対して鈍感だからである。
そこで、この発明は、キャストを的確にするという面からルアー本体を金属製とし、その本体をいかなる手段によって水中で活発に動くようににするかを課題にしている。」(段落【0002】?【0004】)
(2c)「この発明に係るルアーでは、ルアー本体を相対的に低密度の金属、例えばアルミニウムでつくり、これよりも高密度の金属、例えば真チュウを頭部貫通孔に嵌合して固定する。このような金属の組合せからなる小魚形状の金属製ルアーは、頭部が尾部よりも重くなる。このルアーにラインを連結し、その連結位置は、ルアーを水平に吊り下げられる支点に設ける。そうしておくことで、リーリングをしなくても、このルアーが水平を保ち、水流の変化で活発に動く。さらにこのルアーでは、支点から頭部までの水平距離が支点から尾部までの水平距離よりも短くなり、その支点を境目に頭部が僅かに左右へ動くと、尾部はそれよりも大きく左右へ振動する。」(段落【0007】)
(2d)「このように構成したルアー1では頭部2が相対的に重く、尾部4が相対的に軽くなっているから、ライン9の連結位置、すなわち、アイレット7は、頭部2先端寄りに位置している。アイレット7を支点に頭部2が上下左右に僅かに動くと、尾部4は頭部2よりも大きく動く。しかも前頭部2Aは厚み方向が扁平に仕上げてあるから、ルアー1は前方からの水流の僅かな変化、または僅かな動きのリーリングに対し速やかに反応して上下左右に活発に動くようになる。また、この扁平な前頭部2Aは、リーリングによってルアー1を仮想線で図示のように(図1参照)、水中斜め下方への姿態をとらせて泳がせることにも効果がある。」(段落【0016】)

以上の記載事項(2a)?(2d)及び図面の記載からみて,甲第2号証には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「頭部にルアー本体の金属より密度の高い金属塊を固定して頭部を尾部よりも重く形成することにより,ルアーを水平に吊り下げられるライン用アイレットの位置(支点)から頭部までの水平距離を該支点から尾部までの水平距離よりも短くして,頭部が僅かに左右へ動くと尾部はそれよりも大きく左右に振動するようにした魚形状のルアー。」(以下,「甲2発明」という。)

(3)甲第3号証
甲第3号証には,以下の記載がある。
(3a)「ルア-本体の軸線上に設けた第1抵抗面と前記ルア-本体の両側面にそれぞれ設けた第2抵抗面を有する魚釣用ルア-において、前記第1抵抗面及び第2抵抗面は釣糸等の止着部よりも前方側に設けたことを特徴とする魚釣用ルア-。」(【請求項1】)
(3b)「魚釣用ルア-1は合成樹脂製で内部が中空部Aとなるようにルア-本体2、2′が接着剤と貼り合わせ用ピン2aと凹部2bで貼り合わせて水密に形成され、外表面に魚に似せた模様が描かれている。
中空部Aの中には図示しない重錘が適宜設けられている。」(段落【0008】)
(3c)「【考案の効果】
本考案は前述のように構成されたから、第1抵抗面で速い流れの中でも押し流されて浮き上がってしまうことなく水中にもぐって泳動し易くなる。
しかも、ルア-の両側面の釣糸等の止着部より前方側に第2抵抗面がそれぞれ形成されているから、釣糸等の止着部より前方側の水流の抵抗が大きくなるのでより浮き上がりが防止されると共に、速い流れにおいても激しく泳動してしまうことが防止されて魚を誘うのに適当な泳動をさせることができるようになる等実用上優れた効果を奏する魚釣用ルア-を提供することが出来る。」(段落【0014】)

以上の記載事項及び図面の記載からみて,甲第3号証には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「合成樹脂製で内部に中空部を有し,魚に似せた模様が描かれているルアー本体。」(以下,「甲3発明」という。)

(4)甲第4号証
甲第4号証の第44頁には,その下方左端に「バス ホットタイガー」とあり,その右には,本体の腹部が黄色,背部が緑・黒のルアーが「ラトリンジェッター ノリーズ/ティファ 1200」という記載と共に掲載され,さらにその右側に,上記ルアーと同色彩のルアー及び全体的にゴールド系の本体に黒い模様のついたルアーが並べて掲載されている。
さらに,それらの下には,
「・生産国 JPN 発売時期 95年 重量17g サイズ 7cm 飛距離 10?40m プラスチック製のバイブレーションで、ソルト&フレッシュ両用。使用条件はカラーによって異なり、ゴールドクラウンの場合は、晴天でクリアな状態の日中、オレンジサンダーは、曇天、雨天のステインマッディの夜明け前から9時前後、それに夕刻。なおロッドアクションはミディアムライト、ラインは8lbから12lb。」と記載されている。

(5)甲第5号証
甲第5号証のルアーの構成は,以下のとおりである。
本体が合成樹脂で形成され,本体内に錘を備えたルアーであり,腹部がやや張り出して全体に扁平な略魚形状を有している。
本体の背部側の中央より前方にライン連結用のアイレットを備え,アイレットより前方の部分には,平坦面が形成されているとともに,アイレットより後方の部分はやや丸みを帯び,アイレット直後に小さなフィンを備えている。
本体の腹部側の前方及び尾部付近にフック用のアイレットをそれぞれ備えている。
色は,全体に銀色であり,背部側からオレンジ色のラインを有し,側面には灰色の斑点を備えている。そして,一方側面は,塗装が剥がされており,塗装が剥がされた側面からルアー本体の内部を見ると,その腹部には,金属様の小さい玉が複数個移動自在に設けられて音を発するようになっており,また,頭部付近には錘が設けられている。

(6)甲第6号証
甲第6号証には,日向商事有限会社の代表者である,日向輝武氏による,以下の供述が記載されている。
「甲第5号証として提出されたルアーは、商品名「ラトリンジェッター」であって、甲4号証として提出された雑誌「海のルアー ミノープラグ大図鑑」(「株式会社主婦と生活社」発行・1996年1月1日発行)の44ページ最下段に掲載されている「ラトリンジェッター ノリーズ/ティファ」に該当するものであり、平成8年(1996年)4月15日以前に既に日本国内において販売されていたものであることを供述いたします。 平成21年6月12日」

(7)甲第7号証
甲第7号証には,甲第5号証と同じ形状で塗装が剥がされたルアーが,アイレットを支点としてラインにより吊り下げられている写真が掲載されており,そのルアーの頭部が尾部よりも下方に位置していることがわかる。

以上の甲第7号証を参酌すると,甲第5号証から以下の発明が認定できる。
「全体に扁平な略魚形状を有する合成樹脂製の本体を有するルアーであって,本体の背部側の中央より前方にライン連結用のアイレットを備え,アイレットより前方の部分には,平坦面が形成されているとともに,アイレットより後方の部分はやや丸みを帯び,アイレット直後に小さなフィンを備え,
本体の腹部側の前方及び尾部付近にフック用のアイレットをそれぞれ備え,
本体内の頭部付近に錘が設けられて,各フック用アイレットにフックを取り付けていない状態でライン連結用のアイレットにラインをとおして吊り下げた状態では,ルアー本体部の頭部が水平線に対して尾部よりも下方に傾斜するルアー。」(以下,「甲5発明」という。)

(8)甲第8号証
甲第8号証には,「魚釣り用のルアー」に関する技術が記載されている。

(9)甲第9号証
甲第9号証には,以下の記載がある。
(9a)「【従来の技術】従来のルアーは、例えばクランクベイト型ルアーの場合、一般に図8及び図9に示されるような構成となっている。すなわち、このルアーは、釣りの目的とする魚の捕食生物、例えば小魚等に似せたボディ1を備えている。このボディ1の下部中央と後端には、夫々アイ(止め輪)2,3が取り付けられており、各アイ2,3には、スプリットリング4,5を介してフック(釣針)6,7が装着されている。また、ボディ1の前部には、リップ(流水抵抗板)8が取り付けられている。このリップ8には、アイ9が取り付けられ、このアイ9には、必要に応じて糸を結ぶためのスプリット・リング10が装着されている。さらに、リップ8は、水流を受けることによって、ルアーを潜行させたり、ルアーにアクション(横揺れ)を与えるためのもので、クランクベイト型ルアーの場合、特にリップ8の大きさ、形状がルアーの潜行能力、アクション等の性能に大きな影響を与える。」(段落【0002】)

(10)甲第10号証
甲第10号証の表紙には,「TIFA1996」と記載されている。
そして,60頁の下方に11種類の異なる色彩のルアーの写真が上下2段に番号と共に掲載されており,写真の下段右から2番目には,甲第5号証と同模様のルアーが記載されておりその下には,「198」と記載されている。
また,写真の下には,各番号のルアーの名前が以下のように記載されている。
「102 バス 104 オイカワ 107 ・・・・・165 ホットタイガー 170 ゴールドクラウン 197 レイバンレッド 198 オレンジサンダー 199 ホワイトチャートタイガー」
さらに,その下には,以下の記載がある。
「NORIES RATTLIN’ JETTER
発売以来、従来のバイブレーションプラグの概念をくつがえす使い易さと、驚異的な釣果を誇っているラトリンジェッター。特徴的な低重心バイブレーションと、背と腹のウィグリングが超強力にバイトを誘います。かなりのスローでも信じられない程しっかりと動き、もちろんファーストリトリーブも確実にこなします。しかもクランクベイト並のリトリーブ感と障害物回避性能。キャスティングディスタンスはあくまで遠くに、向かい風にも負けず、バックラッシュを起こさせるようなボディー回転もなく、しっかりと飛行姿勢を保ちます。ビッグレイクから野池までその効果は実証済み、幅広い有効性を体感してください。」

第6 無効理由についての判断
甲第4乃至7,10号証から,上記「甲5発明」が本件特許出願前に公然知られたものであるか否かには争いがあるが,ここでは,甲5発明の本件特許出願前公知性についての判断は保留し,甲5発明が本件特許出願前に公然知られたものであると仮定して,以下に検討する。

1.本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると,甲2発明の「頭部にルアー本体部の金属より密度の高い金属塊を固定」するという構成が,本件特許発明1の「本体の頭部近傍に錘を設ける」という構成(構成C)に相当している。
したがって,両者は,以下の点で一致している。
「本体の頭部近傍に錘を設けているルアー。」

そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1は,プラスチックにより中空の略魚形状を構成した本体を有するルアーである(構成A)のに対して,甲2発明は,ルアー本体は魚形状をしてはいるが,金属のルアーであって,プラスチックにより中空に構成された本体を有するルアーではない点。
(相違点2)
本件特許発明1は,本体の頭部先端から尾部先端までの背側端縁の所望の範囲に鋭角な刃部を形成した(構成B)ものであるのに対して,甲2発明は,本体の頭部先端から尾部先端までの背側端縁の構成が,特定されているものではない点。
(相違点3)
本件特許発明1は,ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けてなる(構成D)のに対して,甲2発明は,ライン連結用リングに対応するライン用アイレットの位置はルアーを水平に吊り下げられる点にあり,ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けたものではない点。

(2)相違点についての判断
上記各相違点についてまとめて検討する。
甲1発明及び甲3発明として開示されているように,プラスチックにより中空の略魚形状を構成した本体を有するルアーは,つまり,相違点1に係る本件特許発明1の構成Aは周知である。
また,甲1発明の「ルアー本体の背側端縁がその長手方向に沿って所定長さ区間が鋭角な形状となっている」という構成が上記相違点2に係る本件特許発明1の構成の「本体の頭部先端から尾部先端までの背側端縁の所望の範囲に鋭角な刃部を形成した」に相当しているから,上記相違点2に係る本件特許発明1の構成Bは,公知である。
さらに,甲5発明の「各フック用アイレットにフックを取り付けていない状態でライン連結用のアイレットにラインをとおして吊り下げた状態では,ルアー本体部の頭部が水平線に対して尾部よりも下方に傾斜する」という構成が,上記相違点3に係る本件特許発明1の構成Dに相当しており,公知となっている。
つまり,上記一致点に係る本件特許発明1の構成Cとともに,上記相違点1乃至3に係る本件特許発明1の構成A,B及びDは,いずれも魚釣り用ルアーの構成として公知或いは周知の構成である。
しかし,一般にルアーは,その全体の形状,材料,ライン連結位置,重量バランス,リップの有無,リップの大きさや位置等,各構成要素の総合によって,水中における動きが決定されるものであって,全体として完成されているルアーのある部分の構成のみを取り出して,他の完成されているルアーに対して採用することが,当業者にとって必ずしも容易であることはいえず,また,組み合わせることによって生じる作用効果,すなわちルアーの水中での動き等が,当業者にとって容易に予測できるとは限らない。

そこで,甲2発明のルアーに甲1,3発明の構成A,B及び甲5発明の構成Dを採用して,すなわち構成A乃至Dを組み合わせて,本件特許発明1とすることが容易か否かを判断するために,特に,甲2発明及び甲1発明,さらには甲5発明について,詳しく検討してみる。

まず,甲2発明のルアーは,金属製ルアーの的確なキャスティングが容易であるという利点を持たせながらも,水中で活発に動くようにすることを目的とするものであって(記載事項(2b)),そのために,ルアー本体の金属より密度の高い金属塊を設けて,ライン連結位置から頭部までの水平距離をライン連結位置から尾部までの水平距離よりも短くして,頭部が僅かに左右へ動くと尾部はそれよりも大きく左右に振動するようにしたルアーである。
そして,甲第2号証には,甲2発明の実施例のルアーについて,その前頭部外形は厚み方向に扁平となっており頭部先端からライン連結位置に向かって上り勾配となる斜面が形成され,該扁平部による斜面によって,水流に対するルアー正面の抵抗が大きくなり,僅かな水流の変化や,小さな動作のリーリングでもルアーの動きがさらに活発になることが記載されている(記載事項(2d))。

以上のことから考えて,甲2発明は,主に,ライン連結位置よりも前方に形成した背側端部の扁平部に水流を当てることによりルアーに大きな動きを発生させるルアーであると認められ,そのために上記構成Cを備えるものである。

これに対して,甲1発明のルアーはプラスチックで形成され本体内に空洞部が設けられたアユの友釣り用のルアーであって,ルアー本体の同体部の幅が薄く,背側端縁はその長手方向に沿って鋭角な形状となっており,その形状により,川の流れの速さによって左右に腰を振り過ぎることなく安定させることができるものである(記載事項(1d))。
そして,甲第1号証には,甲1発明の実施例として,川の中へ沈む等の動きをしやすくするために本体前方下部にリップを設けたルアーが記載されており,鮎共釣り用ルアーが川の中で食餌行為をしているかの様な動きを可能とするための針金8が頭部先端部先に設けられている(記載事項(1b)(1c))。

以上のことから考えて,甲1発明のルアーは,川の流れの中での動きを安定させるためにルアー本体の同体部の幅は薄く,背側端縁はその長手方向に沿って所定長さ区間が鋭角な形状を有しており,本体前方下部に設けたリップや頭部先端部先に設けた針金8によって,動きを起こさせるルアーであると認められる。

これらの,甲2発明のルアー,及び,甲1発明のルアーが備える技術的な意味を考えると,甲2発明のルアーに振動を発生させるための主たる構成である扁平部はもちろんのこと,その他の部分を含む背側端縁に対して,その所望の範囲に亘って,甲1発明のルアーが備える川の流れの中での動きを安定させるための構成である「長手方向に沿って所定長さ区間が鋭角な形状」を採用することが,当業者にとって容易に想い到るとは認められない。
つまり,構成Cを備える甲2発明のルアーに,甲1発明のルアーの構成Bを組み合わせることは,たとえ両者が魚釣り用ルアーという同一の技術分野に属していても,当業者が容易になし得たことではない。

次に,甲5発明を検討してみる。
甲5発明と本件特許発明とを対比すると,甲5発明の「全体に扁平な略魚形状を有する合成樹脂製の本体を有するルアー」が,本件特許発明1の「プラスチックにより中空の略魚形状を構成した本体を有するルアー」に,以下同様に「本体内の頭部付近に錘が設けられ」る構成が,「本体の頭部近傍に錘を設け」る構成に,「各フック用アイレットにフックを取り付けていない状態でライン連結用のアイレットにラインをとおして吊り下げた状態では,ルアー本体部の頭部が水平線に対して尾部よりも下方に傾斜する」構成が,「ライン連結用リングを全体の重心よりも尾部側に設けてなる」構成に,それぞれ相当している。
すなわち,甲5発明のルアーは,本件特許発明の構成A,C,Dを備えている。

そして,甲5発明のルアーは,上記構成A,C及びDを備えるとともにその頭部に平坦面を設けており,主に,ライン連結位置よりも前方に形成した背側端部の平坦面に水流を当てることによりルアーに大きな動きを発生させるルアーであって,ルアーに動きを与える振動原理は甲2発明のルアーと同じものであると考えられる。

そうすると,上記甲2発明のルアーに,甲1発明のルアーの構成Bを組み合わせることが当業者にとって容易でないとする理由と同様の理由によって,甲5発明のルアーに甲1発明のルアー構成Bを採用することも当業者が容易になし得たことではない。

さらに,構成A,C及びDと構成Bの全てを備えることによって生じる本件特許発明1の効果,すなわち水中での動き等は,当業者にとって容易に予測できるものではない。

(3)本件特許発明1についてのまとめ
以上より,甲1発明乃至甲3発明,及び,甲5発明を組み合わせることにより,本件特許発明1を発明することは,当業者にとって容易になし得たことではない。

2.本件特許発明2について
本件特許発明2は,本件特許発明1を引用するものであって,さらに,「ライン連結用リングは、背側端縁から突出するように設けられ」ていることが特定されたものである。
そして,甲1発明乃至甲3発明,及び,甲5発明を組み合わせることにより,本件特許発明1を発明することは,当業者にとって容易になし得たことではないことは,上記「1.本件特許発明1について」に記載したとおりである。
したがって,本件特許発明1についての理由と同様の理由により,甲1発明乃至甲3発明,及び,甲5発明を組み合わせることにより,本件特許発明2を発明することは,当業者にとって容易になし得たことではない。

3.まとめ
以上より,甲第5号証のルアーが本件特許出願前に公然知られたものであるか否かに関わらず,本件特許発明1及び本件特許発明2は,甲第1乃至3号証記載の発明,及び甲第4乃至7,10号証により認められる発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,同様に,本件特許発明1及び本件特許発明2は,甲第1乃至3号証
記載の発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 結び
以上のとおりであるから,審判請求人の主張する無効理由によっては,本件特許発明1及び2の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-06-08 
出願番号 特願平8-92250
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
神 悦彦
登録日 1998-02-06 
登録番号 特許第2744900号(P2744900)
発明の名称 ルアー  
代理人 井川 浩文  
代理人 柴田 肇  
代理人 木村 高明  

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