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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01H
管理番号 1221649
審判番号 無効2009-800175  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-08-10 
確定日 2010-07-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4290426号発明「温度ヒューズ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第4290426号に係る発明についての出願は、平成14年 2月20日に特許出願されたものであって、平成21年 4月10日にその発明について特許の設定登録がなされた。

これに対し、平成21年 8月10日付けで請求人菊井俊一より無効審判の請求がなされ、平成21年10月23日付けで被請求人パナソニック株式会社より答弁書及び訂正請求書が提出され、当該答弁書及び訂正請求書の副本を請求人に送付し意見を述べる機会を与えたが、請求人からは応答がなかった。その後当審により平成22年 2月 3日付けで訂正拒絶理由通知が通知され、被請求人よりその指定期間内である平成22年 3月 5日付けで手続補正書及び意見書が提出され、当該手続補正書及び意見書の副本を請求人に送付し意見を述べる機会を与えたが、請求人からは応答がなかったものである。


II.訂正について

(1)訂正請求書の補正
被請求人は、平成21年10月23日付けで訂正請求書を提出し、当審による平成22年 2月 3日付けの訂正拒絶理由通知に応答して、平成22年 3月 5日付けで手続補正書を提出した。
被請求人は、平成22年 3月 5日付け手続補正書により、平成21年10月23日付け訂正請求書の「6 請求の理由」の「(3)訂正事項」の「訂正事項1」のうちの「、Sd>0.4mm^(3)」(第3頁4行目?5行目)、「6 請求の理由」の「(3)訂正事項」の「訂正事項2」のうちの「、Sd>0.4mm^(3)」(第3頁25行目?26行目)、「6 請求の理由」の「(3)訂正事項」の「訂正事項3」のうちの「、Sd>0.4mm^(3)」(第4頁20行目)、をそれぞれ削除し、併せて「6 請求の理由」の「(4)訂正の原因」の「訂正事項1、2について」の記載及び訂正請求書に添付した全文訂正明細書の記載から、当該「、Sd>0.4mm^(3)」に関する記載をそれぞれ削除しようとするものである。
当該訂正請求書の補正は、一部の訂正事項を削除するものにすぎず訂正請求書の要旨を変更するものではないから、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合する。


(2)訂正請求の内容
平成22年 3月 5日付け手続補正書により補正された平成21年10月23日付け訂正請求書により被請求人が請求する訂正の内容は、以下のとおりである。

[訂正事項1]
本件特許の特許請求の範囲、
「【請求項1】
一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」を、
「【請求項1】 一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、前記金属層の厚みを15μm以下とし、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」と訂正する。

[訂正事項2]
本件特許の特許請求の範囲、
「【請求項2】
一対の金属端子と、
前記金属端子の各端部の表出部が下面から上面に表出する第1の絶縁フィルムと、
前記第1の絶縁フィルムの上方に位置し、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子の前記表出部に設けられた、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」を、
「【請求項2】 一対の金属端子と、
前記金属端子の各端部の表出部が下面から上面に表出する第1の絶縁フィルムと、
前記第1の絶縁フィルムの上方に位置し、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子の前記表出部に設けられた、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、前記金属層の厚みを15μm以下とし、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」と訂正する。

[訂正事項3]
本件特許明細書、
「【0010】
【課題を解決するための手段】
温度ヒューズは一対の金属端子と、前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、を備え、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲としたものである。」を、
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、温度ヒューズは一対の金属端子と、前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、前記金属層の厚みを15μm以下とし、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲としたものである。」と訂正する。


(3)訂正の可否に対する判断
上記[訂正事項1]及び[訂正事項2]における、「前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、」という文言を追加する訂正は温度ヒューズの構成を限定するものであり、「前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、」という文言を追加する訂正は可溶合金の構成を限定するものであり、「前記金属層の厚みを15μm以下とし、」という文言を追加する訂正は金属層の構成を限定するものであるから、上記[訂正事項1]及び[訂正事項2]は全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

上記[訂正事項3]は、上記[訂正事項2]による訂正に伴い、それに対応させるために明細書中の記載を明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

したがって、平成22年 3月 5日付け手続補正書により補正された平成21年10月23日付け訂正請求書により請求された訂正は、特許法第134条の2第1項但し書きの規定及び特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


III.本件発明

本件特許の請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1及び2に係る発明は、明細書の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。

1.本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)
「【請求項1】 一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、
前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、
前記金属層の厚みを15μm以下とし、
前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」

2.本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件特許発明2」という。)
「【請求項2】 一対の金属端子と、
前記金属端子の各端部の表出部が下面から上面に表出する第1の絶縁フィルムと、
前記第1の絶縁フィルムの上方に位置し、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子の前記表出部に設けられた、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、
前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、
前記金属層の厚みを15μm以下とし、
前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」


IV.請求人及び被請求人の主張の概略

1.請求人の主張
請求人の主張は、以下の通りである。

『本件特許に係る発明の出願日について』
(1)本件特許は、国内優先権主張の基礎出願である特願2001-43022号の出願当初明細書又は図面に記載されていない事項を含んでいるから、国内優先権主張の効果を得ることができず、現実の出願日(国際出願日)である平成14年2月20日が新規性進歩性の判断基準日となる。

『本件特許に係る発明の無効理由について』
(2)上記(1)の結果、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明は、刊行物7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである(以下「無効理由1」という。)。
(3)上記(1)の結果、訂正前の本件特許の請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物7に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである(以下「無効理由2」という。)。

〈証拠方法〉
甲1 特許第4290426号公報(本件特許掲載公報)
甲2 特開平10-106425号公報(刊行物1)
甲3 特開平6-302258号公報(刊行物2)
甲4 特開平6-302259号公報(刊行物3)
甲5 特開平7-201265号公報(刊行物4)
甲6 特開平11-353996号公報(刊行物5)
甲7 特開2001-222938号公報(刊行物6)
甲8 特開2002-42621号公報(刊行物7)
甲9 特開2000-164093号公報(刊行物8)
甲10 特願2001-43022号の出願当初明細書等
甲11 国際公開第2002/067282号


2.被請求人の主張
本件無効審判請求人の上記主張に対する、被請求人の主張は、以下の通りである。

『本件特許に係る発明の出願日について』
被請求人は、本件特許に係る発明の出願日についての本件無効審判請求人の上記主張に対しては、主張を行っていない。

『本件特許に係る発明の無効理由について』
(1)(上記「無効理由1」について)
本件特許発明1は、刊行物7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効審判の請求は成り立たない。
(2)(上記「無効理由2」について)
本件特許発明2は、刊行物1及び刊行物7に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効審判の請求は成り立たない。


V.当審の判断

『本件特許に係る発明の出願日について』
1.請求人の主張(1)について
本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも
「前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。」
点を発明特定事項(以下「発明特定事項A」という。)として含むものである。
当該発明特定事項Aは、本件特許に係る発明についての出願の国内優先権主張の基礎出願である特願2001-43022号の願書に最初に添付した明細書及び図面には記載されていない。
一方、当該発明特定事項Aは、本件特許に係る発明についての国際出願であるPCT/JP02/01443の内容について公開した国際公開第2002/067282号の請求の範囲4及び5並びに第4頁第20行?第30行及び第10頁第29行?第11行第5行に記載されている。
よって、上記発明特定事項Aを発明特定事項として含む本件特許発明1及び本件特許発明2は、国内優先権主張の効果は得られず、特許法第29条等の規定の適用について、当該特許出願は先の出願の時にされたものとはみなせない。本件特許発明1及び本件特許発明2は、国際出願日である平成14年 2月20日に出願されたものとすべきものである。

『本件特許に係る発明の無効理由について』
上記1.のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2の特許出願は、特許法第29条等の規定の適用について、国内優先権主張の先の出願の時にされたものとはみなせないから、国際出願日である平成14年 2月20日に出願されたものとして、上記無効理由1及び2について以下の通り検討する。

2.無効理由1について

2.1 刊行物7の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された上記刊行物7には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0027】また、特に位置決めを行う必要がない場合には、貫通孔2,3は特に設けなくても良い。また、基板フィルム1としては絶縁性を有することが好ましく、樹脂の他にセラミック基板や表面に絶縁処理された金属板等を用いても良いが、好ましくは、樹脂フィルムを用いることが生産性や取り扱いの面で有利である。
【0028】基板フィルム1の具体的な材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート),PEN(ポリエチレンナフタレート),ABS樹脂、SAN樹脂、ポリサンフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノリル、塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリエスターのいずれかを主成分とする樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂)で形成することができる。」
(イ)「【0031】次に図2に示すように、一対の端子部4,5を貫通孔2,3の間であって、しかも互いに対向するようしかも非接触となるように基板フィルム1上に配置される。」
(ウ)「【0033】端子部4,5の具体的構成材料としては、導電性材料が用いられ、特に強度面や特性面などで金属材料が用いられる。具体的な金属材料としては、ニッケル,鉄,銅,銀等の単体か、或いはそれらの合金、更には、前述の金属材料単体に他の元素を添加したもの、及び上記合金に他の元素を添加したものなどが用いられる。」
(エ)「【0036】また、端子部4,5自体の厚みは0.08mm?0.25mmの範囲とすることで、特性面或いは取り扱いの面等で有利になる。すなわち、端子部4,5自体の厚みが0.08mmより薄いと、電気抵抗が高くなり、しかも機械的強度自体も弱くなり、取り扱う際に簡単に曲がったりするなど不具合が生じる。また、厚さが0.25mmを超えると、温度ヒューズ自体の厚みが厚くなり小型には不向きとなる。」
(オ)「【0042】更に、少なくとも端子部4,5の基板フィルム1との対向面と反対側には、後述する可溶体との接合性を良くする可溶体接合部6,7がそれぞれ設けられている。なお、本実施の形態では、可溶体接合部6,7を端子部4,5の一方の主面にしか設けなかったが、2つの主面に設けても良く、或いは、端子部4,5の先端の全周に設けても良い。可溶体接合部6,7は、鍍金,スパッタ法,蒸着法等の薄膜形性技術や、金属シートを貼り付けるなどの手法で作製されており、しかもその可溶体接合部6,7の好ましい材料としては、金,銀,銅,錫,鉛,ビスマス,インジウム,ガリウム,パラジウム(以下接合材料グループと略す)から選ばれる材料単体かその材料単体に他の元素を添加したものや、接合材料グループから複数選ばれる合金やその合金に他の元素を添加したもの等が上げられる。」
(カ)「【0070】次に図8に示すように、端子部4,5に跨って低融点可溶合金等で構成された可溶体16を一つ或いは複数実装し、溶接等によって、端子部4,5(可溶体接合部6,7)と可溶体16を接合する。溶接は、ハンダゴテによる溶接、電気溶接、レーザー溶接あるいはソフトビーム溶接によって行うことができる。」
(キ)「【0072】(表5)にD2/D1(密度比と略す)と溶接歩留りとの関係を示す。
【0073】
【表5】
【0074】端子部4,5は、幅3mm、厚さ0.15mm、長さ13mmのニッケル合金で、可溶体接合部6,7は厚さ3μmの錫鍍金で作製した。基板フィルム1および接着フィルム10としては厚さ0.125mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)を使用した。可溶体16としては、Sn、In、Bi、Pbの4元合金で温度ヒューズにした場合89±2℃で溶断する材料を使用した。可溶体16の寸法は、厚さ0.14mm幅0.91mm長さ3mmのものを使用し、端子部4,5の間の距離は1.7mmとした。溶接は、レーザー溶接法によって行った。溶接歩留りは、1000個溶接作業を実施したとき13±1mΩ抵抗値範囲内のものを良品とし、その良品数量/1000個から計算し、溶接歩留り50%以下のものを×、50%?90%以下のものを△、90%以上のものをとした。(表5)より、密度比D2/D1>0.98(好ましくは0.995)とする事によって、可溶体16中のボイドが少なく、しかも残留酸化物が十分に少ないので端子部4,5との溶接不良になりにくく、歩留まりを向上させることができた。
【0075】なお、本実施の形態では、可溶体16を断面方形状の板状体としたが、線状体や棒状体の可溶体16を用いても良い。
【0076】更に、可溶体16の具体的材料としては、Sn、In、Bi、Pb、Cd等の合金を主成分としたものが一般に知られている。今回は、有害物であるCdを含まないSn、In、Bi、Pbを混合した合金で可溶体16を作製した。」
(ク)「【0080】次に、図10に示すようなカバーフィルム18を図11に示すように接着フィルム10上に乗せる。カバーフィルム18には、位置決め用の貫通孔19,20と貫通孔19,20の間に設けられ、他の部分よりも窪んでいる凹部21が設けられている。本実施の形態では、外形形状が略方形状の凹部21としたが、円形状,楕円形状,三角形状等でも良い。この凹部21によって、可溶体16の周りに空間を形成でき、確実な可溶体16の切断を実現できる。」
(ケ)「【0085】カバーフィルム18は、絶縁性を有する材料で構成することが好ましく、特に、PET(ポリエチレンテレフタレート),PEN(ポリエチレンナフタレート),ABS樹脂、SAN樹脂、ポリサンフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノリル、塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリエスターのいずれかを主成分とする熱可塑性樹脂で形成することが好ましい。」
(コ)「【0093】なお、本実施の形態の温度ヒューズは、温度ヒューズ本体(ケース部)のサイズを長さL1、幅L2、厚さL3とした場合(図15)、
2.0mm<L1<7.5mm
1.5mm<L2<3.5mm
0.4mm<L3<1.5mm
とした方が好ましく、L1、L2、L3が上記範囲以下であると温度ヒューズが動作したとき(温度による断線をしたとき)の絶縁抵抗及び絶縁耐力を確保するのが困難であり、L1、L2、L3が上記範囲以上であると大きくなりすぎて小形のパック電池などに使用することが難しい。」

以上の記載から、刊行物7には、
「一対の端子部4,5と、
前記端子部4,5の各先端部が配置された基板フィルム1と、
前記端子部4,5の先端部間に設けられた可溶体16と、
前記可溶体16の上方に位置し、前記基板フィルム1の固着されたカバーフィルム18と、
前記端子部4,5より可溶体16に対する濡れ性がよく、前記基板フィルム1の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶体16が接続される可溶体接合部6,7と、
前記基板フィルム1と前記カバーフィルム18と前記可溶体16とを有する温度ヒューズ本体と、
を備え、前記温度ヒューズ本体は、溶融した前記可溶体16が上方に移動するエリアを有し、
前記温度ヒューズ本体の長さLを2.0mm?7.5mmの範囲とし、厚さL3を0.4mm?1.5mmの範囲とした、温度ヒューズ」(以下「引用発明1」という。)
が記載されているものと認める。


2.2 対比判断
本件特許発明1と引用発明1とを比較すると、引用発明1の「端子部4,5」、「基板フィルム」、「可溶体16」、「カバーフィルム18」は、本件特許発明1の「金属端子」、「第1の絶縁フィルム」、「可溶合金」、「第2の絶縁フィルム」に相当する。
また、引用発明1の「可溶体接合部6,7」は、上記摘記事項(オ)により、本件特許発明1の「金属層」に対応する。
さらに、引用発明1の「温度ヒューズ本体の長さL1」は、本件特許発明1の「温度ヒューズ本体部の長さ」に対応し、本件特許発明の「第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離」は温度ヒューズ本体部の厚さにほかならず、引用発明1の「温度ヒューズ本体の厚さL3」は、本件特許発明1の「第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離」に対応する。

以上により、両者は
「一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有する、
温度ヒューズ。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点1-1]
本件特許発明1では、「可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からな」るのに対して、引用発明1では、可溶合金についてこのような限定は行っていない点。
[相違点1-2]
本件特許発明1では、「金属層の厚みを15μm以下と」するのに対して、引用発明1では、金属層の厚みについてこのような限定は行っていない点。
[相違点1-3]
本件特許発明1では、「金属層の面積(S)と可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と金属端子の先端部間の距離(L2)と第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離(d)は、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満た」すものであるのに対して、引用発明1では、このような限定は行っていない点。
[相違点1-4]
本件特許発明1では、「温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とし」ているのに対して、引用発明1では、温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?7.5mmの範囲とし、さらに第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.4mm?1.5mmの範囲としている点。

上記各相違点について検討する。
[相違点1-1]について
温度ヒューズの可溶合金として、共晶合金にそれに含まれていない別の金属を添加した合金を選択することは周知の技術にすぎず(例えば、特開昭56-114238号公報の第3頁左上欄第2行?第7行、特開昭56-114237号公報の第2頁右上欄第10行?第16行及び同左下欄第14行?第20行、特開昭56-114239号公報の第2頁左上欄第10行?右上欄第7行、特開昭63-62124号公報の第2頁右上欄第6行?第12行参照。)、添加する別の金属の添加量についてはその数値に臨界的意義は認められず、当業者であれば適宜決定し得る程度の事項にすぎない。
よって、引用発明1に係る温度ヒューズに、上記周知の技術を適用し本件特許発明1の上記相違点1-1のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得る。
[相違点1-2]について
金属層の厚みについては、その数値範囲に臨界的な意義は認められず当業者であれば適宜決定し得る。
よって、引用発明1に係る温度ヒューズに基づいて、本件特許発明1の上記相違点1-2のような構成とすることは、当業者にとって困難な事項ではない。
[相違点1-3]について
引用発明1には、「金属層の面積(S)と可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と金属端子の先端部間の距離(L2)と第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離(d)は、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満た」すことについて、記載はなく、示唆もされていない。そして当該事項は当業者にとって自明な事項でもない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点3のような構成とすることは、引用発明1に係る温度ヒューズに基づいて、当業者といえども容易に想到し得るものではない。
なお、上記摘記事項(キ)には、D2/D1(密度比)と溶接歩留まりとの関係について検討した実験結果について記載がなされており、ここで、可溶体の厚さを0.14mm、幅を0.91mm、長さを3mmとし、端子間距離を1.7mm、端子厚を0.15mmさらに基板フィルム厚を0.125mmとすることが記載されている。しかしながら、可溶体の接合部幅、カバーフィルム厚及び全体厚に関する数値情報が不明であるから、これら上記摘記事項(キ)より把握し得る数値情報のみでは本件特許発明1の上記相違点1-3のような構成で示された関係式を充足するかどうかについては判断することはできない。
一方、刊行物7では、上記摘記事項(キ)のD2/D1(密度比)と溶接歩留まりとの関係について検討した実験結果のほかに、他の複数の温度ヒューズの性能についての実験結果が記載されている。そして、審判請求人は、上記摘記事項(キ)のD2/D1(密度比)と溶接歩留まりとの関係について検討した実験結果での、可溶体の厚さ0.14mm、幅0.91mm、長さ3mm、端子間距離1.7mm、端子厚0.15mm及び基板フィルム厚0.125mmという数値に加えて、【0037】段落に記載の可溶体の接合部幅、【0046】段落及び【0083】段落に記載のカバーフィルム厚、さらに【0093】段落に記載の全体厚についての数値情報を参酌し、本件特許発明1の上記相違点1-3のような構成で示された関係式を充足する旨説示している。しかしながら、これら複数のそれぞれの実験結果相互の関係については明確ではなく、これらで用いられた数値を都合よく組み合わせることについては、刊行物7に記載された事項の範囲ではないことは明らかであり、また、当業者であれば想到し得るものでもないから、当該審判請求人の主張は採用することはできない。
なお、仮に、刊行物7に記載のもののうち上記摘記事項(キ)に記載のものが、本件特許発明1の上記相違点1-3のような構成で示された関係式を充足するような態様のものを含んでいたとしても、刊行物7には、本件特許発明1の「可溶合金に対する濡れ性がよい金属層状に溶断後の可溶合金がすべて収められるので、金属層より可溶合金に対する濡れ性が悪い金属端子や第1の絶縁フィルムに可溶合金が流れることはない」(本件特許公報【0011】段落)という技術思想については記載も示唆もされておらず、また当業者にとって自明な事項でもないから、当該関係式を導出することは当業者といえども容易に想到し得るものではない。
[相違点1-4]について
本件特許発明1の、「温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲」及び「第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲」と、引用発明1の、「温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?7.5mmの範囲」及び「第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.4mm?1.5mmの範囲」とは、その数値範囲が一部重複しているものである。そして、本件特許発明の「温度ヒューズ本体部の長さ」及び「第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離」についての数値範囲に臨界的な意義は認められず、引用発明1に係る温度ヒューズに基づいて、本件特許発明1の上記相違点1-4のような構成とすることは、当業者にとって困難な事項ではない。

以上により、本件特許発明1の上記相違点1-1?1-4のような構成のうち、相違点1-3のような構成については、引用発明1には記載されておらず、また、当業者といえども容易に想到し得るものでもない。


2.3 無効理由1についてのまとめ
よって、本件特許発明1は刊行物7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすべきものではない。


3.無効理由2について

3.1 刊行物1及び刊行物7の記載事項

(1)刊行物1の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(サ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】一対のリ-ド導体の各先端部を絶縁支持フィルムの片面より他面に水密に表出させ、該絶縁支持フィルムの他面側での上記リ-ド導体先端部間にヒュ-ズエレメントを接続し、上記絶縁支持フィルムの他面に絶縁カバ-フィルムを上記ヒュ-ズエレメントに接触させて被覆したことを特徴とする薄型ヒュ-ズ。
【請求項2】ヒュ-ズエレメントと絶縁カバ-フィルムとの接触を面接触とし、該接触面を囲んで絶縁支持フィルムと絶縁カバ-フィルムとの間にフラックスを充填した請求項1記載の薄型ヒュ-ズ。」
(シ)「【0002】
【従来の技術】電気機器を保護するための部材として、電流ヒュ-ズや温度ヒュ-ズが汎用されているが、取付けスペ-ス上、薄型化が要請されている。そこで、本出願人においては、図4の(イ)及び図4の(ロ)〔図4の(イ)におけるロ-ロ断面図〕並びに図4の(ハ)〔底面図〕に示すように、一対の帯状リ-ド導体2’,2’の各先端部に膨出部21’,21’を形成し、各膨出部21’をプラスチック製絶縁支持フィルム1’の片面より他面に水密に表出させ、該絶縁支持フィルム1’の他面側での上記リ-ド導体の先端部間にヒュ-ズエレメント3’を接続し、このヒュ-ズエレメント3’を覆ってフラックス層5’を被覆し、該フラックス層5’を覆って上記絶縁支持フィルム1’の他面に絶縁カバ-フィルム4’を被着した薄型ヒュ-ズを既に提案した(特公平7-95419号公報)。」
(ス)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1の(イ)は本発明に係る薄型ヒュ-ズの一例を一部を切開して示す平面図、図1の(ロ)は同薄型ヒュ-ズの一例を示す図1の(イ)におけるロ-ロ断面図、図1の(ハ)は同じく図1の(イ)におけるハ-ハ断面図、図1の(ニ)は同上薄型ヒュ-ズの一例を示す底面図である。図1の(イ)乃至図1の(ニ)において、1はプラスチック製の絶縁支持フィルムである。2,2は一対の帯状リ-ド導体であり、各導体2の先端部に膨出部21を形成し、各導体先端部を絶縁支持フィルム1の裏面に当接し、膨出部21を絶縁支持フィルム1の表面に表出させると共に絶縁支持フィルム1と帯状リ-ド導体2との接触面を接着してある。3は帯状リ-ド導体の表出部210,210間に溶接またはろう接により接続したヒュ-ズエレメントであり、所定融点の低融点可溶金属片を使用できる。4は絶縁支持フィルム1の表面側に被覆したプラスチック製の絶縁カバ-フィルムであり、周囲が上記絶縁支持フィルム1に融着または接着剤により接着され、該カバ-フィルム4の裏面を上記ヒュ-ズエレメント3に面接触させてある。この面接触を確保するために、ヒュ-ズエレメント3の断面は四角形としてある。5は絶縁支持フィルム1と絶縁カバ-フィルム4との間にヒュ-ズエレメント3を囲んで充填したフラックスである。
【0008】上記の絶縁支持フィルム1及び絶縁カバ-フィルム4には、高剛性のプラスチック、特に、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリアセタ-ル、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレ-ト、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン等を使用できる。これらの絶縁支持フィルム1及び絶縁カバ-フィルム4に同材質のものを使用することが好ましいが、異種材質のものの使用も可能である。
【0009】上記の帯状リ-ド導体2には、銅の単一体、または、絶縁支持フィルム1の裏面に当接される面を銅とし、他の部分を異種の金属、例えば、ニッケルとした複合体を使用することもできる。」
(セ)「【0017】
【実施例】
〔実施例〕絶縁支持フィルムには長さ10.5mm、巾:6mm、厚み:0.19mmのポリエチレンテレフタレ-トフィルムを、絶縁カバ-フィルムには厚みが0.19mmで外郭が絶縁支持フィルムよりもやや大きなポリエチレンテレフタレ-トフィルムをそれぞれ使用した。帯状リ-ド導体には、巾:3.5mm、厚み:0.1mmの銅-ニツケル複合体を使用し、各帯状リ-ド導体の絶縁支持フィルム裏面への接触長さは4.85mmとした。ヒュ-ズエレメントには、融点が93℃、断面積が0.07mm^(2)の断面正方形の低融点可溶金属線(共晶合金)を使用し、フラックスにはロジンを主成分とするものを使用した。絶縁支持フィルムに帯状リ-ド導体の先端部を固着するには、帯状リ-ド導体の端部の中央部に膨出部をプレス成形し、絶縁支持フィルムにこの膨出部よりもやや小さい孔を穿設し、帯状リ-ド導体先端部を絶縁支持フィルム裏面に当接し、帯状リ-ド導体先端部の膨出部を絶縁支持フィルムの孔に嵌めると共に両者の接触面を加圧加熱により融着する方法を使用した。また、絶縁支持フィルムと絶縁カバ-フィルムとの接着は熱融着により行った。実施例における、その他の各部の寸法は、図1の(イ)に示すように、a並びにbを帯状リ-ド導体表出部の長さ並びに巾とし、Lを帯状リ-ド導体表出部間の間隔とし、hをヒュ-ズエレメントの長さとして、a:1.62mm、b:0.8mm、L:2.5mm、h:6.0mmとした。上記ヒュ-ズエレメントと絶縁カバ-フィルムとの接触面積は、ほぼ1.30mm^(2)であった。」
(ソ)「【0018】
【発明の効果】本発明に係る薄型ヒュ-ズは、本出願人が既に提案した薄型ヒュ-ズ((特公平7-95419号公報)を対象として、スイッチオン・オフ時での過度的電流等のパルス状過電流に対する安定性を向上させ得るものであり、機器、特に電子機器の小型化に伴いますます薄型化が要求される電流ヒュ-ズまたは温度ヒュ-ズとして極めて有用である。」
(タ)上記摘記事項(セ)より、ヒューズエレメント3の厚さは、断面積が0.07mm^(2)の断面正方形であることより、0.265mmであることが明らかであり、すなわち絶縁支持フィルム1の下面から絶縁カバーフィルム4の上面までの距離は、絶縁支持フィルム1の厚さ(0.19mm)、ヒューズエレメントの厚さ(0.265mm)及び絶縁カバーフィルム4の厚さ(0.19mm)の和であることより、0.645mmであることが明らかである。

以上の記載から、刊行物1には、
「一対のリード導体2,2と、
前記リード導体2,2の各端部の膨出部21が下面から上面に表出する絶縁支持フィルム1と、
絶縁支持フィルム1の上方に位置し、前記リード導体2,2の先端部間に設けられたヒューズエレメント3と、
前記ヒューズエレメント3の上方に位置し、前記絶縁支持フィルム1に固着された絶縁カバーフィルム4と、
前記リード導体2,2の前記膨出部21に設けられた、前記リード導体2,2や絶縁支持フィルム1よりヒューズエレメント3に対する濡れ性がよく、かつ前記ヒューズエレメント3が接続される銅層と、
前記絶縁支持フィルム1と前記絶縁カバーフィルム4と前記ヒューズエレメント3とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、
絶縁支持フィルム1の下面から絶縁カバーフィルム4の上面までの距離を0.645mmとした、
温度ヒューズ。」(以下「引用発明2」という。)
が記載されているものと認める。


(2)刊行物7の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された上記刊行物7には、上記4.1で示した摘記事項(ア)?(コ)の事項が記載されている。


3.2 対比判断
本件特許発明2と引用発明2とを比較すると、引用発明2の「リード導体2,2」、「絶縁支持フィルム1」、「ヒューズエレメント3」、「絶縁カバーフィルム4」は、本件特許発明2の「金属端子」、「第1の絶縁フィルム」、「可溶合金」、「第2の絶縁フィルム」に相当する。
また、引用発明2の「膨出部21」及び「銅層」は、本件特許発明2の「表出部」及び「金属層」にそれぞれ対応する。


以上により、両者は
「一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記第1の絶縁フィルムの上方に位置し、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子の前記表出部に設けられた、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備えた、
温度ヒューズ。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点2-1]
本件特許発明2では、「可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からな」るのに対して、引用発明2では、可溶合金についてこのような限定は行っていない点。
[相違点2-2]
本件特許発明2では、「金属層の厚みを15μm以下と」するのに対して、引用発明2では、金属層の厚みについてこのような限定は行っていない点。
[相違点2-3]
本件特許発明2では、「金属層の面積(S)と可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と金属端子の先端部間の距離(L2)と第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離(d)は、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満た」すものであるのに対して、引用発明2では、このような限定は行っていない点。
[相違点2-4]
本件特許発明2では、「温度ヒューズ本体部は、溶融した可溶合金が上方に移動するエリアを有」するとともに、「温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とし」ているのに対して、引用発明1では、温度ヒューズ本体部が溶融した可溶合金が上方に移動するエリアを有しないものであり、温度ヒューズ本体部の長さについては限定されておらず、さらに第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.645mmとしている点。

上記各相違点について検討する。
[相違点2-1]について
温度ヒューズの可溶合金として、共晶合金にそれに含まれていない別の金属を添加した合金を選択することは周知の技術にすぎず(例えば、特開昭56-114238号公報の第3頁左上欄第2行?第7行、特開昭56-114237号公報の第2頁右上欄第10行?第16行及び同左下欄第14行?第20行、特開昭56-114239号公報の第2頁左上欄第10行?右上欄第7行、特開昭63-62124号公報の第2頁右上欄第6行?第12行参照。)、添加する別の金属の添加量についてはその数値に臨界的意義は認められず、当業者であれば適宜決定し得る程度の事項にすぎない。
よって、引用発明2に係る温度ヒューズに、上記周知の技術を適用し本件特許発明2の上記相違点2-1のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得る。
[相違点2-2]について
金属層の厚みについては、その数値範囲に臨界的な意義は認められず当業者であれば適宜決定し得る。
よって、引用発明2に係る温度ヒューズに基づいて、本件特許発明2の上記相違点2-2のような構成とすることは、当業者にとって困難な事項ではない。
[相違点2-3]について
引用発明2には、「金属層の面積(S)と可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と金属端子の先端部間の距離(L2)と第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離(d)は、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満た」すことについて、記載も示唆もしていない。また、当該事項は当業者にとって自明な事項でもない。
したがって、本件特許発明2の上記相違点2-3のような構成とすることは、引用発明2に係る温度ヒューズに基づいて、当業者といえども容易に想到し得るものではない。
なお、上記摘記事項(セ)には、実施例として、金属層の長さを1.62mm、幅を0.8mmとし、正方形の可溶体の断面積が0.07mm^(2)、長さを6mmとし、端子間距離を2.5mmさらに第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離を0.645mmとすることが記載されており、これらの数値を用いて計算を行えば、本件特許発明2の上記相違点2-3のような構成で示された関係式を充足するものであり、本件無効審判請求人はこの事実を根拠として、本件特許発明2の上記相違点2-3のような構成で示された関係式が刊行物1に記載されている旨説示している。しかしながら、上記したとおり引用発明2には、「金属層の面積(S)と可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と金属端子の先端部間の距離(L2)と第2の絶縁フィルムの下面から金属層の上面までの距離(d)は、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満た」すことについて、記載も示唆されていない。さらに、刊行物1には、本件特許発明2の「可溶合金に対する濡れ性がよい金属層状に溶断後の可溶合金がすべて収められるので、金属層より可溶合金に対する濡れ性が悪い金属端子や第1の絶縁フィルムに可溶合金が流れることはない」(本件特許公報【0011】段落)という技術思想について記載も示唆もされておらずまた当業者にとって自明な事項でもないから、当該関係式を導出することは当業者といえども容易に想到し得るものでもない。よって、本件無効審判請求人の上記主張は採用することはできない。
[相違点2-4]について
引用発明2の第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離である0.645mmは、温度ヒューズ本体部が溶融した可溶合金が上方に移動するエリアを有していないことを前提とするものである。引用発明2の第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離である0.645mmという数値が、本件特許発明2の0.3mm?0.7mmという範囲の上限値近傍であることを考慮すると、引用発明2に記載の温度ヒューズにおいて、温度ヒューズ本体部が溶融した可溶合金が上方に移動するエリアを有することとし、さらに、第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離を0.3mm?0.7mmの範囲とすることは、たとえ当業者といえども容易に構築しうる構成ではない。
一方、刊行物7には、上記摘記事項(コ)より、温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?7.5mmの範囲とし、さらに第1の絶縁フィルムの下面から第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.4mm?1.5mmの範囲とする技術が記載されており、本件無効審判請求人は、当該事実に加えて、温度ヒューズの小型化・薄型化が周知の要請ないし課題であるとし、引用発明2の温度ヒューズに当該周知の要請ないし課題に従って刊行物7に記載の事項を適用し、本件特許発明2の上記相違点2-4のような構成とすることは容易になし得たことである旨説示している。しかしながら、本件特許発明2と刊行物7とは、金属端子と第1の絶縁フィルムとの配置関係について相違していることに加えて、金属端子の形状並びに第1の絶縁フィルム及び第2の絶縁フィルムの厚さにも相当の相違が存在することより、本件特許発明2の温度ヒューズに刊行物7に記載の技術を適用することは当業者といえども容易になし得ることではないものである。

以上により、本件特許発明2の上記相違点2-1?2-4のような構成のうち、相違点2-3及び相違点2-4のような構成については、引用発明2及び刊行物7に基づいて、当業者といえども容易に想到し得るものではない。


3.3 無効理由2についてのまとめ
よって、本件特許発明2は刊行物1及び刊行物7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすべきものではない。


VI.むすび

以上のとおりであるから、上記無効理由1及び2によっては本件特許を無効にすることはできない。
他に本件発明を無効とすべき理由は発見できない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
温度ヒューズ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属端子と、
前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、
前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、
前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、
前記金属層の厚みを15μm以下とし、
前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1、Sd>0.4mm^(3)
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。
【請求項2】
一対の金属端子と、
前記金属端子の各端部の表出部が下面から上面に表出する第1の絶縁フィルムと、
前記第1の絶縁フィルムの上方に位置し、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、
前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、
前記金属端子の前記表出部に設けられた、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金が接続される金属層と、
前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、
を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、
前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、
前記金属層の厚みを15μm以下とし、
前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1、Sd>0.4mm^(3)
の関係を満たし、かつ
前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲とした温度ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度ヒューズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小形化が進んでおり、たとえば、従来の携帯電話のパック電池は5mm?6mm厚であったが、厚さ2.5mm?4mmの小形薄形タイプのパック電池が必要とされてきている。このような電子機器の小形化によりその熱容量が小さくなるため、発熱時における昇温速度が速くなる傾向が進んでいる。このため、これらの保護に用いられる温度ヒューズの速断性が市場で望まれてきている。
【0003】
図5Aは従来の温度ヒューズの一部切欠上面図、図5Bは図5Aの5B-5B線における断面図である。
【0004】
図5Aと図5Bに示すように、従来の温度ヒューズは、上面に一対の金属端子1の各先端部を配置した第1の絶縁フィルム2と、第1の絶縁フィルム2の上方に位置し、かつ金属端子1の先端部間に設けられた可溶合金3と、可溶合金3の上方に位置し、かつ第1の絶縁フィルム2および金属端子1に固着された第2の絶縁フィルム4と、一対の金属端子1の先端部に設けられるとともに、可溶合金3が接続され、かつ金属端子1および第1の絶縁フィルム2より可溶合金3に対する濡れ性がよい金属層5,6とを備える。
【0005】
金属層5,6の面積をS、可溶合金3の長さおよび体積をそれぞれL1,V、一対の金属端子1の先端部間の距離をL2、第2の絶縁フィルム4の下面から金属層5,6の上面までの距離をdとする。
【0006】
一対の金属端子1が加熱された状態を図6Aと図6Bに示す。
【0007】
まず、可溶合金3がその融点を超えて溶融し、図6Aに示すように可溶合金3の一部分(図では点A)において可溶合金3が分断される。その後、図6Bに示すように、温度ヒューズ全体が可溶合金3の融点を超える温度になって可溶合金3が溶融すると、その溶融した可溶合金3は、金属端子1に接続された濡れ性のよい金属層5,6上に移動する。この結果、金属層5,6上へは、可溶合金3の体積Vのうち最大で、一対の金属端子1間の体積V(L2/L1)および金属層5,6上にある体積V(L1-L2)/2L1を合わせた体積V(L1+L2)/2L1が移動する。
【0008】
電池の小形化が進むにつれ、温度ヒューズの小形化・薄形化が強く要求されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の温度ヒューズを小形化・薄形化するために、可溶合金3を小さくすると、通電電流による抵抗発熱が大きくなり、そしてその熱により可溶合金3が溶断してしまう。そのため、可溶合金3を小さくすることはできない。また、一対の金属端子1の先端部間の距離L2も温度ヒューズの動作時の電流の遮断を確実に行うためにはあまり小さくすることはできない。その結果、従来の温度ヒューズにおいては、金属層5,6と第2の絶縁フィルム4で囲まれた空間体積Sdが小さくなっているため、一方の金属層5または他方の金属層6上に移動してきた体積V(L1+L2)/2L1の可溶合金3は、この空間体積Sdを超えることになり、そして図6Bに示すように可溶合金3は金属層5,6上から金属端子1や第1の絶縁フィルム2に溢れ出すものである。この場合、金属端子1や第1の絶縁フィルム2は金属層5,6より可溶合金3に対する濡れ性が悪いため、溶断時における可溶合金3の移動が遅くなり、その結果、溶断時の可溶合金3の分断が遅れて温度ヒューズが速やかに溶断しないという課題を有していた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、一対の金属端子と、前記金属端子の各先端部が配置された第1の絶縁フィルムと、前記金属端子の先端部間に設けられた可溶合金と、前記可溶合金の上方に位置し、前記第1の絶縁フィルムに固着された第2の絶縁フィルムと、前記金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、前記金属端子の先端部にそれぞれ設けられた、前記可溶合金が接続される金属層と、前記第1の絶縁フィルムと前記第2の絶縁フィルムと前記可溶合金とを有する温度ヒューズ本体部と、を備え、前記温度ヒューズ本体部は、溶融した前記可溶合金が上方に移動するエリアを有し、前記可溶合金は共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金からなり、前記金属層の厚みを15μm以下とし、前記金属層の面積(S)と前記可溶合金の長さ(L1)および体積(V)と前記金属端子の前記先端部間の距離(L2)と前記第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離(d)は、
Sd>V(L1+L2)/2L1、Sd>0.4mm^(3)
の関係を満たし、かつ前記温度ヒューズ本体部の長さは2.0mm?5.0mmの範囲とし、さらに前記第1の絶縁フィルムの下面から前記第2の絶縁フィルムの上面までの距離は0.3mm?0.7mmの範囲としたものである。
【0011】
この温度ヒューズでは、可溶合金に対する濡れ性がよい金属層上に溶断後の可溶合金がすべて収められるので、金属層より可溶合金に対する濡れ性が悪い金属端子や第1の絶縁フィルムに可溶合金が溢れることはない。その結果、速やかに可溶合金が分断される。
【0012】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図1Aは本発明の実施の形態1における温度ヒューズの一部切欠上面図である。図1Bは図1Aに示す温度ヒューズの1B-1B線における断面図である。
【0013】
実施の形態1における温度ヒューズは、上面に一対の金属端子11の各先端部を配置した第1の絶縁フィルム12と、この第1の絶縁フィルム12の上方に位置し、かつ前記一対の金属端子11の先端部間に設けられた可溶合金13と、この可溶合金13の上方に位置し、かつ前記第1の前記フィルム12および金属端子11に固着された第2の絶縁フィルム14とを備える。一対の金属端子11の先端部に、前記金属端子11や第1の絶縁フィルム12より可溶合金13に対する濡れ性がよく、かつ前記可溶合金13が接続される金属層15,16が設けられる。
【0014】
前記金属層15,16の面積をS、可溶合金13の長さおよび体積をそれぞれL1,V、一対の金属端子11の先端部間の距離をL2、第2の絶縁フィルム14の下面から金属層15,16の上面までの距離をdとしたとき、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係にある。第1の絶縁フィルム12、第2の絶縁フィルム14、可溶合金13を有する温度ヒューズ本体部の長さaを2.0mm以下とした場合、一対の金属端子11の先端部間の距離L2は0.5mm以下でないとヒューズを作製できない。この場合、L2が0.5mm以下であると、金属端子11の作製時に発生するバリや、バリから発生する金属破片などの異物により温度ヒューズの動作後の一対の金属端子11間の絶縁を十分確保できない場合があり、温度ヒューズとして実用的ではない。一方、温度ヒューズ本体部の長さaが5.0mm以上であると、小形の電池に温度ヒューズを設置する場合、その設置に必要な面積が大きくなるため、実用的ではない。したがって、温度ヒューズ本体部の長さaは、2.0mm?5.0mmの範囲が好ましい。
【0015】
前記一対の金属端子11は、帯状あるいは線状で、主材料がニッケルの金属または銅ニッケルなどのニッケル合金、またはニッケル単体またはニッケル合金に他の元素を添加したものなどからなる。
【0016】
金属端子11を、ニッケルが98%以上の材料で構成すれば、電気抵抗率が6.8×10^(-8)Ω・m?12×10^(-8)Ω・mと低いため、耐腐食性などの信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0017】
また、金属端子11自体の厚みを0.08mm?0.25mmの範囲とすることにより、特性面あるいは取り扱いの面等で有利になるものである。すなわち、金属端子11自体の厚みが0.08mmより薄いと、電気抵抗が高くなり、しかも機械的強度自体も弱くなるため、取り扱う際に簡単に曲がったりするなど不具合が生じる。一方、厚みが0.25mmを超えると、温度ヒューズ自体の厚みが厚くなるため、小型には不向きとなる。
【0018】
更に、金属端子11を、ヤング率が3×10^(10)Pa?8×10^(10)Paで、かつ引張り強さが4×10^(8)Pa?6×10^(8)Paである材料で構成すれば、取り扱いあるいは輸送時に誤って曲げてしまうことはなく、かつ端子曲げ加工も容易であり、しかも曲げ加工で断線などが生じるのを防止できる。この場合、金属端子11のヤング率が3×10^(10)Pa以下であると、端子が容易に曲がりやすくなるため、曲げてはいけない部分(例えば金属端子11の端部の電気的接続部分)が凸凹になりやすくなって溶接による接続が困難となる不具合が生じる。金属端子11のヤング率が8×10^(10)Pa以上であると、端子を曲げたい部分が曲げにくくなったり、あるいは折れて断線するという不具合が生じるものである。金属端子11の引張り強さが4×10^(8)Pa以下であると、曲がりやすいという不具合が生じるものであり、一方、6×10^(8)Pa以上であると、端子を曲げたい部分が曲げにくくなったり、あるいは折れて断線するという不具合が生じるものである。
【0019】
また、金属端子11の先端部の上面に設けられる金属層15,16は、主材料を可溶合金13に対する濡れ性がよい錫、銅の金属や、錫合金、銅合金で構成しており、そしてこの金属層15,16に可溶合金13が接続されるものである。
【0020】
このように金属層15,16を錫、銅の金属や、錫合金、銅合金で構成することにより、この金属層15,16を構成する錫や銅の可溶合金13に対する濡れ性が、金属端子11を構成するニッケルよりよいため、溶断後の可溶合金13の金属層15,16への移動が促進され、その結果、速やかに可溶合金13が分断されるものである。
【0021】
また、前記金属層15,16の材料としては、錫、銅以外の鉛、ビスマス、インジウム、カドミウム金属単体もしくはこれらの合金を用いてもよく、かつ金属層15,16の厚さは15μm以下が好ましい。金属層15,16の厚さが15μm以上であると、金属層15,16を構成する金属の可溶合金13への拡散量が多くなるため、可溶合金13の融点の変動が発生し、これにより、温度ヒューズの動作温度のバラツキが大きくなる。また、可溶合金13と同じ組成の合金を用いた場合は、金属層15,16を構成する金属が可溶合金13へ拡散しても融点の変動は起こらないため、動作温度において精度の高い温度ヒューズを提供することができる。
【0022】
第1の絶縁フィルム12は、シート状に構成されているもので、その上面に一定の間隔を置いて配置された一対の金属端子11の各先端部を備えている。また、第1の絶縁フィルム12の具体的な材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリサンフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノリル、塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリエスターのいずれかを主成分とする樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂)が挙げられる。
【0023】
また、第1の絶縁フィルム12は単層構造だけでなく、異なる材料のシートを積層して構成してもよい。例えばPETで構成されたフィルムとPENで構成されたフィルムを積層して構成することによって、第1の絶縁フィルム12自体の強度アップを行うことができ、ヒューズの機械的強度を向上させることができる。更に、PENシートを用いることによって耐熱性も高くなるため、130℃以上で使用可能な温度ヒューズを提供することができる。なお、第1の絶縁フィルム12を積層構造で作製する場合には、上記材料の組み合わせ以外に耐熱性が低い材料と耐熱性が高い材料の組み合わせでヒューズを作製しても実現可能である。
【0024】
可溶合金13は、矩形断面または円断面の線状に加工し、かつ適当な長さに切断したものを用い、第1の絶縁フィルム12の上面の中央部において一対の金属端子11の各先端部間に橋設する。可溶合金13の線状の加工には、ダイス引き加工、ダイス押し出し加工等を用いることができる。また、円断面の線状の可溶合金を圧潰加工すれば、矩形断面の線状可溶合金を作製することができる。金属端子11の上面に設けた金属層15,16と可溶合金13の接続には、レーザ溶接、熱溶接、超音波溶接などを用いることができる。レーザ溶接を用いた場合は、発熱部を小さくすることができるため、可溶合金13の溶接部以外への損傷を起こすことなく可溶合金13を金属層15,16に接続できる。
【0025】
可溶合金13の材料としては、錫、鉛、ビスマス、インジウム、カドミウムなどの金属からなる融点が200℃以下の合金を用いるが、共晶合金を用いることが望ましい。これは。可溶合金13の固相面温度と液相面温度の差がほぼ0℃であるため、固液混合の温度領域がなく、動作温度のバラツキの小さい温度ヒューズを提供できるからである。例えば錫18.75重量%、鉛31.25重量%、ビスマス50.0重量%の共晶合金では融点(液相面温度および固相面温度)が97℃である。このため、これを用いた場合、動作温度が97?99℃の温度ヒューズを提供できる。ここで、可溶合金13の融点と温度ヒューズの動作温度が異なるのは、温度ヒューズの外面から可溶合金13への熱の伝導度が低い場合、周囲温度と可溶合金13の温度に1?2℃程度の差が生じるためである。
【0026】
また、可溶合金13には共晶合金からその構成する金属の配合比を0.5?10重量%ずらした合金を用いることができる。これらの合金は、共晶合金に比べ、融点(液相面温度)が1℃?10数℃上昇するため、共晶合金を用いた場合より高い動作温度の温度ヒューズを提供することができる。これらの合金は、共晶に近い配合比であるため、固相面温度と液相面温度の差が小さく、かつ固液混合の温度領域が小さいため、温度ヒューズの動作温度のバラツキを小さくできる。例えば錫20重量%、鉛25重量%、ビスマス55重量%の合金を用いた場合(この合金は共晶から錫+1.25重量%、鉛-6.25重量%、ビスマス+50重量%ずらしたものである。)、融点(液相面温度)が101℃であるため、動作温度が101℃?103℃の温度ヒューズを提供できる。
【0027】
可溶合金13には、共晶合金に、それに含まれていない別の金属を0.5重量%?10重量%添加した合金を用いることができる。これらの合金は元の共晶合金に比べ融点温度が1℃?10数℃下がるため、元の共晶合金を用いた場合より低い動作温度の温度ヒューズを提供することができる。また、これらの合金は、固相面温度と液相面温度の差が小さく、かつ固液混合の温度領域が小さいため、温度ヒューズの動作温度のバラツキを小さくできる。例えば錫18.75重量%、鉛31.25重量%、ビスマス50.0重量%の共晶合金にインジウムを7%添加した場合、融点(液相面温度)が82℃となるため、動作温度が82℃?84℃の温度ヒューズを提供できる。
【0028】
3元以上の合金では、合金を溶融し、冷却した場合、その液相面温度において、1つを除くすべての金属が同時に晶出する配合が存在する。この配合は、例えば3元合金の場合、3元相関図では3元合金の共晶点から2元の共晶点を結ぶ線で表され、ここでは単に共晶線と呼ぶ。図2Aに錫、鉛、ビスマスの3元合金の相関図、図2Bに錫、鉛、インジウムの3元合金の相関図を示す。点Eが3元の共晶点で、点E1が鉛-ビスマスの共晶点、点E2が錫-鉛の共晶点、点E3が錫-ビスマスの共晶点である。曲線E-E1、E-E2、E-E3が共晶線である。また錫、鉛、インジウムの場合、鉛-インジウム合金に共晶点が存在しないため、共晶線は曲線E2-E4のみである。この共晶線上もしくは共晶線に近い配合は固相温度と液相温度が比較的小さいため、これらの合金を可溶合金13に用いれば、動作温度のバラツキが比較的小さい温度ヒューズを提供できる。例えば、図2Bの点Aである。錫43%、鉛10.5%、インジウム46.5%の合金は融点(液相面温度)が129℃の合金であるため、動作温度が129℃?131℃の温度ヒューズを提供できる。
【0029】
可溶合金13の周囲にはロジンを主成分とするフラックス(図示せず)が塗布されている。このフラックス(図示せず)には、はんだ付けや金属溶接に用いられるものと同じものを用いることができる。
【0030】
第2の絶縁フィルム14は、シート状に構成されているもので、可溶合金13を覆うように可溶合金13の上方に設けられ、そしてこの可溶合金13の周囲において、第1の絶縁フィルム12および金属端子11に固着されている。このように、可溶合金13を第1の絶縁フィルム12と第2の絶縁フィルム14とで挟み込み、第1の絶縁フィルム12および金属端子11と第2の絶縁フィルム14とを固着することによって可溶合金13を密閉でき、可溶合金13の劣化を防ぐことができる。
【0031】
第2の絶縁フィルム14は、第1の絶縁フィルム12と同様の材料であることが好ましく、具体的な材料としては、第1の絶縁フィルム12と同様、PET、PEN、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリサンフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノリル、塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリエスターのいずれかを主成分とする樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂)が挙げられる。
【0032】
第2の絶縁フィルム14は単層構造だけでなく、異なる材料のシートを積層して構成してもよい。例えば、PETで構成されたフィルムとPENで構成されたフィルムを積層して構成することによって、第2の絶縁フィルム14自体の強度アップを行うことができ、ヒューズの機械的強度を向上させることができる。PENシートを用いることによって耐熱性も高くなるため、130℃以上で使用可能な温度ヒューズを提供することができる。第2の絶縁フィルム14を積層構造で作製する場合には、上記材料の組み合わせ以外に耐熱性が低い材料と耐熱性が高い材料の組み合わせで作製しても実現可能である。
【0033】
図3は本発明の実施の形態1における温度ヒューズの一方の金属端子11が加熱された場合の可溶合金13の溶断後の状態を示す断面図である。
【0034】
図3から明らかなように、実施の形態1における温度ヒューズは、最大で金属端子11間の可溶合金13の体積V(L2/L1)、および加熱された金属端子11側、つまり金属層15,16のうち一方(図3においては金属層15のみ)上の可溶合金13の体積V(L1-L2)/2L1を合わせた体積V(L1+L2)/2L1の可溶合金13が金属層15上に移動する。この可溶合金の体積V(L1+L2)/2L1が金属層15上の金属層15と第2の絶縁フィルム14とで囲まれた空間体積Sdより小さいため、可溶合金13に対する濡れ性がよい金属層15上に溶断時の可溶合金13をすべて収めることができる。これにより、金属層15より可溶合金13に対する濡れ性が悪い金属端子11や第1の絶縁フィルム12に可溶合金13が溢れることはない。その結果、速やかに可溶合金13が分断されるため、速断性が優れている温度ヒューズが得られる。
【0035】
以下、従来の温度ヒューズと、実施の形態1における温度ヒューズについて、速断性を比較した結果について説明する。
【0036】
試料としては、実施の形態1における温度ヒューズ(以下実施例品とする)として、d=0.3mm、S=3.6mm^(2)、V=0.95mm^(3)、L1=2.7mm,L2=1.6mmで、かつ可溶合金13として融点が97℃のものを用い、50個試作した。この実施の形態品は、Sd=1.08mm^(3)、V(L1+L2)/2L1=0.756481mm^(3)となって、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係を満たしているものである。また、第1の絶縁フィルム12の下面から第2の絶縁フィルム14の上面までの厚さをbとしたとき、b<0.3mmでは可溶合金13を収納する空間が確保できず、温度ヒューズを作製することができなかった。一方、b>0.7mmでは、小形の電池の場合、その電池が有する突起、たとえば電極などは一般的に0.5?0.7mm程度であるが、それに対して温度ヒューズが厚くなるため、電池の小形化を阻害することになる。このため、ここでは第1の絶縁フィルム12、第2の絶縁フィルム14、可溶合金13を有する温度ヒューズ本体部の長さaが4.0mm、bが0.6mmのものを試作した。
【0037】
比較例として、d=0.25mm、S=1.6mm^(2)、V=0.95mm^(3)、L1=2.7mm、L2=1.6mmのものを50個、他は実施例品と同じ従来の温度ヒューズを50個それぞれ用いた。この比較例品は、Sd=0.4mm^(3)、V(L1+L2)/2L1=0.756481mm^(3)となって、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係は満たしていない。
【0038】
発熱部品の表面温度が120℃になるように設定し、発熱部品の温度が充分安定してから、各試料の一方の端子をそれぞれ発熱部品に密着させ、この密着開始から温度ヒューズが溶断するまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、実施例品は7秒?14秒で溶断したが、比較例品は30秒?52秒で溶断した。従って、本発明の実施の形態1における温度ヒューズは速断性が優れていることがわかる。
【0041】
(実施の形態2)
図4Aは本発明の実施の形態2における温度ヒューズの一部切欠上面図である。図4Bは図4Aに示す温度ヒューズの4B-4B線における断面図である。
【0042】
なお、実施の形態1と同様の構成を有するものについては、同一符号を付しその説明を省略する。
【0043】
図4Aにおいて、実施の形態1と相違する点は、一対の金属端子11の各先端部が第1の絶縁フィルム12の下面から上面に表出するように形成され、表出部の少なくとも一部に濡れ性のよい金属層15,16が設けられた点である。
【0044】
実施の形態2における温度ヒューズでは、金属端子11、第1の絶縁フィルム12より濡れ性のよい金属層15,16が金属端子11の表出部の一部または全体に設けられる。金属層15,16の面積をS、可溶合金13の長さおよび体積をそれぞれL1,V、一対の金属端子11の先端部間の距離をL2、第2の絶縁フィルム14の下面から金属層15,16の上面までの距離をdとしたとき、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係に構成している。そのためヒューズは可溶合金13に対する濡れ性がよい金属層15,16のうち少なくとも一方の上に溶断時の可溶合金13をすべて収めることができる。これにより、金属層15,16より可溶合金13に対する濡れ性が悪い金属端子11や第1の絶縁フィルム12に可溶合金13が溢れることはない。その結果、速やかに可溶合金13が分断されるため、速断性が優れている温度ヒューズが得られる。
【0045】
【発明の効果】
本発明による温度ヒューズでは、一対の金属端子の先端部に、金属端子や第1の絶縁フィルムより可溶合金に対する濡れ性がよく、かつ可溶合金が接続される金属層が設られる。この金属層の面積をS、前記可溶合金の長さおよび体積をそれぞれL1,V、前記一対の金属端子の先端部間の距離をL2、第2の絶縁フィルムの下面から前記金属層の上面までの距離をdとしたとき、Sd>V(L1+L2)/2L1の関係に構成している。そのため、可溶合金に対する濡れ性がよい金属層上に溶断後の可溶合金をすべて収めることができ、その結果、金属層より可溶合金に対する濡れ性が悪い金属端子や第1の絶縁フィルムに可溶合金が溢れることはなくなる。そのため、速やかに可溶合金が分断され、速断性に優れた温度ヒューズが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Aは本発明の実施の形態1における温度ヒューズの一部切欠上面図
Bは図1Aに示す温度ヒューズの1B-1B線における断面図
【図2】Aは錫、鉛、ビスマスの3元合金の相関図
Bは錫、鉛、インジウムの3元合金の相関図
【図3】実施の形態1における温度ヒューズの要部である一方の金属端子が加熱された場合の可溶合金の溶断後の状態を示す断面図
【図4】Aは本発明の実施の形態2における温度ヒューズの一部切欠上面図
Bは図4Aに示す温度ヒューズの4B-4B線における断面図
【図5】Aは従来の温度ヒューズの一部切欠上面図
Bは図5Aに示す温度ヒューズの5B-5B線における断面図
【図6】AとBは従来の温度ヒューズの要部である金属端子が加熱された状態を示す断面図
【符号の説明】
11 金属端子
12 第1の絶縁フィルム
13 可溶合金
14 第2の絶縁フィルム
15 金属層
16 金属層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-05-17 
結審通知日 2010-05-19 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願2002-566514(P2002-566514)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 金丸 治之
藤井 昇
登録日 2009-04-10 
登録番号 特許第4290426号(P4290426)
発明の名称 温度ヒューズ  
代理人 山岸 司郎  
代理人 山岸 司郎  
代理人 永野 大介  
代理人 永野 大介  

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