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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C02F 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C02F |
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管理番号 | 1221646 |
審判番号 | 訂正2010-390036 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2010-04-14 |
確定日 | 2010-08-02 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4432122号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4432122号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第4432122号(以下、「本件特許」という。)は2009年3月12日を国際特許出願日とする出願であって、その請求項1ないし請求項9に係る発明は平成22年1月8日にその特許権の設定登録がなされたものである。 そして、平成22年4月14日に本件訂正審判の請求がなされた後、同年5月21日付けで当審より訂正拒絶理由が通知された。これに対して、同年6月11日付けで意見書及び審判請求書に添付された訂正明細書を補正する手続補正書が提出され、同年同月18日に補正された全文訂正明細書が提出され、同年7月1日に審判請求書を補正する手続補正書及び補正された全文訂正明細書が提出された。 2.平成22年7月1日付けの手続補正書の適否 2-1.平成22年7月1日に審判請求書を補正する手続補正書の適否 本件補正は、平成22年4月14日付の審判請求書における訂正事項に、新たに「訂正事項7」とその「訂正の原因」を付け加えるものであるところ、かかる補正事項は同審判請求書に添付された訂正明細書において訂正された事項であるから、上記の「訂正事項7」及びその「訂正の原因」の追加は、本審判請求時に既に訂正されている事項を審判請求書に明記するものであって、審判請求の要旨を変更するものとはいえない。 したがって、上記手続補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものといえるので、上記の手続補正を認める。 2-2.平成22年7月1日に提出された補正された全文訂正明細書の適否 本全文訂正明細書により、段落0070、段落0075において、「所望硬度除去容量Xとなる」と記載された箇所が「所望硬度除去容量X以上となる」と補正された。この補正は、平成22年4月14日の審判請求書において「訂正事項3」としてあげられていた訂正事項が同請求書に添付された訂正明細書の段落0070、段落0075において訂正されていなかった不備を補正するものであるから、審判請求の要旨を変更するものとはいえない。 したがって、上記補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものといえるので、上記補正を認める。 3.請求の趣旨 上記2-1.及び2-2.で述べたとおり、平成22年7月1日に提出された手続補正書による補正、及び補正された全文訂正明細書は認められるので、本件訂正審判請求の趣旨は、特許第4432122号の明細書、特許請求の範囲を平成22年7月1日付け手続補正書により補正された審判請求書に添付した補正された全文訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって、次の訂正事項1?7のとおりである。 (a)訂正事項1:請求項4、請求項5、請求項9、段落0015、段落0016、段落0017、段落0018、段落0025、段落0026、段落0037、段落0067、段落0068、段落0071、段落0072、段落0073、段落0077、段落0106及び段落0108において、線速度の単位が「m/s」と記載された箇所の全てを「m/h」と訂正する。 (b)訂正事項2:請求項3において、「所定電気伝導率E」と記載された箇所を「所定電気伝導率K」と訂正する。 (c)訂正事項3:請求項6、段落0019、段落0070及び段落0075で列挙されたステップ(2)の部分において、「所望硬度除去容量Xとなる」と記載された箇所を「所望硬度除去容量X以上となる」と訂正する。 (d)訂正事項4:請求項8において、「所望イオン交換容量X」と記載された箇所を「所望硬度除去容量X」と訂正する。 (e)訂正事項5:段落0101の末尾において、「また、原水の流量は、第1定流量」と記載された箇所を削除する。 (f)訂正事項6:段落0107において、「所定再生線速度V10」と記載された箇所を「所定再生線速度V1」と訂正する。 (g)訂正事項7:段落0112において、「【要約】 劣悪な原水を押出水として用いた場合でも、許容リーク硬度以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現する。所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いてスプリット・フロー再生プロセスを行うに際し、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/sで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2が150?750mmの下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/sで通過させる原水押出モードとを少なくとも含む。」と記載された箇所を削除し、段落0113において、「【選択図】図1」と記載された箇所を削除する。 4.訂正拒絶理由の概要 訂正事項1は、所定再生線速度V1、所定押出線速度V2、再生線速度v1、押出線速度v2の各線速度の単位である「m/s」の全てを「m/h」と訂正するものである。 まず、特許登録時の特許請求の範囲・明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載をみてみると、所定再生線速度V1、所定押出線速度V2、再生線速度v1、押出線速度v2の各線速度の単位はすべて「m/s」と記載され、「m/h」と記載した箇所はない。これらの箇所は、「長さ/時間」の次元、つまり、「m/s」、「m/h」のいずれであってもよく、しかも、【数1】、【数2】、【数4】?【数9】も数学的に成立する。よって、特許明細書の記載だけからは、「m/s」は、本来は「m/h」であるとは直ちにいえない。 次に、特許登録時の図面(・・・・・・)をみてみると、図2の横軸である「v2」の単位が「m/h」、図3及び図4の横軸である「v1」の単位が「m/h」、図9?図12の各表には「パラメータ」である「再生線速度」の記号「V1」の単位が「m/h」であることが記載されている。 ・・・・・・ しかし、図2、図3、図4、図9、図10、図11及び図12に記載の「m/h」が「m/s」としても、直ちに、これら図面の記載事項に記載不備を生じるものでもないから(・・・・・・)、特許図面の記載の「m/h」は、本来は「m/s」と記載すべきものといえなくもない。 したがって、特許明細書・特許図面のいずれからも、所定再生線速度V1、所定押出線速度V2、再生線速度v1、押出線速度v2の各線速度の単位が、「m/s」、「m/h」の何れかを一義的に導き出すことはできない。 よって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き各号のいずれにも該当せず、また、同条第4項の規定に適合しない。 5.当審の判断 5-1.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否 (a)訂正事項1の訂正は、線速度の単位「m/s」を「m/h」と訂正するものである。 そこで、上記意見書に添付された甲第1?14号証をみてみると、陽イオン交換樹脂の並流再生において、再生時及び押出時の線速度は、一般的に、「m/h」の単位を用いていることが明らかである。 また、再生時及び押出時の線速度を0.7?2m/sに設定することは、当業者にとって現実的でない条件設定をしているといえる。すなわち、本件訂正明細書の段落0106に記載されたローム・アンド・ハース社製「IMAC HP 1220Na」と同等の仕様を有すると認められる陽イオン交換樹脂について記載のある甲第2号証をみると、その図2に示された圧力損失と線速度の関係は、審判請求人が提出した上記意見書に記載されたとおり、「樹脂床深さ1mあたりの圧力損失p[bar/m]は、線速度V[m/h]に対して、p=0.00004V^(2)+0.0079V+0.0024」と近似される。ここで、所定再生線速度V1及び所定押出線速度V2が適用される下部樹脂床の所定深さD2の下限値は、請求項5及び9の記載によれば、所定全樹脂床深さD1の下限値300mm、D2=0.2×D1の関係から、0.06mとなる。そこで、この樹脂床に対して、再生液や押出水を線速度0.7?2m/sで流した場合の圧力損失を求めてみると、V=2520?7200(=3600×0.7?2)m/hとして、上記pを算出し、圧力損失は樹脂深さに比例するとの前提に立って、この算出したpに0.06を乗ずると、1.6?12.8MPaとなる。一方、一般的な工業用・商業用の軟水化装置の配管部品は、JIS K6742、JIS B2062の規定が使用され、0.75MPa以下に準じた使用圧力での設計が行われているとみることができるから、再生時及び押出時の線速度を0.7?2m/sに設定することは、配管部品や軟水化装置の使用圧力である0.75MPaをはるかに超えた1.6?12.8MPaという供給圧力での操作を要求することであり、当業者にとって非現実的な条件設定をしているといえる。 さらに、上述のとおり明細書には「m/s」、図面には「m/h」の双方の線速度の単位が記載されている。よって、線速度の単位「m/s」を「m/h」と訂正することは、誤記の訂正を目的とするものとみることができ、上記訂正拒絶理由は解消しているといえる。 よって、線速度の単位「m/s」を「m/h」と訂正することは、誤記の訂正を目的とするものとみることができ、上記訂正拒絶理由は解消しているといえる。 そして、訂正事項1は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 なお、甲第1?14号証とは、 甲第1号証:ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社が公開している飲料水用強酸性陽イオン交換樹脂「IMAC HP1220 Na」の製品情報 甲第2号証:ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーが公開している強酸性カチオン交換樹脂「ダウェックス マラソン C」の製品情報 甲第3号証:三菱化学株式会社の「イオン交換樹脂の試験方法」 甲第4号証:特開昭63-72353号公報 甲第5号証:特開昭63-205145号公報 甲第6号証:特開平1-164447号公報 甲第7号証:特開平5-138161号公報 甲第8号証:特開平9-117676号公報 甲第9号証:特開平9-122505号公報 甲第10号証:特開平9-206744号公報 甲第11号証:特開平10-230170号公報 甲第12号証:特開平11-276911号公報 甲第13号証:特開2003-80245号公報 甲第14号証:特開2005-270761号公報 である。 (b)訂正事項2の訂正は、請求項3において、「所定電気伝導率E」と記載された箇所を「所定電気伝導率K」と訂正するものである。「所定電気伝導率」の記号は、請求項3以外の明細書、特許請求の範囲及び図面では、一貫して「K」と記載されていることからみて、本訂正は誤記の訂正を目的とするものとみることができる。 そして、訂正事項2は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (c)訂正事項3の訂正は、請求項6、段落0019、段落0070及び段落0075で列挙されたステップ(2)の部分において、「所望硬度除去容量Xとなる」と記載された箇所を「所望硬度除去容量X以上となる」と訂正するものである。 請求項6と実質的に特定事項が同じで発明のカテゴリーの異なる請求項1は、「所望硬度除去容量X以上となる」なる特定事項を有していることからみて、請求項6の「所望硬度除去容量Xとなる」は「所望硬度除去容量X以上となる」の誤記とみることが自然である。そして、段落0019の記載は請求項6に係る発明を、段落0070及び段落0075の記載は請求項1及び6に係る発明を、それぞれ、説明するものであるから、これらにおける「所望硬度除去容量Xとなる」は「所望硬度除去容量X以上となる」とすべきものであることは明らかである。 そうすると、本訂正は誤記の訂正を目的とするものとみることができ、また、訂正事項3は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (d)訂正事項4は、請求項8において、「所望イオン交換容量X」と記載された箇所を「所望硬度除去容量X」と訂正するものである。記号Xを使用するパラメータは、請求項8以外の明細書、特許請求の範囲及び図面では、一貫して「所望硬度除去容量」と記載されていることからみて、本訂正は誤記の訂正を目的とするものとみることができる。 そして、訂正事項4は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (e)訂正事項5は、段落0101の末尾において、「また、原水の流量は、第1定流量」と記載された箇所を削除するものである。段落0101の末尾には、「また、原水の流量は、第1定流量」という不明瞭な記載がされていたものを、本訂正により明りょうとするものであるから、本訂正は明りょうでない記載の釈明を目的としたものとみることができる。 そして、訂正事項5は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (f)訂正事項6は、段落0107において、「所定再生線速度V10」と記載された箇所を「所定再生線速度V1」と訂正するものである。「所定再生線速度」の記号は、段落0107以外の明細書、特許請求の範囲及び図面では、一貫して「V1」と記載されていることからみて、本訂正は誤記の訂正を目的とするものとみることができる。 そして、訂正事項6は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (g)訂正事項7は、段落0112において、「【要約】 劣悪な原水を押出水として用いた場合でも、許容リーク硬度以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現する。所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いてスプリット・フロー再生プロセスを行うに際し、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/sで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2が150?750mmの下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/sで通過させる原水押出モードとを少なくとも含む。」と記載された箇所を削除し、段落0113において、「【選択図】図1」と記載された箇所を削除するものである。 本訂正は、不明瞭であった段落0112及び段落0113から上記箇所を削除することにより、明りょうにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものとみることができる。 そして、訂正事項7は、訂正前の本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第2号乃至第3号、第3項、第4項の規定に適合する。 5-2.訂正後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて (a)訂正後の発明 本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1?9」という。)は、平成22年7月1日付けで手続補正された審判請求書に添付された補正された訂正全文明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものである。 (b)刊行物 本件特許に係る国際特許出願に対し、国際調査機関が見解書に引用した以下の文献を刊行物として検討する。 (1)特開2003-299968号公報 (2)特開2007-260574号公報 (3)特開昭56-105759号公報 (4)実願昭58-182509号(実開昭60-91246号)のマイクロフィルム (c)対比・判断 刊行物(1)?(4)には、本件訂正発明1の特定事項である 「(c)所定水温での再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nを以下のステップ(1)?(3)により設定する、軟水化装置の運転方法。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。」 について記載も示唆もされておらず、しかもその点は、当業者が容易に想到することができたものではない。 そして、本件訂正発明1は、上記特定事項により、訂正明細書(段落0027)に記載の「劣悪な原水を用いた場合でも、許容リーク硬度以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することができる」という効果を奏しているものと認められる。 したがって、本件訂正発明1は、上記刊行物(1)?(4)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、他に本件訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。 そして、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?4、及び本件訂正発明1の実施形態を特定した本件訂正発明5、並びに本件訂正発明1と実質的に特定事項が同じでカテゴリーの異なる本件訂正発明6、及び本件訂正発明6を引用する本件訂正発明7?8、さらに、本件訂正発明5と実質的に特定事項が同じでカテゴリーの異なる本件訂正発明9についても同じ判断である。 よって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 6.まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項、第3項乃至第5項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 軟水化装置の運転方法および軟水化装置 【技術分野】 【0001】 この発明は、スプリット・フロー再生を行う軟水化装置の運転方法および軟水化装置に関する。 【背景技術】 【0002】 一般的な軟水化装置は、構造がシンプルであるという理由で並流再生を採用しているものが多い。しかし、並流再生は、硬度リークレベルが比較的高いため、処理水を使用する熱機器等でスケール障害が起きやすい。このため、高純度の処理水を得るために、再生レベル(イオン交換樹脂1リットル当たりの再生剤使用量)を高く設定する必要がある。一方、スプリット・フロー再生は、再生レベルを低く設定しても高純度の処理水が得られるので、高効率の再生ができる。従って、並流再生と同じ再生レベルに設定した場合には、相対的に硬度除去容量が多くなるため、再生剤使用量の経済性が良いという特徴がある。 【0003】 スプリット・フロー再生においては、再生プロセスにおける再生モードおよび押出モードは、特許文献1のように、処理水(軟化水)を用いて行われるのが一般的である。しかしながら、処理水を用いる場合には、処理水の貯留タンクおよび送水ポンプを必要としたり、軟水化装置の流路を切り換えるプロセス制御バルブの構造が複雑となったりする。これら課題は、特許文献2のように、原水を用いて再生モードおよび押出モードを行うことにより解決できる。 【先行技術文献】 【0004】 【特許文献1】特開平1-307457号公報 【特許文献2】特開2007-260574号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明者らは、原水を用いて再生モードおよび押出モードを行おうと試みたところ、他の課題が存在することが判明した。その課題とは、押出モードを原水で行うと、軟水化プロセスでの硬度リークレベルが高く、処理水純度が低下することである。この処理水純度の低下は、劣悪な原水(全硬度200?300mgCaCO_(3)/L以上)を用いる場合に顕著となる。このため、硬度リークレベルの調整を誤ると、ボイラ装置や逆浸透膜装置において深刻なスケール障害を与える場合がある。 【0006】 そこで、本発明者らは、硬度リークレベルがどのようなファクターと関係し、支配されているのかについて、試験および研究を行った。その結果、軟水化プロセスにおける平均リーク硬度は、下部樹脂床深さ,再生レベル,押出線速度,押出量(再生剤の押出しに樹脂量の何倍の水量を使用するかを示す数値),全硬度および電気伝導率と関係することが見出された。 【0007】 そして、本知見に基づき研究を進めた結果、劣悪な原水を押出水として用いた場合でも、ボイラ装置や逆浸透膜装置にスケール障害を与えない純度(平均リーク硬度が3mgCaCO_(3)/L以下、好ましくは、1mgCaCO_(3)/L以下、さらに好ましくは、0.1mgCaCO_(3)/L以下)の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を得ることができるスプリット・フロー再生プロセスを完成するに至った。 【0008】 すなわち、本発明は、劣悪な原水を押出水として用いた場合でも、許容リーク硬度以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記の目的を達成する第1発明は、所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも含み、(c)所定水温での再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nを以下のステップ(1)?(3)により設定する、軟水化装置の運転方法である。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【0010】 第1発明によれば、劣悪な原水を用いた場合でも、許容リーク硬度Y以下の純度の処理水を確保することができ、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することができる。 【0011】 第2発明は、ステップ(3)における所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める、軟水化装置の運転方法である。 【0012】 第2発明によれば、第1発明による効果に加え、所定再生線速度V1を設定すれば、所定押出線速度V2を自動的に設定することができる。 【0013】 第3発明は、ステップ(1)における所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=150?750mm,K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する、軟水化装置の運転方法である。 【0014】 第3発明によれば、第1,2発明による効果に加え、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いる場合において、所望硬度除去容量X=30?60gCaCO_(3)/L-Rかつ許容リーク硬度Y≦3mgCaCO_(3)/Lの純度の処理水を生成することが可能となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定することができる。 【0015】 第4発明は、ステップ(2),(3)における所定再生線速度V1および所定押出線速度V2は、0.7?2m/hの範囲で設定する、軟水化装置の運転方法である。 【0016】 第4発明によれば、第1?3発明による効果に加え、所定再生線速度V1および所定押出線速度V2を0.7m/h以上とすることで、安定した再生動作を実現できる。 【0017】 上記の目的を達成する第5発明は、所定全樹脂床深さD1=300?1500mmを有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/hで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2=0.2?0.8×D1の下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/hで通過させる原水押出モードとを少なくとも含む、軟水化装置の運転方法である。 【0018】 第5発明によれば、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いた場合において、他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現するとともに、許容リーク硬度Y≦3mgCaCO_(3)/Lの純度の処理水を生成することが可能となる。また、所定再生線速度V1および所定押出線速度を0.7m/h以上とすることで、安定した再生動作を実現できる。 【0019】 上記の目的を達成する第6発明は、所定全樹脂床高D1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを行う制御器を備え、制御器は、再生プロセスにおいて、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも実行し、(c)所定水温における再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nが以下のステップ(1)?(3)により予め設定される、軟水化装置である。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルr,再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【0020】 第6発明によれば、劣悪な原水を用いた場合でも、許容リーク硬度Y以下の純度の処理水を確保することができ、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することができる。 【0021】 第7発明は、第6発明において、ステップ(3)における所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める、軟水化装置である。 【0022】 第7発明によれば、第6発明による効果に加え、所定再生線速度V1を設定すれば、所定押出線速度V2を自動的に設定することができる。 【0023】 第8発明は、第7発明において、ステップ(1)における所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=150?750mm,K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する、軟水化装置である。 【0024】 第8発明によれば、第6,7発明による効果に加え、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いる場合において、所望硬度除去容量X=30?60gCaCO_(3)/L-Rかつ許容リーク硬度Y≦3mgCaCO_(3)/Lの純度の処理水を生成することが可能となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定することができる。 【0025】 上記の目的を達成する第9発明は、所定全樹脂床深さD1=300?1500mmを有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を配液しながら樹脂床の略中央部で集液するスプリット・フロー再生プロセスとを行う制御器を備え、制御器は、再生プロセスにおいて、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/hで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2=0.2?0.8×D1の下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/hで通過させる原水押出モードとを少なくとも実行する、軟水化装置である。 【0026】 第9発明によれば、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を用いた場合において、他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現するとともに、許容リーク硬度Y≦3mgCaCO_(3)/Lの純度の処理水を生成することが可能となる。また、所定再生線速度V1および所定押出線速度を0.7m/h以上とすることで、安定した再生動作を実現できる。 【発明の効果】 【0027】 本発明によれば、劣悪な原水を用いた場合でも、許容リーク硬度以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することができる。 【図面の簡単な説明】 【0028】 【図1】軟水化装置のプロセス・フローと諸条件を示す。 【図2】許容リーク硬度Yにおける押出線速度v2と押出量nの関係を示す。 【図3】再生線速度v1と硬度除去容量xの関係を示す。 【図4】再生線速度v1および押出量nの適正範囲を示す。 【図5】軟水化装置の全体構成を示す。 【図6】軟水化プロセスのフローを示す。 【図7】再生剤通過モードのフローを示す。 【図8】原水押出モードのフローを示す。 【図9】所定押出量N=2.5BVの条件にて、所定再生線速度V1を変化させたときのリーク硬度yおよび硬度除去容量xの変化を示す。 【図10】所定押出量N=2.25BVの条件にて、所定再生線速度V1を変化させたときのリーク硬度yおよび硬度除去容量xの変化を示す。 【図11】所定押出量N=1.5BVの条件にて、所定再生線速度V1を変化させたときのリーク硬度yおよび硬度除去容量xの変化を示す。 【図12】所定押出量N=0.4BVの条件にて、所定再生線速度V1を変化させたときのリーク硬度yおよび硬度除去容量xの変化を示す。 【図13】軟水化装置を用いたボイラシステムの構成を示す。 【図14】軟水化装置を用いた逆浸透膜システムの構成を示す。 【符号の説明】 【0029】 1 軟水化装置 1C 制御器 5 陽イオン交換樹脂床 5A 下部樹脂床 c 再生剤濃度 C 所定再生剤濃度 d1 全樹脂床深さ D1 所定全樹脂床深さ d2 下部樹脂床深さ D2 所定下部樹脂床深さ h 全硬度 H 所定全硬度 k 電気伝導率 K 所定電気伝導率 n 押出量 N 所定押出量 r 再生レベル R 所定再生レベル v1 再生線速度 V1 所定再生線速度 v2 押出線速度 V2 所定押出線速度 x 硬度除去容量 X 所望硬度除去容量 y リーク硬度 Y 許容リーク硬度 【発明を実施するための形態】 【0030】 (軟水化装置の運転方法の実施形態) 本実施形態に係る軟水化装置の運転方法は、所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含んでいる。なお、所定電気伝導率Kは、原水中の溶存イオン類の量に対応しているので、溶解性蒸発残留物TDSと置き換えることができる。水道水や工業用水の場合、概ねTDS[mg/L]≒0.5?0.7×K[μS/cm]の関係である。 【0031】 そして、再生プロセスは、以下のモード(a),(b)を少なくとも含んでいる。 (a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モード。 (b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床および上部樹脂床に対して原水を通過させるモードであって、下部樹脂床に対しては所定押出量N(再生剤の押出しに樹脂量の何倍の水量を使用するかを示す数値)の原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モード。 【0032】 図1に示すように、軟水化プロセスでは、樹脂床に対して原水を下降流で通過させる。実線矢示S11は、原水を示し、一点鎖線矢示S12は、途中でイオン交換が行われ、最終的に処理水となって流出することを示している。再生剤通過モードでは、破線矢示S21,S22で示すように、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤を分配しながら樹脂床の略中央部に位置するコレクタで収集した後、破線矢示S23で示すように、樹脂床外へ流出することを示している。原水押出モードでは、実線矢示S31,S32で示すように、樹脂床の上端部および下端部の両側から原水を分配し、再生剤を押し出しながら樹脂床の略中央部に位置するコレクタで収集した後、実線矢示S33で示すように、樹脂床外へ流出することを示している。 【0033】 原水押出モードでは、コレクタよりも下方に位置する樹脂床(下部樹脂床)に対する原水の押出量が多くなり過ぎると、下部樹脂床の下端部付近でイオン交換が行われ、原水に含まれる硬度成分(CaイオンおよびMgイオン)の吸着が起こる。すると、軟水化プロセスにおいて、硬度成分とのイオン交換により水中に放出されたNaイオンやKイオンが下端部付近に吸着している硬度成分を脱着させ、処理水の硬度リークレベルを増加させる。これに対して、コレクタよりも上方に位置する樹脂床(上部樹脂床)においても、上端部付近で下部樹脂床と同様な硬度成分の吸着が生じ、この硬度成分の脱着が軟水化プロセスで起こる。しかしながら、樹脂床の両端部付近以外の大部分は、十分に再生されており、硬度成分による汚染も無い。このため、脱着した硬度成分が樹脂床の中間部分で再び除去されるので、硬度成分が樹脂床からリークする問題は生じない。このような理由から、原水押出モードでは、軟水化プロセスにおける硬度リークレベルを下げるために、下部樹脂床に対する原水の押出量,すなわち所定押出量Nの調整が必要となる。 【0034】 さらに、再生プロセスは、つぎの設定方法(C)を含んでいる。この設定方法(C)は、硬度除去容量xとして所望硬度除去容量Xを確保し、かつ処理水の平均リーク硬度y(以下、単に「リーク硬度y」という。)が許容リーク硬度Y以下となる押出線速度v2および押出量nを、所定押出線速度V2および所定押出量Nに設定、または調整する方法である。なお、リーク硬度yは、軟水化プロセスの開始直後から貫流点(例えば、1mgCaCO_(3)/L)までに採取された処理水のリーク硬度の平均値で定義される。また、許容リーク硬度Yは、処理水の供給先で許容される水の硬度である。処理水の供給先が、ボイラ装置や逆浸透膜装置の場合、許容リーク硬度Yは、装置内での濃縮倍率および炭酸カルシウム等のスケール種の溶解度に基づいて定められる。 【0035】 所定押出線速度V2および所定押出量Nの設定方法は、再生プロセス後に行われる軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nを含むパラメータに関係し、支配されているという新たな知見に基づき、創出したものである。そして、この新たな知見は、リーク硬度yと上記各パラメータとの関係を示すつぎの式1で代表される。 【0036】 【数1】 【0037】 式1における各パラメータの単位は、以下の通りである。 d2:下部樹脂床深さ[mm] k :原水の電気伝導率[μS/cm] h :原水の全硬度[mgCaCO_(3)/L] r :再生レベル[g/L-R(g・NaCl/L-Rまたはg・KCl/L-R)] v2:押出線速度[m/h] n :押出量[BV(Bed Volume)] 【0038】 また、α,β,γ,δは、定数であり、軟水化装置の構造等によってその値が変化するが、以下の範囲に設定する。 α=0.5?2×10^(-10) β=1?3 γ=0.1?0.5 δ=0.1?0.5 【0039】 式1は、本発明者らが、種々の実験を行い、原水温度が一定という条件下での実験結果を近似して求めたものである。なお、近似式としては、上記の各パラメータを含むものであれば、式1に限定されるものではない。 【0040】 式1が示すように、処理水のリーク硬度yは、右辺の各パラメータの値を調整することで、許容リーク硬度Y以下にすることができる。因みに、ボイラ装置の許容リーク硬度Yは、3mgCaCO_(3)/L以下であり、好ましくは1mgCaCO_(3)/L以下である。特に、燃焼反応部に水管群を配置したタイプの貫流ボイラにおいては、好ましくは0.1mgCaCO_(3)/L以下である。また、逆浸透膜装置の許容リーク硬度Yは、3mgCaCO_(3)/L以下であり、好ましくは1mgCaCO_(3)/L以下である。 【0041】 また、式1を用いて処理水のリーク硬度yを許容リーク硬度Y以下に調整するに際し、各パラメータのうち、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度hおよび所定再生レベルrに対しては、実用的な軟水化装置を設計する観点から、以下の条件値を与える。 【0042】 下部樹脂床深さd2に対して与える所定下部樹脂床深さD2は、所定全樹脂床深さD1との関係において、D2≒0.2?0.8×D1とする。その理由は、つぎの通りである。上部樹脂床深さ(樹脂床上端部からコレクタまでの深さ)と下部樹脂床深さ(コレクタから樹脂床下端部までの深さ)とが大きく異なる場合、様々な問題が生じる。第1に、上部樹脂床深さの比率と下部樹脂床深さの比率との差が極端に大きい場合、ほぼ均等に再生剤を分配すると、上部樹脂床と下部樹脂床の実質的な再生レベルrの差が極端に大きくなる。すなわち、床深さが浅い側(樹脂量が少ない側)の再生レベルrは、床深さが深い側(樹脂量が多い側)の再生レベルrに比べて過度に高くなる。このため、床深さが深い側の再生効率が低下し、ひいては樹脂床全体の再生効率も低下する。第2に、上部樹脂床深さの比率と下部樹脂床深さの比率との差が極端に大きい場合、床深さの比率に合わせて再生剤を分配すると、床深さが浅い側(樹脂量が少ない側)の再生線速度v1は、床深さが深い側(樹脂量が多い側)の再生線速度v1に比べて極端に小さくなる。後述するように、再生線速度v1の下限値よりも床深さが浅い側の再生線速度v1が小さい場合には、再生が不十分となるおそれがある。このため、床深さが浅い側の再生効率が低下し、ひいては樹脂床全体の再生効率も低下する。第3に、樹脂床全体に占める上部樹脂床の割合が少ない場合、再生中の樹脂流動の抑制力が小さくなり、再生不良の原因になる場合もある。従って、上部樹脂床深さと下部樹脂床深さとは、1:1の比率が再生の安定性・経済性の点から最も好適である。しかし、多少バランスが悪くても許容できる事から、所定全樹脂床深さD1に占める所定下部樹脂床深さD2の割合を0.2?0.8の範囲に設定する。 【0043】 一方、所定全樹脂床深さD1は、つぎの理由により下限および上限を定める。まず、下限について説明する。所定全樹脂床深さD1が極端に低い場合、再生剤の偏流やショートパスが起こりやすくなるため、再生効率が低下してしまう。また、イオン交換帯の形成により有効に利用できる層長が短くなり、イオン交換容量(貫流交換容量)が少なくなる。従って、陽イオン交換樹脂量が20Lを超えるような軟水化装置の設計では、通常は800mm以上の床深さが推奨される。しかしながら、特に小容量の軟水化装置であれば、300mm以上の床深さを確保すれば実用できる。このため、300mmを下限とする。つぎに、上限について説明する。本来、上限は不要である。ただし、運送上の理由および陽イオン交換樹脂を収容するベッセル製造上の理由により、1500mm以上の床深さを持つ軟水化装置は製造される可能性は低い。このため、1500mmを上限とする。以上の理由により、所定全樹脂床深さD1は、300?1500mmの範囲に設定する。そして、所定下部樹脂床深さは、D2≒0.5×D1とすることにより、150?750mmの範囲で設定する。 【0044】 電気伝導率kに対して与える所定電気伝導率Kは、1500μS/cm以下とし、全硬度hに対して与える所定全硬度Hは、500mgCaCO_(3)/L以下とする。本実施形態に係る軟水化装置は、特に中国大陸や北米大陸で利用されることを念頭に置いている。これらの大陸では、ボイラ給水等に使用される天然水の大半は、電気伝導率が1500μS/cm以下であり、全硬度が500mgCaCO_(3)/L以下であるため、上記の範囲に設定する。 【0045】 再生レベルrに対して与える所定再生レベルRは、60?240g/L-Rとする。再生レベルが極端に高い場合、再生効率が低下する。すなわち、不経済である。逆に、再生レベルが極端に低い場合、再生頻度が高くなる。これに伴い、処理水を供給できない時間が多くなるとともに、再生に使用する水量が増えるため、トータルのランニングコストが悪化する。よって、常識的な範囲として、所定再生レベルRを上記の範囲に設定する。 【0046】 よって、リーク硬度yを調整するパラメータは、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度hおよび再生レベルrに対して所定値D2,K,HおよびRを与えることで、実質的に押出量nおよび押出線速度v2に集約される。勿論、押出量nおよび押出線速度v2以外のパラメータの設定に当り、これらのパラメータは、リーク硬度yを減少させる値に設定することができる。 【0047】 式1から明らかなように、リーク硬度yを減少させるには、原水押出モードにおける押出線速度v2を増加させればよい。これは、原水の通過速度を速くすれば、下部樹脂床での硬度成分の吸着量が少なくなることを意味している。また、式1は、押出量nを減少させることによって、リーク硬度yが減少することを意味している。そして、押出線速度v2の増加または押出量nの減少に対するリーク硬度yの低下度合は、押出線速度v2の増加よりも押出量nの減少の方が影響の大きいことを示している。要するに、式1において、ボイラ給水等の許容リーク硬度Y以下を実現する押出量nは、押出線速度v2をパラメータとするつぎの式2,3として表現できる。 【0048】 【数2】 【0049】 【数3】 【0050】 式2は、Y=1とした場合、図2の線Q1で表される。リーク硬度yは、線Q1より上側の領域では、許容リーク硬度Yを超え、下側の領域では、許容リーク硬度Yを未満となる。 【0051】 式2から明らかなように、押出線速度v2を設定すれば、許容リーク硬度Y以下を実現する押出量nを求めることができる。逆に、押出量nを設定すれば、許容リーク硬度Y以下を実現する押出線速度v2を求めることができる。前述したように、押出線速度v2は、その値を増加させるほどリーク硬度yを減少できるが、一般的には制約条件がある。その制約条件とは、押出線速度v2および再生線速度v1は、原水圧力や軟水化装置の構造に依存しており、個別に流速調整手段を備えない限り、相関関係を有していることである。本実施形態においては、両者が相関関係を有している場合に限定されないが、相関関係を有する場合には、以下のように取り扱うことができる。 【0052】 式2において、押出線速度v2および再生線速度v1が相関関係を有し、押出線速度v2が再生線速度v1で近似できるとすると、押出量nは、再生線速度v1を変数とする式4で表現される。なお、押出線速度v2を再生線速度v1で近似しない場合、v2とv1との関係式を式2に代入することで、式4に相当する関係式を求めことができる。 【0053】 【数4】 【0054】 ところで、前述のように、リーク硬度yを表す式は、式1に限定されるものではないことから、式2および式4もこれに限定されるものではない。そこで、式2および式4を一般化すると、それぞれつぎの式5,式6および式7のように表現できる。 【0055】 【数5】 【0056】 式5において、f_(1)(n)は、押出量nの関数であり、nの増加とともに値が増加する。この関数を式1で近似する場合、f_(1)(n)=nである。また、f_(2)(v2)は、押出線速度v2の関数であり、v2の減少とともに値が増加する。この関数を式1で近似する場合、f_(2)(v2)=exp(-δ×v2)である。さらに、a_(2)は、下部樹脂床深さd1,原水伝導率e,全硬度hおよび再生レベルrによって変動する係数であり、式1で近似する場合、a_(2)=1/a_(1)である。 【0057】 【数6】 【0058】 式6において、f_(3)(v2)は、押出線速度v2の関数であり、v2の増加とともに値が増加する。この関数を式2で近似する場合、f_(3)(v2)=1/exp(-δ×v2)である。また、a_(3)は、許容リーク硬度Yによって変動する係数であり、式2で近似する場合、a_(3)=Y×a_(1)である。 【0059】 【数7】 【0060】 式7において、f_(4)(v1)は、再生線速度v1の関数であり、v1の増加とともに値が増加する。また、a_(4)は、許容リーク硬度Yによって変動する係数である。式4で近似する場合、f_(4)(v1)=f_(3)(v2);a_(4)=a_(3)である。 【0061】 また、再生線速度v1は、再生レベルrとともに、硬度除去容量xを決める主な支配的要因である。軟水化装置の硬度除去容量xは、実質的にイオン交換容量と同じ意味である。軟水化装置の硬度除去容量を算出する方法は古くから提案されており、その一例として、つぎの式8を示す。 【0062】 【数8】 【0063】 式8において、x1は、基本的な硬度除去容量であり、再生レベルrに依存する関数で示される。このx1は、陽イオン交換樹脂の種類によって若干の差異がある。また、g_(1)?g_(8)は、軟水化装置の諸条件に応じてx1を増減させるファクターである。各ファクターg_(1)?g_(8)は、それぞれ原水の電気伝導率k,原水の温度t,全陽イオンに対するナトリウムイオンの比率s,原水硬度に対する貫流点硬度の比率b,通水流速w,全樹脂床深さd1,再生線速度v1および再生剤濃度cの変化に応じて、通常、1前後(実質的には0.5?1.5程度の範囲)に設定される。なお、再生剤濃度cは、標準的な軟水化装置の場合、5?15wt%の範囲で設定される。さらに、硬度除去容量xを求める方法は、上記の式8に限定されるものではなく、つぎの式9に一般化することができる。 【0064】 【数9】 【0065】 式9において、f_(5)(v1)は、再生線速度v1の関数であり、v1の増加とともに値が増加する。また、a_(5)は、軟水化装置の諸条件により変化する係数である。 【0066】 式8および式9で示される硬度除去容量xは、換言すれば処理水の採水量である。図3の線Q2で示されるように、硬度除去容量xは、再生線速度v1の減少にともなって増加する特性を有している。本実施形態においては、並流再生方式の軟水化装置と同等の経済性を確保する観点から、所望硬度除去容量Xは、30?60gCaCO_(3)/L-Rの範囲に設定する。この所望硬度除去容量Xは、所望再生レベルRが60?240g/L-Rの場合に相当する。 【0067】 式8および式9から明らかなように、再生線速度v1は、硬度除去容量xにより決まる。すなわち、所望硬度除去容量Xを与えると、所定再生線速度V1が決まる。ただし、つぎの理由により上限および下限を定める。まず、上限について説明する。スプリット・フロー再生は、並流再生と比較して、陽イオン交換樹脂床と再生剤との接触時間が短くなる傾向がある。このため、再生線速度の上限を抑制し、接触時間を延ばして再生を促進させる必要がある。そこで、並流再生と同等の所望硬度除去容量Xとして、43gCaCO_(3)/L-Rを確保するために、所定再生線速度V1は、好ましくは2m/h以下に設定する。この上限は、図3および図4において線Q3で表され、線Q3より左側の領域は、硬度除去容量xが所望硬度除去容量Xを超える再生線速度v1の範囲を示している。逆に、線Q3より右側の領域は、硬度除去容量xが所望硬度除去容量X未満となる再生線速度v1の範囲を示している。つぎに、下限について説明する。本発明者らの知見によれば、再生線速度v1が0.7m/hを下回ると、樹脂床内で再生剤の偏流やショートパスが生じやすい。この下限は、図4において線Q4で表され、線Q4より左側の領域では、再生が不十分になりやすく、短時間で樹脂床が破過するおそれがある。従って、所定再生線速度V1は、上限以下(図4で線Q3より左側の領域)であって、好ましくは0.7?2m/hの範囲(図4で線Q3と線Q4との間の領域)に設定する。 【0068】 つぎに、再生線速度v1に対して所定再生線速度V1=0.7?2m/hの条件を与えると、式4により、許容リーク硬度Y以下を実現する所定押出量Nの上限を求めることができる。この上限は、図4における線Q1で表されるので、所定押出量Nの最大値は、線Q1と線Q3の交点に相当する2.5BVとなる。一方、所定押出量Nの下限は、樹脂床の空隙率に相当する0.4BVとする。この下限は、図4において線Q5で表される。線Q5より下側の領域では、押出量Nが極端に少なく、再生剤と樹脂床との接触時間が不十分になるため、再生効率が低下する。また、樹脂床内に再生剤が残留するため、軟水化プロセスで再生剤が後段の機器に流入し、腐食破損などの障害を引き起こすおそれもある。従って、所定押出量Nは、上限以下であって、好ましくは、0.4?2.5BVの範囲(図4で線Q1と線Q5との間の領域)に設定する。 【0069】 以上から、所定再生線速度V1と所定押出量Nの好ましい適正範囲は、図4に示す通り、線Q1,線Q3,線Q4および線Q5で囲まれる領域Aとなる。許容リーク硬度Yを示す線Q1は、式3によるものである。つまり、本実施形態の運転方法は、諸条件を与えて線Q1を求め、領域Aの範囲内で所定再生線速度V1および所定押出量Nを設定する方法ということができる。なお、上記の制約条件がない場合は、所定再生線速度V1と別個に所定押出線速度V2を設定することにより、式2から許容リーク硬度Y以下を実現する所定押出量Nを求めることができる。 【0070】 結局のところ、新たな知見に基づく所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定または調整する方法(C)は、つぎのステップ(1)?(3)を含む。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【0071】 ステップ(1)?(3)においては、リーク硬度yに影響する各パラメータの値は、つぎのように設定するのが好ましい。まず、ステップ(1)おいては、所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=0.2?0.8×D1(ここで、D1=300?1500mmとする),K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する。ついで、ステップ(2)においては、所望硬度除去容量Xとなる所定再生線速度V1は、0.7?2m/hの範囲で設定する。そして、ステップ(3)では、所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める。その後、所定押出量Nを式4に従って0.4?2.5BVの範囲で設定する。こうした設定により、軟水化装置の処理水は、許容リーク硬度Yが3mgCaCO_(3)/L以下の純度とすることができる。 【0072】 以上の説明をまとめると、本実施形態は、つぎの軟水化装置の運転方法を含む。すなわち、所定全樹脂床深さD1=300?1500mmを有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/hで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2=0.2?0.8×D1の下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/hで通過させる原水押出モードとを少なくとも含む、軟水化装置の運転方法である。 【0073】 この運転方法においては、各パラメータが取り得る数値の組合せにおいて、許容リーク硬度Yを満たさない場合があれば、許容リーク硬度Yを満たすように、所定押出量N等を調整する。すなわち、所定再生線速度V1は、所望硬度除去容量Xが確保される上限以下で、かつ0.7?2m/hの範囲で設定する。そして、所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める。その後、所定押出量Nを式4に従って0.4?2.5BVの範囲で設定する。 【0074】 なお、本実施形態においては、再生プロセスには、周知の逆洗モード,洗浄モードおよび補水モード等を含ませることができる。 【0075】 (軟水化装置の実施形態) 本実施形態は、上記の運転方法を実現する軟水化装置である。この軟水化装置は、所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを実行する制御器を備え、制御器は、再生プロセスにおいて、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも実行し、(c)所定水温における再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nが以下のステップ(1)?(3)により予め設定される。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【0076】 本実施形態においては、ステップ(1)?(3)により、所定押出量Nを予め設定し、原水押出モードにおける押出量nが設定された所定押出量Nとなるように原水押出ステップを制御する。この制御は、タイマにより行うのが簡単であるが、流量計を設けて、この流量計が所定押出量Nを計数したとき、原水押出モードを終了させるように構成することもできる。 【0077】 ステップ(1)?(3)においては、リーク硬度yに影響する各パラメータの値は、つぎのように設定するのが好ましい。まず、ステップ(1)おいては、所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=0.2?0.8×D1(ここで、D1=300?1500mmとする),K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する。ついで、ステップ(2)においては、所望硬度除去容量Xとなる所定再生線速度V1は、0.7?2m/hの範囲で設定する。そして、ステップ(3)では、所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める。その後、所定押出量Nを式4に従って0.4?2.5BVの範囲で設定する。こうした設定により、軟水化装置の処理水は、許容リーク硬度Yが3mgCaCO_(3)/L以下の純度とすることができる。 【実施例】 【0078】 図5は、この本実施例に係る軟水化装置の全体構成を示す。軟水化装置1は、家屋やマンション等の居住建物,ホテルや大衆浴場等の集客施設,ボイラやクーリングタワー等の冷熱機器,食品加工装置や洗浄装置等の水使用機器と接続される。 【0079】 図5において、軟水化装置1は、樹脂貯槽2と、プロセス制御バルブ3と、塩水供給装置4とを主に備えている。樹脂貯槽2は、陽イオン交換樹脂床5(所定床深さ:D1)が充填された有底のベッセル6を備えており、このベッセル6の開口部は、キャップ7で閉鎖されている。このキャップ7には、プロセス制御バルブ3が一体的に装着されており、軟水化装置1の軟水化プロセスの流路と再生プロセスの流路とを制御器1Cからの指令信号によって切り換えることができるように構成されている。キャップ7には、流体の供給および排出を行う第1流路8,第2流路9および第3流路10がそれぞれ形成されている。これらの各流路8,9,10は、後述するように、プロセス制御バルブ3を構成する各種ラインとそれぞれ接続されている。 【0080】 第1流路8には、ベッセル6の底部付近へ延びる第1収集管11が接続されている。そして、第1収集管11の先端部には、樹脂ビーズの流出を防止する第1スクリーン12が装着されている。すなわち、第1収集管11内は、第1流路8と連通されるとともに、第1スクリーン12による収集位置がベッセル6の底部付近に設定されている。 【0081】 第2流路9には、陽イオン交換樹脂床5の略中央部(所定床深さ:D2)へ延びる第2収集管13が接続されている。そして、第2収集管13の先端部には、樹脂ビーズの流出を防止する第2スクリーン14が装着されている。すなわち、第2収集管13内は、第2流路9と連通されるとともに、第2スクリーン14による収集位置が陽イオン交換樹脂床5の略中央部に設定されている。 【0082】 第2収集管13の内径は、第1収集管11の外径よりも大径に設定されている。また、両収集管11,13の軸芯は、ともに樹脂貯槽2の軸芯と同軸上に設定されている。すなわち、両収集管11,13は、第1収集管11が内管に設定され、また第2収集管13が外管に設定された二重管構造のコレクタとして樹脂貯槽2に装着されている。 【0083】 さらに、キャップ7の下面側には、樹脂ビーズの流出を防止する第3スクリーン15が装着されている。すなわち、第3流路10は、第3スクリーン15を介して樹脂貯槽2内と連通されている。 【0084】 さて、第3流路10には、プロセス制御バルブ3を介して原水ライン16が接続されている。また、第1流路8には、プロセス制御バルブ3を介して処理水ライン17が接続されている。すなわち、原水ライン16および処理水ライン17の一部は、それぞれプロセス制御バルブ3内に形成されている。 【0085】 原水ライン16には、上流側から順に圧力スイッチ18および第1バルブ19が設けられている。圧力スイッチ18は、再生プロセスにおいて、原水圧力の有無を検出するために設けられており、例えば再生プロセスを正常に行うために必要な0.1MPa前後の圧力でオンオフするタイプのものである。一方、処理水ライン17には、第2バルブ20が設けられている。圧力スイッチ18,第1バルブ19および第2バルブ20は、いずれもプロセス制御バルブ3に組み込まれている。 【0086】 プロセス制御バルブ3の構成について、さらに詳細に説明する。プロセス制御バルブ3内において、第1バルブ19の上流側の原水ライン16は、第2バルブ20の下流側の処理水ライン17とバイパスライン21で接続されている。このバイパスライン21には、第3バルブ22が設けられている。 【0087】 第1バルブ19の上流側の原水ライン16は、第2バルブ20の上流側の処理水ライン17と第1再生剤ライン23で接続されている。この第1再生剤ライン23には、原水ライン16側から順にストレーナ24,第一定流量バルブ25,エゼクタ26,第4バルブ27および第1オリフィス28が設けられている。ストレーナ24は、原水中に含まれる懸濁物質を除去し、第1定流量バルブ25およびエゼクタ26の詰まりを防止するためのものである。また、第1定流量バルブ25は、エゼクタ26へ供給する原水を所定範囲の流量に調節するためのものである。 【0088】 エゼクタ26と第4バルブ27の間の第1再生剤ライン23は、第1バルブ19の下流側の原水ライン16と第2再生剤ライン29で接続されている。この第2再生剤ライン29には、第2オリフィス30が設けられている。第1オリフィス28および第2オリフィス30は、後述する再生剤通過モードおよび原水押出モードにおいて、第1流路8および第3流路10に対して再生剤または原水を均等に分配するためのものである。 【0089】 エゼクタ26のノズル部の吐出側には、塩水供給装置4から延設された塩水ライン31が接続されている。この塩水ライン31には、第5バルブ32が設けられている。すなわち、エゼクタ26は、原水がノズル部から吐出されるときに発生する負圧を利用して、塩水供給装置4から塩水(例えば、塩化ナトリウムの飽和水溶液)を吸引可能に構成されている。そして、エゼクタ26では、塩水供給装置4からの塩水は、原水で所定再生剤濃度C(5?15wt%)まで希釈されるようになっている。 【0090】 第2バルブ20の上流側の処理水ライン17には、プロセス制御バルブ3の外部へ延びる第1排水ライン33が接続されている。この第1排水ライン33には、処理水ライン17側から順に第6バルブ34および第2定流量バルブ35が設けられている。また、第2オリフィス30の下流側の第2再生剤ライン29は、第6バルブ34の下流側の第1排水ライン33と第2排水ライン36で接続されている。この第2排水ライン36には、第7バルブ37が設けられている。さらに、第2流路9は、第6バルブ34の下流側の第1排水ライン33と第3排水ライン38で接続されている。この第3排水ライン38には、第8バルブ39が設けられている。第2定流量バルブ35は、樹脂貯槽2からの排水量を所定範囲の流量に調節するためのものである。第3排水ライン38は、第2定流量バルブ35の下流側に接続しているが、圧力損失を低減するために、第2定流量バルブ35の下流側に接続することができる。 【0091】 つぎに、塩水供給装置4の構成について、詳細に説明する。塩水供給装置4は、塩水タンク40を備えている。この塩水タンク40内には、筒状の塩水井戸41と、塩水の貯留部および再生塩42(例えば、粒状やペレット状の塩化ナトリウム)の貯蔵部を区画する透水性プレート43とが配置されている。塩水井戸41の下方の側壁には、連通孔44が設けられており、塩水または補給水が自在に流通できるようになっている。 【0092】 塩水井戸41内には、ストレーナ45が収容されている。このストレーナ45には、エアチェックボール46と、このエアチェックボール46が当接または離反する弁座47とが内蔵されている。そして、この弁座47は、塩水ライン31と接続されている。すなわち、プロセス制御バルブ3は、塩水タンク40と塩水ライン31で接続されている。塩水ライン31には、塩水供給方向の流量および補給水供給方向の流量を検出する流量計48が設けられている。そして、この流量計48からの検出信号は、制御器1Cへ入力されるようになっている。 【0093】 つぎに、本実施例に係る軟水化装置の運転方法を説明する。以下では、本発明に直接関係のある通水プロセスと再生プロセスの基本的な動作を説明する。 【0094】 (通水プロセス) 図6に示すように、通水プロセスでは、制御器1Cからの指令信号により、第1バルブ19および第2バルブ20は、それぞれ開状態に設定される。一方、第3バルブ22,第4バルブ27,第5バルブ32,第6バルブ34,第7バルブ37および第8バルブ39は、それぞれ閉状態に設定される。原水ライン16を流れる原水は、実線矢示S11のように、第3流路10を介して供給されたのち、第3スクリーン15から分配される。 【0095】 第3スクリーン15から分配された原水は、陽イオン交換樹脂床5を下降流で通過する過程で硬度成分がNaイオンまたはKイオンに置換され、軟水化される。陽イオン交換樹脂床5を通過した処理水は、第1スクリーン12で収集されたのち、一点鎖線矢示S12のように、第1収集管11,第1流路8および処理水ライン17を流れ、ユース・ポイントへ供給される。そして、所定量の処理水を採取することにより、陽イオン交換樹脂床5が硬度成分を置換できなくなると、再生プロセスを実施する。 【0096】 (再生プロセス) 再生プロセスは、陽イオン交換樹脂床5の硬度除去容量を回復させるために、逆洗モード,再生剤通過モード,原水押出モード,すすぎモードおよび補水モードをこの順で行う。これらのうち、逆洗モード,すすぎモードおよび補水モードは、本発明と直接関係がなく、特許文献2に示されるように周知であることから、その説明を省略する。 【0097】 図7に示すように、再生剤通過モードでは、制御器1Cからの指令信号により、第3バルブ22,第4バルブ27,第5バルブ32および第8バルブ39は、それぞれ開状態に設定される。一方、第1バルブ19,第2バルブ20,第6バルブ34および第7バルブ37は、それぞれ閉状態に設定される。原水ライン16を流れる原水は、希釈水として、第1再生剤ライン23を介してエゼクタ26の一次側へ供給される。このとき、原水中の懸濁物質は、ストレーナ24により除去される。また、原水の流量は、第1定流量バルブ25により所定範囲に調節される。 【0098】 エゼクタ26では、原水の通過によってノズル部の吐出側で負圧が発生すると、塩水ライン31内も負圧となる。この結果、塩水タンク40内の塩水は、塩水ライン31を介してエゼクタ26へ吸引される。そして、エゼクタ26内では、塩水が原水で所定再生剤濃度Cまで希釈され、再生剤が調製される。 【0099】 再生剤の一部は、破線矢示S21のように、第1再生剤ライン23,処理水ライン17,第1流路8および第1収集管11を介して供給されたのち、第1スクリーン12から分配される。一方、再生剤の残部は、破線矢示S22のように、第2再生剤ライン29,原水ライン16および第3流路10を介して供給されたのち、第3スクリーン15から分配される。このとき、再生剤は、第1オリフィス28および第2オリフィス30によって、均等に分配される。 【0100】 第1スクリーン12から分配された再生剤は、陽イオン交換樹脂床5を上昇流で通過し、下部樹脂床5Aを再生させる。一方、第3スクリーン15から分配された再生剤は、陽イオン交換樹脂床5を下降流で通過し、上部樹脂床を再生させる。すなわち、本実施例では、陽イオン交換樹脂床5のスプリット・フロー再生が行われる。このとき、下降流の再生剤は、樹脂床を下向きに押圧し、上昇流の再生剤によって樹脂床が展開および流動することを抑制する。そして、陽イオン交換樹脂床5を通過した再生剤は、第2スクリーン14で収集されたのち、破線矢示S23のように、第2収集管13,第2流路9および第3排水ライン38を介して第1排水ライン33から系外へ排出される。 【0101】 図8に示すように、原水押出モードでは、制御器1Cからの指令信号により、第3バルブ22,第4バルブ27および第8バルブ39は、それぞれ開状態に設定される。一方、第1バルブ19,第2バルブ20,第5バルブ32,第6バルブ34および第7バルブ37は、それぞれ閉状態に設定される。原水ライン16を流れる原水は、押出水として第1再生剤ライン23を介してエゼクタ26の一次側へ供給される。このとき、原水中の懸濁物質は、ストレーナ24により除去される。 【0102】 エゼクタ26からの原水の一部は、実線矢示S31のように、第1再生剤ライン23,処理水ライン17,第1流路8および第1収集管11を介して供給されたのち、第1スクリーン12から分配される。一方、エゼクタ26からの原水の残部は、実線矢示S32のように、第2再生剤ライン29,原水ライン16および第3流路10を介して供給されたのち、第3スクリーン15から分配される。このとき、原水は、第1オリフィス28および第2オリフィス30によって均等に分配される。 【0103】 第1スクリーン12から分配された原水は、再生剤を押し出しながら陽イオン交換樹脂床5を上昇流で通過し、下部樹脂床5Aを引き続き再生させる。一方、第3スクリーン15から分配された原水は、再生剤を押し出しながら陽イオン交換樹脂床5を下降流で通過し、上部樹脂床を引き続き再生させる。このとき、下降流の原水は、樹脂床を下向きに押圧し、上昇流の原水によって樹脂床が展開および流動することを抑制する。そして、陽イオン交換樹脂床5を通過した再生剤および原水は、第2スクリーン14で収集されたのち、実線矢示S33のように、第2収集管13,第2流路9および第3排水ライン38を介して第1排水ライン33から系外へ排出される。 【0104】 以上の軟水化装置1の運転方法において、その特徴は、実施形態で説明した運転方法にある。すなわち、この運転方法は、所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床5に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも含み、(c)所定水温での再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nを以下のステップ(1)?(3)により設定する。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【0105】 そして、リーク硬度yは、式1で示される。許容リーク硬度Yをボイラ装置で好ましい1mgCaCO_(3)/Lに設定し、押出線速度v2を再生線速度v1で近似すると、許容リーク硬度Yを実現する押出量nは、再生線速度v1の関数として式4で表現される。この式4では、Y=1mgCaCO_(3)/Lとする。なお、式1?式4の定数は、実験結果に基づき式1を作成する際に求めることができる。 【0106】 以下、本発明の適用例を示す。所定下部樹脂床深さD2=750mm,所定電気伝導率K=1500μS/cm,所定全硬度H=500mgCaCO_(3)/L,所定再生レベルR=120g・NaCl/L-Rおよび原水の温度T=18℃の条件にて、所定再生線速度V1を適正範囲の0.7?2m/hの間で変化させ、かつ所定押出量Nを適正範囲の0.4?2.5BVの間で変化させて、式1によりリーク硬度yを求めた。また、硬度除去容量xは、式8により求めた。その結果を適用例SP11?SP14(N=2.5BV),適用例SP21?SP24(N=2.25BV),適用例SP31?SP34(N=1.5BV)および適用例SP41?SP44(N=0.4BV)として、それぞれ図9?図12に示す。なお、陽イオン交換樹脂は、ローム・アンド・ハース社製「IMAC HP1220Na」に設定している。各適用例の結果は、軟水化装置1を用いた実測値とほぼ合致することを確認している。すなわち、図9?図12のデータは、実験結果ということもできる。 【0107】 許容リーク硬度Y=1mgCaCO_(3)/L以下の処理水を生成する適用例は、図12に示すSP41?SP44である。また、許容リーク硬度Yに近い純度の処理水を生成する適用例は、図11に示すSP33およびSP34である。適用例SP41?SP44のように、所定再生線速度V1および所定押出量Nを設定することで、本発明の目的を達成することができる。すなわち、許容リーク硬度Y以下の純度の処理水を確保し、かつ他の再生方式の軟水化装置と同等の採水量を確保することにより、高い経済性を実現することができる。なお、逆浸透膜装置等、処理水の用途によっては許容リーク硬度Yを3mgCaCO_(3)/L程度に設定してもよく、その場合は、図9?図12に示す全ての適用例において、本発明の目的を達成することができる。また、いうまでもないが、適用例SP11?SP44は、所定再生線速度V1および所定押出量N以外のパラメータの諸条件を硬度リークレベルが増加しやすい側に設定している。このため、諸条件を硬度リークレベルがより減少する側に設定すれば、0.1mgCaCO_(3)/L以下のリーク硬度yを容易に達成することができる。 【0108】 以上のように、本実施例の運転方法によれば、所定電気伝導率Kが1500μS/cmかつ所定全硬度Hが500mgCaCO_(3)/Lの劣悪な原水を用いても、許容リーク硬度Yが1mgCaCO_(3)/L以下の純度、またはこの純度に近い純度の処理水を容易に生成することができる。また、所定再生線速度V1を0.7?2m/hの範囲とすることで、再生剤の偏流やショートパスに起因する再生不良を防止できるとともに、並流再生式の軟水化装置と同等の硬度除去容量を確保することができる。また、式1?式4を用いることにより、スプリット・フロー再生プロセスの設計を容易に行うことができる。 【0109】 図13に示すように、軟水化装置1は、必要に応じて処理水タンク51を介して、ボイラ装置50と接続して使用することができる。この場合、軟水化装置1は、所望硬度除去容量X=30?60gCaCO_(3)/L-Rかつ許容リーク硬度Y=1mgCaCO_(3)/L以下に調整し、軟水化プロセスで得られる処理水をボイラ装置50に供給する。ボイラ装置50は、その缶体構造により許容リーク硬度Yが異なる。そのため、軟水化装置1は、許容リーク硬度Yに応じて、所定押出量Nを変化させるように構成することが望ましい。 【0110】 図14に示すように、軟水化装置1は、必要に応じて処理水タンク51を介して、逆浸透膜装置52と接続して使用することができる。この場合、軟水化装置1は、所望硬度除去容量X=30?60gCaCO_(3)/L-Rかつ許容リーク硬度Y=1mgCaCO_(3)/L以下に調整し、軟水化プロセスで得られる処理水を逆浸透膜装置52に供給する。 【0111】 上記の実施例は、種々変更可能である。例えば、実施例では、予め所定押出量Nを求めておき、制御器1Cのタイマ機能により原水押出モードを終了しているが、所定押出量Nに関係する任意のパラメータを検出し、所定押出量Nを調整するように構成することができる。また、第4バルブ27を制御し、原水押出モード終了前に、下部樹脂床5Aのみ押出を終了させるように構成することができる。この場合、硬度成分による下部樹脂床5Aの汚染量を最小限に抑えることができる。 【0112】 本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上記の実施形態もしくは実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、請求の範囲によって示すものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。 【産業上の利用可能性】 【0113】 本発明は、ボイラ装置や逆浸透膜装置等、低硬度の給水を必要とする機器に接続される軟水化装置に広く利用することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも含み、(c)所定水温での再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが、下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nを以下のステップ(1)?(3)により設定する、軟水化装置の運転方法。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【請求項2】 ステップ(3)における所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める、請求項1に記載の軟水化装置の運転方法。 【請求項3】 ステップ(1)における所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=150?750mm,K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する、請求項2に記載の軟水化装置の運転方法。 【請求項4】 ステップ(2),(3)における所定再生線速度V1および所定押出線速度V2は、0.7?2m/hの範囲で設定する、請求項3に記載の軟水化装置の運転方法。 【請求項5】 所定全樹脂床深さD1=300?1500mmを有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを含み、再生プロセスは、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/hで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2=0.2?0.8×D1の下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/hで通過させる原水押出モードとを少なくとも含む、軟水化装置の運転方法。 【請求項6】 所定全樹脂床深さD1を有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを実行する制御器を備え、制御器は、再生プロセスにおいて、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルRの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度Cかつ所定再生線速度V1で通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、下部樹脂床に対し、所定押出量Nの原水を所定押出線速度V2で通過させる原水押出モードとを少なくとも実行し、(c)所定水温における再生プロセス後の軟水化プロセスにおける処理水のリーク硬度yが下部樹脂床深さd2,電気伝導率k,全硬度h,再生レベルr,押出線速度v2および押出量nに関係することを利用して、所定電気伝導率Kかつ所定全硬度Hの原水を用いる場合の所定押出線速度V2および所定押出量Nが以下のステップ(1)?(3)により予め設定される、軟水化装置。 (1)所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,再生プロセス後の軟水化プロセスにおける所望硬度除去容量Xおよび処理水の許容リーク硬度Yを含む諸条件を与える。 (2)硬度除去容量xが再生レベルrおよび再生線速度v1に関係することを利用して、所望硬度除去容量X以上となる所定再生線速度V1を設定する。 (3)処理水のリーク硬度yが許容リーク硬度Y以下となる所定押出線速度V2および所定押出量Nを設定する。 【請求項7】 ステップ(3)における所定押出線速度V2は、予め設定された所定再生線速度V1との相関関係に従って求める、請求項6に記載の軟水化装置。 【請求項8】 ステップ(1)における所定下部樹脂床深さD2,所定電気伝導率K,所定全硬度H,所定再生レベルR,所定再生剤濃度C,所望硬度除去容量Xおよび許容リーク硬度Yは、以下の範囲:D2=150?750mm,K≦1500μS/cm,H≦500mgCaCO_(3)/L,R=60?240g/L-R,C=5?15wt%,X=30?60gCaCO_(3)/L-R,Y≦3mgCaCO_(3)/Lで設定する、請求項7に記載の軟水化装置。 【請求項9】 所定全樹脂床深さD1=300?1500mmを有する陽イオン交換樹脂床に対し、所定電気伝導率K≦1500μS/cmかつ所定全硬度H≦500mgCaCO_(3)/Lの原水を下降流で通過させて処理水を得る軟水化プロセスと、樹脂床の上端部および下端部の両側から再生剤または原水を分配しながら樹脂床の略中央部で収集するスプリット・フロー再生プロセスとを実行する制御器を備え、制御器は、再生プロセスにおいて、(a)樹脂床に対し、所定再生レベルR=60?240g/L-Rの塩化ナトリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を所定再生剤濃度C=5?15wt%かつ所定再生線速度V1=0.7?2m/hで通過させる再生剤通過モードと、(b)再生剤通過モードに引き続き、所定深さD2=0.2?0.8×D1の下部樹脂床に対し、所定押出量N=0.4?2.5BVの原水を所定押出線速度V2=0.7?2m/hで通過させる原水押出モードとを少なくとも実行する、軟水化装置。 【図面】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2010-07-08 |
結審通知日 | 2010-07-12 |
審決日 | 2010-07-23 |
出願番号 | 特願2009-525824(P2009-525824) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(C02F)
P 1 41・ 853- Y (C02F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 光子 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
安齋 美佐子 中澤 登 |
登録日 | 2010-01-08 |
登録番号 | 特許第4432122号(P4432122) |
発明の名称 | 軟水化装置の運転方法および軟水化装置 |