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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 一部無効 2項進歩性  C04B
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1221650
審判番号 無効2009-800016  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-30 
確定日 2010-07-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3597490号発明「軽量粘土およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3597490号の訂正後の請求項1、2、4、6に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3597490号の訂正後の請求項3、5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3597490号の請求項1?7に係る発明は、平成13年5月31日に特許出願され、平成16年9月17日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、紫香楽教材粘土株式会社から平成21年1月29日付けで請求項1?7に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ(同年同月30日差出し)、その後の手続の経緯は、次のとおりである。

手続補正書(請求人): 平成21年 3月10日
訂正請求: 平成21年 5月22日
答弁書: 平成21年 5月22日
無効理由通知: 平成21年 8月 7日
意見書(被請求人): 平成21年 8月27日
訂正請求: 平成21年 8月27日
手続補正書(被請求人): 平成21年10月19日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成21年11月30日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成21年12月14日
口頭審理: 平成21年12月14日
上申書(1)(被請求人): 平成21年12月14日
上申書(1)(請求人): 平成22年 1月12日
上申書(被請求人): 平成22年 1月26日

II.訂正の適否
訂正については、平成21年5月22日および平成21年8月27日に2回訂正請求がなされているところ、特許法第134条の2第4項に基づいて先の請求である平成21年5月22日の訂正請求は取り下げられたものとみなされる。また、後の請求である平成21年8月27日付け訂正請求書については、平成21年10月19日付けで手続補正書が提出されている。この手続補正書による補正は、訂正事項および訂正の原因と添付した訂正明細書が不一致であることを補正しようとするものであって、訂正請求の要旨を変更するものではないことから、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第131条の2第1項により、かかる補正は容認することができる。
以上のことから、被請求人は、平成21年8月27日付け訂正請求書を提出して訂正を求め、当該訂正の内容は、次のとおり、平成21年10月19日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
以下、上記訂正の適否について検討する。

1.訂正の内容
訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】 有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、
前記有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】 前記有機中空微小球が白色であって、前記有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の軽量粘土。
【請求項3】 前記軽量粘土が、繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の軽量粘土。
【請求項4】 前記軽量粘土が、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項5】 前記軽量粘土が、無機中空微小球をさらに含有するとともに、当該無機中空微小球の添加量を、全体量に対して、0.01?10重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項6】 有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、
平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、
有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法。」

訂正事項b-1
特許明細書の段落【0007】を次のとおりに訂正する。
「【課題を解決するための手段】
本発明によれば、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このように有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮して構成することにより、従来問題が起こるとされてきた有機中空微小球の添加量であっても、十分かつ適度な軽量化が図られるとともに、造形性に優れた軽量粘土を得ることができる。
また、有機中空微小球の添加量を少なくすることができるため、軽量粘土の混合分散が容易となるばかりか、未発泡有機中空微小球の存在量を低下させ、しかも高価な有機中空微小球の使用量を低下できるため、優れた保管性(膨張性)が得られるとともに、製造コストを低く抑えることができる。
さらには、有機中空微小球の添加量が少ないために、カラー化のために色素を添加した場合であっても、色素の分散性を阻害することがなく、優れた発色性を得ることができる。
また、このような極性化合物を使用することにより、造形性や発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
一方、このように所定量の水を含有することにより、造形性や発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
なお、上述したように、従来は、水の添加量が、全体量に対して、60重量%を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには軽量化が損なわれると言われていたが、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる水の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる。」

訂正事項b-2
特許明細書の段落【0008】を次のとおりに訂正する。
「また、本発明の軽量粘土を構成するにあたり、有機中空微小球が白色であって、有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とすることが好ましい。
特開平2-123390号公報等に開示された塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体等からなる外殻を有する有機中空微小球は、黄土色?茶色であるが、このように白色性に富んだ有機中空微小球を使用することにより、発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。」

訂正事項b-3
特許明細書の段落【0009】の記載を削除する。

訂正事項b-4
特許明細書の段落【0014】を次のとおりに訂正する。
「また、本発明の別の態様によれば、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法が提供される。
このように実施すると、造形性や軽量性に優れるとともに、安価な軽量粘土を効率的に得ることができる。」

訂正事項b-5
特許明細書の段落【0015】を次のとおりに訂正する。
「【発明の実施の形態】
本発明の実施形態は、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土である。
また、別の態様は、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法である。
以下、有機中空微小球および極性化合物等の構成要素に分けて説明する。」

訂正事項b-6
特許明細書の段落【0019】を次のとおりに訂正する。
「(3)白色性
また、有機中空微小球の色が白色またはそれに近似した色であることが好ましい。
上述したように、特開平2-123390号公報等に開示された塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体等からなる外殻を有する有機中空微小球の色は、通常、黄土色?茶色であるが、このように白色性に富んだ有機中空微小球を使用することにより、発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができるためである。
なお、有機中空微小球の色は、色見本と比較し、目視や顕微鏡を用いて判断することができるが、反射率計で測定される視感明度(L値)を相対基準とすることも可能である。すなわち、有機中空微小球の色に関して、反射率計(例えば、東京電色社製、TR-1000D型)で測定される視感明度を、70?99の範囲内の値とする。
この理由は、かかる視感明度が70未満の値となると、有機中空微小球が茶色がかった色となり、軽量粘土に色素、特に白色系色素や黄色系色素とともに添加した場合に、混濁して、発色性が著しく低下する場合があるためである。
ただし、視感明度の値が高くなりすぎると、有機中空微小球の構成材料が過度に制限される場合がある。
したがって、かかる視感明度を70?99の範囲内の値とすることが好ましく、80?95の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる視感明度の調整には、有機中空微小球の外殻中に酸化チタンやシリカ等の白色粒子を添加したり、あるいはこれらの白色粒子で周囲を被覆することにより容易に達成することができる。また、有機中空微小球の外殻に塩化ビニル樹脂や塩化ビニリデン樹脂、あるいはホルムアルデヒド系樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂)等の使用量を低下させること、具体的には、10重量%以下の値とすることによっても容易に達成することができる。」

訂正事項b-7
特許明細書の段落【0022】を次のとおりに訂正する。
「(6)添加量
また、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることが必要である。
この理由は、かかる有機中空微小球の添加量が1重量%未満の値となると、軽量粘土の軽量化が困難となるためである。
一方、かかる有機中空微小球の添加量が3重量%以上になると、軽量粘土の造形性や取り扱いが著しく低下するとともに、残留する未発泡の有機中空微小球が多くなり、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇した場合に、包装材が膨張し、保管性が著しく低下するためである。また、有機中空微小球は、著しく高価であるため、その添加量が3重量%以上になると、得られる軽量粘土のコストも著しく高価になるためである。
したがって、軽量粘土の造形性や膨張性と、軽量性等とのバランスがより良好となるため、有機中空微小球の添加量を1?2.9重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、1?2.5重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。」

訂正事項b-8
特許明細書の段落【0023】を次のとおりに訂正する。
「ここで、図1および図2を参照して、有機中空微小球の添加量と、軽量粘土における軽量性や造形性との関係、および膨張性との関係をそれぞれ詳細に説明する。
図1は、表1の軽量性および造形性のデータを数値化したものであって、◎の評価を5点、○の評価を3点、△の評価を1点、×の評価を0点として数値を算出した。
そして、図1の横軸に、有機中空微小球の添加量(重量%)を採って示してあり、左縦軸に、軽量性(相対値)が採って示してあり、曲線Aがその関係を示している。一方、図1の右縦軸には、造形性(相対値)が、それぞれ採って示してあり、有機中空微小球の添加量(重量%)との関係を、曲線Bが示している。
この図1から理解されるように、有機中空微小球の添加量が多くなる程、軽量粘土における軽量性の評価が向上するものの、造形性の評価については、3重量%を境にして、極端に低下している。
したがって、有機中空微小球の添加量を1?3重量%未満の範囲内の値にすることにより、軽量粘土における軽量性と、造形性との優れたバランスを取ることができ、また、有機中空微小球の添加量を1?2.5重量の範囲内の値にすることにより、これらの特性について、さらに優れたバランスが取れることが理解できる。
また、図2は、表1の膨張性のデータを数値化したものであって、◎の評価を5点、○の評価を3点、△の評価を1点、×の評価を0点として数値を算出した。
そして、図2の横軸に、有機中空微小球の添加量(重量%)を採って示してあり、左縦軸に、膨張性(相対値)が採って示してある。
この図2から理解されるように、有機中空微小球の添加量が多くなる程、膨張性の評価結果が低下しており、すなわち、保管性が低下することが理解される。
したがって、有機中空微小球の添加量を1?3重量%未満の範囲内の値にすることにより、軽量粘土における軽量性や造形性のみならず、保管時の膨張問題についても、効果的に低減して、特性改善することができることが理解できる。」

訂正事項b-9
特許明細書の段落【0029】を次のとおりに訂正する。
「(2)添加量
また、極性化合物の添加量を、軽量粘土の全体量(100重量%)に対して、1?30重量%の範囲内の値とする。
この理由は、かかる極性化合物の添加量が1重量%未満の値となると、軽量粘土の取り扱い性や成型性が著しく低下する場合があるためである。一方、かかる極性化合物の添加量が30重量%を超えると、軽量粘土の展性が低下したり、混合分散が困難となったりする場合があるためである。
したがって、軽量粘土の取り扱い性や成型性と、軽量粘土の展性とのバランスがより良好となるため、極性化合物の添加量を、軽量粘土の全体量(100重量%)に対して、1?20重量%の範囲内の値とすることが好ましく、1?15重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、2?10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。」

訂正事項b-10
特許明細書の段落【0062】を次のとおりに訂正する。
「【発明の効果】
本発明の軽量粘土によれば、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、かかる有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、かつ、水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることにより、造形性や軽量性に優れ、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合であっても膨張問題を解消して優れた保管性が得られるとともに、製造コストが安価である軽量粘土を提供することが可能になった。
さらには、本発明の軽量粘土によれば、有機中空微小球の添加量が少ないために、カラー化のための色素を添加した場合であっても、かかる色素の分散性を阻害することがなく、優れた発色性を得ることができるようになった。
また、本発明の軽量粘土の製造方法によれば、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることにより、造形性や軽量性に優れるとともに、保管性(膨張性)にも優れた軽量粘土を安価に提供することが可能になった。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1において、軽量粘土が訂正前の請求項3の「極性化合物」を含有し、この「極性化合物」が、「水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値と」することを特定し、「有機中空微小球」の「添加量」について、「全体量に対して、0.1?3重量%未満の範囲内の値」を「全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値」に限定し、請求項2の「有機中空微小球が白色」について、「有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とする」ことを限定し、訂正前の請求項3を削除し、請求項4?7を順次繰り上げ、訂正後の請求項3?6とするとともに、訂正後の請求項6において請求項1と同様の訂正をするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正および明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項b-1?b-10は、上記訂正事項aと整合を図るとともに特許請求の範囲の記載と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、訂正事項a?b-10は、特許明細書の【特許請求の範囲】の【請求項3】、段落【0019】、【0022】および【0029】に基づくものであるから、訂正事項a?b-10は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

なお、請求人は、口頭審理陳述要領書において、訂正事項aについて、(一)有機中空微小球の添加量を「0.1?3重量%」から「1?3重量%」に限定する訂正、および、(二)極性化合物の添加量を「1?30重量%」に限定する訂正は、何れも明細書にそれぞれ3段階の数値範囲の記載があったもののうち、下限値だけを取り出して限定したものであるから、新規事項に該当し、訂正要件違反である旨を主張している(第18頁12行?第19頁末行。ただし、極性化合物の添加量について第18頁16行および第19頁16行の「1?3重量%」は、「1?30重量%」の誤記と認める。)ので、以下に検討する。
まず、(一)有機中空微小球の添加量についてみると、特許明細書には、全体量に対して、「0.1?3重量%」未満の範囲内の値とすることが必要であり、軽量粘土の造形性や膨張性と、軽量性等とのバランスがより良好となるため、「0.5?2.9重量%」の範囲内の値とすることがより好ましく、「1?2.5重量%」の範囲内の値とすることがさらに好ましいことが記載され(段落【0022】)、この記載において、「0.1?3重量%」という数値範囲に、より好ましいとされる「0.5?2.9重量%」という数値範囲が含まれ、この数値範囲に、さらに好ましいとされる「1?2.5重量%」という数値範囲が含まれている。この記載に接した当業者には、軽量粘土の造形性や膨張性と、軽量性等とのバランスをより良好にするためには、「0.1?3重量%」の数値範囲の中で、下限値は1以上とすることがさらに好ましいことは自明であるから、有機中空微小球の添加量を「0.1?3重量%」から「1?3重量%」に限定する訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書の記載を総合することにより導かれる事項であり、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
次に、(二)極性化合物の添加量についてみると、特許明細書には、全体量に対して「0.1?30重量%」の範囲内の値とすることが好ましく、軽量粘土の取り扱い性や成型性と、軽量粘土の展性とのバランスがより良好となるため、「0.5?20重量%」の範囲内の値とすることが好ましく、「1?15重量%」の範囲内の値とすることがより好ましいことが記載されているから(段落【0029】)、上記(一)で検討した理由と同様の理由により、極性化合物の添加量を「1?30重量%」に限定する訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書の記載を総合することにより導かれる事項であり、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、上記(一)、(二)の訂正は、何れも新規事項に該当せず、請求人の主張は採用できない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、何れも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法134条の2ただし書き、および同条第5項において準用する同法第126条第3項および第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

III.本件訂正後の特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1?7に係る発明については、上記訂正を認容することができるから、訂正後においては、訂正後の請求項1?6に係る発明が本件無効審判請求の対象となる。
訂正後の請求項1?6に係る発明は、訂正明細書の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」という。)である。

【請求項1】 有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、
前記有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】 前記有機中空微小球が白色であって、前記有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の軽量粘土。
【請求項3】 前記軽量粘土が、繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の軽量粘土。
【請求項4】 前記軽量粘土が、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項5】 前記軽量粘土が、無機中空微小球をさらに含有するとともに、当該無機中空微小球の添加量を、全体量に対して、0.01?10重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項6】 有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、
平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、
有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法。

IV.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、証拠方法として甲第1号証?甲第38号証、および検甲第1号証?検甲第2号証を提出して、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、および上申書において、これまで主張したことを整理すると、概ね次のとおり主張している。なお、上記IIで述べたとおり、訂正請求により、訂正前の請求項3が削除されて、訂正前の請求項4?7が順次繰り上げられて、請求項3?6とされていることから、以下の(1)?(6)において、各無効理由に対応する訂正後の本件訂正発明1?6を括弧書きで付記する。

(1)無効理由1:請求項1?7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1?6)が明確でなく、これら発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2:請求項1?7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1?6)を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載が、発明の詳細な説明になく、これら発明についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3:請求項1?7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1?6)をサポートする十分な記載が、発明の詳細な説明になく、これら発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4:請求項1?3、5および7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1、2、4および6)は、甲第16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(5)無効理由5(i):請求項1?3、5および7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1、2、4および6)は、本件特許に係る出願前に公然実施された甲第18号証?甲第20号証に係る「平成元年以降の販売品」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(6)無効理由5(ii):請求項1?3、5および7に係る発明(訂正後の本件訂正発明1、2、4および6)は、本件特許に係る出願前に公然実施された甲第24号証?甲第26号証に係る「平成12年(2000年)における販売品」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2.甲号証の記載事項
(1)甲第1号証:日本フィライト株式会社の「EXPANCEL」パンフレット(2008年6月制作)
(ア)「EXPANCELマイクロスフェアーは小さなプラスチック球体です。
マイクロスフェアーは液状ガスを内包したポリマー殻で生成されています。
これらの球体の平均粒径は通常のグレードの場合約10-17ミクロンで、真比重は1000-1300kg/m^(3)です。
加熱された際、殻の内部のガス圧が増し、熱可塑性プラスチックの殻が軟化することでマイクロスフェアーの体積が劇的に増え、中空球状粒子になります。
完全に膨張した時、マイクロスフェアーの体積は40倍以上になります。
(真比重は0.03-0.07)一般的な膨張温度の範囲は80-190℃です。
・・・
エクスパンセルの製品には未膨張品と膨張品があります。
膨張済みマイクロスフェアーは軽量材として多方面に使われています。
・・・
特性
・・・
弾性
・・・」(第1頁)
(イ)第2頁上段に「未膨張マイクロスフェア」として「EXPANCEL WU」(Wet,Unexpanded microspheres)と「EXPANCEL DU」(Dry, Unexpanded microspheres)について、
「Solid content(%)」がそれぞれ、「60-80」、「>99」、
「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「1000-1300」、「?1000」と記載され、
また、「膨張マイクロスフェア」として「EXPANCEL WE」(Wet,Expanded microspheres)と「EXPANCEL DE」(Dry,Expanded microspheres)について、
「Solid content(%)」がそれぞれ、「?15」、「>99」、
「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「?30」、「30-70」と記載されている。
(ウ)第4頁上段には「エクスパンセル膨張品のグレード」として
「551 DE 40 d42」の「Particle Size D(0.5)」が「30-50μm」、「True Density」が「42±4kg/m^(3)」、
「551 WE 40 d36」の「Particle Size D(0.5)」が「30-50μm」、「True Density」が「36±4kg/m^(3)」、「Solid Content」が「15±2%」と記載され、「注意」として、「(1)Particle sizeは、平均粒子径を表すもので粒径範囲を示すものではありません。」と記載されている。

(2)甲第2号証:特開平11-156725号公報
(ア)「有機質中空体は、低沸点炭化水素をインサイト重合法により、塩化ビニリデン、アクリロニトリル等の共重合物の殻壁でマイクロカプセル化した熱膨張性微小球(例えば、粒径10?30μmのカプセルの内部に液体のイソブタンあるいはイソペンタン等の膨張剤(カプセル重量に対して10?15重量%)を含有する熱膨張性微小球)を加熱してカプセル内部の液体のイソブタンあるいはイソペンタン等の膨張剤を膨張させて得ることができる。」(段落【0035】)
(イ)「有機質中空体は、市販のものを用いることができる。例えば、エクスパンセル(Expancel)社製のエクスパンセル(EXPANCEL)DEシリーズ(より詳細には、551DE、551DE20、551DE80、461DE、461DE20、091DE、091DE80等の乾燥した膨張済みのもの)、エクスパンセル(EXPANCEL)WEシリーズ(より詳細には、551WE、551WE20、551WE80等の湿潤した膨張済みのもの)、松本油脂製薬株式会社製のマツモトマイクロスフェアーFシリーズ(F-20、F-30、F-40、F-50、F-80ED、F-80S、F-82、F-85、F-100)等がある。」(段落【0036】)

(3)甲第3号証:東京理科大学理工学辞典編集委員会編、理工学辞典、株式会社日刊工業新聞社、初版、1996年3月28日、1339頁
(ア)「平均粒径・・・粒径が不揃いな粒子群の構成粒子の粒径を平均したもので、平均径ともいう。・・・粒子群の平均径には多くの種類があって値が違う。広い粒度分布では桁が違うこともあるので、平均径は定義を明示しなければならない。」(右欄「平均粒径」の項)

(4)甲第4号証:平成15年(行ケ)第272号判決文
(5)甲第5号証:平成16年(行ケ)第290号判決文
甲第4、5号証は、平均粒径の明確性が争いになった事件の判決文である。

(6)甲第6号証:特開平11-209156号公報
(ア)「【請求項1】 合成樹脂粉末、粒径20?120μmの合成樹脂微小中空球体、・・・水とからなることを特徴とする耐水性軽量粘土。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「本発明に使用する合成樹脂微小中空球体は、低沸点の炭化水素等の液体を内包した合成樹脂製熱膨張性微小球体を加熱することなどによって形成した中空状の微小球体であって、その合成樹脂としては塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種の組合せの共重合体であることが望ましいが、これに限らない。合成樹脂微小中空球体の粒径は20?120μmであることが望ましい。合成樹脂微小中空球体の配合量としては、粘土全重量に対して1?7重量%が好ましく、1重量%未満では、粘土の軽量化が顕著でないおそれがあり、7重量%を越えると、粘土の手触りがふわふわしたものとなり、造形性が損なわれるおそれがある。」(段落【0009】)
(ウ)「さらに、水の配合量としては、粘土全重量に対して15?55重量%、特に20?50重量%が好ましい。」(段落【0015】)
(エ)「実施例1
まず、エマルジョン形成用酢酸ビニル・ビニルエステル共重合樹脂粉末(・・・)44gと、アクリロニトリル・塩化ビニリデン共重合樹脂製微小中空粒子(松本油脂株式会社製マツモトマイクロスフェアーFー30E,平均粒径20?120μm,固形分10?15重量%、水85?90重量%)20gと、とうもろこし粉25g、界面活性剤3g、流動パラフィン3gと、水5gを容器に投入し、攪拌機で約30分混練して耐水性軽量粘土100gを作成した。」(段落【0017】)

(7)甲第7号証:特開2001-131329号公報
(ア)「【請求項1】 主材としての粒径20?120μmの合成樹脂微小中空球体、・・・水とからなることを特徴とする軽量粘土。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【発明の実施の形態】本発明に使用する合成樹脂微小中空球体は、低沸点の炭化水素等の液体を内包した合成樹脂製熱膨張性微小球体を加熱、発泡することなどによって形成した中空状の微小球体であって、その合成樹脂としては塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種の組合せの共重合体であることが望ましいが、これに限らない。合成樹脂微小中空球体の粒径は20?150μmであることが望ましい。合成樹脂微小中空球体の嵩比重は0.01?0.04程度であることが望ましい。通常、この合成樹脂微小中空球体は、含水状態(水が70?90重量%)で市販されているものを使用することができる。」(段落【0007】)
(ウ)「実施例1
メチルメタクリレートーアクリロニトリル共重合系樹脂製微小中空粒子分散液(松本油脂株式会社製マツモトマイクロスフェアーFー50E,平均粒径20?80μm,固形分15?20重量%,水80?85重量%)70gと、ポリビニルアルコール10gと、ポリエチレンオキサイド1gと、繊維粉末4gとを混練機に入れてよく混練した。これに酢酸ビニル樹脂エマルジョン(・・・)10gと、モノゲン170(・・・)3g、水2gを加え、さらに混練して軽量粘土100gを製造した。 得られた粘土の折れ曲げ耐久性試験の結果は、表1に示すように、屈曲角度180度でも折れず、ひびもはいらなかった。」(段落【0026】)

(8)甲第8号証:大和教材製造所株式会社小野木泰志の宣誓書(平成20年12月5日)
(ア)「私は、大和教材製造所株式会社(・・・)に勤務し、軽量粘土の製造に43年間、従事しています。
当社では、紙粘土の軽量化の為に用いる有機中空微小空としては、松本油脂製薬株式会社製の「マツモトマイクロスフェアーF-E(膨張後ウエットタイプ)」を用いており、同社製の「マツモトマイクロスフェアーF-DE(膨張後ドライタイプ)」を用いることはありません。
同業者で、紙粘土の製造に、膨張後ドライタイプを用いているところは、聞いたことがありません。膨張後ドライタイプは、製造工程にて、袋から出したとたんに舞い散ってしまい、取り扱いが非常に困難だからです。このため、紙粘土製造では、有機中空微小空を用いるといえば、ウエットタイプを用いるのが、技術常識です。」(書面)

(9)甲第9号証:アイボン産業有限会社柘植泰夫の宣誓書(平成20年12月4日)
(ア)「私は、アイボン産業有限会社(・・・)にて、軽量粘土の製造に30年間、従事しています。
当社では、軽量粘土に用いる有機中空微小空としては、日本フィライト株式会社販売の「エクスパンセルWE」を用いています。・・・
同業者で、軽量粘土の製造に、膨張後ドライタイプを用いているところは、聞いたことがありません。粘土製造では、有機中空微小空を用いるといえば、ウエットタイプを用いるのが、技術常識です。
もし、上記膨張後ドライタイプを用いて粘土を製造するとしたら、袋から出したとたんに舞い散ってしまうことが予想されます。この場合、添加量を正確にコントロールすることが困難となり、目的とする粘土が製造できません。」(書面)

(10)甲第10号証:実験結果報告書 ドライタイプを用いた製造について(平成21年1月21日)
(ア)第1頁には、「中空球にドライタイプを用いた場合の製造の様子です。ドライタイプの中空球について、袋を開けるだけで、中空球が飛散してしまい、正確な計量すら・・・困難でした。
また、計量したものをミキサー内に移すのも非常に困難でした。」と記載され、第1,2頁のカラー写真でも、中空球の計量中および中空球をミキサー内に移す際に、中空球が飛散することを窺うことができる。

(11)甲第11号証:平成10年特許願第021587号(審決注:甲第6号証に係る出願)に係る平成19年11月27日付け拒絶理由通知書
(ア)特許法第36条違反についての拒絶理由が記載されている。

(12)甲第12号証:第一工業製薬株式会社の「セロゲン」カタログ
(ア)第4頁には、2種の「セロゲン各種のエーテル化度と粘度マップ図」が記載され、第10頁には、「セロゲンの性質は、平均エーテル化度と粘度によって支配されます。」(左欄1?2行)と記載されている。

(13)甲第13号証:特願2001-165214号(審決注:本件特許に係る出願(以下、「本件出願」という。))に係る平成16年7月27日付け意見書
(ア)「引例1(特開平11-209156号公報(審決注:甲第6号証))の・・・明細書、段落0015に、「水の配合量としては、粘土全体量に対して15?55重量%、特に、20?50重量%が好ましい」との記載がございます。
それに対して、本発明においては「水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすること」を特徴としており、引例1における水の添加量とはかけ離れた値であります。
また、本発明においては、明細書、段落0011に、「上述したように、従来は、水の添加量が、全体量に対して、60重量%を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには軽量化が損なわれると言われていたが、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる水の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる。」と記載しております。
すなわち、本発明は、水の添加量に関する従来の知見を覆すものであって、きわめて技術価値の高い発明であると言えます。また、軽量化が損なわれるという従来指摘されていた問題点を、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮して緩和したものであります。
・・・。」(第1?2頁1.(2))

(14)甲第14号証:平成17年(行ケ)第10042号判決文
(15)甲第15号証:平成19年(行ケ)第10401号判決文
甲第14、15号証は、サポート要件が争いになった事件の判決文である。

(16)甲第16号証:特開平2-123390号公報
(ア)「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主成分としたことを特徴とする粘土。」(第4頁特許請求の範囲)
(イ)「本発明の粘土中に含まれる熱可塑性合成樹脂製微小中空球は、外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし、気体を内包している。
そしてこの中空球の粒径は1?200ミクロン、かさ比重は0.01?0.05に形成され、極めて軽量の微小中空球である。」(第5頁左上欄6?15行)
(ウ)「本発明の粘土においては、熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)、繊維粉を10?30部、カルボキシメチルセルロースを10?20部、それぞれ粉末にして混合撹拌し、均一な粉末混合物とする。一方、水50?60部にポリオールエーテル粉を3?8部添加し、撹拌分散させた水溶液を作り、前記粉末混合物に添加して混練する。ところで、熱可塑性合成樹脂製微小中空球の添加量が3部未満では、所定の目的重量に達することができず、20部を越えても軽量化は達成できるが、粘土としての性質が損われる。」(第5頁左上欄16行?右上欄6行)
(エ)「繊維粉の添加量は、10部未満では結合材としての働きが不十分で、30部を越えると水を多量に保存するので軽量化が損なわれる。
カルボキシメチルセルロース粉の添加量が5部未満では粘土の可塑性が乏しくなり、20部を越えると手に付着し易くなり、造形が困難になる。
ポリオールエーテル粉は,粘土の造形時に手や指先に付着するのを防ぎ、造形を容易にするために添加するものである.
・・・
水の添加量は50部未満では粘土が硬すぎて造形作業がしにくく、60部を越えると軟化して造形性が乏しく、さらなる軽量化を達成できない。」(第5頁右上欄7行?左下欄1行)
(オ)「以上のことから本発明の実施例では熱可塑性合成樹脂製微小中空球12部、パルプ繊維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し、均一な粉末混合物を製成し、別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練して製造する。」(第5頁左下欄2?8行)
(カ)「熱可塑性合成樹脂製微小中空球は特有の弾力性を有するため、これが製造工程中に破砕されることもほとんどなく、シラスバルーンを主成分とした従来の粘土のかさ比重が1.52であるのに対し、本発明の粘土のかさ比重は0.28となり、上記成分構成にすることにより、82パーセントの軽量化(JIS-Z8807号に準拠して固体比重測定方法による)が達成される。」(第5頁左下欄9?16行)
(キ)「熱可塑性合成樹脂製微小中空球は、光を乱反射する性質があるので、白色度の高い繊維粉と混合することにより、白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られる。」(第5頁左下欄17行?右下欄1行)
(ク)「<発明の効果>
以上の説明から明らかな様に、本発明は熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主体に構成された粘土であり、・・・シラスバルーンを主成分とした従来の粘土に対し、極めて軽量化することができ、学校教材として使用する場合でも、多くの粘土を容易に一度に運ぶことができる。
また、熱可塑性合成樹脂製微小中空球は、光を乱反射する性質があるので、実施例の様に白色度の高い繊維粉と混合することにより、粘土全体としても極めて白色度の高いものが得られ、乾燥後に鮮明な色付けができる。
また、熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主成分とし、粘土の内部に多くの空気が分散されているため、学校教材として大量に処分する場合でも、・・・簡便に焼却処理でき、軽量であるため処分に労力がかからず、費用も軽減できるといった優れた効果ががある。」(第5頁右下欄7行?第6頁左上欄7行)
なお、上記の(ア)?(ク)は、平成1年6月5日付け手続補正書により補正された明細書の記載事項である。

(17)甲第17号証:特開2001-234081号公報
(ア)「【発明の実施の形態】本発明に使用する合成樹脂微小中空球体は、低沸点の炭化水素等の液体を内包した合成樹脂製熱膨張性微小球体を加熱、発泡することなどによって形成した中空状の微小球体であって、その合成樹脂としては塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種の組合せの共重合体であることが望ましいが、これに限らない。合成樹脂微小中空球体の粒径は20?150μmであることが望ましい。合成樹脂微小中空球体の嵩比重は0.01?0.04程度であることが望ましい。通常、この合成樹脂微小中空球体は、含水状態(水が70?90重量%)で市販されているものを使用することができる。」(段落【0007】)
(イ)「合成樹脂微小中空球体の配合量としては、粘土全重量に対して5?15重量%(乾燥重量で)が好ましく、5重量%未満では、他成分が多くなり、べとつき、造形性が損なわれるおそれがあり、しかも粘土の軽量化が顕著でないおそれがあり、15重量%を越えると、乾燥後の造形物が外的圧力に対して破損しやすくなる傾向がある。」(段落【0008】)
(ウ)「実施例1
メチルメタクリレートーアクリロニトリル共重合樹脂製微小中空粒子分散液(松本油脂株式会社製マツモトマイクロスフェアーFー50E,平均粒径20?80μm,固形分15?20重量%、水80?85重量%)70gと、ポリビニルアルコール10gと、ポリエチレンオキサイド1gと、繊維粉末4gとを混練機に入れてよく混練した。これに酢酸ビニル樹脂エマルジョン(・・・)10gと、モノゲン170T(・・・)3g、水2gを加え、さらに混練して造形用軽量粘土100gを製造した。得られた粘土は手への付着がなく、しかもべたつきがなく、伸展性、表面平滑性、粘土の硬さのいずれも、すなわち手触り、作業性において優れており、表1に示すように10人中8?10人が良いという評価が得られた。折れ曲げ耐久性試験の結果は、表1に示すように、屈曲角度180度でも折れず、ひびもはいらなかった。」(段落【0027】)

(18)甲第18号証:「美術出版教材カタログ 1990年度版」(平成2年(1990年))株式会社美術出版デザインセンター 美術出版社サービスセンター 教材部
(ア)「シルキークレイ
06-0121 シルバー 200g 教材用・・・・・・・・・290円
06-0122 ゴールド 200g 手芸用・・・・・・・・・380円
新素材による画期的な水に浮く軽い純白の紙粘土です。収縮が極めて少ないので芯材を使用してもひび割れしません。ソフトなタッチで手にべとつかず、薄くひろげても、細くのばしても非常に作業性がよく、うつくしく仕上がります。乾くと弾力性があり、作品が壊れ難く、乾燥した残り材料は焼却炉で処理できます。ゴールドはシルバーよりきめが細かく人形や花などの制作に向いています。
1箱では50個入り」(222 ネオパテ、ウッディ粘土、エース粘土、シルキークレイの頁 左上部)

(19)甲第19号証:納品書(控)、株式会社美術出版デザインセンター 美術出版社サービスセンター 行(年月日 1.3.14?1.11.28)
(ア)各納品書(控)には、表中に、商品コード、商品名、数量が記載されているが、商品コードは空欄のものもある。また、年月日が「1.3.14」?「1.6.3」のものは、上記表の上部にNo.3056?6088が記載され、納品会社名の欄は空欄であり、年月日が「1.8.4」?「1.11.28」のものは、上記表の上部にNo.の記載はなく、納品会社名の欄にNo.8020?12027が記載されている。
(イ)年月日が「1.3.14」の納品書(控)には、商品コードが空欄で商品名「シルキークレイ(シルバー)200」の商品が記載されている。
(ウ)年月日が「1.3.25」、「1.4.4」、「1.4.12」、「1.6.3」、「1.8.4」、「1.8.25」、「1.9.22」、「1.9.27」、「1.9.29」、「1.10.3」、「1.11.7」、「1.11.24」、および「1.11.28」の納品書(控)には、商品コード「060121」の商品が記載されている。
(エ)上記(ウ)の商品コード「060121」の商品のうち、年月日が「1.3.25」および「1.4.4」の商品名は「シルキークレイ(シルバー)200g」であり、年月日が「1.4.12」の商品名は「シルキークレー(シルバー)200g」であり、年月日が「1.6.3」の商品名は「シルキークレー(シルバー)」であることが記載されている。なお、上記(ウ)の商品コード「060121」の商品の他の年月日には、これらの商品名の何れか、あるいは「シルキークレイ(シルバー)」、「シルキクレー(シルバー)200g」、または「シルキークレー シルバー」が記載されている。
(オ)年月日が「1.4.18」および「1.5.29」の納品書(控)には、商品コード「060122」の商品が記載され、その商品名として「シルキークレイ(ゴールド)200g」または「シルキークレーゴールド200g」と記載されている。

(20)甲第20号証:ノートNo.3(63.6.29.(水)から63.9.28.(木)まで)、No.4(S63.10.4?S63.12.14.(火))、No.5(S63.12.14(水)→H1 2.21(火)(審決注:白矢印は→と記載した。))、No.6(H.1.2.22水からH.1.8.19(土)まで)、No.7(H.1.8.19(土)から まで)
なお、括弧内の日付は、各ノートの表紙頁によるものであり、No.7の表紙頁の末日は空欄であるが末頁の配合には「3.8.6(火)」と記載されている。また、各ノートの日付と曜日には、同じ日付に異なる曜日が記載されるといった不整合な部分があるが(例えば、「63.9.28.(木)」(No.3表紙頁)と「S63.9.28.(水)」(No.3末頁)、「S63.12.14.(火)」(No.4表紙頁)と「S63.12.14(水)」(No.5表紙頁))、ここではノートの記載のとおり摘示する。
(ア)ノートNo.3?7には、「軽くて白い粘土」、「シルキークレー」、「シルキ クレー」または「シルキークレイ」について、添加成分の種類あるいは量の異なる配合が記載されている。
(イ)ノートNo.4には、以下の記載がある。
(イ-1)「共通 シルキ クレー(シルバ)教材用」について「エクスパンセル 10k セロゲンEP 3.3k ゴーセノル 1.7k ユニオックス 800g Sフロック 5k コットンパウダー 1.7k ビニロン 600g プロキセルBD 200g デンシルP 200g 水の量 23k」と記載されている(「S63.10.29(土)」の頁)。
(イー2)「共通 シルキ クレー シルバ 教材用」について「エクスパンセル 60k(6本) セロゲンEP 20k(1本) ゴーセノル 10k ユニオックス 5k ビニロン 5k Wパルプ 40k(8本) ネオシントル 1k 水の量 150kで22cm 全国サンプル」と記載されている(「63.11.12」の頁)。
(イ-3)「共通 シルキークレー (教材用) No2 1/4」について「エクスパンセル 15k Kパウダー 10k セロゲンEP 10k ゴーセノールGL-05S 2.5k ユニオックス 500g ビニロン 500g ネオシントール 400g 水の量 50k」と記載されている(「S63.12.12(月)」の頁。なお、(月)は不明瞭なため(日)とも読める。)。この記載の頁の次の頁に、「結果」として「この水の量でちょうど良い」、「粘ばり・・・すべり・・・良い」、「ビニロンは、水にしたしてから回す方がよくさばけると思う。」と記載されている。
(イー4)「共通 <改> シルキークレー (シルバー) 1/4」について「エクスパンセル 20k Kパルプ 10k セロゲンEP 15k ビニロン 500g ネオシントール 400g 水の量 70k」と記載されている(「S63.12.14(火)」の頁)。この記載の次の頁に、「結果」として「水の量は少し・・・と思う。・・・EPが多いので粘ばり、手ざわり良く、もう少し、水の量が・・・良いと思う。」と記載されている。(なお、○文字は、<>文字と記載した。以下、同様の扱いとする。)
(ウ)ノートNo.5には、以下の記載がある。
(ウ-1)「共通 教材用 シルキクレー (シルバ)」について、「エクスパンセル 60k Kパルプ 35k コットンパウダー 5k セロゲンEP 40k ユニオックス 3k ネオシントール 1.5k ビニロン 2k アルギン 4k 水の量 25cmで良いと思う。」と記載されている(「S63.12.23(金)」の頁)
(エ)ノートNo.7には、以下の記載がある。
(エー1)「共通 シルキークレイ(シルバ)」について、「エクスパンセル 60k セロゲンEP 20k AGガム 5k ネオシントール5087 1k ネオシントールAF20N 1k Kパルプ 40k ビニロン 3k 水の量 15cm 15cmの水の量では少したらない。これからは、16cmぐらいで良いと思う。」と記載されている。(「H1.8.23(水)」の頁)

(21)甲第21号証:ノートNo.3?No.7の写真
(22)甲第22号証:柿本孝の宣誓書(2008年12月12日)
(ア)「私は昭和58年4月から平成20年4月まで紫香楽教材粘土株式会社(・・・)に勤務し,製造等の業務に従事した者ですが,製造日報及び原料使用日報平成11年8月2日から平成12年7月31日記入分は,私が同社に勤務中に製造責任者として,当時,同社が製造する粘土の製品及びそれに使用する原料を記載したものに相違ありません。」(書面)

(23)甲第23号証:納品書(昭和63年8月31日、昭和63年10月17日、昭和63年11月18日)、送り状(63年8月20日、昭和63年10月17日、昭和63年11月18日)
(ア)大同株式会社から紫香楽教材粘土株式会社宛の納品書として、「エクスパンセルWE551」が納入された旨が記載されている。
(イ)日本フィライト株式会社から、紫香楽教材粘土株式会社宛の送り状として、「エクスパンセルWE551」が送品された旨が記載されている。

(24)甲第24号証:試験報告書、No.452-08-A-0135、財団法人化学物質評価研究機構(平成20年4月22日)
(ア)「1.依頼者 紫香楽教材粘土株式会社 殿
2.受付日 平成20年4月6日
3.件名 紙粘土の分析
4.試料 <1>・・・
<2>かる?い紙ねんど シルキークレイ シルバー(刻印00113)200g
<3>・・・
・・・
5.試験項目及び方法
(1)水分量測定:加熱減量法(加熱条件:105℃×3日間)
(2)有機中空微小球の分離操作及び添加量測定
水に分散後、浮遊したものをろ過、洗浄後採取し、乾燥させたものについて質量測定を行い、添加量を算出した。
(3)有機中空微小球の形態観察及び粒径測定
分離操作により得られたものについてデジタルマイクロスコープで観察及び粒径の測定を行った。
・・・

」(2/1?2/2頁、1?6の項)
(イ)2/2頁の7の項に、「供試料の外観写真」として、試料<2>のパッケージの全体写真(写真1)と部分拡大写真(写真2)が示されている。

(25)甲第25号証:製造日報(00年1月18日、00年1月14日、00年1月13日、11年8月2日)、原料使用日報(12年1月13日、12年1月12日)
(ア)「00年1月13日」付けの製造日報には、刻印日付記号として「00113」と記載され、「1.完成品報告書 2.資材ならびに使用書」の表の品名の欄に「シルバー別注」、「シルバー」と記載され、「2.資材使用書」の表の品名の欄に「シルバー」と記載されている。
(イ)「12年1月13日」付けの原料使用日報には、「2.原材料使用報告書」の表の品名の欄に「パンセルWE551」と記載され、適要の欄に「シルキ 5回」と記載されている。また、この原料使用日報の刻引日付記号(審決注:「刻引」は「刻印」の誤記と認める。)の欄は空欄である。
(ウ)各製造日報にはそれぞれ刻印日付記号が記載されている。各製造日報および各原料使用日報の工場長の欄には、全て、「柿本」の印がある。

(26)甲第26号証:納品書(控)(12年1月14日?12年6月1日)
(ア)「紫香楽教材粘土株式会社」からの納品書(控)として、以下の商品を納品した旨が記載されている。
(a)「品番・品名」が「60121 シルキークレーシルバー200g」(株式会社 美術出版社サービスセンター宛、12年1月14日)
(b)「品番・品名」が「シルキークレー (シルバー)」(荒銀 一三宛、12年1月17日)
(c)「品番・品名」が「2231-411 シルキークレー(シルバー)」(新日本造形 株式会社大阪支社宛、12年1月18日)
なお、(a)?(c)の「品番・品名」の商品は、他の宛先または他の日付の納品書(控)にも記載されている。

(27)甲第27号証:東京理科大学理工学辞典編集委員会編、理工学辞典、株式会社日刊工業新聞社、初版、1996年3月28日、1092頁
(ア)「ニーダー・・・混練操作(あるいは捏和)を行う回分式ミキサーをいい、混練機あるいは捏和機ともいう・・・。」(左欄「ニーダー」の項)

(28)甲第28号証:「マツモトマイクロスフェアーFシリーズ」ホームページ(2009/11/27)
(ア)2/2頁の3?4行には、「マツモトマイクロスフェア-F-EはマツモトマイクロスフェアーFの既膨張体;プラスチックマイクロバルーン(真比重0.02-0.04)を約含水90%の湿潤体として販売しております。」と記載され、同頁7?8行には、「マツモトマイクロスフェア-F-DEはマツモトマイクロスフェアーFの既膨張体;プラスチックマイクロバルーン(真比重0.02-0.04)を約97%以上の固形分で販売しております。」と記載されている。

(29)甲第29号証:DENSITY MEASUREMENT OF EXPANCEL WITH PYCNOMETER,Technical Bulletin no26の和訳
(ア)ピクノメータを使用して「EXPANCELの密度測定」を行う「操作の原理」として、P_(1)(Vcell-Vsample)=ncell・R・T(Ncell=Cell chamber内のmol gasの量、R=一定量のガス、T=温度)の関係からVsampleを求め、密度を測定することが記載されている(第1頁左欄)。また、「手順」として、装置のプログラム操作で自動的に分析されることが記載されるとともに、「EXPANCEL DE、DU、WE(乾燥)」を使用する際に使われるパラメータとして、「洗浄回数」等が記載されている(第1頁右欄)。
なお、上記「R=一定量のガス」の部分は印刷が不鮮明であるが、甲第29号証は乙第23号証と同じ文献の和訳であるため、この部分は乙第23号証と同じものとして扱った。

(30)甲第30号証:トレイ入り紙粘土写真
(31)甲第31号証:クツワ株式会社ホームページ「クツワグループについて」(2009/12/24)
(32)甲第32号証:粘土製造試験結果報告書1(平成21年11月30日)
(ア)「製造日:平成21年11月30日
製造方法:甲第16証号実施例と同じ配合料にて、中空球として非水タイプを用いて製造した。
また、プロペラミキサー等を使用して製造すると飛散がひどく粘土にならない事は容易に考えられたので少量による確認試験とした。

配合表および採用した材料
1.白色有機中空微小球(エクスパセル551DE) 12部 3g
2.カルボキシメチルセルロース(セロゲンEP) 12部 3g
3.パルプ (株)山田洋治商店(パルプHP-10)18部 4.5g
4.ポリオールエーテル粉(ユニオックス20000) 5部 1.25g
5.常温水 53部 13.25g
合計 100部 25g 」(第1頁、審決注:「甲第16証号」は「甲第16号証」の誤記、「エクスパセル」は「エクスパンセル」の誤記と認める。)
(イ)第2頁には、「今回配合の原料」として、「エクスパンセル551DE3g」、「カルボキシメチルセルロース セロゲンEP3g」、「パルプ繊維粉4.5g」、「ポリオールエーテル粉 ユニオックス1.25g」、「常温水 13.25g」と記載されている。
(ウ)第3頁には、「各原料をビニール中に入れ練り込む」、「練り込むが水分が足らず粘土にならない」と記載され、同頁のカラー写真からも粘土にならないことを窺うことができる。

(33)甲第33号証:粘土製造試験結果報告書2(平成22年1月5日)
(ア)「製造日:平成22年1月5日
製造方法:甲第16号証実施例と同じ配合料にて、中空球として含水タイプを用いて製造した。
また、粘土になる事は容易に考えられたが報告書1との対比試験なので条件は同一の少量試験とした。

配合表および採用した材料
1.白色有機中空微小球(エクスパセル551WE) 12部 3g
2.カルボキシメチルセルロース(セロゲンEP) 12部 3g
3.パルプ (株)山田洋治商店(パルプHP-10)18部 4.5g
4.ポリオールエーテル粉(ユニオックス20000) 5部 1.25g
5.常温水 53部 13.25g
合計 100部 25g 」
(第1頁、審決注:「エクスパセル」は「エクスパンセル」の誤記と認める。)
(イ)第2頁には、「今回配合の原料」として、「エクスパンセル551WE3g」、「カルボキシメチルセルロース セロゲンEP3g」、「パルプ繊維粉4.5g」、「ポリオールエーテル粉 ユニオックス1.25g」、「常温水 13.25g」と記載されている。
(ウ)第3頁には、「各原料をボールに入れ良く練る」、「容易に粘土になる」と記載され、同頁のカラー写真からも粘土になることを窺うことができる。

(34)甲第34号証:紫香楽教材粘土株式会社(青木雅幸)と財団法人化学物質評価研究機構(伊藤茂樹)との「報告書記載確認依頼の件」についてのメール
(ア)「報告書No.452-08-A-0135内の6.試験結果<2>に記載された重量%の分母は、袋の記載値(200g)からなのでしょうか? それとも実測値に基づくものなのでしょうか?」(2009年12月15日)との紫香楽教材粘土株式会社(青木雅幸)からの問い合わせに対して、財団法人化学物質評価研究機構(伊藤茂樹)から「お問い合わせの件ですが、分母は実測値です。」(2009年12月16日)との回答が記載されている。

(35)甲第35号証:紫香楽教材粘土株式会社から美術出版社サービスセンター宛の請求明細書控(昭和1年3月31日、昭和1年4月30日、昭和1年5月31日、昭和1年6月30日)
なお、請求人は、平成22年1月12日付け上申書(1)において、上記「昭和1年」が「平成1年」であることは、甲第35号証の住所、電話番号等の記載から明らかであることを主張している(第10頁6?13行)。
(ア)各請求明細書控には、表中に、「伝票No.」、「月日」、「商品名」、「数量」が記載され、3月14日、3月25日、4月4日、4月12日、4月19日、および6月3日付けの商品の「商品名」として「151 シルキークレイ (シルバー)」が記載されている。

(36)甲第36号証:柿本孝の宣誓書(H21年12月19日)
(ア)「私は昭和58年4月から平成20年4月まで紫香楽教材粘土株式会社(・・・)に勤務し、粘土製造等の業務に従事した者ですが、添付写真のノートNo3?7(計5冊)は、私が同社に勤務中に製造責任者として、当時、同社が製造する粘土の成分を記載したものに相違ありません。」(書面)

(37)甲第37号証:財団法人化学物質評価研究機構(伊藤)から紫香楽教材粘土株式会社(青木)宛の「件名:有機中空微小球の平均粒径測定の件」のFAX(平成21年11月16日)
(ア)有機中空微小球の平均粒径測定方法の追加説明として、デジタルマイクロスコープを用いて、各試料について球状物の直径を20箇所ずつ計測した旨が記載されている。

(38)甲第38号証:軽量微小素材タイプ別確認試験報告書(平成21年12月2日)
(ア)第3頁には、「エクスパンセル551WE」と「エクスパンセル551DE」の写真が記載されている。

(39)検甲第1号証:非水タイプを用いて製造した結果物(標本)
(40)検甲第2号証:含水タイプを用いて製造した結果物(標本)

V.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、請求人の上記無効理由の主張に対し、証拠方法として乙第1号証?乙第34号証を提出し、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、および上申書において、これまで主張したことを整理すると、概ね次のとおり反論している。
なお、乙第1号証?乙第34号証につき、平成21年12月14日付け上申書(1)に乙第29号証?乙第34号証が添付され、平成22年1月26日付け上申書に新たな書証が乙第29号証および乙第30号証として添付されているため、後者の乙第29号証および乙第30号証は、以下、乙第29号証(2)および乙第30号証(2)と表記する。

(1)無効理由1?3について
本件訂正発明1?6および発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号および同条同項第2号に規定する要件を満足する。
(2)無効理由4について
本件訂正発明1、2、4および6は、甲第16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由5(i)、(ii)について
本件訂正発明1、2、4および6は、甲第18号証?甲第20号証に係る「平成元年以降の販売品」、甲第24号証?甲第26号証に係る「平成12年(2000年)における販売品」の何れに基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.乙号証の記載事項(なお、乙第29号証(2)および乙第30号証(2)は、提出順のため、乙第34号証の後に記載した。)
(1)乙第1号証:粘土製造試験
(ア)「製造日:平成21年1月26日
製造方法:本件特許第3597490号の配合量で実施「下記のマニュアル」
・・・
<1>白色有機中空微小球 0.35kg
(平均粒径100μm、L値50以上、弱アルカリ性)
<2>イエロー顔料色素(固形分) 0.19kg
(・・・)
<3>カルボキシメチルセルロース 0.20kg
(エーテル化度:0.6)
<4>PVA 1.20kg
(重合度1,800、鹸化度95mol%、)
<5>広葉樹パルプ 0.98kg
(平均繊維長1mm)
<6>水 11.05kg
<7>フェノール系防腐剤 0.03kg
・・・
<1>の白色有機中空微小球をエクスパセル551WE(ウエットタイプ 固形分15% 水分85%含有)のものとエクスパンセル551DE(ドライタイプ99%以上固形分のもの)の2タイプを使用して試験する。」(表頁、審決注:「エクスパセル」は「エクスパンセル」の誤記と認める。)
(イ)「製造過程」として「551DE」では、第1頁に「<1>白色有機中空微小球を入れる 飛散する」、「<2> 激しく飛散する」と記載され、第3頁に「<4>真空土練機にかけよく混ぜる」、「<5>包装機にかける」と記載されている。「551DE」では有機中空微小球が激しく飛散することは、製造過程の第1頁のカラー写真でも窺うことができる。
(ウ)「結果」として第4頁(「製造過程」を第1頁とする。)に「551WE」では「ほぼ液体化してしまい粘土にはならない」ことが記載され、同頁のカラー写真でも粘土にならないことを窺うことができる。

(2)乙第2号証:特許第3597490号公報 (本件特許)
(3)乙第3号証:特開2003-206458号公報
(4)乙第4号証:デビカ工作カタログ(2008.3)
(5)乙第5号証:特公平6-70734号公報
(ア)「【請求項1】粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土において、上記軽量微小素材が粒径1?200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されることを特徴とする軽量粘土。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「<発明が解決しようとする課題>
上記特公昭51-893号に係る技術においては、発泡スチロールを粉末にすることが前提である。粉末化された発泡スチロールは、・・・粒子の表面に多数の棘凹を生じ、この棘凹に馴合液材等液材が吸引され浸透することにより含水性ないし含液性に富むものとなる。
このため配合する水等の馴合液材が多量に必要となり、その結果製品である粘土全体の重量は、あまり軽減されないという軽量化上の課題が残存する。
・・・
本発明はこれらの課題にかんがみ、馴合液材の必要料が少量でありながらも塑結がよく、また滑らかできめが細かく鮮明な色付けが可能であるとともに、廃棄処理も容易な軽量粘土を提供することを目的とする。」(第2頁第3欄6?32行)
(ウ)「<課題を解決するための手段>
本発明は、粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土において、上記軽量微小素材がが粒径1?200ミクロンの微小中空球であり、第1図に示されるようにその外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されることを上記課題解決の手段としている。
<作用>
上述の構成により、上記軽量微小素材粒子の表面に水等の馴合液材が浸透付着することがなくなり、微小素材粒子は含水性ないし含液性に乏しいものとなる。従って配合を要する馴合液材は少量で十分となる。」(第2頁第3欄33?46行)
(エ)「<実施例>
以下、本発明の軽量粘土の実施例を説明する。本発明の軽量粘土中に含まれる軽量微小素材粒子は、外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし、気体を内包している。
そしてこの軽量微小素材粒子の粒径は1?200ミクロン、嵩比重は0.01?0.05に形成され、極めて軽量の微小中空球である。
本発明の軽量粘土においては、軽量微小素材粉末を3?20部(重量部)、添加物としての繊維粉を10?3部、合成粘結剤であるカルボキシメチルセルロースを10?20部、それぞれ粉末にして混合撹拌し、均一な粉末混合物とする。一方、馴合液材として水50?60部にポリオールエーテル粉を3?8部添加し、撹拌分散させた水溶液を作り、前記粉末混合物に添加して混練する。」(2頁4欄32?48行)

(6)乙第6号証:試験報告書、財団法人化学物質評価研究機構(平成20年6月17日)
(7)乙第7号証:JIS Z 8901:^(2006)「試験用粉体及び試験用粒子」および附属書
(ア)この規格で用いる用語の定義として、「平均粒子径」について「光学顕微鏡法又は透過形電子顕微鏡法によって撮影した粒子の直径の算術平均値」と記載され(第1頁3.定義i))、附属書(第20?23頁)には、「透過形電子顕微鏡及び透過形光学顕微鏡による,試験用粒子1の平均粒子径の測定方法」に係る規定が記載されている。

(8)乙第8号証:平成17年(行ケ)第10661号判決文
(9)乙第9号証-1:日本フィライト株式会社の「EXPANCEL DE Expancel」パンフレット
(ア)「平均粒度 40?60ミクロン
粒径範囲 10ミクロン?100ミクロン
嵩比重 0.02以下
真比重 0.025?0.05
色 白色
水分 1%以下
・・・
DE=Dry,Expanded microspheres
(solid content>99%)
551DE
・・・
・・・
WE=Wet,Expanded microspheres
(solid content 15±2%)
551WE」(第2頁)
(イ)「DEには毒性はありませんが非常に軽いので埃のように飛び散ります。」(第3頁「取扱い」)
(ウ)「膨張済みエクスパンセルDE(・・・)
・・・
粒子径 真密度(kg/m^(3))
551DE 30?50μm 42±4
・・・
エクスパンセルDEの特徴は、何と云ってもその軽量性で551DEの場合、その嵩密度は、0.02(g/cc)=1l=20gです。」(第4頁)

(10)乙第9号証-2:日本フィライト株式会社の「EXPANCEL」パンフレット(1999年8月制作)
(ア)「EXPANCELマイクロスフェアーは小さなプラスチック球体です。
マイクロスフェアーは液状ガスを内包したポリマー殻で生成されています。
これらの球体の平均粒径は通常のグレードの場合約10-17ミクロンで、真比重は1000-1300kg/m^(3)です。
加熱された際、殻の内部のガス圧が増し、熱可塑性プラスチックの殻が軟化することでマイクロスフェアーの体積が劇的に増え、中空球状粒子になります。
完全に膨張した時、マイクロスフェアーの体積は40倍以上になります。
(真比重は0.03-0.07)一般的な膨張温度の範囲は80-190℃です。
・・・
エクスパンセルの製品には未膨張品と膨張品があります。
膨張済みマイクロスフェアーは軽量材として多方面に使われています。
・・・
特性
・・・
弾性
・・・」(第1頁)
(イ)第2頁上段に「未膨張マイクロスフェア」として「EXPANCEL WU」(Wet,Unexpanded microspheres)と「EXPANCEL DU」(Dry,Unexpanded microspheres)について、
「Solid content(%)」がそれぞれ、「60-80」、「>99」、
「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「1000-1300」、「?1000」と記載され、
また、「膨張マイクロスフェア」として「EXPANCEL WE」(Wet,Expanded microspheres)と「EXPANCEL DE」(Dry,Expanded microspheres)について、
「Solid content(%)」がそれぞれ、「?15」、「>99」、
「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「?30」、「30-70」と記載されている。
(ウ)第4頁上段には「エクスパンセル膨張品のグレード」として
「551DE」の「Particle Size」が「30-50μm」、「True Density」が「42±4kg/m^(3)」、
「551WE」の「Particle Size」が「30-50μm」、「True Density」が「36±3kg/m^(3)」と記載され、
「注意」として、「(1)Particle sizeは平均粒子径を表すもので粒径範囲を示すものではありません。」と記載されている。

(11)乙第10号証:「セルロースの構造からみた生物の多様性」、杉山淳司、木材研究・資料、第32号 (1996)、16?22頁
(ア)「セルロースの密度(1.59g/cm^(3))」(第17頁下から10行)

(12)乙第11号証:紙の基礎講座<6>ホームページ「紙の品質とトラブル対応あれこれ(その5)」(2009/11/26)
(ア)「紙を構成しているパルプ繊維・・・の比重は、・・・1.5・・・くらい」(1/6頁42?43行)であることが記載されている。

(13)乙第12号証:「粉末セルロース KCフロック」日本製紙ケミカル株式会社(’06.05-03<S>)
(ア)「KCフロック」は「粉末繊維素(セルロースパウダー)」であること(第1頁上段)、その真比重が1.55g/cm^(3)であること(第2頁1行)が記載されている。

(14)乙第13号証:ケミカルブックホームページ「カルボキシメチルセルロースナトリウムn≒500 製品概要」(2009/11/26)
(ア)「カルボキシメチルセルロースナトリウムn≒500 物理性質
・・・
比重(密度): 1.6g/cm^(3)」(1/2頁)

(15)乙第14号証:「サンローズ」日本製紙ケミカル株式会社(11.01.2004)
(ア)「サンローズ」は「CMCの商品名で化学名をカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)」ということ(第1頁25?26行)、その「真比重」が「1.59」であること(第4頁左欄19行)が記載されている。

(16)乙第15号証:特開2001-131256号公報
(ア)「ポリオールの密度は、0.5?1.5(g/ml)」(段落【0021】)

(17)乙第16号証:ケミカルブックホームページ「テトラエチレングリコールジメチルエーテル 製品概要」(2009/11/26)
(ア)「テトラエチレングリコールジメチルエーテル 物理性質
・・・
比重(密度): 1.009g/mL at 25℃(lit.)」(1/2頁)

(18)乙第17号証:「有機微小中空球の配合量と粘土の比重との関係」の図(添付図1)
(ア)有機微小中空球の配合量[重量部]と粘土の比重との関係を図示している。

(19)乙第18号証:「有機微小中空球の比重と粘土の比重との関係」の図(添付図2)
(ア)有機微小中空球の比重が0.02をラインA、0.042をラインB、0.05をラインCとして有機微小中空球の配合量[重量部]と粘土の比重との関係を図示したもの。一定の粘土の比重でみれば、有機微小中空球の比重によって有機微小中空球の配合量が変化することが分かる。

(20)乙第19号証:「パルプ繊維の比重と粘土の比重との関係」の図(添付図3)
(ア)パルプ繊維の比重が1をラインA、1.59をラインB、2をラインCとして有機微小中空球の配合量[重量部]と粘土の比重との関係を図示したもの。A、B、Cの有機微小中空球の配合量と粘土の比重との関係はパルプ繊維の比重に無関係にほぼ同じである。

(21)乙第20号証:「CMCの比重と粘土の比重との関係」の図(添付図4)
(ア)CMCの比重が1をラインA、1.6をラインB、2.1をラインCとして有機微小中空球の配合量[重量部]と粘土の比重との関係を図示したもの。A、B、Cの有機微小中空球の配合量と粘土の比重との関係はCMCの比重に無関係にほぼ同じである。

(22)乙第21号証:「ポリエーテルポリオールの比重と粘土の比重との関係」の図(添付図5)
(ア)ポリエーテルポリオールの比重が0.5をラインA、1をラインB、1.5をラインCとして有機微小中空球の配合量[重量部]と粘土の比重との関係を図示したもの。A、B、Cの有機微小中空球の配合量と粘土の比重との関係はポリエーテルポリオールの比重と無関係にほぼ同じである。

(23)乙第22号証:「真比重とかさ比重について」の図(添付図6)
(ア)「(a)非水タイプ」や「(b)含水タイプ」の微小中空球に、パルプ繊維、CMC、ポリエーテルポリオールおよび水を加えて、所定容器に充填した「(c)粘土」の模式的な様子が窺える。

(24)乙第23号証:DENSITY MEASUREMENT OF EXPANCEL WITH PYCNOMETER,Technical Bulletin no26の和訳
これは、甲第29号証と同じ文献の和訳を記載したものである。

(25)乙第24号証:DENSITY MEASUREMENT OF EXPANCEL WITH PYCNOMETER,Technical Bulletin no26
乙第23号証の英文資料

(26)乙第25号証:特許出願昭和63年第278133号(審決注:甲第16号証に係る出願)に係る平成5年11月25日付け意見書
(ア)「このため特公昭51-893の彫塑材は実施例にあるとおり水分の比率が77%と非常に多い。(ちなみに本発明の水分は53%に留まる。)材料全体の中で、一番比重の大きなものは水であるため、特公昭51-893の彫塑材を実施例どおりに作れば比重が大きくなることは避けられない。」(第2頁下から3行?第3頁1行)

(27)乙第26号証:特開2001-131329号公報
これは、甲第7号証と同じ文献であり、同じ内容である。

(28)乙第27号証:特開2001-234081号公報
これは、甲第17号証と同じ文献であり、同じ内容である。

(29)乙第28号証:松村産業株式会社ホームページ「松村産業株式会社,鉱石の微粉砕,タルク」(2009/11/26)
(ア)タルクの「化学組成(各鉱区分析例)」(1/3頁表)が記載され、同タルクの「Kett光電白色時計」(審決注:「白色時計」は「白色度計」の誤記と認める。)による「白色度(粉末)」と「表色系(Lab)例」が記載されている。(2/3頁表)

(30)乙第29号証:粉末状パルプ繊維およびその飛散状態の写真
(31)乙第30号証:特開2005-281643号公報
(ア)「充填材は、・・・超微粒子状無水シリカ粉末などの合成シリカを使用することが好ましい。」(段落【0020】)

(32)乙第31号証:特開2006-330412号公報
(ア)「充填材は、・・・超微粒子状無水シリカ粉末などの合成シリカを使用することが好ましい。」(段落【0022】)

(33)乙第32号証:粘土製造試験1
(ア)「製造日:平成20年10月21日
製造方法:・・・特願昭63-278133(審決注:甲第16号証に係る出願)の実施例から当時と一緒の軽量粘土を製造する。
配合表
1.軽量微小素材(エクスパンセル551WE) 12部 3kg
2.カルボキシメチルセルロース(セロゲンEP)12部 3kg
3.パルプ 18部 4.5kg
4.ポリオールエーテル粉(ユニオックス) 5部 1.25kg
5.常温水 53部 13.25kg
合計 100部 25kg 」(表頁)
(イ)第1?2頁には「原料」を計測し、混合物を混練して粘土を製造する工程のカラー写真が載せられ、粘土製品が得られたことを窺うことができる。

(34)乙第33号証:特開平9-202659号公報
(ア)「【請求項1】 繊維素材1?20重量%、澱粉4?60重量%を含み、残部は糊剤、水及び充填材からなる粘土であって、上記糊剤は疎水性樹脂とポバールの共重合体1?20重量%を含むことを特徴とする工芸用粘土
・・・
【請求項9】 上記多孔質材がシラスバルーンであることを特徴とする請求項8の工芸用粘土
【請求項10】 上記多孔質材が発泡樹脂であることを特徴とする請求項8の工芸用粘土」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【作用】本発明の工芸用粘土は、・・・充填剤は、シラスバルーンのような多孔質材の微粉末、タルク等、従来用いられているものの中から目的に応じて適宜に選ぶことが出来るが、多孔質材を用いれば軽量となり、この観点からは特に発泡樹脂を用いることが好ましい。」(段落【0006】)

(35)乙第34号証:「マツモトマイクロスフェアーF-30E配合粘土の低比重化の件」についての松本油脂製薬株式会社(武田)から株式会社ケイ・プロダクツ(山室社長)宛の書簡(2009年8月11日)
(ア)製造後分析値の確認、およびキープサンプルの再分析(静岡・八尾相互分析値確認)を実施し、それぞれの真比重、固形分(%)の分析値が表にして記載されている。また、各分析値がマツモトマイクロスフェアーF-30Eの規格(真比重:0.022?0.026、固形分:9.0?13.0)の範囲内にあることが記載されている。

(36)乙第29号証(2):日本フィライト株式会社(中島隆行)から紫香楽教材粘土(株)(青木社長)宛の書簡(2008-12月26日)
(ア)「軽量微小素材粉末は日本フィライト(株)が販売しているエクスパンセル551WEを使用したものである。
日本フィライトが昭和63年当時に使用していたカタログは添付のものであるが、今を去る20年前では、このエクスパンセル膨張品については日本フィライトもわずかな用途以外販売先をもっていなかったため、説明も非常にアバウトなものである。
この会社が発明者の所に商品を持ち込んだ時に、その担当者は当方の目的が粘土の軽量化に使用することを知っていたために、飛散がひどく粘土製造の困難な乾燥品のDEではなく、水で湿性化したWEのみを持参し、説明したため、発明者が 551WE という製品を基準にして、発明のレシピを組み立ててきたことは無理のないことである。」(第2枚目1?9行)
(イ)「ところでそもそも水を含まない乾燥したマイクロバルーンを12部も添加した粘土の製造は可能であろうか。
発明者は特許明細書のとおり
軽量微小素材粉末 12部
パルプ繊維粉 18部
カルボキシメチルセルロース 12部
ポリオールエーテル 5部
常温水 53部
これにより嵩比重0.28の粘土を製造したものである。
粘土はサイズ及び体積がおよそ15cm×9.5cm×2.5cm=356.25cc これで重量は100g。此のうちもし12部がエクスパンセルの乾燥品とすれば12gである。
カタログの中の数値を見るとエクスパンセル膨張品の真比重は0.025?0.05であるが、実質的な体積に関する嵩比重は“0.02以下”となっている。
これは1000cc=20g すなわち1g=50cc
12gは50cc×12=600ccの体積になる。
わずか356.25ccの体積の粘土のなかに600ccの体積の材料を入れる事が不可能なことは自明である。
さらにこの粘土には軽量で嵩の高いパルプ繊維粉が18部も含まれているのである。
この粘土には12部の湿性のエクスパンセル551WEが含まれていたものであり、その固形分を計算するならばカタログにあるとおり、12×15%=1.8%のエクスパンセルが含まれていたのである。」(第2枚目10?末行)

(37)乙第30号証(2):日本工業規格 JIS Z8807^(-1976)「固体比重測定方法」

VI.当審の判断
1.無効理由1について
無効理由1は、本件訂正発明1?6において、(一)「有機中空微小球」は、未発泡ウェットタイプ、未発泡ドライタイプ、発泡済ウェットタイプ、発泡済ドライタイプの4タイプのうち、どのタイプであるのか不明であること、(二)「有機中空微小球」の「平均粒径」が不明であることから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないというものである(審判請求書第7?10頁(A)申立理由1)。

そこで、上記(一)、(二)の点について、以下に、検討する。
(一)「『有機中空微小球』はどのタイプであるのか不明であること」について
本件訂正発明1には「有機中空微小球」と記載されているところ、「有機中空微小球」には、膨張品(発泡済)、未膨張品(未発泡)があり、また、各々、含水(Wet)タイプと非水(Dry)タイプの両タイプがあるため、計4つのタイプが知られている(甲第1号証の記載事項(ア)、(イ))。そして、このことは、本件出願前から知られており、市販品も存在した(甲第2号証の記載事項(イ)、乙第9号証-1の記載事項(ア)、乙第9号証-2の記載事項(ア)、(イ)。なお、乙第9号証-1には発行日の記載がないが、被請求人は、口頭審理陳述要領書(第7頁(4))において「ちなみに、乙第9号証-1に、甲第16号証等の出願当時の軽量化材の商品カタログを示します」とし、乙第9号証-1を「乙第9号証-2に示されるカタログ(1999年8月発行)以前の商品カタログである」との説明を受けて日本フィライト株式会社中島隆行社長から入手している。)。
一方、本件訂正発明1には、「有機中空微小球」のタイプについて何ら特定はない。
そこで、まず、膨張品と未膨張品の何れを用いているかについて、本件訂正明細書の記載をみてみると、従来の技術について、「有機中空微小球の添加量が多いために、それにつれて、発泡ガス(発泡液体)が残留した状態の、いわゆる未発泡の有機中空微小球が多く存在しているという問題が見られ・・・軽量粘土を、ポリエチレンフィルム等の包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合に、残留した発泡ガスによって、包装材で被覆された軽量粘土が、当初の1.2?3倍程度の容積に膨張するという問題(以下、膨張問題)が見られた。」(段落【0004】)と記載され、「本発明は、・・・包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合であっても膨張問題を解消して優れた保管性が得られる・・・軽量粘土およびその製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0006】)と記載され、「これらの有機中空微小球のうち、特に、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂からなる外殻を有する有機中空微小球は、製造が容易な反面、加熱時に所望の大きさに膨張させることができることからより好ましい。」(段落【0016】)と記載され、さらに、「有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることが必要である。この理由は・・・添加量が3重量%以上になると・・・残留する未発泡の有機中空微小球が多くなり、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇した場合に、包装材が膨張し、保管性が著しく低下するためである。」(段落【0022】)と記載されている。
これらの記載から、本件訂正発明1は、有機中空微小球について、従来、発泡済のものを用いたとしても添加量が多いと、未発泡のものが多く膨張するという膨張問題を、添加量を3重量%未満として解消したものといえるから、本件訂正発明1の有機中空微小球が「膨張品」であることは明らかである。このことは、本件出願前に軽量粘土に添加する有機中空微小球として、膨張品が普通に用いられていたこと(甲第6号証の記載事項(イ)、甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(ア)、(イ)、甲第8号証、甲第9号証)とも矛盾しない。
また、含水(Wet)タイプと非水(Dry)タイプの何れを用いているかについては、本件訂正発明1には、「前記有機中空微小球の・・・添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、・・・かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする」と記載され、軽量粘土全体量に対する有機中空微小球の添加量と水の添加量を各別に数値(重量%)をもって特定していることから、本件訂正発明1に係る「有機中空微小球の・・・添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満」とする事項の、「有機中空微小球」が、配合される「水」とは区分され、最終調整された「水を含まない」ものであることを意味する、すなわち、「有機中空微小球」が非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)であるとみることが自然である。
したがって、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は、膨張品であって、非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)といえるから、本件訂正発明1には、「有機中空微小球」のタイプについて特定がないからといって、本件訂正発明1の「有機中空微小球」が明確でないとまではいえない。
また、本件訂正発明2?6についても同様である。

なお、請求人は、「本件公報には、いずれの中空球を採用したのか一切開示がなく、不明瞭である」(審判請求書第9頁下から4行)と主張することから、念のため、本件訂正明細書の記載をみてみると、段落【0047】に、実施例の軽量粘土の配合材料として、
「<1>白色有機中空微小球 0.35kg
(平均粒径100μm、L値50以上、弱アルカリ性)
<2>イエロー顔料色素(固形分) 0.19kg
(・・・)
<3>カルボキシメチルセルロース 0.20kg
(エーテル化度:0.6)
<4>PVA 1.20kg
(重合度1,800、鹸化度95mol%、)
<5>広葉樹パルプ 0.98kg
(平均繊維長1mm)
<6>水 11.05kg
<7>フェノール系防腐剤 0.03kg」
と記載されている。この「白色有機中空微小球」の「0.35kg」は重量%換算で「2.5%」であり、本件訂正発明1の数値範囲内の値となっている。
そして、この実施例について検討すると、
(i)乙第1号証に、上記実施例の軽量粘土の配合材料と同じ配合量で、白色有機中空微小球を「エクスパンセル551WE(ウエットタイプ 固形分15% 水分85%含有)のもの」と「エクスパンセル551DE(ドライタイプ99%以上固形分のもの)」の2タイプを使用して粘土製造試験が行われ、「結果」として、「551WE」では「ほぼ液体化してしまい粘土にはならない」(記載事項(ア)、(ウ))ことが報告されている。この報告の有機中空微小球の「551WE」、「551DE」は、乙第9号証-2の記載事項(イ)、(ウ)から、それぞれ、膨張品の含水タイプ、膨張品の非水タイプといえ、また、「551WE」では、有機中空微小球の添加量は、水分と固形分とをあわせたものといえる。そうすると、この結果によれば、上記実施例の「白色有機中空微小球」として「エクスパンセル551WE」(膨張・含水タイプ)を用いると、粘土の水分が過多になり、液体化してしまい粘土にはならないといえるから、上記実施例の「白色有機中空微小球」は、エクスパンセルの膨張品を上記実施例と同じ配合量で使用したものでは、「含水タイプ」ではなく、「非水タイプ」であるとみることができる(なお、乙第1号証は、被請求人から、請求人が作成したものとして提出され(答弁書第6頁5行)、請求人も、侵害訴訟(平成20年(ワ)25354号)において請求人が行った実験結果であることを認めている(口頭審理陳述要領書第6?7頁3))。
(ii)現に、被請求人は、平成21年12月14日付け上申書(1)において、本件特許に関する別の無効審判(無効2008-800198)における第1回口頭審理調書に記載されたように、「本件特許発明の実施例における軽量粘土の配合例」は、「非水タイプを想定して記載」していることを認めるとともに(第5頁1?5行)、平成22年1月26日付け上申書において、この第1回口頭審理調書に記載された内容は、「実施例1に記載された『<1>有機中空球』の配合量0.35kgは、非水タイプの場合には、そのまま固形分の数値になるという意味」であり、「仮に、含水タイプを使用した場合には、<1>有機中空球の固形分として、0.35kgが配合されていれば良く、含水タイプに含まれる水は、<6>水の配合量に含めて、トータルとして、11.05kgの配合量となれば良い」(第16頁11?19行)と主張している。
(iii)また、被請求人は、有機中空微小球に関し、平成21年8月27日付け意見書においては、「請求項1」等における「水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値にする」ことについて「軽量粘土を配合するに際して、最終的に調整された水の配合量を規定したもの」であると主張しており(第4頁(3)-2)、これは、取りも直さず「有機中空微小球」が「配合される水」とは区分され、最終調整された「水を含まない」ものであることを意味する。
(iv)さらに、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、「本件特許発明は、軽量粘土全体量に対する有機中空微小球の添加量と水の添加量を各別に数値(重量%)をもって特定しているのであるから、『有機中空微小球の・・・添加量を、全体量に対して、0.1重量%?3重量%未満』とする構成の、有機中空微小球の重量%は、有機中空微小球それ自体のもの、すなわち、水を含まないものを意味することは、特許請求の範囲の記載から明らかというべきである。」との判決(平成20年(ワ)第25354号)を踏まえ、「本件特許発明の請求項1等において、軽量化材と、水と、を別物として、軽量粘土全体における配合量を記載していることは明白であって、本件特許発明の構成として、疑義がない」旨(第5頁7.(2))を述べている。
(v)一方、請求人も、口頭審理陳述要領書において、本件訂正発明1に関して「理論的にはDEタイプを用いても、WEタイプを用いても固形分換算した添加量で製造すれば、同じものが作れるのであろう。」(第7頁4))と述べ、膨張品について、非水(DE)タイプのものの添加量と含水(WE)タイプのものの固形分換算した添加量とが理論的には同等であることを認めている。
以上の点に照らせば、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は、膨張品であって、非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)であるという上記の判断は、妥当なことといえ、本件訂正明細書の記載とも、何ら矛盾しないものである。

(二)「『有機中空微小球』の『平均粒径』が不明であること」について
本件訂正発明1には、「有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とする」と記載されているが、「平均粒径」の定義ないし計測手法までは特定されていない。そして、請求人は、本件訂正発明1の「平均粒径」について、平均粒径には複数の計測手法があり(甲第3号証)、発明の詳細な説明では、どのような演算手法にて平均粒径を演算したのかについて記載がなく、平均粒径の計測手法が不明瞭であるため、「平均粒径」自体が不明瞭である旨を主張することから(審判請求書第9頁末行?第10頁下から2行)、本件訂正明細書の記載をみると、
「有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とする。この理由は、・・・30μm未満の値となると、軽量粘土の造形性が低下したり、所定量添加した場合の軽量化が困難となったりする場合があるためである。一方、・・・150μmを超えると、混合分散が困難となったり、あるいは、軽量粘土の造形性が低下したりする場合があるためである。
・・・
なお、かかる有機中空微小球の平均粒径は、光学顕微鏡で有機中空微小球の画像を取り込み、次いで、当該画像から画像処理装置を用いて算出することができる。」(段落【0020】)
と記載されている。
そうすると、本件訂正発明1の平均粒径は、光学顕微鏡で取り込んだ有機中空微小球の画像から画像処理装置を用いて算出することができるものであって、その数値範囲は、造形性、軽量化、混合分散の観点で技術的意義があるといえる。そして、かかる画像処理装置による平均粒径の計測手法につき、本件訂正明細書には、演算手法等の具体的な記載はないが、本件訂正明細書に演算手法の記載がないことは、逆にみれば、当業者ならば当然に知っている手法によるとみることができるところ、光学顕微鏡による平均粒径の計測手法がJISで規格化されている(乙第7号証)ことから、当業者が、本件訂正発明1の平均粒径の計測手法として、かかるJISで規格化された計測手法を用いることは自然なことであり、上記技術的意義からみて、かかる計測手法を適用することを妨げる事情があるとも考えにくい。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、光学顕微鏡で取り込んだ有機中空微小球の画像から画像処理装置を用いて平均粒径を算出する具体的な計測手法として、光学顕微鏡による周知の計測手法を用いることができるものといえる。
以上の点からみると、本件訂正発明1の「平均粒径」の定義ないし計測手法が本件訂正発明1に特定されておらず、発明の詳細な説明には、画像処理装置による平均粒径の計測手法につき具体的な記載がないからといって、本件訂正発明1が直ちに不明確であるとまではいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

なお、請求人は、本件訂正発明1の有機中空微小球と、乙第7号証でいう試験用粒子とは、粒子の比重、そのばらつき等の特性が全く異なるから、本件訂正発明1の有機中空微小球について、当業者は、乙第7号証の「JIS Z 8901」を用いて平均粒径を計測すればよいとは理解できるはずがなく、仮に理解できたとしても、本件の実施例で実験した範囲は、特許請求の範囲において特定される範囲に比して、十分ではない旨を主張する(口頭審理陳述要領書第21?22頁<2>)。しかし、粒子の特性の差異はあっても、「JIS Z 8901」の方法で平均粒子径を計測し得ることは当業者に自明であるから、上記JISの規定を用いることを当業者が理解できないとは考えにくい。また、本件訂正発明1の平均粒径の技術的意義は、上記のとおり、造形性、軽量化、混合分散の観点に基づくものであり、これら観点の特性は、本件の実施例において良好であり、実施例以外の平均粒径であっても、有機中空微小球の添加量や有機中空微小球以外の成分によって調整し得る特性であるから、本件の実施例で実験した範囲が十分でないとまではいえない。
さらに、本件出願前の当該技術分野の特許出願において、有機中空微小球の粒径ないし平均粒径を記載する際に、計測手法の記載は特段なされておらず(甲第6号証の記載事項(ア)、(イ)、(エ)、甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(ア)?(ウ)、甲第17号証(乙第27号証)の記載事項(ア)?(ウ))、請求人の特許出願にも、粒径1?200ミクロンの有機中空微小球について記載されているものの、粒径ないし平均粒径に係る定義あるいは、計測手法に係る記載は見当たらないこと(甲第16号証、乙第5号証)、さらに、平均粒径が特定の範囲にあるとされる有機中空微小球が普通に市販されていること(乙第9号証-1の記載事項(ア)、乙第9号証-2の記載事項(ア)、(ウ))からも、有機中空微小球の平均粒径の定義ないし計測手法の記載や、多くの実施例の記載がなくても、当業者は所定の平均粒径の有機中空微小球が如何なるものであるかを理解できるとみることができる。
そして、請求人は、平均粒径の明確性の事例に関して甲第4、5号証を提出しているが、これらの判決は、明細書に平均粒径の計測手法について何ら記載がない場合の判決であって、本件とは事例が異なるから、本件訂正発明1?6にそのまま当てはめて考えることはできない。
以上の点から、請求人の主張は採用できない。

2.無効理由2について
無効理由2は、(一)有機中空微小球として膨張品の含水タイプを用いると、実施例の配合の添加量では粘土の体をなさないこと、および、(二)有機中空微小球が膨張品の非水タイプであるとしても、飛散させずに粘土を製造する方法について何ら記載がないことから、本件訂正発明1?6を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載が、発明の詳細な説明になく、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないというものである(審判請求書第10?12頁(B)申立理由2、口頭審理陳述要領書第4頁1)<1>i))。

そこで、上記(一)、(二)の点について、以下に、検討する。
(一)「有機中空微小球として膨張品の含水タイプを用いると、実施例の配合の添加量では粘土の体をなさないこと」について
請求人は、膨張品の非水タイプ(DEタイプ)の有機中空微小球が飛散しやすく作業できないことから、膨張品の含水タイプ(WEタイプ)の有機中空微小球を用いることが技術常識であるとの前提にたって、膨張品の含水タイプの有機中空微小球を用いると、実施例の配合の添加量では粘土の体をなさない旨を主張する(審判請求書第11頁2?12行、口頭審理陳述要領書第4頁1)<1>i)。
そこで、まず、上記技術常識について検討すると、膨張品の非水タイプの有機中空微小球が非常に軽く飛散することについては、甲第10号証の記載事項(ア)、乙第1号証の記載事項(イ)、乙第9号証-1の記載事項(イ)からみて、本件出願前に普通に知られていたことといえるが、かかる非水タイプのものでも事前に水を加えるなどすれば、飛散に対する実用上の対策を講じて作業できることから、膨張品の非水タイプの有機中空微小球が飛散しやすいことを以って、膨張品の含水タイプの有機中空微小球のみを粘土製造に用いることが技術常識であるとまではいえず、請求人が前提とする技術常識は妥当なものではない。
そして、上記「1.(一)」の検討のところで述べたとおり、本件訂正明細書の記載から、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は膨張品であって、非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)であるといえる。
請求人は、乙第1号証の実験結果を根拠に、膨張品のうち、含水タイプの有機中空微小球を用いると、本件の実施例の配合では粘土の体をなさない旨を主張しているが(口頭審理陳述要領書第6?7頁3))、上記「1.(一)(i)」で述べたとおり、この実験結果によれば、寧ろ、本件訂正明細書の実施例の有機中空微小球は、エクスパンセルの膨張品を使用したものでは、「含水タイプ」ではなく、「非水タイプ」であるとみることができる。そして、この「非水タイプ」の有機中空微小球の添加量について、上記「1.(一)(v)」のとおり、請求人は、膨張品について、非水(DE)タイプのものの添加量と含水(WE)タイプのものの固形分換算した添加量とが理論的には同等であることを認めていることから、本件の実施例の有機中空微小球の添加量は、かかる含水タイプの有機中空微小球の固形分に相当するとみることもできる。そうすると、乙第1号証の実験結果は、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は、膨張品であって、非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)であるという上記判断を裏付けるものといえ、本件訂正明細書の記載が、実施可能要件違反であることの根拠とはならない。
さらに、本件訂正発明1の有機中空微小球の添加量につき、本件訂正明細書の記載についてみてみると、段落【0022】に、
「(6)添加量
また、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることが必要である。
この理由は、・・・添加量が1重量%未満の値となると、軽量粘土の軽量化が困難となるためである。
一方、・・・3重量%以上になると、軽量粘土の造形性や取り扱いが著しく低下するとともに、残留する未発泡の有機中空微小球が多くなり、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇した場合に、包装材が膨張し、保管性が著しく低下するためである。また、有機中空微小球は、著しく高価であるため、その添加量が3重量%以上になると、得られる軽量粘土のコストも著しく高価になるためである。」
と記載されている。よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の有機中空微小球の添加量の「数値限定」は、軽量粘土の軽量化、造形性や取り扱い、保管性、コストの観点で技術的意義があることが記載されているといえる。そして、本件訂正明細書には、実施例1?3として、本件訂正発明1の有機中空微小球の添加量をそれぞれ2.5、2.9、2.0wt%としたもの、比較例1?3として、それぞれ5、10、15wt%としたものが記載されて対比がなされ、実施例では上記観点に係る特性が軽量粘土として十分であることが示されていることを併せてみると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件訂正発明1を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

(二)「有機中空微小球が膨張品の非水タイプであるとしても、飛散させずに粘土を製造する方法について何ら記載がないこと」について
上記「2.(一)」で述べたとおり、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は膨張品であって、この「有機中空微小球」は、非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)といえる。そして、同「2.(一)」で述べたとおり、膨張品の非水タイプの有機中空微小球が非常に軽く飛散することは、本件出願前に普通に知られていたが、かかる非水タイプのものでも事前に水を加えるなどすれば、飛散に対する実用上の対策を講じて作業できることから、本件訂正発明1の軽量粘土を実施する際に、直ちに、膨張品の非水タイプのものが使用できないとまではいえない。
そうすると、本件訂正発明1には、「有機中空微小球」が膨張品の非水タイプである場合が含まれ、発明の詳細な説明に、かかる非水タイプのものの扱いについて具体的な記載がないからといって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件訂正発明1を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

3.無効理由3について
無効理由3は、(一)有機中空微小球の平均粒径の範囲についての裏付けが不十分であること、(二)糊剤についての裏付けが不十分であること、(三)被請求人の甲第13号証における主張が技術常識に反することから、本件訂正発明1?6をサポートする十分な記載が、発明の詳細な説明になく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないというものである(審判請求書第12?18頁(C)申立理由3)。

そこで、上記(一)?(三)の点について、以下に、検討する。
(一)「有機中空微小球の平均粒径の範囲についての裏付けが不十分であること」について
請求人は、無効理由3の平均粒径の範囲についての裏付けが不十分である具体的な理由として、本件訂正明細書には、「平均粒径が100、90、110、40μmについての実験例が開示されているのみで、これ以外には、平均粒径を変化させた場合の実験例が存在しない」ことから、「いかなる理由で平均粒径30?150μmまで、本件特許発明が解決しようとする技術的課題か解決できるのかについて、十分開示されていない」旨を主張する(審判請求書第12頁17?21行)。
そこで、本件訂正発明1の「有機中空微小球の平均粒径」について検討すると、本件訂正発明1には、「有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とする」と記載されており、上記「1.(二)」で述べたとおり、本件訂正明細書の記載から、本件訂正発明1の平均粒径の数値範囲は、造形性、軽量化、混合分散の観点で技術的意義があるものといえる。
そして、本件訂正明細書には、実施例1?10として、本件訂正発明1の平均粒径の数値範囲を満たす、平均粒径を90、100、110μmの有機中空微小球を用いた場合の粘土は、上記観点の特性のうち、造形性、軽量性が軽量粘土に適している旨が記載されている。また、上記観点の特性のうち、混合分散については、実施例では評価が明記されていないものの、所定の特性の粘土が得られていることから、軽量粘土を製造する際に特段支障のない程度のものといえる。
そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の有機中空微小球の平均粒径の数値範囲で、その技術的意義を確認できるものが記載されている。
一方、本件訂正明細書には、比較例1?9として、本件訂正発明1の平均粒径の数値範囲を満たす有機中空微小球を用いた粘土であっても、上記観点の特性のうち、造形性に劣ることが記載されているものの、比較例1?9は、有機中空微小球の添加量が、本件訂正発明1の添加量の上限値である3重量%より多く、また、比較例7?9は、さらに水の添加量が本件訂正発明1の添加量の下限値である65重量%より少なく、本件訂正明細書には、これらの比較例の結果から「有機中空微小球の添加量が3重量%を超えると、軽量粘土における造形性や発色性、あるいは膨張性の評価が著しく低下することが判明した」こと(段落【0054】)、および、「水の添加量が65重量%未満になると、軽量粘土における造形性や発色性が著しく低下することが判明した」こと(段落【0058】)が記載されているから、これらの比較例の造形性等の低下は、有機中空微小球の平均粒径によるものではなく、有機中空微小球の添加量および/または水の添加量によるものといえ、これらの比較例の記載が、本件訂正発明1の平均粒径の数値範囲の技術的意義を否定するものとまではいえない。
また、本件出願前に、本件訂正発明1の有機中空微小球と同程度の平均粒径のものを用いた軽量粘土が知られており、本件訂正発明1の平均粒径の範囲は、軽量粘土に普通に用いられている有機中空微小球の平均粒径であるとみることができるから(甲第6号証の記載事項(エ)、甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(ウ)、甲第17号証(乙第27号証)の記載事項(ウ)参照))、その数値範囲に臨界的意義があるか否かはともかく、実験例の数が少ないからといって、本件訂正発明1の実験例以外の平均粒径において、軽量粘土に適さない程度の軽量性や造形性、混合分散性になるという格別の根拠も直ちに見いだせず、平均粒径の技術的意義を理解できないとまではいえない。
なお、当審により、平成21年8月27日付けの訂正請求による訂正の前の請求項1に係る「有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、0.1?3重量%未満の範囲内の値とし、かつ、・・・水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする」という発明特定事項(以下、「特定事項X」という。)に係るサポート要件が十分でないとする無効理由が平成21年8月7日付けで通知されていることに関し、請求人は、上記訂正請求による訂正の後の本件訂正発明1?6においても、「特定事項X」に係る無効理由と同様の無効理由がある旨を述べており(口頭審理陳述要領書第22頁<3>)、また、この特定事項Xは、有機中空微小球の平均粒径の範囲に係る特定事項を含むものでもあるが、本件訂正発明1?6においては、「極性化合物」の種類および添加量、並びに「有機中空微小球」の添加量について減縮する訂正がなされたことから、この事項についてサポート要件が不十分であるとまではいえない。
以上の点から、有機中空微小球の平均粒径の範囲について、本件訂正発明1をサポートする十分な記載が発明の詳細な説明になく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとまではいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

(二)「糊剤についての裏付けが不十分であること」について
請求人は、平成21年8月27日付けの訂正請求による訂正の前の請求項1には「糊剤」に係る記載がないことから、「糊剤が規定されていないこと」を無効理由3として主張し(審判請求書第14?16頁イ))、さらに、上記訂正により「糊剤」に相当する「極性化合物」に係る限定がなされた本件訂正発明1についても、「極性化合物は、物質によって保水力が著しく異なるものであるので、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物・・・とだけ記載しても、所望の性質の粘土が得られる程度の特定がなされていない」ことから、記載不備の無効理由は残存している旨(口頭審理陳述要領書第21頁5)<1>)を主張する。

そこで、本件訂正発明1について検討すると、本件訂正発明1には、「有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、・・・前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし」と記載されており、本件訂正発明1の「極性化合物」が「糊剤」に相当するから、本件訂正発明1には、「糊剤」について、「水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方」の極性化合物であるとともに、その添加量が「全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値」であることが特定されている。
かかる特定事項について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載をみてみると、本件訂正発明1に係る「水酸基含有化合物」として、「ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレン酢酸ビニル、尿素樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース」が記載され、「カルボキシル基含有化合物」として、「カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸、ポリ酢酸ビニル」が記載され、これらの添加量は、「軽量粘土の取り扱い性」、「成型性」、「軽量粘土の展性」、「混合分散」の観点で定めたものである旨も記載されている(段落【0026】?【0029】)。また、実施例1?10には、本件訂正発明1の極性化合物として、カルボキシメチルセルロースおよびPVA(ポリビニルアルコール)を添加した粘土が記載され、これらの粘土は、造形性、べたつき性等を含め、軽量粘土として十分な特性を備えることが示されている。
そうすると、本件訂正発明1の「極性化合物」として用いられる「水酸基含有化合物」、「カルボキシル基含有化合物」について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、具体的な化合物が例示され、これら化合物の添加量の数値範囲を定めた根拠や実施例の記載もある。そして、軽量粘土において、同様の極性化合物が用いられており(甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(ウ)、甲第16号証の記載事項(ウ)、甲第17号証(乙第27号証)の記載事項(ウ))、極性化合物には、物質によって保水力が異なる等の特性の違いがある(甲第12号証の記載事項(ア))としても、当業者であれば各化合物のかかる特性の違いを考慮して、糊剤となる極性化合物を適宜使用することができるものであることを併せてみると、糊剤について、本件訂正発明1をサポートする十分な記載が発明の詳細な説明になく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとまではいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

なお、請求人は、糊剤に係る記載不備の主張の中で、本件訂正発明1には「パルプ」の特定がないことによる記載不備も主張しているので(審判請求書第15頁下から6?7行)、この点についても検討する。本件訂正明細書には、「本発明の軽量粘土を構成するにあたり、繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることが好ましい。このように繊維を使用することにより、造形性や軽量性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる」(段落【0010】)と記載されるとともに、「添加剤としての繊維(パルプ)」(段落【0030】)と記載され、パルプは繊維の一例といえるから、パルプは軽量粘土の造形性や軽量性をさらに優れたものとするために追加的に添加する成分であって、本件訂正発明1の必須成分とはいえない。ところで、本件訂正明細書には、実施例としてパルプを添加したもののみが記載され、段落【0032】には、繊維の添加量が1重量%未満になると、繊維の添加効果が発現されないことがある旨も記載されているが、軽量性や造形性は、粘土の他の成分により調整し得るものであり、繊維の添加効果がなくては、軽量粘土に適した軽量性や造形性が得られないとまではいえないから、これらの記載はパルプを必須成分とする根拠にはならない。よって、本件訂正発明1には、「パルプ」の特定がないからといって、本件訂正発明1に記載不備があるとまではいえない。本件訂正発明2?6についても同様である。

(三)「被請求人の甲第13号証における主張が技術常識に反すること」について
請求人は、本件特許の審査段階で提出された甲第13号証においてなされた「有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる水の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる」との被請求人の主張は、(三の一)本件発明の粘土の水分量では粘土が水っぽくなり造形性が低下するはずであるため技術常識に反すること、(三の二)その根拠が本件明細書に記載されていないことから、発明の技術的意義が不明瞭であると主張している(審判請求書第16?17頁ウ))。
まず、請求人の主張について、甲第13号証の記載事項(ア)をみると、被請求人が上記のとおり述べている箇所は、審査段階で当時の明細書の記載を引用したものであるから、甲第13号証の被請求人の主張は、拒絶理由通知に引用された引用文献(甲第6号証)と対比して本件発明の粘土の水分量が多いことを、当時の明細書の記載を引用して説明したものとみることができる。そして、甲第13号証で被請求人が引用した明細書の記載は、本件訂正明細書の「上述したように、従来は、水の添加量が、全体量に対して、60重量%を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには軽量化が損なわれると言われていたが、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる水の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる」(段落【0007】)との記載(以下、「記載事項A」という。)に対応する。
そこで、本件訂正発明1に係る「有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、・・・ 水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする」という特定事項と記載事項Aとの対応について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を、上記(三の一)、(三の二)の点から、さらに検討することとする。
本件訂正発明1の有機中空微小球の平均粒径については、上記「1.(二)」で述べたとおり、その数値範囲は、造形性、軽量化、混合分散の観点で技術的意義があり、有機中空微小球の添加量については、上記「2.(一)」で述べたとおり、その数値範囲は、軽量化、造形性や取り扱い、保管性、コストの観点で技術的意義があることが発明の詳細な説明に記載されているといえる。
また、本件訂正発明1の「水の添加量」については、
「4.水
水は、軽量粘土の取り扱い性や成型性、あるいは軽量粘土の製造の容易さを考慮して定められる。本発明の軽量粘土においては、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする・・・。・・・添加量が65重量%未満の値となると、添加効果が発現せず、軽量粘土調整が困難となる場合があるためである。一方、・・・85重量%を超えると、軽量粘土の展性や耐クリープ性の制御が困難となる場合があるためである。」(段落【0033】)と記載されているから、「水の添加量」の数値範囲は、軽量粘土の調整、軽量粘土の展性や耐クリープ性の観点で技術的意義があることが発明の詳細な説明に記載されているといえ、これら観点に係る特性が、造形性に寄与することは明らかである。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の「有機中空微小球の平均粒径」、「有機中空微小球の添加量」、および「水の添加量」は、何れも上記(三の一)でいう「造形性」に寄与する点で技術的意義があることが示されている。
そして、この技術的意義を踏まえ、実施例の記載をみると、実施例1?9には、本件訂正発明1の有機中空微小球の平均粒径、添加量および水の添加量を満たす粘土の造形性が軽量粘土に適したものであることが記載されていること、また、実施例7?9と比較例7?9には、水の添加量を本件訂正発明1の範囲内、範囲外とした際の対比がなされ、実施例9では、水の添加量を80wt%としても、造形性は「◎」という最も良い評価であることが示されていることから、本件訂正発明1の有機中空微小球の平均粒径、添加量および水の添加量について、これらの実施例の記載が、記載事項Aについて、上記(三の二)でいう本件訂正明細書の「根拠」となる記載とみることができ、本件訂正明細書の記載から、上記(三の一)のように「本件発明の粘土の水分量では粘土が水っぽくなり造形性が低下する」とはいえない。
さらに、上記(三の一)でいう「技術常識に反する」という根拠を、請求人は何ら具体的に説明していない。
よって、本件訂正発明1について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえない。また、本件訂正発明2?6についても同様である。

4.無効理由4について
(1)本件訂正発明1について
甲第16号証には、記載事項(ア)に、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主成分とした・・・粘土」が記載されている。この記載中の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」について、記載事項(イ)に、「気体を内包している」こと、「粒径は1?200ミクロン、かさ比重は0.01?0.05に形成され、極めて軽量」であることが記載され、同記載中の「粘土」について、記載事項(ウ)に、「本発明の粘土においては、熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)、繊維粉を10?30部、カルボキシメチルセルロースを10?20部、それぞれ粉末にして混合撹拌し、・・・水50?60部にポリオールエーテル粉を3?8部添加」することが記載されている。そして、記載事項(ク)に、「本発明は熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主体に構成された粘土であり、・・・シラスバルーンを主成分とした従来の粘土に対し、極めて軽量化することができ」ることが記載されているから、記載事項(ア)の「粘土」は、「軽量化」された「軽量粘土」とみることができる。

よって、記載事項(ア)?(ウ)、および(ク)の記載を本件訂正発明1の記載振りに則して整理すると、甲第16号証には、
「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を主成分とする軽量粘土において、上記熱可塑性合成樹脂製微小中空球は、気体を内包し、粒径が1?200ミクロン、かさ比重が0.01?0.05に形成され、極めて軽量であり、熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)、繊維粉を10?30部、カルボキシメチルセルロースを10?20部、水を50?60部、ポリオールエーテル粉を3?8部添加した軽量粘土。」
の発明(以下、「甲第16発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本件訂正発明1と甲第16発明を対比すると、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が、「熱可塑性合成樹脂製」であって、「気体を内包」し、「微小中空球」であることから、本件訂正発明1の「有機中空微小球」に相当し、甲第16発明の「カルボキシメチルセルロース」は、本件訂正発明1の「極性化合物」およびその「カルボキシル基含有化合物」に相当する。また、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「粒径が1?200ミクロン」であることについては、それが粒径範囲を示しているとみることができるところ、その平均粒径が「1?200ミクロン」の範囲内にあることは明らかであって、一般的に工業製品における粒径分布のピークは大凡粒径範囲の中心に近いところにあること、また、甲第6号証の記載事項(ア)、(エ)に記載されるとおり、「軽量粘土」の「合成樹脂微小中空球体」について、「粒径20?120μm」が、実施例において「平均粒径20?120μm」とされている等(この他、甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(ア)、(ウ)、甲第17号証(乙第27号証)の記載事項(ア)、(ウ)参照)、「粒径」の範囲と「平均粒径」がほぼ重なるものと認識されていることを勘案すれば、甲第16発明の熱可塑性合成樹脂製微小中空球の「粒径が1?200ミクロン」であることは、本件訂正発明1の有機中空微小球の「平均粒径を30?150μm」の範囲内の値とすることと重複するものとみることができる。
また、甲第16発明の「カルボキシメチルセルロースを10?20部」(重量部)とすることは、本件訂正発明1の極性化合物のカルボキシル基含有化合物の添加量を「全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値」とすることと、「10?20重量%」で重複・一致している。なお、「重量部」と「重量%」は必ずしも同じ概念ではないが、甲第16号証の実施例では、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球12部」、「パルプ繊維粉18部」、「カルボキシメチルセルロース粉12部」、「ポリオールエーテル粉5部」、および「常温水53部」(記載事項(オ))の添加量がトータル100部であることから、甲第16号証では「重量部」は「重量%」とみなすことができる。
してみると、両者は、「有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、前記有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、前記極性化合物が、カルボキシル基含有化合物であるとともに、添加量を、全体量に対して、10?20重量%の範囲内の値とし、かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有する軽量粘土」で一致し、以下の点で相違する。

相違点a:本件訂正発明1が「有機中空微小球」の「添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値と」しているのに対し、甲第16発明では、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)」添加している点
相違点b:本件訂正発明1が、「水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする」のに対し、甲第16発明では、「水を50?60部」添加している点

そこで、これらの相違点について、順次検討する。
(A)相違点aについて
(一)相違点の検討に先立って、有機中空微小球には、「1.(一)」でも検討したとおり、本件出願当時、膨張品、未膨張品があり、また、各々、含水(Wet)タイプと非水(Dry)タイプの両タイプが知られており(甲第2号証の記載事項(イ)、乙第9号証-1の記載事項(ア)、乙第9号証-2の記載事項(ア)、(イ))、そのタイプによって、固形分・水分比率に大きな差があり、有機中空微小球がどのタイプのものであるかが、軽量粘土の配合における有機中空微小球自体(固形分)や水の添加量に少なからず影響を及ぼすと考えられることから、相違点aに係る本件訂正発明1の「添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値と」した「有機中空微小球」と甲第16発明の「3?20部(重量部)」添加した「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が同じタイプであるか否か、について検討する。
そこでまず、本件訂正発明1の「有機中空微小球」についてみてみると、本件訂正発明1には「有機中空微小球」のタイプについて何ら特定はない。しかし、「1.(一)」で検討したとおり、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は膨張品であるといえ、含水(Wet)タイプと非水(Dry)タイプについては、本件訂正発明1の「有機中空微小球」は、配合される「水」とは区分され、最終調整された「水を含まない」もの、すなわち、「有機中空微小球」が非水タイプのものか、あるいは、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分に相当)であるということができる。

(二)一方、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」についてみてみると、
甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は「気体を内包し、粒径が1?200ミクロン、かさ比重が0.01?0.05に形成され、極めて軽量」なものであり、また、甲第16号証の記載事項(イ)には、「外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分」とすることが記載されている。
この熱可塑性合成樹脂製微小中空球が具体的に如何なるタイプものか、甲第16号証には、明確な記載はないが、この「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は、「かさ比重が0.01?0.05」に形成され、「極めて軽量」であり、甲第16号証の出願当時の軽量化材の商品カタログを示すとして提示された乙第9号証-1(被請求人の口頭審理陳述要領書(第7頁(4)))の記載事項(ア)に、「嵩比重 0.02以下 真比重 0.025?0.05」、「DE=Dry,Expanded microspheres (solid content>99%) 551DE」、「WE=Wet,Expanded microspheres (solid content 15±2%) 551WE」と記載され、また、乙第9号証-2の記載事項(イ)に、「未膨張マイクロスフェア」の「EXPANCEL WU」(Wet,Unexpanded microspheres)と「EXPANCEL DU」(Dry,Unexpanded microspheres)の「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「1000-1300」(換算値1.0?1.3g/cm^(3))、「?1000」(換算値?1.0g/cm^(3))、「膨張マイクロスフェア」の「EXPANCEL WE」(Wet,Expanded microspheres)と「EXPANCEL DE」(Dry,Expanded microspheres)の「Density of EXPANCEL(kg/m^(3))」がそれぞれ「?30」(換算値?0.03g/cm^(3))、「30-70」(換算値0.03?0.07g/cm^(3))と記載されていることからみれば、甲第16号証の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」のかさ比重は、「Expanded microspheres」(膨張品)と同じオーダーであり、「Unexpanded microspheres」(未膨張品)とは2桁も異なるものといえる。
そして、甲第16号証には、「平成1年6月5日付け手続補正書」による補正前の明細書の記載として、「熱可塑性重合体殻中に揮発性膨張剤を内包した熱膨張性粒子を加熱膨張させた微小中空球」(第1頁特許請求の範囲)と記載され、「本発明に使用する熱膨張性粒子は、外殻が塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂を主成分とし、内部に揮発性流体膨張剤としてプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素を内包製造方法等は、特公昭42-26524号公報に記載されたものである。本用途の場合は、上記の粒子を加熱膨張させた微小中空球を使用する」(第2頁右上欄第9?18行)と記載されている。
これらのことから、「平成1年6月5日付け手続補正書」による補正後の記載に基づく甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」も、本件訂正発明1の「有機中空微小球」と同じく「膨張品」であることは明らかである。
しかしながら、この「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が、含水タイプであるのか非水タイプであるのか判然としない。
そこで、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の上記「かさ比重」から、含水タイプと非水タイプについて検討してみると、
含水タイプと非水タイプの「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」として請求人が甲第32、33号証において用いた「EXPANCEL(エクスパンセル)」について、上述したとおり、甲第16号証の出願当時の軽量化材の商品カタログを示すとして提示された乙第9号証-1には、「嵩比重 0.02以下」、「真比重 0.025?0.05」、「551DE」および「551WE」が記載されている(記載事項(ア))。また、同号証には、「551DE」の「真密度」が「42±4kg/m^(3)」(換算値0.042±0.004g/cm^(3))であり、「嵩密度」が「0.02g/cc」(換算値0.02g/cm^(3))であることが記載されている(記載事項(ウ))。この記載によれば、エクスパンセル膨張品では、「嵩比重」と「真比重」が同じではなく、「551DE」では、「嵩比重」が0.02、真比重が大凡0.042であることが分かる。しかしながら、「551WE」の「嵩比重」と「真比重」との関係は必ずしも明らかではなく、仮に、「551WE」が上記「嵩比重 0.02以下」の数値範囲にあるとしても、「551DE」と「551WE」の「嵩比重」の数値範囲は、何れも「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「かさ比重」が「0.01?0.05」の範囲にあることから、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が含水タイプであるのか非水タイプであるのか明らかとはいえない。
また、念のため、乙第9号証-1以後の乙第9号証-2をみておくと、その「EXPANCEL」パンフレットには、膨張品について、「551DE」の「True Density」が「42±4kg/m^(3)」、「551WE」の「True Density」が「36±3kg/m^(3)」と記載(記載事項(ウ))されている。この記載によれば、「EXPANCEL 551DE」(膨張・非水タイプ)は、「真比重」が「42±4kg/m^(3)」(換算値0.042±0.004g/cm^(3))、「EXPANCEL 551WE」(膨張・含水タイプ)は、「真比重」が「36±3kg/m^(3)」(換算値0.036±0.003g/cm^(3))とみることができる。してみると、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「かさ比重」の「0.01?0.05」と、エクスパンセル膨張品の非水タイプの真比重の0.042±0.004および含水タイプの真比重の0.036±0.003とを対比しても、上記したとおり、エクスパンセル膨張品では、「真比重」と「かさ比重」とが同じでない上、仮に粒径がミクロンオーダーの「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」において真比重とかさ比重に大差はない等の理由により、甲第16発明のかさ比重を実質的に真比重と同様に取り扱うことができたとしても、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「かさ比重」の「0.01?0.05」の範囲にあることから、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が含水タイプであるのか非水タイプであるのか明らかであるとはいえない。さらに、甲第29号証の記載事項(ア)には、含水タイプの「EXPANCEL WE」は「乾燥」して、すなわち、非水状態で、密度測定を行う旨が記載されていることからみても、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の比重の値のみから、含水タイプであるのか非水タイプであるのかを特定できるとまではいえない。
ところで、甲第16号証の記載事項(カ)に「シラスバルーンを主成分とした従来の粘土のかさ比重が1.52であるのに対し、本発明の粘土のかさ比重は0.28となり、上記成分構成にすることにより、82パーセントの軽量化(JIS-Z8807号に準拠して固体比重測定方法による)が達成される」ことが記載されている。この記載の「粘土のかさ比重は0.28」であることと、甲第16号証の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「かさ比重」が「0.01?0.05」であることから、被請求人は、口頭審理陳述要領書(第8?14頁)において、甲第16号証に記載された粘土の比重推定を、膨張品の有機中空微小球(軽量化材)の非水タイプ(551DE:42±4kg/m^(3))と含水タイプ(551WE:36±4kg/m^(3))で行い、結論として、「甲第16号証の実施例に記載された軽量粘土の配合例において、軽量化材として、含水タイプではなく、非水タイプの軽量化材が用いられている」旨を主張している。しかしながら、この推定した値は、粘土の各成分の真比重を用いて算出したものであるから、粘土の真比重とみることができるのに対し、粘土製造において、脱気があることは乙第1号証の記載事項(イ)で示されるとおりであるが、有機中空微小球、パルプ繊維粉の混入された粘土において完全に脱気がなされているか不明であり、粘土中に気泡が混入されていれば、粘土のかさ比重は真比重よりも小さくなることから、粘土の真比重の推定値を甲第16号証に記載された粘土のかさ比重の値と直接対比することはできない。この点に関し、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、乙第17号証?乙第21号証により、パルプ繊維粉の比重、カルボキシメチルセルロースの比重、およびポリオールエーテルの比重が多少変動したとしても、上記結論に変わりがない旨を主張するが(第12頁下から4?6行)、上記した気泡がある程度混入されたときに、この主張が妥当なものであるのか判然としない。
また、一方で、請求人は、甲第16号証における「粘土のかさ比重は0.28」との記載について、「口頭審理にて、甲16のかかる記載については、公告公報(乙5)では削除されているので、かかる記載に基づいて甲16に記載された中空球が含水タイプであるとの主張は取り下げた。かかる記載が公告公報で削除された理由は明確ではないが、おそらく、審査過程において誤記であることを発見したからであろう。」と述べており(平成22年1月12日付け上申書(1)第4頁4.)、甲第16号証における「粘土のかさ比重は0.28」自体の根拠も不透明である。
以上のことからすれば、甲第16号証の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が含水タイプであるのか、非水タイプであるのか、比重の観点から断定することはできない。
しかしながら、甲第16号証の記載事項(オ)に、実施例の製造に関し「本発明の実施例では熱可塑性合成樹脂製微小中空球12部、パルプ繊維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し、均一な粉末混合物を製成し、別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練して製造する」ことが記載されている。この実施例の製造について、甲第32号証に、粘土製造試験結果報告書1として、上記甲第16号証の実施例と同じ配合(ただし、少量の確認試験)で、「白色有機中空微小球」として、「エクスパンセル551DE」を用いて試験を行い、「各原料をビニール中に入れ練り込む」、「練り込むが水分が足らず粘土にならない」と報告(記載事項(ア)?(ウ))され、甲第33号証に、粘土製造試験結果報告書2として、同様の配合で、「白色有機中空微小球」として、「エクスパンセル551WE」を用いて試験を行い、「各原料をボールに入れ良く練る」、「容易に粘土になる」と報告(記載事項(ア)?(ウ))されている。そして、これらの試験結果報告書において得られた粘土は、検甲第1、2号証として提出されており、甲第32、33号証の報告を裏付けている(請求人の平成22年1月12日付け上申書(1)第9頁3?6行)。また、乙第32号証の記載事項(ア)、(イ)にも、甲第16号証の実施例と同じ配合で「エクスパンセル551WE」を用いて試験を行うと、粘土が得られることが記載されている。

ここで、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」と「エクスパンセル551WE、DE」との関係をみておくと、上述した乙第9号証-1には、「DE=Dry,Expanded microspheres(solid content>99%) 551DE」および「WE=Wet,Expanded microspheres(solid content 15±2%) 551WE」(記載事項(ア))が記載され、甲第23号証には、甲第16号証の出願(昭和63年11月1日)前に、「大同株式会社から紫香楽教材粘土株式会社」に、「エクスパンセルWE551」が納入され(記載事項(ア))、日本フィライト株式会社から、紫香楽教材粘土株式会社に「エクスパンセルWE551」が送品された(記載事項(イ))旨が記載されている。
そして、甲第2号証は、本件訂正発明1の出願当時の文献ではあるが、そこには、「有機質中空体」として、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の樹脂(甲第16号証の記載事項(イ))と同じ「塩化ビニリデン、アクリロニトリル等の共重合物の殻壁でマイクロカプセル化した熱膨張性微小球」(甲第2号証の記載事項(ア))が記載され、「有機質中空体」の具体例として「エクスパンセル(Expancel)社製のエクスパンセル(EXPANCEL)DEシリーズ(より詳細には、551DE、551DE20、551DE80、461DE、461DE20、091DE、091DE80等の乾燥した膨張済みのもの)、エクスパンセル(EXPANCEL)WEシリーズ(より詳細には、551WE、551WE20、551WE80等の湿潤した膨張済みのもの)」(甲第2号証の記載事項(イ))が挙げられている。
これらのことによれば、甲第16号証の出願当時、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」として「エクスパンセル551WE」あるいは「エクスパンセル551DE」は一般的に使用されていることから、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は、エクスパンセル、またはこれと類似したものと推認することができる。このことは、乙第29号証(2)の書簡、および甲第9号証の宣誓書とも矛盾しない。

以上のことに照らせば、甲第32、33号証の試験結果から、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は「エクスパンセルWE」のような含水タイプのものでは粘土になるが、「エクスパンセルDE」のような非水タイプのものでは粘土にならないことが窺える。
また、「エクスパンセルDE」のような膨張品の非水タイプのものが非常に軽く飛散することは、上記「2.(一)、(二)」で述べたとおり、本件出願前に普通に知られていたが(甲第10号証の記載事項(ア)、乙第1号証の記載事項(イ)、乙第9号証-1の記載事項(イ))、かかる非水タイプのものでも事前に水を加えるなどすれば、飛散に対する実用上の対策を講じることが可能であることから、膨張品の非水タイプの有機中空微小球が飛散しやすいことを以って、膨張品の含水タイプの有機中空微小球のみを粘土製造に用いることが、甲第16号証の出願時に技術常識であるとまではいえない。
しかしながら、飛散などの製造過程の不都合をできる限り回避するために膨張品の含水タイプを用いることは製造工程における一般的な対応であると考えられ、甲第16号証の実施例(記載事項(オ))では、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球12部、パルプ繊維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し、均一な粉末混合物を製成し、別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練し」ていることからみれば、事前に水を加えるなどの、膨張品の非水タイプのものの飛散に対する一般的な実用上の対策を講じているとは認められない。
以上のこと、および、有機中空微小球を用いた粘土製造において膨張品の非水タイプを用いることが甲第16号証の出願時に技術常識であった根拠もないことを勘案すると、甲第16号証の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は「エクスパンセルWE」のような膨張品の含水タイプであると認められる。
なお、被請求人は、答弁書において、「乙第5号証として示す特許公報(・・・)の実施例において、『熱膨張性微小中空球』は、『軽量微小素材粉末』と変更され・・・甲第16号証の特許化の過程で、『熱膨張性微小中空球』を、水を含まない『DE』タイプに限定し、その作用効果を説明したものと考えられる」旨(第8頁6?13行)を主張すると共に、甲第16号証では、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」を配合した粘土の製造(記載事項(ウ)、(オ))に関して、「それぞれ『粉末』であって、他の『粉末』と混合して、均一な粉末混合物を製造し、さらに、別にポリオールエーテル粉を含む水溶液を調整して、粉末混合物に添加し、混練して製造すると説明している以上、水を含まない「DE」タイプと考えられる」旨(第9頁下から4?9行)を主張している。
しかしながら、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は「気体を内包し、粒径が1?200ミクロン」であるから「粒子」であるといえるところ、甲第16号証の実施例において、熱可塑性合成樹脂製微小中空球、繊維粉、カルボキシメチルセルロースを、それぞれ「粉末」にして混合撹拌した「粉末混合物」が記載され(記載事項(ウ))、また、この「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は、乙第5号証では、特許請求の範囲(記載事項(ア))において、「粒子中に気体を内包する軽量微小素材」と「粒子」であることが記載され、実施例(記載事項(エ))において、「軽量微小素材粒子」、「軽量微小素材粉末」と記載されていることから、甲第16号証と乙第5号証では、「粒子」と「粉末」を区別なく使用しており、要素に着目するか、集合でみるか、といった形態の呼称上の違いが両者にあるにせよ、これらの記載は「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」が水を含まないDEタイプであることまで意味するものではなく、含水タイプのものが「粉末状」とはいえないことを示す具体的な根拠もないから、この主張を採用することはできない。
また、被請求人は、平成21年12月14日付けの上申書(1)において、乙第33号証に「実施例では、軽量化するための充填材として、『発泡樹脂の粉末』を用いた旨が記載され」(第6頁23?24行)、「乙第33号証によれば、実施例において非水タイプを用いていることが明らかである以上、その反対解釈として、甲第16号証の出願当時、このような非水タイプが軽量粘土において普通に用いられていた根拠になる」旨(第7頁4?6行)を主張しているが、乙第33号証の記載事項(ア)、(イ)によれば、軽量化するための「充填剤は、シラスバルーンのような多孔質材の微粉末」であり、この「多孔質材が発泡樹脂である」ことから、ここで主張する非水タイプの発泡樹脂の「多孔質材」は、甲第16号証の気体を内包する微小中空球からなる「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」を指すものとはいえないとともに、非水タイプが軽量粘土において普通に用いられていたものともいえない。したがって、この主張も妥当なものではない。

(三)上記(一)、(二)を踏まえ、相違点aについて検討すると、
本件訂正発明1の「添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値と」している「有機中空微小球」は、膨張品であって、水を含まない有機中空微小球それ自体(固形分)であるのに対し、甲第16発明の「3?20部(重量部)」添加している「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は、膨張品であるが「エクスパンセルWE」のような含水タイプであることから、添加量について本件訂正発明1の「1?3重量%未満の範囲内」と甲第16発明の「3?20部(重量部)」を直接対比することはできない。
甲第16発明の「エクスパンセルWE」のような膨張品の含水タイプである「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の固形分:水分比率について検討すると、甲第16号証の出願当時の軽量化材の商品カタログとして示された乙第9号証-1(被請求人の口頭審理陳述要領書(第7頁(4)))には「WE=Wet,Expanded microspheres(solid content 15±2%) 551WE」(記載事項(ア))とあり、その後の有機中空微小球も固形分は凡そ10?30重量%(甲第6号証の記載事項(エ)、甲第7号証(乙第26号証)の記載事項(イ)、甲第17号証(乙第27号証)の記載事項(ア)参照)であることから、含水タイプの「有機中空微小球」は、固形分として10?30重量%の範囲の値を含有するものといえる。
してみると、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「3?20部(重量部)」は、固形分として、「0.3?6重量%」(「重量部」は、上記したとおり甲第16号証においては「重量%」とみなすことができる。)となる。してみると、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の固形分の「0.3?6重量%」は、本件訂正発明1の「有機中空微小球」の「1?3重量%未満の範囲内の値」と重複するものである。
また、本件訂正発明1が「有機中空微小球」の「添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値と」する「数値限定」の技術的意義は、「2.(一)」で検討したとおり、本件訂正明細書の記載(段落【0022】)からみて、軽量粘土の軽量化、造形性や取り扱い、保管性、コストにあるといえる。しかしながら、本件訂正明細書において、実施例1?3では、平均粒径を100、90、110μmでそれらの添加量を2.5、2.9、2.0wt%とし、比較例1?3では、平均粒径を40μmとし、添加量を5、10、15wt%として対比するものの、両者は平均粒径が異なる上、この対比から有機中空微小球の平均粒径を30?150μmとした範囲内での「有機中空微小球の添加量」の数値範囲の臨界的意義まで云々することはできない。また、他の実施例、比較例からみても、「有機中空微小球」の添加量の数値範囲の臨界的意義は明らかでない。

(四)以上のこと、および、当該技術分野において本件出願前に有機中空微小球の固形分を表記することが一般的(乙第9号証-1、甲第6号証、甲第7号証(乙第26号証)、甲第17号証(乙第27号証)参照)であることを勘案すると、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の量を特定するに当たって、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)」を、最終的な配合量として固形分で特定することは当業者が容易に行うことであり、その配合量として本件訂正発明1の「全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値と」することも、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球を3?20部(重量部)」を固形分に換算した「0.3?6重量%」の範囲内であり、粘土の熱可塑性合成樹脂製微小中空球の添加量は、熱可塑性合成樹脂製微小中空球の粒径、水あるいは他の成分の添加量をみて種々の調整がなされるものであり、また、本件訂正発明1の数値限定に格別の臨界的意義も見出せないことから、甲第16発明の上記換算した範囲で軽量化、造形性などを考慮して適宜選択し得ることといえる。

(B)相違点bについて
本件訂正発明1の「水の添加量」については、上記「1.(一)」で述べたとおり、被請求人は、平成21年8月27日付け意見書において「軽量粘土を配合するに際して、最終的に調整された水の配合量を規定したもの」であると主張し(第4頁(3)-2)、また、口頭審理陳述要領書において「本件特許発明の請求項1等において、軽量化材と、水と、を別物として、軽量粘土全体における配合量を記載していることは明白であ」ると主張している(第5頁7.(2))ところ、「水の添加量」は最終的に調整された水の配合量といえる。
そして、上記「(A)(三)」で記載したとおり、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の固形分が「0.3?6重量%」であるとみることができるので、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の水分量は「2.1?18重量%」となる。これは甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の「3?20部(重量部)」のうち固形分10?30重量%に対する水分70?90重量%に基づく(乙第9号証-1、甲第6号証、甲第7号証(乙第26号証)、甲第17号証(乙第27号証)参照)。
してみると、甲第16発明における水の配合量は、「水を50?60部」と「熱可塑性合成樹脂製微小中空球の水分量2.1?18部」とを併せたものであるから、「水52.1?78部」となり、この配合量は、本件訂正発明1の「全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値」と「65?78重量%」で重複するものである。
また、本件訂正発明1の「水の添加量」の技術的意義は、上記「3.(三)」で検討したとおり、本件訂正明細書の記載によれば(段落【0033】)、軽量粘土の調整、軽量粘土の展性や耐クリープ性にあるといえる。
しかしながら、本件訂正明細書の実施例7?9、比較例7?9(表3)をみても、実施例7?9は、「有機中空微小球」の「平均粒径を100μm」、その「添加量を2.5wt%」とし、「水の添加量を70、75、80wt%」に変えているのみであり、比較例7?9では、有機中空微小球の添加量も異なることから、他の成分の影響を考えると有機中空微小球の平均粒径を30?150μmとした範囲内での「水の添加量」の数値範囲の臨界的意義まで云々することはできない。また、本件訂正明細書の他の実施例、比較例からみても、「水の添加量」の数値範囲の臨界的意義は明らかでない。

以上のことから、甲第16発明の「水」の量を特定するに当たって、「水を50?60部」を、最終的な配合量として有機中空微小球の水分量を加えて特定することは当業者が容易に行うことであり、その配合量として本件訂正発明1の「全体量に対して、65?85重量%」とすることも、甲第16発明の水の配合量と「65?78重量%」で重複するものであり、粘土の水の添加量は、有機中空微小球や他の成分の添加量をみて種々の調整がなされるものであり、また、本件訂正発明1の上記数値限定に臨界的意義も見出せないことから、軽量粘土の軽量化や造形性の調整等を考慮して適宜選択し得ることといえる。

なお、被請求人は、上記相違点a、bの「有機中空微小球」および「水」の含有量に関し、口頭審理陳述要領書(第6頁?第20頁)において、「重量部」と「重量%」の重量単位の違い、乙第9号証-1から非水タイプが甲第16号証の出願当時に市場において主流であった、甲第16号証の公告公報である乙第5号証および乙第25号証の記載から甲第16号証の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は非水タイプである、乙第26号証(甲第7号証)や乙第27号証(甲第17号証)を参考に軽量化材の配合量の適正範囲に関して整合がとれないなど主張しているが、これらの主張は、上記で検討したとおりであり、加えて、乙第5号証の作用についての記載(記載事項(ウ))は、従来技術の発泡スチロール粉(記載事項(イ))と対比して軽量微小素材(有機中空微小球)への水の浸透付着について説明したものであり、乙第25号証についても甲第16号証の「常温水53部」を単に記載しているにすぎないともみることができるから、甲第16号証の熱可塑性合成樹脂製微小中空球と水が別物である根拠とはなり得ず、さらに、乙第26号証や乙第27号証における軽量化材の配合量に基づいた主張も、熱可塑性合成樹脂製微小中空球の配合量は甲第16号証の記載に基づくものであるから、何れの主張も妥当なものといえない。
この他にも被請求人は縷々述べているが、何れも上記した相違点a,bについての判断を覆すものではない。

そして、本件訂正発明1が相違点a、bに係る特定事項を採ることによって奏する本件訂正明細書に記載の効果についても格別顕著なものと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲第16号証に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、本件訂正発明1に特定される事項に加え、さらに「前記有機中空微小球が白色であって、前記有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とする」という特定事項を付加するものである。
そこで、この付加した特定事項について検討すると、
甲第16号証には、記載事項(キ)および(ク)によれば「熱可塑性合成樹脂製微小中空球は、光を乱反射する性質があるので、白色度の高い繊維粉と混合することにより、白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られ」、「乾燥後に鮮明な色付けができる」ことが記載されている。この記載中の「白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土」は、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の白色度ではないが、この記載からみれば「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は「光を乱反射する性質があ」り、これを配合した粘土は「乾燥後に鮮明な色付け」ができるものである。
「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」の色についてさらに検討すると、一般に可視光線を100%乱反射するものは白いことは知られているところであり、鮮明な色付けのためには普通に白色が好ましいことは自明のことであり、粘土の白色度として極めて高いものからすれば、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」は白色度がある程度高いものであると推認できる。
そして、上記特定事項の白色度として「反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とする」ことも、白色度の計測方法として、反射率計で測定される視感明度(L値)がごく普通のものであり、本件訂正明細書の実施例をみても「白色」「茶色」程度の比較ではとても上記特定事項の数値限定に臨界的意義があるともいえないことから、甲第16発明の「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」について、白色の度合いがある程度高い範囲の視感明度(L値)として、例えば70以上の値を選択することは当業者が適宜なし得ることといえる。
また、被請求人は、白色度に関し、口頭審理陳述要領書において、「甲第16号証の関連記載は、感覚的に白色度の高い繊維粉の色の効果を述べたものであって、請求項2が問題とする有機中空微小球の視感明度(L値)とは全く関係ない」旨(第20頁下から2行?第21頁1行)を主張しているが、甲第16号証の「白色度の高い繊維粉と混合することにより、白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られ」る(記載事項(キ))との記載からみれば、「熱可塑性合成樹脂製微小中空球」を有する粘土に「白色度の高い繊維粉」を混合すれば、「極めて白色度の高い粘土」になるとも解されることから、単に「白色度の高い繊維粉の色の効果を述べた」ものとはいえない。
そして、本件訂正発明2が上記特定事項を採ることによって奏する効果も予測し得るものであり、格別顕著な効果とはいえない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明2は、上記した理由および本件訂正発明1について述べた理由により、甲第16号証に記載された発明および周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1?3のいずれか一項を引用し、本件訂正発明1?3のいずれかに特定される事項に加え、さらに「前記軽量粘土が、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%未満の範囲内の値とする」という特定事項を付加するものである。
そこで、この付加した特定事項について検討すると、本件訂正明細書には、段落【0012】に、「本発明の軽量粘土を構成するにあたり、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。このように色素を添加して構成すると、容易にカラー化することができるとともに、発色性に優れた軽量粘土を得ることができる」と記載され、段落【0038】に、「色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、・・・添加量が0.1重量%未満となると、添加効果や、有機中空微小球と相乗効果が発揮されずに、色素による発色性が低下する場合があるためである。・・・色素の添加量が10重量%を超えると、光散乱が大きくなったり、あるいは著しく凝集しやすくなったりするため、逆に発色性が低下する場合があるためである」と記載されているから、本件訂正発明4において、色素に関する上記特定事項の技術的意義は、容易にカラー化でき、発色性のよい粘土を得ることといえる。
一方、甲第16号証には、記載事項(ク)に、乾燥後ではあるが、鮮明な色付けができることが記載されていることからみれば、甲第16発明において、粘土の配合成分として、予め色素を添加し、鮮明に色付けされた粘土とするとともに、よい発色性を得るべく、その添加量を0.1?10重量%未満の範囲内の値とすることは、本件訂正明細書の記載から上記特定事項の数値限定に臨界的意義があるともいえないことから、当業者が格別困難なくなし得ることである。
また、本件訂正発明4が上記特定事項を採ることによって奏する効果も、記載事項(ク)から予測し得るものであり、格別顕著な効果とはいえない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明4は、上記した理由および本件訂正発明1、2について述べた理由により、甲第16号証に記載された発明および周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、「軽量粘土の製造方法」に関するものであるが、その「有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土・・・において、
平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに・・・
有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とする」という特定事項については、本件訂正発明1の「軽量粘土」の発明と発明のカテゴリーによる表現上の違いがあるにせよ、実質的に同じであることから、本件訂正発明6の製造方法において「ニーダーを用いて混練」するという特定事項について検討する。
甲第16号証には、記載事項(オ)に「本発明の実施例では熱可塑性合成樹脂製微小中空球12部、パルプ繊維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し、均一な粉末混合物を製成し、別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練して製造する」ことが記載されている。つまり、甲第16号証には「混練して」粘土を「製造する」ことが開示されている。そして、混練にニーダーを使用することは、極めて周知のことであることから(甲第27号証)、甲第16号証に記載された発明において、粘土を製造するに当たり、上記特定事項を採ることも格別困難なこととはいえない。
また、本件訂正発明6が上記特定事項を備えることによって奏する格別顕著な効果も認められない。
してみると、本件訂正発明6は、上記した理由および本件訂正発明1について述べた理由により、甲第16号証に記載された発明および周知技術から、当業者が容易に想到することができたものである。

(5)まとめ
本件訂正発明1、2、4、6は、その出願前に頒布された刊行物である甲第16号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.無効理由5について
(1)無効理由5(i):甲第18号証?甲第20号証に係る「平成元年以降の販売品」からの容易想到性について
請求人は、無効理由5(i)に係る公然実施された発明として、甲第18号証?甲第20号証に係る「平成元年以降の販売品」を挙げ、具体的には、
「審判請求人は、少なくとも平成元年頃から、継続して、軽量粘土『シルキークレイ』を製造、販売している(甲第18号証参照)。現実に発注があったことは、甲第19号証で明らかである。甲第19号証には、甲第18号証の製品名『シルキークレイ(シルバー)』、商品コード『60121』について、納品したことが記載されている。ただし、甲第18号証には、成分が記載されていない。
甲第20号証は、審判請求人における製造時の成分構成を控えたノート(No3?7)である。
・・・
甲第20号証の、『ノートNo4』昭和63年12月12日の頁には、『共通 シルキークレイ(教材用)No2 1/4』として、『エクスパンセル』15kg・・・、『水』50kgと製造履歴が記載されている。この場合・・・『エクスパンセル』・・16.87重量%、『水』・・・56.2重量%である。
・・・かかるエクスパンセルとは、膨張後ウエットタイプである。
・・・
・・・固形分換算すると、甲18号証にて販売していた軽量粘土における中空球の重量%は・・・2.53、水は・・・70.5となる。
また、甲第20号証の『ノートNo4』の昭和63年12月14日の頁には、『改 シルキークレー(シルバー) 1/4』 『エクスパンセル』20kg・・・、『水』70kgと製造履歴が記載されている。
・・・
同様に、・・・固形分換算すると、甲18号証にて販売していた軽量粘土における中空球の重量%は・・・2.58、水は・・・75.9となる。」(審判請求書第21頁下から4行?第22頁下から8行)
と主張している。

この主張は、無効理由5(i)に係る「平成元年以降の販売品」とは、甲第18号証の記載事項(ア)に記載された「シルキークレイ」のうち、「06-0121 シルバー 200g 教材用」という粘土(以下、「甲第18発明」という。)であり、甲第18発明が本件出願前に公然実施されたことは、甲第19号証から明らかであり、甲第18発明の粘土の成分は、甲第20号証の記載事項(イ-3)の「共通 シルキークレー (教材用) No2 1/4」、または同証の記載事項(イー4)の「共通 <改> シルキークレー (シルバー) 1/4」の配合(以下、それぞれ「甲第20配合1」、「甲第20配合2」という。)であるというものである。

そこで、この主張に係る甲第18発明について、以下検討する。
甲第18号証の記載事項(ア)には、「水に浮く軽い純白の紙粘土」と記載されているから、甲第18発明は、「純白」の「軽量粘土」といえ、また、甲第18号証には、「芯材を使用してもひび割れ」せず、「手にべとつかず」、「非常に作業性がよく」、といった性質についても記載されているものの、請求人も認めるとおり、如何なる成分からなる粘土であるのか何ら記載がない。
この点について、上記のとおり、請求人は、甲第20号証を「製造時の成分構成を控えたノート(No3?7)」とし、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」を、甲第18発明の配合として主張することから、甲第20号証について検討すると、
甲第20号証には、甲第18発明の商品名に係る「シルキークレイ」、「シルバー」と同じまたは類似した商品名の記載があるものの、これらの商品名のものについて様々な配合が記載されており、甲第18発明の商品コード「06-0121」と関連する記載は見当たらない。また、甲第20号証の「ビニロンは水にしたしてから回す方がよくさばけると思う」(記載事項(イ-3))、「水の量は少し・・・と思う。・・・EPが多いので粘ばり、手ざわり良く、もう少し、水の量が・・・良いと思う。」(記載事項(イ-4))、「15cmの水の量では少したらない。これからは、16cmぐらいで良いと思う。」(記載事項(エ-1))といった記載からは、配合や製造条件を試行錯誤しているともみることができるから、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」も含め、甲第20号証に記載の配合は、実際に販売された商品の配合であるのか否か不明であり、試作品の配合とも推定できる。しかも、仮に、これらの配合が、販売された商品のものであったとしても、請求人が口頭審理陳述要領書において「当時出荷された粘土は、出荷後も、性能向上のために、細かな配分条件はその都度変更されていた」(第15頁下から4?5行)と主張するように、商品の改良等により、販売時期によって、同じ商品名であっても商品を構成する各成分の配合を変更することもあるところ、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」も含め、甲第20号証に記載の配合が、甲第18発明の粘土の配合であることを示す記載は見当たらない。
そして、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」の他にも、様々な配合の記載があるところ、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」と、甲第18発明の配合とを合理的に結びつける根拠が甲第20号証の記載からは明らかでない。
さらに、付言すれば、甲第20号証には、日付と曜日に不整合な点があるが、この点はともかくとしても、甲第20号証のノートが社内資料である蓋然性が高いと考えられるから、甲第20号証のノートの記載内容が本件出願前に公知であるのか否か明らかではなく、甲第20号証に記載された粘土の配合を本件出願前に当業者が認識できるのか否か判然としない。
そこで、他の甲号証についてみてみることとする。
甲第36号証は、「甲第20号証の文書作成者」について「ノート記述者の宣誓書」として提出され(請求人の平成22年1月12日付け上申書(1)第10頁カ))、その記載事項(ア)に、甲第20号証のノートNo.3?7は柿本孝が請求人の会社に勤務中に、同社が製造する粘土の成分を記載したものである旨が記載されている。しかし甲第36号証には、甲第18発明に係る商品名および商品コードについては何ら記載がなく、「甲第20配合1」、「甲第20配合2」も含め、甲第20号証に記載の配合が、甲第18発明の粘土の配合であることを示す記載は見当たらない。
また、無効理由5(i)に係る他の甲号証をみても、甲第18発明の粘土の配合が甲第20号証に記載の配合であることを導き出す記載は見当たらない。
以上の点から、甲第18発明は、「軽量粘土」であるものの、その配合を特定することはできない。
さらに、甲第18発明の配合につき、請求人は、口頭審理陳述要領書において、「ノートに規定されて製造された粘土が、いつの段階で出荷されたについて、一対一の対応がなされることは、進歩性判断において問題とされるものでない。すなわち、当時出荷された粘土は、出荷後も、性能向上のために、細かな配分条件はその都度変更されていたからである。本件において問題とされるべきことは、このような配分の粘土から設計事項とされる範囲の粘土が本件発明の出願前より販売されていたことである。」(第15頁c.について)と主張するが、上記のとおり、甲第20号証のノートの配合は、試作品とも推認でき、甲第18発明の配合と合理的に結びつける根拠が不明であることから、請求人の主張は採用できない。
したがって、本件訂正発明1と対比すべき甲第18発明の粘土の配合を特定することができず、また、本件訂正発明1は、上記「3.(一)?(三)」で検討したとおり、有機中空微小球の平均粒径と添加量、極性化合物の添加量と、水の添加量を所定量とすることに技術的意義があるところ、粘土の配合について特定できない甲第18発明から、当業者は、本件訂正発明1に容易に想到することはできない。本件訂正発明2、4、6についても同様である。

なお、請求人は、甲第18発明が本件出願前に公然実施されたことは甲第19号証から明らかであることを主張することから、この点についてみておくこととする。
甲第18号証は、「株式会社美術出版デザインセンター 美術出版社サービスセンター」のカタログであるところ、甲第19号証の記載事項(ウ)、(エ)には、同サービスセンター行きの納品書(控)として、本件出願前に、甲第18発明と同じ商品コード「06-0121」で同じ商品名「シルキークレイ (シルバー)」の商品が納品されたことが記載されているが、納品をした者に係る記載はないことから、納品した事実が確認できるものではなく、公然実施されているのか判然としない。
この点について、甲第35号証の「紫香楽教材粘土株式会社から美術出版社サービスセンター宛の請求明細書控」が「甲第19号証において納品書の発行者を示す補助証拠」として提出され、請求人は、平成22年1月12日付け上申書(1)において、この請求明細書控は「1ヶ月分の出荷をまとめた明細」(第9頁オ))であると述べていることから、甲第19号証と甲第35号証とを対比してみることとする。
甲第19号証の日付は、(年月日 1.3.14?1.11.28)であり、甲第35号証は、3?6月の明細であるから、甲第19号証の6月までの期間の日付をみると、甲第35号証の記載事項(ア)の「151 シルキークレイ(シルバー)」に係る日付のうち、4月19日を除き、甲第19号証の記載事項(イ)?(エ)に対応する日付がある。そして、これらの日付の商品のうち、甲第19号証の記載事項(イ)の商品は、商品コードの記載がなく、同号証の記載事項(エ)の商品は商品名の表記にばらつきがあるが、その数量や同号証の記載事項(ア)でいう表上部のNo.は、甲第35号証の記載事項(ア)の同じ日付の商品の数量や伝票No.と合致していることから、甲第19号証の納品書と甲第35号証の請求明細書が対応するようにみえなくもない。しかし、甲第35号証には、甲第18発明の商品コード「06-0121」に係る記載はないこと、また、上記表上部のNo.が伝票No.であるのか不明であること、さらに、甲第35号証の記載事項(ア)の4月19日付け商品や、「151 シルキークレイ(シルバー)」以外の商品について、甲第19号証との対応関係が明らかでないところも見受けられることから、甲第19、35号証から、直ちに、甲第18発明が本件出願前に公然実施されたとまでいうことはできない。

(2)無効理由5(ii):甲第24号証?甲第26号証に係る「平成12年(2000年)における販売品」からの容易想到性について
請求人は、無効理由5(ii)に係る公然実施された発明として、甲第24号証?甲第26号証に係る「平成12年(2000年)における販売品」を挙げ、具体的には、
「審判請求人は、平成元年以降、継続的に「シルキークレイ(シルバー)」を継続して、製造販売しているが、・・・平成12年当時の製品については、たまたま在庫されていたため、現在製造している粘土とともに、第三者機関にて分析をおこなった。結果を甲第24号証に示す。甲第24号証における有機中空微小球の添加量は、計測方法からして固形分換算されたものであることは明らかである。
甲第24号証における資料<2>(審決注:「資料」は「試料」の誤記と認める。以下同様。)が、平成12年当時の製品である。水分量80.5重量%、中空球の添加量1.4重量%、中空球の平均粒径30?200μmと分析結果が示されている。
資料<2>は、甲第24号証の写真2で明らかなように、製品の包装に「00113」と刻印されている。
製造日報(甲第25号証)・・・によると、「00113」という刻印は、2000年1月13日の製造であることは明らかである。また、製造日報(・・・)は、2000年1月13日には、「00113」という刻印された粘土が228個製造されたことを示している。
納品書(甲第26号証)は、2000年1月13日?5月までの製品出荷伝票を一部抜粋したものである。審判請求人は、製造在庫として1月?3月分程度を作り置きしている。したがって、少なくとも、「00113」という刻印された粘土は、2000年1月13日?5月までに、守秘義務のない第三者に販売されたことが、明らかである。」(審判請求書第22頁下から1行?第23頁20行)
と主張している。

この主張は、無効理由5(ii)に係る「平成12年(2000年)における販売品」とは、甲第24号証の記載事項(ア)の試料<2>の粘土(以下、「甲第24発明」という。)であり、甲第24発明の粘土の成分は、甲第24号証の分析結果により「水分量80.5重量%、有機中空微小球の添加量1.4重量%、有機中空微小球の平均粒径30?200μm」であり、甲第24発明が本件出願前に公然実施されたことは、甲第24発明の「00113」という刻印と、甲第25号証の製造日報、および、甲第26号証の納品書から明らかであるというものである。

そこで、この主張に係る甲第24発明について、以下検討する。
甲第24号証には、記載事項(ア)に、試料<2>として、「かる?い紙ねんど シルキークレイ シルバー(刻印00113)200g」と記載されている。ただし、この記載事項(ア)の商品名、および、重さ、については、試料<2>に係る外観写真(写真1の中央の粘土部分)とその一部拡大写真(写真2)(記載事項(イ))からはよみとることができず、試料<2>の粘土についても、粘土の外袋についても現物は確認できていない。
甲第24発明の粘土の成分について、甲第24号証の測定方法に係る記載(記載事項(ア))をみると、「水分量」は、「加熱減量法(加熱条件:105℃×3日間)」により測定したものであり、「有機中空微小球の添加量」は、「水に分散後、浮遊したものをろ過、洗浄後採取し、乾燥させたものについて質量測定を行い、添加量を算出した」ものといえる。そして、甲第24号証の記載事項(ア)に、試料<2>の「試験結果」として、「水分量(重量%)」が「69.3(80.5^(※))」、「有機中空微小球の添加量(重量%)」が「2.3(1.4^(※))」、「有機中空微小球の平均粒径(μm)」が「30?200」であることが記載され、「※:供試料の外袋表示値からの減量分を全て水分として補正した値」という注意書きが付記されているから、請求人が甲第24発明の成分の配合として主張する「水分量80.5重量%」、「有機中空微小球の添加量1.4重量%」という数値は、この注意書きのとおり測定値を補正した値といえる。
そうすると、甲第24号証の試料<2>は、経年により「減量」し、製造または販売時のものとは、配合が異なるものであり、請求人が甲第24発明の成分の配合として主張する配合は、このように配合が変化した商品の分析値と、外袋表示の粘土の重量に基づいて、減量分を全て水分と仮定して補正した値を、製造または販売時の配合として推定したものであるから、甲第24号証には、甲第24発明が製造または販売された当時の実際の粘土の分析値は記載されていない。なお、甲第24号証において、試料<2>の重量%の分母は実測値からなるところ(甲第34号証)、水分量の69.3重量%、有機中空微小球の添加量の2.3重量%は、減量分を無視したものであるから、この重量%が製造または販売時の組成でないことは明らかである。
以上の点を踏まえて甲第24号証の「試験結果」を検討すると、(i)減量分の補正値により、水分量が69.3重量%から80.5重量%まで変動することから、経年劣化による粘土の配合の重量変化は決して無視できる程度のものではないこと、(ii)経年による減量につき、上記のとおり減量分を全て水分とする補正を行っても、低沸点成分の蒸発等、水分の蒸発以外の原因により減量が生じる可能性があること、(iii)かかる減量を生じるような経年劣化において、粘土の水分以外の各成分の化学的または物理的性質が変質し、分析結果に影響を及ぼす可能性があること、(iv)有機中空微小球の添加量の分析について、粘土を水に分散後、浮遊したものをろ過、洗浄後採取しても、粘土の各成分が複雑に絡み合い、有機中空微小球に糊剤等の他の成分が付着する等により、有機中空微小球の比重が軽くても、粘土から有機中空微小球のみを分離回収してその添加量を測定することが困難になる可能性があること、(v)しかも、上記(iv)でいう分離回収は、経年によって、上記(iii)でいう成分の変質(例えば、糊剤が水に溶解しにくくなる等)があれば、さらに困難になる場合があること、(v)有機中空微小球は、本件訂正明細書に記載のとおり、長期保管により未発泡成分が発泡し平均粒径が変化する場合があること、が考えられる。
これらのことに照らせば、甲第24発明の粘土に水分および有機中空微小球が含まれることは推認できたとしても、その製造時または販売時の実際の配合や有機中空微小球の粒径まで、甲第24号証の試験結果から正しく推認できるものではない。
よって、甲第24発明の配合につき、請求人が主張する配合は、甲第24発明の製造または販売当時の配合ということはできず、甲第24号証の他の記載を勘案しても、甲第24号証の試験報告からは、甲第24発明の製造または販売当時の粘土の配合は特定できない。また、この配合は、無効理由5(ii)に係る他の甲号証の記載からも明らかとはいえない。そうすると、無効理由5(i)での検討と同様に、本件訂正発明1の有機中空微小球の粒径および添加量、極性化合物の添加量、並びに水の添加量についての技術的意義からみて、本件訂正発明1は、配合を特定できない甲第24発明の粘土から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件訂正発明2、4、6についても同様である。

なお、請求人は、甲第24発明が本件出願前に公然実施されたことは甲第24発明の「00113」という刻印と、甲第25号証の製造日報、および、甲第26号証の納品書から明らかであることを主張することから、この点についてみておくこととする。
上記のとおり、甲第24号証の写真1、2(記載事項(イ))からは、甲第24発明に係る商品の「商品名」および「重さ」はよみとることができず、現物は確認できていない。また、刻印は写真2に示されているものの、刻印の数字上部に不鮮明な部分がある。そうすると、甲第24発明が「かるーい紙ねんど シルキークレイ シルバー(刻印00113)200g」という商品名、刻印、重量のものであることは、甲第24号証の写真には裏付けられていない。しかし、このことについては、請求人の主張のとおり、甲第24号証の記載事項(ア)のとおりであるとして検討をすすめてみると、甲第25号証の記載事項(ア)に、「00年1月13日」付けの製造日報に刻印日付記号として「00113」が記載されていることから、甲第24号証の「刻印00113」は、2000年1月13日のものとみることができなくもないが、甲第25号証の記載事項(ア)の製造日報には、品名として「シルバー別注」、「シルバー」が記載され、同号証の記載事項(イ)の12年1月13日付けの原料使用日報の適要にも「シルキ5回」と記載されているだけであるから、「シルキークレイ シルバー」という商品名の粘土が、2000年1月13日に製造されているのかは判然としない。
一方、甲第26号証には、「シルキークレーシルバー」、「シルキークレー (シルバー)」、「シルキークレー(シルバー)」という商品が請求人から各社あるいは個人に納品されたことが示されており、これらの商品名は、表記の若干の差異はあれ、甲第24号証に試料<2>の商品名として示された「シルキークレイ シルバー」を指すと考えられなくもない。しかしながら、甲第26号証には、刻印と商品との関係を示す記載が何ら見当たらず、しかも、請求人の上記主張の「製造在庫として1月?3月分程度を作り置きしている。したがって、少なくとも、『00113』という刻印された粘土は、2000年1月13日?5月までに、守秘義務のない第三者に販売された」ことについて、製造在庫の作り置き期間を裏付ける記載もない。
さらに、甲第26号証には、記載事項(ア)に、これらの商品について、(a)?(c)に、品番が異なるもの、あるいは品番の記載がないものが記載されているところ、甲第24号証にも、甲第25号証にも、品番は記載されておらず、商品は品番によって配合が異なることも考えられる。
以上の点に照らせば、甲第24?26号証の記載からは、甲第24発明が本件出願前に販売されたものとまではいうことはできず、甲第24発明が、本件訂正発明1に係る出願前に公然実施された発明であるのか断定できない。無効理由5(ii)に係る他の甲号証拠をみても、同様である。
ここで検討した甲号証につき、付記すると、甲第22号証は、審判請求書に、無効理由5(i)の証拠として言及されているが(平成21年3月10日付けで補正された審判請求書の第22頁第2?6行)、甲第22号証の記載事項(ア)の「製造日報及び原料使用日報平成11年8月2日から平成12年7月31日記入分」という記載の日付けは、無効理由5(i)に係る甲第20号証の日付と対応しておらず、寧ろ、無効理由5(ii)に係る甲第25号証の記載事項(ア)、(イ)と対応し、また、甲第22号証の宣誓者柿本が、甲第25号証の記載事項(ウ)の「柿本」と対応するようにもみえる。そうすると、甲第22号証は、甲第25号証の補助証拠と考えられなくもないことから、甲第22号証を、無効理由5(i)、(ii)双方の証拠として検討してみたが、上記の検討結果は変わらない。

VII.無効理由通知について
当審より、被請求人に対し、平成21年8月7日付けで、無効理由通知を通知しており、この理由は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号および同条同項第2号に規定する要件(記載要件)を満たしていないというものである。かかる無効理由について、上記「3.(一)」の項において、一部の無効理由については既に述べたところであるが、平成21年8月27日付けの訂正請求により、上記無効理由通知において指摘した無効理由は全て解消されたものと認められる。

VIII.結び
以上のとおり、本件訂正発明1、2、4、6は、その出願前に頒布された刊行物である甲第16号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、本件訂正発明1、2、4、6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
また、請求人の主張する無効理由および証拠によっては、本件訂正発明3および5についての特許は、無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軽量粘土およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、
前記有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】前記有機中空微小球が白色であって、前記有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の軽量粘土。
【請求項3】前記軽量粘土が、繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の軽量粘土。
【請求項4】前記軽量粘土が、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項5】前記軽量粘土が、無機中空微小球をさらに含有するとともに、当該無機中空微小球の添加量を、全体量に対して、0.01?10重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の軽量粘土。
【請求項6】有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、
平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、
有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、
前記極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、
かつ、前記軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽量粘土およびその製造方法であって、特に、適度な軽量性や造形性を有するとともに、保管性(膨張性)に優れ、しかも製造コストが安い軽量粘土およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の美術工芸や学校教材等に使用される粘土は、粒状素材ないし植物遺体離解物を主材とし、この主材に粒状素材を粘結するための粘結剤、香料、色素、水分、油分などの添加物を加えて構成されるものが多い。したがって、従来の粘土は重量が重く、使い勝手が悪いという問題が見られた。
そのため、特公昭51-893号公報には、粉末化された発泡スチロールを主材とし、これにパルプ材や水等を加えて構成された、軽量粘土が開示されている。
しかしながら、粉末化された発泡スチロールは、その構造上、表面に多数の空隙が生じており、この空隙に水等が浸透することにより、含水性ないし含液性に富むものとなる。このため、軽量粘土全体の重量は、あまり軽減されないという軽量化上の課題が残存する。また、発泡スチロールの微小化は容易でなく、配合材料と均一に混合することが困難であるという製造上の問題も見られた。
【0003】
また、特公昭59-50615号公報には、粒度が150μm未満で、嵩比重が0.6以下である発泡無機質材料からなる微小中空粉粒体を30?40重量%と、繊維長が10mm以下である繊維粉を3?13重量%と、粒度が150μm以下のタルク粉を31?60重量%と、水溶性合成糊剤の単独または併用したものを3?8重量%と、水とが混練され、針入度が100?350に調整されている艶出し可能な成形用粘土が開示されており、さらに、類似の構成の彫塑材が特公昭57-16356号公報に開示されている。
しかしながら、かかる成形用粘土や彫塑材は、発泡無機質材料からなる微小中空粉粒体や岩石粉の添加量が多いために、混合分散が容易でなく、しかも得られた成形用粘土や彫塑材は、取り扱いや造形性に乏しく、さらには、製造コストが高いという問題が見られた。
【0004】
また、特開平2-123390号公報には、全体量に対して、外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを含む共重合体からなる有機中空微小球を3?20重量%、合成粘結剤(カルボキシメチルセルロース)を5?20重量%、繊維粉を10?30重量%、水を50?60重量%の割合で配合することにより、軽量で、白色度が高く、しかも焼却処理が容易にできるという軽量粘土が提案されている。
すなわち、例えば、有機中空微小球の配合割合が3重量%未満となると、所定の目的重量を達成できないためであり、一方、かかる有機中空微小球の配合割合が20重量%を超えると、軽量粘土としての性質が損なわれるためである。
また、繊維粉の配合割合が10重量%未満となると、結合材としての働きが不十分となるためであり、一方、かかる繊維粉の配合割合が30重量%を超えると、水を多量に保存するので軽量化が損なわれるためである。
さらに、水の配合割合が50重量%未満となると、造形作業が困難となるためであり、一方、かかる水の配合割合が60重量%を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには軽量化が損なわれるためである。
しかしながら、かかる軽量粘土は、有機中空微小球の添加量が多いために、有機中空微小球の混合分散が容易でなく、しかも得られた軽量粘土は過度に軽量であって、取り扱いや造形性に乏しく、さらには、製造コストが高いという問題が見られた。
また、かかる軽量粘土は、有機中空微小球の添加量が多いために、それにつれて、発泡ガス(発泡液体)が残留した状態の、いわゆる未発泡の有機中空微小球が多く存在しているという問題が見られた。したがって、軽量粘土を、ポリエチレンフィルム等の包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合に、残留した発泡ガスによって、包装材で被覆された軽量粘土が、当初の1.2?3倍程度の容積に膨張するという問題(以下、膨張問題)が見られた。
さらにまた、かかる軽量粘土は、有機中空微小球の添加量が多いために、色素を添加した場合に、色素の分散性を阻害して、優れた発色性が得られないという問題も見られた。
【0005】
また、特開平10-268755号公報には、粒径1?200μmのガラス微小中空球30?70重量部と、繊維粉30?60重量部と、カルボキシメチルセルロース10?50重量部と、水200?400重量部(ガラス微小中空球と、繊維粉と、カルボキシメチルセルロースの合計量基準)の割合で配合することにより、軽量で、乾燥日数が短く、しかも収縮率の小さい軽量粘土が開示されている。
すなわち、例えば、ガラス微小中空球の配合割合が30重量部未満となると、所定の軽量化を図ることができないためであり、一方、かかるガラス微小中空球の配合割合が70重量部を超えると、軽量粘土における収縮やひび割れが大きくなるためである。
また、繊維粉の配合割合が30重量部未満となると、軽量粘土における収縮やひび割れが大きくなるためであり、一方、かかる繊維粉の配合割合が60重量部を超えると、水を多量に保存するので軽量化が損なわれるためである。
さらに、かかる水の配合割合が200重量部未満となると、軽量粘土における造形作業が困難となるためであり、一方、かかる水の配合割合が400重量部を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには手に付着しやすくなるためである。
しかしながら、かかる軽量粘土は、ガラス微小中空球や繊維粉の添加割合が多すぎるため、造形性に乏しく、しかも製造コストが高いという問題が見られた。
また、かかる軽量粘土は、ガラス有機中空微小球の添加量が多いために、色素を添加した場合に、色素の分散性を阻害して、優れた発色性が得られないという問題も見られた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の発明者らは、軽量粘土における有機中空微小球の平均粒径や添加量を、従来問題が生じるとされていた範囲まで検討し、それらが相互作用を及ぼし、軽量粘土の造形性や軽量性、あるいは膨張問題に影響を与えていることを見出した。
すなわち、本発明は、造形性や軽量性に優れ、しかも包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合であっても膨張問題を解消して優れた保管性が得られるとともに、製造コストが安い軽量粘土およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このように有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮して構成することにより、従来問題が起こるとされてきた有機中空微小球の添加量であっても、十分かつ適度な軽量化が図られるとともに、造形性に優れた軽量粘土を得ることができる。
また、有機中空微小球の添加量を少なくすることができるため、軽量粘土の混合分散が容易となるばかりか、未発泡有機中空微小球の存在量を低下させ、しかも高価な有機中空微小球の使用量を低下できるため、優れた保管性(膨張性)が得られるとともに、製造コストを低く抑えることができる。
さらには、有機中空微小球の添加量が少ないために、カラー化のために色素を添加した場合であっても、色素の分散性を阻害することがなく、優れた発色性を得ることができる。
また、このような極性化合物を使用することにより、造形性や発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
一方、このように所定量の水を含有することにより、造形性や発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
なお、上述したように、従来は、水の添加量が、全体量に対して、60重量%を超えると、軟化して造形性が乏しくなり、さらには軽量化が損なわれると言われていたが、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる水の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる。
【0008】
また、本発明の軽量粘土を構成するにあたり、有機中空微小球が白色であって、有機中空微小球の反射率計で測定される視感明度(L値)を70?99の範囲内の値とすることが好ましい。
特開平2-123390号公報等に開示された塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体等からなる外殻を有する有機中空微小球は、黄土色?茶色であるが、このように白色性に富んだ有機中空微小球を使用することにより、発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
【0009】
(削除)
【0010】
また、本発明の軽量粘土を構成するにあたり、繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることが好ましい。
このように繊維を使用することにより、造形性や軽量性にさらに優れた軽量粘土を得ることができる。
なお、上述したように、従来は、繊維の添加量が、全体量に対して、10重量%未満となると、結合材としての働きが不十分となると言われていたが、有機中空微小球の平均粒径および添加量の双方を考慮することにより、かかる繊維の添加量に関する制限を大幅に緩和することができる。
【0011】
(削除)
【0012】
また、本発明の軽量粘土を構成するにあたり、色素をさらに含有するとともに、当該色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように色素を添加して構成すると、容易にカラー化することができるとともに、発色性に優れた軽量粘土を得ることができる。
【0013】
また、本発明の軽量粘土を構成するにあたり、無機中空微小球をさらに含有するとともに、当該無機中空微小球の添加量を、全体量に対して、0.01?10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように有機中空微小球のほかに、さらに無機中空微小球を添加することにより、造形性や軽量性にさらに優れた軽量粘土が得られるとともに、未発泡の有機中空微小球に起因した膨張問題や発色性低下の問題を効果的に低減することができる。
【0014】
また、本発明の別の態様によれば、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法が提供される。
このように実施すると、造形性や軽量性に優れるとともに、安価な軽量粘土を効率的に得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態は、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土において、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土である。
また、別の態様は、有機中空微小球と、極性化合物と、を含有する軽量粘土の製造方法において、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、極性化合物が、水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方であるとともに、添加量を、全体量に対して、1?30重量%の範囲内の値とし、かつ、軽量粘土が、水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土の製造方法である。
以下、有機中空微小球および極性化合物等の構成要素に分けて説明する。
【0016】
1.有機中空微小球
(1)種類1
有機中空微小球は、有機材料からなる外殻(殻壁)を有し、その内部に空隙を有する微小球であれば好適に使用することができる。
このような有機中空微小球としては、例えば、外殻が塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂等から構成されており、内部に、気体や液体を内包しているものが好ましい。
これらの有機中空微小球のうち、特に、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂からなる外殻を有する有機中空微小球は、製造が容易な反面、加熱時に所望の大きさに膨張させることができることからより好ましい。
また、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂、およびアクリロニトリル樹脂等からなる外殻を有する有機中空微小球は、白色性が高いことからより好ましい。
【0017】
(2)種類2
また、有機中空微小球のほかに、外殻が無機材料、例えば、ガラス材からなる無機中空微小球を併用することも好ましい。
このような無機中空微小球は、無色透明であって、耐圧強度が高く、例えば、750psi(1psi=6.90x10^(3)N、1kgf=9.807N/cm^(2))の測定圧力で加圧した際の残存率が、90?92(VOL%)であって、しかも軽いという特徴がある。
したがって、有機中空微小球と、無機中空微小球とを併用することにより、軽量粘土の単位体積あたりの重量を著しく軽減させることができるとともに、有機中空微小球が、無機中空微小球の周囲に存在することにより、クッション材の役目を果たして、無機中空微小球が破壊されることを有効に防止したり、無機中空微小球の分散性をより向上させたりすることができる。
また、このように有機中空微小球と、無機中空微小球とを併用することにより、色素との関係で、発色性を高めたり、軽量粘土の形状保持性を高めたり、収縮率を低下させたりすることができる。
さらに、このように有機中空微小球と、無機中空微小球とを併用することにより、有機中空微小球の使用量を相対的に低下させることができるため、未発泡の有機中空微小球に起因した膨張問題を有効に防止して、より優れた保管性を得ることができる。
【0018】
ただし、有機中空微小球と、無機中空微小球とを併用する場合であっても、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、3重量%未満の範囲内の値とする必要がある。
すなわち、有機中空微小球の添加量が3重量%を超えると、未発泡の有機中空微小球の存在量が急激に増えるため、未発泡の有機中空微小球に起因した膨張問題を防止することが困難となったり、色素との関係で、発色性を低下させたりするためである。
【0019】
(3)白色性
また、有機中空微小球の色が白色またはそれに近似した色であることが好ましい。
上述したように、特開平2-123390号公報等に開示された塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体等からなる外殻を有する有機中空微小球の色は、通常、黄土色?茶色であるが、このように白色性に富んだ有機中空微小球を使用することにより、発色性にさらに優れた軽量粘土を得ることができるためである。
なお、有機中空微小球の色は、色見本と比較し、目視や顕微鏡を用いて判断することができるが、反射率計で測定される視感明度(L値)を相対基準とすることも可能である。すなわち、有機中空微小球の色に関して、反射率計(例えば、東京電色社製、TR-1000D型)で測定される視感明度を、70?99の範囲内の値とする。
この理由は、かかる視感明度が70未満の値となると、有機中空微小球が茶色がかった色となり、軽量粘土に色素、特に白色系色素や黄色系色素とともに添加した場合に、混濁して、発色性が著しく低下する場合があるためである。
ただし、視感明度の値が高くなりすぎると、有機中空微小球の構成材料が過度に制限される場合がある。
したがって、かかる視感明度を70?99の範囲内の値とすることが好ましく、80?95の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる視感明度の調整には、有機中空微小球の外殻中に酸化チタンやシリカ等の白色粒子を添加したり、あるいはこれらの白色粒子で周囲を被覆することにより容易に達成することができる。また、有機中空微小球の外殻に塩化ビニル樹脂や塩化ビニリデン樹脂、あるいはホルムアルデヒド系樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂)等の使用量を低下させること、具体的には、10重量%以下の値とすることによっても容易に達成することができる。
【0020】
(4)平均粒径1
また、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とする。
この理由は、かかる有機中空微小球の平均粒径が30μm未満の値となると、軽量粘土の造形性が低下したり、所定量添加した場合の軽量化が困難となったりする場合があるためである。一方、かかる有機中空微小球の平均粒径が150μmを超えると、混合分散が困難となったり、あるいは、軽量粘土の造形性が低下したりする場合があるためである。
したがって、有機中空微小球の平均粒径を50?130μmの範囲内の値とすることがより好ましく、70?120μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる有機中空微小球の平均粒径は、光学顕微鏡で有機中空微小球の画像を取り込み、次いで、当該画像から画像処理装置を用いて算出することができる。
【0021】
(5)平均粒径2
また、有機中空微小球の平均粒径を決定するにあたり、後述する色素の平均粒径を考慮することが好ましい。
すなわち、色素の平均粒径をD1とし、有機中空微小球の平均粒径をD2としたときに、D2/D1の比率を10?50,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるD2/D1の比率が10未満の値になると、色素が均一に分散されず、有機中空微小球に発色が阻害される場合があるためである。一方、かかるD2/D1の比率が50,000を超えた値になると、色素が凝集しやすくなるとともに、均一に分散されずに、発色性が低下する場合があるためである。
したがって、色素による発色性を向上させるために、かかるD2/D1の比率を50?10,000の範囲内の値とすることがより好ましく、100?1,000の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0022】
(6)添加量
また、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることが必要である。
この理由は、かかる有機中空微小球の添加量が1重量%未満の値となると、軽量粘土の軽量化が困難となるためである。
一方、かかる有機中空微小球の添加量が3重量%以上になると、軽量粘土の造形性や取り扱いが著しく低下するとともに、残留する未発泡の有機中空微小球が多くなり、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇した場合に、包装材が膨張し、保管性が著しく低下するためである。また、有機中空微小球は、著しく高価であるため、その添加量が3重量%以上になると、得られる軽量粘土のコストも著しく高価になるためである。
したがって、軽量粘土の造形性や膨張性と、軽量性等とのバランスがより良好となるため、有機中空微小球の添加量を1?2.9重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、1?2.5重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0023】
ここで、図1および図2を参照して、有機中空微小球の添加量と、軽量粘土における軽量性や造形性との関係、および膨張性との関係をそれぞれ詳細に説明する。
図1は、表1の軽量性および造形性のデータを数値化したものであって、◎の評価を5点、○の評価を3点、△の評価を1点、×の評価を0点として数値を算出した。
そして、図1の横軸に、有機中空微小球の添加量(重量%)を採って示してあり、左縦軸に、軽量性(相対値)が採って示してあり、曲線Aがその関係を示している。一方、図1の右縦軸には、造形性(相対値)が、それぞれ採って示してあり、有機中空微小球の添加量(重量%)との関係を、曲線Bが示している。
この図1から理解されるように、有機中空微小球の添加量が多くなる程、軽量粘土における軽量性の評価が向上するものの、造形性の評価については、3重量%を境にして、極端に低下している。
したがって、有機中空微小球の添加量を1?3重量%未満の範囲内の値にすることにより、軽量粘土における軽量性と、造形性との優れたバランスを取ることができ、また、有機中空微小球の添加量を1?2.5重量の範囲内の値にすることにより、これらの特性について、さらに優れたバランスが取れることが理解できる。
また、図2は、表1の膨張性のデータを数値化したものであって、◎の評価を5点、○の評価を3点、△の評価を1点、×の評価を0点として数値を算出した。
そして、図2の横軸に、有機中空微小球の添加量(重量%)を採って示してあり、左縦軸に、膨張性(相対値)が採って示してある。
この図2から理解されるように、有機中空微小球の添加量が多くなる程、膨張性の評価結果が低下しており、すなわち、保管性が低下することが理解される。
したがって、有機中空微小球の添加量を1?3重量%未満の範囲内の値にすることにより、軽量粘土における軽量性や造形性のみならず、保管時の膨張問題についても、効果的に低減して、特性改善することができることが理解できる。
【0024】
(7)嵩密度
また、有機中空微小球の嵩密度を0.001?0.5g/cm^(3)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる有機中空微小球の嵩密度が0.001g/cm^(3)未満の値となると、軽量粘土中への均一に混合分散することが困難となる場合があるためである。一方、かかる有機中空微小球の嵩密度が0.5g/cm^(3)を超えると、軽量粘土の展性が低下したり、軽量化が困難となったりする場合があるためである。
したがって、有機中空微小球の嵩密度を0.005?0.2g/cm^(3)の範囲内の値とすることがより好ましく、0.01?0.1g/cm^(3)の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる有機中空微小球の嵩密度は、JIS K 5101(顔料試験法)に準拠して測定することができる。
【0025】
(8)pH値
また、有機中空微小球のpH値を3?11の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる有機中空微小球のpH値が3未満の値となると、水酸基含有化合物や、カルボキシル基含有化合物を添加するとともに、長期保管した場合に、ゲル化するおそれがあるためである。
一方、かかる有機中空微小球のpH値が11を超えると、混合分散や取り扱いが困難となる場合があるためである。
したがって、有機中空微小球のpH値を6?10.5の範囲内の値とすることが好ましく、pH値を7?10.5の中性から弱アルカリ性の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0026】
2.極性化合物
(1)種類
極性化合物としては、水酸基含有化合物やカルボキシル基含有化合物であることが好ましい。
なお、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールのように、分子内に、水酸基およびカルボキシル基の両方を含む化合物もあるが、便宜的にいずれかに区分して説明する。
【0027】
▲1▼水酸基含有化合物
水酸基含有化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレン酢酸ビニル、尿素樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
このような水酸基含有化合物を添加することにより、軽量粘土の展性や耐クリープ性等の調節が容易になるためである。また、これらの水酸基含有化合物は、通常、水溶性であるため、軽量粘土に水を添加した場合であっても、優れた相溶性が得られるためである。
特に、ポリビニルアルコールは、単位重量当たりに含まれる水酸基量が多く、そのため、比較的少量の添加によって、軽量粘土の展性や取り扱い性を効果的に向上させることができることから、より好ましい水酸基含有化合物である。
また、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールをホルムアルデヒドおよびブチルアルデヒドでそれぞれアセタール化した樹脂であるが、軽量粘土において、より優れた耐クリ-プ性や、耐熱性を得る場合に使用すると効果的である。
さらに、ポリ酢酸ビニルは、ポリビニルアルコールを鹸化する前の原材料であるが、より展性に優れた軽量粘土を得たい場合には効果的な水酸基含有化合物である。
【0028】
▲2▼カルボキシル基含有化合物
また、カルボキシル基含有化合物としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
ここで、カルボキシメチルセルロースを使用する場合、エーテル化度が0.1?2の範囲内の値であるカルボキシメチルセルロースが好ましい。
この理由は、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が0.1未満となると、軽量粘土がべたつき、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が2を超えると、軽量粘土の展性が低下して、薄膜化が困難となる場合があるためである。
【0029】
(2)添加量
また、極性化合物の添加量を、軽量粘土の全体量(100重量%)に対して、1?30重量%の範囲内の値とする。
この理由は、かかる極性化合物の添加量が1重量%未満の値となると、軽量粘土の取り扱い性や成型性が著しく低下する場合があるためである。一方、かかる極性化合物の添加量が30重量%を超えると、軽量粘土の展性が低下したり、混合分散が困難となったりする場合があるためである。
したがって、軽量粘土の取り扱い性や成型性と、軽量粘土の展性とのバランスがより良好となるため、極性化合物の添加量を、軽量粘土の全体量(100重量%)に対して、1?20重量%の範囲内の値とすることが好ましく、1?15重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、2?10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0030】
3.繊維
(1)種類
また、添加剤としての繊維(パルプ)の種類は特に制限されるものでなく、例えば、広葉樹および針葉樹をそれぞれ原料としたものであることが好ましい。
ただし、広葉樹を原料とした繊維を使用することがより好ましいと言える。この理由は、広葉樹を原料とした繊維は、針葉樹を原料とした繊維よりも、通常、繊維長が短く平均化しており、軽量粘土を作成する際に、容易に分散することができるためである。
【0031】
(2)平均繊維長
また、繊維の平均繊維長を0.01?20mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる繊維の平均繊維長が0.01mm未満の値となると、軽量粘土の展性が低下したり、軽量化が困難となったりする場合があるためである。一方、かかる繊維の平均繊維長が20mmを超えると、軽量粘土中への均一に混合分散することが困難となる場合があるためである。
したがって、軽量粘土の展性等と、混合分散性とのバランスがより良好となることから、繊維の平均繊維長を0.1?10mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5?5mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0032】
(3)添加量
また、繊維の添加量は、軽量粘土の取り扱い性や成型性、あるいは軽量粘土の製造の容易さを考慮して定めることが好ましい。例えば、全体量に対して、1?10重量%未満の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる繊維の添加量が1重量%未満の値となると、添加効果が発現しない場合があるためである。一方、かかる繊維の添加量が10重量%以上の値となると、軽量粘土の展性の制御や製造が困難となる場合があるためである。
したがって、かかる繊維の添加量を、全体量に対して、2?9量%の範囲内の値とすることがより好ましく、3?8重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0033】
4.水
水は、軽量粘土の取り扱い性や成型性、あるいは軽量粘土の製造の容易さを考慮して定められる。本発明の軽量粘土においては、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる水の添加量が65重量%未満の値となると、添加効果が発現せず、軽量粘土調整が困難となる場合があるためである。一方、かかる水の添加量が85重量%を超えると、軽量粘土の展性や耐クリープ性の制御が困難となる場合があるためである。
したがって、かかる水の添加量を、全体量に対して、66?83重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、67?80重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0034】
5.色素
(1)種類
色素の種類としては、特に制限されるものではないが、従来からインキ、塗料などの分野で用いられているものであればよく、例えば、有機顔料や無機顔料、あるいは染料が挙げられる。
このような有機顔料としては、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料類、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料などの多環式顔料類、染料レーキ等が挙げられる。
また、無機顔料としては、たとえば酸化チタン、ベンガラ、酸化クロム、鉄黒などの酸化物やカドミウムイエロー、クロムバーミリオン、紺青、群青、カーボンブラック、黄色酸化鉄、パール顔料等が挙げられる。
さらに、より鮮やかな色調が要求される場合には、ホルマリン縮合樹脂、アクリル樹脂、グアナミン樹脂などを基体としたプラスチックタイプの有機顔料や、硫化亜鉛、ケイ酸亜鉛、硫化亜鉛カドミウムなどを焼結した無機顔料等を用いることも好ましい。
【0035】
(2)平均粒径
また、色素の平均粒径を0.01?0.2μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる色素の平均粒径が0.01μm未満の値となると、著しく凝集しやすくなり、軽量粘土中への均一に混合分散することが困難となり、発色性が低下する場合があるためである。一方、かかる色素の平均粒径が0.2μmを超えると、有機中空微小球との相乗効果が発揮されずに、軽量粘土の発色性が低下するためである。
したがって、色素の凝集性と、発色性とのバランスがより良好となるため、色素の平均粒径を0.06?0.18μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.07?0.12μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
(3)粒度分布1
また、色素の粒度分布に関し、標準偏差を0.05μm以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる色素の標準偏差が0.05μmを超えると、光散乱が大きくなったり、あるいは著しく凝集しやすくなったりするため、色素による発色性が低下する場合があるためである。
ただし、かかる色素の標準偏差が過度に小さくなると、制御するために製造コストが高くなる場合がある。
したがって、色素による発色性と、製造コストとのバランスがより良好となるため、色素の粒度分布における標準偏差を0.04?0.01μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.03?0.01μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる色素の粒度分布における標準偏差は、例えば、レーザー方式のパ-ティクルカウンターを用いて測定することができる。
【0037】
(4)粒度分布2
また、色素の粒径の95%が、平均粒径の±10%の範囲内に存在していることが好ましい。
この理由は、このような狭い粒度分布を有する色素を使用することにより、発色性や造形性にそれぞれ優れた軽量粘土を得ることができるためである。逆に言うと、色素の粒径の95%が、平均粒径の±10%を超えている場合には、色素が凝集しやすくなり、有機中空微小球との相乗関係を発揮することが困難となる場合があるためである。したがって、色素の粒度分布が広くなると、色素による発色性が低下する場合があるためである。
そこで、より優れた色素による発色性を得るためには、色素の粒径の95%が、平均粒径の±8%の範囲内に存在していることがより好ましく、平均粒径の±5%の範囲内に存在していることがさらに好ましい。
なお、かかる色素の平均粒径における95%の粒径分布は、例えば、レーザー方式のパ-ティクルカウンターを用いて測定することができる。
【0038】
(5)添加量
また、色素の添加量を、全体量に対して、0.1?10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる色素の添加量が0.1重量%未満となると、添加効果や、有機中空微小球と相乗効果が発揮されずに、色素による発色性が低下する場合があるためである。一方、かかる色素の添加量が10重量%を超えると、光散乱が大きくなったり、あるいは著しく凝集しやすくなったりするため、逆に発色性が低下する場合があるためである。
したがって、色素による発色性がより良好となるため、色素の添加量を0.2?8重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.3?7重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
(6)水分散性
また、色素は、水分散性(アルコール分散性を含む。)、すなわち親水性であることが好ましい。
この理由は、このような特性の色素を使用することにより、軽量粘土が水やアルコールを含む場合であっても、色素が凝集することなく、優れた発色性や造形性を得ることができる。また、色素が水分散性であれば、色素が微粒子であっても、水中に保存することができるためであり、さらには、その溶液の保存状態のまま、配合することができるためである。
【0040】
また、このように色素を水分散性とするために、色素を構成する樹脂の酸価を50?300の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる樹脂の酸価が50未満の値となると、得られる色素の水分散性が著しく低下する場合があるためであり、一方、かかる樹脂の酸価が300を超えると、得られる色素が凝集しやすくなる場合があるためである。したがって、得られる色素の水分散性と、凝集性とのバランスがより良好となるため、色素を構成する樹脂の酸価を70?250の範囲内の値とすることがより好ましく、90?200の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、色素を構成する樹脂は、その酸価量を上述範囲に制御するために、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基などの親水性基を分子中に有していることが好ましい。すなわち、スチレン-マレイン酸共重合体樹脂、スチレン-スルホン酸共重合体樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体樹脂等を使用することが好ましい。
【0041】
さらに、色素を水分散性とするために、その形態として、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤等の界面活性剤を含むエマルションとすることが好ましい。
このような界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、これらのアセチル化物等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0042】
6.他の添加物
軽量粘土中に、添加剤として、上述した添加物以外に、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、油類、ワックス類、グリセリン、増粘剤、可塑剤、界面活性剤、有機溶剤等の一種単独、または二種以上の組み合わせを添加することも好ましい。
【0043】
7.製造方法
(1)混合工程
有機中空微小球、色素、極性化合物、繊維、および水等の配合原料を均一に混合する工程である。例えば、これらの配合原料を均一に混合分散できるように、プロペラミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー、三本ロール、ボールミル等を使用することが好ましい。
特に、有機中空微小球は軽くて、混練している間に破壊されやすい一方、分散にばらつきが生じやすいために、ニーダーを使用して、回転数10?1,000rpm、時間1?60分の条件で、押し出し混練することが好ましく、ニーダーを使用して、回転数30?300rpm、時間10?30分の条件で、押し出し混練することがより好ましい。
【0044】
また、色素についても、均一に混合分散できるように、予め、水やアルコールに分散させて溶液状に調整するとともに、その溶液が凝集しないように、アルカリ剤等を添加して、pHを7以上の値に調整しておくことが好ましく、8?10の範囲内の値に調整しておくことがより好ましく、8.5?10の範囲内の値に調整しておくことがさらに好ましい。
また、配合原料を混合する際には、例えば、30?70℃の範囲内の温度に維持することが好ましい。
この理由は、かかる混合温度が30℃未満となると、配合原料が均一に混合しない場合があるためであり、一方、混合温度が70℃を超えると、得られる軽量粘土の伸びがなくなり、もろくなる場合があるためである。
したがって、配合原料を混合する際の混合温度を35?60℃の範囲内の温度に維持することがより好ましく、40?55℃の範囲内の温度に維持することがさらに好ましい。
【0045】
(2)粘度調整工程
また、軽量粘土の粘度を調整する工程である。水やアルコール、あるいは有機溶剤を添加して、軽量粘土の粘度を、例えば、1×10^(3)?1×10^(9)mPa・s(25℃)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる軽量粘土の粘度が1×10^(3)mPa・s(25℃)未満の値となると、表面のべたつきが多くなり、取り扱い性が低下する場合があるためであり、一方、軽量粘土の粘度が1×10^(9)mPa・s(25℃)を超えると、得られる軽量粘土の伸びがなくなり、もろくなり、逆に取り扱い性が低下する場合があるためである。
したがって、かかる軽量粘土の粘度を1×10^(4)?1×10^(8)mPa・s(25℃)の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10^(5)?1×10^(7)mPa・s(25℃)の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0046】
(3)パッケージング工程
作成した軽量粘土を小分けして、パッケージングする工程を設けることが好ましい。すなわち、通常、軽量粘土は、水やアルコール等を比較的多量に含んでいるため、軽量粘土における含水量を維持して、取り扱い性を維持するために、防湿性材料、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック材料で包装することが好ましい。
ただし、未発泡の有機中空微小球における脱ガスによる膨張問題を低下させるために、包装材料に通気孔を設けておくか、あるいはガス透過性材料から包装材料を構成することが好ましい。
この場合、軽量粘土における含水量の維持と、膨張問題の低下とのバランスを採るため、通気孔の大きさを0.01?100μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.05?50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1?20μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0047】
【実施例】
[実施例1]
(1)軽量粘土の作成
容量100リットルのニーダー内に、以下の配合材料を収容した後、回転数40rpmで、ニーダーを回転させて、軽量粘土を作成した。
▲1▼白色有機中空微小球 0.35kg
(平均粒径100μm、L値50以上、弱アルカリ性)
▲2▼イエロー顔料色素(固形分) 0.19kg
(平均粒径0.086um、標準偏差0.026um、95%範囲83-90um)
▲3▼カルボキシメチルセルロース 0.20kg
(エーテル化度:0.6)
▲4▼PVA 1.20kg
(重合度1,800、鹸化度95mol%、)
▲5▼広葉樹パルプ 0.98kg
(平均繊維長1mm)
▲6▼水 11.05kg
▲7▼フェノール系防腐剤 0.03kg
【0048】
(2)軽量粘土の評価
得られた軽量粘土につき、以下のような造形性(成膜性)、軽量性、発色性、べたつき性および膨張性(保管性)の評価をそれぞれ行った。得られた結果(n数=5の平均評価)を表1に示す。
【0049】
▲1▼造形性
軽量粘土の造形性(成膜性)を、以下の基準で評価した。なお、○以上の評価が得られれば、軽量粘土に適した造形性を有していると言える。
◎:ロールを用いて厚さ0.2mm以下のフィルムを成膜することができる。
○:ロールを用いて厚さ1mm以下のフィルムを成膜することができる。
△:ロールを用いて厚さ5mm以下のフィルムを成膜することができる。
×:ロールを用いても、厚さ5mm以下のフィルムを成膜することができない。
【0050】
▲2▼軽量性
軽量粘土の軽量性を、以下の基準で評価した。なお、○以上の評価が得られれば、軽量粘土として十分な軽量性を有していると言うことができる。
◎:密度が0.3g/cm^(3)以下の値である。
○:密度が0.5g/cm^(3)以下の値である。
△:密度が0.7g/cm^(3)以下の値である。
×:密度が0.7g/cm^(3)を超える値である。
【0051】
▲3▼発色性
軽量粘土の発色性を、以下の基準で評価した。なお、○以上の評価が得られれば、軽量粘土の発色性が良好であると言うことができる。
◎:透明感のある鮮明な色である。
○:鮮明な色である。
△:少々鮮明な色である。
×:不鮮明な色である。
【0052】
▲4▼べたつき性
軽量粘土のべたつき性を、指触して、以下の基準で評価した。なお、○以上の評価が得られれば、軽量粘土のべたつき性が良好であると言うことができる。
◎:べたつきがほとんど無い。
○:少々のべたつきがある。
△:顕著なべたつきがあるが、軽量粘土が指に転写はしない。
×:顕著なべたつきがあり、軽量粘土が指に転写する。
【0053】
▲5▼膨張性
100gの軽量粘土を長方形に成形し、その周囲を厚さ100μmのポリエチレンフィルムで包装した。この状態で、40℃のオーブンに1週間放置した後、容積を測定し、初期容積との関係から以下の基準で膨張性(保管性)を評価した。なお、○以上の評価が得られれば、軽量粘土に適した膨張性(保管性)を有していると言える。
◎:容積変化率が3%未満である。
○:容積変化率が10%未満である。
△:容積変化率が30%未満である。
×:容積変化率が30%以上である。
【0054】
[実施例2?3、比較例1?3]
表1に示す配合で、有機中空微小球の平均粒径を変えるとともに、添加量を変えて、実施例1と同様に軽量粘土を作成した。次いで、得られた軽量粘土につき、実施例1と同様に評価した。得られた結果を表1に示す。
結果から容易に理解されるように、有機中空微小球の添加量が3重量%を超えると、軽量粘土における造形性や発色性、あるいは膨張性の評価が著しく低下することが判明した。一方、有機中空微小球の添加量が3重量%未満であっても、軽量粘土における軽量化を十分図れることが判明した。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例4?6、比較例4?6]
(1)軽量粘土の作成
表1に示す配合で、繊維材の添加量を変えて、実施例1と同様に軽量粘土を作成した。次いで、得られた軽量粘土につき、実施例1と同様に評価した。得られた結果を表2に示す。
なお、実施例6は、実施例1の再現性試験であって、比較例4は、比較例1の再現性試験である。
結果から容易に理解されるように、繊維材の添加量が10重量%を超えると、軽量粘土における造形性や膨張性が著しく低下することが判明した。一方、繊維材の添加量が10重量%未満であっても、軽量粘土における軽量化を十分図れることが判明した。
【0057】
【表2】

【0058】
[実施例7?9、比較例7?9]
表1に示す配合になるように水の添加量を変えるとともに、実施例7?9では有機中空微小球の添加量を2.5重量%、比較例7?9では、有機中空微小球の添加量を5重量%にしたまま、それぞれガラス製の無機中空微小球を添加した以外は、実施例1と同様に軽量粘土を作成した。次いで、得られた軽量粘土につき、実施例1と同様に評価した。得られた結果を表3に示す。
結果から容易に理解されるように、水の添加量が65重量%未満になると、軽量粘土における造形性や発色性が著しく低下することが判明した。また、水の添加量が65重量%を超えても、軽量粘土におけるベタツキ性についても、適当な値に十分調節できることも判明した。
一方、所定量の無機中空微小球を添加することにより、軽量粘土における造形性や発色性がさらに向上することが判明した。
【0059】
【表3】

【0060】
[実施例10]
実施例1で使用した白色有機中空微小球(平均粒径100μm、L値50以上、弱アルカリ性)の代わりに、茶色有機中空微小球(平均粒径100μm、L値50未満、酸性)を使用したほかは、実施例1と同様に、軽量粘土を作成して評価した。得られた結果を、実施例1および比較例1の結果とともに、表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
【発明の効果】
本発明の軽量粘土によれば、有機中空微小球の平均粒径を30?150μmの範囲内の値とするとともに、かかる有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とし、かつ、水の添加量を、全体量に対して、65?85重量%の範囲内の値とすることにより、造形性や軽量性に優れ、包装材で被覆して長期間保管した場合や、夏季等に周囲温度が上昇して、高温状態になった場合であっても膨張問題を解消して優れた保管性が得られるとともに、製造コストが安価である軽量粘土を提供することが可能になった。
さらには、本発明の軽量粘土によれば、有機中空微小球の添加量が少ないために、カラー化のための色素を添加した場合であっても、かかる色素の分散性を阻害することがなく、優れた発色性を得ることができるようになった。
また、本発明の軽量粘土の製造方法によれば、平均粒径が30?150μmの範囲内の値である有機中空微小球を使用するとともに、ニーダーを用いて混練し、有機中空微小球の添加量を、全体量に対して、1?3重量%未満の範囲内の値とすることにより、造形性や軽量性に優れるとともに、保管性(膨張性)にも優れた軽量粘土を安価に提供することが可能になった。
【0063】
【図面の簡単な説明】
【図1】軽量粘土における有機中空微小球の添加量と、軽量粘土の軽量性および造形性との関係を示す図である。
【図2】軽量粘土における有機中空微小球の添加量と、膨張性評価結果との関係を示す図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-03-30 
結審通知日 2010-04-01 
審決日 2010-06-11 
出願番号 特願2001-165214(P2001-165214)
審決分類 P 1 123・ 536- ZD (C04B)
P 1 123・ 121- ZD (C04B)
P 1 123・ 537- ZD (C04B)
最終処分 一部成立  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 木村 孔一
安齋 美佐子
登録日 2004-09-17 
登録番号 特許第3597490号(P3597490)
発明の名称 軽量粘土およびその製造方法  
代理人 古谷 栄男  
代理人 本山 敢  
代理人 松下 正  
代理人 鶴本 祥文  
代理人 江森 健二  
代理人 江森 健二  
代理人 塩田 千恵子  
代理人 松村 信夫  
代理人 本山 敢  

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